(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034339
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】木質ボード及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 193/00 20060101AFI20240306BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240306BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240306BHJP
B27N 3/00 20060101ALI20240306BHJP
B27N 3/18 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C09J193/00
C09J11/06
C09J11/08
B27N3/00 C
B27N3/00 D
B27N3/18
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138518
(22)【出願日】2022-08-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 杜史之
(72)【発明者】
【氏名】三田野 竣太
【テーマコード(参考)】
2B260
4J040
【Fターム(参考)】
2B260AA20
2B260BA02
2B260BA18
2B260CA02
2B260CD02
2B260DA11
2B260DA17
2B260EA05
2B260EB02
2B260EB06
4J040BA241
4J040GA15
4J040JA01
4J040JB02
4J040KA16
4J040MA08
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】タンニン系の接着剤を用いた木質ボードにおいて、接着むらを抑制する。
【解決手段】タンニンを主剤として含有し、ヘキサメチレンテトラミン及びグリオキザール樹脂を含有する接着剤を用いて木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つを接着してなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニンを主剤として含有し、ヘキサメチレンテトラミン及びグリオキザール樹脂を含有する接着剤を用いて木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つを接着してなることを特徴とする木質ボード。
【請求項2】
請求項1に記載された木質ボードにおいて、
上記接着剤を用いて上記木質繊維を接着してなり、
上記木質繊維100質量部に対して、上記タンニンを5~15質量部、上記ヘキサメチレンテトラミンを0.6~1.5質量部、及び上記グリオキザール樹脂を0.1~2.0質量部含有していることを特徴とする木質ボード。
【請求項3】
タンニンを主剤として含有し、ヘキサメチレンテトラミン及びグリオキザール樹脂を含有する接着剤を用いて木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つを接着してなる木質ボードを製造する方法であって、
上記接着剤を作製する接着剤作製工程と、
上記接着剤作製工程で作製された接着剤を上記木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つに噴霧し、マット状に成型した後に加熱及び加圧することにより、熱圧プレス工程とを備え、
上記接着剤作製工程は、
上記タンニンを水に溶解させたタンニン水溶液を調製する水溶液調製工程と、
上記水溶液調製工程で調製された上記タンニン水溶液に上記グリオキザール樹脂を添加して混合した後に、上記ヘキサメチレンテトラミンを添加して混合する架橋剤混合工程とを備えることを特徴とする木質ボードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質ボード及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンニンを含有してなるタンニン系の接着剤は、例えば、木質ボードや合板用の接着剤として、従来から研究及び開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、木質系成形材料と、タンニン及びヘキサメチレンテトラミンからなりpH7~13に調整したタンニン系接着剤よりなる結合剤とを混和して混和物とし、その混和物を積層して木質積層マットを形成し、その木質積層マット内に高温水蒸気を浸透させて加熱及び加圧して結合剤を硬化させる、木質複合材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に開示されたタンニン系の接着剤を用いた木質ボードでは、平面視において、例えば、板端部で接着力が相対的に低く、板中央部で接着力が相対的に高いというように、接着むらが発生してしまうので、改善の余地がある。ここで、タンニン系の接着剤を用いた木質ボードにおいて、接着むらが発生する要因としては、架橋剤のヘキサメチレンテトラミンが熱圧プレス下で揮発してしまったり、加熱及び加圧により本硬化させる前にタンニン系の接着剤の一部が硬化してしまったりすることにより、硬化速度及び硬化状態が一定でなくなるので、タンニン系の接着剤の接着力が十分に発現されないためと考えられる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タンニン系の接着剤を用いた木質ボードにおいて、接着むらを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る木質ボードは、タンニンを主剤として含有し、ヘキサメチレンテトラミン及びグリオキザール樹脂を含有する接着剤を用いて木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つを接着してなることを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、接着剤において、タンニン及びヘキサメチレンテトラミンの他に、グリオキザール樹脂を含有しているので、タンニンとヘキサメチレンテトラミンが分解したホルムアルデヒドとの反応確率が低くなり、例えば、室温のような比較的低温でも進むタンニンとホルムアルデヒドとの反応が大幅に遅くなり、硬化反応を安定させることができる。さらに、ヘキサメチレンテトラミンは、グリオキザール樹脂と結合することにより、熱圧プレス下で揮発し難くなる。ここで、グリオキザール樹脂は、相対的に粘度が低いため、相対的に粘度の高いタンニン水溶液と混合させることにより、接着剤の粘度を低下させることができるので、接着剤の噴霧適性を向上させることができる。これにより、木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つに対してタンニン系の接着剤を一定に噴霧して、接着剤の硬化反応も安定させることができるので、タンニン系の接着剤を用いた木質ボードにおいて、接着むらを抑制することができる。また、熱圧プレス等で接着剤を硬化させる際には、タンニンとヘキサメチレンテトラミンに起因するホルムアルデヒドとが反応して、タンニンとホルムアルデヒドとの間に架橋構造が形成されるだけでなく、タンニンの水酸基とグリオキザール樹脂のメチロール水酸基とが反応して、タンニンとグリオキザール樹脂との間にも架橋構造が形成される。さらに、グリオキザール樹脂のメチロール基が木質繊維、木質チップ及び木質ストランドを構成するセルロースの水酸基と結合する。これにより、タンニンとの間の架橋点が増えると共に、グリオキザール樹脂とセルロースとが結合するので、木質ボードの耐水性を向上させることができる。
【0009】
上記接着剤を用いて上記木質繊維を接着してなり、上記木質繊維100質量部に対して、上記タンニンを5~15質量部、上記ヘキサメチレンテトラミンを0.6~1.5質量部、及び上記グリオキザール樹脂を0.1~2.0質量部含有していてもよい。
【0010】
上記の構成によれば、木質繊維100質量部に対して、タンニンを5~15質量部、ヘキサメチレンテトラミンを0.6~1.5質量部、及びグリオキザール樹脂を0.1~2.0質量部含有しているので、JIS A5905に規定された吸水厚さ膨張率試験を実施した際に、その吸水厚さ膨張率の板内でのばらつきを抑制することができ、木質ボードの耐水性を具体的に向上させることができる。ここで、木質繊維100質量部に対して、5質量部未満のタンニンを含有する場合、及び木質繊維100質量部に対して0.6質量部未満のヘキサメチレンテトラミンを含有する場合には、耐水性能が低下してしまう。また、木質繊維100質量部に対して、0.1質量部未満のグリオキザール樹脂を含有する場合には、吸水厚さ膨張率の板内でのばらつきが大きくなってしまう。また、木質繊維100質量部に対して、15質量部を超えるタンニンを含有する場合には、グリオキザール樹脂を添加しなくても、十分な耐水性が発現されるため、グリオキザール樹脂の添加による明確な効果が得られなくなってしまう。また、木質繊維100質量部に対して、1.5質量部を超えるヘキサメチレンテトラミンを含有する場合には、JIS A5905で規定されるホルムアルデヒド放散量試験において、F☆☆☆☆の区分を満たさなくなってしまう。また、木質繊維100質量部に対して、2.0質量部を超えるグリオキザール樹脂を含有する場合には、グリオキザール樹脂の添加による吸水厚さ膨張率の板内でのばらつきの抑制効果が頭打ちになってしまう。
【0011】
本発明に係る木質ボードの製造方法は、タンニンを主剤として含有し、ヘキサメチレンテトラミン及びグリオキザール樹脂を含有する接着剤を用いて木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つを接着してなる木質ボードを製造する方法であって、上記接着剤を作製する接着剤作製工程と、上記接着剤作製工程で作製された接着剤を上記木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つに噴霧し、マット状に成型した後に加熱及び加圧することにより、熱圧プレス工程とを備え、上記接着剤作製工程は、上記タンニンを水に溶解させたタンニン水溶液を調製する水溶液調製工程と、上記水溶液調製工程で調製された上記タンニン水溶液に上記グリオキザール樹脂を添加して混合した後に、上記ヘキサメチレンテトラミンを添加して混合する架橋剤混合工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
上記の方法によれば、接着剤作製工程の架橋剤混合工程において、水溶液調製工程で調製されたタンニン水溶液にグリオキザール樹脂を添加して混合した後に、ヘキサメチレンテトラミンを添加して混合するので、タンニンとヘキサメチレンテトラミンが分解したホルムアルデヒドとの反応確率が低くなり、例えば、室温のような比較的低温でも進むタンニンとホルムアルデヒドとの反応が大幅に遅くなり、硬化反応を安定させることができる。さらに、ヘキサメチレンテトラミンは、グリオキザール樹脂と結合することにより、熱圧プレス下で揮発し難くなる。ここで、グリオキザール樹脂は、相対的に粘度が低いため、相対的に粘度の高いタンニン水溶液と混合させることにより、接着剤の粘度を低下させることができるので、接着剤の噴霧適性を向上させることができる。これにより、熱圧プレス工程において、木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つに対してタンニン系の接着剤を一定に噴霧して、接着剤作製工程及び熱圧プレス工程における接着剤の硬化反応も安定させることができるので、タンニン系の接着剤を用いた木質ボードにおいて、接着むらを抑制することができる。また、熱圧プレス等で接着剤を硬化させる際には、タンニンとヘキサメチレンテトラミンに起因するホルムアルデヒドとが反応して、タンニンとホルムアルデヒドとの間に架橋構造が形成されるだけでなく、タンニンの水酸基とグリオキザール樹脂のメチロール水酸基とが反応して、タンニンとグリオキザール樹脂との間にも架橋構造が形成される。さらに、グリオキザール樹脂のメチロール基が木質繊維、木質チップ及び木質ストランドを構成するセルロースの水酸基と結合する。これにより、タンニンとの間の架橋点が増えると共に、グリオキザール樹脂とセルロースとが結合するので、木質ボードの耐水性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タンニンを主剤として含有し、ヘキサメチレンテトラミン及びグリオキザール樹脂を含有する接着剤を用いて木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つを接着してなるので、タンニン系の接着剤を用いた木質ボードにおいて、接着むらを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る木質ボードを構成する接着剤の架橋構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る木質ボードとして試作した木質繊維板(広葉樹繊維)において、グリオキザール樹脂の添加量と吸水厚さ膨張率との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る木質ボードとして試作した木質繊維板(広葉樹繊維)において、グリオキザール樹脂の有無と吸水厚さ膨張率との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る木質ボードとして試作した木質繊維板(針葉樹繊維)において、グリオキザール樹脂の添加量と吸水厚さ膨張率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の各実施形態に限定されるものではない。
【0016】
《第1の実施形態》
図1~
図4は、本発明に係る木質ボード及びその製造方法の第1の実施形態を示している。ここで、
図1は、本実施形態の木質ボードを構成する接着剤の架橋構造を示す模式図である。また、
図2は、本実施形態の木質ボードとして試作した木質繊維板(広葉樹繊維)において、グリオキザール樹脂の添加量と吸水厚さ膨張率との関係を示すグラフである。また、
図3は、本実施形態の木質ボードとして試作した木質繊維板(広葉樹繊維)において、グリオキザール樹脂の有無と吸水厚さ膨張率との関係を示すグラフである。また、
図4は、本実施形態の木質ボードとして試作した木質繊維板(針葉樹繊維)において、グリオキザール樹脂の添加量と吸水厚さ膨張率との関係を示すグラフである。
【0017】
本実施形態の木質ボードは、タンニンを主剤として含有し、ヘキサメチレンテトラミン及びグリオキザール樹脂を含有する接着剤を用いて木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つを接着してなるように構成されている。なお、本実施形態では、タンニン、ヘキサメチレンテトラミン及びグリオキザール樹脂を含有してなる接着剤を例示するが、接着剤中に塩化アンモニウム等の硬化促進剤を含有していてもよい。
【0018】
タンニンは、下記の式(1)のような構造を有し、例えば、アカシアの外樹皮から抽出されるミモザタンニン、ケプラチョの心材から抽出されるケプラチョタンニン、ラジアータパインタンニン等の分子量200~2000程度の縮合型タンニンであり、それらの混合物であってもよい。また、タンニンを抽出する溶媒として、アルカリ水溶液を用いた場合には、タンニンの収率が向上するものの、ホルムアルデヒドとの反応性が失われて、接着力が低下してしまうので、接着剤の原料として適していない。また、タンニンを抽出する溶媒として、温水や熱水を用いた場合には、抽出に必要な時間が長くなるので、タンニンを効率的に抽出することが難しい。そのため、低級アルコール、又は低級アルコールと水系溶剤との混合溶媒を用いてタンニンを抽出することが好ましい。ここで、式(1)において、矢印の指す部分が(例えば、ホルムアルデヒドが反応する)ベンゼン環の反応性が高い部位(
図1における黒丸の部分)である。また、式(1)において、Rは、水素(H)又は水酸基(OH)である。なお、タンニンが抽出される樹種については、特に限定されるものではない。
【0019】
【0020】
ヘキサメチレンテトラミンは、4個の窒素原子がメチレン基によって連結された構造を有する複素環化合物であり、水中でホルムアルデヒド及びアンモニアに分解するものである。なお、ヘキサメチレンテトラミンの代わりに、例えば、ホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)、パラホルムアルデヒド等を用いることができ、それらの混合物を用いてもよい。さらには、ホルムアルデヒドが含まれているユリア樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂、フェノール樹脂等を用いてもよい。すなわち、ユリア樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂、フェノール樹脂等には、余剰のホルムアルデヒドが含まれているので、後述するように、タンニン水溶液とグリオキザール樹脂とを混合した混合水溶液にユリア樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂、フェノール樹脂等を加えて、本実施形態の接着剤とすることもできる。
【0021】
グリオキザール樹脂は、グリオキザールと、尿素及びホルムアルデヒドとを反応させて環状構造の分子形状にしたものであり、下記の式(2)のような基本構造を有している。ここで、式(2)において、Rは、水素(H)又はメチロール基(CH2OH)である。
【0022】
【0023】
上記構成の接着剤は、
図1に示すように、複数のタンニンTの分子又は分子連結体の間において、ヘキサメチレンテトラミン(が分解したホルムアルデヒド)による架橋構造H、及びグリオキザール樹脂による架橋構造Gが形成されて、3次元の網目構造が形成されることにより、木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つを接着して木質ボードを構成するものである。ここで、架橋構造Hは、タンニンT中のベンゼン環とホルムアルデヒドとの間の付加反応及び脱水縮合反応により形成される。また、架橋構造Gは、タンニンT中の水酸基とグリオキザール樹脂のメチロール基との間の脱水縮合反応により形成される。
【0024】
本実施形態の木質ボードは、上記構成の接着剤を用いて木質繊維を接着してなる場合、木質繊維100質量部に対して、タンニンを8~15質量部、ヘキサメチレンテトラミンを0.6~1.5質量部、及びグリオキザール樹脂を0.1~2.0質量部含有している。なお、木質繊維としては、例えば、木材チップ、単板切り屑、合板切り屑、樹皮等の木質系繊維、麻、綱麻、シュロ、ヤシ、ケナフ、コーリャン、竹、麦わら、稲わら、ビートパルプ等の植物系繊維を用いることができ、それらの混合物を用いてもよい。また、本実施形態では、木質ボードとして、上記木質繊維同士を接着して木質繊維板を例示したが、木質チップ同士を接着してなる木質ボード、木質ストランド同士を接着してなる木質ボード、木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも2つの混合物を接着してなる木質ボードであってもよい。
【0025】
次に、本実施形態の木質ボードを製造する方法について説明する、なお、本実施形態の木質ボードの製造方法は、下記の水溶液調製工程、架橋剤混合工程及び硬化促進剤混合工程を含む接着剤作製工程と、熱圧プレス工程とを備える。
【0026】
<<接着剤作製工程>>
<水溶液調製工程>
例えば、60~70℃程度の水に、撹拌しながら乾燥したタンニン粉末を少量ずつ添加することにより、タンニンを温水に溶解して、所定濃度のタンニン水溶液を調製する。なお、本実施形態では、タンニン粉末を温水に溶解してタンニン水溶液を調製する製造方法を例示したが、例えば、モリシマアカシアやアカシアマンギウムの樹皮、ケプラコの心材等から得た抽出成分を濃縮することにより、タンニン水溶液を調製してもよい。
【0027】
<架橋剤混合工程>
上記水溶液調製工程で調製されたタンニン水溶液に、所定量のグリオキザール樹脂を水溶液として添加して混合した後に、所定量のヘキサメチレンテトラミンを水溶液として添加して混合する。
【0028】
<硬化促進剤混合工程>
上記架橋剤混合工程でグリオキザール樹脂及びヘキサメチレンテトラミンが混合された混合液に硬化促進剤として、所定量の塩化アンモニウムを水溶液として添加して混合する。
【0029】
以上のようにして、本実施形態の接着剤を作製することができる。
【0030】
<<熱圧プレス工程>>
上記接着剤作製工程で作製された接着剤を解繊した木質繊維に噴霧し、マット状に成型した後に、加熱及び加圧する。
【0031】
以上のようにして、本実施形態の木質ボードを製造することができる。
【0032】
次に、本実施形態の木質ボードにおいて、具体的に行った実験について説明する。
【0033】
まず、第1の実験として、木質繊維として解繊した南洋材広葉樹の繊維を用い、タンニンとしてミモザタンニンの40質量%水溶液を用い、ヘキサメチレンテトラミンとしてヘキサメチレンテトラミンの40質量%水溶液を用い、グリオキザール樹脂として分子量数百のもので樹脂含有量35~45質量%の水溶液を用い、木質繊維100質量部に対して、タンニンを10質量部、ヘキサメチレンテトラミンを0.8質量部、並びにグリオキザール樹脂を0質量部、0.5質量部、1.0質量部及び1.5質量部の4水準で含有するように、タンニン系の接着剤をそれぞれ準備し、そのタンニン系の接着剤を木質繊維に噴霧し、目標密度800kg/m3として、熱圧プレスの熱板温度180℃、プレス時間3~6分、最大加圧4MPa、目標厚さ3mmで加熱及び加圧した後、150番手で両面を0.15mmずつサンダーして、厚さ2.7mm×縦300mm×横300mmの木質繊維板を試作した。
【0034】
さらに、試作した木質繊維板を縦50mm×横50mmに切り出し、JIS A5905に規定された吸水厚さ膨張率試験に基づいて、20℃±1℃の水中に24時間浸漬した後の吸水厚さ膨張率をそれぞれ測定し、
図2のグラフに示すように、吸水厚さ膨張率の最大値及び最小値を求めた。また、試作した木質繊維板のうち、木質繊維100質量部に対して、グリオキザール樹脂を0質量部、0.5質量部及び1.0質量部の3水準で試作した木質繊維板を縦50mm×横50mmに切り出し、JIS A5905に規定された剥離強さ試験に基づく剥離強さをそれぞれ測定し、その平均値、最大値及び最小値を求めた。
【0035】
上記第1の実験の結果としては、
図2のグラフに示すように、グリオキザール樹脂を添加することにより、吸水厚さ膨張率の最大値が小さくなり、その最大値及び最小値の差が8.0%から1.6%、0.8%、0.4%と小さくなり、JIS A5905でいうMタイプの吸水厚さ膨張率17%以下の耐水性能を満たすと共に、その吸水厚さ膨張率の板内でのばらつきが抑制されることが分かった。また、剥離強さについては、グリオキザール樹脂を添加しない場合、0.4~0.9MPa(平均値0.7MPa)であったものが、グリオキザール樹脂を0.5質量部添加することにより、0.6~0.9MPa(平均値0.7MPa)となり、グリオキザール樹脂を1.0質量部添加することにより、0.8~1.0MPa(平均値0.9MPa)となり、最小値が引き上げられることが分かった。
【0036】
続いて、第2の実験として、木質繊維として解繊した南洋材広葉樹の繊維を用い、タンニンとしてミモザタンニンの40質量%水溶液を用い、ヘキサメチレンテトラミンとしてヘキサメチレンテトラミンの40質量%水溶液を用い、グリオキザール樹脂として分子量数百のもので樹脂含有量35~45質量%の水溶液を用い、木質繊維100質量部に対して、タンニンを5質量部、8質量部及び10質量部の3水準、ヘキサメチレンテトラミンを0.4質量部及び0.6質量部、並びにグリオキザール樹脂を0質量部及び1.0質量部の2水準で含有するように、タンニン系の接着剤をそれぞれ準備し、そのタンニン系の接着剤を木質繊維に噴霧し、目標密度800kg/m3として、熱圧プレスの熱板温度180℃、プレス時間3~6分、最大加圧4MPa、目標厚さ3mmで加熱及び加圧した後、150番手で両面を0.15mmずつサンダーして、厚さ2.7mm×縦300mm×横300mmの木質繊維板を試作した。
【0037】
さらに、試作した木質繊維板を縦50mm×横50mmに切り出し、JIS A5905に規定された吸水厚さ膨張率試験に基づいて、20℃±1℃の水中に24時間浸漬した後の吸水厚さ膨張率をそれぞれ測定し、
図3のグラフに示すように、吸水厚さ膨張率の最大値及び最小値を求めた。また、試作した木質繊維板のうち、木質繊維100質量部に対して、タンニンを8質量部及び10質量部の2水準、ヘキサメチレンテトラミンを0.6質量部、グリオキザール樹脂を0質量部及び1.0質量部の2水準で試作した木質繊維板を縦50mm×横50mmに切り出し、JIS A5905に規定された剥離強さ試験に基づく剥離強さをそれぞれ測定し、その平均値、最大値及び最小値を求めた。
【0038】
上記第2の実験の結果としては、
図3のグラフに示すように、木質繊維100質量部に対して、タンニンを5質量部及びヘキサメチレンテトラミンを0.4質量部含有する場合には、グリオキザール樹脂を1.0質量部添加することにより、吸水厚さ膨張率の最大値が小さくなり、その最大値及び最小値の差が13.0%から10.0%と小さくなることが分かった。また、木質繊維100質量部に対して、タンニンを8質量部及びヘキサメチレンテトラミンを0.6質量部含有する場合には、
図3のグラフに示すように、グリオキザール樹脂を1.0質量部添加することにより、吸水厚さ膨張率の最大値が小さくなり、その最大値及び最小値の差が11.0%から5.6%と小さくなることが分かった。また、木質繊維100質量部に対して、タンニンを10質量部及びヘキサメチレンテトラミンを0.6質量部含有する場合には、
図3のグラフに示すように、グリオキザール樹脂を1.0質量部添加することにより、吸水厚さ膨張率の最大値が小さくなり、その最大値及び最小値の差が6.6%から2.5%と小さくなると共に、吸水厚さ膨張率17%以下の耐水性能を満たすことが分かった。さらに、剥離強さについては、タンニン8質量部において、グリオキザール樹脂を添加しない場合、0.4~0.8MPa(平均値0.6MPa)であったものが、グリオキザール樹脂を1.0質量部添加することにより、1.0~1.1MPa(平均値1.0MPa)となり、最小値が引き上げられることが分かり、また、タンニン10質量部において、グリオキザール樹脂を添加しない場合、0.4~0.6MPa(平均値0.6MPa)であったものが、グリオキザール樹脂を1.0質量部添加することにより、0.5~0.7MPa(平均値0.6MPa)となり、最小値が引き上げられることが分かった。
【0039】
最後に、第3の実験として、木質繊維として解繊したラジアータパインの針葉樹の繊維を用い、タンニンとしてミモザタンニンの40質量%水溶液を用い、ヘキサメチレンテトラミンとしてヘキサメチレンテトラミンの40質量%水溶液を用い、グリオキザール樹脂として分子量数百のもので樹脂含有量35~45質量%の水溶液を用い、木質繊維100質量部に対して、タンニンを13質量部、ヘキサメチレンテトラミンを1.0質量部、並びにグリオキザール樹脂を0質量部、1.0質量部及び2.0質量部の3水準で含有するように、タンニン系の接着剤をそれぞれ準備し、そのタンニン系の接着剤を木質繊維に噴霧し、目標密度800kg/m3として、熱圧プレスの熱板温度180℃、プレス時間3~6分、最大加圧4MPa、目標厚さ3mmで加熱及び加圧した後、150番手で両面を0.15mmずつサンダーして、厚さ2.7mm×縦300mm×横300mmの木質繊維板を試作した。
【0040】
さらに、試作した木質繊維板を縦50mm×横50mmに切り出し、JIS A5905に規定された吸水厚さ膨張率試験に基づいて、20℃±1℃の水中に24時間浸漬した後の吸水厚さ膨張率をそれぞれ測定し、
図4のグラフに示すように、吸水厚さ膨張率の最大値及び最小値を求めた。
【0041】
上記第3の実験の結果としては、
図4のグラフに示すように、グリオキザール樹脂を添加することにより、吸水厚さ膨張率の最大値が小さくなり、その最大値及び最小値の差が4.2%から1.8%、1.6%と小さくなり、グリオキザール樹脂を2.0質量部添加する場合、吸水厚さ膨張率17%以下の耐水性能を満たすことが分かった。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の木質ボード及びその製造方法によれば、接着剤作製工程の架橋剤混合工程において、水溶液調製工程で調製されたタンニン水溶液にグリオキザール樹脂を添加して混合した後に、ヘキサメチレンテトラミンを添加して混合するので、タンニンとヘキサメチレンテトラミンが分解したホルムアルデヒドとの反応確率が低くなり、例えば、室温のような比較的低温でも進むタンニンとホルムアルデヒドとの反応が大幅に遅くなり、硬化反応を安定させることができる。さらに、ヘキサメチレンテトラミンは、グリオキザール樹脂と結合することにより、熱圧プレス下で揮発し難くなる。ここで、グリオキザール樹脂は、相対的に粘度が低いため、相対的に粘度の高いタンニン水溶液と混合させることにより、接着剤の粘度を低下させることができるので、接着剤の噴霧適性を向上させることができる。これにより、熱圧プレス工程において、木質繊維、木質チップ及び木質ストランドの少なくとも1つに対してタンニン系の接着剤を一定に噴霧して、接着剤作製工程及び熱圧プレス工程における接着剤の硬化反応も安定させることができるので、タンニン系の接着剤を用いた木質ボードにおいて、接着むらを抑制することができる。また、熱圧プレス等で接着剤を硬化させる際には、タンニンとヘキサメチレンテトラミンに起因するホルムアルデヒドとが反応して、タンニンとホルムアルデヒドとの間に架橋構造が形成されるだけでなく、タンニンの水酸基とグリオキザール樹脂のメチロール水酸基とが反応して、タンニンとグリオキザール樹脂との間にも架橋構造が形成される。さらに、グリオキザール樹脂のメチロール基が木質繊維、木質チップ及び木質ストランドを構成するセルロースの水酸基と結合する。これにより、タンニンとの間の架橋点が増えると共に、グリオキザール樹脂とセルロースとが結合するので、木質ボードの耐水性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態の木質ボード及びその製造方法によれば、木質繊維100質量部に対して、タンニンを5~15質量部、ヘキサメチレンテトラミンを0.6~1.5質量部、及びグリオキザール樹脂を0.1~2.0質量部含有しているので、JIS A5905に規定された吸水厚さ膨張率試験を実施した際に、その吸水厚さ膨張率の板内でのばらつきを抑制することができ、木質ボードの耐水性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態の木質ボード及びその製造方法によれば、常温で混合するだけで木質ボードの接着剤として適切な性能が発揮されるので、それぞれの原料を保管するだけで済み、自家縮合等の作業が不必要になり、木質ボードの製造工程の大幅な簡略化を図ることができる。さらに、本実施形態の接着剤によれば、酸性下でタンニンを反応させることができるので、ユリア樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂等の既存の接着剤と混合したり、木質ボードを製造する際に混合せずに併用したりして用いることができる。
【0045】
また、本実施形態の木質ボード及びその製造方法によれば、接着剤において、タンニンとヘキサメチレンテトラミンに起因するホルムアルデヒドとの反応を抑制して、硬化反応を安定させると共に、耐水性を向上させることができるので、木質ボードの耐水性能を向上させることができる。また、木質ボードに成型する前の硬化を抑制することができるので、木質ボードの強度向上、性能安定化及び吸水率の低下を図ることができる。
【0046】
《その他の実施形態》
上記実施形態では、架橋剤の1つとしてヘキサメチレンテトラミンを例示したが、本発明は、ヘキサメチレンテトラミンの代わりに、例えば、ホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)のようなイソシアネート系樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ユリア・メラミン共縮合樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ樹脂等のタンニンと反応可能な化合物を用いた接着剤にも適用することができる。
【0047】
また、上記実施形態では、架橋剤(反応安定化剤)の1つとしてグリオキザール樹脂を例示したが、本発明は、グリオキザール樹脂の代わりに、例えば、エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール等のような適当な長さの分子鎖を有してタンニンの水酸基と反応し架橋点が増える化合物を用いた接着剤にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明は、タンニン系の接着剤を用いた木質ボードにおいて、接着むらを抑制することができるので、極めて有用である。