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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034093
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ゴム発泡体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/06 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
C08J9/06 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138106
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 誓哉
(72)【発明者】
【氏名】辻 陽介
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA20
4F074AA25
4F074AA98
4F074AC02
4F074AC04
4F074AC15
4F074AC21
4F074AD01
4F074AD09
4F074AD13
4F074AD19
4F074AG01
4F074AG02
4F074AG10
4F074BA13
4F074BA28
4F074BB05
4F074BB06
4F074BB12
4F074CA24
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA18
(57)【要約】
【課題】本開示のゴム発泡体は、十分な難燃性と、適度な見かけ密度と、圧縮永久歪の低いゴム発泡体の組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】EPDMと、ポリエチレンと、硫黄架橋剤と、発泡剤と、窒素系難燃剤と、を含有する組成物の発泡体であるゴム発泡体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EPDMと、ポリエチレンと、硫黄架橋剤と、発泡剤と、窒素系難燃剤と、を含有する組成物の発泡体であるゴム発泡体。
【請求項2】
金属水酸化物を含む、請求項1に記載のゴム発泡体。
【請求項3】
リン系難燃剤を含む、請求項2に記載のゴム発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴム発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、難燃性のゴム発泡体として、例えば特許文献1のゴム発泡体の組成物が開示されている。ゴム発泡体は、燃焼による災害防止の観点から難燃性が求められる。また、ゴム発泡体は、圧縮状態での使用に耐えられるよう低い圧縮永久歪を求められる。さらに、ゴム発泡体は、優れた柔軟性確保や軽量化の観点から、見かけ密度が低いことを求められる。このように、難燃性のゴム発泡体は、十分な難燃性と、適度な見かけ密度と、低い圧縮永久歪という互いに相反する性能を同時に満たすゴム発泡体組成物であることを求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-211119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、十分な難燃性と、適度な見かけ密度と、圧縮永久歪の低いゴム発泡体の組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕EPDMと、ポリエチレンと、硫黄架橋剤と、発泡剤と、窒素系難燃剤と、を含有する組成物の発泡体であるゴム発泡体。
【発明の効果】
【0006】
本開示のゴム発泡体は、上記実情に鑑みてなされたものであり、十分な難燃性と、適度な見かけ密度と、低い圧縮永久歪を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
〔2〕金属水酸化物を含む、[1]に記載のゴム発泡体。
【0008】
〔3〕リン系難燃剤を含む、[2]に記載のゴム発泡体。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0010】
1.ゴム発泡体
本開示のゴム発泡体は、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)と、ポリエチレンと、硫黄架橋剤と、発泡剤と、窒素系難燃剤と、を含有する組成物の発泡体である、ゴム発泡体である。
なお、ゴム発泡体の見かけ密度は、JIS K 6767に準じた測定方法で測定される。
【0011】
2.EPDM
EPDMは、エチレン、プロピレン及びジエン類の共重合によって得られるゴムである。EPDMは、他のポリマーと比べ、高充填性に優れ、難燃剤を高充填するのに適している。EPDMは、エチレン-プロピレン共重合体に、更にジエン類を共重合させて不飽和結合を導入することにより、架橋剤による加硫を可能としている。ジエン類は、特に限定されないが、非共役ジエンが好ましく、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等が用いられる。本開示の特性を得る観点から、ジエン類として5-エチリデン-2-ノルボルネンが好ましい。
EPDMにおけるジエン類の含有量(ジエン含有量)は、特に限定されない。ジエン類の含有量は、低い圧縮永久歪を確保するため、4質量%以上が好ましく、6質量%以上がより好ましい。他方で、耐熱性、耐候性を確保するため、17質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。これらの観点から、ジエン類の含有量は4質量%以上17質量%以下が好ましく、6質量%以上15質量%以下がより好ましい。
EPDMにおけるエチレン含有量は、特に限定されない。エチレン含有量は、耐熱性を確保するため、40質量%以上80質量%以下が好ましく、45質量%以上60質量%以下がより好ましい。
EPDMは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
3.硫黄架橋剤
硫黄架橋剤は、例えば、硫黄、硫黄化合物などを用いる。
硫黄架橋剤の量は、特に限定されない。EPDMを100質量部とした場合に、硫黄架橋剤は、硫黄架橋後の物性確保、及び発泡成形性(発泡と架橋のタイミング制御)の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上が更に好ましい。他方、硫黄架橋剤は、耐ブルーム性の観点から、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、硫黄架橋剤の量は、0.5質量部以上5.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以上4.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以上3.0質量部以下が更に好ましい。
【0013】
4.加硫助剤(任意成分)
本開示のゴム発泡体は、組成物中に加硫助剤を配合してもよい。加硫助剤は、加硫剤の働きを促進させるものである。加硫助剤は、特に限定されない。加硫助剤は、例えば、酸化亜鉛(滑性亜鉛華)や、酸化マグネシウム等の無機化合物や、ステアリン酸やアミン類等の有機物等を使用することができる。加硫助剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
加硫助剤の配合量は、特に限定されない。EPDMを100質量部とした場合に、加硫助剤は、硫黄架橋後の物性確保、及び発泡成形性(発泡と架橋のタイミング制御)の観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上が更に好ましい。他方、加硫助剤は、耐ブルーム性の観点から、12.0質量部以下が好ましく、10.0質量部以下がより好ましく、8.0質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、加硫助剤の量は、1.0質量部以上12.0質量部以下が好ましく、3.0質量部以上10.0質量部以下がより好ましく、5.0質量部以上8.0質量部以下が更に好ましい。
【0014】
5.加硫促進剤(任意成分)
加硫促進剤としては、例えば、チアゾール類(例えば、2―メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等)、ジチオカルバミン酸類(例えば、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛等)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジン等)、スルフェンアミド類(例えば、ベンゾチアジル-2-ジエチルスルフェンアミド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等)、チウラム類(例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド等)、キサントゲン酸類(例えば、イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛等)、アルデヒドアンモニア類(例えば、アセトアルデヒドアンモニア、ヘキサメンチレンテトラミン等)、アルデヒドアミン類(例えば、n-ブチルアルデヒドアニリン、ブチルアルデヒドモノブチルアミン等)、チオウレア類(例えば、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレアなど)、ジチオフォスファイド系架橋促進剤等が用いられる。このような架橋促進剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。好ましくは、ジチオカルバミン酸類、チウラム類を含むことが望ましい。チウラム類、ジチオカルバミン酸類は、加硫が速く、加硫度も高い為、加硫不足が起こりにくくなる。特に、一般に、加硫が遅いとされるEPDMを用いたゴム発泡体に対して効果的であり、結果として、圧縮永久歪の低いゴム発泡体を確保することが出来る。
また、加硫促進剤の配合割合は、耐ブルーム性、耐久性、発泡成形性、架橋速度調整、などの観点から、例えば、EPDMを100質量部とした場合に、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上が更に好ましい。他方、架橋助剤は、耐ブルーム性の観点から、10.0質量部以下が好ましく、8.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、加硫促進時剤の量は、0.5質量部以上10.0質量部以下が好ましく、1.0質量部以上8.0質量部以下がより好ましく、1.5質量部以上6.0質量部以下が更に好ましい。
【0015】
6.発泡剤
発泡剤は、特に限定されない。発泡剤は、有機系発泡剤、無機系発泡剤等の公知の発泡剤を使用できる。発泡剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
発泡剤として、例えば、ジニトロペンタジエンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、4,4’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、及び炭酸水素ナトリウムのうち少なくとも一種を用いることができる。
発泡剤の量は、特に限定されない。EPDMを100質量部とした場合に、発泡剤は、見かけ密度性に影響が大きく、ゴム発泡体とする発泡ガス量の調整の観点から、10質量部以上が好ましく、13質量部以上がより好ましく、15質量部以上が更に好ましい。他方、発泡剤は、見栄え確保(ワレ、ピンホール等の欠陥)の観点から、35質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、25質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、発泡剤の量は、10質量部以上35質量部以下が好ましく、13質量部以上30質量部以下がより好ましく、15質量部以上25質量部以下が更に好ましい。
【0016】
7.窒素系難燃剤
窒素系難燃剤は、特に限定されない。窒素系難燃剤は、生成するアンモニアや窒素による希釈効果と空気遮断効果によって難燃性が発生し、例えば、メラミン系難燃剤、トリアジン化合物、グアニジン化合物等が挙げられる。メラミン系難燃剤としては、例えば、メラミン、メラミンシアヌレート等が挙げられる。窒素系難燃剤としては、メラミンシアヌレートが好ましい。メラミンシアヌレートは、高充填してもゴムコンパウンドの加工性を損ないにくい特性がある。窒素系難燃剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
窒素系難燃剤の量は、特に限定されない。EPDMを100質量部とした場合に、窒素系難燃剤は、高い難燃性を発現させるため、10質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、100質量部以上が更に好ましく、120質量部以上が特に好ましい。詳しくは、ゴム発泡体は、多くの気孔を有している。窒素系難燃剤は、発泡体と接触する空気を希釈、遮断することで難燃性をもたらすため、ゴム発泡体に対して効果的である。他方、窒素系難燃剤は、練加工性、成形加工性確保のため、300質量部以下が好ましく、250質量部以下がより好ましく、200質量部以下が更に好ましい。詳細には、窒素系難燃剤は、ゴムへの補強性がなく、多量添加により、物性の低下になる。また、窒素系難燃剤の多量添加は、組成物の粘度が上がると発泡性が制御され適度な見かけ密度を確保できないため、200質量部以下が好ましい。これらの観点から、窒素系難燃剤の量は、10質量部以上300質量部以下が好ましく、60質量部以上250質量部以下がより好ましく、100質量部以上200質量部以下が更に好ましく、120質量部以上200質量部以下が特に好ましい。
【0017】
8.金属水酸化物
組成物は、難燃剤として、金属水酸化物を含有してもよい。金属水酸化物は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
金属水酸化物は、吸熱反応による難燃効果を有する難燃剤であり、比較的低コストである。また、EPDMなどのポリマーに対して高充填が可能である。金属水酸化物の量は、特に限定されない。高い難燃性を発現させるため、EPDMを100質量部とした場合に、金属水酸化物の量は、50質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましく、100質量部以上が更に好ましい。他方、金属水酸化物は、練加工性、成形加工性の確保のため、300質量部以下が好ましく、250質量部以下がより好ましく、200質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、金属水酸化物の量は、50質量部以上300質量部以下が好ましく、70質量部以上250質量部以下がより好ましく、100質量部以上200質量部以下が更に好ましい。
【0018】
9.リン系難燃剤
組成物は、リン系難燃剤を含有してもよい。リン系難燃剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
リン系難燃剤は、分子中にリン原子を含むものであれば特に限定されない。リン系難燃剤として、例えば、赤燐系難燃剤(赤燐を含む難燃剤)、有機リン化合物が挙げられる。赤燐系難燃剤は、公知のものが使用できる。赤燐の難燃効果は、炭化促進と被膜効果の併用で発現するものと考えられている。赤燐には、例えば、水酸化アルミニウム等を表面処理し平均粒径15μm程にしたタイプのものや、ゴムへの分散性を考慮し、赤燐として、マスターバッチタイプ(ポリエチレン樹脂等)も好適に使用できる。
有機リン化合物としては、例えば、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、ホスファゼン化合物、ピロリン酸メラミン、リン酸、オルトリン酸メラミン、リン酸メラミン、オルトリン酸ピペラジン、ピロリン酸ピペラジン、ポリリン酸ピペラジンが挙げられる。
【0019】
リン系難燃剤の量は、特に限定されない。EPDMを100質量部とした場合に、リン系難燃剤は、垂直燃焼試験においてより高い難燃性を確保する観点から、0質量部よりも多いことが好ましく、2質量部以上がより好ましく、4質量部以上が更に好ましく、8質量部以上が特に好ましい。他方、リン系難燃剤は、コンパウンド(混練物)の粘度上昇を抑制し、発泡性を制御して適度な見かけ密度のゴム発泡体とする観点から、20質量部以下が好ましく、18質量部以下がより好ましく、17質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、リン系難燃剤の量は、0質量部よりも多く20質量部以下が好ましく、2質量部以上18質量部以下がより好ましく、4質量部以上17質量部以下が更に好ましく、8質量部以上17質量部以下が特に好ましい。
【0020】
10.金属水酸化物と窒素系難燃剤との併用
本開示のゴム発泡体は、金属水酸化物と、窒素系難燃剤を併用することが好ましい。理由は、以下であると考えられる。
各種難燃剤は、難燃性の発生メカニズムが異なる。金属水酸化物は、水和金属が燃焼時に、脱水する吸熱反応による冷却効果が発生する。また、EPDMなどのポリマーに対して高充填しても物性が損なわれにくい。
一方、窒素系難燃剤は、生成するアンモニアや窒素による希釈効果と空気遮断効果によって難燃性が発生する。
気泡を有するゴム発泡体は、酸素を遮断することで、難燃性をもたらす窒素系難燃剤と、高充填による物性低下の起こりにくい金属水酸化物を併用することで、低い圧縮永久歪を確保しつつ、難燃性を高めることができる。
【0021】
11.金属水酸化物及び窒素系難燃剤と、リン系難燃剤との併用
本開示のゴム発泡体は、リン酸系難燃剤を併用することが好ましい。理由は、以下であると考えられる。
リン酸系難燃剤は、ポリマー燃焼時に発生する炭と混ざると、ポリマー表面に薄い膜(チャー)を形成する。薄い膜(チャー)が酸素を遮断し、難燃性をもたらすと考えられている。一般的に、炭は、燃焼時、酸素が少ない場合に発生しやすい。本開示のゴム発泡体は、窒素系難燃剤により、含まれる酸素が希釈され、炭が発生しやすい状態となっていると考えられる。そこに、リン系難燃剤が作用することで、通常よりもポリマー表面に薄い膜(チャー)が形成されやすいと考えられる。
【0022】
12.ポリエチレン
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)が挙げられる。本開示では、EPDMとポリエチレンのブレンドポリマーや、EPDMとポリエチレンのポリマーアロイを用いても良い。
これらの中でも、練り中のコンパウンドの分散性の観点から、低融点で、しかも、発泡体の低い圧縮永久歪の確保の観点から、低密度ポリエチレン(LDPE)であることが好ましい。非発泡における低密度ポリエチレンの密度は、好ましくは0.910g/cm以上、0.940g/cm以下であり、より好ましくは、0.915g/cm以上、0.935g/cm以下であり、更に好ましくは0.920g/cm以上0.930g/cm以下である。低密度ポリエチレン(LDPE)は、繰り返し単位のエチレンがランダムに分岐を持って結合している構造を有しているため、ゴムへの分散性が良好で、他薬品の分散を阻害しにくい。したがって、低密度ポリエチレン(LDPE)が含まれたコンパウンドは、発泡と加硫が適正に行われる。このことから、低密度ポリエチレン(LDPE)を含んだゴム発泡体は、より適度な見かけ密度で柔軟性と、低い圧縮永久歪を有するものと考えられる。
ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、特に限定されない。ポリエチレンのMFRは、成形性の観点から、ASTM D 1238に準じて、190℃・2.16kg荷重で測定した値として、0.5g/10分-30g/10分であることが好ましい。
【0023】
ポリエチレンの添加量は、発泡体の適度な見かけ密度を確保する観点から、EPDMを100質量部とした場合に、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましい。一方で、低圧縮永久歪性を確保する観点から、EPDMを100質量部とした場合に、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下が更に好ましい。以上の観点から、1質量部以上50質量部以下が好ましく、5質量部以上40質量部以下がより好ましく、10質量部以上30質量部以下が更に好ましい。ブレンド比をこの範囲内とすると、適度な見かけ密度で柔軟性を有しつつ、低い圧縮永久歪を有するゴム発泡体が得られる。
【0024】
13.脂肪酸エステル(任意成分)
脂肪酸エステル(RCOOR’、RとR’は、同一であっても異なっていてもよい)は、親水性、疎水性併せ持つ。脂肪酸エステルは、その界面活性剤的な作用として、金属水酸化物とポリエチレンの凝集を緩和し、ゴム中(ゴム発泡体中)の分散剤として作用すると推測される。
脂肪酸エステルとして、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、高級アルコール脂肪酸エステル、ソルビタン系脂肪酸エステル、プロピレン系脂肪酸エステル、n-ブチルステアレート等を挙げることができる。
脂肪酸エステルは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
脂肪酸エステルは、融点が50℃以上80℃以下であり、混練中に分散しやすいという観点から、グリセリン脂肪酸エステル、及び高級アルコール脂肪酸エステルからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベへネート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノラウレート、ステアリンジステアレート、グリセリンジベへネート、グリセリンジオレート等が挙げられる。
高級アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、ステアリルステアレート、ラウリルステアレート、ラウリルラウリレート、ステアリルベへネート等が挙げられる。
脂肪酸エステルの量は、特に限定されない。EPDMを100質量部とした場合に、脂肪酸エステルは、金属水酸化物とポリエチレンを凝集なく均一に分散させる観点から、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上が更に好ましい。他方、脂肪酸エステルは、オイルブリードによる粘着阻害を抑制する観点から、10.0質量部以下が好ましく、8.0質量部以下がより好ましく、7.0質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、脂肪酸エステルの量は、1.0質量部以上10.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以上8.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以上7.0質量部以下が更に好ましい。
【0025】
14.尿素系発泡助剤(任意成分)
尿素系発泡助剤は、尿素を主成分とするものであり、例えば、永和化成工業社製のセルペーストK-5、セルペースト101等が例示される。なお、主成分とは、含有率(質量%)が90質量%以上(100質量%以下)の物質をいう。
尿素系発泡助剤の配合割合は、発泡成形時の発泡剤の分解開始温度を調整する観点から、EPDMを100質量部とした場合に、0.5質量部以上8.0質量部以下が好ましく、0.7質量部以上以5.0質量部以下が好ましい。
【0026】
15.充填剤(任意成分)
充填剤は、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウムなど)、炭酸マグネシウム、ケイ酸、及びその塩類、クレー、タルク、雲母粉、ベントナイト、シリカ、アルミナ、アルミニウムシリケート、アセチレンブラック、ファーネスブラックチャンネルブラック、油煙ブラック(ランプブラック)、松煙ブラックなどの汎用カーボンブラック、アルミニウム粉等の無機系充填剤、例えば、コルクなどの有機系充填剤、その他公知の充填剤が用いられる。これら充填剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。好ましくは、アセチレンブラック、ファーネスブラックが用いられる。窒素系難燃剤、金属水酸化物、リン系難燃剤など、常温で個体の難燃剤は、本開示の充填剤に含まれない。
充填剤の配合割合は、特に限定されないが、低い圧縮永久歪を確保する為、EPDMを100質量部とした場合に、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上が更に好ましい他方、練加工性の確保、低見かけ比重を確保する為、充填剤の添加量は、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がより好ましい。これらの観点から、充填剤の量は、10質量部以上200質量部以下が好ましく、20質量部以上150質量部以下がより好ましく、30質量部以上100質量部以下が更に好ましい。
【0027】
16.軟化剤(任意成分)
軟化剤は、特に限定されない。本開示では、例えば、可塑剤、流動パラフィン、ロジン、クロマン樹脂、ポリブテン、アスファルト等、公知のものを使用することができる。これら軟化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。好ましくは、石油系オイル類やアスファルト類が用いられる。
軟化剤の配合割合は、柔軟性確保、練加工性の確保の観点から、例えば、EPDMを100質量部とした場合に、0質量部以上100質量部以下が好ましく、5質量部以上30質量部以下がより好ましい。
【実施例0028】
1.ゴム発泡体の作製(実施例1-5、及び比較例1-3)
表1に示す配合割合で、各種ゴム発泡体を作製した。表1において、主要な原料の詳細を以下に示す。
・EPDM:三井化学(株)製 三井EPT4021(ジエン含量8.1%)を用いた。
・低密度ポリエチレン:株式会社ENEOS社製 NUC DND2450(MFR1.3g/10min、密度0.92)を用いた。
・カーボンブラック:旭カーボン株式会社製 旭#50G(ファーネスブラック・SRF)(ヨウ素吸着量IA 27mg/g)を用いた。
・パラフィン系プロセスオイル(表中では、「パラフィン系オイル」と略して記載):出光興産(株)製 ダイアナプロセスPS-430を用いた。
・酸化亜鉛(加硫助剤):ハクスイテック社製 酸化亜鉛2種(酸化亜鉛の含有率 99質量%、比表面積 3.5m/g)を用いた。
・ステアリン酸(加硫助剤):日油(株)製 ステアリン酸つばきを用いた。
・パラフィンワックス:ラインケミー社製 アフラックス12NSを用いた。
・ジチオカルバミン酸系加硫促進剤:大内新興化学(株)製ノクセラーEZ-80を用いた。
・チウラム系加硫促進剤:大内新興化学(株)製 ノクセラーTTを用いた。
・硫黄架橋剤:硫黄(ランクセス(株)製 レノグランS-80 E)を用いた。
・過酸化物架橋剤1:日油(株)製 パーヘキサ25B-40を用いた。
・過酸化物架橋剤2:日油(株)製 パーヘキサC-40MBを用いた。
・過酸化物架橋助剤:三菱ケミカル(株)製 タイク(トリアリルイソシアヌレート)
・発泡助剤:尿素系発泡助剤 永和化成工業(株)製 セルペーストK-4を用いた。
・発泡剤:アゾジカルボンアミド 永和化成工業(株)製 ネオスレンEM804Aを用いた。
・水酸化アルミニウム: 住化アルケム(株)製 C-301Nを用いた。
・窒素系難燃剤:メラミンシアヌレート 日産化学(株)製 MC-4500を用いた。
・リン系難燃剤:赤燐 燐化学工業(株)製 特殊表面処理コート赤燐 1140Tを用いた。なお、表1に記載されたリン系難燃剤の添加量は、特殊表面処理コート剤を除いた赤燐の実質添加量である。
【表1】
【0029】
各ゴム発泡体は、具体的には以下のように作製した。
<実施例1-3>
EPDM、ポリエチレン、カーボンブラック、パラフィン系プロセスオイル、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、窒素系難燃剤、ステアリン酸(加硫助剤)、パラフィンワックスをバンバリーミキサーに一括投入し、130℃に達した時点で、コンパウンドを排出した。
次に、そのコンパウンドに、硫黄架橋剤、アゾジカルボンアミド、尿素系発泡助剤、ジチオカルバミン酸系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤を加え、ミキシングロールで混練りして、シート状に分出しをおこなった。
シートを130℃の金型にセットし、一次プレス成形を15分行い、その後、二次プレス成形を160℃、15分で行い、架橋発泡させることにより、ゴム発泡体を得た。
<実施例4、5>
リン酸系難燃剤を用いたこと以外は、実施例1-3と同様にしてゴム発泡体を作製した。
【0030】
<比較例1、2>
硫黄架橋剤及び、ジチオカルバミン酸系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤の替わりに、過酸化物架橋剤、過酸化物架橋助剤を用いたこと以外は実施例1-3と同様にしてゴム発泡体を作製した。
<比較例3>
ポリエチレンを用いていないこと以外は、実施例1-3と同様にしてゴム発泡体を作製した。

2.評価方法
(1)見かけ密度
見かけ密度は、JIS-K 6767に準じて測定した。
(2)ゴム発泡体の圧縮永久歪
ゴム発泡体の圧縮永久歪は、ASTM D 1056準じて以下の方法で測定した。
[測定方法]
厚さ12.5mm、直径35.7mmの円柱状の試験片を3個採取した。試験片の初期厚さを測定し、圧縮率が初期厚さの50%になるようなスペーサーを選択し、圧縮装置とともに、あらかじめ試験室内に放置し試験温度にした。スペーサー、圧縮装置がほぼ試験温度に達した後に、試験片を取り付けた。試験片が取り付けられた圧縮装置を、23±2℃で22時間放置した。22時間放置後、試験片を圧縮装置より取り外し、室温で24時間放置した。24時間放置後、試験片の厚さを測定して、次式1により圧縮永久歪を測定した。

【数1】

(3)UL94 垂直燃焼試験
各厚みのゴム発泡体について、UL94規格に基づく、垂直燃焼試験に順じて、試験を行った。燃焼時間は、燃焼時間50秒以下をV0規格に基づき、V0合格と評価した。また、燃焼時間250秒以下をV1規格に基づき、V1合格と評価した。
【0031】
3.結果
結果を表1に併記する。
【0032】
表1において、総合判定の欄のA,B,C,Dは以下のことを意味する。
A:ゴム発泡体は、圧縮永久歪が30%以下で、見かけ密度が0.25(g/cm3)以下で、UL94 垂直燃焼試験5mmでV0を達成している。
B:ゴム発泡体は、圧縮永久歪が30%以下で、見かけ密度が0.25(g/cm)以下で、UL94 垂直試験10mmでV0を達成している。
C:ゴム発泡体は、圧縮永久歪が30%以下で、UL94 垂直試験10mmでV0を達成している。
D:ゴム発泡体は、圧縮永久歪が30%以上である。
【0033】
(1)実施例1-5の各要件の充足状況
実施例1-3のゴム発泡体を構成する組成物は、下記要件(a)-(e)を全て満たしている。
・要件(a):EPDMを含む。
・要件(b):硫黄架橋剤を含む。
・要件(c):金属水酸化物を含む。
・要件(d):窒素系難燃剤を含む。
・要件(e):ポリエチレンを含む。
実施例4-5のゴム発泡体を構成する組成物は、上記(a)-(e)に加え、下記要件を満たしている。
・要件(f):リン酸系難燃剤
【0034】
(2)比較例1-2の各要件の充足状況
これに対して、比較例1-2のゴム発泡体は、上記(a)-(e)の要件の内、要件(b)を満たしていない。
【0035】
これに対して、比較例3のゴム発泡体は、上記(a)-(e)の要件の内、要件(e)を満たしていない。
【0036】
(3)結果及び考察
実施例1-5のゴム発泡体は、UL94規格に基づく垂直燃焼試験において燃焼時間が短く、高い難燃性を有していた。実施例1-3のゴム発泡体は、見かけ密度が、0.05g/cm-0.25g/cmで、柔軟性が良好であった。実施例1-3のゴム発泡体は、圧縮永久歪も30%以下であり、総合判定も良好であった。すなわち、実施例1-3のゴム発泡体は、成形性がよく、十分な難燃性と、低い圧縮永久歪と、適度な見掛け密度を有していた。
これに対して、硫黄架橋剤を含まない比較例1、2は、圧縮永久歪が実施例よりも高く、総合判定も実施例よりも劣っていた。
次にポリエチレンを用いていない比較例3と、ポリエチレンを用いた実施例1-5とを比較検討する。比較例1は、見かけ密度試験において0.28(g/cm3)であったが、実施例1-5は、0.25(g/cm3)以下であった。実施例1-5のゴム発泡体は、見かけ密度が、0.05g/cm-0.25g/cmで、適度な柔軟性を有していた。実施例1-5のゴム発泡体は、成形性がよく、適度な見かけ密度と、十分な難燃性と、低い圧縮永久歪を有していた。この結果から、低密度ポリエチレンを用いることにより、適度な見かけ密度を有し、柔軟で、軽量なゴム発泡体が得られることが確認された。
次に、リン酸系難燃剤を用いていない実施例3と、リン酸系難燃剤を用いている実施例4、5とを比較検討する。実施例4、5は、UL94 垂直燃焼試験5mmでV0を達成した。実施例4、5のゴム発泡体は、適度な見かけ密度と、より十分な難燃性と、低い圧縮永久歪を有した。この結果から、リン酸系難燃剤を用いることにより、より十分な難燃性を有するゴム発泡体が得られることが確認された。
【0037】
4.実施例の効果
以上の実施例によれば、本開示のゴム発泡体は、十分な難燃性と、適度な見かけ密度と、圧縮永久歪の低いゴム発泡体を提供できる。
【0038】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。