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特開2024-34312眼科情報処理プログラムおよび眼科装置
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  • 特開-眼科情報処理プログラムおよび眼科装置 図1
  • 特開-眼科情報処理プログラムおよび眼科装置 図2
  • 特開-眼科情報処理プログラムおよび眼科装置 図3
  • 特開-眼科情報処理プログラムおよび眼科装置 図4A
  • 特開-眼科情報処理プログラムおよび眼科装置 図4B
  • 特開-眼科情報処理プログラムおよび眼科装置 図5
  • 特開-眼科情報処理プログラムおよび眼科装置 図6
  • 特開-眼科情報処理プログラムおよび眼科装置 図7
  • 特開-眼科情報処理プログラムおよび眼科装置 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034312
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】眼科情報処理プログラムおよび眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138475
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】長屋 雅士
(72)【発明者】
【氏名】加納 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 倫全
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AA25
4C316AB02
4C316AB11
4C316AB16
4C316FB05
4C316FB13
4C316FB21
4C316FB24
4C316FB27
4C316FC15
(57)【要約】
【課題】被検眼の複数の部位に対応する解析結果をユーザーに適切に把握させやすい、眼科情報処理プログラムを提供すること。
【解決手段】眼科情報処理プログラムは、被検眼の第1解析領域における被検眼の3次元OCTデータを解析することによって生成された、第1解析マップを取得する第1取得ステップと、少なくとも一部に前記第1解析領域とXY方向に関して重複する重複領域を有する被検眼の第2解析領域における被検眼の3次元OCTデータを解析することによって生成された、第2解析マップを取得する第2取得ステップと、前記重複領域における前記第1解析マップと前記第2解析マップとの解析結果に応じて、前記第1解析マップと前記第2解析マップとのいずれかが前記重複領域において優先的に視認されるように、前記第1解析マップと前記第2解析マップとを重ね合わせる、重畳ステップと、を前記眼科装置に実行させる。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科情報処理プログラムであって、眼科装置のプロセッサによって実行されることによって、
被検眼の第1解析領域における被検眼の3次元OCTデータを解析することによって生成された、第1解析マップを取得する第1取得ステップと、
少なくとも一部に前記第1解析領域とXY方向に関して重複する重複領域を有する被検眼の第2解析領域における被検眼の3次元OCTデータを解析することによって生成された、第2解析マップを取得する第2取得ステップと、
前記第1解析マップと前記第2解析マップとを重ね合わせる重畳ステップと、を前記眼科装置に実行させ、
前記重畳ステップでは、前記重複領域における前記第1解析マップと前記第2解析マップとの解析結果に応じて、前記第1解析マップと前記第2解析マップとのいずれかが前記重複領域において優先的に視認されるように、前記第1解析マップと前記第2解析マップとを重ね合わせる、眼科情報処理プログラム。
【請求項2】
前記第1解析マップおよび前記第2解析マップは、それぞれ正常眼データとの比較結果を示すものであって、
前記重畳ステップでは、前記重複領域における重ね合わせの優先順序を、疾患種別に応じて変更する請求項1記載の眼科情報処理プログラム。
【請求項3】
前記第1解析マップおよび前記第2解析マップは、層厚に関して正常眼データとの比較結果を示すものであって、前記疾患種別が緑内障である場合は、前記重畳ステップでは、より菲薄化度合いが大きないずれかの解析マップが前記重複領域において優先的に視認されるように重ね合わせる、請求項2記載の眼科情報処理プログラム。
【請求項4】
前記第1解析マップおよび前記第2解析マップは、層厚に関して正常眼データとの比較結果を示すものであって、前記疾患種別が黄斑疾患である場合は、前記重畳ステップでは、より肥厚化度合いが大きないずれかの解析マップが前記重複領域において優先的に視認されるように重ね合わせる、請求項2記載の眼科情報処理プログラム。
【請求項5】
前記重畳ステップでは、前記第1解析マップと前記第2解析マップとのうち優先的に視認させる解析マップが前記重複領域内の位置毎に設定される、請求項1から4のいずれかに記載の眼科情報処理プログラム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の眼科情報処理プログラムを実行する眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科情報処理プログラムおよび眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography)によって取得される被検眼のOCTデータを、被検眼の部位ごとに解析し、解析結果を表示する場合がある。例えば、特許文献1には、黄斑の周辺に設定された第1解析領域と、乳頭の周辺に設定された第2解析領域と、のそれぞれにおいて3次元OCTデータを解析することによって、それぞれの解析領域に対応する解析マップを生成し、それぞれの解析領域に対応する解析マップを1つの正面画像に重畳して表示する技術が開示されている。なお、第1解析領域に対応する解析結果と、第2解析領域に対応する解析結果とは、互いに異なる深さ領域を対象として解析され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-13341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、例えば、特許文献1において、第1解析領域と第2解析領域との一部に共通の領域が存在している。故に、それぞれの解析領域に対応する解析マップが1つの正面画像に重畳して表示されると、共通の領域において2種類の解析マップが重なってしまう。このため、一方の解析マップは、他方の解析マップの下層レイヤーに隠れてしまっていた。この場合、例えば、共通の領域において下層レイヤーの解析結果において異常が示されていたとしても、当該異常をユーザーは直ちに確認できず、不便であった。
【0005】
本開示は、従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、被検眼の複数の部位に対応する解析結果をユーザーに適切に把握させやすい眼科情報処理プログラムおよび眼科装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様に係る眼科情報処理プログラムは、眼科情報処理プログラムであって、眼科装置のプロセッサによって実行されることによって、被検眼の第1解析領域における被検眼の3次元OCTデータを解析することによって生成された、第1解析マップを取得する第1取得ステップと、少なくとも一部に前記第1解析領域とXY方向に関して重複する重複領域を有する被検眼の第2解析領域における被検眼の3次元OCTデータを解析することによって生成された、第2解析マップを取得する第2取得ステップと、前記第1解析マップと前記第2解析マップとを重ね合わせる重畳ステップと、を前記眼科装置に実行させ、前記重畳ステップでは、前記重複領域における前記第1解析マップと前記第2解析マップとの解析結果に応じて、前記第1解析マップと前記第2解析マップとのいずれかが前記重複領域において優先的に視認されるように、前記第1解析マップと前記第2解析マップとを重ね合わせる。
【0007】
本開示の第2態様に係る眼科装置は、上述の眼科情報処理プログラムを実行する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、被検眼の複数の部位に対応する解析結果をユーザーに適切に把握させやすい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施例の概略を示すブロック図である。
図2】OCTデバイスの光学系の一例を示す図である。
図3】本実施例の装置の動作の流れを示すフローチャートである。
図4A】眼底に対する3次元OCTデータの取得範囲を示す図である。
図4B】3次元OCTデータの取得範囲と、解析領域の関係を示す図である。
図5】疾患種別として緑内障が選択された場合における、統合解析マップの生成手法(第1解析マップと第2解析マップの重ね合わせ方)を示した図である。
図6図5に示した統合解析マップの表示例である。
図7】疾患種別として黄斑疾患が選択された場合における、統合解析マップの生成手法(第1解析マップと第2解析マップの重ね合わせ方)を示した図である。
図8図7に示した統合解析マップの表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「概要」
以下、本開示を、実施形態に基づいて説明する。実施形態に係る眼科情報処理プログラムは、眼科装置のプロセッサによって実行されることにより、以下の各ステップが眼科装置によって実行され、被検眼の3次元OCTデータに基づく解析マップが処理される。
【0011】
本実施形態に係る眼科装置は、少なくとも、第1取得ステップと、第2取得ステップと、重畳ステップと、を眼科情報処理プログラムに基づいて実行する。
【0012】
眼科装置は、第1取得ステップにおいて、第1解析マップを取得する。同様に、眼科装置は、第2取得ステップにおいて、第2解析マップを取得する。第1解析マップは、被検眼の第1解析領域における被検眼の3次元OCTデータを解析することに生成される。第2解析マップは、被検眼の第2解析領域における被検眼の3次元OCTデータを解析することによって生成される。本実施形態において、第2解析領域は、少なくとも一部に、第1解析領域とXY方向(つまり、深さ方向と交差する方向)に関して重複する重複領域を有する。換言すれば、第1解析領域と第2解析領域とは少なくとも一部がXY方向に関して重複する。なお、第1解析領域と第2解析領域とは、必ずしもZ方向に関して重複している必要は無い。
【0013】
第1取得ステップおよび第2取得ステップでは、それぞれ、3次元OCTデータに対する解析処理が実行された結果として、第1解析マップおよび第2解析マップが生成され、取得されてもよい。また、例えば、第1取得ステップおよび第2取得ステップでは、それぞれ、眼科装置とは別体の装置によって生成された第1解析マップおよび第2解析マップが、眼科装置の記憶部へ記憶されても良い。なお、それぞれの解析マップは、例えば、位置毎のスコア(解析結果)の2次元分布を可視化したヒートマップであってもよい。
【0014】
眼科装置は、重畳ステップにおいて、第1解析マップと第2解析マップとを重ね合わせる。眼科装置は、重畳ステップにおいて、重複領域における第1解析マップと第2解析マップとの解析結果に応じて、第1解析マップと第2解析マップとの一方が重複領域において優先的に視認されるように、第1解析マップと第2解析マップとを重ね合わせる。
【0015】
本実施形態では、被検眼上における第1解析領域と第2解析領域との位置関係に応じて、第1解析マップおよび第2解析マップを位置合わせした場合に、第1解析領域と第2解析領域との重複領域において2つの解析マップが重なる部分が生じる。但し、本実施形態では、2つの解析マップを重ね合わせる順序が固定されていない。重複領域における第1解析マップと第2解析マップとの解析結果に応じて、第1解析マップと第2解析マップとの一方が重複領域において優先的に視認されるように、第1解析マップと第2解析マップとが重ね合わせられる。よって、本実施形態によれば、被検眼の複数の部位に対応する解析結果をユーザーに適切に把握させやすい。
【0016】
便宜上、第1解析マップと第2解析マップとを重ね合わせることによって両者を統合したマップを、統合解析マップと称する。統合解析マップは、眼底の正面画像に更に重畳されて、表示されてもよい。
【0017】
本実施形態において、眼科装置は、重畳ステップにおいて、第1解析マップと第2解析マップとのうち優先的に視認させる解析マップを、重複領域内の位置毎に設定してもよい。これにより、例えば、第1解析マップと第2解析マップのそれぞれにおいてユーザーが注視すべき箇所を、重複領域において漏れなく表示できる。ただし、必ずしもこれに限定されるものではなく、重複領域全体が、第1解析マップと第2解析マップとのいずれか一方のみを用いて表示されてもよい。
【0018】
それぞれの解析マップは、3次元OCTデータに基づく計測値(実測値)の2次元分布を示すものであってもよいし、計測値と正常眼データとの比較結果を示すものであってもよい。3次元OCTデータに基づく計測値は、組織の厚み、密度、および、形状、等の少なくともいずれかに関するものであり得る。例えば、解析マップは、被検眼の組織の厚みマップ(具体例としては、眼底の層厚マップ、角膜厚マップ等)であってもよいし、密度マップ(具体例としては、血管密度マップ、細胞密度マップ等)であってもよいし、曲率マップ(トポグラフィー)であってもよいし、高さマップ(エレベーションマップ)であってもよいし、あるいは、ここ挙げたもの以外の、層厚情報の2次元分布、あるいは、血管情報の2次元分布を示すものであってもよい。正常眼データは、3次元OCTデータに基づく計測値についての正常眼における統計データであってもよい。比較結果は、計測値(実測値)と正常眼データとの乖離の程度を示す情報であってもよく、例えば、差分、割合(例えば、パーセンタイル)、および、偏差値等のいずれかによって表現されてもよい。また、解析マップは、計測値または上記比較結果における経時変化の2次元分布を示すものであってもよい。なお、解析マップの元となる3次元OCTデータは、被検眼の(XY方向に関する2次元領域に更に深さ方向を加えた)3次元領域における反射強度を示すものであってもよいし、3次元モーションコントラストデータであってもよい。モーションコントラストデータは、同一位置で異なる時間に取得された複数のOCTデータを処理することで取得される。
【0019】
それぞれの解析マップが、3次元OCTデータに基づく計測値と正常眼データとの比較結果を示すものである場合、眼科装置は、重畳ステップでは、第1解析マップと第2解析マップとにおいて重複領域と対応する箇所を、第1解析マップと第2解析マップとのうち正常眼データとの乖離がより大きな一方が優先的に視認されるように、第1解析マップと第2解析マップとを重ね合わせてもよい。
【0020】
また、それぞれの解析マップが、それぞれ正常眼データとの比較結果を示すものである場合、眼科装置は、重畳ステップでは、重複領域における重ね合わせの優先順序を、疾患種別に応じて変更してもよい。疾患種別は、例えば、ユーザーの操作に基づいて選択されてもよい。これにより、疾患種別に応じて適切に重ね合わせられた解析マップを介して、ユーザーは解析結果を把握できる。
【0021】
例えば、それぞれの解析マップが、層厚に関して正常眼データとの比較結果を示すものであって、疾患種別が緑内障である場合では、第1解析マップと第2解析マップとのうちより菲薄化度合いが大きないずれかがが重複領域において優先的に視認されるように重ね合わせられてもよい。これにより、緑内障が進行している可能性がある領域の位置を、ユーザーが適切に把握しやすい。なお、この場合において、第1解析マップは、黄斑を中心とする網膜浅層の層厚に関する解析マップであって、第2解析マップは、乳頭を中心とする神経線維層の層厚に関する解析マップであることが望ましい。
【0022】
また、例えば、それぞれの解析マップが、層厚に関して正常眼データとの比較結果を示すものであって、疾患種別が黄斑疾患である場合では、第1解析マップと第2解析マップとのうちより肥厚化度合いが大きないずれかがが重複領域において優先的に視認されるように重ね合わせられてもよい。これにより、黄斑疾患に伴い浮腫、剥離、新生血管等が生じている可能性がある領域の位置を、ユーザーが適切に把握しやすい。なお、この場合において、第1解析マップおよび第2解析マップは、網膜全層の解析マップであってもよい。
【0023】
「実施例」
以下、眼科装置および眼科情報処理プログラムの一実施例を、図面を用いて説明する。なお、以下では、眼科装置として、OCT解析装置1を一例として説明する。図1に示すOCT解析装置1は、OCTデバイス10によって取得されたOCTデータを解析処理する。
【0024】
図1に示すように、OCT解析装置1は、例えば、制御部70を備える。制御部70は、例えば、一般的なCPU(Central Processing Unit)71、ROM72、RAM73、等で実現される。
ROM72には、例えば、OCTデータを処理するための解析処理プログラム、OCTデバイス10の動作を制御してOCTデータを得るためのプログラム、初期値等が記憶される。RAM73は、例えば、各種情報を一時的に記憶する。
【0025】
図1に示すように、制御部70には、例えば、記憶部(例えば、不揮発性メモリ)74、操作部76、および表示部75等が電気的に接続されている。記憶部74は、例えば、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、着脱可能なUSBメモリ等を記憶部74として使用してもよい。
【0026】
操作部76には、検者による各種操作指示が入力される。操作部76は、入力された操作指示に応じた信号をCPU71に出力する。操作部76には、例えば、マウス、ジョイスティック、キーボード、タッチパネル等の少なくともいずれかのユーザーインターフェイスを用いてもよい。
【0027】
表示部75は、装置1の本体に搭載されたディスプレイであってもよいし、本体に接続されたディスプレイであってもよい。例えば、パーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)のディスプレイを用いてもよい。表示部75は、例えば、OCTデバイス10によって取得されたOCTデータ、および、OCTデータに対する解析処理の結果等を表示する。
【0028】
なお、本実施例のOCT解析装置1には、例えば、OCTデバイス10が接続されている。なお、OCT解析装置1は、例えば、OCTデバイス10と同一の筐体に収納された一体的な構成であってもよいし、別々の構成であってもよい。制御部70は、接続されたOCTデバイス10からOCTデータを取得してもよい。制御部70は、OCTデバイス10によって取得されたOCTデータを、記憶媒体を介して取得してもよい。
【0029】
<OCTデバイス>
以下、図2に基づいてOCTデバイス10の概略を説明する。例えば、OCTデバイス10は、被検眼Eに測定光を照射し、その反射光と参照光とのスペクトル干渉信号を取得する。スペクトル干渉信号に対して所定の処理が行われることで、OCTデータが生成され、取得される。OCTデバイス10は、例えば、OCT光学系100を主に備える。
【0030】
<OCT光学系>
OCT光学系100は、被検眼Eに測定光を照射し、その反射光と参照光とのスペクトル干渉信号を検出する。OCT光学系100は、例えば、測定光源102と、カップラー(光分割器)104と、測定光学系106と、参照光学系110と、検出器120等を主に備える。なお、OCT光学系の詳しい構成については、例えば、特開2015-131107号を参考にされたい。
【0031】
OCT光学系100は、いわゆる光断層干渉計(OCT:Optical coherence tomography)の光学系である。OCT光学系100は、測定光源102から出射された光をカップラー104によって測定光(試料光)と参照光に分割する。分割された測定光は測定光学系106へ、参照光は参照光学系110へそれぞれ導光される。測定光は測定光学系106を介して被検眼Eの眼底Efに導かれる。その後、被検眼Eによって反射された測定光と,参照光との合成による干渉光を検出器120に受光させる。
【0032】
測定光学系106は、例えば、走査部(例えば、光スキャナ)108を備える。走査部108は、例えば、眼底上でXY方向(横断方向)に測定光を走査させるために設けられてもよい。走査部108は、OCTデータの撮影範囲を変更させるために利用されてもよい。例えば、CPU71は、設定された走査位置情報に基づいて走査部108の動作を制御し、検出器120によって検出されたスペクトル干渉信号に基づいて眼底のOCTデータを取得する。参照光学系110は、眼底Efでの測定光の反射によって取得される反射光と合成される参照光を生成する。参照光学系110は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであっても良い。
【0033】
検出器120は、測定光と参照光との干渉状態を検出する。フーリエドメインOCTの場合では、干渉光のスペクトル強度が検出器120によって検出され、スペクトル強度データに対するフーリエ変換によって所定範囲における深さプロファイル(Aスキャン信号)が取得される。また、眼底Ef上で、測定光を1つのスキャンラインに沿って走査することを「Bスキャン」と呼ぶ。1回のBスキャンによって、眼底の2次元OCTデータが得られる。複数のスキャンラインに対する測定光の走査に基づいて、眼底の3次元OCTデータが得られる。3次元OCTデータは、例えば、ラスタスキャンに基づいて取得されてもよい。
【0034】
なお、OCTデバイス10として、例えば、Spectral-domain OCT(SD-OCT)、Swept-source OCT(SS-OCT)、Time-domain OCT(TD-OCT)等が用いられてもよい。
【0035】
<正面撮影光学系>
正面撮影光学系200は、例えば、被検眼Eの眼底Efを正面方向(例えば、測定光の光軸方向)から撮影し、眼底Efの正面画像を得る。正面撮影光学系200は、例えば、走査型レーザ検眼鏡(SLO)の装置構成であってもよいし(例えば、特開2015-66242号公報参照)、いわゆる眼底カメラタイプの構成であってもよい(特開2011-10944参照)。なお、正面撮影光学系200としては、OCT光学系100によって兼用されてもよく、検出器120からの検出信号に基づいて正面画像が取得されてもよい。
【0036】
<固視標投影部>
固視標投影部300は、眼Eの視線方向を誘導するための光学系を有する。投影部300は、眼Eに呈示する固視標を有し、眼Eを誘導できる。例えば、固視標投影部300は、可視光を発する可視光源を有し、固視標の呈示位置を2次元的に変更させる。これによって、視線方向が変更され、結果的にOCTデータの取得部位が、眼底上で変更される。
【0037】
<動作説明>
次に、図3図8を参照して、OCT解析装置1による動作の流れを説明する。
【0038】
<3次元OCTデータ、および、眼底正面画像の取得>
本実施例において、OCT解析装置1は、被検眼の3次元OCTデータとして、眼底の3次元OCTデータを取得する(S1)。また、眼底の3次元OCTデータと対応する眼底正面画像を取得する(S2)。眼底の3次元OCTデータにおけるXY方向の各位置は、眼底正面画像上の各位置と対応付けられている。図4Aに示すように、本実施例において、OCTデバイス10は、眼底上の広域領域Awを対象としてラスタスキャンを実行する。本実施例における広域領域Awは、所定の固視位置を基準とした所定のサイズの領域である。結果、広域領域Awにおける3次元OCTデータが撮影される。また、正面撮影光学系200では、広域領域Awを含む眼底の正面画像が撮影される。OCTデバイス10によって撮影された3次元OCTデータ、および、正面撮影光学系200によって撮影された眼底正面画像は、それぞれ、OCT解析装置1へ転送される。
【0039】
図4Bに示すように、広域領域Awは、後述の第1解析領域Amと第2解析領域Adとを含むように設定される。本実施例において、第1解析領域Amは、中心窩を中心として設定される。また、第2解析領域Adは、乳頭を中心として設定される。中心窩、乳頭の位置は、例えば、画像処理によって検出されてもよい。中心窩と乳頭との位置の個人差を考慮したサイズとして予め定められている。本実施例では、一例として、広域領域Awは、縦12mm×横15mmの領域であり、第1解析領域Amは、縦9mm×横9mmの領域であり、第2解析領域Adは6mm×横6mmの領域であるものとして説明する。但し、各領域のサイズは、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0040】
<疾患種別の選択>
OCT解析装置1は、疾患種別の選択を受け付ける(S3)。本実施例におけるOCT解析装置1は、疾患種別として、緑内障と、黄斑疾患と、の2つの疾患のうちいずれかを、ユーザーインターフェイスに対する操作入力に基づいて選択可能である。
【0041】
<解析処理>
選択された疾患種別に応じて、OCT解析装置1は、第1解析処理(S4)または第2解析処理(S5)を実行する。それぞれの解析処理において、第1解析マップと第2解析マップとが、S1で取得された3次元OCTデータに基づいて生成される。広域領域Awにおける3次元OCTデータのうち、第1解析領域Amと対応するデータに基づいて第1解析マップが生成される。同様に、第2解析領域Adと対応するデータに基づいて第2解析マップが生成される。本実施例では、解析処理によって層厚が計測される。この場合、OCT解析装置1は、OCTデータに対する画像処理(例えば、セグメンテーション処理)によってOCTデータを層毎に分割処理し、層境界の間隔に基づいて各層の厚み(層厚)を計測してもよい。解析領域における厚みの2次元分布として、眼底の層厚マップが生成される。また、眼底領域における各位置の厚みの計測値が正常眼データと比較されることによって、比較結果の2次元分布として、層厚の正常眼との比較マップが生成される。
【0042】
疾患種別として緑内障が選択された場合、場合、本実施例では、第1解析処理(S4)に基づいて、OCT解析装置1は、第1解析マップとして、GCC(Ganglion Cell Complex)における層厚の正常眼との比較マップを生成する。また、OCT解析装置1は、第2解析マップとして、網膜視神経線維層(RNFL)における層厚の正常眼との比較マップである場合について説明する。この組み合わせによれば、中心窩周辺、および、乳頭周辺、のそれぞれで緑内障によって障害される層領域における正常眼との層厚の違いが、良好に可視化される。なお、GCCは、網膜視神経線維層(RNFL)、神経節細胞層(GCL)、内網上層(IPL)からなる複合的な層領域である。
【0043】
OCT解析装置1は、第1解析マップと第2解析マップとを統合した統合解析マップを生成する(S6)。
【0044】
<疾患種別が緑内障の場合の統合解析マップ>
図5を参照し、疾患種別として緑内障が選択された場合における、解析マップの重ね合わせ手法の概要を説明する。
【0045】
図5では、説明の便宜のための簡略化されたモデルとして、第1解析マップMmを、縦3マス×横3マスの格子領域で表し、第2解析マップMdを、縦2マス×横2マスの格子領域で表す。図5において、第1解析マップMmのうち、重複領域と対応する格子領域は、Mm1,Mm2の2つであり、第2解析マップMdのうち重複領域と対応する格子領域は、Md1,Md2の2つである。Mm1とMd1、Mm2とMd2がそれぞれ重なり合う。なお、統合解析マップMiにおいて、Mm1およびMd1のそれぞれと対応する領域をMi1と記し、Mm2およびMd2のそれぞれと対応する領域をMi2と記す。
【0046】
それぞれの格子領域は、当該格子領域における厚みの計測値と正常眼データとの比較結果に応じた色で表示される。格子領域の色は、正常眼データに基づくパーセンタイル区間であって、厚みの計測値と対応する区間を表している。本実施例では、例えば、正常範囲(例えば、5%から95%の区間)は緑色で表される。また、正常範囲よりも菲薄化した場合(例えば、1%から5%の区間の場合)は黄色、更に菲薄化した場合(例えば、0%から1%の区間)は赤色、でそれぞれ表される。正常眼の区間よりも肥厚化した場合(例えば、95%から99%の区間)は薄黄色、更に肥厚化した場合(例えば、95%から99%の区間)は薄赤色、でそれぞれ表される。
【0047】
まず、第1解析マップMmと第2解析マップMdとの重複領域が同一の色で表現されている場合は、その色を用いて、統合解析マップMiにおいて対応する格子領域が表される。
【0048】
一方、第1解析マップMmと第2解析マップMdとの重複領域が異なる色で表現されている場合が考えられる。疾患種別が緑内障である場合は、第1解析マップMmと第2解析マップMdとのうちより菲薄化度合いが大きないずれかがが重複領域において優先的に視認されるように重ね合わせられる。本実施例では、格子領域毎に、第1解析マップMmと第2解析マップMdとの間における正常眼データに対する乖離が比較され、格子領域毎に重ね合わせが行われる。重なりあう2つの格子領域の間で、互いに色が異なっている場合は、重なりあう2つの格子領域のうち正常範囲に対する菲薄化度合が大きないずれか一方の色を用いて、統合解析マップにおいて対応する格子領域が表される。
【0049】
一例として、図5に示す第1解析マップMmの格子領域Mm1,Mm2の色は、黄,赤であり、第2解析マップMdの格子領域Md1,Md2の色は、赤,緑である場合、統合解析マップにおけるMi1,Mi2の色は、赤,赤で表される。すなわち、格子領域Mm1(黄)と格子領域Md1(赤)とのうち、正常範囲からの乖離がより大きな、格子領域Md1(赤)と同じ色で、Mm1およびMd1と統合解析マップにおいて対応するMi1の色が設定される。同様に、格子領域Mm2(赤)と格子領域Md2(緑)とのうち、正常範囲からの乖離がより大きな、格子領域Mm2(赤)と同じ色で、Mm2およびMd2と統合解析マップMiにおいて対応するMi2の色が設定される。GCCの菲薄化が進行した箇所と、RFNLの菲薄化が進行した箇所と、が重複領域に存在する場合に、統合解析マップにおいて、それぞれを同時にユーザーに把握させることができる。
【0050】
本実施例では、第1解析マップMmを、縦3マス×横3マスの格子領域で表し、第2解析マップMdを、縦2マス×横2マスの格子領域で表した簡略化されたモデルを用いて説明したが、第1解析マップMmおよび第2解析マップMdは、より小さな領域で分割されたうえで、領域毎に上記の重ね合わせが行われても良い。例えば、第1解析マップMmおよび第2解析マップMdとの重複領域において、優先的に視認される解析マップを、画素単位で決定してもよい。
【0051】
また、第1解析マップMmと第2解析マップMdとの位置関係は、被検眼毎に異なり得る。故に、第1解析マップMmと第2解析マップMdとにおける重複領域の位置および大きさは、一定ではなく、被検眼毎に異なり得る。これに対し、眼底正面画像上での各々の解析マップの位置情報に基づいて、重複領域における各々の解析マップ間の対応関係が、重ね合わせに際して事前に特定されてもよい。
【0052】
OCT解析装置1は、統合解析マップMiを眼底正面画像に重畳して表示する(S7,図6参照)。これにより、被検眼の各部位に対応する解析結果が、ユーザーによって適切に把握される。
【0053】
<疾患種別:黄斑疾患>
次に、図7を参照して、疾患種別として黄斑疾患が選択された場合について説明する。この場合、第2解析処理(S5)に基づいて、OCT解析装置1は、第1解析マップMmおよび第2解析マップMdとして、網膜全層の層厚の正常眼との比較マップを生成する。網膜全層の層厚の比較マップは、例えば、黄斑疾患に伴う浮腫、剥離、新生血管等の有無を、正常範囲に対して肥厚化した領域として把握可能である。
【0054】
緑内障の場合と異なり、黄斑疾患の場合は、第1解析マップおよび第2解析マップMdが、同一の層領域および同一の解析対象に関するものであるため、一見すると、第1解析マップおよび第2解析マップMdとのどちらを優先して重ね合わせても、同じ統合解析マップが得られるように思われる。しかしながら、各解析領域を設定するうえで基準となる被検眼の位置の個人差(被検眼毎の個体差)、および、各解析領域に対応する正常眼データの母集団の違い、等が存在する。それ故、重複領域における解析結果がお互いの解析マップの間で異なってしまう場合があり得る。
【0055】
そこで、本実施例において、OCT解析装置1は、疾患種別が黄斑疾患である場合の統合解析マップを生成するうえで(つまり、S6の処理において)、第1解析マップと第2解析マップMdとのうちより肥厚化度合いが大きないずれかがが重複領域において優先的に視認されるように重ね合わせられる。
【0056】
例えば、図7に示す第1解析マップの格子領域Mm1,Mm2の色は、薄黄,緑であり、第2解析マップMdの格子領域Md1,Md2の色は、黄,薄黄である場合、統合解析マップにおけるMi1,Mi2の色は、薄黄,薄黄で表される。これにより、第1解析マップおよび第2解析マップMdのそれぞれにおいて示された黄斑疾患による病変が存在する可能性がある箇所を、統合解析マップにおいて、それぞれを同時にユーザーに把握させることができる。緑内障の場合と同様に、統合解析マップは眼底正面画像に重畳して表示される(S7,図8参照)。
【0057】
<変容例>
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。
【0058】
例えば、上記実施例では、2つの解析マップを重ね合わせる場合について説明したが、3つ以上の解析マップを重ね合わせる場合に対し、上記実施形態で開示された技術が適用されてもよい。
【0059】
また、例えば、解析処理において計測する対象は、層厚に限定されるものではなく、組織の密度、および、形状、等があり得る。また、計測される層領域も、第1解析マップと第2解析マップとのそれぞれで独立に設定され得る。従って、それぞれの解析マップにおける計測対象、および、層領域の組み合わせは、無数に存在し、任意の組み合わせによる統合マップが生成されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 OCT解析装置
10 OCTデバイス
70 制御部
75 表示部

図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8