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特開2024-34264軟磁性合金粉末、磁気コア、磁性部品および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034264
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】軟磁性合金粉末、磁気コア、磁性部品および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/20 20060101AFI20240306BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20240306BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240306BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240306BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240306BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20240306BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20240306BHJP
   B22F 9/10 20060101ALN20240306BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240306BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
H01F1/20
H01F1/26
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F1/052
B22F1/065
B22F9/08 A
B22F9/10
C22C38/00 303S
C22C19/03 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138395
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細野 雅和
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 暁斗
(72)【発明者】
【氏名】梶浦 良紀
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA03
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB04
4K017BB05
4K017BB06
4K017BB14
4K017BB15
4K017BB16
4K017CA01
4K017CA07
4K017DA02
4K017EB00
4K017ED06
4K017FA05
4K017FA15
4K017FA24
4K018BA04
4K018BA13
4K018BB03
4K018BB04
4K018BB06
4K018BB07
4K018BD01
4K018KA43
4K018KA44
5E041AA11
5E041BB05
5E041BD03
5E041BD12
5E041NN06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】直流重畳特性を改善した磁気コアを作製できる軟磁性合金粉末および直流重畳特性を改善した磁気コア、軟磁性合金粉末、磁性部品および電子機器を提供する。
【解決手段】粒子径がそれぞれ特定の範囲内である第1粒子から第5粒子を有する軟磁性合金粉末である。第1粒子から第5粒子のうち、第n粒子の平均粒子径をx(μm)、第n粒子の平均円形度をy、第n粒子の円形度の分散をzとして、点(x,y)(n=1~5)をxy平面にプロットする場合の近似直線の傾きmyが-0.0030以上であり、点(x,z)(n=1~5)をxz平面にプロットする場合の近似直線の傾きmzが0.00050以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径がD50以下である軟磁性合金粒子からなる第1粒子と、粒子径がD50より大きくD60以下である軟磁性合金粒子からなる第2粒子と、粒子径がD60より大きくD70以下である軟磁性合金粒子からなる第3粒子と、粒子径がD70より大きくD80以下である軟磁性合金粒子からなる第4粒子と、粒子径がD80より大きくD90以下である軟磁性合金粒子からなる第5粒子と、を有する軟磁性合金粉末であり、
前記第1粒子から前記第5粒子のうち、第n粒子の平均粒子径をxn(μm)、第n粒子の平均円形度をyn、第n粒子の円形度の分散をznとして、
点(xn,yn)(n=1~5)をxy平面にプロットする場合の近似直線の傾きmyが-0.0030以上であり、
点(xn,zn)(n=1~5)をxz平面にプロットする場合の近似直線の傾きmzが0.00050以下である軟磁性合金粉末。
【請求項2】
粒子径がD50以下である軟磁性合金粒子からなる第1粒子と、粒子径がD50より大きくD60以下である軟磁性合金粒子からなる第2粒子と、粒子径がD60より大きくD70以下である軟磁性合金粒子からなる第3粒子と、粒子径がD70より大きくD80以下である軟磁性合金粒子からなる第4粒子と、粒子径がD80より大きくD90以下である軟磁性合金粒子からなる第5粒子と、を有する磁気コアであり、
前記第1粒子から前記第5粒子のうち、第n粒子の平均粒子径をXn(μm)、第n粒子の平均円形度をYn、第n粒子の円形度の分散をZnとして、
点(Xn,Yn)(n=1~5)をXY平面にプロットする場合の近似直線の傾きmYが-0.0030以上であり、
点(Xn,Zn)(n=1~5)をXZ平面にプロットする場合の近似直線の傾きmZが0.00050以下である磁気コア。
【請求項3】
さらに樹脂を含む請求項2に記載の磁気コア。
【請求項4】
請求項2または3に記載の磁気コアを含む磁性部品。
【請求項5】
請求項2または3に記載の磁気コアを含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性合金粉末、磁気コア、磁性部品および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、非晶質軟磁性粉末を含むトロイダルコアが記載されている。当該非晶質軟磁性粉末は金属ガラスでありWadellの実用球形度の平均値が0.90以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-023673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の例示的な実施形態の目的は、直流重畳特性を改善した磁気コアを作製できる軟磁性合金粉末および直流重畳特性を改善した磁気コア等を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の例示的な実施形態の軟磁性合金粉末は、
粒子径がD50以下である軟磁性合金粒子からなる第1粒子と、粒子径がD50より大きくD60以下である軟磁性合金粒子からなる第2粒子と、粒子径がD60より大きくD70以下である軟磁性合金粒子からなる第3粒子と、粒子径がD70より大きくD80以下である軟磁性合金粒子からなる第4粒子と、粒子径がD80より大きくD90以下である軟磁性合金粒子からなる第5粒子と、を有する軟磁性合金粉末であり、
前記第1粒子から前記第5粒子のうち、第n粒子の平均粒子径をxn(μm)、第n粒子の平均円形度をyn、第n粒子の円形度の分散をznとして、
点(xn,yn)(n=1~5)をxy平面にプロットする場合の近似直線の傾きmyが-0.0030以上であり、
点(xn,zn)(n=1~5)をxz平面にプロットする場合の近似直線の傾きmzが0.00050以下である。
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の例示的な実施形態の磁気コアは
粒子径がD50以下である軟磁性合金粒子からなる第1粒子と、粒子径がD50より大きくD60以下である軟磁性合金粒子からなる第2粒子と、粒子径がD60より大きくD70以下である軟磁性合金粒子からなる第3粒子と、粒子径がD70より大きくD80以下である軟磁性合金粒子からなる第4粒子と、粒子径がD80より大きくD90以下である軟磁性合金粒子からなる第5粒子と、を有する磁気コアであり、
前記第1粒子から前記第5粒子のうち、第n粒子の平均粒子径をXn(μm)、第n粒子の平均円形度をYn、第n粒子の円形度の分散をZnとして、
点(Xn,Yn)(n=1~5)をXY平面にプロットする場合の近似直線の傾きmYが-0.0030以上であり、
点(Xn,Zn)(n=1~5)をXZ平面にプロットする場合の近似直線の傾きmZが0.00050以下である。
【0007】
磁気コアはさらに樹脂を含んでもよい。
【0008】
本発明の例示的な実施形態の磁性部品は上記の磁気コアを含む。
【0009】
本発明の例示的な実施形態の電子機器は上記の磁気コアを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は粉末粒子の投影図である。
図2図2は粉末粒子の投影図である。
図3図3は粉末粒子の投影図である。
図4図4は粉末粒子の投影図である。
図5図5は粉末粒子の投影図である。
図6図6は粉末粒子の投影図である。
図7図7はX線結晶構造解析により得られるチャートの一例である。
図8図8図7のチャートをプロファイルフィッティングすることにより得られるパターンの一例である。
図9図9は磁気コアの断面模式図である。
図10図10は磁気コアの断面模式図である。
図11A図11Aは本発明の例示的な実施形態に係る楕円水流アトマイズ装置の概略断面図である。
図11B図11B図11Aに示す楕円水流アトマイズ装置における冷却液の流れを鉛直方向から見た模式図である。
図12A図12Aは従来のアトマイズ装置での冷却水の流れを側面から見た模式図である。
図12B図12B図12Aに示す冷却水の流れを鉛直方向から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る軟磁性合金粉末および磁気コアについて説明する。
【0012】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末は粉末粒子を含む。軟磁性合金粉末に含まれる粉末粒子を粒子径の違いによって多数の種類の粉末粒子に区分する場合において、どの区分に属する粉末粒子においても平均円形度が概ね同一であり、かつ、どの区分に属する粉末粒子においても円形度の分散が概ね同一である。
【0013】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末は、具体的には、粒子径がD50以下である軟磁性合金粒子からなる第1粒子と、粒子径がD50より大きくD60以下である軟磁性合金粒子からなる第2粒子と、粒子径がD60より大きくD70以下である軟磁性合金粒子からなる第3粒子と、粒子径がD70より大きくD80以下である軟磁性合金粒子からなる第4粒子と、粒子径がD80より大きくD90以下である軟磁性合金粒子からなる第5粒子と、を有する軟磁性合金粉末である。
【0014】
そして、第1粒子から第5粒子のうち、第n粒子の平均粒子径をxn(μm)、第n粒子の平均円形度をyn、第n粒子の円形度の分散をznとして、点(xn,yn)(n=1~5)をxy平面にプロットする場合の近似直線の傾きmyが-0.0030以上であり、点(xn,zn)(n=1~5)をxz平面にプロットする場合の近似直線の傾きmzが0.00050以下である。
【0015】
myは好ましくは-0.0020以上である。myには特に上限はないが、例えば0.0000以下である。
【0016】
mzは好ましくは0.00030以下である。mzには特に下限はないが、例えば0.00005以上である。
【0017】
各粉末粒子の粒子径は円面積相当径である。以下、円面積相当径のことを単に円相当径と呼ぶことがある。また、円面積相当径のことはHeywood径とも呼ばれる場合がある。
【0018】
円形度は投影像における粉末粒子の面積をS、粉末粒子の周囲長をLとして2×(πS)1/2/Lで表される。なお、当該円形度はWadellの円形度とも呼ばれる場合がある。
【0019】
円形度の分散は円形度の平均値からの偏差の二乗の平均である。
【0020】
軟磁性合金粉末のD50とは、軟磁性合金粉末の粒度分布において、個数基準の累積相対度数が50%であるときの粒子径のことである。軟磁性合金粉末のD60とは、個数基準の累積相対度数が60%であるときの粒子径のことである。軟磁性合金粉末のD70とは、個数基準の累積相対度数が70%であるときの粒子径のことである。軟磁性合金粉末のD80とは、個数基準の累積相対度数が80%であるときの粒子径のことである。軟磁性合金粉末のD90とは、個数基準の累積相対度数が90%であるときの粒子径のことである。
【0021】
言いかえれば、第1粒子は軟磁性合金粉末の粒度分布において、個数基準の累積相対度数が50%以下である粉末粒子のことである。第2粒子は軟磁性合金粉末の粒度分布において、個数基準の累積相対度数が50%を上回り60%以下である粉末粒子のことである。第3粒子は軟磁性合金粉末の粒度分布において、個数基準の累積相対度数が60%を上回り70%以下である粉末粒子のことである。第4粒子は軟磁性合金粉末の粒度分布において、個数基準の累積相対度数が70%を上回り80%以下である粉末粒子のことである。第5粒子は軟磁性合金粉末の粒度分布において、個数基準の累積相対度数が80%を上回り90%以下である粉末粒子のことである。
【0022】
近似直線は座標平面上にプロットした点を最小二乗法により線形近似することで得られる。具体的には、線形近似することにより得られる近似式から求められる直線、すなわち回帰直線の傾きを算出する。xy平面上に表される回帰直線は、円形度の大きさの粒子径依存性を示すものである。xz平面上に表される回帰直線は円形度のばらつきの粒子径依存性を示すものである。
【0023】
軟磁性合金粉末に含まれる粉末粒子全体の平均粒子径D1には特に制限はないが、上記の構成を有する軟磁性合金粉末を得やすくする観点からは、1.0μm以上25.0μm以下であってもよく、5.0μm以上15.0μm以下であってもよい。
【0024】
軟磁性合金粉末に含まれる粉末粒子全体の平均円形度C1には特に制限はないが、最終的に得られる磁気コアの直流重畳特性を向上させやすくする観点からは、0.90以上であってもよく、0.95以上であってもよい。
【0025】
以下、軟磁性合金粉末における第1粒子~第5粒子の同定方法、および、各粒子の円形度の平均および分散の算出方法について説明する。
【0026】
軟磁性合金粉末における第1粒子~第5粒子の同定方法には特に制限はない。まず、軟磁性合金粉末における粒度分布を測定する。粒度分布の測定方法には特に制限はない。レーザ回折法などの各種粒度分析法により測定することができる。特に粒子画像分析装置であるモフォロギG3(マルバーン・パナリティカル社)を用いて確認してもよい。モフォロギG3はエアーにより粉末を分散させ、個々の粒子形状を投影し、得られた投影図を評価することができる装置である。
【0027】
具体的には、個々の粒子の投影面積から個々の粒子の円相当径(粒子径)を得ることができる。なお、本実施形態での円相当径はHeywood径である。そして、個々の粒子の円相当径から粒度分布を得ることができる。得られた粒度分布より、個数基準の累積相対度数が50%であるときの粒子径をD50、個数基準の累積相対度数が60%であるときの粒子径をD60、個数基準の累積相対度数が70%であるときの粒子径をD70、個数基準の累積相対度数が80%であるときの粒子径をD80、個数基準の累積相対度数が90%であるときの粒子径をD90とすることができる。なお、本実施形態では、少なくとも2000個以上、好ましくは20000個以上の粒子の円相当径から粒度分布を測定する。
【0028】
個々の粒子の投影図および粒度分布から第1粒子~第5粒子を同定する。第1粒子から第5粒子のうち、第n粒子の平均粒子径をxn(μm)、第n粒子の平均円形度をyn、第n粒子の円形度の分散をznとして、点(xn,yn)(n=1~5)をxy平面にプロットする場合の近似直線の傾きmy、および、点(xn,zn)(n=1~5)をxz平面にプロットする場合の近似直線の傾きmzを算出することができる。
【0029】
モフォロギG3は多数の粒子の投影図を一度に作製し評価することができるため、短時間で多数の粒子の形状を評価することができる。したがって、成型前の軟磁性合金粉末について、粒度分布等を評価するのに適している。多数の粒子について投影図を作製し、個々の粒子の粒子径および円形度を自動的に算出し、上記の各パラメータを算出することが可能である。
【0030】
後述する実施例、試料番号7についての粒子径別の投影図を図1図3に記載する。後述する比較例、試料番号1についての粒子径別の投影図を図4図6に示す。図1図3図4図6とを比較すると、図1図3に表される軟磁性合金粉末は図4図6に表される軟磁性合金粉末と比較して、円形度のばらつきの粒子径依存性が小さい。
【0031】
従来のアトマイズ装置を用いる場合には本実施形態に係る軟磁性合金粉末を作製することが困難である。後述する特定のアトマイズ装置を用い、さらに製造条件を適宜制御することで本実施形態に係る軟磁性合金粉末を作製することができる。
【0032】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末の組成には特に制限はない。例えばFe-Si系、Fe-Co-Si系、Fe-Co-Si-Cr系、Fe-Ni系、Fe-Ni-Mo系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、Fe-Si-Al-Ni系、Fe-Ni-Si-Co系などの結晶系の合金組成を有していてもよい。
【0033】
軟磁性合金粉末の保磁力を低下させ、当該軟磁性合金粉末を用いて作製される磁気コアの保磁力を低下させる観点から、Fe基非晶質系の合金組成、または、Fe基ナノ結晶系の合金組成を有していてもよい。Fe基非晶質系の合金組成またはFe基ナノ結晶系の合金組成としては、Fe-Nb-B-P-S系、Fe-Co-Nb-B-P-S系、Fe-Nb-B-Si-Cu系、Fe-Nb-B系、Fe-Si-B系、Fe-Si-Cr-B-C系、Fe-Co-Si-Cr-B-P系、Fe-Co-Si-Cr-B-P-C系、Fe-Si-B-C系などの合金組成が挙げられる。
【0034】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末の微細構造には特に制限はない。非晶質からなる構造であってもよくナノ結晶からなる構造であってもよく結晶からなる構造であってもよい。
【0035】
非晶質からなる構造とは、非晶質化率Xが85%以上である構造を指す。非晶質化率が85%以上になる範囲で結晶が含まれている構造は非晶質からなる構造に含まれる。非晶質からなる構造には、概ね非晶質で構成される構造またはヘテロアモルファスからなる構造が含まれる。ヘテロアモルファスからなる構造は、結晶が非晶質中に存在する構造のことである。ヘテロアモルファスからなる構造の場合、非晶質中に存在する結晶の平均結晶粒径は、0.1nm以上10nm以下であってもよい。ナノ結晶からなる構造とは、非晶質化率Xが85%未満であり結晶の平均結晶粒径が100nm以下である構造のことである。ナノ結晶からなる構造における結晶の平均結晶粒径は3nm以上50nm以下であってもよい。結晶からなる構造とは、非晶質化率Xが85%未満であり結晶の平均結晶粒径が100nmよりも大きい構造のことである。
【0036】
非晶質化率XはXRDを用いたX線結晶構造解析により測定することができ、EBSD(結晶方位解析)や電子線回折により測定してもよい。以下、XRDを用いたX線結晶構造解析により測定する方法について説明する。
【0037】
軟磁性合金粉末の非晶質化率Xは下記式(1)により表される。
X=100-(Ic/(Ic+Ia)×100)…(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶質性散乱積分強度
【0038】
非晶質化率Xは、軟磁性合金粉末に対してXRDによりX線結晶構造解析を実施し、相の同定を行い、結晶化したFe又は化合物のピーク(Ic:結晶性散乱積分強度、Ia:非晶質性散乱積分強度)を読み取り、そのピーク強度から結晶化率を割り出し、上記式(1)により算出する。以下、算出方法をさらに具体的に説明する。
【0039】
軟磁性合金についてXRDによりX線結晶構造解析を行い、図7に示すようなチャートを得る。これを、下記式(2)のローレンツ関数を用いて、プロファイルフィッティングを行い、図8に示すような結晶性散乱積分強度を示す結晶成分パターンαc、非晶質性散乱積分強度を示す非晶成分パターンαa、およびそれらを合わせたパターンαc+aを得る。得られたパターンの結晶性散乱積分強度および非晶質性散乱積分強度から、上記式(1)により非晶質化率Xを求める。なお、測定範囲は、非晶質由来のハローが確認できる回析角2θ=30°~60°の範囲とする。この範囲で、XRDによる実測の積分強度とローレンツ関数を用いて算出した積分強度との誤差が1%以内になるようにする。
【0040】
【数1】
【0041】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末を用いて磁気コアを作製することにより、得られる磁気コアの直流重畳特性を向上させることができる。
【0042】
本実施形態に係る磁気コアは上記の粉末粒子を含む。磁気コアに含まれる粉末粒子を磁気コアの断面における粒子径の違いによって多数の種類の粒子に区分する場合において、どの区分に属する粒子においても平均円形度が概ね同一であり、かつ、どの区分に属する粒子においても円形度の分散が概ね同一である。
【0043】
本実施形態に係る磁気コアは、具体的には、粒子径がD50以下である軟磁性合金粒子からなる第1粒子と、粒子径がD50より大きくD60以下である軟磁性合金粒子からなる第2粒子と、粒子径がD60より大きくD70以下である軟磁性合金粒子からなる第3粒子と、粒子径がD70より大きくD80以下である軟磁性合金粒子からなる第4粒子と、粒子径がD80より大きくD90以下である軟磁性合金粒子からなる第5粒子と、を有する軟磁性合金粉末である。
【0044】
そして、第1粒子から第5粒子のうち、第n粒子の平均粒子径をXn(μm)、第n粒子の平均円形度をYn、第n粒子の円形度の分散をZnとして、点(Xn,Yn)(n=1~5)をXY平面にプロットする場合の近似直線の傾きmYが-0.0030以上であり、点(Xn,Zn)(n=1~5)をXZ平面にプロットする場合の近似直線の傾きmZが0.00050以下である。
【0045】
mYは好ましくは-0.0020以上である。mYには特に上限はないが、例えば0.0000以下である。
【0046】
mZは好ましくは0.00030以下である。mZには特に下限はないが、例えば0.00005以上である。
【0047】
XY平面上に表される回帰直線は、円形度の大きさの粒子径依存性を示すものである。XZ平面上に表される回帰直線は円形度のばらつきの粒子径依存性を示すものである。
【0048】
磁気コアの断面における粒子全体の平均粒子径D2には特に制限はないが、上記の構成を有する磁気コアを得やすくする観点からは、1.0μm以上25.0μm以下であってもよく、5.0μm以上15.0μm以下であってもよい。
【0049】
磁気コアの断面における粒子全体の平均円形度C2には特に制限はないが、上記の構成を有する磁気コアの直流重畳特性を向上させやすくする観点からは、0.70以上であってもよく、0.75以上であってもよく、0.85以上であってもよい。
【0050】
磁気コアは上記の軟磁性合金粒子に加えて樹脂を含んでもよい。樹脂の種類および含有量には特に制限はない。樹脂の種類としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が例示される。樹脂の含有量は軟磁性合金に対して1質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0051】
本実施形態に係る磁気コアは、直流重畳特性が好適に維持される範囲内で上記の軟磁性合金粒子とは区別可能な別の軟磁性合金粒子、微粒子、非磁性粒子などを含んでもよい。別の軟磁性合金粒子、微粒子および非磁性粒子の含有量には特に制限はない。例えば磁気コア全体に対して30wt%以下である。また、磁気コアが改質剤、防腐剤、分散剤などを添加してもよい。
【0052】
次に磁気コアに含まれる軟磁性合金粒子における第1粒子~第5粒子の同定方法、および、各粒子の円形度の平均および分散の算出方法について説明する。
【0053】
まず、磁気コアを任意の箇所で切断し断面を得る。次に断面を観察する。断面の観察方法には特に制限はない。例えば電子顕微鏡(SEM、STEM、TEMなど)を用いてもよい。観察範囲および倍率には特に制限はなく、少なくとも2000個以上の軟磁性合金粒子について、個々の断面形状が観察できればよい。
【0054】
次に、観察範囲内の個々の粒子の円相当径を算出する。円相当径の算出方法には特に制限はない。例えば解析プログラム等を用いてもよい。ただし、解析プログラム等を用いる場合には明らかに粒子ではない部分を粒子と認識してしまう場合がある。そのような部分は適宜、除外する。
【0055】
そして、個々の粒子の円相当径から粒度分布を得ることができる。得られた粒度分布より、個数基準の累積相対度数が50%であるときの粒子径をD50、個数基準の累積相対度数が60%であるときの粒子径をD60、個数基準の累積相対度数が70%であるときの粒子径をD70、個数基準の累積相対度数が80%であるときの粒子径をD80、個数基準の累積相対度数が90%であるときの粒子径をD90とすることができる。なお、本実施形態では、少なくとも2000個以上の粒子の円相当径から粒度分布を測定する。
【0056】
本実施形態に係る磁気コアの断面の模式図を図9に、従来の磁気コアの断面の模式図を図10に記載する。図9に示される磁気コアは図10に示される磁気コアと比較して、軟磁性合金粒子の円形度のばらつきの粒子径依存性が小さい。
【0057】
モフォロギG3により確認される軟磁性合金粉末の個数基準での粒度分布および円形度と、最終的に得られる磁気コアの断面における軟磁性合金粒子の個数基準での粒度分布および円形度と、は一致しない。
【0058】
しかし、モフォロギG3により確認される磁性粉末の個数基準での粒度分布および円形度と、最終的に得られる磁気コアの断面における磁性粉末の粒子の個数基準での粒度分布および円形度と、の間には相関関係がある。したがって、軟磁性合金粉末の粒度分布および円形度をモフォロギG3で確認することで、最終的に得られる磁気コアの断面における軟磁性合金粒子の粒度分布をある程度、予測することができる。すなわち、成型前の軟磁性合金粉末の個数基準での粒度分布および円形度を制御して最終的に得られる磁気コアの断面における軟磁性合金粒子の個数基準での粒度分布および円形度を制御することが容易である。
【0059】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末を加圧成型して作製される磁気コアは本実施形態に係る磁気コアとなりやすい。そして、本実施形態に係る磁気コアと従来の磁気コアとで成型圧を変化させて比透磁率μを同等とすれば、直流重畳特性が高い磁気コアが得られる。磁気コアの比透磁率μには特に制限はない。
【0060】
磁気コアにおける軟磁性合金粒子の充填率は、成型圧などの製造条件や樹脂の含有率などを制御することにより制御できる。充填率は、例えば70vol%~90vol%としてもよい。
【0061】
軟磁性合金粉末を加圧成型して作製される磁気コアにおいて、磁気コアに含まれる軟磁性合金粒子を粒子径別に円形度を測定する場合には、粒子径が大きい軟磁性合金粒子ほど円形度の平均が小さくなりやすく円形度の分散が大きくなりやすい。すなわち、円形度の大きさの粒子径依存性や円形度の分散の粒子径依存性が大きくなりやすい。特に粒子径が大きくいびつな形状を有する軟磁性合金粒子が磁気コアに含まれるとその周辺で局所飽和が生じやすくなる。その結果、直流重畳特性が特に低下しやすくなる。
【0062】
従来、円形度の大きさの粒子径依存性と円形度の分散の粒子径依存性とを両方とも小さくすることが難しかった。しかし、円形度の大きさの粒子径依存性と円形度の分散の粒子径依存性とが両方とも小さい軟磁性合金粉末を後述するアトマイズ装置により作製できることを本発明者らは見出した。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製される磁気コアは円形度の大きさの粒子径依存性と円形度の分散の粒子径依存性とが両方とも小さくなり直流重畳特性が小さくなることを本発明者らは見出した。
【0063】
以下、本実施形態に係る軟磁性合金粉末の製造方法について説明する。
【0064】
軟磁性合金粉末の製造方法には特に限定はない。しかし、後述する楕円水流アトマイズ装置10を用いてガスアトマイズ法により軟磁性合金粉末を作製する場合には、円形度の大きさの粒子径依存性と円形度の分散の粒子径依存性とが両方とも小さい軟磁性合金粉末が得られやすいことを本発明者らは見出した。
【0065】
以下、軟磁性合金粉末の製造方法の一例について説明する。軟磁性合金粉末は、ガスアトマイズ法で製造してもよい。具体的には、図11Aに示す楕円水流アトマイズ装置10を用いて製造してもよい。楕円水流アトマイズ装置10は、楕円螺旋状の冷却水流を発生させることができる装置であり、当該楕円水流アトマイズ装置10を用いることで、最適な急冷条件で軟磁性合金粉末を製造することができる。
【0066】
楕円水流アトマイズ装置10は、図11Aに示すように、溶融金属供給部60と、当該供給部の鉛直方向の下方に配置してある冷却部30と、を有する。図11Aでは、鉛直方向をZ軸方向とする。溶融金属供給部60は、溶融金属61を収容する耐熱性の容器62を有しており、容器62の外周には加熱用コイル64が配置してある。軟磁性合金粉末の製造時には、所望の合金組成を有する母合金を容器62に投入し、加熱用コイル64により母合金を溶融させ、得られた溶融金属61の温度を所定の範囲に保持する。
【0067】
なお、母合金の製造方法は特に限定されない。例えば、軟磁性合金粉末を構成する各元素の原料(純金属等)を目的の合金組成となるように秤量し、当該原料を所定の真空度のチャンバー内で高周波加熱により溶解させることで、母合金を得ることができる。また、母合金を溶解して得た溶融金属61の温度は、特に限定されない。目的の合金組成を有する合金の融点を考慮して溶融金属61の温度を設定すればよい。例えば、1200℃~1600℃とすることができる。
【0068】
容器62の底部には、吐出口63が形成してある。所定温度に保持された溶融金属61は、吐出口63から、冷却部30を構成する筒体32の内周面33に向けて、滴下溶融金属61aとして吐出される。
【0069】
また、容器62の外底壁の外側には、吐出口63を囲むように、ガス噴射ノズル66が配置してある。このガス噴射ノズル66には、噴射口67が具備してあり、噴射口67から滴下溶融金属61aに向けて高圧ガスが噴射される。より具体的に、高圧ガスは、吐出口63から吐出された溶融金属61の周囲全周から斜め下方向に向けて噴射される。これにより、滴下溶融金属61aは、多数の液滴となり、ガスの流れに沿って筒体32の上部内側の内周面33に向けて運ばれる。
【0070】
なお、高圧ガスは、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス、もしくは、アンモニア分解ガスなどの還元性ガスであってもよい。
【0071】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末を得るためには、アトマイズガス(高圧ガス)の流量(Gv)とアトマイズガス(高圧ガス)のガス圧(Gp)との比を調整する。好適なGv/Gpは母合金の組成等により変化し得るが、例えば0.5m3/MPa以上30m3/MPa以下であってもよい。
【0072】
また、軟磁性合金粉末の平均粒子径D1は、溶融金属61の吐出流量により、制御することができる。吐出流量が少ないほど平均粒子径D1が小さくなる傾向となる。吐出流量が多いほど平均粒子径D1が大きくなる傾向となる。平均粒子径D1は、吐出流量の他、ガス噴射圧、滴下溶融金属61aが冷却部30に達するまでの距離、冷却部30の水流速度などの因子を調整することでも制御可能である。
【0073】
冷却部30は、内周面33を擁する筒体32と、筒体32の上部に具備してある冷却液導出部36と、筒体32の下部に具備してある排出部34と、を有する。筒体32は、筒体32の軸芯Oが鉛直方向(Z軸方向)に対して所定角度θ2で傾くように設置してある。また、筒体32の上部は、所定角度θ2で傾いた状態で、Z軸方向と垂直な水平方向に切断されており、筒体32の上面は楕円形状の開口面となっている。さらに、筒体32の内周面33では、軸芯Oに対して角度θ1で傾斜する断面が、図11Bに示すような楕円形状となっており、この楕円形状の断面が軸芯Oに沿って連続的に形成される。
【0074】
なお、角度θ1は、θ1=(90度-θ2)で表され、前述した楕円形状の断面とは、鉛直方向と垂直な内周面33(筒体32)の水平断面である。内周面33の水平断面における楕円の長軸は、筒体32の軸芯OがZ軸(鉛直線)に対して傾斜する方向と一致していてもよい。すなわち、水平断面の長軸が、筒体32の軸芯Oと、その軸芯Oと交差するZ軸とを含む平面に含まれるように、筒体32が構成してあってもよい。
【0075】
図11Bに示すように、内周面33の水平断面における楕円形の短径をW1とし、楕円形の長径をW2とする。本実施形態に係る軟磁性合金粉末を得るためには、短径W1に対する長径W2の比(W2/W1)を調整する。好適なW2/W1は母合金の組成等により変化し得るが、例えば1.04以上3.00以下であってもよい。
【0076】
冷却部30における冷却液導出部36は、供給ライン37と、冷却液吐出口52と、を有している。冷却液導出部36では、供給ライン37から供給される冷却液が、冷却液吐出口52から筒体32の内周面33に沿って吐出される。冷却液導出部36は楕円螺旋形の水流を生み出すために最適な構造を有している。冷却液吐出口52から吐出された冷却液は内周面33に沿って楕円形状の螺旋を描きながら軸芯Oの下方に向かって流れる。冷却液吐出口52から吐出された冷却液は一定の厚みを有する冷却液層50を形成する。
【0077】
高圧ガスによって内周面33に向かって噴射された滴下溶融金属61aは、楕円螺旋状の水流を有する冷却液層50により急冷される。冷却液層50で発生している楕円螺旋状の水流では、楕円の短径側で流速が速くなり、楕円の長径側では流速が遅くなっている。そのため、冷却液層50に噴射された滴下溶融金属61aは、冷却液の流速に併せて、速度変化を伴いながら、楕円螺旋状の水流にのって軸芯Oの下方に向かって流されていく。なお、滴下溶融金属61aを噴射する箇所は楕円形の曲率が最小となる箇所にしてもよい。
【0078】
上記のように冷却液層50を流れる滴下溶融金属61aに速度変化を与えることで、滴下溶融金属61a周りに発生する蒸気の膜が滴下溶融金属61aから剥離され易くなる。そのため、滴下溶融金属61aに対する急冷の冷却効率が向上する。そして、冷却液層50における楕円螺旋状の水流により滴下溶融金属61aが凝固することで本実施形態に係る軟磁性合金粉末が得られる。当該軟磁性合金粉末は、筒体32の下方に位置する排出部34から冷却液と共に排出される。楕円水流アトマイズ装置10から取り出した軟磁性合金粉末に対しては、適宜、乾燥や分級などの処理を施してもよい。
【0079】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末の生成には、上記のW2/W1、および、上記のGp/Gvなどが影響していると考えられる。W2/W1およびGp/Gvを好適に制御することで本実施形態に係る軟磁性合金粉末が得られる。W2/W1が小さい場合またはGv/Gpが大きい場合には円形度のばらつきの粒子径依存性が大きくなる傾向にある。W2/W1が大きい場合またはGv/Gpが小さい場合には円形度の大きさの粒子径依存性が大きくなる傾向にある。
【0080】
これに対し、従来のアトマイズ装置では、図12Aおよび図12Bに示すように筒体32の内周面33の軸芯Oに垂直な断面が円形(W2/W1=1.00)である。また、冷却液吐出口52が円形状である。
【0081】
軟磁性合金粉末の粒子径については、乾式分級や湿式分級により粒度を調整することで粒子径を調整してもよい。乾式分級方法として、例えば、乾式篩を用いる篩分級、および、気流分級の分級方法があげられる。湿式分級方法として、例えば、湿式フィルター濾過による分級や遠心分離による分級等の分級方法があげられる。
【0082】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末に絶縁被膜を形成してもよい。軟磁性合金粉末に含まれる軟磁性合金粒子の表面に絶縁被膜を形成する場合には、軟磁性合金粉末に対して、熱処理、リン酸塩処理、メカニカルアロイング、シランカップリング処理、または水熱合成などの被膜形成処理を施してもよい。
【0083】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末の用途は、特に限定されない。各種磁性部品に適用することができる。特に、軟磁性合金粉末は、インダクタ、トランス、チョークコイルなどの磁性部品における磁気コアの材料として好適に用いることができる。
【0084】
本実施形態に係る磁気コアの種類には特に限定はない。以下、磁気コアが圧粉磁心である場合について説明する。すなわち、加圧成型により磁気コアを得る方法について説明する。
【0085】
磁気コアの製造方法は特に限定されない。たとえば、まず、本実施形態に係る軟磁性合金粉末と、樹脂と、を混錬して樹脂コンパウンドを得る。樹脂コンパウンドは造粒粉であってもよい。この際に、従来のガスアトマイズ装置で製造した軟磁性合金粉末、平均粒子径が本実施形態に係る軟磁性合金粉末よりも小さい微粉末、および/または、非磁性粉末などを樹脂コンパウンドに添加してもよい。また、改質剤、防腐剤、分散剤などを添加してもよい。そして、樹脂コンパウンドを金型に充填し、加圧成型し、その後、樹脂を硬化させることで、磁気コアが得られる。
【0086】
まず、軟磁性合金粉末と樹脂とを混合する。樹脂を混合させることで成型により強度の高い成型体を得やすくなる。樹脂の種類には特に制限はない。例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。樹脂の添加量にも特に制限はない。樹脂を添加する場合には、磁性粉末に対して1質量%以上5質量%以下、添加してもよい。
【0087】
軟磁性合金粉末と樹脂との混合物を造粒して造粒粉を得る。造粒方法には特に制限はない。例えば、撹拌機を用いて造粒してもよい。造粒粉の粒子径には特に制限はない。
【0088】
得られた造粒粉を加圧成型して成型体を得る。成型圧には特に制限はない。例えば、面圧0.1t/cm2以上20t/cm2以下であってもよい。楕円水流アトマイズ装置を用いて作製された軟磁性合金粉末を用いる場合には、従来のアトマイズ装置を用いる場合と比較して小さい成型圧で比透磁率μを高くすることができる。そして、従来のアトマイズ装置を用いる場合と比較して直流重畳特性が改善された磁気コアが得られる。
【0089】
そして、成型体に含まれる樹脂を硬化させて磁気コアを得ることができる。硬化方法には特に制限はなく、用いた樹脂を硬化させることができる条件で熱処理を行ってもよい。
【0090】
磁気コアの用途には特に制限はない。例えば、インダクタ用、特にパワーインダクタ用の磁気コアとして好適に用いることができる。さらに、磁気コアとコイルとを一体成型したインダクタにも好適に用いることができる。
【0091】
さらに、上記の磁気コアや上記の磁気コアを用いた磁性部品は電子機器に好適に用いることができる。
【0092】
特に、上記の磁気コアは直流重畳特性を比較的高くしやすいことから、小型化、高周波化、高効率化および省エネルギー化が求められる分野に好適に用いられる。例えば、(スマートフォンや車載機器に用いられる小型・高速スイッチング電源 )に搭載される磁気コア、磁性部品および電子機器に好適に用いることができる。
【実施例0093】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0094】
(実験例1)
<軟磁性合金粉末>
重量比で83.9Fe-12.2Nb-2.0B-1.8P-0.1Sの軟磁性合金組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。具体的には、Fe、Nb、および、その他副成分などの純金属原料を準備し、溶解後に上記の軟磁性合金組成が得られるように当該純金属原料を秤量した。そして、秤量した純金属原料を、真空引きしたチャンバー内で、高周波加熱により溶解し、母合金を得た。
【0095】
作製した母合金を加熱して溶融させ、1500℃の溶融状態の金属とした後に、ガスアトマイズ法により、各試料の合金組成を有する軟磁性合金粉末を作製した。具体的には、溶融させた母合金を吐出口から筒体内の冷却部に向けて吐出する際に、吐出された滴下溶融金属に向けて高圧ガスを噴射した。なお、高圧ガスはN2ガスとした。滴下溶融金属が冷却部(冷却水)に衝突することで冷却固化され、軟磁性合金粉末となった。
【0096】
冷却部における筒体のW2/W1が1.00である試料番号1は図12に示される従来のアトマイズ装置を用いた。W2/W1>1.00であるその他の試料は図11に示される楕円水流アトマイズ装置を用いた。
【0097】
ガスアトマイズ法の条件については、溶融金属の噴出量を1~20kg/分、冷却水の圧力を1~30MPaとした。上記の各条件は目的とする軟磁性合金粉末が得られるように適宜制御した。さらに、アトマイズガスの流量Gvをアトマイズガスのガス圧Gpで割って得られるパラメータであるGv/Gpが表1に示す値となるようにした。Gvは概ね4m3~16m3の範囲内で変化させ、Gpは概ね0.5MPa~12MPaの範囲内で変化させた。
【0098】
次に、得られた軟磁性合金粉末に熱処理を行い、結晶粒径が30nm以下であるナノ結晶を析出させ、非晶質化率Xを10%に低下させた。具体的には、400~650℃で10~60分、熱処理を行った。
【0099】
各試料について母合金の組成と粉末の組成とが概ね一致していることをICP分析により確認した。また、各粉末についてX線回折測定を行い、非晶質化率Xを測定した。非晶質化率Xが85%以上である場合には非晶質からなる構造を有するとした。非晶質化率Xが85%未満であり平均結晶粒径が100nm以下である場合にナノ結晶からなる構造を有するとした。非晶質化率Xが85%未満であり平均結晶粒径が100nmよりも大きい場合には結晶からなる構造を有するとした。実験例1では全ての粉末がナノ結晶からなる構造を有することを確認した。
【0100】
次に、各軟磁性合金粉末の平均粒子径D1および平均円形度C1を測定した。まず、モフォロギG3(マルバーン・パナリティカル社)を用いて個々の粒子投影像を観察した。倍率10倍で20000個の粉末粒子の形状を観察した。具体的には、体積3cc分の粉末を1~3barの空気圧で分散させてレーザ顕微鏡による投影像を撮影した。そして、各粉末粒子の投影像における円面積相当径を粒子径として測定した。個数基準で各粉末粒子の粒子径を平均することにより平均粒子径D1を算出した。
【0101】
さらに、各粒子の投影像から個々の粉末粒子の円形度を測定した。そして、個数基準で各粉末粒子の平均円形度C1を算出した。
【0102】
さらに、各粉末粒子の粒子径および円形度より、上記のmyおよびmzを算出した。
【0103】
<磁気コア>
各試料の軟磁性合金粉末を用いてトロイダルコアを作製した。
【0104】
まず、軟磁性合金粉末とエポキシ樹脂とを混錬して樹脂コンパウンドを得た。軟磁性合金粉末とエポキシ樹脂との配合比は、トロイダルコア中の樹脂含有率が2.5wt%となるように制御した。
【0105】
樹脂コンパウンドを金型に充填し加圧することでトロイダル形状の成型体を得た。成型圧は、最終的に得られるトロイダルコアの比透磁率μ(直流磁界を印加していない状態での比透磁率)が30となるように制御した。
【0106】
トロイダル形状の成型体を180℃で60分間、加熱処理することで、成型体中のエポキシ樹脂を硬化させ、トロイダルコアを得た。トロイダルコアの形状は外径11mm、内径6.5mm、厚み2.5mmとした。トロイダルコアは後述する試験に必要な数だけ作製した。
【0107】
トロイダルコアの断面における軟磁性合金粒子の平均粒子径D2および平均円形度C2を測定した。まず、トロイダルコアを任意の断面で切断した。次に、断面における軟磁性合金粒子が判別可能な倍率(100~1000)倍のSEM画像を観察した。SEM画像を解析することでD2およびC2を測定した。画像解析用のソフトウェアとしてはMac-View(マウンテック社製)を用いた。SEM画像における各粒子の形状から円面積相当径を粒子径として測定した。個数基準で各粒子の粒子径を平均することにより平均粒子径D2を算出した。
【0108】
さらに、SEM画像における各粒子の形状から各粒子の円形度を測定した。そして、個数基準で各粒子の平均円形度C2を算出した。
【0109】
さらに、各粒子の粒子径および円形度より、上記のmYおよびmZを算出した。
【0110】
各試料のトロイダルコアの比透磁率μが30であることは下記の方法で確認した。まず、トロイダルコアに対して、ポリウレタン銅線(UEW線)を巻回した。そして、直流電流を印加せずに周波数1MHzにおけるトロイダルコアのインダクタンスをLCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)を用いて測定し、得られたインダクタンスから比透磁率μを算出した。そして、比透磁率μが30であることを確認した。
【0111】
さらに、各試料のトロイダルコアに対して8kA/mの直流磁界を印加してインダクタンスを測定し、得られたインダクタンスから直流透磁率μHdcを算出した。従来のアトマイズ装置を用いて製造したトロイダルコア(実験例1では試料番号1)の直流透磁率μHdcを基準として、μHdcの増加率を算出した。μHdcの増加率が1.30倍以上である場合に直流重畳特性が良好であるとした。μHdcの増加率が1.70倍以上である場合に直流重畳特性がさらに良好であるとし、2.00倍以上である場合に直流重畳特性が特に良好であるとした。上記の試験結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
表1より、W2/W1が1.04以上3.00以下であり、Gv/Gpが1m3/MPa以上30m3/MPa以下である場合には、軟磁性合金粉末のmy、mzが所定の範囲内となった。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmY、mZが所定の範囲内となり、直流重畳特性が良好であった。
【0114】
これに対し、W2/W1が小さすぎる場合、および、Gv/Gpが大きすぎる場合には、軟磁性合金粉末のmzの絶対値が大きくなりすぎた。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmZが所定の範囲外となり、直流重畳特性が低下した。
【0115】
W2/W1が大きすぎる場合、および、Gv/Gpが小さすぎる場合には、軟磁性合金粉末のmyの絶対値が大きくなりすぎた。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmYが所定の範囲外となり、直流重畳特性が低下した。
【0116】
(実験例2)
軟磁性合金粉末の組成を重量比で67.1Fe-16.8Co-12.2Nb-2.0B-1.8P-0.1S(表2)、83.4Fe-5.6Nb-2.0B-7.7Si-1.3Cu(表3)、86.2Fe-12.0Nb-1.8B(表4)に変更した点以外は実験例1と同条件で実施した。実験例2では全ての粉末がナノ結晶からなることを確認した。
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
表2~表4より、W2/W1およびGv/Gpが好適に制御されている場合には、軟磁性合金粉末のmy、mzが所定の範囲内となった。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmY、mZが所定の範囲内となり、直流重畳特性が良好であった。
【0121】
これに対し、W2/W1が小さすぎる場合、および、Gv/Gpが大きすぎる場合には、軟磁性合金粉末のmzの絶対値が大きくなりすぎた。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmZが所定の範囲外となり、直流重畳特性が低下した。
【0122】
W2/W1が大きすぎる場合、および、Gv/Gpが小さすぎる場合には、軟磁性合金粉末のmyの絶対値が大きくなりすぎた。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmYが所定の範囲外となり、直流重畳特性が低下した。
【0123】
(実験例3)
軟磁性合金粉末の組成を重量比で64.5Fe-29.2Co-2.4B-1.7Si-1.2P-1.0Cr(表5)、64.3Fe-29.1Co-2.4B-1.7Si-1.2P-1.0Cr-0.2C(表6)、86.8Fe-11.0Si-2.2B(表7)、87.3Fe-7.0Si-2.5Cr-2.5B-0.7C(表8)、94.6Fe-2.0Si-3.0B-0.4C(表9)に変更した点、および、軟磁性合金粉末に熱処理を行わなかった点以外は実験例1と同条件で実施した。実験例3では全ての粉末が非晶質からなることを確認した。
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
【表7】
【0127】
【表8】
【0128】
【表9】
【0129】
表5~表9より、W2/W1およびGv/Gpが好適に制御されている場合には、軟磁性合金粉末のmy、mzが所定の範囲内となった。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmY、mZが所定の範囲内となり、直流重畳特性が良好であった。
【0130】
これに対し、W2/W1が小さすぎる場合、および、Gv/Gpが大きすぎる場合には、軟磁性合金粉末のmzの絶対値が大きくなりすぎた。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmZが所定の範囲外となり、直流重畳特性が低下した。
【0131】
W2/W1が大きすぎる場合、および、Gv/Gpが小さすぎる場合には、軟磁性合金粉末のmyの絶対値が大きくなりすぎた。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmYが所定の範囲外となり、直流重畳特性が低下した。
【0132】
(実験例4)
軟磁性合金粉末の組成を重量比で97.0Fe-3.0Si(表10)、95.5Fe-4.5Si(表11)、93.5Fe-6.5Si(表12)、84.2Fe-9.3Co-6.5Si(表13)、83.3Fe-9.2Co-6.5Si-1.0Cr(表14)、55.0Fe-45.0Ni(表15)、16.0Fe-79.0Ni-5.0Mo(表16)、93.5Fe-4.5Si-2.0Cr(表17)、85.5Fe-4.5Si-10.0Cr(表18)、85.0Fe-9.5Si-5.5Al(表19)、87.4Fe-6.2Si-5.4Al-1.0Ni(表20)、49.0Fe-44.0Ni-2.0Si-5.0Co(表21)に変更した点、および、軟磁性合金粉末に熱処理を行わなかった点以外は実験例1と同条件で実施した。実験例4では全ての粉末が結晶からなることを確認した。
【0133】
【表10】
【0134】
【表11】
【0135】
【表12】
【0136】
【表13】
【0137】
【表14】
【0138】
【表15】
【0139】
【表16】
【0140】
【表17】
【0141】
【表18】
【0142】
【表19】
【0143】
【表20】
【0144】
【表21】
【0145】
表10~表21より、W2/W1およびGv/Gpが好適に制御されている場合には、軟磁性合金粉末のmy、mzが所定の範囲内となった。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmY、mZが所定の範囲内となり、直流重畳特性が良好であった。
【0146】
これに対し、W2/W1が小さすぎる場合、および、Gv/Gpが大きすぎる場合には、軟磁性合金粉末のmzの絶対値が大きくなりすぎた。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmZが所定の範囲外となり、直流重畳特性が低下した。
【0147】
W2/W1が大きすぎる場合、および、Gv/Gpが小さすぎる場合には、軟磁性合金粉末のmyの絶対値が大きくなりすぎた。そして、当該軟磁性合金粉末を用いて作製された磁気コア(トロイダルコア)のmYが所定の範囲外となり、直流重畳特性が低下した。
【0148】
(実験例5)
実験例1の試料番号1、7、11の軟磁性合金粉末を用いて、成型圧を変化させて初透磁率μを変化させた磁気コアを作製した。実験例1と同様に各磁気コアの平均粒径D2、平均円形度C2、mY、mZ、μおよびμHdcを測定した。互いに初透磁率μが同一である場合について、試料番号1の軟磁性合金粉末を用いた磁気コアのμHdcに対する試料番号7、11の軟磁性合金粉末を用いた磁気コアのμHdcの増加率を算出した。結果を表17に示す。
【0149】
【表22】
【0150】
表22より、μを変化させてもμ=30の場合と同様な傾向を示す結果が得られた。
【符号の説明】
【0151】
10 … 楕円水流アトマイズ装置
60 … 溶融金属供給部
61 … 溶融金属
61a … 滴下溶融金属
62 … 容器
63 … (溶融金属の)吐出口
64 … 加熱用コイル
66 … ガス噴射ノズル
67 … 噴射口
30 … 冷却部
32 … 筒体
33 … 内周面
34 … 排出部
36 … 冷却液導出部
37 … 供給ライン
52 … 冷却液吐出口
50 … 冷却液層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B