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特開2024-34422アルミニウム合金板の製造方法、アルミニウム合金板の製造装置およびアルミニウム合金鋳造板
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  • 特開-アルミニウム合金板の製造方法、アルミニウム合金板の製造装置およびアルミニウム合金鋳造板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034422
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】アルミニウム合金板の製造方法、アルミニウム合金板の製造装置およびアルミニウム合金鋳造板
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20240306BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240306BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20240306BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20240306BHJP
   C22C 21/06 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B22D11/00 E
C22C21/02
C22C9/00
C22C21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138644
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山崎 一輝
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DA13
4E004NC08
4E004QA03
4E004SC04
4E004SC05
4E004SD03
4E004SE05
(57)【要約】
【課題】アルミニウム合金の鋳造において表面割れおよび中心線偏析を低減する。
【解決手段】対向する第1ロール11および第2ロール12を有する1組のロール1の間に溶湯40を供給し凝固させる双ロール式連続鋳造方法によって、アルミニウム合金板42を製造する。溶湯40は、主成分として80質量%以上のAlを含む。第1ロール11および第2ロール12は、冷媒通路が内部に形成された銅製ロール、冷媒通路が内部に形成された銅合金製ロール、またはロール外周部を構成する円筒状のシェルに冷媒通路が形成された軟鋼製ロールである。冷媒通路に冷媒を流しながら、10m/min以上、且つ120m/min以下の周速で第1ロール11および第2ロール12をそれぞれ回転させる。回転する第1ロール11および第2ロール12によるロール押圧が、20N/mm以下(但し、0N/mmを含まず)とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する1組のロールの間に溶湯を供給し凝固させる双ロール式連続鋳造方法によって、アルミニウム合金板を製造する方法であって、
前記溶湯は、主成分として80質量%以上のAlを含み、
前記ロールは、冷媒通路が内部に形成された銅製ロール、冷媒通路が内部に形成された銅合金製ロール、またはロール外周部を構成する円筒状のシェルに冷媒通路が形成された軟鋼製ロールであり、
前記冷媒通路に冷媒を流しながら、10m/min以上、且つ120m/min以下の周速で前記1組のロールをそれぞれ回転させ、
回転する前記1組のロールによるロール押圧が、20N/mm以下(但し、0N/mmを含まず)とされている、
アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム合金板の製造方法において、
回転する前記1組のロールによるロール押圧が、4N/mm以下とされている、
アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金板の製造方法において、
前記溶湯は、0.3~10質量%のMgを含む、
アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金板の製造方法において、
前記溶湯は、0.3~2質量%のSiを含む、
アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金板の製造方法において、
前記ロールは、前記銅製ロールまたは前記銅合金製ロールである、
アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項6】
対向する1組のロールの間に溶湯を供給し凝固させる双ロール式連続鋳造方法によって、アルミニウム合金板を製造する装置であって、
前記溶湯は、主成分として80質量%以上のAlを含み、
前記ロールは、冷媒通路が内部に形成された銅製ロール、冷媒通路が内部に形成された銅合金製ロール、またはロール外周部を構成する円筒状のシェルに冷媒通路が形成された軟鋼製ロールであり、
10m/min以上、且つ120m/min以下の周速で前記1組のロールをそれぞれ回転させるロール回転装置と、
回転する前記1組のロールによるロール押圧が、20N/mm以下(但し、0N/mmを含まず)となるように、前記1組のロールのうちの少なくとも一方を押圧するロール押圧装置と、
を備える、アルミニウム合金板の製造装置。
【請求項7】
主成分として80質量%以上のAlと、0.3~10質量%のMgとを含むアルミニウム合金鋳造板であって、
JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験後において、表面に割れが観察されない、且つ、板の厚さ中心近傍におけるMg濃度[質量%]が下記式(1)を満たす、
アルミニウム合金鋳造板。
0.8 ≦ Mg-c / Mg-a ≦ 1.4 ・・・(1)
Mg-c:板の厚さ中心近傍におけるMg濃度の平均値[質量%]
Mg-a:板の厚さ方向の両表面近傍におけるMg濃度の平均値[質量%]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板の製造方法、アルミニウム合金板の製造装置およびアルミニウム合金鋳造板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の鋳造には、例えば、双ロール式連続鋳造方法が用いられる。双ロール式連続鋳造方法では、アルミニウム合金の溶湯を一対の鋳造ロール(双ロール)の間に供給し、凝固させ、板状にする。
【0003】
従来、アルミニウム合金の鋳造では、遅い速度で且つ大きなロール荷重で鋳造することが良いと考えられていた。例えば、特許文献1の[0009]には、「約5乃至9フィート/分のスピード」(約1.5~2.7m/分)で「約5000乃至40,000ポンド/インチ」(約880N/mm以上)の力で鋳造する、と記載されている。
【0004】
アルミニウム合金の鋳造において表面割れおよび中心線偏析を低減させることは、長年の課題である。従来、上記条件でアルミニウム合金を鋳造することは、表面割れおよび中心線偏析の低減にもよいと考えられていた。しかし、上記条件で鋳造しても、表面割れおよび中心線偏析が十分に低減されないというのが実情であった。
【0005】
そのような状況で、本願発明者らは、従来のロール荷重より小さいロール荷重で鋳造し、表面割れを低減できる方法を見出した(非特許文献1参照)。非特許文献1では、注湯方法を工夫し、300N/mmの低ロール荷重で、且つ、ロール周速30m/minという高速で、銅製ロールを用いてアルミニウム合金を鋳造し、表面割れが低減したという実験結果が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4375966号公報
【非特許文献1】山崎 一輝、外1名、「鋳造条件がAl-Mg合金ロール鋳造板の表面割れに及ぼす影響」、[No.20-33] 日本機械学会第 28 回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2020)論文集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1には、ロール荷重がさらに小さい4N/mmでも表面割れが低減できることが紹介されているが、「低荷重では板の成形が可能な荷重幅が狭くなり,板厚の変動への対応が難しくなる.つまり,板厚が薄い場合に凝固が不完全な状態で排出されることがある」と記載されており、4N/mmという従来のロール荷重より大幅に小さい荷重でアルミニウム合金を鋳造すること自体が難しいことが示唆されている。
【0008】
また、非特許文献1に記載された技術は主に表面割れ低減に関するものである。従来良いとされていた条件より小さいロール荷重で且つ高速でアルミニウム合金を鋳造し、表面割れおよび中心線偏析の両方が低減したという報告はない。
【0009】
本発明は、アルミニウム合金の鋳造において表面割れおよび中心線偏析を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したように、アルミニウム合金の鋳造において中心線偏析および表面割れを低減させることは長年の課題であり、この課題を解決するため、従来は大荷重且つ遅い速度で鋳造することがよいと考えられていた。
【0011】
本願発明者らは、従来の条件と全く逆の発想でアルミニウム合金を鋳造することを試みた。その結果、従来良いとされていた条件とは全く逆の条件で鋳造することにより表面割れおよび中心線偏析を低減させることができることがわかった。この条件は、従来の条件からは考えられない非常に小さいロール荷重とし且つ高速で鋳造する。それにもかかわらず、表面割れおよび中心線偏析を大幅に低減できるという、従来のアルミニウム合金の鋳造からは予想できない効果が得られることがわかった。
【0012】
具体的には、本明細書で開示されるアルミニウム合金板の鋳造方法は、対向する1組のロールの間に溶湯を供給し凝固させる双ロール式連続鋳造方法によって、アルミニウム合金板を製造する方法であって、前記溶湯は、主成分として80質量%以上のAlを含み、前記ロールは、冷媒通路が内部に形成された銅製ロール、冷媒通路が内部に形成された銅合金製ロール、またはロール外周部を構成する円筒状のシェルに冷媒通路が形成された軟鋼製ロールであり、前記冷媒通路に冷媒を流しながら、10m/min以上、且つ120m/min以下の周速で前記1組のロールをそれぞれ回転させ、回転する前記1組のロールによるロール押圧が、20N/mm以下(但し、0N/mmを含まず)とされている。以下では、「ロール押圧」を「ロール荷重」と称することもある。また、「1組のロールによるロール押圧」を単に「ロール押圧」または「ロール荷重」と称することがある。
【0013】
上記方法では、従来のロール荷重より大幅に小さい低荷重で且つ高速で鋳造する。これに加え、冷却能力が高いロールを使用することにより、表面割れおよび中心線偏析の両方が抑制されたアルミニウム合金板を製造することができる。
【0014】
また、本明細書で開示されるアルミニウム合金の鋳造装置は、対向する1組のロールの間に溶湯を供給し凝固させる双ロール式連続鋳造方法によって、アルミニウム合金板を製造する装置であって、前記溶湯は、主成分として80質量%以上のAlを含み、前記ロールは、冷媒通路が内部に形成された銅製ロール、冷媒通路が内部に形成された銅合金製ロール、またはロール外周部を構成する円筒状のシェルに冷媒通路が形成された軟鋼製ロールであり、10m/min以上、且つ120m/min以下の周速で前記1組のロールをそれぞれ回転させるロール回転装置と、回転する前記1組のロールによるロール押圧が、20N/mm以下(但し、0N/mmを含まず)となるように、前記1組のロールのうちの少なくとも一方を押圧するロール押圧装置と、を備える。
【0015】
上記装置によると、従来の大荷重で遅い速度で鋳造するというのでなく、これと全く逆の条件、つまり、従来のロール荷重より大幅に小さいロール荷重で且つ高速で鋳造する。これに加え、冷却能力が高いロールが使用されることにより、表面割れおよび中心線偏析の両方が抑制されたアルミニウム合金板を製造することができる。
【0016】
上記製造方法において、回転する前記1組のロールによるロール押圧が、4N/mm以下とされていてもよい。
上記製造装置において、前記ロール押圧装置は、回転する前記1組のロールによるロール押圧が4N/mm以下となるように、前記1組のロールのうちの少なくとも一方を押圧してもよい。
【0017】
上記製造方法において、前記溶湯は0.3~10質量%のMgを含んでいてもよい。
上記製造装置において、前記1組のロール間に供給される前記溶湯は0.3~10質量%のMgを含んでいてもよい。
【0018】
マグネシウム(Mg)は表面割れを増加させる要因となる上に、マグネシウム(Mg)の含有量が多くなるにつれて表面割れおよび中心線偏析が発生しやすくなることが知られている。上記のようにマグネシウム(Mg)を含む場合は表面割れが発生しやすく、マグネシウム(Mg)をある程度多く含む場合は表面割れおよび中心線偏析が発生しやすいが、そのような状況においても、上述した鋳造方法で鋳造することにより、表面割れおよび中心線偏析の両方を低減させることができる。また、上述した装置を用いて鋳造することにより、表面割れおよび中心線偏析の両方を低減させることができる。
【0019】
上記製造方法において、前記溶湯は0.3~2質量%のSiを含んでもよい。
上記製造装置において、前記1組のロール間に供給される前記溶湯は0.3~2質量%のSiを含んでもよい。
【0020】
ケイ素(Si)を含み且つその含有量(Si含有量)が少ない場合、表面割れが発生しやすくなることが知られている。ケイ素(Si)の含有量が増えると、中心線偏析が発生しやすい傾向があることが知られている。ロール押圧が低荷重になると(低荷重において中心線偏析に関することは不明であるため)低荷重での中心線偏析の発生も懸念される。そのような状況においても、上述した鋳造方法で鋳造することにより、表面割れおよび中心線偏析の両方を低減させることができる。また、上述した装置を用いて鋳造することにより、表面割れおよび中心線偏析の両方を低減させることができる。
【0021】
上記製造方法において、前記ロールは、前記銅製ロールまたは前記銅合金製ロールであってもよい。
上記製造装置において、前記ロールは、前記銅製ロールまたは前記銅合金製ロールであってもよい。
【0022】
本明細書で開示されるアルミニウム合金鋳造板は、主成分として80質量%以上のAlと、0.3~10質量%のMgとを含むアルミニウム合金鋳造板であって、JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験後において、表面に割れが観察されない、且つ、板の厚さ中心近傍におけるMg濃度[質量%]が下記式(1)を満たす。
0.8 ≦ Mg-c / Mg-a ≦ 1.4 ・・・(1)
Mg-c:板の厚さ中心近傍におけるMg濃度の平均値[質量%]
Mg-a:板の厚さ方向の両表面近傍におけるMg濃度の平均値[質量%]
【0023】
上述したアルミニウム合金鋳造板は、圧延を行っていない、鋳造されたままの鋳造板(鋳造まま材)である。それにもかかわらず、表面割れおよび中心線偏析の両方が低減されている。
【発明の効果】
【0024】
アルミニウム合金の鋳造において表面割れおよび中心線偏析を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係るアルミニウム合金板の製造装置の模式図である。
図2図1に示すロールの一例の断面図である。
図3図1に示すロールの他の例の断面図である。
図4】実験1の鋳造板の表面の写真である。
図5】実験1の評価結果である。
図6】(A)は実験2(ロール押圧が2N/mmであるとき)のアルミニウム合金板の断面写真とMg濃度である。(B)は実験2(ロール押圧が88N/mmであるとき)のアルミニウム合金板の断面写真とMg濃度である。
図7】実験3の鋳造板の表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0027】
本実施形態に係るアルミニウム合金板の製造方法は、双ロール式連続鋳造方法によって、アルミニウム合金板を製造する方法である。双ロール式連続鋳造方法では、対向する1組のロールの間にアルミニウム合金の溶湯を供給し、凝固させる。本実施形態に係る方法では、従来のロール荷重からは考えられない非常に小さな低荷重で且つ高速で鋳造する。これに加え、冷却能力が高いロールを使用する。
【0028】
図1に、本実施形態に係るアルミニウム合金板の製造装置の一例を示している。図1では断面を示すハッチングを一部省略している。以下では、アルミニウム合金板の製造装置を単に「製造装置」と称することがある。
【0029】
〔アルミニウム合金板の製造装置〕
製造装置100は、対向する第1ロール11および第2ロール12を有する1組のロール1と、ロール回転装置2と、ロール押圧装置3と、冷媒供給装置4とを備える。図1に示す製造装置100は、第1ロール11と第2ロール12とが水平方向に対向する、いわゆる縦型(垂直型)の装置である。冷媒供給装置4は、第1ロール11および第2ロール12に形成された図示しない冷媒通路に冷媒を供給する。なお、冷媒供給装置4は、製造装置100が備えるものでもよく、製造装置100とは別の装置でもよい。また、製造装置100に、図1に示すようにノズル5および/またはサイドダム(図示せず)などが設置されていてもよい。サイドダムは、第1ロール11および第2ロール12の軸方向両側付近に配置される。ノズル5およびサイドダムは溶湯が流れ落ちないようにする。
【0030】
[1組のロール]
第1ロール11および第2ロール12は、例えば、ロール中心側のコアと、コアの外側でロール外周部を構成するシェルとを有する構成でもよく、ロール外周部を構成するシェルだけを有する構成でもよく、コアとシェルの境界がない円柱状のものでもよい。コアは円柱状でもよく、円柱以外の形状でもよい。シェルは、円筒状であり、ロールの最も外周側に配置される部分である。本願明細書では、コアとシェルの境界がない場合でも、ロール外周部を構成する部分(コアとシェルの境界がない場合、例えば、ロールの径方向についてロール中心よりロール外周面に近い円筒状の部分)をシェルと称し、それ以外の部分をコアと称する。
【0031】
第1ロール11および第2ロール12は、「冷媒通路が内部に形成された銅製ロール」、「冷媒通路が内部に形成された銅合金製ロール」、または「ロール外周部を構成する円筒状のシェルに冷媒通路が形成された軟鋼製ロール」である。冷媒通路は、例えば、ロールの長手方向に沿って形成されていてもよく、ロールの周方向に沿って形成されていてもよい。冷媒は特に限定されず、例えば冷却水が使用される。
【0032】
「冷媒通路が内部に形成された銅製ロール」および「冷媒通路が内部に形成された銅合金製ロール」における「冷媒通路が内部に形成された」とは、ロールの外表面(外周面を含む)を除く部分(以下、「ロール内部」と称する)に冷媒通路が形成されていることである。冷媒通路は、ロール内部であればどの部分に形成されていてもよい。例えば、ロールがコアとシェルとを有する場合、冷媒通路は、ロール外表面を除く部分であれば、コアに形成されていてもよく、シェルに形成されていてもよく、コアとシェルの両方に形成されていてもよい。また、ロールがシェルだけを有する場合、冷媒通路は、ロールの外表面以外であれば、シェルのどの位置に形成されていてもよい。
【0033】
「冷媒通路が内部に形成された銅製ロール」とは、少なくとも、溶湯と接するロール外周面および冷媒通路よりロール外周側の部分が銅で形成されていることを意味し、これら以外が銅以外の材料で形成されているロールを含む。「冷媒通路が内部に形成された銅合金製ロール」についても同様に、少なくとも、ロール外周面および冷媒通路より外周側の部分が銅合金で形成されていることを意味し、これら以外が銅合金以外の材料で形成されているロールを含む。冷媒通路よりロール外周側の部分において、全ての部分が銅または銅合金で形成されていてもよく、一部が銅または銅合金で形成されていてもよいが、冷媒通路よりロール外周側の全ての部分が銅または銅合金で形成されている場合、冷媒通路を流れる冷媒の熱がロール外周面により速く伝わることで冷却性能がより高まるため好ましい。
【0034】
「銅製ロール」の「銅」は、質量比で銅を100%含むものでもよく、100質量%に近い銅と不可避不純物から成るものでもよい。「銅合金」は、質量比で銅を50%以上含む合金を意味する。銅合金は、好ましくは、銅を質量比で90%以上含み、より好ましくは銅を質量比で98%以上含む。このような好ましい銅合金として、例えば、銅(Cu)≧98質量%、クロム(Cr):0.0 5~1.5質量%およびジルコニウム(Zr):0.03~0.8質量%を含有し、残部が不可避不純物である、CCM-A合金およびCCM-B合金が挙げられる。
【0035】
「ロール外周部を構成する円筒状のシェルに冷媒通路が形成された軟鋼製ロール」において、「ロール外周部を構成する円筒状のシェルに冷媒通路が形成された」とは、シェルに冷媒通路が形成されていることを意味する。シェルに冷媒通路が形成されていれば、シェル以外(コアなど)にも冷媒通路が形成されていてもよく、シェルだけに冷媒通路が形成されていてもよい。冷媒通路は、ロールの外表面を除き、シェルのどの位置に形成されていてもよい。なお、ロールがシェルだけで形成されている場合、シェルの内周面にも冷媒通路が形成されていない。
【0036】
「冷媒通路が内部に形成された軟鋼製ロール」とは、少なくとも、溶湯と接するロール外周面および冷媒通路より外周側の部分が軟鋼で形成されていることを意味し、これら以外が軟鋼以外の材料で形成されているロールを含む。冷媒通路よりロール外周側の部分において、全ての部分が軟鋼で形成されていてもよく、一部が軟鋼で形成されていてもよいが、冷媒通路よりロール外周側の全ての部分が軟鋼で形成されている場合、冷媒通路を流れる冷媒の熱がロール外周面により速く伝わることで冷却性能がより高まるため好ましい。「軟鋼」として、例えば、JIS G3101に基づくSS330、SS400、SS490、SS540が挙げられる。
【0037】
「銅製ロール」および「銅合金製ロール」は、従来の炭素鋼(例えば工具鋼)製のロールに比べ、熱伝達特性が高い材質で形成されているため、冷却性能が高い。その上、上記ロールには冷媒通路が形成され、冷媒通路の外側が熱伝達特性が高い銅または銅合金で形成されているため、冷媒の熱(冷熱)がロール外周面に速く伝わる。そのため、本実施形態で用いられる銅製または銅合金製ロールは、銅または銅合金で形成されているだけのロールに比べ、冷却性能がより高い。このようなロールを用いることにより、溶湯が急速に冷却される。
【0038】
「軟鋼製ロール」は、「銅製ロール」および「銅合金製ロール」ほど熱伝達特性が高くないが、炭素鋼(例えば工具鋼)製のロールに比べ、熱伝達特性が高い材質で形成されているため、冷却性能が高い。その上、「軟鋼製ロール」にはロール外周面に近いシェルに冷媒通路が形成され、シェルの冷媒通路の外側が軟鋼で形成されているため、冷媒の熱(冷熱)がロール外周面に速く伝わる。そのため、本実施形態で用いられる軟鋼製ロールは、軟鋼で形成されているだけのロールに比べ、冷却性能がより高い。このようなロールを用いることにより、溶湯が急速に冷却される。
【0039】
図2に、「冷媒通路が内部に形成された銅製ロール」および「冷媒通路が内部に形成された銅合金製ロール」の一例を示している。図2に示すロール20は、コア21およびシェル22を有する。コア21にはシェル22と接する外周部分に、複数の冷媒通路23が形成されている。複数の冷媒通路23は、ロール20の周方向に間隔を空けて並んでいる。冷媒通路23の外側のシェル22は銅製または銅合金製である。コア21は、銅製または銅合金製でもよく、銅以外の材質または銅合金以外の材質でもよい。
【0040】
なお、図2に示すロール20には、コア21に冷媒通路23が形成されているが、シェル22に冷媒通路が形成されていてもよく、コア21とシェル22の両方に冷媒通路が形成されていてもよい。この場合、少なくとも、ロール20の外周面と冷媒通路より外側の部分が銅製または銅合金製である。
【0041】
図3に、「冷媒通路が内部に形成された軟鋼製ロール」の一例を示している。図3に示すロール30は、コア31およびシェル32を有する。シェル32に、複数の冷媒通路33が形成されている。複数の冷媒通路33は、ロール30の周方向に間隔を空けて並んでいる。冷媒通路33の外側は軟鋼製である。冷媒通路33の内側は軟鋼製でもよく、軟鋼以外の材質で形成されていてもよい。シェル32の全体が軟鋼製でもよい。冷媒通路33がロール30の外周面に近いほど、ロールの冷却性能が高まるため好ましい。例えば、冷媒通路33は、シェル32の内周面よりシェル32の外周面(ロール30の外周面)に近い位置に形成されていることが好ましい。また、シェル32に加え、コア31にも冷媒通路が形成されていてもよい、
【0042】
なお、第1ロール11および第2ロール12の構成は、上記に限定されない。例えば、冷媒通路の位置、形状、大きさ、数、間隔などは変更可能である。また、ロールのシェルの厚さや材質、コアの大きさ、形状、材質などは変更可能である。
【0043】
[ロール回転装置]
ロール回転装置2は(図1参照)、第1ロール11および第2ロール12を回転させる。ロール回転装置2は、第1ロール11および第2ロール12のそれぞれの周速を制御可能である。具体的には、ロール回転装置2は、第1ロール11および第2ロール12のそれぞれを10m/min以上、且つ120m/min以下の周速で回転させることが可能である。なお、ロール回転装置2は、第1ロール11および第2ロール12のそれぞれを、10m/min未満または120m/minを超える周速で回転させることも可能であってもよい。
【0044】
第1ロール11および第2ロール12は、ロール回転装置2により、図中の矢印の向きへ回転する。これにより、第1ロール11と第2ロール12の間からアルミニウム合金板が図中の下方へ出ていく。なお、第1ロール11を回転させるロール回転装置と第2ロール12を回転させる装置が異なってもよい。この場合、本実施形態では、全てのロール回転装置を含めたものを「ロール回転装置2」と称している。
【0045】
[ロール押圧装置]
ロール押圧装置3は、第1ロール11および第2ロール12の少なくとも一方のロールを他方のロールに向けて押圧する、言い換えると、第1ロール11と第2ロール12との間隔が狭くなるように1組のロール1のうち少なくとも一方のロールを押圧する。ロール押圧装置3は、1組のロール1によるロール押圧(ロール荷重)を制御することが可能である。具体的には、ロール押圧装置3は、回転する1組のロール1によるロール押圧(ロール荷重)を20N/mm以下(但し、0N/mmを含まず)とするように、第1ロール11および第2ロール12の少なくとも一方のロールを押圧することが可能である。回転する1組のロール1によるロール押圧とは、単位幅荷重[N/mm]を表す。例えば、サイドダムを使用する場合、前提として、ロール幅(軸方向長さ)と鋳造板の幅は等しくなるので、単位幅荷重は、ロールを押圧する荷重をロール幅で除したものとなる。サイドダムを使用しない場合、単位幅荷重は、ロールを押圧する荷重を鋳造板の幅で除したものである。なお、ロール押圧装置3は、回転する1組のロール1によるロール押圧が20N/mmを超えるように、第1ロール11および第2ロール12の少なくとも一方のロールを押圧することも可能であってもよい。
【0046】
ロール押圧装置3により、第1ロール11および第2ロール12が水平方向に他方のロールに向けて押圧されてもよい。この場合、第1ロール11による押圧と第2ロール12による押圧は同じであることが好ましい。また、第1ロール11および第2ロール12のうち一方のロールが水平方向に動かないように維持され、他方のロールが水平方向に一方のロールに向けて押圧されてもよい。ロール押圧装置として、例えば、ばねまたはダンパー等の既知の装置を使用してもよい。
【0047】
〔アルニム合金の組成〕
アルミニウム合金は、主成分として80質量%以上のアルミニウム(Al)を含む。アルミニウム合金は、マグネシウム(Mg)および/またはケイ素(Si)を含んでもよい。アルミニウム合金は、例えばAl-Mg系アルミニウム合金でもよく、Al-Si系合金でもよく、Al-Mg-Si系合金でもよい。例えば、アルミニウム合金が0.3~10質量%のMgを含むものでもよい。また、アルミニウム合金は、0.3~2質量%のSiを含むものでもよい。アルミニウム合金が0.3~10質量%のMgと、0.3~2質量%のSiとを含むものでもよい。アルミニウム合金に不可避的不純物が含まれていてもよい。また、アルミニウム合金は、不可避的不純物に加え、マグネシウム(Mg)およびケイ素(Si)以外の任意の1以上の元素(例えば、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、銅(Cu)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、スカンジウム(Sc)、ホウ素(B)、ビスマス(Bi)および鉛(Pb)から成る群から選択される1種または2種以上)を含むものでもよい。任意の1以上の元素は、本実施形態の鋳造に影響を与えない限り、特に限定されない。本実施形態の鋳造とは、後述する一組のロール、ロール周速およびロール押圧で鋳造することにより表面割れおよび中心線偏析が低減することである。
【0048】
アルミニウム合金して、例えば、JIS規格および米国のAA規格で規定される6000系合金、5000系合金、4000系合金等の各種合金材が挙げられる。また、JIS H 5202:2010で規定される合金番号AC4C、AC4CH、AC2B、AC4D、AC5A、AC7A、AC8A、AC8Bなどが挙げられる。
【0049】
本実施形態で用いられる溶湯の組成と、その溶湯を用いて得られるアルミニウム合金板(アルミニウム合金鋳造板)の組成は、実質的に同じであり、上記組成である。
【0050】
〔アルミニウム合金板の製造方法〕
図1に示すように、アルミニウム合金の溶湯40を、第1ロール11と第2ロール12との間に供給する。溶湯10は、例えば、液相線温度より10~50℃程高い温度であることが好ましい。溶湯40を供給するとき、耐火物からなるノズル5および/またはサイドダム(図示せず)などを用いてもよい。この場合、溶湯40の静水圧を確保するため、および/またはサイドダム(図示せず)などの内部に溶湯40がある程度溜まった状態を維持しながら溶湯40を供給することが好ましい。図1に示す溶湯40とノズル5の間、溶湯40と第1ロール11の間、溶湯40と第1ロール11の間などに離型剤を使用してもよいが、本実施形態では離型剤を使用していない。
【0051】
第1ロール11の冷媒通路および第2ロール12の冷媒通路に、冷媒供給装置4により、冷媒が流れている。冷媒通路に冷媒を流しながら、ロール回転装置2により、第1ロール11と第2ロール12のそれぞれを10m/min以上、且つ120m/min以下の周速で回転させる。ロール押圧装置3により、回転する1組のロール1によるロール押圧は20N/mm以下(但し、0N/mmを含まず)とされている。
【0052】
溶湯40は、回転する第1ロール11および第2ロール12と接触し、冷却され、凝固することにより、凝固部41(最終的に得られるアルミニウム合金板42の外側部分)が形成される。溶湯40は、凝固がさらに進行しつつ、図中の下方へ進み、アルミニウム合金板(アルミニウム合金鋳造板)42が形成される。その後、アルミニウム合金板42は空冷されてもよく、水冷などの他の冷却方法により冷却されてもよい。
【0053】
上述した方法により製造されたアルミニウム合金板42は、圧延を行っていない、鋳造されたままの鋳造板(鋳造まま材)である。アルミニウム合金板42は、JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験後において、表面に割れが観察されず、且つ、板の厚さ中心近傍におけるMg濃度[質量%]が下記式(1)を満たす。
0.8 ≦ Mg-c / Mg-a ≦ 1.4 ・・・(1)
Mg-c:板の厚さ中心近傍におけるMg濃度の平均値[質量%]
Mg-a:板の厚さ方向の両表面近傍におけるMg濃度の平均値[質量%]
【0054】
ここで、「JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験後において、表面に割れが観察されない」とは、JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験後、鋳造板の表面に割れが観察されないことだけでなく、鋳造板を圧延したら割れが観察されなくなるほどの軽微な割れ(軽度な割れ)や鋳造後に切断されることで残らない板の角部(エッジ部)の割れなどが鋳造板に観察されることを含む。
【0055】
上記(1)式において、「Mg-c」は、偏析が最も生じやすい板の厚さ中心近傍のMg濃度の平均値である。「板の厚さ中心近傍」とは、「band zone」(または「band area」、「band region」など)と呼ばれる球状の結晶の微粒子で構成された領域であり、例えば、板の厚さ方向について厚さ中心から±板厚の15%以内の領域である。「板の厚さ中心近傍におけるMg濃度の平均値」とは、例えば、板の厚さ方向について厚さ中心から±板厚の15%以内の任意の領域において30μm間隔の16点以上の測定値の平均値である。板厚の15%以内は、板厚によって異なるが、例えば500μm幅の範囲内である。
【0056】
上記(1)式において、「Mg-a」(板の厚さ方向の両表面近傍におけるMg濃度の平均値)は、溶湯のMg濃度(Mg含有量)とほぼ同じ濃度となる板の厚さ方向の一端(一方の表面)近傍のMg濃度と他端(他方の表面)近傍のMg濃度の平均値である。「板の厚さ方向の両端(両表面)近傍」とは、例えば、板の厚さ方向について両端(両表面)から15~30%以内の範囲である。「板の厚さ方向の一端(一方の表面)近傍」とは、板の厚さ方向について一端(一方の表面)から15~30%以内の範囲である。「板の厚さ方向の他端(他方の表面)近傍」とは、板の厚さ方向について他端(他方の表面)から15~30%以内の範囲である。
【0057】
「Mg-c / Mg-a」が1を大きく上回る場合、正偏析が発生している。「Mg-c / Mg-a」が1を大きく下回る場合、負偏析が発生している。「Mg-c / Mg-a」が0.8以上1.4以下の場合、「Mg-c」(板の厚さ中心近傍のMg濃度の平均値)が「Mg-a」とそれほど変わらないため、中心線偏析がほぼ発生していないと判断できる。Mg濃度[質量%]は、例えば、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)、X線光電子分光分析法(X―ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)によって測定される。
【0058】
本実施形態により製造されるアルミニウム合金板42のサイズ(幅、厚さなど)は特に限定されない。アルミニウム合金板の厚さは例えば1mm以上5mm以下でもよい。
【0059】
本実施形態係では、従来のアルミニウム合金の鋳造条件(大荷重且つ遅い速度)とは真逆の条件、具体的には、従来のロール荷重より大幅に小さい低荷重で且つ高速でアルミニウム合金を鋳造する。その上、従来のロールより冷却能力が高い第1ロール11および第2ロール12を使用する。これにより、表面割れおよび中心線偏析の両方を従来よりも大幅に低減することができる。この理由として以下のことが推測される。
【0060】
従来のアルミニウム合金の鋳造では、双ロール間で溶湯を十分に凝固させるため、大きなロール荷重且つ遅い速度で鋳造することが必要であると考えられていた。そして、この条件で鋳造することは表面割れおよび中心線偏析の低減に良いと考えられていた。しかし、双ロール間で溶湯が十分に凝固される一方で、凝固した部分はロールにより大荷重で且つ遅い速度でさらに押圧されることにより、凝固部の表面付近(「アルミニウム合金板の表面」に相当する部分)で粒界割れが発生し、これに起因して鋳造板に表面割れが発生したと考えられる。特に凝固した直後は非常に高温で、粒界割れが発生しやすい状態である。そのような状態で大荷重且つ遅い速度で押圧されたことも表面割れを助長したと考えられる。
【0061】
本実施形態では、従来の荷重より大幅に小さい低荷重で且つ高速で、アルミニウム合金を鋳造する。また、従来は大荷重且つ遅い速度で鋳造しても長期に亘って耐え得る炭素鋼(例えば工具鋼)などで形成されたロールを使用していたが、本実施形態では、従来のロールより冷却性能が大幅に高いロールを用いる。これにより、低荷重で且つ高速で鋳造しても、ロール間で溶湯が十分に凝固するため、アルミニウム合金板を製造できる。また、従来の荷重より大幅に小さい低荷重で押圧することにより、凝固部41(図1)の表面で粒界割れが殆ど生じない。さらに、冷却性能が高いロールにより溶湯が急速に冷却されることで板の中心付近に相当する部分まで急速に凝固するため、板の厚さ中心付近に相当する部分に未凝固部がほぼ残らないと考えられる。これらにより、表面割れおよび中心線偏析の両方が低減されたアルミニウム合金板を製造することができる。
【0062】
本実施形態において、1組のロール1によるロール押圧は、20N/mm以下(但し、0N/mmを含まず)の範囲内であれば特に限定されない。20N/mm以下でも、第1ロール11および第2ロール12の冷却性能が高いため、溶湯を十分に凝固させることができ、アルミニウム合金板を鋳造できる。また、20N/mm以下とすることにより、上述したように表面割れおよび中心線偏析を低減することができる。さらに、ロール押圧を20N/mmより小さくしても、例えば、4N/mm、2N/mm、1N/mm、0.3N/mmとしても、溶湯を十分に凝固させることができ、アルミニウム合金板を鋳造できることが分かっている。ロール押圧を小さくすることにより、表面割れおよび中心線偏析をより低減することができる。したがって、ロール押圧を20N/mmより小さくしてもよく、例えば、1組のロール1によるロール押圧を、4N/mm以下としてもよく、2N/mm以下としてもよい。なお、ロール押圧の下限は特に限定されないが、ロール押圧装置3による設定のしやすさ等から、例えば、0.3N/mm以上でもよく、0.5N/mm以上でもよい。
【0063】
また、第1ロール11および第2ロール12の周速は、10m/min以上、且つ120m/min以下の範囲内であれば特に限定されない。第1ロール11および第2ロール12の冷却性能が高いため、ロール周速が10m/min以上でも溶湯を十分に凝固させることができ、アルミニウム合金板を鋳造できる。また、10m/min以上のロール周速で鋳造することにより、従来よりも生産性を高めることができる。ロール周速を120m/min以下とすることにより、溶湯ヘッド圧を十分に確保できるため、溶湯とロールの接触状態を均一に保つことができる。これによりノズル5を高さが高いものへ変更するなどといった対応が不要であり、既存の製造装置を使用可能な実用的な方法となる。第1ロール11の周速と第2ロール12の周速を同じとすることが好ましい。ロール周速は、好ましくは、20m/min以上90m/min以下としてもよい。
【0064】
上記方法によると、表面割れを増加させる要因となるマグネシウム(Mg)を含むアルミニウム合金板を鋳造する場合でも、表面割れを低減できる。また、偏析となりやすいマグネシウム(Mg)を含むアルミニウム合金板を製造する場合でも、中心線偏析を低減できる。さらに、マグネシウム(Mg)の含有量が多くなるにつれて表面割れおよび中心線偏析が発生しやすくなることが知られているが、本実施形態に係る方法及び製造装置によると表面割れおよび中心線偏析を低減できる。そのため、0.3~10質量%のマグネシウム(Mg)を含むアルミニウム合金板、例えば、自動車のボディパネルに利用される6000系合金の板や、5000系合金の板の製造にも、本実施形態に係る方法および製造装置は好ましい。
【0065】
また、ケイ素(Si)を含むもののSi含有量が少ないアルミニウム合金を鋳造する場合、表面割れが発生しやすくなることが知られている。また、Si含有量が増えると中心線偏析が発生しやすい傾向があることが知られているが、ロール押圧が低荷重になると(低荷重において中心線偏析に関することは不明であるため)低荷重での中心線偏析の発生も懸念される。そのような状況においても中心線偏析が発生しなかった。上記方法によると、少量のケイ素(Si)を含むアルミニウム合金板を製造する場合でも、表面割れおよび中心線偏析の両方を低減できる。そのため、0.3~2質量%のケイ素(Si)を含むアルミニウム合金板、例えば、上述した6000系合金の板や4000系合金の板の製造にも好ましい。
【0066】
本実施形態で用いられるロールは、銅製、銅合金製、または軟鋼製のロールであり、従来使用されている炭素鋼(例えば工具鋼)製のロールより耐摩耗性がやや低いと考えられる。しかし、本実施形態では、従来の条件より大幅に小さい低荷重で且つ高速で鋳造するため、ロールが摩耗しにくい。したがって長期に亘って使用可能である。これによりロール交換回数を低減でき、製造装置を長期に亘って使用可能である。
【0067】
また、本実施形態では、図1に示す溶湯40とノズル5の間、溶湯40と第1ロール11の間、溶湯40と第1ロール11の間などに離型剤を使用していない。
一般的に、鋳造中は、ロール表面温度が非常に高くなる。これによりロールへの焼き付きが生じ、アルミニウム合金板の表面に欠陥が生じることがある。これを防ぐため、離型剤を使用している。本実施形態の第1ロール11および第2ロール12は、冷媒が流れると、冷媒の熱(冷熱)が、溶湯に接するロール外周面にすぐに伝わる構成とロール材料であるため、ロール表面温度が上昇することが抑えられる。そのため離型剤を使用しなくても、焼き付きが生じくい。離型剤を使用しないことにより、熱抵抗となる離型剤を介さずに、溶湯とロールとが直接接触するため、溶湯の凝固が進行しやすい。
なお、本実施形態に係る方法によりアルミニウム合金板を鋳造するとき、離型剤を使用してもよい。また、本実施形態に係る製造装置1を用いてアルミニウム合金板を鋳造するときも、離型剤を使用してもよいが、離型剤を使用しないことがより好ましい。また、ロール表面には、濡れ性の良いものがコーティングされていても良い。
【0068】
なお、図1に示す製造装置100は、縦型の鋳造装置であるが、アルミニウム合金板の製造装置は図1に示す装置に限られない。例えば、1組のロール1が鉛直方向に対向する横型の鋳造装置でもよく、1組のロール1が水平方向に対して傾斜した方向に対向する鋳造装置でもよい。また、1組のロール1を構成する第1ロール11および第2ロール12は、図1に示すように同径でもよく、異なる径でもよい。第1ロール11の構成と第2ロール12の構成は、同じでもよく、異なってもよい。
【実施例0069】
[実験1]
Al-Mg合金をロール押圧を変えて鋳造し、表面割れの有無を調べた。
【0070】
双ロール式連続鋳造方法により、図1に示す縦型(垂直型)の製造装置を用いて、Al-Mg合金を鋳造し、Al-Mg合金鋳造板を製造した。本実験では、Mg含有量が異なる7種類のAl-Mg合金を鋳造した。表1に、7種類のAl-Mg合金の組成を示している。また、各Al-Mg合金をロール荷重(1組のロールによるロール押圧)を変えて鋳造した。比較として、純アルミニウム(JIS規格で規定される合金番号A1070)を同様な条件で鋳造した。なお、本実験では、1組のロールの幅方向両側にサイドダムを配置した。
【0071】
【表1】
【0072】
(鋳造条件)
・第1ロールの構成および第2ロールの構成
図3に示すロール30と同様な構成のロールを使用した。コア31の材質はSUS304であり、シェル32の材質は銅である。
ロール直径は400mmであり、ロール幅(ロールの軸方向長さ)は50mmである。コアの直径は280mmであり、シェルの厚さ(ロール径方向の長さ)は60mmである。
冷媒通路の直径は8mmであり、冷媒通路間の中心間の距離(ロール周方向長さ)は16mmであり、冷媒通路の数は72である。
・冷媒:冷却水
・第1ロールの周速および第2ロールの周速:30m/min
・1組のロールによるロール押圧:4~300N/mm
・1組のロール間の距離:2~5mm(アルミニウム合金鋳造板の厚さ)
・溶湯の注湯温度:液相線+40℃
【0073】
得られたアルミニウム合金鋳造板の外表面(上面)にカラーチェックを施し、表面割れの有無を目視で確認した。カラーチェックは、JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験である。図4に、アルミニウム合金鋳造板の上面写真を示している。図4中の上下方向が板の幅方向であり、図4中の左右方向が板の長手方向である。図5に、図4に示す各写真の評価結果を示している。割れが観察されない場合は「◎」とし、エッジ部の割れが存在するが、後で板の端部(エッジ部)を10mm程度切断するので残らない、または、軽度な割れが存在するが、圧延後に観察されないほどの軽微な割れであるため、製品の品質に問題がないと判断できる場合は「○」とし、割れが観察された場合は「×」とした。
【0074】
図4および図5から、Al-Mg合金において、ロール押圧が20N/mm以下では、表面割れが大幅に低減している。また、20N/mm以下のロール押圧では、ロール押圧が小さくなるほど割れが低減していく。10N/mmのロール押圧では軽度な割れもあまりなく、4N/mmのロール押圧ではエッジ部の割れと軽度な割れを含めた割れ自体が殆ど観察されない。4N/mmのロール押圧では、割れを増加させる要因となるMgを含まない純アルミニウムと同じぐらい、Al-Mg合金の表面に割れが観察されなかった。
【0075】
上記実験から、1組のロールによるロール押圧が20N/mm以下ではロール押圧が小さくなるほど割れが低減していくことがわかった。1組のロールによるロール押圧が4N/mmより小さい場合は表面割れがさらに低減すると推測される。
【0076】
[実験2]
Al-Mg合金をロール押圧を変えて鋳造し、中心線偏析の有無を調べた。
【0077】
双ロール式連続鋳造方法により、図1に示す縦型(垂直型)の製造装置を用いて、Al-Mg合金を鋳造し、Al-Mg合金鋳造板を製造した。Al-Mg合金は、表2に示す組成のAl-Mg合金(JIS H 5202:2010で規定される合金番号AC7A)である。第1ロール(11)の周速および第2ロール(12)の周速を30m/minとし、1組のロール(1)によるロール押圧を2N/mmまたは88N/mmとし、1組のロール間の距離をAl-Mg合金鋳造板の厚さとし、板厚3.5~4.5mmのAl-Mg合金鋳造板を製造した以外は、実験1と同様な鋳造条件で鋳造した。
【0078】
【表2】
【0079】
図6(A)に、ロール押圧が2N/mmのときのAl-Mg合金鋳造板の断面写真と、異なる幅方向位置(位置P、位置Q)のMg濃度を示している。図6(B)に、ロール押圧が88N/mmのときのAl-Mg合金鋳造板の断面写真と、異なる幅方向位置(位置s、位置t)のMg濃度を示している。
【0080】
図6(A)および図6(B)の断面写真は、図中の上下方向を板の厚さ方向、図中の左右方向を板の幅方向としている。Mg濃度は、板の断面の各幅方向位置(位置P、位置Q、位置s、位置t)でEPMA(日本電子製 電界放出形電子プローブマイクロアナラザ(FE-EPMA)JXA-8530F)を板の厚さ方向に走査することにより測定した。
【0081】
ロール押圧が88N/mmのとき、図6(B)に示す断面写真から、板の厚さ中心付近で正偏析と負偏析が板の幅方向に交互に生じていることがわかる。正偏析と考えられる位置sと負偏析と考えられる位置tのMg濃度を測定すると、位置sでは厚さ中心付近でMg濃度が非常に高く、厚さ中心付近のMg濃度が、溶湯のMg濃度とほぼ同じ板の厚さ方向両端近傍のMg濃度(約4.5~5.0質量%)の約2倍以上であった。また位置tでは、厚さ中心付近でMg濃度が大きく下がり、厚さ中心付近のMg濃度が、板の厚さ方向両端近傍のMg濃度(約4.5~5.0質量%)の1/2近くであった。
【0082】
位置sにおける「Mg-c」(本実験では、板の厚さ方向について厚さ中心から±板厚の15%以内の領域における任意の500μm幅の領域において30μm間隔で測定した16点の測定値の平均値)と「Mg-a」(本実験では、板の厚さ方向の一端(一方の表面)から15~30%以内のMg濃度と他端(他方の表面)から15~30%以内のMg濃度の平均値)の比「Mg-c / Mg-a」は、1.4を上回った。位置tにおける「Mg-c」と「Mg-a」の比「Mg-c / Mg-a」は、0.8を下回った。
【0083】
一方、ロール押圧が2N/mmのときは、図6(A)に示す断面写真において、板の厚さ中心付近に明らかな正偏析と負偏析が観察されない。任意の位置Pと位置QのMg濃度を測定すると、位置Pと位置Qのどちらも、Mg濃度が厚さ方向にそれほど大きく変動していない。
【0084】
位置Pでは、厚さ中心付近のMg濃度が板の厚さ方向両端近傍のMg濃度(約4.5~5.0質量%)の約0.8倍から1.2倍程度であった。また、位置Qでは、板の厚さ中心付近のMg濃度がやや高いものの、板の厚さ中心付近のMg濃度は板の厚さ方向両端近傍のMg濃度(約4.5~5.0質量%)の約0.8倍から1.4倍程度であった。
【0085】
位置Pにおける「Mg-c」と「Mg-a」の比「Mg-c / Mg-a」は、0.8以上1.4以下であった。位置Qにおける「Mg-c」と「Mg-a」の)の比「Mg-c / Mg-a」は、0.8以上1.4以下であった。
【0086】
これらから、従来の荷重より大幅に小さい低荷重(2N/mm)とした本実施形態に係る方法および製造装置により、正偏析と負偏析の両方が低減し、中心線偏析が大幅に低減することがわかった。
【0087】
[実験3]
Al-Si合金とAl-Mg-Si合金を鋳造し、表面割れの有無を調べた。
【0088】
双ロール式連続鋳造方法により、図1に示す縦型(垂直型)の製造装置を用いて、Al-Si合金とAl-Mg-Si合金(表2に示すAC7A)を鋳造し、鋳造板を製造した。表3に、Al-Si合金の組成を示している。第1ロール(11)の周速および第2ロール(12)の周速30m/minとし、1組のロール(1)によるロール押圧(ロール押圧)を2N/mm、88N/mmまたは420N/mmとし、1組のロール間の距離を鋳造板の厚さとし、ロール材質を銅ロール、ロール直径を300mm、ロール幅を50mmとした以外は、実験1と同様な鋳造条件で鋳造した。
【0089】
【表3】
【0090】
得られたアルミニウム合金鋳造板の外表面(上面)にカラーチェックを施し、表面割れの有無を目視で確認した。カラーチェックは、JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験である。また、鋳造後のアルミニウム合金鋳造板を圧延し、圧延後の板の外表面(上面)にカラーチェックを施し、表面割れの有無を目視で確認した。図7に、板の上面写真を示している。図7中の上下方向が板の幅方向であり、図7中の左右方向が板の長手方向であり、図中の右方向が鋳造方向である。
【0091】
図7から、Al-3質量%Si(Si含有量:3質量%)では、ロール押圧が2N/mm、88N/mm、420N/mmのすべてで、鋳造後、割れが観察されなかった。また、圧延後の板にも割れが観察されなかった。
【0092】
AC7A(Si含有量が0.05質量%)では、ロール押圧が88N/mmおよび420N/mmのとき、鋳造後に割れが観察された。88N/mmでは、圧延後にも割れが観察された。一方、ロール押圧が2N/mmのとき、鋳造後、割れが観察されず、圧延後も割れが観察されなかった。
【0093】
Al-1.0質量%Si合金(Si含有量が1.0質量%)では、ロール押圧が88N/mmおよび420N/mmのとき、鋳造後に割れが観察された。88N/mmでは、圧延後にも割れが観察された。一方、ロール押圧が2N/mmのとき、鋳造後、割れが観察されず、圧延後も割れが観察されなかった。
【0094】
上記より、Si含有量が3質量%以上である場合、ロール押圧の大きさにかかわらず、表面割れが生じにくいことがわかった。しかし、Si含有量がそれより少ない場合(AC7A、Al-1質量%Si)、ロール押圧が大きいとき、鋳造後に表面割れが生じ、圧延しても割れが残ったが、ロール押圧が小さいとき、例えば図7に示すように2N/mmほどにすると、鋳造後に割れが観察されなかった。このことから、Si含有量が少ないアルミニウム合金では表面割れが生じやすいが、ロール押圧を小さくすることで、表面割れを低減できることがわかった。また、低荷重での中心線偏析の発生が懸念されたが、低荷重であっても、偏析は発生しなかった。したがって、本実施形態に係る方法は、例えば、Si含有量が少ない6000系合金の鋳造に好ましいことがわかった。上記より、本実施形態に係る方法でSi含有量が少ないアルミニウム合金を鋳造すると表面割れと中心線偏析の両方が低減できる。また、本実施形態に係る装置を用いてSi含有量が少ないアルミニウム合金を鋳造すると表面割れと中心線偏析の両方を低減できる。
【0095】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1 1組のロール
2 ロール回転装置
3 ロール押圧装置
4 冷媒供給装置
5 ノズル
11 第1ロール
12 第2ロール
20、30 ロール
21、31 コア
22、32 シェル
23、33 冷媒通路
40 溶湯
41 凝固部
42 アルミニウム合金板(アルミニウム合金鋳造板)
100 製造装置(アルミニウム合金板の製造装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7