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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003423
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】マルチルーメンカテーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/27 20060101AFI20240105BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61M 25/14 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
C23C16/27
A61M25/00 610
A61M25/14 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102549
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】597039984
【氏名又は名称】学校法人 川崎学園
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(71)【出願人】
【識別番号】310001067
【氏名又は名称】ストローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 龍典
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 憲明
(72)【発明者】
【氏名】中谷 達行
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 大樹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕一
【テーマコード(参考)】
4C267
4K030
【Fターム(参考)】
4C267AA02
4C267AA03
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB06
4C267BB26
4C267BB39
4C267BB40
4C267CC08
4C267FF01
4C267GG02
4C267GG50
4C267HH01
4C267HH08
4K030AA09
4K030BA28
4K030CA07
4K030CA16
4K030DA03
4K030FA01
4K030JA09
4K030JA17
4K030JA18
4K030KA02
4K030KA30
(57)【要約】
【課題】ダイヤモンドライクカーボン膜により被覆されたマルチルーメンカテーテルを容易に製造できるようにする。
【解決手段】ダイヤモンドライクカーボン膜が形成されたマルチルーメンカテーテルの製造方法は、複数のルーメンのそれぞれに炭素プラズマを供給して、マルチルーメンカテーテルの内表面及び外表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程を備えている。炭素プラズマは、放電電極231が第1の端部から挿入された筒状の発生部本体235と、第1の端部から発生部本体231内へ炭化水素を含む原料ガスを供給するガス供給部236とを有するプラズマ発生部203において発生させ、プラズマ発生部203において発生させた炭素プラズマを、プラズマ分岐部204を介して複数のルーメンのそれぞれに供給する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧チャンバ内において、マルチルーメンカテーテルの複数のルーメンのそれぞれに炭素プラズマを供給して、前記マルチルーメンカテーテルの内表面及び外表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程を備え、
前記炭素プラズマは、互いに離間して配置された放電電極及び対向電極と、前記放電電極が第1の端部から挿入された筒状の発生部本体と、前記第1の端部から前記発生部本体内へ炭化水素を含む原料ガスを供給するガス供給部とを有するプラズマ発生部において発生させ、
前記プラズマ発生部において発生させた炭素プラズマを、プラズマ分岐部を介して複数の前記ルーメンのそれぞれに供給する、ダイヤモンドライクカーボン膜が形成されたマルチルーメンカテーテルの製造方法。
【請求項2】
前記マルチルーメンカテーテルは、複数の前記ルーメンを有するカテーテル本体と、複数の前記ルーメンのそれぞれと接続された複数の接続チューブと、複数の前記接続チューブと前記カテーテル本体とを接続する連結ハブとを有している、請求項1に記載のマルチルーメンカテーテルの製造方法。
【請求項3】
前記放電電極と前記対向電極との間に断続的に交流バイアスを印可する、請求項1又は2に記載のマルチルーメンカテーテルの製造方法。
【請求項4】
複数のルーメンを有するマルチルーメンカテーテルを収用する減圧チャンバと、
前記減圧チャンバ内に配置されたプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部において発生させたプラズマを分岐するプラズマ分岐部とを備え、
前記プラズマ発生部は、互いに離間して配置された放電電極及び対向電極と、前記放電電極が第1の端部から挿入された筒状の発生部本体と、前記第1の端部から前記発生部本体内に炭化水素を含む原料ガスを供給するガス供給部とを有し、
前記プラズマ分岐部は、前記発生部本体の第2の端部と前記複数のルーメンのそれぞれとを気密に接続し、
前記プラズマ発生部において発生させた炭素プラズマを前記プラズマ分岐部を介して複数の前記ルーメンのそれぞれに供給して、前記マルチルーメンカテーテルの内表面及び外表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する、マルチルーメンカテーテルの製造装置。
【請求項5】
複数のルーメンを有するカテーテル本体と、
複数の前記ルーメンのそれぞれと接続された複数の接続チューブと、
複数の前記接続チューブと前記カテーテル本体とを接続する連結ハブとを有し、
前記カテーテル本体、前記接続チューブ及び前記連結ハブの少なくとも1つは、他の部材に外嵌した部分を有し、
前記カテーテル本体、前記接続チューブ及び前記連結ハブの内表面は、前記他の部材に外嵌した部分を除いてダイヤモンドライクカーボン膜が形成されている、マルチルーメンカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチルーメンカテーテルの製造方法に関し、特にダイヤモンドライクカーボン膜により被覆されたマルチルーメンカテーテルの製造方法、その製造装置及びマルチルーメンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
ブラッドアクセス、血管への輸液又は薬液投与、及び血行動態の監視等の目的で種々のカテーテルが用いられている。カテーテルは、血管内に留置されるため、血栓症や感染症といった種々の合併症を引き起こすリスクを有している。合併症を引き起こす可能性は、環境や手技にも左右されるが、カテーテルの特性によっても変化する。合併症のリスクを低減するために、カテーテルに様々なコーティングをすることが検討されている。例えば、血栓の発生を低減するために親水性のコーティングをしたり、抗血栓性の薬剤をコーティングしたりすることが検討されている。また、感染症予防のために、抗菌コーティングをすることも検討されている。
【0003】
血栓予防及び感染症予防の両方の効果が期待できるコーティング材料としてダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が期待されている。DLC膜をコーティングした材料によりカテーテルを形成すれば、血栓及び感染症の発生リスクを低減できる可能性がある。
【0004】
材料の表面にDLC膜をコーティングする方法として、炭素プラズマを用いるプラズマコーティング法が知られている。通常の平行平板電極を用いた成膜装置の場合、カテーテルの様な長尺のチューブの内表面にDLC膜を形成することは事実上不可能である。長尺のチューブの内表面にDLC膜を成膜する方法としては、チューブに沿って電極を移動させながら成膜する方法や、チューブ内に電極を挿入してチューブ内にプラズマを発生させる方法等が検討されている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-233345号公報
【特許文献2】特開2018-145478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電極を移動させる成膜方法は、チャンバ内に電極を移動させる機構を設けなければならず、装置が非常に複雑になってしまう。電極ではなくチューブの方を移動させることも考えられるが、細いチューブ内にガスを通しながらこれを移動させることは容易ではない。
【0007】
また、血管に留置されるカテーテルの多くは複数のルーメンを有するマルチルーメンカテーテルである。マルチルーメンカテーテルは細管の内部がそれぞれ独立した複数のルーメンに別れている。従来のチューブ内に電極を挿入する方法によって複数の独立した細いルーメンの内表面にDLC膜を形成することは非常に困難であり、ルーメンの内径を考えると現実には不可能である。
【0008】
さらに、マルチルーメンカテーテルは、複数のルーメンを有する本体部だけでなく、それぞれのルーメンに接続された枝管や、ルーメンと枝管とを接続するハブ、枝管に設けられたコネクタなどの複数の部材により形成されている。これらの部材の全てにDLC膜を形成してからマルチルーメンカテーテルを組み立てることは可能であるが、製造工程が増加するのでおよそ現実的ではない。さらに、マルチルーメンカテーテルの内表面だけでなく外表面にもDLC膜を形成しようとすると、さらに工数が増加してしまう。
【0009】
本開示の課題は、ダイヤモンドライクカーボン膜により被覆されたマルチルーメンカテーテルを容易に製造できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のマルチルーメンカテーテルの製造方法の一態様は、減圧チャンバ内において、マルチルーメンカテーテルの複数のルーメンのそれぞれに炭素プラズマを供給して、マルチルーメンカテーテルの内表面及び外表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程を備え、炭素プラズマは、互いに離間して配置された放電電極及び対向電極と、放電電極が第1の端部から挿入された筒状の発生部本体と、第1の端部から発生部本体内へ炭化水素を含む原料ガスを供給するガス供給部とを有するプラズマ発生部において発生させ、プラズマ発生部において発生させた炭素プラズマを、プラズマ分岐部を介して複数のルーメンのそれぞれに供給する。
【0011】
マルチルーメンカテーテルの製造方法の一態様によれば、マルチルーメンカテーテルの複数のルーメンのそれぞれに炭素プラズマを供給して、マルチルーメンカテーテルの内表面及び外表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する。このため、個々の部品にダイヤモンドライクカーボン膜を形成した後、組み立てるよりもはるかに容易にダイヤモンドライクカーボン膜により被覆されたマルチルーメンカテーテルを製造できる。また、複数の細いカテーテルのルーメン内に一度にダイヤモンドライクカーボン膜を形成できるので、製造工程を大幅に簡略化できる。
【0012】
マルチルーメンカテーテルの製造方法の一態様において、マルチルーメンカテーテルは、複数のルーメンを有するカテーテル本体と、複数のルーメンのそれぞれと接続された複数の接続チューブと、複数の接続チューブとカテーテル本体とを接続する連結ハブとを有していてもよい。
【0013】
マルチルーメンカテーテルの製造方法の一態様において、放電電極と対向電極との間に断続的に交流バイアスを印可することができる。
【0014】
マルチルーメンカテーテルの製造装置の一態様は、複数のルーメンを有するマルチルーメンカテーテルを収用する減圧チャンバと、減圧チャンバ内に配置されたプラズマ発生部と、プラズマ発生部において発生させたプラズマを分岐するプラズマ分岐部とを備え、プラズマ発生部は、互いに離間して配置された放電電極及び対向電極と、放電電極が第1の端部から挿入された筒状の発生部本体と、第1の端部から発生部本体内に炭化水素を含む原料ガスを供給するガス供給部とを有し、プラズマ分岐部は、発生部本体の第2の端部と複数のルーメンのそれぞれとを気密に接続し、プラズマ発生部において発生させた炭素プラズマをプラズマ分岐部を介して複数のルーメンのそれぞれに供給して、マルチルーメンカテーテルの内表面及び外表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する。
【0015】
マルチルーメンカテーテルの製造装置の一態様によれば、プラズマ発生部において発生させた炭素プラズマをプラズマ分岐部を介して複数のルーメンのそれぞれに供給する。このため、複数のルーメンのそれぞれがダイヤモンドライクカーボン膜により被覆されたマルチルーメンカテーテルを容易に製造することができる。
【0016】
本開示のマルチルーメンカテーテルの一態様は、複数のルーメンを有するカテーテル本体と、複数のルーメンのそれぞれと接続された複数の接続チューブと、複数の接続チューブとカテーテル本体とを接続する連結ハブとを有し、カテーテル本体、接続チューブ及び連結ハブの少なくとも1つは、他の部材に外嵌した部分を有し、カテーテル本体、接続チューブ及び連結ハブの内表面は、他の部材に外嵌した部分を除いてダイヤモンドライクカーボン膜が形成されている。
【発明の効果】
【0017】
本開示のマルチルーメンカテーテルの製造方法によれば、ダイヤモンドライクカーボン膜により被覆されたマルチルーメンカテーテルを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態に係るマルチルーメンカテーテルを示す斜視図である。
図2図1のII-II線における断面図である。
図3】連結ハブの部分を示す断面図である。
図4】第1のチューブ連結部を拡大して示す断面図である。
図5】第1の接続チューブの基端部を拡大して示す断面図である。
図6】成膜装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、本実施形態のマルチルーメンカテーテル100は、カテーテル本体101と、カテーテル本体101の基端に取り付けられた連結ハブ102と、連結ハブ102から基端側に延びる第1の接続チューブ131及び第2の接続チューブ132とを有している。本実施形態のマルチルーメンカテーテル100は、露出部分の内表面及び外表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が形成されている。なお、患者の体内に挿入される側を先端側、その反対側を基端側とする。
【0020】
図2に示すように、カテーテル本体101は、第1のルーメン111及び第2のルーメン112を有する。カテーテル本体101の外表面及び、第1のルーメン111及び第2のルーメン112の内表面にはDLC膜151が形成されている。第1のルーメン111及び第2のルーメン112の断面形状がいずれも半円形状である例を示しているが、各ルーメンの断面形状は、円形状、楕円形状、三日月型形状等どのようなものであってもよい。また、第1のルーメン111の断面形状と第2のルーメン112の断面形状とは異なっていてもよい。第1のルーメン111の断面積と第2のルーメン112の断面積とがほぼ等しい例を示しているが、ルーメンの断面積は異なっていてもよい。
【0021】
図3に示すように、連結ハブ102の先端側には、カテーテル本体101が挿入される先端側連結部125が形成されており、基端側には、第1の接続チューブ131が挿入される第1のチューブ連結部127及び第2の接続チューブ132が挿入される第2のチューブ連結部128が形成されている。連結ハブ102の内部には、第1のチューブ連結部127と先端側連結部125とを接続する第1の液通路121及び第2のチューブ連結部128と先端側連結部125とを接続する第2の液通路122が形成されている。
【0022】
第1の液通路121及び第2の液通路122の先端は、先端側連結部125に挿入されたカテーテル本体101の第1のルーメン111及び第2のルーメン112とそれぞれ液密に接続されている。このため、第1のルーメン111は第1のチューブ連結部127に接続された第1の接続チューブ131と連通し、第2のルーメン112は第2のチューブ連結部128に接続された第2の接続チューブ132と連通している。
【0023】
図4に示すように、連結ハブ102の外表面及び第1の液通路121の内表面には、DLC膜151が形成されている。第2の液通路122の内表面についても同様である。第1の接続チューブ131に外嵌している第1のチューブ連結部127の内表面には、DLC膜151は形成されていない。カテーテル本体101に外嵌している先端側連結部125の内表面及び第2の接続チューブ132に外嵌している第2のチューブ連結部128の内表面についても同様である。
【0024】
また、第1の接続チューブ131の第1のチューブ連結部127に内嵌していない部分の外表面及び内表面にもDLC膜151が形成されているが、第1の接続チューブ131の第1のチューブ連結部127に内嵌している部分の外表面にはDLC膜151は形成されていない。先端側連結部125に内嵌しているカテーテル本体101及び第2のチューブ連結部128に内嵌している第2の接続チューブ132についても同様である。
【0025】
第1のチューブ連結部127に接続された第1の接続チューブ131の基端には、第1のコネクタ133が接続され、第2のチューブ連結部128に接続された第2の接続チューブ132の基端には、第2のコネクタ134が接続されている。また、第1の接続チューブ131及び第2の接続チューブ132には、それぞれクランプ135が取り付けられている。
【0026】
図5に示すように、第1のコネクタ133は、先端部が第1の接続チューブ131の基端に内嵌しており、第1の接続チューブ131の内表面における第1のコネクタ133に外嵌する部分には、DLC膜151は形成されていない。第2の接続チューブ132についても同様である。コネクタが接続チューブに外嵌する構成とすることもできる。この場合には、接続チューブの外表面におけるコネクタに内嵌する部分にはDLC膜が形成されていない構成となる。
【0027】
図5において、第1のコネクタ133の内表面の基端側には、DLC膜151が形成されていない部分が存在する例を示している。しかし、DLC膜151の形成方法によっては、第1のコネクタ133の内表面全体にDLC膜151が形成されていたり、第1のコネクタ133の外表面の基端側にDLC膜151が形成されていない部分が存在したりする場合がある。第1のコネクタ134についても同様である。
【0028】
なお、接続チューブの基端にコネクタが取り付けられていない構成とすることもできる。また、接続チューブにクランプ135が取り付けられていない構成とすることもできる。
【0029】
本実施形態のマルチルーメンカテーテルにおいて、DLC膜151は、他の部材に外嵌している部分の内表面及び他の部材に外嵌している部分の外表面には形成されていない。一方、他の部材に覆われておらず露出している外表面及び内表面にはDLC膜151が形成されている。DLC膜151の膜厚は、血栓及び感染症リスク低減の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上である。成膜のし易さ、剥離の防止の観点から、膜厚は好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下である。また、血栓がより発生しやすい内表面における膜厚が、外表面における膜厚よりも厚い方が好ましい。
【0030】
本実施形態の内表面及び外表面にDLC膜が形成されたマルチルーメンカテーテル100は、DLC膜を有していないカテーテルを通常の方法により組み立てて、カテーテル組立体とした後、その内表面及び外表面にDLC膜を形成することにより、形成することができる。カテーテル組立体の内表面及び外表面へのDLC膜の形成は、以下のような成膜装置200を用いて行うことができる。
【0031】
図6に示すように、成膜装置200は、内部に成膜対象である、カテーテル組立体100Aを収用するチャンバ201を有している。チャンバ201は、チャンバ内を減圧する真空排気部202と、プラズマ発生部203と、ガスを供給するガス供給部205とを有している。
【0032】
本実施形態において、真空排気部202は、真空ポンプ222とバルブ223とを有している。真空排気部202は、チャンバ内の圧力を所定の値に制御することができればどのような構成であってもよい。本実施形態において、ガス供給部205は、複数のボンベ251と、ボンベ251の切り替えを行う流路切り替え部252と、マスフローコントローラ253とを有している。ガス供給部205は、プラズマ発生部203に必要なガスを供給できればどのような構成であってもよい。
【0033】
プラズマ発生部203は、筒状の発生部本体235と、放電電極231及び対向電極と、電源部233とを有している。放電電極231は、筒状の発生部本体235の第1の端部側に挿入されている。発生部本体235の第1の端部側には、ガス供給部205に接続されたガスノズル236が接続されている。電源部233は、電圧発生器237と増幅器238を有しており、放電電極231と対向電極との間に交流電圧を印加する。対向電極は、接地電極であり、チャンバ201の内壁となっている。
【0034】
チャンバ201内を減圧した状態で、電極に電圧を印加することにより、発生部本体235内において、ガスノズル236から供給されたガスをプラズマ化することができる。発生部本体235内において発生したプラズマは、ガス流に乗って発生部本体235の第2の端部側に移動する。発生部本体235の第2の端部側には、Y字管であるプラズマ分岐部204が接続されている。プラズマ分岐部204において、ガス流は2方向に分配されるので、プラズマを分岐させることができる。
【0035】
プラズマ分岐部204において分岐されたプラズマは、それぞれカテーテル組立体100Aの第1のルーメン及び第2のルーメン内を通過する。これにより、カテーテル組立体100Aの内表面にDLC膜が形成される。カテーテル組立体100A内を通過したプラズマ化された原料ガスは、先端部から外へ流出し、チャンバ201内に拡散する。これにより、カテーテル組立体100Aの外表面にもDLC膜が形成される。
【0036】
DLC膜を形成する際には、まずカテーテル組立体100Aに対してアルゴンガスプラズマによるボンバードクリーニングを行うことが好ましい。ボンバードクリーニングにおいては、ガス供給部205によりプラズマ発生部203にアルゴンガスを供給して、アルゴンプラズマを発生させる。ボンバードクリーニングにおいて、アルゴンガスの流量は、50sccm~200sccm程度に調整し、チャンバ201内の圧力は5Pa~200Pa程度とする。ボンバードクリーニングは、1秒~5分程度行うことが好ましい。ボンバードクリーニングを行うことにより、カテーテル組立体100Aの表面に、より均一にDLC膜を成膜することができる。なお、ボンバードクリーニングは必要に応じて行えばよく、行わなくてもよい。
【0037】
ボンバードクリーニングを行った後、ガス供給部205により供給するガスを炭化水素を含む原料ガスに切り換えて炭素のプラズマを発生させて、DLC膜を堆積させる。ガスを切り換える際には、チャンバ201内を一旦1×10-3Pa~5×10-3Pa程度まで減圧することが好ましい。
【0038】
原料ガスは、例えば、通常のCVD法において用いられる、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン及びベンゼン等の炭化水素ガスを用いることができ、取り扱いの観点からメタンが好ましい。また、原料ガスには、テトラメチルシラン等の有機ケイ素化合物や、ヘキサメチルジシロキサン等の酸素含有有機ケイ素系化合物を気化させて用いることもできる。原料ガスは、必要に応じてアルゴン、ネオン及びヘリウム等の不活性ガスにより希釈して供給することができ、取り扱いの観点からアルゴンにより希釈することが好ましい。希釈する場合、炭化水素と不活性ガスとの比率は、10:1~10:5程度とすることが好ましい。
【0039】
DLC膜を形成する際には、原料ガスの供給量を50sccm~200sccm程度に調整し、チャンバ201内の圧力を5Pa~200Pa程度とすることが好ましい。放電電極231の損傷や温度上昇を避ける観点から電極への印過電圧は10kV以下とすることが好ましい。電極に印加する電圧は、周波数が1kHz~50kHz程度の交流電圧とすることが好ましい。交流電圧は、温度上昇を抑える観点から、断続的に加えるパルス電圧とすることがより好ましい。交流をバースト波とする場合には、パルス繰り返し周波数を3pps~50pps程度とすることが好ましい。成膜速度を高くしたい場合には、パルス繰り返し周波数を高くし、温度上昇を抑えたい場合はパルス繰り返し周波数を低くすればよい。
【0040】
放電を安定させ、DLC膜の密着性を得るために、放電電極231にオフセット負電圧を印加することが好ましい。オフセット電圧は0kV~3kV程度とすることができる。
【0041】
カテーテル組立体100Aの表面をDLCにより被覆するために、トータルの成膜時間を5分~60分程度とすることが好ましい。温度上昇を抑える観点から、パルス繰り返し周波数の設定とは別に、間欠成膜をすることが好ましい。その際、10分程度成膜を行い、5分程度休止するサイクルを繰り返し、トータルの成膜時間を調整することが好ましい。
【0042】
プラズマ発生部203の発生部本体235の長さは、特に限定されないが、放電電極231を挿入して内部にプラズマを発生させる観点から、30mm~150mm程度とすることが好ましい。発生部本体235の内径は、特に限定されないが、プラズマを効率良く発生させる観点から4mm~12mm程度が好ましい。発生部本体235の材質は、特に限定されないが、シリコーン樹脂、フッ素樹脂又はポリイミド樹脂等の耐熱温度が高い樹脂が好ましい。
【0043】
放電電極231の外径は、発生部本体235に挿入できるものであればよいが、第1の端部側からのガス供給を可能にするために、発生部本体235の内径よりも外径が1mm~5mm程度小さいものが好ましい。発生部本体235内部においてプラズマを効率良く発生させる観点から、放電電極231は発生部本体235内に5mm~50mm程度挿入されていることが好ましい。放電電極231は、導電性であればよく、例えば金属とすることができる。金属の場合、耐食性等の観点からステンレス鋼が好ましい。放電電極231を金属としても、放電電極から5cm程度以上離れた位置においては、金属汚染はほとんど生じない。金属の影響をさらに避ける観点から、放電電極231を炭素電極とすることもできる。本実施形態の成膜装置の場合、炭素電極も容易に形成することができる。
【0044】
図6において対向電極はチャンバ201の内壁であるが、このような構成に限らず、放電電極231との間に電圧を印加して放電によりプラズマを発生させることができればどのようなものであってもよい。例えば、対向電極は、放電電極231と離間して配置された平板又はメッシュ状の電極とすることができる。
【0045】
プラズマ分岐部204は、ガス流を分岐できればどのような構成であってもよい。プラズマ化された原料ガスを効率良くカテーテル組立体100Aに供給する観点から、プラズマ分岐部204の基端は、プラズマ発生部203の発生部本体235の第2の端部と気密に接続されていることが好ましい。また、プラズマ分岐部204の先端は、カテーテル組立体100Aの接続チューブの基端と気密に接続されていることが好ましい。カテーテル組立体100Aの基端にコネクタが設けられている場合には、これと接続できるコネクタをプラズマ分岐部204の枝管の先端に取り付けることが好ましい。
【0046】
プラズマ化した原料ガスを均等に分配させる観点からは、分岐する枝管の内径及び長さを等しくすることが好ましい。しかし、プラズマ分岐部204内を流れる流体は、気体であり、しかも低圧であるため、枝管同士の間に多少の不均一性が存在していてもプラズマ化した原料ガスの分配に与える影響はほとんどない。また、カテーテル組立体100Aのルーメンの内径が同一でない場合にも、プラズマ分岐部204におけるプラズマの分配に大きな影響は生じない。但し、枝管の内径と比を、ルーメンの内径の比と一致させることもできる。
【0047】
カテーテル組立体100Aの先端は開放状態であり、カテーテル組立体100Aの内腔を通過したプラズマ化された原料ガスは、チャンバ201内に流出し、拡散する。このため、カテーテル組立体100Aの内表面だけでなく外表面にもDLC膜が堆積する。原料ガスがチャンバ201内に拡散しないように排気することにより、カテーテル組立体100Aの内表面だけにDLC膜を堆積させることもできる。
【0048】
カテーテルの種類によっては、第1のルーメン111及び第2のルーメン112の少なくとも一方に側孔が形成されている場合がある。側孔において、プラズマ化された原料ガスの分岐分配が生じるが、流量調整等を行うことにより、プラズマ化された原料ガスを先端部まで行き渡らせることができる。
【0049】
DLC膜を形成していないカテーテル組立体の各部の材質は、特に限定されず、種々の材質のものを組み合わせて使用することができる。カテーテル本体は、例えばポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等の各種樹脂や、これらのうちの2種以上を組合せて得た樹脂組成物とすることができる。接続チューブは、例えばポリウレタン、軟質ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等とすることができる。連結ハブ及びコネクタは、例えばポリウレタン、硬質ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ABS樹脂、ナイロン等とすることができる。本実施形態の成膜方法によれば、カテーテル組立体100Aを構成する各部材の材質が異なっていても、カテーテル組立体100Aの全体について、露出している外表面及び内表面にDLC膜を一工程で形成することができる。
【0050】
本実施形態においては、ルーメンを2つ有するダブルルーメンカテーテルについて例示した。しかし、ルーメンを3つ以上有するマルチルーメンカテーテルにおいても同様にDLC膜を堆積させることができる。この場合、ルーメンの数に応じた分岐数のプラズマ分岐部を用いることができる。また、バルブ等を設け、ルーメンの数に応じてプラズマ分岐部204の分岐数を変えることができるようにすることもできる。
【0051】
マルチルーメンカテーテルは、その種類を問わない。例えば、中心静脈カテーテル、末梢挿入型中心静脈カテーテル、及びバスキュラーカテーテル等の種々のマルチルーメンカテーテルについて、本実施形態に示した方法によりDLC膜を形成することができる。
【実施例0052】
実施例を用いて、本開示のマルチルーメンカテーテル及びその製造方法についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は例示であり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0053】
<DLC膜の確認>
DLC膜形成の確認は、ラマン分光測定装置(nano photon製 RAMAN11)により行った。測定条件は光源波長532nm、対物レンズ100倍、開口数(Numerical Aperture)0.9、回折格子1200gr/mmとした。
【0054】
<DLC膜の形成>
市販のダブルルーメン中心静脈カテーテル(日本コヴィディエン株式会社製、SMACプラス、ダブルルーメン、セルジンガータイプ、15G×20cmタイプ)の内表面及び外表面にDLC膜を形成した。DLC膜を形成する前に、まずアルゴンガスを用いてボンバードクリーニングを行った。
【0055】
成膜条件として、原料ガスはCH4とし、流量は96.2ccm(室温)とし、チャンバ内の圧力は39Paとした。成膜の際のバイアス電圧は5kVとし、周波数は10kHzとした。交流電圧の印加は、パルス繰り返し周波数が10ppsとなるように断続的に、20分間行った。なお、成膜の際には増幅器により2kVのオフセットを印加した。
【0056】
成膜後のカテーテルについて第1の接続チューブの内表面及び外表面、第2の接続チューブの内表面及び外表面におけるDLC膜の形成の有無を評価した。第1の接続チューブ及び第2の接続チューブについては、基端から15cmの位置について評価した。いずれの位置においても、ラマンスペクトルのDバンドピークとGバンドピークとの比率(D/G比)がいずれも0.9以下であり、DLC膜の存在が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示のマルチルーメンカテーテルの製造方法は、ダイヤモンドライクカーボン膜により被覆されたマルチルーメンカテーテルを容易に製造でき、医療機器の製造分野等において有用である。
【符号の説明】
【0058】
100 マルチルーメンカテーテル
100A カテーテル組立体
101 カテーテル本体
102 連結ハブ
111 第1のルーメン
112 第2のルーメン
121 第1の液通路
122 第2の液通路
125 先端側連結部
127 第1のチューブ連結部
128 第2のチューブ連結部
131 第1の接続チューブ
132 第2の接続チューブ
133 第1のコネクタ
134 第2のコネクタ
135 クランプ
151 DLC膜
200 成膜装置
201 チャンバ
202 真空排気部
203 プラズマ発生部
204 プラズマ分岐部
205 ガス供給部
222 真空ポンプ
223 バルブ
231 放電電極
233 電源部
235 発生部本体
236 ガスノズル
237 電圧発生器
238 増幅器
251 ボンベ
252 流路切り替え部
253 マスフローコントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6