(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034182
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】電動作業車両
(51)【国際特許分類】
B60K 1/02 20060101AFI20240306BHJP
B60K 7/00 20060101ALI20240306BHJP
B60K 17/12 20060101ALI20240306BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240306BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B60K1/02
B60K7/00
B60K17/12
B60L15/20 S
B60L15/40 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138256
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 和崇
(72)【発明者】
【氏名】平田 千秋
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 直樹
【テーマコード(参考)】
3D042
3D235
5H125
【Fターム(参考)】
3D042AA01
3D042AA06
3D042AB07
3D042BE01
3D235AA12
3D235BB18
3D235BB32
3D235CC12
3D235CC42
3D235DD12
3D235EE14
3D235EE18
3D235FF02
3D235FF32
3D235GA02
3D235GA12
3D235GA32
3D235GB03
5H125AA11
5H125AB01
5H125BA06
5H125CA02
5H125CC07
5H125FF01
(57)【要約】
【課題】圃場等での走破性能が得られ、登坂性能に優れた電動作業車両を提供する。
【解決手段】
電動作業車両1は、車台部11と、車幅方向Dblにおける車台部の一側に備わる第1駆動輪22Rおよび第1従動輪21Rと、他側に備わる第2駆動輪22Lおよび第2従動輪21Lと、駆動部と、を備える。駆動部は、第1電動モータ31Rと、第1電動モータの動力を減速して第1駆動輪に伝達させる第1減速機構41R、51Rと、第1電動モータから第1駆動輪に伝達される動力の一部を第1従動輪に分配する第1動力分配機構61R~63Rと、第1電動モータとは独立に動作可能な第2電動モータ31Lと、第2電動モータの動力を減速して第2駆動輪に伝達させる第2減速機構41L、51Lと、第2電動モータから第2駆動輪に伝達される動力の一部を第2従動輪に分配する第2動力分配機構61L~63Lと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車台部と、
車幅方向における前記車台部の一側に備わる第1駆動輪および第1従動輪と、
前記車幅方向における前記車台部の他側に備わる第2駆動輪および第2従動輪と、
駆動部と、を備え、
前記駆動部は、
第1電動モータと、
前記第1電動モータの動力を減速して前記第1駆動輪に伝達させる第1減速機構と、
前記第1電動モータから前記第1駆動輪に伝達される動力の一部を前記第1従動輪に分配する第1動力分配機構と、
前記第1電動モータとは独立に動作可能な第2電動モータと、
前記第2電動モータの動力を減速して前記第2駆動輪に伝達させる第2減速機構と、
前記第2電動モータから前記第2駆動輪に伝達される動力の一部を前記第2従動輪に分配する第2動力分配機構と、を備える、電動作業車両。
【請求項2】
前記第1および第2駆動輪のそれぞれを前記車幅方向に跨ぐブラケット部材をさらに備え、
前記第1電動モータおよび前記第2電動モータのそれぞれは、前記第1または第2駆動輪の車軸と平行に配置された出力軸を有するとともに、前記出力軸に装着された駆動ギアを有し、
前記第1および第2減速機構のそれぞれは、前記第1または第2駆動輪の車軸に装着され、前記駆動ギアと噛み合う減速ギアを有し、
前記ブラケット部材は、前記車台部に近い内側に、前記第1または第2電動モータの筐体部に接合する接合部を有するとともに、前記第1または第2駆動輪に対して前記内側とは反対の外側に、前記車軸の一端部を支持する第1支持部を有する、
請求項1に記載の電動作業車両。
【請求項3】
前記ブラケット部材は、前記内側に、前記車軸の他端部を支持する第2支持部を有し、
前記第1および第2支持部により、前記第1および第2駆動輪の車軸をその両端部で支持する、
請求項2に記載の電動作業車両。
【請求項4】
前記ブラケット部材は、
前記内側において上下方向に延び、前記接合部を有する内側縦壁部と、
前記外側において前記内側縦壁部に対して平行に延び、前記第1支持部を有する外側縦壁部と、
前記第1または第2駆動輪を跨いで前記車幅方向に延び、前記内側縦壁部と前記外側縦壁部とを結合する中間部と、
前記内側縦壁部から前記外側縦壁部にかけて当該ブラケット部材の内面に沿って形成された補強部と、を備える、
請求項2に記載の電動作業車両。
【請求項5】
前記補強部は、
前記内側縦壁部から前記中間部にかけて前記車幅方向に形成された内側補強部と、
前記中間部から前記外側縦壁部にかけて前記車幅方向に形成された外側補強部と、を有し、
前記内側補強部は、前記外側補強部よりも当該車両を前後方向に見た正面視での面積が広く、前記接合部の上端よりも下方にまで延在する、
請求項4に記載の電動作業車両。
【請求項6】
前記車台部の一側および他側のそれぞれにおいて、前記駆動輪と前記従動輪との間で当該車両の前後方向に延び、前記駆動輪の車軸と前記従動輪の車軸とを剛的に結合するロッド部材をさらに備える、
請求項1から5のいずれか一項に記載の電動作業車両。
【請求項7】
前記車台部の一側および他側のそれぞれにおいて、前記動力分配機構は、対応する前記駆動輪および前記従動輪に対して前記車台部に近い内側に配置され、
前記ロッド部材は、対応する前記駆動輪および前記従動輪を挟んで前記動力分配機構とは反対の外側に配置されている、
請求項6に記載の電動作業車両。
【請求項8】
前記車台部の一側および他側のそれぞれにおいて、前記駆動輪、前記ブラケット部材および前記ロッド部材は、前記駆動輪に対する外側から内側に向けて、前記ロッド部材、前記ブラケット部材の外側縦壁部、前記駆動輪、前記ブラケット部材の内側縦壁部の順に並ぶ、
請求項7に記載の電動作業車両。
【請求項9】
前記第1および第2電動モータを無線により遠隔操作可能なコントローラをさらに備える、
請求項1から5のいずれか一項に記載の電動作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動式の電動作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータを駆動源とし、前輪と後輪とのうち、一方を電動モータにより駆動可能に構成された電動式の作業車両が存在する。モバイルムーバー(登録商標)は、その一例である。
【0003】
特許文献1には、左右の後輪を繋ぐ車軸に電動モータを直結するとともに、後輪の車軸と前輪の車軸とをスプロケットおよびチェーンを介して連結した四輪駆動式の車椅子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の駆動力を前後一方の車輪により生じさせる構成では、圃場等の露地での使用を想定した場合に常に充分な走破性能が得られるとは限らず、登坂性能においても不足が生じがちである。
【0006】
さらに、圃場等では車両を走らせるための広い通路を確保することが難しい場合もあり、車体を小さく抑えることが求められるところ、車体を小型化すれば、レイアウト上の制約等から駆動源である電動モータについても小型化が必要となり、走破性能および登坂性能の不足がより顕著となる。
【0007】
そこで、本発明は、このような実情に鑑み、圃場等の露地でも充分な走破性能が得られ、登坂性能にも優れた電動作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため、本発明に係る電動作業車両は、車台部と、車幅方向における前記車台部の一側に備わる第1駆動輪および第1従動輪と、前記車幅方向における前記車台部の他側に備わる第2駆動輪および第2従動輪と、駆動部と、を備え、前記駆動部は、第1電動モータと、前記第1電動モータの動力を減速して前記第1駆動輪に伝達させる第1減速機構と、前記第1電動モータから前記第1駆動輪に伝達される動力の一部を前記第1従動輪に分配する第1動力分配機構と、前記第1電動モータとは独立に動作可能な第2電動モータと、前記第2電動モータの動力を減速して前記第2駆動輪に伝達させる第2減速機構と、前記第2電動モータから前記第2駆動輪に伝達される動力の一部を前記第2従動輪に分配する第2動力分配機構と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、動力分配機構により駆動輪と従動輪との双方により駆動力を生じさせるとともに、駆動源である電動モータと駆動輪との間に減速機構を設置し、電動モータの出力トルクを減速させて駆動輪に伝達させることで、圃場等の露地でも充分な走破性能が得られ、登坂性能にも優れた電動作業車両を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動作業車両の全体的な構成を示す平面図である。
【
図2】同上電動作業車両の構成を、ブラケット部材を取り外した状態で示す平面図である。
【
図4】同上電動作業車両の
図2に示すA-A線による断面図である。
【
図5】同上電動作業車両の
図2に示すB-B線による断面図である。
【
図6】同上電動作業車両における駆動モータから駆動輪へ至る動力伝達経路の構成を示す拡大図である。
【
図7】同上電動作業車両に備わる制御システムの全体的な構成を示す概略図である。
【
図8】ブラケット部材により得られる効果を示す説明図である。
【
図9】ロッド部材により得られる効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る電動作業車両(以下、単に「車両」という)1の全体的な構成を示す平面図である。
【0013】
図2は、本実施形態に係る車両1の平面図であり、車両1の構成を、ブラケット部材71(71R、71L)を取り外した状態で示す。
【0014】
図3は、車両1の側面図であり、車両1に備わるブラケット部材71(71R、71L)およびロッド部材81(81R、81L)の外観を示す。
図4は、車両1の
図2に示すA-A線による断面図であり、
図5は、車両1の
図2に示すB-B線による断面図である。
図4および
図5は、車両1に備わる減速機構および動力分配機構の構成を示す。
図3から
図5を適宜に参照しながら、
図1および
図2に基づき、本実施形態に係る車両1の構成について説明する。
【0015】
本実施形態において、車両1は、電動式の作業車両であり、農作物の運搬や農薬の散布等に使用することが可能である。車両1は、農作業に限らず、次に述べる車台部に荷台または台座を取り付けて荷受部を設置することにより、荷物や人の運搬全般に便利に使用することが可能である。
【0016】
車両1は、車体フレーム11(11a~11c)と、車輪21(21R、21L)、22(22R、22L)と、を備える。車体フレーム11は、車両1の車台部を構成する。
【0017】
車体フレーム11は、左右一対のサイドメンバ11a、11aと、クロスメンバ11bと、懸架部材11cと、を備える。サイドメンバ11a、11aは、車両1の前後方向Dtlに対して平行に、互いに左右方向、つまり、車幅方向Dblに離間して配置されている。クロスメンバ11bは、車両1の後方部分において、サイドメンバ11a、11aの間に掛け渡すように配置され、サイドメンバ11a、11aと結合して、車両1の骨格構造を形成する。懸架部材11cは、車両1の前方部分、本実施形態では、前端部分において、サイドメンバ11a、11aの間に掛け渡すように配置され、サイドメンバ11a、11aと結合して、骨格構造の強度を増強する。ここに、サイドメンバ11a、11a、クロスメンバ11bおよび懸架部材11cは、全体としてラダー状の車体フレーム11を構成する。
【0018】
車輪21、22は、車両1の前方部分に備わる左右一対の車輪、つまり、右前輪21Rおよび左前輪21Lと、車両1の後方部分に備わる左右一対の車輪、つまり、右後輪22Rおよび左後輪22Lと、を含む。本実施形態において、前後方向Dtlに延びる車両1の中心軸Axに対して右側に備わる右後輪22Rおよび右前輪21Rは、「第1駆動輪」、「第1従動輪」に夫々対応し、中心軸Axに対して左側に備わる左後輪22Lおよび左前輪21Lは、「第2駆動輪」、「第2従動輪」に夫々対応する。
【0019】
図1および
図4に示すように、懸架部材11cは、両端部分のそれぞれから垂下する軸支持部11c1、11c2を有する。本実施形態において、懸架部材11cの軸支持部11c1、11c2は、平板状に形成されている。右前輪21Rは、懸架部材11cの右側の軸支持部11c1により車軸211Rが支持され、左前輪21Lは、懸架部材11cの左側の軸支持部11c2により車軸211Lが支持され、右前輪21Rと左前輪21Lとは、いずれも回転自在な状態にある。
【0020】
さらに、
図5に示すように、車両1は、左右夫々のサイドメンバ11a、11aに結合され、クロスメンバ11bよりも後方にまで延在する支持部材11d、11dを有する。支持部材11d、11dは、懸架部材11cと同様に、本実施形態に係る車体フレーム11を構成する。
【0021】
支持部材11d、11dは、サイドメンバ11a、11aよりも下方に延在する。本実施形態において、支持部材11d、11dは、前後方向Dtlに長い平板状に形成され、電動モータ31R、31Lの筐体部に結合し、電動モータ31R、31Lを支持する。電動モータ31R、31Lの筐体部は、支持部材11d、11dと結合するとともに、後に述べるブラケット部材71R、71Lの内側縦壁部711と結合し、これにより、支持部材11d、11dは、サイドメンバ11a、11aを介して懸架部材11cとの間の距離、換言すれば、前輪21R、21Lと後輪22R、22Lとの間の距離を規定する。右後輪22Rは、右側のブラケット部材71Rにより車軸221Rが支持され、左後輪22Lは、左側のブラケット部材71Lにより車軸221Lが支持され、右後輪22Rと左後輪22Lとは、いずれも回転自在な状態にある。懸架部材11cの軸支持部11c1、11c2に設けられる車軸211R、211Lの挿通孔hが長穴状ないし長円状に形成され(
図5)、挿通孔hの内部で車軸211R、211Lの位置を前後に調整することで、前輪21R、21Lと後輪22R、22Lとの間の距離を調整し、後に述べるチェーン63R、63Lの張りを調整することが可能である。
【0022】
本実施形態において、車両1は、駆動源として、電動機である駆動モータ31R、31Lを備える。駆動モータ31R、31Lは、後に述べる減速機構および動力分配機構とともに、車両1の「駆動部」を構成する。減速機構は、「第1減速機構」および「第2減速機構」を含み、動力分配機構は、「第1動力分配機構」および「第2動力分配機構」を含む。
【0023】
図2に示すように、駆動モータ31R、31Lは、右後輪22Rおよび左後輪22Lのそれぞれに対して設けられ、支持部材11d、11dにより支持されている。駆動モータ31R、31Lは、夫々独立に電流制御可能であり、右後輪22Rと左後輪22Lとのそれぞれに対して独立かつ個別に動力供給可能である。具体的には、右後輪22Rと左後輪22Lとを互いに等しい速度で回転させたり、一方の回転速度を他方の回転速度よりも低減させたり、一方を他方とは反対の方向に同一または異なる速度で回転させたりすることが可能である。
【0024】
図2および
図5に示すように、駆動モータ31R、31Lは、対応する駆動輪、つまり、右後輪22R、左後輪22Lに対し、減速機構を介して動力接続されている。右後輪22Rに接続された右側の駆動モータ31Rは、「第1電動モータ」に相当し、駆動モータ31Rと右後輪22Rとの間に設けられた減速機構は、「第1減速機構」に相当する。さらに、左後輪22Lに接続された左側の駆動モータ31Lは、「第2電動モータ」に相当し、駆動モータ31Lと左後輪22Lとの間に設けられた減速機構は、「第2減速機構」に相当する。
【0025】
図6は、車両1における左側の駆動モータ31Lから対応する駆動輪、つまり、左後輪22Lに至る動力伝達経路の構成を示す拡大図である。本実施形態では、駆動モータ31Rから右後輪22Rに至る動力伝達経路と、駆動モータ31Lから左後輪22Lに至る動力伝達経路と、が同一の要素を有するため、左後輪22Lに対して設けられる動力伝達経路により代表して説明する。
【0026】
動力伝達経路は、駆動モータ31Lの動力を減速機構により減速して左後輪22Lに伝達させる。本実施形態において、駆動モータ31Lと左後輪22Lとは、それぞれの回転軸、つまり、駆動モータ31Lの出力軸と左後輪22Lの車軸221Lとが互いに平行に配置され、駆動モータ31Lの出力軸には駆動ギア41Lが、左後輪22Lの車軸221Lには減速ギア51Lが夫々取り付けられている。減速ギア51Lは、駆動ギア41Lよりも歯数が多く、駆動ギア41Lおよび減速ギア51Lは、左後輪22Lに対して設けられる減速機構、つまり、「第2減速機構」を構成する。
【0027】
同様に、駆動モータ31Rの出力軸には駆動ギア41Rが、右後輪22Rの車軸221Rには駆動ギア41Rよりも歯数が多い減速ギア51Rが夫々取り付けられ、駆動ギア41Rおよび減速ギア51Rは、右後輪22Rに対して設けられる減速機構、つまり、「第1減速機構」を構成する。
【0028】
さらに、
図2および
図4に示すように、右後輪22Rおよび左後輪22Lは、車両1の中心軸Axに対する左右の同じ側に備わる従動輪、つまり、右前輪21R、左前輪21Lに対し、動力分配機構を介して動力接続されている。右後輪22Rと右前輪21Rとを接続する動力分配機構は、「第1動力分配機構」に相当し、左後輪22Lと左前輪21Lとを接続する動力分配機構は、「第2動力分配機構」に相当する。
【0029】
具体的には、右前輪21Rと右後輪22R、さらに、左前輪21Lと左後輪22Lとは、チェーン等の動力伝達媒体63R、63Lを介して互いに連結されている。右前輪21Rの車軸211Rと右後輪22Rの車軸221Rとのそれぞれにスプロケット61R、62Rが取り付けられ、これら前後一対のスプロケット61R、62Rの間にチェーン63Rが掛け渡されている。さらに、左前輪21Lの車軸211Lと左後輪22Lの車軸221Lとのそれぞれにスプロケット61L、62Lが取り付けられ、これら前後一対のスプロケット61L、62Lの間にチェーン63Lが掛け渡されている。これにより、駆動モータ31Rから右後輪22Rに伝達される動力の一部が右前輪21Rに分配され、駆動モータ31Lから左後輪22Lに伝達される動力の一部が左前輪21Lに分配される。スプロケット61R、62Rおよびチェーン63Rは、「第1動力分配機構」を構成し、スプロケット61L、62Lおよびチェーン63Lは、「第2動力分配機構」を構成する。
【0030】
このように、車両1は、四輪駆動式であり、本実施形態において、前輪21R、21L側のスプロケット61R、61Lと後輪22R、22L側のスプロケット62R、62Lとは、互いに等しい歯数を有し、右前輪21Rと右後輪22Rとは、互いに同じ方向に等しい速度で回転し、左前輪21Lと左後輪22Lとは、互いに同じ方向に等しい速度で回転する。
【0031】
以上に加え、本実施形態では、車両1の構造強度の確保および向上のため、ブラケット部材71R、71Lおよびロッド部材81R、81Lが設けられている。ブラケット部材71R、71Lは、右後輪22Rおよび左後輪22Lのそれぞれに対し、各車輪22R、22Lを車幅方向Dblに跨ぐように設けられている。ロッド部材81R、81Lは、車両1の中心軸Axに対する右側または左側のそれぞれにおいて、前輪21R、21Lの車軸211R、211Lと後輪22R、22Lの車軸221R、221Lとを前後方向Dtlに繋ぐように設けられている。
【0032】
本実施形態では、右後輪22Rに対して設けられるブラケット部材71Rと、左後輪22Lに対して設けられるブラケット部材71Lと、が車両1の中心軸Axを対称軸とする線対称な構成を有するため、
図6に基づき、左後輪22Lに対して設けられるブラケット部材71Lにより代表して説明する。
【0033】
ブラケット部材71Lは、左後輪22Lに対して車両1の中心軸Axに近い内側に配置されて上下方向に延びる内側縦壁部711Lと、左後輪22Lを挟んで内側とは反対の外側に配置され、内側縦壁部711Lに対して平行に延びる外側縦壁部712Lと、左後輪22Lを跨いで車幅方向Dblに延び、内側縦壁部711Lと外側縦壁部712Lとを互いの上端部で結合する中間部713Lと、を有し、車両1を前後方向Dtlに見た正面視で下向きに開いたコ字状に形成されている。
【0034】
そして、ブラケット部材71Lは、内側縦壁部711Lが駆動モータ31Lの筐体部に接合され、駆動モータ31Lの筐体部を介して車体フレーム11、具体的には、支持部材11dに固定され、支持部材11dにより支持されている。
【0035】
さらに、ブラケット部材71Lは、内側縦壁部711Lおよび外側縦壁部712Lのそれぞれが左後輪22Lの車軸221Lよりも下方にまで垂下し、左後輪22Lの車軸221Lをその両端部で支持する。換言すれば、左後輪22Lは、ブラケット部材71Lの内側縦壁部711Lおよび外側縦壁部712Lにより両端部で支持されている。
【0036】
同様に、ブラケット部材71Rは、右後輪22Rを跨いで配置され、右後輪22Rに対して左右夫々に配置された内側縦壁部および外側縦壁部を有するとともに、内側縦壁部と外側縦壁部とを結合する中間部を有し、車両1を前後方向Dtlに見た正面視で下向きに開いたコ字状に形成されている。右後輪22Rは、このようなブラケット部材の内側縦壁部および外側縦壁部により両端部で支持されている。
【0037】
ここに、ブラケット部材71R、71Lのうち、駆動モータ31R、31Lの筐体部に接合する部分が「接合部」に相当する。そして、内側縦壁部711(711L)のうち、後輪22R、22Lの車軸221R、221Lの、車両1の中心軸Axに近い内側の端部を支持する部分が「第2支持部」に相当し、外側縦壁部712(712L)のうち、車軸221R、221Lの、中心軸Axに対して内側とは反対の外側の端部を支持する部分が「第1支持部」に相当する。つまり、本実施形態では、左後輪22Lに対するブラケット部材71Lについて、「接合部」および「第2支持部」が内側縦壁部711Lにより形成され、「第1支持部」が外側縦壁部712Lにより形成される。右後輪22Rに対するブラケット部材71Rについても同様である。
【0038】
さらに、本実施形態において、ブラケット部材71R、71Lは、補強部714(714L)、715(715L)を有する。
【0039】
図6を参照して、左後輪22Lに対して設けられるブラケット部材71Lにより代表して説明すると、補強部714L、715Lは、内側縦壁部711Lから外側縦壁部712Lにかけてブラケット部材71Lの内面に沿って膜板状に形成され、内側縦壁部711Lと中間部713Lとの接合部に対して垂直な面内におけるブラケット部材71Lの変形を抑制するとともに、外側縦壁部712Lと中間部713Lとの接合部に対して垂直な面内におけるブラケット部材71Lの変形を抑制する。
【0040】
具体的には、補強部714L、715Lは、内側縦壁部711Lから中間部713Lにかけて車幅方向Dblに形成された内側補強部714Lと、中間部713Lから外側縦壁部712Lにかけて車幅方向Dblに形成された外側補強部715Lと、を有し、ブラケット部材71Lの前端部および後端部のそれぞれに設けられている。
図1は、左右のブラケット部材71R、71Lにおいて内側補強部714(714L)および外側補強部715(715L)が設けられる部位を、点線により示す。
【0041】
ここで、
図6に示すように、内側補強部714Lは、外側補強部715Lよりも車両1を前後方向Dtlに見た正面視における面積が広く、さらに、ブラケット部材71Lの内側縦壁部711Lが駆動モータ31Lの筐体部と接合する接合部の上端よりも下方にまで延在する。
図6は、接合部の上端の位置を、符号Pにより示す。
【0042】
右後輪22Rに対して設けられるブラケット部材71Rについても同様であり、補強部は、内側縦壁部から外側縦壁部にかけてブラケット部材71Rの内面に沿って膜板状に形成され、内側縦壁部から中間部にかけて車幅方向Dblに形成された内側補強部と、中間部から外側縦壁部にかけて車幅方向Dblに形成された外側補強部と、を有する。そして、内側補強部は、外側補強部よりも車両1を前後方向Dtlに見た正面視での面積が広く、ブラケット部材71Rの内側縦壁部が駆動モータ31Rの筐体部と接合する接合部の上端よりも下方にまで延在する。
【0043】
ロッド部材81R、81Lは、細長角柱状に形成され、車両1の中心軸Axに対する左右のそれぞれにおいて、右前輪21Rの車軸211Rと右後輪22Rの車軸221Rとを剛的に結合するとともに、左前輪21Lの車軸211Lと左後輪22Lの車軸221Lとを剛的に結合する。
【0044】
本実施形態では、
図6に示すように、後輪22(右後輪22R、左後輪22L)、ブラケット部材71R、71L、減速ギア51R、51L、後輪22R、22L側のスプロケット62R、62Lおよびロッド部材81R、81Lを、次のような順序で配置する。車両1の中心軸Axに対する左右のそれぞれにおいて、後輪22R、22Lに対して中心軸Axとは反対の外側から内側に向けて、ロッド部材81R、81L、ブラケット部材71R、71Lの外側縦壁部712(712L)、後輪22R、22L、スプロケット62R、62L、減速ギア51R、51L、ブラケット部材71R、71Lの内側縦壁部711(711L)の順である。
【0045】
このような配置において、前輪21R、21L側のスプロケット61r、61Lは、右前輪21Rまたは左前輪21Lに対して中心軸Axに近い内側に位置し、後輪22R、22L側のスプロケット62R、62Lは、右後輪22Rまたは左後輪22Lに対して中心軸Axに近い内側に位置する。そして、ロッド部材81R、81Lは、前輪21R、21Lおよび後輪22R、22Lを挟んでスプロケット61R、62R、61L、62Lとは反対の外側に位置する。
【0046】
図7は、車両1に備わる制御システムの全体的な構成を示す概略図である。
【0047】
本実施形態では、車両1に搭載された車載コントローラ100が設けられるとともに、車載コントローラ100に対して無線により通信可能に構成された遠隔コントローラ101が設けられる。
【0048】
車載コントローラ100は、遠隔コントローラ101を介して操作者ないし作業者により入力された指示信号を受信し、この指示信号に基づき、駆動モータ31R、31Lの動作を制御する。つまり、車両1は、遠隔コントローラ101を用いて無線により遠隔操作可能である。
【0049】
遠隔コントローラ101は、車両1の駆動モータ31R、31Lを操作するための入力部を備える。具体的には、遠隔コントローラ101は、車両1を起動させるための起動入力部111、車両1を前進または後退させるとともに、進行方向を右または左へ変化させるための走行入力部112およびその他の入力部113を備える。遠隔コントローラ101に備わる入力部111~113は、ボタンまたはジョイスティック等、適宜の形態により具現可能である。
【0050】
本実施形態に係る車両1は、以上の構成を有し、以下に、本実施形態により得られる効果について説明する。
【0051】
第1に、車両1の駆動部に第1動力分配機構(スプロケット61R、62Rおよびチェーン63R)および第2動力分配機構(スプロケット61L、62Lおよびチェーン63L)を設け、駆動輪である右後輪22R、左後輪22Lと、従動輪である右前輪21R、左前輪21Lと、を駆動モータ31R、31Lにより夫々駆動可能としたことで、車両1のトラクション抜けを防止するとともに、駆動力を確保し、車両1の走破性能の向上を図ることが可能となる。
【0052】
さらに、駆動モータ31R、31Lと右後輪22R、左後輪22Lとの間に減速機構、具体的には、駆動ギア41R、41Lおよび減速ギア51R、51Lを設けたことで、車両1の駆動トルクを増大させ、登坂性能の向上を図ることが可能となる。
【0053】
つまり、本実施形態によれば、車両1の四輪駆動化と減速機構の併設とにより、走破性能と登坂性能とを向上させ、圃場等の露地においても充分な走行性能の実現を図ることが可能となる。
【0054】
さらに、右前輪21Rおよび右後輪22Rを駆動する電動モータ、つまり、駆動モータ31Rと、左前輪21Lおよび左後輪22Lを駆動する電動モータ、つまり、駆動モータ31Lと、を互いに独立に動作可能としたことで、旋回時に内輪側の車輪の回転数を低下させたり、内輪側の車輪を外輪側の車輪とは反対に回転させたりすることで、旋回を達成することが可能となる。特に超信地旋回により、狭い空間での旋回および方向転換を実現することが可能となる。
【0055】
第2に、右後輪22Rおよび左後輪22Lのそれぞれを車幅方向Dblに跨ぐようにブラケット部材71R、71Lを配置し、ブラケット部材71R、71Lの内側縦壁部711(711L)に接合部を設けて、駆動モータ31R、31Lの筐体部に接合する一方、ブラケット部材71R、71Lの外側縦壁部712(712L)に第1支持部を設けて、右後輪22R、左後輪22Lの車軸221R、221Lをその外側の端部で支持した。これにより、
図8に示すように、駆動ギア41R、41Lと減速ギア51R、51Lとの反発により、減速ギア51R、51LにTL軸Atlを中心とする捻り方向のモーメントMtlが作用し、これらのギア41R、41L、51R、51Lのかみ合いにズレが生じて、駆動ギア41R、41Lまたは減速ギア51R、51Lに破損が生じるのを抑制することが可能となる。
【0056】
第3に、ブラケット部材71R、71Lの内側縦壁部711(711L)に第2支持部を設けて、第1支持部および第2支持部により、右後輪22R、左後輪22Lの車軸221R、221Lをその両端部で支持することで、これらの車軸221R、221Lをより確りと、安定して支持することが可能となり、駆動ギア41R、41Lおよび減速ギア51R、51Lにかみ合いのズレによる破損が生じるのをより確実に抑制することが可能となる。
【0057】
第4に、ブラケット部材71R、71Lに、内側縦壁部711(711L)、外側縦壁部712(712L)および中間部713(713L)を形成するとともに、内側縦壁部711(711L)から外側縦壁部712(712L)にかけて、ブラケット部材71R、71Lの内面に沿って補強部714(714L)、715(715L)を形成することで、ブラケット部材71R、71Lの開きにより接合部と第1支持部との相対位置が変化し、駆動ギア41R、41Lと減速ギア51R、51Lとのかみ合いにズレが生じるのを抑制することが可能となる。
【0058】
第5に、補強部714、715として内側補強部714(714L)と外側補強部715(715L)とを形成し、内側補強部714(714L)に外側補強部715(715L)よりも広い面積を持たせ、内側補強部714(714L)を接合部の上端Pよりも下方にまで延設したことで、TL軸Atlを中心とする捻り方向のモーメントMtlに対する剛性を高めて、駆動ギア41R、41Lと減速ギア51R、51Lとの反発に起因するブラケット部材71R、71Lの変形をより確実に抑制することが可能となる。
【0059】
さらに、補強部714、715を内側補強部714(714L)と外側補強部715(715L)とに分けて形成したことで、後輪22R、22Lの中心位置に応じて内側補強部714(714L)と外側補強部715(715L)との車幅方向Dblの境界を変更し、ブラケット部材71R、71L、特に補強部714、715が後輪22R、22Lに干渉し、後輪22R、22Lの動作ないし回転に支障を来す事態を回避することが可能となる。
【0060】
第6に、車両1の中心軸Axを基準として車台部の左右夫々の側にロッド部材81R、81Lを配置し、後輪22R、22Lの車軸221R、221Lと前輪21R、21Lの車軸211R、211Lとをロッド部材81R、81Lにより結合した。これにより、
図9に示すように、登坂路を走行する場合等、スプロケット61R、61L、62R、62Lおよびチェーン63R、63Lに大きな負荷がかかる場合に、後輪22R、22Lの車軸221R、221Lと前輪21R、21Lの車軸211R、211LとにWL軸Awlを中心とする捻り方向のモーメントMwlが生じて、動力分配機構に要素の脱落等の不具合が生じるのを抑制することを可能となる。例えば、本実施形態では、チェーン63R、63Lの脱落を抑制することができる。
【0061】
第7に、後輪22R、22Lおよび前輪21R、21Lに対し、スプロケット61R、61L、62R、62Lを車両1の中心軸Axに近い内側に、ロッド部材81R、81Lをその反対の外側に配置したことで、動力分配機構を介して生じるモーメントMwlに対して後輪22R、22Lおよび前輪21R、21L夫々の車軸221R、221L、211R、211Lをロッド部材81R、81Lにより確りと支持し、動力分配機構に不具合が生じるのをより確実に抑制することが可能となる。
【0062】
第8に、ブラケット部材71R、71Lに対し、後輪22R、22Lを内側縦壁部711(711L)と外側縦壁部712(712L)との間に配置し、ロッド部材81R、81Lを外側縦壁部712(712L)の外側に配置したことで、ブラケット部材71R、71Lの車幅方向Dblの寸法、つまり、ブラケット部材71R、71Lの幅を縮小させ、TL軸Atlを中心とする捻り方向の剛性を高めるとともに、動力分配機構から離れた位置にあるロッド部材81R、81Lにより、WL軸Awlを中心とする捻り方向のモーメントMwlに対する支持をより確実なものとすることが可能となる。
【0063】
第9に、車両1の動作を遠隔コントローラ101により制御可能としたことで、雑草の生い茂った露地に実際に入ることなく、屋内等の安全な場所から遠隔コントローラ101を用いて車両1を操作することが可能となり、作業負担の大幅な軽減を図るとともに、作業者の安全を確保することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…電動作業車両、11…車体フレーム、11c…懸架部材、21…前輪、21R…右前輪、21L…左前輪、22…後輪、22R…右後輪、22L…左後輪、211(211R、211L)…前輪の車軸、221(221R、221L)…後輪の車軸、31R、31L…駆動モータ、41(41R、41L)…駆動ギア、51(51R、51L)…減速ギア、61(61R、61L)、62(62R、62L)…スプロケット、63(63R、63L)…チェーン、71(71R、71L)…ブラケット部材、711…内側縦壁部、712…外側縦壁部、713…中間部、714…内側補強部、715…外側補強部、81R、81L…ロッド部材、100…車載コントローラ、101…遠隔コントローラ、g…隙間、Dtl…前後方向、Dbl…車幅方向、P…接合部の上端。