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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003447
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】ハイゲージ靴下
(51)【国際特許分類】
   A41B 11/02 20060101AFI20240105BHJP
   A41B 11/00 20060101ALI20240105BHJP
   D04B 1/18 20060101ALI20240105BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
A41B11/02
A41B11/00 Z
D04B1/18
D04B1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102588
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】396012953
【氏名又は名称】三陽メリヤス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】村島 茂幸
【テーマコード(参考)】
3B018
4L002
【Fターム(参考)】
3B018AB06
3B018AB08
3B018AC05
3B018AD02
3B018AD07
4L002AA05
4L002AA06
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC01
4L002AC07
4L002BA00
4L002BA01
4L002BA06
4L002BB02
4L002EA05
4L002EA06
4L002FA05
(57)【要約】
【課題】ゲージ数が180以上の丸編み機により表糸と裏糸とを編成してなるハイゲージ靴下において、爪先部や踵部などの補強対象部を裏糸側への補強糸の挿入により適切に補強しながら、当該補強による外観の悪化、伸縮性や風合いの悪化、及び補強糸の端末の長尺化を適切に改善する。
【解決手段】補強糸が、溶融紡糸された弾性糸を芯糸Yaとして当該芯糸Yaに鞘糸Yb1,Yb2を巻き付けてなるカバーリング糸DCYである。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1周のニードル数が180以上の丸編み機により表糸と裏糸とが編成されてなり、所定の補強対象部の裏糸側に補強糸が挿入されているハイゲージ靴下であって、
前記補強糸が、溶融紡糸された弾性糸である溶融紡糸弾性糸を芯糸として当該芯糸に鞘糸を巻き付けてなるカバーリング糸であるハイゲージ靴下。
【請求項2】
前記補強糸が、前記芯糸に鞘糸を二重で巻き付けてなるダブルカバーリング糸である請求項1に記載のハイゲージ靴下。
【請求項3】
前記ダブルカバーリング糸において、前記芯糸の太さが20デニール以下であり、前記鞘糸の太さが15デニール以下である請求項2に記載のハイゲージ靴下。
【請求項4】
前記鞘糸が、捲縮加工が施された捲縮糸である請求項1又は2に記載のハイゲージ靴下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1周のニードル数が180以上の丸編み機により表糸と裏糸とが編成されてなり、所定の補強対象部の裏糸側に補強糸が挿入されているハイゲージ靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなハイゲージ靴下は、比較的細い表糸と裏糸とを編成して製造されることから、一般的に編地が薄いものとなる。よって、ハイゲージ靴下の爪先部や踵部などの補強対象部を補強して耐摩耗性を向上させることが望ましい。このようなハイゲージ靴下における補強対象部の補強方法としては、当該補強対象部の裏糸側にウーリーナイロン等の補強糸を挿入する方法が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3103680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
比較的編地が薄いハイゲージタイプの靴下では、補強対象部の裏糸側に補強糸を挿入するにあたり、比較的太い補強糸の挿入による厚みの増加やプレーティング不良による外観の悪化、編地が縮んで硬くなることによる伸縮性や風合いの悪化、補強糸における編成開始前と編成終了後の無編成部の端末(糸端)の長尺化、などの課題がある。
例えば、乾式紡糸スパンデックス(乾式紡糸法により製造されたポリウレタン弾性糸)である芯糸に鞘糸を一重で巻き付けてなるシングルカバーリング糸のように、特に弾性力(伸長時の戻り力)が比較的強い補強糸を裏糸側に挿入する場合には、伸縮性や風合いが損なわれたり、プレーティングによる不良が生じる恐れがある。即ち、比較的薄い補強対象部において、裏糸側への比較的弾性力が強い補強糸の挿入により編成密度が非常に高くなると、当該補強糸の弾性力により編地が縮んで硬くなり、伸縮性や風合いが損なわれることがある。更に、ハイゲージタイプの靴下では、表糸や裏糸が比較的細く且つ裏糸として弾性糸が用いられていることから、一般的に裏糸や当該裏糸側に挿入される補強糸が表側に編成される所謂プレーティングが発生して、表側に凹凸が生じたり、表糸と裏糸の色差による筋状の模様が発生するなどの不良が生じることがある。
また、特にダブルシリンダ型の編み機によりハイゲージタイプの靴下を製造する場合、一般的にシングルシリンダ型の編み機により製造する場合に比べて、補強糸の端末が長尺化し易くなる。更に、上記特許文献1のように補強糸としてウーリーナイロンを裏糸側に挿入する場合には、当該ウーリーナイロンが張力開放時に縮み難いことから、補強糸の端末が長尺化し易くなる。尚、このような補強糸の端末の長尺化は、補強糸としてシングルカバーリング糸を裏糸側に挿入する場合にも生じやすくなる。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、ゲージ数が180以上の丸編み機により表糸と裏糸とを編成してなるハイゲージ靴下において、爪先部や踵部などの補強対象部を裏糸側への補強糸の挿入により適切に補強しながら、当該補強による外観の悪化、伸縮性や風合いの悪化、及び補強糸の端末の長尺化を適切に改善することができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、1周のニードル数が180以上の丸編み機により表糸と裏糸とが編成されてなり、所定の補強対象部の裏糸側に補強糸が挿入されているハイゲージ靴下であって、
前記補強糸が、溶融紡糸された弾性糸である溶融紡糸弾性糸を芯糸として当該芯糸に鞘糸を巻き付けてなるカバーリング糸である点にある。
【0006】
本構成によれば、ハイゲージ靴下において爪先部や踵部などの補強対象部を補強するにあたり、当該補強対象部の裏糸側に挿入される補強糸は、溶融紡糸された弾性糸である溶融紡糸弾性糸を芯糸として利用したものであり、この溶融紡糸弾性糸は乾式紡糸された弾性糸である乾式紡糸弾性糸よりも弾性力が弱いものである上に、その芯糸に鞘糸を巻き付けてなるカバーリング糸であることから、乾式紡糸弾性糸を芯糸として利用したカバーリング糸などよりも弾性力が弱いものとなる。そして、上記のように弾性力が弱められた補強糸がハイゲージタイプの靴下の爪先踵部の裏糸側に挿入されているので、当該補強糸の弾性力による編地の縮みが小さくなって、伸縮性や風合いの悪化が抑制される。
また、上記のように裏糸側に挿入される補強糸の弾性力が弱いことで、表糸との弾性力の差が緩和されるので、当該補強糸自身又はその芯糸に巻き付けられた鞘糸が表側に編成されるプレーティングによる外観の悪化が抑制される。
更に、溶融紡糸弾性糸を芯糸として利用したカバーリング糸は、ウーリーナイロンなどよりも伸長弾性率(張力開放時の元の長さに対する復元率)が高く張力開放時に縮みやすいという性質を有することから、当該カバーリング糸を補強糸として利用することで、例えばダブルシリンダ型の編み機を用いた場合であっても、シングルシリンダ型の編み機と同程度に補強糸の端末の長尺化が抑制される。
従って、本発明により、ゲージ数が180以上の丸編み機により表糸と裏糸とを編成してなるハイゲージ靴下において、爪先部や踵部などの補強対象部を裏糸側への補強糸の挿入により適切に補強しながら、当該補強による外観の悪化、伸縮性や風合いの悪化、及び補強糸の端末の長尺化を適切に改善することができる技術を提供することができる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記補強糸が、前記芯糸に鞘糸を二重で巻き付けてなるダブルカバーリング糸である点にある。
【0008】
本構成によれば、補強対象部の裏糸側に補強糸として挿入されるカバーリング糸が、シングルカバーリング糸よりも弾性力が弱くなるダブルカバーリング糸であるので、当該補強糸の弾性力による編地の縮みが一層小さくなって、伸縮性や風合いの悪化が一層抑制される。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記ダブルカバーリング糸において、前記芯糸の太さが20デニール以下であり、前記鞘糸の太さが15デニール以下である点にある。
【0010】
本構成によれば、補強対象部の裏糸側に挿入される補強糸として用いられるダブルカバーリング糸が、20デニール以下の太さの芯糸に対して15デニール以下の太さの鞘糸を二重で巻き付けた細いものであるので、補強対象部の厚みの増加が抑制され、当該厚みの増加による外観の悪化が抑制される。更に、プレーティングにより表側に編成されやすい補強糸自身やその芯糸に巻き付けられた鞘糸が細く目立ち難いものであるので、当該プレーティングによる外観の悪化が一層抑制される。尚、上記鞘糸を表糸と同系色に染色したものとすれば、プレーティングによる外観の悪化をより一層抑制することができる。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記鞘糸が、捲縮加工が施された捲縮糸である点にある。
【0012】
本構成によれば、補強対象部の裏糸側に補強糸として挿入されるカバーリング糸において、芯糸としての溶融紡糸弾性糸に巻きるけられる鞘糸が上記捲縮糸であるので、鞘糸の巻き付けにより弾性力が強くなることが抑制され、補強糸の弾性力を弱いまま保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のハイゲージ靴下の外観を示す図
図2】補強対象部における編成状態を示す図
図3】ダブルカバーリング糸の状態を示す図
図4】シングルカバーリング糸の状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態のハイゲージ靴下(以下、「本ハイゲージ靴下」と呼ぶ。)10は、1周のニードル数が180以上の公知の全自動丸編み機により表糸YAと裏糸YBとを編成してなる靴下として構成されている。尚、上記自動丸編み機の種類は特に限定されるものではないが、例えば、2つのニードルシリンダを上下に配置したダブルシリンダ型の丸編み機を利用することができる。また、本ハイゲージ靴下10の全体の編方についても特に限定されないが、例えば、レッグ部12、足甲部13、踵部14、足底部15、爪先部16を平編とし、履き口部11をリブ編とすることができる。また、本ハイゲージ靴下10は、ショートソックスやハイソックスのみならず、フットカバーやストッキングやタイツなどにも適用可能である。
【0015】
本ハイゲージ靴下10の表側に編み込まれる表糸YAとしては、一般的な靴下の表糸として用いられる糸を利用でき、例えば、綿糸、毛糸、レーヨン糸、麻糸、アクリル糸、ナイロン糸、ポリエステル糸や、これらの繊維を混紡してなる混紡糸などを用いることができる。また、表糸YAの太さは、例えば、綿番手30番前後、140デニール~190デニール前後とすることができる。
本ハイゲージ靴下10の裏側に編み込まれる裏糸YBとしては、一般的な靴下の裏糸として用いられる糸を利用でき、例えば、ナイロン糸、ポリエステル糸、ポリウレタン糸にナイロン糸をカバーリングしてなるカバーリング糸などを用いることができる。また、裏糸YBの太さは、70デニール~100デニール前後とすることができ、カバーリング糸の場合、芯糸のデニール/鞘糸のデニールの表記で、20/70、30/70、40/70、20/75、30/75、40/75などとすることができる。
【0016】
本ハイゲージ靴下10は、比較的細い表糸YAと裏糸YBとを編成して製造されることから、一般的に編地が薄いものとなり、特に踵部14や爪先部16の補強対象部Xの耐摩耗性を向上させる必要がある。そこで、このような補強対象部Xにおいては、図2に示すように、裏糸YB側に補強糸YCが挿入されることで適切に補強されている。
そして、補強対象部Xにおける裏糸YB側への補強糸YCの挿入に起因して、外観の悪化、伸縮性や風合いの悪化、及び補強糸YCの端末の長尺化が課題となる。そして、本ハイゲージ靴下10は、これらの課題を適切に改善するための特徴構成が採用されており、その詳細について以下に説明を加える。
【0017】
補強対象部Xにおいて裏糸YB側へ挿入される補強糸YCとしては、図3及び図4に示すように、溶融紡糸された弾性糸である溶融紡糸弾性糸を芯糸Yaとして、当該芯糸Yaに鞘糸Ybを巻き付けてなるカバーリング糸DCY,SCYが用いられている。尚、芯糸Yaとしてはポリウレタン弾性糸などを用いることができ、鞘糸Ybとしてはナイロン糸、ポリエステル糸、レーヨン糸、キュプラ糸、シルク糸などを用いることができる。
【0018】
上記のような弾性糸の紡糸方法としては、溶融紡糸と乾式紡糸などがある。溶融紡糸は、弾性糸の原料を、熱で溶かした状態で口金から押し出し、冷却固化させて繊維状にする紡糸方法である。一方、乾式紡糸は、弾性糸の原料を、溶剤に溶かした状態で口金から押し出し、溶剤を蒸発させて繊維状にする紡糸方法である。そして、一般的に、上記溶融紡糸により製造された溶融紡糸弾性糸の弾性力は、上記乾式紡糸により製造された乾式紡糸弾性糸と比べて弱くなる。
即ち、本ハイゲージ靴下10の補強対象部Xにおいて裏糸YB側に挿入される補強糸YCは、上述したように弾性力が弱められた溶融紡糸弾性糸を芯糸Yaとして利用したカバーリング糸DCY,SCYであることから、乾式紡糸弾性糸を芯糸として利用したものよりも弾性力が弱いものとなる。
【0019】
そして、本ハイゲージ靴下10の踵部14や爪先部16の補強対象部Xでは、上述したように弾性力が弱い補強糸YCが裏糸YB側に挿入されているので、当該補強糸YCの弾性力による編地の縮みが小さくなって、伸縮性や風合いの悪化が抑制される。また、裏糸YB側に挿入される補強糸YCの弾性力が弱いので、表糸YAとの弾性力の差が緩和されて、当該補強糸YC自身又はその芯糸Yaに巻き付けられた鞘糸Ybが表側に編成されるプレーティングによる外観の悪化が抑制される。
更に、溶融紡糸弾性糸を芯糸Yaとしたカバーリング糸DCY,SCYである補強糸YCは、ウーリーナイロンなどよりも伸長弾性率が高く張力開放時に縮みやすいという性質を有する。このことから、例えばダブルシリンダ型の編み機を用いた場合であっても、シングルシリンダ型の編み機と同程度に補強糸YCの端末の長尺化が抑制される。
【0020】
補強対象部Xにおいて裏糸YB側へ挿入される補強糸YCとしては、図4に示すように、芯糸Yaに鞘糸Ybを一重で巻き付けてなるシングルカバーリング糸SCYでも構わないが、図3に示すように、芯糸Yaに鞘糸Yb1,Yb2を二重で巻き付けてなるダブルカバーリング糸DCYが好適に用いられている。
このようなダブルカバーリング糸DCY(図3を参照)は、芯糸Yaに鞘糸Ybを一重で巻き付けてなるシングルカバーリング糸SCY(図4を参照)よりも弾性力が弱くなるので、本ハイゲージ靴下10において当該ダブルカバーリング糸DCYが補強糸YCとして裏糸YB側へ挿入される補強対象部Xでは、当該補強糸YCの弾性力による編地の縮みが一層小さくなって、伸縮性や風合いの悪化が一層抑制される。
【0021】
本ハイゲージ靴下10において補強糸YCとして用いられるダブルカバーリング糸DCYでは、芯糸Yaや鞘糸Yb1,Yb2は細いものが好適に利用されており、例えば、芯糸Yaの太さは20デニール以下に設定されており、鞘糸Yb1,Yb2の太さは15デニール以下に設定されている。
このように細い芯糸Ya及び鞘糸Yb1,Yb2を用いることで、補強糸YCとして用いられるダブルカバーリング糸DCY自身が細いものとなる。すると、ダブルカバーリング糸DCYを補強糸YCとして裏糸YB側へ挿入した補強対象部Xでは、外観の悪化の要因となる編地の厚みの増加が抑制される。更に、プレーティングにより表側に編成されやすい補強糸YC自身やその芯糸Yaに巻き付けられた鞘糸Yb1、Yb2が細く目立ち難いものであるので、当該プレーティングによる外観の悪化についても一層抑制される。尚、鞘糸Yb1、Yb2を表糸YAと同系色に染色したものとすれば、プレーティングによる外観の悪化がより一層抑制される。
【0022】
本ハイゲージ靴下10において補強糸YCとして用いられるダブルカバーリング糸DCYの鞘糸Yb1,Yb2としては、一般的なものを利用することができるが、捲縮加工が施された捲縮糸が好適に用いられている。
鞘糸Yb1、Yb2を捲縮糸とすることで、この鞘糸Yb1、Yb2の巻き付けによりダブルカバーリング糸DCYの弾性力が強化されることが抑制され、当該ダブルカバーリング糸DCYを用いた補強糸YCの弾性力が弱いまま保たれることになる。
【0023】
[性能試験]
以下、下記に示す実施例1及び比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下の夫々に対して実施した性能試験の結果について説明を加える。
実施例1及び比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下の概略構成並びに試験結果の概要を下記表1にまとめる。
【0024】
【表1】
【0025】
〔共通構成〕
実施例1及び比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下の夫々について、共通の構成を説明する。
実施例1及び比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下は、32番手で撚り本数が1本の綿糸(32/1)を表糸とし、20デニールでフィラメント糸が70デニールのFTY(20/70)を裏糸として、この表糸と裏糸とを1周のニードル数が180以上の同じ丸編み機により編成したハイゲージ靴下である。
尚、FTY(Filament twisted yarn)とは、伸縮性のあるポリウレタン弾性糸を芯糸にして、ナイロン糸を、撚りを掛けて巻きつけた加工糸である。
次に、実施例1及び比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下について、個別の構成を順に説明する。
【0026】
〔実施例1〕
実施例1のハイゲージ靴下は、これまで説明してきた本ハイゲージ靴下10と同様の構成を有するものとして構成されている。
即ち、実施例1のハイゲージ靴下は、爪先部や踵部の補強対象部の裏糸側に補強糸が挿入されたものであり、その補強糸としては、20デニールの溶融紡糸スパンデックス(溶融紡糸されたポリウレタン弾性糸)を芯糸とし、1フィラメントあたり2.4デニールのナイロンフィラメントを5本撚り合わせてなるナイロン糸(12デニール/5本)の捲縮加工糸を鞘糸として、当該芯糸に対して当該鞘糸を二重でカバーリングしてなるダブルカバーリング糸(DCY、図3を参照)が使用されている。
【0027】
〔比較例1〕
比較例1のハイゲージ靴下は、爪先部や踵部の補強対象部の裏糸側に補強糸が挿入されていないものである。
【0028】
〔比較例2〕
比較例2のハイゲージ靴下は、爪先部や踵部の補強対象部の裏糸側に補強糸が挿入されたものであり、その補強糸としては、20デニールの乾式紡糸スパンデックス(乾式紡糸されたウレタン弾性糸)を芯糸とし、1フィラメントあたり3.0デニールのナイロンフィラメントを10本撚り合わせてなるナイロン糸(30デニール/10本)の捲縮加工糸を鞘糸として、当該芯糸に対して当該鞘糸を一重でカバーリングしてなるシングルカバーリング糸(SCY、図4を参照)が使用されている。
【0029】
〔比較例3〕
比較例3のハイゲージ靴下は、爪先部や踵部の補強対象部の裏糸側に補強糸が挿入されたものであり、その補強糸としては、3.3デニールのウーリーナイロンを6本引き揃えて撚糸してなるウーリーナイロン糸(20デニール/6本)の双糸(40デニール/12本)が使用されている。
【0030】
〔比較例4〕
比較例4のハイゲージ靴下は、爪先部や踵部の補強対象部の裏糸側に補強糸が挿入されたものであり、その補強糸としては、20デニールの乾式紡糸スパンデックスを芯糸とし、1フィラメントあたり2.9デニールのナイロンフィラメントを24本撚り合わせてなるナイロン糸(70デニール/24本)の捲縮加工糸を鞘糸として、当該芯糸に対して当該鞘糸を一重でカバーリングしてなるシングルカバーリング糸(SCY、図4を参照)が使用されている。
【0031】
[試験結果]
上記実施例1及び上記比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下に対する比較試験結果として、耐摩耗性、外観、伸縮性と風合い、プレーティング不良、補強糸の端末の長さの夫々に関する試験結果を、以下に説明を加える。
【0032】
(耐摩耗性)
上記実施例1及び上記比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下について、補強対象部である爪先部や踵部の耐摩耗性を評価するために、スチールブレード法(JISL1096F-1法)の耐摩耗試験を行った。尚、このスチールブレード法の耐摩耗試験は、ユニホーム形の摩耗試験機を用いて、スチールブレードにより編地の試験片を摩耗し、その摩耗で編地に孔が開くことにより摩耗試験機が停止した時の摩耗回数を計測する試験方法である。尚、スチールブレードの押圧荷重は44.5Nとし、試験片の引張荷重は11.1Nとしている。
本耐摩耗試験は、上記実施例1及び上記比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下の爪先部や踵部から切り取った試験片について実施した。その試験結果を上記表1に示す。
本試験結果では、実施例1のハイゲージ靴下は、補強糸として利用されたカバーリング糸の鞘糸の太さは、比較例2や比較例4の補強糸の鞘糸と比べて、細い(比較例2の補強糸(SCY)の鞘糸の太さの80%、比較例4の補強糸(SCY)の鞘糸の約34%)ものであるのにも関わらず、優れた耐摩耗性(比較例1の2倍以上、比較例2と同等)が確保されていることが確認できた。
【0033】
(外観)
補強糸を裏糸側に挿入した上記実施例1及び上記比較例2~4の夫々のハイゲージ靴下について、爪先部や踵部の外観として補強の目立ち難さを目視にて評価した。その結果を上記表1に示す。
本評価結果では、実施例1のハイゲージ靴下の爪先部や踵部が、同様にトータルデニールが比較的細い比較例2,3のハイゲージ靴下の爪先部や踵部と同様に、外観上は補強しているのが目立たないことが確認できた。これは、実施例1のハイゲージ靴下で利用している補強糸が、細い芯糸(20デニールの溶融紡糸スパンデックス)に対して細い鞘糸(12デニールのナイロン糸の捲縮加工糸)をカバーリングしたものであって、トータルデニールが非常に細いことが要因であると考えられる。
一方、比較的太い補強糸を用いた比較例4のハイゲージ靴下の爪先部や踵部については、外観上は補強しているのが目立つことが確認できた。
【0034】
(伸縮性と風合い)
上記実施例1及び上記比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下について、踵部の風合いを評価するために、ハイゲージ靴下を3枚分重ね合わせた状態で踵部のウェブスター硬度(HW)をウェブスター硬度計により測定した。その測定結果を上記表1に示す。
本測定結果では、実施例1のハイゲージ靴下の踵部のウェブスター硬度(4.5HW)が、補強糸を挿入していない比較例1のハイゲージ靴下の踵部のウェブスター硬度(3.5HW)に近似しており、実施例1のハイゲージ靴下の踵部では、比較例1と同等の優れた風合いが保たれていることが確認できた。一方、比較例2、比較例3、及び比較例4の夫々のハイゲージ靴下の踵部では、ウェブスター硬度が、実施例1及び比較例1と比べて高い値を示しており、これらハイゲージ靴下の踵部では、補強糸の挿入により風合いが損なわれていることが確認できた。
【0035】
更に、上記実施例1及び上記比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下について、補強対象部の伸縮性や風合いを手触りなどで確認すると、実施例1のハイゲージ靴下では、同様に補強糸を裏糸側に挿入した比較例2及び比較例4のハイゲージ靴下と比べて、補強糸の挿入に起因する伸縮性や風合いの悪化が軽減されていた。これは、実施例1のハイゲージ靴下では、弾性力が比較的低い溶融紡糸スパンデックスの芯糸に鞘糸を二重に巻き付けてなるダブルカバーリング糸(DCY)を補強糸として利用していることから、その補強糸の弾性力が、弾性力が比較的高い乾式紡糸スパンデックスの芯糸に鞘糸を一重で巻き付けてなるシングルカバーリング糸(SCY)を補強糸として利用した比較例2及び比較例4のハイゲージ靴下と比べて、補強糸の弾性力が低下されていることが要因であると考えられる。
また、実施例1のハイゲージ靴下では、鞘糸を構成するナイロン糸の1フィラメントあたり太さ(デニール)が細いため柔らかも優れていた。
【0036】
(プレーティング不良)
上記実施例1及び上記比較例1~4の夫々のハイゲージ靴下について、補強対象部におけるプレーティングによる表側の凹凸や筋状の模様当の不良状態を目視にて評価した。その評価結果を上記表1に示す。
本評価結果では、実施例1のハイゲージ靴下は、同じくカバーリング糸を補強糸として裏糸側に挿入した比較例2及び比較例4のハイゲージ靴下とは異なり、プレーティングによる表側の凹凸や筋状の模様が目立たないことが確認できた。これは、実施例1のハイゲージ靴下で利用する補強糸が、トータルデニールが非常に細く、且つ弾性が弱いため、補強糸自身や鞘糸が表側に編成されるプレーティング不良が発生しても、表側からは識別し難い状態となることが要因であると考えられる。
【0037】
(補強糸の端末の長さ)
補強糸を裏糸側に挿入した上記実施例1及び上記比較例2~4の夫々のハイゲージ靴下について、補強対象部の編成開始前と編成終了後の補強糸の無編成部の端末の長さを測定した。その測定結果を上記表1に示す。
本測定結果では、比較例2,3,4のハイゲージ靴下における補強糸の端末の長さが2.5cmと比較的長いのに対し、実施例1のハイゲージ靴下における補強糸の端末の長さが1.5cmと最も短いことが確認できた。これは、実施例1のハイゲージ靴下で利用している補強糸は、ダブルカバーリング糸であることからシングルカバーリング糸よりも鞘糸が解けにくく、更には融紡糸スパンデックスを芯糸として用いることから、ウーリーナイロンの双糸よりも張力開放時に芯糸の弾性により縮みやすい、という性質を有することが要因であると考えられる。
【符号の説明】
【0038】
10 ハイゲージ靴下
14 踵部(補強対象部)
16 爪先部(補強対象部)
X 補強対象部
YA 表糸
YB 裏糸
YC 補強糸
Ya 芯糸
Yb 鞘糸
Yb1 鞘糸
Yb2 鞘糸
DCY ダブルカバーリング糸(カバーリング糸)
SCY シングルカバーリング糸(カバーリング糸)
図1
図2
図3
図4