(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034303
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】磁気メモリデバイス
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20240306BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20240306BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240306BHJP
H01F 10/32 20060101ALI20240306BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20240306BHJP
H01F 10/30 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01L27/105 447
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
H01L43/08 M
H01F10/32
H01F10/16
H01F10/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138459
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 将寿
【テーマコード(参考)】
4M119
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA03
4M119BB01
4M119CC05
4M119CC10
4M119DD05
4M119DD06
4M119DD09
4M119DD34
4M119DD37
4M119DD47
4M119DD52
4M119EE23
5E049AA04
5E049AA09
5E049BA30
5E049CB02
5E049DB14
5F092AA04
5F092AB07
5F092AC12
5F092AC26
5F092AD23
5F092AD25
5F092AD30
5F092BB22
5F092BB23
5F092BB36
5F092BB43
5F092BC03
5F092BC07
5F092BC08
5F092BC13
5F092BC19
(57)【要約】
【課題】書込み電流を低減する。
【解決手段】磁気メモリデバイスは、第1方向に延びる導電体層と、第1方向と交差する第2方向に積層される磁気抵抗効果素子と、を備える。磁気抵抗効果素子は、導電体層に接する第1強磁性層と、第1強磁性層に対して導電体層と反対側に設けられた第2強磁性層と、第1強磁性層と第2強磁性層との間の誘電体層と、を含む。第1強磁性層は、貴金属を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延びる導電体層と、
前記第1方向と交差する第2方向に積層される磁気抵抗効果素子と、
を備え、
前記磁気抵抗効果素子は、
前記導電体層に接する第1強磁性層と、
前記第1強磁性層に対して前記導電体層と反対側に設けられた第2強磁性層と、
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間の誘電体層と、
を含み、
前記第1強磁性層は、貴金属を含む、
磁気メモリデバイス。
【請求項2】
前記磁気抵抗効果素子は、
前記第2強磁性層に対して前記第1強磁性層と反対側に設けられた第3強磁性層と、
前記第2強磁性層と前記第3強磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を含み、
前記非磁性層は、酸化マグネシウム(MgO)を含む
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項3】
前記第1強磁性層は、前記貴金属として、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、及びオスミウム(Os)から選択される少なくとも1個の元素を含む、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項4】
前記第1強磁性層は、前記貴金属として、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、及びルテニウム(Ru)から選択される少なくとも1個の元素を含む、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項5】
前記第1強磁性層に含まれる前記貴金属の濃度は、前記第2強磁性層に含まれる前記貴金属より高い、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項6】
前記第1強磁性層に含まれる前記貴金属の濃度は、50at%以下である、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項7】
前記第1強磁性層は、前記誘電体層と接する、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項8】
前記第1強磁性層の膜厚は、0.5ナノメートル以上3.0ナノメートル以下である、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項9】
前記第2強磁性層の膜厚は、0.5ナノメートル以上3.0ナノメートル以下である、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項10】
前記第1強磁性層の飽和磁化は、前記第2強磁性層の飽和磁化よりも大きい、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項11】
前記誘電体層の膜厚は、2.0ナノメートル以下である、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項12】
前記導電体層は、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、銅(Cu)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、及びマンガン(Mn)から選択される少なくとも1つの元素を含む、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項13】
前記導電体層は、前記磁気抵抗効果素子の積層方向と交差する方向に延びる第1部分と、前記第1部分から突出して前記第1強磁性層と接する第2部分と、を含む、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項14】
前記誘電体層の誘電率は、酸化マグネシウム(MgO)の誘電率以上である、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項15】
前記誘電体層は、非磁性を有する、
請求項14記載の磁気メモリデバイス。
【請求項16】
前記誘電体層は、強磁性又はフェリ磁性を有する、
請求項14記載の磁気メモリデバイス。
【請求項17】
前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層は、静磁結合又は層間結合によって強磁性的に結合されるように構成される、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項18】
書込み動作において、
前記導電体層の第1端に第1電圧を印加し、
前記導電体層の第2端に第2電圧を印加し、
前記磁気抵抗効果素子のうち前記導電体層と接しない端部に第3電圧を印加する
ように構成された制御回路を更に備え、
前記第3電圧は、前記第1電圧と前記第2電圧との差の半分より高い、
請求項1記載の磁気メモリデバイス。
【請求項19】
前記書込み動作の実行中における前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層の全体の保磁力は、スタンバイ状態における前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層の全体の保磁力より低い、
請求項18記載の磁気メモリデバイス。
【請求項20】
前記磁気抵抗効果素子の前記端部に接続された第1スイッチング素子と、
前記導電体層の前記第1端又は前記第2端に接続された第2スイッチング素子と、
を更に備えた、
請求項18記載の磁気メモリデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、磁気メモリデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子を記憶素子として用いた磁気メモリデバイスが知られている。磁気抵抗効果素子へデータを書き込む方式として、種々の手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第9589619号明細書
【特許文献2】米国特許第9881660号明細書
【特許文献3】特開2020-43282号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Fukami, et al., “A spin-orbit torque switching scheme with collinear magnetic easy axis and current configuration,” Nature, Vol. 11, pp. 621-625, 2016
【非特許文献2】Yu-Ching Liao, et al., “Spin-Orbit-Torque Material Exploration for Maximum Array-Level Read/Write Performance,” 2020 IEEE International Electron Devices Meeting (IEDM), 2020
【非特許文献3】T. Nozaki, et al., “Highly efficient voltage control of spin and enhanced interfacial perpendicular magnetic anisotropy in iridium-doped Fe/MgO magnetic tunnel junctions,” NPG Asia Materials (2017) 9, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
書込み電流を低減する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の磁気メモリデバイスは、第1方向に延びる導電体層と、上記第1方向と交差する第2方向に積層される磁気抵抗効果素子と、を備える。上記磁気抵抗効果素子は、上記導電体層に接する第1強磁性層と、上記第1強磁性層に対して上記導電体層と反対側に設けられた第2強磁性層と、上記第1強磁性層と上記第2強磁性層との間の誘電体層と、を含む。上記第1強磁性層は、貴金属を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る磁気メモリデバイスの構成の一例を示すブロック図。
【
図2】実施形態に係るメモリセルアレイの回路構成の一例を示す回路図。
【
図3】実施形態に係るメモリセルアレイの平面レイアウトの一例を示す平面図。
【
図4】実施形態に係るメモリセルアレイの断面構造の一例を示す、
図3のIV-IV線に沿った断面図。
【
図5】実施形態に係る磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の断面構造の第1例を示す、
図4の領域Vの断面図。
【
図6】実施形態に係る磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の断面構造の第2例を示す、
図4の領域Vの断面図。
【
図7】実施形態に係る磁気メモリデバイスにおける書込み動作の一例を示す回路図。
【
図8】実施形態に係る磁気メモリデバイスのメモリセルの記憶層に発生するVCMA効果の一例を示すダイアグラム。
【
図9】実施形態に係る磁気メモリデバイスのメモリセルの記憶層の磁化曲線の一例を示すダイアグラム。
【
図10】実施形態に係る磁気メモリデバイスのメモリセルの記憶層の磁化曲線の一例を示すダイアグラム。
【
図11】実施形態に係る磁気メモリデバイスのメモリセルの記憶層の磁化曲線の一例を示すダイアグラム。
【
図12】実施形態に係る磁気メモリデバイスのメモリセルの記憶層の磁化曲線の一例を示すダイアグラム。
【
図13】実施形態に係る磁気メモリデバイスにおける書込み動作の一例を示す断面図。
【
図14】実施形態に係る磁気メモリデバイスにおける書込み動作の一例を示す断面図。
【
図15】第1変形例に係るメモリセルアレイの回路構成の一例を示す回路図。
【
図16】第2変形例に係るメモリセルアレイの回路構成の一例を示す回路図。
【
図17】第3変形例に係るメモリセルアレイの回路構成の一例を示す回路図。
【
図18】第4変形例に係るメモリセルアレイの回路構成の一例を示す回路図。
【
図19】第5変形例に係る磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の断面構造の第1例を示す断面図。
【
図20】第5変形例に係る磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の断面構造の第2例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照していくつかの実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する構成要素については、共通する参照符号を付す。また、共通する参照符号を有する複数の構成要素を区別する場合、当該共通する参照符号に添え字を付して区別する。なお、複数の構成要素について特に区別を要さない場合、当該複数の構成要素には、共通する参照符号のみが付され、添え字は付さない。添え字は、下付き文字や上付き文字に限らず、例えば、参照符号の末尾に添加される小文字のアルファベット、記号、及び配列を意味するインデックス等を含む。
【0009】
本明細書において、磁気メモリデバイスは、例えば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)である。磁気メモリデバイスは、記憶素子として磁気抵抗効果素子を含む。磁気抵抗効果素子は、磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)によって磁気抵抗効果(Magnetoresistance effect)を有する抵抗変化素子である。磁気抵抗効果素子は、MTJ素子とも称する。
【0010】
1.実施形態
実施形態について説明する。
【0011】
1.1 構成
まず、実施形態に係る磁気メモリデバイスの構成について説明する。
【0012】
1.1.1 磁気メモリデバイス
図1は、実施形態に係る磁気メモリデバイスの構成の一例を示すブロック図である。磁気メモリデバイス1は、メモリセルアレイ10、ロウ選択回路11、カラム選択回路12、デコード回路13、書込み回路14、読出し回路15、電圧生成回路16、入出力回路17、及び制御回路18を備える。
【0013】
メモリセルアレイ10は、磁気メモリデバイス1におけるデータの記憶部である。メモリセルアレイ10は、複数のメモリセルMCを備える。複数のメモリセルMCの各々は、行(row)及び列(column)の組に対応付けられる。同一行にあるメモリセルMCは、同一のワード線WLに接続され、同一列にあるメモリセルMCは、同一の第1ビット線BL1及び第2ビット線BL2の組に接続される。
【0014】
ロウ選択回路11は、メモリセルアレイ10の行を選択する回路である。ロウ選択回路11は、ワード線WLを介してメモリセルアレイ10と接続される。ロウ選択回路11には、デコード回路13からのアドレスADDのデコード結果(ロウアドレス)が供給される。ロウ選択回路11は、アドレスADDのデコード結果に基づいた行に対応するワード線WLを選択する。以下において、選択されたワード線WLは、選択ワード線WLと言う。また、選択ワード線WL以外のワード線WLは、非選択ワード線WLと言う。
【0015】
カラム選択回路12は、メモリセルアレイ10の列を選択する回路である。カラム選択回路12は、第1ビット線BL1及び第2ビット線BL2を介してメモリセルアレイ10と接続される。カラム選択回路12には、デコード回路13からのアドレスADDのデコード結果(カラムアドレス)が供給される。カラム選択回路12は、アドレスADDのデコード結果に基づいた列に対応する第1ビット線BL1及び第2ビット線BL2を選択する。以下において、選択された第1ビット線BL1及び第2ビット線BL2はそれぞれ、選択ビット線BL1及び選択ビット線BL2と言う。また、選択ビット線BL1以外の第1ビット線BL1、及び選択ビット線BL2以外の第2ビット線BL2はそれぞれ、非選択ビット線BL1及び非選択ビット線BL2と言う。
【0016】
デコード回路13は、入出力回路17からのアドレスADDをデコードするデコーダである。デコード回路13は、アドレスADDのデコード結果を、ロウ選択回路11、及びカラム選択回路12に供給する。アドレスADDは、カラムアドレス及びロウアドレスを含む。
【0017】
書込み回路14は、例えば、書込みドライバ(図示せず)を含む。書込み回路14は、メモリセルMCへのデータの書込みを行う。
【0018】
読出し回路15は、例えば、センスアンプ(図示せず)を含む。読出し回路15は、メモリセルMCからのデータの読出しを行う。
【0019】
電圧生成回路16は、磁気メモリデバイス1の外部(図示せず)から提供された電源電圧を用いて、メモリセルアレイ10の各種の動作のための電圧を生成する。例えば、電圧生成回路16は、書込み動作の際に必要な種々の電圧を生成し、書込み回路14に出力する。また、例えば、電圧生成回路16は、読出し動作の際に必要な種々の電圧を生成し、読出し回路15に出力する。
【0020】
入出力回路17は、磁気メモリデバイス1の外部との通信を司る。入出力回路17は、磁気メモリデバイス1の外部からのアドレスADDを、デコード回路13に転送する。入出力回路17は、磁気メモリデバイス1の外部からのコマンドCMDを、制御回路18に転送する。入出力回路17は、種々の制御信号CNTを、磁気メモリデバイス1の外部と、制御回路18と、の間で送受信する。入出力回路17は、磁気メモリデバイス1の外部からのデータDATを書込み回路14に転送し、読出し回路15から転送されたデータDATを磁気メモリデバイス1の外部に出力する。
【0021】
制御回路18は、例えば、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を含む。制御回路18は、制御信号CNT及びコマンドCMDに基づいて、磁気メモリデバイス1内のロウ選択回路11、カラム選択回路12、デコード回路13、書込み回路14、読出し回路15、電圧生成回路16、及び入出力回路17の動作を制御する。
【0022】
1.1.2 メモリセルアレイ
次に、実施形態に係る磁気メモリデバイスのメモリセルアレイの構成について説明する。
【0023】
(回路構成)
図2は、実施形態に係るメモリセルアレイの回路構成の一例を示す回路図である。
図2では、ワード線WL、第1ビット線BL1、及び第2ビット線BL2の各々が、インデックス(“<>”)を含む添え字によって分類されて示される。
【0024】
メモリセルアレイ10は、複数のメモリセルMC、複数のワード線WL、複数の第1ビット線BL1、及び複数の第2ビット線BL2を含む。
図2の例では、複数のメモリセルMCは、(M+1)×(N+1)個のメモリセルMC<0,0>、MC<0,1>、…、MC<0,N>、MC<1,0>、…、及びMC<M,N>を含む(M及びNは、2以上の整数)。なお、
図2の例では、M及びNが2以上の整数である場合について示したが、これに限られない。M及びNは、0又は1であってもよい。複数のワード線WLは、(M+1)本のワード線WL<0>、WL<1>、…、及びWL<M>を含む。複数の第1ビット線BL1は、(N+1)本の第1ビット線BL1<0>、WBL<1>、…、及びWBL<N>を含む。複数の第2ビット線BL2は、(N+1)本の第2ビット線BL2<0>、RBL<1>、…、及びRBL<N>を含む。
【0025】
複数のメモリセルMCは、メモリセルアレイ10内でマトリクス状に配置される。メモリセルMCは、複数のワード線WLのうちの1本と、複数の第1ビット線BL1及び複数の第2ビット線BL2のうちの1組の第1ビット線BL1及び第2ビット線BL2と、の組に対応付けられる。すなわち、メモリセルMC<i,j>(0≦i≦M、0≦j≦N)は、ワード線WL<i>、第1ビット線BL1<j>、及び第2ビット線BL2<j>に接続される。
【0026】
メモリセルMC<i,j>は、ワード線WL<i>に接続される第1端と、第1ビット線BL1<j>に接続される第2端と、第2ビット線BL2<j>に接続される第3端と、を有する3端子型メモリセルである。メモリセルMC<i,j>、スイッチング素子SEL1<i,j>及びSEL2<i,j>、磁気抵抗効果素子MTJ<i,j>、並びに配線SOTL<i,j>を含む。
【0027】
配線SOTL<i,j>は、第1部分と、第2部分と、第1部分及び第2部分の間の第3部分と、を含む。配線SOTL<i,j>の第1部分は、ワード線WL<i>に接続される。配線SOTL<i,j>の第2部分は、第1ビット線BL1<j>に接続される。配線SOTL<i,j>の第3部分は、第2ビット線BL2<j>に接続される。スイッチング素子SEL1<i,j>は、配線SOTL<i,j>の第2部分と第1ビット線BL1<j>との間に接続される。磁気抵抗効果素子MTJ<i,j>は、配線SOTL<i,j>の第3部分と第2ビット線BL2<j>との間に接続される。スイッチング素子SEL2<i,j>は、磁気抵抗効果素子MTJ<i,j>と第2ビット線BL2<j>との間に接続される。
【0028】
スイッチング素子SEL1及びSEL2は、2端子型のスイッチング素子である。2端子型スイッチング素子は、3個目の端子を含まない点において、トランジスタ等の3端子型のスイッチング素子と異なる。2端子間に印加する電圧がそれぞれ閾値電圧Vth1及びVth2未満の場合、スイッチング素子SEL1及びSEL2は、“高抵抗”状態又は“オフ”状態、例えば電気的に非導通状態である。2端子間に印加する電圧がそれぞれ閾値電圧Vth1及びVth2以上の場合、スイッチング素子SEL1及びSEL2は“低抵抗”状態又は“オン”状態、例えば電気的に導通状態に変わる。より具体的には、例えば、スイッチング素子SEL1及びSEL2はそれぞれ、対応するメモリセルMCに印加される電圧が閾値電圧Vth1及びVth2を下回る場合、抵抗値の大きい絶縁体として電流を遮断する(オフ状態となる)。スイッチング素子SEL1及びSEL2はそれぞれ、対応するメモリセルMCに印加される電圧が閾値電圧Vth1及びVth2を上回る場合、抵抗値の小さい導電体として電流を流す(オン状態となる)。スイッチング素子SEL1及びSEL2は、2端子間に印加される電圧がどちらの極性でも(流れる電流の方向に依らず)、対応するメモリセルMCに印加される電圧の大きさに応じて、電流を流すか遮断するかを切替える。
【0029】
配線SOTLは、メモリセルMCにおける電流経路である。例えば、スイッチング素子SEL1がオン状態かつスイッチング素子SEL2がオフ状態の場合、配線SOTLは、ワード線WLと第1ビット線BL1との間の電流経路として機能する。また、例えば、スイッチング素子SEL1がオフ状態かつスイッチング素子SEL2がオン状態の場合、配線SOTLの一部は、ワード線WLと第2ビット線BL2との間の電流経路として機能する。
【0030】
磁気抵抗効果素子MTJは、抵抗変化素子である。磁気抵抗効果素子MTJは、スイッチング素子SEL1及びSEL2によって経路を制御された電流に基づき、抵抗値を低抵抗状態と高抵抗状態とに切替わることができる。磁気抵抗効果素子MTJは、その抵抗状態の変化によってデータを不揮発に記憶する記憶素子として機能する。
【0031】
(平面レイアウト)
次に、実施形態に係るメモリセルアレイの平面レイアウトについて説明する。以下では、基板表面に平行な面をXY平面とする。基板表面に対して磁気メモリデバイス1が設けられる方向をZ方向又は上方向とする。XY平面内において互いに交差する方向をX方向及びY方向とする。
【0032】
図3は、実施形態に係るメモリセルアレイの平面レイアウトの一例を示す平面図である。
図3では、絶縁体層等の構造が省略されて示される。
【0033】
メモリセルアレイ10は、複数の縦型構造V1、複数の縦型構造V2、及び複数の縦型構造V3を更に含む。複数の縦型構造V1の各々は、スイッチング素子SEL1を含む。複数の縦型構造V2の各々は、磁気抵抗効果素子MTJ及びスイッチング素子SEL2を含む。
【0034】
複数の第1ビット線BL1は、X方向に並ぶ。複数の第1ビット線BL1の各々は、Y方向に延びる。
【0035】
複数の第1ビット線BL1の上方に、複数のワード線WLが設けられる。複数のワード線WLは、Y方向に並ぶ。複数のワード線WLの各々は、X方向に延びる。
【0036】
複数のワード線WLの上方に、複数の配線SOTLが設けられる。平面視において、複数の配線SOTLの各々は、X方向に対してY方向に長い矩形状を有する。複数の配線SOTLの各々は、Y方向に延びる。平面視において、複数の配線SOTLの各々は、1本のワード線WL、及び1本の第1ビット線BL1と重なる位置に対応して、マトリクス状に設けられる。
【0037】
複数の配線SOTLの上方に、複数の第2ビット線BL2が設けられる。複数の第2ビット線BL2は、X方向に並ぶ。複数の第2ビット線BL2の各々は、Y方向に延びる。平面視において、複数の第2ビット線BL2はそれぞれ、複数の第1ビット線BL1に重なる位置に設けられる。
【0038】
複数の縦型構造V1は、Z方向に延びる。平面視において、複数の縦型構造V1は、円形状を有する。複数の縦型構造V1の各々は、対応する1本の第1ビット線BL1と1本の配線SOTLとの間を接続する。すなわち、複数の縦型構造V1の各々は、対応する配線SOTLの第2部分に接続される。
【0039】
複数の縦型構造V2は、Z方向に延びる。平面視において、複数の縦型構造V2は、円形状を有する。複数の縦型構造V2の各々は、対応する1本の第2ビット線BL2と1本の配線SOTLとの間を接続する。すなわち、複数の縦型構造V2の各々は、対応する配線SOTLの第3部分に接続される。
【0040】
複数の縦型構造V3は、Z方向に延びる。平面視において、複数の縦型構造V3は、円形状を有する。複数の縦型構造V3の各々は、対応する1本のワード線WLと1本の配線SOTLとの間を接続する。すなわち、複数の縦型構造V3の各々は、対応する配線SOTLの第1部分に接続される。
【0041】
以上のような構成のうち、1本の配線SOTL、並びに当該1本の配線SOTLに接続された1個の縦型構造V1、1個の縦型構造V2、及び1個の縦型構造V3の組が、1個のメモリセルMCとして機能する。
【0042】
(断面構造)
次に、実施形態に係るメモリセルアレイの断面構造について説明する。
【0043】
図4は、実施形態に係るメモリセルアレイの断面構造の一例を示す、
図3のIV―IV線に沿った断面図である。メモリセルアレイ10は、半導体基板20、並びに階層構造L1及びL2を含む。階層構造L1は、導電体層21_1、23_1、24_1、25_1、26_1、及び29_1、並びに素子層22_1、27_1、及び28_1を含む。階層構造L2は、導電体層21_2、23_2、24_2、25_2、26_2、及び29_2、並びに素子層22_2、27_2、及び28_2を含む。添え字“_x”が付された構成は、階層構造Lxに属する構成であることを示す(xは、1以上の整数)。
【0044】
半導体基板20の上方には、階層構造L1及びL2が、この順にZ方向に積層される。階層構造L1及びL2の各々は、
図3に示された平面レイアウトに対応する。
【0045】
半導体基板20と階層構造L1との間には、ロウ選択回路11及びカラム選択回路12等の周辺回路が設けられていてもよい。半導体基板20と階層構造L1との間には、回路が形成されていなくてもよい。半導体基板20と階層構造L1との間に回路が形成されない場合、半導体基板20のうち階層構造L1の下方に位置する部分には、STI(Shallow Trench Isolation)が形成されていてもよい。
【0046】
階層構造L1について説明する。
【0047】
半導体基板20の上方には、導電体層21_1が設けられる。導電体層21_1は、第1ビット線BL1として使用される。導電体層21_1は、Y方向に延びる。
【0048】
導電体層21_1の上面上には、素子層22_1が設けられる。素子層22_1は、スイッチング素子SEL1として使用される。
【0049】
素子層22_1の上面上には、導電体層23_1が設けられる。導電体層23_1は、コンタクトとして使用される。素子層22_1及び導電体層23_1は、縦型構造V1を構成する。
【0050】
導電体層23_1の上面上には、導電体層24_1が設けられる。導電体層24_1は、配線SOTLとして使用される。導電体層24_1のうち導電体層23_1に接する部分は、配線SOTLの第2部分に対応する。導電体層24_1は、Y方向に延びる。
【0051】
導電体層24_1のうち導電体層23_1が設けられる部分とは異なる部分の下面上には、導電体層25_1が設けられる。導電体層24_1のうち導電体層25_1に接する部分は、配線SOTLの第1部分に対応する。導電体層25_1は、コンタクトとして使用される。導電体層25_1は、縦型構造V3を構成する。
【0052】
導電体層25_1の下面上には、導電体層26_1が設けられる。導電体層26_1は、ワード線WLとして使用される。導電体層26_1は、X方向に延びる。
【0053】
導電体層24_1のうち導電体層23_1が設けられる部分と導電体層25_1が設けられる部分との間の部分の上面上には、素子層27_1が設けられる。導電体層24_1のうち素子層27_1に接する部分は、配線SOTLの第3部分に対応する。素子層27_1は、磁気抵抗効果素子MTJとして使用される。
【0054】
素子層27_1の上面上には、素子層28_1が設けられる。素子層28_1は、スイッチング素子SEL2として使用される。素子層27_1及び28_1は、縦型構造V2を構成する。
【0055】
素子層28_1の上面上には、導電体層29_1が設けられる。導電体層29_1は、第2ビット線BL2として使用される。導電体層29_1は、Y方向に延びる。
【0056】
以上のような構成により、階層構造L1内の1組の導電体層24_1、並びに縦型構造V1、V2、及びV3は、導電体層21_1、29_1、及び26_1にそれぞれ接続された3端子を有する1個のメモリセルMCとして機能する。
【0057】
階層構造L2は、階層構造L1と同等の構成を有する。すなわち、導電体層21_2、23_2、24_2、25_2、26_2、及び29_2、並びに素子層22_2、27_2、及び28_2はそれぞれ、導電体層21_1、23_1、24_1、25_1、26_1、及び29_1、並びに素子層22_1、27_1、及び28_1と同等の構造及び機能を有する。これにより、階層構造L2内の1組の導電体層24_2、並びに縦型構造V1、V2、及びV3は、導電体層21_2、29_2、及び26_2にそれぞれ接続された3端子を有する1個のメモリセルMCとして機能する。
【0058】
1.1.3 磁気抵抗効果素子及び周辺の配線
次に、実施形態に係る磁気メモリデバイスの磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の構成について説明する。
【0059】
図5は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の断面構造の第1例を示す、
図4の領域Vの断面図である。
図6は、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子及び周辺の配線の断面構造の第2例を示す、
図4の領域Vの断面図である。
図5及び
図6に示されるように、素子層27は、積層体27a、非磁性層27b、強磁性層27c、非磁性層27d、及び強磁性層27eを含む。積層体27aは、強磁性層27a-1、誘電体層27a-2、及び強磁性層27a-3を含む。
【0060】
まず、導電体層24の構成について説明する。
【0061】
導電体層24は、非磁性を有する重金属を含む導電膜である。導電体層24は、重金属として、例えば、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、銅(Cu)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、及びマンガン(Mn)から選択される少なくとも1つの元素を含む。導電体層24に重金属として含まれる元素は、酸化物を含んでもよい。また、タンタル(Ta)又はタングステン(W)が含まれる場合、当該元素の構造は、β構造が好ましい。導電体層24は、内部を流れる電流により、主としてバルク的スピンホール効果起因のスピン軌道トルク(SOT:Spin Orbit Torque)を発生させる。また、スピンスプリッタ効果に起因するスピン効果を発生させる場合もある。スピン軌道トルクは、強磁性層27a-1に作用する。
【0062】
次に、素子層27の構成について説明する。
【0063】
導電体層24の上面上の中央部分には、強磁性層27a-1が設けられる。強磁性層27a-1は、強磁性を有する導電膜である。強磁性層27a-1は、例えば、0.5ナノメートル(nm)以上3.0nm以下の膜厚を有する。強磁性層27a-1は、膜面に垂直な方向(Z方向)に磁化容易軸方向を有する。強磁性層27a-1には、導電体層24において発生したスピン軌道トルクが作用する。所定の大きさのスピン軌道トルクが作用した場合、強磁性層27a-1の磁化方向は、反転するように構成される。
【0064】
強磁性層27a-1は、一般的には、コバルト(Co)、鉄(Fe)、及びニッケル(Ni)から選択されるいずれかの元素を用いた強磁性層である。コバルト鉄(CoFe)合金、鉄(Fe)、コバルト鉄ボロン(CoFeB)又はホウ化鉄(FeB)、ホウ化コバルト(CoB)等が垂直磁化になる代表的な強磁性層である。特に、CoFeBは、NaCl(001)構造を有する酸化物と接することによって、界面で垂直磁気異方性を発生させる。MgO(001)/CoFeB積層膜等がその典型である。また、強磁性層27a-1は、貴金属を更に含む。強磁性層27a-1は、貴金属として、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)から選択される少なくとも1個の元素を含む。この中で、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)が好ましい。また、後述するVCMA効果を向上させる観点で、イリジウム(Ir)が最も好ましい。上記した貴金属は、強磁性層27a-1の50at%以下が好ましい。上記した貴金属が強磁性層27a-1に50at%より多く含まれる場合、強磁性層27a-1の磁気的性質が劣化する可能性があるからである。すなわち、上記した貴金属が強磁性層27a-1に50at%より多く含まれる場合、強磁性層27a-1の飽和磁化Ms及び磁気異方性エネルギーKuが極度に低下する可能性がある。また、誘電体層27a-2に近い側の濃度が濃くなるように濃度勾配があるとより好ましい。当該濃度勾配は、ナノEDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)分析やナノEELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)等により検出可能である。
【0065】
また、強磁性層27a-1には、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)から選択される少なくとも1つの合金膜や、Co/Pt積層膜、Co/Pd積層膜、及びCo/Ni積層膜等の積層膜が用いられても構わない。これらの積層膜が用いられる場合でも、後述のVCMA効果を向上させる観点から、強磁性層27a-1の磁気異方性の半分以上は、強磁性層27a-1と誘電体層27a-2との界面から発生される界面磁気異方性であることが望まれる。
【0066】
強磁性層27a-1は、強磁性層27a-1を構成する複数の層の間に貴金属層を挿入することにより形成されてもよい。強磁性層27a-1は、強磁性層27a-1を構成する少なくとも1個の層に貴金属を添加することにより形成されてもよい。
【0067】
強磁性層27a-1は、その最上層、すなわち、誘電体層27a-2と接する層がコバルト(Co)、鉄(Fe)、又はニッケル(Ni)を含む強磁性層となる。これは、上記したCo/Pt積層膜等の積層膜が用いられる場合でも同様である。
【0068】
強磁性層27a-1の上面上には、誘電体層27a-2が設けられる。誘電体層27a-2は、例えば、2.0nm以下の膜厚を有する。誘電体層27a-2は、例えば、膜面が(001)面に配向したNaCl結晶構造、立方晶系、又は正方晶系の結晶構造を有する。上記の結晶系を維持するためには、3原子層以上の積層が必要と考えられるため、誘電体層27a-2の膜厚は、0.5nm以上が好ましい。また、誘電体層27a-2は、酸化マグネシウム(MgO)以上の誘電率を持つものが好ましい。
【0069】
NaCl結晶構造を有する誘電体層27a-2の例としては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化コバルト(CoO)、酸化鉄(FeO)、酸化クロム(CrO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バナジウム(VO)、酸化マンガン(MnO)、酸化バリウム(BaO)、及び酸化カドミウム(CdO)等が挙げられる。立方晶系又は正方晶系の誘電体層27a-2の例としては、A2O3や、AO2ルチル構造が挙げられる。上記の構造膜に適用される元素Aの例としては、例えば、イッテルビウム(Yb)、イットリウム(Y)、ガリウム(Ga)、ユウロピウム(Eu)、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、ルテチウム(Lu)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、ネオジム(Nd)、スカンジウム(Sc)、クロム(Cr)、テルビウム(Tb)、スズ(Sn)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、ツリウム(Tm)、ガドリニウム(Gd)、ビスマス(Bi)、ハフニウム(Hf)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、及びオスミウム(Os)等が挙げられる。正方晶系の誘電体層27a-2の例としては、ABO3のような3元素組成系材料が挙げられる。上記の3元素組成系材料の例としては、例えば、SrRuO3、SrTiO3、及びLaAlO3等が挙げられる。
【0070】
また、誘電体層27a-2は、強誘電性を有していれば、非磁性に限らず、強磁性又はフェリ磁性を更に有していてもよい。強磁性又はフェリ磁性を有する誘電体層27a-2に含まれる化合物の例としては、例えば、Fe3O4、CoFe2O4、MnFe2O4、NiFe2O4、CuFe2O4、及びMgFeO4等が挙げられる。上記した化合物は、スピネル構造を有する。この場合、強磁性層27a-1と強磁性層27a-3とが層間相互作用を有することにより、磁化結合力が向上するので、好ましい。
【0071】
強磁性層27a-1は、上述したような誘電体層27a-2との界面において、VCMA(Voltage Control of Magnetic Anisotropy)効果を発生させる機能を有する。VCMA効果とは、電圧の印加によって、磁性材料の磁化反転に要するエネルギー障壁ΔEを変化させる現象である。なお、物理的には、VCMA効果は、エネルギー障壁ΔEを変化させるが、VCMA効果を測定する際には、強磁性層27a-1の保磁力Hcの変化が測定パラメータとして測定される。保磁力Hcが下がることは、エネルギー障壁ΔEが下がることを意味する。強磁性層27a-1に含まれる貴金属は、VCMA効果を増大させ得る。
【0072】
VCMA効果増大の観点から、強磁性層27a-1に含まれる貴金属は、5d遷移元素である金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、及びオスミウム(Os)から選択される少なくとも1個の元素を含むことが望ましい。VCMA効果増大の観点から、誘電体層27a-2の誘電率は、より高い(例えば、酸化マグネシウム(MgO)の誘電率以上である)ことが望ましい。また、VCMA効果を増大させつつ磁気異方性を得る観点から、強磁性層27a-1に含まれる貴金属の平均的な濃度は、50at%以下であることが好ましい。貴金属が強磁性層27a-1に50at%より多く含まれる場合、強磁性層27a-1の磁気的性質が劣化する可能性があるからである。すなわち、上記した貴金属が強磁性層27a-1に50at%より多く含まれる場合、強磁性層27a-1の飽和磁化Ms及び磁気異方性エネルギーKuが極度に低下する可能性がある。強磁性層27a-1が誘電体層27a-2との界面で界面磁気異方性を有する観点から、強磁性層27a-1と誘電体層27a-2との界面における局所的な貴金属の被覆率は、100%でも構わない。強磁性層27a-1と誘電体層27a-2との界面では、磁気抵抗効果が発現する必要もないため、VCMA効果を最大限に高効率化する界面被覆率が選択される。しかしながら、被覆率を100%とした場合でも、可能な分析方法(EDX又はEELS)を用いる際に、上下層の影響を受けるため、検出される濃度は、70%程度にしかならないと予測される。
【0073】
誘電体層27a-2の上面上には、強磁性層27a-3が設けられる。強磁性層27a-3は、例えば、0.5ナノメートル(nm)以上3.0nm以下の膜厚を有する。強磁性層27a-3は、強磁性層27a-1との間に強磁性的な静磁結合又は強磁性的な層間結合を有する導電膜である。強磁性層27a-3は、膜面に垂直な方向(Z方向)に磁化容易軸方向を有する。このため、強磁性層27a-3の磁化方向は、静的な状態において、強磁性層27a-1の磁化方向と平行になる。以下の説明では、強磁性層27a-1及び27a-3の磁化方向は、積層体27aの磁化方向とも言う。
【0074】
強磁性層27a-3は、鉄(Fe)を含む。強磁性層27a-3は、更にコバルト(Co)、及びニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの元素を含み得る。また、強磁性層27a-3は、ボロン(B)を更に含み得る。より具体的には、例えば、強磁性層27a-3は、コバルト鉄ボロン(CoFeB)、ホウ化鉄(FeB)、又はホウ化コバルト(CoB)を含む。
【0075】
なお、強磁性層27a-3に含まれる貴金属の量は、強磁性層27a-1に含まれる貴金属の量より少ない。できれば、強磁性層27a-3に含まれる貴金属の濃度は、無視できる程度に低いことが好ましい。すなわち、強磁性層27a-3に含まれる貴金属の濃度は、強磁性層27a-1に含まれる貴金属の濃度よりも有意に低い。これは、トンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magnetoresistance)比の劣化を低減するために重要である。
【0076】
以上のように構成された強磁性層27a-1、誘電体層27a-2、及び強磁性層27a-3を含む積層体27aは、記憶層(Storage Layer)として使用される。
【0077】
強磁性層27a-3の上面上には、非磁性層27bが設けられる。非磁性層27bは、非磁性を有する絶縁膜である。非磁性層27bは、トンネルバリア層(Tunnel Barrier Layer)として使用される。非磁性層27bは、強磁性層27a-3と強磁性層27cとの間に設けられて、これら2つの強磁性層と共に磁気トンネル接合を形成する。また、強磁性層27a-3及び強磁性層27cの界面層にコバルト鉄ボロン(CoFeB)等の初期アモルファス層が用いられる場合、非磁性層27bは、強磁性層27a-3の結晶化処理において、強磁性層27a-3との界面から結晶質の膜を成長させるための核となるシード材として機能する。同様に、強磁性層27cの界面層としてコバルト鉄ボロン(CoFeB)が用いられる場合には、非磁性層27bは、強磁性層27cに対してもシード材として機能する。ここで、初期アモルファス層とは、成膜直後にアモルファス状態であり、アニール処理後に結晶化する層である。非磁性層27bは、膜面が(001)面に配向した正方晶系又は立方晶系の構造を有する。非磁性層27bに用いられる酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム(MgO)が挙げられる。酸化マグネシウム(MgO)は、NaCl構造を有する。非磁性層27bに酸化マグネシウム(MgO)が用いられる場合、酸化マグネシウム(MgO)の(001)界面とコバルト鉄ボロン(CoFeB)の(001)界面とは整合してアニールにより結晶成長する。このため、コバルト鉄ボロン(CoFeB)は、(001)配向した体心立方構造となる。
【0078】
非磁性層27bの上面上には、強磁性層27cが設けられる。強磁性層27cは、強磁性を有する導電膜である。強磁性層27cは、参照層(Reference Layer)として使用される。強磁性層27cは、膜面に垂直な方向(Z方向)に磁化容易軸方向を有する。強磁性層27cの磁化方向は、固定されている。
図5の例では、強磁性層27cの磁化方向は、積層体27aの方向を向いている。なお、「磁化方向が固定されている」とは、積層体27aの磁化方向を反転させ得る大きさのトルクによって、磁化方向が変化しないことを意味する。通常、強磁性層27cには界面層が用いられる。強磁性層27cの界面層としては、コバルト鉄ボロン(CoFeB)等の初期アモルファス層が用いられる。更に、当該コバルト鉄ボロン(CoFeB)層のうち、酸化マグネシウム(MgO)層に接する面とは反対側の面と接するように、補助的な強磁性層が設けられる。当該補助的な強磁性層は、例えば、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)から選択される少なくとも1つの合金膜を含む。当該補助的な強磁性層は、Co/Pt積層膜、Co/Pd積層膜等の積層膜となる。初期アモルファス層となっているコバルト鉄ボロン(CoFeB)層は、上記のCoPt、CoPd、Co/Pt積層膜、Co/Pd積層膜等と積層して用いられる。この場合、強磁性層27cのうちの界面層、例えば上記したCoFeB層は、他の層よりも(001)配向したMgOが非磁性層27b側に形成される。
【0079】
強磁性層27cの上面上には、非磁性層27dが設けられる。非磁性層27dは、非磁性を有する導電膜である。非磁性層27dは、スペーサ層(Spacer Layer)として使用される。非磁性層27dは、例えば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、バナジウム(V)、及びクロム(Cr)から選択される元素又はこれらの合金からなる。例えば、非磁性層27dの膜厚は、2nm以下である。
【0080】
非磁性層27dの上面上には、強磁性層27eが設けられる。強磁性層27eは、強磁性を有する導電膜である。強磁性層27eは、シフトキャンセル層(Shift Cancelling Layer)として使用される。強磁性層27eは、膜面に垂直な方向(Z方向)に磁化容易軸方向を有する。強磁性層27eは、例えば、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)から選択される少なくとも1つの合金層を含む。また、強磁性層27eは、Co/Pt積層膜、及びCo/Pd積層膜等の積層膜でもよい。
【0081】
強磁性層27c及び強磁性層27eは、非磁性層27dによって反強磁性的に結合される。すなわち、強磁性層27c及び強磁性層27eは、互いに反平行な磁化方向を有するように結合される。このような強磁性層27c、非磁性層27d、及び強磁性層27eの結合構造を、SAF(Synthetic Anti - Ferromagnetic)構造という。SAF構造により、強磁性層27eは、強磁性層27cの漏洩磁界が積層体27aの磁化方向の変化に与える影響を相殺し、実質的な強磁性層27cの漏洩磁界を低減することができる。
【0082】
磁気抵抗効果素子MTJは、記憶層及び参照層の磁化方向の相対関係が平行か反平行かによって、低抵抗状態及び高抵抗状態のいずれかを取ることが出来る。実施形態では、このような磁気抵抗効果素子MTJに書込み電流を流すことなく、参照層の磁化方向に対する記憶層の磁化方向を制御する。具体的には、配線SOTLに電流を流すことによって発生させたスピン軌道トルクを利用した書込み方式が採用される。
【0083】
配線SOTLに、Y方向に或る大きさの書込み電流Ic0を流すと、記憶層及び参照層の磁化方向の相対関係は、平行になる。この平行状態の場合、磁気抵抗効果素子MTJの抵抗値は最も低くなり、磁気抵抗効果素子MTJは低抵抗状態に設定される。この低抵抗状態は、「P(Parallel)状態」と呼ばれ、例えばデータ“0”の状態と規定される。
【0084】
また、配線SOTLに、書込み電流Ic0と反対方向に書込み電流Ic1を流すと、記憶層及び参照層の磁化方向の相対関係は、反平行になる。この反平行状態の場合、磁気抵抗効果素子MTJの抵抗値は最も高くなり、磁気抵抗効果素子MTJは高抵抗状態に設定される。この高抵抗状態は、「AP(Anti - Parallel)状態」と呼ばれ、例えばデータ“1”の状態と規定される。
【0085】
なお、データ“1”及びデータ“0”の規定の仕方は、上述した例に限られない。例えば、P状態をデータ“1”と規定し、AP状態をデータ“0”と規定してもよい。
【0086】
磁気抵抗効果素子MTJをZ方向から見た形状は、楕円形又は円形である。メモリセルMCの高密度な集積の観点において、磁気抵抗効果素子MTJをZ方向から見た形状は、円形が好ましい。面積低減および消費電力低減の観点から、楕円形である場合の磁気抵抗効果素子MTJの短辺長、及び円形である場合の磁気抵抗効果素子MTJの半径は、100nm以下であることが好ましい。さらに、積層体27aに関して、5nsec以下の高速磁化反転を行う場合は、30nm以下が好ましい。磁気抵抗効果素子MTJの半径が10nm以下の場合、単磁区軸一斉磁化反転に近くなり、明確な磁壁が形成されない磁化反転モードとなる。これにより、高速磁化反転が実現される。
【0087】
1.2 書込み動作
次に、実施形態に係る磁気メモリデバイスの書込み動作について説明する。
【0088】
1.2.1 電圧印加
図7は、実施形態に係る磁気メモリデバイスにおける書込み動作の一例を示す回路図である。
図7の例では、複数のメモリセルMCのうち、メモリセルMC<m,n>にデータが書き込まれる場合に各種配線に印加される電圧の例が示される(0<m<M、0<n<N)。
【0089】
メモリセルMC<m,n>にデータが書き込まれる場合、ワード線WL<m>及び第1ビット線BL1<n>の各々には、電圧VDD又はVSSが印加される。ワード線WL<m>に電圧VDDが印加される場合、第1ビット線BL1<n>には、電圧VSSが印加される。ワード線WL<m>に電圧VSSが印加される場合、第1ビット線BL1<n>には、電圧VDDが印加される。第2ビット線BL2<n>には、電圧Vvcma(=VDD/2+α)が印加される。ワード線WL<m>以外の全てのワード線WL、第1ビット線BL1<n>以外の全ての第1ビット線BL1、及び第2ビット線BL2<n>以外の全ての第2ビット線BL2には、電圧VDD/2が印加される。
【0090】
これにより、ワード線WL<m>と第1ビット線BL1<n>との間には、電位差VDDが発生する。この場合、配線SOTL<m,n>の磁気抵抗効果素子MTJ<m,n>との接続部における電位は、VDD/2となる。このため、配線SOTL<m,n>と第2ビット線BL2<n>との間には、電位差αが発生する。
【0091】
また、ワード線WL<m>と第1ビット線BL1<n>を除く任意の第1ビット線BL1との間には、電位差VDD/2が発生する。ワード線WL<m>を除く任意のワード線WLと第1ビット線BL1<n>との間には、電位差VDD/2が発生する。また、ワード線WL<m>を除く任意のワード線WLと第1ビット線BL1<n>を除く任意の第1ビット線BL1との間には、電位差が発生しない。配線SOTL<m,n>及び第2ビット線BL2<n>の組を除く任意の配線SOTL及び第2ビット線BL2の組の間に発生する電位差は、電位差α未満となる。
【0092】
ここで、電圧VSSは、基準電位である。電圧VSSは、例えば、0Vである。電圧VSSに対する電圧VDD(電位差VDD)は、スイッチング素子SEL1及びSEL2をオン状態にする。電位差VDD/2は、スイッチング素子SEL1をオフ状態にする。電圧VDD/2に対する電圧Vvcma(電位差α)は、スイッチング素子SEL2をオン状態にする。配線SOTL<m,n>及び第2ビット線BL2<n>の組を除く任意の配線SOTL及び第2ビット線BL2の組の間に発生する電位差は、スイッチング素子SEL2をオフ状態にする。
【0093】
このため、スイッチング素子SEL1<m,n>及びSEL2<m,n>は、オン状態となる。スイッチング素子SEL1<m,n>を除く全てのスイッチング素子SEL1は、オフ状態となる。スイッチング素子SEL2<m,n>を除く全てのスイッチング素子SEL2は、オフ状態となる。
【0094】
したがって、配線SOTL<m,n>に電位差VDDを印加しつつ、磁気抵抗効果素子MTJ<m,n>に電位差αを印加することができる。導電体層24に電位差VDDを印加することによって、磁気抵抗効果素子MTJの抵抗状態を変化させるための電流を流すことができる。磁気抵抗効果素子MTJに電位差αを印加することによって、強磁性層24a-1に有意な大きさのVCMA効果を発生させることができる。なお、スイッチング素子SEL2がオン状態となることによって磁気抵抗効果素子MTJ<m,n>にも電流が流れるが、その電流量は、無視できる程度に微小である。
【0095】
上述の書込み動作において、メモリセルMC<m,n>の状態は、選択状態とも呼ばれる。メモリセルMC<0,n>~MC<m-1,n>、MC<m+1,n>~MC<M,n>、MC<m,0>~MC<m,n-1>、及びMC<m,n+1>~MC<m,N>の状態は、半選択状態とも呼ばれる。選択状態及び半選択状態でない全てのメモリセルMCの状態は、非選択状態とも呼ばれる。
【0096】
1.2.2 VCMA効果
図8は、実施形態に係る磁気メモリデバイスのメモリセルの記憶層に発生するVCMA効果の一例を示すダイアグラムである。
図9、
図10、
図11、及び
図12は、実施形態に係る磁気メモリデバイスのメモリセルの記憶層の磁化曲線の一例を示すダイアグラムである。
図8では、VCMA効果によって発生する、電位差Vに対する強磁性層27a-3及び27a-1の保磁力Hcの変化がそれぞれ、線L1及びL2で示される。
図9では、電位差がない場合におけるメモリセルMCの強磁性層27a-3の磁化曲線の一例が示される。
図10では、電位差がある場合におけるメモリセルMCの強磁性層27a-3の磁化曲線の一例が示される。
図11では、電位差がない場合におけるメモリセルMCの強磁性層27a-1の磁化曲線の一例が示される。
図12では、電位差がある場合におけるメモリセルMCの強磁性層27a-1の磁化曲線の一例が示される。
【0097】
上述の通り、強磁性層27a-3に含まれる貴金属の量は、強磁性層27a-1に含まれる貴金属の量よりも有意に小さくなるように構成される。これにより、
図8の線L1に示されるように、強磁性層27a-3の電位差Vに対する保磁力Hcの傾きは、0と見なせる程度に小さくなる。
【0098】
これにより、
図9及び
図10に示すように、強磁性層27a-3の保磁力Hcは、例えばスタンバイ状態のような電位差が生じない静的な場合(Hc1)と、例えば書込み動作の際の電位差αのような有意な大きさの電位差が生じる場合(Hc1’)とで、ほとんど変化しない。また、強磁性層27a-3の飽和磁化Msは、例えばスタンバイ状態のような電位差が生じない静的な場合(Ms1)と、例えば書込み動作の際の電位差αのような有意な大きさの電位差が生じる場合(Ms1’)とで、ほとんど変化しない。
【0099】
これに対し、強磁性層27a-1は、貴金属を含むように構成される。これにより、線L2に示されるように、強磁性層27a-1の電位差Vに対する保磁力Hcの傾きは、負に大きな値となる。
【0100】
これにより、
図11及び
図12に示すように、書込み動作の際の電位差αのような有意な大きさの電位差が生じる場合の強磁性層27a-1の保磁力(Hc2’)は、スタンバイ状態のような電位差が生じない静的な場合(Hc2)に対して、有意に低下する。すなわち、強磁性層27a-1及び27a-3の全体の保磁力は、書込み動作の際の電位差αのような有意な大きさの電位差が生じる場合の方が、スタンバイ状態のような電位差が生じない静的な場合よりも低くなる。また、強磁性層27a-1の飽和磁化Msは、電位差が生じない静的な場合(Ms2)と、例えば書込み動作の際の電位差αのような有意な大きさの電位差が生じる場合(Ms2’)とで、ほとんど変化しない。
【0101】
ここで、強磁性層のエネルギー障壁ΔEは、飽和磁化Ms及び保磁力Hcを用いて以下の式(1)で表される。
【0102】
ΔE=KuV=(MsHk/2)・V≒(MsHc/2)・V=MsVHc/2…(1)
上式(1)において、Kuは、磁気異方性エネルギーである。Vは、体積であり、V=素子面積S及び膜厚tの積である。Hkは、異方性磁界である。
【0103】
このように、電位差が生じない場合、強磁性層27a-1及び27a-3の各々のエネルギー障壁ΔEは、ほとんど変化しない。このため、電位差が生じない場合、記憶層全体としてのエネルギー障壁ΔEは、ほとんど変化しない。一方、電位差αのように有意な大きさの電位差が生じる場合、強磁性層27a-3のエネルギー障壁ΔEが変化しないのに対して、強磁性層27a-1のエネルギー障壁ΔEが有意に低下する。すなわち、強磁性層27a-1のエネルギー障壁ΔEの低下量が大きくなるような設定が好ましい。このため、電位差αのように有意な大きさの電位差が生じる場合、記憶層全体としてのエネルギー障壁ΔEが有意に低下する。このように、有意な大きさの電位差が生じる場合に限り、記憶層全体としてのエネルギー障壁ΔEが低下する。したがって、書込み動作における選択状態のメモリセルMCは、VCMA効果を利用しない場合よりも書き込みやすくなる。
【0104】
1.2.3 磁化反転
図13及び
図14は、実施形態に係る磁気メモリデバイスにおける書込み動作の一例を示す断面図である。
図13及び
図14では、選択状態のメモリセルMCに流れる電流、及び磁気抵抗効果素子MTJの磁化方向が模式的に示される。
図13は、データ“1”を書き込む場合の書込み動作に対応する。
図14は、データ“0”を書き込む場合の書込み動作に対応する。
【0105】
まず、
図13を参照してデータ“1”の書込み動作について説明する。
図13の例では、ワード線WL(紙面右側)から第1ビット線BL1(紙面左側)に向けて書込み電流Ic1が流れる場合が示される。
【0106】
図13(A)に示されるように、導電体層24の両端には、スイッチング素子SEL1をオン状態にする電位差VDDが発生する。電位差VDDを制御することにより、導電体層24内に、書込み電流Ic1が流れる。書込み電流Ic1が導電体層24内を流れることにより、強磁性層27a-1の磁化方向を強磁性層27cの磁化方向に対して反平行にしようとするスピン軌道トルクが発生する。スピン軌道トルクは、導電体層24に近接する強磁性層27a-1に作用する。また、
図13では図示されていないが、強磁性層27a-1には、Y方向のバイアス磁界が印加される。
【0107】
また、素子層27の両端には、記憶層側に対して参照層側が高電位となるように、電位差αが発生する。これにより、VCMA効果が発生し、強磁性層27a-1のエネルギー障壁ΔEが低下する。
【0108】
このため、強磁性層27a-1の磁化方向は、スピン軌道トルクと、バイアス磁界の印加と、VCMA効果によるアシストと、によって、強磁性層27cの磁化方向に対して反平行な方向に反転する。
【0109】
上述の通り、強磁性層27a-3は、強磁性層27a-1と強磁性的に静磁結合又は交換結合している。これにより、
図13(B)に示されるように、強磁性層27a-3の磁化方向は、強磁性層27a-1の磁化方向と平行になるように、反転する。
【0110】
以上のように動作することにより、積層体27aの磁化方向が強磁性層27cの磁化方向に対して反平行な方向に反転し、データ“1”の書込み動作が完了する。
【0111】
次に、
図14を参照してデータ“0”の書込み動作について説明する。
図14の例では、第1ビット線BL1(紙面左側)からワード線WL(紙面右側)に向けて書込み電流Ic0が流れる場合が示される。
【0112】
図14(A)に示されるように、導電体層24の両端には、スイッチング素子SEL1をオン状態にする電位差VDDが発生する。電位差VDDを制御することにより、導電体層24内に、書込み電流Ic0が流れる。書込み電流Ic0が導電体層24内を流れることにより、強磁性層27a-1の磁化方向を強磁性層27cの磁化方向に対して平行にしようとするスピン軌道トルクが発生する。スピン軌道トルクは、導電体層24に近接する強磁性層27a-1に作用する。また、
図14では図示されていないが、強磁性層27a-1には、Y方向のバイアス磁界が印加される。
【0113】
また、素子層27の両端には、記憶層側に対して参照層側が高電位となるように、電位差αが発生する。これにより、VCMA効果が発生し、強磁性層27a-1のエネルギー障壁ΔEが低下する。
【0114】
このため、強磁性層27a-1の磁化方向は、スピン軌道トルクと、バイアス磁界と、VCMA効果によるアシストと、によって、強磁性層27cの磁化方向に対して平行な方向に反転する。
【0115】
上述の通り、強磁性層27a-3は、強磁性層27a-1と強磁性的に静磁結合又は交換結合している。これにより、
図14(B)に示されるように、強磁性層27a-3の磁化方向は、強磁性層27a-1の磁化方向と平行になるように、反転する。
【0116】
以上のように動作することにより、積層体27aの磁化方向が強磁性層27cの磁化方向に対して平行な方向に反転し、データ“0”の書込み動作が完了する。
【0117】
なお、強磁性層27a-1の飽和磁化量Ms・tが強磁性層27a-3の飽和磁化量Ms・tよりも大きい方が、強磁性層27a-1の磁化方向の反転に伴って、強磁性層27a-3の磁化方向が反転しやすくなる。このため、強磁性層27a-1の飽和磁化量Ms・tが強磁性層27a-3の飽和磁化量Ms・tよりも大きくなるように材料が選択されることが好ましい。また、この場合、強磁性層27a-1と強磁性層27a-3とは、静磁結合及び層間結合しているので、強磁性層27a-1の飽和磁化Msは強磁性層27a-3の飽和磁化Msよりも大きいことが好ましく、強磁性層27a-1の膜厚tは強磁性層27a-3の膜厚tよりも小さいことが好ましい。当該膜厚t及び飽和磁化Msの調整を行った場合、必然的に、強磁性層27a-1の磁気異方性エネルギーKuが、強磁性層27a-3の磁気異方性エネルギーKuよりも大きくなることがある。当該膜厚t及び飽和磁化Msの調整は、例えば、コバルト鉄ボロン(CoFeB)膜を用いる場合は、ボロン(B)の含有量で調整できる。この場合、強磁性層27a-1のボロン(B)の含有量は、強磁性層27a-3のボロン(B)の含有量よりも小さくすることで、上記の関係が達成できる。
【0118】
1.3 実施形態に係る効果
実施形態に係る磁気メモリデバイス1では、スピン軌道トルクを利用した書込み方式が適用される。この場合、書込み電流の大きさは、スピントランスファートルクを利用した書込み方式よりも大きくなることが懸念される。実施形態によれば、書込み電流を低減することができる。以下、実施形態に係る本効果について説明する。
【0119】
実施形態によれば、記憶層として機能する積層体27aは、導電体層24に接する強磁性層27a-1と、強磁性層27a-3と、強磁性層27a-1と強磁性層27a-3との間の誘電体層27a-2と、を含む。強磁性層27a-1は、貴金属を含む。これにより、書込み動作において、選択状態の強磁性層27a-1のエネルギー障壁ΔEを有意に低下させることができる。このため、書込み動作において、強磁性層27a-1に作用させるスピン軌道トルクを低減できる。したがって、書込み電流を低減できる。
【0120】
なお、スタンバイ状態等の書込み動作を実行していない状態や、書込み動作中であっても非選択状態又は半選択状態の場合、強磁性層27a-1のエネルギー障壁ΔEは低下せずに維持される。このため、スタンバイ状態等では、書込み動作における選択状態よりも強磁性層27a-1の磁化方向が反転しにくい状態を維持することができる。
【0121】
また、強磁性層27a-1に含まれる貴金属の濃度は、強磁性層27a-3に含まれる貴金属の濃度より高い。これにより、強磁性層27a-3が貴金属を含むことによって生じるトンネル磁気抵抗(TMR)比の劣化を抑制できる。このため、トンネル磁気抵抗(TMR)比を維持しつつ、書込み電流を低減できる。
【0122】
また、強磁性層27a-1に含まれる貴金属の濃度は、50at%以下である。強磁性層27a-1と誘電体層27a-2との界面における強磁性層27a-1に含まれる貴金属の被覆率は、70%以下である。これにより、強磁性層27a-1の界面磁気異方性を損なうことなく、VCMA効果を発生させることができる。
【0123】
また、強磁性層27a-1及び27a-3の各々の膜厚は、0.5nm以上となるように設計される。これにより、飽和磁化Ms及び磁気異方性エネルギーKuを消失させることなく、強磁性層27a-1及び27a-3を成膜することができる。また、強磁性層27a-1及び27a-3の各々の膜厚は、3.0nm以下となるように設計される。これにより、垂直磁気特性である異方性磁界Hkを消失させることなく、強磁性層27a-1及び27a-3を成膜することができる。
【0124】
2. 変形例等
なお、上述の実施形態は、上述の例に限らず、種々の変形が適用可能である。
【0125】
上述の実施形態では、スイッチング素子SEL1及びSEL2に2端子型のスイッチング素子が適用される場合について説明したが、これに限られない。例えば、
図15に示されるように、スイッチング素子SEL1及びSEL2には、3端子型のスイッチング素子が適用されてもよい。具体的には、例えば、3端子型のスイッチング素子としては、SGT(Surrounding Gate Transistor)等のトランジスタが適用されてもよい。この場合、全ての配線SOTLの第1部分は、ソース線SLに共通接続される。ソース線SLは、例えば、接地される。そして、スイッチング素子SEL1<i,j>のゲートは、ワード線WL1<i,j>に接続される。スイッチング素子SEL2<i,j>のゲートは、ワード線WL2<i,j>に接続される。このように、各スイッチング素子SEL1及びSEL2が個別のワード線WL1及びWL2によってそれぞれ制御されることにより、1個のメモリセルMCを選択することができる。
【0126】
また、
図15の例では、スイッチング素子SEL1及びSEL2のいずれにも3端子型のスイッチング素子が適用される場合について説明したが、これに限られない。例えば、
図16に示されるように、スイッチング素子SEL1には3端子型のスイッチング素子が適用され、スイッチング素子SEL2には、2端子型のスイッチング素子が適用されてもよい。
【0127】
また、上述の実施形態では、スイッチング素子SEL2に適用される2端子型のスイッチング素子としてセレクタが適用される場合について説明したが、これに限られない。例えば、
図17に示されるように、スイッチング素子SEL1には、セレクタが適用され、スイッチング素子SEL2には、ダイオードが適用されてもよい。
【0128】
また、
図17の例では、スイッチング素子SEL1にはセレクタが適用される場合について説明したが、これに限られない。例えば、
図18に示されるように、スイッチング素子SEL1には、3端子型のスイッチング素子が適用され、スイッチング素子SEL2には、ダイオードが適用されてもよい。この場合、
図15及び
図16の例と同様に、全ての配線SOTLの第1部分は、ソース線SLに共通接続される。ソース線SLは、例えば、接地される。そして、スイッチング素子SEL1<i,j>のゲートは、ワード線WL1<i,j>に接続される。このように、各スイッチング素子SEL1が個別のワード線WL1によって制御されることにより、1個のメモリセルMCを選択することができる。
【0129】
また、上述の実施形態では、記憶層が参照層の下方に位置するように磁気抵抗効果素子MTJが構成される場合について説明したが、これに限られない。例えば、
図19及び
図20に示されるように、記憶層が参照層の上方に位置するように磁気抵抗効果素子MTJが構成されてもよい。この場合、導電体層24の下面のうち強磁性層27a-1との接続部分は、導電体層24の下面の他の部分よりも下面に突出している。
図19の例では、導電体層24の強磁性層27a-1との接続部分の側面が、強磁性層27a-1の側面と揃う場合が示される。
図20の例では、導電体層24の強磁性層27a-1との接続部分が、テーパ形状となる場合が示される。
【0130】
また、上述の実施形態では、磁気抵抗効果素子MTJが膜面に垂直な方向に磁化容易軸方向を有する場合について説明したが、これに限られない。例えば、磁気抵抗効果素子MTJは、膜面に平行な方向に磁化容易軸方向を有していてもよい。より具体的には、例えば、磁気抵抗効果素子MTJは、Y軸に沿って磁化容易軸方向を有していてもよい。この場合、書込み動作において、強磁性層27a-1には、スピン軌道トルクと共に、Z方向にバイアス磁界が印加される。また、例えば、磁気抵抗効果素子MTJは、X軸に沿って磁化容易軸方向を有していてもよい。この場合、書込み動作において、強磁性層27a-1には、スピン軌道トルクと共に印加するバイアス磁界が不要となる。
【0131】
また、上述の実施形態では、半導体基板20の上方に2個の階層構造L1及びL2が積層される場合が示されたが、これに限られない。例えば、半導体基板20の上方には、同等の構造を有する3以上の階層構造が積層されていてもよい。また、例えば、半導体基板20の上方には、1個の階層構造が積層されていてもよい。
【0132】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0133】
1…磁気メモリデバイス
10…メモリセルアレイ
11…ロウ選択回路
12…カラム選択回路
13…デコード回路
14…書込み回路
15…読出し回路
16…電圧生成回路
17…入出力回路
18…制御回路
20…半導体基板
21,23,24,25,26,29…導電体層
22,27,28…素子層
27a…積層体
27b,27d…非磁性層
27a-1,27a-3,27c,27e…強磁性層
27a-2…誘電体層