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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034069
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】スイッチング制御回路、力率改善回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20240306BHJP
   H02M 7/06 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H02M7/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138074
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆二
【テーマコード(参考)】
5H006
5H730
【Fターム(参考)】
5H006AA02
5H006CA02
5H006CB01
5H006CC08
5H006DA04
5H006DB01
5H006DC05
5H730AA18
5H730AA20
5H730AS04
5H730BB14
5H730CC01
5H730DD04
5H730EE59
5H730FD01
5H730FF01
5H730FG05
5H730XX04
5H730XX19
5H730XX24
5H730XX38
5H730XX43
(57)【要約】
【課題】負荷電流が増加した際にインダクタ電流のピーク値の増加を抑制できるスイッチング制御回路を提供する。
【解決手段】交流電圧に応じた整流電圧が印加されるインダクタと、前記インダクタに流れるインダクタ電流を制御するトランジスタとを備え、前記交流電圧から目的レベルの出力電圧を生成する力率改善回路の前記トランジスタのスイッチングを制御するスイッチング制御回路であって、前記交流電圧の半周期における前記インダクタ電流のピーク値が第1所定値より小さい場合、前記力率改善回路を臨界モードで動作させる駆動信号を出力し、前記半周期における前記ピーク値が前記第1所定値より大きい場合、前記力率改善回路を連続モードで動作させる前記駆動信号を出力する駆動信号出力回路と、前記駆動信号に基づいて、前記トランジスタを駆動する駆動回路と、を備えるスイッチング制御回路。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧に応じた整流電圧が印加されるインダクタと、前記インダクタに流れるインダクタ電流を制御するトランジスタとを備え、前記交流電圧から目的レベルの出力電圧を生成する力率改善回路の前記トランジスタのスイッチングを制御するスイッチング制御回路であって、
前記交流電圧の半周期における前記インダクタ電流のピーク値が第1所定値より小さい場合、前記力率改善回路を臨界モードで動作させる駆動信号を出力し、前記半周期における前記ピーク値が前記第1所定値より大きい場合、前記力率改善回路を連続モードで動作させる前記駆動信号を出力する駆動信号出力回路と、
前記駆動信号に基づいて、前記トランジスタを駆動する駆動回路と、
を備えるスイッチング制御回路。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング制御回路であって、
前記駆動信号出力回路は、
前記出力電圧に応じた帰還電圧と、基準電圧とに基づいて、前記トランジスタを第1期間オンするための第1指令値を出力する第1指令値出力回路と、
前記第1期間が第1所定期間より短い場合、前記トランジスタを前記第1期間オンするための第2指令値を出力し、前記第1期間が前記第1所定期間より長い場合、前記トランジスタを前記第1所定期間以下の第2期間オンするための前記第2指令値を出力する第2指令値出力回路と、
前記第1期間が前記第1所定期間より短い場合、前記インダクタ電流が前記臨界モードに対応する第1電流となると、前記トランジスタをオンするためのオン信号を出力し、前記第1期間が前記第1所定期間より長い場合、前記インダクタ電流が前記連続モードに対応する第2電流となると、前記オン信号を出力するオン信号出力回路と、
前記第2指令値と、前記オン信号とに基づいて、前記駆動信号を出力する信号出力回路と、
を含み、
前記第1所定期間は、前記半周期における前記ピーク値が前記第1所定値となる際に前記トランジスタがオンとなる期間である、
スイッチング制御回路。
【請求項3】
請求項2に記載のスイッチング制御回路であって、
前記第2指令値出力回路は、
前記第1期間が前記第1所定期間より短い場合、前記トランジスタを前記第1期間オンするための第3指令値を出力し、前記第1期間が前記第1所定期間より長い場合、前記トランジスタを前記第1所定期間オンするための前記第3指令値を出力するリミッタと、
前記第1指令値から前記第3指令値を減算した減算結果を出力する第1減算器と、
前記減算結果を所定の利得で増幅する増幅器と、
前記第3指令値から前記増幅器の出力を減算し、前記第2指令値として出力する第2減算器と、
を含むスイッチング制御回路。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のスイッチング制御回路であって、
前記オン信号出力回路は、
前記第1期間が前記第1所定期間より短い場合、前記第1電流を出力し、前記第1期間が前記第1所定期間より長い場合、前記第1期間及び前記第1所定期間の差に応じた前記第2電流を出力する第1出力回路と、
前記インダクタ電流が、前記第1出力回路から出力される電流となると前記オン信号を出力する第2出力回路と、
を含むスイッチング制御回路。
【請求項5】
請求項4に記載のスイッチング制御回路であって、
前記第1出力回路は、
前記第1期間が前記第1所定期間より短い場合、所定値の基準電流を出力し、前記第1期間が前記第1所定期間より長い場合、前記差に応じた値の前記基準電流を出力する基準電流出力回路と、
前記第1期間が前記第1所定期間より短い場合、前記所定値の前記基準電流に基づいて前記第1電流を出力し、前記第1期間が前記第1所定期間より長い場合、前記差に応じた値の前記基準電流と、前記整流電圧の波形とに基づいて、前記差に応じた振幅を有し、前記波形と相似の前記第2電流を出力する演算回路と、
を含むスイッチング制御回路。
【請求項6】
請求項5に記載のスイッチング制御回路であって、
前記第1出力回路は、
前記トランジスタのスイッチング周期のうちオフとなる期間に基づいて、前記整流電圧の波形を出力する波形出力回路を含む、
スイッチング制御回路。
【請求項7】
請求項2に記載のスイッチング制御回路であって、
前記第1期間が前記第1所定期間より長くなる期間が、第2所定期間経過したか否かを判定する判定回路と、
を含み、
前記駆動回路は、
前記第1期間が前記第1所定期間より長くなる期間が前記第2所定期間経過すると、前記トランジスタをオフする、
スイッチング制御回路。
【請求項8】
請求項1に記載のスイッチング制御回路であって、
前記駆動信号出力回路は、
前記出力電圧に応じた帰還電圧と、基準電圧とに基づいて、前記トランジスタを第1期間オンするための第1指令値を出力する第1指令値出力回路と、
前記ピーク値が前記第1所定値より小さい場合、前記トランジスタを前記第1期間オンするための第2指令値を出力し、前記ピーク値が前記第1所定値より大きい場合、前記トランジスタを前記第1期間より短い第2期間オンするための前記第2指令値を出力する第2指令値出力回路と、
前記ピーク値が前記第1所定値より小さい場合、前記インダクタ電流が前記臨界モードに対応する第1電流となると、前記トランジスタをオンするためのオン信号を出力し、前記ピーク値が前記第1所定値より大きい場合、前記インダクタ電流が前記連続モードに対応する第2電流となると、前記オン信号を出力するオン信号出力回路と、
前記第2指令値と、前記オン信号とに基づいて、前記駆動信号を出力する信号出力回路と、
を含むスイッチング制御回路。
【請求項9】
請求項8に記載のスイッチング制御回路であって、
前記オン信号出力回路は、
前記トランジスタがオフする毎に、前記インダクタ電流を保持する保持回路と、
前記保持回路で保持された前記インダクタ電流の前記半周期における平均値を演算する平均化回路と、
前記平均値が前記第1所定値に対応する第2所定値より小さくなると、前記第1電流を出力し、前記平均値が前記第2所定値より大きくなると、前記平均値及び前記第2所定値の差に応じた前記第2電流を出力する第1出力回路と、
前記インダクタ電流が、前記第1出力回路から出力される電流となると前記オン信号を出力する第2出力回路と、
を含むスイッチング制御回路。
【請求項10】
請求項9に記載のスイッチング制御回路であって、
前記第1出力回路は、
前記平均値が前記第2所定値より小さい場合、所定値の基準電流を出力し、前記平均値が前記第2所定値より大きい場合、前記差に応じた値の前記基準電流を出力する基準電流出力回路と、
前記所定値の前記基準電流に基づいて、前記第1電流を出力し、前記差に応じた値の前記基準電流及び前記整流電圧の波形に基づいて、前記差に応じた振幅を有し、前記波形と相似の前記第2電流を出力する演算回路と、
を含むスイッチング制御回路。
【請求項11】
請求項10に記載のスイッチング制御回路であって、
前記第1出力回路は、
前記トランジスタのスイッチング周期のうちオフとなる期間に基づいて、前記整流電圧の波形を出力する波形出力回路を含む、
スイッチング制御回路。
【請求項12】
請求項8~11の何れか一項に記載のスイッチング制御回路であって、
前記第2指令値出力回路は、
前記ピーク値が前記第1所定値より大きい場合、前記トランジスタがオンとなる期間を短くするための補正値を出力する補正回路と、
前記補正値が出力されると、前記第1指令値から前記補正値を減算して前記第2指令値として出力する減算器と、
を含むスイッチング制御回路。
【請求項13】
請求項8に記載のスイッチング制御回路であって、
前記ピーク値が前記第1所定値より大きくなる期間が、所定期間経過したか否かを判定する判定回路と、
を含み、
前記駆動回路は、
前記ピーク値が前記第1所定値より大きくなる期間が前記所定期間経過すると、前記トランジスタをオフする、
スイッチング制御回路。
【請求項14】
交流電圧に応じた整流電圧が印加されるインダクタと、
前記インダクタに流れるインダクタ電流を制御するトランジスタと、
前記トランジスタのスイッチングを制御するスイッチング制御回路と、
を備える力率改善回路であって、
前記スイッチング制御回路は、
前記交流電圧の半周期における前記インダクタ電流のピーク値が第1所定値より小さい場合、前記力率改善回路を臨界モードで動作させる駆動信号を出力し、前記半周期における前記ピーク値が前記第1所定値より大きい場合、前記力率改善回路を連続モードで動作させる前記駆動信号を出力する駆動信号出力回路と、
前記駆動信号に基づいて、前記トランジスタを駆動する駆動回路と、
を備える力率改善回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング制御回路、及び力率改善回路に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電圧から目的レベルの出力電圧を生成する電源回路として、力率改善回路がある(例えば、特許文献1~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-104218号公報
【特許文献2】特開2020-14325号公報
【特許文献3】特開2018-64410号公報
【特許文献4】特開2017-85865号公報
【特許文献5】特開2014-191261号公報
【特許文献6】特開2016-152679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、臨界モードで動作する一般的な力率改善回路では、負荷に流れる負荷電流が増加すると、力率改善回路のインダクタ電流のピーク値も大きくなる。この結果、力率改善回路のインダクタに磁気飽和が発生してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みてなされたものであって、負荷電流が増加した際にインダクタ電流のピーク値の増加を抑制できるスイッチング制御回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決する主たる本発明の第1の態様は、交流電圧に応じた整流電圧が印加されるインダクタと、前記インダクタに流れるインダクタ電流を制御するトランジスタとを備え、前記交流電圧から目的レベルの出力電圧を生成する力率改善回路の前記トランジスタのスイッチングを制御するスイッチング制御回路であって、前記交流電圧の半周期における前記インダクタ電流のピーク値が第1所定値より小さい場合、前記力率改善回路を臨界モードで動作させる駆動信号を出力し、前記半周期における前記ピーク値が前記第1所定値より大きい場合、前記力率改善回路を連続モードで動作させる前記駆動信号を出力する駆動信号出力回路と、前記駆動信号に基づいて、前記トランジスタを駆動する駆動回路と、を備える。
【0007】
前述した課題を解決する主たる本発明の第2の態様は、交流電圧に応じた整流電圧が印加されるインダクタと、前記インダクタに流れるインダクタ電流を制御するトランジスタと、前記トランジスタのスイッチングを制御するスイッチング制御回路と、を備える力率改善回路であって、前記スイッチング制御回路は、前記交流電圧の半周期における前記インダクタ電流のピーク値が第1所定値より小さい場合、前記力率改善回路を臨界モードで動作させる駆動信号を出力し、前記半周期における前記ピーク値が前記第1所定値より大きい場合、前記力率改善回路を連続モードで動作させる前記駆動信号を出力する駆動信号出力回路と、前記駆動信号に基づいて、前記トランジスタを駆動する駆動回路と、を備える力率改善回路。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負荷電流が増加した際にインダクタ電流のピーク値の増加を抑制できるスイッチング制御回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】力率改善回路10の一例を示す図である。
図2】力率改善IC25aの一例を示す図である。
図3】力率改善回路10の一部の構成を示す図である。
図4】力率改善回路10の主要な波形の一例を示す図である。
図5】力率改善IC25aの主要な波形の一例を示す図である。
図6】インダクタ電流ILを説明するための図である。
図7】負荷電流Ioutが増加した際のインダクタ電流ILを説明するための図である。
図8】力率改善IC25bの一例を示す図である。
図9】指令値出力回路56の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。また、ここでは、各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。
【0011】
本実施形態で、「接続」とは、特段の言及がない限り電気的に接続されている状態をいう。このため「接続」には、2つの部品が配線のみならず、例えば、抵抗を介して接続されている場合も含む。
【0012】
=====本実施形態=====
<<<力率改善回路10の構成>>>
図1は、本発明の一実施形態である力率改善回路10の構成の一例を示す図である。力率改善回路10は、力率を改善しつつ、商用電源の交流電圧Vacから目的レベルの出力電圧Voutを生成する昇圧チョッパー型の電源回路(ここでは、AC―DCコンバータ)である。
【0013】
また、詳細は後述するが、本実施形態の力率改善回路10は、「臨界モード」、または「連続モード」で動作する。ここで、「臨界モード」とは、後述するインダクタ電流ILがゼロになると、パワートランジスタをオンにする動作モードである。また、「連続モード」とは、インダクタ電流ILがゼロより大きい値でパワートランジスタをオンする動作モード、つまり、インダクタ電流ILが連続的に流れる動作モードである。
【0014】
なお、負荷11は、出力電圧Vout(例えば、400V)が印加されると、所定の電圧(例えば、15V)を生成する降圧型の電源回路である。また、本実施形態では、負荷11に流れる電流を、負荷電流Ioutとする。
【0015】
力率改善回路10は、全波整流回路20、コンデンサ21,27、インダクタ22、NMOSトランジスタ23、抵抗24,28,29、力率改善IC25、及びダイオード26を含んで構成される。
【0016】
全波整流回路20は、入力される所定の交流電圧Vacを全波整流し、整流電圧Vrecとして、コンデンサ21及びインダクタ22に印加する。なお、交流電圧Vacは、例えば、実効値が140~240V、周波数が50~60Hzの電圧である。
【0017】
以下、本実施形態では、基本的に電圧は、基準点(図1中のGND)に対する電位差であるが、交流電圧Vacは、端子間電圧を示す。また、交流電源から、力率改善回路10に入力される電流を、入力電流Iinとする。
【0018】
コンデンサ21は、整流電圧Vrecのノイズを除去するとともに、整流電圧Vrecを平滑化する素子である。
【0019】
インダクタ22は、NMOSトランジスタ23、ダイオード26、及びコンデンサ27とともに昇圧チョッパー回路を構成する。このため、コンデンサ27の充電電圧が直流の出力電圧Vout(例えば、400V)となる。なお、本実施形態では、インダクタ22に流れる電流を、インダクタ電流ILとする。また、インダクタ22と、NMOSトランジスタ23とが接続されたノードの電圧(つまり、NMOSトランジスタ23のドレイン電極の電圧)を、電圧Vswとする。
【0020】
NMOSトランジスタ23は、力率改善回路10の負荷11への電力を制御するためのスイッチング素子である。なお、本実施形態では、NMOSトランジスタ23は、N型のMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタであることとしたが、例えば、バイポーラトランジスタ等であっても良い。また、NMOSトランジスタ23のゲート電極は、後述する力率改善IC25の端子OUTに接続されている。
【0021】
抵抗24は、インダクタ22に流れるインダクタ電流ILを検出するための抵抗であり、一端は、NMOSトランジスタ23のソース電極に接続され、他端は、力率改善IC25の端子CSに接続される。なお、本実施形態では、NMOSトランジスタ23がオンすると、インダクタ電流ILは、NMOSトランジスタ23を介して抵抗24に流れ、NMOSトランジスタ23がオフすると、インダクタ電流ILは、ダイオード26、及びコンデンサ27を介して抵抗24に流れる。
【0022】
力率改善IC25は、力率を改善しつつ、出力電圧Voutのレベルが目的レベル(例えば、400V)となるよう、NMOSトランジスタ23のスイッチングを制御する集積回路である。具体的には、力率改善IC25は、インダクタ電流IL、及び帰還電圧Vfb(後述)に基づいて、NMOSトランジスタ23を駆動する。
【0023】
力率改善IC25の詳細については後述するが、力率改善IC25には、端子CS,FB,OUTが設けられている。本実施形態では、力率改善IC25の端子CS等以外の他の端子は便宜上、省略されている。なお、力率改善ICは、NMOSトランジスタ23のスイッチングを制御する「スイッチング制御回路」に相当する。
【0024】
抵抗28,29は、出力電圧Voutを分圧する分圧回路を構成し、NMOSトランジスタ23をスイッチングする際に用いられる帰還電圧Vfbを生成する。なお、抵抗28,29が接続されるノードに生成される帰還電圧Vfbは、端子FBに印加される。
【0025】
<<<力率改善IC25aの構成>>>
図2は、力率改善IC25の第1実施形態の一例を示す図である。力率改善IC25aは、指令値出力回路50、指令値補正回路51、オン信号出力回路52、信号出力回路53、駆動回路54、及び判定回路55を含んで構成される。なお、本実施形態の指令値出力回路50、指令値補正回路51、オン信号出力回路52、及び信号出力回路53は、「駆動信号出力回路」に相当する。
【0026】
なお、上述のように、電圧Vcsは、インダクタ電流ILが抵抗24で変換された電圧であるため。例えば、オン信号出力回路52が、電圧Vcsを用いる場合、便宜上、オン信号出力回路52が、インダクタ電流ILを用いると称することがある。
【0027】
また、便宜上省略するが、本実施形態の端子FBには、電圧Vfbをデジタル値に変換するADコンバータが設けられ、端子CSには、電圧Vcsをデジタル値に変換するADコンバータが設けられている。したがって、本実施形態の力率改善IC25の各回路は、特段言及しない限りデジタル値を処理する回路である。
【0028】
==指令値出力回路50==
指令値出力回路50は、帰還電圧Vfbと、目的レベルの出力電圧Voutに対応する基準電圧Vrefと、に基づいて、出力電圧Voutを目的レベルとするための指令値V1を出力する。
【0029】
なお、本実施形態の指令値V1は、帰還電圧Vfbが、基準電圧Vrefより小さい場合、レベルが上昇し、帰還電圧Vfbが、基準電圧Vrefより大きい場合、レベルが低下する電圧である。以降、本実施形態で説明する「指令値」は、指令値V1と同様に、レベルが変化する電圧である。
【0030】
また、詳細は後述するが、本実施形態では、指令値V1のレベルが上昇すると、NMOSトランジスタ23のオン期間は長くなり、指令値V1のレベルが上昇すると、NMOSトランジスタ23をオン期間は短くなる。以下、指令値V1に対応したNMOSトランジスタ23のオン期間を、「オン期間Ton1」とする。
【0031】
指令値出力回路50は、減算器100、及び電圧調整器(AVR)101を含んで構成される。減算器100は、基準電圧Vrefから帰還電圧Vfbを減算し、基準電圧Vrefと、帰還電圧Vfbとの誤差E1を算出する。
【0032】
電圧調整器101は、帰還電圧Vfbのレベルを、基準電圧Vrefのレベルに一致させるための指令値V1を、誤差E1に応じて出力する。なお、減算器100及び電圧調整器101は、例えば、誤差E1を増幅し、積分する、いわゆる誤差増幅回路に相当する。
【0033】
なお、指令値出力回路50は、「第1指令値出力回路」に相当し、指令値V1は、「第1指令値」に相当し、オン期間Ton1は、「第1期間」に相当する。
【0034】
==指令値補正回路51の概要==
指令値補正回路51は、例えば、負荷11の状態が過負荷となると、NMOSトランジスタ23のオン期間が短くなるよう、指令値V1を補正する。ここで、「過負荷」とは、負荷11に流れる負荷電流Ioutが、定格電流より大きくなることをいう。具体的には、例えば定格電流が8Aの場合、「過負荷」とは、負荷電流Ioutが8Aより大きい状態をいう。
【0035】
なお、負荷11の状態が「無負荷」とは、負荷電流Ioutがゼロの状態であり、負荷11の状態が「軽負荷」とは、負荷電流Ioutが、定格電流より十分小さい所定値(例えば、1A)より小さい状態である。また、負荷11の状態が「定格負荷」とは、負荷電流Ioutが所定の定格電流(例えば、8A)流れる状態をいう。
【0036】
ところで、負荷11の状態が過負荷となると、出力電圧Voutが低下するため、上述した指令値出力回路50は、NMOSトランジスタ23がオンとなる期間を長くする指令値V1を出力する。ここで、図3及び図4を参照しつつ、NMOSトランジスタ23のオン期間と、インダクタ電流ILのピーク値との関係を説明する。
【0037】
<<力率改善回路10の主要なノードの波形の一例>>
図3は、力率改善回路10の一部の構成を示す図であり、図4は、力率改善回路10の主要なノードの波形の一例を示す図である。なお、ここでは、力率改善回路10が、いわゆる臨界モードで動作している場合の波形の一例を描いている。
【0038】
本実施形態では、図3に示すように、インダクタ22には、交流電圧Vacが全波整流された整流電圧Vrecが印加される。このため、インダクタ22のインダクタンスをLとし、NMOSトランジスタ23のオン期間をTonとすると、インダクタ電流ILのピーク値Ipは、以下の式(1)となる。
Ip=(Vrec/L)×Ton・・・(1)
なお、整流電圧Vrecは、交流電圧Vacの位相角をθとした場合、sinθに応じて変化する。
【0039】
図4では、交流電圧Vacの半周期(つまり、位相角θが0°~180°の範囲)の波形の概要が示されており、ピーク値Ipの包絡線は、一点鎖線で描かれている。そして、ピーク値Ipは、交流電圧Vacの半周期において、位相角θが90°となると最大となる。
【0040】
また、NMOSトランジスタ23がオフとなるオフ期間Toffにおいて、インダクタ電流ILは、ピーク値Ipから、ゼロまで低下する。このため、以下の式(2)が成立する。
Ip=((Vout-Vrec)/L)×Toff・・・(2)
【0041】
そして、式(1)、及び式(2)を用いると、以下の式(3)が成立する。
Toff/(Ton+Toff)=Vrec/Vout・・・(3)
【0042】
したがって、力率改善回路10では、式(3)、及び図4の最下段から明らかなように、NMOSトランジスタ23がオフとなるオフ期間Toffのデューティ比(Toff/(Ton+Toff))から、整流電圧Vrecを把握することができる。なお、オフ期間Toffのデューティ比は、スイッチング周期(Ton+Toff)のうち、オフ期間Toffの占める割合で定められる。
【0043】
<<負荷11の状態が過負荷の際のピーク値Tpとオン期間Tonについて>>
ところで、例えば、負荷11の状態が過負荷となり、オン期間Tоnが長くなると、図4及び式(1)から明らかなように、ピーク値Ipは大きくなる。この結果、インダクタ22に磁気飽和が発生してしまうことがある。
【0044】
したがって、ピーク値Ipが、例えば負荷11の状態が過負荷となる際の所定値I1を超えると、オン期間Tonを短くし、ピーク値Ipの上昇を抑制する必要がある。図2の指令値補正回路51は、負荷11の状態が過負荷となりオン期間Ton1が所定期間Txより長くなると、NMOSトランジスタ23のオン期間を短くするよう、指令値V1を処理する。なお、詳細は後述するが、以下、図2の力率改善IC25aで得られるNMOSトランジスタ23のオン期間を、「Ton1」または「Ton2」として説明する。
【0045】
ここで、「所定期間Tx」は、式(4)に示すように、ピーク値Ipが所定値I1となる際のオン期間である。なお、式(4)におけるVrecは、位相角θが90°の際の値である。
Tx=I1×(L/Vrec(θ=90°))・・・(4)
【0046】
本実施形態では負荷11の状態が過負荷となると、指令値V1の示すオン期間Ton1は、所定期間Txとなる。そこで、指令値補正回路51は、ピーク値Ipと、所定値I1と直接比較せず、オン期間Ton1が、所定値I1に対応する所定期間Txとを比較する。なお、所定期間Txは、「第1所定期間」に相当し、所定値I1は、「第1所定値」に相当する。
【0047】
==指令値補正回路51の詳細==
指令値補正回路51は、図2に示すように、リミッタ110、減算器111,113、及び増幅器112を含んで構成される。
【0048】
リミッタ110は、指令値V1の示すオン期間Ton1が、所定期間Txより長い場合、指令値V1のオン期間を所定期間Txに制限する。具体的には、リミッタ110は、指令値V1の示すオン期間Ton1が、所定期間Txより短い場合、オン期間Ton1の指令値V3を出力する。また、リミッタ110は、指令値V1の示すオン期間Ton1が、所定期間Txより長い場合、オン期間が所定期間Txの指令値V3を出力する。
【0049】
なお、本実施形態のリミッタ110は、オン期間Ton1と、所定期間Txとが等しい場合は、所定期間Txより短い場合と同様に動作する。したがって、リミッタ110は、実質的に、指令値V1の示すオン期間Ton1が、所定期間Tx以下の場合、オン期間Ton1の指令値V3を出力することとなる。
【0050】
ここで、図2に示された、例えば、「V3(Ton1/Tx)」の表記では、括弧内のスラッシュ(ここでは、「/」のマーク)の左には、リミッタ110が動作しない場合の値が示され、スラッシュの右には、リミッタ110が動作する場合の値が示されている。なお、本実施形態の図面の括弧内のスラッシュ内の表記についても同様である。
【0051】
減算器111は、指令値V1から指令値V3を減算し、オン期間Ton1及び所定期間Txの差を示す減算結果Vs1(=V1-V3)を出力する。なお、オン期間Ton1が、所定期間Txより短い場合、指令値V3のオン期間は、オン期間Ton1となる。したがって、この場合の減算結果Vs1は、0(ゼロ)となる。
【0052】
増幅器112は、オン期間Ton1が、所定期間Txより長い場合、減算結果Vs1を所定の利得A1で増幅し、電圧Vaとして出力する。ここで、電圧Vaは、オン期間Ton1と、所定期間Txとの差を、所定の利得A1で増幅した値となる。したがって、電圧Vaも指令値V1等と同様に、NMOSトランジスタ23のオン期間に対応する値となる。なお、本実施形態では、電圧Vaの示すオン期間は、オン期間Tonaとする。
【0053】
減算器113は、指令値V3から、オン期間Tonaを示す電圧Vaを減算し、指令値V2として出力する。ここで、オン期間Ton1が所定期間Txより短い場合、電圧Vaはゼロであるため、減算器113は、オン期間Ton2がオン期間Ton1と等しい指令値V2を出力する。
【0054】
一方、オン期間Ton1が所定期間Txより長い場合、減算器113は、オン期間Ton2が(Tx-Tona)となる指令値V2を出力する。したがって、この場合、所定期間Txより短い期間だけNMOSトランジスタ23をオンさせるための指令値V2を、減算器113は出力することになる。
【0055】
なお、指令値補正回路51は、「第2指令値出力回路」に相当し、指令値V2は、「第2指令値」に相当し、オン期間Ton2は、「第2期間」に相当する。リミッタ110が出力する指令値V3は、「第3指令値」に相当し、減算器111は、「第1減算器」に相当し、減算器113は、「第2減算器」に相当する。
【0056】
==オン信号出力回路52==
オン信号出力回路52は、インダクタ電流ILが電流Ib(後述)となると、NMOSトランジスタ23をオンするためのハイレベル(以下、Hレベルとする。)の信号Vonを出力する。オン信号出力回路52は、電流出力回路120、波形出力回路121,乗算器122、及び比較器(CMP)123を含んで構成される。
【0057】
電流出力回路120は、電圧Vaに基づいて、電流Ib(後述)の基準となる基準電流Irefを出力する。なお、ここでは、電流出力回路120は、基準電流Irefを出力すると便宜上記載しているが、電圧出力回路120は、実際には、基準電流Irefを示すデジタル値の電圧を出力する。力率改善IC25aでは特段言及しない限り、力率改善IC25aにおける「電流」とは、「電流を示す電圧」を意味する。
【0058】
また、本実施形態の電流出力回路120は、オン期間Ton1が制限され、負荷11への電力が不足する場合、不足する電力が補われるよう所定の演算を実行する。具体的には、電流出力回路120は、電圧Va、すなわち指令値出力回路50の出力Ton1に対して、指令値補正回路51が出力するTon2のオン期間不足分に相当する量に応じて、これにより生じる入力電流Iinの不足分の実効値への換算を行う。これは電流ピーク値Ipがオン期間に比例し、平均値もオン期間比例となることから、比例係数Pを乗じることで求めることができる。
【0059】
なお、たとえば整流電圧Vrecの実効値をVrec_rmsとするなら、比例係数PはmVrec_rms/2Lである。なお左記の式の分母の係数2は、あるオン期間に対して到達するピーク値の1/2がスイッチング周期内の平均値となることによる。このような比例係数Pを用いることにより、オン期間を電流値に変換できる。なお、電流値を、オン期間に変換する際には、例えば比例係数Pの逆数を用いれば良い。
【0060】
この結果、オン期間Ton1が所定期間Txより短く、電圧Vaがゼロの場合、電流出力回路120は、値がゼロの基準電流Irefを出力する。また、オン期間Ton1が所定期間Txより長く、電圧Vaがオン期間Tonaを示す場合、電流出力回路120は、電圧Vaに定数Pを乗算した値(ここでは、ゼロより大きい正の値)を有する基準電流Irefを出力する。
【0061】
波形出力回路121は、信号出力回路53(後述)から出力され、NMOSトランジスタ23がオフとなる期間にHレベルとなる信号Vqiに基づいて、整流電圧Vrecと相似形となる波形Vrを出力する。波形出力回路121は、図4の最下段に示すように、電圧Vswと同様の信号Vqiを、例えばスイッチング周期数回分だけ平均化することにより、波形Vrを生成する。
【0062】
乗算器122は、基準電流Irefと、波形Vrとを乗算し、電流Ib(瞬時値)を示す電圧を出力する。なお、便宜上ここでは、乗算器122は、電流Ibを出力するとして適宜説明する。また、本実施形態では、基準電流Irefの値がゼロの場合、電流Ibもゼロとなる。一方、基準電流Irefが電圧Va及び定数Pで定まる場合、電流Ibは、Ib=Iref×Vr=Va×P×Vrとなるため、電流Ibも、整流電圧Vrecと相似形の波形となる。この際、オン期間Ton2がオン期間Ton1より短いことにより不足する電流は、電流Ibの加算により補われるので、力率改善回路10の入力電流Iinは、当初の値(つまり、オン期間Ton1でNMOSトランジスタ23をオンした際の値)に維持される。
【0063】
比較器123は、電圧Vcsと、電流Ibを示す電圧とに基づいて、インダクタ電流IL及び電流Ibを比較する。比較器123は、インダクタ電流ILが電流Ibより大きい場合、Lレベルの信号Vonを出力する。一方、比較器123は、インダクタ電流ILが電流Ibより小さい場合、Hレベルの信号Vonを出力する。
【0064】
なお、本実施形態の電流出力回路120、波形出力回路121,及び乗算器122は、「第1出力回路」に相当し、比較器123は、「第2出力回路」に相当する。また、電流出力回路120は、「基準電流出力回路」に相当し、乗算器122は、「演算回路」に相当する。Ib=0ゼロ(所定値)となる電流Ibは、「第1電流」に相当し、Ib=Iref×Vr(=Va×P×Vr)となる電流Ibは、「第2電流」に相当する。
【0065】
==信号出力回路53==
信号出力回路53は、信号Vonと、指令値V2とに基づいて、NMOSトランジスタ23を駆動するための駆動信号Vdrを出力する。信号出力回路53は、SRフリップフロップ130、発振器(OSC)131、及び比較器132を含んで構成される。
【0066】
SRフリップフロップ130は、Hレベルの信号Vonに基づいて、Q出力である駆動信号VdrをHレベルに変化させ、Hレベルの信号Voff(後述)に基づいて、駆動信号VdrをLレベルに変化させる。なお。SRフリップフロップ130からは、Q出力の論理レベルを反転した信号Vqiが出力される。
【0067】
発振器131は、駆動信号VdrがHレベルとなると、振幅がゼロから上昇するランプ波Vrmpを出力する。なお、発振器131は、駆動信号VdrがLレベルとなると、ランプ波Vrmpの振幅をゼロに変化させる。
【0068】
比較器132は、指令値V2と、ランプ波Vrmpとを比較して、NMOSトランジスタ23をオフするためのHレベルの信号Voffを出力する。具体的には、ランプ波Vrmpが指令値V2より小さい場合、比較器132は、Lレベルの信号Voffを出力する。一方、ランプ波Vrmpが指令値V2より大きい場合、比較器132は、NMOSトランジスタ23をオフすべく、Hレベルの信号Voffを出力する。
【0069】
この結果、比較器132は、NMOSトランジスタ23がオンした後、指令値V2の示すオン期間Ton2が経過すると、NMOSトランジスタ23をオフすることが可能となる。
【0070】
==駆動回路54==
駆動回路54は、駆動信号Vdrに基づいて、NMOSトランジスタ23を駆動するバッファ回路である。駆動回路54は、駆動信号VdrがHレベルとなると、NMOSトランジスタ23をオンすべく信号VoをHレベルとし、駆動信号VdrがLレベルとなると、NMOSトランジスタ23をオフすべく信号VoをLレベルとする。
【0071】
==判定回路55==
判定回路55は、負荷11が過負荷状態となる期間、つまり、オン期間Ton1が所定期間Txより長くなる期間が所定期間Ty(例えば、5ms)より長いか否かを、電圧Vaに基づいて判定する。なお、上述のように、電圧Vaは、オン期間Ton1が所定期間Txより長くなると、正の値となる。
【0072】
また、判定回路55は、電圧Vaが正の値となる期間が所定期間Tyより長い場合、NMOSトランジスタ23がオフとなるよう、駆動回路54を制御する。この結果、本実施形態では、負荷11が過負荷状態となる期間が長くなると、NMOSトランジスタ23のスイッチングが停止され、負荷11への電力の供給も停止される。これにより、本実施形態では、例えば、力率改善回路10が熱により破壊されることを防ぐことができる。なお、所定期間Tyは、「第2所定期間」に相当する。
【0073】
<<<力率改善IC25aの動作>>>
図1図2図5図7を参照しつつ、力率改善IC25aの動作を説明する。図5は、力率改善IC25aの主要な信号の波形を説明するための図である。図6は、力率改善回路10が臨界モードで動作する際のインダクタ電流ILを説明するための図であり、図7は、力率改善回路10が連続モードで動作する際のインダクタ電流ILを説明するための図である。
【0074】
ここでは、負荷11の状態が軽負荷から定格負荷を経て、過負荷まで変化した際の力率改善IC25aの動作を順次説明する。
【0075】
==負荷11の状態が軽負荷の場合==
図2の指令値出力回路50は、出力電圧Voutが目的レベルとなるよう、帰還電圧Vfbと、基準電圧Vrefとに基づいて、指令値V1を出力する。ここで、負荷11の状態が軽負荷の場合、指令値V1が示すオン期間Ton1は、上述した負荷11の状態が過負荷となる際の所定期間Txより短い。したがって、指令値補正回路51は、オン期間Ton1を示す指令値V2を出力する。
【0076】
また、この際、リミッタ110から出力される指令値V3と、指令値V1とは等しいため、増幅器112から出力される電圧Vaは、ゼロである。したがって、乗算器122は、ゼロとなる電流Ibを比較器123に出力する。
【0077】
ここで、NMOSトランジスタ23がオフされた後、例えば、図5の時刻t10にインダクタ電流ILが減少し、電流Ib(=0)となると、比較器123は、Hレベルの信号Vonを出力する。
【0078】
この結果、SRフリップフロップ130は、Hレベルの駆動信号Vdrを出力するため、NMOSトランジスタ23はオンとなる。また、Hレベルの駆動信号Vdrを出力されると、発振器131からのランプ波Vrmpの振幅が増加する。
【0079】
そして、時刻t11に、ランプ波Vrmpの振幅レベルが指令値V2のレベルとなると、比較器132は、信号VoffをHレベルに変化させる。この結果、SRフリップフロップ130はリセットされ、Lレベルの駆動信号Vdrを出力するため、NMOSトランジスタ23はオフとなる。
なお、時刻t10~t11までの期間は、指令値V2が示すオン期間Ton2となる。
【0080】
そして、NMOSトランジスタ23がオフとなると、インダクタ電流ILは減少するため、時刻t12以降、時刻t10~t12までの動作が繰り返される。この結果、負荷11が軽負荷の場合、力率改善回路10は臨界モードで動作し、インダクタ電流ILのピーク値Ipは、例えば、図6(a)の一点鎖線で示す波形となる。なお、ここで、ピーク値Ipは、上述した定格負荷の際のピーク値Ipの値である所定値I1より小さい電流値I0となる。また、図6(a)の点線は、インダクタ電流ILの平均値Iaveである。
【0081】
==負荷11の状態が定格負荷の場合==
負荷11の状態が軽負荷から、定格負荷まで増加すると、指令値V1が示すオン期間Ton1は、上述した負荷11の状態が過負荷となる際の所定期間Txとなる。この際、上述したようにリミッタ110は、オン期間Ton1を示す指令値V1を出力する。
【0082】
したがって、この場合においても、負荷11が軽負荷の場合と同様に、図6(b)に示すように、力率改善回路10は臨界モードで動作する。なお、図6(b)では、インダクタ電流ILのピーク値Ipを、一点鎖線で示し、インダクタ電流ILの平均値Iaveを点線で示す。また、図6(b)では、ピーク値Ipは、電流値I0から、所定値I1まで増加する。
【0083】
==負荷11の状態が過負荷の場合==
負荷11の状態が過負荷である場合であっても、力率改善IC25aの主要な信号は、図5に示す負荷11の状態が軽負荷の場合と同様に変化する。ただし、指令値V1が示すオン期間Ton1は所定期間Txより長くなるため、電圧Vaが正の値となる。なお、ここでは、過負荷を、例えば、定格電流(例えば、8A)の1.5倍の電流(例えば、12A)が流れる状態を一例に説明している。
【0084】
この結果、指令値補正回路51は、オン期間Ton1より短いオン期間Ton2の指令値V2を出力し、オン信号出力回路52は、インダクタ電流ILが電流Ib(=Iref×Vr)となると、Hレベルのオン信号Vonを出力する。
【0085】
したがって、負荷11の状態が過負荷の場合、図6(c)に示すように、インダクタ電流ILのピーク値Ip(一点鎖線)と、インダクタ電流ILのボトム値となる電流Ib(二点鎖線)と、はともに整流電圧Vrecと相似の波形Vrとなる。このように、負荷11が過負荷の場合、力率改善回路10は連続モードで動作する。
【0086】
また、本実施形態では、過負荷の際に力率改善回路10を連続モードで動作させると、インダクタ電流ILのボトム値がゼロから増加する。このため、この場合のピーク値Ip(一点鎖線)の電流値I2は、仮に力率改善回路10を臨界モードで動作させた場合のピーク値Ip(点線)の電流値I3より小さくなる。これは、臨界モードで所望の量だけ平均値Iaveを増加させるには、その2倍のピーク値Ipを増加させる必要があるのに対し、連続モードでは追加された電流Ibがそのまま平均値Iaveの増加分となるためである。したがって、本実施形態を用いることにより、インダクタ電流ILのピーク値Ipの増加を抑制できる。
【0087】
<<シミュレーション結果>>
図7は、力率改善IC25aを用いた力率改善回路10において、負荷電流Ioutを増加させた際のシミュレーション結果である。図7には、上段から下段にかけて、インダクタ電流IL、入力電流Iin、交流電源の入力電力が順次図示されている。
【0088】
図7では、時刻が0msにおいて、負荷11の負荷電流Ioutを0Aとし、徐々に負荷電流Ioutを増加させているため、入力電力も増加している。そして、時刻が凡そ90msにおいて、負荷電流Ioutが定格電流(つまり、負荷11の状態が定格負荷)となり、その後、負荷電流Ioutを定格電流より増加させている。なお、図7では、定格負荷を定格電力として記載している。
【0089】
図7に示すように、時刻0msから、負荷電流Ioutが定格電流となる時刻90msとなるまで、力率改善回路10は臨界モードで動作する。このため、インダクタ電流ILのピーク値Ipは、負荷電流Iout(または、入力電力)の増加に応じて、高くなる。
【0090】
そして、凡そ時刻90msとなると、負荷電流Ioutが定格電流となるため、力率改善回路10は連続モードで動作する。このため、負荷電流Ioutが増加しても、インダクタ電流ILのボトム値が増加するため、結果的にピーク値Ipの増加が抑制される。したがって、本実施形態では、負荷11が過負荷になった場合であっても、インダクタ電流ILのピーク値Ipを小さくすることができる。
【0091】
<<<力率改善IC25bの構成>>>
図8は、力率改善IC25の第2実施形態の一例を示す図である。力率改善IC25bは、力率改善IC25aと同様に、負荷11が過負荷状態となると、力率改善回路10を臨界モードから連続モードで動作させる回路である。
【0092】
力率改善IC25aは、指令値V1のオン期間Ton1が、所定期間Txより長くなると、NMOSトランジスタ32のオン期間を短くするとともに、電流Ibを増加させる回路である。一方、力率改善IC25bは、インダクタ電流ILのピーク値Ipが所定値I1より大きくなると、電流Ibを増加させるとともに、NMOSトランジスタ32のオン期間を短くする回路である。
【0093】
力率改善IC25bは、指令値出力回路50、信号出力回路53、駆動回路54、オン信号出力回路60、指令値補正回路61、及び判定回路62を含んで構成される。なお、本実施形態の指令値出力回路50、信号出力回路53、オン信号出力回路60、及び指令値補正回路61は、「駆動信号出力回路」に相当する。
【0094】
図8の力率改善IC25bと、図2の力率改善IC25aとで、同じ符号が付された回路は、同じである。したがって、ここでは、オン信号出力回路60、指令値補正回路61、及び判定回路62について説明する。
【0095】
==オン信号出力回路60==
オン信号出力回路60は、サンプルホールド回路(S/H)200、平均化回路201、減算器202、電流出力回路203、波形出力回路204、乗算器205、及び比較器(CMP)206を含んで構成される。
【0096】
サンプルホールド回路200は、NMOSトランジスタ23がオフするタイミングで、インダクタ電流ILをサンプリングする回路である。具体的には、サンプルホールド回路200は、信号VqiがHレベルとなると、インダクタ電流ILを取得し、保持する。この結果、サンプルホールド回路200は、NMOSトランジスタ23がスイッチングされる毎に、インダクタ電流ILのピーク値Ipを取得することになる。なお、サンプルホールド回路200は、「保持回路」に相当する。
【0097】
平均化回路201は、交流電圧Vacの半周期の期間においてピーク値Ipの平均値Ipavを演算する。
【0098】
減算器202は、平均値Ipavから、所定値Iprを減算する回路である。ここで、「所定値Ipr」は、負荷11が過負荷となり、半周期におけるピーク値Ipが所定値I1となった際の平均値Ipvの値である。したがって、平均値Ipavが、所定値Iprより大きくなり、減算器202の減算結果が正の値となると、負荷11の状態が過負荷であることになる。なお、所定値Iprは、「第2所定値」に対応する。
【0099】
電流出力回路203は、減算器202の減算結果に基づいて、値の異なる基準電流Irefを出力する。具体的には、電流出力回路203は、負荷11の状態が定格負荷より小さく、減算器202の減算結果がゼロ以下の値(負の値を含む)の場合、力率改善回路10を臨界モードで動作させるべく、ゼロとなる基準電流Irefを出力する。
【0100】
一方、電流出力回路203は、負荷11の状態が過負荷となり、減算器202の減算結果が正の値の場合、力率改善回路10を連続モードで動作させるべく、減算結果に応じて値が大きくなる基準電流Irefを出力する。
【0101】
波形出力回路204、乗算器205、及び比較器206のそれぞれは、図2の波形出力回路121、乗算器122、及び比較器123と同じである。したがって、比較器206は、インダクタ電流ILが、電流Ibとなると、NMOSトランジスタ23をオンするためのHレベルの信号Vonを出力する。
【0102】
なお、本実施形態の電流出力回路203、波形出力回路204、及び乗算器205は、「第1出力回路」に相当し、比較器206は、「第2出力回路」に相当する。また、電流出力回路203は、「基準電流出力回路」に相当し、乗算器205は、「演算回路」に相当する。Ib=0ゼロ(所定値)となる電流Ibは、「第1電流」に相当し、Ib=Iref×Vrとなる電流Ibは、「第2電流」に相当する。なお、ここで、基準電流Irefは、平均値Ipavと、所定値Iprとの差に応じて大きくなる電流である。
【0103】
==指令値補正回路61==
指令値補正回路61は、例えば、負荷11の状態が過負荷となると、NMOSトランジスタ23のオン期間が短くなるよう、指令値V1を補正する。指令値補正回路61は、補正回路210、及び減算器211を含んで構成される。なお、指令値補正回路61は、「第2指令値出力回路」に相当する。
【0104】
補正回路210は、電流出力回路203から出力される基準電流Irefに対し、所定値を乗算することにより、指令値V1を補正するための補正値Vcを出力する。したがって、補正回路210は、基準電流Irefの振幅がゼロの場合、ゼロとなる補正値Vcを出力する。一方、補正回路210は、基準電流Irefの振幅が正の値の場合、正の値を有する補正値Vcを出力する。
【0105】
減算器211は、指令値V1から、補正値Vcを減算し、減算結果を指令値V2として出力する。したがって、基準電流Irefの振幅がゼロであり、補正値Vcもゼロの場合、減算器211は、指令値V1を、指令値V2として出力することになる。この結果、この場合には、指令値V2の示すNMOSトランジスタ23のオン期間は、指令値V1のオン期間Ton1となる。
【0106】
一方、補正回路210が正の値の補正値Vcを出力する場合、減算器211は、指令値V1から、補正値Vcを減算した値を、指令値V2として出力することになる。この結果、この場合には、指令値V2の示すNMOSトランジスタ23のオン期間は、オン期間Ton1より短い期間となる。
【0107】
したがって、本実施形態の力率改善IC25bを用いた場合、負荷11が過負荷となると、インダクタ電流ILのボトム値を増加させる一方、NMOSトランジスタ23のオン期間を短縮する。この結果、必要な入力電流Iinを維持しつつ、スイッチングリプルによるピーク電流(ピーク値Ip)を下げられるので、全体としてのピーク電流を抑制することができる。
【0108】
==判定回路62==
判定回路62は、負荷11が過負荷状態となる期間が所定期間Ty(例えば、5ms)より長いか否かを、平均値Ipavと、所定値Iprとの差に基づいて判定する。なお、上述のように、負荷11が過負荷状態となると、平均値Ipavと、所定値Iprとの差は、正の値となる。したがって、判定回路62は、平均値Ipavと、所定値Iprとの差が正の値となる期間が、所定期間Tyより長いか否かを判定する。
【0109】
また、判定回路62は、平均値Ipavと、所定値Iprとの差が正の値となる期間が所定期間Tyより長い場合、NMOSトランジスタ23がオフとなるよう、駆動回路54を制御する。この結果、本実施形態では、負荷11が過負荷状態となる期間が長くなると、NMOSトランジスタ23のスイッチングが停止され、負荷11への電力の供給も停止される。これにより、本実施形態では、例えば、力率改善回路10が熱により破壊されることを防ぐことができる。
【0110】
==力率改善IC25bの小括==
このように、力率改善IC25bは、負荷11が過負荷となると、力率改善回路10を連続モード動作させるため、力率改善回路10を臨界モード動作させ続ける場合と比較して、インダクタ電流ILのピーク値Ipを小さくすることができる。
【0111】
==その他(指令値補正回路51の変形例)==
図2の指令値補正回路51は、リミッタ110、減算器111,113、及び増幅器112を含んで構成されることとしたが、これに限られない。例えば、指令値補正回路51の代わりに、図9に示す指令値補正回路56を用いても良い。
【0112】
指令値補正回路56は、指令値補正回路51の増幅器112を用いず、減算器111の減算結果を、減算器113に直接出力している。このような構成を用いた場合でも、本実施形態と同様に、インダクタ電流ILのピーク値Ipを低下させることができる。なお、指令値補正回路56は、「第2指令値出力回路」に相当する。
【0113】
===まとめ===
以上、本実施形態の力率改善回路10について説明した。例えば、力率改善IC25a,25bは、負荷11が過負荷状態となるまでは、力率改善回路10を臨界モードで動作させ、負荷11が過負荷状態となると、力率改善回路10を連続モードで動作させる。この結果、本実施形態では、負荷電流Ioutが増加した場合であっても、インダクタ電流ILのピーク値Ipの上昇を抑制できる。
【0114】
また、図2の力率改善IC25aは、指令値V1のオン期間Ton1が所定期間Txより長くなると、力率改善回路10を臨界モードで動作させる。
【0115】
また、例えば、図9に示す指令値補正回路56を用いる場合であっても、負荷11が過負荷状態となると、インダクタ電流ILのピーク値Ipの上昇を抑制することができる。ただし、指令値補正回路51は、リミッタ110に加え、増幅器112を含む。したがって、指令値V1のオン期間Ton1が所定期間Txより長くなると、増幅器112が無い場合より、NMOSトランジスタ23のオン期間を短くできる。したがって、負荷電流Ioutが増加した場合に、よりピーク値Ipを小さくできる。
【0116】
また、比較器123は、負荷11の状態が定格負荷に至るまでは、インダクタ電流ILがゼロとなると、NMOSトランジスタ23をオンすべく、Hレベルの信号Vonを出力する。そして、比較器123は、負荷11の状態が過負荷となると、インダクタ電流ILが正の値の電流Ibとなると、NMOSトランジスタ23をオンすべく、Hレベルの信号Vonを出力する。この結果、力率改善IC25aは、力率改善回路10を臨界モード、または連続モードで動作させることができる。
【0117】
また、乗算器122は、負荷11の状態が過負荷となると、電流Ibを波形Vrに応じて変化させる。したがって、インダクタ電流ILのボトム値を、正弦波状に変化させることができる。
【0118】
また、波形出力回路121は、NMOSトランジスタ23がオフとなるデューティ比に基づいて、波形Vrを生成する。したがって、例えば、整流電圧Vrecを分圧する分圧回路を用いることなく、電流Ibを正弦波状に変化させることができる。
【0119】
また、判定回路55は、負荷11が過負荷状態となる期間が所定期間Tyより長くなると、駆動回路54にNMOSトランジスタ23をオフさせる。この結果、本実施形態では、力率改善回路10が熱により破壊されることを防ぐことができる。
【0120】
また、図8の力率改善IC25bは、ピーク値Ipが所定値I1より高くなると、力率改善回路10を臨界モードで動作させる。このような力率改善IC25bを用いる場合であっても、負荷電流Ioutが増加した際にインダクタ電流ILのピーク値Ipの増加を抑制できる。
【0121】
また、比較器206は、比較器123と同様に、インダクタ電流ILが電流Ibとなると、NMOSトランジスタ23をオンすべく、Hレベルの信号Vonを出力する。この結果、力率改善IC25aは、力率改善回路10を臨界モード、または連続モードで動作させることができる。
【0122】
また、波形出力回路204は、波形出力回路121と同様に、NMOSトランジスタ23がオフとなるデューティ比に基づいて、波形Vrを生成する。したがって、例えば、整流電圧Vrecを分圧する分圧回路を用いることなく、電流Ibを正弦波状に変化させることができる。
【0123】
また、指令値補正回路61は、負荷11が過負荷状態となると、指令値V1から補正値Vcを減算する減算器211を含む。この結果、力率改善IC25bは、負荷電流Ioutの増加に応じて、NMOSトランジスタ23のオン期間を短くすることができる。
【0124】
また、判定回路62は、ピーク値Ipが所定値I1より大きくなり、平均値Ipavと、所定値Iprとの差が正となる期間が所定期間Tyより長くなると、駆動回路54にNMOSトランジスタ23をオフさせる。これにより、力率改善回路10が熱により破壊されることを防ぐことができる。
【0125】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0126】
10 力率改善回路
11 負荷
20 全波整流回路
21,27 コンデンサ
22 インダクタ
23 NMOSトランジスタ
24,28,29 抵抗
25 力率改善IC
26 ダイオード
50 指令値出力回路
51,56,61 指令値補正回路
52,60 オン信号出力回路
53 信号出力回路
54 駆動回路
55,62 判定回路
100,111,113,202 減算器
101 電圧調整器
110 リミッタ
112 増幅器
120,203 電流出力回路
121,204 波形出力回路
122,205 乗算器
123,132,206 比較器
130 SRフリップフロップ
131 発振器
200 サンプルホールド回路
201 平均化回路


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9