(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034139
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240306BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20240306BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20240306BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F17/06 A
H01F17/04 F
H01F17/06 F
H01F27/00 160
H01F27/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138190
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 友一
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AA01
5E043AB01
5E043BA01
5E043BA02
5E043EA01
5E070AA01
5E070AB03
5E070BA08
5E070BA14
5E070CA13
5E070EA06
(57)【要約】
【課題】コアの側面の周囲に巻回される第1巻線と、当該コアの中空部分に通される第2導体と、を有し、直流重畳特性を改善することができるインダクタを提供する。
【解決手段】エアギャップ無しまたはエアギャップ有りのコアの外周に第1導体が巻回された第1巻線と、前記コアの内周により形成された挿通穴に挿通され、前記第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体と、を備えるインダクタ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアギャップ無しまたはエアギャップ有りのコアの外周に第1導体が巻回された第1巻線と、
前記コアの内周により形成された挿通穴に挿通され、前記第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体と、
を備えるインダクタ。
【請求項2】
前記第1巻線と前記第2導体とは直列に接続されている、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記第1巻線と前記第2導体とは、板金または回路基板を介して、直列に接続されている、
請求項2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記第2導体は、前記挿通穴と前記外周とを交互に通るように巻回された第2巻線であり、前記外周の範囲に、均一に、または不均一に、あるいは分割されて、巻回されている、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項5】
前記コアは、トロイダルコアである、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項6】
前記コアは、コアの厚みが略一様であるUUコア、UIコア、または、RブロックコアとIコアとの組み合わせである、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項7】
前記コアは、スタック構成である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
トロイダルコイルが、平滑インダクタあるいは共振インダクタとして広く普及している。
例えば、トロイダルコアに均等巻きされた巻線を有するトロイダルコイルでは、磁束密度は径(半径r)に反比例するため磁束分布が不均一となる、ことが知られている。したがって、コアの外径側の磁束密度は、コアの内径側の磁束密度よりも低くなる。
【0003】
このような磁束分布の不均一は、コアの内径側における部分的な磁束の飽和、および、それに起因するインダクタ値(インダクタンス)の直流重畳特性の低下を引き起こす。
ここで、直流重畳特性とは、流れる電流が増えると、コイルのインダクタ値が減っていく特性である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K.Cho et al. 、“A New Separated Resonant-Inductor Winding Phase Shift Full Bridge Converter for Server Power System”、IEEE、2009、pp.2089-2094
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、トロイダルコイルでは、コア内の磁束密度B[T]が径に反比例するため、内側(内径)の磁束密度が高く外側の磁束密度が低くなる。
このような磁束密度の不均一により、鉄損が内径に集中し、コアの外側部分を有効利用することができないという問題(直流重畳特性の問題)があった。
【0006】
なお、非特許文献1には、3脚コアの周辺に直交巻線を巻回するとともに、コアの中央部(中足の部分)の周囲に巻線を巻回する手法が記載されている(非特許文献1参照。)。
しかしながら、非特許文献1では、直流重畳特性の改善については、考慮されていなかった。
【0007】
本開示は、このような事情を考慮してなされたもので、コアの側面の周囲に巻回される第1巻線と、当該コアの中空部分に通される第2導体と、を有し、直流重畳特性を改善することができるインダクタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、エアギャップ無しまたはエアギャップ有りのコアの外周に第1導体が巻回された第1巻線と、前記コアの内周により形成された挿通穴に挿通され、前記第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体と、を備えるインダクタである。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係るインダクタによれば、コアの側面の周囲に巻回される第1巻線と、当該コアの中空部分に通される第2導体と、を有し、直流重畳特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係るインダクタの外観の一例を示す図である。
【
図2】実施形態に係るインダクタのコアおよび直交巻線の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係るコアを構成するスタックコアの一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係るインダクタの2個のコイル(直交巻線と通常巻線)の関係の一例を示す図である。
【
図5】(A)は実施形態に係るインダクタのコアの断面における磁束密度の一例を示す図であり、(B)は方向による磁束密度の関係の一例を示す図である。
【
図6】実施形態に係るインダクタにおける直交巻線による磁束密度および通常巻線による磁束密度の一例を模式的に示す図である。
【
図7】実施形態に係るインダクタの直流重畳特性の一例を示す図である。
【
図8】実施形態に係るインダクタの通常巻線の通常巻線ギャップ部の一例を示す図である。
【
図9】実施形態に係るインダクタにおける電流とインダクタ値との関係の一例を示す図である。
【
図10】実施形態に係る直交巻線と通常巻線とが直接接続されるインダクタの外観の一例を示す図である。
【
図11】実施形態に係る直交巻線と通常巻線とが板金を介して接続されるインダクタの外観の一例を示す図である。
【
図12】実施形態の他の構成例に係る直交巻線(第1導体)と第2導体とが直接接続されるインダクタの外観の一例を示す図である。
【
図13】実施形態の他の構成例に係る直交巻線(第1導体)と第2導体とが板金を介して接続されるインダクタの外観の一例を示す図である。
【
図14】実施形態に係る複数の通常巻線部を有するインダクタの外観の一例を示す図である。
【
図15】実施形態に係る1ターンの直交巻線および1ターン未満の第2導体を有するインダクタの一例を示す図である。
【
図16】実施形態に係る通常巻線が内側に配置され直交巻線が外側に配置されたインダクタの外観の一例を示す図である。
【
図17】実施形態に係るUUコアの一例を示す図である。
【
図18】実施形態に係るUIコアの一例を示す図である。
【
図19】比較例に係るインダクタの外観の一例を示す図である。
【
図20】比較例に係るインダクタにおける電流とインダクタ値との関係の一例を示す図である。
【
図21】比較例に係るインダクタの通常巻線ギャップ部の比率とインダクタ値の差分割合との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本開示の実施形態について説明する。
なお、通常、インダクタの巻線では引き出し線が設けられるが、以下の実施形態では、引き出し線に着目しない説明においては、引き出し線の図示および説明を省略する。
【0012】
[インダクタ]
図1は、実施形態に係るインダクタ1の外観の一例を示す図である。
図1には、説明の便宜上、三次元直交座標系であるXYZ直交座標系を示してある。
【0013】
図2は、実施形態に係るインダクタ1のコア11および直交巻線21の一例を示す図である。
図2には、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
図2に示される外観は、インダクタ1の通常巻線22を除いた部分の外観である。
【0014】
図3は、実施形態に係るコアを構成するスタックコアの一例を示す図である。
図3には、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
【0015】
インダクタ1は、コア11と、第1導体から構成される第1巻線(本実施形態において、直交巻線と呼ぶ。)である直交巻線21と、第2導体から構成される第2巻線(本実施形態において、通常巻線と呼ぶ。)である通常巻線22と、を備える。
なお、通常巻線22は、トロイダル巻線などと呼ばれてもよい。
【0016】
図1~
図3の例では、コア11の中空部分を除いた部分の面がXY平面に平行に配置されている。
また、
図1~
図3の例では、コア11の中空部分の方向がZ軸に平行に配置されている。
【0017】
<コア>
図1の例では、コア11は、トロイダルコアである。
また、コア11は、スタックコアである。
図3の例では、コア11は、トロイダル状の3個の磁性体11a、11b、11cが積み重ねられて構成されている。この積み重ねの方向は、コア11の中空部分の方向(
図3の例では、Z軸に平行な方向)である。
一般に、このような磁性体の積み重ねの数(段数)が増えるほど、直交巻線21によって発生する磁束が増える。
【0018】
ここで、コア11の形状は、必ずしもトロイダルの形状でなくてもよく、他の形状であってもよい。
図3の例では、積み重ねの方向(
図3の例では、Z軸に平行な方向)から見て3個の同様な形状(円状の形状)を有する磁性体からコア11が構成される場合を示したが、他の例として、他の方向で組み合わされる複数の磁性体が用いられてもよい。
【0019】
また、コア11を構成する磁性体の数は、2個であってもよく、あるいは、4個以上であってもよい。また、コア11は、1個の磁性体から構成されていてもよい。
なお、コア11が複数の磁性体から構成される場合、それぞれの磁性体の形状は、任意の形状であってもよく、例えば、同じ形状であってもよく、あるいは、異なる形状の磁性体が含まれてもよい。つまり、例えば、Uコア、Iコア、Rコアなどを含む異なる形状の磁性体を組み合わせて閉磁路コアを形成してもよく、そのコア材の組み合わせは必ずしも同一の磁性材(例えば、フェライト、粉末金属、 磁石、など)でなくてもよい。
【0020】
<直交巻線>
図1~
図2の例では、コア11に対して、内側に直交巻線21が配置されており、外側に通常巻線22が配置されている。
図2に示されるように、コア11の側面(円筒の側面)の周囲に第1導体が複数回巻回されて直交巻線21が構成されている。
【0021】
ここで、直交巻線21は、少なくとも1回巻回されていればよく、2回以上の任意の回数、巻回されていてもよい。
また、直交巻線21において、隣接する巻線部分(巻回される第1導体の隣接する部分)の間隔としては、任意の間隔が用いられてもよい。
また、直交巻線21の一部または全部(引き出し線を除く)において、第1導体が多重(二重以上)に巻かれていてもよい。あるいは、直交巻線21の全体にわたって、第1導体が重なりなく(つまり、一重に)巻かれていてもよい。
また、直交巻線21の全体にわたって第1導体が一様に巻かれていてもよく、あるいは、直交巻線21の一部の巻き方(巻線の外観形状)が他の部分の巻き方(外観形状)と異なっていてもよい。
【0022】
<通常巻線>
図1に示されるように、コア11に直交巻線21が配置された状態において、コア11の中空部分の面(コア11の内側の面)とコア11の側面とを交互に通るように第2導体が複数回巻回されて通常巻線22が構成されている。
なお、コア11の中空部分は、コア11の内周により形成された挿通穴となっている。コア11の中空部分(挿通穴)には、通常巻線22(第2導体)が挿通される。第2導体は、コア11の中空部分(挿通穴)とコア11の外周とを交互に通るように巻回されている。
図1の例では、Z軸に平行な方向から見た視点で、コア11の中空部分の円周の全体にわたって通常巻線22が配置されている。
【0023】
ここで、通常巻線22は、Z軸に平行な方向から見た視点で、コア11の中空部分の円周の一部にわたって配置されていてもよい。
また、通常巻線22は、1回以上の任意の回数、巻回されていてもよい。
また、通常巻線22において、隣接する巻線部分(巻回される第2導体の隣接する部分)の間隔としては、任意の間隔が用いられてもよい。
また、通常巻線22の一部または全部(引き出し線を除く)において、第2導体が多重(二重以上)に巻かれていてもよい。あるいは、通常巻線22の全体にわたって、第2導体が重なりなく(つまり、一重に)巻かれていてもよい。
【0024】
他の構成例として、第2導体から構成される通常巻線22の代わりに、コア11の中空部分に第2導体が1回通されて巻回されていない構成が用いられてもよい。
【0025】
ここで、本実施形態では、通常巻線22(第2導体)は、直交巻線21(第1導体)の巻回方向に対して平行でない方向で配置されている。なお、現実には、実用上で支障がない程度で、例えば、通常巻線22(第2導体)の一部が、直交巻線21(第1導体)の巻回方向に対して平行となる部分があってもよい。
【0026】
なお、通常巻線22を構成する第2導体は、1箇所以上の点で巻き方(外観形状)が異なっていてもよく、例えば、規定の巻き数(ターン数)ごとに、第1の形状と第2の形状とが入れ替わる態様が用いられてもよい。具体例として、巻き数が1~4ターンである部分では第1の形状が用いられ、巻き数が5~8ターンの部分では第2の形状が用いられ、巻き数が9~12ターンの部分では再び第1の形状が用いられるといったように、規定の巻き数ごとに、2種類の形状を交互に繰り返す態様が用いられてもよい。
ここで、第1の形状と第2の形状とは、異なる形状である。一例として、第1の形状と第2の形状とは、サイズが異なる同様な形状であってもよく、つまり、一方の形状が他方の形状よりも大きい相似形状であってもよい。
【0027】
<直交巻線および通常巻線>
このように、インダクタ1は、直交巻線21および通常巻線22を用いた巻線構造を有している。
図1の例では、インダクタ1は、トロイダルコア(コア11)にソレノイドコイルのように直交巻線を実装し、さらに、トロイダル巻線を設けた構造を有している。
【0028】
<直交巻線と通常巻線との接続>
図4は、実施形態に係るインダクタ1の2個のコイル(直交巻線21と通常巻線22)の関係の一例を示す図である。
第1導体から構成される直交巻線21に相当する第1コイル31と、第2導体から構成される通常巻線22に相当する第2コイル32とは、接続されている。
ここで、第1コイル31と第2コイル32とは、例えば、直接接続されていてもよく、あるいは、他の導体を介して接続されていてもよい。
【0029】
<インダクタの磁束密度>
図5(A)は、実施形態に係るインダクタ1のコア11の断面における磁束密度の一例を示す図である。
図5(A)には、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
図5(B)は、方向による磁束密度の関係の一例を示す図である。
【0030】
直交巻線21による磁束と通常巻線22による磁束について説明する。
図5(A)には、コア11の断面の一例を示してある。当該断面は、コア11の円状の面(XY平面に平行な面)に対して垂直に切断した場合であって、コア11の円状の面を半分に切断した場合の断面である。
【0031】
また、
図5(A)には、コア11の断面における磁束の分布の様子の一例を示してある。
直交巻線21(巻線α)は、コア11の外径の付近に、Z軸の方向に近い曲線の特性を有する磁束密度B(z)の磁束を発生する。
通常巻線22(巻線β)は、コア11の円周回方向に、磁束密度B(r)の磁束を発生する。
なお、rは、XY平面において、コア11の円状の面の中心点から外側に向かう距離を表す。
【0032】
ここで、通常巻線22による磁束密度B(r)は、コア11の内径の側と比べて外径の側の方が、小さくなる。
また、直交巻線21による磁束密度B(z)は、通常巻線22による磁束密度B(r)と直交(または、ほぼ直交)し、コア11の外径の付近に生じる。
【0033】
図5(B)には、直交巻線21による磁束密度B(z)と、通常巻線22による磁束密度B(r)と、を合成(ベクトル合成)した結果である磁束密度B(p)を示してある。磁束密度B(p)がコア11の磁束密度(合計の磁束密度)となる。
本実施形態では、コア11の磁束密度B(p)が飽和磁束密度Bsに達しないように、コア11の内外径で磁束密度B(p)を均一に近付けることで、直交巻線21と通常巻線22とを直列接続したコイルのインダクタ値の増加、および、直流重畳特性の改善を図ることができる。
また、直交巻線21と通常巻線22とは直交しているため、結合度kはほぼゼロとなる(k≒0)。
【0034】
<磁界解析シミュレーションの結果>
図6は、実施形態に係るインダクタ1における直交巻線21による磁束密度および通常巻線による磁束密度の一例を模式的に示す図である。
図6には、
図4(A)に示されるのと同様なコア11の断面に関して、磁束の分布の磁界解析シミュレーション結果2011を示してある。
なお、
図6の例は、必ずしも厳密なものではない。
【0035】
ここで、直交巻線21の磁束分布について説明する。
直交巻線21は、コア11の中心部が空洞になったソレノイドコイルと同様な構造を有している。
ここでは、説明の便宜上、当該ソレノイドコイルが無限長に密巻きされた構造であると仮定する。すると、巻線の内側の磁界Hは一様となり、巻き数Nおよび電流Iについて、H=NI[A/m]で一様となる。
ただし、本構造では、有限長の汎用トロイダルコアをスタックした構成を有しているため、直交巻線21の付近に磁束が生じる分布となる。さらに、コア11の内部の透磁率μは一定でなく、磁束B(z)はコア11の境界面で屈曲する。
【0036】
この磁束分布については、コア11の外部の通常巻線22における渦電流損の影響なども含めて、数式化は極めて困難である。このため、ここでは、所定の解析ソフトウェアにより磁束分布への効果を検証する。
図6の例では、コイル電流ILが30Aである(IL=30A)場合における磁界解析シミュレーション結果2011を示してある。
【0037】
図6における左側の断面に示されている磁束分布B(r)は、通常巻線22による磁束である。
図6における右側の断面に示されている磁束分布B(z)は、直交巻線21による磁束である。
【0038】
直交巻線21による磁束ループは空気中を介するため、磁束密度B(z)の値としては磁束密度B(r)の1/100以下であるが、磁束密度B(r)が低いコア11の外側の領域に磁束を発生させることができる。
また、無限長のソレノイドコイルでは、内部の磁束が一様となるように、スタックコアの中央ほど内側に磁束分布が見られる。このようなコア11の内側に生じる磁束が過度に大きくならないように、直交巻線21の巻線の間隔を調整することが行われてもよい。
【0039】
<直交巻線の有無による直流重畳特性の相違>
図7は、実施形態に係るインダクタ1の直流重畳特性の一例を示す図である。
図7に示されるグラフにおいて、横軸はコイル(直交巻線21および通常巻線22)に流れる電流IL[A]を表しており、縦軸はインダクタ値L[μH]を表している。
【0040】
図7には、本実施形態のように直交巻線21と通常巻線22とが併用されたインダクタ1の直流重畳特性(特性3011)と、直交巻線を備えずに通常巻線を備えるインダクタの直流重畳特性(特性3012)と、を示してある。
【0041】
直交巻線が併用された場合の特性3011は、直交巻線が用いられていない場合の特性3012と比べて、すべての電流範囲で30~38[μH](5~35%)だけインダクタ値が上昇しており、直流重畳特性が改善している。
また、例えば、直交巻線を巻き足すこと、あるいは、スタックコア数を増やすことで、直交成分のインダクタ値は増加するが、銅損あるいは生産性とのトレードオフとなる。
【0042】
<インダクタの通常巻線の巻線ギャップ>
図8は、実施形態に係るインダクタ1の通常巻線の通常巻線ギャップ部112の一例を示す図である。
図8には、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
【0043】
図8には、Z軸に平行な方向で見た視点で、コア11と、通常巻線部111と、通常巻線ギャップ部112と、を示してある。
図8の例では、コア11の円状の面(XY平面に平行な面)において、円の周囲の一部に通常巻線が配置され、他の部分には通常巻線が配置されていない構成例を示してある。
ここで、説明の便宜上、通常巻線が配置されている部分を通常巻線部111として示してあり、通常巻線が配置されていない部分を通常巻線ギャップ部112として示してある。
なお、
図8の例では、図示を簡易化して、通常巻線部111としては、通常巻線が配置される部分のみを示してあり、巻線の詳細な図示を省略してある。
【0044】
図8の例では、通常巻線部111はコア11の円周のうちの60%に相当する部分であり、通常巻線ギャップ部112はコア11の円周のうちの他の40%に相当する部分である。
ここで、
図8に示される通常巻線部111と通常巻線ギャップ部112との比率は一例であり、他の任意の比率が用いられてもよい。
また、
図8の例では、通常巻線部111と通常巻線ギャップ部112とがそれぞれ一部分として構成されているが、他の構成例として、コア11の円周に2個以上に分離された通常巻線部が配置されてもよく、この場合、通常巻線部以外の2個以上の部分が通常巻線ギャップ部となる。
【0045】
なお、巻線のギャップがなく、つまり、コアの周のすべてに巻線が配置される状態は、均一、または、ギャップ無し、などと呼ばれてもよい。
また、巻線のギャップがあり、つまり、コアの周の一部のみに巻線が配置される状態は、不均一、または、ギャップ有り、などと呼ばれてもよい。
また、巻線の部分が2箇所以上に分離されている状態、つまり、ギャップの部分も2箇所以上に分離されている状態は、分割、などと呼ばれてもよい。
【0046】
ここで、本実施形態では、通常巻線部111が0%である場合を除いて、通常巻線部111に配置される巻線(通常巻線)を構成する導体の長さを一定としている。
具体的には、通常巻線部111が100%であるときに1回(1巻き)ごとに1層巻きをして通常巻線が構成される場合、通常巻線部111が50%であるときには1回(1巻き)ごとに2層巻きをして通常巻線が構成される。
このように、通常巻線部111の割合[%]にかかわらず、通常巻線の総合のターン数(巻き数)は同じであり、同一のターンで多重に巻く数(層数)が異なっている。
なお、通常巻線を構成する導体の長さについては、必ずしも通常巻線部111の割合[%]にかかわらず同一である構成が用いられなくてもよく、例えば、通常巻線部111の割合[%]に応じて可変に設定されてもよい。
【0047】
<インダクタにおける電流とインダクタ値との関係>
図9は、実施形態に係るインダクタにおける電流とインダクタ値との関係の一例を示す図である。
図9に示されるグラフにおいて、横軸はコイルに流れる電流IL[A]を表しており、縦軸はインダクタ値L[μH]を表している。
【0048】
図9には、直交巻線有りかつ通常巻線が50%である場合の特性3111と、直交巻線無しかつ通常巻線が50%である場合の特性3112と、直交巻線無しかつ通常巻線が100%である場合の特性3113と、を示してある。
なお、本実施形態では、直交巻線無しかつ通常巻線が50%である場合の特性3112、および、直交巻線無しかつ通常巻線が100%である場合の特性3113は、比較例として示されている。
【0049】
ここで、直交巻線有りかつ通常巻線が50%である場合の特性3111は、コア11に直交巻線21が配置され、かつ、コア11の円周のうちの50%の部分に通常巻線が配置されたインダクタの特性を表している。この場合のインダクタでは、通常巻線ギャップ部は50%となる。このように、特性3111は、直交巻線と通常巻線とを併用する構成と、通常巻線について不均一の巻線とする構成と、が組み合わされた構成の特性である。
【0050】
また、直交巻線無しかつ通常巻線が50%である場合の特性3112は、コア11に直交巻線が配置されず、かつ、コア11の円周のうちの50%の部分に通常巻線が配置されたインダクタの特性を表している。この場合のインダクタでは、通常巻線ギャップ部は50%となる。
【0051】
また、直交巻線無しかつ通常巻線が100%である場合の特性3113は、コア11に直交巻線が配置されず、かつ、コア11の円周のすべて(100%)の部分に通常巻線が配置されたインダクタの特性を表している。この場合のインダクタでは、通常巻線ギャップ部は無し(0%)となる。
【0052】
図9の例では、すべての電流ILの領域(グラフの横軸の範囲)にわたって、直交巻線有りかつ通常巻線が50%である場合の特性3111におけるインダクタ値Lが、他の特性である特性3112および特性3113におけるインダクタ値Lと比べて、大きい値となっている。
【0053】
特性3111では、不均一な通常巻線のみのコイルの特性3112に対して、すべての電流ILの領域にわたって、インダクタ値Lが30~36[μH](5~43%)高くなっていて優れている。
また、特性3111では、均一な通常巻線のみのコイルの特性3113に対して、すべての電流ILの領域にわたって、インダクタ値Lが20~115[μH](10~25%)高くなっていて優れている。
このように、特性3111では、直流重畳特性の改善効果を得ることができる。
【0054】
なお、直交巻線と通常巻線とが併用されるコイルの構造では、例えば、電流リプルΔILが大きくなる用途において、渦電流損の増加が発生する場合が考えられる。また、不均一な巻線が用いられるコイルの構造では、例えば、電流リプルΔILが大きくなる用途において、近接効果による交流抵抗の増加、ソレノイドコイルと同様に漏れ磁束による周辺部品へのノイズ干渉が発生する場合が考えられる。
これらのような場合には、例えば、インダクタは、電流連続モード(CCM)の平滑用チョークコイルに適用されてもよい。ただし、本実施形態に係るインダクタは、任意の用途に適用されてもよい。
また、直交巻線と通常巻線とが併用されるコイルにおける当該直交巻線は、例えば、別巻線の共振インダクタとして利用されてもよい。
【0055】
<直交巻線と通常巻線との接続>
図10および
図11を参照して、直交巻線と通常巻線との接続について説明する。
図10および
図11のそれぞれには、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
【0056】
図10は、実施形態に係る直交巻線221と通常巻線222とが直接接続されるインダクタ201の外観の一例を示す図である。
インダクタ201は、コア211と、直交巻線221と、通常巻線222と、を備える。
ここで、インダクタ201の概略的な構成は、
図1に示されるインダクタ1の場合と同様である。
【0057】
図10の例では、直交巻線221の一端と通常巻線222の一端とが直接接続されている。
すなわち、本実施形態では、説明の便宜上、直交巻線221と通常巻線222とを区別して説明しているが、
図10の例では、これらは一体の巻線223であると捉えられてもよい。この場合、直交巻線221を構成する第1導体と、通常巻線222を構成する第2導体についても、これらは一体の導体であると捉えられてもよい。
【0058】
図10には、直交巻線221の他端の側の部分(引き出し線の部分)である直交巻線導体部221aと、当該他端に相当する端部221bと、を示してある。
また、
図10には、通常巻線222の他端の側の部分(引き出し線の部分)である通常巻線導体部222aと、当該他端に相当する端部222bと、を示してある。
【0059】
ここで、直交巻線221の一端と通常巻線222の一端とを直接接続する手法としては、例えば、直交巻線221と通常巻線222とを1本の導体を用いて製造することで、最初から直交巻線221の一端と通常巻線222の一端とが直接接続されている手法が用いられてもよく、あるいは、直交巻線221と通常巻線222とを別々の導体を用いて製造した後に、直交巻線221の一端と通常巻線222の一端とを直接接続する手法が用いられてもよい。
【0060】
図11は、実施形態に係る直交巻線241と通常巻線242とが板金251を介して接続されるインダクタ202の外観の一例を示す図である。
インダクタ202は、コア231と、直交巻線241と、通常巻線242と、を備える。
ここで、インダクタ202の概略的な構成は、
図1に示されるインダクタ1の場合と同様である。
【0061】
図11の例では、直交巻線241の一端と通常巻線242の一端とが、板金251を介して、接続されている。
すなわち、本実施形態では、説明の便宜上、直交巻線241と通常巻線242とを区別して説明しているが、
図11の例では、板金251を含むとするとこれらは導電可能に接続されている。
【0062】
図11には、直交巻線241の他端の側の部分(引き出し線の部分)である直交巻線導体部241aと、当該他端に相当する端部241bと、を示してある。
また、
図11には、通常巻線242の他端の側の部分(引き出し線の部分)である通常巻線導体部242aと、当該他端に相当する端部242bと、を示してある。
【0063】
ここで、例えば、直交巻線241と通常巻線242とを別々の導体を用いて製造した後に、直交巻線241の一端を板金251と接続するとともに、通常巻線242の一端を板金251と接続する手法が用いられてもよい。
図11には、直交巻線241の一端の側の部分である直交巻線導体部241cと、当該一端に相当する端部241dと、を示してある。直交巻線導体部241cは、板金251と導電可能に接続されている。
また、
図11には、通常巻線242の一端の側の部分である通常巻線導体部242cと、当該一端に相当する端部242dと、を示してある。通常巻線導体部242cは、板金251と導電可能に接続されている。
【0064】
なお、中継用の板金251としては、例えば、圧着端子が用いられてもよい。
また、板金251の代わりに、基板(回路基板)が用いられてもよい。基板が用いられる場合、第1導体および第2導体のそれぞれが基板と接続され、当該基板を介して第1導体と第2導体とが接続される。
【0065】
<直交巻線(第1導体)と第2導体を備えるインダクタ>
図12および
図13を参照して、直交巻線(第1導体)と第2導体を備えるインダクタについて説明する。
図12および
図13のそれぞれには、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
【0066】
図12は、実施形態の他の構成例に係る直交巻線321(第1導体)と第2導体322とが直接接続されるインダクタ301の外観の一例を示す図である。
図12に示されるインダクタ301の構成は、概略的には、
図10に示されるインダクタ201の構成と比べて、通常巻線の代わりに、コアの中空部分を1回通過する第2導体を備える点で相違している。
【0067】
インダクタ301は、コア311と、直交巻線321と、第2導体322と、を備える。
図12の例では、コア311は、4個の磁性体311a、311b、311c、311dが積み重ねられて構成されたスタックコアである。
【0068】
図12の例では、直交巻線321の一端と第2導体322の一端とが直接接続されている。
すなわち、本実施形態では、説明の便宜上、直交巻線321(第1導体)と第2導体322とを区別して説明しているが、
図12の例では、これらは一体の導体部323であると捉えられてもよい。この場合、直交巻線321を構成する第1導体と、第2導体322とが、一体の導体であると捉えられてもよい。
【0069】
図12には、直交巻線321の他端の側の部分(引き出し線の部分)である直交巻線導体部321aと、当該他端に相当する端部321bと、を示してある。
また、
図12には、第2導体322の他端の側の部分(引き出し線の部分)である第2導体部322aと、当該他端に相当する端部322bと、を示してある。
【0070】
ここで、直交巻線321の一端と第2導体322の一端とを直接接続する手法としては、例えば、直交巻線321(第1導体)と第2導体322とを1本の導体を用いて製造することで、最初から直交巻線321の一端と第2導体322の一端とが直接接続されている手法が用いられてもよく、あるいは、直交巻線321(第1導体)と第2導体322とを別々の導体を用いて製造した後に、直交巻線321の一端と第2導体322の一端とを直接接続する手法が用いられてもよい。
【0071】
図13は、実施形態の他の構成例に係る直交巻線341(第1導体)と第2導体342とが板金351を介して接続されるインダクタ302の外観の一例を示す図である。
図13に示されるインダクタ302の構成は、概略的には、
図11に示されるインダクタ202の構成と比べて、通常巻線の代わりに、コアの中空部分を1回通過する第2導体を備える点で相違している。
【0072】
インダクタ302は、コア331と、直交巻線341と、第2導体342と、を備える。
図13の例では、コア331は、4個の磁性体331a、331b、331c、331dが積み重ねられて構成されたスタックコアである。
【0073】
図13の例では、直交巻線341の一端と第2導体342の一端とが、板金351を介して、接続されている。
すなわち、本実施形態では、説明の便宜上、直交巻線341と第2導体342とを区別して説明しているが、
図13の例では、板金351を含むとするとこれらは導電可能に接続されている。
【0074】
図13には、直交巻線341の他端の側の部分(引き出し線の部分)である直交巻線導体部341aと、当該他端に相当する端部341bと、を示してある。
また、
図13には、第2導体342の他端の側の部分(引き出し線の部分)である第2導体部342aと、当該他端に相当する端部342bと、を示してある。
【0075】
ここで、例えば、直交巻線341と第2導体342とを別々の導体を用いて製造した後に、直交巻線341の一端を板金351と接続するとともに、第2導体342の一端を板金351と接続する手法が用いられてもよい。
図13には、直交巻線341の一端の側の部分である直交巻線導体部341cと、当該一端に相当する端部341dと、を示してある。直交巻線導体部341cは、板金351と導電可能に接続されている。
また、
図13には、第2導体342の一端の側の部分である第2導体部342cと、当該一端に相当する端部342dと、を示してある。第2導体部342cは、板金351と導電可能に接続されている。
【0076】
なお、中継用の板金351としては、例えば、圧着端子が用いられてもよい。
また、板金351の代わりに、基板などが用いられてもよい。基板が用いられる場合、第1導体および第2導体のそれぞれが基板と接続され、当該基板を介して第1導体と第2導体とが接続される。
【0077】
<通常巻線の分割>
図14は、実施形態に係る複数の通常巻線部422a、422b、422cを有するインダクタ401の外観の一例を示す図である。
図14には、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
【0078】
インダクタ401は、コア411と、直交巻線421と、3個に分離された通常巻線の部分である通常巻線部422a、通常巻線部422b、通常巻線部422cと、を備える。
通常巻線部422a、通常巻線部422b、通常巻線部422cと、は直列に接続されている。本例では、通常巻線部422a、通常巻線部422b、通常巻線部422cと、は、この順で、直接的に接続されているが、他の構成例として、板金または回路基板を介して間接的に接続されている箇所があってもよい。
ここで、
図14に示されるインダクタ401の構成は、概略的には、
図1に示されるインダクタ1の構成と比べて、通常巻線が3個の部分(通常巻線部)に分離されている点で相違している。
【0079】
図14の例では、3個の通常巻線部(通常巻線部422a、通常巻線部422b、通常巻線部422c)は、同一(または、ほぼ同一)の形状を有しており、つまり、コア411の円周において同一(または、ほぼ同一)の角度分の大きさを有している。
図14の例では、3個の通常巻線部(通常巻線部422a、通常巻線部422b、通常巻線部422c)が、コア411の円周において対称な位置に配置されている。
【0080】
ここで、通常巻線が分割される数としては、2以上の任意の数が用いられてもよい。
また、複数の通常巻線部の配置としては、必ずしも対称な位置に配置されなくてもよく、他の任意の配置が用いられてもよい。
また、複数の通常巻線部としては、必ずしも同一の形状のものが用いられなくてもよく、例えば、異なる形状のものが含まれてもよい。
【0081】
<1ターン未満の第2導体>
図15は、実施形態に係る1ターンの直交巻線521および1ターン未満の第2導体522を有するインダクタ501の一例を示す図である。
図15には、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
【0082】
インダクタ501は、コア511と、直交巻線521と、第2導体522と、を備える。
図15の例では、直交巻線521は、1巻き(1ターン)の巻線である。
また、
図15の例では、第2導体522は、1巻き(1ターン)未満の状態となっている。
ここで、第2導体522は、例えば、線状の部材であってもよい。
【0083】
なお、例えば、1ターンの直交巻線と、1ターン以上の巻き数を有する通常巻線と、を有するインダクタが構成されてもよい。
また、例えば、複数ターンの直交巻線と、1ターン未満の第2導体と、を有するインダクタが構成されてもよい。
【0084】
<他の構成例に係る直交巻線と通常巻線との配置の順序>
図16は、実施形態に係る通常巻線572が内側に配置され直交巻線571が外側に配置されたインダクタ551の外観の一例を示す図である。
図16には、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
【0085】
インダクタ551は、コア561と、直交巻線571と、通常巻線572と、を備える。
ここで、
図16に示されるインダクタ551の構成は、概略的には、
図1に示されるインダクタ1の構成と比べて、直交巻線と通常巻線との配置の順序が異なる点で相違している。
【0086】
図16の例に係るインダクタ551では、コア561に通常巻線572が巻回された状態で、通常巻線572の外側に直交巻線571が巻回されている。
つまり、コア561の側面において、内側に通常巻線572が配置されており、外側に直交巻線571が配置されている。
【0087】
<コアの構成例>
図17および
図18を参照して、コアの構成例を示す。
図1の例に係るインダクタ1では、隙間(エアギャップ)の無い閉磁路を有するトロイダルのコア11が用いられる場合を示した。
インダクタのコアとしては、他の形状のコアが用いられてもよい。
また、インダクタのコアとしては、必ずしも隙間(エアギャップ)の無い閉磁路を有するコア(閉磁路コア)が用いられなくてもよく、例えば、隙間(エアギャップ)を有するコアが用いられてもよい。
なお、説明の便宜上、エアギャップの無いコアは、エアギャップ無しのコアと呼ばれてもよい。同様に、説明の便宜上、エアギャップを有するコアは、エアギャップ有りのコアと呼ばれてもよい。
【0088】
なお、隙間(エアギャップ)を有するコアについても、例えば、実質的に隙間(エアギャップ)の影響が小さいような場合に、閉磁路を有するコア(閉磁路コア)とみなされてもよい。
つまり、隙間(エアギャップ)を有するコアは、例えば、隙間(エアギャップ)の無い閉磁路を有するコアに対して明確に区別されてもよく、あるいは、隙間(エアギャップ)の無い閉磁路を有するコアと実質的に同様なものであると捉えられる場合があってもよい。
【0089】
図17は、実施形態に係るUUコア611の一例を示す図である。
UUコア611は、1個のU部(説明の便宜上、第1のU部611aとも呼ぶ。)と、他の1個のU部(説明の便宜上、第2のU部611bとも呼ぶ)と、が組み合わされて構成される。
図17の例では、図示を見易くするために、第1のU部611aと第2のU部611bとが離隔されて示されているが、これらは互いに接触させられて(または、近接させられて)配置されることで、UUコア611が構成される。
ここで、例えば、第1のU部611aは、その厚みが一様(または、ほぼ一様)であり、また、第2のU部611bは、その厚みが一様(または、ほぼ一様)である。また、第1のU部611aと第2のU部611bとも、例えば、これらの厚みが一様(または、ほぼ一様)である。
このようなUUコア611が、インダクタのコアとして用いられてもよい。
【0090】
図18は、実施形態に係るUIコア631の一例を示す図である。
UIコア631は、U部631aと、I部631bと、が組み合わされて構成される。
図18の例では、図示を見易くするために、U部631aとI部631bとが離隔されて示されているが、これらは互いに接触させられて(または、近接させられて)配置されることで、UIコア631が構成される。
ここで、例えば、U部631aは、その厚みが一様(または、ほぼ一様)であり、また、I部631bは、その厚みが一様(または、ほぼ一様)である。また、U部631aとI部631bとも、例えば、これらの厚みが一様(または、ほぼ一様)である。
このようなUIコア631が、インダクタのコアとして用いられてもよい。
【0091】
また、例えば、R付きブロックコア(Rブロックコア)とIコアとを組み合せたものが、インダクタのコアとして用いられてもよい。
【0092】
<比較例に係るインダクタ>
図19~
図21を参照して、比較例に係るインダクタについて説明する。
図19は、比較例に係るインダクタ1001の外観の一例を示す図である。
図19には、説明の便宜上、
図1に示されるのと同様なXYZ直交座標系を示してある。
【0093】
比較例に係るインダクタ1001は、コア1011と、通常巻線の部分(通常巻線部1022)と、を備える。
ここで、比較例に係るインダクタ1001の構成は、概略的には、
図1に示されるインダクタ1の構成と比べて、直交巻線(または、第2導体)を備えていない点、および、通常巻線がコア1011の円周のうちの一部(
図19の例では、50%の部分)に配置されている点で相違している。
【0094】
比較例に係るインダクタ1001では、コア1011の円周のうちの一部に通常巻線が配置されることで、通常巻線の部分のインダクタンス成分に、空気中への漏れインダクタンス成分が加算された特性となる。
【0095】
図20は、比較例に係るインダクタ1001における電流とインダクタ値との関係の一例を示す図である。
図20に示されるグラフにおいて、横軸はコイル(通常巻線部1022)に流れる電流IL[A]を表しており、縦軸はインダクタ値L[μH]を表している。
【0096】
図20には、直交巻線無しかつ通常巻線が10%である(通常巻線ギャップ部が90%である)場合の特性3311と、直交巻線無しかつ通常巻線が20%である(通常巻線ギャップ部が80%である)場合の特性3312と、直交巻線無しかつ通常巻線が30%である(通常巻線ギャップ部が70%である)場合の特性3313と、直交巻線無しかつ通常巻線が50%である(通常巻線ギャップ部が50%である)場合の特性3314と、直交巻線無しかつ通常巻線が70%である(通常巻線ギャップ部が30%である)場合の特性3315と、直交巻線無しかつ通常巻線が100%である(通常巻線ギャップ部が0%である)場合の特性3316と、を示してある。
【0097】
ここで、直交巻線無しかつ通常巻線がM(Mは0以上100以下の値)%である場合の特性は、コア1011に直交巻線が配置されず、かつ、コア1011の円周のうちのM%の部分に通常巻線が配置されたインダクタの特性を表している。この場合のインダクタでは、通常巻線ギャップ部は(100-M)%となる。
【0098】
図21は、比較例に係るインダクタ1001の通常巻線ギャップ部の比率(割合)とインダクタ値の差分割合との関係の一例を示す図である。
図21に示されるグラフにおいて、横軸は通常巻線ギャップ部の比率[%]を表しており、縦軸は電流IL=0[A]におけるインダクタ値L[μH]の差分割合ΔL[%]を表している。
【0099】
図21には、比較例に係るインダクタ1001の通常巻線ギャップ部の比率とインダクタ値の差分割合との関係を表す特性3411を示してある。
図21の例では、通常巻線ギャップ部の比率[%]が大きくなるほど、電流IL=0[A]におけるインダクタ値L[μH]の差分割合ΔL[%]が大きくなっている。
図21の例では、これらの関係が曲線状になっている。
【0100】
ここで、比較例に係るインダクタ1001は、漏れインダクタを利用した構成となっている。
一般に、コア1011に不均一な巻線(通常巻線部1022)を実装した構成、あるいは、層数を増やした構成では、漏れ磁束B(k)によるリーケージインダクタL(k)が発生する。
【0101】
図20に示されるグラフでは、通常巻線部1022の比率(逆に言えば、通常巻線ギャップ部の比率)が変化したときにおける直流重畳特性が表されている。
なお、
図20の例では、通常巻線部1022の比率(逆に言えば、通常巻線ギャップ部の比率)を変化させる際に、巻線の厚みあるいは内周ギャップの調整は行われていないため、同線径コイルでの厳密な比較ではない。
【0102】
図21の例では、電流IL=0[A]での比較において、巻線ギャップが大きいほどインダクタ値Lが大きくなり、最大で45%のインダクタ値Lの増加が示されている。
ただし、
図20の例において、電流IL>47[A]となる付近では、異なる巻線ギャップの間でインダクタ値Lの大小関係の逆転が発生している。これは、コアにおいて巻線が存在する部分では磁束(磁束密度)が高くなるという現象に起因する。このように磁束(磁束密度)が高くなる部分では、磁気飽和が生じ易くなる。
しかし、電流ILがさらに大きくなる領域では、空芯コイルとしての特性が支配的になるため、再び、巻線ギャップが大きいコイルのインダクタ値Lが大きくなる。
なお、
図20の例では、例えば、定格30[A]の平滑コイルとして設計されるような場合には、使用電流のすべての領域で、インダクタの直流重畳特性の改善効果が得られる。
【0103】
[以上の実施形態について]
以上のように、本実施形態に係るインダクタでは、コアの側面の周囲に巻回される第1巻線と、当該コアの中空部分に通される第2巻線と、を有し、直流重畳特性を改善することができる。
このように、本実施形態に係るインダクタでは、直交巻線と通常巻線との両方を使用することで、直流重畳特性を改善することができる。
【0104】
本実施形態に係るインダクタでは、コアの外周に沿って巻かれた直交巻線を有し、インダクタ成分を増加させ、直流重畳特性を改善している。
具体的には、本実施形態に係るインダクタでは、通常巻線による磁束密度が低いコアの外周の領域に直交巻線により磁束を発生させ、ソレノイドコイルのような空気を介した磁束ループによるインダクタ成分を利用している。
【0105】
本実施形態に係るインダクタでは、例えば、通常巻線に関して巻線ギャップを設けて、不均一な通常巻線(通常巻線部)を備えることで、インダクタ値を増加させることが可能である。
【0106】
本実施形態に係るインダクタでは、例えば、トロイダルコアのインダクタ成分(通常巻線によるインダクタ成分)以外のインダクタンス成分を有効活用したインダクタ部品を実現することが可能である。
また、本実施形態に係るインダクタでは、例えば、汎用のトロイダルコアを用いて、直流重畳特性を改善したインダクタ部品を実現することが可能である。
【0107】
なお、本実施形態に係るインダクタでは、例えば、トロイダルコア以外のコアが用いられる場合においても、直流重畳特性を改善することが可能である。
また、本実施形態に係るインダクタでは、例えば、通常巻線の代わりに、第2導体(ここでは、巻線となっていない形状の導体)を備える構成においても、直流重畳特性を改善することが可能である。つまり、本実施形態に係るインダクタでは、コアの側面の周囲に巻回される第1巻線と、当該コアの中空部分に通される第2導体と、を有し、直流重畳特性を改善することができる。
【0108】
以上のように、インダクタの直流重畳特性の改善が図られる。
本実施形態では、例えば、透磁率μが異なるマルチコアを用いなくても、汎用のコアを用いることで、インダクタの直流重畳特性の改善を図ることができる。
例えば、直交巻線と通常巻線との併用コイルにおいて、適度な間隔(巻回の間隔)で直交巻線を実装することで、トロイダルコアの内部の磁束密度が低い領域に、直交巻線による磁束を生じさせる効果がある。
例えば、さらに、通常巻線に関して、漏れインダクタを含んだ不均一巻きコイルを用いる場合、巻線ギャップが大きいほど、低電流域のインダクタ値が増加することが期待される。
【0109】
ここで、例えば、平滑用チョークコイルの形状として、EIコアなどの3脚コイル、ソレノイドコイル(開磁路)、トロイダルコイル(閉磁路)が広く用いられている。EIコアあるいはソレノイドコイルは巻線の生産性に優れるが、一部の高硬度ダストコア材は複雑な形状にプレスすることが難しいため、トロイダル形状あるいは大きいE/I形状に限定される場合もある。複雑な形状にプレスが難しいダストコア材として、例えば、低損失、かつ、優れた直流重畳特性を有する磁性材料もある。また、安価ながら優れた特性を有するが、トロイダルコア形状に限定される磁性材料もある。
このように、ダストコアにおいて、EQコアなどにプレスできず、トロイダルコアのみに対応した製品が見受けられる。これに伴い、トロイダルコアを有効利用する技術が求められていた。
これに対して、本実施形態に係るインダクタでは、トロイダルコアを有効利用することが可能である。
【0110】
なお、直流重畳特性を改善する手法として、例えば、内径になるにつれてB(r)が均一になるように、コアの透磁率μを低くしたマルチコア構造を用いる手法、あるいは、透磁率μが異なる材料の境界面における磁束屈曲により磁束密度を均一化する手法も考えられる。このような手法が用いられてもよいが、通常、このような手法では、汎用のトロイダルコアによる実現には制限がある。
本実施形態では、例えば、汎用のトロイダルコアが用いられるような場合においても、各種の平滑インダクタの直流重畳特性を改善すること、および、インダクタ値を増加させることが可能である。本実施形態では、例えば、汎用のトロイダルコアが用いられるような場合においても、チョークコイルの直流重畳特性を改善することが可能である。
【0111】
[構成例]
一構成例として、インダクタは、エアギャップ無しまたはエアギャップ有りのコアの外周に第1導体が巻回された第1巻線と、コアの内周により形成された挿通穴に挿通され、第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体と、を備える。
したがって、インダクタでは、コアの側面の周囲に巻回される第1巻線と、当該コアの中空部分に通される第2導体と、を有し、直流重畳特性を改善することができる。
【0112】
図1の例では、インダクタ1は、コア11の外周に第1導体が巻回された第1巻線(直交巻線21)と、コア11の内周により形成された挿通穴に挿通され、第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体(第2導体が巻回された通常巻線22)と、を備える。なお、
図10の例および
図11の例の場合も同様である。
図12の例では、インダクタ301は、コア311の外周に第1導体が巻回された第1巻線(直交巻線321)と、コア311の内周により形成された挿通穴に挿通され、第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体322と、を備える。なお、
図13の例の場合も同様である。
図14の例では、インダクタ401は、コア411の外周に第1導体が巻回された第1巻線(直交巻線421)と、コア411の内周により形成された挿通穴に挿通され、第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体(第2導体が巻回された3個の通常巻線部422a、422b、422cからなる通常巻線)と、を備える。
図15の例では、インダクタ501は、コア511の外周に第1導体が巻回された第1巻線(直交巻線521)と、コア511の内周により形成された挿通穴に挿通され、第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体522と、を備える。
図16の例では、インダクタ551は、コア561の外周に第1導体が巻回された第1巻線(直交巻線571)と、コア561の内周により形成された挿通穴に挿通され、第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体(第2導体が巻回された通常巻線572)と、を備える。
【0113】
一構成例として、インダクタにおいて、第1巻線と第2導体とは直列に接続されている。
図10の例では、インダクタ201において、第1巻線(直交巻線221)と第2導体(第2導体が巻回された通常巻線222)とは、直接的に接続されている。
図12の例では、インダクタ301において、第1巻線(直交巻線321)と第2導体322とは、直接的に接続されている。
【0114】
一構成例として、インダクタにおいて、第1巻線と第2導体とは、板金または回路基板を介して、直列に接続されている。
図11の例では、インダクタ202において、第1巻線(直交巻線241)と第2導体(第2導体が巻回された通常巻線242)とは、板金251を介して、間接的に接続されている。
図13の例では、インダクタ302において、第1巻線(直交巻線341)と第2導体342とは、板金351を介して、間接的に接続されている。
【0115】
一構成例として、インダクタにおいて、第2導体は、挿通穴と外周とを交互に通るように巻回された第2巻線であり、外周の範囲に、均一に、または不均一に、あるいは分割されて、巻回されている。
図1の例では、インダクタ1において、第2導体は、挿通穴と外周とを交互に通るように巻回された第2巻線(通常巻線22)であり、外周の範囲に、均一に、巻回されている。
図8の例(模式的な例)では、インダクタ1において、第2導体は、挿通穴と外周とを交互に通るように巻回された第2巻線(通常巻線部111)であり、外周の範囲に、不均一に、巻回されている。
図14の例では、インダクタ401において、第2導体は、挿通穴と外周とを交互に通るように巻回された第2巻線(3個の通常巻線部422a、422b、422cからなる通常巻線)であり、外周の範囲に、分割されて、巻回されている。
【0116】
一構成例(例えば、
図1の例)として、インダクタにおいて、コアは、トロイダルコアである。
【0117】
一構成例として、インダクタにおいて、コアは、コアの厚みが略一様であるUUコア(
図17の例では、UUコア611)、UIコア(
図18の例では、UIコア631)、または、RブロックコアとIコアとの組み合わせである。
【0118】
一構成例として、インダクタにおいて、コアは、スタック構成である。
図3の例では、3個の磁性体11a~11cが積み重ねられて、コア11が構成されている。
【0119】
以上、この開示の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この開示の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0120】
<付記>
(構成例1)~(構成例7)を示す。
(構成例1)
エアギャップ無しまたはエアギャップ有りのコアの外周に第1導体が巻回された第1巻線と、
前記コアの内周により形成された挿通穴に挿通され、前記第1巻線の巻回方向に対して平行でない方向となる第2導体と、
を備えるインダクタ。
(構成例2)
前記第1巻線と前記第2導体とは直列に接続されている、
(構成例1)に記載のインダクタ。
(構成例3)
前記第1巻線と前記第2導体とは、板金または回路基板を介して、直列に接続されている、
(構成例2)に記載のインダクタ。
(構成例4)
前記第2導体は、前記挿通穴と前記外周とを交互に通るように巻回された第2巻線であり、前記外周の範囲に、均一に、または不均一に、あるいは分割されて、巻回されている、
(構成例1)から(構成例3)のいずれか1つに記載のインダクタ。
(構成例5)
前記コアは、トロイダルコアである、
(構成例1)から(構成例4)のいずれか1項に記載のインダクタ。
(構成例6)
前記コアは、コアの厚みが略一様であるUUコア、UIコア、または、RブロックコアとIコアとの組み合わせである、
(構成例1)から(構成例4)のいずれか1項に記載のインダクタ。
(構成例7)
前記コアは、スタック構成である、
(構成例1)から(構成例6)のいずれか1項に記載のインダクタ。
【符号の説明】
【0121】
1、201、202、301、302、401、501、551、1001…インダクタ、11、211、231、311、331、411、511、561、1011…コア、11a、11b、11c、311a、311b、311c、311d、331a、331b、331c、331d…磁性体、21、221、241、321、341、421、521、571…直交巻線、22、222、242、572…通常巻線、31…第1コイル、32…第2コイル、111、422a、422b、422c、1022…通常巻線部、112…通常巻線ギャップ部、221a、241a、241c、321a、341a、341c…直交巻線導体部、221b、222b、241b、242b、241d、242d、321b、322b、341b、342b、341d、342d…端部、222a、242a、242c…通常巻線導体部、223…巻線、251、351…板金、322、342、522…第2導体、322a、342a、342c…第2導体部、323…導体部、611…UUコア、611a…第1のU部、611b…第2のU部、631…UIコア、631a…U部、631b…I部、2011…磁界解析シミュレーション結果、3011、3012、3111~3113、3311~3316、3411…特性