(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034168
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】飛行体
(51)【国際特許分類】
B64C 29/00 20060101AFI20240306BHJP
B64C 27/26 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B64C29/00 A
B64C27/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138236
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】外本 伸治
(57)【要約】
【課題】回転翼の回転軸が変化する際にも姿勢を安定させる。
【解決手段】本体部10と、本体部10から左右に延びる一対の主翼部20と、進行方向において本体部10の前方において、本体部10の左右に配置された一対の第1回転翼30と、一対の第1回転翼30の回転軸を水平方向と上下方向との間で変更する第1チルト機構40と、本体部10の後方において、本体部10の左右に配置された一対の第2回転翼50と、一対の第2回転翼50の回転軸を水平方向と上下方向との間で変更する第2チルト機構60と、本体部10の左右に配置されたロール制御部と、を含む飛行体であって、一対の第1回転翼30は、飛行体の重心よりも下方においてチルト動作を行い、一対の第2回転翼50は、飛行体の重心よりも上方においてチルト動作を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、
前記本体部から左右に延びる一対の主翼部と、
進行方向において前記本体部の前方において、前記本体部の左右に配置された一対の第1回転翼と、
前記一対の第1回転翼の回転軸を水平方向と上下方向との間で変更する第1チルト機構と、
前記本体部の後方において、前記本体部の左右に配置された一対の第2回転翼と、
前記一対の第2回転翼の回転軸を水平方向と上下方向との間で変更する第2チルト機構と、
前記本体部の左右に設けられたロール制御部と、
を含む飛行体であって、
前記一対の第1回転翼は、前記飛行体の重心よりも下方においてチルト動作を行い、
前記一対の第2回転翼は、前記飛行体の重心よりも上方においてチルト動作を行う、飛行体。
【請求項2】
前記ロール制御部は、前記本体部の左右に配置されて上下方向に気流を発生させる一対の第3回転翼である、請求項1に記載の飛行体。
【請求項3】
前記一対の第3回転翼は、前記一対の主翼部それぞれの端部に設けられる、請求項2に記載の飛行体。
【請求項4】
前記ロール制御部は、前記一対の主翼部それぞれに設けられた舵面である、請求項1に記載の飛行体。
【請求項5】
前記一対の第1回転翼はその回転軸が水平方向である場合と比べて上下方向に傾いている場合に、下方に移動するようにチルト動作を行い、
前記一対の第2回転翼はその回転軸が水平方向である場合と比べて上下方向に傾いている場合に、上方に移動するようにチルト動作行う、請求項1または2に記載の飛行体。
【請求項6】
前記第1チルト機構は、前記本体部から左右方向に延びる軸心部と、前記軸心部に対して前方に延びると共に、前記軸心部を基準として前記本体部よりも下方に回動可能な一対の第1支持ビームとを有し、
前記一対の第1回転翼はそれぞれ前記一対の第1支持ビームの端部に取り付けられ、
前記第2チルト機構は、前記本体部から左右方向に延びる軸心部と、前記軸心部に対して後方に延びると共に、前記軸心部を基準として前記本体部よりも上方に回動可能な一対の第2支持ビームとを有し、
前記一対の第2回転翼はそれぞれ前記一対の第2支持ビームの端部に取り付けられる、請求項1に記載の飛行体。
【請求項7】
前記一対の第1支持ビームの端部同士を接続する第1接続ビームをさらに有し、
前記一対の第1回転翼はそれぞれ前記一対の第1支持ビームと前記第1接続ビームとの接続位置に取り付けられ、
前記一対の第2支持ビームの端部同士を接続する第2接続ビームをさらに有し、
前記一対の第2回転翼はそれぞれ前記一対の第2支持ビームと前記第2接続ビームとの接続位置に取り付けられる、請求項6に記載の飛行体。
【請求項8】
前記主翼部、前記第1チルト機構、及び前記第2チルト機構のいずれかは、角度を変更可能な舵面を有する、請求項1に記載の飛行体。
【請求項9】
制御部をさらに有し、
前記制御部は、前記第1回転翼の回転数、前記第1チルト機構のチルト動作、前記第2回転翼の回転数、前記第2チルト機構のチルト動作、及び前記ロール制御部の動作を個別に制御可能である、請求項1に記載の飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から回転翼と固定翼との双方を備える飛行体として、回転翼の回転軸の傾きが変化するロータを含む、所謂チルトローターを有する飛行体が検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チルトローターを有する飛行体では、回転軸の傾きを変化する際に、その姿勢が不安定になる可能性がある。
【0005】
本開示は上記を鑑みてなされたものであり、回転翼の回転軸が変化する際にも姿勢を安定させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の一形態に係る飛行体は、本体部と、前記本体部から左右に延びる一対の主翼部と、進行方向において前記本体部の前方において、前記本体部の左右に配置された一対の第1回転翼と、前記一対の第1回転翼の回転軸を水平方向と上下方向との間で変更する第1チルト機構と、前記本体部の後方において、前記本体部の左右に配置された一対の第2回転翼と、前記一対の第2回転翼の回転軸を水平方向と上下方向との間で変更する第2チルト機構と、前記本体部の左右に設けられたロール制御部と、を含む飛行体であって、前記一対の第1回転翼は、前記飛行体の重心よりも下方においてチルト動作を行い、前記一対の第2回転翼は、前記飛行体の重心よりも上方においてチルト動作を行う。
【0007】
上記の飛行体によれば、機体の前方にある一対の第1回転翼は、飛行体の重心よりも下方においてチルト動作を行い、機体の後方にある一対の第2回転翼は、飛行体の重心よりも上方においてチルト動作を行う。このような構成とすることで、第1回転翼及び第2回転翼のチルト動作を用いて、機体の前後方向の姿勢の制御が可能となる。一方、ロール制御部が本体部の左右に配置されることで、機体の左右方向の姿勢の制御が可能となる。このため、第1回転翼及び第2回転翼の回転軸が変化する際にも姿勢を安定させることが可能となる。
【0008】
前記ロール制御部は、前記本体部左右に配置されて上下方向に気流を発生させる一対の第3回転翼であってもよい。このような構成とすることで、第3回転翼を用いて機体の左右方向の姿勢を安定させることができる。
【0009】
前記一対の第3回転翼は、前記一対の主翼部それぞれの端部に設けられる態様であってもよい。このような構成とすることで、一対の第3回転翼のそれぞれを本体部から遠ざけた位置に配置することができるため、左右方向の安定性をより高めることができる。
【0010】
前記ロール制御部は、前記一対の主翼部それぞれに設けられた舵面であってもよい。このような構成とすることで、主翼部に設けられた舵面を用いて機体の左右方向の姿勢を安定させることができる。
【0011】
前記一対の第1回転翼は、その回転軸が水平方向である場合と比べて上下方向に傾いている場合に、下方に移動するようにチルト動作を行い、前記一対の第2回転翼は、その回転軸が水平方向である場合と比べて上下方向に傾いている場合に、上方に移動するようにチルト動作行う態様であってもよい。このような構成とすることで、チルト動作による機体の前後方向の姿勢の制御をより簡単に行うことができる。
【0012】
前記第1チルト機構は、前記本体部から左右方向に延びる軸心部と、前記軸心部に対して前方に延びると共に、前記軸心部を基準として前記本体部よりも下方に回動可能な一対の第1支持ビームとを有し、前記一対の第1回転翼はそれぞれ前記一対の第1支持ビームの端部に取り付けられ、前記第2チルト機構は、前記本体部から左右方向に延びる軸心部と、前記軸心部に対して後方に延びると共に、前記軸心部を基準として前記本体部よりも上方に回動可能な一対の第2支持ビームとを有し、前記一対の第2回転翼はそれぞれ前記一対の第2支持ビームの端部に取り付けられる態様であってもよい。このような構成とすることで、第1回転翼による飛行体の重心よりも下方でのチルト動作、及び、第2回転翼による飛行体の重心よりも上方でのチルト動作をより簡単に実現することができる。
【0013】
前記一対の第1支持ビームの端部同士を接続する第1接続ビームをさらに有し、前記一対の第1回転翼はそれぞれ前記一対の第1支持ビームと前記第1接続ビームとの接続位置に取り付けられ、前記一対の第2支持ビームの端部同士を接続する第2接続ビームをさらに有し、前記一対の第2回転翼はそれぞれ前記一対の第2支持ビームと前記第2接続ビームとの接続位置に取り付けられる態様であってもよい。このような構成とすることで、一対の第1支持ビーム及び一対の第2支持ビームのそれぞれを安定して支持した状態で回動させることができ、第1回転翼及び第2回転翼のチルト動作も安定して行うことができる。
【0014】
前記主翼部、前記第1チルト機構、及び前記第2チルト機構のいずれかは、角度を変更可能な舵面を有する態様であってもよい。このような構成とすることで、舵面を利用した姿勢制御も可能となり、機体の姿勢制御をより安定させることができる。
【0015】
制御部をさらに有し、前記制御部は、前記第1回転翼の回転数、前記第1チルト機構のチルト動作、前記第2回転翼の回転数、前記第2チルト機構のチルト動作、及び前記ロール制御部の動作を個別に制御可能であってもよい。このような構成とすることで、機体の姿勢制御をより安定させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、回転翼の回転軸が変化する際にも姿勢を安定させることが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るチルトローター機の構成を説明する図である。
【
図2】
図2(a)、
図2(b)は、チルトローター機におけるチルト機構によるチルト動作を説明する図である。
【
図3】
図3は、制御部の機能について説明する図である。
【
図4】
図4は、制御部の制御内容を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、制御部のハードウェア構成を説明する図である。
【
図6】
図6(a)、
図6(b)は、ロール運動に係るシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】
図7(a)、
図7(b)は、ピッチ運動に係るシミュレーション結果を示す図である。
【
図8】
図8は、チルトローター機の変形例について説明する図である。
【
図9】
図9(a)、
図9(b)は、チルトローター機の変形例について説明する図である。
【
図10】
図10は、チルトローター機の変形例について説明する図である。
【
図11】
図11(a)、
図11(b)は、チルトローター機の変形例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本開示を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
[チルトローター機]
図1及び
図2を参照しながら、一実施形態に係る飛行体の一種であるチルトローター(tilt-rotor)機の構成について説明する。チルトローター機は、垂直離着陸が可能な飛行体であり、回転翼の回転方向を変化させることで垂直方向の離着陸及びホバリングと、水平方向への推進と、とを行うことが可能な飛行体である。
【0020】
図1及び
図2等に示されるように、チルトローター機1は、本体部10と、一対の主翼部20と、一対の第1回転翼30と、第1回転翼30を支持する第1チルト機構40と、一対の第2回転翼50と、第2回転翼50を支持する第2チルト機構60と、一対の主翼部20のそれぞれに対して取り付けられた一対の第3回転翼70を含んで構成される。第1回転翼30、第2回転翼50、及び、第3回転翼70は、いずれの回転軸を中心として所定の回転軸周りをプロペラが回転することによって、気流を発生させて、チルトローター機1が受ける力を発生させる。なお、
図1及び
図2等では、第1回転翼30、第2回転翼50、及び、第3回転翼70においてプロペラの回転数を制御する回転駆動部については図示を省略する。
【0021】
以下の実施形態では、チルトローター機1の前後方向にX軸を設定し、上下方向にZ軸を設定し、左右方向にY軸を設定した上で、XYZ軸を用いて説明を行う場合がある。また、以下の実施形態では、
図1に示す矢印Aの方向(+X方向)をチルトローター機1の前進方向とし、
図2(a)に示す矢印Bの方向(-Z方向)をチルトローター機1の下降方向とする。
【0022】
本体部10は、チルトローター機1の前後方向に延びる。また、前後方向における本体部10の中ほどから一対の主翼部20が左右方向に突出している。一対の主翼部20は、本体部10の延在方向に沿った中心軸に対して対称となるように設けられる。本実施形態では、主翼部20が左右に一対のみ設けられている例を説明するが、主翼部20は二対以上の複数対であってもよい。
【0023】
一対の主翼部20の左右方向(Y軸方向)の先端(本体部10から離れた側の端部)には、それぞれ第3回転翼70が設けられる。第3回転翼70は、一対の主翼部20の先端に、回転軸71がそれぞれ上下方向となるように取り付けられる。第3回転翼70は、チルトローター機1の飛行の補助となる揚力を発生させる。
図2(a)及び
図2(b)では、第3回転翼70のプロペラの回転により発生する力をF3として示している。第3回転翼70は、チルトローター機1に対して上向きの力となる揚力を発生させる。また、第3回転翼70は、チルトローター機1のロール運動に係るロール制御部として機能する。例えば、左右の第3回転翼70の動作を調整することで、チルトローター機1に発生するロール運動を制御することが可能となる。この点については後述する。なお、第3回転翼70に代えて、本体部10の左右に設けられる一対の主翼部20のそれぞれに設けられた、角度を変更可能な舵面によってロール制御部が実現されてもよい。左右の舵面の角度を調整することによっても、チルトローター機1に発生するロール運動を制御することができる。
【0024】
一対の第1回転翼30は、第1チルト機構40によって、進行方向において本体部10の前方において本体部10に対してチルト(ティルト)可能に取り付けられている。本体部10の前方とは、機体の重心よりも前方であればよく、例えば、主翼部20よりも前方であってもよい。第1チルト機構40は、本体部10の中心軸に対して直交する方向(Y軸方向)に、同軸に延びる軸心部41,42と、軸心部41及び軸心部42の端部にそれぞれ取り付けられ、軸心部41,42に対して交差する方向に延びる一対の第1支持ビーム43と、第1支持ビーム43の端部同士を接続する第1接続ビーム44と、を含んで構成される。
図1,2に示す例では、一対の第1支持ビーム43は、軸心部41,42に対して直交する方向に延びている。軸心部41,42は、同軸となるように配置されていて、本体部10に設けられる第1駆動部45に対して接続されている。これにより、軸心部41,42は、左右方向(Y軸方向)に延びる軸心部41,42の中心を軸心とした回動が可能とされる。
【0025】
軸心部41に対して接続する第1支持ビーム43は、軸心部41の本体部10側とは逆の端部から、軸心部41に対して直交する方向に延び、且つ前方に回動可能な状態で設けられる。また、軸心部42に対して接続する第1支持ビーム43は、軸心部42の本体部10側とは逆の端部から、軸心部42に対して直交する方向に延び、且つ前方に回動可能な状態で設けられる。これらの一対の第1支持ビーム43は、軸心部41,42の延在方向(Y軸方向)から見たときに、
図2(a)等に示すように、本体部10の延在方向(X軸方向)に対して同一の方向へ延びている。一対の第1支持ビーム43の長さは、例えば、同一とされている。
【0026】
軸心部41,42は、第1駆動部45によって同一の回転角度だけ回動する。これにより、軸心部41,42に接続されている一対の第1支持ビーム43は、軸心部41,42の延在方向(Y軸方向)から見たときに、
図2(b)等に示すように、本体部10の延在方向(X軸方向)に対して同一の傾斜角となるように回動する。
【0027】
第1接続ビーム44は、一対の第1支持ビーム43の端部同士を接続する。軸心部41,42の端部から延びる第1支持ビーム43の長さが同一であるため、その端部同士を接続する第1接続ビーム44は、軸心部41,42と同様に本体部10の中心軸に対して直交する方向(Y軸方向)に延びている。なお、一対の第1支持ビーム43と第1接続ビーム44とは直交するように接続される(
図1参照)。その接続部分には、一対の第1回転翼30を取り付けるための一対の回転翼支持部46が設けられる。回転翼支持部46は、例えば、第1回転翼30の外形に対応した形状(例えば、
図1では環状)の枠体であり、その内側に第1回転翼30を固定することで、第1回転翼30を第1チルト機構40に対して固定することができる。
【0028】
第1回転翼30は、回転軸31が第1支持ビーム43及び第1接続ビーム44に対して直交する方向に延びている回転翼である。つまり、
図1及び
図2(a)に示すように第1支持ビーム43及び第1接続ビーム44が水平方向(XY軸方向)に延びる状態に第1チルト機構40を回動した状態において、第1回転翼30の回転軸31は上下方向(Z軸方向)に延びる。一対の第1回転翼30は、第1接続ビーム44の両端となる位置に設けられるので、本体部10の延在方向(X軸方向)から見たときに、一対の第1回転翼30は、本体部10を挟むような位置とされる。このとき、第1回転翼30はチルトローター機1を浮上させるための揚力を発生することができる。
図2(a)及び
図2(b)では、第1回転翼30のプロペラの回転により発生する力をF1として示す。
図2(a)に示すように、第1回転翼30の回転軸31が上下方向に延びている状態では、上向きの力F1が働き、チルトローター機1に対して揚力として働く。
【0029】
上記の第1回転翼30は、第1駆動部45の駆動によって第1チルト機構40が回動すると、その回動に伴ってチルト動作を行う。第1駆動部45が軸心部41,42を回動させると、その回動に伴って軸心部41,42の中心を軸心として、一対の第1支持ビーム43がその周囲を回動する。この結果、第1支持ビーム43に接続された第1接続ビーム44が軸心の周囲を回動する。このとき、
図2(b)に示すように、第1チルト機構40に対して固定されている第1回転翼30は、第1支持ビーム43及び第1接続ビーム44の回動に伴って、本体部10の延在方向に対する角度を変化させることができる。例えば、
図2(b)に示すように、第1接続ビーム44が下方へ向かいながら第1支持ビーム43が水平方向から上下方向に変化するように回動させると、第1回転翼30の回転軸31の延在方向を、上下方向から徐々に水平方向、より具体的には本体部10の延在方向(X軸方向)に変化させることができる。
図2(b)に示すように、第1回転翼30の回転軸31が本体部10の延在方向(X軸方向)に延びている状態では、横向きの力F1がチルトローター機1に対して推力として働く。第1回転翼30の回転軸31が本体部10の延在方向(X軸方向)に延びている状態では、第1回転翼30はチルトローター機1を前進させるための推力を発生することができる。
【0030】
一対の第2回転翼50は、第2チルト機構60によって、進行方向において本体部10の後方において本体部10に対してチルト(ティルト)可能に取り付けられている。本体部10の後方とは、機体の重心よりも後方であればよく、例えば、主翼部20よりも後方であってもよい。第2チルト機構60は、本体部10の中心軸に対して直交する方向(Y軸方向)に、同軸に延びる軸心部61,62と、軸心部61及び軸心部62の端部にそれぞれ取り付けられ、軸心部61,62に対して交差する方向に延びる一対の第2支持ビーム63と、第2支持ビーム63の端部同士を接続する第2接続ビーム64と、を含んで構成される。
図1,2に示す例では、一対の第2支持ビーム63は、軸心部61,62に対して直交する方向に延びている。軸心部61,62は、同軸となるように配置されていて、本体部10に設けられる第2駆動部65に対して接続されている。これにより、軸心部61,62は、左右方向(Y軸方向)に軸心部61,62の中心を軸心とした回動が可能とされる。
【0031】
軸心部61に対して接続する第2支持ビーム63は、軸心部61の本体部10側とは逆の端部から、軸心部61に対して直交する方向に延び、且つ後方で回動可能な状態で設けられる。また、軸心部62に対して接続する第2支持ビーム63は、軸心部62の本体部10側とは逆の端部から、軸心部62に対して直交する方向に延び、且つ後方で回動可能な状態で設けられる。これらの一対の第2支持ビーム63は、軸心部61,62の延在方向(Y軸方向)から見たときに、
図2(a)等に示すように、本体部10の延在方向(X軸方向)に対して同一の方向へ延びている。一対の第2支持ビーム63の長さは、例えば、同一とされている。
【0032】
軸心部61,62は、第2駆動部65によって同一の回転角度だけ回動する。これにより、軸心部61,62に接続されている一対の第2支持ビーム63は、軸心部61,62の延在方向(X軸方向)から見たときに、
図2(b)等に示すように、本体部10の延在方向(Y軸方向)に対して同一の傾斜角となるように回動する。
【0033】
第2接続ビーム64は、一対の第2支持ビーム63の端部同士を接続する。軸心部61,62の端部から延びる第2支持ビーム63の長さが同一であるため、その端部同士を接続する第2接続ビーム64は、軸心部61,62と同様に本体部10の中心軸に対して直交する方向(Y軸方向)に延びている。なお、一対の第2支持ビーム63と第2接続ビーム64とは直交するように接続される(
図1参照)。その接続部分には、一対の第2回転翼50を取り付けるための一対の回転翼支持部66が設けられる。回転翼支持部66は、例えば、第2回転翼50の外形に対応した形状(例えば、
図1では環状)の枠体であり、その内側に第2回転翼50を固定することで、第2回転翼50を第2チルト機構60に対して固定することができる。
【0034】
第2回転翼50は、回転軸51が第2支持ビーム63及び第2接続ビーム64に対して直交する方向に延びている回転翼である。つまり、
図1及び
図2(a)に示すように第2支持ビーム63及び第2接続ビーム64が水平方向(XY軸方向)に延びる状態に第2チルト機構60を回動した状態において、第2回転翼50の回転軸51は上下方向(Z軸方向)に延びる。一対の第2回転翼50は、第2接続ビーム64の両端となる位置に設けられるので、本体部10の延在方向(X軸方向)から見たときに、一対の第1回転翼30は、本体部10を挟むような位置とされる。第2回転翼50の回転軸51が上下方向に延びている状態では、第2回転翼50はチルトローター機1を浮上させるための揚力を発生することができる。
図2(a)及び
図2(b)では、第2回転翼50のプロペラの回転により発生する力をF2として示す。
図2(a)に示すように、第2回転翼50の回転軸51が上下方向に延びている状態では、上向きの力F2が働き、チルトローター機1に対して揚力として働く。
【0035】
上記の第2回転翼50は、第2駆動部65の駆動によって第2チルト機構60が回動すると、その回動に伴ってチルト動作を行う。第2駆動部65が軸心部61,62を回動させると、その回動に伴って軸心部61,62の中心を軸心として、一対の第2支持ビーム63がその周囲を回動する。この結果、第2支持ビーム63に接続された第2接続ビーム64が軸心の周囲を回動する。このとき、
図2(b)に示すように、第2チルト機構60に対して固定されている第2回転翼50は、第2支持ビーム63及び第2接続ビーム64の回動に伴って、本体部10の延在方向に対する角度を変化させることができる。例えば、
図2(b)に示すように、第2接続ビーム64が上方へ向かいながら第2支持ビーム63が水平方向から上下方向に変化するように回動させると、第2回転翼50の回転軸51の延在方向を、上下方向から徐々に水平方向、より具体的には本体部10の延在方向(X軸方向)に変化させることができる。
図2(b)に示すように、第2回転翼50の回転軸51が本体部10の延在方向(X軸方向)に延びている状態では、横向きの力F2がチルトローター機1に対して推力として働く。第2回転翼50の回転軸51が本体部10の延在方向(X軸方向)に延びている状態では、第2回転翼50はチルトローター機1を前進させるための推力を発生することができる。
【0036】
このように、チルトローター機1では、第1チルト機構40によって第1回転翼30の回転軸31を変化させると共に、第2チルト機構60によって第2回転翼50の回転軸51を変化させる。これにより、回転翼によって発生させる力の向きを変更させ、チルトローター機1に対して揚力または推力を働かせることができる。また、チルトローター機1では、回転翼におけるプロペラの回転数を調整することで、揚力または推力の大きさを変更することができる。
【0037】
なお、チルトローター機1では、上述のように第1チルト機構40は本体部10よりも下方でチルト動作を行う。チルトローター機1の機体の重心は、本体部10の概ね中央付近となるので、第1チルト機構40は機体の重心よりも下方でチルト動作を行う。一方、第2チルト機構60は本体部10よりも上方、すなわち、機体の重心よりも上方でチルト動作を行う。このような構成を有していることで、チルトローター機1は、ピッチ運動及びロール運動の制御が行いやすくなっている。この点は後述する。
【0038】
なお、一対の第1回転翼30、一対の第2回転翼50、及び、一対の第3回転翼70は、運転時のプロペラの回転方向をそれぞれ互いに異ならせる。具体的には、本体部10を中心として左右対称とされる。これにより、プロペラの回転によってチルトローター機1に係る回転トルクが左右均等となるように調整される。一例として、機体前方から見たときに右側(+Y側)の第1回転翼30と左側(-Y側)の第2回転翼50との回転方向を同じとし、左側(-Y側)の第1回転翼30と右側(-Y側)の第2回転翼50との回転方向を同じとしてもよい。ピッチ運動は第1回転翼30と第2回転翼50との間での回転数の差を用いて制御が行われるのに対して、ロール運動の制御には、左右の第1回転翼30及び第2回転翼50の回転数の差を利用されるためである。上記の構成とした場合、第1回転翼30及び第2回転翼50を用いてピッチ運動を制御することだけでなく、ロール運動の制御を考慮した回転数制御が可能となる。なお、本実施形態のチルトローター機1のように、ロール制御部としての第3回転翼70(または舵面)が設けられていて、第3回転翼70(または舵面)によってロール制御を行う場合は、少なくとも第1回転翼30と第2回転翼50の左右で回転が逆方向であればよい。
【0039】
上述のチルトローター機1の動作は、制御部90によって制御される。
図3を参照しながら、チルトローター機1の各部を制御する制御部90について説明する。
【0040】
制御部90は、上述の一対の主翼部20、一対の第1回転翼30、第1チルト機構40と、一対の第2回転翼50、第2チルト機構60、及び、一対の第3回転翼70を制御する機能を有する。上述のように、第1チルト機構40を制御することは一対の第1回転翼30のチルト動作を制御することに相当し、第2チルト機構60を制御することは一対の第2回転翼50のチルト動作を制御することに相当する。つまり、この制御は、第1回転翼30及び第2回転翼50がチルトローター機1に与える力の向きを制御することに相当する。また、制御部90は、第1回転翼30、第2回転翼50、及び第3回転翼70における回転翼の回転数を制御する。これにより、各回転翼がチルトローター機1に与える力の大きさを制御する。
【0041】
図4を参照しながら、制御部90において、一対の第1回転翼30、第1チルト機構40と、一対の第2回転翼50、第2チルト機構60、及び、一対の第3回転翼70を制御する際の制御ロジックについて説明する。制御部90では、チルトローター機1の離着陸時(ホバリングを含む)、巡行時、離着陸時と巡行時との間の遷移状態のそれぞれにおいて、チルトローター機1の姿勢を安定させながら、上述の各部を制御する必要がある。また、チルトローター機1の姿勢を安定させるためには、制御部90は、チルトローター機1に対して、飛行に必要な揚力が常に確保するという制限の下で、推力制御、ロール制御、ピッチ制御、ヨー制御を行う必要がある。
【0042】
このうち、ヨー制御は、本体部10の両側にある第1回転翼30、第2回転翼50の回転数に差を生じさせることで実行する。まず、主翼部20が発生する揚力と、第1回転翼30、第2回転翼50のチルト角に応じて、飛行に必要な揚力を発生する第1回転翼30と第2回転翼50の回転数を求め、続いて、ヨー制御に必要なモーメントを発生するように、本体部10の両側にある第1回転翼30と第2回転翼50の回転数に差が生じるよう回転数を決定する。このヨー制御により、飛行速度、ロール角度、ピッチ角度に影響が生じるが、これらは
図4の制御部90において順次制御する。なお、本体部10の両側にある第1回転翼30、第2回転翼50、及び第3回転翼70において対になる回転翼の回転方向は逆方向であり、ピッチ制御では、対になる回転翼の回転速度は等しい。
【0043】
推力制御は、チルトローター機1の進行方向への飛行速度を調整するための推進力の制御であり、第1回転翼30及び第2回転翼50のチルト角に依存する。また、ロール制御は、チルトローター機1の前後方向(X軸)を軸心としたロール軸を中心とした機体の回転に対する制御であり、第3回転翼70の回転速度の制御によりロール角度を制御できる。なお、第3回転翼70の代わりに、舵面(例えば、
図8に示す舵面81)を用いてロール角度を制御することもできる。さらに、ピッチ制御は、チルトローター機1の左右方向(Y軸)を軸心としたピッチ軸を中心とした機体の回転に対する制御であり、第1回転翼30及び第2回転翼50の回転速度に依存するため、これらの回転速度に差を生じさせることでピッチ角度を制御できる。
【0044】
このように、本実施形態に係るチルトローター機1では、ヨー制御、推力制御、ロール制御、ピッチ制御を順次コントロールすることが可能である。特に、チルトローター機1では、第1チルト機構40が機体の重心よりも下方でチルト動作を行い、第2チルト機構60が機体の重心よりも上方でチルト動作を行うことにより、チルト角度によらずピッチ制御が可能であり、第1チルト機構40と第2チルト機構60が上下方向(Z軸方向)に延びている状態でもピッチ制御が可能である。
【0045】
制御部90は、一例としてPD制御を行いながら、チルトローター機1が所望の状態となるように各部の制御を行う。本実施形態に係るチルトローター機1では、目標の状態を実現するために、まず機体の左右にあるロータ数の差によってヨー角を制御し、その後、Velocity(速度)に係るPD制御(ステップS01)を行う。具体的には、第1チルト機構40及び第2チルト機構60の動作を制御することで、第1回転翼30及び第2回転翼50のチルト角に係る制御内容を決定する。これにより、飛行に必要な揚力を保ちながら、飛行速度に必要な前後方向の推力制御を行う。次に、Roll(ロール)に係るPD制御(ステップS02)として、第3回転翼70の回転速度に係る制御内容を決定する。なお、第3回転翼70がない場合には、左右の他の回転翼の回転数の違い、または、舵面の角度等の制御内容を決定する。さらに、Pitch(ピッチ)に係るPD制御(ステップS03)として第1回転翼30及び第2回転翼50のチルト角及び回転速度に係る制御内容を決定する。具体的には、第3回転翼70が発生する揚力のピッチ運動への影響に応じて,第1回転翼30の回転数と第2回転翼50の回転数を決定する。このとき、必要に応じて、前段の各ステップでの制御内容の調整を繰り返すことで、各部の制御内容を決定し、これらを制御信号として各部へ送信する。
【0046】
このように、本実施形態に係るチルトローター機1では、第1チルト機構40及び第2チルト機構60が設けられている位置が機体の重心に対して互いに異なることによって、第1チルト機構40及び第2チルト機構60のチルト動作がピッチ制御に対して有意に働く。つまり、機体の重心よりも下方における第1チルト機構40によるチルト動作の結果、第1回転翼30の回転軸31が上下方向に向いている状態から、水平方向に向いている状態へ変更する区間全体において、第1回転翼30の回転数の増加は本体部10の機首を上げるように働く。同様に、機体の重心よりも上方における第2チルト機構60によるチルト動作の結果、第2回転翼50の回転軸51が上下方向に向いている状態から、水平方向に向いている状態へ変更する区間全体において、第2回転翼50の回転数の増加は本体部10の機首を下げるように働く。このように、第1回転翼30に係るチルト動作と、第2回転翼50に係るチルト動作と、の両方が本体部10の機首の上げ下げに影響し得る。換言すると、これらの回転翼のチルト動作の微調整によってより繊細なピッチ制御が可能となる。
【0047】
一方、チルトローター機1では、第1チルト機構40及び第2チルト機構60によって、上記の本体部10の機首の上げ下げのための回転翼の微小なチルト動作を行いつつ、推力制御のためのチルト動作を行うことが可能である。その結果、
図4に示すように、必要な揚力を保ったまま、推力制御を行いつつ、上述のようにピッチ制御を安定して行うことが可能となる。このように、チルトローター機1では、揚力制御と、推力制御と、ピッチ制御とを分離して制御することが可能となる。
【0048】
さらに、上記のチルトローター機1では、ピッチ制御は上述の第1チルト機構40及び第2チルト機構60により制御される一方、ロール制御は第3回転翼70によって行われる。ロール制御に関しては、第3回転翼70(もしくは舵面)の回転速度の調整のみによって行われる。つまり、ピッチ制御とロール制御とを行う際の制御対象が異なる。そのため、ピッチ制御とロール制御とは独立した制御を行うことができ、よりシンプルな制御によって機体の安定を達成することができる。
【0049】
図5は、制御部90に用いられるコンピュータ110のハードウェア構成の一例を示す図である。例えば、コンピュータ110は制御回路100を有する。一例では、制御回路100は、1つまたは複数のプロセッサ101と、メモリ102と、ストレージ103と、通信ポート104と、入出力ポート105とを有する。プロセッサ101はオペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを実行する。ストレージ103はハードディスク、不揮発性の半導体メモリ、または取り出し可能な媒体(例えば、磁気ディスク、光ディスクなど)の記憶媒体で構成され、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを記憶する。メモリ102は、ストレージ103からロードされたプログラム、またはプロセッサ101による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ101は、メモリ102と協働してプログラムを実行することで、個々の機能モジュールとして機能する。通信ポート104は、プロセッサ101からの指令に従って、通信ネットワークNWを介して他の装置との間でデータ通信を行う。入出力ポート105は、プロセッサ101からの指令に従って、キーボード、マウス、モニタ、タッチパネルなどの入出力装置(ユーザインタフェース)との間で電気信号の入出力を実行する。
【0050】
なお、制御部90は複数のコンピュータ110によって構成されていてもよい。また、制御部90が複数のコンピュータ110から構成されている場合、複数のコンピュータ110は、分散配置していてもよく、これらが相互に通信ネットワークNWを介して接続されていてもよい。
【0051】
上述のように、本実施形態に係るチルトローター機1では、第1チルト機構40及び第2チルト機構60の動作する場所と機体の重心との位置関係が所定の関係を満たすことにより、ロール運動及びピッチ運動を階層的に制御することが可能となる。そして、チルトローター機1では、対になる回転翼の回転数を等しくすることで、余計なジャイロ効果を発生させることなく、また、チルト角が大きく変わってもほとんど影響されることなく、同じような姿勢制御効果を得ることができる。そこで、
図6及び
図7を参照しながら、従来のチルトローター機と本実施形態に係るチルトローター機1に係るロール運動及びピッチ運動をシミュレーションした結果について説明する。
【0052】
図6は、ロール運動に係るシミュレーション結果を示す図である。
図6は、時間t=0(単位:秒)で外乱トルクをチルトローター機のロール方向に加えることで、t=0でロール角速度を発生させた場合に、これが安定化されるまでのシミュレーションを行った結果を示している。また、
図7は、時間t=0(単位:秒)で外乱トルクをチルトローター機のピッチ方向に加えることで、t=0でピッチ角速度を発生させた場合に、これが安定化されるまでのシミュレーションを行った結果を示している。
【0053】
図6(a)は、従来型、すなわち、チルトローター機の重心に対して前方の第1回転翼と後方の第2回転翼とが同じ高さ位置にあるチルトローター機において、回転翼のチルト動作を行う遷移状態におけるロール運動をシミュレーションしたものである。なお、横軸は時間t(単位:秒)であり、縦軸はロール運動を行った際の傾きの度合いである角度φを示している。また、
図6(b)は、
図1及び
図2に示すチルトローター機1について、同様にチルト動作時のピッチ運動をシミュレーションしたものである。なお、横軸は時間t(単位:秒)であり、縦軸はピッチ運動を行った際の傾きの度合いである角度θを示している。また、βとはチルト機構が水平方向にあるとき、つまり、回転翼の軸心の角度がZ軸方向にある場合を0°とした場合の、回転翼のチルト角度である。なお、従来型のチルトローター機における制御部による回転翼等の制御内容は、従来のPD制御を用いた手法としている。一方、本実施形態に係るチルトローター機1における制御部90による制御内容は、
図4で示したPD制御を用いた手法としている。
【0054】
図6(a)では、チルト角度β=10°の場合、及びβ=75°の場合について、チルト角度βを所定の値とした時点からの時間tにおけるロール運動の程度を角度φの変化として示している。
図6(a)に示すように、従来型のチルトローター機では、β=75°のほうがロール運動が大きくなり、且つロール運動が継続する時間が長くなっている。一方、
図6(b)に示すように、本実施形態に係るチルトローター機1では、チルト角度βに関係なく、ロール運動の角度φが小さく且つ短時間で収束することが確認された。
【0055】
図7(a)では、チルト角度β=10°の場合、及びβ=75°の場合について、チルト角度βを所定の値とした時点からの時間tにおけるピッチ運動の程度を角度θの変化として示している。
図7(a)に示すように、従来型のチルトローター機では、β=10°及びβ=75°の両方において、ピッチ運動が発生し、β=75°の場合はβ=10°の場合と比べて振幅が大きな状態が長く継続することが確認された。一方、
図7(b)に示すように、本実施形態に係るチルトローター機1では、ピッチ運動の程度はチルト角度βに関係なく、従来型のチルトローター機のチルト角度β=10°の場合と同程度となること、すなわちピッチ運動の振幅が短時間で小さくなることが確認された。
【0056】
図8~
図11は、上記で説明したチルトローター機1の構成の代表的な変更例を説明する図である。
【0057】
図8は、チルトローター機1に対して舵面を追加する場合の追加場所を例示する図である。従来の固定翼の飛行機では主翼に舵面が設けられている。そこで、チルトローター機1においても、舵面を追加する構成としてもよい。舵面を追加する例として、
図8に示すように一対の主翼部20の後方部の舵面81、第1チルト機構40の第1接続ビーム44に沿った舵面82、第2チルト機構60の第2接続ビーム64に沿った舵面83が挙げられる。舵面81~83は、いずれもその角度を変更することが可能とされている。また、舵面81は、上述したように、第3回転翼70の代替のロール制御部として用いることもできる。舵面81は通常の航空機においても広く用いられていて、
図8の例では、ロール運動の制御に用いられる。一方、舵面82及び舵面83は、支持ビーム上の舵面であり、支持ビームがない通常のチルトローター機では存在しない舵面である。また、舵面82及び舵面83は、ピッチ運動の制御に用いられる点が舵面81と異なる点である。
【0058】
なお、舵面81~83のうち一部の舵面のみが設けられていてもよいし、舵面81~83で示す位置の全てに舵面が設けられていてもよい。また、舵面81~83が設けられている場合には、制御部90において舵面を制御することとしてもよい。舵面81~83を設けることによって、舵面を利用した姿勢制御が可能となるため、より細やかな制御が可能となる。
【0059】
図9は、チルト機構及び回転翼の変形例を示す図である。
図9(a)に示すチルトローター機1Aは、第1チルト機構40Aは、軸心部41,42に第1支持ビーム43Aが垂直方向に延びていない点が第1チルト機構40と相違する。具体的には、軸心部41,42の長さが非常に短くされていて、第1接続ビーム44の長さより十分に短い。そのため、第1支持ビーム43Aは、前方に向けて延び、且つ前方に進むにつれて互いの距離が離れていくように配置される。その結果、
図9(a)に示すように、平面視において第1支持ビーム43Aと第1接続ビーム44とによって略二等辺三角形が形成されるように、これらが配置される。このように、第1支持ビーム43Aは、軸心部41,42に対して垂直方向とは異なる方向に延びていてもよい。さらに、
図9(a)では、4つの第1回転翼30が第1接続ビーム44上に並んでいる。このように、第1回転翼30の数は、一対以上であればよく、例えば、二対(4つ)であってもよい。
【0060】
第2チルト機構60Aは、第1チルト機構40Aと同様に、軸心部61,62に第2支持ビーム63Aが垂直方向に延びていない点が第2チルト機構60と相違する。具体的には、軸心部61,62の長さが非常に短くされていて、第2接続ビーム64の長さより十分に短い。そのため、第2支持ビーム63Aは、後方に向けて延び、且つ後方に進むにつれて互いの距離が離れていくように配置される。その結果、
図9(a)に示すように、平面視において第2支持ビーム63Aと第2接続ビーム64とによって略二等辺三角形が形成されるように、これらが配置される。このように、第2支持ビーム63Aについても、軸心部61,62に対して垂直方向とは異なる方向に延びていてもよい。さらに、
図9(a)では、8つの第2回転翼50Aが第2接続ビーム64上に並んでいる。このように、第2回転翼50の数についても、一対以上であればよく、例えば、四対(8つ)であってもよい。なお、
図9(a)に示す第1回転翼30及び第2回転翼50の数は一例であり、適宜変更される。チルトローター機1のように、第1回転翼30及び第2回転翼50の数は同数であってもよいし、チルトローター機1Aのように互いに異なっていてもよい。また、チルトローター機1Aのように、第1回転翼30と第2回転翼50Aとの間でその大きさが互いに異なっていてもよい。
【0061】
図9(b)に示すチルトローター機1Bでは、チルトローター機1Aと比べて、第1チルト機構40Aに取り付けられる第1回転翼30の取り付け位置及び第2チルト機構60Aに取り付けられる第2回転翼50の取り付け位置が相違する。チルトローター機1Aでは、4つの第1回転翼30が第1接続ビーム44上に並んでいたのに対して、チルトローター機1Bでは、2つの第1回転翼30が一対の第1支持ビーム43Aのそれぞれに対して1つずつ取り付けられている。また、チルトローター機1Bでは、2つの第2回転翼50が一対の第2支持ビーム63Aのそれぞれに対して1つずつ取り付けられている。このように、第1チルト機構に対する第1回転翼30の取り付け位置は、適宜変更することができる。
【0062】
なお、
図9では、第1チルト機構40の変形例及び第1回転翼30の数及び配置の変更例について説明したが、第2チルト機構60についても同様の変更を行うことができる。なお、チルトローター機1機において、第1回転翼30及び第2回転翼50は、それぞれ左右に一対以上配置されるので、第1回転翼30及び第2回転翼50の数は、それぞれが2の倍数とされる。また、第1回転翼30及び第2回転翼50の数の合計が4の倍数となるように調整されてもよい。このような数とすることで、回転翼の配置を左右均等にすることができ、左右方向の機体の安定性を高めることができる。
【0063】
図10は、チルト機構の形状を変更したチルトローター機2の構成例を説明する図である。チルトローター機2は、本体部10の前方に、本体部10よりも下方において左右に延びる第1主翼部21を有し、本体部10の後方に、本体部10よりも上方において左右に延びるに第2主翼部22を有している。また、一対の第1回転翼30は、左右に延びる第1主翼部21の両端部において、本体部10から離間し、且つ、本体部10に対して左右対称な位置に設けられている。また、一対の第2回転翼50は、左右に延びる第2主翼部22において、本体部10から離間し、且つ、本体部10に対して左右対称な位置に設けられている。さらに、一対の第3回転翼70は、左右に延びる第2主翼部22の両端部において、本体部10から離間し、且つ、本体部10に対して左右対称な位置に設けられている。第1回転翼30、第2回転翼50、及び第3回転翼70が設けられる位置は、一例であり、例えば、主翼部のなかほどに回転翼が設けられる構成であってもよい。
【0064】
また、チルトローター機2では、本体部10に対して回動するような第1チルト機構40及び第2チルト機構60は設けられておらず、一対の第1回転翼30及び一対の第2回転翼50それぞれが個別にその場でチルト動作が可能となっている。つまり、図示されていないが、第1回転翼30及び第2回転翼50のそれぞれに対して、個別にチルト機構が設けられている。すなわち、一対の第1回転翼30のそれぞれについてチルト動作を行う一対のチルト機構が第1チルト機構に対応し、一対の第2回転翼50のそれぞれについてチルト動作を行う一対のチルト機構が第2チルト機構に対応する。
【0065】
このように、チルト機構の構成を変更した場合であっても、機体の前方にある一対の第1回転翼30が、機体の重心よりも下方においてチルト動作を行うと共に、機体の後方にある一対の第2回転翼が、機体の重心よりも上方においてチルト動作を行う、という構成を実現することが可能である。
【0066】
なお、チルトローター機2の形状の飛行体の第1主翼部21または第2主翼部22に対して舵面を追加してもよい。また、チルトローター機1について、第1主翼部21及び第2主翼部22を備えた構成に変更してもよい。このように、本実施形態で説明した飛行体の構成は適宜組み合わせることができる。
【0067】
また、チルトローター機1についても、第1チルト機構40及び第2チルト機構60による動作とは独立して、
図10に示すように、一対の第1回転翼30及び一対の第2回転翼50それぞれが個別にその場でチルト動作が可能となるような構成であってもよい。この場合、制御部がこれらのチルト動作を個別に制御が可能であってもよい。
【0068】
図11(a)及び
図11(b)は、チルトローター機1と比べて、本体部10の形状を変更したチルトローター機1Cの構成例を説明する図である。
図11(a)は、
図2(a)に対応する図であり、
図11(b)は、
図2(b)に対応する図である。
図11(a)及び
図11(b)に示されるチルトローター機1Cは、本体部10Aの後方(主翼部20よりも後方)において、上下方向の高さが大きくなるように上面11に段差11aが設けられている点で、
図2等に示す本体部10と相違する。また、
図11(a)に示されるように、第2チルト機構60は、段差11aによって上面11が高くなっている本体部10Aの後方において、上面11の近くに設けられている。
【0069】
このような構成とした場合、
図11(b)に示すように、チルトローター機1Cにおいて第2チルト機構60の回転中心P2となる軸心部(図示せず)が設けられる高さ位置と、第1チルト機構40の回転中心P1となる軸心部(図示せず)が設けられる高さ位置との間に上下方向の差Hを設けることができる。このように2つのチルト機構の回転中心が上下方向に異なる高さ位置に設けられていてもよい。この場合も、
図11(a)及び
図11(b)に示すように、機体の前方にある一対の第1回転翼30が、チルトローター機1Cの機体の重心よりも下方においてチルト動作を行うと共に、機体の後方にある一対の第2回転翼50が、チルトローター機1Cの機体の重心よりも上方においてチルト動作を行う状態が実現される。
【0070】
[作用]
上記実施形態で説明したチルトローター機1によれば、機体の前方にある一対の第1回転翼30は、チルトローター機1の機体の重心よりも下方においてチルト動作を行う。また、機体の後方にある一対の第2回転翼50は、チルトローター機1の機体の重心よりも上方においてチルト動作を行う。このような構成とすることで、第1回転翼30及び第2回転翼50のチルト動作を用いて、機体の前後方向の姿勢の制御が可能となる。一方、チルトローター機1のロール運動を制御するためのロール制御部が本体部10の左右に配置されることで、機体の左右方向の姿勢の制御が可能となる。このため、第1回転翼30及び第2回転翼50の回転軸が変化する際にも姿勢を安定させることが可能となる。
【0071】
また、上記のチルトローター機1のように、ロール制御部は、本体部10の左右に配置されて上下方向に気流を発生させる一対の第3回転翼70であってもよい。このような構成とすることで、第3回転翼70を用いて機体の左右方向の姿勢を安定させることができる。
【0072】
さらに、一対の第3回転翼70は、一対の主翼部20それぞれの端部に設けられてもよい。このような構成とすることで、一対の第3回転翼70のそれぞれを本体部10から遠ざけた位置に配置することができるため、左右方向の安定性をより高めることができる。
【0073】
一方、ロール制御部は、一対の主翼部20それぞれに設けられた舵面であってもよい。例えば、
図8に示すような舵面81であってもよい。このような構成とすることで、主翼部20に設けられた舵面を用いて機体の左右方向の姿勢を安定させることができる。
【0074】
一対の第1回転翼30は、その回転軸31が水平方向である場合と比べて上下方向に傾いている場合に、第1回転翼30が下方に移動するようにチルト動作を行ってもよい。また、一対の第2回転翼50は、その回転軸51が水平方向である場合と比べて上下方向に傾いている場合に、第2回転翼50が上方に移動するようにチルト動作を行ってもよい。このような構成とすることで、チルト動作による機体の前後方向の姿勢の制御をより簡単に行うことができる。
【0075】
第1チルト機構40は、本体部10から左右方向に延びる軸心部41,42と、軸心部41,42に対して前方に延びると共に、軸心部41,42を基準として本体部10よりも下方に回動可能な一対の第1支持ビーム43とを有していてもよい。このとき、一対の第1回転翼30はそれぞれ一対の第1支持ビーム43の端部に取り付けられてもよい。また、第2チルト機構60は、本体部10から左右方向に延びる軸心部61,62と、軸心部61,62に対して後方に延びると共に、軸心部61,62を基準として本体部10よりも上方に回動可能な一対の第2支持ビーム63とを有し、一対の第2回転翼50はそれぞれ一対の第2支持ビーム63の端部に取り付けられてもよい。このような構成とすることで、第1回転翼30の飛行体の重心よりも下方でのチルト動作、及び、第2回転翼50の飛行体の重心よりも上方でのチルト動作をより簡単に実現することができる。
【0076】
第1チルト機構40は一対の第1支持ビーム43の端部同士を接続する第1接続ビーム44をさらに有していてもよく、一対の第1回転翼30はそれぞれ一対の第1支持ビーム43と第1接続ビーム44との接続位置に取り付けられていてもよい。また、第2チルト機構60は、一対の第2支持ビーム63の端部同士を接続する第2接続ビーム64をさらに有していてもよく、一対の第2回転翼50はそれぞれ一対の第2支持ビーム63と第2接続ビーム64との接続位置に取り付けられてもよい。このような構成とすることで、一対の第1支持ビーム43及び一対の第2支持ビーム63のそれぞれを安定して支持した状態で回動させることができ、第1回転翼30及び第2回転翼50のチルト動作も安定して行うことができる。
【0077】
主翼部20、第1チルト機構40、及び第2チルト機構60のいずれかは、角度を変更可能な舵面81~83を有していてもよい。このような構成とすることで、舵面を利用した姿勢制御も可能となり、機体の姿勢制御をより安定させることができる。
【0078】
チルトローター機1は、制御部90をさらに有し、制御部90は、第1回転翼30の回転数、第1チルト機構40のチルト動作、第2回転翼50の回転数、第2チルト機構60のチルト動作、及びロール制御部の動作(例えば、第3回転翼70の回転数)を個別に制御可能であってもよい。このような構成とすることで、機体の姿勢制御をより安定させることができる。
【0079】
なお、本実施形態で説明した飛行体は種々の変更を加えることができる。例えば、上記実施形態では、飛行体として上述のチルトローター機1について説明したが、回転翼による垂直離着陸と、固定翼を用いた巡行とを行うという条件で、飛行体の構成は適宜変更することができる。
【0080】
また、チルトローター機1において、主翼部20、第1回転翼30、第2回転翼50及び第3回転翼70の数及び形状は適宜変更することができる。例えば、主翼部20、第1回転翼30、第2回転翼50及び第3回転翼70のいずれかが、複数対設けられていてもよい。また、本体部10に対する主翼部20の大きさ等は適宜変更される。また、回転翼同士の大きさの関係を適宜変更してもよい。
【0081】
また、上述したように、チルト機構(第1チルト機構40、第2チルト機構60)の形状は適宜変更可能である。また、チルト機構に対する回転翼(第1回転翼30、第2回転翼50)の取り付け位置も適宜変更することができる。また、チルト機構においては、接続ビーム(第1接続ビーム44、第2接続ビーム64)は設けられなくてもよい。また、上記実施形態では、チルト機構が、軸心部(例えば、軸心部41,42)を有している構成を説明したが、一対の支持ビーム(例えば、第1支持ビーム43)が軸心を中心として回動することによってチルト動作が行うことが可能であればよく、例えば、支持ビームが駆動部(例えば、第1駆動部45)に対して直に接続されていてもよい。
【0082】
さらに、チルト機構(第1チルト機構40、第2チルト機構60)の構成を変更することによって、その動作を変更してもよい。例えば、上記実施形態では、チルト機構は、1つの軸(例えば、軸心部41,42により構成される軸)に対して一対の支持ビーム(例えば、第1支持ビーム43)が回動する構成について説明した。これに対して、チルト機構は多段階で回動が可能な構成であってもよい。例えば、一対の支持ビームの中ほどに更に上記の軸(軸心部41,42により構成される軸)と同一の方向である左右方向(Y軸方向)に延びる第2の回動軸を設け、一対の支持ビームの先端側(回転翼が取り付けられる側)が、一対の支持ビームの軸心部側に対して第2の回動軸を軸心として回動可能な構成であってもよい。このように、チルト機構は少なくとも1つの軸心を中心として回転翼を回動可能な構成であればよいが、複数の軸心を中心として回転翼を回動可能な構成とされていてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1,2…チルトローター機、10…本体部、20…主翼部、21…第1主翼部、22…第2主翼部、30…第1回転翼、31…回転軸、40…第1チルト機構、41,42…軸心部、43…第1支持ビーム、44…第1接続ビーム、45…第1駆動部、46…回転翼支持部、50…第2回転翼、51…回転軸、60…第2チルト機構、61,62…軸心部、63…第2支持ビーム、64…第2接続ビーム、65…第2駆動部、66…回転翼支持部、70…第3回転翼、71…回転軸、81~83…舵面、90…制御部。