(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034396
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】製紙用ベルト
(51)【国際特許分類】
D21F 3/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
D21F3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138603
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000180597
【氏名又は名称】イチカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168572
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 仁志
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】坂井 太一
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055CE31
4L055CE32
(57)【要約】
【課題】
使用時における端部の反りが抑制された製紙用ベルトを提供する。
【解決手段】
抄紙機に使用され、湿紙が配置される第1の面と当該第1の面とは反対側の第2の面とを有する製紙用ベルトであって、少なくとも1層の織布を含む補強繊維基材層を有し、前記織布のうち少なくとも1層は、2重以上の重ね組織を有し、前記重ね組織は、平行に配置される第1の糸と第2の糸とを有し、前記第1の糸は前記第2の糸よりも第1の面に配置され、前記第2の糸は前記第1の糸よりも第2の面に配置され、前記第2の糸は、ポリエステル糸を含む、製紙用ベルト。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙機に使用され、湿紙が配置される第1の面と当該第1の面とは反対側の第2の面とを有する製紙用ベルトであって、
少なくとも1層の織布を含む補強繊維基材層を有し、
前記織布のうち少なくとも1層は、2重以上の重ね組織を有し、
前記重ね組織は、平行に配置される第1の糸と第2の糸とを有し、
前記第1の糸は前記第2の糸よりも第1の面に配置され、前記第2の糸は前記第1の糸よりも第2の面に配置され、
前記第2の糸は、ポリエステル糸を含む、製紙用ベルト。
【請求項2】
前記第2の糸は、捲縮加工されている、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項3】
前記第2の糸は、マルチフィラメントの撚糸である、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項4】
前記第1の糸および前記第2の糸は、製紙用ベルトの機械方向に沿って配置される、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項5】
バット層を有さない、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項6】
前記第1の糸の繊度が、前記第2の糸の繊度より大きい、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項7】
前記織布は、さらに前記第1の糸および前記第2の糸に対して織り込まれる第3の糸を有し、
前記第3の糸は、モノフィラメントの撚糸である、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項8】
前記重ね組織を有する前記織布は、さらに前記第1の糸および前記第2の糸に対して織り込まれる第3の糸を有し、
前記重ね組織は、前記第3の糸がK本の前記第1の糸の前記第1の面側を通過するとともにL本の前記第1の糸の前記第2の面側を通過する繰り返しと、前記第3の糸がM本の前記第2の糸の前記第1の面側を通過するとともにN本の前記第2の糸の前記第2の面側を通過する繰り返しとを同時に形成可能な繰り返し単位を有する組織であり、
K/L≧N/Mの関係を満足する、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項9】
前記重ね組織を有する前記織布は、さらに前記第1の糸および前記第2の糸に対して織り込まれる第3の糸を有し、
完全組織における前記第1の糸と前記第3の糸の交錯点の数は、完全組織における前記第2の糸と前記第3の糸の交錯点の数よりも大きい、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項10】
湿紙搬送ベルトである、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項11】
シュープレスベルトである、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
紙の原料から水分を除去する抄紙機は、一般的にワイヤーパートとプレスパートとドライヤーパートとを備えている。これらワイヤーパート、プレスパートおよびドライヤーパートは、湿紙の搬送方向に沿ってこの順番に配置されている。
【0003】
このような抄紙機の各パートにおいては、湿紙の搬送や湿紙の圧搾等を目的として、各種の製紙用ベルトが用いられている。このような製紙用ベルトとしては、例えば、湿紙の搬送および受渡しを行うための湿紙搬送ベルト(トランスファーベルト)、シュープレス機構において用いられるシュープレスベルト等が挙げられる。
【0004】
プレスパートにおける湿紙搬送ベルトを用いた湿紙の受渡しに関し、現在、抄紙機としては、クローズドドローにて湿紙の受渡しを行うクローズドドロー抄紙機が知られている。クローズドドロー抄紙機のプレスパートでは、湿紙が抄紙用フェルトまたは湿紙搬送ベルトに載置された状態で搬送されるため、湿紙が単独で走行する箇所が存在せず、紙切れの発生が防止されている。このため、クローズドドロー抄紙機は、高速運転適性および操業の安定性に関し、優れている。
【0005】
特許文献1には、異なる材料の異なる収縮特性および仕上げ工程等によって引き起こされる端部の反りを防止することを目的として、樹脂材料からなる2層を有し、一層をcd支持層の側に配置し、もう一方の層を表側に配置した製紙ベルトが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第03/071030号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、製紙用ベルトを使用する際には、製紙用ベルトの蛇行を防止するために、自動ガイド装置、いわゆるガイダーとともに用いられる場合がある。ガイダーは、一般に走行する製紙用ベルトの幅方向端部を検知し、製紙用ベルトの走行位置を調節する。ここで、製紙用ベルトの端部に反りが生じている場合、ガイダーは、製紙用ベルトの正確な位置を検出できず、製紙用ベルトの走行位置を適切に調節できなくなる。この結果、製紙用ベルトを安定的に使用することが困難になる。
【0008】
また、製紙用ベルトは、一般に、水の存在下で、すなわち湿潤状態で使用される。したがって、製紙用ベルトの端部の反りの発生状態も、湿潤状態で考慮する必要がある。特許文献1に記載の製紙ベルトは、単に完成品としての製紙ベルトの端部の反りの防止を目的としたものであって、湿潤状態での端部の反りを考慮したものではない。
【0009】
したがって、本発明の目的は、使用時における端部の反りが抑制された製紙用ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、使用時においては、製紙用ベルトを構成する基布層が製紙用ベルトの端部の反りに比較的大きな影響を与えていることを見出した。さらに、基布層に重ね組織を有する織布を採用し、重ね組織の糸の材料を慎重に選定することにより、製紙用ベルトの端部の反りを抑制可能なことを見出し、さらに検討を進めた結果、本発明に至った。
【0011】
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 抄紙機に使用され、湿紙が配置される第1の面と当該第1の面とは反対側の第2の面とを有する製紙用ベルトであって、
少なくとも1層の織布を含む補強繊維基材層を有し、
前記織布のうち少なくとも1層は、2重以上の重ね組織を有し、
前記重ね組織は、平行に配置される第1の糸と第2の糸とを有し、
前記第1の糸は前記第2の糸よりも第1の面に配置され、前記第2の糸は前記第1の糸よりも第2の面に配置され、
前記第2の糸は、ポリエステル糸を含む、製紙用ベルト。
[2] 前記第2の糸は、捲縮加工されている、[1]に記載の製紙用ベルト。
[3] 前記第2の糸は、マルチフィラメントの撚糸である、[1]または[2]に記載の製紙用ベルト。
[4] 前記第1の糸および前記第2の糸は、製紙用ベルトの機械方向に沿って配置される、[1]~[3]のいずれかに記載の製紙用ベルト。
[5] バット層を有さない、[1]~[4]のいずれかに記載の製紙用ベルト。
[6] 前記第1の糸の繊度が、前記第2の糸の繊度より大きい、[1]~[5]のいずれかに記載の製紙用ベルト。
[7] 前記織布は、さらに前記第1の糸および前記第2の糸に対して織り込まれる第3の糸を有し、
前記第3の糸は、モノフィラメントの撚糸である、[1]~[6]のいずれかに記載の製紙用ベルト。
[8] 前記重ね組織を有する前記織布は、さらに前記第1の糸および前記第2の糸に対して織り込まれる第3の糸を有し、
前記重ね組織は、前記第3の糸がK本の前記第1の糸の前記第1の面側を通過するとともにL本の前記第1の糸の前記第2の面側を通過する繰り返しと、前記第3の糸がM本の前記第2の糸の前記第1の面側を通過するとともにN本の前記第2の糸の前記第2の面側を通過する繰り返しとを同時に形成可能な繰り返し単位を有する組織であり、
K/L≧N/Mの関係を満足する、[1]~[7]のいずれかに記載の製紙用ベルト。
[9] 前記重ね組織を有する前記織布は、さらに前記第1の糸および前記第2の糸に対して織り込まれる第3の糸を有し、
完全組織における前記第1の糸と前記第3の糸の交錯点の数は、完全組織における前記第2の糸と前記第3の糸の交錯点の数よりも大きい、[1]~[8]のいずれかに記載の製紙用ベルト。
[10] 湿紙搬送ベルトである、[1]~[9]のいずれかに記載の製紙用ベルト。
[11] シュープレスベルトである、[1]~[9]のいずれかに記載の製紙用ベルト。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成により、使用時における端部の反りが抑制された製紙用ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の好適な実施形態に係る製紙用ベルトの一例を示す機械横断方向断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の好適な実施形態に係る製紙用ベルトが有する補強繊維基材の拡大断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の好適な実施形態に係る製紙用ベルトが有する補強繊維基材の織布の完全組織図である。
【
図4】
図4は、本発明の好適な実施形態に係る製紙用ベルト有する補強繊維基材の織布の完全組織図である。
【
図5】本発明の変形例に係る製紙用ベルトが有する補強繊維基材の拡大断面図である。
【
図6】本発明の変形例に係る製紙用ベルトが有する補強繊維基材の織布の完全組織図である。
【
図7】本発明の変形例に係る製紙用ベルトが有する補強繊維基材の織布の完全組織図である。
【
図8】
図8は、本発明の他の変形例に係る製紙用ベルトの機械横断方向断面図である。
【
図9】
図9は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態を説明するための概略図である。
【
図10】
図10は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態を説明するための概略図である。
【
図11】
図11は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の他の好適な実施形態を説明するための概略図である。
【
図12】
図12は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の他の好適な実施形態を説明するための概略図である。
【
図13】
図13は、実施例において用いた湿紙搬送ベルトの端部の反りの評価方法を説明するための模式図である。
【
図14】
図14は、実施例において用いた湿紙搬送ベルトの端部の反りの評価方法を説明するための模式図である。
【
図15】
図15は、抄紙機に搭載された製紙用ベルトおよび自動ガイド装置の一例を示す概要図である。
【
図16】
図16は、製紙用ベルトの端部に反りと自動ガイド装置の検出部(パーム)との関係を説明する概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る製紙用ベルトの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
<1.製紙用ベルトと自動ガイド装置との関係>
まず、本発明に係る製紙用ベルトの説明に先立ち、製紙用ベルトと自動ガイド装置との関係について説明する。
図15は、抄紙機に搭載された製紙用ベルトおよび自動ガイド装置の一例を示す概要図、
図16は、製紙用ベルトの端部に反りと自動ガイド装置の検出部(パーム)との関係を説明する概要図である。
【0016】
図15に示す製紙用ベルト101は、無端ベルトであり、ロールを介して走行する。自動ガイド装置110は、運転中に製紙用ベルト101の走行位置が抄紙機の駆動側あるいは反駆動側に片寄らないようにするために製紙用ベルト101の走行位置を調整する装置である。自動ガイド装置110は、製紙用ベルト101の位置を常時検出するとともに、ガイドロール102の製紙用ベルト101の走行方向に対する角度を変化させることによって、製紙用ベルト101が適切な位置になるように製紙用ベルト101の走行位置を調整している。
【0017】
ガイドロール102の角度の制御には、ガイドロール102の片側の軸受けに空気ばね等のアクチュエータ106の端部を連結すると共に、コイルスプリング107を設置して、アクチュエータ106とコイルスプリング107を釣り合わせる構造が一般的に用いられている。アクチュエータ106に空気圧を加えることによって、片側の軸受け108が他端側の軸受け109を支点として移動する。そしてアクチュエータ106が軸受け108を押す力とコイルスプリング107の反力が平衡するように、ガイドロール102の位置(製紙用ベルト101の走行方向に対する角度)が決定される。
【0018】
また、製紙用ベルト101の位置を検出してその位置に対応する空気圧をガイドロール102のアクチュエータ106に供給する装置として、パーム式の位置検出器付き空気圧調整装置104が多用されている。空気圧調整装置104には減圧弁105を通して一定の空気圧(供給圧)が供給され、一方、走行する製紙用ベルト101の端部にパーム103を接触させる。そして、製紙用ベルト101の端部1011の位置の変化を接触したパーム103の変位として検出し、このパーム103の変位により空気圧調整装置104内部において供給空気の一部または全部を大気放出して、残圧を空気圧調整装置104の出力圧とする。この出力圧の空気をアクチュエータ106に供給することにより、ガイドロール102の位置の調整が可能となる。
【0019】
ここで、パーム103と製紙用ベルト101の端部1011との関係について検討する。
図16に示すように、製紙用ベルト101に反りが生じていない場合(製紙用ベルト101’)には、製紙用ベルト101’の端部1011’は、適切な位置でパーム103と接触し、自動ガイド装置110は、正確に製紙用ベルト101’の位置を検出することが可能である。一方で、製紙用ベルト101の端部1011に反りが生じている場合、端部1011が反る結果、本来検出されるべき位置から距離D分離れて端部1011が存在し、パーム103が端部1011と接触できない、パーム103が本来接触するべき位置から離れた位置において端部1011と接触する、自動ガイド装置110のパーム103以外の部分と接触する等の問題が生じうる。
【0020】
このように、製紙用ベルト101に反りが生じると、自動ガイド装置110が正確に製紙用ベルト101の位置を検出できない結果、製紙用ベルト101を安定的に使用することが困難になる。なお、上記の説明では、自動ガイド装置としてパームを用いたパーム式自動ガイド装置を一例に、製紙用ベルトの反りによって生じうる問題を説明したが、他の機械式の自動ガイド装置や光学式の自動ガイド装置においても製紙用ベルトの端部を検出して製紙用ベルトの位置を調節することから、同様の問題が生じうる。
このような事情に鑑み、本発明者は、以下に説明するような使用時における端部の反りが抑制された製紙用ベルトの開発に至った。
【0021】
<2.湿紙搬送ベルト(製紙用ベルト)>
次に、本発明の好適な実施形態に係る製紙用ベルトについて説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態に係る湿紙搬送ベルト(製紙用ベルト)の一例を示す機械横断方向断面図、
図2は、
図1に示す湿紙搬送ベルトが有する補強繊維基材の拡大断面図、
図3、4は、
図1に示す湿紙搬送ベルトが備える補強繊維基材の織布の完全組織図である。なお、図中、各部材は、説明の容易化のため適宜大きさが強調されており、実際の各部材の比率及び大きさが示されているものではない。ここで、上記機械横断方向(Cross Machine Direction)については、「CMD」ともいい、また、機械方向(Machine Direction)については、「MD」ともいう。また、本実施形態においては、製紙用ベルトの一例として湿紙搬送ベルトについて説明するが、本発明の製紙用ベルトはこれに限定されるものではない。
【0022】
図1に示す湿紙搬送ベルト(製紙用ベルト)1は、抄紙機のプレスパートにおいて、湿紙Wの搬送、受け渡しに用いられるものである。湿紙搬送ベルト1は、無端状の帯状体をなしている。すなわち、湿紙搬送ベルト1は、環状のベルトである。そして、湿紙搬送ベルト1は、通常、その周方向が抄紙システムの機械方向(MD)に沿うようにして配置されるものである。
【0023】
湿紙搬送ベルト1は、補強繊維基材層11と、補強繊維基材層11の外表面側にある一方の主面(第1の面131)に設けられた第1の樹脂層(湿紙担持側樹脂層)13と、補強繊維基材層11の内表面側にある他方の主面(第2の面151)に設けられた第2の樹脂層(ロール側樹脂層)15とを有し、これらの層が積層されて形成されている。また、第1の樹脂層13は、湿紙搬送ベルト1が形成する環の外側表面(外周面)を形成する層である。
【0024】
補強繊維基材層11は、補強繊維基材111と、樹脂113とによって構成されている。樹脂113は、補強繊維基材111中の繊維の間隙を埋めるように、マトリクス樹脂として補強繊維基材層11中に存在している。すなわち、樹脂113の一部は、補強繊維基材111に含浸しており、一方で、補強繊維基材111は、樹脂113中に埋設されている。
【0025】
補強繊維基材111は、本実施形態において2重組織を有する織布であり、第1の経糸115と、第2の経糸117と、緯糸119とを有する。そして、補強繊維基材111の2重組織において、第1の経糸115は第1の面131側(湿紙担持側)に配置され、第2の経糸117は第1の面131側とは反対側、すなわち第2の面151側(ロール側)に配置されている。また、第1の経糸115および第2の経糸117は、平行に配置されている。また、第1の経糸115および第2の経糸117は、
図1、
図2中、紙面と垂直な方向、すなわち機械方向(MD)に沿うように配置されている。一方で、緯糸119は、第1の経糸115および第2の経糸117に対して略垂直に、すなわち機械横断方向(CMD)に沿って、配置されている。緯糸119は、第1の経糸115および第2の経糸117に対して織り込まれている。
なお、
図1、
図2中においては、理解を容易とするために、補強繊維基材111の構造の一部が模式的に記載されている。
【0026】
なお、本明細書において「経糸」とは、湿紙搬送ベルト(製紙用ベルト)の機械方向(MD)、すなわち周方向に沿って配置される糸であり、「緯糸」とは、湿紙搬送ベルト(製紙用ベルト)の機械横断方向(CMD)、すなわち周方向に垂直かつ製紙用ベルトの第1の面と平行な方向に沿って配置される糸である。言い換えると、経方向は、製紙用ベルトおよび抄紙機における機械方向、すなわち湿紙搬送方向を基準として設定され、緯方向は、製紙用ベルトおよび抄紙機における機械横断方向、すなわち湿紙搬送方向に垂直な方向を基準として設定される。また、経糸は製紙用ベルトの機械方向(MD)と平行でなくてもよく、例えば製紙用ベルトの機械方向(MD)に対して±10°以内の角度を有するように配置されてもよい。また、緯糸は製紙用ベルトの機械横断方向(CMD)と平行でなくてもよく、例えば製紙用ベルトの機械横断方向(CMD)に対して±10°以内の角度を有するように配置されてもよい。
【0027】
そして、本実施形態において、第2の経糸117は、ポリエステル糸を含む。これにより、湿紙搬送ベルト1の使用時における端部、すなわち巾方向(CMD)端部の反りが抑制される。
【0028】
より詳しく説明すると、使用時における湿紙搬送ベルトの端部の反りは、その製造直後の完成品に存在する初期の反りのみならず、使用時に水等で湿潤することにより、および抄紙機中において機械的な作用により生じる反りが存在することを、本発明者は見出した。さらに、本発明者は、中でも使用時に水等で湿紙搬送ベルトが膨潤することにより生じる反りが、使用時における製紙用ベルトの端部の反りにおいて最も大きな影響を与えうる可能性に着目した。
【0029】
そして、本発明者は、補強繊維基材が重ね組織を有する織布を有し、さらに、織布中の平行な2つの糸のうち、湿紙担持側と反対側すなわちロール側の第2の糸がポリエステル糸を含むことにより、湿紙搬送ベルトの端部の反りの制御が可能であることを見出した。具体的には、まず、製紙用ベルトの使用時において、多量の水の存在下にある。そして、ポリエステル糸は、比較的吸水しにくい材料である。このため、このような第2の糸を有する織布を備えた補強繊維基材は、製紙用ベルトの使用時においてロール側の第2の糸が吸水せず、膨潤しないことから、その端部が湿紙担持側へ反ることが抑制される。以上の結果、使用時における湿紙搬送ベルトの端部の反り、特に、湿紙担持側への反りが防止される。なお、本実施形態においては、第1の糸として第1の経糸115が、第2の糸として第2の経糸117が用いられている。
【0030】
上述したように、本実施形態において、第2の経糸117は、ポリエステル糸を含む。ポリエステル糸は、ポリエステル樹脂を少なくとも含んで構成される糸である。ポリエステル樹脂は、吸水性が低く、水が大量に使用される湿紙搬送ベルト1等の製紙用ベルトの使用環境下において水の吸収による膨潤が抑制されている。したがって、第2の経糸117は、湿紙搬送ベルト1の使用時においても水の吸収による膨潤が抑制され、補強繊維基材層11、ひいては湿紙搬送ベルト1の変形が抑制される。
【0031】
第2の経糸117に含まれるポリエステル糸を構成するポリエステル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
上述した中でも、ポリエステル樹脂は、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレートからなる群から選択される1種以上を、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1種以上を含む。これにより、湿紙搬送ベルト1の使用時においても水の吸収による膨潤が抑制され、補強繊維基材層11、ひいては湿紙搬送ベルト1の変形が抑制される。
【0033】
また、第2の経糸117に含まれるポリエステル糸においては、ポリエステル樹脂以外の樹脂が含まれていてもよい。このような樹脂としては、特に限定されず、例えば、脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、およびポリエチレン等が挙げられる。
【0034】
このような場合において、第2の経糸117に含まれるポリエステル糸は、ポリエステル樹脂とポリエステル樹脂以外の樹脂との混合物により構成される糸であってもよいし、ポリエステル樹脂の繊維とポリエステル樹脂以外の樹脂の繊維との混繊糸であってもよい。しかしながら、このような場合において、第2の経糸117に含まれるポリエステル糸中に含まれるポリエステル樹脂の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上である。特に、第2の経糸117に含まれるポリエステル糸は、さらに好ましくは本質的にポリエステル樹脂からなり、特に好ましくはポリエステル樹脂からなる。
【0035】
また、第2の経糸117は、補強繊維基材層11中において複数存在するが、その全てがポリエステル糸であってもよいし、ポリエステル糸に加えて、ポリエステル樹脂以外の樹脂の糸を含んでいてもよい。ポリエステル樹脂以外の樹脂の糸は、特に限定されず、例えば脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン等の樹脂を1種または2種以上含んで構成される。
【0036】
また、この場合において、複数の第2の経糸117のうち、好ましくは50%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは80%以上の糸がポリエステル糸である。好ましくは、すべての第2の経糸がポリエステル糸である。これにより、上述したポリエステル糸の効果をより確実に得ることができる。
【0037】
また、第1の経糸115、第2の経糸117および緯糸119を構成する材料としては、特に限定されず、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、羊毛、綿、金属等を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
第1の経糸115、第2の経糸117および緯糸119は、これらのうちいずれか2以上が同一の材料によって構成されていてもよいし、互いに異なる材料により構成されてもよい。
【0038】
上述した中でも、第1の経糸115は、好ましくはポリエステル、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド(アラミド)からなる群から選択される1種以上を含み、より好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、およびポリアミド612からなる群から選択される1種以上を含む。これにより、湿紙搬送ベルト1の使用時における強度維持と寸法安定性の両立ができる。
【0039】
上述した中でも、緯糸119は、好ましくはポリエステル、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド(アラミド)からなる群から選択される1種以上を含み、より好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、およびポリアミド612からなる群から選択される1種以上を含む。これにより、湿紙搬送ベルト1の使用時における強度維持と寸法安定性の両立ができる。
【0040】
また、第1の経糸115の繊度は、特に限定されず、例えば、500dtex以上8000dtex以下、好ましくは1000dtex以上6000dtex以下、より好ましくは2000dtex以上4000dtex以下である。これにより、補強繊維基材111の剛性を十分なものとし、湿紙搬送ベルト1の湿紙担持側およびロール側への端部の反りをより効果的に抑制することができる。
【0041】
また、第2の経糸117の繊度は、特に限定されないが、例えば、500dtex以上8000dtex以下、好ましくは1000dtex以上6000dtex以下、より好ましくは2000dtex以上4000dtex以下である。これにより、
補強繊維基材111の強度ひいては湿紙搬送ベルト1の強度を十分なものとしつつ、湿紙搬送ベルト1の端部の反りをより効果的に抑制することができる。
【0042】
また、第1の経糸115の繊度は、第2の経糸117の繊度よりも大きいことが好ましい。このように、湿紙Wが配置される第1の面131側にある第1の経糸115の繊度を反対側の第2の面151側にある第2の経糸117の繊度と比較して大きくすることにより、織布の第1の面131側(湿紙担持側)の密度が大きくなり、この結果第1の面131側(湿紙担持側)の剛性が高くなる。これにより、織布を備えた補強繊維基材層は、その端部が第1の面131側(湿紙担持側)へ反ることがより一層抑制される。
【0043】
具体的には、第1の経糸115の繊度は、第2の経糸117の繊度よりも50dtex以上、好ましくは100dtex以上、より好ましくは200dtex以上大きいことができる。これにより、湿紙搬送ベルト1の使用時における端部の反りをより効果的に抑制することができる。また、第1の経糸115の繊度は、例えば、第2の経糸117の繊度よりも3000dtex以下、好ましくは2500dtex以下、より好ましくは1000dtex以下の範囲で大きいことができる。これにより、第1の経糸115の繊度が第2の経糸117の繊度と比較して過度に大きくなりすぎて、湿紙搬送ベルト1の端部がロール側に反ることを抑制することができる。
【0044】
また、緯糸119の繊度は、特に限定されないが、例えば500dtex以上6000dtex以下、好ましくは800dtex以上3000dtex以下、より好ましくは1000dtex以上2000dtex以下である。これにより、補強繊維基材111の強度ひいては湿紙搬送ベルト1の強度を十分なものとしつつ、補強繊維基材111の織製に伴う波うちを十分に抑制することができる。
【0045】
また、第1の経糸115、第2の経糸117および緯糸119は、いかなる形態の糸であってもよく、スパン糸(紡績糸)であってもよいし、フィラメント糸であってもよい。しかしながら、補強繊維基材111、ひいては湿紙搬送ベルト1の強度を確保する観点から、第1の経糸115、第2の経糸117および緯糸119は、いずれもフィラメント糸であることが好ましい。なお、第1の経糸115、第2の経糸117および緯糸119は、それぞれ異なる形態の糸であってもよいし、同一の形態の糸であってもよい。
【0046】
また、フィラメント糸としては、例えば、マルチフィラメントまたはモノフィラメントの撚糸、マルチフィラメントまたはモノフィラメントの引きそろえ糸ならびにモノフィラメントの単糸などが挙げられる。
【0047】
ここで、本明細書において「マルチフィラメント」とは、2本以上の単糸を含んで構成されるフィラメントである。通常、マルチフィラメントを構成する単糸は、補強繊維基材の糸としては単独では使用され得ない繊度を有する。具体的には、マルチフィラメントを構成する単糸の繊度は、例えば100dtex未満、好ましくは5dtex以上50dtex以下である。またモノフィラメントは1本からなるフィラメントである。通常、モノフィラメントを構成する単糸は、補強繊維基材の糸として単独で使用され得る繊度を有する。モノフィラメントの繊度は、例えば100dtex以上6000dtex以下、好ましくは200dtex以上2500dtex以下とする。
【0048】
また、「マルチフィラメントの撚糸」は、原糸としてマルチフィラメントを用いた撚糸をいう。また、「マルチフィラメントの引きそろえ糸」は、原糸として上記のマルチフィラメントを構成する単糸を複数引きそろえた糸をいう。
【0049】
マルチフィラメントまたはモノフィラメントの引きそろえ糸として使用する場合、得られるフィラメント糸が例えば目的の繊度となるように原糸を引きそろえることにより当該引きそろえ糸を得ることができる。この場合において、マルチフィラメントの原糸を構成する単糸の繊度は、好ましくは5dtex以上100dtex未満、より好ましくは5dtex以上50dtex以下である。また、モノフィラメントの原糸の繊度は、好ましくは100dtex以上1000dtex以下、より好ましくは100dtex以上500dtex以下である。
【0050】
そして、マルチフィラメントまたはモノフィラメントの撚糸を使用する場合には、もろよりまたは片よりの撚糸を用いることができる。もろよりの場合、例えば200dtex以上2500dtex以下、好ましくは300dtex以上2000dtex以下となるように複数の原糸を引きそろえ、この引きそろえた原糸を撚る。そして、撚った引きそろえた原糸を目的とする繊度となるように、複数本例えば2~10本引きそろえてさらに撚ってマルチフィラメントまたはモノフィラメントのもろよりの撚糸を得ることができるこの場合において、下撚りのより数は特に限定されないが、例えば0.05回/cm以上20.0回/cm以下、好ましくは0.1回/cm以上10.0回/cm以下である。また、上撚りのより数は特に限定されないが、例えば0.05回/cm以上20.0回/cm以下、好ましくは0.1回/cm以上10.0回/cm以下である。
【0051】
また、片よりの場合、目的とする繊度となるように複数の原糸を引きそろえ、この引きそろえた原糸を撚ってマルチフィラメントまたはモノフィラメントの片よりの撚糸を得ることができる。撚糸とすることができる。この場合において、より数は特に限定されないが、例えば0.05回/cm以上20.0回/cm以下、好ましくは0.1回/cm以上10.0回/cm以下である。
【0052】
撚糸を用いる場合において、マルチフィラメントの原糸を構成する単糸の繊度は、好ましくは5dtex以上100dtex未満、より好ましくは5dtex以上50dtex以下である。また、モノフィラメントの原糸の繊度は、好ましくは200dtex以上1500dtex以下、より好ましくは300dtex以上1000dtex以下である。
【0053】
また、第1の経糸115、第2の経糸117および緯糸119には、適宜加工が施されていてもよい。このような加工としては、延伸加工、捲縮加工等が挙げられる。
【0054】
第1の経糸115は、上述した中でも、好ましくはモノフィラメントを含み、より好ましくはモノフィラメントの撚糸、さらに好ましくはモノフィラメントのもろよりの撚糸を含む。
【0055】
第2の経糸117は、上述した中でも、好ましくはマルチフィラメントを含み、より好ましくはマルチフィラメントの撚糸、さらに好ましくはマルチフィラメントの片よりの撚糸を含む。第2の経糸117としてマルチフィラメントの片よりの撚糸を用いた場合、湿紙搬送ベルト1の製造時において、第2の面151側からの樹脂材料の含浸速度を小さくすることができ、バット層を形成することなく、十分な厚さの第2の樹脂層15を形成することができる。この結果、バット層を省略することも可能となり、湿紙搬送ベルト1の端部の反りがより抑制される。
【0056】
さらに、第2の経糸117は、捲縮加工されていることが好ましい。これにより、湿紙搬送ベルト1の製造時において、第2の面151側からの樹脂材料の含浸速度を小さくすることができ、十分な厚さの第2の樹脂層15を形成することができる。
【0057】
緯糸119は、上述した中でも、好ましくはモノフィラメントを含み、より好ましくはモノフィラメントの撚糸を、さらに好ましくはモノフィラメントのもろよりの撚糸を含む。これにより、湿紙搬送ベルト1の使用時における端部の反りをより効果的に抑制することができる。
【0058】
また、上述したように、補強繊維基材111は、第1の経糸115と第2の経糸117とを経糸とし、緯糸119を緯糸とする2重組織を有する織布である。以下、補強繊維基材111の組織について、
図2~
図4を参照しつつ説明する。
【0059】
図2に示すように、また上述したように、補強繊維基材111の2重組織において、第1の経糸115は第1の面131側(湿紙担持側)に配置され、第2の経糸117は第1の面側とは反対側、すなわち第2の面151側(ロール側)に配置されている。そして、緯糸119は、第1の経糸115および第2の経糸117に対して織り込まれて、補強繊維基材111の織物組織が形成される。
【0060】
具体的には、第1の経糸115と緯糸119との関係として、緯糸119は、1本の第1の経糸115の第1の面131側を通過し(
図2中、1、5、9、13、17)、その後3本の第1の経糸115の第2の面151側を通過する(
図2中、2~4、6~8、10~12、14~16、18~20)繰り返しを有している。また、第2の経糸117と緯糸119との関係として、緯糸119は、7本の第2の経糸117の第1の面131側を通過し(
図2中、4~10、12~18)、その後1本の第2の経糸117の第2の面151側を通過する(
図2中、3、11、19)繰り返しを有している。そして、この第1の経糸115と緯糸119との間の繰り返しの関係および第2の経糸117と緯糸119との間の繰り返しの関係とを同時に形成可能とするように、補強繊維基材111の重ね組織は、繰り返し単位Rを有している。
【0061】
なお、以下の説明において、緯糸が、K本の第1の経糸の第1の面側を通過しその後L本の第1の経糸の第2の面側を通過する繰り返し、および緯糸がM本の第2の経糸の第1の面側を通過し、その後N本の第2の経糸の第2の面側を通過する繰り返しを同時に形成可能な繰り返し単位を有する織物組織を「L/K N/M」とも記載する。したがって、
図2に示す織物組織は「3/1 1/7」の2重組織と表記できる。
【0062】
そして、上述した、K、L、M、Nは、K/L≧N/Mの関係を満足することが好ましい。これにより、補強繊維基材111の織布の湿紙担持(第1の面131)側の密度が大きくなり、この結果湿紙担持側の剛性が高くなる。したがって、補強繊維基材111は、その端部が湿紙担持側へ反ることがより抑制され、使用時における湿紙搬送ベルト1の端部の反り、湿紙担持側への反りがより効果的に抑制される。さらに好ましくはK、L、M、Nは、K/L>N/Mの関係を満足する。
【0063】
図3は、補強繊維基材111の第1の経糸115と緯糸119との関係を示した完全組織図である。この完全組織図は、補強繊維基材111を第1の面131側から平面視した際に第1の経糸115および緯糸119のいずれが第1の面131側に露出しているかを観察することができる。
図3中、黒色の部分においては第1の経糸115が第1の面131側に露出し、白色の部分においては緯糸119が第1の面131側に露出している。言い換えると、白色の部分において緯糸119は第1の経糸115と交錯して折り返し、交錯点(ナックル部)を形成している。本実施形態においては、完全組織における緯糸119と第1の経糸115との交錯点の数は、16である。
【0064】
図4は、補強繊維基材111の第2の経糸117と緯糸119との関係を示した完全組織図である。この完全組織図は、補強繊維基材111を第2の面151側から平面視した際に第2の経糸117および緯糸119のいずれが第2の面151側に露出しているかを観察することができる。
図4中、黒色の部分においては第2の経糸117が第2の面151側に露出し、白色の部分においては緯糸119が第2の面151側に露出している。言い換えると、白色の部分において緯糸119は第2の経糸117と交錯して折り返し、交錯点(ナックル部)を形成している。本実施形態においては、完全組織における緯糸119と第2の経糸117との交錯点の数は、8である。
【0065】
このように、本実施形態においては、完全組織における緯糸119と第1の経糸115との交錯点の数は、完全組織における緯糸119と第2の経糸117との交錯点の数よりも大きい。これにより、補強繊維基材111の織布の湿紙担持(第1の面131)側の密度が大きくなり、この結果湿紙担持側の剛性が高くなる。したがって、補強繊維基材111は、その端部が湿紙担持側へ反ることがより抑制され、使用時における湿紙搬送ベルト1の端部の反り、湿紙担持側への反りがより効果的に抑制される。
【0066】
なお、補強繊維基材111は、上述したような特定の織布に加え他の織布および/または製織せずに経糸列と緯糸列の重ね合わせた格子状素材等の他の繊維材料を含んでいてもよい。また、補強繊維基材111は、周方向に沿ってらせん状に配置された糸を含んでいてもよい。
また、補強繊維基材111を構成する繊維の繊度は、その繊維を用いる部位によって異なっていてもよい。
【0067】
補強繊維基材層11に含まれる樹脂133の材料としては、特に限定されず、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂、またはポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができ、好適にはウレタン樹脂を使用することができる。
【0068】
樹脂133に用いられるウレタン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリオールとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、活性水素基を有する硬化剤とともに硬化させて得られるウレタン樹脂とすることができる。また、アニオン系、ノニオン系、カチオン系の自己乳化型、あるいは強制乳化型の水系ウレタン樹脂を使用することができる。
【0069】
上述したように、ウレタン樹脂は、例えば水系ウレタン樹脂および/またはポリイソシアネート化合物とポリオールとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、活性水素基を有する硬化剤とともに硬化させて得られるウレタン樹脂を含む。なお、いずれのウレタン樹脂もポリイソシアネート化合物、ポリオールおよび必要に応じて硬化剤を用いて形成される。したがって、以下、ウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート化合物、ポリオールおよび硬化剤について説明する。
【0070】
ポリイソシアネート化合物として、芳香族ポリイソシアネート化合物および脂肪族ポリイソシアネート化合物が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4-トリレン-ジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレン-ジイソシアネート(2,6-TDI)、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、p-フェニレン-ジイソシアネート(PPDI)、ジメチルビフェニレンジイソシアネート(TODI)、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート(NDI)、4,4-ジベンジルジイソシアネート(DBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレン-ジイソシアネート(TMXDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)等が挙げられる。
【0071】
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されないが、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート等の鎖状脂肪族ポリイソシアネートや、1-イソシアネート-3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(H12MDI)、1,3-シクロヘキシルジイソシアネート、1,4-シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)および1,4-ビス-(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)等の脂環式ポリイソシアネートが挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
上述した中でも、ポリイソシアネート化合物は、好ましくは芳香族ポリイソシアネート化合物、および脂肪族ポリイソシアネート化合物からなる群から選択される1種以上を、より好ましくは2,4-トリレン-ジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレン-ジイソシアネート(2,6-TDI)、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、1-イソシアネート-3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDI)、およびジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(H12MDI)からなる群から選択される1種以上を含む。これにより、湿紙搬送ベルト1の耐クラック性、耐摩耗性、湿紙搬送性(湿紙Wと湿紙搬送ベルト1との密着性と剥離性のバランス)をそれぞれ向上させることができる。
【0073】
ポリオール化合物としては、特に限定されず、長鎖ポリオール化合物、例えば、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエチレンアジペート等のポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール、ポリカーボーネートジオール等のポリカーボネートポリオール、ポリエーテルカーボーネートジオール、ポリブタジエンポリオール、パーフルオロポリエーテルポリオール、シリコンジオール等のシリコンポリオールが挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
なお、ポリカーボネートポリオールとしては、特に限定されないが、例えばポリカーボネートポリオール原料ポリオールとポリカーボネート源から合成されたポリカーボネートポリオールが挙げられる。またポリカーボネートポリオール原料ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数が2以上20以下の直鎖または分岐鎖アルキレングリコール、炭素数が2以上20以下の水酸基含有環式炭化水素等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記直鎖アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ウンデカンジオール、ドデカンジオール等が挙げられる。上記分岐鎖アルキレングリコールとしては、例えば2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等が挙げられる。上記水酸基含有環式炭化水素としては、例えば、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の水酸基含有脂環式アルカンが挙げられる。
【0075】
上述した中でも、ポリオール化合物は、好ましくはポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、およびポリエーテルカーボーネートジオールからなる群から選択される1種以上を、より好ましくはポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)およびヘキサンジオールとポリカーボネート源から合成されたポリカーボネートポリオールからなる群から選択される1種以上を含む。これにより、湿紙搬送ベルト1の耐クラック性、耐摩耗性、湿紙搬送性(湿紙Wと湿紙搬送ベルト1との密着性と剥離性のバランス)をそれぞれ向上させることができる。
【0076】
活性水素基を有する硬化剤としては、特に限定されず、ポリオール化合物およびポリアミンからなる群から選択された1種または2種以上の化合物を使用することができる。
【0077】
硬化剤に含まれ得るポリオール化合物としては、上述した長鎖ポリオール化合物に加え、各種脂肪族ポリオール化合物および各種脂環式もしくは芳香族ポリオール化合物を用いることができる。
【0078】
脂肪族ポリオール化合物としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,20-イコサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等のアルキレングリコール化合物や、グリセリン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリスリトール、ジヒドロキシメチルプロピオン酸(DHPA)等が挙げられる。
【0079】
脂環式ポリオール化合物としては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。
芳香族ポリオール化合物としては、特に限定されず、例えば、ハイドロキノンビス-β-ヒドロキシエチルエーテル(HQEE)、ヒドロキシフェニルエーテルレゾルシノール(HER)、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシベンゼン)、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシベンゼン)、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールS、ビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0080】
ポリアミンとしては、特に限定されず、ヒドラジン、エチレンジアミン、4,4’-メチレン-ビス-(2-クロロアニリン)(MOCA)、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、トリメチレングリコールジ(p-アミノベンゾエート)(TMAB)、4,4’-メチレン-ビス-(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)(MCDEA)、4,4’-メチレン-ビス-(2,6-ジエチルアニリン)(MDEA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、p-ビス(アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)、ナフタレン-1,5-ジアミン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエン-2,4-ジアミン、t-ブチルトルエンジアミン、1,2-ビス(2-アミノフェニルチオエタン)、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
【0081】
上述した中でも、硬化剤は、好ましくは、脂肪族ポリオール化合物およびポリアミンからなる群から選択される1種以上を、より好ましくは、エチレングリコール、ブタンジオール、トリメチロールプロパン(TMP)、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)からなる群から選択される1種以上を含む。これにより、湿紙搬送ベルト1の耐クラック性、耐摩耗性、湿紙搬送性(湿紙Wと湿紙搬送ベルト1との密着性と剥離性とのバランス)をそれぞれ向上させることができる。
【0082】
また、補強繊維基材層11の樹脂113は、架橋剤により架橋されていてもよい。架橋剤としては、カルボジイミド系、メラミン系、エポキシ系、イソシアネート系等の各種架橋剤があげられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせてもちいることができる。さらに、架橋剤は、溶媒、分散剤、界面活性剤等を含んだ架橋剤組成物であってもよく、液体(例えば溶液、ディスパージョン、エマルジョン)であってもよい。また、架橋剤が溶液状である場合、架橋剤は水溶液であってもよい。
【0083】
上記の架橋剤は、ウレタン樹脂を構成するための材料、例えばウレタンプレポリマーおよび硬化剤とともに混合して使用されてもよいし、水系ウレタン樹脂の分散液と混合して使用されてもよい。
【0084】
また、樹脂133に、酸化チタン、カオリン、クレー、タルク、珪藻土、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、シリカ、マイカなどの、無機充填剤を1種または2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0085】
なお、補強繊維基材層11中における樹脂113の組成および種類は、補強繊維基材層11中の部位ごとに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
【0086】
第1の樹脂層13は、補強繊維基材層11の一方の主面に設けられた、主として樹脂で構成される層である。
第1の樹脂層13は、補強繊維基材層11に接合する主面とは反対側の主面において、湿紙Wが配置される第1の面131を構成している。すなわち、湿紙搬送ベルト1は、第1の樹脂層13の第1の面131に湿紙Wを坦持して、湿紙Wを搬送することができる。なお、図示の態様においては、湿紙Wは、第1の面131に直接配置されている。しかしながら、湿紙Wは、第1の面131に間接的に配置されてもよい。例えば、使用態様に応じて第1の面131と湿紙Wとの間に他のデバイス、例えばフェルト等を配置し、湿紙Wを当該他のデバイスを介して第1の面131上に配置してもよい。
【0087】
第1の樹脂層13を構成する樹脂の材料としては、特に限定されず、例えば上述した補強繊維基材層11の樹脂113に用いることのできる各種樹脂を1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。第1の樹脂層13を構成する樹脂は、補強繊維基材層11の樹脂113と、種類および組成について、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0088】
また、第1の樹脂層13を構成する樹脂に、酸化チタン、カオリン、クレー、タルク、珪藻土、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、シリカ、マイカなどの、無機充填剤を1種または2種以上を組み合わせて含有させてもよい。このような無機充填剤を第1の樹脂層13を構成する樹脂に含ませることにより、第1の樹脂層13の第1の面131の凹凸の状態、表面粗さ、および親水性等の第1の面131の表面状態をより容易に制御でき、湿紙搬送ベルト1に要求される、湿紙Wを貼り付けた状態で搬送する機能(湿紙密着性)と、後段へ湿紙Wを受け渡す際に、湿紙Wをスムースに離脱する機能(湿紙剥離性)をより確実に達成することができる。
【0089】
一方で、無機充填剤は、湿紙搬送ベルト1の使用時において、湿紙搬送ベルト1を構成する他の部分と比較して吸湿しにくいため、湿紙搬送ベルト1の端部の反りの発生の一因となりやすい。しかしながら、本実施形態においては、湿紙搬送ベルト1が上述した補強繊維基材111を備えることにより、無機充填剤を使用した場合であっても湿紙搬送ベルト1の端部の反りが十分に抑制される。
【0090】
また、第1の樹脂層13は、水を透過しない性質を有することが好ましい。すなわち、第1の樹脂層13は、水不透過性であることが好ましい。
【0091】
第2の樹脂層(ロール側樹脂層)15は、補強繊維基材層11の一方の主面に設けられた、主として樹脂で構成される層である。
第2の樹脂層15は、補強繊維基材層11に接合する主面とは反対側の主面において、後述するロールと接触するための第2の面151を構成している。湿紙搬送ベルト1は、使用時において、第2の面151がロールと接触することにより、ロールより湿紙の搬送のための動力を得ることができる。また、第2の面151は、第2の面151に第2の経糸117を配置することによって凹凸を形成することも可能であり、これによって湿紙搬送ベルト1とロールがスリップするいわゆるハイドロプレーニング現象を防止することができる。
【0092】
第2の樹脂層15を構成する樹脂としては、上述したような第1の樹脂層13に用いることのできる樹脂材料を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。第2の樹脂層15を構成する樹脂は、第1の樹脂層13を構成する樹脂または補強繊維基材層11を構成する樹脂113と、種類および組成について、同一であっても異なるものであってもよい。
【0093】
また、第2の樹脂層15は、第1の樹脂層13と同様に無機充填剤を1種または2種以上含むものであってもよい。
なお、第2の樹脂層15中における樹脂材料および無機充填剤の組成および種類は、第2の樹脂層15中の部位ごとに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
【0094】
上述したような湿紙搬送ベルト1の寸法は、特に限定されず、その用途に合わせて適宜設定することができる。
例えば、湿紙搬送ベルト1の巾は、特に限定されないが、700~13500mm、好ましくは、2500~12500mmとすることができる。
また例えば、湿紙搬送ベルト1の長さ(周長)は、特に限定されないが、4~35m、好ましくは、10~30mとすることができる。
【0095】
また、湿紙搬送ベルト1の厚さは、特に限定されないが、例えば、1.5~7.0mm、好ましくは、2.0~6.0mmとすることができる。
また、湿紙搬送ベルト1は、部位ごとにそれぞれ厚さが異なっていてもよいし、同一であってもよい。
【0096】
以上のような湿紙搬送ベルト1は、例えば、後述する本実施形態に係る湿紙搬送ベルトの製造方法により製造可能である。
【0097】
以上、本実施形態に係る湿紙搬送ベルト1は、補強繊維基材111が2重組織を有する織布を含み、かつ、当該織布における第2の経糸117は、ポリエステル糸を含む。これにより、湿紙搬送ベルト1の使用時における端部、すなわち巾方向(CMD)端部の反りが抑制される。この結果、自動ガイド装置は、湿紙搬送ベルト1の位置をより精度よく検出して、より適切に湿紙搬送ベルト1の位置を制御することが可能となる。このような湿紙搬送ベルト1は、安定的に使用することが可能である。
【0098】
<2.変形例>
次に、上述した実施形態に係る製紙用ベルトのいくつかの変形例について説明する。以下、上述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については説明を省略する。また、以下に説明する変形例や上述した実施形態の特徴は、それぞれ単独で適用されるものであってもよいが、技術的に許容可能である限り2以上組み合わせて適用されるものであってもよい。
【0099】
(2.1. 第1の変形例)
図5は、第1の変形例に係る湿紙搬送ベルト(製紙用ベルト)が有する補強繊維基材の拡大断面図、
図6および
図7は、
図5の湿紙搬送ベルトが有する補強繊維基材の織布の完全組織図である。
【0100】
第1の変形例に係る湿紙搬送ベルト1Aは、上述した実施形態における補強繊維基材111に代えて、
図5~7に記載されるような補強繊維基材111Aを有する点で、上述した実施形態と異なり、その他は基本的に同様である。以下、補強繊維基材111Aについて説明する。
【0101】
補強繊維基材111Aは、2重組織を有する織布であり、第1の経糸115Aと、第2の経糸117Aと、緯糸119Aとを有する。そして、補強繊維基材111Aの2重組織において、第1の経糸115Aは第1の面側(湿紙担持側、図示せず)に配置され、第2の経糸117Aは第1の面側とは反対側、すなわち第2の面側(ロール側、図示せず)に配置されている。また、第1の経糸115Aおよび第2の経糸117Aは、平行に配置されている。また、第1の経糸115Aおよび第2の経糸117Aは、機械方向(MD)に沿うように配置されている。一方で、緯糸119Aは、第1の経糸115Aおよび第2の経糸117Aに対して略垂直に、すなわち機械横断方向(CMD)に沿って、配置されている。緯糸119Aは、第1の経糸115Aおよび第2の経糸117Aに対して織り込まれている。
【0102】
具体的には、第1の経糸115Aと緯糸119Aとの関係として、緯糸119Aは、1本の第1の経糸115Aの第1の面側を通過し(
図5中、1、5、9、13、17)、その後3本の第1の経糸115Aの第2の面側を通過する(
図5中、2~4、6~8、10~12、14~16)繰り返しを有している。また、第2の経糸117Aと緯糸119Aとの関係として、緯糸119Aは、3本の第2の経糸117Aの第1の面側を通過し(
図5中、4~6、8~10、12~14、16~18)、その後1本の第1の経糸115Aの第2の面側を通過する(
図5中、3、7、11、15)繰り返しを有している。そして、この第1の経糸115Aと緯糸119Aとの間の繰り返しの関係および第2の経糸117Aと緯糸119Aとの間の繰り返しの関係とを同時に形成可能とするように、補強繊維基材111Aの重ね組織は、繰り返し単位R’を有している。以上説明した
図5に示す補強繊維基材111の織物組織は「3/1 1/3」の2重組織と表記できる。
【0103】
図6は、補強繊維基材111Aの第1の経糸115Aと緯糸119Aとの関係を示した完全組織図である。この完全組織図は、補強繊維基材111Aを第1の面側から平面視した際に第1の経糸115Aおよび緯糸119Aのいずれが第1の面側に露出しているかを観察することができる。
図6中、黒色の部分においては第1の経糸115Aが第1の面側に露出し、白色の部分においては緯糸119Aが第1の面側に露出している。言い換えると、白色の部分において緯糸119Aは第1の経糸115Aと交錯して折り返し、交錯点(ナックル部)を形成している。本変形例においては、完全組織における緯糸119Aと第1の経糸115Aとの交錯点の数は、4である。
【0104】
図7は、補強繊維基材111Aの第2の経糸117Aと緯糸119Aとの関係を示した完全組織図である。この完全組織図は、補強繊維基材111Aを第2の面側から平面視した際に第2の経糸117Aおよび緯糸119Aのいずれが第2の面側に露出しているかを観察することができる。
図7中、黒色の部分においては第2の経糸117Aが第2の面側に露出し、白色の部分においては緯糸119Aが第2の面側に露出している。言い換えると、白色の部分において緯糸119Aは第2の経糸と交錯して折り返し、交錯点(ナックル部)を形成している。本変形例においては、完全組織における緯糸119Aと第2の経糸117Aとの交錯点の数は、4である。
【0105】
以上のような湿紙搬送ベルト1Aにおいても、第2の経糸117Aはポリエステル糸を含む。これにより、上述した実施形態と同様な効果が奏される。
【0106】
(2.2. 第2の変形例)
図8は、第2の変形例に係る湿紙搬送ベルト(製紙用ベルト)の機械横断方向断面図である。第2の変形例に係る湿紙搬送ベルト1Bは、上述した実施形態における第1の樹脂層13および第2の樹脂層15に代えて、バット繊維に樹脂材料を含侵させた第1の樹脂層13Bおよびバット繊維に樹脂材料を含侵させた第2の樹脂層15Bを有する点で、上述した実施形態と異なる。
【0107】
第1の樹脂層13Bは、補強繊維基材層11B上に形成されたバット繊維層に樹脂材料を含侵して得られる。したがって、第1の樹脂層13Bは、バット繊維と、マトリクスとしての樹脂とを含む。第1の樹脂層13Bの樹脂の材料としては、上述した実施形態における第1の樹脂層13の樹脂の材料と同様のものを用いることができる。また、バット繊維の素材としては、上述した実施形態における補強繊維基材111に用いることのできる素材を1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0108】
第2の樹脂層15Bは、補強繊維基材層11B上に形成されたバット繊維層に樹脂材料を含侵して得られる。したがって、第2の樹脂層15Bは、バット繊維と、マトリクスとしての樹脂とを含む。第2の樹脂層15Bの樹脂の材料としては、上述した実施形態における第1の樹脂層13の樹脂の材料と同様のものを用いることができる。また、バット繊維の素材としては、上述した実施形態における補強繊維基材111に用いることのできる素材を1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0109】
また、補強繊維基材層11Bの両面には上述したように第1の樹脂層13Bおよび第2の樹脂層15Bの形成に伴い、バット繊維層が配置される。このようなバット繊維層は、補強繊維基材層11Bの両面にバット繊維を配置し、ニードリングによりバット繊維を補強繊維基材層11Bに絡合させることにより形成される。したがって、補強繊維基材層11Bの補強繊維基材111Bにはバット繊維が絡合されている。なお、補強繊維基材層11Bのその他の構成は、上述した実施形態の補強繊維基材111と同様である。
【0110】
以上説明したように、本変形例においては、第1の樹脂層13Bおよび第2の樹脂層15Bは、樹脂のみならずバット繊維を含む。このように第1の樹脂層13Bおよび第2の樹脂層15Bがバット繊維を含む場合、第1の樹脂層13Bの第1の面131Bおよび第2の樹脂層15Bの第2の面151Bに適度の凹凸が生じる。この結果、第1の面131Bにおいては湿紙Wの密着性および剥離性の制御がより容易となる。また、第2の面151Bにおいては接触するロールに対して十分な摩擦を得ることができ、ロールからの動力をより効率よく湿紙搬送ベルト1に伝達することができる。また、第2の面151Bは、第2の面151Bにバット繊維を配置することによって凹凸を形成することも可能であり、これによって湿紙搬送ベルト1Bとロールがスリップするいわゆるハイドロプレーニング現象を防止することができる。
【0111】
さらには、第1の樹脂層13Bおよび第2の樹脂層15Bの形成時において樹脂材料を塗布する際に、樹脂材料のバット繊維および補強繊維基材層11Bへの含侵速度は、バット繊維が存在しない場合と比較して、小さくなる。この結果、第1の樹脂層13Bおよび第2の樹脂層15Bの厚さを十分なものとすることができ、湿紙搬送ベルト1の耐久性および強度を十分なものとすることができる。
【0112】
一方で、第1の樹脂層13Bおよび第2の樹脂層15Bのように樹脂層中にバット繊維を含めた場合には、バット繊維が吸湿、膨潤することにより、一般的には湿紙搬送ベルトの端部に反りが発生しやすい傾向にある。しかしながら、湿紙搬送ベルト1Bは、上述したような補強繊維基材層11Bを備えることにより、湿紙搬送ベルト1Bの端部の反りの発生が抑制されている。
【0113】
(2.3. その他の変形例)
上述した実施形態では、補強繊維基材層11に含まれる織布は2重組織であったが、本発明はこれに限定されず、3重以上の重ね組織であってもよい。この場合において、織布の重ね組織のいずれか2つの平行する経糸または緯糸のうち、第2の面側に配置された糸がポリエステル糸を含む。好ましくは、織布の重ね組織の平行する経糸または緯糸のうち、最も第2の面(ロール側)に近い糸が、ポリエステル糸を含む。
【0114】
また、上述した実施形態では補強繊維基材層11に含まれる織布の第2の経糸117がポリエステル糸を含んだが、本発明はこれに限定されず、補強繊維基材層に含まれる織布が緯多重織であり、2本の平行する緯糸について、第2の面側(ロール側)の緯糸がポリエステル糸を含んでもよい。
【0115】
また、上述した第2の変形例においては、補強繊維基材層11Bの両面にバット繊維を含む第1の樹脂層13Bおよび第2の樹脂層15Bを形成したが、本発明はこれに限定されず、補強繊維基材層の一方の面のみにバット繊維を含む樹脂層を形成してもよい。
【0116】
<4.製紙用ベルトの製造方法>
次に、上述した本発明の製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態のいくつかの例について説明する。本実施形態では製紙用ベルトの一例として湿紙搬送ベルト1の製造方法について代表的に説明する。湿紙搬送ベルト1はいかなる方法にて製造されてもよい。以下では、湿紙搬送ベルト1の製造方法として、裏面コート反転製法および表面コート貫通製法を代表的に説明する。
【0117】
まず、
図9、10を参照しつつ、裏面コート反転製法について説明する。
図9および
図10は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態を説明するための概略図である。まず、
図9に示すように、無端状の補強繊維基材111を2本の平行に配置されたロール21に接触するように掛け入れる。この時、補強繊維基材111の第1の経糸115がロール21と接するように、補強繊維基材111を配置する。次いで、ロール21を回転させながら、補強繊維基材111の第2の経糸117が配置された側から、すなわち、現在掛け入れている補強繊維基材111の外側から、コーターの樹脂吐出口25より、第2の樹脂層15を形成するための樹脂材料を補強繊維基材111の表面に吐出し、コーターバー23を用いて樹脂材料を塗工する。次いで、塗工した樹脂材料を加熱により硬化させ、第2の樹脂層15を形成する。
【0118】
次に、
図10に示すように、形成された第2の樹脂層15がロール21と接するように、補強繊維基材111を反転させて掛け入れる。その後、補強繊維基材層11の樹脂113および第1の樹脂層13を構成する樹脂となる樹脂材料を、コーターの樹脂吐出口25より補強繊維基材111の表面に吐出し、コーターバー23を用いて樹脂材料を塗工する。これにより、補強繊維基材111に樹脂材料が含侵して樹脂113を構成するとともに補強繊維基材111上に第1の樹脂層13の前駆体が形成される。そして、得られた補強繊維基材111を含む樹脂の積層体を加熱硬化して、第1の樹脂層13、補強繊維基材層11および第2の樹脂層15がこの順に積層された湿紙搬送ベルト1を得る。なお、必要に応じて研磨装置を用いて第1の樹脂層13の第1の面131および/または第2の樹脂層15の第2の面151を研磨してもよい。
【0119】
次に、
図11、12を参照しつつ、表面コート貫通製法について説明する。
図11および
図12は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態を説明するための概略図である。まず、
図11に示すように、無端状の補強繊維基材111を2本の平行に配置されたロール21に接触するように掛け入れる。この時、補強繊維基材111の第2の経糸117がロール21と接するように、補強繊維基材111を配置する。次いで、ロールを回転させながら、補強繊維基材111の第1の経糸115が配置された側から、すなわち、現在掛け入れている補強繊維基材111の外側から、コーターの樹脂吐出口25より、樹脂材料を補強繊維基材111の表面に吐出し、コーターバー23を用いて樹脂材料を塗工する。この際に塗布された樹脂材料は、補強繊維基材111を貫通することができる。したがって、本実施態様においては、補強繊維基材111に含まれる樹脂113のみならず、第2の樹脂層15を構成する樹脂を形成することが可能で、補強繊維基材層11と第2の樹脂層15を同時に形成することが可能である。
【0120】
次に、
図12に示すように、形成された補強繊維基材層11の外表面に、第1の樹脂層13の樹脂材料を付与する。具体的には、形成された補強繊維基材層11と第2の樹脂層15をロール21により回転させつつ樹脂吐出口25から樹脂材料を吐出して、補強繊維基材層11の外表面に樹脂材料を付与することにより行う。また、同時に付与された樹脂材料をコーターバー23を用いて均一に塗布する。なお、各層を構成する樹脂材料は、上述した無機充填剤との混合物として付与されるものであってもよい。
【0121】
次に、塗布した樹脂材料を乾燥・硬化させる。これにより、第1の樹脂層13と、補強繊維基材層11と、第2の樹脂層15とが、外表面からこの順で積層した湿紙搬送ベルト1を得る。なお、必要に応じて研磨装置を用いて第1の樹脂層13の第1の面131および/または第2の樹脂層15の第2の面151を研磨してもよい。
【0122】
以上、本発明について好適な実施態様に基づき詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することも出来る。
【0123】
また、上述した説明では、製紙用ベルトとして湿紙搬送ベルトを例に説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明の製紙用ベルトは、シュープレスベルトであってもよいし、他の製紙用ベルトであってもよい。
【実施例0124】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0125】
1.湿紙搬送ベルトの製造
(実施例1)
表面コート貫通製法により、以下のようにして実施例1に係る湿紙搬送ベルトを製造した。
【0126】
(i)補強繊維基材の準備
まず、補強繊維基材として以下の構成の経2重組織の織布を用意した。
・第1の経糸:ポリアミド6からなる3810dtexのモノフィラメントの撚糸
(370dtexのポリアミド6のモノフィラメントを2本撚り合わせ、これを5本撚り合わせた。下撚りは、2.1回/cm、上撚りは、1.2回/cmとした。)
・第2の経糸:ポリエチレンテレフタレートからなる3396dtexのマルチフィラメントの撚糸
(8.5dtexのポリエチレンテレフタレートのフィラメントを118本引き揃え、これを3本撚り合わせた。上撚りは、0.1回/cmとした。)
【0127】
・ 緯糸:ポリアミド610からなる1582dtexのモノフィラメントの撚糸
(370dtexのポリアミド610のモノフィラメントを2本撚り合わせ、これを2本撚り合わせた。下撚りは、3.1回/cm、上撚りは、2.2回/cmとした。)
・ 組織:上・下経糸35本/5cm、緯糸40本/5cm、経2重組織(3/1 1/7、
図2~
図4の組織に相当)
【0128】
(ii) 積層体の形成
まず、用意した無端状の補強繊維基材を2本の平行に配置されたロールに掛け入れた。この際、補強繊維基材の第2の経糸がロールに接触するように補強繊維基材をロールに掛け入れた。ロールを回転させながら、補強繊維基材の第1の経糸が露出した表面にウレタン組成物を付与した。ウレタン組成物としては、2,4-トリレン-ジイソシアネート(2,4-TDI)および2,6-トリレン-ジイソシアネート(2,6-TDI)の混合物をポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)と反応させて得られるウレタンプレポリマーと、硬化剤としてのジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)との混合物を用いた。
【0129】
このウレタン組成物を付与した際に、ウレタン組成物は補強繊維基材に含浸するとともに補強繊維基材を貫通し、補強繊維基材層とロール側の第2の樹脂層が同時に形成された。次に、形成された補強繊維基材層の外表面に、各湿紙担持側の第1の樹脂層のウレタン組成物を付与し、第1の樹脂層を積層させた。この最外層から順に、第1の樹脂層、補強繊維基材層、第2の樹脂層となる積層体を加熱・乾燥させ湿紙搬送ベルトの半製品を得た。
(iii)研磨加工、バフ加工
湿紙搬送ベルト(半製品)の湿紙担持側の表面について、#80~#600の研磨布紙を研磨装置に適宜セットし研磨した。また、湿紙接触表面の表面粗さを調整するために適宜バフ加工を施し、各例の湿紙搬送ベルトの湿紙担持表面の算術平均粗さを0.3~20μmとした。以上により実施例1に係る湿紙搬送ベルトを完成させた。
なお、湿紙搬送ベルトの製作寸法は、丈20m、巾700mmとした。
【0130】
(実施例2)
補強繊維基材を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る湿紙搬送ベルトを製造した。
実施例2において使用した補強繊維基材は、実施例1において使用した補強繊維基材と同様の第2の経糸、緯糸および織物組織を使用し、一方で、第1の経糸として以下のものを用いた。
・第1の経糸:ポリアミド6からなる2271dtexのモノフィラメントの撚糸
(370dtexのポリアミド6のモノフィラメントを2本撚り合わせ、これを3本撚り合わせた。下撚りは、2.7回/cm、上撚りは、2.1回/cmとした。)
【0131】
(実施例3)
補強繊維基材を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る湿紙搬送ベルトを製造した。
実施例3において使用した補強繊維基材は、実施例1において使用した補強繊維基材と同様の第1の経糸、第2の経糸および織物組織を使用し、一方で、緯糸として以下のものを用いた。
・ 緯糸:ポリアミド610からなる1059dtexのモノフィラメントの単糸
【0132】
(実施例4)
補強繊維基材を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る湿紙搬送ベルトを製造した。
実施例4において使用した補強繊維基材は、実施例1において使用した補強繊維基材と同様の第2の経糸および織物組織を使用し、一方で、第1の経糸および緯糸として以下のものを用いた。
・第1の経糸:ポリアミド6からなる2271dtexのモノフィラメントの撚糸
(370dtexのポリアミド6のモノフィラメントを2本撚り合わせ、これを3本撚り合わせた。下撚りは、2.7回/cm、上撚りは、2.1回/cmとした。)
・ 緯糸:ポリアミド610からなる1059dtexのモノフィラメントの単糸
【0133】
(実施例5)
補強繊維基材を以下のように変更した以外は、実施例2と同様にして、実施例5に係る湿紙搬送ベルトを製造した。
実施例5において使用した補強繊維基材は、実施例2において使用した補強繊維基材と同様の第1の経糸、第2の経糸および緯糸を使用し、一方で、織物組織として経2重組織(3/1 1/3、
図5~
図7の組織に相当)を有していた。
【0134】
(実施例6)
補強繊維基材の両面にバット繊維をニードリングしてバット繊維層を形成した以外は、実施例5と同様にして、実施例6に係る湿紙搬送ベルトを製造した。
実施例6においては、バット繊維としてポリアミド66からなる22dtex、カット長76mmの短繊維を用い、第1の樹脂層を形成する側(湿紙担持側)においては100g/m2、第2の樹脂層を形成する側(ロール側)においては100g/m2の坪量となるように両面にバット繊維層を形成した。
【0135】
(比較例1)
補強繊維基材を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る湿紙搬送ベルトを製造した。
・第1の経糸および第2の経糸:ポリアミド6からなる2271dtexのモノフィラメントの撚糸
(370dtexのポリアミド6のモノフィラメントを2本撚り合わせ、これを3本撚り合わせた。下撚りは、2.7回/cm、上撚りは、2.1回/cmとした。)
・ 緯糸:ポリアミド610からなる1582dtexのモノフィラメントの撚糸
(370dtexのポリアミド610のモノフィラメントを2本撚り合わせ、これを2本撚り合わせた。下撚りは、3.1回/cm、上撚りは、2.2回/cmとした。)
・ 組織:上・下経糸35本/5cm、緯糸40本/5cm、経2重組織(3/1 1/3、
図5~
図7の組織に相当)
また、補強繊維基材には、バット繊維としてポリアミド66からなる22dtex、カット長22mmの短繊維を用い、第1の樹脂層を形成する側(湿紙担持側)においては100g/m
2、第2の樹脂層を形成する側(ロール側)においては100g/m
2の坪量となるように両面にバット繊維層を形成した。
【0136】
(比較例2)
補強繊維基材を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る湿紙搬送ベルトを製造した。
・第1の経糸:ポリアミド6からなる2271dtexのモノフィラメントの撚糸
(370dtexのポリアミド6のモノフィラメントを2本撚り合わせ、これを3本撚り合わせた。下撚りは、2.7回/cm、上撚りは、2.1回/cmとした。)
・第2の経糸:ポリアミド6からなる3333dtexのマルチフィラメントの撚糸
(22.1dtexのポリアミド6のフィラメントを68本引き揃えて撚り合わせ、これを2本撚り合わせた。下撚りは、0.7回/cm、上撚りは、0.7回/cmとした。)
【0137】
・ 緯糸:ポリアミド610からなる1059dtexのモノフィラメントの単糸
・ 組織:上・下経糸35本/5cm、緯糸40本/5cm、経2重組織(3/1 1/7、
図2~
図4の組織に相当)
【0138】
2.評価
製造した実施例1~6および比較例1、2の湿紙搬送ベルトについて、以下の手順により、端部の反りの発生具合を評価した。
まず、各実施例1~6および比較例1、2の湿紙搬送ベルトから、丈3.2m、巾方向22cmの試験片Sを切り出した。次に、室温20±2℃、湿度50±10%の室内にて、各実施例1~6および比較例1、2の試験片Sを水に24時間浸漬させた。
【0139】
次に、各実施例1~6および比較例1、2の試験片Sの長さ方向端部を縫合糸で無端状とした。ついて、各試験片Sを、
図13に示すように、2本の平行なロール30に掛け入れた。次に、ロール30を回転させて、試験片Sを布速4m/分の速さで2周させつつ散布機40より水41を試験片の表面状に散布した。
【0140】
散布後、試験片Sに作用する張力が5kN/mとなるように調整した後、ロール30を停止した。そして、
図14に示すように、試験片Sの第2の樹脂層側に金尺50を当接させて金尺50を水平に調節し、金尺50と金尺50から最も離れた試験片Sの部位との距離を耳カール量d
1、d
2として測定した。なお、試験片Sは、端部がロール側、すなわち金尺50側に反る場合もある。この場合には、試験片Sの巾方向中央付近の最も高い場所と金尺50との距離を耳カール量として測定した。4か所について耳カール量を測定し、この平均値を試験片Sの耳カール量とした。
【0141】
以上の評価結果を各実施例1~6および比較例1、2の補強繊維基材の構成とともに表1、2に示す。
【0142】
【0143】
【0144】
表1、2に示すように、実施例1~6に係る湿紙搬送ベルトは、比較例1、2に係る湿紙搬送ベルトと比較して耳カール量が小さく、端部の反りが抑制されていた。なお、上述した評価では、巾22cmの試験片Sを用いたが、実機の抄紙機に掛け入れられる湿紙搬送ベルトは、数mの巾を有し、これにほぼ比例して端部の反りも大きくなる。
【0145】
また、実施例1と実施例2、および実施例3と実施例4をそれぞれ比較すると、湿紙担持側の第1の経糸の繊度がロール側の第2の経糸の繊度よりも大きい実施例1、3に係る湿紙搬送ベルトは、湿紙担持側の第1の経糸の繊度がロール側の第2の経糸の繊度よりも小さい実施例2、4に係る湿紙搬送ベルトと比較して、耳カール量が小さく、端部の反りが抑制されていた。
【0146】
さらに、実施例1と実施例3、および実施例2と実施例4をそれぞれ比較すると、緯糸としてモノフィラメントの撚糸を用いた実施例1、3に係る湿紙搬送ベルトは、緯糸としてモノフィラメントの単糸を用いた実施例2、4に係る湿紙搬送ベルトと比較して、耳カール量が小さく、端部の反りが抑制されていた。
【0147】
また、実施例2と実施例5とを比較すると、3/1 1/7の織物組織を有する補強繊維基材を用いた実施例2に係る湿紙搬送ベルトは、3/1 1/3の織物組織を有する補強繊維基材を用いた実施例5に係る湿紙搬送ベルトと比較して耳カール量が小さかった。
【0148】
また、実施例5と実施例6とを比較すると、補強繊維基材にバット繊維層を有しない実施例5に係る湿紙搬送ベルトは、補強繊維基材にバット繊維層を有する実施例6に係る湿紙搬送ベルトと比較して耳カール量が小さかった。一方で、補強繊維基材にバット繊維層を有する実施例6に係る湿紙搬送ベルトも、比較例1、2に係る湿紙搬送ベルトと比較して、耳カール量が小さく、端部の反りが抑制されていた。