(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034279
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】表面処理剤並びにその製造方法及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20240306BHJP
C08F 12/22 20060101ALI20240306BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C23C28/00 Z
C08F12/22
C08F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138415
(22)【出願日】2022-08-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000105648
【氏名又は名称】コニシ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】乾 匡志
(72)【発明者】
【氏名】森 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】久保 智弘
(72)【発明者】
【氏名】谷崎 志帆
【テーマコード(参考)】
4J100
4K044
【Fターム(参考)】
4J100AB07P
4J100BA03H
4J100BA22P
4J100CA31
4J100DA01
4J100HA55
4J100HA61
4J100HE32
4J100JA03
4J100JA15
4K044AA01
4K044BA21
4K044BB02
4K044BC04
4K044CA02
4K044CA53
4K044CA62
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属板等の基板にカテコール官能基を持つポリマーを付与しうる、貯蔵安定性の良好な表面処理剤を提供する。
【解決手段】4-ビニルカテコールのOH基にtert-ブチルカルボニル基を付加したモノマーを重合し、得られたホモポリマーを、アセトンに溶解してなる表面処理剤である。この表面処理剤を基材に塗布する前又は塗布した後に加熱すると、ポリマー中のtert-ブチルカルボニル基が分解し脱離し、カテコール官能基が生成して、基板と良好に接着する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1で表される構成単位を含むポリマーを含有してなる表面処理剤。
【化1】
【請求項2】
ポリマーが化2で表されるホモポリマーである請求項1記載の表面処理剤。
【化2】
(化2中、nの平均は50乃至6,000の範囲内である。)
【請求項3】
ポリマーの数平均分子量が20,000乃至200,000である請求項1又は2記載の表面処理剤。
【請求項4】
化3で表されるモノマーを生成する工程、
【化3】
化3で表されるモノマーを重合して、化2で表されるホモポリマーを得る工程及び
【化2】
(化2中、nの平均は50乃至6,000の範囲内である。)
得られたホモポリマーを溶媒に溶解させる工程を具備する表面処理剤の製造方法。
【請求項5】
溶媒がアセトンである請求項4記載の表面処理剤の製造方法。
【請求項6】
請求項2記載の表面処理剤を、基材に塗布した後又は基材に塗布する前に、加熱することにより、化2で表されるホモポリマーのtert-ブチルカルボニル基を分解し、ポリビニルカテコールを生成させて、該基材に該ポリビニルカテコールを付着させることを特徴とする表面処理剤の使用方法。
【化2】
(化2中、nの平均は50乃至6,000の範囲内である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板等の基板の接着性を向上させるために用いる表面処理剤並びにその製造方法及びその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属板等の基板に塗料を塗布したり、接着剤を塗布する前に、塗料や接着剤と基板の接着性を向上させるため、基板表面に表面処理剤(プライマー)を塗布することが行われている。近年、この表面処理剤として、カテコール官能基を組み込んだ合成ポリマーが望ましいと言われている。そして、カテコール官能基を組み込んだ合成ポリマーは貯蔵安定性がないことや製造しにくいという解決困難な課題があると言われている(特許文献1、段落0005)。
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、金属板等の基板にカテコール官能基を持つポリマーを付与しうる、貯蔵安定性の良好な表面処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、化1で表される構成単位を含むポリマーを含有してなる表面処理剤並びにその製造方法及びその使用方法に関するものである。
【化1】
【0006】
本発明に係る表面処理剤は、化1で表される構成単位を含むポリマーである。したがって、化1で表される構成単位のみからなるホモポリマーや、化1で表される構成単位を含むコポリマーからなるものである。かかるポリマーの数平均分子量(Mn)や質量平均分子量(Mw)は任意であるが、特にMnが20,000乃至2,000,000の範囲内であるのが好ましい。ここで、MnやMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)で測定されるものである。具体的には、東ソー株式会社製のカラムMultipore HXL-M (7.8mm×30cm)を2本使用し、溶離液としてTHFを用いる。そして、標準ポリスチレンに対する相対値として、Mn及びMwを測定するものである。
【0007】
本発明において、特に化1で表される構成単位のみからなるホモポリマーであるのが好ましい。かかるホモポリマーは、化2で表される。
【化2】
化2中のnは任意であるが、特にnの平均が50乃至6,000の範囲内であるのが好ましい。
【0008】
化1で表される構成単位を含むポリマーは、以下の方法で製造される。まず、化3で表されるモノマーを生成する。
【化3】
化3で表されるモノマーを生成する方法としては、4-ビニルカテコールのOH基にtert-ブチルカルボニル基を付加すればよい。具体的には、コーヒー酸をトリエチルアミン及びジ-tert-ブチルジカーボネートで反応させれば、化3で表されるモノマーを生成することができる。
【0009】
化3で表されるモノマーを重合してポリマーを得る。化3で表されるモノマーのみを重合してホモポリマーを得てもよいし、他のモノマーを共重合してコポリマーを得てもよい。重合はフリーラジカル重合法やRAFT(可逆的付加開裂連鎖移動)重合法等で行うことができる。得られたポリマーをアセトン等の溶媒に溶解させれば、表面処理剤が得られる。
【0010】
かかる表面処理剤は、金属板等の基材に塗布して使用される。基材に塗布する前又は塗布した後に加熱する。加熱温度は200℃程度である。この加熱により、ポリマー中の化1で表される構成単位のtert-ブチルカルボニル基が分解し脱離し、カテコール官能基が生成して、基板と良好に接着する。tert-ブチルカルボニル基が脱離してカテコール官能基が生成する過程で、2モルの炭酸ガスと2モルのイソブテンが生成するが、これらはいずれも常温で気体であり、塗布した表面処理剤中に残存しない。したがって、カテコール官能基を含有するポリマーの他に、異種物質等の残渣が存在しないので、基板との接着性は良好である。特に、ポリマーとしてホモポリマーを用いれば、カテコール官能基のみを含有するポリビニルカテコールとなり、基板との接着性はより良好となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る表面処理剤は、化1で表される構成単位を含むポリマーを含有してなるものであり、カテコール官能基がtert-ブチルカルボニル基によって保護されてなるものである。したがって、貯蔵安定性が良好であるという効果を奏する。また、本発明に係る表面処理剤は加熱することだけにより、tert-ブチルカルボニル基が分解脱離してカテコール官能基を生成するものであるから、分解脱離させるための触媒等の他の化合物が不要であるという格別顕著な効果も奏する。さらに、tert-ブチルカルボニル基の分解脱離により生成するのは常温で気体である炭酸ガスとイソブテンであるので、塗布した表面処理剤中に残渣が存在せず、基板と表面処理剤の接着性がより向上するという格別顕著な効果も奏する。
【実施例0012】
[使用する試薬の準備]
・コーヒー酸:東京化成工業株式会社製のコーヒー酸(純度98.0%以上)を準備した。
・トリエチルアミン:ナカラテスク株式会社製のトリエチルアミン(純度99.0%以上)を準備した。
・ジ-tert-ブチルジカーボネート:東京化成工業株式会社製のジ-tert-ブチルジカーボネート(純度95.0%以上)を準備した。
・クルミジチオベンゾエート:東京化成工業株式会社製のクルミジチオベンゾエート(純度98.0%以上)を準備した。
・酢酸エチル:富士フィルム和光純薬株式会社製の酢酸エチル(超脱水)を準備した。
・アセトン:富士フィルム和光純薬株式会社製のアセトン(超脱水)を準備した。
・2,2’-アゾビス(イソブチルニトリル):富士フィルム和光純薬株式会社製の2,2’-アゾビス(イソブチルニトリル)をメタノールで再結晶させたものを準備した。
・N,N-ジメチルホルムアミド:関東化学株式会社製のN,N-ジメチルホルムアミド(純度99.5%以上、水0.001%未満)を溶媒精製装置により精製したものを準備した。
・トルエン:関東化学株式会社製のトルエン(純度99.5%以上、水0.001%未満)を溶媒精製装置により精製したものを準備した。
【0013】
(使用するモノマーの合成)
滴下ろうとを付けた500ml三口ナスフラスコをベーキングした後、コーヒー酸25.0g(0.139mol)を秤量し、脱気、N2置換した後にN,N-ジメチルホルムアミド(106ml)を加えて溶解させた。室温でトリエチルアミン58.1ml(0.41mol)を加えた溶液を100℃に加熱した。1時間攪拌した後、氷浴を用い0℃に冷却した状態で、N,N-ジメチルホルムアミド15.0mlに溶解させたジ-tert-ブチルジカーボネート60.7g(0.278mol)を滴下した。25℃で24時間反応させた後、この反応溶液を酢酸エチルにより希釈し、飽和食塩水と水により洗浄し、有機層を濃縮した。さらに、シリカゲルカラムを用いて精製し、エバポレートすることで目的のモノマー42.0g(純度90.0%)を得た。
【0014】
実施例1
三方コックを付けた50mlナスフラスコをベーキングした後、シリンジを用いて酢酸エチル1.68mlを入れた。次に、モノマー14.4mmolを溶解した2.57M酢酸エチル溶液5.60ml、RAFT剤としてのクルミジチオベンゾエート0.096mmolを溶解した200mMトルエン溶液0.48ml及び2,2’-アゾビス(イソブチルニトリル)0.024mmolを溶解した100mM酢酸エチル溶液0.24mlを、シリンジを用いて添加し、60℃のオイルバス中で42時間反応させた。その後、ドライアイス/メタノールで冷却して反応を停止し、クロロホルムで希釈した後ヘキサンに再沈殿を行い、濾過、乾燥によりポリマーを得た。 1HNMRにより.このポリマーが化1で表される構成単位のみからなるホモポリマーであることを確認した。ここで、 1HNMRは、日本電子株式会社製の核磁気共鳴装置ECZ-400Sを用い、溶媒としてCDCl3を使用して測定した。また、数平均分子量(Mn)を測定したところ、34,200であり、Mw/Mn=1.10であった。
このポリマーをアセトンに溶解させて濃度1質量%のアセトン溶液とし、これを表面処理剤とした。
【0015】
実施例2
三方コックを付けた100mlナスフラスコをベーキングした後、2,2’-アゾビス(イソブチルニトリル)9.7mg(0.059mmol)を入れ、脱気、N2置換を行った。次に、シリンジを用いて酢酸エチル2.61mlを加えた後、モノマー7.95g(23.6mmol)を加え、60℃のオイルバス中で10時間反応させた。その後、ドライアイス/メタノールで冷却して反応を停止し、クロロホルムで希釈した後ヘキサンに再沈殿を行い、濾過、乾燥によりポリマーを得た。 1HNMRにより.このポリマーが化1で表される構成単位のみからなるホモポリマーであることを確認した。また、数平均分子量(Mn)を測定したところ、1,011,400であり、Mw/Mn=3.09であった。
このポリマーをアセトンに溶解させて濃度1質量%のアセトン溶液とし、これを表面処理剤とした。
【0016】
実施例3
2,2’-アゾビス(イソブチルニトリル)の仕込み量を34.9mg(0.213mmol)、かつ、化3で表されるモノマーの仕込み量を5.73mg(17.0mmol)に変更した他は、実施例2と同一の方法によりポリマーを得た。 1HNMRにより.このポリマーが化1で表される構成単位のみからなるホモポリマーであることを確認した。また、数平均分子量(Mn)を測定したところ、95,000であり、Mw/Mn=20.3であった。
このポリマーをアセトンに溶解させて濃度1質量%のアセトン溶液とし、これを表面処理剤とした。
【0017】
使用例1
実施例1に係る表面処理剤を、A1050Pアルミニウム板(幅25mm、長さ100mm、厚さ2mm)の表面に、10g/m2の塗布量となるように、刷毛塗りした。その後、200℃で20分間加熱して、ホモポリマーからtert-ブチルカルボニル基を分解脱離した。この結果、アルミニウム板の表面にポリビニルカテコールよりなるプライマー層が形成された。
【0018】
プライマー層が形成されたアルミニウム板二枚を、温度23℃で湿度50%の環境下で調湿した。そして、一方のアルミニウム板のプライマー層上に、ウレタン樹脂系接着剤(コニシ株式会社製、ボンドKU521/ボンドKU硬化剤No.5、両者の混合質量比3/1)を塗布し、このウレタン樹脂系接着剤の塗布面に他方のアルミニウム板のプライマー層を押圧して接着し、80℃で30分間養生した後、23℃で1日静置して試験片を得た。なお、ウレタン樹脂系接着剤の厚みは250μmとなるように接着し、接着面積は幅25mmで長さ12.5mmとなるようにして、試験片を得た。
【0019】
使用例2
実施例1に係る表面処理剤に代えて、実施例2に係る表面処理剤を用いる他は、使用例1と同一の方法で試験片を得た。
【0020】
使用例3
実施例1に係る表面処理剤に代えて、実施例3に係る表面処理剤を用いる他は、使用例1と同一の方法で試験片を得た。
【0021】
比較使用例1
プライマー層を形成しない他は、使用例1と同一の方法で試験片を得た。
【0022】
使用例1~3及び比較使用例1に係る試験片を、各々3枚準備して、各々の引張せん断接着強さを測定し、その平均値を引張せん断接着強さ(N/mm2)とした。なお、引張せん断接着強さの測定方法は以下のとおりである。すなわち、温度23℃で湿度50%の環境下で、試験片の一方のアルミニウム板の左端と試験片の他方のアルミニウム板の右端とを把持し、引張速度5mm/minで、接着面に対しせん断方向に引っ張って、試験片の破壊時の荷重に基づき、引張せん断接着強さを算出した。その結果を表1に示した。
【0023】
[表1]
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引張せん断接着強さ(N/mm2)
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使用例1 15.3
使用例2 15.0
使用例3 10.5
比較使用例1 7.42
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【0024】
使用例1~3で得られた試験片は、比較使用例1で得られた試験片に比べて引張せん断接着強さ(N/mm2)が高くなっており、ポリビニルカテコールよりなるプライマー層の存在が引張せん断接着強さ(N/mm2)の向上に寄与していることが分かる。
かかる表面処理剤は、金属板等の基材に塗布して使用される。基材に塗布する前又は塗布した後に加熱する。加熱温度は200℃程度である。この加熱により、ポリマー中の化1で表される構成単位のtert-ブトキシカルボニル基が分解し脱離し、カテコール官能基が生成して、基板と良好に接着する。tert-ブトキシカルボニル基が脱離してカテコール官能基が生成する過程で、2モルの炭酸ガスと2モルのイソブテンが生成するが、これらはいずれも常温で気体であり、塗布した表面処理剤中に残存しない。したがって、カテコール官能基を含有するポリマーの他に、異種物質等の残渣が存在しないので、基板との接着性は良好である。特に、ポリマーとしてホモポリマーを用いれば、カテコール官能基のみを含有するポリビニルカテコールとなり、基板との接着性はより良好となる。