(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034226
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法、摩擦撹拌接合装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
B23K20/12 346
B23K20/12 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138334
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】近藤 清人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴之
(72)【発明者】
【氏名】古橋 正樹
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA03
4E167AA06
4E167AA08
4E167AA13
4E167AA29
4E167BG02
4E167BG05
4E167BG12
4E167BG22
4E167BG25
4E167BG32
4E167DA04
(57)【要約】
【課題】摩擦撹拌接合により複数の被接合部材を一体化して構造体を製造する場合において、接合工程の工数を削減できる構造体の製造方法及び摩擦撹拌接合装置を提供する。
【解決手段】構造体の製造方法において、配置工程では、第1,第2部材20,30の側面21,31同士を突き合わせるとともに、第1,第3部材20,40を重ね合わせた状態にする。接合工程では、第1部材20の側から第1,第3部材20,40の界面51近傍まで、摩擦撹拌接合用工具を構成するプローブを挿入した状態で、第1,第2部材20,30の界面50に沿ってプローブを回転させながら移動させる。これにより、第1,第2部材20,30の側面21,31部分の摩擦撹拌接合と、第1,第3部材20,40の重ね合わせ部分の摩擦撹拌接合とを同時に行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状のプローブ(13)を有する摩擦撹拌接合用工具(10)を用いて複数の被接合部材(20,30,40,70,100A,100B,110,130)を接合することにより、複数の前記被接合部材が一体化された構造体(90~95)を製造する摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法において、
複数の前記被接合部材のうち、前記プローブが挿入される第1被接合部材(20,70,110)と、第2被接合部材(30,100B,130)との側面同士を突き合わせる作業と、
複数の前記被接合部材のうち奥側被接合部材(40,100A)を前記第1被接合部材に対して前記プローブの挿入方向奥側に重ねる作業、及び複数の前記被接合部材のうち側方被接合部材(20)の側面と、前記第1被接合部材において前記第2被接合部材とは反対側の側面とを突き合わせる作業の少なくとも一方と、
を含む配置工程と、
前記配置工程の後、回転状態の前記プローブを前記第1被接合部材に沿わせながら複数の前記被接合部材に対して相対移動させることにより、前記第1被接合部材に対して、前記第2被接合部材と、前記奥側被接合部材及び前記側方被接合部材の少なくとも一方とを同時に摩擦撹拌接合する接合工程と、
を備える、摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法。
【請求項2】
前記配置工程は、前記第1被接合部材(20)及び前記第2被接合部材(30,130)の側面同士を突き合わせるとともに、前記第1被接合部材と前記奥側被接合部材(40)とを重ね合わせた状態にする工程であり、
前記接合工程は、前記第1被接合部材の側から前記第1被接合部材及び前記奥側被接合部材の少なくとも界面(51)近傍まで前記プローブを挿入した状態で、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の界面(50,140)に沿わせながら前記プローブを相対移動させることにより、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合と、前記第1被接合部材及び前記奥側被接合部材の重ね合わせ部分の摩擦撹拌接合とを同時に行う工程である、請求項1に記載の摩擦撹拌接合を用いた構造体(90,94)の製造方法。
【請求項3】
前記第1被接合部材は、前記第2被接合部材及び前記奥側被接合部材よりも硬度及び融点が低い部材である、請求項2に記載の摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第2被接合部材(130)は、前記プローブの挿入方向に複数の薄板(130a)が積層されて構成されており、
前記接合工程において、前記第2被接合部材を前記薄板の積層方向両側から押圧装置(210,211)により押さえつけた状態で、前記プローブを相対移動させる、請求項2又は3に記載の摩擦撹拌接合を用いた構造体(94)の製造方法。
【請求項5】
前記摩擦撹拌接合用工具は、柱状をなす基部(11)を有し、
前記プローブは、前記基部の前記回転中心軸線方向における一端部に設けられ、
前記押圧装置は、
前記第2被接合部材における前記積層方向の両側のうち、前記プローブ側に当接する第1押圧部(210)と、
前記第2被接合部材における前記積層方向の両側のうち、前記プローブとは反対側に当接する第2押圧部(211)と、
を備え、
前記第1押圧部及び前記第2押圧部により前記第2被接合部材を挟み込むことにより、前記第2被接合部材を押さえ付けた状態にし、
前記第1押圧部は、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の界面(140)に沿って延びており、
前記接合工程において、前記第1押圧部により前記基部をガイドしつつ、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の界面に沿わせながら前記プローブを相対移動させる、請求項4に記載の摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法。
【請求項6】
前記第1被接合部材(70)及び前記第2被接合部材(30,130)の側面同士が向かい合う方向における前記第1被接合部材の寸法(L)は、前記プローブの外径寸法(D)と同等であり、
前記配置工程は、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面同士を突き合わせるとともに、前記側方被接合部材(20)の側面と、前記第1被接合部材において前記第2被接合部材とは反対側の側面とを突き合わせた状態にする工程であり、
前記第1被接合部材は、前記第2被接合部材及び前記側方被接合部材よりも硬度及び融点が低い部材であり、
前記接合工程は、前記第1被接合部材に前記プローブを挿入した状態で、前記第1被接合部材に沿わせながら前記プローブを相対移動させることにより、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合と、前記第1被接合部材及び前記側方被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合とを同時に行う工程である、請求項1に記載の摩擦撹拌接合を用いた構造体(91,93,95)の製造方法。
【請求項7】
前記配置工程は、更に、前記第1被接合部材及び前記側方被接合部材と前記奥側被接合部材(40)とを重ね合わせた状態にする工程であり、
前記第1被接合部材は、前記第2被接合部材、前記側方被接合部材及び前記奥側被接合部材よりも硬度及び融点が低い部材であり、
前記接合工程は、前記第1被接合部材の側から前記第1被接合部材及び前記奥側被接合部材の少なくとも界面(51)近傍まで前記プローブを挿入した状態で、前記第1被接合部材に沿わせながら前記プローブを相対移動させることにより、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面部分同士の摩擦撹拌接合と、前記第1被接合部材及び前記側方被接合部材の側面部分同士の摩擦撹拌接合と、前記第1被接合部材及び前記奥側被接合部材の重ね合わせ部分の摩擦撹拌接合とを同時に行う工程である、請求項6に記載の摩擦撹拌接合を用いた構造体(91)の製造方法。
【請求項8】
前記第2被接合部材(130)は、前記プローブの挿入方向に複数の薄板(130a)が積層されて構成されており、
前記接合工程において、前記第2被接合部材を前記薄板の積層方向両側から押圧装置(210,211)により押さえつけた状態で、前記プローブを相対移動させる、請求項6又は7に記載の摩擦撹拌接合を用いた構造体(95)の製造方法。
【請求項9】
前記摩擦撹拌接合用工具は、柱状をなす基部(11)を有し、
前記プローブは、前記基部の前記回転中心軸線方向における一端部に設けられ、
前記押圧装置は、
前記第2被接合部材における前記積層方向の両側のうち、前記プローブ側に当接する第1押圧部(210)と、
前記第2被接合部材における前記積層方向の両側のうち、前記プローブとは反対側に当接する第2押圧部(211)と、
を備え、
前記第1押圧部及び前記第2押圧部により前記第2被接合部材を挟み込むことにより、前記第2被接合部材を押さえ付けた状態にし、
前記第1押圧部は、前記第1被接合部材に沿って延びており、
前記接合工程において、前記第1押圧部により前記基部をガイドしつつ、前記第1被接合部材に沿わせながら前記プローブを相対移動させる、請求項8に記載の摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法。
【請求項10】
前記第2被接合部材(100B)と前記奥側被接合部材(100A)とは一体に構成されている、請求項2,3,7に記載の摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法。
【請求項11】
柱状のプローブ(13)を有する摩擦撹拌接合用工具(10)を備え、前記摩擦撹拌接合用工具を用いて複数の被接合部材(20,30,40,70,100A,100B,110,130)を接合する摩擦撹拌接合装置(200)において、
複数の前記被接合部材のうち、前記プローブが挿入される第1被接合部材(20,70,110)と、第2被接合部材(30,100B,130)との側面同士を突き合わせた状態にしつつ、
複数の前記被接合部材のうち奥側被接合部材(40,100A)を前記第1被接合部材に対して前記プローブの挿入方向奥側に重ねた状態、及び複数の前記被接合部材のうち側方被接合部材(20)の側面と、前記第1被接合部材において前記第2被接合部材とは反対側の側面とを突き合わせた状態のうち少なくとも一方の状態にして、回転状態の前記プローブを複数の前記被接合部材に対して相対移動させる駆動部(204)を備え、
前記駆動部は、前記プローブを前記第1被接合部材に沿わせながら相対移動させることにより、前記第1被接合部材に対して、前記第2被接合部材と、前記奥側被接合部材及び前記側方被接合部材の少なくとも一方とを同時に摩擦撹拌接合する、摩擦撹拌接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状のプローブを有する摩擦撹拌接合用工具を用いて複数の被接合部材を接合することにより、複数の被接合部材が一体化された構造体を製造する摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法、及び摩擦撹拌接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、金属製の複数の被接合部材同士を接合する手法として、摩擦撹拌接合(FSW)が知られている。摩擦撹拌接合では、接合用工具のプローブを高速で回転させながら接合予定部分の起点に挿入し、その後、高速回転を維持しつつプローブを移動させる。プローブの高速回転によって発生する摩擦熱により被接合部材が軟化するとともに、被接合部材が塑性流動によって撹拌され、被接合部材同士が接合される。これにより、複数の被接合部材が一体化された構造体を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の被接合部材の接合箇所が複数ある場合、接合工程の工数が増加する懸念がある。
【0005】
本発明は、摩擦撹拌接合により複数の被接合部材を一体化して構造体を製造する場合において接合工程の工数を削減できる構造体の製造方法及び摩擦撹拌接合装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、第1の発明は、柱状のプローブを有する摩擦撹拌接合用工具を用いて複数の被接合部材を接合することにより、複数の前記被接合部材が一体化された構造体を製造する摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法において、
複数の前記被接合部材のうち、前記プローブが挿入される第1被接合部材と、第2被接合部材との側面同士を突き合わせる作業と、
複数の前記被接合部材のうち奥側被接合部材を前記第1被接合部材に対して前記プローブの挿入方向奥側に重ねる作業、及び複数の前記被接合部材のうち側方被接合部材の側面と、前記第1被接合部材において前記第2被接合部材とは反対側の側面とを突き合わせる作業の少なくとも一方と、
を含む配置工程と、
前記配置工程の後、回転状態の前記プローブを前記第1被接合部材に沿わせながら複数の前記被接合部材に対して相対移動させることにより、前記第1被接合部材に対して、前記第2被接合部材と、前記奥側被接合部材及び前記側方被接合部材の少なくとも一方とを同時に摩擦撹拌接合する接合工程と、
を備える。
【0007】
第2の発明では、第1の発明において、前記配置工程は、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面同士を突き合わせるとともに、前記第1被接合部材と前記奥側被接合部材とを重ね合わせた状態にする工程であり、
前記接合工程は、前記第1被接合部材の側から前記第1被接合部材及び前記奥側被接合部材の少なくとも界面近傍まで前記プローブを挿入した状態で、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の界面に沿わせながら前記プローブを相対移動させることにより、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合と、前記第1被接合部材及び前記奥側被接合部材の重ね合わせ部分の摩擦撹拌接合とを同時に行う工程である。
【0008】
第3の発明では、第2の発明において、前記第1被接合部材は、前記第2被接合部材及び前記奥側被接合部材よりも硬度及び融点が低い部材である。
【0009】
第4の発明では、第2又は第3の発明において、前記第2被接合部材は、前記プローブの挿入方向に複数の薄板が積層されて構成されており、
前記接合工程において、前記第2被接合部材を前記薄板の積層方向両側から押圧装置により押さえつけた状態で、前記プローブを相対移動させる。
【0010】
第5の発明では、第4の発明において、前記摩擦撹拌接合用工具は、柱状をなす基部を有し、
前記プローブは、前記基部の前記回転中心軸線方向における一端部に設けられ、
前記押圧装置は、
前記第2被接合部材における前記積層方向の両側のうち、前記プローブ側に当接する第1押圧部と、
前記第2被接合部材における前記積層方向の両側のうち、前記プローブとは反対側に当接する第2押圧部と、
を備え、
前記第1押圧部及び前記第2押圧部により前記第2被接合部材を挟み込むことにより、前記第2被接合部材を押さえ付けた状態にし、
前記第1押圧部は、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の界面に沿って延びており、
前記接合工程において、前記第1押圧部により前記基部をガイドしつつ、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の界面に沿わせながら前記プローブを相対移動させる。
【0011】
第6の発明では、第1の発明において、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面同士が向かい合う方向における前記第1被接合部材の寸法は、前記プローブの外径寸法と同等であり、
前記配置工程は、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面同士を突き合わせるとともに、前記側方被接合部材の側面と、前記第1被接合部材において前記第2被接合部材とは反対側の側面とを突き合わせた状態にする工程であり、
前記第1被接合部材は、前記第2被接合部材及び前記側方被接合部材よりも硬度及び融点が低い部材であり、
前記接合工程は、前記第1被接合部材に前記プローブを挿入した状態で、前記第1被接合部材に沿わせながら前記プローブを相対移動させることにより、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合と、前記第1被接合部材及び前記側方被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合とを同時に行う工程である。
【0012】
第7の発明では、第6の発明において、前記配置工程は、更に、前記第1被接合部材及び前記側方被接合部材と前記奥側被接合部材とを重ね合わせた状態にする工程であり、
前記第1被接合部材は、前記第2被接合部材、前記側方被接合部材及び前記奥側被接合部材よりも硬度及び融点が低い部材であり、
前記接合工程は、前記第1被接合部材の側から前記第1被接合部材及び前記奥側被接合部材の少なくとも界面近傍まで前記プローブを挿入した状態で、前記第1被接合部材に沿わせながら前記プローブを相対移動させることにより、前記第1被接合部材及び前記第2被接合部材の側面部分同士の摩擦撹拌接合と、前記第1被接合部材及び前記側方被接合部材の側面部分同士の摩擦撹拌接合と、前記第1被接合部材及び前記奥側被接合部材の重ね合わせ部分の摩擦撹拌接合とを同時に行う工程である。
【0013】
第8の発明では、第6又は第7の発明において、前記第2被接合部材は、前記プローブの挿入方向に複数の薄板が積層されて構成されており、
前記接合工程において、前記第2被接合部材を前記薄板の積層方向両側から押圧装置により押さえつけた状態で、前記プローブを相対移動させる。
【0014】
第9の発明では、第8の発明において、前記摩擦撹拌接合用工具は、柱状をなす基部を有し、
前記プローブは、前記基部の前記回転中心軸線方向における一端部に設けられ、
前記押圧装置は、
前記第2被接合部材における前記積層方向の両側のうち、前記プローブ側に当接する第1押圧部と、
前記第2被接合部材における前記積層方向の両側のうち、前記プローブとは反対側に当接する第2押圧部と、
を備え、
前記第1押圧部及び前記第2押圧部により前記第2被接合部材を挟み込むことにより、前記第2被接合部材を押さえ付けた状態にし、
前記第1押圧部は、前記第1被接合部材に沿って延びており、
前記接合工程において、前記第1押圧部により前記基部をガイドしつつ、前記第1被接合部材に沿わせながら前記プローブを相対移動させる。
【0015】
第10の発明では、第2,3,7のいずれか1つの発明において、前記第2被接合部材と前記奥側被接合部材とは一体に構成されている。
【0016】
第11の発明は、柱状のプローブを有する摩擦撹拌接合用工具を備え、前記摩擦撹拌接合用工具を用いて複数の被接合部材を接合する摩擦撹拌接合装置において、
複数の前記被接合部材のうち、前記プローブが挿入される第1被接合部材と、第2被接合部材との側面同士を突き合わせた状態にしつつ、
複数の前記被接合部材のうち奥側被接合部材を前記第1被接合部材に対して前記プローブの挿入方向奥側に重ねた状態、及び複数の前記被接合部材のうち側方被接合部材の側面と、前記第1被接合部材において前記第2被接合部材とは反対側の側面とを突き合わせた状態のうち少なくとも一方の状態にして、回転状態の前記プローブを複数の前記被接合部材に対して相対移動させる駆動部を備え、
前記駆動部は、前記プローブを前記第1被接合部材に沿わせながら相対移動させることにより、前記第1被接合部材に対して、前記第2被接合部材と、前記奥側被接合部材及び前記側方被接合部材の少なくとも一方とを同時に摩擦撹拌接合する。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明では、配置工程において、プローブが挿入される第1被接合部材と、第2被接合部材との側面同士が突き合わされた状態とされる。また、配置工程において、奥側被接合部材が第1被接合部材に対してプローブの挿入方向奥側に重ねられた状態、及び側方被接合部材の側面と、第1被接合部材において第2被接合部材とは反対側の側面とが突き合わされた状態のうち、少なくとも一方の状態とされる。このような状態で、回転状態のプローブを第1被接合部材に沿わせながら各被接合部材に対して相対移動させる。これにより、第1被接合部材に対して、第2被接合部材と、奥側被接合部材及び側方被接合部材の少なくとも一方とを同時に摩擦撹拌接合する。その結果、摩擦撹拌接合により複数の被接合部材を一体化して構造体を製造する場合において、接合工程の工数を削減することができる。
【0018】
第2の発明では、配置工程において、第1,第2被接合部材の側面同士が突き合わされるとともに、第1被接合部材と奥側被接合部材とが重ね合わされた状態とされる。このような状態のもと、第1被接合部材の側から第1被接合部材及び奥側被接合部材の少なくとも界面近傍までプローブを挿入した状態で、第1被接合部材及び第2被接合部材の界面に沿わせながらプローブを相対移動させる。これにより、第1,第2被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合と、第1,奥側被接合部材の重ね合わせ部分の摩擦撹拌接合とを同時に行うことができる。これにより、例えば、第1,奥側被接合部材を摩擦撹拌接合するためのプローブの相対移動と、第1,第2被接合部材を摩擦撹拌接合するためのプローブの相対移動とを行う接合工程と比較して、工数を削減することができる。
【0019】
第3の発明では、第1,第2,奥側被接合部材のうち、硬度及び融点が最も低い第1被接合部材にプローブが挿入され、第1被接合部材においてプローブを相対移動させる。このため、プローブに与えるストレスを低減しつつ、第1被接合部材と、第1被接合部材よりも硬度及び融点が高い第2,奥側被接合部材とを接合することができる。
【0020】
第4の発明では、第2被接合部材を薄板の積層方向両側から押圧装置により押さえつけた状態とするため、複数の薄板の積層状態を維持しつつ、第1,第2被接合部材の摩擦撹拌接合を行うことができる。
【0021】
第5の発明では、第2被接合部材を押さえ付けるための第1押圧部が、第1,第2被接合部材の界面に沿って延びている。このため、第1押圧部を、摩擦撹拌接合用工具を構成する基部のガイドとして利用できる。これにより、第1,第2被接合部材の界面に沿ってプローブを精度よく相対移動させることができ、ひいては摩擦撹拌接合の精度を高めることができる。
【0022】
第6の発明では、配置工程において、第1,第2被接合部材の側面同士が突き合わされるとともに、側方被接合部材の側面と、第1被接合部材において第2被接合部材とは反対側の側面とが突き合わされた状態とされる。このような状態で、第1,第2被接合部材の側面同士が向かい合う方向における第1被接合部材の寸法と外径寸法が同等であるプローブが、第1被接合部材に挿入される。そして、第1被接合部材に沿わせながらプローブを相対移動させる。これにより、第1,第2被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合と、第1,側方被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合とを同時に行うことができる。その結果、例えば、第1,第2被接合部材を摩擦撹拌接合するためのプローブの相対移動と、第1,側方被接合部材を摩擦撹拌接合するためのプローブの相対移動とを行う接合工程と比較して、工数を削減することができる。
【0023】
また、第6の発明では、第1,第2,側方被接合部材のうち、硬度及び融点が最も低い第1被接合部材にプローブが挿入される。このため、プローブに与えるストレスを低減しつつ、第1被接合部材よりも硬度及び融点が高い第2,側方被接合部材を、第1被接合部材を介して接合することができる。
【0024】
第7の発明では、配置工程において、更に、第1,側方被接合部材と奥側被接合部材とが重ね合わされた状態とされる。このような状態で、プローブを相対移動させることにより、第1,第2被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合と、第1,側方被接合部材の側面部分の摩擦撹拌接合と、第1,奥側被接合部材の重ね合わせ部分の摩擦撹拌接合とを同時に行うことができる。これにより、接合工程における工数を削減することができる。
【0025】
第8の発明では、第2被接合部材を薄板の積層方向両側から押圧装置により押さえつけた状態とするため、複数の薄板の積層状態を維持しつつ、第1被接合部材を介した第2,側方被接合部材の摩擦撹拌接合を行うことができる。
【0026】
第9の発明では、第2被接合部材を押さえ付けるための第1押圧部が、第1被接合部材に沿って延びている。このため、第1押圧部を、摩擦撹拌接合用工具を構成する基部のガイドとして利用できる。これにより、第1被接合部材に沿ってプローブを精度よく相対移動させることができ、ひいては摩擦撹拌接合の精度を高めることができる。
【0027】
第10の発明では、一体に構成された第2,奥側被接合部材と、第1被接合部材とを摩擦撹拌接合することができる。
【0028】
第11の発明では、プローブが挿入される第1被接合部材と、第2被接合部材との側面同士が突き合わされた状態とされる。また、奥側被接合部材が第1被接合部材に対してプローブの挿入方向奥側に重ねられた状態、及び側方被接合部材の側面と、第1被接合部材において第2被接合部材とは反対側の側面とが突き合わされた状態のうち、少なくとも一方の状態とされる。このような状態で、駆動部により、回転状態のプローブを第1被接合部材に沿わせながら各被接合部材に対して相対移動させる。これにより、第1被接合部材に対して、第2被接合部材と、奥側被接合部材及び側方被接合部材の少なくとも一方とを同時に摩擦撹拌接合することができ、接合工程の工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1実施形態に係る摩擦撹拌接合用工具を示す斜視図。
【
図3】接合時における被接合部材の配置状態を示す斜視図。
【
図4】摩擦撹拌接合時における被接合部材の断面図。
【
図5】複数の被接合部材が一体化された構造体において被接合部材の接合部分を示す斜視図。
【
図6】第2実施形態に係る接合時における被接合部材の配置状態を示す斜視図。
【
図7】摩擦撹拌接合時における被接合部材の断面図。
【
図8】複数の被接合部材が一体化された構造体において被接合部材の接合部分を示す斜視図。
【
図9】第3実施形態に係る接合時における被接合部材の配置状態を示す斜視図。
【
図10】摩擦撹拌接合時における被接合部材の断面図。
【
図11】複数の被接合部材が一体化された構造体において被接合部材の接合部分を示す斜視図。
【
図12】第4実施形態に係る接合時における被接合部材の配置状態を示す斜視図。
【
図13】摩擦撹拌接合時における被接合部材の断面図。
【
図14】複数の被接合部材が一体化された構造体において被接合部材の接合部分を示す斜視図。
【
図15】第5実施形態に係る接合時における被接合部材の配置状態を示す斜視図。
【
図16】積層体の挟み込み時における被接合部材の断面図。
【
図17】摩擦撹拌接合時における被接合部材の断面図。
【
図18】複数の被接合部材が一体化された構造体において被接合部材の接合部分を示す斜視図。
【
図19】第6実施形態に係る接合時における被接合部材の配置状態を示す斜視図。
【
図20】積層体の挟み込み時における被接合部材の断面図。
【
図21】摩擦撹拌接合時における被接合部材の断面図。
【
図22】複数の被接合部材が一体化された構造体において被接合部材の接合部分を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る摩擦撹拌接合を用いた構造体の製造方法及び摩擦撹拌接合装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。構造体は、複数の被接合部材が一体化されて構成されている。複数の被接合部材、材料が異なる被接合部材を含む。材料は、例えば、アルミニウム、銅、チタン、及びステンレス等の鉄系材料である。構造体は、例えば、電池等に用いられる電気部品である。
【0031】
まず、
図1を用いて、製造方法で用いられる摩擦撹拌接合用工具10について説明する。摩擦撹拌接合用工具10は、基部11と、ショルダ部12と、プローブ13とを備えている。
【0032】
基部11は、円柱状をなし、工具鋼、タングステン合金、セラミックス等の工具鋼、タングステン合金、セラミックス等の強度、耐衝撃性、耐摩耗性等に優れた材料を用いて形成されている。基部11の一端部は、基部11の中心軸線方向に対して直交する平坦面とされ、当該平坦面がショルダ部12となっている。
【0033】
プローブ13は、円形平坦面よりなるショルダ部12の中心部に設けられ、基部11の中心軸線と中心軸線を同じとし、当該中心軸線の方向に向けて突出している。プローブ13は円柱状をなし、基部11と同様、工具鋼、タングステン合金、セラミックス等の工具鋼、タングステン合金、セラミックス等の強度、耐衝撃性、耐摩耗性等に優れた材料を用いて形成されている。プローブ13の外周部13bには、中心軸線方向全域にわたって図示しないねじ溝が形成されている。ねじ溝は、プローブ13の先端面13a側への被接合部材の塑性流動を促進するために設けられている。なお、プローブ13は、基部11と一体形成されたものであってもよいし、基部11に対して着脱式のものであってもよい。
【0034】
続いて、
図2を用いて、上記摩擦撹拌接合用工具10を備える摩擦撹拌接合装置200について説明する。摩擦撹拌接合装置200は、摩擦撹拌接合の接合対象となる複数の被接合部材が載置される載置部201と、被接合部材を把持して載置部201に搬入及び載置したり、被接合部材を把持して載置部201から搬出したりする部材移動部202と、位置決め部203とを備えている。摩擦撹拌接合装置200は、また、加工装置部204と、制御部205とを備えている。制御部205は、マイコンを主体として構成されている。
【0035】
載置部201は、X軸方向、及びX軸と直交するY軸方向において移動可能に構成されている。本実施形態において、X,Y軸は、水平方向に延びる軸線であるとする。載置部201の移動制御は、制御部205により実行される。
【0036】
部材移動部202は、例えば、被接合部材を把持するロボットハンドを備えている。部材移動部202の駆動制御が制御部205により実行されることで、載置部201において、被接合部材は、側面同士を突き合わせた状態や、平面同士を重ね合わせた状態で載置されることが可能になっている。
【0037】
位置決め部203は、載置部201に載置された各被接合部材が摩擦撹拌接合時に位置ずれしないようにするための構成である。位置決め部203は、例えば、被接合部材を挟み込む機構により、各被接合部材の位置決めを行う。位置決め部203による位置決め制御は、制御部205により実行される。
【0038】
加工装置部204は、工具回転保持機構と、支持機構とを備えている。工具回転保持機構は、載置部201の上方に設けられ、上下方向(Z軸方向)に延びる回転中心軸線を中心に高速回転する回転軸を有している。回転軸には、摩擦撹拌接合用工具10が取り付けられている。回転軸に取り付けられた摩擦撹拌接合用工具10は、プローブ13が下方に向けられ、回転軸の回転中心軸線が摩擦撹拌接合用工具10の回転中心軸線と一致している。制御部205により回転軸が回転駆動されることにより、摩擦撹拌接合用工具10もその回転中心軸線を中心として回転する。
【0039】
加工装置部204の支持機構は、工具回転保持機構がX,Y,Z軸方向に移動可能となるように、工具回転保持機構を支持している。制御部205により支持機構が駆動制御されることにより、載置部201に載置された各被接合部材に対して摩擦撹拌接合用工具10が移動する。なお、本実施形態において、加工装置部204が「駆動部」に相当する。
【0040】
ちなみに、各被接合部材に対して摩擦撹拌接合用工具10を相対移動させる方法としては、摩擦撹拌接合用工具10を移動させる方法に限らず、例えば、載置部201を移動させる方法であってもよい。
【0041】
次に、摩擦撹拌接合用工具10を使用して行う摩擦撹拌接合方法について、
図3~
図5を参照して説明する。本実施形態では、複数の被接合部材を摩擦撹拌接合により一体化することにより、
図5に示す構造体90を製造する。本実施形態では、複数の被接合部材として、
図3に示すように、第1,第2,第3部材20,30,40が用いられる。第1,第2,第3部材20,30,40は、矩形板状をなすとともに、導電性の金属部材である。なお、本実施形態において、第1部材20が「第1被接合部材」に相当し、第2部材30が「第2被接合部材」に相当し、第3部材40が「奥側被接合部材」に相当する。
【0042】
構造体90の製造工程において、まず、
図3に示すように、載置部201において、第1部材20の側面21と第2部材30の側面31とを突き合わせるとともに、第1,第2部材20,30の下面22,32と第3部材40の上面41とを重ね合わせた状態にする。この際、各部材20,30,40は、部材移動部202が制御部205により駆動制御されることで載置部201に載置される。各部材20,30,40が載置部201に載置された状態で、第1,第2部材20,30の板面の正面視において、第1部材20及び第2部材30の界面50が第3部材40上に位置する。
【0043】
続いて、プローブ13が第1,第2部材20,30の板面に対して垂直をなすように摩擦撹拌接合用工具10を保持した上で、加工装置部204が制御部205により駆動制御されることで、高速回転するプローブ13が接合予定部分の起点P1に挿入される。本実施形態の接合予定部分の起点P1は、
図3に示すように、第1部材20のうち、第1,第2部材20,30の界面50の一端側であり、接合予定部分の終点P2は、第1部材20のうち、界面50の他端側である。
【0044】
本実施形態では、各部材20,30,40のうち、第1部材20にプローブ13を挿入する。これは、各部材20,30,40が異種材料により形成されているためである。詳しくは、第1部材20は、第2部材30及び第3部材40よりも硬度及び融点が低い材料により形成されている。例えば、第1部材20はアルミニウムにより形成されており、第2部材30は銅により形成されており、第3部材40は鉄系材料であるステンレスにより形成されている。硬度及び融点が最も低い第1部材20にプローブ13を挿入することにより、プローブ13に与えるストレスを低減できる。
【0045】
図4に示すように、加工装置部204の駆動制御により、第1部材20の側から第1部材20及び第3部材40の界面51近傍までプローブ13を挿入する。本実施形態では、プローブ13の先端面13aが界面51に到達するまでプローブ13を挿入する。なお、これに限らず、例えば、界面51よりも第3部材40の側の位置にプローブ13の先端面13aが到達するまでプローブ13を挿入してもよい。
【0046】
その後、加工装置部204の駆動制御により、摩擦撹拌接合用工具10の高速回転を維持しつつ、ショルダ部12で第1,第2部材20,30の上面23,33を押さえつけながら、
図3に示す矢印に沿って起点P1から終点P2まで摩擦撹拌接合用工具10を移動させる。プローブ13が終点P2に到達すると、加工装置部204の駆動制御により、プローブ13を上方に移動させて第1部材20から離脱させる。
【0047】
摩擦撹拌接合用工具10の移動中、プローブ13の高速回転によって発生する摩擦熱により、プローブ13が存在する領域において、第1部材20、第2部材30及び第3部材40が軟化する。第2,第3部材30,40よりも融点が低いために第2,第3部材30,40よりも流動性が高い第1部材20は、プローブ13の外周部13bによって第2部材30の側へ塑性流動する。これにより、プローブ13の外周部13bから、第1部材20及び第2部材30の界面50付近に至る界面領域、つまり、界面50よりも第2部材30の側の界面領域において、第1部材20と第2部材30との混合物よりなる第1混合物層61が形成される。第1混合物層61により、第1部材20の側面部分と第2部材30の側面部分とが摩擦撹拌接合される。
【0048】
また、プローブ13の先端面13a付近の界面領域、つまり、第1部材20及び第3部材40の界面51から第3部材40側の界面領域において、第1部材20と第3部材40との混合物よりなる第2混合物層62が形成される。第2混合物層62により、第1部材20と第3部材40との重ね合わせ部分が摩擦撹拌接合される。
図5に示すように、第1混合物層61及び第2混合物層62は、第1部材20及び第2部材30の界面50であった領域の一端から他端にわたって延びている。これにより、第1部材20を介して第2,第3部材30,40が一体化され、構造体90が製造される。
【0049】
このように、本実施形態では、第1部材20及び第2部材30の界面50に沿って、界面50よりも第1部材20側でプローブ13を回転させながら移動させる。なお、プローブ13を回転させながら移動させる際に、プローブ13を第2部材20に侵入させるようにしてもよい。これにより、第1,第2部材20,30の側面部分の摩擦撹拌接合と、第1,第3部材20,40の重ね合わせ部分の摩擦撹拌接合とを同時に行うことができる。その結果、接合工程における工数を削減することができる。
【0050】
また、硬度が高くてプローブ13を挿入しにくい第2,第3部材30,40を、これら部材30,40よりも硬度及び融点が低い第1部材20を介して的確に接合することができる。
【0051】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に、
図6~
図8を参照しつつ説明する。本実施形態では、構造体91を構成する複数の被接合部材として、
図6に示すように、第1,第2,第3部材20,30,40に加え、中間部材70が用いられる。中間部材70は、第1,第2部材20,30に挟まれる。本実施形態において、第1部材20は、中間部材70よりも硬度及び融点が高い材料で形成されている。なお、本実施形態において、中間部材70が「第1被接合部材」に相当し、第2部材30が「第2被接合部材」に相当し、第3部材40が「奥側被接合部材」に相当し、第1部材20が「側方被接合部材」に相当する。
【0052】
構造体90の製造工程において、まず、
図6に示すように、第1部材20の側面21に、中間部材70の第1側面71を付き合わせ、第2部材30の側面31に中間部材70の第2側面72を突き合わせた状態にする。また、第1,第2部材20,30の下面22,32及び中間部材70の下面73と、第3部材40の上面41とを重ね合わせた状態にする。これにより、第1,第2部材20,30の板面の正面視において、第1部材20及び中間部材70の界面52と、第2部材30及び中間部材70の界面53とが第3部材40上に位置する。
【0053】
続いて、プローブ13を高速回転させながら接合予定部分の起点P1に挿入する。本実施形態の接合予定部分の起点P1は、
図6に示すように、中間部材70の一端側であり、接合予定部分の終点P2は、中間部材70の他端側である。
【0054】
本実施形態において、第1,第2部材20,30の側面21,31同士が向かい合う方向における中間部材70の寸法Lは、プローブ13の外径寸法Dと同等の寸法(具体的には例えば、同じ寸法)である。各部材20,30,40,70のうち、硬度及び融点が最も低い中間部材70にプローブ13を挿入することにより、プローブ13に与えるストレスを低減できる。
【0055】
図7に示すように、中間部材70の側から中間部材70及び第3部材40の界面51近傍までプローブ13を挿入する。本実施形態では、プローブ13の先端面13aが界面51に到達するまでプローブ13を挿入する。なお、これに限らず、例えば、界面51よりも第3部材40の側の位置にプローブ13の先端面13aが到達するまでプローブ13を挿入してもよい。
【0056】
その後、摩擦撹拌接合用工具10の高速回転を維持しつつ、ショルダ部12で第1,第2部材20,30の上面23,33及び中間部材70の上面74を押さえつけながら、
図6に示す矢印に沿って起点P1から終点P2まで摩擦撹拌接合用工具10を移動させる。なお、摩擦撹拌接合用工具10を移動させる際に、プローブ13を第1,第2部材20,30に侵入させるようにしてもよい。
【0057】
摩擦撹拌接合用工具10の移動中、プローブ13の高速回転によって発生する摩擦熱により、プローブ13が存在する領域において、第1部材20、第2部材30、第3部材40及び中間部材70が軟化する。第1,第2,第3部材20,30,40よりも融点が低いために第1,第2,第3部材20,30,40よりも流動性が高い中間部材70は、プローブ13の外周部13bによって第2部材30の側へ塑性流動する。これにより、プローブ13の外周部13bから、第2部材30及び中間部材70の界面53付近に至る界面領域、つまり、界面53よりも第2部材30の側の界面領域において、第2部材30と中間部材70との混合物よりなる第1混合物層81が形成される。第1混合物層81により、中間部材70と第2部材30とが摩擦撹拌接合される。
【0058】
また、プローブ13の外周部13bから、第1部材20及び中間部材70の界面52付近に至る界面領域、つまり、界面52よりも第1部材20の側の界面領域において、第1部材20と中間部材70との混合物よりなる第2混合物層82が形成される。第2混合物層82により、中間部材70と第1部材20とが摩擦撹拌接合される。
【0059】
また、プローブ13の先端面13a付近の界面領域、つまり、中間部材70及び第3部材40の界面51から第3部材40側の界面領域において、中間部材70と第3部材40との混合物よりなる第3混合物層83が形成される。第3混合物層83により、中間部材70と第3部材40とが摩擦撹拌接合される。
【0060】
図8に示すように、第1混合物層81は、中間部材70及び第2部材30の界面53であった領域の一端から他端にわたって延びており、第2混合物層82は、中間部材70及び第1部材20の界面52であった領域の一端から他端にわたって延びている。また、第3混合物層83は、中間部材70及び第3部材40の界面51であった領域の一端から他端にわたって延びている。これにより、第1,第2,第3部材20,30,40が中間被部材70を介して一体化され、構造体91が製造される。
【0061】
以上説明した本実施形態によっても、接合工程における工数を削減することができる。また、本実施形態によれば、第1,第2,第3部材20,30,40の材料によらず、中間部材70を介してこれら部材20,30,40を接合することができる。
【0062】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に、
図9~
図11を参照しつつ説明する。本実施形態では、構造体92を構成する複数の被接合部材として、
図9に示すように、第1実施形態とは形状の異なる第1部材100と、第2部材110とが用いられる。
【0063】
第2部材110は、矩形板状をなしている。第1部材100は、土台部100Aと、土台部100Aの上面101Aの中間部から上方に突出する突出部100Bとを備えている。土台部100A及び突出部100Bは、継ぎ目なく一体形成され、一部材として構成されている。土台部100A及び突出部100Bにより形成された段差部に第2部材110の一端が当接する。なお、本実施形態において、第2部材110が「第1被接合部材」に相当し、土台部100Aが「奥側被接合部材」に相当し、突出部100Bが「第2被接合部材」に相当する。
【0064】
構造体92の製造工程において、まず、
図9に示すように、突出部100Bの側面101Bと第2部材110の側面111とを突き合わせるとともに、第2部材110の下面112と土台部100Aの上面101Aとを重ね合わせた状態にする。これにより、突出部100B及び第2部材110の板面の正面視において、突出部100B及び第2部材110の界面120が土台部100A上に位置する。
【0065】
続いて、プローブ13を高速回転させながら接合予定部分の起点P1に挿入する。本実施形態の接合予定部分の起点P1は、
図9に示すように、第2部材110の界面120側部分のうち、界面120が延びる方向の一端側であり、接合予定部分の終点P2は、第2部材110の界面120側の部分のうち、界面120が延びる方向の他端側である。
【0066】
本実施形態では、第1部材100及び第2部材110のうち、第2部材110にプローブ13を挿入する。これは、第2部材110が、第1部材100よりも硬度及び融点の低い材料(例えばアルミニウム)で形成されているためである。これにより、プローブ13に与えるストレスを低減できる。
【0067】
図10に示すように、第2部材110の側から第2部材110及び土台部100Aの界面121近傍までプローブ13を挿入する。本実施形態では、プローブ13の先端面13aが界面121に到達するまでプローブ13を挿入する。なお、これに限らず、例えば、界面121よりも土台部100Aの側の位置にプローブ13の先端面13aが到達するまでプローブ13を挿入してもよい。
【0068】
その後、摩擦撹拌接合用工具10の高速回転を維持しつつ、ショルダ部12で突出部100Bの上面102B及び第2部材110の上面113を押さえつけながら、
図9に示す矢印に沿って起点P1から終点P2まで摩擦撹拌接合用工具10を移動させる。なお、摩擦撹拌接合用工具10を移動させる際に、プローブ13を突出部100Bに侵入させるようにしてもよい。
【0069】
摩擦撹拌接合用工具10の移動中、プローブ13の高速回転によって発生する摩擦熱により、プローブ13が存在する領域において、第1部材100及び第2部材110が軟化する。第1部材100よりも流動性が高い第2部材110は、プローブ13の外周部13bによって突出部100Bの側へ塑性流動する。これにより、プローブ13の外周部13bから、突出部100B及び第2部材110の界面120付近に至る界面領域、つまり、界面120よりも突出部100Bの側の界面領域において、突出部100Bと第2部材110との混合物よりなる第1混合物層131が形成される。第1混合物層131により、突出部100Bと第2部材110とが摩擦撹拌接合される。
【0070】
また、プローブ13の先端面13a付近の界面領域、つまり、土台部100A及び第2部材110の界面121から土台部100A側の界面領域において、土台部100Aと第2部材110との混合物よりなる第2混合物層132が形成される。第2混合物層132により、土台部100Aと第2部材110とが摩擦撹拌接合される。
【0071】
図11に示すように、第1混合物層131は、突出部100B及び第2部材110の界面120であった領域の一端から他端にわたって延びており、第2混合物層132は、土台部100A及び第2部材110の界面121であった領域の一端から他端にわたって延びている。これにより、第1,第2部材100,110が一体化され、構造体92が製造される。
【0072】
以上説明した本実施形態によっても、接合工程における工数を削減することができる。
【0073】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第2実施形態との相違点を中心に、
図12~
図14を参照しつつ説明する。本実施形態では、構造体93を構成する複数の被接合部材として、
図12に示すように、第1,第2部材20,30及び中間部材70が用いられ、第2実施形態で用いられた第3部材40は用いられない。
【0074】
構造体93の製造工程において、まず、
図12に示すように、第1部材20の側面21に、中間部材70の第1側面71を付き合わせ、第2部材30の側面31に中間部材70の第2側面72を突き合わせた状態にする。
【0075】
続いて、プローブ13を高速回転させながら接合予定部分の起点P1に挿入する。本実施形態の接合予定部分の起点P1は、
図12に示すように、中間部材70の一端側であり、接合予定部分の終点P2は、中間部材70の他端側である。
【0076】
なお、第1部材20及び第2部材30の側面21,31同士が向かい合う方向における中間部材70の寸法Lは、プローブ13の外径寸法Dと同じである。また、各部材20,30,70のうち中間部材70が、第1,第2部材20,30よりも硬度及び融点が低い材料で形成されている。
【0077】
図13に示すように、中間部材70の側から中間部材70の下面73に到達するまでプローブ13を挿入する。その後、摩擦撹拌接合用工具10の高速回転を維持しつつ、ショルダ部12で第1,第2部材20,30の上面23,33及び中間部材70の上面74を押さえつけながら、
図12に示す矢印に沿って起点P1から終点P2まで摩擦撹拌接合用工具10を移動させる。なお、摩擦撹拌接合用工具10を移動させる際に、プローブ13を第1,第2部材20,30に侵入させるようにしてもよい。これにより、第2実施形態と同様に、第1混合物層81及び第2混合物層82が形成される。
図14に示すように、第1混合物層81は、中間部材70及び第2部材30の界面53であった領域の一端から他端にわたって延びており、第2混合物層82は、中間部材70及び第1部材20の界面52であった領域の一端から他端にわたって延びている。これにより、第1,第2部材20,30が中間部材70を介して一体化され、構造体93が製造される。
【0078】
以上説明した本実施形態によっても、接合工程における工数を削減することができる。
【0079】
<第5実施形態>
以下、第5実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に、
図15~
図18を参照しつつ説明する。本実施形態では、構造体94を構成する第2部材130が、一部材ではなく、複数の薄板130aの積層体として構成されている。薄板130aは、第1部材20及び第3部材40よりも厚さ寸法が小さい。第2部材130は、例えば、銅で形成された積層バスバーである。なお、本実施形態において、第2部材130が「第2被接合部材」に相当する。
【0080】
構造体94の製造工程において、まず、
図15に示すように、第1部材20の側面21と第2部材130の側面131とを突き合わせるとともに、第1,第2部材20,130の下面22,132と第3部材40の上面41とを重ね合わせた状態にする。
【0081】
続いて、プローブ13を高速回転させながら接合予定部分の起点P1に挿入する。本実施形態の接合予定部分の起点P1は、
図15に示すように、第1部材20における第1,第2部材20,130の界面140側部分のうち、界面140の一端側であり、接合予定部分の終点P2は、第1部材20における界面140側部分のうち、界面140の他端側である。
【0082】
本実施形態では、各部材20,130,40のうち、第1部材20にプローブ13を挿入する。これは、第1部材20が、第2部材130及び第3部材40よりも硬度及び融点が低い材料により形成されており、プローブ13に与えるストレスを低減するためである。
【0083】
続く工程では、
図16に示すように、位置決め部203を構成する押圧装置により、第2部材130を薄板130aの積層方向両側から押さえつけた状態とする。詳しくは、押圧装置は、第2部材130の上面133に当接する第1押圧部210と、第2部材130の下面132に当接する第2押圧部211とを備えている。第1押圧部210及び第2押圧部211により第2部材130を挟み込むことにより、第2部材130を押さえ付けた状態にし、摩擦撹拌接合中における複数の薄板130aの積層状態を維持する。これにより、第2部材130において第1部材20側の側面部分の端末加工(例えば、この側面部分のかしめ)を行うことなく、第1,第2部材20,130を接合できる。
【0084】
続く工程では、
図17に示すように、第1部材20の側から第1部材20及び第3部材40の界面51近傍までプローブ13を挿入する。本実施形態では、プローブ13の先端面13aが界面51に到達するまでプローブ13を挿入する。なお、これに限らず、例えば、界面51よりも第3部材40の側の位置にプローブ13の先端面13aが到達するまでプローブ13を挿入してもよい。
【0085】
その後、摩擦撹拌接合用工具10の高速回転を維持しつつ、ショルダ部12で第1,第2部材20,130の上面23,133を押さえつけながら、
図15に示す矢印に沿って起点P1から終点P2まで摩擦撹拌接合用工具10を移動させる。なお、摩擦撹拌接合用工具10を移動させる際に、プローブ13を第2部材130に侵入させるようにしてもよい。
【0086】
ここで、第1押圧部210は、第2部材130の上面133を押さえ付けた状態において、界面140が延びる方向に平行に延びている。このため、摩擦撹拌接合用工具10の基部11が第1押圧部210に当接しながらプローブ13を移動させることができる。つまり、第1押圧部210により基部11をガイドしながら、界面140に沿ってプローブ13を回転させながら移動できる。これにより、第1,第2部材20,130の界面140に沿ってプローブ13を精度よく移動させることができ、ひいては第1,第2部材20,130の側面部分の摩擦撹拌接合の精度を高めることができる。
【0087】
なお、押圧装置が制御されることにより、第2押圧部211は、第3部材40の側面42に当接してもよい。この場合、例えば、第2押圧部211を第3部材40の位置決めに用いることができる。
【0088】
摩擦撹拌接合用工具10の移動中、プローブ13の高速回転によって発生する摩擦熱により、プローブ13が存在する領域において、第1部材20、第2部材130及び第3部材40が軟化する。第2,第3部材130,40よりも流動性が高い第1部材20は、プローブ13の外周部13bによって第2部材130の側へ塑性流動する。これにより、プローブ13の外周部13bから、第1部材20及び第2部材130の界面140付近に至る界面領域、つまり、界面140よりも第2部材130の側の界面領域において、第1部材20と第2部材130との混合物よりなる第1混合物層151が形成される。第1混合物層151により、第1部材20の側面部分と第2部材130の側面部分とが摩擦撹拌接合される。
【0089】
また、プローブ13の先端面13a付近の界面領域、つまり、第1部材20及び第3部材40の界面51から第3部材40側の界面領域において、第1部材20と第3部材40との混合物よりなる第2混合物層152が形成される。第2混合物層152により、第1部材20と第3部材40との重ね合わせ部分が摩擦撹拌接合される。
図18に示すように、第1混合物層151及び第2混合物層152は、第1部材20及び第2部材130の界面140であった領域の一端から他端にわたって延びている。これにより、第1部材20を介して第2,第3部材130,40が一体化され、構造体94が製造される。
【0090】
以上説明した本実施形態によれば、第2部材130が積層体として構成されている場合において、接合工程における工数を削減できる。
【0091】
<第6実施形態>
以下、第6実施形態について、第4,第5実施形態との相違点を中心に、
図19~
図22を参照しつつ説明する。本実施形態では、先の
図12に示した第2部材が、
図15に示した積層体により構成されている。
【0092】
構造体95の製造工程において、まず、
図19に示すように、第1部材20の側面21に、中間部材70の第1側面71を付き合わせ、第2部材130の側面131に中間部材70の第2側面72を突き合わせた状態にする。
【0093】
続いて、プローブ13を高速回転させながら接合予定部分の起点P1に挿入する。本実施形態の接合予定部分の起点P1は、
図19に示すように、中間部材70の一端側であり、接合予定部分の終点P2は、中間部材70の他端側である。
【0094】
なお、第1部材20及び第2部材130の側面21,131同士が向かい合う方向における中間部材70の寸法Lは、プローブ13の外径寸法Dと同じである。また、各部材20,130,70のうち中間部材70が、第1,第2部材20,130よりも硬度及び融点が低い材料で形成されている。
【0095】
続く工程では、
図20に示すように、第2部材130の上面133を第1押圧部210により押圧し、第2部材130の下面132を第2押圧部211により押圧することにより、第2部材130を積層方向両側から押さえつけた状態とする。これにより、摩擦撹拌接合中における複数の薄板130aの積層状態を維持する。
【0096】
続く工程では、
図21に示すように、中間部材70の側から中間部材70の下面73に到達するまでプローブ13を挿入する。その後、摩擦撹拌接合用工具10の高速回転を維持しつつ、ショルダ部12で第1,第2部材20,130の上面23,133及び中間部材70の上面74を押さえつけながら、
図19に示す矢印に沿って起点P1から終点P2まで摩擦撹拌接合用工具10を移動させる。なお、摩擦撹拌接合用工具10を移動させる際に、プローブ13を第1,第2部材20,130に侵入させるようにしてもよい。
【0097】
なお、第1押圧部210は、第5実施形態と同様に、第2部材130の上面133を押さえ付けた状態において、界面142及び中間部材70が延びる方向に平行に延びている。このため、第1押圧部210により基部11をガイドしながら、中間部材70に沿ってプローブ13を精度よく移動させることができる。
【0098】
摩擦撹拌接合用工具10の移動中、プローブ13の高速回転によって発生する摩擦熱により、プローブ13が存在する領域において、第1部材20、第2部材130及び中間部材70が軟化する。これにより、第2実施形態と同様に、第1混合物層153及び第2混合物層154が形成される。
図22に示すように、第1混合物層153は、中間部材70及び第2部材130の界面142であった領域の一端から他端にわたって延びており、第2混合物層154は、中間部材70及び第1部材20の界面141であった領域の一端から他端にわたって延びている。これにより、第1,第2部材20,130が中間部材70を介して一体化され、構造体95が製造される。
【0099】
以上説明した本実施形態によれば、第5実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0100】
<その他の実施形態>
上記各実施形態は、以下のように変更して実施されてもよい。
【0101】
・
図6に示した第2部材30が、第5実施形態と同様に、複数の薄板130aの積層体で構成されていてもよい。この場合、構造体の製造工程において、第5実施形態と同様に、積層体を押圧装置により挟み込む工程が追加されればよい。
【0102】
・基部11及びプローブ13の回転中心軸線に対して、摩擦撹拌接合用工具10の移動方向に向けてプローブ13を所定角度だけ傾斜できるように、加工装置部204が構成されていてもよい。
【0103】
・プローブ13の先端面13aは、平坦面に限らず、例えば円弧状に形成されていてもよい。また、プローブ13の先端面13aは、その周縁部が面取りされた形状であってもよい。
【符号の説明】
【0104】
10…摩擦撹拌接合用工具、11…基部、13…プローブ、20…第1部材、30…第2部材、40…第3部材、90…構造体、200…摩擦撹拌接合装置。