(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003426
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】救難艇
(51)【国際特許分類】
B63C 9/02 20060101AFI20240105BHJP
B60F 3/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B63C9/02
B60F3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102554
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】芝山 晋
(57)【要約】
【課題】耐久性を高めつつ、陸上移動における直進性と旋回性とを両立する。
【解決手段】左右1組の第1車輪41に対して、前後方向における前方に左右1組の第2車輪42が配置され、第1車輪41に対して、前後方向における後方に第3車輪43が配置される。側面視において、第1車輪41と第2車輪42とに対して下方から外接する第1直線L1と、第1車輪41と第3車輪43とに対して下方から外接する第2直線L2とは、後方且つ上方で鋭角θを成す。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、
左右1組の第1車輪と、
前記第1車輪に対して、前後方向における、前方または後方のいずれかである第1方向に配置された左右1組以上の第2車輪と、
前記第1車輪に対して、前後方向における、前記第1方向の反対方向である第2方向に配置された第3車輪と、を有し、
側面視において、前記第1車輪と前記第2車輪とに対して下方から外接する第1直線と、前記第1車輪と前記第3車輪とに対して下方から外接する第2直線とが、前記第2方向且つ上方で鋭角を成す、救難艇。
【請求項2】
前後方向において、前記船体の重心位置は、前記第1車輪の回動中心と前記第2車輪の回動中心との間に位置する、請求項1に記載の救難艇。
【請求項3】
前記第3車輪は、互いに交差する2軸回りに回動可能である、請求項1に記載の救難艇。
【請求項4】
前記第3車輪は、左右1組あり、1組の前記第3車輪の間隔は、1組の前記第1車輪の間隔よりも狭い、請求項1に記載の救難艇。
【請求項5】
前記第3車輪は、左右方向における中央に1つ設けられる、請求項1に記載の救難艇。
【請求項6】
前記第1方向は前方である、請求項1に記載の救難艇。
【請求項7】
前記第3車輪は、前記船体の後部下部に取り付けられる、請求項6に記載の救難艇。
【請求項8】
前記第1車輪および前記第2車輪は、前記船体の側部下部に取り付けられる、請求項1に記載の救難艇。
【請求項9】
船体と、
左右1組の第1車輪と、
前記第1車輪に対して、前後方向における、前方または後方のいずれかである第1方向に配置された左右1組以上の第2車輪と、
前記第1車輪に対して、前後方向における、前記第1方向の反対方向である第2方向に配置された第3車輪と、を有し、
前記第1車輪と前記第2車輪とが平坦な地面に接する状態では、前記第3車輪が前記地面から離れ、前記第1車輪と前記第3車輪とが前記地面に接する状態では、前記第2車輪が前記地面から離れる、救難艇。
【請求項10】
船体と、
前記船体に設けられ、左右1組の第1車輪を取り付けるための第1の取り付け部と、
前記第1の取り付け部に対して、前後方向における、前方または後方のいずれかである第1方向において前記船体に設けられ、左右1組以上の第2車輪を取り付けるための第2の取り付け部と、
前記第1車輪に対して、前後方向における、前記第1方向の反対方向である第2方向において前記船体に設けられ、第3車輪を取り付けるための第2の取り付け部と、を有し、
前記第1車輪と前記第2車輪と前記第3車輪とが取り付けられた状態で、側面視において、前記第1車輪と前記第2車輪とに対して下方から外接する第1直線と、前記第1車輪と前記第3車輪とに対して下方から外接する第2直線とが、前記第2方向且つ上方で鋭角を成す、救難艇。
【請求項11】
船体と、
前記船体に設けられ、左右1組の第1車輪を取り付けるための第1の取り付け部と、
前記第1の取り付け部に対して、前後方向における、前方または後方のいずれかである第1方向において前記船体に設けられ、左右1組以上の第2車輪を取り付けるための第2の取り付け部と、
前記第1車輪に対して、前後方向における、前記第1方向の反対方向である第2方向において前記船体に設けられ、第3車輪を取り付けるための第2の取り付け部と、を有し、
前記第1車輪と前記第2車輪と前記第3車輪とが取り付けられた状態において、前記第1車輪と前記第2車輪とが平坦な地面に接する状態では、前記第3車輪が前記地面から離れ、前記第1車輪と前記第3車輪とが前記地面に接する状態では、前記第2車輪が前記地面から離れる、救難艇。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、救難艇に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水害発生時等に被災者を救助するために救難艇が用いられる。救難艇は、陸上移動が必要になる場合がある。そのため、船体に車輪を設けたものが知られている。特許文献1、2、3に開示される救難艇は、船体の前後方向に複数の車輪が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許5520138号
【特許文献2】国際公開第2010/085159号
【特許文献3】実開昭58-83000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、救難艇は、被災者を乗せて悪路を走行しなければならないこともあり、車輪には強度および耐久性が必要とされる。荷重に耐えるために、仮に車輪を前後方向に多数並べて設けると、道路走行における旋回性が低下する。従って、耐久性に加えて、陸上移動における直進性および旋回性を高めることは容易でなかった。
【0005】
近年、気候変動等に起因して水災害の増加が予測される。持続可能な開発目標(いわゆるSDGs:Sustainable Development Goals)の一つである気候変動への取り組みとして、災害が起きたときの被災を低減するため、円滑に陸上移動できる救難艇が求められている。
【0006】
本発明は、耐久性を高めつつ、陸上移動における直進性と旋回性とを両立する救難艇を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様による救難艇は、船体と、左右1組の第1車輪と、前記第1車輪に対して、前後方向における、前方または後方のいずれかである第1方向に配置された左右1組以上の第2車輪と、前記第1車輪に対して、前後方向における、前記第1方向の反対方向である第2方向に配置された第3車輪と、を有し、側面視において、前記第1車輪と前記第2車輪とに対して下方から外接する第1直線と、前記第1車輪と前記第3車輪とに対して下方から外接する第2直線とが、前記第2方向且つ上方で鋭角を成す。
【0008】
この構成によれば、第1車輪と第2車輪とが平坦な地面に接する状態では、第3車輪が前記地面から離れるので、直進性が高い。また、第1車輪と第3車輪とが前記平坦な地面に接する状態では、第2車輪が前記地面から離れるので、旋回性が高い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐久性を高めつつ、陸上移動における直進性と旋回性とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】スロープ回動軸の支持構造を示す模式図である。
【
図5】車輪が取り付けられた救難艇の模式的な左側面図である。
【
図6】第1、第2車輪に関する着脱機構を説明する模式的な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る救難艇の斜視図である。この救難艇100は、海、川、湖等で被災・遭難した人を救助するのに適した船舶である。救難艇100は船体本体10(船体)を有する。船体本体10は、前部10a、後部10b、左側部10c、右側部10dを有する。船体本体10の後部10bに、推進用の船外機11が取り付けられる。操船者は船外機11を操作して船体本体10を推進および操舵する。
【0013】
図2は、救難艇100の前部10aの斜視図である。船体本体10には、回動可能な部材として扉20とスロープ部材30とが設けられる。扉20は、船首である前部10aに対して開閉可能に設けられる。スロープ部材30は、前部10aに対して回動可能に設けられる。扉20は、回動により、
図1に示す閉状態と
図2に示す開状態とに変位可能である。スロープ部材30は、回動により、
図1に示す第1の姿勢と
図2に示す第2の姿勢とに変位可能である。
【0014】
船体本体10外において船体本体10の前部10aに、蝶番等により構成される扉回動軸が配置され、扉20は、この扉回動軸を中心として回動する。扉20は、開状態においては船体本体10に救助用の開口部22を形成すると共に、閉状態においては開口部22を塞いで浸水を抑制する。すなわち、扉20は、閉状態においては船体の一部を構成する。開口部22には、閉状態の扉20と当接するパッキン等のシール部(図示せず)が配置され、浸水抑制機能が高められている。操船者は、扉20を、閉状態においてロック部材13(
図1)によって固定することが可能である。
【0015】
スロープ部材30は、主としてスロープ回動軸31と板状部32とを有する。船体本体10内における左右両端部に軸支部12が設けられている(
図1)。左右の軸支部12にスロープ回動軸31が軸支されている。軸支部12の構成については
図3で後述する。スロープ回動軸31は船体本体10内で回動し、スロープ部材30は、スロープ回動軸31を中心として回動する。スロープ部材30は、第1の姿勢においては、船体本体10内に収容される。スロープ部材30は、扉20が開状態のときに第2の姿勢に変位可能である。第2の姿勢においては、スロープ部材30は、開口部22を介して船体本体10内から船体本体10外に亘って橋渡し状態となり、自由端部30aが船体本体10外に位置する。
【0016】
スロープ部材30は、平坦な板状部32の左右方向両端に、屈曲したリブ33(
図2)を備える。通常、航行時は扉回動軸21が閉状態にされると共に、スロープ部材30は第1の姿勢にされる。第1の姿勢においては、板状部32が、船体本体10のデッキ面と当接している。
【0017】
被災者の救助はスロープ部材30を第2の姿勢にして行われる。例えば、救助者は、救難艇100の前部10aを岸に近づけ、扉20を回動させて開状態にしてからスロープ部材30を回動させて第2の姿勢にする。岸の地面に自由端部30aが接する。救助者は、ブリッジとなったスロープ部材30の板状部32を踏み板として利用し、板状部32を経由して被災者を船内に誘導する。なお、第2の姿勢においては左右のリブ33は上方に突出しているので、車椅子等の車輪の脱落抑止効果がある。なお、リブ33を設けることは必須でない。
【0018】
スロープ部材30は十分な剛性と軽量性とを要するので、一例としてFRP等で構成されるが、素材は限定されない。なお、自由端部30aが、岸ではなく水面または水中に没するように用いられる場合がある。そこで、スロープ部材30に浮力を保つための浮力体を取り付けてもよい。そうすれば、水面より上に存在する板状部32の領域を十分に確保することができる。
【0019】
図3は、スロープ回動軸31の支持構造を示す模式図である。この支持構造は、レール部材25と、固定具28とを含む。
【0020】
船内における前部10aの下部に、レール部材25が配置される。レール部材25は、その長手方向が左右方向となるように船内に固定される。レール部材25としては、例えば公知のエアラインレール(登録商標)を採用可能である。
【0021】
レール部材25は、レール部材25の長手方向の略全体に亘って延びる内部空間26と、内部空間26に沿って設けられたレール開口部27とを有する。レール開口部27には、幅狭部27aと幅広部27bとが交互に設けられている。幅狭部27aの幅(レール部材25の短手方向における寸法)は、内部空間26の幅よりも小さい。
【0022】
固定具28は、環状部である軸支部12と、係合部29と、一対の規制部24とを含む。固定具28は、レール部材25の長手方向における複数の装着位置のうち任意の装着位置に着脱可能である。固定具28としては、シングルスタッドフィッティング(登録商標)を採用可能である。係合部29は、レール部材25の厚み方向に幅広部27bを通過可能であるが、幅狭部27aを通過不能である。
【0023】
係合部29を、バネの付勢力に抗して幅狭部27aを貫通させ内部空間26に係合させた状態で、固定具28をレール部材25の長手方向に動かすと、レール部材25の長手方向において幅狭部27aが一対の規制部24に挟まれた位置で固定具28が止まる。この状態で、固定具28の移動はいずれの方向へも規制される。
【0024】
なお、作業者は、軸支部12にスロープ回動軸31を通す作業を、固定具28をレール部材25に装着する前に行う。固定具28を左右2箇所に設け、各固定具28の軸支部12がスロープ回動軸31を軸支することで、スロープ回動軸31が回動自在となる。これによって、スロープ部材30は、前部10aに対して回動可能となる。
【0025】
スロープ部材30を船体本体10から取り外す際には、作業者は、固定具28をレール部材25から離脱させ、各軸支部12からスロープ回動軸31を抜けばよい。このように、工具を用いることなく、スロープ部材30を簡単に着脱することができる。
【0026】
図4は、救難艇100の模式的な斜視図である。この救難艇100は、陸上移動を可能にするために、複数の車輪(車輪41、42、43)を有する。なお、
図1では車輪が取り付けられていない状態の救難艇100が示されている。これらの車輪は船体本体10に対して着脱可能である。
【0027】
第1車輪41、第2車輪42、第3車輪43はいずれも、左右1組設けられる。すなわち、車輪41、42、43はいずれも、船体本体10の左側部10cの下部と右側部10dの下部とに取り付けられる。特に第3車輪43は、船体本体10の後部下部(トランサムの下部)に取り付けられる。なお、
図5では、左側部10cに設けられた車輪のみを図示するが、右側部10dに設けられた車輪は、左側部10cに設けられた車輪に対し、左右対称で且つ同様に構成される。車輪41、42、43の着脱機構については
図6、
図7で後述する。
【0028】
第1車輪41、第2車輪42は、浮力を有する車輪であるのが望ましく、例えば、バルーンタイヤが採用される。なお、第3車輪43にもバルーンタイヤを採用してもよい。
【0029】
図5は、車輪41、42、43が取り付けられた救難艇100の模式的な左側面図である。いずれの車輪の組についても、側面視における1組の車輪の位置は共通するので、左側部10cに設けられた車輪41、42、43に着目して位置関係等を説明する。なお、
図1、
図4、
図5は模式図であるので、みかけ上、船体本体10の形状が互いに一致しない部分もあるが、異なる形状であることを意図するものではない。
【0030】
第1車輪41は、船体本体10に対して相対的に回動中心C1を中心に回動自在である。第2車輪42は、船体本体10に対して相対的に回動中心C2を中心に回動自在である。第3車輪43は、互いに交差する2軸回りに回動可能な、いわゆるキャスタ構造を有する。すなわち、第3車輪43は、互いに直交する2つの回動軸(第1回動軸121、第2回動軸122;
図7参照)周りに回動可能である。第1回動軸121の回動中心をC3とし、第2回動軸122の回動中心をC4とする。回動中心C1、C2の軸線方向はいずれも左右方向に平行である。第2回動軸122の回動中心C4の軸線方向と第1回動軸121の回動中心C3の軸線方向とは直交している。
【0031】
前後方向において、第2車輪42は、第1車輪41に対して前方(第1方向)に配置される。前後方向において、第3車輪43は、第1車輪41に対して第1方向の反対方向である第2方向、つまり後方に配置される。側面視において、第1車輪41と第2車輪42とに対して下方から外接する直線を第1直線L1とする。側面視において、第1車輪41と第3車輪43とに対して下方から外接する直線を第2直線L2とする。第1直線L1と第2直線L2とは、後方且つ上方で鋭角θを成す。
【0032】
このことを別の観点で述べると次のようになる。側面視において、第1車輪41と第2車輪42とが平坦な地面に接する状態では、第3車輪43が当該地面から離れ、第1車輪41と第3車輪43とが平坦な地面に接する状態では、第2車輪42が当該地面から離れる。
【0033】
救難艇100の重心を「船体重心」と呼ぶ。側面視における船体重心の位置を重心位置Gとする。なお、船体重心は、乗員や被災者が搭乗していない状態で定義される。ただし、簡易的には、船体重心は船体本体10の重心としてもよいし、付属物を除いた船体本体10または救難艇100の重心としてもよい。一方、乗員や被災者が搭乗した救難艇100の実質的な重心を「実重心」と呼ぶ。実重心は、搭乗者の居場所等によって変化する。
【0034】
前後方向において、重心位置Gは、第1車輪41の回動中心C1と第2車輪42の回動中心C2との間に位置する。左右方向において、1組の第1車輪41の間隔と1組の第2車輪42の間隔とは同じである。左右方向において、1組の第3車輪43の間隔は、1組の第1車輪41の間隔よりも狭い。なお、2つの車輪の間隔は、例えば、各車輪の幅方向中心位置同士の距離である。
【0035】
救難艇100の陸上移動の態様を説明する。救難艇100を運ぶ運搬車両と救命現場(水辺等)との間における救難艇100の移動は陸上移動が主となる。通常、車輪41、42、43は予め船体本体10に装着されている。救難艇100は、牽引されるか、または後方から押されることによって陸上を移動する。なお、図示はしないが、車輪41、42、43との干渉を避けることを条件として、浮力体を取り付けるためのトラックレールを船体本体10の左右の側部に固定してもよい。その場合、トラックレールを、救難艇100を牽引する牽引箇所として利用してもよい。
【0036】
ここで、重心位置Gは、前後方向における回動中心C1と回動中心C2との間に位置するので、被災者の搭乗前は通常、実重心は重心位置Gと一致する。従って、牽引箇所で特に荷重をかけない限り、第1車輪41と第2車輪42とが接地し、第3車輪43は浮いた状態となる。
図5でいうと、第1直線L1が地面と平行になる状態となる。車輪41、42は丈夫なタイヤであり、しかも前後方向の異なる位置で接地する多輪構造と同じになるので、救難艇100をしっかりと支えることができ、直進性も高くなる。従って、救難艇100は道路を円滑に直進移動することができる。
【0037】
救難艇100を旋回させる必要があるときには、実重心を回動中心C1よりも後方へ移動させる。実重心の移動は、重量物を後方へ移動させたり、搭乗者(被災者を含む)の船内での居場所を後方寄りにしたりすることで実現可能である。実重心を回動中心C1よりも後方へ移動させることで、第1車輪41と第3車輪43とが接地し、第2車輪42は浮いた状態となる。
図5でいうと、第2直線L2が地面と平行になる状態となる。
【0038】
左右方向における第3車輪43の間隔は第1車輪41の間隔よりも狭い。また、第3車輪43は2軸回りに回動可能である。これらのことから、車輪41、43が接地している場合は、車輪41、42が接地している場合に比べて救難艇100の旋回性が高くなる。なお、旋回性を高くする観点からは、第3車輪43の幅(タイヤ幅)を車輪41、42の幅よりも狭くするのが望ましい。
【0039】
なお、重量配分によって実重心を移動させることに限らず、救難艇100における牽引箇所または押す箇所で上下方向の荷重をかけることで、救難艇100をピッチ方向に傾斜させ、第2車輪42または第3車輪43のいずれかを接地させてもよい。
【0040】
次に、車輪41、42、43の着脱機構について説明する。
【0041】
図6は、車輪41、42に関する着脱機構を説明する模式的な正面図である。車輪41、42の着脱機構は共通であるので、代表して第1車輪41に関して説明する。
【0042】
第1車輪41は船体本体10の側部下部に取り付けられる。部位101には左側部10cが該当し、部位102には船底部が該当する。ブラケット106にはブラケット44(
図5)が該当する。部位101にはインサートナット103が圧入され、部位102にはインサートナット104が圧入されており、水が船内に入らないようシールされている。インサートナット103は雌ネジ103aを有し、インサートナット104は雌ネジ104aを有する。
【0043】
第1車輪41の回動軸111は、ブラケット106に軸支されている。従って、第1車輪41は、対応するブラケット106に対して相対的に、回動軸111の回動中心C1を中心として回動自在である。ブラケット106は、雌ネジ103a、104aに対応して、締結用の貫通穴107、108を有する。
【0044】
第1車輪41を取り付ける際には、作業者は、部位101、102にブラケット106を当接させる。そして作業者は、ハンドボルト109を、側方から貫通穴107を介して雌ネジ103aに螺合すると共に、ハンドボルト110を、下方から貫通穴108を介して雌ネジ104aに螺合する。これにより、ブラケット106が船体本体10に固定される。従って、第1車輪41は、ブラケット106を介して船体本体10に対して相対的に回動中心C1を中心に回動自在になる。
【0045】
なお、ハンドボルトとインサートナットとの組の数は問わない。例えば、ハンドボルト109とインサートナット103との組は前後方向に2以上あり、ハンドボルト110とインサートナット104との組も前後方向に2以上あるのが望ましい。
【0046】
なお、第2車輪42に関しては、ブラケット106にはブラケット45が該当する(
図5)。インサートナット103、104は第2車輪42に対応する位置に設けられる。第2車輪42は、ブラケット106を介して船体本体10に対して相対的に、回動中心C2を中心として回動自在となる。
【0047】
図7は、第3車輪43の模式的側面図である。第3車輪43は、船体本体10の後部下部に取り付けられる。第3車輪43は、第2回動軸122の回動中心C4を中心として回動可能である。さらに、第3車輪43は、第1回動軸121の回動中心C3を中心として回動可能である。
【0048】
なお、第3車輪43が平らな地面に接地したとき、回動中心C4の軸線方向が上下方向(平らな地面の法線方向)と平行になるのが望ましいが、それは必須でない。また、回動中心C3の軸線方向と回動中心C4の軸線方向とは交差していればよく、両者が直交することは必須でない。
【0049】
第3車輪43の着脱機構に関しては、
図6で示したブラケット106に、第1車輪41に代えて第3車輪43が固定されている。すなわち、ブラケット106に回動軸122が回動自在に保持されている。ブラケット106には、ブラケット46(
図5)が該当する。ブラケット106の着脱先となる部位101には、後部10bの側部が該当し、部位102には後部10bの底部が該当する。インサートナット103、104は第3車輪43に対応する位置に設けられる。船体本体10に対するブラケット106の着脱方法は
図6で説明したのと同様である。従って、ブラケット106を介して船体本体10に対して相対的に第3車輪43が2軸回りに回動可能になる。
【0050】
船体本体10において、第1車輪41が取り付いたブラケット106の固定先となる雌ネジ103a、104aが、第1車輪41を取り付けるための第1の取り付け部となる。第2車輪42が取り付いたブラケット106の固定先となる雌ネジ103a、104aが、第2車輪42を取り付けるための第2の取り付け部となる。また、第3車輪43が取り付いたブラケット106の固定先となる雌ネジ103a、104aが、第3車輪43を取り付けるための第3の取り付け部となる。
【0051】
なお、船体本体10に対する車輪41、42、43の着脱機構については例示したものに限定されない。また、上記したトラックレールを船体本体10の左右の側部に設けた場合においては、車輪41、42をトラックレールに対して着脱可能に構成してもよい。
【0052】
本実施の形態によれば、救難艇100の前後方向において、第1車輪41の後方に第3車輪43が配置され、第1車輪41の前方に第2車輪42が配置される。側面視において、第1直線L1と第2直線L2とは、後方且つ上方で鋭角θを成す(
図5)。従って、車輪41、42が平坦な地面に接する状態では車輪43が地面から離れるので、高い直進性が発揮される。また、車輪41、43が平坦な地面に接する状態では車輪42が地面から離れるので、高い旋回性が発揮される。直進時には主として車輪41、42が接地するので耐久性が高い。よって、耐久性を高めつつ、陸上移動における直進性と旋回性とを両立することができる。直進性および旋回性に優れ、円滑に陸上移動できる救難艇100が提供されることは、SDGsへの取り組みにも合致する。
【0053】
また、重心位置Gは、前後方向における回動中心C1と回動中心C2との間に位置するので、走行場面の多くを占める直進時には、第1車輪41と第2車輪42とが自然に接地しやすい状態となる。
【0054】
なお、旋回のために実重心を回動中心C1より後方へ移動させやすくする観点からは、重心位置Gは、回動中心C1、C2間において回動中心C1に近い位置に設定するのが好ましい。ただし、実重心は重量配分によって可変であることから、重心位置Gの位置の設定は例示した位置に限定されるものではない。
【0055】
なお、車輪41、43の接地時における救難艇100の旋回性を高める観点からは、第3車輪43がキャスタ構造(2軸回りに回動可能)であること、左右方向における第3車輪43の間隔が第1車輪41の間隔よりも狭いこと、第3車輪43の幅(タイヤ幅)が車輪41、42の幅よりも狭いこと、のうち少なくとも1つを満たせばよい。
【0056】
なお、第3車輪43を1組でなく1つ(単一)としてもよい。例えば、第3車輪43は、救難艇100の左右方向における中央に1つ設けられてもよい。この単一構成の場合は、仮に第3車輪43がキャスタ構造でない場合や、第3車輪43のタイヤ幅が車輪41、42の幅よりも狭くない場合であっても、ある程度、旋回性を高めることができる。従って、キャスタ構造や狭いタイヤ幅を採用することは必須でない。
【0057】
なお、車輪のサイズ(外径)に関して、車輪41、42の直径は同じで、車輪41、42の直径よりも車輪43の直径は小さいが、このような設定に限定されない。各回動軸の前後および上下方向の位置と、各車輪の直径とによって、結果として、第1直線L1と第2直線L2とが後方且つ上方で鋭角θを成すようにすればよい。
【0058】
なお、第1車輪41よりも前方に配置される第2車輪42に相当する車輪は2組以上であってもよい。言い換えると、第2車輪42よりも前方に、さらに左右1組以上の車輪を設けてもよい。そのようにすれば、直進時には3組以上の多輪構造となるので、耐荷性が高まり、直進性も増す。
【0059】
なお、前後方向における第3車輪43を船尾でなく船首に配置してもよい。つまり、第2車輪42よりも前方に第3車輪43を配置してもよい。そのようにした場合、直進時には車輪41、42を接地させ、旋回時には実重心を第2車輪42よりも前方へ移動させて車輪42、43を接地させればよい。
【0060】
なお、
図5に示す構成において、さらに、直進時に地面から離れる別の車輪を船首に設けてもよい。仮に、不用意に、船首が下方に移動するように救難艇100が傾斜(前傾)した場合であっても、上記別の車輪が地面に当たることで、緩衝機能が果たされる。
【0061】
なお、扉20およびスロープ部材30が前部10aに設けられたので、後部10bに船外機11を取り付ける船舶への適用が容易である。なお、被災者の救助を可能にする観点およびトランサムに船外機を取り付け可能とする観点からは、扉20およびスロープ部材30が取り付く位置は、前部10aに限定されず、側部10c、10dであってもよい。
【0062】
なお、スロープ部材30に浮力機能を持たせてもよい。
図8は、変形例のスロープ部材30の斜視図である。例えば変形例(
図8)のように、スロープ部材30の板状部32を、中空構造を設けたインフレータブル型としてもよい。これにより、スロープ部材30(特に板状部32)自身が浮力を持つので、迅速な救助が可能になる。なお、この構成においても、リブ33(
図2)を設けてもよい。
【0063】
なお、本発明の適用対象となる船舶は、救難艇100である。しかし、車輪41、42、43は着脱可能である。従って、車輪41、42、43の未装着状態の救難艇100(つまり、第1、第2、第3の取り付け部(雌ネジ103a、104a)を備える船体本体10)を、本発明の適用対象となる救難艇と考えてもよい。なお、耐久性を高めつつ、陸上移動における直進性と旋回性とを両立する効果を奏することに限っていえば、本発明の適用対象となる救難艇において、扉20およびスロープ部材30の有無や構造、船体本体10の側部における浮力体の有無は問わない。
【0064】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【0065】
なお、スロープ部材の設計の自由度を高める観点で、扉20およびスロープ部材30の構成に着目した場合、下記に記載される構成1を採用してもよい。
【0066】
(構成1)
「 船体本体と、
船首または前記船体本体の側部に開閉可能に設けられ、開状態においては前記船体本体に救助用の開口部を形成すると共に、閉状態においては前記開口部を塞いで浸水を抑制する扉と、
前記扉の閉状態において前記船体本体内に収容される第1の姿勢と、前記扉の開状態において前記開口部を介して前記船体本体内から前記船体本体外に亘って橋渡し状態となる第2の姿勢とに変位可能なスロープ部材と、を有し、
前記船体本体は、
レール部材と、
前記レール部材の長手方向における複数の装着位置のうち任意の装着位置に着脱可能であり、環状部を含む固定具と、を有し、
前記スロープ部材はスロープ回動軸を有し、
前記レール部材に装着された前記固定具の前記環状部に前記スロープ回動軸が挿通状態で軸支されることで、前記スロープ部材は前記船体本体に対して回動自在となり、それによって前記第1の姿勢と前記第2の姿勢とに変位可能となる、救難艇」
【符号の説明】
【0067】
10 船体本体、 41、42、43 車輪、 100 救難艇、 103a、104a 雌ネジ、 L1、L2 直線、 θ 鋭角