(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034491
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】パイル編成用横編機およびパイル編成方法
(51)【国際特許分類】
D04B 15/06 20060101AFI20240306BHJP
D04B 7/12 20060101ALI20240306BHJP
D04B 15/24 20060101ALI20240306BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20240306BHJP
D04B 1/02 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
D04B15/06 Z
D04B7/12
D04B15/24
D04B1/00 Z
D04B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138749
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101638
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 峰太郎
(72)【発明者】
【氏名】下野 正裕
(72)【発明者】
【氏名】小▲高▼ 憲夫
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
【テーマコード(参考)】
4L002
4L054
【Fターム(参考)】
4L002BA00
4L002BA01
4L002BB04
4L002EA00
4L054AA01
4L054BB04
4L054KA22
4L054KA23
(57)【要約】
【課題】編糸係止用鉤を設けない編針を使用しても、パイル編成を行うことが可能な、パイル編成用横編機およびパイル編成方法を提供する。
【解決手段】捕捉用上下手段10は、シンカー4の先端を歯口1aで上昇させ、給糸口から給糸された地糸を、地糸用掛爪4aとパイル糸用掛爪4bとの間で捕捉して歯口1a下方に引下げるようにシンカー4を駆動する。実線は、シンカー4が地糸を捕捉するように駆動されている状態を示す。破線は、シンカー4の先端が、編針3間から退出している状態を示す。二点鎖線は、シンカー4が地糸8aとパイル糸8bとを仕分けし、フック3aの引込みで編目が形成された後で、一旦、シンカー4の先端が編針3間から退出し、再進入した状態を示す。シンカー4で地糸8aを捕捉して引下げることができるので、編糸係止用鉤を設けない編針3を使用しても、パイル編成を行うことが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大略的に矩形で、短辺に平行な針溝が長手方向に並設され、長辺の一方が歯口に臨み、針溝は歯口側が高く、歯口から離れると低くなるように傾斜している針床と、
先端にフックを有し、各針溝にフックが歯口側にそれぞれ収容され、フックを歯口に進退させて、歯口上方から給糸される編糸で編目を編成する編針と、
編糸として地糸とパイル糸とを、地糸が先でパイル糸が後となるように、間隔を空けてそれぞれ編針に給糸する給糸口と、
下部に地糸用掛爪、上部にパイル糸用掛爪がそれぞれ設けられる先端を有し、編針間に進退して、編目形成時に編針のフックが引き込む地糸を地糸用掛爪に掛けて地糸のシンカーループを、パイル糸をパイル糸用掛爪に掛けてパイル糸のシンカーループをそれぞれ形成可能なシンカーと、
各シンカーを、先端が編針間に進退するように駆動し、編針間に進入して、地糸を地糸用掛爪側、パイル糸をパイル糸用掛爪側にそれぞれ掛けるように仕分けを行うシンカー進退機構とを備えるパイル編成用横編機において、
シンカー進退機構は、地糸とパイル糸との仕分けに先行して、シンカーの先端を歯口で上昇させ、給糸口から給糸された地糸を、地糸用掛爪とパイル糸用掛爪との間で捕捉して歯口下方に引下げるようにシンカーを駆動する、捕捉用上下手段を含む、
ことを特徴とするパイル編成用横編機。
【請求項2】
前記捕捉用上下手段は、前記シンカーの駆動を、編幅を含む範囲内で行い、該範囲外では行わないように切替え可能である、
ことを特徴とする請求項1記載のパイル編成用横編機。
【請求項3】
前記捕捉用上下手段は、前記シンカーの駆動の切替えを、前記長手方向に隣接する複数のシンカーで分けた群ごとに行う、
ことを特徴とする請求項2記載のパイル編成用横編機。
【請求項4】
前記捕捉用上下手段は、前記シンカーを前記歯口上方へ上昇させる上昇カムを含む、
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のパイル編成用横編機。
【請求項5】
前記上昇カムは、前記シンカーが前記編針間に進退する移動経路に設けられる、
ことを特徴とする請求項4記載のパイル編成用横編機。
【請求項6】
前記捕捉用上下手段は、前記シンカーと前記移動経路との間に設けられ、移動経路に沿う位置を、前記上昇カムを仲介してシンカーの前記先端を前記歯口で上昇させる作用を行わせる位置と、上昇カムを仲介しないでシンカーの先端を歯口で上昇させる作用を行わせない位置とを、選択可能なセレクトジャックを含む、
ことを特徴とする請求項5記載のパイル編成用横編機。
【請求項7】
前記地糸の給糸口と前記パイル糸の給糸口とを、地糸が先でパイル糸が後となるように前記間隔を空けるか、給糸口間の間隔を狭めて、前記シンカーの前記地糸用掛爪に地糸とパイル糸とを掛けるか、を切替えて、パイル編成と地糸およびパイル糸を編糸とする天竺編成とを切替え可能である、
ことを特徴とする請求項1記載のパイル編成用横編機。
【請求項8】
前記シンカーの前記先端は、前記編針間への進入時に、前記地糸用掛爪の下方となる位置に、前記編糸を前記歯口に押込み可能な押込み部を有し、
前記シンカー進退機構は、編糸の給糸を受けた前記編針のフックが歯口から退出して前記編目形成時の度決めを行った後で、シンカーを歯口から退出させてから歯口に再進入させるように駆動する、
ことを特徴とする請求項1記載のパイル編成用横編機。
【請求項9】
大略的に矩形で、短辺に平行な針溝が長手方向に並設され、長辺の一方が歯口に臨み、針溝は歯口側が高く、歯口から離れると低くなるように傾斜している針床の針溝に、
先端にフックを有する編針を、先端が歯口側となるようにそれぞれ収容し、
フックを歯口に進退させて、歯口上方から、編糸として地糸とパイル糸とを、地糸が先でパイル糸が後となるように、間隔を空けてそれぞれ給糸し、
下部に地糸用掛爪、上部にパイル糸用掛爪がそれぞれ設けられる先端を有するシンカーを、編針間に進退させて、給糸を受けた地糸とパイル糸とを仕分けし、編目形成時に編針のフックが引き込む地糸を地糸用掛爪に掛けて地糸のシンカーループを、パイル糸をパイル糸用掛爪に掛けてパイル糸のシンカーループをそれぞれ形成させるパイル編成方法において、
地糸とパイル糸との仕分けに先行して、シンカーの先端を歯口で上昇させ、給糸口から給糸された地糸を、地糸用掛爪とパイル糸用掛爪との間で捕捉して歯口下方に引下げる、
ことを特徴とするパイル編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地糸とパイル糸とによるパイル編成を行うパイル編成用横編機、およびパイル編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パイル編成を行う横編機は、針床の長手方向の先端が臨む歯口に、上方から、地糸を先に、パイル糸を後からそれぞれ、長手方向に並設されるパイル編成用編針に給糸する。針床は、長手方向に並設される針溝に編針を収容し、歯口側が高く、歯口から離れると低くなるように傾斜している。パイル編成用編針は、針溝に収容した状態で歯口側となる先端のフックをべらで開閉するべら針であり、さらにべらでフックと対向する内縁側に、編糸係止用鉤が設けられている。パイル編成は、パイル編成用編針を歯口に上昇させながら最も進入させた後で、下降させながら退出させて編糸係止用鉤に地糸を係止させる。パイル編成用編針間には、パイル編成用のシンカーの先端を進退させる。パイル編成用のシンカーの先端は、上方にパイル糸を係止可能なパイル糸用掛爪、下方に地糸を係止可能な地糸用掛爪を備える。パイル編成用編針間に進入するシンカーは、先端で地糸とパイル糸とを仕分けしながらパイル編地を形成する。このようなパイル編成方法を実行するパイル編成用横編機は、パイル糸によるシンカーループを地糸によるシンカーループよりも長く形成してパイルループにすることができる(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1で開示されているパイル編地の手袋は、指先から手首までのすべてがパイル編成で、手首にはゴム糸がタックで挿入され、パイルループが内側に出る状態で編成することができる。このような手袋は、外側にラテックスなどをコーティングして防水や防寒機能を持たせたり、パイル糸にアラミド繊維などを使用し、パイルを外側にして耐切創性や耐熱性を持たせたりすることができる。パイル編地は、靴下としても形成することもでき、たとえばパイルループを内側にすることで、防寒機能を持たせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなパイル編成方法は、べらの内縁側に編糸係止用鉤を設けるパイル編成用編針と、編針間に進退する先端で、地糸とパイル糸とを仕分けることが可能なパイル編成用のシンカーとを必要とする。編糸係止用鉤は、べらに設けることで編針としての製造コストを増加させるにも係わらず、横編機で多く使用する天竺編成やゴム編成などでは不要である。
【0006】
本発明の目的は、編糸係止用鉤を設けない編針を使用しても、パイル編成を行うことが可能な、パイル編成用横編機およびパイル編成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、大略的に矩形で、短辺に平行な針溝が長手方向に並設され、長辺の一方が歯口に臨み、針溝は歯口側が高く、歯口から離れると低くなるように傾斜している針床と、
先端にフックを有し、各針溝にフックが歯口側にそれぞれ収容され、フックを歯口に進退させて、歯口上方から給糸される編糸で編目を編成する編針と、
編糸として地糸とパイル糸とを、地糸が先でパイル糸が後となるように、間隔を空けてそれぞれ編針に給糸する給糸口と、
下部に地糸用掛爪、上部にパイル糸用掛爪がそれぞれ設けられる先端を有し、編針間に進退して、編目形成時に編針のフックが引き込む地糸を地糸用掛爪に掛けて地糸のシンカーループを、パイル糸をパイル糸用掛爪に掛けてパイル糸のシンカーループをそれぞれ形成可能なシンカーと、
各シンカーを、先端が編針間に進退するように駆動し、編針間に進入して、地糸を地糸用掛爪側、パイル糸をパイル糸用掛爪側にそれぞれ掛けるように仕分けを行うシンカー進退機構とを備えるパイル編成用横編機において、
シンカー進退機構は、地糸とパイル糸との仕分けに先行して、シンカーの先端を歯口で上昇させ、給糸口から給糸された地糸を、地糸用掛爪とパイル糸用掛爪との間で捕捉して歯口下方に引下げるようにシンカーを駆動する、捕捉用上下手段を含む、
ことを特徴とするパイル編成用横編機である。
【0008】
また本発明で、前記捕捉用上下手段は、前記シンカーの駆動を、編幅を含む範囲内で行い、該範囲外では行わないように切替え可能である、
ことを特徴とする。
【0009】
また本発明で、前記捕捉用上下手段は、前記シンカーの駆動の切替えを、前記長手方向に隣接する複数のシンカーで分けた群ごとに行う、
ことを特徴とする。
【0010】
また本発明で、前記捕捉用上下手段は、前記シンカーを前記歯口上方へ上昇させ
る上昇カムを含む、
ことを特徴とする。
【0011】
また本発明で、前記上昇カムは、前記シンカーが前記編針間に進退する移動経路に設けられる、
ことを特徴とする。
【0012】
また本発明で、前記捕捉用上下手段は、前記シンカーと前記移動経路との間に設けられ、移動経路に沿う位置を、前記上昇カムを仲介してシンカーの前記先端を前記歯口で上昇させる作用を行わせる位置と、上昇カムを仲介しないでシンカーの先端を歯口で上昇させる作用を行わせない位置とを、選択可能なセレクトジャックを含む、
ことを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記地糸の給糸口と前記パイル糸の給糸口とを、地糸が先でパイル糸が後となるように前記間隔を空けるか、給糸口間の間隔を狭めて、前記シンカーの前記地糸用掛爪に地糸とパイル糸とを掛けるか、を切替えて、パイル編成と地糸およびパイル糸を編糸とする天竺編成とを切替え可能である、
ことを特徴とする。
【0014】
また本発明で、前記シンカーの前記先端は、前記編針間への進入時に、前記地糸用掛爪の下方となる位置に、前記編糸を前記歯口に押込み可能な押込み部を有し、
前記シンカー進退機構は、編糸の給糸を受けた前記編針のフックが歯口から退出して前記編目形成時の度決めを行った後で、シンカーを歯口から退出させてから歯口に再進入させるように駆動する、
ことを特徴とする。
【0015】
さらに本発明は、大略的に矩形で、短辺に平行な針溝が長手方向に並設され、長辺の一方が歯口に臨み、針溝は歯口側が高く、歯口から離れると低くなるように傾斜している針床の針溝に、
先端にフックを有する編針を、先端が歯口側となるようにそれぞれ収容し、
フックを歯口に進退させて、歯口上方から、編糸として地糸とパイル糸とを、地糸が先でパイル糸が後となるように、間隔を空けてそれぞれ給糸し、
下部に地糸用掛爪、上部にパイル糸用掛爪がそれぞれ設けられる先端を有するシンカーを、編針間に進退させて、給糸を受けた地糸とパイル糸とを仕分けし、編目形成時に編針のフックが引き込む地糸を地糸用掛爪に掛けて地糸のシンカーループを、パイル糸をパイル糸用掛爪に掛けてパイル糸のシンカーループをそれぞれ形成させるパイル編成方法において、
地糸とパイル糸との仕分けに先行して、シンカーの先端を歯口で上昇させ、給糸口から給糸された地糸を、地糸用掛爪とパイル糸用掛爪との間で捕捉して歯口下方に引下げる、
ことを特徴とするパイル編成方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シンカー進退機構は、地糸とパイル糸との仕分けに先行して、シンカーの先端を歯口で上昇させ、給糸口から給糸された地糸を、地糸用掛爪とパイル糸用掛爪との間で捕捉して歯口下方に引下げる捕捉用上下手段を含む。シンカーで地糸を捕捉して引下げてからパイル糸と仕分けることができるので、編糸係止用鉤を設けない編針を使用しても、パイル編成を行うことが可能となる。
【0017】
また本発明によれば、捕捉用上下手段が全部のシンカーを駆動すると、1コースの編成を編幅の範囲外で終了し、地糸の給糸口とパイル糸の給糸口との位置を入替える際などに、先端を歯口で上昇させた状態で停止するシンカーと給糸口とが干渉するおそれがある。給糸口の位置を高くして干渉を避けると、編針への給糸条件が悪くなる。全てのシンカーが下降してから1コースの編成のための駆動を停止しても干渉を避けることは可能であるが、編成効率を低下させてしまう。このような編成効率の低下は、編幅を含む範囲外で、捕捉用上下手段によるシンカーの駆動を行わないように切替えることで、防ぐことができる。
【0018】
また本発明によれば、捕捉用上下手段によるシンカーの駆動の切替えを、長手方向に隣接する複数のシンカーに分けた群ごとに行うので、個別のシンカーごとに切替える場合に必要となる選択の機構を簡素化することができる。
【0019】
また本発明によれば、上昇カムでシンカーを歯口上方に上昇させてから、下降させ、地糸をシンカーの先端に捕捉させることができる。
【0020】
また本発明によれば、シンカーの先端の上昇は、シンカーが編針間に進退する移動経路に設ける上昇カムによって行うので、シンカーの進退と関連するように行うことができる。
【0021】
また本発明によれば、上昇カムによるシンカーの先端を上昇させる作用を、上昇カムからシンカーにセレクトジャックで仲介して行うことができる。セレクトジャックは、シンカーと移動経路との間に設けられ、移動経路に沿う位置を、上昇カムを仲介する位置と仲介しない位置とで選択可能であるので、セレクトジャックの選択でシンカーを捕捉用上下機構によって駆動するか否かを切替えることができる。
【0022】
また本発明によれば、パイル編成と天竺編成とは、コース単位でウエール方向にも、混在させるように切換えることができる。コースの途中でも、編成を一旦停止し、給糸口の間隔を切替えて編成を再開すれば、パイル編成と天竺編成とを切替えることができる。
【0023】
また本発明によれば、歯口付近にノックオーバされた旧ループが滞留しても、シンカーの先端を歯口から一旦退出させた後の再進入で、シンカーの先端に設ける押込み部が旧ループを歯口下方に押込むことがでる。
【0024】
さらに本発明によれば、シンカーの先端による地糸とパイル糸との仕分けに先行して、シンカーの先端を歯口で上昇させ、給糸口から給糸された地糸を、地糸用掛爪とパイル糸用掛爪との間で捕捉して歯口下方に引下げることができる。編糸係止用鉤を設けない編針を使用しても、シンカーで地糸を捕捉して引下げ、パイル編成を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1であるパイル編成用横編機1の捕捉用上下手段10の構成と地糸の捕捉動作とを、簡略化して示す右側面断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の捕捉用上下手段10でセレクトジャック14を選択しない状態を簡略化して示す右側面断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の捕捉用上下手段10でセレクトジャック14を選択する状態を簡略化して示す右側面断面図である。
【
図4】
図4は、
図1のパイル編成用横編機1で、パイル編成時のシンカー4の軌跡およびカム配置を示す簡略化した平面図である。
【
図5】
図5は、
図1のパイル編成用横編機1で、パイル編成時の編針3の軌跡およびカム配置を示す簡略化した平面図である。
【
図6】
図6は、
図1のパイル編成用横編機1で、パイル編成時のセレクトジャック14の軌跡およびカム配置を示す簡略化した平面図である。
【
図7】
図7は、
図1のシンカー4の形状を示し、シンカー4としての正面図、平面図および右側面図である。
【
図8】
図8は、
図1のセレクトジャック14の形状を示し、セレクトジャック14としての正面図および平面図である。
【
図9】
図9は、
図1のパイル編成用横編機1でのシンカー4による地糸8a捕捉の動作を簡略化して示す右側面断面図である。
【
図10】
図10は、
図1のパイル編成用横編機1でのシンカー4による地糸8aとパイル糸8bとの仕分けの動作を簡略化して示す右側面断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施例2であるパイル編成用横編機21での捕捉用上下手段30の構成を簡略化して示す右側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、
図1から
図10は、本発明の実施例1であるパイル編成用横編機1の構成と動作を示す。
図11は、本発明の実施例2であるパイル編成用横編機21の捕捉用上下手段30の構成を示す。各図で対応する部分は,同一の参照符を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また説明の便宜上、説明対象の図には記載されていない部分について、他の図に記載される参照符を付して言及する場合がある。
【実施例0027】
図1は、本発明の実施例1であるパイル編成用横編機1の主要部の構成を簡略化して示す。パイル編成用横編機1は、
図1では図示を省略しているが、
図9および
図10に示すような針床2を有する。
図9および
図10に示すように、針床2は、歯口1aを挟む前後で対向し、
図1に示す歯口中心面1bに関して面対称となるように配置される。歯口1aで前後の針床2で挟まれる部分は、上方から見れば図の奥行き方向に細長い矩形である。この奥行き方向について、以下では長手方向と記載する。各針床2は、大略的に矩形であり、短辺に平行な針溝2aが長手方向に並設され、長辺の一方が歯口1aに臨む。
図1に示す編針3は、各針溝2aに収容される。編針3の先端にはフック3aが設けられる。各針溝2aに収容される編針3は、フック3aが歯口1aに進退するように摺動することが可能である。針溝2aは、歯口1a側が高く、歯口1aから離れると低くなるように傾斜しているけれども、
図1は、編針3の摺動方向が上下の鉛直方向となる角度に傾斜させて示す。編針3は、フック3aをべら3bで開閉するべら針であるけれども、べらbには特許文献1のような編糸係止用鉤が設けられていない。
【0028】
パイル編成用横編機1は、可動のシンカー4を備える。シンカー4は、編針3間に進退する先端に地糸用掛爪4a、パイル糸用掛爪4bおよび押込み部4cを有する。シンカー4は、一体的に形成されるばね4d、中間駆動部4eおよび尾端駆動部4fも有する。ばね4dは、別体の線ばねを組合せてもよい。シンカー4は、針床2の上方に設けるシンカー床5で、長手方向に並設されるシンカー溝5aにそれぞれ収容される。針床2およびシンカー床5に対し、キャリッジ6が長手方向に往復動する。キャリッジ6には、シンカー進退機構7が備えられる。シンカー進退機構7は、進退カム7aを含む。進退カム7aは、各シンカー4を先端が編針3間に進退するように駆動する。編針3のフック3aとシンカー4の先端とが進退する歯口1aには、
図4に示すように、編糸として地糸8aとパイル糸8bとが、先行する給糸口9aと後行する給糸口9bとからそれぞれ給糸される。
【0029】
本実施例1のシンカー進退機構7は、さらに捕捉用上下手段10を含む。捕捉用上下手段10は、地糸とパイル糸との仕分けに先行して、シンカー4の先端を歯口1aで上昇させ、給糸口9aから給糸された地糸8aを、地糸用掛爪4aとパイル糸用掛爪4bとの間で捕捉して歯口1a下方に引下げるようにシンカー4を駆動する。
図1の実線は、シンカー4が地糸を捕捉するように駆動されている状態と、同位相で対応する編針3の状態とを示す。破線は、シンカー4の先端が編針3間に進入する前の状態を示す。二点鎖線は、シンカー4の押込み部4cによる旧ループの押込み作用を行っている状態を、対応する編針3の状態とともに示す。この編針3の状態は、破線のシンカー4にも同様に対応する。押込み作用は、地糸8aとパイル糸8bとの仕分け、およびフック3aの引込みによる編目形成から度決めの後で行う。度決め後、シンカー4の先端を、一旦編針3間から退出させて再進入させることで、歯口1a付近に滞留する旧ループを押込み部4cで歯口1a下方に押込むことができる。この再進入による押込みは、シンカー4の先端を、編針3の底面よりも、歯口1a側に進入させて行う。後述するように、捕捉用上下手段10がシンカー4で地糸8aを捕捉して引下げてから、シンカー進退機構7でパイル糸8bと仕分けることができるので、編糸係止用鉤を設けない編針3を使用しても、パイル編成を行うことが可能となる。編針3としては、べら3bを用いない、複合針などを使用することもできる。
【0030】
本実施例1の捕捉用上下手段10は、シンカー4を、ばね4dによる下方への付勢に抗して歯口1a上方へ上昇させる上昇カム11を含む。本実施例1は、上昇カム11で必要以上に上昇させないように規制し、昇降を確実にするための上昇押えカム12も含むが、省略することも可能である。ただし、シンカー4がばね4dを有しない場合は、シンカー4を下降させるカムを設ける必要がある。本実施例1の上昇カム11は、シンカー4の編針3間への進退を案内する移動経路、すなわちシンカー床5のシンカー溝5aに設けられ、シンカー4の先端を歯口1aで上昇させる。シンカー4の進退と関連させながら、地糸8aをシンカー4の先端に捕捉させることができる。上昇押えカム12は、上昇カム11によって上昇させるシンカー4の中間駆動部4eを上方から押さえる。上昇押えカム12が押さえる位置は、上昇カム11がシンカー4を上昇させる位置よりも歯口1aから離れる位置となるので、シンカー4の先端は、揺動しながら上昇する。ばね4dは、シンカー4の先端が下降する方向に付勢するので、上昇カム11による上昇が解除されれば、先端は下降する。
【0031】
捕捉用上下手段10によるシンカー4の駆動は、編針3を個別に選択する場合の選針機構と同様な選択機構を設け、シンカー4ごとに選択して行わせることもできる。たとえば補捉用上下手段10は、シンカー4の駆動を、編幅を含む範囲内で行い、その範囲外では行わないように切替えるようにする。捕捉用上下手段10が全部のシンカー4を駆動すると、1コースの編成を編幅の範囲外で終了し、地糸8aの給糸口9aとパイル糸8bの給糸口9bとの位置を入れ替える際などに、先端を歯口1aで上昇させた状態で停止するシンカー4と給糸口9a,9bとが干渉するおそれがある。干渉を避けるためには、全てのシンカー4が下降してから1コースの編成のための駆動を停止する必要があり、編成効率を低下させてしまう。このような編成効率の低下は、編幅を含む範囲外で、捕捉用上下手段10によるシンカー4の駆動を行わないように切替えることで、防ぐことができる。なお、シンカー4と給糸口9a,9bとの干渉は、給糸口9a,9bのうちで位置を入れ替えるために移動する方の位置を高くすることなどでも回避できるけれども、給糸条件が悪くなってしまう。干渉は、給糸口9a,9bに高さを切り替える機構を設けることでも回避可能であるけれども、給糸口9a,9bの機構が複雑になる。
【0032】
本実施例1の捕捉用上下手段10は、押下げカム13とセレクトジャック14を含む。セレクトジャック14は、シンカー4とシンカー溝5aの底との間に設けられ、移動経路に沿う位置を、上昇カム11を仲介してシンカー4の先端を歯口1aで上昇させる作用を行わせる位置と、上昇カム11を仲介しないでシンカー4の先端を歯口1aで上昇させる作用を行わせない位置とを、選択可能である。セレクトジャック14は、尾端側に選択部14a、および先端側の上と下とに押上げ部14bと受圧部14cとをそれぞれ有する。選択部14aは、切替えカム15による選択作用を受ける。押下げカム13は、選択部14aを押下げて切替えカム15による選択作用を確実にするけれども、省略することも可能である。図の実線は、選択されたセレクトジャック14が受圧部14cに上昇カム11の上昇圧を受け、押上げ部14bでシンカー4を実線で示すように押上げている状態を示す。図の破線は、セレクトジャック14が選択を受けない状態を示す。
【0033】
セレクトジャック14の選択は、切替えカム15を実線で示す状態にして行われる。切替えカム15は、アクチュエータ16によって揺動し、一点鎖線で示す状態ではセレクトジャック14を非選択の状態にする。本実施例1では、切替えカム15を2段で使用し、
図8に示すセレクトジャック14A,14Bを使用することで、シンカー4を2群に分けて選択することができる。上下の切替えカム15は、選択部14aが上下に設けられるセレクトジャック14A,14Bをそれぞれ選択の対象とする。群は、長手方向に隣接する複数のシンカーで分けて形成し、群の数は3以上でもよく、セレクトジャック14と切替えカム15とを群の数に合わせて用意すればよい。長手方向で隣接するシンカー4を個別に選択することもできる。たとえば、編針3を個別に選択する選針アクチュエータなどを含む選針機構と同様な機構でシンカー4を個別に選択することは可能である。セレクトジャック14を群に分けて選択すれば、個別に切替える場合に必要となる選択の機構を簡素化することができる。特許文献1のような手袋をパイル編成する場合、指袋ごとの編成が行われるので、2群に分けて、隣接する指袋が同じ群に属さないようにしておけば、各指袋の編幅外のセレクトジャック14は非選択にすることができる。
【0034】
図2は、
図1の捕捉用上下手段10でセレクトジャック14を選択しない状態を示す。
図3は、
図1の捕捉用上下手段10でセレクトジャック14を選択する状態を示す。セレクトジャック14は、選択しないと、基底位置を動かないけれども、シンカー4は進退する。セレクトジャック14が選択されると、切替えカム15によって、セレクトジャック14は、基底位置から受圧部14cが上昇カム11の押上作用を受ける位置まで移動する。上昇カム11による押上げで、セレクトジャック14は、押上げ部14bがシンカー4を押上げるように仲介する。シンカー4は、歯口1aに進入しながら押上げられると、先端が歯口1aを上昇し、給糸口9aから給糸される地糸8aを、地糸用掛爪4aとパイル糸用掛爪4bとの間に捕捉可能となる。本実施例1のように、セレクトジャック14を介する場合でも、あるいは直接シンカー4を選択する機構を設ける場合でも、選択されないシンカー4は、先端を歯口1aで上昇させて地糸8aを捕捉する動作を行わず、先端を直動で歯口1aに進退させる動作を行う。
【0035】
図4は、
図1のパイル編成用横編機1で、パイル編成時のシンカー4の軌跡およびカム配置を示す平面図である。
図5は、
図1のパイル編成用横編機1で、パイル編成時の編針3の軌跡およびカム配置を示す。
図6は、
図1のパイル編成用横編機1で、パイル編成時のセレクトジャック14の軌跡およびカム配置を示す。各図では、キャリッジ6が図の左方に走行する場合が想定され、軌跡は右方に移行する。キャリッジ6には、シンカー4の駆動用に、進退カム7aと、補助の可動カム7b,7c,7dとが搭載される。シンカー4は、
図4の進退カム7aでは上側に示すカム面の押圧で、および可動カム7b,7dによる押圧で、歯口1a側に進入する。この進退カム7aによる押圧は、
図4の右側に示す側面図で中間駆動部4eの右横に続く部分で受ける。可動カム7b,7dによる押圧は、
図4の右側の側面図で、尾端駆動部4fの下側で受ける。尾端駆動部4fの上側は、
図4の進退カム7aでは下側に示すカム面の押圧を受け、シンカー4を歯口1aから退出させる。シンカー4は、上昇カム11による押圧とばね4dの付勢による自己復帰で先端を上下させる。キャリッジ6には、編針3の駆動用に、編成カム18も搭載される。編針3は、フック3aおよびべら3bを有する本体3cと、本体3cの尾部に連結されるニードルジャック3dと組合せて形成される。編成カム18は、ニードルレイジングカム18a、中山カム18b、編出し用出没カム18c、度山カム18d、ガイドカム18eおよびゴム山カム18fを含み、ニードルジャック3dのバット3eに作用する。編出し用出没カム18cは、編出し時に突出して、キャリッジ6が右方に移動する際に編針3を駆動する。ゴム山カム18fは、給糸口9cから給糸される弾性糸をタックするために使用する。上昇カム11には、切替えカム15の作用で歯口1a側に移動したセレクトジャック14を、
図2に示す位置に対応する基底位置に戻すための戻しカム面11b,11cも設けられている。上昇押えカム12は、シンカー4の中間駆動部4eを押さえる。
図6の上方に示す矢符A-Aおよび矢符B-Bは、上昇カム面11aに関する断面A,Bをそれぞれ示す。
【0036】
図4および
図5には、捕捉用上下手段10によるシンカー4の駆動に関連する主要な位相α、β、γ、δ、ε、ζ、ηおよびθも示す。
図1の破線は位相αに、実線は位相γに、二点鎖線は位相θに、それぞれ対応する。位相γは、
図3の破線にも対応し、
図3の実線は位相δに対応する。なお、特許文献1のような手袋を編成する場合、対向する針床2を交互に使用し、基本的に袋状の編地を編成する。キャリッジ6が右方に走行する場合は、対向する針床2が使用されるけれども、基本的なカム配置は同様になる。給糸口9aと給糸口9bとは間隔を空けることで、シンカー4による地糸8aの捕捉が可能となり、パイル編成を行うことができるけれども、給糸口9bを給糸口9aに近づけて、地糸8aとパイル糸8bの両方を上昇するシンカー4で捕捉可能にすれば、天竺編成を行うこともできる。地糸8aとパイル糸8bとの両方を捕捉して行う天竺編成は、給糸口9a,9bの位置が入替っても可能である。位相ηは、度山カム18cの引込みで編目形成後の度決めが終了する直前であり、度決め後、シンカー4の先端を編針3間から、一旦、退出させ、位相θではシンカー4の先端を編針3間に再進入させる。パイル編成や天竺編成での編目形成後には、歯口1a付近にノックオーバされた旧ループが滞留する可能性がある。シンカー4の再進入で、シンカー4の先端に設ける押込み部4cが旧ループを歯口下方に押込むので、安定した編成を行うことができる。なお、給糸口9a,9bは、キャリッジ6が走行する際に連行する連行式でもよいけれども、キャリッジ6と独立に走行可能にすることが好ましい。走行方向の反転や、パイル編成と天竺編成との切替えの際に、独立に走行可能な給糸口9a,9bの方が効率良く対応させることができる。パイル編成と天竺編成とは、コース単位でウエール方向にも、混在させるように切換えることができる。コースの途中でも、編成を一旦停止し、給糸口9a,9bの間隔を切替えて編成を再開すれば、パイル編成と天竺編成とを切替えることができる。
【0037】
図7および
図8は、
図1のシンカー4およびセレクトジャック14の形状をそれぞれ示す。シンカー4は、先端で地糸8aとパイル糸8bとを仕分けする点で、基本的に特許文献1に開示されているものと同様である。押込み部4cは、鉤状にして旧ループを確実に押込み可能にすることが好ましいけれども、平坦な壁や滑らかな曲面などでも押込みは可能である。セレクトジャック14は、選択部14aの形状で、群に対応する。選択部14aが上方に設けられるセレクトジャック14Aと下方に設けられるセレクトジャック14Bとは、
図1に示す上下二段の切替えカム15で2つの群のいずれかとして選択される。特許文献1のような手袋は、指袋を複数、順次編成するので、2群に分ければよい。ただし、指袋間で股重ねを行う場合、セレクトジャック14Cの選択部14aのようにしておけば、上下二段の切替えカム15のいずれでも選択可能にすることができる。
【0038】
図9および
図10は、
図1のパイル編成用横編機1でのシンカー4の動作を、位相β、γ、δでの地糸8aの捕捉、および位相ε、ζ、ηでの仕分けについて、それぞれ示す。地糸8aおよびパイル糸8bは、図では右側に示す後側の針床2について、給糸口9a,9bが紙面の手前側に走行し、編幅の終端の編針3のフック3aに給糸してから、給糸口9a,9bは紙面の奥側に走行して、図では左側に示す前側の針床2でパイル編成を行うように、走行方向を切替えている場合を想定する。前後の針床2の針溝2aに各編針3は収容される。位相βでは、シンカー4の先端が上昇する。給糸口9aは、紙面の奥側に通過しており、地糸9aは後側の針床2の編針3のフック3aから給糸口9aに渡る状態となっている。位相γでは、シンカー4の先端を歯口1a側に進入させ、地糸8aを地糸用掛爪4aとパイル糸用掛爪4bとの間に捕らえる。位相δでは、シンカー4の先端を下降させ、地糸8aの引下げを開始し、捕捉を完了する。位相εでは、給糸口9bが通過し、パイル糸9bが後側の編針3のフック3aから給糸口9bに、パイル糸用掛爪4bの上側渡る状態となり、パイル糸用掛爪4bの下側に捕捉されている地糸8aと仕分けされる。位相ζでは、編針3のフック3aによる引込みが開始する。位相ηでは、編針3の引込みが続き、旧ループがべら3bを閉じてノックオーバされ、度決め終了の直前となる。