IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社富士通ゼネラルの特許一覧

<>
  • 特開-モータ制御装置 図1
  • 特開-モータ制御装置 図2
  • 特開-モータ制御装置 図3
  • 特開-モータ制御装置 図4
  • 特開-モータ制御装置 図5
  • 特開-モータ制御装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034452
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/14 20160101AFI20240306BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H02P21/14
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138682
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 侑大
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505CC01
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ12
5H505JJ16
5H505JJ26
5H505JJ29
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】推定した電流を使用したモータ制御の精度を向上すること。
【解決手段】モータ制御装置100において、インバータ10は、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、変換後の交流電圧をモータMに印加し、電流検出部21は、直流電源とインバータとの間に接続されたシャント抵抗Rsを用いてインバータ10の母線電流を検出し、3φ電流算出部61は、母線電流に基づいてモータMに流れるモータ電流を算出し、電流推定部81は、モータMに流れるモータ電流を推定し、ノイズ判定部92は、母線電流のノイズが大きいか否かを判定し、電流決定部93は、3φ電流算出部61により算出された電流を検出電流とし、電流推定部81により推定された電流を推定電流としたとき、検出電流と推定電流とノイズ判定部92の判定結果とに基づいてモータの制御に用いる電流であるモータ制御電流を決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加するインバータと、
前記直流電源と前記インバータとの間に接続された抵抗を用いて前記インバータの母線電流を検出する検出部と、
前記母線電流に基づいて前記モータに流れるモータ電流を算出する算出部と、
前記モータに流れるモータ電流を推定する推定部と、
前記母線電流のノイズが大きいか否かを判定する判定部と、
前記算出部により算出された電流を検出電流とし、前記推定部により推定された電流を推定電流としたとき、前記検出電流と前記推定電流と前記判定部の判定結果とに基づいて前記モータの制御に用いる電流であるモータ制御電流を決定する決定部と、
を具備するモータ制御装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記判定部の判定結果に基づいて、前記検出電流と前記推定電流とを重み付けした後に足し合わせた電流を前記モータ制御電流として決定する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記判定部によって前記母線電流のノイズが小さいと判定されたときは前記推定電流の重みを0として前記モータ制御電流を決定する、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記判定部によって前記母線電流のノイズが大きいと連続して判定された回数が増加するにつれて、前記検出電流の重みを増加させる一方で、前記推定電流の重みを減少させる、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動を制御するモータ制御装置は、モータに印加される3相の交流電圧(以下では「3相電圧」と呼ぶことがある)を生成するインバータを有する。インバータは、複数のスイッチング素子から構成される。
【0003】
また、モータ制御装置に対してベクトル制御を用いる場合、モ-タ制御装置は、モータの回転速度が速度指令値(目標速度)に一致するようにd軸電流指令値及びq軸電流指令値を生成し、d軸電流指令値及びq軸電流指令値からd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する。さらに、モータ制御装置は、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を3相の電圧指令値へ変換する。
【0004】
3相の電圧指令値に基づいてインバータを制御する技術としてPWM(Pulse Width Modulation)が知られている。PWMは、インバータを構成する複数のスイッチング素子のオン/オフ時間の長さを調節することによりインバータの出力電圧(つまり、3相電圧)を変化させる技術である。スイッチング素子のオン/オフを制御する信号(以下では「PWM信号」と呼ぶことがある)は、PWMの搬送波であるキャリアと変調波との比較結果に基づいて生成される。PWM信号に応じてスイッチング素子のオン/オフが制御されることにより、モータに3相電圧が印加されてモータの駆動が制御される。
【0005】
また、モータのロータの回転位置(以下では「ロータ位置」と呼ぶことがある)を検出するためのセンサ(以下では「位置センサ」と呼ぶことがある)を使用せずにモータの駆動を制御する技術(以下では「位置センサレス方式」と呼ぶことがある)が知られている。位置センサレス方式では、モータに流れる3相の電流(以下では「モータ電流」と呼ぶことがある)を検出することにより、位置センサを使用せずに、ロータ位置を推定する。
【0006】
また、モータ電流の検出方式として「1シャント検出方式」が知られている。1シャント検出方式では、3相電圧を生成するインバータと直流電源との間に流れる母線電流に基づいてモータ電流のうちの2相分の電流を検出し、残りの1相分の電流を、2相分の電流からキルヒホッフの法則を用いて算出する。
【0007】
ここで、前回検出された電流、及び、前回の制御で用いられた電圧を用いて今回検出されるであろう電流を推定し、推定した電流をモータ制御に使用する先行技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-067556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、推定した電流と、実際にモータに流れる電流との間には誤差が生じるため、推定した電流をそのままモータ制御に使用するとモータ制御の精度が低下する。
【0010】
そこで、本開示では、推定した電流を使用したモータ制御の精度を向上できる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のモータ制御装置は、インバータと、検出部と、算出部と、推定部と、判定部と、決定部とを有する。前記インバータは、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加する。前記検出部は、前記直流電源と前記インバータとの間に接続された抵抗を用いて前記インバータの母線電流を検出する。前記算出部は、前記母線電流に基づいて前記モータに流れるモータ電流を算出する。前記推定部は、前記モータに流れるモータ電流を推定する。前記判定部は、前記母線電流のノイズが大きいか否かを判定する。前記決定部は、前記算出部により算出された電流を検出電流とし、前記推定部により推定された電流を推定電流としたとき、前記検出電流と前記推定電流と前記判定部の判定結果とに基づいて前記モータの制御に用いる電流であるモータ制御電流を決定する。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、推定した電流を使用したモータ制御の精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図2図2は、本開示の抽出部の構成例を示す図である。
図3図3は、本開示のモータ電流に含まれるノイズ成分及び非ノイズ成分の一例を示す図である。
図4図4は、本開示の抽出されたノイズ成分の一例を示す図である。
図5図5は、本開示の電流決定部の構成例を示す図である。
図6図6は、本開示の重み係数算出部の動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において同一の構成には同一の符号を付す。
【0015】
[実施例]
<モータ制御装置の構成>
図1は、本開示のモータ制御装置の構成例を示す図である。図1に示すモータ制御装置100は、位置センサレス方式、1シャント検出方式、及び、PWM制御を用いてモータMの駆動を制御する。図1において、モータ制御装置100は、減算部46,47,52と、d軸電流設定部48と、速度制御部49と、d軸q軸電圧設定部45と、dq/3φ変換部43と、PWM部41と、インバータ10と、直流電源EDCと、シャント抵抗Rsとを有する。また、モータ制御装置100は、DC電圧検出部31と、電流検出部21と、AD変換部71,72と、3φ電流算出部61と、DC電圧算出部32と、3φ/dq変換部42と、位置・速度推定部44と、1/Pn処理部51と、電流推定部81と、抽出部91と、ノイズ判定部92と、電流決定部93とを有する。
【0016】
減算部46,47,52、d軸電流設定部48、速度制御部49、d軸q軸電圧設定部45、dq/3φ変換部43、PWM部41、DC電圧検出部31、電流検出部21、AD変換部71,72、3φ電流算出部61、DC電圧算出部32、3φ/dq変換部42、位置・速度推定部44、1/Pn処理部51、電流推定部81。抽出部91、ノイズ判定部92、及び、電流決定部93は、ハードウェアとして、例えばMCU(Micro Control Unit)により実現される。
【0017】
また、インバータ10は、上アームのスイッチング素子SWup,SWvp,SWwpと、下アームのスイッチング素子SWun,SWvn,SWwnとを有する。
【0018】
モータ制御装置100において、d軸電流設定部48は、所定値のd軸電流指令値idを減算部46へ出力する。
【0019】
減算部46には、d軸電流設定部48からd軸電流指令値idが入力され、電流決定部93からd軸電流idが入力される。減算部46は、d軸電流指令値idからd軸電流idを減算することによりd軸電流偏差Δidを算出し、算出したd軸電流偏差Δidをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0020】
速度制御部49は、減算部52から入力される速度偏差Δωがゼロに近づくようにq軸電流指令値iqを算出し、算出したq軸電流指令値iqを減算部47へ出力する。
【0021】
減算部47には、速度制御部49からq軸電流指令値iqが入力され、電流決定部93からq軸電流iqが入力される。減算部47は、q軸電流指令値iqからq軸電流iqを減算することによりq軸電流偏差Δiqを算出し、算出したq軸電流偏差Δiqをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0022】
d軸q軸電圧設定部45には、減算部46からd軸電流偏差Δidが入力され、減算部47からq軸電流偏差Δiqが入力され、電流決定部93からd軸電流id及びq軸電流iqが入力される。d軸q軸電圧設定部45は、d軸電流偏差Δid及びq軸電流偏差Δiqがゼロに近づくようにd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを算出し、算出したd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを位置・速度推定部44、dq/3φ変換部43及び電流推定部81へ出力する。d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqは、3φ電流算出部61により算出されるモータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに応じても変化する。
【0023】
位置・速度推定部44には、電流決定部93からd軸電流id及びq軸電流iqが入力され、d軸q軸電圧設定部45からd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力される。位置・速度推定部44は、d軸電流id、q軸電流iq、d軸電圧指令値Vd、及び、q軸電圧指令値Vqに基づいて、モータMの電気的な角速度ωeと、回転座標(dq座標)でのモータMの回転位相角θdqとを推定する。位置・速度推定部44は、推定した角速度ωeを1/Pn処理部51、抽出部91及び電流推定部81へ出力し、推定した回転位相角θdqを3φ/dq変換部42及びdq/3φ変換部43へ出力する。
【0024】
1/Pn処理部51は、角速度ωeをモータMの極対数で除することにより、電気的な角速度ωeをモータMが有するロータの機械的な角速度ωmに変換し、変換後の角速度ωmを減算部52へ出力する。
【0025】
減算部52には、1/Pn処理部51から角速度ωmが入力され、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)速度指令値ωmが入力される。減算部52は、速度指令値ωmから角速度ωmを減算することにより速度偏差Δωを算出し、算出した速度偏差Δωを速度制御部49へ出力する。
【0026】
dq/3φ変換部43は、回転位相角θdqを用いて、回転座標の2相のd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、固定座標(UVW座標)の3相の電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換する。dq/3φ変換部43は、変換後の電圧指令値Vu,Vv,VwをPWM部41へ出力する。
【0027】
PWM部41には、dq/3φ変換部43から電圧指令値Vu,Vv,Vwが入力され、DC電圧算出部32からDC電圧Vdcが入力される。また、PWM部41には、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)、PWMの搬送波であるキャリア信号が入力される。PWM部41は、電圧指令値Vu,Vv,Vwと、DC電圧Vdcと、キャリア信号とに基づいて、3相のPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnを生成し、生成したPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnをインバータ10及び3φ電流算出部61へ出力する。
【0028】
インバータ10には、直流電源EDCから直流電圧が供給され、PWM部41からPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnが入力される。インバータ10は、直流電源EDCから供給される直流電圧をPWM信号Up~Wnに従って3相の交流電圧に変換し、変換後の3相の交流電圧をモータMに印加する。つまり、インバータ10は、PWM制御によって交流電圧をモータMに印加する。3相の交流電圧がモータMに印加されることによりモータMが駆動される。インバータ10では、PWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnに従って各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnがオン/オフされることにより、直流電圧が3相電圧に変換される。各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnの両端には、還流ダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnが接続されている。
【0029】
電流検出部21は、直流電源EDCとインバータ10との間に接続されているシャント抵抗Rsを用いて、インバータ10の母線電流Isを検出する。シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるN側端子とインバータ10との間のDCラインであるNラインL上に配置されている。なお、シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるP側端子とインバータ10との間のDCラインであるPラインL上に配置されても良い。シャント抵抗Rsには、PWM信号に応じて流れるモータ電流であるU相電流、V相電流、W相電流に応じた母線電流Isが流れ、シャント抵抗Rsに母線電流Isが流れるときに、シャント抵抗Rsの両端に電圧降下が生じる。電流検出部21は、この電圧降下の大きさとシャント抵抗Rsの抵抗値とから、シャント抵抗Rsに流れる母線電流Isを検出する。さらに、電流検出部21は、シャント抵抗Rsと母線電流Isとに基づいて、式(1)によって表されるアナログ電圧VA1を算出し、算出したアナログ電圧VA1をAD変換部72へ出力する。式(1)における“k”は所定の増幅率を示す。
VA1=k×(Rs・Is) …(1)
【0030】
AD変換部72は、アナログ電圧VA1に対してサンプリングを行うことにより、アナログ電圧VA1をデジタル電圧値VA2へ変換し、変換後のデジタル電圧値VA2を3φ電流算出部61へ出力する。
【0031】
3φ電流算出部61は、1シャント検出方式を用いてモータ電流を算出する。3φ電流算出部61は、シャント抵抗Rsの抵抗値と、増幅率kと、デジタル電圧値VA2と、PWM信号Up~Wnとに基づいて、モータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwを算出し、算出したモータ電流iu,iv,iwを3φ/dq変換部42へ出力する。
【0032】
3φ/dq変換部42は、位置・速度推定部44から入力される回転位相角θdqを用いて、固定座標の3相の電流ベクトルを示すモータ電流iu,iv,iwを、回転座標の2相の電流ベクトルを示すd軸電流及びq軸電流に変換する。これらのd軸電流及びq軸電流は、1シャント検出方式を用いて間接的に検出された電流と考えることができる。したがって、以下では、3φ/dq変換部42での変換後のd軸電流を「検出d軸電流」と呼び、3φ/dq変換部42での変換後のq軸電流を「検出q軸電流」と呼ぶことがある。2相の検出d軸電流及び検出q軸電流は、3φ電流算出部61によって算出される3相のモータ電流に相当する。3φ/dq変換部42は、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detを抽出部91及び電流決定部93へ出力する。以下では、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detを「検出電流i_det」と総称することがある。
【0033】
電流推定部81には、d軸q軸電圧設定部45からd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力され、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力され、電流決定部93からd軸電流id及びq軸電流iqが入力される。電流推定部81は、d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vq、角速度ωe、d軸電流id及びq軸電流iqに基づいて電流の推定を行い、推定したd軸電流id_est、及び、推定したq軸電流iq_estを電流決定部93へ出力する。以下では、電流推定部81によって推定されたd軸電流を「推定d軸電流」と呼び、電流推定部81によって推定されたq軸電流を「推定q軸電流」と呼ぶことがある。また以下では、推定d軸電流id_est及び推定q軸電流iq_estを「推定電流i_est」と総称することがある。
【0034】
抽出部91には、3φ/dq変換部42から検出電流i_detが入力され、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力される。抽出部91は、モータ電流に含まれるノイズ成分をモータ電流から抽出し、抽出したノイズ成分をノイズ判定部92へ出力する。抽出部91によって抽出されるノイズ成分は、d軸ノイズ成分id_noとq軸ノイズ成分iq_noとから形成される。以下では、d軸ノイズ成分id_no及びq軸ノイズ成分iq_noを「ノイズ成分i_no」と総称することがある。
【0035】
ノイズ判定部92は、ノイズ成分i_noに基づいて母線電流のノイズの大きさを判定する。ノイズ成分i_noは、正の値になるときと、負の値になるときとがある。そこで例えば、ノイズ判定部92は、d軸ノイズ成分id_noの絶対値|id_no|またはq軸ノイズ成分iq_noの絶対値|iq_no|の少なくとも一方が閾値±THNの絶対値|±THN|以上であるときに母線電流のノイズが大きいと判定し、|id_no|及び|iq_no|の双方が|±THN|未満であるときに母線電流のノイズが小さいと判定する。そして、ノイズ判定部92は、母線電流のノイズが大きいと判定され、かつ、ノイズ成分が正の値を有するときは、判定フラグDFを‘+1’にセットし、‘+1’にセットされた判定フラグDFを電流決定部93へ出力する。一方、ノイズ判定部92は、母線電流のノイズが大きいと判定され、かつ、ノイズ成分が負の値を有するときは、判定フラグDFを‘-1’にセットし、‘-1’にセットされた判定フラグDFを電流決定部93へ出力する。また、ノイズ判定部92は、母線電流のノイズが小さいと判定されたときは判定フラグDFを‘0’にセットし、‘0’にセットされた判定フラグDFを電流決定部93へ出力する。ここで、閾値±THNは、|±THN|未満であればモータ制御の精度に影響しない定常的なノイズの値であり、例えば±0.5[A]に設定される。閾値±THNは、試験で予め求めて設定してもよいし、母線電流のノイズが小さいと判定されたときのノイズ成分i_noに基づいて随時更新されるようにしてもよい。
【0036】
電流決定部93には、3φ/dq変換部42から検出電流i_detが入力され、電流推定部81から推定電流i_estが入力され、ノイズ判定部92から判定フラグDFが入力される。電流決定部93は、検出d軸電流id_detと、推定d軸電流id_estと、ノイズ判定部92での判定結果を示す判定フラグDFとに基づいて、モータMの制御に用いるd軸電流idを決定し、決定したd軸電流idを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流推定部81へ出力する。また、電流決定部93は、検出q軸電流iq_detと、推定q軸電流iq_estと、ノイズ判定部92での判定結果を示す判定フラグDFとに基づいて、モータMの制御に用いるq軸電流iqを決定し、決定したq軸電流iqを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流推定部81へ出力する。
【0037】
DC電圧検出部31は、PラインLとNラインLとの間の母線電圧を検出し、検出したアナログの母線電圧VB1をAD変換部71へ出力する。
【0038】
AD変換部71は、アナログの母線電圧VB1に対してサンプリングを行うことにより、アナログの母線電圧VB1をデジタルの母線電圧値VB2へ変換し、変換後のデジタルの母線電圧値VB2をDC電圧算出部32へ出力する。
【0039】
DC電圧算出部32は、デジタルの母線電圧値VB2からDC電圧Vdcを算出し、算出したDC電圧VdcをPWM部41へ出力する。
【0040】
<電流の推定>
以下、電流推定部81によって行われる電流の推定の一例として、推定例1と推定例2との2つの推定例について説明する。
【0041】
<推定例1>
d軸q軸電圧設定部45から電流推定部81に入力されるd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqは、式(2.1)及び式(2.2)に示すモータモデル式によって表される。式(2.1)及び式(2.2)において、“R”はモータMの巻線抵抗、“id”は前回のキャリア周期で電流決定部93から電流推定部81に入力されたd軸電流(以下では「前回d軸電流」と呼ぶことがある)、“p”は(d/dt)の微分演算子、“Ld”はモータMのd軸インダクタンス、“ωe”は位置・速度推定部44から電流推定部81に入力される角速度、“Lq”はモータMのq軸インダクタンス、“iq”は前回のキャリア周期で電流決定部93から電流推定部81に入力されたq軸電流(以下では「前回q軸電流」と呼ぶことがある)、“Ψ”はモータMの鎖交磁束である。巻線抵抗R、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq及び鎖交磁束Ψは、モータMの特性を決定するパラメータ(以下では「モータパラメータ」と呼ぶことがある)である。キャリア周期は、モータ制御装置100におけるキャリア周波数fcの逆数である。
Vd=R・id+p・Ld・id-ωe・Lq・iq …(2.1)
Vq=R・iq+p・Lq・iq+ωe・Ld・id+ωe・Ψ …(2.2)
【0042】
また、モータ制御装置100におけるキャリア周波数fcを用いると、式(2.1)及び式(2.2)は、式(3.1)及び式(3.2)に変形できる。式(3.1)及び式(3.2)において、“ΔId”は、今回のキャリア周期で電流決定部93から出力されると予測されるd軸電流(以下では「予測d軸電流」と呼ぶことがある)の前回d軸電流に対する変化量(以下では「d軸電流変化量」と呼ぶことがある)、“ΔIq”は、今回のキャリア周期で電流決定部93から出力されると予測されるq軸電流(以下では「予測q軸電流」と呼ぶことがある)の前回q軸電流に対する変化量(以下では「q軸電流変化量」と呼ぶことがある)である。
Vd=R・id+Ld・ΔId・fc-ωe・Lq・iq …(3.1)
Vq=R・iq+Lq・ΔIq・fc+ωe・Ld・id+ωe・Ψ …(3.2)
【0043】
式(3.1)及び式(3.2)をd軸電流変化量及びq軸電流変化量について解くと、式(4.1)及び式(4.2)が得られる。
ΔId=(Vd-R・id+ωe・Lq・iq)/(Ld・fc) …(4.1)
ΔIq=(Vq-R・iq-ωe・Ld・id-ωe・Ψ)/(Lq・fc)
…(4.2)
【0044】
そこで、推定例1では、電流推定部81は、前回のキャリア周期で電流決定部93によって決定され電流決定部93から入力された前回d軸電流idと、前回のキャリア周期で電流決定部93によって決定され電流決定部93から入力された前回q軸電流iqとを用いて、式(5.1)及び式(5.2)に従って、推定d軸電流id_est及び推定q軸電流iq_estを算出する。
id_est=id+ΔId …(5.1)
iq_est=iq+ΔIq …(5.2)
【0045】
このようにして、推定例1では、電流推定部81は、モータMのモータモデル式に従って理論的に導出される推定d軸電流id_est及び推定q軸電流iq_estを算出し、算出した推定d軸電流id_est及び推定q軸電流iq_estを電流決定部93へ出力する。
【0046】
<推定例2>
推定例2では、電流推定部81は、前回d軸電流を推定d軸電流id_estとして使用し、前回q軸電流を推定q軸電流iq_estとして使用する。
【0047】
<抽出部の構成>
図2は、本開示の抽出部の構成例を示す図である。図2において、抽出部91は、第一ノッチフィルタ911と、第二ノッチフィルタ912と、ハイパスフィルタ913とを有する。第一ノッチフィルタ911には、3φ/dq変換部42から検出電流i_detが入力され、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力される。第二ノッチフィルタ912には、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力される。
【0048】
ここで、検出電流i_detには、ノイズ成分と、ノイズ成分と異なる成分(以下では「非ノイズ成分」と呼ぶことがある)とが含まれる。抽出部91は、検出電流i_detから非ノイズ成分を除去することにより検出電流i_detからノイズ成分を抽出し、抽出したノイズ成分をノイズ判定部92へ出力する。
【0049】
ここで、非ノイズ成分の一例として、負荷脈動成分と、モータMの構造に起因する高周波成分(以下では「モータ構造起因成分」と呼ぶことがある)と、オフセット成分とが挙げられる。負荷脈動成分は、モータMが1回転する間の負荷の脈動によって現れる成分である。モータ構造起因成分は、モータMの回転数に依存する高調波成分を含む周波数成分であり、一例として、コギングトルクによる脈動等が挙げられる。オフセット成分は、モータ電流の平均値に相当し、周波数成分を持たない。
【0050】
抽出部91において、まず、第一ノッチフィルタ911が、負荷脈動成分を非ノイズ成分として検出電流i_detから除去する。
【0051】
負荷脈動成分はモータMの負荷の脈動に起因して発生する周波数成分であるため、特定の周波数に出現する。また、負荷脈動成分が出現する周波数は、モータMの回転数によって変化する。
【0052】
そこで、第一ノッチフィルタ911は、例えば、キャリア周波数“fc”と、負荷脈動成分が出現する特定の周波数“ωn”とに基づいて、式(6.1)~(6.7)に従って、検出電流i_detをフィルタ処理することにより、検出電流i_detから負荷脈動成分を除去する。これにより、検出電流i_detから負荷脈動成分が除去された後のノイズ成分が抽出される。負荷脈動成分が出現する特定の周波数ωnは角速度ωeに基づいて算出される。第一ノッチフィルタ911は、検出電流i_detから負荷脈動成分が除去された後のノイズ成分i_noを第二ノッチフィルタ912へ出力する。
【数1】
【0053】
ここで、式(6.1)~(6.7)において、“N”、“N”、“N”、“D”、“D”及び“D”は、ノッチフィルタの所定のフィルタ定数、“d”はノッチフィルタでの減衰量を決めるパラメータ、“σ”はノッチフィルタでの減衰対象の周波数帯域の幅を決めるパラメータである。また、式(6.1)~(6.7)において、“x”は検出電流i_det、“y”はノッチフィルタによって抽出されたノイズ成分である。また、式(6.1)~(6.7)において、“[k]”は今回のキャリア周期、“[k-1]”は前回のキャリア周期、“[k-2]”は前々回のキャリア周期である。よって、式(6.1)~(6.7)において、“x[k]”は今回のキャリア周期での検出電流i_det、“x[k-1]”は前回のキャリア周期での検出電流i_det、“x[k-2]”は前々回のキャリア周期での検出電流i_detであり、“y[k]”は今回のキャリア周期で抽出されたノイズ成分i_no、“y[k-1]”は前回のキャリア周期で抽出されたノイズ成分i_no、“y[k-2]”は前々回のキャリア周期で抽出されたノイズ成分i_noである。
【0054】
次いで、第二ノッチフィルタ912が、モータ構造起因成分を非ノイズ成分として検出電流i_detから除去する。
【0055】
モータ構造起因成分には高調波成分が含まれ、モータ構造起因成分が出現する周波数はモータMの極数、モータMのスロット数及びモータMの回転数によって定まる。例えば、モータMの回転数を基本波周波数として、モータMがX極Yスロットモータである場合には、XとYの最小公倍数の周波数にモータ構造起因成分が出現する。さらに、XとYの最小公倍数の2分の1倍、2倍、3倍、…、n倍の次数の周波数にもモータ構造起因成分が出現する。例えば、モータMが6極9スロットのモータである場合、6と9との最小公倍数である18次の周波数の他、6と9との最小公倍数の2分の1倍の9次の周波数、及び、36次、54次、…という18×n次の周波数にモータ構造起因成分が出現する。よって例えば、モータMの回転数が30[rps]である場合、270[Hz]、540[Hz]、1080[Hz]、1620[Hz]、…、540×n[Hz]の周波数にモータ構造起因成分が出現する。このように、モータ構造起因成分は、モータMの回転数によって決まる特定の周波数に出現する。
【0056】
そこで、第二ノッチフィルタ912は、第一ノッチフィルタ911と同様に、例えば、キャリア周波数“fc”と、モータ構造起因成分が出現する特定の周波数“ωn”とに基づいて、式(6.1)~(6.7)に従って、検出電流i_detをフィルタ処理することにより、検出電流i_detからモータ構造起因成分を除去する。これにより、検出電流i_detからモータ構造起因成分が除去された後のノイズ成分が抽出される。モータ構造起因成分が出現する特定の周波数ωnは角速度ωeに基づいて算出される。第二ノッチフィルタ912は、検出電流i_detからモータ構造起因成分が除去された後のノイズ成分i_noをハイパスフィルタ913へ出力する。
【0057】
ここで、負荷脈動成分またはモータ構造起因成分が出現する特定の周波数ωnはモータMの回転数によって変化するため、式(6.1)~(6.7)における所定のフィルタ定数N,N,N,D,D,DはモータMの回転数に応じて定められる。
【0058】
次いで、ハイパスフィルタ913が、オフセット成分を非ノイズ成分として検出電流i_detから除去する。
【0059】
例えば、ハイパスフィルタ913は、キャリア周波数“fc”に基づいて、式(7.1)~(7.6)に従って検出電流i_detをフィルタ処理することにより、検出電流i_detからオフセット成分を除去する。これにより、検出電流i_detからオフセット成分が除去された後のノイズ成分が式(7.1)の“y[k]”として抽出される。ハイパスフィルタ913は、検出電流i_detからオフセット成分が除去された後のノイズ成分i_noをノイズ判定部92へ出力する。式(7.1)~(7.6)において、“a1”及び“a0”はハイパスフィルタ913の特性を決めるフィルタ定数である。
【数2】
【0060】
図3及び図4に示すように、抽出部91は、以上のようにして、負荷脈動成分、モータ構造起因成分及びオフセット成分を非ノイズ成分として検出電流i_detから除去することによりモータ電流に含まれるノイズ成分をモータ電流から抽出する。図3は、本開示のモータ電流に含まれるノイズ成分及び非ノイズ成分の一例を示す図であり、図4は、本開示の抽出されたノイズ成分の一例を示す図である。
【0061】
なお、抽出部91は、負荷脈動成分、モータ構造起因成分及びオフセット成分のうち一つまたは複数を検出電流i_detから除去しても良い。また、上記では、抽出部91が、二次フィルタである第一ノッチフィルタ911、第二ノッチフィルタ912及びハイパスフィルタ913を有する場合について説明したが、開示の技術が適用可能なフィルタは二次フィルタに限定されない。
【0062】
<電流決定部の構成>
図5は、本開示の電流決定部の構成例を示す図である。図5において、電流決定部93は、連続回数カウント部931と、制御電流算出部932とを有する。制御電流算出部932は、重み係数算出部932aと、重み付け部932bとを有する。連続回数カウント部931には、ノイズ判定部92から判定フラグDFが入力される。重み付け部932bには、3φ/dq変換部42から検出電流i_detが入力され、電流推定部81から推定電流i_estが入力される。
【0063】
連続回数カウント部931は、‘+1’または‘-1’にセットされた判定フラグDFが連続して入力された回数、つまり、ノイズ判定部92によって母線電流のノイズが大きいと連続して判定された回数(以下では「連続判定回数」と呼ぶことがある)をカウントし、カウントした連続判定回数countを重み係数算出部932aへ出力する。また、連続回数カウント部931は、‘0’にセットされた判定フラグDFが入力されたとき、つまり、ノイズ判定部92によって母線電流のノイズが小さいと判定されたときに、連続判定回数countを‘0’にリセットする。例えば、連続回数カウント部931は、前々回のキャリア周期で‘+1’または‘-1’にセットされた判定フラグDFが入力され、前回のキャリア周期で‘-1’または‘-1’にセットされた判定フラグDFが入力され、今回のキャリア周期で‘+1’または‘-1’にセットされた判定フラグDFが入力された場合、前々回のキャリア周期では‘1’にセットした連続判定回数countを重み係数算出部932aへ出力し、前回のキャリア周期では‘2’にセットした連続判定回数countを重み係数算出部932aへ出力し、今回のキャリア周期では‘3’にセットした連続判定回数countを重み係数算出部932aへ出力する。また、連続回数カウント部931は、今回のキャリア周期で‘0’にセットされた判定フラグDFが入力された場合、今回のキャリア周期では‘0’にリセットした連続判定回数countを重み係数算出部932aへ出力する。
【0064】
重み係数算出部932は、連続判定回数countの値に基づいて、検出電流i_detに用いられる重み係数(以下では「検出電流用重み係数」と呼ぶことがある)K_aと、推定電流i_estに用いられる重み係数(以下では「推定電流用重み係数」と呼ぶことがある)K_bとを算出し、検出電流用重み係数K_a及び推定電流用重み係数K_bを重み付け部932bへ出力する。
【0065】
重み付け部932bは、検出電流用重み係数K_aを用いて検出電流i_detを重み付けするとともに、推定電流用重み係数K_bを用いて推定電流i_estを重み付けし、重み付け後の検出電流と、重み付け後の推定電流とを足し合わせることにより、モータMの制御に用いる電流(以下では「モータ制御電流」と呼ぶことがある)を決定する。例えば、重み付け部932bは、モータMの制御に用いるd軸電流idを式(8.1)に従って決定し、モータMの制御に用いるq軸電流iqを式(8.2)に従って決定する。そして、重み付け部932bは、式(8.1),(8.2)に従って決定したd軸電流id及びq軸電流iqを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流推定部81へ出力する。
id=(id_det・K_a)+(id_est・K_b) …(8.1)
iq=(iq_det・K_a)+(iq_est・K_b) …(8.2)
【0066】
<重み係数算出部の動作>
図6は、本開示の重み係数算出部の動作例を示す図である。図6は、連続判定回数と検出電流用重み係数K_aと推定電流用重み係数K_bとの関係を示しており、以下では、図6に基づいて、連続判定回数の増加に伴う重み付けの変化について説明する。
【0067】
重み係数算出部932には、重み付けの変化が開始される判定回数を示す連続判定回数(以下では「重み付け変化開始回数」と呼ぶことがある)start_countと、検出電流用重み係数K_aが最大値となる連続判定回数(以下では「重み付け最大値回数」と呼ぶことがある)max_countと、重み係数の最小値(以下では「最小重み係数」と呼ぶことがある)と、重み係数の最大値(以下では「最大重み係数」と呼ぶことがある)とが予め設定されている。図6は、重み付け変化開始回数start_countを‘5’、重み付け最大値回数max_countを‘15’、最小重み係数を‘0’、最大重み係数を‘1’とした一例である。
【0068】
重み係数算出部932は、連続判定回数countが‘0’であるときは、検出電流用重み係数K_aを‘1’にセットするとともに、推定電流用重み係数K_bを‘0’にセットする。よって、重み係数算出部932は、ノイズ判定部92によって母線電流のノイズが小さいと判定されたとき、つまり、‘0’にリセットされた連続判定回数countが重み係数算出部932に入力されたときは、検出電流用重み係数K_aを‘1’にセットするとともに、推定電流用重み係数K_bを‘0’にセットする。また、重み係数算出部932は、連続判定回数countが1以上、かつ、重み付け変化開始回数start_count未満であるときは、検出電流用重み係数K_aを最小重み係数(例えば‘0’)にセットするとともに、推定電流用重み係数K_bを最大重み係数(例えば‘1’)にセットする。また、重み係数算出部932は、連続判定回数countが重み付け変化開始回数start_count以上であるときに、連続判定回数countと、重み付け変化開始回数start_countと、重み付け最大値回数max_countとに基づいて、式(9.1)に従って推定電流用重み係数K_bを算出し、式(9.2)に従って検出電流用重み係数K_aを算出する。これにより、図6に示すように、重み付け変化開始回数start_countから重み付け最大値回数max_countまでの間で連続判定回数countが増加するにつれて、最小重み係数から最大重み係数まで徐々に増加する検出電流用重み係数K_aと、重み付け変化開始回数start_countから重み付け最大値回数max_countまでの間で連続判定回数countが増加するにつれて、最大重み係数から最小重み係数まで徐々に減少する推定電流用重み係数K_bとが算出される。
K_b=1-
((count-start_count)/max_count) …(9.1)
K_a=1-K_b …(9.2)
【0069】
また、重み係数算出部932は、連続判定回数countの値を、式(10)の条件が満たされた時点より後に‘0’にリセットされた連続判定回数countが連続回数カウント部931から入力されるまで、式(10)の条件が満たされた時点での連続判定回数countの値に固定する。
count≧max_count …(10)
【0070】
なお、重み付け変化開始回数start_count及び重み付け最大値回数max_countは、例えば、モータ制御装置100の試験を行ってモータMの制御が不安定にならない値に予め設定されるのが好ましい。また、重み付け変化開始回数start_count及び重み付け最大値回数max_countは、例えば、モータMの回転周期に応じて変化する値であっても良い。
【0071】
以上、実施例について説明した。
【0072】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100)は、インバータ(実施例のインバータ10)と、検出部(実施例の電流検出部21)と、算出部(実施例の3φ電流算出部61及び3φ/dq変換部42)と、推定部(実施例の電流推定部81)と、判定部(実施例のノイズ判定部92)と、決定部(実施例の電流決定部93)とを有する。インバータは、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、変換後の交流電圧をモータ(実施例のモータM)に印加する。検出部は、直流電源とインバータとの間に接続された抵抗(実施例のシャント抵抗Rs)を用いてインバータの母線電流を検出する。算出部は、母線電流に基づいてモータに流れるモータ電流を算出する。推定部は、モータに流れるモータ電流を推定する。判定部は、母線電流のノイズが大きいか否かを判定する。決定部は、算出部により算出された電流(実施例の検出d軸電流id_det,検出q軸電流iq_det)を検出電流とし、推定部により推定された電流(実施例の推定d軸電流id_est,推定q軸電流iq_est)を推定電流としたとき、検出電流と推定電流と判定部の判定結果とに基づいてモータの制御に用いる電流であるモータ制御電流を決定する。
【0073】
例えば、決定部は、判定部の判定結果に基づいて、検出電流と推定電流とを重み付けした後に足し合わせた電流をモータ制御電流として決定する。
【0074】
ここで、例えば、判定部が母線電流のノイズが大きいと判定したときの推定電流がそのままモータ制御に使用されるようにした場合、判定部によって母線電流のノイズが大きいと連続して判定されるような状態においては、モータの制御が乱れる。言い換えると、モータの回転数を目標回転数に制御できていない状態が続くことになる。判定部はモータの回転数に基づいてノイズ成分を抽出するため、モータの回転数が目標回転数に制御できない状態においては、ノイズ成分を正しく抽出できない。そのため、実際には母線電流のノイズが小さい場合であっても、判定部は母線電流のノイズが大きいと誤判定してしまうおそれがある。これにより、実際には精度の高い検出電流を使用できるにもかかわらず、誤差を含んだ推定電流を使用し続けてしまう状態を抜け出せず、モータ制御が破綻してしまう。これに対し、本開示のモータ制御装置は、実際にモータに流れる電流との間に誤差が生じている推定電流をそのままモータ制御に使用せずに、推定電流の他に検出電流にも基づいてモータ制御電流を決定する。よって、本開示のモータ制御装置によれば、モータ制御が破綻することなく、推定した電流を使用したモータ制御の精度を向上できる。
【0075】
また例えば、決定部は、判定部によって母線電流のノイズが大きいと連続して判定された回数が増加するにつれて、検出電流の重みを増加させる一方で、推定電流の重みを減少させる。
【0076】
また例えば、決定部は、判定部によって母線電流のノイズが小さいと判定されたときは推定電流の重みを0としてモータ制御電流を決定する。
【0077】
こうすることで、誤差を含んだ推定電流を連続して使用することによるモータ制御の破綻をさらに防止できる。また、母線電流のノイズが小さいと判定されたとき、すなわち精度の高い検出電流が算出されたときは、推定電流の重みを0とするので、直ちに精度の高い電流を使用することができ、モータ制御の精度をさらに向上できる。
【符号の説明】
【0078】
100 モータ制御装置
10 インバータ
21 電流検出部
61 3φ電流算出部
81 電流推定部
92 ノイズ判定部
93 電流決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6