(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034270
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】金属銅又はその合金を酸素還元空気極とする空気電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20240306BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01M12/06 D
H01M12/06 G
H01M12/06 F
H01M12/06 J
H01M4/86 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138402
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】500055935
【氏名又は名称】佐想 光廣
(71)【出願人】
【識別番号】517217232
【氏名又は名称】クロステクノロジーラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】佐想 光廣
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018EE02
5H018EE10
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS11
5H032CC01
5H032CC16
5H032EE01
5H032EE02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】銅及びその合金を酸素還元空気極とするマグネシウム空気電池の提供。
【解決手段】少なくとも導電性を付与する水溶性電解質を含み、酸素の供給を受けるアルカリ性電解液と、該電解液中に浸漬する金属銅又は銅合金をカソード電極とする酸素還元空気極と、金属銅より電極電位が卑なるマグネシウム金属又はその合金をアノード電極とする負極極とを備え、負極での酸化反応:2Mg→2Mg
2++4e
-と、正極での酸素の還元反応O
2+2H
2O+4e
-→4OH
-を利用して発電する、マグネシウム等の空気電池であって、電解液を構成する酸素供給源として過炭酸ナトリウム、電解質として塩化ナトリウムを槽内に保存し、使用時に水等を供給して電解液を調製し、非常用電源として利用できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも導電性を付与する水溶性電解質を含み、酸素の供給を受けるアルカリ性電解液と、該電解液中に浸漬する金属銅又は銅合金をカソード電極とする酸素還元空気極と、金属銅より電極電位が卑なるマグネシウム金属又はその合金をアノード電極とする負極極とを備え、
負極での酸化反応:2Mg→2Mg2++4e-と、
正極での酸素の還元反応O2+2H2O+4e- →4OH-を利用して発電する、ことを特徴とするマグネシウム空気電池。
【請求項2】
アノード電極がMAZ61又はMAZ31を含むマグネシウム/アルミニウム/亜鉛合金電極である請求項1記載のマグネシウム空気電池。
【請求項3】
前記酸素の供給を受けるアルカリ性電解液が過炭酸ナトリウム及び/又は過酸化水素を含む請求項1記載のマグネシウム空気電池。
【請求項4】
少なくともマグネシウム又はその合金からなるアノード電極板と、銅又はその合金からなるカソード電極板と、過炭酸ナトリウム粉末と電解質とを、収納容器に収納してなり、使用時に水又は海水を投入して作動させることを特徴とする非常用電源。
【請求項5】
マグネシウム又はその合金からなるアノード電極板に代えて、亜鉛又はアルミニウムあるいはその合金を用いる請求項1記載の空気電池。
【請求項6】
マグネシウム又はその合金からなるアノード電極板に代えて、亜鉛又はアルミニウムあるいはその合金を用いる請求項4記載の非常用電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属銅又はその合金を空気極とする新規な非常用電源として利用できる空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に空気電池の代表としてマグネシウム空気電池は、金属マグネシウムを負極(アノード)に使用する一方、炭素電極を正極(カソード)に使用し、マグネシウムの酸化反応2Mg→2Mg2++4e-と、空気中の酸素の還元反応O2+2H2O+4e- →4OH-を利用して発電する電池をいい、電解液に食塩水が使用され、自己放電を防ぐため、電解液をアルカリ性とする。そのため、負極表面が不動態化しやすいので、発生する水酸化マグネシウムを溶解する補助剤を添加したり、陰極に難燃性マグネシウム合金を用いて長時間発電を行えるように工夫している。
【0003】
しかしながら、かかる空気電池において大電流を取り出すためには、空気電池の電気化学的反応に影響を与える,反応速度を制限している要因を取り除く必要がある。その要因の
一つはアノードでのマグネシウムのイオン化速度ではなく、カソードでの酸素の吸収速度にあるとされており、高効率で酸素の吸収が行える空気極カソードの開発が急務である。
【0004】
従来、空気電池の空気極としては高効率で酸素の吸収が可能な多孔質カーボンを用い、その改良を行うのが一般的であった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、金属銅を水中に浸漬すると、銅表面で水の分解が起こり、それが過酸化水素の添加により著しくなる現象を発見した。本発明者は、これに着目し、銅及びその合金を空気極として使用するとともに、過酸化水素により酸素の供給を行う空気電池を完成するに至った。すなわち、本発明はマグネシウムをアノードとし、銅をカソードとする単なる化学電池でなく、アルカリ電解液中で銅をカソード極とし、過酸化水素中の酸素を活物質とする空気電池の構成を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
図1に概略するように、少なくとも導電性を付与する水溶性電解質を含み、酸素又は酸素供給化合物の供給を受けるアルカリ性電解液と、該電解液中に浸漬する金属銅又は銅合金を空気極とする一方、金属銅より電極電位が卑なるマグネシウム金属或いはその合金を負極極とし、
負極での酸化反応:2Mg→2Mg
2++4e
-と、
正極での酸素の還元反応O
2+2H
2O+4e
-→4OH
-を利用して発電する、ことを特
徴とするマグネシウム空気電池にある。
【0008】
本発明においては、カソード電極である金属銅表面での過酸化水素から供給される酸素の還元反応を利用するため、アノード電極を板状となし、その両面に金属銅又は合金板を間隔をおいて対抗配置してなる電極構成を少なくとも1組備えるのがよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カソード電極である金属銅表面で以下の反応により酸素は還元され、水酸化イオンが生ずるが、O2+2H2O+4e-→4OH-
それに止まらず、カソード電極である金属銅表面で水素及び酸素に分解するらしく、その反応に特有な発熱する現象が見られる。他方、電解質と過酸化水素を含む水溶性電解液はほぼ中性域にあるので、アノード極を構成するマグネシウムはほぼ1昼夜で全体の~5%以下が溶解するのみで、希硫酸を電解液として用いる化学電池のボルタ電池の場合に比して極めて小さい。そして、ボルタ電池ではおよそ1時間で銅表面は不動態化して発電が停止するのに対し、本発明においては酸素が電解液中に存在する限り、1昼夜発電は継続するので、単にアノード極が溶解する化学電池でなく、銅電極表面で、酸素が還元されるマグネシウム空気電池を形成していると、認められる。また、電解液を食塩等を含む電解質と酸素供給源として過炭酸ナトリウムとを組み合わせて構成すると、使用時に水又は海水を添加して電解液を調整できるので、保存用の非常用電源となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明ではアノード電極とカソード電極が接触しても短絡しない電気二重層が形成される説明図である。
【
図3A】スペーサを介した銅カソード電極を示す斜視図である。
【
図3B】(A)で示す銅カソード電極とマグネシウム電極とをスペーサを介して重ね合わせた電極構成を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、
図1に示すように、Mgアノード電極とCuカソード電極を過酸化水素を含むアルカリ性電解液に浸漬して対向配置してなる。アノード電極/過酸化水素を含むアルカリ性電解液/カソード電極の構成における起電力であって、その金属空気電池の反応は次の通りである。
アノード側の酸化反応を2Mg→2Mg
2+ + 4e
-と、
他方、カソード側の還元反応をO
2+H
2O+4e
-→4OH
- となる。
本発明では、金属空気電池のカソード側の還元反応を促進するために、電解液に過酸化水素を添加し、アノード側負極に比べてカソード側正極のイオン化進行速度が劣る原因を改善した。すなわち、金属銅はCu+2H
2O
2→Cu
2++2OH+2OH
-
及び Cu+2OH→Cu
2++2OH
-と一部過酸化水素に溶けるが、Haber u. Willstatter連鎖によって過酸化水素の分解を促進するからであると思われる(非特許文献3)。
【0012】
本発明においては、前記水溶性電解液に過酸化水素の一部又は全部を過炭酸ナトリウムにより供給するのが好ましい。具体的には、0.5から2.0モルのアルカリ金属又はアルカリ土類金属ハロゲン化塩、特に塩化ナトリウムを含む中性又はアルカリ性水溶液に対し数%から十数%の過酸化水素水(体積%)又は過炭酸ナトリウム(重量%)を添加するのが好ましい。
【0013】
アノード電極がマグネシウム又はその合金からなり、
(-)Mg/NaCl+H2O2/Cu(+)の電池構成をとることにより、銅カソード電極との間に過酸化水素又はそれが分解したヒドロキシラジカルを分解するに必要な分解電圧を与える。マグネシウム電極として金属マグネシウムだけでなく、MAZ61及びMAZ31のマグネシウム/アルミニウム/亜鉛からなる合金を使用し、アノード電極の消費を抑制することができる。
【0014】
前記アノード電極とカソード電極とを交互にスペーサを介して一定の間隔をもって対向配置し、アノード電極とカソード電極との接触部に過酸化水素を含む水溶性電解液により電気二重層キャパシタを形成する(
図2)が、前記スペーサがT字形をなし、カソード電極
と同じ金属銅又は銅合金からなり(
図3A)、対極マグネシウム電極表面にスペーサを介
して一定間隔を隔てる銅電極で挟持すると形成される(
図3B)。
【産業上の利用可能性】
【0015】
(性能比較)
銅電極を使用して
図2に示す概念の双極子電気二重層キャパシタがある電池を実施した。容量3000mlの上方開放型直方体プラスチック容器を用いる。
図3Aに示す、1mm厚み、縦横100×100mmの銅カソード電極板10に銅電極板をT字形に切り出し、端部を折り曲げて形成したスペーサSを取り付ける。このカソード電極板でスペーサSを介して2mm厚みの縦横100×100mmのMgアノード電極板20の両側を挟みつける。3枚の銅カソード電極板10で、2枚のMgアノード電極板20はスペーサSを介して交互に挟みつけると、
図3Bに示す上部端面図の状態となる。この組み合わせ電極を使うと
図2に示す双極子電気二重層キャパシタを構成する。
【0016】
プラスチック容器にはおよそ1500mlの純水に塩化ナトリウム0.5モル/l以上、
好ましくは1.5モル/l以上2モル/l以下の電解液を調整し、これに過炭酸ナトリウム50~100gと30%過酸化水素水50mlを加える。電池反応は一定時間過ぎると、過酸化水素が消費され、電球が減少するので、2~3時間ごとに10mlの30%過酸化水素水を添加する。アノード電極としては、マグネシウム電極に代え、MAZ61又はMAZ31を含むマグネシウム/アルミニウム/亜鉛合金電極を使用することができる。また、上記実施例では 前記酸素の供給を受けるアルカリ性電解液に過酸化水素水を供給したが、過酸化水素水に代え、過炭酸ナトリウムを使用してもよく、過酸化水素と併用してもよい。
【0017】
本件実施例においては、以下の反応式に基づき、
過酸化水素が、アノードでH2O2+2H2O+2e-→2H2O+2OH-に分解する一方、カソードでH2O2+2OH-→O2+2H2O+2e-の分解を起こす。これだけで
なく、アルカリ性電解液での金属酸化反応がアノードでMg→Mg2++2e-となり、
カソード側での酸素を還元してイオン化する反応がO2+2H2O+4e-→4OH-と典型的な金属空気電池反応が起こる。事実、過酸化水素の供給による電池反応に伴って1.5V、電流3.0Aの起電力が得られ、電解液中のpHは向上し、OH-が増加する現象が見られた。
【0018】
以上の実験結果を考察すると、多孔質炭素電極に代え、銅又はその合金が過酸化水素を含むアルカリ性電解液中で電池として機能し、1コンパートメント構造のマグネシウム空気電池として新規で有用な構成を提供することができるので、画期的である。例えば、少なくともマグネシウム又はその合金からなるアノード電極板と、銅又はその合金からなるカソード電極板とを
図3Bのように組み合わせ、
図1に示す電解液槽に、酸素供給源として過炭酸ナトリウムと、電解質として塩化ナトリウムを収納して保存しておき、使用時に水又は海水を投入することにより、電池として機能させることができるので、非常用電源として利用することができる。なお、上記実施例ではマグネシウム又はその合金をアノード電極としたが、これに代えて、アルミニウム又はその合金、あるいは亜鉛又はその合金を使用することができる。