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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034335
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】試験紙、および試験紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/22 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
G01N31/22 121F
G01N31/22 121P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138513
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000223045
【氏名又は名称】東洋濾紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳林
(72)【発明者】
【氏名】大内 一敏
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA03
2G042BB03
2G042CA02
2G042CB03
2G042DA08
2G042FA12
2G042FB07
2G042FC01
(57)【要約】
【課題】長時間浸漬しても指示薬が溶出せず、水道水等の緩衝性の乏しい液体のpH判定に使用できる試験紙、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の試験紙は、基材と、前記基材に含浸されたアニオン性指示薬およびカチオン化剤とを備え、前記アニオン性指示薬は、クレゾールレッド、ブロモクレゾールグリーン、ブロモチモールブルー、およびフェノールレッドから選択される指示薬であり、前記カチオン化剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリンポリマー、ポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー、およびアミン・エピクロロヒドリンポリマーから選択されるエピクロロヒドリンポリマーであることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に含浸されたアニオン性指示薬およびカチオン化剤とを備え、
前記アニオン性指示薬は、クレゾールレッド、ブロモクレゾールグリーン、ブロモチモールブルー、およびフェノールレッドから選択される指示薬であり、
前記カチオン化剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリンポリマー、ポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー、およびアミン・エピクロロヒドリンポリマーから選択されるエピクロロヒドリンポリマーである
ことを特徴とする試験紙。
【請求項2】
前記アニオン性指示薬の含浸量は、0.10~0.55g/m2である請求項1記載の試験紙。
【請求項3】
前記カチオン化剤の含浸量は、0.03~3.20g/m2である請求項2記載の試験紙。
【請求項4】
カチオン化剤により正電荷を帯びた基材を準備する工程と、
前記正電荷を帯びた基材に、アニオン性指示薬を含有する染色液を含浸させる工程と、
前記染色液を含浸させた基材を乾燥する工程とを備え、
前記カチオン化剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリンポリマー、ポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー、およびアミン・エピクロロヒドリンポリマーから選択されるエピクロロヒドリンポリマーであり、
前記アニオン性指示薬は、クレゾールレッド、ブロモクレゾールグリーン、ブロモチモールブルー、およびフェノールレッドから選択される指示薬であることを特徴とする試験紙の製造方法。
【請求項5】
前記正電荷を帯びた基材は、カチオン化剤を基材に含浸させ、120~140℃で加熱乾燥することにより得られる請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記正電荷を帯びた基材は、カチオン化剤の存在下で抄紙して得られる請求項4記載の製造方法。
【請求項7】
前記染色液における前記アニオン性指示薬の濃度は、0.45~1.83g/Lである請求項4~6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥は、50~70℃で20~60分行うことを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験紙、および試験紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水は、pH緩衝性が乏しいため、従来の試験紙を用いてpHを判定するには、長時間浸漬させて色変化を生じさせる必要がある。しかしながら、従来の試験紙を長時間浸漬すると指示薬が溶出してしまい、pHを判定することが困難であった。
溶出しないノンブリーディング試験紙として、アゾ染料を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。アゾ染料を用いたpH試験紙の呈色のほとんどは、明度と彩度が低いため、色の判別がし難いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭49-39718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、長時間浸漬しても指示薬が溶出せず、水道水等の緩衝性の乏しい液体のpH判定に使用できる試験紙、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド・エピクロロヒドリンポリマー、ポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー、およびアミン・エピクロロヒドリンポリマーから選択されるエピクロロヒドリンポリマーを、アニオン性指示薬とともに基材に含浸させることで、アニオン性指示薬の溶出を抑えて、長時間の浸漬が可能となり、水道水等の緩衝性の乏しい液体のpH判定に使用できる試験紙が得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、基材と、前記基材に含浸されたアニオン性指示薬およびカチオン化剤とを備え、前記アニオン性指示薬は、クレゾールレッド、ブロモクレゾールグリーン、ブロモチモールブルー、およびフェノールレッドから選択される指示薬であり、前記カチオン化剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリンポリマー、ポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー、およびアミン・エピクロロヒドリンポリマーから選択されるエピクロロヒドリンポリマーであることを特徴とする試験紙である。
【0007】
また、本発明は、カチオン化剤により正電荷を帯びた基材を準備する工程と、前記正電荷を帯びた基材に、アニオン性指示薬を含有する染色液を含浸させる工程と、前記染色液を含浸させた基材を乾燥する工程とを備え、前記カチオン化剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリンポリマー、ポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー、およびアミン・エピクロロヒドリンポリマーから選択されるエピクロロヒドリンポリマーであり、前記アニオン性指示薬は、クレゾールレッド、ブロモクレゾールグリーン、ブロモチモールブルー、およびフェノールレッドから選択される指示薬であることを特徴とする試験紙の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長時間浸漬しても指示薬が溶出せず、水道水等の緩衝性の乏しい液体のpH判定に使用できる試験紙、およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の試験紙、および試験紙の製造方法について詳細に説明する。
【0010】
本発明の試験紙は、基材と、基材に含浸されたアニオン性指示薬およびカチオン化剤とを備える。基材の材質としては、例えば、セルロース、レーヨン等が挙げられる。呈色のムラを抑制できることから、基材はセルロースのみからなることが好ましい。基材の厚さは、0.26~1.00mmが好ましく、0.53~1.00mmがより好ましい。基材の大きさは特に限定されず、適宜選択できるが、取り扱い等を考慮すると、310mm×400mm程度とすることが好ましい。
【0011】
基材に含浸されるアニオン性指示薬(以下、単に指示薬とも称する。)は、クレゾールレッド(CR)、ブロモクレゾールグリーン(BCG)、ブロモチモールブルー(BTB)、およびフェノールレッド(PR)から選択される。
【0012】
カチオン化剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリンポリマー(PADEC)、ポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー(PAEC)、およびアミン・エピクロロヒドリンポリマー(AEC)から選択されるエピクロロヒドリンポリマーである。カチオン化剤は、クーロン力によりアニオン性指示薬の溶出を抑制するという作用を有する。
【0013】
本発明の試験紙における指示薬の含浸量は、0.10~0.55g/m2であることが好ましい。指示薬が少なすぎる場合には、呈色が乏しいためにpHの判定が困難となる。一方、指示薬が多すぎる場合には、検液の緩衝能よりも指示薬の緩衝能が高くなって指示薬の色変化が小さくなってしまう。指示薬のより好ましい含浸量は、指示薬に応じて選択される。CRの場合は、0.15~0.20g/m2程度がより好ましく、BCGの場合は、0.22~0.26g/m2程度がより好ましい。BTBの場合は、0.18~0.22g/m2程度がより好ましく、PRの場合は、0.11~0.15g/m2程度がより好ましい。
なお、試験紙における指示薬の含浸量は、次式により求めることができる。
染色に使用した染色液の量:a(L)
染色液中の指示薬の濃度:b1(g/L)
染色した濾紙の面積:c(m
含浸量:d(g/m)=a(L)×b1(g/L)/c(m
【0014】
試験紙におけるカチオン化剤の含浸量は、0.03~3.20g/m2であることが好ましい。カチオン化剤が少なすぎる場合には、指示薬の溶出を抑制することができない。一方、カチオン化剤が多すぎる場合には、呈色時の試験紙のムラが多くなってしまう。カチオン化剤のより好ましい含浸量は、エピクロロヒドリンポリマーに応じて選択される。PADECの場合には、2.80~3.10g/m2程度がより好ましく、PAECの場合には、0.40~0.63g/m2程度がより好ましく、AECの場合には、2.80~3.10g/m2程度がより好ましい。
試験紙におけるカチオン化剤の含浸量は、例えば下記手順により求めることができる。
含浸に使用した含浸液の量:a(L)
含浸液中のカチオン化剤の濃度:b2(g/L)
含浸した濾紙の面積:c(m
含浸量:d(g/m)=a(L)×b2(g/L)/c(m
【0015】
本発明の試験紙は、アニオン性指示薬およびカチオン化剤を基材に含浸させ、乾燥させることにより製造することができる。アニオン性指示薬とカチオン化剤とは、同時に含浸させてもよいが、別々に含浸させた場合には、試験紙の保存安定性が高められる。具体的には、正電荷を帯びた基材を準備し、これにアニオン性指示薬を含有する染色液を含浸させた後、乾燥させる。なお、操作性を向上させるため、所定の寸法とした試験紙を、スティック状のポリエチレンテレフタレート製または塩化ビニル製などのプラスチック製のシート上に両面テープ等を使用して貼付してもよい。各工程について、詳細に説明する。
【0016】
<正電荷を帯びた基材を準備する工程>
正電荷を帯びた基材は、例えば、カチオン化剤を基材に含浸させ、加熱乾燥することにより得ることができる。上述したようなカチオン化剤は、例えば、ディッピング法により基材に含浸させることができる。カチオン化剤が含浸した基材は、送風定温乾燥器等を用いて加熱乾燥することができる。加熱乾燥の温度は120~140℃、時間は30~50分が好ましい。正電荷を帯びた基材には、0.03~3.25g/m2のカチオン化剤が含浸されていることが望まれる。カチオン化剤の含浸量は、ディッピング時間や含侵液のカチオン化剤濃度により制御することができる。
【0017】
正電荷を帯びた基材は、カチオン化剤の存在下で抄紙して得ることもできる。具体的には、濾紙原料のパルプを水中で離解させてスラリーを得る際に、スラリー中にカチオン化剤を添加し、これを抄紙して得ることができる。前述と同様、正電荷を帯びた基材には、0.03~3.25g/m2のカチオン化剤が含浸されていることが望まれる。この場合、カチオン化剤の含浸量は、原料のパルプへ添加する量により制御することができる。
【0018】
<アニオン性指示薬を含有する染色液を含浸させる工程>
正電荷を帯びた基材には、アニオン性指示薬を含有する染色液を含浸させる。染色液は、アニオン性指示薬をアルコール、好ましくはメタノールに溶解して調製することができる。染色液におけるアニオン性指示薬の濃度は、0.45~1.83g/Lであることが好ましい。基材における含浸量が上述した好ましい範囲となるよう、指示薬に応じて染色液の濃度を適宜調節すればよい。
【0019】
アニオン性指示薬を含有する染色液を容器に収容し、正電荷を帯びた基材を5~60秒程度浸漬する。染色液の温度は特に限定されないが、20~40℃程度とすることができる。こうして、正電荷を帯びた基材に、アニオン性指示薬を含有する染色液を含浸させることができる。あるいは、正電荷を帯びた基材に、アニオン性指示薬を含有する染色液を噴霧してもよい。基材におけるアニオン性指示薬の含浸量が0.10~0.55g/m2となるように、染色液の濃度、含浸時間を適宜調節することが望まれる。
【0020】
<乾燥工程>
アニオン性指示薬を含有する染色液を含浸させた基材を、送風定温乾燥器等を用いて乾燥することによって、本発明の試験紙が得られる。乾燥温度は、50~70℃が好ましく、55~65℃がより好ましい。乾燥時間は、乾燥温度により適宜選択することができるが、15~45分が好ましく、20~40分がより好ましい。
【0021】
本発明の試験紙においては、カチオン化剤が基材に含浸されている。このカチオン化剤にアニオン性指示薬が結合することで、アニオン性指示薬の溶出が抑制されるものと推測される。さらに、カチオン化剤との結合によってアニオン性指示薬の構造が変化し、それによって、酸塩基平衡が変化するので発色も変化する。
【0022】
例えば、BTBは、pH6.0~7.6に変色域を有し、黄色から青色に変化する。同様に黄色から青色に変化するBCGは、pH4.0~5.6に変色域を有する。BTBとBCGとは、以下に示すように官能基が違うだけで、変色域が変化する。これと同様に、カチオン化剤が結合してアニオン性指示薬における官能基が変化した際も、変色域が変化するものと推測される。
【0023】
【化1】
【0024】
本発明の試験紙は、カチオン化剤が含浸されているので、アニオン性指示薬の呈色が鮮やかになり、pHを容易に判別することができる。カチオン化剤によってアニオン性指示薬の溶出が抑制されるため、本発明の指示薬は、検液に長時間浸漬することができる。これにより、色変化に時間を要するために長時間浸漬する必要のあった低緩衝能の液(水道水)のpH測定も可能になった。しかも、呈色も鮮やかなため判別しやすい。また、長時間浸漬することで、より低濃度のイオン測定が可能になった。具体的には、本発明の試験紙は、0~250ppm程度の塩素も測定することができる。
【実施例0025】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0026】
<予備試験>
まず、アニオン性色素を含浸させた試験紙を用いて、水道水のpHの判定を試みた。アニオン性色素としては、フェノールレッド(PR、東京化成工業(株)製)を用い、基材としては定性濾紙No.2(東洋濾紙(株)製)を用いた。基材のサイズは、100×300mmである。所定の処方で調製した染色液を含浸させ、60℃で20分間乾燥させて試験紙を得た。染色液2~4については、さらに基材としてクロマトグラフィー用濾紙No.514(東洋濾紙(株)製)を用いて、同様の条件で乾燥させて試験紙を作製した。
用いた染色液の処方を、下記表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
検液としての水道水Aは、NaOHとHClによりpH調整して、pH5.0~pH9.0まで6種類を準備した。pHは、5.0、5.8、6.8、7.6、8.6、9.0とした。
作製された試験紙を、各検液に10秒間振りながら浸漬して、色変化を目視により観察した。その結果、いずれの試験紙もpH5.0~9.0で色変化が小さく、呈色によってpHを判定することは困難であった。
【0029】
以下においては、カチオン化剤をさらに含有する試験紙を用いて、水道水のpH判定を試みた。カチオン化剤としては、ポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー(星光PMC製、WS4010)を用い、前述と同様の基材、乾燥条件で試験紙を作製した。用いた染色液の処方を、下記表2に示す。また、各試験紙における指示薬およびカチオン化剤の含浸量を、下記表3に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
検液としての水道水Bは、NaOHとHClによりpH調整して、pH5.0~pH9.0まで6種類を準備した。pHは、5.0、5.8、6.8、7.6、8.6、9.0とした。
作製された試験紙を、各検液に10秒間振りながら浸漬して、色変化を目視により観察した。その結果、いずれの試験紙も、pH5.0~9.0に変色域は確認されなかった。
【0033】
下記表4に示した処方の染色液を用い、試験紙を作製した。基材、および乾燥条件は、前述と同様である。各試験紙における指示薬、およびカチオン化剤の含浸量を、下記表5にまとめる。
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
検液としての水道水Bは、NaOHとHClによりpH調整して、pH5.0~pH9.0まで6種類を準備した。pHは、5.0、5.8、6.8、7.6、8.6、9.0とした。
作製された試験紙を、各検液に10秒間振りながら浸漬して、色変化を目視により観察した。その結果、染色液9を含浸させた試験紙では、pH7.6と8.6の色の差が確認されず、染色液10を含浸させた試験紙では、pH7.6と8.6の色の差がわずかに確認された。染色液11を含浸させた試験紙、および染色液12を含浸させた試験紙の場合には、pH5.8より高pH側に色変化が認められなかった。
【0037】
下記表6に示した処方の染色液を用い、試験紙を作製した。基材、および乾燥条件は、前述と同様である。各試験紙における指示薬、およびカチオン化剤の含浸量を、下記表7にまとめる。
【0038】
【表6】
【0039】
【表7】
【0040】
検液としての水道水Bは、NaOHとHClによりpH調整して、pH5.0~pH9.0まで6種類を準備した。pHは、5.0、5.8、6.8、7.6、8.6、9.0とした。
作製された試験紙を、各検液に10秒間振りながら浸漬して、色変化を目視により観察した。その結果、染色液13を含浸させた試験紙、および染色液14を含浸させた試験紙は、pH5.0~pH9.0の範囲内で呈色に差が認められた。染色液15を含浸させた試験紙、および染色液16を含浸させた試験紙の場合には、pH7.6より高pH側に差がなかった。
【0041】
下記表8に示した処方の染色液を用い、試験紙を作製した。基材、および乾燥条件は、前述と同様である。各試験紙における指示薬、およびカチオン化剤の含浸量を、下記表9にまとめる。
【0042】
【表8】
【0043】
【表9】
【0044】
検液としての水道水Bは、NaOHとHClによりpH調整して、pH5.0~pH9.0まで6種類を準備した。pHは、5.0、5.8、6.8、7.6、8.6、9.0とした。
作製された試験紙を、各検液に10秒間振りながら浸漬して、色変化を目視により観察した。その結果、pH6.8より低pH側では呈色の差が小さいものの、カチオン化剤の固形分0.12%以上で呈色の差がみられた。
【0045】
下記表10に示した処方の染色液を用い、試験紙を作製した。基材、および乾燥条件は、前述と同様である。各試験紙における指示薬、およびカチオン化剤の含浸量を、下記表11にまとめる。
【0046】
【表10】
【0047】
【表11】
【0048】
検液としての水道水Bは、NaOHとHClによりpH調整して、pH5.0~pH9.0まで6種類を準備した。pHは、5.0、5.8、6.8、7.6、8.6、9.0とした。
作製された試験紙を、各検液に10秒間振りながら浸漬して、色変化を目視により観察した。その結果、全ての試験紙において、pH5.8と6.8との差、pH7.6と8.6との差が小さかった。しかしながら、pH5.0と5.8との差、およびpH8.6と9.0との差は大きいことが確認された。
【0049】
下記表12に示した処方の染色液を用い、試験紙を作製した。基材、および乾燥条件は、前述と同様である。各試験紙における指示薬、およびカチオン化剤の含浸量を、下記表13にまとめる。
【0050】
【表12】
【0051】
【表13】
【0052】
検液としての水道水Bは、NaOHとHClによりpH調整して、pH5.0~pH9.0まで6種類を準備した。pHは、5.0、5.8、6.8、7.6、8.6、9.0とした。
作製された試験紙を、各検液に10秒間振りながら浸漬して、色変化を目視により観察した。その結果、呈色はわずかに異なることが確認された。
【0053】
<試験紙の作製>
(実施例1、比較例1)
指示薬としてフェノールレッド(PR、東京化成工業(株)製)を用い、カチオン化剤としてはポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー(星光PMC製、WS4010)を用いて、試験紙を作製した。基材としては、No.2(東洋濾紙(株)製)を用意した。基材は、100×300mmの大きさである。
まず、カチオン化剤を任意の濃度に水で希釈した液に基材を浸漬することにより、基材にカチオン化剤を含浸させて、正電荷を帯びた基材を得た。
染色液は、0.45g/Lの濃度でPRをメタノールに溶解して調製した。得られた染色液に、正電荷を帯びた基材を5秒程度浸漬した後、60℃の送風定温乾燥器で20分乾燥して、実施例1の試験紙を作製した。実施例1の試験紙においては、指示薬の含浸量は0.13g/m2であり、カチオン化剤の含浸量は0.62g/m2である。
比較例1としては、カチオン化剤を用いない以外は実施例1と同様に作製した試験紙を用意した。
【0054】
(実施例2、比較例2)
指示薬としてブロモチモールブルー(BTB、東京化成工業(株)製)を用い、カチオン化剤としてはポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー(星光PMC製、WS4010)を用いて、試験紙を作製した。基材としては、前述と同様のものを用いた。
まず、カチオン化剤を任意の濃度に水で希釈した液に基材を浸漬することにより、基材にカチオン化剤を含浸させて、正電荷を帯びた基材を得た。
染色液は、0.72g/Lの濃度でBTBをメタノールに溶解して調製した。得られた染色液に、正電荷を帯びた基材を5秒程度浸漬した後、60℃の送風低温乾燥器で20分乾燥して、実施例2の試験紙を作製した。実施例2の試験紙においては、指示薬の含浸量は0.20g/m2であり、カチオン化剤の含浸量は0.62g/m2である。
比較例2としては、カチオン化剤を用いない以外は実施例2と同様に作製した試験紙を用意した。
【0055】
(実施例3、比較例3)
指示薬としてクレゾールレッド(CR、東京化成工業(株)製)を用い、カチオン化剤としてはポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー(星光PMC製、WS4010)を用いて、試験紙を作製した。基材としては、前述と同様のものを用いた。
まず、カチオン化剤を任意の濃度に水で希釈した液に基材を浸漬することにより、基材にカチオン化剤を含浸させて、正電荷を帯びた基材を得た。
染色液は、0.59g/Lの濃度でCRをメタノールに溶解して調製した。得られた染色液に、正電荷を帯びた基材を5秒程度浸漬した後、60℃の送風低温乾燥器で20分乾燥して、実施例3の試験紙を作製した。実施例3の試験紙においては、指示薬の含浸量は0.17g/m2であり、カチオン化剤の含浸量は0.62g/m2である。
比較例3としては、カチオン化剤を用いない以外は実施例3と同様に作製した試験紙を用意した。
【0056】
(実施例4、比較例4)
指示薬としてブロモクレゾールグリーン(BCG、富士フィルム和光純薬(株)製)を用い、カチオン化剤としてはポリアミン・エピクロロヒドリンポリマー(星光PMC製、WS4010)を用いて、試験紙を作製した。基材としては、前述と同様のものを用いた。
まず、カチオン化剤を任意の濃度に水で希釈した液に基材を浸漬することにより、基材にカチオン化剤を含浸させて、正電荷を帯びた基材を得た。
染色液は、0.84g/Lの濃度でBCGをメタノールに溶解して調製した。得られた染色液に、正電荷を帯びた基材を5秒程度浸漬した後、60℃の送風低温乾燥器で20分乾燥して、実施例4の試験紙を作製した。実施例4の試験紙においては、指示薬の含浸量は0.24g/m2であり、カチオン化剤の含浸量は0.62g/m2である。
比較例4としては、カチオン化剤を用いない以外は実施例4と同様に作製した試験紙を用意した。
【0057】
<指示薬の溶出の評価>
実施例1および比較例1の試験紙について、指示薬の溶出を評価した。
試験紙は、5mm角に裁断し、85×5mmのポリエチレンテレフタレート(東レ(株)製 ルミラー)シート上に両面テープ(3M製 4591HH)で貼付して、スティック状とした。こうして得られたスティック6本を、試験管に収容した超純水(5mL)中に入れ、1時間静置した。静置後、試験管内の超純水の吸光度を分光光度計((株)日立ハイテクサイエンス製 U-3900H)により測定した。吸光度が0.05Abs以下であれば、指示薬はほとんど溶出していないとみなされ、吸光度が0.05Absを超える場合には、指示薬が溶出したとみなすことができる。その結果を、下記表14にまとめる。
【0058】
【表14】
【0059】
上記表14に示されるように、カチオン化剤を含有する実施例の試験紙の場合、指示薬はほとんど溶出していない。これに対し、カチオン化剤を含有しない比較例の試験紙では、多量の指示薬が溶出している。カチオン化剤を含有することによって、指示薬の溶出が抑制されることが確認された。
【0060】
<変色域の評価>
試験紙をpH1~13の緩衝液に浸漬し、呈色を調べた。緩衝液は、JIS K8001(1992)をもとに作製した。緩衝液に試験紙を2秒間浸漬した後、直ちに取り出し、試験紙の呈色を調べた。具体的には、分光測色計(KONICA MINOLTA(株)製 CM-26d)を用いて、L*,a*,b*を測定した。
測定値は、目視に近い色の評価のために、SCE(正反射光除去)値を使用した。各緩衝液についてn3測定を行い、平均値を用いてΔE* abで評価した。
【0061】
なお、ΔE* abは、下記で表される。
ΔE* ab(pH(n+1)-pH(n))=((L* pH(n+1)-L* pH(n))2+(a* pH(n+1)-a* pH(n))2+(b* pH(n+1)-b* pH(n))2)1/2
こうして算出されるΔE* abは、pH6.5~13.0でJIS標準色票、マンセル色票の1歩度に相当する色差(JIS S6006,JIS S6007,JIS S6016,JIS S6020,JIS S6028などで色の規格として用いられている)なので、ΔE* abが6.5以上で試験紙の呈色の差が判別しやすいと判断する。
【0062】
実施例1、比較例1の試験紙についての結果を、それぞれ下記表15,表16にまとめる。
【0063】
【表15】
【0064】
【表16】
【0065】
上記表15と表16との比較から、カチオン化剤を添加すると、PRを含有する試験紙で測定可能なpH範囲が狭くなることがわかる。
【0066】
実施例2、比較例2の試験紙についての結果を、それぞれ下記表17,表18にまとめる。
【0067】
【表17】
【0068】
【表18】
【0069】
上記表17と表18との比較から、カチオン化剤を添加すると、BTBを含有する試験紙で測定可能なpH範囲が狭くなることがわかる。
【0070】
実施例3、比較例3の試験紙についての結果を、それぞれ下記表19,表20にまとめる。
【0071】
【表19】
【0072】
【表20】
【0073】
上記表19と表20との比較から、カチオン化剤を添加すると、CRを含有する試験紙で測定可能なpH範囲が広くなることがわかる。
【0074】
実施例4、比較例4の試験紙についての結果を、それぞれ下記表21,表22にまとめる。
【0075】
【表21】
【0076】
【表22】
【0077】
上記表21と表22との比較から、カチオン化剤を添加すると、BCGを含有する試験紙で測定可能なpH範囲が広くなることがわかる。