(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003436
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】連続鋳造機のロール間隔の管理方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/128 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
B22D11/128 310E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102571
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】平岩 琢朗
(72)【発明者】
【氏名】磯部 善充
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 健太郎
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004LA05
(57)【要約】
【課題】機上側でイレギュラーな動きがダミーバーに発生しても、ロール間隔をより精度良く管理可能とする。
【解決手段】ダミーバー7の移動に伴いロール間隔計10が計測した複数の計測データからロール間隔RSを取得すると共に、取得したロール間隔RSに対応する計測時刻を順次取得する。そして、計測時刻に基づき求めた基準ロール対から対象とする支持ロール対までの経過時間と、ダミーバー7の移動速度とから、基準ロール対から対象とする支持ロール対までの移動距離を求め、その移動距離と基準距離との比較から、対象とする支持ロール対のロール間隔RSの妥当性を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対をなす支持ロールからなる支持ロール対が鋳造方向に沿って複数組配置されて、鋳型から引き抜かれる鋳片を上記複数組の支持ロール対で支持案内する連続鋳造機における、各支持ロール対のロール間隔を管理する管理方法であって、
上記支持ロール対のロール間隔を計測するロール間隔計が設置されたダミーバーが、上記複数組の支持ロール対で形成される案内路を移動し、
上記ダミーバーの移動に伴い上記ロール間隔計が計測した複数の計測データに基づき、各支持ロール対のロール間隔を取得するロール間隔取得ステップと、
上記取得したロール間隔に対応する上記計測データを計測した時刻である計測時刻を取得する計測時刻取得ステップと、
対象とする支持ロール対よりも上流に位置する支持ロール対である基準ロール対での上記計測時刻から、上記対象とする支持ロール対での上記計測時刻までの経過時間と、上記ダミーバーの移動速度とから、上記基準ロール対から上記対象とする支持ロール対までの移動距離を求めるロール間距離取得ステップと、
上記移動距離と予め設定した基準距離との比較から、上記対象とする支持ロール対のロール間隔として上記ロール間隔取得ステップで取得したロール間隔の妥当性を判定する妥当性判定ステップと、を備え、
上記妥当性判定ステップで妥当性が無いと判定した場合、上記対象とする支持ロール対のロール間隔として上記ロール間隔取得ステップが取得したロール間隔の値を、正しくない値とみなす、
ことを特徴とするロール間隔の管理方法。
【請求項2】
更に、基準ロール対設定ステップを備え、
上記基準ロール対設定ステップは、
上記妥当性判定ステップでロール間隔の妥当性が正しいと判定すると、妥当性を判定した支持ロール対の次の支持ロール対を上記対象とする支持ロール対とした際に用いる上記基準ロール対を、当該対象とする支持ロール対の一つ前に位置する支持ロール対とし、
上記妥当性判定ステップでロール間隔の妥当性が正しくないと判定した場合、妥当性を判定した支持ロール対の次の支持ロール対を上記対象とする支持ロール対とした際に用いる上記基準ロール対を、当該対象とする支持ロール対の2以上前に位置する支持ロール対から選択した支持ロール対とする、
ことを特徴とする請求項1に記載したロール間隔の管理方法。
【請求項3】
上記基準ロール対設定ステップは、上記当該対象とする支持ロール対の2以上前に位置する支持ロール対から選択した支持ロール対は、上記当該対象とする支持ロール対より上流で、且つ上記妥当性判定ステップでロール間隔の妥当性が正しいと判定された支持ロール対のうちの一番下流に位置する支持ロール対を、基準ロール対とする、
ことを特徴とする請求項2に記載したロール間隔の管理方法。
【請求項4】
上記基準距離は、上記複数組の支持ロール対の物理的な配置の寸法である物理寸法から求める、
ことを特徴とする請求項1に記載したロール間隔の管理方法。
【請求項5】
上記基準距離は、上記基準ロール対から上記対象とする支持ロール対までの物理的な距離であり、
上記妥当性判定ステップは、上記移動距離と上記基準距離との差の絶対値が、予め設定した第1の閾値以内であれば、対象とする支持ロールに対し取得したロール間距離に妥当性があると判定する、
ことを特徴とする請求項4に記載したロール間隔の管理方法。
【請求項6】
上記差の絶対値が、上記第1の閾値よりも大きな値の第2の閾値以内であれば、上記ロール間隔取得ステップが取得したロール間隔は、支持ロール間の間隔を測定したと判定するロール認識判定ステップを備える、
ことを特徴とする請求項5に記載したロール間隔の管理方法。
【請求項7】
上記ロール認識判定ステップで上記差の絶対値が上記第2の閾値より大きいと判定され、且つ上記ロール間距離取得ステップが求めた移動距離が上記基準距離より短いと判定された支持ロール対の情報は、支持ロール対間の間隔を計測した情報ではないと見なして、上記ロール間隔取得ステップが取得したロール間隔のデータを破棄する、
ことを特徴とする請求項6に記載したロール間隔の管理方法。
【請求項8】
上記ロール間隔取得ステップと、計測時刻取得ステップと、ロール間距離取得ステップと、妥当性判定ステップと、ロール認識判定ステップとの処理は、コンピュータで実行される、
ことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか1項に記載したロール間隔の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機における各ロール対の計測したロール間隔の妥当性などのロール間隔の管理を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造機は、目標寸法のスラブを製造する設備であり、引き抜く鋳造を支持案内する複数の支持ロール対からなるロール群における、各支持ロール対のロール間隔は品質のために細かく設定されている。このロール間隔は、鋳造開始前のダミーバー挿入中及び鋳造開始後のダミーバー引抜中に、ダミーバー上に取り付けられたロール間隔計によって計測される。そして、計測した各ロール間隔が、予め設定した各ロール間隔設定値の許容範囲内であることを確認した後に、支持ロールや軸受などの設備健全性及びスラブ品質の保証に用いる。
【0003】
ここで、通常、ロール間隔計が設置されているダミーバーは、鋳片を支持案内する複数の支持ロール対が形成された案内路に対し、上方から挿入される。そして、案内路内をダミーバーが移動するに伴い、ロール間隔計が順次計測した計測データが、ダミーバー機上と地上(連続鋳造機外)とで無線通信を行うことで地上側へ伝送される。
また、ロール間隔計測中、ロール間隔計は連続鋳造機内に入るため、ロール間隔計による計測状況を、機外から精度良く確認することは物理的に不可能である。また、地上側へ伝送された計測データだけでは、どの支持ロール対を計測したものか裏付けすることができない。
【0004】
そこで、従来、計測データと同期させたトラッキング情報を加えることによって、計測ロールのトラッキングを行う手法が用いられることがある。
例えば、特許文献1には、機上側のロール検出時間と地上側のロール位置通過時間を同期させて検出する方法が開示されている。また、特許文献2には、地上側システムでロール間隔計の位置をトラッキングする方法が開示されている。また、特許文献3~5には、ピンチロールなどの特殊ロールの通過タイミングを用いてロール間隔計の位置をトラッキングする方法が開示されている。更に、特許文献6には、ロール間隔計に距離計を設置して、距離計の計測値からロール間隔計が鋳造方向におけるどの位置を通過したか分かる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-78812号公報
【特許文献2】特開2012-245531号公報
【特許文献3】特開2004-37089号公報
【特許文献4】特開平10-185505号公報
【特許文献5】特開昭58-81545号公報
【特許文献6】特開2014-226672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ロール間隔計測中においてロール間隔計が設置されているダミーバーでは、ロール間に滑りが生じることや、ダミーバーが蛇行すること等がある。このため、地上側トラッキングで想定しているタイミングで機上側が該当ロールの計測を行うことが出来ない場合がある。そのため、特許文献1~2のように地上側システムを基準にトラッキング処理を行うとロール間隔の計測が上手くいかないケースがあった。
【0007】
また、上記の事項が特殊ロールの計測タイミングで生じた場合には、特許文献3~5のような特殊ロールを基準としたトラッキング処理では、ロール間隔の計測が上手くいかないケースがあった。
また、ダミーバーは連続鋳造機内部を通過するため、熱や水に晒されることが多い。このため、特許文献6のように、ダミーバーに新たな計装機器を設置することは設備保全への負担になっていた。すなわち、機外の処理によってロール間隔の計測精度を向上できることが好ましい。
【0008】
本発明は、上記のような点に着目して成されたもので、ダミーバーと支持ロールとの間の滑りやダミーバーの蛇行といった、機上側でイレギュラーな動きがダミーバーに発生しても、ロール間隔をより精度良く管理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題解決のために、本発明の一態様は、対をなす支持ロールからなる支持ロール対が鋳造方向に沿って複数組配置されて、鋳型から引き抜かれる鋳片を上記複数組の支持ロール対で支持案内する連続鋳造機における、各支持ロール対のロール間隔を管理する管理方法であって、上記支持ロール対のロール間隔を計測するロール間隔計が設置されたダミーバーが、上記複数組の支持ロール対で形成される案内路を移動し、上記ダミーバーの移動に伴い上記ロール間隔計が計測した複数の計測データに基づき、各支持ロール対のロール間隔を取得するロール間隔取得ステップと、上記取得したロール間隔に対応する上記計測データを計測した時刻である計測時刻を取得する計測時刻取得ステップと、対象とする支持ロール対よりも上流に位置する支持ロール対である基準ロール対での上記計測時刻から、上記対象とする支持ロール対での上記計測時刻までの経過時間と、上記ダミーバーの移動速度とから、上記基準ロール対から上記対象とする支持ロール対までの移動距離を求めるロール間距離取得ステップと、上記移動距離と予め設定した基準距離との比較から、上記対象とする支持ロール対のロール間隔として上記ロール間隔取得ステップで取得したロール間隔の妥当性を判定する妥当性判定ステップと、を備え、上記妥当性判定ステップで妥当性が無いと判定した場合、上記対象とする支持ロール対のロール間隔として上記ロール間隔取得ステップが取得したロール間隔の値を、正しくない値とみなす、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、ダミーバーとロール間の滑りやダミーバーの蛇行といったイレギュラーな動きがダミーバーに発生しても、計測する支持ロール対と計測データとの紐付けをより確実に行うことが可能となる。このため、本発明の態様によってロール間隔を管理すれば、鋳片を支持案内する支持ロールやロールの軸受などの連続鋳造機の設備健全性の判断及びスラブ品質の保証を迅速に行い安定的かつ効率的な連続鋳造を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る連続鋳造機を説明する図である。
【
図3】ロール間隔計の計測データの推移を説明する図である。
【
図5】ロール間隔管理装置の処理ブロックを示す図である。
【
図8】機械寸法(物理的な距離)等を説明する図である。
【
図9】計測時刻による移動距離を用いたロール間隔の妥当性について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(連続鋳造機100)
図1は、本発明を実施するのに用いて好適な連続鋳造機100を模式的に示した図である。
図1中、符号1はタンディッシュを示す。タンディッシュ1内には連続鋳造に用いる溶湯2を保持される。タンディッシュ1内の溶湯2は、スライディングノズル3及び浸漬ノズル4を介して、連続鋳造用の鋳型5に供給される。鋳造方向に交差する方向で対をなす支持ロール6からなる支持ロール対が鋳造方向に沿って複数組配置されている。そして、鋳型5で鋳込まれた鋳造鋳片Sは、鋳造方向に並ぶ複数の支持ロール対からなるロール群によって支持案内されつつ引き抜かれる。なお、複数の支持ロール対からなるロール群は、2次冷却帯に配列されている。符号8は、連続鋳造機100の下流位置に設けられたピンチロールである。
【0013】
ダミーバー7は、鋳型5で鋳込まれた鋳造鋳片Sの鋳造初期部分を、連続鋳造機100の下流位置に設けられたピンチロール8まで案内する。このダミーバー7は、複数の支持ロール対で構成される案内路内に上側から挿入されて、当該案内路に沿って、つまり鋳造方向に沿って移動する構成となっている。
【0014】
(ロール間隔計10)
ダミーバー7には、長手方向に沿って1又は2以上のロール間隔計10が設定されている。
図2では、一つのロール間隔計10が図示されてる。
ロール間隔計10は、対をなす支持ロール6間、つまり各支持ロール対のロール間隙を計測する装置である。ロール間隔計10としては、
図2の構成に限定されず、公知のロール間隔計を用いることが出来る。
図2に示すロール間隔計10は、作動部としての一対の可動式のアーム10Aと、回動検出部10Bと、計測部10Cと、無線装置10Dとを備える。
【0015】
一対のアーム10Aは、対をなす支持ロール6の対向方向に回動可能に配置され、一対のアーム10A間が離れる方向に付勢されている。これよって一対のアーム10Aが、それぞれ対向する支持ロール6に当接するまで回動変位し、その一対のアーム10Aの回動角度を回動検出部10Bで検出する。この回動検出部10Bで検出される回動角度は、ダミーバー7が鋳造方向に移動するに伴う、支持ロール6へのアーム10A当接位置の変化によって変化する。
計測部10Cは、所定サンプリング周期で、回動検出部10Bが検出した回動角度に応じた計測データを、無線装置10Dによる無線通信によって、ロール間隔管理装置に送信する(
図4参照)。
【0016】
ここで、ロール間隔計10によるロール間隔RSの計測方法について説明する。
ロール間隔計10は、ダミーバー7の移動に伴い対をなす支持ロール6の並びに沿って移動し、一対のアーム10Aが対をなす一の支持ロール6間に進入する際に、回動角度が連続して小さくなり、続いて当該一の支持ロール6間を出る際に、回動角度が連続して大きくなる。ダミーバー7の移動に伴い、検出する回動角度の変化が周期的に繰り返されることで、ロール間隔計10からの計測データは、ダミーバー7の移動に伴い
図3のように変動する。
【0017】
そして、検出した回動角度(支持ロール6間の隙間相当)のうち、一番回動角度が小さくなるときの当該回動角度(ピーク値)を、対象とする支持ロール対間のロール間隔RSに対応する回動角度とする。そして、その回動角度を距離に変換することで、対象とする支持ロール対のロール間隔RSを求めることが出来る。このように、ダミーバー7の移動に伴う、回動角度の周期的な波状の変化から、鋳造方向に並ぶ各支持ロール対のロール間隔RSを、上流側から順番に検出可能となっている。なお、計測データは、一対のアーム10A間の回動角度の情報そのものでも良いし、初期位置からのアーム10Aの回動変位量であっても良い。どちらであっても、距離の情報に変換が可能である。また、計測データは、回動角度情報を距離情報に変換後の値でもよい。また、送信する計測データに対し、送信する計測データを取得した計測時刻を付加しても良い。
【0018】
(ロール間隔管理装置20)
ロール間隔管理装置20は、地上など、連続鋳造機100の機外に配置される。ロール間隔管理装置20は、1又は2以上のコンピュータ装置で構成されていても良いし、ロール間隔管理装置20の演算部がコンピュータで実行可能なプログラム等で構成されていても良い。ロール間隔管理装置20は、
図4に示すように、ロール間隔計10からの計測データを、無線装置12を介して取得する。
また、ロール間隔管理装置20は、上位のシステム11(上位コンピュータ)から、ダミーバー7の移動速度(鋳造速度)の情報と、鋳造方向に並ぶ支持ロール対の当該鋳造方向に沿った物理的な距離である機械寸法の情報と、を得る。
ロール間隔管理装置20は、
図5に示すように、データ取得部20A、ロール間隔取得部20B、計測時刻取得部20C、ロール間距離取得部20D、妥当性判定部20E、ロール認識判定部20F、基準ロール対設定部20Gを備える。
【0019】
<データ取得部20A>
データ取得部20Aは、予め設定されたサンプリング周期で、ロール間隔計10からの計測データを入力すると共に、計測データの入力に同期を取って、計測データを入力した時刻である計測時刻のデータを取得する。ロール間隔計10からの計測データに、計測データを取得したときの計測時刻のデータも付加している場合には、新たに計測時刻の取得は不要である。
データ取得部20Aは、取得した(計測データ、計測時刻データ)のデータを、順次記憶部に記憶する。記憶部は例えばデータベースである。
【0020】
<ロール間隔取得部20B>
ロール間隔取得部20Bは、ダミーバー7の移動に伴いロール間隔計10が計測した複数の計測データの時系列の情報に基づき、各支持ロール対のロール間隔RSを取得する処理を実行する。
なお、ロール間隔RSは、上述のように、対向する支持ロール6間の間隔のうちの最小間隔値である。
図3に示すように、複数の計測データの値は、周期的に変化し、ロール間隔取得部20Bは、計測データの最小となる変曲点位置(ピーク位置)の計測データの値を、対象とする支持ロール対のロール間隔RSの情報として、順次取得する。
【0021】
つまり、ロール間隔取得部20Bは、データ取得部20Aが連続的に取得する計測データから、距離が最小となるピーク値を順番に求め、その求めたピーク値を距離に変換して、支持ロール対のロール間隔RSの値とする。そして、誤検出が無ければ、ロール間隔取得部20Bは、一番上流の支持ロール対から順番に、支持ロール対のロール間隔RSを取得する。
ここで、ロール間隔計10からの計測データは、上述のように、回動角度を距離に変換した値でも良い。また、ロール間隔計10からの計測データが回動角度の場合には、例えば、回動角度が最小となる回動角度を求め、その回動角度だけを距離に変換すれば良い。
【0022】
<計測時刻取得部20C>
計測時刻取得部20Cは、取得したロール間隔RSに対応する計測データを計測した時刻である計測時刻を取得する。つまり、計測時刻取得部20Cは、ロール間隔取得部20Bで取得したロール間隔RSに対応する計測データを取得した時刻を計測時刻として取得する。なお、ロール間隔取得部20Bが計測時刻取得部20Cを兼ねていても良い。
ここで、ロール間隔取得部20Bが求めたロール間隔RSと計測時刻取得部20Cが取得した計測時刻とは関連付けて、例えば、
図6のようなデータとして、記憶部に順次格納する。
【0023】
また、ダミーバー7の移動に伴い、ロール間隔取得部20B及び計測時刻取得部20Cの処理によって、順番に支持ロール対のロール間隔RSが求められ、
図6のようなデータが記憶部に格納され、上流側から順番に、支持ロール対の番号に対応づけられて、
図7のような情報が記憶部に格納される。
ここで、ロール間隔取得部20Dと計測時刻取得部20Cの処理と、以降に説明するロール間距離取得部20D以降の処理は、一連の処理として実行する構成でも良いし、ロール間隔取得部20Dと計測時刻取得部20Cの処理を終了してから、ロール間距離取得部20D以降の処理を実行する構成でもよい。処理時間を短くする観点からは、一連の処理として実行することが好ましい。
【0024】
<ロール間距離取得部20D>
最上流の支持ロール対から下流に向けて、対象とする支持ロール対を順番に変更して処理を実行する。
ロール間距離取得部20Dは、対象とする支持ロール対よりも上流に位置する支持ロール対である基準ロール対での計測時刻から、当該対象とする支持ロール対での計測時刻までの経過時間と、ダミーバー7の移動速度(鋳造速度)とから、基準ロール対から現在対象としている支持ロール対までの移動距離を求める処理を行う。
ダミーバー7の移動速度(鋳造速度)は、例えば、上位システムから逐次鋳造速度を取得するか、あるいは、予め設定した一定の速度としてもよい。
【0025】
ここで、ロール間隔取得部20B及び計測時刻取得部20Cの処理は、複数の支持ロール対について、上流の支持ロール対から順番に処理をされて、
図7のように、ロール間隔RSと計測時刻とが組となったデータが順番に記憶部に記憶される。
図7中、「NO.」は、上流から下流に向けて付したロール番号であり、小さい番号ほど上流側の支持ロール対に対応する。ロール間距離取得部20D及び妥当性判定部20Eについても、上流の支持ロール対から順番に処理を実行し、ロール間距離取得部20Dの処理及び妥当性判定部20Eの処理は一連の処理として実行される。
【0026】
基準ロール対は、初期値として、対象とする支持ロール対の一つ前に位置する支持ロール対が設定される。対象とする支持ロール対の番号が♯(N+1)であれば、初期値では基準支持ロール対の番号は♯(N)となる。
ここでは、対象とする支持ロール対の番号が♯(N+1)の場合を例示して説明する。
まず、ロール間距離取得部20Dは、対象とする支持ロール対♯(N+1)の計測時刻と、基準支持ロール対の計測時刻を、記憶部から取得する。一つ前の支持ロール6のロール間距離に妥当性があると判定されている場合には、基準支持ロール対は♯(N)となっている。
【0027】
次に、ロール間距離取得部20Dは、対象とする支持ロール対♯(N+1)の計測時刻から、基準ロール対♯(N)の計測時刻(基準時刻)を差し引いて、基準ロール対♯(N)から対象とする支持ロール対♯(N+1)までのダミーバー7の移動時間を求める。
次に、ロール間距離取得部20Dは、求めた移動時間に、ダミーバー7の移動速度(鋳造速度)を乗算して、ロール間隔RSの計測位置(計測時刻)に基づく、基準ロール対♯(N)と対象とする支持ロール対♯(N+1)との間のロール間距離を算出する。
【0028】
<妥当性判定部20E>
妥当性判定部20Eは、ロール間距離取得部20Dが取得した移動距離と、予め設定した基準距離との比較から、対象とする支持ロール対♯(N+1)のロール間隔RSとしてロール間隔取得部20Bで取得したロール間隔RSの妥当性を判定する。妥当性判定は、例えば、求めたロール間隔RSの値の妥当性やロール間隔RSを求めた計測位置の妥当性判断である。
【0029】
基準距離は、連続鋳造機100の設計条件等に基づく、複数組の支持ロール対の物理的な配置の寸法である物理寸法から求める。物理寸法は、鋳造方向における支持ロール対間の物理的な距離である。つまり、基準距離は、基準ロール対から上記対象とする支持ロール対までの物理的な距離である。鋳造方向で隣り合う各支持ロール対間の距離情報があれば、基準距離は求めることが出来る。なお、支持ロール6が円弧状に並ぶ領域では、鋳造方向で隣り合う各支持ロール対間の距離は、複数の支持ロール対で構成される案内路の中央での鋳造方向に沿った距離とする。すなわち、基準距離は、ダミーバー7の移動する軌跡に沿った方向で測定した距離とする。
【0030】
本実施形態の妥当性判定部20Eでは、対応する支持ロール対♯(N+1)で求めた移動距離と基準距離との差の絶対値が、予め設定した第1の閾値以内か否かを判定する。そして、妥当性判定部20Eは、差の絶対値が第1の閾値以内であれば、対象とする支持ロール6♯(N+1)に対し取得したロール間隔RSに妥当性があると判定し、
図7のように、対向する支持ロール対♯(N+1)の妥当性がある旨のフラグ(あり)を立てる。一方、妥当性判定部20Eは、差の絶対値が第1の閾値より大きい場合には、対象とする支持ロール6♯(N+1)に対し取得したロール間隔RSに妥当性が無いと判定し、対向する支持ロール対♯(N+1)の妥当性が無い旨のフラグ(なし)を立てる。
【0031】
上記差の絶対値は、対をなす支持ロール6の測定する対向位置における、最初位置からの鋳造方向へのずれ量に対応し、そのずれ量に応じた分だけ、ロール間隔RSの値に誤差が含まれる。この誤差が許容される値に対応したずれ量となるように、第1の閾値の値を設定すればよい。
第1の閾値は、例えば基準距離(機械寸法)の5%とする。
計測位置のロール正常範囲を、基準距離±5%以内と設定しているのは以下の理由からである。
【0032】
図8に鋳造方向に並ぶ支持ロール6間の距離の模式図を示す。なお、実際の隣り合う支持ロール6は接触していないが、
図5では、説明を簡略化するため隣り合う支持ロール6が接触した図としている。
図8中、符号30はロール半径、符号31はロール間の機械寸法、符号32はロール弦長、符号33はロール矢高である。そして、ロール矢高33分が、ロール間隔RSの誤差となる。
実際の連続鋳造機100として、例えば、隣り合う支持ロール62の各ロール半径30が250mmの場合を考えてみる。このとき機械寸法31は500mmとなり、ロール弦長32は機械寸法31の5%とすると25mmとなり、ロール矢高33は約0.3mmとなる。ロール間隔RSはせいぜい±1.5mm程度の範囲で管理を行う計測のため、その10%にあたる0.3mmのロール矢高33を許容値として、本実施形態では、絶対差が機械寸法±5%以内と設定した。
【0033】
<ロール認識判定部20F>
ロール認識判定部20Fは、ロール間隔取得部20Bが取得したロール間隔RSの値が、対をなす支持ロール6間の間隔を求めた値か否かを判定する。
ロール認識判定部20Fは、対応する支持ロール対♯(N+1)で求めた移動距離と基準距離との差の絶対値が、第1の閾値よりも大きな値の第2の閾値以内であるか否かを判定する。ロール認識判定部20Fは、差の絶対値が第2の閾値以内であると判定した場合、対応する支持ロール対♯(N+1)について、ロール間隔取得部20Bが取得したロール間隔RSは、支持ロール6間の間隔を測定したと判定、すなわち対象とする支持ロール対のロール認識範囲内と判定する。一方、ロール認識判定部20Fは、差の絶対値が第2の閾値より大きいと判定した場合、対応する支持ロール対♯(N+1)について、ロール間隔取得部20Bが取得したロール間隔RSは、支持ロール6間の間隔の測定を失敗したと判定、すなわち対象とする支持ロール対のロール認識範囲外と判定する。
第2の閾値は、例えば、基準距離の50%とする。
【0034】
また、ロール認識判定部20Fは、ロール認識範囲外と判定した場合(:差の絶対値>第2の閾値の場合)に、移動距離が基準距離よりも短い場合には、ロール過検知により誤計測したと判定して、ロール間隔取得部20Bが対象とする支持ロール対♯(N+1)のロール間隔RSとして取得したロール間隔RSのデータを無視する。すなわち、現在の支持ロール対♯(N+1)のデータを廃棄して、ロール間隔取得部20Bで次の支持ロール対として求めたロール間隔RSを支持ロール対♯(N+1)のデータとして処理を継続する。
また、ロール認識判定部20Fは、ロール認識範囲外と判定した場合(:差の絶対値>第2の閾値の場合)に、移動距離が基準距離よりも長い場合には、現在対象としている支持ロール対#(N+1)のロール計測が失敗または未検知であったと判定して、#(N+1)の支持ロール6のロール間隔RSの値を空(NULL)とする。
【0035】
<基準ロール対設定部20G>
基準ロール対設定部20Gは、ロール間距離取得部20Dで対象とする支持ロール対で用いる基準ロール対の設定を行う。基準ロール対設定部20Gは、ロール間隔取得部20Bで対象とする支持ロール対よりも上流の支持ロール対であって、妥当性判定部20Eで妥当性が正しいと判定された支持ロール対を基準ロール対とする。このとき、ロール間距離取得部20Dで対象とする支持ロール対に一番近い、つまり妥当性判定部20Eで妥当性が正しいと判定された支持ロール対のうちの一番下流の支持ロール対を基準ロールに設定する。
【0036】
本実施形態の基準ロール対設定部20Gでは、妥当性判定部20Eで対象とする支持ロール対♯(N+1)のロール間隔RSの妥当性が正しいと判定すると、妥当性を判定した支持ロール対♯(N+1)の次の支持ロール対♯(N+2)を上記対象とする支持ロール対とした際に用いる基準ロール対を、当該対象とする支持ロール対♯(N+2)の一つ前に位置する支持ロール対♯(N+1)に更新する。
一方、基準ロール対設定部20Gは、妥当性判定部20Eで対象とする支持ロール対♯(N+1)のロール間隔RSの妥当性が正しくないと判定した場合には、基準ロール対の更新を行わない。これよって、基準ロール対が、当該対象とする支持ロール対の2以上前に位置する支持ロール対から選択した支持ロール対のうちの一番下流に位置する支持ロール対となる。
【0037】
ここで、ロール認識判定部20Fにおいて、ロール認識範囲外と判定(:差の絶対値>第2の閾値の場合)され、移動距離が基準距離よりも短い場合には、データ自体が破棄されるので、基準ロール対設定部20Gの処理が不要である。
また、ロール間隔取得部20Bはロール間隔RS取得ステップを構成する。計測時刻取得部20Cは計測時刻取得ステップを構成する。ロール間距離取得部20Dはロール間距離取得ステップを構成する。妥当性判定部20Eは妥当性判定ステップを構成する。ロール認識判定部20Fはロール認識判定ステップを構成する。基準ロール対設定部20Gは基準ロール対設定ステップを構成する。
【0038】
(動作その他)
本実施形態では、各支持ロール対のロール間隔RSとした求めた値の妥当性を、妥当性判定が既に行われた上流の支持ロール対からの経過時間に基づく移動距離と、予め判明している物理的な距離(離隔距離)と比較によって行うことで、ダミーバー7とロール間の滑りやダミーバー7の蛇行といった機上側でイレギュラーなダミーバー7の動きが発生した場合でも、精度良く各支持ロール対のロール間隔RSの妥当性を判定することが可能となる(
図9参照)。
また、この妥当性判断を、例えば、制御のソフト改造のみで実施できるため、設備管理の負担を少なく実現することができる。
更に、上記と同様に経過時間を利用して、ロール間隔RSを計測した位置がロール認識範囲内か否かを判定することで、イレギュラーなダミーバー7の動きが発生した場合でも、計測する支持ロール対の位置のトラッキングのずれも判断可能となる。
【0039】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)対をなす支持ロール6からなる支持ロール対が鋳造方向に沿って複数組配置されて、鋳型から引き抜かれる鋳片を上記複数組の支持ロール対で支持案内する連続鋳造機100における、各支持ロール対のロール間隔を管理する管理方法であって、
上記支持ロール対のロール間隔を計測するロール間隔計が設置されたダミーバーが、上記複数組の支持ロール対で形成される案内路を移動し、
上記ダミーバーの移動に伴い上記ロール間隔計が計測した複数の計測データに基づき、各支持ロール対のロール間隔を取得するロール間隔取得ステップと、
上記取得したロール間隔に対応する上記計測データを計測した時刻である計測時刻を取得する計測時刻取得ステップと、
対象とする支持ロール対よりも上流に位置する支持ロール対である基準ロール対での上記計測時刻から、上記対象とする支持ロール対での上記計測時刻までの経過時間と、上記ダミーバーの移動速度とから、上記基準ロール対から上記対象とする支持ロール対までの移動距離を求めるロール間距離取得ステップと、
上記移動距離と予め設定した基準距離との比較から、上記対象とする支持ロール対のロール間隔として上記ロール間隔取得ステップで取得したロール間隔の妥当性を判定する妥当性判定ステップと、を備え、
上記妥当性判定ステップで妥当性が無いと判定した場合、上記対象とする支持ロール対のロール間隔として上記ロール間隔取得ステップが取得したロール間隔の値を、正しくない値とみなす。
【0040】
(2)更に、基準ロール対設定ステップを備え、
上記基準ロール対設定ステップは、
上記妥当性判定ステップでロール間隔の妥当性が正しいと判定すると、妥当性を判定した支持ロール対の次の支持ロール対を上記対象とする支持ロール対とした際に用いる上記基準ロール対を、当該対象とする支持ロール対の一つ前に位置する支持ロール対とし、
上記妥当性判定ステップでロール間隔の妥当性が正しくないと判定した場合、妥当性を判定した支持ロール対の次の支持ロール対を上記対象とする支持ロール対とした際に用いる上記基準ロール対を、当該対象とする支持ロール対の2以上前に位置する支持ロール対から選択した支持ロール対とする。
【0041】
(3)上記基準ロール対設定ステップは、上記当該対象とする支持ロール対の2以上前に位置する支持ロール対から選択した支持ロール対は、上記当該対象とする支持ロール対より上流で、且つ上記妥当性判定ステップでロール間隔の妥当性が正しいと判定された支持ロール対のうちの一番下流に位置する支持ロール対を、基準ロール対とする。
(4)上記基準距離は、上記複数組の支持ロール対の物理的な配置の寸法である物理寸法から求める。
【0042】
(5)上記基準距離は、上記基準ロール対から上記対象とする支持ロール対までの物理的な距離であり、
上記妥当性判定ステップは、上記移動距離と上記基準距離との差の絶対値が、予め設定した第1の閾値以内であれば、対象とする支持ロール6に対し取得したロール間距離に妥当性があると判定する。
(6)上記差の絶対値が、上記第1の閾値よりも大きな値の第2の閾値以内であれば、上記ロール間隔取得ステップが取得したロール間隔は、支持ロール6間の間隔を測定したと判定するロール認識判定ステップを備える。
【0043】
(7)上記ロール認識判定ステップで上記差の絶対値が上記第2の閾値より大きいと判定され、且つ上記ロール間距離取得ステップが求めた移動距離が上記基準距離より短いと判定された支持ロール対の情報は、支持ロール対間の間隔を計測した情報ではないと見なして、上記ロール間隔取得ステップが取得したロール間隔のデータを破棄する。
(8)上記ロール間隔取得ステップと、計測時刻取得ステップと、ロール間距離取得ステップと、妥当性判定ステップと、ロール認識判定ステップとの処理は、コンピュータで実行される。
【実施例0044】
次に、本実施形態に基づく実施例について説明する。
ロール直径が250~350mmの範囲の支持ロール対が158本配置された連続鋳造機100を対象とした。そして、ダミーバー7を上方から挿入して、各支持ロール対に対するロール間隔RSの計測を実行した。
実施例では、実施形態に記載の方法で、各支持ロール対に対するロール間隔RSの計測を実行した。
一方、比較例では、地上でのダミーバー7の移動速度を基準にトラッキング処理を実行して、ロール間隔計10からの計測データから各支持ロール対に対するロール間隔RSの計測を実行した。
【0045】
そして、実施例と比較例について、ロール間隔計10の誤計測の件数を比較した。誤計測とは、実測したロール間隔RSに異常がないにも関わらず、ロール間隔計10の計測結果がロール間隔RS設定値の許容値を超え異常を認めた計測である。実験は、それぞれ100回実行し、誤計測の件数の平均値で比較した。
この実験によれば、実施例では、比較例に比べ、誤計測の件数が半分以下に抑えられていることが確認できた。
これは、実施例の場合、地上トラッキングとのずれによる影響が抑制されてトラッキング処理を行うことが出来るため、地上側のトラッキングずれによるトラッキング失敗が解消されたためであると推定される。