(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034268
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】軟磁性粉末、磁性コア、磁性部品および電子機器
(51)【国際特許分類】
H01F 1/20 20060101AFI20240306BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20240306BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240306BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240306BHJP
B22F 1/065 20220101ALI20240306BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240306BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20240306BHJP
B22F 1/068 20220101ALI20240306BHJP
B22F 9/04 20060101ALN20240306BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
H01F1/20
H01F1/22
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F1/065
B22F1/052
B22F1/06
B22F1/068
B22F9/04 C
B22F9/04 E
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138400
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中川 佑太
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中畑 功
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB02
4K017BB03
4K017BB04
4K017BB05
4K017BB06
4K017BB07
4K017BB08
4K017BB09
4K017CA01
4K017CA03
4K017CA07
4K017DA02
4K017DA05
4K017EA03
4K017EA04
4K018BA13
4K018BB01
4K018BB03
4K018BB04
4K018BB06
4K018BB07
4K018BD01
4K018KA43
4K018KA44
5E041AA11
5E041BD03
5E041BD12
(57)【要約】
【課題】透磁率を向上させることができる軟磁性粉末、磁性コア、磁性部品および電子機器を提供すること。
【解決手段】粒子サイズがD50以上の粒子から成る第1粒子群と、粒子サイズがD50未満の粒子から成る第2粒子群とを有する軟磁性粉末である。第1粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第1平均円形度C1とし、第2粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第2平均円形度C2とし、C1<C2を満足する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子サイズがD50以上の粒子から成る第1粒子群と、粒子サイズがD50未満の粒子から成る第2粒子群とを有する軟磁性粉末であって、
前記第1粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第1平均円形度C1とし、
前記第2粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第2平均円形度C2とし、
C1<C2を満足する軟磁性粉末。
【請求項2】
前記第1粒子群および前記第2粒子群に属する粒子の粒子サイズに対する円形度の分布から求められる近似直線の傾きが-0.0015/μm以上-0.0001/μm以下である請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項3】
前記円形度の分布の分散が0.002以上0.040以下である請求項2に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
前記第1粒子群および前記第2粒子群に属する粒子の内、粒子サイズがD45以上D55未満の粒子から成る第3粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第3平均円形度C3とし、
前記第3平均円形度C3が0.6以上0.92以下である請求項2に記載の軟磁性粉末。
【請求項5】
前記第1粒子群および前記第2粒子群に属する粒子は、それぞれ主面と、当該主面に垂直な厚みとを有する請求項1~4のいずれかに記載の軟磁性粉末。
【請求項6】
前記主面の面積から求められる円相当径に対する前記粒子厚みの比率を示すアスペクト比の平均が1以下である請求項5記載の軟磁性粉末。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の軟磁性粉末を含む磁性コア。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の軟磁性粉末を含む磁性部品。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の軟磁性粉末を含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末、磁性コア、磁性部品および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性薄帯は、比較的に均一な組成を有しており、軟磁性薄帯を粉砕した粉砕粉を磁性コアなどの磁性部品に用いる試みがなされている。たとえば特許文献1では、軟磁性薄帯を粉砕した粉砕粉に球形化処理を行うことが提案されている。
【0003】
従来の技術では、コアロスを下げるための工夫がなされているが、軟磁性薄帯を粉砕して粉砕粉にする際に、破砕により応力が加わるため保磁力の増加がおこり、透磁率が低くなる傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、透磁率を向上させることができる軟磁性粉末、磁性コア、磁性部品および電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、透磁率を向上させることができる軟磁性粉末について鋭意検討した結果、粒子サイズと円形度に着目し、これらが一定の関係にある場合に、透磁率を向上させることができることを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る軟磁性粉末は、
粒子サイズがD50以上の粒子から成る第1粒子群と、粒子サイズがD50未満の粒子から成る第2粒子群とを有する軟磁性粉末であって、
前記第1粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第1平均円形度C1とし、
前記第2粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第2平均円形度C2とし、
C1<C2を満足する。
【0008】
本発明者等は、軟磁性粉末の組成が同じであっても、C1<C2を満足させることで、比透磁率が向上することを見出した。
【0009】
好ましくは、前記第1粒子群および前記第2粒子群に属する粒子の粒子サイズに対する円形度の分布から求められる近似直線の傾きが-0.0015/μm以上-0.0001/μm以下である。
【0010】
好ましくは、前記軟磁性粉末の円形度の分布の分散が0.002以上0.040以下である。
【0011】
好ましくは、前記第1粒子群および前記第2粒子群に属する粒子の内、粒子サイズがD45以上D55未満の粒子から成る第3粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第3平均円形度C3とし、
前記第3平均円形度C3が0.6以上0.92以下である。
【0012】
好ましくは、前記第1粒子群および前記第2粒子群に属する粒子は、それぞれ主面と、当該主面に垂直な厚みとを有する。
【0013】
好ましくは、前記主面の面積から求められる円相当径に対する前記粒子厚みの比率を示すアスペクト比の平均が1以下である。
【0014】
本発明の磁性コアは、上記の軟磁性粉末を含む。
【0015】
本発明の磁性部品は、上記の軟磁性粉末を含む。
【0016】
本発明の電子機器は、上記の軟磁性粉末を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは本発明の一実施形態に係る軟磁性粉末の粒子の一例を示す斜視図である。
【
図1D】
図1Dは円形度が高い粒子のモフォロギによる観察結果を示す概略図である。
【
図1E】
図1Eは円形度が低い粒子のモフォロギによる観察結果を示す概略図である。
【
図2A】
図2Aは本発明の一実施形態に係る軟磁性粉末の粒子サイズと円形度との関係を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは本発明の比較例に係る軟磁性粉末において、粒子サイズと円形度との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は軟磁性合金薄帯の製造装置の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は軟磁性薄帯の粉砕方法の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は本発明の一実施形態に係る軟磁性粉末を用いて製造される磁性コアの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
第1実施形態
本実施形態に係る軟磁性粉末は、軟磁性合金薄帯を粉砕して得られる軟磁性合金粒子の集合であり、たとえば
図1Aに示すように、それぞれの軟磁性合金粒子2は、扁平な板形状であり、2つの主面2a,2bと側面2cとを有する。
【0020】
2つの主面2a,2bは、全体としては相互に略平行であり、フラットな平面を有するが、それぞれ表面に凹凸があってもよく、必ずしも平面である必要はなく、凸状または凹状の曲面が少なくとも部分的にあってもよい。つまり軟磁性合金薄帯を作製した際のロールとの接触面もしくはその反対の面が主面となる。
【0021】
また、側面2cは、これらの主面2a,2bに略垂直であるが、必ずしも垂直である必要はなく、傾斜していてもよく、凹凸があってもよい。また、側面2cには、凸状または凹状の曲面が少なくとも部分的にあってもよく、側面2cと各主面2aまたは2bとの交差角部は、丸みを持たせた形状であってもよい。つまり、軟磁性合金粒子2の側面2cは金属薄帯を粉砕した際の破断面となる。
【0022】
本実施形態に係る軟磁性粉末は、多数の軟磁性合金粒子2を有し、前記主面の面積から求められる円相当径に対する前記粒子厚みの比率を示すアスペクト比の平均が1以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.15以下である。軟磁性合金粒子2のアスペクト比は、たとえば以下のようにして測定することができる。
【0023】
まず、
図1Bに示すように、軟磁性合金粒子2の扁平な主面2aまたは2bの面積を画像処理などで求め、その面積に対応する真円2eを仮想円とする直径を自動計算により求めて粒子サイズDとする。軟磁性合金粒子2の粒子サイズDは好ましくは38~355μmである。また、軟磁性合金粒子2の主面2a,2b間の距離を画像処理などで求めて厚みtとする。軟磁性合金粒子2の厚みtは好ましくは10~100μm、さらに好ましくは10~30μmである。t/Dをアスペクト比と定義する。また、アスペクト比の平均は、本実施形態に係る軟磁性粉末から、少なくとも100個以上の軟磁性合金粒子2をランダムに抽出し、各粒子についてのアスペクト比を上記のように算出して平均化して求めることができる。また、コアの形状の場合、研磨厚みを一定にした平面研磨と像観察を交互に繰り返し、 得られた連続画像から3D画像をコンピュータ上で構築するシリアルセクショニング(serial sectioning)を用い解析してもよい。
【0024】
本実施形態では、軟磁性粉末は、種々の粒子サイズを有する粒子の集合であり、
図2Aに示すように、粒子サイズがD50以上の粒子2から成る第1粒子群と、粒子サイズがD50未満の粒子2から成る第2粒子群とに分けることができる。ここでD50は、好ましくは38μm以上355μm以下である。第1粒子群に属する粒子2の円形度の平均値を、第1平均円形度C1とし、第2粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第2平均円形度C2とした場合に、本実施形態では、C1<C2を満足する。C1/C2は、好ましくは、0.80以上0.98以下であり、より好ましくは0.91以上0.98以下であり、さらに好ましくは0.91以上0.96以下である。
【0025】
粒子2の円形度は、たとえばモフォロギG3(マルバーン・パナティカル社)を用いて、以下のようにして求めることができる。モフォロギG3では、エアーにより粉末を分散させ、個々の粒子形状を投影し、評価することができる装置である。具体的には、
図1Dおよび
図1Eに示す粒子形状測定結果からもわかるように、多数の粒子形状を一度に投影し評価することができる。
【0026】
実際には
図1Dおよび
図1Eに示す粒子形状の測定結果に記載されているよりもはるかに多数の粒子形状を一度に投影し評価することができる。なお、
図1Dは円形度が高い粒子の投影結果であり、
図1Eは円形度が低い粒子の投影結果である。本実施形態では、投影の際には、モフォロギG3では、エアーにより粉末を分散させて、自然落下した粉末を観察する原理から、主面2aまたは2bが投影されると考え評価している。
【0027】
モフォロギG3は多数の粒子の投影図を一度に作製し評価することができため、従来の走査型電子顕微鏡(SEM)観察などでの評価方法と比べて短時間で多数の粒子の形状を評価することができる。たとえば20000個以上の粒子について投影図を作製し、個々の粒子の円形度を自動的に算出し、平均円形度を個数基準で算出することができる。
【0028】
粒子の円形度は、たとえばWadellの円形度として算出することができる。Wadellの円形度は、投影図において、粒子断面に外接する円の直径に対する粒子断面の投影面積に等しい円の直径(円相当径)の比(円相当径/外接円の径)で定義される。真円の円形度が1であり、粒子の円形度が1に近いほど、円形に近い。
【0029】
なお、モフォロギG3を用いて、粒子サイズの平均、D50の粒子サイズ、アスペクト比の平均、粒子サイズが160μm以上の粒子の存在割合なども求めることができる。ここで、D50とは、軟磁性粉末に含まれる粒子の粒子サイズの個数基準での積算値が50%のときの粒子サイズのことである。
【0030】
図2Aに示すように、本実施形態の軟磁性粉末において、たとえば20000個以上のランダムに抽出した各粒子2の円形度を、粒子サイズ(単位マイクロメートル)に対してプロットし、最小二乗法で直線近似することにより、分布の近似式f(D)=A×D+Bにおける分布の傾きAを求めることができる。本実施形態では、傾きAは、好ましくは、-0.0015/μm以上、さらに好ましくは-0.0006/μm以上であり、また-0.0001/μm以下が好ましく、-0.0004/μm以下がさらに好ましい。なお、Bは近似式が縦軸に交わる値を示す定数である。
【0031】
また、
図2Aに示すような円形度の分布のグラフから求められる分布の分散σ
2(平均二乗誤差)は、好ましくは0.002以上0.040以下であり、さらに好ましくは0.005以上0.040以下であり、さらに好ましくは0.005以上0.015以下である。
【0032】
なお、円形度の分布の分散σ2(平均二乗誤差)は、たとえば以下の数式で表すことができる。
【0033】
【0034】
なお、数式中のnは観察した粒子の総数、Di はi番目に観察した粒子の粒子サイズ、Ci はi番目に観察した粒子の円形度である。
【0035】
本実施形態において、たとえば
図2Aに示すように、第1粒子群および第2粒子群に属する粒子の内、粒子サイズがD45以上D55未満の粒子から成る第3粒子群に属する粒子の円形度の平均値を、第3平均円形度C3とする場合に、第3平均円形度C3が、好ましくは0.60以上0.92以下、好ましくは0.60以上0.85以下、さらに好ましくは0.75以上0.85以下である。
【0036】
さらに、本実施形態では、第1粒子群および第2粒子群に属する粒子の内、粒子サイズが160μm以上の粒子(好ましくは160~1000μmの範囲内の粒子)を、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上で含む。なお、粒子サイズが160μm以上である粒子の存在割合の上限は、充填性などの観点から決定され、好ましくは90質量%以下である。
【0037】
軟磁性合金粒子2の厚みtは画像処理などで主面2a,2b間距離から求めることができ、好ましくは10~100μm、さらに好ましくは10~30μmである。
【0038】
本実施形態では、第1粒子群および第2粒子群に属する粒子2の材質および組成は、軟磁性を有していれば特に限定されず、たとえばヘテロアモルファスであるFe-Si-B系合金、Fe-Co-Si-B系合金やナノ結晶を有するFe-Si-B-Nb-Cu系合金、Fe-B-Nb系合金などが例示される。
【0039】
本実施形態に係る軟磁性粉末の各粒子2の微細構造についても特に制限はないが、たとえば本実施形態に係る軟磁性粉末の粒子は、アモルファスのみからなる構造を有していてもよく、初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有していてもよい。なお、初期微結晶は平均粒径が0.3~10nmであってもよい。あるいは、本実施形態に係る軟磁性粉末の粒子は、ナノ結晶相からなる粒子でもよく、非晶質相とナノ結晶相とが混在した粒子であってもよい。また、ナノ結晶からなる構造の中でも、特にFe基ナノ結晶からなる構造を有していてもよい。
【0040】
ナノ結晶とは、粒径がナノオーダーである結晶を指す。Fe基ナノ結晶とは、粒径がナノオーダーであり、主にFeからなる結晶の結晶構造がbcc(体心立方格子構造)である結晶のことである。本実施形態においては、平均粒径が5~30nmであるFe基ナノ結晶を析出させることが好ましい。
【0041】
以下、本実施形態の粒子2(軟磁性合金薄帯も同様)が非晶質からなる構造(非晶質のみからなる構造またはナノヘテロ構造)を有するか、結晶からなる構造を有するかを確認する方法について説明する。本実施形態において、下記式(1)に示す非晶質化率Xが85%以上である軟磁性合金薄帯は非晶質からなる構造を有し、非晶質化率Xが85%未満である軟磁性合金薄帯は結晶からなる構造を有するとする。
【0042】
X=100-(Ic/(Ic+Ia)×100)…(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶性散乱積分強度
【0043】
非晶質化率Xは、軟磁性合金薄帯に対してX線回折法(XRD)により結晶構造解析を実施し、相の同定を行い、結晶化したFe又は化合物のピーク(Ic:結晶性散乱積分強度、Ia:非晶性散乱積分強度)を読み取り、そのピーク強度から結晶化率を割り出し、上記式(1)により算出する。以下、算出方法をさらに具体的に説明する。
【0044】
本実施形態に係る粒子2についてXRDにより結晶構造解析を行い、ローレンツ関数を用いて、プロファイルフィッティングを行い、結晶性散乱積分強度を示す結晶成分パターン、非晶性散乱積分強度を示す非晶成分パターン、およびそれらを合わせたパターンを得る。得られたパターンの結晶性散乱積分強度および非晶性散乱積分強度から、上記式(1)により非晶質化率Xを求める。なお、測定範囲は、非晶質由来のハローが確認できる回析角2θ=30°~60°の範囲とする。この範囲で、XRDによる実測の積分強度とローレンツ関数を用いて算出する積分強度との誤差が1%以内になるようにしてある。
【0045】
また磁性体コアにおいて非晶質性を評価する場合、走査型透過電子顕微鏡(STEM)による微細組織の観察にて確認することが可能である。つまり非晶質の部分とナノ結晶もしくは結晶の部分の面積比を分析することで判断することが可能である。つまりアモルファスの部分の面積比が85%以上の場合、アモルファスと定義し、さらに高分解能像において0.1~10nm程度の初期微結晶が観察される場合、ナノヘテロ構造を有するとしてよい。
【0046】
本実施形態の軟磁性粉末を構成する粒子2は、たとえば組成式(Fe(1-(α+β)) X1αX2β)(1-(a+b+c+d)) Ma Bb Pc Sid (原子数比)からなる主成分を有する軟磁性合金であってもよい。
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Ga,Bi,N,O,C,Sおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,Ti,WおよびVからなる群から選択される1つ以上である。
【0047】
好ましくは、0≦a≦0.150、
0≦b≦0.200、
0≦c≦0.200、
0≦d≦0.200、
0.100≦a+b+c+d≦0.300、
α≧0、
β≧0、
0≦α+β≦0.50であってもよい。
【0048】
Feの含有量(1-(a+b+c+d))については、特に制限はないが、0.700≦(1-(a+b+c+d))≦0.900であってもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、Feの一部をX1および/またはX2で置換してもよい。
【0050】
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上である。X1の含有量に関してはα=0でもよい。すなわち、X1は含有しなくてもよい。また、X1の原子数は組成全体の原子数を100at%として40at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦α{1-(a+b+c+d)}≦0.40を満たすことが好ましい。
【0051】
X2の含有量に関してはβ=0でもよい。すなわち、X2は含有しなくてもよい。また、X2の原子数は組成全体の原子数を100at%として3.0at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦β{1-(a+b+c+d)}≦0.030を満たすことが好ましい。
【0052】
FeをX1および/またはX2に置換する置換量の範囲としては、原子数ベースでFeの半分以下としてもよい。すなわち、0≦α+β≦0.50としてもよい。
【0053】
なお、本実施形態の軟磁性粉末には、上記以外の元素を不可避的不純物として含んでいてもよい。たとえば、0.3質量%以下で、不可避不純物が軟磁性粉末に含まれていてもよく、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
【0054】
以上、熱処理によりFe基ナノ結晶を有する組成について説明したが、軟磁性合金薄帯の微細構造には特に制限はない。
【0055】
(製造方法)
以下、本実施形態の軟磁性粉末の製造方法について説明する。まず、軟磁性合金薄帯を製造する。
【0056】
本実施形態の軟磁性合金薄帯の製造方法には特に制限はない。たとえば単ロール法により軟磁性合金薄帯を製造する方法がある。また、薄帯は連続薄帯であってもよい。
【0057】
単ロール法では、まず、最終的に得られる軟磁性合金薄帯に含まれる各元素の純原料を準備し、最終的に得られる軟磁性合金薄帯と同組成となるように秤量する。そして、各元素の純原料を溶解し、混合して母合金を作製する。なお、純原料の溶解方法は任意であるが、たとえばチャンバ内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法がある。なお、母合金と最終的に得られる軟磁性合金薄帯とは通常、同組成となる。
【0058】
次に、作製した母合金を加熱して溶融させ、溶融金属(溶湯)を得る。溶融金属の温度には特に制限はないが、例えば1100~1600℃とすることができる。
【0059】
本実施形態に係る単ロール法に用いられる単ロール急冷薄帯装置の模式図を
図3に示す。チャンバ35内部において、ノズル31からノズル31の底部にあるスリットを通じて溶融金属32を連続的な液体として矢印の方向に回転しているロール33へ噴射し供給することで溶融金属32が急冷され、ロール33の回転方向へ一様な薄帯34が製造される。なお、本実施形態では、ロール33の材質は、たとえばCuである。チャンバ35内の雰囲気には特に制限はないが、大気雰囲気中とすることが特に量産に適している。
【0060】
以上の方法により得られる軟磁性合金薄帯34は、粒径が30nmより大きい結晶が含まれていなくてもよい。そして、軟磁性合金薄帯34は非晶質のみからなる構造を有していてもよく、粒径が30nm以下である結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有していてもよい。
【0061】
なお、軟磁性合金薄帯34に粒径が30nmよりも大きい結晶が含まれているか否かを確認する方法には特に制限はない。たとえば、粒径が30nmよりも大きい結晶の有無については、通常のX線回折測定により確認することができる。また、透過型電子顕微鏡を用いて直接観察してもよい。
【0062】
また、上記の微結晶の有無および平均粒径の観察方法については、特に制限はないが、たとえば、イオンミリングにより薄片化した試料に対して、透過電子顕微鏡を用いて、制限視野回折像、ナノビーム回折像、明視野像または高分解能像を得ることで確認できる。制限視野回折像またはナノビーム回折像を用いる場合、回折パターンにおいて非晶質の場合にはリング状の回折が形成されるのに対し、非晶質ではない場合には結晶構造に起因した回折斑点が形成される。また、明視野像または高分解能像を用いる場合には、倍率1.00×105 ~3.00×105 倍で目視にて観察することで微結晶の有無および平均粒径を観察できる。
【0063】
ナノ結晶、特にFe基ナノ結晶を析出させるための熱処理条件は、軟磁性合金薄帯34の表面の酸化が進行しなければ特に制限はない。軟磁性合金薄帯34の組成により好ましい熱処理条件は異なる。通常、好ましい熱処理温度は概ね、400~700℃、好ましい熱処理時間は概ね0.5~10時間となる。しかし、組成によっては上記の範囲を外れたところに好ましい熱処理温度および熱処理時間が存在する場合もある。また、熱処理は、軟磁性合金薄帯の表面状態を維持するため、Arガス中のような不活性雰囲気下もしくは真空雰囲気下で行うことが好ましい。
【0064】
不活性雰囲気内もしくは真空雰囲気下で熱処理を行うことにより、表面状態を維持したまま、Fe基ナノ結晶が析出する。Fe基ナノ結晶を析出させることにより軟磁気特性が良好な軟磁性合金薄帯を容易に得ることができる。
【0065】
一般に、軟磁性合金薄帯がアモルファスを含み結晶を含まない場合には、飽和磁束密度が高く、保磁力はナノ結晶材と比較して高い傾向がある。
【0066】
本実施形態では、アモルファスおよびナノ結晶の軟磁性合金薄帯34を、粉砕装置で粉砕する。粉砕装置としては、特に限定されないが、所望の円形度になればよい。たとえば
図4に示す粉砕装置40が用いられる。この粉砕装置40は、一対の粉砕ローラ42を有し、ローラ42の周面には、破砕用凹凸面が形成してある。破砕用凹凸面は、たとえばローラ42の周面をローレット加工することなどで形成することができる。
【0067】
たとえば
図4aに示すように、各ローラ42の周面にローレット加工により形成してある破砕用凹凸面42aの凹凸は、規則的な凹凸であることが好ましく、凹凸の高さhは、好ましくは0.1~0.5mmであり、凹凸の周方向(軸方向も同じ)のピッチpは、好ましくは0.5~2.0mmである。
【0068】
これらのローラ42は、相互に逆方向に回転し、単一層または複層に積層された軟磁性合金薄帯34を両側から挟み込み、薄帯34を破砕して本実施形態の軟磁性粉末となる粒子2を製造することができる。なお、粉砕の前後でナノ結晶の形状は実質的に変化しない。また、単一層の薄帯34の厚みが、
図1Cに示す粒子2の厚みtに対応することになる。
【0069】
ローラ42の間に通されることで粉砕された粒子2は、さらに、別の粉砕装置で粉砕されてもよく、分級装置により分級されてもよい。別の粉砕装置としては、たとえばボールミル、ファカルティ、ジェットミルなどが例示される。
【0070】
たとえば
図4に示すローラ42における破砕用凹凸面の凹凸状態を制御する。あるいは、一対のローラ42の間のギャップを調整する。あるいは、ローラ42間への薄帯34の引き込み速度を制御する。あるいは、
図4とは別の粉砕装置の処理時間を制御する。あるいは、分級条件を制御する。これらの方法を組み合わせることで、
図2Aに示すような本実施形態の分布となる軟磁性粉末を得る。
【0071】
本実施形態では、
図2Bではなく、
図2Aに示すような本実施形態の分布となる軟磁性粉末を得るために、特に、従来とは異なる以下の手法を採用している。
【0072】
従来軟磁性合金薄帯34の粗粉砕においては、フェザーミルのように自由に軟磁性合金薄帯34が動きながら破砕されていくのに対し、本実施形態における粉砕装置40は軟磁性合金薄帯34がローラに対し自由に動くことができず、粗粉砕粉の粒子形状(円形度)を制御することが可能となる。制御された粗粉砕を用いることにより所望の円形度をえることが可能となる。
【0073】
本実施形態に係る軟磁性粉末によれば、軟磁性粉末の組成が同じであっても、C1<C2を満足させることで、比透磁率が向上する。
【0074】
上述した実施形態に係る軟磁性粉末の用途には特に制限はない。実施形態に係る軟磁性粉末は、単独で、あるいは、その他の軟磁性粉末(たとえば扁平ではない粒子)と混合されて用いられ、たとえば
図5に示されるようなトロイダル形状の磁性コアを製造してもよく、あるいは、その他の形状の磁性コア、あるいは磁性部品を製造してもよい。
【0075】
磁性コアには、ワイヤが巻回されてインダクタ(特にパワーインダクタなどのパワーデバイス)、変圧トランスなどの電子部品として用いられてもよい。あるいは、上述した実施形態に係る軟磁性粉末は、単独で、あるいは、その他の軟磁性粉末(たとえば扁平ではない粒子)と混合されて、コイルを内蔵する圧粉磁心などに用いられることもできる。上述した実施形態に係る軟磁性粉末に混合されてもよいその他の軟磁性粉末としては、アトマイズ法により製造された軟磁性粉末の他、噴霧熱分解法で製造された軟磁性粉末、カルボニル法で製造された軟磁性粉末等があげられる。また、軟磁性粉末の組成としては、Fe基結晶系組成としてFe系、Fe-Co系、Fe-Si系、Fe-Ni系、Fe-Ni-Mo系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、Fe-Si-Al-Ni系、Fe-Ni-Si-Co系、Fe基非晶質系の合金組成またはFe基ナノ結晶系の合金組成としては、Fe-Nb-B-P-S系、Fe-Nb-B-Si-Cu系、Fe-Nb-B系、Fe-Si-B系、Fe-Si-Cr-B-C系、Fe-Si-B-C系などの合金組成があげられる。上述した軟磁性粉末を混合することで、さらに磁性体充填率が増加し、透磁率をさらに向上させることが可能となる。
【0076】
上述した実施形態に係る軟磁性粉末に混合されてもよいその他の軟磁性粉末としては、第1粒子群または第2粒子群に属する粒子サイズと円形度を有する軟磁性粉末であってもよく、それらに属さない粒子であってもよい。つまり、組成および円形度(形状)の観点から混合したものであると判断できる場合、第1粒子群または第2粒子群に属さないと判断してもよい。その他の軟磁性粉末の含有割合は、実施形態に係る軟磁性粉末を含めた全体の粉末の質量に対して、30質量%以下程度が好ましい。また、磁性コアの断面において、実施形態に係る軟磁性粉末を含めた全体の粉末の占める断面積に対して、30面積%以下であることが好ましい。
【0077】
インダクタなどの電子部品は、携帯電話、パソコンなどの電子機器に組み込まれて使用される。磁性コア以外の磁性部品としては、薄膜インダクタ、磁気ヘッド、磁気遮蔽シートなどが例示され、電子機器に組み込まれて使用される。
【0078】
第2実施形態
以下、軟磁性粉末を用いて、磁性コアおよびインダクタを得る方法について説明するが、下記の方法に限定されない。
【0079】
軟磁性粉末は、たとえば、バインダ、硬化剤、触媒、溶剤などと混合した後、金型を用いて成形する方法が挙げられる。また、バインダと混合する前に、粉末表面に酸化処理や絶縁被膜などを施してもよい。
【0080】
成形方法に特に制限はなく、金型を用いる成形やモールド成形などが例示される。バインダの種類に特に制限はなく、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂が例示される。溶剤としては、樹脂の種類などに応じて決定され、たとえばアセトンなどが用いられる。軟磁性粉末とバインダとの混合比率にも特に制限はない。たとえば軟磁性粉末100質量%に対し、1~10質量%のバインダを混合させる。さらに、上記の磁心を成す成形体に対し、歪取り処理として成形後に熱処理してもよい。
【0081】
また、磁性コアに巻線を施すことでインダクタンス部品が得られる。巻線の施し方およびインダクタンス部品の製造方法には特に制限はない。たとえば、上記の方法で製造した磁性コアに巻線を少なくとも1ターン以上巻き回す方法が挙げられる。
【0082】
さらに、軟磁性粉末は、巻線コイルが磁性体に内蔵されている状態で加圧成形し一体化することでインダクタンス部品を製造してもよい。この場合には高周波かつ大電流に対応したインダクタンス部品を得やすい。
【0083】
さらに、軟磁性粉末を用いる場合には、軟磁性粉末にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した軟磁性粉末含有ペースト、および、コイル用の導体金属にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した導体ペーストを交互に印刷積層した後に加熱焼成することで、インダクタンス部品を得ることができる。あるいは、軟磁性粉末含有ペーストを用いて軟磁性シートを作製し、軟磁性シートの表面に導体ペーストを印刷し、これらを積層し焼成することで、コイルが磁性体に内蔵されたインダクタンス部品を得ることができる。
【0084】
磁性コア(圧粉コア)中における軟磁性粉末の状態は、たとえば断面をSEM観察し、これを解析することなどにより確認することができる。つまり研磨厚みを一定にした平面研磨と像観察を交互に繰り返し、 得られた連続画像から3D画像をコンピュータ上で構築するシリアルセクショニング(serial sectioning)を用い解析してもよい。また、集束イオンビーム(FIB)によって複数の断面を切り出して3次元構造図を作成して解析することで、軟磁性粉末と同様にして、粒子サイズと円形度に関する分布(たとえば
図2Aに示す分布)を確認することが可能である。
【0085】
また、このようにして得られた磁性コア(圧粉コア)では、使用した軟磁性粉末における160μm以上の粒子の存在割合(面積割合)は、コアの断面観察から求めることができる。また、コアの断面観察から求められた面積割合から、軟磁性粉末における160μm以上の粒子の存在割合(体積割合および質量割合)を換算して求めることもできる。
【0086】
また磁性体コアの場合は、本実施形態の軟磁性粉末について1000個以上で評価してもよく、より詳細に評価するためには20000個以上が好ましい。
【0087】
また、磁性コアの断面における前記第1粒子群および前記第2粒子群に属する粒子の占める断面積のうち、粒子サイズが160μm以上の粒子が占める断面積が30%以上である場合、160μm以上の粒子が占める体積が30%以上含むとしてもよい。また断面における第1粒子群および第2粒子群においては断面の磁性粉末を分析することにより別途評価することが可能である。具体的には、磁性コアの断面を観察する場合の、断面に属する磁性粒子のD70以上の粒子の円形度の平均値をC1’とし、D30以下の粒子の円形度の平均値をC2’とし、C1’<C2’の関係性の確認をもって磁性コアに属する前記第1粒子群および第2粒子群各々の円形度の関係性C1<C2を確認し、C1’<C2’のときC1<C2であるとしてもよい。
【0088】
なお、上述した実施形態では、軟磁性合金薄帯をArなどの不活性雰囲気中で熱処理を行い、軟磁性合金薄帯を結晶化させているが、最終的に得られる軟磁性粉末の組成は、非晶質、ナノ結晶など、様々な組成であってもよく、熱処理による結晶化は必ずしも行う必要はない。また、熱処理は、粉砕後でもよい。
【実施例0089】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0090】
(実験例1)
表1に示す合金組成となるように原料を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。その後、作製した母合金を加熱して溶融させ、たとえば
図3に示す装置を用いて、合金組成に合わせて、1100~1600°Cの溶融状態の金属とした後に、単ロール法により金属をロール33に噴射させ、薄帯を作製した。なお、ロール33の材質はCuとした。薄帯の厚さが20~30μm、薄帯の幅が50mmである薄帯を得た。その後、薄帯に対し、Ar雰囲気(酸素濃度10ppm以下)で、合金組成に合わせて、熱処理温度200~650°Cで10~300分、熱処理を行った。
【0091】
薄帯に関して、X線回折測定を行い、非晶質化率Xを測定した。非晶質化率Xが85%以上である場合には非晶質からなるとした。また非晶質の場合、ナノヘテロ構造(ヘテロアモルファス構造)であるか透過型電子顕微鏡を用いて測定をおこなった。非晶質化率Xが85%未満であり平均結晶粒径が30nmよりも小さい場合、ナノ結晶からなるとした。非晶質化率Xが85%未満であり平均結晶粒径が30nmよりも大きい場合には結晶からなるとした。薄帯は、ヘテロアモルファス構造もしくはナノ結晶で構成してあることが確認できた。
【0092】
試料番号1および2においては、ホソカワミクロン社製フェザーミルを用いて薄帯の粗粉砕を行った後、さらにピンミルで追加の粉砕を行った。その後、試料番号1では乾式アトライターを用いて、試料番号2ではボールミルを用いて、粒子2の微細化や円形度の調整を行った。
【0093】
試料番号3~5においては、得られた薄帯を20層で積み重ね、表に記載のギャップを有する2つのロールミル(
図4に示す粉砕用ローラ42)の間に所定の速度で導入して圧力をかけることにより、粗粉砕を行った。このとき、
図4aに示すローラ42の表面には、凹凸高さhが0.2mm、および0.85mmのピッチpで綾織の破砕用凹凸面42aが形成されているロールミルを使用した。なお、ギャップとは、各ローラ42の周面に形成してある破砕用凹凸面42aの凹凸中央基準面42b間の距離である。
【0094】
その後、表に記載の分級用フィルターで分級し、軟磁性粉末の試料を得た。母合金の組成と軟磁性粉末の組成とが概ね一致していることを、ICP分析により確認した。また、軟磁性粉末がヘテロアモルファス構造もしくはナノ結晶であることは、X線回折測定もしくは透過型電子顕微鏡での観察により確認した。
【0095】
なお、表における分級において、メッシュパスの数値とメッシュオンの数値の意味は、各目開きのメッシュを用いて、メッシュを通過した粉末をメッシュバスした粉末、メッシュを通過しなかったものがメッシュオンの粉末である。たとえばメッシュパス300μmメッシュオン72μmの場合、300μmは通過したが72μmは通過しなかった粉末であることを意味する。このようにして得られた粉末のD50は、72μm以上300μm以下となる。
【0096】
得られた軟磁性粉末の試料について、以下の評価を行った。
【0097】
得られた各軟磁性粉末の粒子形状を評価した。粒子形状は、個数基準での平均粒子サイズおよび平均円形度を測定することで評価した。個数基準での平均粒子サイズ、および、平均円形度は、モフォロギG3(マルバーン・パナリティカル社)を用いて、前述した方法により、倍率10倍で20000個の粉末粒子の形状を観察することで各粉末粒子の粒子サイズおよび円形度を測定した。具体的には、体積3cc分の軟磁性合金粉末を1~3barの空気圧で分散させてレーザー顕微鏡による投影像を撮影した。
【0098】
そして、粒子サイズがD50以上の各粒子における第1平均円形度C1と、粒子サイズがD50未満の各粒子における第2平均円形度C2を求めた。結果を表1に示す。
【0099】
次に、各軟磁性粉末から、たとえば
図5に示すトロイダルコアを作製した。具体的には、各軟磁性粉末に対して、バインダとなるエポキシ樹脂を、全体の3質量%になるように混合し、攪拌機として一般的なプラネタリーミキサーを用いて造粒した。次に、得られた造粒粉を面圧8000kgf/cm
2 で成形し、外径11mm、内径6.5mm、高さ3.0mmのトロイダル形状の成形体を作製した。得られた成形体を110~180℃で2時間硬化させ、トロイダルコアを作製した。
【0100】
そして、トロイダルコアにUEW線を巻き線し、KEYSIGHT社製インピーダンスアナライザE4990Aにて1MHzでのμ(透磁率)を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
また、得られたトロイダルコアについて、順次断面を観察し、三次元構造図を作成して解析することにより、トロイダルコア中の軟磁性粉末についても、原料の軟磁性粉末の状態での同等の粒子サイズに対する円形度分布を有することが確認できた。
【0102】
【0103】
評価
表1に示すように、C1<C2(しかもC1/C2が0.96以下)を満たす実施例の軟磁性粉末は、比較例の軟磁性粉末(C1>C2でC1/C2が1.00以上)に対して、組成が同じでありながら、高い透磁率(1.1倍以上)を示すことが確認できた。
【0104】
(実験例2)
表2に示すように、粒子サイズに対する円形度の分布から求められる近似直線の傾きAを調整するために、粉砕時の条件を調整したことと、粒子の微細化や円形度の調整するために、粗粉砕の後、外径が0.4~0.6mmのジルコニアビーズを用いて、表2に記載の時間ボールミルで粉砕処理したこと以外は実験例1の試料番号3と同様に、軟磁性粉末を作製した。なお、ボールミル処理をしていない試料に関しては、表中に「-」と記入した。その後は実験例1と同様にC1、C2を求めたのに加えて、近似直線の式における傾きAを測定した。また、実験例1と同様にトロイダルコアを作製し、比透磁率を測定した。結果を表2に示す。
【0105】
【0106】
評価
表2に示すように、C1<C2(しかもC1/C2が0.99以下)を満たす実施例の軟磁性粉末は、比較例の軟磁性粉末(C1>C2でC1/C2が1.07)に対して、組成が同じでありながら、高い透磁率(1.1倍以上)を示すことが確認できた。
【0107】
また、表2に示すように、試料番号6~12の実施例を比較することで、粒子サイズに対する円形度の分布から求められる近似直線の傾きAが、好ましくは-0.0015/μm以上で、さらに好ましくは-0.0006/μm以上で、または、好ましくは-0.0001/μm以下、さらに好ましくは-0.0004/μm以下で、さらに高い透磁率を示す傾向があることが確認できた。
【0108】
(実験例3)
表3に示すように、粉砕時の条件を調整した以外は実験例2と同様に、軟磁性粉末を作製した。その後は実験例1と同様にC1、C2を求めたのに加えて、近似直線の式における傾きAと分布の分散σ2(平均二乗誤差)を測定した。また、実験例2と同様にトロイダルコアを作製し、比透磁率を測定した。結果を表3に示す。
【0109】
【0110】
評価
表3に示すように、C1<C2を満たす実施例の軟磁性粉末は、比較例の軟磁性粉末(C1>C2でC1/C2が1.05以上)に対して、組成が同じでありながら、高い透磁率(1.1倍以上)を示すことが確認できた。
【0111】
また、表3に示すように、試料番号14、15、9,16,17および3の実施例を比較することで、粒子サイズに対する円形度の分布から求められる近似直線の傾きAが同程度であれば、円形度の分布の分散σ2 が所定の範囲を満たす場合に、さらに高い透磁率を示す傾向があることが確認できた。また、試料番号18、19、10,20,21および4の実施例を比較することでも、同様のことが確認できた。これらの結果から、円形度の分布の分散が、好ましくは0.002以上0.040以下、さらに好ましくは0.005以上0.015以下であることが確認できた。充填性が向上し、透磁率が向上するのではないかと考えられる。
【0112】
(実験例4)
表4に示すように、粉砕時の条件を調整した以外は実験例3と同様に、軟磁性粉末を作製した。その後は実験例3と同様にC1、C2、粒子サイズに対する円形度の分布から求められる近似直線の傾きAと円形度分布の分散σ2 (平均二乗誤差)を求めたのに加えて、D45以上D55未満の粒子群の第3平均円形度C3を求めた。また、実験例3と同様にトロイダルコアを作製し、比透磁率を測定した。結果を表4に示す。
【0113】
【0114】
評価
表4に示すように、C1<C2を満たす実施例の軟磁性粉末は、比較例の軟磁性粉末(C1>C2でC1/C2が1.00以上)に対して、組成が同じでありながら、高い透磁率(1.1倍以上)を示すことが確認できた。
【0115】
また、表4に示すように、分布の傾きと分散σ2 (平均二乗誤差)が同程度である場合には、D45以上D55未満の粒子群の第3平均円形度C3が所定の範囲を満たす場合、さらに高い比透磁率を示す傾向があることが確認できた。
【0116】
(実験例5)
表5に示すように、ロールミルのギャップと搬送速度を調整した以外は実験例3と同様に、軟磁性粉末を作製し、さらに分級条件を変更することにより粒子サイズ160μm以上の粒子の存在割合を制御した。近似直線の式における傾きAと分散σ2(平均二乗誤差)を求めたのに加えて、C3と粒子サイズが160μm以上の粒子の存在割合(体積比)を測定した。そして、実験例3と同様にトロイダルコアを作製し、比透磁率を測定した。結果を表5に示す。また、トロイダルコアの断面観察から、粒子サイズが160μm以上の粒子の存在割合(面積比)を算出し、その面積比から体積比での存在割合を算出して求めたところ、原料の軟磁性粉末の状態における粒子サイズが160μm以上の粒子の存在割合(体積比)を求めた。なお、体積比の存在割合から、質量比の存在割合を求めることもできる。
【0117】
【0118】
評価
表5に示すように、C1<C2(C1/C2が0.95以下)を満たす実施例の軟磁性粉末は、比較例(C1/C2が1.03以上)の軟磁性粉末に対して、組成が同じでありながら、高い透磁率(1.1倍以上)を示すことが確認できた。
【0119】
また、表5に示すように、分布の傾きと、分散σ2 (平均二乗誤差)と、D45以上D55未満の粒子群の第3平均円形度C3が同程度である場合には、粒子サイズが160μm以上の粒子が含まれると比透磁率が高くなることが確認できた。粒子サイズが160μm以上の粒子が増大するに従って、高い比透磁率を示す傾向があることが確認できた。すなわち、粒子サイズが160μm以上の粒子は、好ましくは19質量%(体積%)以上、より好ましくは30質量%、さらに好ましくは60質量%(体積%)以上で含ませることで、比透磁率が向上する。なお、粒子サイズが160μm以上の粒子の上限は、充填性などの観点から決定され、好ましくは90質量%(体積%)以下である。
【0120】
(実験例6)
表6に示すように、単ロール法による薄帯作製時の厚みをロールの回転速度によって調整した以外は実験例3と同様に、軟磁性粉末を作製した。その後は実験例3と同様にC1、C2を求めたのに加えて、軟磁性粒子の平均粒子サイズDと軟磁性粒子の平均厚みtを測定した。また、実験例1と同様にトロイダルコアを作製し、比透磁率を測定した。結果を表6に示す。また、軟磁性粒子の平均粒子サイズDとD50とは対応関係にあることが確認できた。
【0121】
【0122】
評価
表6に示すように、C1<C2(しかもC1/C2が0.95以下)を満たす実施例の軟磁性粉末は、比較例の軟磁性粉末(C1>C2でC1/C2が1.03以上)に対して、組成が同じでありながら、高い透磁率(1.1倍以上)を示すことが確認できた。
【0123】
また、表6に示すように、分布の傾きと、軟磁性粒子の平均粒子サイズが同程度である場合には、アスペクト比の平均が小さくなるに伴って、高い比透磁率を示す傾向があることが確認できた。アスペクト比の平均は、好ましくは1以下、さらに0.5以下、0.15以下が順次好ましい。なお、アスペクト比の下限は、0.05程度である。
【0124】
(実験例7)
表7に示すように、合金の組成を変更した以外は実験例3と同様に、軟磁性粉末を作製した。その後は実験例3と同様に、C1、C2、近似直線の式における傾きAと分散σ2(平均二乗誤差)を求めた。また、実験例1と同様にトロイダルコアを作製し、比透磁率を測定した。結果を表7に示す。
【0125】
【0126】
評価
表7に示すように、異なる組成の軟磁性粉末の実施例および比較例においても、表1~表6に示すような結果が得られることが確認できた。
【0127】
(実験例8)
試料番号116,118,120,122,124,126においては実験例3の試料番号25の軟磁性粉末に、試料番号117,119,121,123,125,127においては実験例3の試料番号17の軟磁性粉末に、トロイダルコアの断面において、混合した軟磁性粉の占める面積割合が表8に記載の割合となるように、D50=1μmのFe粉、Fe-Ni粉、Fe-Co粉、Fe-Si粉を加え、これを混合した。混合後の粉体を用いて実験例3と同様にトロイダルコアを作製し、比透磁率を測定した。結果を表8に示す。
【0128】
【0129】
評価
表8に示すように、磁性粉末を添加混合した実施例および比較例の磁性コアにおいても、表1~6に示すような結果が得られることが確認できた。