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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003406
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】試験システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20240105BHJP
   G01M 15/02 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G01M17/007 A
G01M15/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102524
(22)【出願日】2022-06-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 渉
【テーマコード(参考)】
2G087
【Fターム(参考)】
2G087BB01
2G087CC01
2G087DD01
(57)【要約】
【課題】低慣性状態を再現することができる試験システムを提供すること。
【解決手段】試験システムの電気慣性制御装置6は、ダイナモメータが所定の設定慣性Jsetを有する慣性体として振舞うようにトルク電流指令信号を生成する。電気慣性制御装置6は、軸トルク検出信号及び設定慣性に基づいて目標速度信号を生成する目標速度設定部60と、目標速度信号と速度検出信号との偏差信号に基づいてフィードバック入力信号を生成する速度制御器63と、軸トルク検出信号に基づいてフィードフォワード入力信号を生成するフィードフォワード制御器65と、を備える。フィードフォワード制御器65は、軸トルク検出信号に第1フィードフォワードゲインKffを乗算したものと、軸トルク検出信号の積分値に第2フィードフォワードゲインKfiを乗算したものとを合わせることによってフィードフォワード入力信号を生成する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの出力軸に連結されたダイナモメータと、
トルク電流指令信号に応じた電力を前記ダイナモメータに供給するインバータと、
前記出力軸に作用する軸トルクに応じた軸トルク検出信号を出力する軸トルク検出器と、
前記ダイナモメータの回転速度に応じた速度検出信号を出力する速度検出器と、
前記ダイナモメータが所定の設定慣性を有する慣性体として振舞うように、前記軸トルク検出信号及び前記速度検出信号に基づいて前記トルク電流指令信号を生成する電気慣性制御装置と、を備える試験システムであって、
前記電気慣性制御装置は、
前記軸トルク検出信号及び前記設定慣性に基づいて目標速度信号を生成する目標速度設定部と、
前記目標速度信号と前記速度検出信号との偏差信号に基づいてフィードバック入力信号を生成する速度制御器と、
前記軸トルク検出信号に基づいてフィードフォワード入力信号を生成するフィードフォワード制御器と、
前記フィードバック入力信号及び前記フィードフォワード入力信号に基づいて前記トルク電流指令信号を生成するトルク電流指令信号生成部と、を備え、
前記フィードフォワード制御器は、前記軸トルク検出信号に第1フィードフォワードゲインを乗算したものと、前記軸トルク検出信号の積分値に第2フィードフォワードゲインを乗算したものとを合わせることによって前記フィードフォワード入力信号を生成することを特徴とする試験システム。
【請求項2】
前記目標速度設定部は、前記軸トルク検出信号に位相調整処理を施す位相調整器を備えることを特徴とする請求項1に記載の試験システム。
【請求項3】
前記位相調整器の伝達関数G(s)は、2つの位相調整定数(Q,P)を用いて、下記式(1)で表されることを特徴とする請求項2に記載の試験システム。
【数1】
【請求項4】
前記電気慣性制御装置における前記軸トルク検出信号から前記速度検出信号までの伝達関数は、前記ダイナモメータ及び前記インバータを含む制御対象を、慣性モーメントJdyを有する単慣性系で近似し、前記速度制御器を、比例ゲインKp及び積分ゲインKiで特徴付けられるPI制御器とした場合、下記式(2)で表されることを特徴とする請求項3に記載の試験システム。但し下記式(2)において、“W”は前記速度検出信号であり、“Td”は前記軸トルク検出信号であり、“Jset”は前記設定慣性であり、“Kff”は前記第1フィードフォワードゲインであり、“Kfi”は前記第2フィードフォワードゲインである。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験システムに関する。より詳しくは、ワークに連結されたダイナモメータに対し電気慣性制御を行う電気慣性制御装置を備える試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドライブトレインとは、エンジンで発生したエネルギーを駆動輪に伝達するための複数の装置の総称をいい、エンジン、クラッチ、トランスミッション、ドライブシャフト、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ、及び駆動輪などで構成される。ドライブトレインの試験システムでは、実際にエンジンでトランスミッションを駆動するとともに、その出力軸に接続されたダイナモメータを電気慣性制御することにより、適切な負荷トルクを出力軸に付与しながら、ドライブトレインの耐久性能や品質などが評価される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6は、特許文献1の試験システムに示された従来の電気慣性制御装置100の回路構成を示す図である。従来の電気慣性制御装置100は、軸トルク検出信号に設定慣性Jsetの逆数を乗算したものを積分することによって目標速度信号を生成する目標速度設定部101と、目標速度信号と速度検出信号との偏差が無くなるようにフィードバック入力信号を生成するフィードバック制御器102と、軸トルク検出信号にフィードフォワードゲインJdy1を乗算することによってフィードフォワード入力信号を生成するフィードフォワード入力信号を生成するフィードフォワード制御器103と、フィードバック入力信号とフィードフォワード入力信号とを合わせることによりダイナモメータに対するトルク電流指令信号を生成するトルク電流指令生成部104と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5733477号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の電気慣性制御装置100では、フィードバック制御器102における制御ゲイン(Ki,Kp)を除くと、フィードフォワード制御器103の制御ゲイン(Jdy1)しか自由に調整できる制御ゲインを含まないため、調整の自由度が低い。このため、後に図6を参照して説明するように、目標角加速度に対し実角加速度を追従させることができず、速度偏差にオーバシュートが生じてしまう場合がある。このため従来の電気慣性制御装置100を用いた試験システムでは、低慣性状態を十分に再現することができない。
【0006】
本発明は、低慣性状態を再現することができる試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る試験システム(例えば、後述の試験システム1)は、ワーク(例えば、後述の変速機T及びエンジンE)の出力軸(例えば、後述の出力軸S1,S2)に連結されたダイナモメータ(例えば、後述のダイナモメータ21,22)と、トルク電流指令信号に応じた電力を前記ダイナモメータに供給するインバータ(例えば、後述のインバータ31,32)と、前記出力軸に作用する軸トルクに応じた軸トルク検出信号を出力する軸トルク検出器(例えば、後述の軸トルク検出器51,52)と、前記ダイナモメータの回転速度に応じた速度検出信号を出力する速度検出器(例えば、後述の速度検出器41,42)と、前記ダイナモメータが所定の設定慣性(例えば、後述の設定慣性Jset)を有する慣性体として振舞うように、前記軸トルク検出信号及び前記速度検出信号に基づいて前記トルク電流指令信号を生成する電気慣性制御装置(例えば、後述の電気慣性制御装置6,7)と、を備え、前記電気慣性制御装置は、前記軸トルク検出信号及び前記設定慣性に基づいて目標速度信号を生成する目標速度設定部(例えば、後述の目標速度設定部60)と、前記目標速度信号と前記速度検出信号との偏差信号に基づいてフィードバック入力信号を生成する速度制御器(例えば、後述の速度制御器63)と、前記軸トルク検出信号に基づいてフィードフォワード入力信号を生成するフィードフォワード制御器(例えば、後述のフィードフォワード制御器65)と、前記フィードバック入力信号及び前記フィードフォワード入力信号に基づいて前記トルク電流指令信号を生成するトルク電流指令信号生成部(例えば、後述のトルク電流指令信号生成部67)と、を備え、前記フィードフォワード制御器は、前記軸トルク検出信号に第1フィードフォワードゲイン(例えば、後述の第1フィードフォワードゲインKff)を乗算したものと、前記軸トルク検出信号の積分値に第2フィードフォワードゲイン(例えば、後述の第2フィードフォワードゲインKfi)を乗算したものとを合わせることによって前記フィードフォワード入力信号を生成することを特徴とする。
【0008】
(2)この場合、前記目標速度設定部は、前記軸トルク検出信号に位相調整処理を施す位相調整器(例えば、後述の位相調整器601)を備えることが好ましい。
【0009】
(3)この場合、前記位相調整器の伝達関数G(s)は、2つの位相調整定数(Q,P)を用いて、下記式(1)で表されることが好ましい。
【数1】
【0010】
(4)この場合、前記電気慣性制御装置における前記軸トルク検出信号から前記速度検出信号までの伝達関数は、前記ダイナモメータ及び前記インバータを含む制御対象を、慣性モーメントJdyを有する単慣性系で近似し、前記速度制御器を、比例ゲインKp及び積分ゲインKiで特徴付けられるPI制御器とした場合、下記式(2)で表されることが好ましい。但し下記式(2)において、“W”は前記速度検出信号であり、“Td”は前記軸トルク検出信号であり、“Jset”は前記設定慣性であり、“Kff”は前記第1フィードフォワードゲインであり、“Kfi”は前記第2フィードフォワードゲインである。
【数2】
【発明の効果】
【0011】
(1)本発明に係る試験システムの電気慣性制御装置は、軸トルク検出信号及び設定慣性に基づいて目標速度信号を生成する目標速度設定部と、目標速度信号と速度検出信号との偏差信号に基づいてフィードバック入力信号を生成する速度制御器と、軸トルク検出信号に基づいてフィードフォワード入力信号を生成するフィードフォワード制御器と、フィードバック入力信号及びフィードフォワード入力信号に基づいてトルク電流指令信号を生成し、ダイナモメータのインバータへ入力するトルク電流指令信号生成部と、を備える。ここで本発明では、フィードフォワード制御器は、軸トルク検出信号に第1フィードフォワードゲインを乗算したものと、軸トルク検出信号の積分値に第2フィードフォワードゲインを乗算したものとを合わせることによってフィードフォワード入力信号を生成する。よって本発明によれば、第1フィードフォワードゲインと第2フィードフォワードゲインとの調整を介し、オーバシュートが抑制されるように電気慣性制御装置の特性を決定することができるので、低慣性状態も再現することができる。
【0012】
(2)目標速度設定部は、軸トルク検出信号に位相調整処理を施す位相調整器を備える。よって本発明によれば、フィードフォワード制御器における第1及び第2フィードフォワードゲインに加え、位相調整器による位相調整処理も調整することができるので、電気慣性制御装置による制御の自由度をさらに高めることができる。
【0013】
(3)本発明に係る試験システムでは、上記式(1)に示す伝達関数で表される位相調整器を用いて目標速度信号を生成する。よって本発明によれば、フィードフォワード制御器における第1及び第2フィードフォワードゲインと位相調整器における2つの位相調整定数(Q,P)との調整を介し、オーバシュートが抑制されるように電気慣性制御装置の特性を決定することができるので、低慣性状態も精度良く再現することができる。
【0014】
(4)本発明に係る試験システムによれば、伝達関数(W/Td)の分子の特性を3つの制御ゲイン(Q,Kff,Kfi)で調整することができるので、周波数特性を変更しやすく、これによりオーバシュートを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る試験システムの構成を示す図である。
図2】第1電気慣性制御装置の回路構成を示す図である。
図3】従来の電気慣性制御装置と本実施形態に係る電気慣性制御装置とで周波数特性を比較した図である。
図4】本実施形態に係る電気慣性制御装置によって実現される波形の一例を示す図である。
図5】従来の電気慣性制御装置によって実現される波形の一例を示す図である。
図6】従来の電気慣性制御装置の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る電気慣性制御装置を備える試験システム1について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の試験システム1の構成を模式的に示す図である。なお本実施形態では、変速機T及びエンジンEによって構成されるワークを供試体とする試験システム1(所謂、ドライブトレインベンチシステム)を例に説明するが、本発明はこれに限らない。本発明は、エンジンを供試体とするエンジンベンチシステムや、車体を供試体とするシャシダイナモメータシステム等の試験システムに適用することもできる。また図1には、FF駆動方式の車両の変速機T及びその入力軸に接続されたエンジンEを供試体とした試験システム1の例を示すが、本発明はこれに限るものではない。供試体は、FR駆動方式の車両の変速機及びエンジンでもよい。また、変速機Tの入力軸に接続する動力源は、実エンジンEの代わりにダイナモメータとしてもよい。
【0018】
試験システム1は、変速機Tの出力軸S1,S2に連結された第1ダイナモメータ21及び第2ダイナモメータ22と、これらダイナモメータ21,22に電力を供給する第1インバータ31及び第2インバータ32と、これらダイナモメータ21,22の回転速度を検出する第1速度検出器41及び第2速度検出器42と、出力軸S1,S2の軸トルクを検出する第1軸トルク検出器51及び第2軸トルク検出器52と、第1速度検出器41及び第1軸トルク検出器51の検出信号に基づいて第1ダイナモメータ21を制御する第1電気慣性制御装置6と、第2速度検出器42及び第2軸トルク検出器52の検出信号に基づいて第2ダイナモメータ22を制御する第2電気慣性制御装置7と、エンジンEを制御する図示しないエンジン制御装置と、を備える。この試験システムでは、エンジンEで変速機Tを駆動するとともに、その出力軸S1,S2に連結されたダイナモメータ21,22を電気慣性制御装置6,7によって電気慣性制御することにより、適切な負荷トルクを出力軸S1,S2に付与しながら、変速機Tの耐久性能や品質などを評価する。
【0019】
第1インバータ31は、第1電気慣性制御装置6から出力されるトルク電流指令信号に応じた電力を第1ダイナモメータ21に供給する。第2インバータ32は、第2電気慣性制御装置7から出力されるトルク電流指令信号に応じた電力を第2ダイナモメータ22に供給する。
【0020】
第1速度検出器41は、第1ダイナモメータ21の回転速度に応じた速度検出信号を第1電気慣性制御装置6に送信する。第2速度検出器42は、第2ダイナモメータ22の回転速度に応じた速度検出信号を第2電気慣性制御装置7に送信する。
【0021】
第1軸トルク検出器51は、第1ダイナモメータ21に連結される出力軸S1に作用する軸トルクを、例えば軸のねじれ方向の歪み量から検出し、検出値に応じた軸トルク検出信号を第1電気慣性制御装置6に送信する。第2軸トルク検出器52は、第2ダイナモメータ22に連結される出力軸S2に作用する軸トルクを、例えば、軸のねじれ方向の歪み量から検出し、検出値に応じた軸トルク検出信号を第2電気慣性制御装置7に送信する。
【0022】
第1電気慣性制御装置6は、第1ダイナモメータ21が所定の設定慣性を有する慣性体として振舞うように、第1軸トルク検出器51から出力される軸トルク検出信号及び第1速度検出器41から出力される速度検出信号に基づいて第1ダイナモメータ21に対するトルク電流指令信号を生成し、第1インバータ31に入力する。第2電気慣性制御装置7は、第2ダイナモメータ22が所定の設定慣性を有する慣性体として振舞うように、第2軸トルク検出器52から出力される軸トルク検出信号及び第2速度検出器42から出力される速度検出信号に基づいて第2ダイナモメータ22に対するトルク電流指令信号を生成し、第2インバータ32に入力する。
【0023】
図2は、第1電気慣性制御装置6の回路構成を示す図である。なお第2電気慣性制御装置7の回路構成や奏する効果は、第1電気慣性制御装置6とほぼ同じであるので、図示及び詳細な説明を省略する。
【0024】
第1電気慣性制御装置6は、軸トルク検出信号及び所定の設定慣性Jsetに基づいて速度検出信号に対する目標に相当する目標速度信号を生成する目標速度設定部60と、目標速度設定部60から出力される目標速度信号と速度検出信号との偏差信号に基づいてフィードバック入力信号を生成する速度制御器63と、軸トルク検出信号に基づいてフィードフォワード入力信号を生成するフィードフォワード制御器65と、速度制御器63から出力されるフィードバック入力信号及びフィードフォワード制御器65から出力されるフィードフォワード入力信号に基づいて第1ダイナモメータ21に対する第1トルク電流指令信号を生成し、第1インバータ31へ入力するトルク電流指令信号生成部67と、を備える。
【0025】
目標速度設定部60は、軸トルク検出信号に位相調整処理を施す位相調整器601と、位相調整処理を経た軸トルク検出信号に設定慣性Jsetの逆数を乗算する乗算器602と、乗算器602の出力信号を積分することによって速度検出信号に対する目標速度信号を生成する積分器603と、を備える。目標速度設定部60は、これら位相調整器601、乗算器602、及び積分器603を用いることによって、第1ダイナモメータ21の挙動を、設定慣性Jsetを有する慣性体の挙動と一致させるための目標速度信号を生成する。
【0026】
位相調整器601の伝達関数G(s)は、2つの位相調整定数(Q,P)を用いて、下記式(3)によって表される。なお以下の式において、“s”はラプラス演算子を表す。
【数3】
【0027】
速度制御器63は、目標速度信号から速度検出信号を減算することによって偏差信号を生成する偏差信号生成部631と、偏差信号に比例ゲインKpを乗算する第1乗算器632と、偏差信号を積分する積分器633と、積分器633から出力される信号に積分ゲインKiを乗算する第2乗算器634と、第1乗算器632の出力信号と第2乗算器634の出力信号とを合算することによってフィードバック入力信号を生成する合算器635と、を備える。なお本実施形態では、速度制御器63は、PI制御則に従って目標速度信号と速度検出信号との偏差信号が無くなるようなフィードバック入力信号を生成する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。速度制御器63は、PI制御則の他、既知のフィードバック制御則に従ってフィードバック入力信号を生成してもよい。
【0028】
フィードフォワード制御器65は、軸トルク検出信号に第1フィードフォワードゲインKffを乗算する第1乗算器651と、軸トルク検出信号を積分する積分器652と、積分器652から出力される信号に第2フィードフォワードゲインKfiを乗算する第2乗算器653と、第1乗算器651の出力信号と第2乗算器653の出力信号とを合算することによってフィードフォワード入力信号を生成する合算器654と、を備える。
【0029】
トルク電流指令信号生成部67は、速度制御器63から出力されるフィードバック入力信号とフィードフォワード制御器65から出力されるフィードバック入力信号とを合算することにより、トルク電流指令信号を生成する。
【0030】
次に、以上のような本実施形態に係る第1電気慣性制御装置6と、図6に示す従来の電気慣性制御装置100と、を比較する。
【0031】
先ず第1電気慣性制御装置6は、目標速度設定部60が位相調整器601を備え、フィードフォワード制御器65が積分器652及び第2乗算器653を備える点において、従来の電気慣性制御装置100と異なる。
【0032】
下記式(4)は、第1電気慣性制御装置6における軸トルク検出信号(Td)から角加速度(W)までの伝達関数を示す。
【数4】
【0033】
また下記式(5)は、従来の電気慣性制御装置100における軸トルク検出信号(Td)から角加速度(W)までの伝達関数を示す。
【数5】
【0034】
なお上記式(4)及び(5)を導出するにあたり、制御対象は慣性モーメント“Jdy”を有する単慣性系とみなした。上記式(5)に示すように、従来の電気慣性制御装置100では、伝達関数(W/Td)の分子の特性を制御ゲインJdy1でしか調整することができない。これに対し本実施形態に係る第1電気慣性制御装置6では、伝達関数(W/Td)の分子の特性を3つの制御ゲイン(Q,Kff,Kfi)で調整することができる。このため第1電気慣性制御装置6は、従来の電気慣性制御装置100よりも調整の自由度が高い。このように第1電気慣性制御装置6によれば、伝達関数(W/Td)の分子の特性を3つの制御ゲイン(Q,Kff,Kfi)で自由に調整できることにより、周波数特性を変更しやすく、これによりオーバシュートを抑制することができる。
【0035】
図3は、従来の電気慣性制御装置100と本実施形態に係る第1電気慣性制御装置6とで周波数特性を比較した図である。
図4は、第1電気慣性制御装置6によって実現される波形(角加速度、及び速度偏差)の一例を示す図である。
図5は、従来の電気慣性制御装置100によって実現される波形(角加速度、及び速度偏差)の一例を示す図である。なお図4及び図5では、目標速度から導出される目標角加速度と実角加速度とを重ねたものを上段にプロットし、速度偏差を下段にプロットする。
【0036】
図3に示すように、従来の電気慣性制御装置100では、1~10[Hz]程度の範囲においてゲインが低下する帯域が存在する。したがってこの帯域では、応答が悪化してしまい、低慣性状態を再現することができない。またこのため図5に示すように、従来の電気慣性制御装置100では、実角加速度を目標角加速度に追従させることができず、速度偏差も大きくなってしまう。
【0037】
これに対し本実施形態に係る第1電気慣性制御装置6では、上述のように3つの制御ゲイン(Q,Kff,Kfi)の調整を介して、図3に示すように応答性を良好にすることができる。このため本実施形態に係る第1電気慣性制御装置6では、低慣性状態も再現することができる。このため図4に示すように、本実施形態に係る第1電気慣性制御装置6では、実角加速度を目標角加速度に追従させることができ、速度偏差も抑制することができる。
【0038】
本実施形態に係る試験システム1によれば、以下の効果を奏する。
(1)試験システム1の電気慣性制御装置6,7は、軸トルク検出信号及び設定慣性Jsetに基づいて目標速度信号を生成する目標速度設定部60と、目標速度信号と速度検出信号との偏差信号に基づいてフィードバック入力信号を生成する速度制御器63と、軸トルク検出信号に基づいてフィードフォワード入力信号を生成するフィードフォワード制御器65と、フィードバック入力信号及びフィードフォワード入力信号に基づいてトルク電流指令信号を生成し、ダイナモメータ21,22のインバータ31,32へ入力するトルク電流指令信号生成部67と、を備える。ここで本実施形態では、フィードフォワード制御器65は、軸トルク検出信号に第1フィードフォワードゲインKffを乗算したものと、軸トルク検出信号の積分値に第2フィードフォワードゲインKfiを乗算したものとを合わせることによってフィードフォワード入力信号を生成する。よって電気慣性制御装置6,7によれば、第1フィードフォワードゲインKffと第2フィードフォワードゲインKfiとの調整を介し、オーバシュートが抑制されるように電気慣性制御装置6,7の特性を決定することができるので、低慣性状態も再現することができる。
【0039】
(2)目標速度設定部60は、軸トルク検出信号に位相調整処理を施す位相調整器601を備える。よって電気慣性制御装置6,7によれば、フィードフォワード制御器65における第1及び第2フィードフォワードゲイン(Kff,Kfi)に加え、位相調整器601による位相調整処理も調整することができるので、電気慣性制御装置6,7による制御の自由度をさらに高めることができる。
【0040】
(3)試験システム1では、上記式(2)に示す伝達関数G(s)で表される位相調整器601を用いて目標速度信号を生成する。よって電気慣性制御装置6,7によれば、フィードフォワード制御器65における第1及び第2フィードフォワードゲイン(Kff,Kfi)と位相調整器601における2つの位相調整定数(Q,P)との調整を介し、オーバシュートが抑制されるように電気慣性制御装置6,7の特性を決定することができるので、低慣性状態も精度良く再現することができる。
【0041】
(4)試験システム1によれば、伝達関数(W/Td)の分子の特性を3つの制御ゲイン(Q,Kff,Kfi)で調整することができるので、周波数特性を変更しやすく、これによりオーバシュートを抑制することができる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…試験システム
T…変速機(ワーク)
S1,S2…出力軸
E…エンジン(ワーク)
21…第1ダイナモメータ(ダイナモメータ)
22…第2ダイナモメータ(ダイナモメータ)
31…第1インバータ(インバータ)
32…第2インバータ(インバータ)
41…第1速度検出器(速度検出器)
42…第2速度検出器(速度検出器)
51…第1軸トルク検出器(軸トルク検出器)
52…第2軸トルク検出器(軸トルク検出器)
6…第1電気慣性制御装置(電気慣性制御装置)
7…第2電位慣性制御装置(電気慣性制御装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6