(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003438
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】コイル体および医療機器
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
A61M25/09 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102575
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉松 宣明
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA28
4C267BB02
4C267BB12
4C267CC08
4C267CC20
4C267CC21
4C267CC26
(57)【要約】
【課題】湾曲させたときに湾曲状態を保持する傾斜部を備えるコイル体を提供する。
【解決手段】素線を螺旋状に巻回したコイル体は、コイル体の中心軸方向に沿った少なくとも一部分である傾斜部を備える。傾斜部の縦断面における素線の断面の輪郭線は、中心軸方向に沿って互いに断面の反対側に位置する一対の傾斜線を有する。一対の傾斜線は、中心軸方向とのなす角が0度超、90度未満であり、かつ、中心軸方向に沿って隣り合う素線の他の断面の傾斜線と対向している。傾斜部は、湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線を螺旋状に巻回したコイル体であって、
前記コイル体の中心軸方向に沿った少なくとも一部分である傾斜部を備え、
前記傾斜部の縦断面における前記素線の断面の輪郭線は、前記中心軸方向に沿って互いに前記断面の反対側に位置する一対の傾斜線であって、前記中心軸方向とのなす角が0度超、90度未満であり、かつ、前記中心軸方向に沿って隣り合う前記素線の他の断面の前記傾斜線と対向している、一対の傾斜線を有し、
前記傾斜部は、湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成されている、コイル体。
【請求項2】
請求項1に記載のコイル体であって、
前記傾斜部は、湾曲させたときに、前記湾曲の外径側の部分において、前記中心軸方向に沿って隣り合う前記素線同士が接触するように構成されている、コイル体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のコイル体と、
前記コイル体を前記中心軸方向に伸長させる伸長機構と、
を備える医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、コイル体および医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体管腔(例えば、血管、消化器官、尿管、気管等)内に挿入して使用する医療機器として、ガイドワイヤやカテーテルが知られている。このような医療機器としては、素線を螺旋状に巻回したコイル体を備えるものがある。例えば、特許文献1には、先端部にコイル体を備えるガイドワイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体管腔内に挿入して使用する医療機器では、生体管腔内の分岐箇所における選択性を向上させるために、先端部を湾曲させた状態を保持できることが求められる。
【0005】
一般に、コイル体には、素線同士を密着させようとする力(初張力)が付与されている。そのため、コイル体に外力を加えて湾曲させると、湾曲の外径側の部分において、隣り合う素線同士が互いに遠ざかるため、外力を取り除くと初張力によってコイル体は真っ直ぐな状態に戻る。そのため、従来のコイル体を備える医療機器では、コイル体を湾曲させても湾曲状態が保持されず、操作性の点で向上の余地がある。
【0006】
なお、このような課題は、医療機器用のコイル体に限られず、各種配管用を含むコイル体一般に共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示されるコイル体は、素線を螺旋状に巻回したコイル体であって、前記コイル体の中心軸方向に沿った少なくとも一部分である傾斜部を備える。前記傾斜部の縦断面における前記素線の断面の輪郭線は、前記中心軸方向に沿って互いに前記断面の反対側に位置する一対の傾斜線を有する。一対の傾斜線は、前記中心軸方向とのなす角が0度超、90度未満であり、かつ、前記中心軸方向に沿って隣り合う前記素線の他の断面の前記傾斜線と対向している。前記傾斜部は、湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成されている。本コイル体によれば、湾曲させたときに湾曲状態を保持する傾斜部を備えるコイル体を提供することができる。
【0010】
(2)上記コイル体において、前記傾斜部は、湾曲させたときに、前記湾曲の外径側の部分において、前記中心軸方向に沿って隣り合う前記素線同士が接触するように構成されている構成としてもよい。本コイル体によれば、コイル体の傾斜部を湾曲させたときに湾曲状態をより確実に保持することができる。
【0011】
(3)本明細書に開示される医療機器は、上記コイル体と、前記コイル体を前記中心軸方向に伸長させる伸長機構と、を備える。本医療機器によれば、医療機器を適切な形状に湾曲させた状態を保持することができ、医療機器の操作性を向上させることができる。
【0012】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、コイル体、コイル体を備える医療機器(例えば、ガイドワイヤ、カテーテル、内視鏡用処置具)、それらの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態におけるガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図
【
図2】第1実施形態におけるコイル体20の詳細構成を示す説明図
【
図3】
図3は、第1実施形態におけるコイル体20の傾斜部21を湾曲させた状態を示す説明図
【
図5】傾斜角θ1、初張力倍率M1および湾曲半径r1の関係を示す説明図
【
図6】第2実施形態におけるコイル体20Aの詳細構成を示す説明図
【
図7】第3実施形態におけるコイル体20Bの詳細構成を示す説明図
【
図8】第4実施形態におけるガイドワイヤ100Cの構成を示す説明図
【
図9】第5実施形態におけるガイドワイヤ100Dの構成を示す説明図
【
図10】第6実施形態におけるカテーテル200の構成を示す説明図
【
図11】第6実施形態におけるカテーテル200の構成を示す説明図
【
図12】第7実施形態における内視鏡用処置具300の構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.第1実施形態:
A-1.ガイドワイヤ100の構成:
図1は、第1実施形態におけるガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図である。
図1には、ガイドワイヤ100の縦断面(YZ断面)の構成を示している。なお、
図1には、互いに直交するXYZ軸を示している。ガイドワイヤ100において、Z軸正方向側が、体内に挿入される先端側(遠位側)であり、Z軸負方向側が、医師等の手技者によって操作される基端側(近位側)である。
図1においては、ガイドワイヤ100の一部の構成を適宜省略している。また、
図1においては、ガイドワイヤ100の中心軸AXがZ軸方向に平行な略直線状となった状態を示しているが、ガイドワイヤ100の少なくとも一部は湾曲させることができる程度の柔軟性を有している。これらの点は、以降の図においても同様である。本明細書では、ガイドワイヤ100およびその各構成部分について、先端側の端を「先端」といい、先端およびその近傍を「先端部」といい、基端側の端を「基端」といい、基端およびその近傍を「基端部」という。
【0015】
ガイドワイヤ100は、生体管腔(例えば、血管)内において医療機器(例えば、カテーテル)を案内するために、生体管腔内に挿入される医療機器である。ガイドワイヤ100は、特許請求の範囲における医療機器の一例である。
【0016】
ガイドワイヤ100は、コアシャフト10と、コイル体20と、先端側接合部30と、基端側接合部40とを備える。
【0017】
コアシャフト10は、先端側が細径であり基端側が太径である長尺状の部材である。より具体的には、コアシャフト10は、略一定の外径を有する棒状の細径部11と、細径部11に対して基端側に位置し、細径部11の外径より大きい略一定の外径を有する棒状の中間径部13と、中間径部13に対して基端側に位置し、中間径部13の外径より大きい略一定の外径を有する棒状の太径部15と、細径部11と中間径部13との間に位置し、細径部11との境界位置から中間径部13との境界位置に向けて径が徐々に大きくなる第1テーパ部12と、中間径部13と太径部15との間に位置し、中間径部13との境界位置から太径部15との境界位置に向けて径が徐々に大きくなる第2テーパ部14とを有する。コアシャフト10の各位置における横断面(XY断面)の形状は、任意の形状を取り得るが、例えば、円形や平板形である。太径部15の外径は、例えば0.2~0.8mm程度であり、細径部11の外径は、例えば0.05~0.3mm程度である。本実施形態では、コアシャフト10の中心軸は、ガイドワイヤ100の中心軸AXと一致している。
【0018】
コアシャフト10を形成する材料としては、例えば、金属材料(ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線等)が用いられる。コアシャフト10は、全体が同じ材料により形成されていてもよいし、部分毎に互いに異なる材料により形成されていてもよい。
【0019】
コイル体20は、素線を螺旋状に巻回すことにより中空円筒状に形成したコイル状の部材である。コイル体20は、コアシャフト10を覆うように、コアシャフト10の外周に配置されている。本実施形態では、コイル体20は、コアシャフト10の細径部11、第1テーパ部12、中間径部13を覆っている。コイル体20の中心軸は、ガイドワイヤ100の中心軸AXと一致している。以下、コイル体20の中心軸も、「中心軸AX」と表す。
【0020】
コイル体20を形成する材料としては、例えば、金属材料(ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、白金、金、タングステン、またはこれらの合金等)や樹脂材料が用いられる。コイル体20の構成については、後に詳述する。
【0021】
先端側接合部30は、コイル体20の先端とコアシャフト10の先端とを接合する部材である。基端側接合部40は、コイル体20の基端とコアシャフト10とを接合する部材である。先端側接合部30および基端側接合部40を形成する材料としては、例えば、金属ハンダ(Au-Sn合金、Sn-Ag合金、Sn-Pb合金、Pb-Ag合金等)、ロウ材(アルミニウム合金ロウ、銀ロウ、金ロウ等)、接着剤(エポキシ系接着剤等)等が用いられる。先端側接合部30および基端側接合部40を形成する材料は、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、先端側接合部30および基端側接合部40のそれぞれについて、全体が同じ材料により形成されていてもよいし、部分毎に互いに異なる材料により形成されていてもよい。
【0022】
なお、ガイドワイヤ100の一部または全部が、公知のコーティング剤によりコートされていてもよい。
【0023】
A-2.コイル体20の詳細構成:
図2は、第1実施形態におけるコイル体20の詳細構成を示す説明図である。
図2には、コイル体20の一部の縦断面(YZ断面)の構成を示している。なお、
図2には、コイル体20の中心軸AXが直線状になった状態(以下、「直線状態」という。)を示している。
【0024】
上述したように、コイル体20は、素線22を螺旋状に巻回すことにより中空円筒状に形成したコイル状の部材である。コイル体20は、以下に説明する構成を有する傾斜部21を備える。傾斜部21は、コイル体20の中心軸AXの方向に沿った少なくとも一部分である。本実施形態では、コイル体20の全体が傾斜部21である。
【0025】
図2に示すように、直線状態のコイル体20の傾斜部21の縦断面において、素線22の各断面CSの輪郭線は傾斜した矩形状である。より詳細には、素線22の各断面CSの輪郭線は、長さL1の長辺S1および長さL2(<L1)の短辺S2を有する長方形状であり、長辺S1および短辺S2のいずれもが中心軸AXと平行にならないように傾いている。
【0026】
また、
図2に示すように、直線状態のコイル体20の傾斜部21の縦断面において、素線22の各断面CSの輪郭線は、一対の傾斜線S0を有する。ここで、一対の傾斜線S0は、以下の要件を満たす線である。本実施形態では、一対の傾斜線S0は、一対の長辺S1の一部である。
(1)一対の傾斜線S0は、素線22の断面CSの輪郭線において、中心軸AXの方向(Z軸方向)に沿って互いに該断面CSの反対側(
図2における右側および左側)に位置する。
(2)一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向とのなす角(以下、「傾斜角θ1」という。)が0度超、90度未満である。
(3)素線22のある断面CSが有する一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22の他の断面CSが有する傾斜線S0と対向している。すなわち、素線22のある断面CSが有する一対の傾斜線S0のうち、
図2において右側に位置する傾斜線S0は、該断面CSの右側に隣り合う他の断面CSが有する左側の傾斜線S0と対向しており、上記一対の傾斜線S0のうち、
図2において左側に位置する傾斜線S0は、該断面CSの左側に隣り合う他の断面CSが有する右側の傾斜線S0と対向している。
【0027】
また、本実施形態では、直線状態のコイル体20の傾斜部21において、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22同士が接触するように構成されている。すなわち、
図2に示すように、直線状態のコイル体20の傾斜部21の縦断面において、素線22の各断面CSの輪郭線が有する一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22の他の断面CSが有する傾斜線S0と接している。上述した、「中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22同士」との記載は、より詳細には、「中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22の部分同士」の意味である。本明細書では、素線22の部分を、単に素線22ということがある。
【0028】
なお、本実施形態のコイル体20の傾斜部21は、縦断面において、中心軸AXの方向に隣り合う素線22の各断面CSの輪郭線の長辺S1同士が対向しているため、いわゆるエッジワイズコイル(縦巻きコイル)の一種であると言える。
【0029】
図3は、第1実施形態におけるコイル体20の傾斜部21を湾曲(屈曲)させた状態(以下、「湾曲状態」という。)の構成を示す説明図である。
図3に示すように、コイル体20の傾斜部21を中心軸AXが湾曲する方向に湾曲させると、湾曲の内径側部分IP(湾曲中心点を含む縦断面において、中心軸AXより湾曲中心点に近い側の部分)には、中心軸AXの方向に隣り合う素線22同士を互いに近付ける方向の力が作用する。そのため、コイル体20の傾斜部21を湾曲させたときに、湾曲の内径側部分IPでは、中心軸AXの方向に隣り合う素線22同士が接触した状態が維持される。なお、このとき、湾曲の内径側部分IPでは、素線22の各断面CSの傾斜線S0の傾斜角θ1が大きくなるように、素線22の姿勢が変化する。
【0030】
また、コイル体20の傾斜部21を湾曲させると、湾曲の外径側部分OP(湾曲中心点を含む縦断面において、中心軸AXより湾曲中心点から遠い側の部分)には、中心軸AXの方向に隣り合う素線22同士を引き離す方向の力が作用する。しかしながら、本実施形態では、傾斜部21を構成する素線22の各断面CSの輪郭線が一対の傾斜線S0を有すると共に、傾斜部21に非常に大きな初張力が付与されている。そのため、コイル体20の傾斜部21を湾曲させたときに、湾曲の外径側部分OPにおいても、中心軸AXの方向に隣り合う素線22同士が接触した状態が維持される。
【0031】
このように、本実施形態では、コイル体20の傾斜部21を湾曲させたときに、湾曲の内径側部分IPに加えて外径側部分OPにおいても、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22同士が接触した状態が維持されるように構成されている。そのため、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22同士の摩擦力が大きくなり、該摩擦力が、コイル体20の傾斜部21が湾曲状態から直線状態へ形状回復しようとする際の抵抗となる。従って、コイル体20の傾斜部21を湾曲させるために加えた外力を除去しても、コイル体20の傾斜部21は湾曲状態を保持する。
【0032】
また、このようにコイル体20の傾斜部21において湾曲状態が保持されるのは、素線22間の摩擦力によるものである。そのため、外力を加えて傾斜部21を中心軸AXの方向に伸長させると、素線22間の摩擦力が減少し、その結果、傾斜部21は即座に直線状態に形状回復する。
【0033】
また、このコイル体20の傾斜部21において湾曲状態を保持するメカニズムは、例えば金属材料が外力により変形する際に生じる結晶組織の歪に伴う材料弾性によるものではなく、また、Ni-Ti合金等の超弾性合金が形状記憶効果を発揮する際に生じる熱弾性型または応力誘起型の相変態によるものでもないため、繰り返し疲労(金属疲労や熱サイクル疲労)による湾曲状態保持効果の減弱が機構的にほとんど生じない。
【0034】
上述した構成の傾斜部21を備えるコイル体20は、例えば、以下のように製造することができる。まず、コイル体20の傾斜部21を形成するための、長方形断面の素線22を準備する。そして、従来公知のエッジワイズコイルの製造方法をベースとして、素線22が倒れ込まないように支えつつ素線22の断面CSを所定の角度(傾斜角θ1)だけ傾けながら、素線22を螺旋状に巻き回してコイル状とする。そして、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22同士が密着するように、大きな初張力を付与する。このような製造方法により、上述した構成のコイル体20を製造することができる。
【0035】
なお、例えばショットピーニング処理等による物理的方法や酸性溶液等による化学的方法を用いて、素線22の表面粗さを大きくすることにより、素線22間の摩擦係数を大きくし、コイル体20の傾斜部21における湾曲状態保持力をさらに強大化させてもよい。
【0036】
また、コイル体20の傾斜部21を樹脂材料により形成する場合には、樹脂材料の射出成形等により、材料断面の成形とコイル成形とを同一の工程で行ってもよい。
【0037】
A-3.第1実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態のガイドワイヤ100は、コイル体20を備える。コイル体20は、素線22を螺旋状に巻回したコイル状の部材である。コイル体20は、コイル体20の中心軸AXの方向に沿った少なくとも一部分である傾斜部21を備える。傾斜部21の縦断面における素線22の断面CSの輪郭線は、中心軸AXの方向に沿って互いに該断面CSの反対側に位置する一対の傾斜線S0を有する。一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向とのなす角θ1が0度超、90度未満の線である。また、一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22の他の断面CSの傾斜線S0と対向している。傾斜部21は、傾斜部21を湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成されている。
【0038】
このような構成のコイル体20では、以下に詳述するように、傾斜部21を湾曲させたときに湾曲状態を保持することができる。
【0039】
図4は、比較例のコイル体20Xの構成を示す説明図である。比較例のコイル体20Xは、一般的なエッジワイズコイルである。すなわち、比較例のコイル体20Xでは、第1実施形態のコイル体20と同様に、コイル体20Xの縦断面における素線22の各断面CSの輪郭線は、矩形状である。ただし、比較例のコイル体20Xでは、素線22の各断面CSの輪郭線である矩形は傾斜しておらず、該矩形の長辺S1が中心軸AXの方向と直交しており、該矩形の短辺S2が中心軸AXの方向と平行になっている。
【0040】
図4は、比較例のコイル体20Xを湾曲させた状態(湾曲状態)を示している。
図4に示すように、比較例のコイル体20Xを湾曲させると、湾曲の内径側部分IPでは、中心軸AXの方向に隣り合う素線22同士が接触した状態が維持される。一方、湾曲の外径側部分OPでは、中心軸AXの方向に隣り合う素線22同士を引き離す方向の力が作用することにより、素線22同士が非接触状態となる。その結果、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22同士の摩擦力が小さくなる。従って、コイル体20Xを湾曲させるために加えた外力を除去すると、初張力によってコイル体20Xが直線状態に戻ってしまう。なお、この点は、エッジワイズコイルに限らず、矩形断面の素線により構成される一般的なコイル(素線断面の矩形の短辺が中心軸の方向と直交しており、該矩形の長辺が中心軸の方向と平行になったコイル)や、円形断面の素線により構成されるコイル等の他の従来のコイル体でも同様である。
【0041】
これに対し、本実施形態では、コイル体20の傾斜部21の縦断面における素線22の断面CSの輪郭線は、以下の3つの要件を満たす一対の傾斜線S0を有する。
(1)一対の傾斜線S0は、素線22の断面CSの輪郭線において、中心軸AXの方向に沿って互いに該断面CSの反対側に位置する。
(2)一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向とのなす角θ1が0度超、90度未満である。
(3)一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22の他の断面CSの傾斜線S0と対向している。
また、本実施形態では、コイル体20の傾斜部21は、傾斜部21を湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成されている。そのため、本実施形態によれば、湾曲させたときに湾曲状態を保持する傾斜部21を備えるコイル体20を提供することができる。従って、本実施形態のコイル体20を備えるガイドワイヤ100によれば、先端部を適切な形状に湾曲させた状態を保持することができ、操作性を向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、コイル体20の傾斜部21は、傾斜部21を湾曲させたときに、湾曲の外径側部分OPにおいて、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22同士が接触するように構成されている。そのため、本実施形態では、コイル体20の傾斜部21を湾曲させたときに湾曲状態をより確実に保持することができる。
【0043】
A-4.傾斜角θ1、初張力倍率M1および湾曲半径r1の関係:
次に、コイル体20の傾斜部21において、上述した素線22の断面CSの傾斜線S0の傾斜角θ1と、傾斜部21に付与する初張力の大きさを表す初張力倍率M1と、傾斜部21が湾曲状態を保持できる湾曲の程度(具体的には、湾曲半径r1)との関係について説明する。なお、初張力倍率M1は、JIS B 2704(圧縮及び引張コイルばねの基本計算方法)に規定される標準初張力(一般的な材料を一般的な方法で成形加工した際にコイルに生じる初張力)に対する、コイル体20の傾斜部21に付与する初張力の大きさの比である。
【0044】
図5は、傾斜角θ1、初張力倍率M1および湾曲半径r1の関係を示す説明図である。
図5には、以下の仕様のコイル体20の傾斜部21において、傾斜部21が湾曲状態を保持できるような、傾斜角θ1、初張力倍率M1および湾曲半径r1の組合せを示している。
・素線22の板厚(長辺S1の長さL1):4mm
・素線22の板幅(短辺S2の長さL2):0.8mm(板厚の20%)
・コイル体20の傾斜部21の平均径D1:8mm(板厚の2倍)
【0045】
図5に示すように、例えば傾斜角θ1を20度とし、初張力倍率M1を9.6倍とした場合(ケース1)、コイル体20の傾斜部21を湾曲半径r1が17.5mmになるまで湾曲させても湾曲状態を保持することができる。また、例えば傾斜角θ1を30度とし、初張力倍率M1を14.4倍とした場合(ケース2)、コイル体20の傾斜部21を湾曲半径r1が13.8mmになるまで湾曲させても(すなわち、ケース1より大きく湾曲させても)湾曲状態を保持することができる。また、例えば傾斜角θ1を45度とし、初張力倍率M1を21.7倍とした場合(ケース3)、コイル体20の傾斜部21を湾曲半径r1が11.7mmになるまで湾曲させても(すなわち、ケース2より大きく湾曲させても)湾曲状態を保持することができる。
【0046】
なお、
図5に示す関係は、あくまでコイル体20の傾斜部21の仕様を上述の通りとしたときの一例であり、仕様が変われば、傾斜部21が湾曲状態を保持できる湾曲の程度(湾曲半径r1)も変動する。ただし、傾斜角θ1が50度を超えると、傾斜角θ1の増大に伴う湾曲状態を保持できる湾曲の程度の増大効果が低下すると共に、コイル体20の傾斜部21の成形加工性が著しく低下するため、傾斜角θ1は50度以下であることが好ましい。また、コイル体20の傾斜部21の湾曲状態保持機能を効果的に発揮させるために、傾斜角θ1は30度以上であることが好ましい。また、コイル体20の傾斜部21の湾曲状態保持機能を効果的に発揮させるために、素線22の板幅(短辺S2の長さL2)は素線22の板厚(長辺S1の長さL1)の40%以下であることが好ましく、また、傾斜部21の平均径D1は素線22の板厚(長辺S1の長さL1)の3倍以下であることが好ましい。また、コイル体20の傾斜部21は、湾曲半径:30mm以上で傾斜部21を湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成されていることが好ましい。なお、湾曲半径:30mm以上の全ての範囲で湾曲状態が保持される必要はなく、例えば、30~40mmの範囲で湾曲状態が保持されていればよい。
【0047】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態におけるコイル体20Aの詳細構成を示す説明図である。以下では、第2実施形態のコイル体20Aの構成のうち、上述した第1実施形態のコイル体20と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0048】
第2実施形態のコイル体20Aは、第1実施形態のコイル体20と同様に、傾斜部21Aを備える。第2実施形態のコイル体20Aでは、傾斜部21Aの縦断面における素線22の各断面CSの輪郭線の形状が、矩形状ではなく、平行四辺形状である。この平行四辺形の短辺S2は、中心軸AXの方向に平行であり、平行四辺形の長辺S1は、中心軸AXの方向とのなす角が0度超、90度未満である。
【0049】
第2実施形態のコイル体20Aにおいても、直線状態の傾斜部21Aの縦断面において、素線22の各断面CSの輪郭線は、上述した要件を満たす一対の傾斜線S0を有する。第2実施形態では、一対の傾斜線S0は、一対の長辺S1の全体である。
【0050】
また、第2実施形態のコイル体20Aにおいても、直線状態の傾斜部21Aにおいて、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22同士が接触するように構成されている。すなわち、
図6に示すように、直線状態の傾斜部21Aの縦断面において、素線22の各断面CSの輪郭線が有する一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22の他の断面CSが有する傾斜線S0と接している。
【0051】
このように、第2実施形態のコイル体20Aの傾斜部21Aにおいても、第1実施形態のコイル体20の傾斜部21と同様に、傾斜部21Aの縦断面における素線22の断面CSの輪郭線は、中心軸AXの方向に沿って互いに該断面CSの反対側に位置する一対の傾斜線S0を有する。一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向とのなす角θ1が0度超、90度未満の線である。また、一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22の他の断面CSの傾斜線S0と対向している。また、傾斜部21Aは、傾斜部21Aを湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成されている。そのため、第2実施形態によれば、湾曲させたときに湾曲状態を保持する傾斜部21Aを備えるコイル体20Aを提供することができる。
【0052】
また、第2実施形態のコイル体20Aでは、傾斜部21Aの縦断面における素線22の各断面CSの輪郭線において、傾斜線S0をより長く取ることができるため、素線22間の摩擦力を大きくすることができ、傾斜部21Aを湾曲させたときに湾曲状態をより確実に保持することができる。
【0053】
また、第2実施形態のコイル体20Aでは、傾斜部21Aの縦断面における素線22の各断面CSの輪郭線の形状が、中心軸AXの方向に平行な辺(短辺S2)を有する形状であるため、コイル体20Aを成形する際に素線22が倒れ込みにくく、成形加工が容易である。
【0054】
C.第3実施形態:
図7は、第3実施形態におけるコイル体20Bの詳細構成を示す説明図である。以下では、第3実施形態のコイル体20Bの構成のうち、上述した第1実施形態のコイル体20と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0055】
第3実施形態のコイル体20Bは、第1実施形態のコイル体20と同様に、傾斜部21Bを備える。第3実施形態のコイル体20Bでは、傾斜部21Bの縦断面における素線22の各断面CSの輪郭線の形状が、矩形状ではなく、矩形を湾曲させた形状である。第3実施形態における素線22の断面CSの輪郭線の短辺S2は、中心軸AXの方向に略平行であり、長辺S1は湾曲している。
【0056】
第3実施形態のコイル体20Bにおいても、直線状態の傾斜部21Bの縦断面において、素線22の各断面CSの輪郭線は、上述した要件を満たす一対の傾斜線S0を有する。第3実施形態では、一対の傾斜線S0は、湾曲した一対の長辺S1の一部である。
【0057】
また、第3実施形態のコイル体20Bにおいても、直線状態の傾斜部21Bにおいて、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22同士が接触するように構成されている。すなわち、
図7に示すように、直線状態の傾斜部21Bの縦断面において、素線22の各断面CSの輪郭線が有する一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22の他の断面CSが有する傾斜線S0と接している。
【0058】
このように、第3実施形態のコイル体20Bの傾斜部21Bにおいても、第1実施形態のコイル体20の傾斜部21と同様に、傾斜部21Bの縦断面における素線22の断面CSの輪郭線は、中心軸AXの方向に沿って互いに該断面CSの反対側に位置する一対の傾斜線S0を有する。一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向とのなす角θ1が0度超、90度未満の線である。また、一対の傾斜線S0のそれぞれは、中心軸AXの方向に沿って隣り合う素線22の他の断面CSの傾斜線S0と対向している。また、傾斜部21Bは、傾斜部21Bを湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成されている。そのため、第3実施形態によれば、湾曲させたときに湾曲状態を保持する傾斜部21Bを備えるコイル体20Bを提供することができる。
【0059】
また、第3実施形態のコイル体20Bでは、傾斜部21Bの縦断面における素線22の各断面CSの輪郭線において、傾斜線S0をより長く取ることができるため、素線22間の摩擦力を大きくすることができ、傾斜部21Bを湾曲させたときに湾曲状態をより確実に保持することができる。
【0060】
また、第3実施形態のコイル体20Bでは、傾斜部21Bの縦断面における素線22の各断面CSの輪郭線の形状が、中心軸AXの方向に略平行な辺(短辺S2)を有する形状であるため、コイル体20Bを成形する際に素線22が倒れ込みにくく、成形加工が容易である。
【0061】
D.第4実施形態:
図8は、第4実施形態におけるガイドワイヤ100Cの構成を示す説明図である。
図8には、ガイドワイヤ100Cのうち、コイル体20周りの構成を抜き出して示し、他の構成の図示を省略している。以下では、第4実施形態のガイドワイヤ100Cの構成のうち、上述した第1実施形態のガイドワイヤ100と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0062】
第4実施形態のガイドワイヤ100Cは、コイル体20の傾斜部21を中心軸AXの方向に伸長させる伸長機構60を備える。伸長機構60は、先端チップ61と、基端チップ62と、芯線64とを有する。
【0063】
伸長機構60の先端チップ61は、コイル体20の傾斜部21の先端に接続されている。基端チップ62は、コイル体20の傾斜部21の基端に接続されている。基端チップ62には、中心軸AXの方向に貫通する貫通孔63が形成されている。芯線64は、基端チップ62の基端側から貫通孔63を介してコイル体20の傾斜部21の中空部に挿入され、その先端部が先端チップ61に固定されている。芯線64は、一定程度以上の座屈抵抗性およびプッシャビリティー(圧縮力に対する剛性)を有している。
【0064】
コイル体20の傾斜部21が湾曲状態にあるときに、医師等の手技者が、芯線64の基端部を把持して芯線64を先端側に押し込む操作を行うと、先端チップ61が先端側に押され、先端チップ61に接続されたコイル体20の傾斜部21が中心軸AXの方向に伸長する。その結果、コイル体20の傾斜部21の素線22間の摩擦力が減少し、傾斜部21は直線状態に形状回復する。
【0065】
反対に、手技者が、芯線64の基端部を把持して芯線64を基端側に引っ張る操作を行うことにより、先端チップ61が基端側に引かれ、先端チップ61に接続されたコイル体20の傾斜部21が中心軸AXの方向に圧縮される。その結果、コイル体20の傾斜部21の素線22間の摩擦力が大きくなり、傾斜部21における湾曲状態保持力が増大する。なお、このとき、伸長機構60は、コイル体20の傾斜部21を中心軸AXの方向に圧縮する圧縮機構として機能する。
【0066】
このように、第4実施形態のガイドワイヤ100Cは、コイル体20と、コイル体20の傾斜部21を中心軸AXの方向に伸長させる伸長機構60とを備える。そのため、伸長機構60を用いてコイル体20の傾斜部21を中心軸AXの方向に伸長させることにより、傾斜部21を直線状態に形状回復させることができ、ガイドワイヤ100Cの操作性をさらに向上させることができる。
【0067】
E.第5実施形態:
図9は、第5実施形態におけるガイドワイヤ100Dの構成を示す説明図である。
図9には、ガイドワイヤ100Dのうち、コイル体20周りの構成を抜き出して示し、他の構成の図示を省略している。以下では、第5実施形態のガイドワイヤ100Dの構成のうち、上述した第1実施形態および第4実施形態のガイドワイヤ100と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0068】
第5実施形態のガイドワイヤ100Dは、コイル体20の傾斜部21を中心軸AXの方向に伸長させる伸長機構60Dを備える。伸長機構60Dは、先端チップ61と、基端チップ62と、撚線65と、圧縮コイルばね66とを有する。
【0069】
伸長機構60Dの先端チップ61は、コイル体20の傾斜部21の先端に接続されている。基端チップ62は、コイル体20の傾斜部21の基端に接続されている。基端チップ62には、中心軸AXの方向に貫通する貫通孔63が形成されている。撚線65は、基端チップ62の基端側から貫通孔63を介してコイル体20の傾斜部21の中空部に挿入され、その先端部が先端チップ61に固定されている。撚線65は、一定程度以上の柔軟性を有している。圧縮コイルばね66は、先端部が先端チップ61に接続され、基端部が基端チップ62に接続されており、コイル体20の傾斜部21に伸長力を付与している。
【0070】
撚線65に対して基端側への一定以上の引張力が作用している状態では、該引張力が、圧縮コイルばね66によるコイル体20の傾斜部21を伸長させようとする力に対するカウンタートラクションとして作用し、該伸長力は相殺される。この状態では、コイル体20の傾斜部21の素線22間の摩擦力が確保され、傾斜部21における湾曲状態保持機能が有効とされる。
【0071】
一方、コイル体20の傾斜部21が湾曲状態にあるときに、撚線65に対する基端側への一定以上の引張力の印加を止めると、圧縮コイルばね66によるコイル体20の傾斜部21を伸長させようとする力が作用し、傾斜部21が中心軸AXの方向に伸長する。その結果、コイル体20の傾斜部21の素線22間の摩擦力が減少し、傾斜部21は直線状態に形状回復する。
【0072】
このように、第5実施形態のガイドワイヤ100Dは、コイル体20と、コイル体20の傾斜部21を中心軸AXの方向に伸長させる伸長機構60Dとを備える。そのため、伸長機構60Dを用いてコイル体20の傾斜部21を中心軸AXの方向に伸長させることにより、傾斜部21を直線状態に形状回復させることができ、ガイドワイヤ100Dの操作性をさらに向上させることができる。
【0073】
また、第5実施形態のガイドワイヤ100Dでは、伸長機構60Dの撚線65を一定程度以上の柔軟性を有する構成とすることにより、伸長機構60Dの存在に起因してガイドワイヤ100Dの柔軟性が低下することを抑制することができる。
【0074】
F.第6実施形態:
図10および
図11は、第6実施形態におけるカテーテル200の構成を示す説明図である。
図10は、カテーテル200の全体の外観構成を示しており、
図11は、カテーテル200の先端部の断面構成を示している。
【0075】
カテーテル200は、生体管腔内に挿入されて使用される医療機器である。より詳細には、カテーテル200は、操作部の操作により先端部を湾曲させることができるステアリングマイクロカテーテルである。カテーテル200は、特許請求の範囲における医療機器の一例である。
【0076】
カテーテル200は、シース210と、操作部230とを備える。
【0077】
シース210は、長尺の管状部材である。
図11に示すように、シース210は、内周面によりメインルーメン211を画定する内層212と、内層212の外周側に積層された外層218と、の2層構成を有している。内層212および外層218は、例えば可撓性を有する樹脂材料により形成されている。
【0078】
外層218の肉部には、2本のサブチューブ214が埋設されている。2本のサブチューブ214は、シース210の径方向に互いに対向するように配置されている。サブチューブ214は、例えば可撓性を有する樹脂材料により形成されている。各サブチューブ214により画定されるサブルーメン215には、操作線216が挿通されている。操作線216の先端部は、サブチューブ214の先端から突出し、シース210(の外層218)に固定されている。
【0079】
外層218の肉部には、コイル体220が埋設されている。コイル体220は、2本のサブチューブ214を覆うように、2本のサブチューブ214の外周側に配置されている。コイル体220の構成は、第1実施形態のコイル体20の構成と同様である。すなわち、コイル体220は、湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成された傾斜部を備える。
【0080】
操作部230は、シース210の先端部の湾曲操作を行うための機構であり、シース210の基端側に配置されている。操作部230は、本体部233と、湾曲操作部231とを有する。
【0081】
操作部230の本体部233は、手技者が把持する部分である。本体部233の基端部には、メインルーメン211を介して薬液等を供給するシリンジ(不図示)が装着可能とされている。
【0082】
操作部230の湾曲操作部231は、本体部233に対して回転可能に設けられたダイヤル状の部材である。湾曲操作部231には、2つのサブルーメン215内に収容された操作線216が接続されている。湾曲操作部231を一方方向に回転操作すると、第1の操作線216に対して基端側に牽引する張力が生じ、かつ、第2の操作線216は緩まり、その結果、シース210の先端部が所定の方向に湾曲する。また、湾曲操作部231を反対方向に回転操作すると、第2の操作線216に対して基端側に牽引する張力が生じ、かつ、第1の操作線216は緩まり、その結果、シース210の先端部が上記所定の方向とは反対方向に湾曲する。
【0083】
上述したように、シース210の外層218の肉部にはコイル体220が埋設されている。そのため、湾曲操作部231の回転操作に伴いシース210の先端部が湾曲すると、コイル体220も湾曲して湾曲状態を保持する。その結果、シース210の先端部の湾曲状態が保持される。
【0084】
このように、本実施形態のコイル体220を備えるカテーテル200によれば、先端部を適切な形状に湾曲させた状態を保持することができ、操作性を向上させることができる。
【0085】
G.第7実施形態:
図12は、第7実施形態における内視鏡用処置具300の構成を示す説明図である。
図12は、内視鏡用処置具300の先端部の外観構成を示している。
【0086】
内視鏡用処置具300は、胆管等の体腔内の結石等の異物を破砕したり回収したりするための医療機器である。より詳細には、内視鏡用処置具300は、内視鏡スネアである。内視鏡用処置具300は、特許請求の範囲における医療機器の一例である。
【0087】
内視鏡用処置具300は、外付チューブ324と、コイル体320と、シース321と、処置部322と、基端部に設けられた図示しない操作部とを備える。
【0088】
外付チューブ324は、管状部材であり、内視鏡の鏡筒部302に平行して配置され、接続部材304によって鏡筒部302に取り付けられている。外付チューブ324の先端側にはコイル体320が設けられている。コイル体320の構成は、第1実施形態のコイル体20の構成と同様である。すなわち、コイル体320は、湾曲させたときに湾曲状態を保持するように構成された傾斜部を備える。
【0089】
シース321は、コイル体320および外付チューブ324の中空部に挿通されており、先端部がコイル体320の先端から突出している。処置部322は、ループ状の部材であり、先端部がシース321の先端から突出している。
【0090】
シース321の中空部には、図示しない操作線が挿通されており、該操作線によって処置部322と操作部とが連結されている。操作部を押し引きすることにより、ループ状の処置部322を、シース321の中空部から先端側に突出させたり、シース321の中空部内に収容したりすることができる。これにより、生体管腔内の異物Poを破砕したり回収したりすることができる。
【0091】
上述したように、内視鏡用処置具300の先端部にはコイル体320が配置されている。そのため、コイル体320を湾曲させると湾曲状態を保持する。その結果、内視鏡用処置具300の先端部の湾曲状態が保持される。
【0092】
このように、本実施形態のコイル体320を備える内視鏡用処置具300によれば、先端部を適切な形状に湾曲させた状態を保持することができ、操作性を向上させることができる。
【0093】
なお、従来の医療用内視鏡の湾曲機構に多く採用されているリンク方式では、湾曲操作においてリンク部に負荷が集中することから、リンク部の強度を確保するために小型化が困難である。これに対し、本実施形態のコイル体320を用いた湾曲機構によれば、構造的に負荷が集中する部分を有さず、圧縮力に対するキンク抵抗力も併せ持つため、より細径で高強度の湾曲機構を提供することができる。
【0094】
H.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0095】
上記実施形態におけるガイドワイヤ100、カテーテル200、内視鏡用処置具300の構成や、それらの装置を構成するコイル体の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、コイル体の全体が傾斜部であるが、コイル体の中心軸の方向に沿った一部分のみが傾斜部であってもよい。
【0096】
上記実施形態では、コイル体の傾斜部の縦断面における素線の各断面の輪郭線は、長方形、平行四辺形、または、湾曲した長方形であるが、各断面の輪郭線が上述した要件を満たす一対の傾斜線S0を有する限りにおいて、各断面の輪郭線は他の形状であってもよい。
【0097】
上記実施形態では、コイル体を備える医療機器として、ガイドワイヤ100、カテーテル200、内視鏡用処置具300を例に挙げたが、本明細書に開示される技術は、他の医療機器(例えば内視鏡用鉗子等)にも同様に適用可能である。また、本明細書に開示される技術は、医療機器に限られず、他の用途(例えば、配管用)に利用されるコイル体にも同様に適用可能である。
【0098】
上記実施形態におけるコイル体の製造方法は、あくまで一例であり、他の方法によりコイル体が製造されてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10:コアシャフト 11:細径部 12:第1テーパ部 13:中間径部 14:第2テーパ部 15:太径部 20:コイル体 21:傾斜部 22:素線 30:先端側接合部 40:基端側接合部 60:伸長機構 61:先端チップ 62:基端チップ 63:貫通孔 64:芯線 65:撚線 66:圧縮コイルばね 100:ガイドワイヤ 200:カテーテル 210:シース 211:メインルーメン 212:内層 214:サブチューブ 215:サブルーメン 216:操作線 218:外層 220:コイル体 230:操作部 231:湾曲操作部 233:本体部 300:内視鏡用処置具 302:鏡筒部 304:接続部材 320:コイル体 321:シース 322:処置部 324:外付チューブ