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特開2024-3443ボールベアリングの保持構造及びファンモータ
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  • 特開-ボールベアリングの保持構造及びファンモータ 図1
  • 特開-ボールベアリングの保持構造及びファンモータ 図2
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  • 特開-ボールベアリングの保持構造及びファンモータ 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003443
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】ボールベアリングの保持構造及びファンモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/173 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
H02K5/173 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102583
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】谷川 統久
(72)【発明者】
【氏名】白木 謙次
(72)【発明者】
【氏名】川上 咲映
【テーマコード(参考)】
5H605
【Fターム(参考)】
5H605BB05
5H605BB10
5H605BB14
5H605BB19
5H605CC04
5H605EB10
5H605EB15
5H605GG04
5H605GG21
(57)【要約】
【課題】ベアリングホルダの圧入固定時に生じ得るボールベアリングの変形を抑制する。
【解決手段】シャフトを回転自在に支持するボールベアリング2の保持構造は、シャフトの軸方向の一側からボールベアリング2が内嵌される筒状のホルダ部40及びホルダ部40の軸方向の他側に設けられボールベアリング2に対し他側から当接する位置決め部45を有するベアリングホルダ4と、ホルダ部40の一部41が他側から圧入される筒状の取付部31を有する取付板3とを備える。ホルダ部40の内面には、接着剤によりボールベアリング2の外周面2fと接着される接着面42と、接着面42よりも一側で接着面42の内径D2よりも大きい内径D3を持つ逃がし面43と、接着面42及び逃がし面43の間を繋ぐ段差面44とが設けられる。段差面44の軸方向位置は、ボールベアリング2がベアリングホルダ4に嵌着された状態で、ボールベアリング2と重なる位置である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトを回転自在に支持するボールベアリングの保持構造であって、
前記シャフトの軸方向の一側から前記ボールベアリングが内嵌される筒状のホルダ部、及び、前記ホルダ部の前記軸方向の他側に設けられ前記ボールベアリングに対し前記他側から当接する位置決め部を有するベアリングホルダと、
前記ホルダ部の一部が前記他側から圧入される筒状の取付部を有する取付板と、を備え、
前記ホルダ部の内面には、接着剤により前記ボールベアリングの外周面と接着される接着面と、前記接着面よりも前記一側において前記接着面の内径よりも大きい内径を持つ逃がし面と、前記接着面と前記逃がし面との間を繋ぐ段差面と、が設けられ、
前記段差面の軸方向位置は、前記ボールベアリングが前記ベアリングホルダに嵌着された状態で、前記ボールベアリングと重なる位置である
ことを特徴とする、ボールベアリングの保持構造。
【請求項2】
前記ベアリングホルダと前記取付板とが組み合わされた状態で、
前記取付部の前記他側の端面の軸方向位置は、前記ボールベアリングと重なる位置であり、
前記段差面の軸方向位置は、前記取付部及び前記ボールベアリングの双方と重なる位置である
ことを特徴とする、請求項1に記載のボールベアリングの保持構造。
【請求項3】
前記逃がし面の内径は、前記ボールベアリングの外径に前記ホルダ部の前記圧入用の締め代を足した値よりも大きい
ことを特徴とする、請求項1に記載のボールベアリングの保持構造。
【請求項4】
前記逃がし面の内径は、前記ボールベアリングの外径に前記ホルダ部の前記圧入用の締め代を足した値よりも大きい
ことを特徴とする、請求項2に記載のボールベアリングの保持構造。
【請求項5】
前記ボールベアリングの外径が12mmであり、
前記接着剤の粘度が、2000mPa・s以上、且つ、3000mPa・s以下であり、
前記ボールベアリングの外径と前記逃がし面の内径との差が、150μm以上、且つ、255μm以下である
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のボールベアリングの保持構造。
【請求項6】
シャフトを介してファン部と一体回転するロータと前記ロータに対向配置されたステータとを持つモータ部を備え、
前記シャフトを回転自在に支持するボールベアリングに対し、請求項1~4のいずれか一項に記載のボールベアリングの保持構造が適用された
ことを特徴とする、ファンモータ。
【請求項7】
シャフトを介してファン部と一体回転するロータと前記ロータに対向配置されたステータとを持つモータ部を備え、
前記シャフトを回転自在に支持するボールベアリングに対し、請求項5に記載のボールベアリングの保持構造が適用された
ことを特徴とする、ファンモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトを回転自在に支持するボールベアリングの保持構造及び当該保持構造が適用されたファンモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータや減速機といった、回転軸としてのシャフトが設けられる装置の外郭や基盤(ベース)には、シャフトを回転自在に支持するボールベアリングが保持される。例えば特許文献1には、スピンドルモータのベースに圧入固定されたベアリングホルダに、ボールベアリングが嵌着されて保持される構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-228453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示のボールベアリングの保持構造では、ベアリングホルダがベースに圧入固定されるため、圧入部分が径方向内側に向かって変形し、ボールベアリングを保持するための空間が狭められてしまう。これにより、ベアリングホルダにボールベアリングが嵌着されるとボールベアリングの外輪が圧迫され、ボールベアリングの内部の玉の通過スペースが変形し得る。玉の通過スペースの変形は、シャフトの回転時における玉の通過速度の不均一化を招き、延いては異音の発生に繋がる。
【0005】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、ベアリングホルダが圧入固定されることで生じ得るボールベアリングの変形を抑制可能なボールベアリングの保持構造及び当該保持構造が適用されたファンモータを提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示のボールベアリングの保持構造及びファンモータは、以下に開示する態様または適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
(1)ここで開示するボールベアリングの保持構造は、シャフトを回転自在に支持するボールベアリングの保持構造であって、前記シャフトの軸方向の一側から前記ボールベアリングが内嵌される筒状のホルダ部、及び、前記ホルダ部の前記軸方向の他側に設けられ前記ボールベアリングに対し前記他側から当接する位置決め部を有するベアリングホルダと、前記ホルダ部の一部が前記他側から圧入される筒状の取付部を有する取付板と、を備える。前記ホルダ部の内面には、接着剤により前記ボールベアリングの外周面と接着される接着面と、前記接着面よりも前記一側において前記接着面の内径よりも大きい内径を持つ逃がし面と、前記接着面と前記逃がし面との間を繋ぐ段差面と、が設けられ、前記段差面の軸方向位置は、前記ボールベアリングが前記ベアリングホルダに嵌着された状態で、前記ボールベアリングと重なる位置である。
【0007】
(2)前記ベアリングホルダと前記取付板とが組み合わされた状態で、前記取付部の前記他側の端面の軸方向位置は、前記ボールベアリングと重なる位置であることが好ましい。この場合、前記段差面の軸方向位置は、前記取付部及び前記ボールベアリングの双方と重なる位置であることが好ましい。
【0008】
(3)前記逃がし面の内径は、前記ボールベアリングの外径に前記ホルダ部の前記圧入用の締め代を足した値よりも大きいことが好ましい。
(4)前記ボールベアリングの外径は12mmであり、前記接着剤の粘度は、2000mPa・s以上、且つ、3000mPa・s以下であることが好ましい。この場合、前記ボールベアリングの外径と前記逃がし面の内径との差が、150μm以上、且つ、255μm以下であることが好ましい。
【0009】
また、ここで開示するファンモータは、シャフトを介してファン部と一体回転するロータと前記ロータに対向配置されたステータとを持つモータ部を備え、前記シャフトを回転自在に支持するボールベアリングに対し、上記(1)~(4)のいずれか一つに記載のボールベアリングの保持構造が適用されている。
【発明の効果】
【0010】
開示のボールベアリングの保持構造及びファンモータによれば、ベアリングホルダの圧入固定時に生じ得るボールベアリングの変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るボールベアリングの保持構造を示す軸方向断面図である。
図2図1のX部の拡大図である。
図3図1のボールベアリングの保持構造が備えるベアリングホルダが取付板に圧入される前の状態における、当該ベアリングホルダの一部(図2に示す部分)を示す軸方向断面図である。
図4】実施形態に係るボールベアリングの保持構造が適用されたファンモータのモータ部を示す軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、実施形態としてのボールベアリングの保持構造及びファンモータについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0013】
[1.ボールベアリングの保持構造]
本実施形態のボールベアリングの保持構造(以下、単に「保持構造」ともいう)を図1図3を参照しつつ説明する。本実施形態の保持構造は、図1に示すように、シャフト1を回転自在に支持するボールベアリング2(以下、単に「ベアリング2」ともいう)を保持するものである。ここでは、シャフト1の一端側(図1中の下側)の端部1aを支持するベアリング2を例示している。シャフト1は、その一端側の端部1aがベアリング2の内輪に圧入されることで、ベアリング2に固定されて支持される。なお、ベアリング2のサイズは特に限られないが、例えば外径12mmの比較的小型なものが適用される。
【0014】
以下、シャフト1の中心線Cが延びる方向を軸方向といい、中心線Cに直交する方向を径方向といい、中心線C回りに周回する方向を周方向という。軸方向において、シャフト1の一端側(端部1aのある図1中の下側)を「一側」といい、これと反対側(図中上側)を「他側」という。また、径方向において、中心線C側を「内側」といい、これと反対側(中心線Cから離れる側)を「外側」という。
【0015】
保持構造は、取付板3とベアリングホルダ4とを備える。取付板3は、シャフト1が設けられる装置(図示略)の外郭や基盤(土台)に固定される部材である。当該装置としては、モータや減速機などが例示される。なお、取付板3は、当該装置の外郭や基盤と別体ではなく、外郭や基盤の一部として構成されていてもよい。ベアリングホルダ4は、その内側にベアリング2が接着されることでベアリング2を保持する部材であり、取付板3に圧入固定される。ベアリングホルダ4とベアリング2とは、接着剤により接着される。以下、特に断らない限り、各部材3,4の説明は、図1に示す状態、すなわち、シャフト1を支持するベアリング2がベアリングホルダ4に嵌着され、且つ、ベアリングホルダ4が取付板3に圧入固定された状態であるものとして説明する。
【0016】
取付板3は、上述の通り、シャフト1が設けられる装置の外郭や基盤に固定される部材である。取付板3は、例えば、亜鉛メッキ鋼板といった鉄系の鋼板により形成される。但し、取付板3は、ベアリングホルダ4を形成する材料よりも強度の高い材料で形成されていれば、上記の材料に限らない。取付板3には、その内側にベアリングホルダ4を圧入可能な筒状の取付部31が設けられる。本実施形態の取付板3は、当該取付部31と、取付部31の一側に接続されたベース部32とを備える。ベース部32は、取付部31の一側から外側に延出する板状の部分であり、上述の装置の外郭や基盤に取り付けられる。
【0017】
取付部31は、軸方向に延在する筒状の部分である。ここでは、内周面と外周面とのそれぞれが軸方向に一様な径を持つ円筒状の取付部31を例示する。取付部31の中心線は、シャフト1の中心線Cに一致する。取付部31には、ベアリングホルダ4の一側の端部46(以下、「一側端部46」という)が他側から圧入固定される。このため、取付板3とベアリングホルダ4とが組み合わされる前の状態において、取付部31の内径は、ベアリングホルダ4の一側端部46の外径よりも小さく設定される。
【0018】
取付部31の他側の端面31f(以下、「他側端面31f」という)の軸方向位置は、軸方向でボールベアリング2と重なる位置とされる。つまり、取付部31は、軸方向でボールベアリング2と重なる位置から一側に向かって軸方向に延在するものであるともいえる。本実施形態において、他側端面31fは、図2に示すように、ベアリング2の軸方向中心位置Eよりも他側であって軸方向でベアリング2と重なる位置(ベアリング2の他側の端面から他側に飛び出ない位置)に配置される。取付部31は、他側端面31fの位置から、例えばベアリングホルダ4の一側端部46の端面と略同位置まで軸方向に延在する。但し、取付部31の軸方向位置及び長さは、少なくとも取付部31に対してベアリングホルダ4を圧入固定できればこれに限らない。
【0019】
ベアリングホルダ4は、上述の通り、取付板3に圧入固定されるとともに内側にベアリング2が嵌着される部材である。ベアリングホルダ4は、その内側にベアリング2を精度よく組み込むため、例えばジュラルミンといったアルミ系材料により形成される。但し、ベアリングホルダ4を形成する材料は、これに限らず、例えば、黄銅であってもよい。
【0020】
ベアリングホルダ4は、ベアリング2が内嵌される筒状のホルダ部40と、ベアリング2の軸方向の位置を規定する位置決め部45とを備える。ホルダ部40の一部(一側の部分)は取付部31に圧入される圧入部41であり、この圧入部41には上述したベアリングホルダ4の一側端部46が含まれる。ここでは、上述の取付部31の形状に対応して、軸方向に延在するとともに、シャフト1の中心線Cに一致する中心線を持つ円筒状のホルダ部40を例示する。ホルダ部40の外周面は、軸方向に一様な外径を持つ。一側端部46を含む圧入部41が取付部31に圧入されると、取付部31の内周面には圧入部41の外周面が圧接される。
【0021】
位置決め部45は、ホルダ部40の他側において、例えば、ホルダ部40の内周面から内側に突出する部分として設けられる。ベアリング2は、一側からホルダ部40に内嵌され、位置決め部45に当接することで、他側への変位が規制されて、その軸方向位置が決定される。
【0022】
取付板3とベアリングホルダ4とが組み合わされる前の状態において、ベアリングホルダ4の一側端部46の外径、すなわち、ホルダ部40の外径は、設定された締め代の範囲を満たすように、取付部31の内径よりも大きく設定される。例えば、取付部31に対するホルダ部40の締め代(圧入用の締め代)が、35μm以上、且つ、45μm以下の範囲で設定された場合には、ホルダ部40の外径は、当該範囲を満たすように取付部31の内径よりも大きく設定される。なお、圧入用の締め代は、上記の範囲に限らない。但し、取付板3に対するベアリングホルダ4の抜けを防止する観点から、圧入用の締め代は当該抜けを防止可能な範囲で設定されることが好ましい。
【0023】
ここで、取付板3にベアリングホルダ4が圧入される際、ホルダ部40には、上記の圧入用の締め代分の変形が内側に生じる。当該変形により、ホルダ部40の内側の空間が狭められてベアリング2の外輪が圧迫されると、ベアリング2の内部に設けられた玉の通過スペースが変形するという課題がある。玉の通過スペースの変形は、シャフト1の回転時における玉の通過速度の不均一化を招き、延いては異音の発生に繋がる。なお、ベアリングホルダ4の変形は、取付板3に対してベアリングホルダ4を強固に固定するほど、言い換えれば、圧入用の締め代を大きく設定するほど大きくなる。
【0024】
そこで、本実施形態のホルダ部40には、圧入によるベアリング2の外輪の圧迫を抑制する構造がその内面に設けられている。具体的には、図2及び図3に示すように、ホルダ部40の内周面に、接着剤によりベアリング2と接着される接着面42と、接着面42よりも一側において接着面42の内径よりも大きい内径を持つ逃がし面43とが設けられている。さらに、ホルダ部40の内面には、接着面42と逃がし面43との間を繋ぐ段差面44が設けられている。つまり、ホルダ部40は、その内面として内径が異なる二つの内周面42,43を持つ段付き形状とされる。
【0025】
接着面42と逃がし面43との境界位置、すなわち、段差面44の軸方向位置は、ベアリング2と重なる位置とされる。本実施形態において、段差面44の軸方向位置は、ベアリング2及び取付部31の双方と重なる位置とされる。圧入によるホルダ部40の変形は、ホルダ部40の外周面と取付部31の内周面とが圧接(密着)する部分、すなわち取付部31の他側端面31fの軸方向位置から一側ほど大きく変形する。このため、段差面44の軸方向位置をベアリング2及び取付部31の双方と重なる位置とすることで、言い換えれば、当該位置から一側の範囲に逃がし面43を設けることで、ホルダ部40の変形によるベアリング2の外輪の圧迫を抑制できる。
【0026】
ここでは、ベアリング2の軸方向中心位置Eよりも一側に設けられた段差面44を例示する。このように段差面44が、ベアリング2の軸方向中心位置Eよりも一側に設けられることで、接着面42の面積を広く確保することができる。よって、ホルダ部40に対するベアリング2の接着をより強固に行うことができる。
【0027】
なお、段差面44の軸方向位置は上述の位置に限らない。例えば、段差面44が、ベアリング2の軸方向中心位置Eよりも他側に設けられる場合には、軸方向中心位置Eにおけるベアリング2の外輪の圧迫をより抑制できる。よって、ベアリング2の内部に設けられた玉の通過スペースの変形をより抑制できる。段差面44の軸方向位置は、ホルダ部40の設計時に、例えば、圧入によりホルダ部40がどのあたりからどの程度変形するのかを実験或いはシミュレーションし、その結果に基づいて設定されてもよい。なお、本実施形態において、段差面44は、径方向に延在する平面として設けられているが、段差面44は、例えば径方向に対して傾いていてもよく、平面でなくてもよい。
【0028】
ベアリング2がベアリングホルダ4に嵌着される際に、接着剤は、段差面44に(あるいは段差面44の周辺も含んで)塗布され、ベアリング2の嵌合時にベアリング2の外周面2fと接着面42との間で擦り切れて広がり、所定の接着膜を形成する。つまり、本実施形態の段差面44は、接着面42と逃がし面43との間を繋ぐだけでなく、接着剤を塗布するための目印としての機能も持つ。接着面42の内径D2(図3参照)は、接着面42とベアリング2の外周面2fとの間に適度な厚みの接着膜を形成できる程度にベアリング2の外径D1よりも大きく設定される。
【0029】
当該適度な厚みは、例えば接着剤の材質(粘度)やベアリング2の外径D1に応じて異なる。例えば、外径12mmの比較的小型なベアリング2が適用される場合であって、使用される接着剤の粘度が、ベアリング2とベアリングホルダ4との接着に推奨される接着剤の粘度〔例えば、常温(25℃程度)で2000mPa・s以上、且つ、3000mPa・s以下の範囲〕であるとする。この場合、ベアリング2の外径D1と接着面42の内径D2との差(接着代)は1μm以上、且つ、16μm以下の範囲であることが好ましい。このため、接着面42の内径D2は、上記の接着代の範囲(1μm~16μm)を満たすようにベアリング2の外径D1よりも大きく設定される。
【0030】
逃がし面43の内径D3は、取付板3とベアリングホルダ4とが組み合わされる前の状態で、少なくとも接着面42の内径D2よりも大きく設定される。逃がし面43の内径D3は、好ましくは、取付板3に対するベアリングホルダ4の締め代(圧入用の締め代)をベアリング2の外径D1に足した値よりも大きく(D3>D1+締め代)設定される。
【0031】
上述の通り、ベアリング2がベアリングホルダ4に嵌着される際、接着剤は段差面44に塗布される。このため、逃がし面43の内径D3は、さらに好ましくは、段差面44上に適量の接着剤を塗布可能な値に設定される。当該値は、主に接着剤の材質(粘度)に応じて異なり、より詳細にはベアリング2の外径D1によっても異なる。例えば、接着剤の粘度が、上述の常温(25℃程度)で2000mPa・s~3000mPa・sの範囲であり、ベアリング2の外径D1が12mmであるとする。この場合、ベアリング2の外径D1と逃がし面43の内径D3との差は、150μm以上、且つ、255μm以下となるように設定されることが好ましい。なお、ここで、逃がし面43の内径D3が、接着面42の内径D2ではなくベアリング2の外径D1との差で規定されるのは、接着面42の内径D2及び逃がし面43の内径D3がベアリング2の寸法及び公差を基準に設定されるという設計上の理由であるとともに、当該差に対して上記の接着代が微小であるためである。
【0032】
シャフト1,ベアリング2,取付板3及びベアリングホルダ4の組立手順としては、例えば、ベアリングホルダ4を取付板3に圧入固定したあとに、シャフト1が圧入固定された状態のベアリング2をベアリングホルダ4に嵌着する。或いは、ベアリングホルダ4を取付板3に圧入固定したあとに、ベアリング2をベアリングホルダ4に嵌着し、その後、シャフト1をベアリング2に圧入固定してもよい。なお、取付板3を装置の外郭や基盤に組み立ててから、ベアリングホルダ4を取付板3に圧入固定してもよい。
【0033】
[2.ボールベアリング保持構造の適用例]
図4は、本実施形態の保持構造が適用されたファンモータのモータ部10の軸方向断面図である。ファンモータは、上記の「シャフト1が設けられる装置」に相当する。図4に示すように、ファンモータには、シャフト1の軸方向に互いに離隔した二つのボールベアリング2,12が設けられている。本実施形態の保持構造は、二つのボールベアリング2,12のうち、軸方向の一側(図中下側)に設けられたボールベアリング2を保持するために適用される。以下、二つのボールベアリング2,12のうち、一側に設けられたものを第一ベアリング2といい、軸方向の他側(図中上側)に設けられたものを第二ベアリング12という。なお、シャフト1の中心線Cは、ファンモータの中心線と一致する。
【0034】
本実施形態のベアリングホルダ4は、二つのボールベアリング2,12の双方を保持する。このため、ベアリングホルダ4には、上述のホルダ部40及び位置決め部45の他に、第二ベアリング12を保持するための円筒状の第二ホルダ部48が設けられている。第二ホルダ部48は、位置決め部45から他側に向かって軸方向に延在する。第二ホルダ部48を含むベアリングホルダ4の他側端部47の外径は、一側端部46の外径よりも小さく形成される。また、ベアリングホルダ4の外周面には、軸方向で位置決め部45と重なる部分に、一側端部46の外周面と他側端部47の外周面とを繋ぐ載置面49が設けられている。当該載置面49には、後述するステータコア14aが載置される。
【0035】
ファンモータは、例えば、吸気した空気を径方向の外側に送出する遠心ファンである。シャフト1の他側の端部1bには、複数の羽根を備える図示しないファン部が連結される。ファンモータは、シャフト1を介してファン部と一体回転するロータ13とロータ13の内側に配置されたステータ14とを持つモータ部10を備える。つまり、ファンモータは、アウターロータ型のブラシレスモータである。ステータ14の内側には、ベアリングホルダ4を介して二つのボールベアリング2,12が配置されている。シャフト1は、二つのボールベアリング2,12により、その一側の端部1aと軸方向中間部とが回転可能に支持される。
【0036】
ロータ13は、カップ状のロータヨーク13aと、ロータヨーク13aの内周面に固着されたマグネット13bとを有する。ロータヨーク13aの内側には軸方向に貫設されたシャフト孔13hが形成される。ロータ13は、例えば、シャフト孔13hにシャフト1が圧入されることで、シャフト1に対して相対回転不能に固定される。マグネット13bは、例えば長尺矩形のゴムマグネットからなるものである。マグネット13bは、当該ゴムマグネットがロータヨーク13aの内周面の内径と同等またはこれよりも小さい外径を持つ環状をなすようにその両端が繋ぎ合わされて形成される。なお、マグネット13bは、ロータヨーク13aの内周面に沿って周方向に間隔をあけて複数設けられたものであってもよい。マグネット13bは、ロータ13の内側にステータ14が組み入れられた状態で、ステータ14のステータコア14aと隙間を空けて対向する位置においてステータコア14aを囲むように配置される。
【0037】
ステータ14は、環状のステータコア14aと、ステータコア14aに対してインシュレータ14bを介して巻回されたコイル14cとを有する。ステータコア14aは、同一形状の複数の鋼板が積層された環状の積層コアである。ステータコア14aは、その中心に鋼板の積層方向を軸方向に一致させた状態で、ベアリングホルダ4の他側端部47に外嵌して固定される。当該固定方法としては、例えば接着剤により他側端部47の外周面とステータコア14aの内周面とを接着する方法が挙げられる。ステータコア14aは、その内孔に他側端部47が圧入されることで、ベアリングホルダ4に固定されてもよい。ステータ14は、これにより、ベアリングホルダ4及び取付板3を介して、ファンモータの図示しない外郭や基盤に固定される。
【0038】
[3.作用,効果]
(1)上述した保持構造には、ホルダ部40の内面として、接着面42と、接着面42よりも大径の逃がし面43と、これらの面42,43を繋ぐ段差面44とが設けられ、段差面44の軸方向位置がベアリング2と重なる位置とされる。つまり、逃がし面43は、軸方向でベアリング2と重なる位置から軸方向の一側に設けられる。これにより、ホルダ部40の一部(圧入部41)が取付部31に圧入固定されることで生じるホルダ部40の変形によって、ホルダ部40の内面にベアリング2の外周面2fの一側が圧迫されることを抑制できる。このため、ホルダ部40の変形により生じ得るベアリング2の変形を抑制できる。延いては、ベアリング2の玉の通過スピードを一定に保てることから、異音の発生を抑えることができる。
【0039】
加えて、ホルダ部40では、段差面44を目印にして接着剤を塗布できるため、適切な位置に接着剤を塗布できる。接着剤は、ベアリング2が挿入されるときに他側に擦り切れて広がる。このため、接着面42の一側の基点である段差面44に接着剤が塗布されることで、ベアリング2よりも他側への接着剤の広がりを抑制しつつ、広い接着面積を確保できる。
【0040】
(2)上述した保持構造では、段差面44の軸方向位置が、取付部31及びベアリング2の双方と重なる位置に設定される。上述の通り、圧入によるホルダ部40の変形は、ホルダ部40の外周面と取付部31の内周面とが圧接する部分、すなわち取付部31の他側端面31fの位置から一側ほど大きく変形する。このため、逃がし面43の他側の基点である段差面44の軸方向位置を、他側端面31fよりも一側であってベアリング2と重なる位置、つまり、ベアリング2及び取付部31の双方と重なる位置とすることで、ホルダ部40の変形量(圧迫量)を抑制でき、当該変形によるベアリング2の外輪の圧迫をより抑制できる。
【0041】
(3)上述した保持構造では、逃がし面43の内径D3が、ベアリング2の外径D1に圧入用の締め代を足した値よりも大きく設定される。ホルダ部40は、当該ホルダ部40が取付部31に圧入固定される際に圧迫されて変形するが、この変形量(圧迫量)は圧入用の締め代を超えることはない。つまり、ホルダ部40が変形したとしても、締め代よりも小さい変形量の範囲でしか変形しないため、逃がし面43の内径D3をベアリング2の外径D1に圧入用の締め代を足した値よりも大きく設定することで、ホルダ部40に内嵌されるベアリング2の変形をより確実に抑えられる。
【0042】
(4)上述した保持構造では、ベアリング2の外径D1が12mmであり、接着剤の粘度が、2000mPa・s以上、且つ、3000mPa・s以下である場合に、ベアリング2の外径D1と逃がし面43の内径D3との差が、150μm以上、且つ、255μm以下に設定される。これにより、外径12mmの比較的小型なベアリング2が適用された保持構造において、適量の接着剤を段差面43に塗布し、適正な接着膜を形成することができる。よって、ベアリング2と接着面42との接着をより確実に実現できる。
【0043】
(5)上述した保持構造では、取付板3に対してベアリングホルダ4が圧入により強固に固定されるとともに、ベアリングホルダ4の内面には、ベアリングホルダ4が圧入固定されることで生じ得るベアリング2の変形を抑制する構成が設けられている。このため、ファンモータに上述した保持構造が適用されることで、ベアリングホルダ4を介して取付板3に固定されているシャフト1及びシャフト1と一体回転するロータ13とファン部との抜けを防止しつつ、ファンモータの異音発生を抑えることができる。なお、上述のファンモータでは、シャフト1,ファン部及びロータ13だけでなく、ステータ14もベアリングホルダ4を介して取付板3に固定される。このため、上述した保持構造が適用されたファンモータであれば、ステータ14の抜けも防止できる。
【0044】
[4.その他]
上述の実施形態で説明したボールベアリングの保持構造及びファンモータの構成は一例であって、上述したものに限られない。ファンモータは、遠心ファンでなくてもよく、アウターロータ型のブラシレスモータでなくてもよい。ファンモータは、例えば、シャフト1の軸方向に流体を流す軸流ファンであってもよい。ボールベアリングの保持構造が適用される装置は、シャフト1が設けられる装置であればよく、ファンモータに限らない。
【0045】
ベアリング2と接着面42との接着代は、上述の値の範囲(1μm~16μm)に限らず、接着剤の粘度やベアリング2の外径D1に応じて適宜設定されてよい。例えば、使用される接着剤が、上述の粘度の上限値(3000mPa・s)よりも大きい値を下限値とする中粘度や高粘度のものであるとする。この場合、接着代の範囲は、上記の範囲(1μm~16μm)よりも大きい値の所定範囲(1μmよりも大きな下限値であり、且つ、16μmよりも大きな上限値の範囲)で設定されてよい。また、例えば、上記のベアリング2よりも大きな外径を持つベアリングが本保持構造に適用される場合において、接着代の範囲が、上記の範囲(1μm~16μm)のよりも大きい値の所定範囲(1μmよりも大きな下限値であり、且つ、16μmよりも大きな上限値の範囲)で設定されてよい。
【0046】
同様に、ベアリング2の外径D1と逃がし面43の内径D3との差は、上述の値の範囲(150μm~255μm)に限らず、例えば接着剤の粘度やベアリング2の外径D1に応じて適宜設定されてよい。逃がし面43の内径D3は、少なくとも接着面42の内径D2よりも大きければよく、上述の設定値に限らない。
【0047】
取付板3とベアリングホルダ4との圧入用の締め代も、上記の範囲に限らない。例えば、圧入用の締め代は、ベアリング2の外径D1に応じて適宜設定されてよい。例えば、上記のベアリング2よりも大きな外径を持つベアリングが本保持構造に適用されるとする。この場合、圧入用の締め代は、上記の範囲(35μm~45μm)よりも大きい値の所定範囲(35μmよりも大きな下限値であり、且つ、45μmよりも大きな上限値の範囲)で設定されてもよい。また、当該締め代は、ベアリングホルダ4を介して取付板3により保持される部品の重量に応じて適宜設定されてよい。前述の保持される部品とは、例えばベアリング2,シャフト1,シャフト1に支持される部品(例えばロータ13)やベアリングホルダ4を介して取付板3に固定される他の部品(例えばステータ14)などが挙げられる。当該締め代は、本保持構造が適用される装置の使用条件(使用場所による外部振動等の外力)に応じて、要求される締結力を満たすように適宜設定されてもよい。
【0048】
取付板3の形状は、取付部31を持つものであれば上述の形状に限らない。例えば、ベース部32は、取付部31の一側から取付部31の内孔を塞ぐように設けられていてもよい。ベース部32は、取付部31の他側から外側に延出していてもよく、取付部31の外周面の全域から外側に延出していてもよい。また、例えばベース部32の板厚が大きい場合、ベース部32を板厚方向に貫通して形成された孔自体を取付部31とすることも可能である。なお、ベース部32が省略されてもよい。
【0049】
取付部31の形状は、円筒状に限らず、内側にホルダ部40を圧入できる形状であればよい。同様にホルダ部40の形状は、円筒状に限らない。ホルダ部40は、取付部31に圧入可能であり、且つ、内側にベアリング2が嵌合可能な形状であればよい。なお、図1に示す保持構造では、取付板3のベース部32(取付部31の一側の端部)とホルダ部40の一側端部46の端面とが面一になっているが、一側端部46がベース部32よりも一側に突出していてもよいし、ベース部32よりも他側に位置していてもよい。
【0050】
ホルダ部40の位置決め部45は、他側からベアリング2に当接してベアリング2の他側への変位を規制するものであれば、上述のものに限らない。例えば、位置決め部45は、ホルダ部40の他側からホルダ部40の内孔を塞ぐ底面部として構成されてもよい。この場合、ベアリング2は、シャフト1の他側の端部を回転可能に支持するものであってもよい。また、位置決め部45は、ホルダ部40と別部材として構成されてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 シャフト
2 ベアリング(第一ベアリング,ボールベアリング)
2f 外周面
3 取付板
4 ベアリングホルダ
10 モータ部
13 ロータ
14 ステータ
31 取付部
31f 他側端面(取付部の他側の端面)
40 ホルダ部
41 圧入部(ホルダ部の一部)
42 接着面
43 逃がし面
44 段差面
45 位置決め部
D1 ベアリングの外径
D2 接着面の内径
D3 逃がし面の内径
図1
図2
図3
図4