(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034317
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/16 20170101AFI20240306BHJP
【FI】
C01B32/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138482
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平崎 哲郎
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AD22
4G146AD25
4G146AD28
4G146BA09
4G146BA12
4G146BA48
4G146BC23
4G146BC25
4G146BC26
4G146BC33B
4G146BC42
4G146BC43
(57)【要約】
【課題】径の細いカーボンナノチューブを高い収率で連続的に合成することを可能とする、カーボンナノチューブの製造方法を提供すること。
【解決手段】合金触媒粒子に、少なくとも、二酸化炭素、エチレン及び水素を含む供給ガスを接触させる合成工程を有し、該合金触媒粒子は、Feと、Co及びNiのうちのいずれか一方又は両方と、を含み、該合金触媒粒子中のFe、Co及びNiの合計含有量は、90~100質量%であり、該合金触媒粒子の平均粒子径は、1.0~40nmであり、該供給ガス中、二酸化炭素の割合が25~80体積%であり、エチレン/二酸化炭素が0.125以上1.0未満であり、水素/二酸化炭素が0.125以上1.0未満であり、該供給ガスに対する該供給ガス中の二酸化炭素、エチレン及び水素の合計体積の比が0.60超1.0以下であること、を特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金触媒粒子に、少なくとも、二酸化炭素、エチレン及び水素を含む供給ガスを接触させることにより、カーボンナノチューブを生成させる合成工程を有し、
該合金触媒粒子は、Feと、Co及びNiのうちのいずれか一方又は両方と、を含み、
該合金触媒粒子中のFeの含有量が10~90質量%であり、Co及びNiの合計含有量が10~90質量%であり、
該合金触媒粒子中のFe、Co及びNiの合計含有量は、90~100質量%であり、
該合金触媒粒子の平均粒子径は、1.0~40nmであり、
該供給ガス中、二酸化炭素の割合が25~80体積%であり、エチレンの割合が10体積%以上45体積%未満であり、水素の割合が10体積%以上45体積%未満であり、該供給ガス中の二酸化炭素に対するエチレンの体積比(エチレン/二酸化炭素)が0.125以上1.0未満であり、該供給ガス中の二酸化炭素に対する水素の体積比(水素/二酸化炭素)が0.125以上1.0未満であること、
該供給ガスに対する該供給ガス中の二酸化炭素、エチレン及び水素の合計体積の比が0.60超1.0以下であること、
を特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
該合金触媒粒子中のFe、Co及びNiの合計含有量は、94~100質量%である請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素六角網面のチューブ状物質であって、直径が100nm以下、長さが500nm以上の、アスペクト比が非常に大きいナノカーボン材料である。化学的安定性、優れた柔軟性及び弾性のような特徴により、カーボンナノチューブは、様々な分野、例えば、宇宙航空、燃料電池、Li二次電池、複合材料、生命工学、医薬、電気電子、半導体などにおいて、その製品化及び応用研究が進んでおり、市場拡大を図るため大量生産によるコスト低減が望まれている。
【0003】
カーボンナノチューブの製造方法は、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(以下、CVD(Chemical Vapor Deposition)法という。)等が報告されている。特にCVD法は大量合成、連続合成、高純度化に適した合成方法として注目されている合成法である。
【0004】
CVD法によるカーボンナノチューブの合成は、触媒に炭素源を供給することによって行われる。触媒は、カーボンナノチューブの合成反応に要する活性化エネルギーを低減することで合成を促進する役割を有する。触媒は、供給ガスから炭素を取り入れ、飽和による析出、炭素の取り込みを繰り返すことによりカーボンナノチューブを生成する。また、合成されるカーボンナノチューブの直径は触媒粒子径に依存することが一般に知られている。
【0005】
CVD法においてはカーボンナノチューブの大量生産を実現するために、合成中の触媒失活を抑制することが求められる。触媒失活の原因としては、副生するアモルファスカーボンが触媒表面に付着することの他、触媒粒子のメタルダスティング反応や、オストヴァルト熟成などが挙げられる。メタルダスティング反応は触媒の内部まで炭素が浸漬することにより生じ、これにより触媒粒子が崩壊すると新たに炭素を取り入れることが困難となる。また、オストヴァルト熟成により触媒粒子の粗大化が進行すると、小径で径が揃ったカーボンナノチューブを合成することが困難となる。
【0006】
触媒失活を抑制する方法として、二酸化炭素を少量添加する手法が知られている。例えば、特許文献1には、アセチレンを炭素源としてカーボンナノチューブを製造するとき、0.1~40体積%未満の二酸化炭素を添加することにより、触媒表面に付着するアモルファスカーボンを酸化、除去することで触媒の失活を抑制することが可能となることが開示されている。
【0007】
また、カーボンナノチューブを用いる材料や製品の開発において、カーボンナノチューブの直径が小さいことが要求されるものがある。例えば、Li二次電池導電助剤、透明導電膜、高機能電子デバイス用配線等である。
【0008】
非特許文献1には、炭化水素、水素、15~50体積%の二酸化炭素、及び不活性ガスからなる供給ガスを、Fe、Ni、Coなどの単体の金属触媒上に流通させることで、カーボンナノファイバーを製造することが可能となることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K.nakabayashi,etc,ACS Sustainable Chem Eng,8,3844(2020)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1では、アセチレンの活性が高く触媒の寿命が短いこと、また、二酸化炭素がアモルファスカーボンのみならずカーボンナノチューブも酸化してしまうことといった問題があり、十分に高い収率でカーボンナノチューブを得ることができなかった。
【0012】
また、非特許文献1では、直径100~500nm程度の太いカーボンナノファイバーを合成するに留まっており、直径1.0~50nmの細いカーボンナノチューブを連続的に合成する製造方法は確立されていない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、径の細いカーボンナノチューブを高い収率で連続的に合成することを可能とする、カーボンナノチューブの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、FeとCo及び/又はNiとの合金を触媒として用い、二酸化炭素を所定量存在させた条件であれば、FeとCo及び/又はNiの合金が安定相であるため、合金触媒に対する炭素の浸漬が表面のみに抑えられ、メタルダスティング反応やオストヴァルト熟成などによる触媒失活を抑制できるため、径の細い均一なカーボンナノチューブを高い収率で連続的に製造可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、合金触媒粒子に、少なくとも、二酸化炭素、エチレン及び水素を含む供給ガスを接触させることにより、カーボンナノチューブを生成させる合成工程を有し、
該合金触媒粒子は、Feと、Co及びNiのうちのいずれか一方又は両方と、を含み、
該合金触媒粒子中のFeの含有量が10~90質量%であり、Co及びNiの合計含有量が10~90質量%であり、
該合金触媒粒子中のFe、Co及びNiの合計含有量は、90~100質量%であり、
該合金触媒粒子の平均粒子径は、1.0~40nmであり、
該供給ガス中、二酸化炭素の割合が25~80体積%であり、エチレンの割合が10体積%以上45体積%未満であり、水素の割合が10体積%以上45体積%未満であり、該供給ガス中の二酸化炭素に対するエチレンの体積比(エチレン/二酸化炭素)が0.125以上1.0未満であり、該供給ガス中の二酸化炭素に対する水素の体積比(水素/二酸化炭素)が0.125以上1.0未満であること、
該供給ガスに対する該供給ガス中の二酸化炭素、エチレン及び水素の合計体積の比が0.60超1.0以下であること、
を特徴とするカーボンナノチューブの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、径の細いカーボンナノチューブを高い収率で連続的に合成することを可能とする、カーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例で得られたカーボンナノチューブの外観を示す代表的なSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、合金触媒粒子に、少なくとも、二酸化炭素、エチレン及び水素を含む供給ガスを接触させることにより、カーボンナノチューブを生成させる合成工程を有し、
該合金触媒粒子は、Feと、Co及びNiのうちのいずれか一方又は両方と、を含み、
該合金触媒粒子中のFeの含有量が10~90質量%であり、Co及びNiの合計含有量が10~90質量%であり、
該合金触媒粒子中のFe、Co及びNiの合計含有量は、90~100質量%であり、
該合金触媒粒子の平均粒子径は、1.0~40nmであり、
該供給ガス中、二酸化炭素の割合が25~80体積%であり、エチレンの割合が10体積%以上45体積%未満であり、水素の割合が10体積%以上40体積%未満であり、該供給ガス中の二酸化炭素に対するエチレンの体積比(エチレン/二酸化炭素)が0.125以上1.0未満であり、該供給ガス中の二酸化炭素に対する水素の体積比(水素/二酸化炭素)が0.125以上1.0未満であること、
該供給ガスに対する該供給ガス中の二酸化炭素、エチレン及び水素の合計体積の比が0.60超1.0以下であること、
を特徴とする。
【0019】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、合金触媒粒子に、少なくとも、二酸化炭素、エチレン及び水素を含む供給ガスを接触させることにより、カーボンナノチューブを生成させる合成工程を有する。
【0020】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法に係る合金触媒粒子は、二酸化炭素濃度が高い条件下で合金触媒が安定相となり、触媒失活を抑制することができる観点から、Feと、Fe以外の成分としてCo及びNiの中から選択される1以上の元素を含む。合金触媒粒子としては、例えば、FeCo合金、FeNi合金の二元系合金触媒であってもよいし、FeCoNi合金の三元系合金触媒であってもよい。合金触媒粒子は、Feと、Co及びNiのいずれか一方又は両方と、を含む。つまり、本発明のカーボンナノチューブの製造方法において用いられる合金触媒粒子は、FeとCoを含む合金からなるか、FeとNiを含む合金からなるか、あるいは、FeとCoとNiを含む合金からなる。そして、Feと、Co及びNiのいずれか一方又は両方と含む合金からなる触媒粒子は、Fe単体からなる触媒粒子に比べ、粒子径を小さくできるので、カーボンナノチューブ合成のための触媒として、Feと、Co及びNiのいずれか一方又は両方を含む合金触媒粒子を用いることにより、直径が小さいカーボンナノチューブを得ることができる。また、Feと、Co及びNiのいずれか一方又は両方と含む合金からなる触媒粒子は、Fe単体、Co単体、Ni単体からなる触媒粒子に比べ、10~300倍の収率でカーボンナノチューブを得ることができる。
【0021】
合金触媒粒子中のFeの含有量は、10~90質量%、好ましくは20~80質量%、更に好ましくは30~70質量%である。合金触媒粒子中のFeの含有量が上記範囲にあることによって、二酸化炭素濃度が高い条件下で合金触媒が安定相となり、触媒失活を抑制することができる。なお、安定相とは、ある温度及び圧力下において自由エネルギーが最も低くなる相をいう。
【0022】
合金触媒粒子中のCo及びNiの合計含有量は、10~90質量%、好ましくは20~80質量%、更に好ましくは30~70質量%である。合金触媒粒子中のCo及びNiの合計含有量が上記範囲にあることによって、二酸化炭素濃度が高い条件下で合金触媒が安定相となり、触媒失活を抑制することができる。なお、合金触媒粒子中のCo及びNiの合計含有量とは、FeCo合金触媒粒子の場合はCo含有量を指し、また、FeNi合金触媒粒子の場合はNi含有量を指し、また、FeCoNi合金触媒粒子の場合はCoとNiの含有量の合計を指す。
【0023】
合金触媒粒子中、原子換算で、Fe、Co及びNiの合計モル数に対するFeのモル数の割合((Fe/(Fe+Co+Ni))×100)は、10.5~90.5モル%、好ましくは20.9~80.8モル%、更に好ましくは31.1~71.1モル%である。合金触媒粒子中の原子換算のFe、Co及びNiの合計モル数に対するFeのモル数の割合((Fe/(Fe+Co+Ni))×100)が上記範囲にあることにより、二酸化炭素濃度が高い条件下で合金触媒が安定相となり、触媒失活を抑制することができる。
【0024】
合金触媒粒子中のFe、Co及びNiの合計含有量は、90~100質量%、好ましくは92~100質量%、更に好ましくは94~100質量%である。合金触媒粒子中のFe、Co及びNiの合計含有量が上記範囲にあることによって、二酸化炭素濃度が高い条件下で合金触媒が安定相となり、触媒失活を抑制することができる。また、不純物を減らし、より効率的に合金触媒を作用させる観点から、合金触媒粒子中のFe、Co及びNiの合計含有量は98~100質量%であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0025】
合金触媒粒子の平均粒子径は、1.0~40nm、好ましくは3.0~40nm、更に好ましくは5.0~40nmである。合成工程において、合金触媒粒子の粒子径が小さいほど合成されるカーボンナノチューブの直径が小さくなるので、合金触媒粒子の平均粒子径が上記範囲にあることにより、径の細いカーボンナノチューブを合成することができる。合金触媒粒子の平均粒子径は、例えば、沈殿反応時のpHを調整することにより調節することができる。
【0026】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法に係る合金触媒粒子は、析出沈殿法、液相還元法、スパッタリング法、その他公知の方法を用いて製造される。この内、析出沈殿法とは、金属塩の溶液からなる触媒前駆体に塩基性溶液を加え、難溶性の化合物を析出沈殿させることにより、触媒を製造する方法である。
【0027】
触媒前駆体としては、例えば、酢酸鉄、硝酸鉄からなる群より選択される鉄化合物や、酢酸コバルト、硝酸コバルトからなる群より選択されるコバルト化合物、酢酸ニッケル、硝酸ニッケルからなる群より選択されるニッケル化合物、その他公知の触媒前駆体が用いられる。
【0028】
触媒前駆体に加える塩基性溶液としては、触媒前駆体に対し難溶性の化合物を析出するものであれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムなど公知の塩基性溶液が用いられる。触媒前駆体に塩基性溶液を加えることによって、触媒成分を含む沈殿物を得る。この沈殿物を分離し、好適な条件で乾燥、還元することで、本発明のカーボンナノチューブの製造方法に係る合金触媒粒子を得ることができる。
【0029】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法に係る合金触媒粒子は、支持体の上に担持されていてもよい。支持体とは、合金触媒粒子が担持される固体材料のことである。支持体は、合金触媒粒子を担持することができるものであれば、特に制限されず、セラミックスなど公知の固体材料が用いられる。合金触媒粒子の担持方法としては、含浸法、析出沈殿法、スパッタリング法など公知の方法が用いられる。
【0030】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法に係る合成工程おいては、供給ガスを、合金触媒粒子に接触させることにより、カーボンナノチューブを生成させる。カーボンナノチューブは、炭素が触媒上にチューブ状の構造を作りながら生成、成長することにより生成する。
【0031】
合成工程において、合金触媒粒子に接触させる供給ガスは、少なくとも、二酸化炭素、エチレン及び水素を含む混合ガスである。
【0032】
供給ガスは、二酸化炭素(ガス)を含む。供給ガスに二酸化炭素が含まれることにより、合成工程において副生し触媒表面に付着するアモルファスカーボンが、二酸化炭素により酸化され、除去されるので、触媒失活が有効に抑制される。供給ガス中の二酸化炭素の割合は、25~80体積%、好ましくは30~75体積%、更に好ましくは35~70体積%である。供給ガス中の二酸化炭素の割合が、上記範囲にあることにより、合金触媒は酸化物が炭化物よりも安定相となり易くなるため、触媒失活が有効に抑制され、更にカーボンナノチューブの酸化消耗を抑制することができることから、カーボンナノチューブの収率が高くなる。
【0033】
供給ガスは、エチレン(ガス)を含む。供給ガスがエチレンを含むことにより、カーボンナノチューブの径が小さくなり易くなる。供給ガス中のエチレンの割合は、10体積%以上45体積%未満、好ましくは13~40体積%、更に好ましくは15~35体積%である。供給ガス中のエチレンの割合が、上記範囲にあることにより、径が小さいカーボンナノチューブが得られる。また、供給ガス中のエチレンの割合が、上記範囲にあることにより、反応の活性が低下することや、触媒が炭素に被覆されることを防ぐことができ、十分に高い収率でカーボンナノチューブを得ることができる。
【0034】
供給ガスは、水素(ガス)を含む。供給ガスに水素が含まれることにより、炭化水素同士が反応器内の気相中で反応してアモルファスカーボンが副生することが抑制される。また、水素はキャリアガスとして機能することもできる。供給ガス中の水素の割合は、10体積%以上45体積%未満、好ましくは13~40体積%、更に好ましくは15~35体積%である。供給ガス中の水素の割合が、上記範囲にあることにより、アモルファスカーボンが副生し、触媒がアモルファスカーボンに被覆されることが抑制されるため、カーボンナノチューブの収率が高くなる。また、供給ガス中の水素の割合が、上記範囲にあることにより、エチレン、二酸化炭素の濃度の不足により反応活性が低下することを防ぐことができるため、カーボンナノチューブの収率が高くなる。
【0035】
供給ガスは、不活性ガスを含んでいてもよい。供給ガスに含まれる不活性ガスは、カーボンナノチューブの生成に影響を与えないものであれば、窒素、アルゴン、ヘリウムなど公知の不活性ガスが挙げられる。なお、二酸化炭素はカーボンナノチューブの生成に影響を与えるため、本発明における不活性ガスには含まれない。供給ガスに不活性ガスが含まれることで、不活性ガスはキャリアガスとして機能する。供給ガス中の不活性ガスの割合は、0.0~40体積%、好ましくは0.0~20体積%、更に好ましくは0.0~10体積%である。供給ガス中の不活性ガスの割合が、上記範囲にあることにより、十分な反応活性が保たれ、かつ触媒の失活を抑制することができるためカーボンナノチューブの収率が高くなる。
【0036】
供給ガス中の二酸化炭素に対するエチレンの体積比(エチレン/二酸化炭素)は、0.125以上1.0未満、好ましくは0.20~0.90、更に好ましくは0.30~0.80である。供給ガス中の二酸化炭素に対するエチレンの体積比(エチレン/二酸化炭素)が、上記範囲にあることにより、カーボンナノチューブの径を小さくすることと、収率を高くすることを、両立することができるようになるため、径が小さいカーボンナノチューブが高い収率で得られる。
【0037】
供給ガス中の二酸化炭素に対する水素の体積比(水素/二酸化炭素)は、0.125以上1.0未満、好ましくは0.20~0.90、更に好ましくは0.30~0.80である。供給ガス中の二酸化炭素に対する水素の体積比(水素/二酸化炭素)が、上記範囲にあることにより、カーボンナノチューブの径を小さくすることと、収率を高くすることを、両立することができるようになるため、径が小さいカーボンナノチューブが高い収率で得られる。
【0038】
供給ガス中の二酸化炭素に対するエチレン及び水素の合計の体積比((エチレン+水素)/二酸化炭素)は、好ましくは0.25以上2.0未満、より好ましくは0.40~1.8、更に好ましくは0.60~1.6である。供給ガス中の二酸化炭素に対するエチレン及び水素の合計の体積比((エチレン+水素)/二酸化炭素)が、上記範囲にあることにより、カーボンナノチューブの径を小さくすることと、収率を高くすることを、両立することができる効果が高まるため、径が小さいカーボンナノチューブが高い収率で得られる効果が高まる。
【0039】
前記供給ガス中の供給ガスに対する二酸化炭素、エチレン及び水素の合計体積の比は、0.60超1.0以下、好ましくは0.80~1.0、更に好ましくは0.90~1.0である。供給ガスに対する二酸化炭素、エチレン及び水素の合計体積の比が、上記範囲にあることにより、カーボンナノチューブの径を小さくすることと、収率を高くすることを、両立することができるようになるため、径が小さいカーボンナノチューブが高い収率で得られる。
【0040】
そして、合成工程では、所定のガスを所定の割合で含む供給ガスを、合金触媒粒子に接触させることにより、合金触媒粒子上で、カーボンナノチューブの合成反応を行い、カーボンナノチューブを生成させる。
【0041】
合成工程において、供給ガスを、合金触媒粒子に接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、合金触媒粒子が担持されている支持体上に、供給ガスを流通させることや、合金触媒粒子を供給ガスで流動させて接触させること、ロータリーキルンで合金触媒粒子を流動させ、供給ガスを接触させること等が挙げられる。
【0042】
合成工程において、合金触媒粒子に供給ガスを接触させて、カーボンナノチューブの合成反応を行うときの反応温度は、特に制限されないが、触媒の活性を維持する観点から、好ましくは500℃以上、より好ましくは550℃以上、更に好ましくは600℃以上であり、また、供給ガスが熱分解して煤になることを防止する観点から、850℃以下が好ましい。支持体に担持されている合金触媒粒子を用いる場合、支持体を上記反応温度に加熱することにより、カーボンナノチューブの合成反応の反応温度を制御することができる。また、CVD法の場合、反応炉の温度を制御することにより、カーボンナノチューブの合成反応の反応温度を制御することができる。
【0043】
合金触媒粒子に供給ガスを接触させて、カーボンナノチューブの合成反応を行うときの反応時間は、すなわち、合金触媒粒子に供給ガスを接触させている時間は、カーボンナノチューブの長さをどの程度にするかの目的に応じて適宜選択され、反応時間が長くなるほど得られるカーボンナノチューブの長さは長くなる。また、合金触媒粒子に供給ガスを接触させて、カーボンナノチューブの合成反応を行うときの供給ガスの圧力は、適宜好ましい条件が選択される。
【0044】
また、本発明のカーボンナノチューブの製造方法においては、合成工程を、熱CVD法により行うことがより好ましい。CVD法は、気体、又は液体原料を気化し、その蒸気の気相中、或いは基材表面での化学反応により薄膜を形成する方法であり、中でもこの化学反応を起こさせるエネルギーを、基材や反応容器壁から熱エネルギーの形で与えるものが熱CVD法として知られている。具体的には、合金触媒粒子が担持されている支持体を加熱することで合金触媒粒子を高温化した上で、供給ガスを供給し、カーボンナノチューブの合成反応を行うことが好ましい。
【0045】
支持体を加熱する方法は、直接加熱又は間接加熱に限定されず、誘導加熱、輻射加熱、レーザー加熱、赤外・遠赤外加熱、マイクロ波加熱、プラズマ加熱、表面プラズモン加熱、その他公知の方法を好適に用いて、支持体を加熱することができる。中でも高温に加熱された加熱炉内に支持体を配置する手段を用いることが容易で好ましい。
【0046】
合成工程では、合金触媒粒子上に、径の細いカーボンナノチューブが高い収率で連続的に合成される。そして、合成工程を行った後は、得られたカーボンナノチューブを、公知の方法を用いて適宜分離、回収すればよい。
【0047】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法を行い得られるカーボンナノチューブの平均直径(外径)は、1.0~50nm、好ましくは10~50nm、更に好ましくは20~50nmである。また、本発明のカーボンナノチューブの製造方法を行い得られるカーボンナノチューブの平均長さは、500nm~50mm、好ましくは500nm~5.0mm、更に好ましくは500nm~500μmである。なお、本発明において、カーボンナノチューブの平均直径及び平均長さの測定方法については、例えば、電解放出型走査型電子顕微鏡(JEOL社製、JSM-7900F)を用いて、倍率を10万倍に設定して、カーボンナノチューブを観察し、10枚の画像を得、次いで、画像1枚につき直径の測定点を10点任意に選択して測定し、合計100点の直径を測定し、次いで、100点の直径の測定値を算術平均することにより、カーボンナノチューブの平均直径を求め、また、得られる10枚の画像1枚につき長さの測定点を10点任意に選択して測定し、合計100点の長さを測定し、次いで、100点の長さの測定値を算術平均することにより、カーボンナノチューブの平均長さを求める。また、本発明において、カーボンナノチューブの直径は、中空構造のカーボンナノチューブの外径を意味する。
【0048】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法を行い得られるカーボンナノチューブの結晶性は、ラマン分光法など、公知の方法を用いて評価される。ラマン分光法による結晶性の評価においては、D/Gの値が指標として用いられる。D/Gとは、ラマン分光法において、1580cm-1付近に現れるGバンドのピーク強度に対する、1360cm-1付近に現れるDバンドのピーク強度の比である。D/Gの値が小さいほど、カーボンナノチューブの結晶性が高いことを意味する。本発明のカーボンナノチューブの製造方法を行い得られるカーボンナノチューブの結晶性を示すD/Gの値は1.5以下であることが好ましく、0.10~1.5がより好ましい。
【0049】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法では、高い収率でカーボンナノチューブを合成することができる。このとき、反応収率は、使用した合金触媒粒子の質量と、生成したカーボンナノチューブの質量を基準として、下記式に基づいて計算される。
カーボンナノチューブの反応収率(倍)=生成したカーボンナノチューブの質量(g)/使用した合金触媒の質量(g)
反応収率は、製造されたカーボンナノチューブを常温で回収して、その質量を電子天秤などによって測定することで算出できる。本発明のカーボンナノチューブの製造方法の好ましい実施形態においては、5.0倍~300倍の反応収率を達成することができ、より好ましい実施形態においては10倍~300倍の反応収率を達成することができる。
【実施例0050】
本発明を以下の実施例を用いて詳細に説明する。
【0051】
(実施例1)
(1)合金触媒粒子の製造
酢酸鉄:0.05mol/L、酢酸コバルト:0.05mol/Lの水溶液に炭酸水素アンモニウム:0.08mol/Lを加え沈殿させた。遠心分離機(Himac社製、CR22GII)にて5000rpm、10分間遠心分離を行い、沈殿物と水溶液を分離させた。沈殿物を乾燥機にて80℃12時間乾燥させた。沈殿物をアルゴン:水素(体積比)=20:1の混合ガス、合計300mL/分の気流中、500℃20時間保持して還元処理を行い、合金触媒粒子を製造した。
得られた合成触媒粒子の平均粒子径は25nmであった。合成触媒粒子の平均粒子径の測定については、電解放出型走査型電子顕微鏡(JEOL社製、JSM-7900F)にて倍率を10万倍に設定し、視野を任意に選択して10枚の画像を得た。画像1枚につき直径の測定点を10点任意に選択して測定し、合計100点の直径を測定した。測定結果の平均値を算出して合成触媒粒子の平均粒子径とした。
【0052】
(2)カーボンナノチューブの合成反応
石英ボードに合金触媒を0.01g担持させ、アルゴン:水素(体積比)=20:1の混合ガス気流中、650℃2時間保持して還元処理を行い、次いで、供給ガス(二酸化炭素50体積%、エチレン25体積%、水素25体積%)の300ml/分の気流中、650℃1時間保持してカーボンナノチューブを製造した。
【0053】
(3)カーボンナノチューブの評価
使用した合金触媒の質量と、生成したカーボンナノチューブの質量から、下記式に基づいてカーボンナノチューブの収率を計算した。
カーボンナノチューブの反応収率(倍)=生成したカーボンナノチューブの質量(g)/使用した合金触媒の質量(g)
また、電解放出型走査型電子顕微鏡(JEOL社製、JSM-7900F)にて倍率を10万倍に設定し、視野を任意に選択して10枚の画像を得た。画像1枚につき直径の測定点を10点任意に選択して測定し、合計100点の直径を測定した。測定結果の平均値を算出してカーボンナノチューブの平均直径とした。
また、ラマン分光装置(堀場製作所社製、HR-800)にて、励起光源としてYAGレーザー(波長532nm)を用い、出力100mWで測定したときに、得られたスペクトルにおいてベースライン補正をし、1360cm-1付近に現れるDバンドと、1580cm-1付近に現れるGバンドをピーク分離し、各バンドのピーク強度を求めることによって、ピーク強度比D/Gの値を算出した。
【0054】
実施例1において、収率は25倍、直径は37nm、D/Gは1.1であった。この結果から、FeCo合金触媒を用いることで、二酸化炭素を主成分とした場合でも、高い収率で50nm以下の径の細いカーボンナノチューブが得られることが確認された。
【0055】
(実施例2~5)
供給ガスの成分割合と、合金触媒粒子の成分割合を変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~5のカーボンナノチューブを製造し、評価した。
【0056】
結果、いずれの実施例においても、5.0倍以上の高い収率で、直径50nm以下の径の細いカーボンナノチューブが得られることが確認された(
図1参照)。このような細い径のカーボンナノチューブは例えば導電性の付与などの用途に好適に使用できると考えられる。実施例1~5の各条件と得られた結果を表1及び表2に示した。
【0057】
【0058】
【0059】
(比較例1~5)
供給ガスの成分割合と、合金触媒の成分割合を変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1~5のカーボンナノチューブを製造し、評価した。
【0060】
結果、いずれの比較例においても収率は低く、カーボンナノチューブは殆ど得ることができなかった。比較例1~5の各条件と得られた結果を表3及び表4に示した。
【0061】
【0062】
なお、表1及び表3中、合金触媒粒子のFe含有量、Co含有量、Ni含有量は、合金触媒粒子中のFe、Co、Niのそれぞれの含有量であり、「Fe(Co、Ni)含有量(質量%)=(Fe(Co、Ni)(質量)/合金触媒粒子(質量))×100」で求められる値である。また、Fe+Co+Ni含有量は、合金触媒粒子中のFe、Co及びNiの合計の含有量である。
表1中、合金触媒粒子のFe割合、Co割合、Ni割合は、原子換算で、Fe、Co及びNiの合計モル数に対するFe、Co、Niのそれぞれのモル数の百分率であり、「Fe(Co、Ni)割合(モル%)=(Fe(Co、Ni)(モル)/(Fe+Co+Ni)(モル))×100」で求められる値である。
【0063】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法によれば、径の細い均一なカーボンナノチューブの大量生産が可能であり、製造コストを大きく下げることができる。従って、本発明のカーボンナノチューブの製造方法で製造されるカーボンナノチューブは、エネルギー素材、機能性複合材、医薬、電池、半導体、表示素子など様々な分野に有効に使用可能である。