(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034084
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ねじ機構及びこれを備える直動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20240306BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20240306BHJP
H02K 7/06 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F16H25/24 A
F16H25/20 H
H02K7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138093
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】上岡 広樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【テーマコード(参考)】
3J062
5H607
【Fターム(参考)】
3J062AA01
3J062AB21
3J062AB22
3J062BA25
3J062BA26
3J062CD04
3J062CD23
3J062CD45
3J062CD64
3J062CD79
5H607AA04
5H607BB01
5H607BB09
5H607CC03
5H607EE52
5H607JJ05
(57)【要約】
【課題】振動や異音の発生が抑えられた静粛なねじ機構を低コストに提供する。
【解決手段】ナット31の回転方向に応じてねじ軸31が軸方向に進退移動し、ナット31の係合部31bがねじ軸32に設けた被係合部Eとナット31の回転方向で係合することによりねじ軸32の後退移動が規制されるねじ機構3において、ねじ軸32の外周面にねじ軸32の回転を規制する回り止め部材34を固定し、この回り止め部材34に、ナット31の回転方向に弾性変形可能な弾性部として機能する傾斜板部35bを有するストッパ35を取り付け固定する。弾性部としての傾斜板部35bが被係合部Eを構成する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に雌ねじ溝が形成されたナットと、外周面に前記雌ねじ溝と対向する雄ねじ溝が形成されたねじ軸と、を備え、前記ナットの回転方向に応じて前記ねじ軸が軸方向一方側に前進又は軸方向他方側に後退移動し、前記ナットに設けた係合部と前記ねじ軸に設けた被係合部とが前記ナットの回転方向で係合することにより前記ねじ軸の後退移動が規制されるねじ機構において、
前記ねじ軸の外周面のうち、前記ナットよりも軸方向一方側の領域に、前記ねじ軸の前記回転を規制する回り止め部材が固定され、この回り止め部材に、前記ナットの回転方向に弾性変形可能な弾性部が設けられ、該弾性部が前記被係合部を構成することを特徴とするねじ機構。
【請求項2】
前記弾性部が、周方向に間隔を空けて複数設けられている請求項1に記載のねじ機構。
【請求項3】
前記回り止め部材に対して取り付けられる取付部と、前記弾性部とを一体に有するストッパをさらに備える請求項1又は2に記載のねじ機構。
【請求項4】
前記ストッパが、金属板のプレス成形品である請求項3に記載のねじ機構。
【請求項5】
請求項1に記載のねじ機構と、前記ナットを回転駆動させる電動モータとを備え、前記ねじ軸が出力軸を構成する直動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ機構及びこれを備える直動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省力化や低燃費化等を目的として自動車の電動化が進展しており、例えば、自動車の自動変速機、ブレーキ、ステアリング等の操作に電動モータの力を利用するシステムが開発され、市場に投入されている。係るシステムには、電動モータ及びその回転運動を直線運動に変換するねじ機構を備えた直動(電動)アクチュエータが広く使用されている。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、内周面に雌ねじ溝が形成されたナットと、外周面に雄ねじ溝が形成されたねじ軸と、雌ねじ溝と雄ねじ溝の間に配された多数のボールとを備え、ナットを回転側とし、ねじ軸を直動側としたねじ機構(ボールねじ機構)が記載されている。このねじ機構において、ねじ軸の外周面には径方向に延びた径方向部を有する回り止め部材が固定されており、径方向部の外径端は、ねじ機構を収容するハウジングに設けられた軸方向の案内溝に嵌合されている。係る構成により、電動モータの出力を受けてナットが回転駆動されると、ねじ軸はその中心軸回りの回転を規制された状態でナットの回転方向に応じて軸方向一方側に前進又は軸方向他方側に後退移動する。
【0004】
上記ねじ機構のナットには、その軸方向一方側の端面から軸方向外側に突出した係合部が設けられており、ねじ軸がストロークエンド(後退限)に達した時には、係合部とねじ軸に固定された回り止め部材とがナットの回転方向で係合するようになっている。これにより、ねじ軸のさらなる後退移動が規制される。
【0005】
上記構成を有する従来のねじ機構において、例えばねじ軸の進退移動(ナットの係合部に対する回り止め部材の衝突)が繰り返されることによって回り止め部材及び/又はナット(の係合部)が損傷・変形等してしまうと、ねじ軸の後退限に狂いが生じ、電動アクチュエータの操作対象の動作精度に悪影響が及ぶおそれがある。そのため、回り止め部材やナットは、例えば、焼入れ等の高強度化・高硬度化処理が施された炭素鋼等、高い機械的強度を具備する材料で形成された剛体とされるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、回り止め部材及びナットの双方に、炭素鋼等の剛体で構成されたものが使用されると、特にナットの係合部に対して回り止め部材が高速で衝突した場合には、大きな衝撃荷重(振動)や衝突音(異音)が発生するという問題がある。
【0008】
係る問題点に鑑み、本発明は、ねじ軸が後退限に到達した際の振動や異音の発生を防止することができるねじ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために創案された本発明は、内周面に雌ねじ溝が形成されたナットと、外周面に雌ねじ溝と対向する雄ねじ溝が形成されたねじ軸と、を備え、ナットの回転方向に応じてねじ軸がその中心軸回りに回転するのを規制された状態で軸方向一方側に前進又は軸方向他方側に後退移動し、ナットに設けた係合部とねじ軸に設けた被係合部とがナットの回転方向で係合することによりねじ軸の後退移動が規制されるねじ機構において、
ねじ軸の外周面のうち、ナットよりも軸方向一方側の領域に、ねじ軸の上記回転を規制する回り止め部材が固定され、この回り止め部材に、ナットの回転方向に弾性変形可能な弾性部が設けられ、この弾性部が上記被係合部を構成していることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、ねじ軸が後退限に到達し、ナットの回転方向でナットの係合部とねじ軸の被係合部とが係合(衝突)するのに伴って生じる衝撃荷重(振動)や衝突音(異音)を、被係合部としての弾性部がナットの回転方向に弾性変形することによって緩和・吸収することができる。これにより、振動や異音の発生が抑えられた静粛なねじ機構を実現することができる。また、上記構成によれば、ねじ軸が後退限に到達したときに、ナット(の係合部)が回り止め部材(の母材)に直接接触するのを阻止することができるので、回り止め部材の母材には、従来のねじ機構を構成する回り止め部材に必要とされていたほどの強度・硬度は不要となる。そのため、回り止め部材は、従来よりも低強度・低硬度の材料で作製することが可能となり、その製造コストを低減することができる。
【0011】
上記弾性部は、周方向に間隔を空けて複数設けることができる。このようにすれば、ナットとねじ軸とがナットの回転方向で係合可能な箇所を増やすことができるので、ねじ軸に対して回り止め部材を固定する際に必要となる両者の位相合わせ作業を簡略化することが可能となる。
【0012】
上述した本発明に係るねじ機構は、例えば、回り止め部材に対して取り付けられる取付部と、上記弾性部とを一体に有するストッパをさらに設けることで実現することができる。このストッパを、金属板のプレス成形品とすれば、ストッパ自体を安価に作製することができる。
【0013】
本発明は、ナットの内周面に形成された雌ねじ溝とねじ軸の外周面に形成された雄ねじ溝の間に多数のボールが介在するねじ機構に適用することができる。すなわち、本発明は、雌ねじ溝と雄ねじ溝が直接螺合した、いわゆるすべりねじ機構に適用することができる他、いわゆるボールねじ機構にも適用することができる。
【0014】
以上で説明した本発明に係るねじ機構と、当該ねじ機構のナットを回転駆動させる電動モータとを備え、ねじ機構のねじ軸を出力軸とした直動アクチュエータは、本発明に係るねじ機構が前述したような特徴を有することから、静粛で、かつ低コストに作製することができる、という特徴を有する。
【発明の効果】
【0015】
以上のことから、本発明によれば、ねじ軸が後退限に到達した際の振動や異音の発生を防止することができる静粛なねじ機構を低コストに提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るねじ機構を備えた直動アクチュエータの概略縦断面図である。
【
図3】(a)図は、
図1に示すねじ機構の正面図、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図5】ねじ機構に設けられるストッパ及び回り止め部材の分解斜視図である。
【
図6】ねじ機構に設けられるストッパの機能を説明するためのねじ機構の正面図であり、(a)図はナットがねじ軸を後退移動させる方向に回転している様子を示す図、(b)図はナットがストッパの弾性部に衝突した時点の様子を示す図、(c)図は、ストッパの弾性部が弾性変形している様子を示す図、である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、方向性を説明するために「軸方向」、「径方向」及び「周方向」との用語を使用するが、「軸方向」とは、
図1等に示すねじ機構3を構成するナット31(ねじ軸32)の中心軸に沿う方向であり、「径方向」とは、上記中心軸を中心とする円の径方向であり、「周方向」とは、上記中心軸を中心とする円の周方向である。また、「軸方向一方側」及び「軸方向他方側」とは、それぞれ
図1の紙面左側及び右側である。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るねじ機構を備えた直動アクチュエータ1の概略縦断面図であり、
図2は、
図1のA-A線矢視断面図である。この直動アクチュエータ1は、駆動力を発生する電動モータ2と、入力される回転運動を直線運動に変換して出力する運動変換機構であるねじ機構3と、動力伝達機構4と、これらを収容したハウジング5とを備えた電動アクチュエータである。
【0019】
電動モータ2は、ステータコアやステータコイルを含むモータ本体と、出力軸2aとを備え、ステータコイルは図示外の動力電源と電気的に接続される。電動モータ2には、出力軸2aの回転角を検出・制御することができるモータ、例えば三相ブラシレスモータが使用される。
【0020】
本実施形態のハウジング5は、三分割された第1収容部5a、第2収容部5b及び第3収容部5cを軸方向に結合したものである。詳細には、電動モータ2のモータ本体を保持した第1収容部5aの軸方向一方側及び軸方向他方側に、第2収容部5b及び第3収容部5cをボルト等の締結部材(図示省略)を用いてそれぞれ取り付けることによってハウジング5が形成されている。
【0021】
本実施形態のねじ機構3は、内周面に螺旋状の雌ねじ溝31aが形成されたナット31と、電動モータ2の出力軸2aと平行に配置され、外周面に雄ねじ溝32aが形成されたねじ軸部32bを有するねじ軸32と、互いに対向する雌ねじ溝31aと雄ねじ溝32aの間に画成されるボール通路に介在する多数のボール33とを備えた、いわゆるボールねじ機構である。図示は省略しているが、ねじ機構3には、ボール通路内でボール33を循環させるための循環部材が設けられる。
【0022】
ねじ軸32は、上記のねじ軸部32bと、ねじ軸部32bの軸方向一方側に隣接して設けられた第1取付部32cと、第1取付部32cの軸方向一方側に隣接して設けられた(ねじ軸32の軸方向一方側の端部に設けられた)第2取付部32dとを一体に有し、図示例における第1取付部32cの外周面は円筒面に形成されている。本実施形態のねじ機構3は、ねじ軸32と同軸に配置された連結軸36を備え、この連結軸36は、ねじ軸32と一体的に進退移動可能にねじ軸32の第2取付部32dに取り付け固定されている。連結軸36は、ねじ軸32と図示外の操作対象とを連結するための軸状部材であり、その軸方向一方側の端部に形成された孔部に操作対象が直接又は間接的に取り付けられる。従って、ねじ軸32及びその第2取付部32dに取り付け固定された連結軸36が、直動アクチュエータ1の出力軸を構成する。なお、連結軸36に相当する部分を一体的に備えたねじ軸32、つまり連結軸36が省略されたねじ軸32を採用しても良い。
【0023】
ナット31は、転がり軸受6によってハウジング5(の第1収容部5a)に対して回転自在に支持されている。図示例の転がり軸受6は、ナット31の外周面に装着された内輪6aと、第1収容部5aの内周面に装着された外輪6bと、内輪6aと外輪6bの間に転動自在に配された複数のボール6cと、複数のボール6cを周方向に間隔を空けて保持した図示外の保持器とを備えた玉軸受である。図示例の転がり軸受6の内輪6aは、ナット31とは別部材であるが、内輪6aはナット31に一体的に設けることもできる。
【0024】
動力伝達機構4は、電動モータ2から出力される回転運動(回転駆動力)をねじ機構3の回転部材であるナット31に伝達するためのものであり、電動モータ2の出力軸2aと一体回転可能に設けられた駆動ギヤ41と、ナット31と一体回転可能に設けられ、駆動ギヤ41と噛み合った従動ギヤ42とを備える。本実施形態では、従動ギヤ42に、駆動ギヤ41よりも大径でかつ歯数の多いものを採用している。そのため、動力伝達機構4に入力された電動モータ2の回転運動は、減速されると共にトルクが増加された上でナット31に伝達される。これにより、電動モータ2を小型化することができる。
【0025】
直動アクチュエータ1は、ねじ軸32がその中心軸回りに回転するのを規制するための回転規制手段と、ねじ軸32が所定の後退限を超えて後退移動するのを規制するためのストローク規制手段とを有する。
【0026】
まず、回転規制手段は、
図1及び
図2に示すように、ナット31よりも軸方向一方側でねじ軸32の第1固定部32cに取り付け固定された回り止め部材34と、ハウジング5(第2ハウジング5b)の内周面に設けられて軸方向に延び、回り止め部材34の径方向外側の端部が嵌め込まれた案内溝5eとを備える。
【0027】
回り止め部材34は、
図2~
図5に示すように、ねじ軸32の第1固定部32cに固定される環状部34aと、環状部34aから径方向外側に延びた径方向部34bとを一体に有し、径方向部34b及びその外径端部が嵌め込まれた案内溝5eは、周方向等間隔で複数(ここでは2つ)設けられる。
図2に示すように、本実施形態では、ハウジング5(を構成する第2収容部5b)の内周に固定した案内部材5dに設けられた軸方向溝によって案内溝5eが構成される。なお、案内部材5dを省略し、第2収容部5bの内周面に案内溝5eを直接形成しても良い。
【0028】
回り止め部材34は、ねじ軸32に対する軸方向の相対位置を調整した上でねじ軸32の第1固定部32cに取り付け固定されている。そのため、回り止め部材34(の環状部34a)が取り付け固定されるねじ軸32の第1固定部32cの軸方向寸法は、環状部34aの軸方向幅よりも大きくなっている。ねじ軸32に対する回り止め部材34の固定方法としては、両者が軸方向及び周方向に相対移動するのを防止することができるのであれば特に制約はなく、例えば圧入、溶接などの一般的な方法を選択することができる。なお、ここで言う圧入には、例えば、回り止め部材34の環状部34aの内周面及びねじ軸32の第1固定部32cの外周面の双方を円筒面に形成し、これら円筒面同士を圧入する方法の他、環状部34aの内周面又は第1固定部32cの外周面の何れか一方に設けた軸方向に延びる凸状を円筒面に形成された他方に圧入する方法も含む概念である。
【0029】
ストローク規制手段は、
図2~
図4に示すように、回り止め部材34に取り付け固定されたストッパ35と、ナット31の一端面から軸方向外側(軸方向一方側)に突出し、正面視で円弧状の形態をなした突起状の係合部31bとを備える。
【0030】
ストッパ35は、ステンレス鋼等の金属材料からなる板材にプレス加工(打ち抜き加工及び曲げ加工)を施すことによって作製されたプレス成形品とされ、回り止め部材34の環状部34aを軸方向に挟持するようにして回り止め部材34に取り付け固定された取付部35aと、径方向(回り止め部材34の径方向部34b)に対して角度をなし、回り止め部材34の軸方向幅の範囲内に配置された傾斜板部35bとを一体に有する。後述するように、傾斜板部35bは、ナット31に設けた係合部31bとナット31の回転方向で係合可能な「被係合部(E)」として機能するものであり、周方向に間隔を空けて複数(ここでは4つ)設けられている。各傾斜板部35bは、その付け根側が湾曲部を介して取付部35aに接続されることにより、周方向一方側及び他方側、つまりナット31の回転方向に弾性変形可能となっている。従って、ストッパ35は、特許請求の範囲に規定の「弾性部」を有しており、ここでは、被係合部Eとして機能する傾斜板部35b及びその付け根側を取付部35aに接続する湾曲部により「弾性部」が構成される。
【0031】
以上のような動力伝達機構4及び回転規制手段が設けられていることにより、電動モータ2に通電されてその出力軸2aが回転すると、駆動ギヤ41、駆動ギヤ41と噛み合った従動ギヤ42、さらにはねじ機構3のナット31が一体的に回転し、ナット31の回転方向に応じて、ねじ軸32は、その中心軸回りの回転を規制された状態で軸方向一方側に前進又は軸方向他方側に後退移動する。
【0032】
ねじ軸32の後退移動時には、ねじ軸32に固定された回り止め部材34がナット31に対して接近移動する。回り止め部材34がナット31に近接する位置までねじ軸32が後退移動すると、
図6(a)に示すように、ナット31の係合部31bが、回り止め部材34に取り付け固定されたストッパ35に設けられた複数の傾斜板部35bのうち、周方向で隣り合う2つの傾斜板部35b(図示例では、ねじ軸32の中心軸を通る垂直面よりも右側に配置された2つの傾斜板部35b)の間に入り込む。そして、ねじ軸32がさらに後退移動して後退限(ストロークエンド)に到達すると、
図6(b)に示すように、ナット31の係合部31bがストッパ35の傾斜板部35b(図示例では、紙面右上の傾斜板部35b)の周端面に衝突し、被係合部Eとしての傾斜板部35bとナット31の係合部31bとがナット31の回転方向で係合する。これにより、ねじ軸32のさらなる後退移動が規制される。
【0033】
ストッパ35の傾斜板部35bは、前述したように、ナット31の回転方向(周方向)に弾性変形可能であり、本発明の「弾性部」としても機能することから、傾斜板部35bにナット31の係合部31bが衝突することに伴って生じる衝撃荷重(振動)や衝突音(異音)は、
図6(c)に示すように、傾斜板部35bがナット31の回転方向に(僅かに)弾性変形することによって吸収・緩和することができる。これにより、振動や異音の発生が抑えられた静粛なねじ機構3、ひいては直動アクチュエータ1を実現することができる。
【0034】
また、以上で説明した本実施形態のねじ機構3では、ねじ軸32が後退限に到達したとき、ナット31の係合部31bは被係合部Eとしてのストッパ35の傾斜板部35bに衝突することから、ストッパ35が取り付け固定された回り止め部材34に対してナット31の係合部31bが直接的に接触することはない。回り止め部材34は、その径方向部34b(の外径端部)がハウジング5の案内溝5eに嵌合された状態でねじ軸32と共に軸方向に進退移動することから、高い摺動性を具備していることが好ましいものの、ナット31の係合部31bが直接的に接触(衝突)することがないために、従来の回り止め部材に必要とされていたほどの強度・硬度を具備している必要はない。そのため、回り止め部材34は、従来よりも低強度・低硬度の材料で作製することができ、その製造コストを低減することができる。
【0035】
具体例を挙げると、まわり止め部材34としては、
・焼結金属で作製され、少なくとも案内溝5eとの摺動部に浸炭処理、浸炭窒化処理、又は表面仕上げが施されたもの、
・焼入れ等の高強度・高硬度化処理が施されていない未熱処理の鋼材(例えば、炭素鋼)で作製され、案内溝5eとの摺動部に表面仕上げが施されたもの、あるいは、
・樹脂材料、特にポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のスーパーエンジニアリングプラスチックをベースとする樹脂材料、で作製されたもの、
などを使用することができる。
【0036】
本実施形態のねじ機構3では、従来のねじ機構に設けられていた回り止め部材が、互いに独立した二部材(回り止め部材34及びストッパ35)に分割されて部品点数が増加する分、部品の管理等に要するコスト面では従来のねじ機構よりも不利になるが、上記二部材のそれぞれを要求特性に応じた最適材料で形成できることにより享受されるコスト低減効果が、部品点数増加に基づくコスト増加分を上回る。
【0037】
以上で説明したような作用効果が相俟って、本発明によれば、ねじ軸32が後退限に到達した際の振動や異音の発生を防止することができる静粛なねじ機構3、さらには直動アクチュエータ1を低コストに提供することができる。
【0038】
以上、本発明の一実施形態に係るねじ機構3及びこれを備えた直動アクチュエータ1について説明したが、ねじ機構3には、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜の変更を施すことができる。
【0039】
例えば、以上で説明したねじ機構3は、いわゆるボールねじ機構であるが、本発明は、径方向で対向する雌ねじ溝31aと雄ねじ溝32aの間に介在する多数のボール33が省略され、雌ねじ溝31aと雄ねじ溝32aが直接螺合した、いわゆるすべりねじ機構に適用することもできる。
【0040】
また、以上で説明したねじ機構3においては、回り止め部材34の径方向部34bを周方向等間隔で二つ設けていたが、径方向部34bは周方向等間隔で三つ以上設けても構わない。また、以上で説明したねじ機構3においては、「弾性部」及び被係合部Eとして機能する傾斜板部35bが、周方向に間隔を空けて四つ設けられたストッパ35を用いていたが、傾斜板部35bが一つ、あるいは周方向に間隔を空けて二つ設けられたストッパ35を用いても構わない。但し、傾斜板部35bを周方向に間隔を空けて二つ(特に、周方向の位相を180°異ならせた二箇所)に設けておけば、傾斜板部35bを一つのみ設ける場合に比べ、ストッパ35が取り付け固定される回り止め部材34をねじ軸32に取り付け固定する際に必要となる、軸方向における両者32,34の相対的な位置合わせ作業を容易化することができる。
【0041】
また、以上で説明したねじ機構3は、金属板のプレス成形品からなるストッパ35に設けた傾斜板部35bが、ナット31の係合部31bとナット31の回転方向で係合する「被係合部」、さらにはナット31の回転方向に弾性変形可能な「弾性部」を構成するものであるが、「係合部」及び「弾性部」を構成する部分は、例えば、ゴムや熱可塑性エラストマー等の弾性材料で形成された部材、あるいはコイルばね等のその他のばね部材を回り止め部材34に適宜の手段で固定することによって設けることもできる。
【0042】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0043】
1 直動アクチュエータ
2 電動モータ
3 ねじ機構
4 動力伝達機構
5 ハウジング
5e 案内溝
31 ナット
31a 雌ねじ溝
31b 係合部
32 ねじ軸
32a 雄ねじ溝
34 回り止め部材
34b 径方向部
35 ストッパ
35a 取付部
35b 傾斜板部(弾性部、被係合部) 被係合部