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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034121
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】編成方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138161
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】上道 和也
(72)【発明者】
【氏名】波田埜 楓
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002BA00
4L002BA04
4L002EA00
4L002FA01
4L002FA02
(57)【要約】
【課題】ウエール方向に連続する第一ベース部と第二ベース部との境界を伸び難くすることができる編成方法を提供する。
【解決手段】横編機を用いて、第一ベース部と、前記第一ベース部のウエール方向の終端部に続く第二ベース部とを備える編地を編成する編成方法であって、前記第一ベース部を編成した後、前記終端部の所定範囲内の編目を3つ以上のグループに分ける工程Aと、工程B1と工程B2とを選択可能なグループがなくなるまで繰り返す工程Bとを備える。前記工程B1では、前記3つ以上のグループからグループXを選択し、前記工程B2では、前記グループXにおける編目に重なる補強編目を形成する。前記3つ以上のグループにおける各グループの編目の配置範囲は、他のグループの編目の配置範囲と編幅方向に重複する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機を用いて、第一ベース部と、前記第一ベース部のウエール方向の終端部に続く第二ベース部とを備える編地を編成する編成方法において、
前記第一ベース部を編成した後、前記終端部の所定範囲内の編目を3つ以上のグループに分ける工程Aと、
工程B1と工程B2とを選択可能なグループがなくなるまで繰り返す工程Bとを備え、
前記工程B1では、前記3つ以上のグループからグループXを選択し、
前記工程B2では、前記グループXにおける編目に重なる補強編目を形成し、
前記3つ以上のグループにおける各グループの編目の配置範囲は、他のグループの編目の配置範囲と編幅方向に重複する、
編成方法。
【請求項2】
前記3つ以上のグループの数はNであり、
前記3つ以上のグループにおける各グループは、N-1置きの編目からなり、
Nは3以上の自然数である、請求項1に記載の編成方法。
【請求項3】
前記工程B2は、
割増やしによって前記グループXの編目から引き出される前記補強編目を編成する工程Xと、
前記グループXの編目と前記補強編目とを重ねる工程Yと、を含む、請求項1または請求項2に記載の編成方法。
【請求項4】
前記工程Xの後で前記工程Yの前に、前記グループXの編目と前記補強編目との間にインレイ糸を配置する工程Zを備える、請求項3に記載の編成方法。
【請求項5】
前記工程B2では、タックによって前記グループXの編目に重なるタック目からなる前記補強編目を編成する、請求項1または請求項2に記載の編成方法。
【請求項6】
前記第一ベース部の編成に使用された編糸によって前記補強編目を編成する、請求項1または請求項2に記載の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエール方向に連続する第一ベース部と第二ベース部とを備える編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ベース編地部の編幅方向にインレイ糸を配置する技術を開示する。この技術では、ベース編地部の一部の編目に割増やしが行われ、割増やしの対象となる編目と、割増やしによって編成された新たな編目との間にインレイ糸が挟み込まれる。ベース編地部が伸び過ぎると、ベース編地部の形状が、伸びる前の状態に戻り難くなる。インレイ糸が非弾性糸であれば、ベース編地部の編幅方向の伸びが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-96398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
編地において、役割が異なる第一ベース部と第二ベース部とがウエール方向に連続することがある。このような編地において、第一ベース部と第二ベース部との境界を伸び難くしたいというニーズがある。このようなニーズに特許文献1の技術は応えることができない場合がある。特に、第一ベース部と第二ベース部とが異なる組織を有する場合、特許文献1の技術では上記境界の伸びを十分に抑制できない恐れがある。
【0005】
本発明の目的の一つは、ウエール方向に連続する第一ベース部と第二ベース部との境界を伸び難くすることができる編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の編地の編成方法は、
横編機を用いて、第一ベース部と、前記第一ベース部のウエール方向の終端部に続く第二ベース部とを備える編地を編成する編成方法であって、
前記第一ベース部を編成した後、前記終端部の所定範囲内の編目を3つ以上のグループに分ける工程Aと、
工程B1と工程B2とを選択可能なグループがなくなるまで繰り返す工程Bとを備え、
前記工程B1では、前記3つ以上のグループからグループXを選択し、
前記工程B2では、前記グループXにおける編目に重なる補強編目を形成し、
前記3つ以上のグループにおける各グループの編目の配置範囲は、他のグループの編目の配置範囲と編幅方向に重複する。
【0007】
ここで、終端部の所定範囲は、終端部の一部でも良いし、全部でも良い。また、補強編目は、グループXの全ての編目のそれぞれに重なっても良いし、グループXの一部の編目のそれぞれに重なっても良い。
【0008】
工程Aでは、各グループの編目の配置範囲が、他のグループの編目の配置範囲と編幅方向に重複するようにグループ分けを行う。その結果、各グループの少なくとも一部は、各グループにおける編幅方向に並ぶ2つの編目の間に、他のグループの編目が挟まれる箇所を有する。例えば、終端部が第一グループと第二グループと第三グループとに分けられる場合、下記例1に示されるように、第一グループの編目と第二グループの編目と第三グループの編目が順番に並んでいても良い。下記例2に示されるように、各グループは、編目同士が隣り合う部分を含んでいても良い。下記例3に示されるように、各グループの編目が不規則に並んでいても良い。なお、下記例1から例3における『○』は第一グループの編目、『×』は第二グループの編目、『△』は第三グループの編目である。
・例1…○×△○×△○×△○×△
・例2…○○××△△○○××△△
・例3…○×△○○××△△○×△
【0009】
上記編成方法において、グループの数と、工程B1及び工程B2の繰り返し数とは一致する。グループの数は例えば、3以上6以下である。各グループの編目数は同じでも良いし、異なっていても良い。
【0010】
<2>上記形態<1>の編地の編成方法において、
前記3つ以上のグループの数はNであり、
前記3つ以上のグループにおける各グループは、N-1置きの編目からなっていても良い。
ここで、Nは3以上の自然数である。
【0011】
上記形態<2>の具体例として、12目の編目からなる第一編目列の終端部の編目を3つのグループに分ける場合を説明する。この場合、各グループは2つ置きの編目かならなる。具体的には、第一グループは、終端部における編幅方向の一方の端部から数えて1番目、4番目、7番目、10番目の編目によって構成される。第二グループは、2番目、5番目、8番目、11番目の編目によって構成される。第三グループは、3番目、6番目、9番目、12番目の編目によって構成される。
【0012】
<3>上記形態<1>または<2>の編地の編成方法において、
前記工程B2は、
割増やしによって前記グループXの編目から引き出される前記補強編目を編成する工程Xと、
前記グループXの編目と前記補強編目とを重ねる工程Yと、を含んでいても良い。
【0013】
割増やしは公知の編成方法である(特許文献1などを参照)。割増やしでは、針床Pの編針P1に係止される編目Qを針床Rの編針R1に移動させると共に、編針P1において編目Qから引き出される編目Sを形成する。編目Qから引き出される編目Sは、編目Qにつながる。本発明においては、補強編目が編目Sに相当し、グループXの編目が編目Qに相当する。
【0014】
<4>上記形態<3>の編地の編成方法において、
前記工程Xの後で前記工程Yの前に、前記グループXの編目と前記補強編目との間にインレイ糸を配置する工程Zを備えていても良い。
【0015】
インレイ糸は、横編機の前針床と後針床とに振り分けられた編目の間に挟み込まれる線材である(特許文献1などを参照)。上記形態<4>においては、補強編目とグループXの編目との間にインレイ糸が挟まれる。
【0016】
<5>上記形態<1>または<2>の編地の編成方法において、
前記工程B2では、タックによって前記グループXの編目に重なるタック目からなる前記補強編目を編成しても良い。
【0017】
<6>上記形態<1>から<5>のいずれかの編地の編成方法において、
前記第一ベース部の編成に使用された編糸によって前記補強編目を編成しても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明の編成方法によれば、編地における第一ベース部と第二ベース部との境界の伸びを十分に抑制できる。補強編目は第一ベース部の終端部にのみ重なっており、補強編目が目立ち難い。また、補強編目によって境界が厚くなり難い。
【0019】
上記形態<2>の編成方法によれば、規則的に並んだ補強編目が終端部に重ねられる。従って、編幅方向における境界の伸縮性にむらができ難い。また、境界の見栄えが向上する。
【0020】
上記形態<3>の編成方法によれば、第一ベース部の終端部の編目から引き出された補強編目が形成される。このような補強編目は終端部の編目に対して動き難い。従って、このような補強編目を備える編地では、上記境界が伸び難い。
【0021】
上記形態<4>の編成方法によれば、上記境界にインレイ糸が配置された編地が得られる。インレイ糸は、上記境界の編地の編幅方向の伸びを抑制する。従って、上記境界にインレイ糸を含む編地では、上記境界がより一層伸び難い。
【0022】
上記形態<5>の編成方法によれば、少ない工程数によって伸び難い境界を備える編地を編成できる。
【0023】
上記形態<6>の編成方法では、補強編目を編成するための給糸口が必要ない。また、本編成方法によって得られた編地では、編糸の切り替えに伴う編糸のカットと糸始末(Knotting)が不要であり、編地の生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施形態1に係る編地であるセーターの概略図である。
図2図2は、実施形態1に係る編地の編成手順を示す第一の編成工程図である。
図3図3は、図2に示される第一の編成工程図に続く第二の編成工程図である。
図4図4は、実施形態1に係る編地におけるインレイ糸の配置状態を示すイメージ図である。
図5図5は、実施形態3に係る編地の編成手順を示す編成工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施形態に係る編地の編成方法を図面に基づいて説明する。
【0026】
<実施形態1>
図1には、実施形態1に係る編地1の一例であるセーターが示されている。セーターは、袖を有する身頃2と、身頃2に無縫製で接続される衿3と、を備える。身頃2は、筒状につながる前身頃2Fと後身頃2Bとを備える。身頃2は裾から衿3に向かって編成される。衿3は、前身頃2Fのウエール方向の終端部に連続する前衿3Fと、後身頃2Bのウエール方向の終端部に連続する後衿3Bとを備える。前衿3Fと後衿3Bとは筒状につながる。本例の身頃2と衿3とは組織が異なる。
【0027】
衿3が形成されるセーターのネックホールは、編糸の素材によってはセーターの着用を繰り返すと徐々に拡がる場合がある。従って、身頃2と衿3との境界4の伸びを抑制することが好ましい。本例では、本発明の編成方法によってセーターを編成することで、後身頃2Bと後衿3Bとの境界4の伸びが抑制されている。後身頃2Bと後衿3Bとはそれぞれ、本発明の編成方法における第一ベース部5と第二ベース部6に相当する。
【0028】
第一ベース部5と第二ベース部6との境界4の編成手順の一例を図2および図3に基づいて説明する。編成に使用される横編機は4枚ベッド横編機である。4枚ベッド横編機は、下部前針床と下部後針床と上部前針床と上部後針床とを備える。以下、下部前針床、下部後針床、上部前針床、および上部後針床をそれぞれ、FD、BD、FU、およびBUと表記する。FDとBDは互いに対向している。FDの上部に配置されるFUと、BDの上部に配置されるBUとは互いに対向している。FD,FUは第一針床、BD,BUは第二針床である。この横編機は図示しないラッキング機構を備えており、FD,FUと、BD,BUとは相対的にラッキング可能である。本例とは異なり、編成に使用される横編機は2枚ベッド横編機でも良い。
【0029】
図2,3の左欄の『S+数字』は編成工程の番号を示す。右欄には各編成工程における編成状態が示されている。右欄の黒点は、FD、BD、FU、およびBUの編針を示す。欄外の大文字アルファベットは編針の位置を示す。右欄の丸マークおよび水滴マークは編目を、逆三角マークはフィーダー9を示す。各編成工程の編成動作に関係する部分は太線で示されている。
【0030】
図2のステップS0には、身頃2(図1参照)の編成が終了した状態が示されている。身頃2は、フィーダー9から給糸される編糸9Yによって編成されている。前身頃2Fの編目はFDの編針A~Lに係止されている。後身頃2Bの終端部の編目、すなわち第一ベース部5の終端部50の編目は、BDの編針A~Lに係止されている。
【0031】
ステップS0では、終端部50の編目を3つ以上のグループ、本例では第一グループ51と第二グループ52と第三グループ53と第四グループ54に分ける(工程A)。グループ数は4であるので、各グループ51,52,53,54は3つ置きの編目からなる。つまり、各グループ51,52,53,54における編幅方向に隣接する編目の間隔は、前記隣接する編目の間に別の複数のグループの3つの編目が配置される間隔である。具体的には、第一グループ51はBDの編針D,H,Lの編目からなる。第二グループ52はBDの編針C,G,Kの編目からなる。第三グループ53はBDの編針B,F,Jの編目からなる。第四グループ54はBDの編針A,E,Iの編目からなる。このグループ分けは概念的な工程であり、横編機のコンピュータ内で実行される。
【0032】
本例では後身頃2Bの終端部50の全体を複数のグループに分けている。本例とは異なり、終端部50の一部、例えば後身頃2Bの編幅方向の中間部、例えば全体の1/3に相当する部分を複数のグループに分けても良い。
【0033】
ステップS1では、グループ51,52,53,54からグループXを選択する(1回目の工程B1)。本例では、第一グループ51がグループXとして選択される。この選択も概念的な工程であり、横編機のコンピュータ内で実行される。
【0034】
ステップS1では、フィーダー9を右方向に移動させ、割増やしによって第一グループ51の編目から引き出される補強編目7を編成する(1回目の工程B2における工程X)。割増やしによって第一グループ51の編目はFUの編針D,H,Lに移動し、BDの編針D,H,Lには補強編目7が形成される。第一ベース部5の編成に使用された編糸9Yによって補強編目7を編成することで、編糸の切り替えの手間を省略できる。本例とは異なり、補強編目7は、フィーダー9とは異なるフィーダーから給糸される編糸によって編成されても良い。
【0035】
本例とは異なり、第一グループ51の全ての編目に割増やしを実施しなくても良い。例えば、第一グループ51の編目のうち、70%以上の編目に割増やしを実施しても良い。この点は、後述する第二グループ52、第三グループ53、および第四グループ54においても同様である。
【0036】
ステップS2では、フィーダー9を左方向に移動させ、FUの第一グループ51の編目と、BDの補強編目7との間に編糸9Yを配置する(1回目の工程B2における工程Z)。編糸9Yはインレイ糸8として機能する。インレイ糸8は、フィーダー9とは異なるフィーダーから給糸されても良い。
【0037】
ステップS2ではさらに、第一グループ51の編目と補強編目7とを重ねる(1回目の工程B2における工程Y)。本例では、FUに係止される第一グループ51の編目を、BDに係止される補強編目7に重ねる。重ね目を形成する第一グループ51の編目と補強編目7とは、割増やしにおいて対となる編目である。例えば、ステップS1において割増やしによってBDの編針DからFUの編針Dに移動した編目と、BDの編針Dに形成された補強編目7とが重ねられる。
【0038】
以降、選択可能なグループがなくなるまで、工程B1と工程B2とを繰り返す(工程B)。具体的には、ステップS3では、第二グループ52がグループXとして選択され(2回目の工程B1)、フィーダー9が右方向に移動する際に割増やしが実施される(2回目の工程B2における工程X)。ステップS4では、フィーダー9が左方向に移動する際にインレイ糸8が配置され(2回目の工程B2における工程Z)、グループXの編目と補強編目7とが重ねられる(2回目の工程B2における工程Y)。
【0039】
図3のステップS5およびステップS6では、第三グループ53が選択され、3回目の工程B1と工程B2とが実施される。さらにステップS7およびステップS8では、第四グループ54が選択され、4回目の工程B1と工程B2とが実施される。
【0040】
ステップS8の後、後身頃2Bの終端部50のウエール方向に続けて後衿3B(図1)が編成されると共に、前身頃2Fの終端部のウエール方向に続けて前衿3F(図1)が編成される。後衿3B、すなわち第二ベース部6が編成されることで、終端部50の編目と補強編目7とで構成される重ね目が固定される。終端部50の編目に対して補強編目7が動き難くなり、終端部50の編目と補強編目7とで挟まれるインレイ糸8も動き難くなる。
【0041】
図4は、第一ベース部5の終端部50におけるインレイ糸8の配置状態を示す概略図である。図面下側がセーターの内側、図面上側がセーターの外側である。図4における概略矩形マークは、第一ベース部5の終端部50の編目(すなわち、グループ51,52,53,54のいずれかの編目)、または補強編目7を示す。縦方向に延びる二本の平行線は、割増やしによって終端部50の編目と補強編目7とがつながっていることを示している。図4において終端部50の編目と補強編目7は離れているが、実際には重ねられている。太線はインレイ糸8を示す。
【0042】
図4に示されるように、終端部50の各編目に補強編目7が重ねられている。そのため、終端部50の編幅方向の伸び、すなわち図1に示される編地1の境界4の伸びが抑制される。特に本例の場合、全ての補強編目7が、編糸9Yによって構成される渡り糸でつながっているため、渡り糸でつながる一方の補強編目7と他方の補強編目7とが互いの動きを拘束しあう。このことも、境界4の伸びが抑制される理由の一つである。また、4本のインレイ糸8が終端部50に配置されることで、終端部50の伸び、すなわち境界4の伸びがより一層抑制される。
【0043】
図4に示されるように、本例の編成方法では、終端部50にのみ補強編目7が配置されており、補強編目7が目立たないし、終端部50が編地1の厚さ方向に厚くなり過ぎない。また、インレイ糸8はセーターの内側に配置され、セーターの外側から見え難い。従って、本例の編地1は、見栄えが良く、かつ着心地に優れる。
【0044】
図4に示される終端部50を備える編地1では、境界4が編幅方向に伸ばされても、第一ベース部5における境界4近傍の部分にほとんど皺ができなかった。当該部分に皺ができる理由は、終端部50に配置される各インレイ糸8を挟んだ状態にある第一ベース部5が当初の位置からずれ、ずれた第一ベース部5が当初の位置に戻らないからである。当初の位置とは、編成時におけるインレイ糸8に対する第一ベース部5の位置のことである。本例においてインレイ糸8に対して第一ベース部5の位置がずれ難い理由は、セーターの内側でインレイ糸8と第一ベース部5とが所定の長さにわたって接触しているからであると推察される。セーターの内側における各インレイ糸8の長さは、各グループ51,52,53,54における隣接する編目の間隔(以下、この間隔を間隔Wと呼ぶ)に依存する。従って、間隔Wは、インレイ糸8に対する第一ベース部5の位置のずれを抑制するための重要なファクターであると考えられる。
【0045】
≪試験例≫
試験例では、上記間隔Wが皺の形成に及ぼす影響を調べるために、以下の編地αと編地βを作製した。
【0046】
編地αの作製では、図2のステップS0において終端部50を3つのグループに分け、各グループに対してステップS1およびステップS2の編成を行った。各グループにおける間隔Wは、編目二つ分の間隔である。例えば、第一グループにおける隣接する編目A1と編目A2との間には、第二グループの編目B1と第三グループの編目C1が配置されている。この編地αの終端部50に配置されるインレイ糸8の数は3本である。編地αでは、第一ベース部5と第二ベース部6との境界4が実施形態1の編地1と同じくらい伸び難かった。また、編地αでは、境界4が伸ばされても、第一ベース部5における境界4近傍の部分にほとんど皺ができなかった。
【0047】
編地βの作製では、図2のステップS0において終端部50を二つのグループに分けた。この場合、各グループにおける間隔Wは、編目一つ分の間隔である。各グループに対してステップS1およびステップS2の編成を行った。編地βでは、第一ベース部5と第二ベース部6との境界4が伸び難かった。しかし、編地βでは、境界4が伸ばされると、第一ベース部5における境界4近傍の部分に皺が形成され、しかもその皺が維持された。皺は、編地βの見栄えを損なう。
【0048】
試験例の結果から、皺が形成される原因となる第一ベース部5の位置のずれを抑制するためには、終端部50の各グループにおける間隔Wが、編目二つ分以上の間隔(以下、この間隔を所定間隔と呼ぶ)を有する必要があることが分かった。しかし、各グループの一部において上記所定間隔未満の箇所があったとしても、その箇所の数が少なければ、第一ベース部5の位置ずれは抑制され得る。各グループにおける隣接する編目に挟まれる箇所(以下、第一箇所)の個数Naと、上記所定間隔を有する箇所(以下、第二箇所)の個数Nbとの比率Nb/Naが、0.5以上であれば良い。つまり、第一箇所の半数以上が第二箇所であれば、第一ベース部5の位置のずれが抑制され得る。第二箇所の個数Nbが第一箇所の個数Naよりも小さい場合、Nb個の第二箇所は編幅方向に分散していることが好ましい。比率Nb/Naは高いほど好ましい。比率Nb/Naは、例えば0.8以上、または0.9以上であっても良い。実施形態1の編地1および試験例の編地αのように、比率Nb/Naが1.0であることが最も好ましい。
【0049】
<実施形態2>
実施形態2では、割増やしによって補強編目7を編成するがインレイ糸8を配置しない編成例を説明する。その説明にあたっては、実施形態1の図2,3を利用する。
【0050】
本例では、図2のステップS1の後、ステップS2においてフィーダー9を移動させることなく、第一グループ51の編目を補強編目7に重ねる。ステップS3では、フィーダー9を左方向(図示される移動方向とは逆方向)に移動させて割増やしを行い、ステップS4では、フィーダー9を移動させることなく、第二グループ52の編目を補強編目7に重ねる。図3のステップS5の後、ステップS6においてフィーダー9を移動させることなく、第三グループ53の編目を補強編目7に重ねる。ステップS7では、フィーダー9を左方向(図示される移動方向とは逆方向)に移動させて割増やしを行い、ステップS8では、フィーダー9を移動させることなく、第四グループ54の編目を補強編目7に重ねる。
【0051】
本例の構成では、終端部50の全長にわたって補強編目7が配置される。従って、終端部50の伸びが効果的に抑制される。
【0052】
<実施形態3>
実施形態3では、タックによって補強編目を形成する例を図5に基づいて説明する。図5の見方は図2,3と同じである。図5におけるV字マークはタック目を示している。
【0053】
図5のステップS0は、図2のステップS0と同じである。ステップS1では、フィーダー9を右方向に移動させ、第一グループ51の編目にタックを行う。このタックによって、タック目からなる補強編目70が、第一グループ51の編目に重なる。ステップS2では、フィーダー9を左方向に移動させ、第二グループ52の編目にタックを行う。ステップS3では、フィーダー9を右方向に移動させ、第三グループ53の編目にタックを行う。ステップS4では、フィーダー9を左方向に移動させ、第四グループ54の編目にタックを行う。
【0054】
図5に示される編成によって、終端部50の全長にわたって補強編目70が配置される。その結果、複数のタック間をつなぐ渡り糸同士の接触機会が多くなり、終端部50の伸びが効果的に抑制される。終端部50の各編目には、編糸9Yが絡むことなく補強編目70が重ねられているだけなので、終端部50が厚くなり過ぎることもない。
【0055】
図5の工程数は、終端部50のグループの数と同じであり、実施形態1の工程数よりも少ない。従って、タックを用いた本例の編成方法によれば、境界4が伸び難い編地1を生産性良く製造することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 編地
2 身頃、2B 後身頃、2F 前身頃
3 衿、3B 後衿、3F 前衿
4 境界
5 第一ベース部
50 終端部
51 第一グループ、52 第二グループ
53 第三グループ、54 第四グループ
6 第二ベース部
7,70 補強編目
8 インレイ糸
9 フィーダー、9Y 編糸
図1
図2
図3
図4
図5