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特開2024-34155草刈機付き車両および草刈機の取付ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034155
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】草刈機付き車両および草刈機の取付ユニット
(51)【国際特許分類】
   A01D 34/64 20060101AFI20240306BHJP
   A01D 34/685 20060101ALI20240306BHJP
   A01D 34/69 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A01D34/64 C
A01D34/685
A01D34/64 M
A01D34/69
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138215
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 和崇
【テーマコード(参考)】
2B083
【Fターム(参考)】
2B083AA02
2B083BA12
2B083BA19
2B083DA03
2B083HA07
2B083HA32
(57)【要約】
【課題】草刈機に損傷が及んだり、車両の走行に支障を来したりするなどの弊害を伴うことなく、草刈りを効率的に行う。
【解決手段】
草刈機付き車両1は、車両の前部に備わる車輪21R、21Lと、車輪を支持する車体フレーム11a~11dと、電動式の草刈機31a、31bと、車体フレームと草刈機との間に介装され、草刈機を車体フレームに対して支持する支持機構411~413と、を備え、支持機構は、草刈機を、車輪の接地点よりも上方に保持するとともに、車体フレームに対して相対的に上下方向に移動可能に支持する。草刈機は、通常時には車輪の接地点よりも上方の第1位置P1にあり、草刈機への上向きの力の入力に対し、第1位置よりも上方に移動可能である。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に備わる車輪と、
前記車輪を支持する車体フレームと、
電動式の草刈機と、
前記車体フレームと前記草刈機との間に介装され、前記草刈機を前記車体フレームに対して支持する支持機構と、を備え、
前記支持機構は、前記草刈機を、前記車輪の接地点よりも上方に保持するとともに、前記車体フレームに対して相対的に上下方向に移動可能に支持し、
前記草刈機は、通常時には前記車輪の接地点よりも上方の第1位置にあり、前記草刈機への上向きの力の入力に対し、前記第1位置よりも上方に移動可能である、草刈機付き車両。
【請求項2】
前記車輪は、当該車両の前部において左右夫々に備わるとともに、
前記車体フレームは、前記車輪の車軸の間に掛け渡された懸架部材を備え、
前記支持機構は、
前記草刈機が取り付けられた本体部と、
前記懸架部材から垂下し、前記懸架部材に対して前記本体部を上下方向に移動可能に連結する連結部と、を備え、
前記草刈機への上向きの力の入力に対し、前記草刈機および前記本体部が一体として移動する、
請求項1に記載の草刈機付き車両。
【請求項3】
前記連結部は、前記懸架部材を前記車両の前後および上下方向における前後および上方から包囲する逆U字状をなし、前記本体部の上方への動きを許容する一方、前後方向の動きを規制する、
請求項2に記載の草刈機付き車両。
【請求項4】
前記支持機構は、前記本体部から上方に延在し、前記懸架部材に対し、上下方向の軸を中心とする前記本体部の回転を制限可能に係止する回転規制部を有する、
請求項2に記載の草刈機付き車両。
【請求項5】
前記本体部から前方に延在する操作アームをさらに備え、
前記操作アームに対する上向きの力を前記本体部に伝達して、前記本体部を上方に移動可能である、
請求項2に記載の草刈機付き車両。
【請求項6】
前記草刈機は、
第1草刈機と、
前記第1草刈機に対して前記車両の前後方向にずらして配置された第2草刈機と、を備え、
前記第1草刈機と前記第2草刈機とは、互いの刈取可能範囲が前記車幅方向に重複する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の草刈機付き車両。
【請求項7】
前記第1および第2草刈機のうち、前記車両の前後方向における前側に配置された草刈機は、その前縁が前記車輪の前縁よりも後方に位置する、
請求項6に記載の草刈機付き車両。
【請求項8】
前記第1および第2草刈機は、当該車両を車幅方向にみた側方視において、前記車輪の外周縁よりも車軸に近い内側に位置する、
請求項7に記載の草刈機付き車両。
【請求項9】
当該車両の駆動源を構成する電動モータと、
前記草刈機および前記電動モータを無線により遠隔操作可能に構成されたコントローラと、をさらに備える、
請求項1から5のいずれか一項に記載の草刈機付き車両。
【請求項10】
一対の車輪の間に掛け渡された懸架部材を備える車両に草刈機を装着する草刈機の取付ユニットであって、
前記草刈機が取り付けられる本体部と、
前記懸架部材と前記本体部とを、前記本体部を前記懸架部材に対して上下方向に移動可能に連結する連結部と、を備え、
前記連結部は、通常時には前記懸架部材から垂下して、前記草刈機を前記車両の接地点よりも上方の第1位置に保持する一方、前記草刈機への上向きの力の入力に対して前記草刈機および前記本体部を上方に移動させ、前記草刈機を前記第1位置よりも上昇させる、草刈機の取付ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、草刈機付き車両および草刈機の取付ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
農地等における雑草処理作業は、重労働な作業であり、専用の草刈機を用いて行われるのが一般的である。
【0003】
特許文献1には、刈取用の複数のブレードを備え、複数のブレードのそれぞれが電動機であるブレードモータにより個別に駆動可能に構成されるとともに、それら複数のブレードが走行機体の前方に配置された芝刈機が開示されている。
【0004】
他方で、収穫した農作物の運搬等、屋外作業を補助する目的で用いられる自走式モビリティが存在する。「モバイルムーバー」(登録商標)は、その一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-136305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記モバイルムーバーに雑草処理用の草刈機を装着し、モバイルムーバーを走らせながら草刈機を作動させ、雑草を刈り取ることができるようにしたいという要請がある。草刈機は、深い刈り込みを実現するうえで、草刈りを行う露地の地面から近い位置に配置することが求められるところ、草刈前の露地では、生い茂った雑草等により地面が隠され、その地表状態を目視により確認することが困難であるという実状がある。
【0007】
ここで、モバイルムーバーに対して草刈機を単に装着しただけの状態とするのであれば、草刈りの途中で雑草等に隠れた石、木または土塊等の障害物に草刈機が衝突したり、地面の段差または斜面等に草刈機が乗り上げたりして、草刈機に損傷が及んだり、車輪が地面から離れてモバイルムーバーが走行不能な事態に陥ったりすることが懸念される。
【0008】
これに対し、草刈機を配置する高さを調整し、草刈機と地面との間に障害物との衝突等を回避するのに充分なだけの余裕を持たせようとすれば、草刈機の位置が必然的に高くなり、草刈後に刈り残しが発生するという弊害を伴う。
【0009】
そこで、本発明は、草刈機に損傷が及んだり、車両の走行に支障を来したりするなどの弊害を伴うことなく、草刈りを効率的に行うことのできる草刈機付き車両および草刈機の取付ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため、本発明に係る草刈機付き車両は、車両の前部に備わる車輪と、前記車輪を支持する車体フレームと、電動式の草刈機と、前記車体フレームと前記草刈機との間に介装され、前記草刈機を前記車体フレームに対して支持する支持機構と、を備え、前記支持機構は、前記草刈機を、前記車輪の接地点よりも上方に保持するとともに、前記車体フレームに対して相対的に上下方向に移動可能に支持し、前記草刈機は、通常時には前記車輪の接地点よりも上方の第1位置にあり、前記草刈機への上向きの力の入力に対し、前記第1位置よりも上方に移動可能である。
【0011】
さらに、本発明に係る草刈機の取付ユニットは、一対の車輪の間に掛け渡された懸架部材を備える車両に草刈機を装着する草刈機の取付ユニットであって、前記草刈機が取り付けられる本体部と、前記懸架部材と前記本体部とを、前記本体部を前記懸架部材に対して上下方向に移動可能に連結する連結部と、を備え、前記連結部は、通常時には前記懸架部材から垂下して、前記草刈機を前記車両の接地点よりも上方の第1位置に保持する一方、前記草刈機への上向きの力の入力に対して前記草刈機および前記本体部を上方に移動させ、前記草刈機を前記第1位置よりも上昇させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、草刈機に損傷が及んだり、車両の走行に支障を来したりするなどの弊害を伴うことなく、草刈りを効率的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る草刈機付き車両の全体的な構成を示す平面図である。
図2】同上車両の図1に示すA-A線による断面図であり、当該車両に備わる車輪および動力分配機構の構成を模式的に示す。
図3】同上車両の図1に示すB-B線による断面図であり、本実施形態に係る支持機構の構成を模式的に示す。
図4】同上車両における草刈機の刈取可能範囲を示す説明図である。
図5】同上車両に備わる支持機構の動作を模式的に示す説明図であり、(A)は通常時の状態を、(B)は退避動作時の状態を夫々示す。
図6】同上車両に備わる支持機構の動作を図4と同様の断面により拡大して示す説明図であり、(A)は通常時の状態を、(B)は退避動作時の状態を夫々示す。
図7】同上車両に備わる制御システムの全体的な構成を示す概略図である。
図8】本発明の他の実施形態に係る草刈機付き車両に備わる支持機構の動作を模式的に示す説明図であり、(A)は通常時の状態を、(B)は退避動作時の状態を夫々示す。
図9】本発明の更に別の実施形態に係る草刈機付き車両の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る草刈機付き車両(以下、単に「車両」という)1の全体的な構成を示す平面図である。
【0016】
図2は、本実施形態に係る車両1の図1に示すA-A線による断面図であり、車両1に備わる車輪21(21R、21L)、22(22R、22L)および動力分配機構の構成を模式的に示す。図2(A)と図2(B)とは、同一の平面による断面を示すが、図2(A)は、懸架部材11cおよび支持部材11dを取り付けた状態を示し、図2(B)は、これらの部材11c、11dを取り外した状態を示す。図3は、車両1の図1に示すB-B線による断面図であり、支持機構41の構成を模式的に示す。図2および図3を適宜に参照しながら、図1に基づき、本実施形態に係る車両1の構成について説明する。
【0017】
本実施形態において、車両1は、電動式の作業車両に対し、取付ユニットを用いて草刈機31a、31bを取り付けたものである。草刈機31a、31bは、既存ないし市販のものであってもよく、本実施形態では、複数の草刈機31a、31bが取り付けられている。作業車両は、農作物の運搬や農薬の散布等に使用可能な汎用性の高いものであり、一例として、「モバイルムーバー」(登録商標)を適用することが可能である。作業車両に草刈機31a、31bを取り付けることで、作業車両を走らせながら、草刈機31a、31bを作動させて雑草処理作業を行うことが可能である。本実施形態では、草刈機31a、31bを取付ユニットにより着脱式に取り付けるが、草刈機31a、31bの取付形態は、これに限定されるものではなく、作業車両に対して固定式に取り付けるものであってもよい。さらに、図には明示していないが、車両1の車体フレーム11に荷台または台座を取り付けて荷受部を設置することにより、車両1を荷物だけでなく人の運搬にも便利に使用することが可能である。
【0018】
車両1は、車体フレーム11と、車輪21、22と、草刈機31a、31bと、支持機構41と、を備える。車体フレーム11および車輪21、22、そして、後に述べる駆動モータ51a、51bを含む車両1の車台部が作業車両に相当する。さらに、支持機構41が取付ユニットに相当する。支持機構41は、車体フレーム11に対して草刈機31a、31bを着脱可能に取り付ける取付ユニットとして、車台部とは別体に構成することが可能である。
【0019】
車体フレーム11は、左右一対のサイドメンバ11a、11aと、クロスメンバ11bと、懸架部材11cと、を備える。サイドメンバ11a、11aは、車両1の前後方向Dtlに対して平行に、互いに左右方向、つまり、車幅方向Dblに離間して配置されている。クロスメンバ11bは、車両1の後方部分、本実施形態では、後端部分において、サイドメンバ11a、11aの間に掛け渡すように配置され、サイドメンバ11a、11aと結合して、車両1の骨格構造を形成する。懸架部材11cは、車両1の前方部分において、サイドメンバ11a、11aの間に掛け渡すように配置され、サイドメンバ11a、11aと結合して、骨格構造の強度を増強する。ここに、サイドメンバ11a、11a、クロスメンバ11bおよび懸架部材11cは、全体としてラダー状の車体フレーム11を構成する。
【0020】
車輪21、22は、車両1の前方部分に備わる左右一対の車輪、つまり、右前輪21R、左前輪21Lと、車両1の後方部分に備わる左右一対の車輪、つまり、右後輪22R、左後輪22Lと、を含む。
【0021】
図2に示すように、懸架部材11cは、両端部分のそれぞれから垂下する軸支持部11c1、11c2を有する。本実施形態において、懸架部材11cの軸支持部11c1、11c2は、平板状に形成されている。右前輪21Rは、懸架部材11cの右側の軸支持部11c1により車軸211Rが支持され、左前輪21Lは、懸架部材11cの左側の軸支持部11c2により車軸211Lが支持され、右前輪21Rと左前輪21Lとは、いずれも回転自在な状態にある。
【0022】
さらに、車両1は、左右夫々のサイドメンバ11a、11aに結合され、クロスメンバ11bよりも後方に延在する支持部材11d、11dを有する。支持部材11d、11dは、懸架部材11cと同様に、本実施形態に係る車体フレーム11を構成する。
【0023】
支持部材11d、11dは、サイドメンバ11a、11aよりも下方に延在する軸支持部11d1、11d1を夫々有する。本実施形態において、支持部材11dの軸支持部11d1は、前後方向に長い平板状に形成され、サイドメンバ11aを介して懸架部材11cとの間の距離、換言すれば、前輪21R、21Lと後輪22R、22Lとの間の距離を規定する。右後輪22Rは、右側の支持部材11dの軸支持部11d1により車軸221Rが支持され、左後輪22Lは、左側の支持部材11dの軸支持部11d1により車軸221Lが支持され、右後輪22Rと左後輪22Lとは、いずれも回転自在な状態にある。
【0024】
本実施形態において、車両1は、駆動源として、電動機である駆動モータ51a、51bを備える。駆動モータ51a、51bは、右後輪22Rおよび左後輪22Lのそれぞれに対して設けられ、図示しないブラケットにより、車体フレーム11に対して支持されている。左右の支持部材11d、11dにこのブラケットの機能を兼備させることも可能である。駆動モータ51a、51bは、夫々独立に電流制御可能であり、右後輪22Rと左後輪22Lとのそれぞれに対して独立かつ個別に動力供給可能である。具体的には、右後輪22Rと左後輪22Lとを互いに等しい速度で回転させたり、一方の回転速度を他方の回転速度よりも低減させたり、一方を他方とは反対の方向に同一または異なる速度で回転させたりすることが可能である。
【0025】
右前輪21Rと右後輪22R、さらに、左前輪21Lと左後輪22Lとは、チェーン等の動力伝達媒体63R、63Lを介して互いに連結されている。具体的には、右前輪21Rの車軸211Rと右後輪22Rの車軸221Rとのそれぞれにスプロケット61R、62Rが取り付けられ、これら前後一対のスプロケット61R、62Rの間にチェーン63Rが掛け渡されている。さらに、左前輪21Lの車軸211Lと右後輪22Lの車軸221Lとのそれぞれにスプロケット61L、62Lが取り付けられ、これら前後一対のスプロケット61L、62Lの間にチェーン63Lが掛け渡されている。
【0026】
このように、車両1は、四輪駆動式であり、本実施形態において、前輪21R、21L側のスプロケット61R、61Lと後輪22R、22L側のスプロケット62R、62Lとは、互いに等しい歯数を有し、右前輪21Rと右後輪22Rとは、互いに同じ方向に等しい速度で回転し、左前輪21Lと左後輪22Lとは、互いに同じ方向に等しい速度で回転する。
【0027】
図1に戻り、草刈機31a、31bは、いずれも電動式であり、草刈機本体と電動機とを備える。換言すれば、草刈機31a、31bは、電動機内蔵型または電動機一体型の草刈機である。草刈機本体は、その外周面よりも径方向外方に張り出したナイロンコード等の紐状部材32a、32bを有し(図4)、紐状部材32a、32bを草刈機本体の周りで高速で回転させることにより、紐状部材32a、32bが届く範囲の雑草を切断する。図1中、紐状部材32a、32bが届く円形の範囲を、二点鎖線により示す。ただし、この範囲自体は、草刈機31a、31bの刈取可能範囲Ra、Rbとは相違する。
【0028】
図4は、車両1における草刈機31a、31bの刈取可能範囲Ra、Rbを示す説明図である。
【0029】
図4中、二点鎖線により示す円形の範囲は、草刈機31a、31b夫々の紐状部材32a、32bが届く範囲であり、この円形の範囲の一部、具体的には、車両1の前進方向に開いた扇形の部分が刈取可能範囲Ra、Rb、つまり、紐状部材32a、32bにより実際に雑草を刈り取ることのできる範囲に相当する。図4は、刈取可能範囲Ra、Rbを斜線により示す。
【0030】
本実施形態では、車両1の前後方向にずらして2つの草刈機、つまり、第1草刈機31aと第2草刈機31bとが設けられている。そして、車両1の前進方向に対して前方に配置された第1草刈機31aと後方に配置された第2草刈機31bとは、互いの刈取可能範囲Ra、Rbが車幅方向Dblに重なり合うように、それぞれの取付位置が設定されている。図4は、第1草刈機31aと第2草刈機31bとの刈取可能範囲Ra、Rbが互いに重なり合う車幅方向Dblの範囲を、符号OLにより示す。本実施形態では、第1草刈機31aの刈取可能範囲Raのうち、紐状部材32aの回転方向前方の一部と、第2草刈機31bの刈取可能範囲Rbのうち、紐状部材32bの回転方向後方の一部とが、車幅方向Dblに重複する。
【0031】
本実施形態では、さらに、草刈機31a、31bのうち、車両1の前後方向における前側に配置された第1草刈機31a、具体的には、その前縁が、一対の前輪21R、21Lの前縁よりも後方に位置する。具体的には、第1草刈機31aの前縁が、右前輪21Rの前縁と左前輪21Lの前縁とを結ぶ直線(仮想線)VLよりも後方に位置する。図1は、この直線VLを点線により示す。
【0032】
支持機構41は、車体フレーム11と草刈機31a、31bとの間に介在して、草刈機31a、31bを、車幅方向Dblにおける一対の車輪、本実施形態では、右前輪21Rと左前輪21Lとの間で、車体フレーム11に対して上下方向に移動可能に支持する。
【0033】
図3に示すように、支持機構41は、本体部411と、連結部412と、を備える。
【0034】
本体部411は、全体として平板状に形成され、懸架部材11cをその前後に跨ぐ前後方向寸法を有するとともに、車体フレーム11を構成する左右のクロスメンバ11a、11aの間に収まることができる車幅方向寸法を有する。本体部411の下面には、一対の草刈機31a、31bが互いに前後にずらして取り付けられており、既に述べたように、これら一対の草刈機31a、31bの間で、互いの刈取可能範囲Ra、Rbが車幅方向Dblに重なり合っている。
【0035】
連結部412は、図3に示す断面において、逆U字状に形成され、懸架部材11cをその前方、後方および上方の三方から包囲するとともに、懸架部材11cから垂下し、その下端が本体部411の上面に接合する。
【0036】
具体的には、連結部412は、懸架部材11cの前方に配置される前方鉛直延在部412aと、懸架部材11cの後方に配置される後方鉛直延在部412bと、懸架部材11cの上方に配置され、前方鉛直延在部412aと後方鉛直延在部412bとを互いに繋ぐ上方水平延在部412cと、を備える。前方鉛直延在部412aは、本体部411の上面から鉛直上方に延びて、懸架部材11cの前縁を係止する。後方鉛直延在部412bは、本体部411の上面から鉛直上方に、前方鉛直延在部412aに対して平行に延びて、懸架部材11cの後縁を係止する。上方水平延在部412cは、懸架部材11cの上面に接して、本体部411および連結部412を懸架部材11cから垂下した状態で支持する。つまり、本実施形態において、支持機構41の本体部411は、連結部412を介して懸架部材11cからぶら下がった状態にある。
【0037】
ここで、懸架部材11cと本体部411との間には、前後夫々の鉛直延在部412a、412bの長さと懸架部材11cの厚さとの差に応じた隙間gが存在し、本体部411およびこれに取り付けられている草刈機31a、31bは、車体フレーム11、具体的には、懸架部材11cに対し、この隙間gに応じた距離だけ相対的に上下に移動可能である。
【0038】
これにより、第1草刈機31aおよび第2草刈機31bは、通常時には車両1の接地点、つまり、車輪21、22が地面に接する接触点よりも僅かに上方の第1位置にあって、雑草を根元の近くから良好に刈り取る一方、草刈機31a、31bまたは支持機構41の本体部411への上向きの力の入力に対して上方へ移動して、第1位置よりも上方の第2位置に上昇する。
【0039】
ここで、連結部412は、これを構成する延在部412a、412b、412cのうち、前方鉛直延在部412aが懸架部材11cの前縁に接触し、後方鉛直延在部412bが懸架部材11cの後縁に接触した状態にあることで、草刈機31a、31bの前後方向Dtlの動きを制限する。つまり、連結部412は、草刈機31a、31bまたは本体部411への上向きの力の入力に対し、本体部411の上方への移動を許容する一方、前後方向Dtlの動きを規制して、草刈機31a、31bの上方への退避動作を確実に生じさせる。
【0040】
以上に加え、支持機構41は、回転規制部413をさらに備え、上下方向の軸、つまり、鉛直軸を中心とする本体部411の回転を制限する。具体的には、図1に示すように、回転規制部413は、連結部412に対して車幅方向Dblの外側に配置された一対の棒状部材413、413を有し、本体部411の上面から鉛直上方に延びて、懸架部材11cの前縁を係止する。これら一対の棒状部材413、413のうち、一方は、連結部412に対して右側に配置され、他方は、左側に配置されている。本実施形態では、回転規制部413により、連結部412を中心とした水平面内での回転を制限する。
【0041】
図5は、車両1に備わる支持機構41の動作を模式的に示す説明図であり、図5(A)は、通常時の状態を、図5(B)は、退避動作時の状態を夫々示す。図6は、車両1に備わる支持機構41の動作を図4と同様の断面により拡大して示す説明図であり、図6(A)は、通常時の状態を、図6(B)は、退避動作時の状態を夫々示す。図5および図6を参照して、本実施形態に係る支持機構41の動作、特に草刈機31a、31bが地面に存在する石、木または土塊等の障害物に衝突した場合の退避動作について説明する。本実施形態では、草刈機31a、31bの上下方向の中心の位置を、草刈機31a、31bの位置とする。
【0042】
通常時において、支持機構41は、連結部412の上方水平延在部412cが懸架部材11cに接触し、懸架部材11cから垂下した状態にある。この状態で、草刈機31a、31bは、車両1の接地点よりも上方の第1位置P1にある。先に述べたように、草刈機31a、31bが第1位置P1にある場合に、支持機構41の本体部411と懸架部材11cとの間には、隙間gが存在する。
【0043】
これに対し、退避動作時において、草刈機31a、31bは、第1位置P1よりも上方の第2位置P2に移動する。地面に存在する障害物が草刈機31a、31b、例えば、その底面に衝突することにより、草刈機31a、31bおよび本体部411に上向きの力が加わることで、草刈機31a、31bおよび本体部411が上方へ移動し、草刈機31a、31bが第1位置P1から第2位置P2へ上昇する。支持機構41の退避動作は、障害物が草刈機31a、31bに衝突し、上向きの力が草刈機31a、31bに加わる場合に限らず、本体部411に加わることによっても同様に生じる。図5(B)は、第1位置P1に対して草刈機31a、31bが最大限上昇した状態を示し、本実施形態では、この状態での草刈機31a、31bの位置を第2位置P2とするが、第2位置P2は、これに限定されるものではなく、第1位置P1から図5(B)に示す最も高い位置までの間の任意の位置であってもよい。
【0044】
図7は、車両1に備わる制御システムの全体的な構成を示す概略図である。
【0045】
本実施形態では、車両1に搭載された車載コントローラ100が設けられるとともに、車載コントローラ100に対して無線により通信可能に構成された遠隔コントローラ101が設けられる。
【0046】
車載コントローラ100は、遠隔コントローラ101を介して操作者ないし作業者により入力された指示信号を受信し、この指示信号に基づき、駆動モータ51a、51bの動作を制御するとともに、草刈機31a、31bに備わる電動機31a、31bの動作を制御する。つまり、駆動モータ51a、51bおよび草刈機31a、31bは、遠隔コントローラ101を用いて無線により遠隔操作可能である。
【0047】
遠隔コントローラ101は、車両1の駆動モータ51a、51bを操作するための入力部を備えるとともに、草刈機31a、31bを操作するための各種入力部を備える。具体的には、遠隔コントローラ101は、車両1を起動させるための起動入力部111、車両1を前進または後退させるとともに、進行方向を左右に変化させるための走行入力部112、草刈機31a、31bを作動させるための作動入力部113およびその他の入力部114を備える。遠隔コントローラ101に備わる入力部111~114は、ボタンまたはジョイスティック等により具現可能である。
【0048】
本実施形態に係る草刈機付き車両1は、以上の構成を有し、以下に、本実施形態により得られる効果について説明する。
【0049】
第1に、草刈りの最中に草刈機31a、31bが露地の障害物に衝突したり、地面の段差または斜面等に乗り上げた場合に、支持機構41により草刈機31a、31bを上方に移動させ、草刈機31a、31bに過度な荷重がかかったり、車輪21R、21Lが地面から離れて車両1が走行不能な事態に陥ったりする事態を回避することが可能となる。
【0050】
これにより、障害物との衝突により草刈機31a、31bに損傷が及んだり、車両1の走行に支障が生じたりするなどの弊害を伴うことなく、草刈りを効率的に行うことができる。
【0051】
第2に、支持機構4を車軸211R、211Lの間に掛け渡された懸架部材11cから垂下する構成とし、草刈機31a、31bを本体部411に取り付け、本体部411を上下に移動可能とすることで、比較的簡単な構成により支持機構4を実現することが可能となる。
【0052】
第3に、連結部412の形状を逆U字状とし、本体部411の上方への動きを許容する一方、前後方向Dtlの動きを規制することで、草刈機31a、31bが障害物に衝突したり、地面の段差等に乗り上げたりした場合に、本体部411および草刈機31a、31bを確実に上方へ移動させ、草刈機31a、31bに損傷が及んだりするなどの弊害を回避することが可能となる。
【0053】
第4に、回転規制部413により、上下方向の軸、つまり、鉛直軸を中心とする本体部411の回転を抑止することで、草刈りを行っている最中や草刈機31a、31bが障害物に衝突した場合に、本体部411が慣性や衝撃により鉛直軸まわりに回転して、草刈機31a、31bの位置が不要にずらされる事態を防止するとともに、本体部411および草刈機31a、31bが車輪21R、21Lに接触して、走行に支障を来す事態を回避することが可能となる。
【0054】
さらに、障害物や地面の段差等から連結部412に対して回転方向に加わる力を回転規制部413により受けることで、連結部412に過度に大きな力がかかる事態を回避し、支持機構41の破損を防止することが可能となる。
【0055】
第5に、複数の草刈機31a、31bを車両1の前後方向Dtlにずらして配置するとともに、前方に備わる草刈機31aと後方に備わる草刈機31bとで互いの刈取可能範囲Ra、Rbが車幅方向Dblに重複するように配置することで、複数の草刈機31a、31bの間で刈り残しを生じさせることなく、広い刈取可能範囲Ra、Rbを確保することが可能となる。
【0056】
ここで、複数の草刈機31a、31bを車体の下部において、車幅方向Dblの中央寄りの部位に配置した場合は、刈取後の雑草を車体の底面部により受け、雑草が外方へ飛散するのを抑制することが可能となる。
【0057】
第6に、草刈機31a、31bを前輪21R、21Lの前端よりも後方に配置することで、大きな凹凸または起伏等がある露地を走行する際に、地面の隆起または斜面等に対して草刈機31a、31bよりも先に車輪21R、21Lを突き当てることが可能となるので、草刈機31a、31bへの直接的な衝突により損傷が及んだり、草刈機31a、31bが隆起等に乗り上げて車輪21R、21Lが地面から離れたりする事態を回避することが可能となる。
【0058】
ここで、草刈機31a、31bを、車両1を車幅方向Dblに見た側面視で車輪21R、21Lの外周縁よりも車軸211R、211Lに近い内側に配置することで、車両1の前進時だけでなく、後退時においても障害物との衝突等から草刈機31a、31bを保護し、草刈機31a、31bに損傷が及んだり、車両1の走行に支障を来したりする事態を回避することが可能となる。
【0059】
第7に、車両1および草刈機31a、31bの動作を遠隔コントローラ101により操作可能とすることで、雑草の生い茂った露地に実際に入ることなく、屋内等の安全な場所から遠隔コントローラ101の操作により草刈りを行うことが可能となり、作業負担の大幅な軽減を図るとともに、作業者の安全を確保することができる。
【0060】
第8に、支持機構411を草刈機31a、31bの取付ユニットとして車両1の車台部とは別体に構成し、車両1に対して草刈機31a、31bを着脱可能とすることで、市販または既存の草刈機31a、31bを適用するとともに、農作物の運搬等に用いられる作業車両に草刈機31a、31bを取り付け、雑草処理作業を行うことが可能となり、雑草処理作業のために専用の草刈機を購入したり、準備したりする必要がなく、経済的である。換言すれば、農作物の運搬や農薬の散布等と雑草処理作業とを、夫々個別の機器または車両により行うのではなく、作業車両に汎用性を持たせ、1台の作業車両を兼用して行うことが可能となる。
【0061】
以上の説明では、複数の草刈機31a、31bを支持機構41の1つの本体部411により支持し、これら複数の草刈機31a、31bを全体として、換言すれば、複数の草刈機31a、31bのいずれかへの上向きの力の入力に対して全ての草刈機31a、31bを本体部411と一体に移動させた。支持機構41の動作は、これに限定されるものではなく、力の入力があった草刈機のみを他の草刈機とは独立に移動させるものであってもよい。
【0062】
図8は、本発明の他の実施形態に係る草刈機付き車両1に備わる支持機構41R、41Lの動作を模式的に示す説明図であり、図5と同様に、図8(A)は、通常時の状態を、図8(B)は、退避動作時の状態を夫々示す。
【0063】
本実施形態では、互いに前後して備わる左右一対の草刈機31a、31bのそれぞれに対し、支持機構41R、41Lが個別かつ独立に設けられる。具体的には、前方に備わる第1草刈機31aを支持する支持機構41Rが設けられるとともに、後方に備わる第2草刈機31bを支持する支持機構41Lが、第1草刈機31aの支持機構41Rとは独立に動作可能に設けられる。
【0064】
ここで、支持機構41R、41Lのそれぞれが、草刈機31a、31bが取り付けられた本体部411R、411Lと、懸架部材11cから垂下し、本体部411R、411Lの上面に接合して、懸架部材11cに対して本体部411R、411Lを上下方向に移動可能に支持する連結部412R、412Lと、を有することは、先の実施形態と同様である。
【0065】
連結部412R、412Lは、第1草刈機31aおよび第2草刈機31bのそれぞれに一対ずつ設けられ、換言すれば、前進方向Dtlに対して右側に位置し、第1草刈機31aを支持する支持機構41Rにおいて、本体部411Rは、懸架部材11cに対し、互いに車幅方向Dblに離間する一対の連結部412R、412Rにより連結され、前進方向Dtlに対して左側に位置し、第2草刈機31bを支持する支持機構41Lにおいて、本体部411Lは、懸架部材11cに対し、互いに車幅方向Dblに離間する一対の連結部412L、412Lにより連結されている。
【0066】
さらに、連結部412R、412Lのそれぞれは、先の実施形態と同様に、懸架部材11cを三方から包囲する逆U字状をなし、懸架部材11cの前方に配置され、懸架部材11cの前縁を係止する前方鉛直延在部412aと、懸架部材11cの後方に配置され、懸架部材11cの後端を係止する後方鉛直延在部412bと、懸架部材11cの上方に配置され、前方鉛直延在部412aと後方鉛直延在部412bとを互いに繋ぐ上方水平延在部412cと、を備える。連結部412R、412Lは、上方水平延材部412cが懸架部材11cに接触し、本体部411R、411Lを懸架部材11cからぶら下がった状態で支持する。
【0067】
このように、第1草刈機31aの支持機構41Rと第2草刈機31bの支持機構41Lとを夫々独立に動作可能な構成とすることで、障害物を回避するのに必要な範囲で草刈機31a、31bを退避させ、草刈機31a、31bの不要な退避により刈り残しが増大する事態を回避することが可能となる。
【0068】
さらに、以上の説明では、障害物が草刈機31a、31bまたは支持機構41の本体部411に対して直接的に衝突した場合、換言すれば、草刈機31a、31bまたは本体部411に対する直接的な力の入力により支持機構41の退避動作を生じさせた。草刈機31a、31bまたは本体部411に対する力の入力は、直接的なものに限らず、間接的なものであってもよい。
【0069】
図9は、本発明の更に別の実施形態に係る草刈機付き車両1の構成を示す断面図である。
【0070】
本実施形態では、支持機構41と連結し、本体部411から前方に延在する操作アーム71が設けられる。操作アーム71は、その底面ないし底部が地面に近接して配置され、前方に存在する障害物に対して草刈機31よりも先に接触する。そして、操作アーム71は、障害物から受ける上向きの力Fを本体部411に伝達し、本体部411および草刈機31を上方へ移動させる。
【0071】
このように、障害物や地面の段差等に草刈機31が実際に接触する前に、操作アーム71を介する間接的な力の入力により支持機構41に退避動作を行わせ、草刈機31を上方へ移動させることで、草刈機31に損傷が及ぶ事態をより確実に回避することが可能となる。
【符号の説明】
【0072】
1…草刈機付き車両、11…車体フレーム、11c…懸架部材、21…前輪、21R…右前輪、21L…左前輪、22…後輪、22R…右後輪、22L…左後輪、211(211R)、221(221R)…車軸、31a…第1草刈機、31b…第2草刈機、41…支持機構、411…本体部、412…連結部、412a…前方鉛直延在部、412b…後方鉛直延在部、412c…上方水平延在部、413…回転規制部、51a、51b…駆動モータ、61(61R、61L)、62(62R、62L)…スプロケット、63(63R、63L)…チェーン、71…操作アーム、100…車載コントローラ、101…遠隔コントローラ、g…隙間、Dtl…前後方向、Dbl…車幅方向、P1…第1位置、P2…第2位置、Ra、Rb…草刈機の刈取可能範囲、OL…刈取可能範囲の重複範囲。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9