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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034430
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】圧入成形物の製造法
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/063 20060101AFI20240306BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240306BHJP
   F16C 35/067 20060101ALI20240306BHJP
   F16C 35/12 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F16C35/063
F16C19/06
F16C35/067
F16C35/12
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138659
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】522207051
【氏名又は名称】久保田 了
(74)【代理人】
【識別番号】100169188
【弁理士】
【氏名又は名称】寺岡 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】久保田 了
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA02
3J117CA06
3J117DA01
3J117DB07
3J701AA03
3J701AA42
3J701AA52
3J701BA77
3J701FA46
3J701FA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ボールベアリングの内輪および/または外輪の適正な位置に、部材を配置可能な圧入成形物の製造法を提供する。
【解決手段】シャフト33を第1のボールベアリング31の内輪の環状部に圧入し、圧入動作に伴って、第2のボールベアリング31aの外輪にハウジング32へ第2の圧入を、圧入動作と同時期に行うことが可能であり、圧入および第2の圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で、圧入成形物の組み立てをする。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトをボールベアリングの内輪の環状部に圧入することが可能であり、
前記圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で、圧入成形物の組み立てが可能な、
圧入成形物の製造法。
【請求項2】
ハウジングをボールベアリングの外輪に圧入する第2の圧入を行うことが可能であり、
前記第2の圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で、圧入成形物の組み立てが可能な、
圧入成形物の製造法。
【請求項3】
シャフトを第1のボールベアリングの内輪の環状部に圧入し、
前記圧入動作に伴って、第2のボールベアリングの外輪にハウジングへ第2の圧入を、前記圧入動作と同時期に行うことが可能であり、
前記圧入の際、および前記第2の圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で、圧入成形物の組み立てが可能な、
圧入成形物の製造法。
【請求項4】
シャフトをボールベアリングの内輪の環状部に圧入する工程、および/またはハウジングを前記ボールベアリングの外輪に圧入する第2の圧入を行う工程を有し、その工程を行うに際し、
前記ボールベアリングに、スラスト方向の荷重をかけることにより、
内輪押し面と、外輪押し面との間に、段差を設け、
前記圧入の際、および前記第2の圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で、圧入成形物の組み立てが可能な、
圧入成形物の製造法。
【請求項5】
ハウジングをボールベアリングの外輪に圧入する第2の圧入の工程を有し、
前記ハウジングの内周面には、段差がなく、
前記第2の圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で、圧入成形物の組み立てが可能な、
圧入成形物の製造法。
【請求項6】
請求項1から6のいずれか1項に記載の圧入成形物の製造法において、
前記部材および/または前記工具の弾性変位量よりも小さな公差で、圧入成形物の組み立てをする際に、前記部材および/または前記工具を加振する、
圧入成形物の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧入成形物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールベアリングとは、その内輪と外輪に、部材を、たとえば摩擦を生じさせつつ固定し、内輪と外輪の回転運動に伴って、内輪と外輪に固定された部材も回転運動させる装置である。
【0003】
特許文献1では、2つのボールベアリングに適正な与圧を印加することのできる軸受装置を備えた回転駆動装置を提供することを目的とした発明が開示されている。たとえば、図28に示すように、回転駆動装置101においては、軸受装置131の第1ボールベアリング81および第2ボールベアリング82に与圧を印加するにあたって、内輪811、821の間にはスペーサ部材86が設けられている一方、外輪812、822の間および外輪812、822のモータ軸線L方向における外側位置のうち、外側位置のみで外輪812、822の離間距離を規定する一対の位置規定部(第1位置規定部84および第2位置規定部89)が設けられている。このため、スペーサ部材86については、内輪811、821側のみに設けるだけで、第1ボールベアリング81および第2ボールベアリング82に定位置与圧を印加することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-148169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、ボールベアリングに適正な与圧を印加することは難しい。同様にボールベアリングには、適正な位置に、圧入によって、上述の内輪と外輪に固定された部材を配置することも難しいのである。
【0006】
そこで本発明の目的は、ボールベアリングの内輪および/または外輪の適正な位置に、部材を配置可能な圧入成形物の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の圧入成形物の製造法は、シャフトをボールベアリングの内輪の環状部に圧入することが可能であり、圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で組み立てが可能である。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の圧入成形物の製造法は、ハウジングをボールベアリングの外輪に圧入する第2の圧入を行うことが可能であり、第2の圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で組み立てが可能である。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の圧入成形物の製造法は、シャフトを第1のボールベアリングの内輪の環状部に圧入し、圧入動作に伴って、第2のボールベアリングの外輪にハウジングへ第2の圧入を、圧入動作と同時期に行うことが可能であり、圧入および第2の圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で組み立てが可能である。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の圧入成形物の製造法は、シャフトをボールベアリングの内輪の環状部に圧入する工程、および/またはハウジングをボールベアリングの外輪に圧入する第2の圧入を行う工程を有し、その工程を行うに際し、ボールベアリングに、スラスト方向の荷重をかけることにより、内輪押し面と、外輪押し面との間に、段差を設け、圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で組み立てが可能である。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の圧入成形物の製造法は、ハウジングをボールベアリングの外輪に圧入する第2の圧入の工程を有し、ハウジングの内周面には、段差がなく、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で組み立てが可能である。
【0012】
ここで、部材および/または前記工具の弾性変位量よりも小さな公差で、圧入成形物の組み立てをする際に、部材および/または前記工具を加振することとしても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、ボールベアリングの内輪および/または外輪の適正な位置に、部材を配置可能な圧入成形物の製造法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の第1形態に係る、圧入装置と圧入成形物の構成部品の分解斜視図である。
図2】本実施の第1形態に係る、圧入装置の平面図である。
図3図2のA-A断面図であって、プレス機が、プレスを開始する前の状態である。
図4図2のA-A断面図であって、プレス機が、プレス下降した状態である。
図5図2のA-A断面図であって、プレス機が、プレス下降し、その後プレス上昇した状態である。
図6】本実施の第1形態の圧入成形物の製造法で圧入した圧入成形物の斜視図である。
図7】本実施の第1形態の圧入成形物の製造法で圧入した圧入成形物の正面図である。
図8図7のB-B断面図である。
図9】本実施の第2形態に係る、圧入装置と構成部品の分解斜視図である。
図10】本実施の第2形態に係る、圧入装置の平面図である。
図11図10のC-C断面図であって、プレス機が、プレスを開始する前の状態である。
図12図10のC-C断面図であって、プレス機が、プレス下降した状態である。
図13図10のC-C断面図であって、プレス機が、プレス下降し、その後プレス上昇した状態である。
図14】本実施の第2形態の圧入成形物の製造法で圧入した圧入成形物の斜視図である。
図15】本実施の第2形態の圧入成形物の製造法で圧入した圧入成形物の正面図である。
図16図15のD-D断面図である。
図17】本実施の第3形態に係る、圧入装置と構成部品の分解斜視図である。
図18】本実施の第3形態に係る、圧入装置の平面図である。
図19図18のE-E断面図であって、プレス機が、プレスを開始する前の状態である。
図20図18のE-E断面図であって、プレス機が、プレス下降した状態である。
図21図18のE-E断面図であって、プレス機が、プレス下降し、その後プレス上昇した状態である。
図22】本実施の第3形態の圧入成形物の製造法で圧入した圧入成形物の斜視図である。
図23】本実施の第3形態の圧入成形物の製造法で圧入した圧入成形物の正面図である。
図24図23のF-F断面図である。
図25図19および図20の上治具30付近の拡大図に相当する、本実施の形態の変形例を示す図である。
図26図24に相当する図である。
図27図26を変形した、本実施の形態の変形例を示す図である。
図28】従来技術を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本実施の第1形態の圧入成形物の製造法の内容)
以下、本実施の第1形態の圧入成形物の製造法について、図1図2図3図4図5図6図7,および図8に基づいて説明する。
【0016】
圧入装置1は、フレーム5と、スライド6とを有するプレス機を有する。フレーム5の底面5aには、加振機14が固定配置されている。加振機14は、ピエゾ素子からなる。そして、加振機14の上面には、下治具13が穴部13aを上側にして、固定配置されている。そして、下治具13の穴部13aに、円筒状のラジアルボールベアリング12の平面部12aを下側に対向させて、嵌合させる。
【0017】
そして、上治具10の一方の平面を下側に向けて、他方の平面を下治具13に対向させるようにして、スライド6の下面6aに固定配置する。そして、上治具10の一方の平面の中央部には、シャフト11を挿入・把持可能な穴部10aが形成されている。さらに、穴部10aと同心円上に連通する、穴部10aよりも径の小さな貫通孔10bが形成されている。この貫通孔10bは真空吸引穴(配管図示省略)の役割をする。この真空吸引は、ワークを常時吸引把持している。ワークを取りたい場合は、吸引したまま手で引き抜く。シャフト11は、穴部10aに挿入・把持されている。以上の構成(フレーム5,スライド6,加振機14,下治具13,上治具10)が圧入装置1の構成である。残りの部品は、圧入成形物を構成する部材である。以上が図3に示した状態である。
【0018】
図3に示した状態から、スライド6を下降させて(プレス下降)、ラジアルボールベアリング12の内輪にシャフト11を挿入、つまり圧入する。この挿入量は、上治具10の穴部10aからシャフト11が飛び出した量である。以上が図4に示した状態である。
【0019】
図4に示した状態の後、スライド6を上昇させる(プレス上昇)。すると、ラジアルボールベアリング12の内輪にシャフト11が圧入されて、ラジアルボールベアリング12がシャフト11にくっついている。以上が図5に示した状態である。
【0020】
この、図3図4および図5に示した状態のうち、図4に示した状態のとき、すなわち、ラジアルボールベアリング12の内輪の環状部にシャフト11を挿入、つまり圧入する際には、加振機14を動作させる。つまり、圧入装置1は、シャフト11をラジアルボールベアリング12の内輪の環状部に圧入することが可能であり、圧入の際に、下治具13を介してラジアルボールベアリング12に対して加振することができる。この加振によって、超音波振動がラジアルボールベアリング12およびシャフト11に、圧入の際に与えられる。
【0021】
図5に示した状態の後、穴部10aに挿入・把持されたシャフト11を取り外すと、図6図7図8に示す、圧入成形物である、いわゆるワークを取り出すことができる。このワークは、シャフト11の一端にラジアルボールベアリング12が取り付けられたものである。
【0022】
以下に本実施の第1形態の圧入成形物の製造法をまとめて書く。シャフト11をラジアルボールベアリング12の内輪の環状部に圧入することが可能であり、圧入の際に、シャフト11および/またはラジアルボールベアリング12に対して加振する。
【0023】
(本実施の第2形態の圧入成形物の製造法の内容)
以下、本実施の第2形態の圧入成形物の製造法について、図9図10図11図12図13図14図15,および図16に基づいて説明する。
【0024】
圧入装置2は、本実施の第1形態と同様に、フレーム5と、スライド6とを有するプレス機を有する。フレーム5の底面5aには、加振機24が固定配置されている。加振機24は、ピエゾ素子からなる。そして、加振機24の上面には、下治具23がシャフト部23aを上向きにして、固定配置されている。
【0025】
そして、上治具20の2つある、平面のうち、面積の小さな一方の平面を下側に向けて、貫通孔20aが、下治具23のシャフト部23aに対向するようにして、スライド6の下面6aに固定配置する。なお、貫通孔20aは、下治具23の突起(後述するシャフト部23a)の干渉回避穴で、貫通孔10bのように真空吸引等はしていない。以上の構成(フレーム5,スライド6,加振機24,下治具23,上治具20)が圧入装置2の構成である。残りの部品は、圧入成形物を構成する部材である。
【0026】
そして、下治具23のシャフト部23aが、四角柱状且つ中空のハウジング22の、穴部22aに開口部22bから挿入するようにする。開口部22bは、穴部22aの存在する面とは、対向する面が全て開口している面である。そのため、開口部22bから下治具23のシャフト部23aを挿入し、さらに、シャフト部23aを穴部22aから飛び出るようにすることが可能となる。
【0027】
図11に示した状態から、スライド6を下降させて(プレス下降)、ラジアルボールベアリング21の外輪を、ハウジング22の穴部22aの内周面に、摩擦力を生じさせながら挿入、つまり圧入(第2の圧入)する。この挿入距離は、ハウジング22の穴部22a周辺の段差22cまでの距離である。この段差22cは、ラジアルボールベアリング21を、ハウジング22の穴部22aから落下しないように、平面部21aを支える役割をする。以上が図12に示した状態である。
【0028】
図12に示した状態の後、スライド6を上昇させる(プレス上昇)。すると、ハウジング22の穴部22aに、ラジアルボールベアリング21の外輪が圧入(第2の圧入)されて、ラジアルボールベアリング21がハウジング22にくっついている。以上が図13に示した状態である。
【0029】
この、図11図12および図13に示した状態のうち、図12に示した状態のとき、すなわち、圧入装置2は、ラジアルボールベアリング21の外輪を、ハウジング22の環状部(穴部22a)に圧入(第2の圧入)することが可能であり、圧入(第2の圧入)の際に、下治具23を介してラジアルボールベアリング21に対して加振することができる。この加振によって、超音波振動がラジアルボールベアリング21およびハウジング22に、圧入(第2の圧入)の際に与えられる。
【0030】
図13に示した状態の後、ハウジング22に挿入・把持されたラジアルボールベアリング21を取り外すと、図14図15図16に示す、圧入成形物である、いわゆるワークを取り出すことができる。このワークは、ハウジング22の穴部22aにラジアルボールベアリング21が取り付けられたものである。
【0031】
以下に本実施の第2形態の圧入成形物の製造法をまとめて書く。ハウジング22をラジアルボールベアリング21の外輪に圧入する第2の圧入を行うことが可能であり、第2の圧入の際に、ハウジング22および/またはラジアルボールベアリング21に対して加振する。
【0032】
(本実施の第3形態の圧入成形物の製造法の内容)
以下、本実施の第3形態の圧入成形物の製造法について、図17図18図19図20図21図22図23,および図24に基づいて説明する。
【0033】
圧入装置3は、本実施の第1形態および第2形態と同様に、フレーム5と、スライド6とを有するプレス機を有する。フレーム5の底面5aには、加振機35が固定配置されている。加振機35は、ピエゾ素子からなる。そして、加振機35の上面には、下治具34が固定配置されている。
【0034】
そして、扁平状の円柱形状をした上治具30の平面を上側に向けて、下治具34に対向するようにして、スライド6の下面6aに固定配置する。さらに、上治具30の円の中心には、上治具30を厚み方向に貫通する貫通孔30aが形成されている。この貫通孔30aは真空吸引穴(配管図示省略)の役割をする。この真空吸引は、ワークを常時吸引把持している。ワークを取りたい場合は、吸引したまま手で引き抜く。以上の構成(フレーム5,スライド6,加振機35,下治具34,上治具30)が圧入装置3の構成である。残りの部品は(第1のラジアルボールベアリング31,第2のラジアルボールベアリング31b,ハウジング32,シャフト33)、圧入成形物を構成する部材である。
【0035】
以下、図19の説明をする。円柱状の下治具34は、上面が直方体に抉れた抉れ部34aと、抉れ部34aの底面中央部に円形に上方から下方へ貫通する貫通孔34bを有している。下治具34は、その底面が加振機35の上面に固定配置されている。
【0036】
そして、直方体状且つ中空のハウジング32が、抉れ部34aに嵌合される。ハウジング32は、抉れ部34aに嵌合された状態の上側中央部が円形の穴部32aになっている。また、ハウジング32は、抉れ部34aに嵌合された状態の下側中央部が円形の穴部32bになっている。この穴部32bの内周面は、第1のラジアルボールベアリング31の外輪と摩擦を生じさせるように嵌合している。
【0037】
そして、シャフト33の一端を、上治具30の貫通孔30aと同心円上に連通する、凹部30bに嵌合し、固定する。そして、シャフト33の周面は、第2のラジアルボールベアリング31aの内輪と摩擦を生じさせるように嵌合している。なお、このシャフト33は、下端が第1のラジアルボールベアリング31の内輪の中心と対向するようにする。以上が図19に示した状態である。
【0038】
図19に示した状態から、スライド6を下降させて(プレス下降)、第2のラジアルボールベアリング31aの外輪を、ハウジング32の穴部32aの内周面に、摩擦力を生じさせながら挿入、つまり圧入(第2の圧入)する。この挿入距離は、ハウジング32の穴部32a周辺の段差32c,32dまでの距離である。この段差32c,32dは、第1のラジアルボールベアリング31と、第2のラジアルボールベアリング31aを、ハウジング32の穴部32a,32bから落下しないように、平面部31bを支える役割をする。段差32c,32dは、向かい合わせて位置している。なお、シャフト33の下端は、ハウジング32の穴部32aに挿入され、その後第1のラジアルボールベアリング31の内輪の内周面に、摩擦力を生じさせながら挿入、つまり圧入し、さらに、下治具34の貫通孔34bに挿入される。以上が図20に示した状態である。
【0039】
図20に示した状態の後、スライド6を上昇させる(プレス上昇)。すると、ハウジング32の穴部32aに、第2のラジアルボールベアリング31aの外輪が圧入(第2の圧入)されて、ラジアルボールベアリング31がハウジング32にくっついている。さらに、シャフト33は、上治具30の凹部30bから離れ、下治具34の貫通孔34bに移動する。以上が図21に示した状態である。
【0040】
この、図19図20および図21に示した状態のうち、図20に示した状態のとき、すなわち、第2のラジアルボールベアリング31aの外輪を、ハウジング32の穴部32aの内周面に、摩擦力を生じさせながら挿入、つまり圧入(第2の圧入)する。且つそれと同時期に、シャフト33の下端は、ハウジング32の穴部32aに挿入され、その後第1のラジアルボールベアリング31の内輪の内周面に、摩擦力を生じさせながら挿入、つまり圧入する。その際には、加振機35を動作させる。この加振によって、下治具34を介して超音波振動が第1のラジアルボールベアリング31および第2のラジアルボールベアリング31aおよびハウジング32およびシャフト33に、圧入(第2の圧入)の際に与えられる。
【0041】
図21に示した状態の後、外輪がハウジング32に挿入・把持され、且つ内輪にシャフト33が挿入された、第1のラジアルボールベアリング31および、第2のラジアルボールベアリング31a、つまりワークを取り出すことができる。このワークは、図22図23図24に示す、圧入成形物である。
【0042】
以下に、本実施の第3形態の圧入成形物の製造法をまとめて書く。シャフト33を第1のボールベアリング31の内輪の環状部に圧入し、圧入動作に伴って、第2のボールベアリング31aの外輪にハウジング32へ第2の圧入を、圧入動作と同時期に行うことが可能であり、圧入および第2の圧入の際に、シャフト33および/またはハウジング32および/または第1のボールベアリング31および/または第2のボールベアリング31aに対して加振する。
【0043】
(本実施の形態によって得られる主な効果)
本実施の第1、第2および第3形態の圧入成形物の製造法は、圧入および/または第2の圧入の際に、加振機14,24,35を動作させている。この加振によって、超音波振動が発生する。超音波振動は、圧入および/または第2の圧入の際に生じる、圧入状態のばらつきの発生を抑制する。たとえば、圧入および/または第2の圧入の際に、圧入する側と圧入される側の間に、隙間が生ずることがある。そのような隙間が生じても、超音波振動を与えることにより、隙間が無くなる。結果として、寸法精度のばらつきをミクロンオーダーにまで低下が可能になる。
【0044】
上述の超音波振動を与えることは、部材(シャフト、ハウジング、ベアリング等)または工具(治具、設備等)の弾性変位量よりも小さな公差で圧入成形物の組み立てを可能にする手段の一例である。他には、超音波振動以外の振動を部材および/または工具に与えて、部材または工具の弾性変位量よりも小さな公差で圧入成形物の組み立てを可能にする手段等がある。
【0045】
(他の形態)
上述した本実施の第1、第2および第3形態の圧入成形物の製造法は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0046】
たとえば、本実施の第1、第2および第3形態の圧入成形物の製造法は、超音波振動で加振している。しかし、超音波以外の振動、たとえば、超音波とは異なる周波数帯域の振動を加振しても良い。たとえば、偏芯錘をモーターで回転させる振動であっても良い。
【0047】
また、本実施の第1の圧入成形物の製造法では、超音波振動で加振するタイミングを、圧入の際としている。しかし、圧入の際以外のときも、加振しても良い。また、本実施の第1の圧入成形物の製造法では、超音波振動が下治具13を介して、ラジアルボールベアリング12およびシャフト11に、与えられることとしている。しかし、超音波振動は、ラジアルボールベアリング12またはシャフト11に、与えることとしても良い。圧入の力により、ラジアルボールベアリング12と、シャフト11とが密着すると、それらの一方に振動を加えることで、他方にも振動が伝播することなり、結局双方に加振するのと同じことになる。
【0048】
また、本実施の第2の圧入成形物の製造法では、超音波振動で加振するタイミングを、圧入の際および第2の圧入の際としている。しかし、圧入の際および第2の圧入の際以外のときも、加振しても良い。また、本実施の第2の圧入成形物の製造法では、超音波振動が下治具23を介してラジアルボールベアリング21およびハウジング22に、与えられることとしている。しかし、超音波振動は、ラジアルボールベアリング21またはハウジング22に、与えることとしても良い。圧入の力により、ラジアルボールベアリング21と、ハウジング22とが密着すると、それらの一方に振動を加えることで、他方にも振動が伝播することなり、結局双方に加振するのと同じことになる。
【0049】
また、本実施の第3の圧入成形物の製造法では、超音波振動で加振するタイミングを、圧入の際および第2の圧入の際としている。しかし、圧入の際および第2の圧入の際以外のときも、加振しても良い。また、本実施の第3の圧入成形物の製造法では、超音波振動が下治具34を介して、第1のラジアルボールベアリング31および第2のラジアルボールベアリング31aおよびハウジング32およびシャフト33に、与えられることとしている。しかし、超音波振動は、第1のラジアルボールベアリング31および/または第2のラジアルボールベアリング31aおよび/またはハウジング32および/またはシャフト33に、与えることとしても良い。圧入の力により、第1のラジアルボールベアリング31と、第2のラジアルボールベアリング31aと、ハウジング32と、シャフト33とが密着すると、それらの一つまたは、2つまたは、3つ(一方)に振動を加えることで、他方にも振動が伝播することなり、結局全部に加振するのと同じことになる。
【0050】
また、本実施の第1、第2および第3形態の圧入成形物の製造法は、ボールベアリングとして、ラジアルボールベアリングを用いているが、その他の種類のボールベアリングを用いても良い。たとえば、ころ軸受等を用いても良い。
【0051】
また、本実施の第1、第2および第3形態の圧入成形物の製造法は、ボールベアリングを含んだワークを得るためのものに限らない。たとえば、シャフトまたはハウジングを環状の弾性体のパッキンの環状部に圧入する、圧入成形物の製造法であっても良い。そして、圧入の際に、シャフトおよび/または弾性体のパッキン(オイルシール等)に対して加振しても良い。
【0052】
また、本実施の形態の変形例として、シャフトをボールベアリングの内輪の環状部に圧入する工程、および/またはハウジングをボールベアリングの外輪に圧入する第2の圧入を行う工程を有し、その工程を行うに際し、ボールベアリングに、スラスト方向の荷重をかけることにより、内輪押し面と、外輪押し面との間に、段差を設け、圧入の際に、部材および/または工具の弾性変位量よりも小さな公差で組み立てが可能である。
【0053】
ここで、図25は、図19および図20の上治具30付近の拡大図に相当する、本実施の形態の変形例を示す図である。図19および図20で使っている符号で、図25にも使っている符号は、同一または極めて近い機能を有する部位であることとし、その詳細な説明を省略する。上治具30の凹部30bにシャフト33の端が挿入され、その凹部30bの上面がシャフト押し面30cとなっている。また、シャフト33の周面には、第1のラジアルボールベアリング31が圧入されている。
【0054】
そして、第1のラジアルボールベアリング31の内輪押し面30dが、外輪押し面30eよりも、強く下側へ押している(意図的に荷重をかけている)。その結果、内輪押し面30dと、外輪押し面30eとの間に、段差が形成され、その段差(予圧量A)が、定位置与圧になる。与圧とは、ベアリングの精度および/または剛性を上げるものである。なお、この変形例は、本実施の第3形態の圧入成形物の製造法を基に説明したが、本実施の第1,第2形態の圧入成形物の製造法の変形例にも適用できる。
【0055】
また、本実施の第2および第3形態の圧入成形物の製造法は、図26図27に示すように、ハウジング22,32を、ラジアルボールベアリング21,第1のラジアルボールベアリング31,第2のラジアルボールベアリング31bの外輪に圧入する第2の圧入の工程を有し、ハウジング22,32の内周面には、段差22c,32c,32dがなく、部材または工具の弾性変位量よりも小さな公差で組み立てが可能であることとしても良い。なお、図27の、図26にも使っている符号は、同一または極めて近い機能を有する部位であることとし、その詳細な説明を省略する。
【0056】
このような圧入成形物の製造法にすることで、本実施の第2および第3形態の圧入成形物の製造法は、段差22c,32c,32dを形成する必要がないハウジング32fを用いるため、コストダウンを見込める。このハウジング32fは、単純な円筒状をしており、その内周面がラジアルボールベアリング31の外輪を締め付けている。なお、図26図27に示したのは、本実施の第3形態の圧入成形物の製造法だが、本実施の第2形態の圧入成形物の製造法にも、ハウジング32fを用いた構成は適用できる。
【符号の説明】
【0057】
11,33 シャフト
12,21 ラジアルボールベアリング(ボールベアリング)
22,32 ハウジング
30d 内輪押し面
30e 外輪押し面
31 第1のラジアルボールベアリング(第1のボールベアリング)
31a 第2のラジアルボールベアリング(第2のボールベアリング)
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