(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034120
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】編地の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/24 20060101AFI20240306BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20240306BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
D04B1/24 ZAB
D04B1/16
D04B1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138160
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】上道 和也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 多哉
(72)【発明者】
【氏名】波田埜 楓
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002AA06
4L002AB02
4L002AC05
4L002BA00
4L002BB02
4L002DA01
4L002EA00
4L002FA01
(57)【要約】
【課題】ボタンを備える編地を生産性良く製造することができる編地の製造方法を提供する。
【解決手段】ベース部を備える編地の製造方法であって、横編機を用いて前記ベース部を編成する途中に、無縫製で前記ベース部につながるボタンを編成すると共に、前記ボタンに硬化材を含ませる工程Aと、前記横編機による前記編地の編成後に、前記ボタンを硬化させる工程Bと、を備える。前記工程Aは、前記ベース部につながる分岐部を編成する工程A1と、前記分岐部のウエール方向に続く前記ボタンを編成する工程A2と、を備える。前記工程A2では、前記編地の表側に露出する表面部と、前記表面部の裏側に隠れる裏面部とを備える前記ボタンを編成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部を備える編地の製造方法において、
横編機を用いて前記ベース部を編成する途中に、無縫製で前記ベース部につながるボタンを編成すると共に、前記ボタンに硬化材を含ませる工程Aと、
前記横編機による前記編地の編成後に、前記ボタンを硬化させる工程Bと、を備え、
前記工程Aは、
前記ベース部につながる分岐部を編成する工程A1と、
前記分岐部のウエール方向に続く前記ボタンを編成する工程A2と、を備え、
前記工程A2では、前記編地の表側に露出する表面部と、前記表面部の裏側に隠れる裏面部とを備える前記ボタンを編成する、
編地の製造方法。
【請求項2】
前記工程A2では、熱融着糸を含む編糸を用いて、第一部分、第二部分、第三部分の順に編成し、
前記熱融着糸は前記硬化材であり、
前記第一部分は前記裏面部の一部であり、
前記第二部分は前記表面部であり、
前記第三部分は前記裏面部の残部であり、
更に、前記第三部分のウエール方向の終端部の一部の編目、または前記一部の編目のウエール方向に続く追加部を前記ベース部の編目に接合する工程A3を備える、請求項1に記載の編地の製造方法。
【請求項3】
前記第一部分のウエール方向の始端部は、前記分岐部よりも編幅方向に広く形成され、
前記終端部は、前記一部の編目を除いて伏目処理される、請求項2に記載の編地の製造方法。
【請求項4】
添糸として前記熱融着糸を用いたプレーティング編成によって前記ボタンを編成する、請求項2または請求項3に記載の編地の製造方法。
【請求項5】
前記熱融着糸は自然由来の素材によって構成されている、請求項2または請求項3に記載の編地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボタンが、ニットウェアなどの編地に取り付けられる場合がある。特許文献1は、くるみボタン(covered button)を開示する。くるみボタンは、コア材と、コア材の表面を覆うカバーシートとを備える。カバーシートは、布地でも良いし編地でも良い。
【0003】
編地からなるカバーシートを備えるくるみボタンは、ニットウェアにマッチする。特に、ニットウェアにおいてくるみボタンを目立たせたくない場合、カバーシートを構成する編糸と、ニットウェアを構成する編糸とを同一の素材とすると良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
くるみボタンを備える編地には、編地にくるみボタンを取り付ける手間がかかるという問題がある。また、編地のデザインを変更した場合、そのデザインに合ったくるみボタンを作り直さなければならないという問題がある。
【0006】
本発明の目的の一つは、ボタンを備える編地を生産性良く製造することができる編地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>本発明の編地の製造方法は、
ベース部を備える編地の製造方法であって、
横編機を用いて前記ベース部を編成する途中に、無縫製で前記ベース部につながるボタンを編成すると共に、前記ボタンに硬化材を含ませる工程Aと、
前記横編機による前記編地の編成後に、前記ボタンを硬化させる工程Bと、を備え、
前記工程Aは、
前記ベース部につながる分岐部を編成する工程A1と、
前記分岐部のウエール方向に続く前記ボタンを編成する工程A2と、を備え、
前記工程A2では、前記編地の表側に露出する表面部と、前記表面部の裏側に隠れる裏面部とを備える前記ボタンを編成する。
【0008】
<2>上記形態<1>の編地の製造方法において、
前記工程A2では、熱融着糸を含む編糸を用いて、第一部分、第二部分、第三部分の順に編成し、更に、前記第三部分のウエール方向の終端部の一部の編目、または前記一部の編目のウエール方向に続く追加部を前記ベース部の編目に接合する工程A3を備えていても良い。ここで、前記熱融着糸は前記硬化材であり、前記第一部分は前記裏面部の一部であり、前記第二部分は前記表面部であり、前記第三部分は前記裏面部の残部である。
【0009】
<3>上記形態<2>の編地の製造方法において、
前記第一部分のウエール方向の始端部は、前記分岐部よりも編幅方向に広く形成され、
前記終端部は、前記一部の編目を除いて伏目処理されても良い。
【0010】
<4>上記形態<1>から<3>のいずれかの編地の製造方法において、
添糸として前記熱融着糸を用いたプレーティング編成によって前記ボタンを編成しても良い。
【0011】
プレーティング編成は公知の編成方法である。具体的には、プレーティング編成では、給糸口Aから給糸される主糸と、給糸口Aに遅れて移動する給糸口Bから給糸される添糸とを用いて編地が編成される。給糸口Aおよび給糸口Bは、一つのフィーダーに設けられていても良いし、異なるフィーダーに設けられていても良い。このプレーティング編成によって編成されるプレーティング編地では、主糸がプレーティング編地の表側に配置され、添糸がプレーティング編地の裏側に配置される。
【0012】
<5>上記形態<1>から<4>のいずれかの編地の製造方法において、
前記熱融着糸は自然由来の素材によって構成されていても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の編地の製造方法では、編成によってベース部にボタンを一体に編成できる。従って、ボタンをベース部に取り付ける手間がなくなり、編地の生産性が向上する。また、本発明の編地の製造方法では、ボタンを含む編地の編成が終了した後に、ボタンを硬化させている。硬化させたボタンは、プラスチックなどでできた一般的なボタンと同様に使用できる。
【0014】
上記形態<2>の編地の製造方法では、表面部と裏面部とを備える二層構造のボタンを第一部分、第二部分、および第三部分に分けて、これらの部分を順次編成している。この場合、二層構造のボタンを片側の針床で編成することができる。ベース部が総針状態で編成されていても、ボタンを容易に編成できる。総針状態とは、隣接する編目の間に空針が無い状態である。
【0015】
また、上記形態<2>の編地の編成方法では、ボタンに熱融着糸が含まれている。従って、工程Cでは熱処理などで熱融着糸が融着することでボタンが硬化する。
【0016】
上記形態<3>の編地の製造方法によれば、ボタンの裏面部の形状と、ボタンの表面部の形状とを一致させ易い。工程Bにおいてボタンを硬化させた場合、裏面部と表面部とが密着し易い。その結果、しっかりしたボタンが形成される。
【0017】
上記形態<4>の編地の製造方法によれば、裏面部における熱融着糸と、表面部における熱融着糸とが互いに向き合う。従って、工程Bにおいて裏面部と表面部とが融着し易い。
【0018】
上記形態<5>の編地の製造方法によれば、例えば編地のリサイクル時に手間がかからない編地を製造できる。自然由来の素材によって構成されるボタンは、プラスチックなどの他の成分を含まないため、編地のリサイクル時にボタンを編地から取り外す必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態に係る編地であるボタン付きカーディガンの概略図である。
【
図3】
図3は、
図2に示されるボタンの編成イメージ図である。
【
図5】
図5は、
図3に示されるボタンの始端部の編成工程図である。
【
図6】
図6は、
図3に示されるボタンの終端部の編成工程図である。
【
図7】
図7は、ボタンを硬化させるために使用される治具の一例を示す概略図である。
【
図8】
図8は、実施形態2に係る編地のボタンの編成イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態に係る編地の製造方法を図面に基づいて説明する。実施形態では、横編機によってボタンを備える編地を編成し、次いで横編機による編地の編成後にボタンを硬化する。
【0021】
<実施形態1>
図1には、実施形態に係る編地1の一例であるカーディガンが示されている。編地1は、ベース部2と、ベース部2に一体に編成される複数のボタン3と、を備える。本例のベース部2は、カーディガンにおけるボタン3以外の部分である。つまり、ベース部2は、身頃と袖との一体物である。身頃には前立て(placket)が形成されている。本例では、右前立て2Rが左前立て2Lの裏側に重ねられている。本例における裏側とは、カーディガンの内側のことである。右前立て2Rにはボタン3が形成されている。左前立て2Lにはボタンホール23(
図2参照)が形成されている。本例とは異なり、ボタン3が留められる部分は、ひも状のボタンループであっても良い。
【0022】
本例の編地1の製造方法は、横編機を用いた編成工程と、横編機による編地1の編成後にボタン3を硬化させる工程(工程B)と、を含む。上記編成工程に用いられる横編機は、自動で編地を編成する装置である。編成工程は、ベース部2を編成する工程と、ベース部2を編成する途中に、無縫製でベース部2につながるボタン3を編成する工程(工程A)とを備える。ベース部2を編成する工程は特に限定されない。どのような編成手順によってベース部2が編成されても良い。本例におけるボタン3を編成する工程は、ボタン3に硬化材を含ませる工程を含む。ボタン3に硬化材を含ませる工程は、横編機に備わる構成によって実施される。工程Bは、編地1が横編機から外された後に実施される。
【0023】
図3は、工程Aにおけるボタン3の編成手順の一例を示す概略イメージ図である。紙面下側から上側に向かってボタン3が編成される。まず、ベース部2の一部の編目につながる分岐部30を編成する(工程A1)。分岐部30の詳しい編成例は、後述する
図4の編成工程図に示される。分岐部30は、ウエール方向に1段分の編目列によって構成されていても良いし、ウエール方向に連続する複数段の編目列によって構成されていても良い。
【0024】
次いで、分岐部30のウエール方向に続くボタン3を編成する(工程A2)。ボタン3は、編地1の表側に露出する表面部3Fと、表面部3Fの裏側に隠れる裏面部3Bとを備える二層構造を有する(
図2)。本例のボタン3の形状は、編地1を表側から見て円形である。ボタン3の形状は三角形でも良いし、矩形でも良い。
【0025】
本例のボタン3は、分岐部30と追加部35とを介してベース部2につながっている。分岐部30は、ボタン3のウエール方向におけるボタン3の始端部3Sにつながる。追加部35は、ボタン3のウエール方向におけるボタン3の終端部3Eにつながる。編地1において分岐部30および追加部35はボタンホール23に通される(
図2)。本例では、分岐部30と追加部35とがそれぞれ、ウエール方向に並ぶ複数の編目列によって構成されている。この場合、ボタン3とベース部2との距離が確保されるので、ボタン3を留めやすい。本例とは異なり、追加部35は無くても良い。その場合、終端部3Eが直接ベース部2につながる。その他、後述する実施形態2に記載されるように、ボタン3は分岐部30のみでベース部2につながっていても良い。
【0026】
本例では、ボタン3を第一部分31、第二部分32、および第三部分33に分けて、これらの部分31,32,33を順次編成する。第一部分31は裏面部3Bの一部である。第二部分32は表面部3Fである。第三部分33は裏面部3Bの残部である。本例の第一部分31は裏面部3Bの下半分、すなわち裏面部3Bの1/2である。第三部分33は裏面部3Bの上半分、すなわち裏面部3Bの1/2である。本例とは異なり、第一部分31は裏面部3Bのm/nであり、第三部分33は裏面部3Bの{1-(m/n)}であっても良い。nは3以上の正の整数、mはnよりも小さい正の整数である。
【0027】
第一部分31の始端部3Sは、分岐部30よりも編幅方向に広く形成されている。始端部3Sの具体的な編成例は、
図5の編成工程図を用いて後述する。第一部分31の編幅がウエール方向に向かうに従って徐々に小さくなるように、第一部分31が引き返し編成によって編成されている。本例の第一部分31の形状は半円形である。第一部分31の円弧状の外縁部は針床に係止されている。
【0028】
第二部分32の編幅がウエール方向に向かうに従って徐々に大きくなった後、徐々に小さくなるように、第二部分32が引き返し編成によって編成されている。第二部分32の形状は円形である。第二部分32の下側の半円部分を引き返し編成することで、円弧矢印で示されるように、第二部分32の下側の半円部分の外縁部と第一部分31の円弧状の外縁部とが接続される。第二部分32の上側の半円部分の円弧状の外縁部は針床に係止されている。
【0029】
第三部分33の編幅がウエール方向に向かうに従って徐々に大きくなるように、本例の第三部分33が引き返し編成によって編成されている。第三部分33の形状は半円形である。第三部分33を引き返し編成することで、円弧矢印で示されるように、第二部分32の上側の円弧状の外縁部と、第三部分33の円弧状の外縁部とが接続される。
【0030】
本例の第一部分31、第二部分32、および第三部分33は、熱融着糸を含む編糸によって編成されている。熱融着糸は、後述する工程Bにおいてボタン3を硬化させるための硬化材である。本例では、プレーティング編成によって、ボタン3に熱融着糸を含ませている。
【0031】
ボタン3の編成時、ボタン3のウエール方向に並ぶ複数の編目列のそれぞれを複数回に分けて編成しても良い。例えば、各編目列を往路編成コースと復路編成コースとに分けて編成する。往路編成コースでは一つ置きの編針で編目を編成し、復路編成コースでは往路編成コースで使用しなかった編針で編目を編成する。この場合、厚みがあるしっかりしたボタン3が形成される。
【0032】
熱融着糸は例えば、糸状のコアとコアの外周を覆う鞘部とを備える。鞘部の融点は、コアの融点よりも低い。熱融着糸が熱処理されると、鞘部が溶け、鞘部に接触する別の編糸に融着する。別の編糸は、熱融着糸であっても良いし、非熱融着糸であっても良い。本例における熱融着糸は、東レ株式会社製のエルダー(登録商標)である。本例とは異なり、熱融着糸は、自然由来の素材によって構成されていることが好ましい。自然由来の素材はプラスチックなどの他の成分を含まない。従って、自然由来の素材によって構成される熱融着糸を含むボタン3は、例えば編地1のリサイクル時にベース部2から取り外す必要がない。自然由来の素材には、生分解性の素材が含まれる。
【0033】
本例では、第三部分33の上端、すなわちボタン3の終端部3Eの一部に続けて追加部35が編成され、終端部3Eの残部は伏目処理される。追加部35は、編幅方向において分岐部30に対応する位置、すなわち終端部3Eにおける編幅方向の中間部に編成される。
【0034】
次に、分岐部30と、分岐部30に続くボタン3の始端部3Sの編成手順の一例を
図4および
図5の編成工程図に基づいて説明する。また、ボタン3の終端部3Eの伏目処理の一例を
図6の編成工程図に基づいて説明する。編成に使用される横編機は4枚ベッド横編機である。4枚ベッド横編機は、下部前針床と下部後針床と上部前針床と上部後針床とを備える。以下、下部前針床、下部後針床、上部前針床、および上部後針床をそれぞれ、FD、BD、FU、およびBUと表記する。FDとBDは互いに対向している。FDの上部に配置されるFUと、BDの上部に配置されるBUとは互いに対向している。FD,FUは第一針床、BD,BUは第二針床である。この横編機は図示しないラッキング機構を備えており、FD,FUと、BD,BUとは相対的にラッキング可能である。本例とは異なり、編成に使用される横編機は2枚ベッド横編機でも良い。
【0035】
図4から
図6の左欄の『S+数字』は編成工程の番号を示す。右欄には各編成工程における編成状態が示されている。右欄の黒点は、FD、BD、FU、およびBUの編針を示す。欄外の大文字アルファベットは編針の位置を示す。右欄の丸マークは編目を、V字マークは掛け目を、逆三角マークは第一フィーダー8および第二フィーダー9を示す。第一フィーダー8は非熱融着糸を給糸する。第二フィーダー9は、熱融着糸を給糸する。各編成工程の編成動作に関係する部分は太線で示されている。
【0036】
図4のステップS1には、ベース部2の一部が示されている。FDに係止されるベース部2は右前立て2Rである。BDに係止されるベース部2は後身頃の一部である。ステップS1では、第一フィーダー8を左方向に移動させ、FDの編針T~Mにおいて右前立て2Rの一部を編成する。このステップS1においてベース部2の編成は一旦休止され、次いでボタン3の編成が開始される(工程A)。
【0037】
ステップS1ではさらに、FDの編針M,N,O,Pの編目をそれぞれ、BUの編針M,N,O,Pに移動させる。この編目の移動は、ボタン3を編成するための空針をFDに確保するための動作である。この動作も、ボタン3の編成の一部とみなすことができる。
【0038】
ステップS2では、第一フィーダー8を右方向に移動させ、FDの編針K,Lの編目に割増やしを行うことで、分岐部30を形成する。割増やしは公知の編成方法である。割増やしでは例えば、針床Wの編針W1に係止される編目Xを、編床Wに対向する針床Yの編針Y1に移動させると共に、編針W1において編目Xから引き出される編目Zを形成する。編目Xから引き出される編目Zは、編目Xにつながる。本例の場合、割増やしによってFDの編針K,Lに形成される新たな編目はそれぞれ、BUの編針K,Lに移動されたベース部2の編目につながっている。つまり、前記新たな編目は、ベース部2から分岐する分岐部30を構成する編目である。
【0039】
ステップS3では、FDの編針G,H,I,Jの編目をそれぞれ、BUの編針G,H,I,Jに移動させる。この編目の移動は、ボタン3を編成するための空針をFDに確保するための動作である。
【0040】
ステップS4では、第一フィーダー8を左方向に移動させ、BUの編針L,Kの編目のウエール方向に続く編目を編成する。これらの編目は、ベース部2の一部を構成する。この編成によって、分岐部30につながるベース部2の編目が針床から外れるので、以降の編成が容易になる。ステップS4は必須ではない。
【0041】
ステップS5では、第一フィーダー8を右方向に移動させ、FDの編針K,Lに編目を形成すると共に、FDの編針N,Pに掛け目を形成する。編針K,Lの編目は分岐部30の2コース目の編目である。編針N,Pの掛け目は、
図3のボタン3の始端部3Sの一部である。本例では、掛け目が編成される際、第一フィーダー8に加えて、熱融着糸40を給糸する第二フィーダー9が用いられる。熱融着糸40は硬化材4の一種である。第二フィーダー9は第一フィーダー8に遅れて移動する。熱融着糸40は添え糸としてボタン3に含まれる(工程B)。すなわち、ボタン3はプレーティング編成によって編成される。以降の
図5、
図6では、第二フィーダー9の図示を省略する。
【0042】
図5のステップS6では、第一フィーダー8と第二フィーダーを左方向に移動させ、FDの編針O,Mに掛け目を形成し、FDの編針L,Kに編目を形成し、FDの編針I,Gに掛け目を形成する。掛け目は始端部3Sを構成する。編針L,Kの編目は分岐部30を構成する。
【0043】
ステップS7では、第一フィーダー8と第二フィーダーを右方向に移動させ、FDの編針H,Jに掛け目を形成し、FDの編針K~Pに編目を形成する。掛け目は始端部3Sを構成する。編針K~Pの編目は第一部分31(
図3参照)を構成する。
図4のステップS5の掛け目の形成から
図5のステップS7の掛け目の形成までの編成は、いわゆるインターロック編成である。インターロック編成によれば、分岐部30よりも幅広の始端部3Sを短い工程数で編成できる。
【0044】
ステップS8では、第一フィーダー8と第二フィーダーを左方向に移動させ、FDの編針P~Gに編目を形成する。ステップS8によって全ての掛け目が針床から外れる。ステップS8までをインターロック編成とみなすこともできる。ステップS8以降は、第一部分31を引き返し編成によって編成する。
【0045】
本例とは異なり、
図4のステップS5のFDの編針K,Lの編目を始端部3Sとして、第一部分31を編成しても良い。例えば、その始端部3Sのウエール方向に続けて徐々に編幅が広くなった編目列を編成する。その後、ウエール方向に向かうに従って徐々に編幅が狭くなった編目列を編成することで、第一部分31を完成させる。この場合、立体的な形状にボタン3を硬化させることで、くるみボタンのような厚みのある立体的なボタン3が形成される。
【0046】
図6を参照し、終端部3Eの伏目処理の一例を説明する。伏目処理は公知の編成方法であって、伏目処理には様々な手法がある。従って、伏目処理の手法は
図6に例示されるものに限定されるわけではない。
【0047】
図6のステップ10では、第一フィーダー8および第二フィーダーを左方向に移動させ、FDの編針Pに編目を編成する。この編目は終端部3Eの一部である。
【0048】
ステップS11では、ステップS10で編成した編目をBUの編針を経由させて、FDの編針Oに移動させる。この移動では、BDおよびBUを、FDおよびFUに対して相対的に左方向に移動させるラッキングが行われている。この移動によって、FDの編針Oに重ね目が形成される。重ね目は二重丸マークで示される。
【0049】
ステップS12では、BDおよびBUを右方向にラッキングさせ、BUに係止されるベース部2の編目のうち、右端の編目をFDの編針Pに移動させる。編針Pは、ステップS11によって形成された空針である。
【0050】
ステップS13では、第一フィーダー8と第二フィーダーを右方向に移動させ、第一フィーダー8と第二フィーダーを重ね目よりも右側に配置する。ステップ10からステップS13の編成によって、ステップ10の時点でFDの編針Pに係止されていた終端部3Eの編目が伏目処理される。以降は、ステップS10からステップ13の編成を繰り返し、FDの編針Mの編目まで伏目処理を行う。編針Mの編目を伏目処理した時点で、ステップS14に示されるように、FDの編針Lには重ね目が形成されている。FDの編針K,Lに係止される編目は、ボタン3をベース部2に接続するためにFDに残される。
【0051】
本例では図示しないが、FDの編針G~Jに係止される終端部3Eの編目も伏目処理される。伏目処理は、ステップS10からステップS13の編成と左右対称の編成を繰り返すことで実施する。
【0052】
上述した伏目処理を実施した結果、FDの編針K,Lにのみ終端部3Eが係止された状態になる。編針K,Lに係止された編目はいずれも重ね目である。BUの編針K,Lにはまだ、ベース部2の編目が残っている。このベース部2の編目は、
図4のステップS5に示されるように、分岐部30につながっている。本例では、FDの編針K,Lのウエール方向に連続する新たな編目を編成した後、新たな編目のそれぞれにBUの編針K,Lの編目を重ねる。そして、ベース部2の編成を再開する。ベース部2の編成を再開することで、FDの編針K,Lの重ね目が固定される。その結果、ボタン3がベース部2に接続される。
【0053】
図1の下から二番目および三番目のボタン3の編成についても、
図4から
図6と同様に実施することができる。編地1の編成が終了したら、編地1を横編機から外し、ボタン3を硬化させる(工程B)。
【0054】
ボタン3を硬化させる方法は特に限定されない。本例では、ボタン3に熱融着糸40が含まれているため、熱処理によってボタン3を硬化させる。熱処理は例えば、編地1の形状をセットするアイロンによって実施される。硬化したボタン3は、編地のように容易に変形することがない。このようなボタン3は、ボタンホール23から外れ難い。
【0055】
図7は、ボタン3を熱処理する際に用いられる治具5の一例である。治具5は、本体50とスライド部材51と押え部材52とを備える。本体50は切欠部501を備える板状部材である。本体50の一面には凹部502が形成されている。切欠部501を構成する内壁には溝503が形成されている。凹部502には、本体50を貫通する貫通孔504が形成されている。
【0056】
スライド部材51は、切欠部501に嵌め込まれる板状部材である。スライド部材51の一面には凹部512が形成されている。凹部512と凹部502とで円形状の収納部55が形成される。スライド部材51の側面には凸形状のスライダ513が形成されている。スライド部材51は、本体50に対してスライダ513の延伸方向(図面右上方向)に向かってスライド自在に構成されている。
【0057】
押え部材52は、本体50とスライド部材51とに設けられる押え溝56に嵌め込まれる。押え部材52によって、スライド部材51が本体50から外れないように固定される。
【0058】
治具5を使用する場合、ボタン3(
図2)の側方から本体50の切欠部501を近づけ、分岐部30と追加部35とを貫通孔504の位置に配置する。次いで、スライド部材51を本体50の切欠部501に嵌め込んで、押え部材52によって本体50とスライド部材51とを固定する。その結果、ボタン3は収納部55に配置される。本体50の一面側からアイロンがあてられると、ボタン3に含まれる熱融着糸40が溶ける。プレーティング編成によって編成されたボタン3では、表面部3Fの熱融着糸40と裏面部3Bの熱融着糸40とが互いに向き合う。従って、表面部3Fと裏面部3Bとが融着し易い。ボタン3が冷めると、熱融着糸40が硬化する。その結果、しっかりとした薄いボタン3が形成される。
【0059】
実施形態1に記載の編地の製造方法によれば、ベース部2に手作業でボタン3を取り付けることなく、ボタン3付きの編地1が製造される。また、熱融着糸40を含むボタン3が自然由来の素材によって構成されていれば、例えば編地1のリサイクル時に、ボタン3をベース部2から外す必要がない。
【0060】
<実施形態2>
実施形態2では、実施形態1とは異なる手順でボタン3を編成する例を
図8に基づいて説明する。本例では、工程Aにおけるボタン3の編成と、ボタン3への硬化材4の含有とが独立して行われる。
【0061】
図8(A)では、分岐部30を編成した後、周回編成によってボタン3の裏面部3Bを編成する。ボタン3は非熱融着糸によって構成されている。図中の裏面部3Bの上端、すなわち裏面部3Bのウエール方向の終端部は針床に係止される。裏面部3Bの終端部のうち、図面上の下半分は前針床に、上半分は後針床に係止されている。従って、裏面部3Bの上端は、前針床と後針床との間に開口している。裏面部3Bの編成が終了したら、白抜き矢印に示されるように、裏面部3Bの内部空間に硬化材4を配置する。硬化材4は例えば、熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂である。硬化材4は、焼却時に有害ガスを発生しない自然由来の素材からなることが好ましい。硬化材4の形状は例えば、ボタン3の形状に相似する円形状である。硬化材4は例えば、特開2021-172911号公報に記載される物品挿入装置(公報における符号10を参照)によってボタン3に配置される。物品挿入装置は、横編機におけるレール上に走行自在に取り付けられている。つまり、物品挿入装置は横編機の一部である。
【0062】
硬化材4を裏面部3Bの内部に配置した後、裏面部3Bの開口部を面上に閉じる表面部3Fを編成する。表面部3Fの編成方法は特に限定されない。例えば、
図8(B)に示されるように、裏面部3Bの終端部における紙面下側の黒丸を始端として、引き返し編成によって表面部3Fを編成する。この場合、裏面部3Bの開口部が徐々に閉じられ、紙面上側の黒丸で示される位置で表面部3Fの編成が終了する。紙面上側の黒丸はボタン3の終端部3Eである。本例では、終端部3Eはベース部2に接合されることはない。
【0063】
面状の表面部3Fにアイロンを当てることで、硬化材4が溶けて、ボタン3全体に硬化材4が行き渡る。ボタン3が冷えると、硬化材4が硬化し、ボタン3が完成する。
【符号の説明】
【0064】
1 編地
2 ベース部
2L 左前立て、2R 右前立て
23 ボタンホール
3 ボタン
3B 裏面部、3E 終端部、3F 表面部、3S 始端部
30 分岐部
31 第一部分、32 第二部分、33 第三部分、35 追加部
4 硬化材、40 熱融着糸
5 治具
50 本体、501 切欠部、502 凹部、503 溝、504 貫通孔
51 スライド部材、512 凹部、513 スライダ
52 押え部材
55 収納部
56 押え溝
8 第一フィーダー
9 第二フィーダー