(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003444
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】接点構造及びブラシモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 13/00 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
H02K13/00 G
H02K13/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102584
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康弘
【テーマコード(参考)】
5H613
【Fターム(参考)】
5H613AA03
5H613BB04
5H613GA03
5H613GB08
5H613GB12
5H613GB13
(57)【要約】
【課題】接点構造及びブラシモータに関し、整流子及びブラシの耐摩耗性及びスリットの絶縁性を向上させる。
【解決手段】開示の接点構造10は、リン青銅で形成されて少なくとも錫を質量百分率で1.0%以上かつ9.0%以下の範囲で含有する整流子6と、銅カーボンで形成されて整流子6に接触するように設けられるブラシ9とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン青銅で形成されて少なくとも錫を質量百分率で1.0%以上かつ9.0%以下の範囲で含有する整流子と、
銅カーボンで形成されて前記整流子に接触するように設けられるブラシと、を備える
ことを特徴とする、接点構造。
【請求項2】
前記ブラシが銅を質量百分率で20%以上かつ70%以下の範囲で含有する
ことを特徴とする、請求項1記載の接点構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の接点構造を介して通電されるロータと、
前記ロータに作用する磁界を生成するステータと、を備える
ことを特徴とする、ブラシモータ。
【請求項4】
前記ブラシモータは、当該ブラシモータへの入力電圧が直流36V以上の電源を備えた自動車用の車載電装品を駆動するものであって、
前記ロータが、前記電源の電圧を印加されて動作する
ことを特徴とする、請求項3記載のブラシモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接点構造及びこれを備えたブラシモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車に搭載される車載電装品は、車載バッテリーから供給される12Vまたは24Vの電圧で動作するように設計されているものが多い。一方、近年の電気自動車やハイブリッド自動車等においては、より高電圧の給電システムが適用される事例がある。例えば、欧米の自動車メーカーで開発されているマイルドハイブリッド車両において、48V車載バッテリーを用いて車載電装品等を駆動する給電システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような実情を受け、整流子及びブラシを内蔵するブラシモータ(整流子モータ)等の小型電装品においても、従来より高電圧で動作しうる性能が求められつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2022/0024444号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブラシモータを高電圧で作動させた場合、整流子及びブラシの接点の火花が激しくなり、急速に摩耗が進行してしまうおそれがある。また、整流子を構成する複数の整流子片の間には、絶縁性を確保するためのスリットが設けられている。このスリットの内部や近傍に摩耗粉が堆積すると、スリットの絶縁性が低下してフラッシュオーバー(正極ブラシと負極ブラシとの間の短絡)が発生し、隣接する整流子片間の溶着によるモータの異常停止に陥る可能性がある。
【0005】
これらの課題を踏まえて、ブラシモータを従来より高電圧で動作させるためには、整流子及びブラシの耐摩耗性やスリットの絶縁性を向上させておくことが望まれる。なお、この課題はマイルドハイブリッド車両に搭載される車載電装品のみにおいて解決すべき課題であるとはいえない。すなわち、車載電装品以外の一般的な電動機器においても、その電動機器をより高電圧で動作させたい場合には同様の課題が生じる。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、整流子及びブラシの耐摩耗性及びスリットの絶縁性を向上させた接点構造及びブラシモータを提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の接点構造は、リン青銅で形成されて少なくとも錫を質量百分率で1.0%以上かつ9.0%以下の範囲で含有する整流子と、銅カーボンで形成されて前記整流子に接触するように設けられるブラシとを備える。なお、前記ブラシが銅を質量百分率で20%以上かつ70%以下の範囲で含有することが好ましい。
また、開示のブラシモータは、上記の接点構造を介して通電されるロータと、前記ロータに作用する磁界を生成するステータとを備える。前記ブラシモータは、当該ブラシモータへの入力電圧が直流36V以上の電源を備えた自動車用の車載電装品を駆動するものであって、前記ロータが、前記電源の電圧を印加されて動作することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、リン青銅で形成された整流子と銅カーボンで形成されたブラシとの組み合わせにより、整流子及びブラシの耐久性を改善できる。また、整流子に、少なくとも錫を1.0%以上かつ9.0%以下の範囲で含有させることで、摩耗粉の導電率を低下させることができ、スリットの絶縁低下を抑制できる。したがって、整流子及びブラシの耐摩耗性及びスリットの絶縁性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例の接点構造及びブラシモータを説明するための分解斜視図である。
【
図2】耐久性試験の内容を説明するための図である。
【
図3】(A),(B)は試験結果を説明するためのグラフである。
【
図4】(A),(B)は試験結果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示の接点構造及びブラシモータは、以下の実施例によって実施されうる。接点構造とは、複数の部品を接触させることで電流を流す部位の構造を意味し、あるいは、そのような電流の流れを断接する(電流の流路を開閉する)部位の構造を意味する。開示の接点構造は、少なくとも整流子とブラシとを備える。また、ブラシモータとは、接点構造を介して通電されるロータと、ロータに作用する磁界を生成するステータとを備えたモータを意味する。開示のブラシモータは、整流子モータやブラシ付きモータとも呼ばれる。なお、本実施形態で言及される各種成分の百分率(パーセント,%)は、質量についての百分率(質量百分率)を意味する。
【実施例0011】
[1.構成]
図1は、実施例としての接点構造10及び接点構造10が適用されたブラシモータ1の主要部品を分解して示す斜視図である。ブラシモータ1は、例えば直流36V以上の電源を搭載した自動車用の車載電装品(例えば、ドアロック装置,ミラー駆動装置,ミラーユニット格納装置,パワーウィンドウ装置,シートベルトプリテンショナー装置,電動パーキングブレーキ装置等)を駆動する小型モータとして適用される。ブラシモータ1の電力源は、例えば蓄電池(直流電源)である。
【0012】
自動車用の車載電装品の駆動用のブラシモータ1の駆動時間は、10秒未満のものが多い。なお、一般的なドアロック装置を駆動するために使用されるブラシモータ1の1動作あたりの駆動時間は、1秒未満であり、ミラーユニット格納装置やパワーウィンドウ装置においては10秒未満である。このようなブラシモータ1では、例えばドアロック装置を駆動するために消費される電気エネルギーのうちの多くが、回転動作の開始時(始動時)に消費される。すなわち、上記のブラシモータ1では、始動時に大電流が入力されやすい。本実施例の接点構造10は、このようなブラシモータ1(言い換えれば、駆動時間が比較的短く、始動時に大電流が入力されうるブラシモータ1)に適用することで、顕著な効果を発揮する。
【0013】
ブラシモータ1は、ステータ3(固定子)と、その内側に配置されるロータ4(回転子)と、ロータ4の回転中心となるシャフト12とを備える。ロータ4は、実施例としての接点構造10を介して通電される回転子であり、例えば自動車に搭載された電源の電圧(36Vや48V等)を印加されて動作するものである。ステータ3及びロータ4は、例えば有底円筒状に形成されたハウジング2の内部に収容される。
図1では、ハウジング2の開放端部(
図1中では左端部)を閉塞する蓋部材(エンドベル)の記載を省略している。ブラシモータ1のサイズは、例えばハウジング2(ケース)の外径がφ40mm以下であり、出力が150W以下である。好ましくは、ハウジング2の外径がφ25mm以下であり、出力が25W以下である。特に、整流子の外径がφ10mm以下である。これは整流子が比較的小型であり、高い電圧に対して整流子の絶縁を維持しにくいものであるため、本発明の効果が顕著に表れるものである。
【0014】
シャフト12は、図示しないベアリングを介してハウジング2やその蓋部材に支持される軸状(棒状)の部材である。ステータ3はハウジング2に固定され、ロータ4はシャフト12に固定されてシャフト12と一体回転する。シャフト12の中心線Cは、ロータ4の回転中心に一致している。また、シャフト12の一端はハウジング2の外部に向かって突設される。ステータ3に対するロータ4の回転運動は、シャフト12を介してハウジング2の外部に出力される。
【0015】
ステータ3は、ロータ4に作用する磁界を生成するものであり、複数のマグネット(永久磁石)を含む。複数のマグネットは、例えばハウジング2の内周面に沿って取り付けられ、互いに周方向(中心線Cに垂直な断面において、中心線Cを中心とした円の円周方向)に所定の間隔をあけて異なる磁極が配置される。各々のマグネットの形状は、例えば円弧面状や環状、これに類する形状とされる。磁界の向きは、ハウジング2の外部から内部へ向かう方向か、その反対方向(内部から外部へ向かう方向)に設定される。マグネットの個数や形状は、任意に設定可能である。
【0016】
ロータ4には、シャフト12に対して相対回転不能に固定されるコア5(回転子コア)と整流子6とが設けられる。コア5は、例えば複数の同一形状の鋼板を積層してなる。鋼板の積層方向は、中心線Cの延在方向と同一である。コア5には、中心線Cに垂直な断面において、中心線Cから放射状に突出した形状の複数のティースが設けられる。各々のティースに電線を巻き掛けることで、複数のコイルが形成される。ティースの個数,形状,電線の巻き掛け方法,巻き数については、任意に設定可能である。
【0017】
整流子6(コミテータ)は、ロータ4に設けられる複数のコイルの通電状態に関して、ロータ4の回転角に応じた適切な通電状態を生成するための部材である。整流子6は、曲面状に形成された複数の整流子片7(コミテータ片,コミテータセグメント)を含む。整流子片7の形状は、例えば円弧面状やこれに類する形状に形成される。これらの整流子片7は、シャフト12の外周面に沿ってその周方向に所定の間隔をあけて配置される。各々の整流子片7と各々のコイルとの間は、給電回路で接続される。また、隣接する整流子片7同士の隙間は、スリット8と呼ばれる。整流子片7の個数,形状,スリット8の幅,形状については、任意に設定可能である。
【0018】
整流子6の周囲には、ブラシ9(刷子)が整流子片7の表面に摺動接触するように設けられる。ブラシ9は、ブラシアーム11の一端に取り付けられ、整流子片7に対して弾性的に押し付けられた状態でブラシアーム11に支持される。また、ブラシ9及びブラシアーム11は、一対設けられる。各々のブラシアーム11の他端は、例えばハウジング2や蓋部材を貫通してハウジング2の外部まで延設され、各々が電力供給用の端子(+端子及び-端子)に接続される。各々のブラシ9は、通常、複数の整流子片7のいずれか一つまたは隣り合う二つと接触し、一つの整流子片7に電気極性の異なる複数のブラシ9が接触しないように配置される。
【0019】
[2.組成]
整流子6は、リン青銅(燐青銅)で形成される。ここでいう「リン青銅」とは、少なくともリン(P)と錫(Sn,すず)と銅(Cu)とを含む合金である。好ましくは、リンと錫と銅との合計が全体の99.5%以上を占めるように、各成分の含有率が設定される。リンの含有率は任意に設定されうるが、例えば0.35%以下とされ、好ましくは0.20%以下とされ、より好ましくは0.15%以下とされ、更に好ましくは0.080%以下とされる。なお、0.35%を超えるリンの含有率を設定してもよい。
【0020】
なお、ここでいう「リン青銅」は、銅を主成分とするものであってもよい。銅を主成分とするリン青銅の定義としては、例えば「銅を90%以上含有するリン青銅」や「銅を50%以上含有するリン青銅」や「最も銅の含有率が高いリン青銅」などが挙げられる。また、リン青銅には、リン,錫,銅以外の成分が含有されうる。例えば、鉛(Pb),鉄(Fe),亜鉛(Zn),ニッケル(Ni)等が含有されうる。
【0021】
本実施例の整流子6は、錫を1.0%(例えば、JIS規格C5050相当の錫含有率下限値)以上かつ9.0%(例えば、JIS規格C5212相当の錫含有率上限値)以下の範囲で含有する。錫の含有率を上昇させることで、整流子6とブラシ9との物理的な接触によって生じる摩耗粉(整流子粉及びブラシ粉の混合物)の導電率が低下し、スリット8の絶縁低下が抑制される。錫の含有率の下限値は、1.0%以上の範囲で任意に設定されうるが、好ましくは3.5%とされる(例えば、JIS規格C5111等)。整流子6においては、錫の含有率を上昇させることで整流子片7の融点が低下する。これにより、切り替わり時の火花によりスリット8付近の整流子片7が消耗し易くなり、摩耗粉が堆積し難くなる。したがって、スリット8の絶縁性が改善される。
【0022】
一方、錫の含有率を上昇させ過ぎると、前述したスリット8付近の整流子片7の消耗が過度に進むため、ブラシ9が整流子6を摺動するときにスリット8付近でブラシ6が跳ねて接触不安定となり、電流の入力が不足し性能が低下する恐れがある。このような実情を考慮すると、錫の含有率についての好ましい上限値は9.0%前後である。言い換えれば、錫の含有率は、好ましくは9.0%以下とされ、より好ましくは4.5%以下とされる(例えば、C5111~C5212等)。
【0023】
ブラシ9は、銅カーボンで形成される。ここでいう「銅カーボン」とは、少なくとも銅(Cu)とカーボン(C,炭素)とを含む複合材料であり、例えば粉末状の黒鉛や銅粉とを公知の結合材(バインダー)で固着させたり焼結させたりすることで形成される。ブラシ9においては、銅の含有率を低下させることでブラシ9の固有抵抗が上昇し、摩耗粉の導電率が低下するため、スリット8の絶縁低下がさらに抑制される。一方、銅の含有率を低下させ過ぎると、ブラシ9自体の導電性が低下してしまい、良好な導電性能が得られなくなるおそれがある。発明者の検討結果によれば、銅の含有率についての好ましい範囲は、20%以上かつ70%以下の範囲である。なお、銅カーボンには、銅及び炭素以外の成分が含有されうる。例えば、固体潤滑材や研磨材等が含有されうる。
【0024】
[3.耐久性試験]
図2は、接点構造10及びブラシモータ1の耐久性試験において、ロータ4に印加される電圧のサイクル(周期的な変動)を表す模式図である。図中のCWは、ロータ4を時計回り(clockwise)に回転させる電圧(正転電圧)を表し、図中のCCWはロータ4を反時計回り(counter-clockwise)に回転させる電圧(逆転電圧)を表し、図中のOFFは非通電状態(0V)を表す。この耐久性試験では、
図2に示すような電圧をロータ4に繰り返し印加することで、接点構造10及びブラシモータ1の耐久性が測定される。この耐久性試験において、ブラシモータ1による駆動対象となる装置(例えば、自動車用のドアロック装置等)をシャフト12に接続することで、ロータ4に所定の負荷を作用させてもよい。
【0025】
図2に示す耐久性試験の1サイクルにおいては、逆転電圧が0.2秒間印加された後、非通電状態が2.3秒間継続され、さらに正転電圧が0.2秒間印加された後、非通電状態が2.3秒間継続される。このようなサイクルでロータ4の駆動が繰り返し実施され、繰り返された回数が計測される。接点構造10及びブラシモータ1の動作に不具合が生じる(例えば、動かなくなる)までの回数(サイクル数)が、接点構造10及びブラシモータ1の寿命として評価される。具体的な通電時間や電圧や寿命の目標値については、任意に設定されうる。
【0026】
図3(A)は、リン青銅〔錫2.0%(1.7~2.3%)、古河電気工業製、商品名MF202〕で形成された整流子6とブラシ9との組み合わせによる耐久性試験の結果を示すグラフである。ここでは、ブラシ9に含まれる銅の含有率を変化させて実施された複数の耐久性試験の結果がまとめて示されている。すなわち、
図3(A)中の上から順に、銅の含有率が70%である場合の結果と、銅の含有率が50%である場合の結果と、銅の含有率が20%である場合の結果と、ブラシ9が銅を含まない場合の結果とが示されている。
【0027】
図3(A)によれば、リン青銅〔錫2.0%(1.7~2.3%)〕で形成された整流子6と銅カーボンで形成されたブラシ9との組み合わせが、寿命の延長に奏功しうることがわかる。また、ブラシ9に含まれる銅の含有率としては20~70%の範囲が好適であり、銅の含有率が低下するにつれて寿命が延長されることがわかる。特に、ブラシ9に含まれる銅の含有率が20~50%の範囲内であれば、寿命がより確実に延長されることがわかる。
【0028】
図3(B)は、リン青銅〔錫4.0%(3.5~4.5%)〕で形成された整流子6とブラシ9との組み合わせによる耐久性試験の結果を示すグラフである。ここでは、
図3(B)中の上から順に、銅の含有率が70%である場合の結果と、銅の含有率が50%である場合の結果と、銅の含有率が20%である場合の結果とが示されている。
【0029】
図3(B)においても、リン青銅〔錫4.0%(3.5~4.5%)〕で形成された整流子6と銅カーボンで形成されたブラシ9との組み合わせが、寿命の延長に奏功しうることがわかる。また、ブラシ9に含まれる銅の含有率としては20~70%の範囲が好適であり、銅の含有率が低下するにつれて寿命が延長されることがわかる。特に、ブラシ9に含まれる銅の含有率が20~50%の範囲内であれば、寿命の延長効果が高いことがわかる。
【0030】
図4(A)は、整流子6と銅の含有率が20%であるブラシ9との組み合わせによる耐久性試験の結果を示すグラフである。ここでは、整流子6に含まれる錫の含有率を変化させて実施された複数の耐久性試験の結果がまとめて示されている。すなわち、
図4(A)の上から順に、錫の含有率が8.0%(7.0~9.0%)である場合の結果と、錫の含有率が4.0%(3.5~4.5%)である場合の結果と、錫の含有率が1.35%(1.0~1.7%)である場合の結果とが示されている。
図4(A)によれば、銅の含有率が20%であるブラシ9を使用した場合には、錫の含有率がおよそ1.0~9.0%(好ましくは3.5~4.5%)の範囲内にある整流子6を使用するのがよいことがわかる。
【0031】
図4(B)は、整流子6と銅の含有率が50%であるブラシ9との組み合わせによる耐久性試験の結果を示すグラフである。ブラシ9における銅の含有率以外の条件は、
図4(B)の上から3つは
図4(A)に示すものと同一である。
図4(B)の一番下のグラフは、錫の含有率が0.15%である場合(錫をほとんど添加していない材料を用いた場合)の結果を示す。
図4(B)によれば、銅の含有率が50%であるブラシ9を使用した場合にも、錫の含有率がおよそ1.0~9.0%(好ましくは3.5~4.5%)の範囲内にある整流子6を使用するのがよいことがわかる。また、錫をほとんど添加していない材料を用いた整流子6を使用した場合には、寿命が著しく短縮されることがわかる。
【0032】
[4.効果]
(1)本実施例に係る接点構造10は、整流子6とブラシ9とを備える。整流子6は、リン青銅で形成され、少なくとも錫を質量百分率で1.0%以上かつ9.0%以下の範囲で含有する。ブラシ9は、銅カーボンで形成される。リン青銅で形成された整流子6と銅カーボンで形成されたブラシ9との組み合わせにより、整流子6及びブラシ9の耐久性を改善できる。特に、整流子6に錫を1.0%以上含有させることで、摩耗粉の導電率を低下させることができ、スリット8の絶縁低下を抑制できる。したがって、整流子6及びブラシ9の耐摩耗性及びスリット8の絶縁性を向上させることが可能となる。
【0033】
(2)また、上記のブラシ9は、銅を質量百分率で20~70%含有しうる。このような構成により、ブラシ9の導電性をある程度確保しつつ、摩耗粉の導電率を低下させることができ、スリット8の絶縁低下をさらに抑制できる。したがって、整流子6及びブラシ9の耐摩耗性及びスリット8の絶縁性を向上させることができる。
【0034】
(3)本実施例に係るブラシモータ1は、上記の接点構造10を介して通電されるロータ4と、ロータ4に作用する磁界を生成するステータ3とを備える。このような構成により、ブラシモータ1に含まれる接点構造10の寿命を延長させることができ、延いてはブラシモータ1の寿命や耐久性を向上させることができる。
【0035】
(4)また、上記のブラシモータ1は、例えばモータ1への入力電圧が直流36V以上の電源を備えた自動車用の車載電装品のブラシモータ1として適用され、ロータ4が当該電源の電圧を印加されて動作しうる。このように、従来より高電圧で動作しうる性能が求められる自動車用のブラシモータ1において、接点構造10の寿命を延長させることができ、延いてはブラシモータ1の寿命や耐久性を向上させることができる。なお、48V以上の電圧が印加されうるブラシモータ1においては、高電圧による著しくモータ寿命が短縮されるおそれがある。このような課題に対し、上記のブラシモータ1は、改善効果(モータ寿命の延長効果)が顕著である。
【0036】
[5.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は必要に応じて取捨選択でき、あるいは、公知技術に含まれる各種構成と適宜組み合わせることができる。
【0037】
例えば、ブラシ9に含まれる銅の含有率を20%未満や50%を超える割合に設定してもよい。少なくとも、リン青銅で形成された整流子6と銅カーボンで形成されたブラシ9との組み合わせにおいて、整流子6に含まれる錫の含有率を1.0%以上かつ9.0%以下の範囲に設定することで、上述の実施例と同様の作用,効果を獲得できる。
本件は、整流子及びブラシを備えた接点構造を含む電気部品や電装品の製造産業に利用可能である。また、本件は、上記の接点構造を含むブラシモータの製造産業に利用可能である。