(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003450
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】曲げ加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 5/02 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
B21D5/02 Y
B21D5/02 V
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102595
(22)【出願日】2022-06-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】松本 哲典
(72)【発明者】
【氏名】柳川 集
【テーマコード(参考)】
4E063
【Fターム(参考)】
4E063AA01
4E063BA07
4E063CA07
4E063FA05
4E063GA05
4E063KA07
4E063LA03
4E063LA08
4E063LA19
(57)【要約】
【課題】各加工位置での曲げ状態のばらつきを抑制する。
【解決手段】プレスブレーキ1の上部テーブル7に装着される上型8と下部テーブル5に装着される下型6とよってワークWを加圧してワークWを曲げる曲げ加工を、所定のピッチでワークWを送り出しながら第1工程から第N(N:自然数)工程まで繰り返し、N箇所の加工位置でワークWを曲げることによりワークWを所望の曲げ角度で湾曲させる一連の工程を備える。一連の工程は、第M(M:N未満の自然数)工程が終了したときのワークWの曲げ角度を測定する測定工程と、測定工程で測定されたワークWの曲げ角度の測定値と、第M工程が終了したときのワークWの曲げ角度の目標値とに基づいて、ワークWを加圧するためのテーブル出力を補正する計算工程を含む。テーブル出力が補正された場合には、補正されたテーブル出力に基づいて、第M工程以前の前工程に遡って曲げ加工を再開する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスブレーキの上部テーブルに装着される上型と下部テーブルに装着される下型とによってワークを加圧して前記ワークを曲げる曲げ加工を、所定のピッチで前記ワークを送り出しながら第1工程から第N(N:自然数)工程まで繰り返し、N箇所の加工位置で前記ワークを曲げることにより前記ワークを所望の曲げ角度で湾曲させる一連の工程を備え、
前記一連の工程は、
第M(M:N未満の自然数)工程が終了したときの前記ワークの曲げ角度を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された前記ワークの曲げ角度の測定値と、前記第M工程が終了したときの前記ワークの曲げ角度の目標値とに基づいて、前記ワークを加圧するためのテーブル出力を補正する計算工程を含み、
前記テーブル出力が補正された場合には、補正された前記テーブル出力に基づいて、前記第M工程以前の前工程に遡って前記曲げ加工を再開する
曲げ加工方法。
【請求項2】
前記第M工程は、
前記第1工程から前記第N工程のうち、工程終了時の前記ワークの曲げ角度が所定の角度範囲となる工程である
請求項1記載の曲げ加工方法。
【請求項3】
前記角度範囲は、165度以上175度以下である
請求項2記載の曲げ加工方法。
【請求項4】
前記計算工程は、
前記ワークの曲げ角度の測定値と、前記第M工程が終了したときの前記ワークの曲げ角度の目標値との誤差に基づいて、前記第N工程まで前記曲げ加工を継続したときの累積誤差を演算し、
前記累積誤差を打ち消すように、前記テーブル出力を補正する
請求項1から3いずれか一項記載の曲げ加工方法。
【請求項5】
前記測定工程において、前記ワークの左端から右端までの間における1点で前記ワークの曲げ角度を計測した場合、
前記計算工程は、
前記1点における前記ワークの曲げ角度の計測値を前記ワーク全体の曲げ角度とみなし、前記ワークの左端から右端までの前記テーブル出力を一様に補正し、
前記測定工程において、前記ワークの左端から右端までの間における複数点で前記ワークの曲げ角度を計測した場合、
前記計算工程は、
前記複数点における前記ワークの曲げ角度の計測値に基づいて、前記ワークの左端から右端までの間における曲げ角度が均一化するように前記テーブル出力を補正する
請求項1から3いずれか一項記載の曲げ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型を用いてワークを加圧することでワークに対して曲げ加工を行うプレスブレーキが知られている。プレスブレーキを用いた曲げ手法の1つとして、ワークを送り出しながら微少曲げを断続的に繰り返すことで、ワークを所望の曲げ角度で湾曲させる加工手法、いわゆるFR曲げが知られている。
【0003】
特許文献1には、ワークの曲げ加工中に加工データを補正する方法が開示されている。特許文献1の手法では、ある工程までに実行された実際の曲げ角度と、目標曲げ角度との誤差に基づき、補正データが演算される。補正データが演算されると、次工程から曲げ加工が開始され、次工程以降の曲げ加工は、補正データに従って行われる。
【0004】
また、特許文献2には、パンチを保持するための上部テーブルと、ダイを保持するための下部テーブルとを備え、パンチとダイとでワークを挟んで曲げるプレスブレーキが開示されている。このプレスブレーキは、ある工程の加工を行うと、2次元レーザ変位センサが受光した変位データに基づいてワークの形状を測定する。ワークの測定形状と予め設定されたワークの目標形状との差が小さくなるように、パンチをダイの方向へと下降させるストロークが補正される。ストロークが補正されると、次工程から曲げ加工が開始され、次工程以降の曲げ加工は、補正されたストロークで行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-39439号公報
【特許文献2】特開2018-126784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示される手法によれば、補正前に曲げ加工が実行された加工位置では補正の効果が及ばないので、誤差が残ったままの曲げ状態となっている。製品品質の観点からは、それぞれの加工位置における曲げ状態にばらつきが少ないことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、プレスブレーキの上部テーブルに装着される上型と下部テーブルに装着される下型とによってワークを加圧してワークを曲げる曲げ加工を、所定のピッチでワークを送り出しながら第1工程から第N(N:自然数)工程まで繰り返し、N箇所の加工位置でワークを曲げることによりワークを所望の曲げ角度で湾曲させる一連の工程を備え、一連の工程は、第M(M:N未満の自然数)工程が終了したときのワークの曲げ角度を測定する測定工程と、測定工程で測定されたワークの曲げ角度の測定値と、第M工程が終了したときのワークの曲げ角度の目標値とに基づいて、ワークを加圧するためのテーブル出力を補正する計算工程を含み、テーブル出力が補正された場合には、補正されたテーブル出力に基づいて、第M工程以前の前工程に遡って曲げ加工を再開する。
【0008】
本発明の一態様によれば、前工程に遡って曲げ加工が再開されるので、曲げ加工が既に行われた加工位置においても、補正されたテーブル出力に基づいてワークが再加圧される。このワークの再加圧により、補正前に実行された曲げ加工において生じている目標値とのずれが矯正され、前工程に係る加工位置でも所望の曲げ状態を得ることができる。また、第M工程よりも後工程では、補正されたテーブル出力でワークが加圧されるので、後工程に係る個々の加工位置でも所望の曲げ状態を得ることできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、それぞれの加工位置における曲げ状態のばらつきを抑制することができるので、製品品質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る曲げ加工方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、曲げ加工を行うプレスブレーキを示す斜視図である。
【
図3】
図3は、ワークの曲げ角度及び加工位置を示す説明図である。
【
図4】
図4は、曲げ加工の第1工程を示す説明図である。
【
図5】
図5は、第3工程が終了したときの曲げ角度を示す図である。
【
図6】
図6は、補正計算に伴って操作パネルに表示される操作画面を示す図である。
【
図7】
図7は、補正結果を示す画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本実施形態に係る曲げ加工方法について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る曲げ加工方法の手順を示すフローチャートである。
図2は、曲げ加工を行うプレスブレーキを示す斜視図である。以下の説明では、プレスブレーキ1を定義するために、左右方向X、前後方向Y、及び上下方向Zを用いる。左右方向X及び前後方向Yは、水平方向において直交する2つの方向に対応し、上下方向Zは鉛直方向に対応する。ただし、これらの方向は、本実施形態においてプレスブレーキ1を説明するために、便宜的に用いられるに過ぎない。
【0013】
本実施形態に係る曲げ加工方法は、プレスブレーキ1の上部テーブル7に装着される上型8と下部テーブル5に装着される下型6とよってワークWを加圧してワークWを曲げる曲げ加工を、所定のピッチでワークWを送り出しながら第1工程から第N(N:自然数)工程まで繰り返し、N箇所の加工位置でワークWを曲げることによりワークWを所望の曲げ角度で湾曲させる一連の工程を備える。一連の工程は、第M(M:N未満の自然数)工程が終了したときのワークWの曲げ角度を測定する測定工程と、測定工程で測定されたワークWの曲げ角度の測定値と、第M工程が終了したときのワークWの曲げ角度の目標値とに基づいて、ワークWを加圧するためのテーブル出力を補正する計算工程を含む。テーブル出力が補正された場合には、補正されたテーブル出力に基づいて、第M工程以前の前工程に遡って曲げ加工を再開する。
【0014】
以下、プレスブレーキ1の構成を説明する。プレスブレーキ1は、パンチなどの金型である上型8とダイなどの金型である下型6とでワークWを加圧することにより、ワークWを曲げる曲げ加工を行う加工機である。
【0015】
プレスブレーキ1は、下部テーブル5と、上部テーブル7と、左右の昇降機構9L、9Rと、左右のクラウニング機構19L、19Rと、制御装置30と、操作パネル35とを備えている。
【0016】
プレスブレーキ1は、左右方向Xに間隔を空けて配置された左右のサイドフレーム3L、3Rを有している。上部テーブル7は、左右方向Xに延在しており、サイドフレーム3L、3Rの前側上部に支持されている。上部テーブル7は、上下方向Zに移動可能に構成されている。下部テーブル5は、左右方向Xに延在しており、サイドフレーム3L、3Rの前側下部に支持されている。
【0017】
上部テーブル7の下側には、上型8を着脱可能に保持する上型ホルダが設けられている。上型ホルダには、上型8の基部を挿入するためのホルダ溝が左右方向Xに沿って形成されている。上型ホルダは、上型8を上部テーブル7に対して固定するクランプ機構を有している。
【0018】
下部テーブル5の上側には、下型6を着脱可能に保持する下型ホルダが設けられている。下型ホルダには、下型6の基部を挿入するためのホルダ溝が左右方向Xに沿って形成されている。下型ホルダは、下型6を下部テーブル5に対して固定するクランプ機構を有している。
【0019】
左右の昇降機構9L、9Rは、サイドフレーム3L、3Rの左右の上部にそれぞれ設けられている。左右の昇降機構9L、9Rは、上部テーブル7を上下方向Zへ移動させる機構であり、例えば油圧シリンダであるが、電動モータ及び減速機などの組み合わせを利用することもできる。左右の昇降機構9L、9Rは、それぞれ独立して制御することが可能である。左右の昇降機構9L、9Rにより、上部テーブル7の左右のストローク位置を独立して制御することができる。ストローク位置は、下部テーブル5の上端から上部テーブル7の下端までの相対的な位置(デプス値(D値))であり、ワークWを加圧するためのテーブル出力に相当するパラメータの一つである。
【0020】
下部テーブル5の前側及び後側には前板11及び後板13がそれぞれ設けられている。前板11及び後板13は、前後方向Yに貫通した左右の枢軸15L、15Rを介して、下部テーブル5に対して一体的に取り付けられている。
【0021】
下部テーブル5の左右方向Xの中心位置を基準とする左右の位置には、左右のクラウニング機構19L、19Rが設けられている。
【0022】
クラウニング機構19L、19Rは、前板11及び後板13にそれぞれ固定されている。クラウニング機構19L、19Rを動作させることにより、下部テーブル5の一部を上方向又は下方向に向かって湾曲させることができる。
【0023】
左右のクラウニング機構19L、19Rは、それぞれ独立して制御することが可能である。左右のクラウニング機構19L、19Rにより、クラウニング出力を調整することができる。クラウニング出力は、下部テーブル5のどの位置をどの位湾曲させるかを示すものであり、ワークWを加圧するためのテーブル出力に相当するパラメータの一つである。
【0024】
制御装置30は、例えば数値制御装置(NC(Numerical Control:数値制御)装置)などのコンピュータを含む。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)などのハードウェアプロセッサと、メモリと、各種のインターフェースとを主体に構成されている。メモリ、各種のインターフェースは、バスを介してハードウェアプロセッサに接続されている。コンピュータには、所定のコンピュータプログラムがインストールされている。ハードウェアプロセッサがコンピュータプログラムを実行することにより、コンピュータは、制御装置30が備える機能を実行する。
【0025】
制御装置30は、プレスブレーキ1の動作を制御する。具体的には、制御装置30は、左右の昇降機構9L、9Rと、左右のクラウニング機構19L、19Rとを制御する。制御装置30は、左右のD値に基づいて左右の昇降機構9L、9Rを制御することで、上部テーブル7を下降させてワークWを加圧する。また、制御装置30は、クラウニング出力に基づいて左右のクラウニング機構19L、19Rを制御することで、下部テーブル5の一部を湾曲させた状態でワークWを加圧することができる。
【0026】
操作パネル35は、たとえば、液晶ディスプレイなどの表示部と、タッチパネルなどの入力部とを有している。操作パネル35は、制御装置30の下で種々の設定画面、及び操作画面を表示したり、作業者から入力される情報を制御装置30に出力したりする。
【0027】
このような構成のプレスブレーキ1を用いた曲げ加工では、作業者は、下部テーブル5に装着した下型6上に板状のワークWを載置する。このとき、作業者は、下部テーブル5の後方の所定位置に位置決めされたバックゲージ(図示せず)にワークWを突き当ててワークWの位置決めを行う。そして、制御装置30は、作業者からの指示に応じて、上部テーブル7を下部テーブル5に向かって下降させる。これにより、上型8と下型6との間でワークWが加圧され、ワークWが所望の曲げ状態で曲げられる。
【0028】
以下、本実施形態の特徴の一つである曲げ加工方法を説明する。本実施形態の曲げ加工方法は、プレスブレーキ1を用いたFR曲げに好適である。FR曲げは、所定のピッチでワークWを送り出しながら第1工程から第N工程まで曲げ加工を繰り返し、N箇所の加工位置でワークWを曲げることで、ワークWを所望の曲げ角度で湾曲させる加工方法である。
【0029】
図3は、ワークWの曲げ角度及び加工位置を示す説明図である。ワークWの曲げ角度αtは、各加工位置での曲げ作用によって湾曲するワークWの内角である。
図3には、ワークWの曲げ角度αtが90度となる例が示されている。例えば「N」を20とした場合、第1工程から第20工程まで曲げ加工が繰り返され、20箇所の加工位置P1~P20でワークWの曲げが行われる。ワークWの曲げ角度αtが90度の場合、各工程(各加工位置)で得られるワークWの曲げ状態は、理想的には4.5度となる。
【0030】
図1を参照するに、ステップS10において、第1工程から第M工程まで曲げ加工を行う。
図4は、曲げ加工の第1工程を示す説明図である。同図において、図中左側はプレスブレーキ1における前後方向Yの後側に対応し、図中右側はプレスブレーキ1における前後方向Yの前側に相当する。下型6上に載置されたワークWはプレスブレーキ1を基準として方向が定義可能であり、プレスブレーキ1のバックゲージ側がワークWの後側となり、作業者側がワークWの前側となる。第1工程では、1番目の加工位置P1を上型8と下型6とで加圧して、加工位置P1に対して曲げ加工を行う。
【0031】
図5は、第3工程が終了したときの曲げ角度を示す図である。第1工程が終了すると、作業者は、所定のピッチでワークWを送り出し、2番目の加工位置P2が上型8と下型6との間に位置するようにワークWを位置決めする。そして、第2工程において、2番目の加工位置P2に対して曲げ加工を行う。このような工程を第M工程まで行う。「M」はN未満の自然数であり、本実施形態では、第M工程を第3工程とする。
【0032】
第3工程が終了すると、作業者はプレスブレーキ1の動作を一時停止させる。そして、ステップS11において、第3工程が終了したときのワークWの曲げ角度α3の測定を行う(測定工程)。曲げ角度α3の測定は、作業者自身が角度センサを利用して手動で行うことができる。また、作業者が操作パネル35に対して所定の操作を行うことで、制御装置30がプレスブレーキ1に搭載された角度センサを動作させ、曲げ角度α3の測定を自動で行ってもよい。作業者自身が手動で曲げ角度を測定した場合、作業者が操作パネル35に曲げ角度α3の測定値を入力することで、制御装置30はその情報を取得することができる。また、制御装置30が自動で曲げ角度α3を測定した場合、制御装置30は、角度センサから曲げ角度α3の測定値を直接取得することができる。
【0033】
ただし、ワークWの曲げ角度の測定は、第3工程が終了したときに限らず、第2工程が終了したときであってもよいし、第4工程以降の工程が終了したときであってもよい。ただし、曲げ角度の測定は、ワークWの曲げ角度が165度から175度の範囲で行われることが好ましい。そのため、第1工程から第20工程のうち、工程の終了時の曲げ角度が165度以上175度以下となる工程が、第M工程として設定されている。
【0034】
また、曲げ角度の測定は、第M工程が終了したときに、作業者の発意によって行うことができるが、これに限らない。例えば、作業者が操作パネル35を操作して、曲げ角度の測定を行う第M工程を、制御装置30に設定しておく。制御装置30は、第M工程が終了したことをトリガーとして、曲げ角度の測定の実行を作業者に促したり、曲げ角度の自動測定を行ったりしてもよい。あるいは、各工程終了時のワークWの曲げ角度の目標値を制御装置30に記憶しておくことで、制御装置30は、各工程の終了時、曲げ角度の目標値が165度以上175度以下の範囲となるか否か判断する。そして、制御装置30は、曲げ角度の目標値が165度以上175度以下となる工程の終了をトリガーとして、曲げ角度の測定の実行を作業者に促したり、曲げ角度の自動測定を行ったりしてもよい。
【0035】
ステップS12において、作業者は、補正が必要か否かを判断する。全20工程で90度分の曲げを行う場合、第3工程を終了したときのワークWの曲げ角度α3の目標値は166.5度となる。作業者は、曲げ角度α3の測定値と、第3工程を終了したときのワークWの曲げ角度α3の目標値(166.5度)との差が所定の閾値以上であれば、補正が必要と判断する。一方、作業者は、曲げ角度α3の測定値と、第3工程を終了したときのワークWの曲げ角度α3の目標値は166.5度との差が所定の閾値よりも小さければ、補正は不要と判断する。補正が必要か否かの判断は、作業者自身が行う以外にも、制御装置30が行ってもよい。
【0036】
補正が必要な場合には、ステップS13の処理に進む。一方、補正が不要な場合には、ステップS14において、第4工程から第20工程まで曲げ加工が行われる。
【0037】
ステップS13において、制御装置30は、曲げ角度α3に基づいて、補正計算を行う(計算工程)。
図6は、補正計算に伴って操作パネルに表示される操作画面を示す図である。操作パネル35には、第1表示項目350、第2及び第3表示項目351、352、第4から第7表示項目353、354、355、356、第1から第3操作項目357、358、359の各項目が表示される。
【0038】
第1表示項目350は、第3工程を終了したときのワークWの曲げ角度α3の目標値が表示される。第2表示項目351には、現工程数、すなわち現工程までの曲げ加工回数(例えば「3回」)が表示され、第3表示項目352には、全ての工程数、すなわち全ての曲げ加工回数(例えば「20回」)が表示される。
【0039】
第4から第7表示項目353、354、355、356には、曲げ角度α3の測定値が表示される。曲げ角度α3の測定をワークWの左右方向の中央などの1つの代表点で行い、この代表点の測定値をワークW全体の曲げ角度α3として扱う場合、第4表示項目353に、曲げ角度α3の測定値が表示される。一方、曲げ角度α3の測定を複数箇所、例えばワークWの左側、中央、右側の3箇所で行う場合には、左側、中央、右側における曲げ角度α3の測定値が第5から第7表示項目354、355、356にそれぞれ表示される。
【0040】
第1及び第2操作項目357、358は、テーブル出力の補正態様を、全体補正又は通り補正で選択するための操作項目である。全体補正は、代表点で測定された曲げ角度α3の測定値に基づいて、ワークWの左端から右端までのテーブル出力を一様に補正する方法である。一方、通り補正は、ワークWの左側、中央、右側における各曲げ角度α3の測定値に基づいて、ワークWの左端から右端までの間における曲げ角度が均一化するようにテーブル出力を補正する方法である。第1操作項目357を操作すると全体補正を選択することができ、第2操作項目358を操作すると、通り補正を選択することができる。第3操作項目359は、補正計算を実行するための操作項目である。
【0041】
作業者は、各表示項目350~356確認した上で、第1及び第2操作項目357、358を通じて全体補正又は通り補正を選択した上で、第3操作項目359を操作する。これにより、制御装置30は、選択した補正態様に応じた補正計算を実行する。
【0042】
まず、全体補正に対応する第1操作項目357が選択されている場合の説明を行う。制御装置30は、第3工程が終了したときのワークWの曲げ角度α3の測定値と、第3工程が終了したときのワークWの曲げ角度α3の目標値と誤差に基づいて、第1工程から第20工程まで曲げ加工を継続したときの累積誤差を計算する。そして、制御装置30は、この累積誤差を打ち消すように、曲げ補正量βを計算する。曲げ補正量βは、例えば式1で算出される。
[式1]
曲げ補正量β=(α3t―α3m)×(RNW/RNM)
【0043】
式1において、「α3t」は、第3工程が終了したときのワークWの曲げ角度α3の目標値であり、「α3m」は、第3工程が終了したときのワークWの曲げ角度α3の測定値である。「RNW」は全ての工程数であり、「RNM」は、現工程数である。
【0044】
例えば、ワークWの曲げ角度α3の測定値が170度で、ワークWの曲げ角度α3の目標値が166.5度である場合、曲げ補正量βは-23.33度((166.5度-170度)×(20/3))となる。
【0045】
曲げ補正量βが特定されると、制御装置30は、曲げ補正量βに基づいて、補正したテーブル出力を計算する。全体補正が選択された場合、制御装置30は、テーブル出力としてD値を補正する。しかしながら、制御装置30は、クラウニング出力を補正してもよいし、D値及びクラウニング出力をそれぞれ補正してもよい。
【0046】
制御装置30は、ワークWの左端から右端まで曲げ角度α3が一様であると仮定し、曲げ補正量βに基づいて、補正した左右のD値を計算する。
図7に示すように、制御装置30は、左右のD値を、第8及び第9表示項目360、361に表示する。このような計算手法によれば、左右の曲げ補正量β、β’を作業者が計算し、第10及び第11表示項目362、363に対して左右の曲げ補正量β、β’を入力しなくとも、曲げ角度α3の測定値から、補正した左右のD値を自動計算することができる。
【0047】
ただし、左右の曲げ補正量β、β’の計算を作業者自身が行い、操作パネル35によって第10及び第11表示項目362、363に左右の曲げ補正量β、β’を入力してもよい。この場合、制御装置30は、入力された左右の曲げ補正量β、β’に基づいて、補正した左右のD値を計算する。
【0048】
一方、通り補正が選択されている場合には、制御装置30は、左端、中央、右端の測定点毎に、曲げ補正量βを演算する。そして、制御装置30は、それぞれの測定点における曲げ補正量βに基づいて、ワークWの左端から右端までの間における曲げ角度が均一化するように、補正したテーブル出力を計算する。
【0049】
通り補正が選択された場合、制御装置30は、テーブル出力としてD値及びクラウニング出力の両方を補正する。しかしながら、制御装置30は、D値及びクラウニング出力の一方を補正するだけでもよい。
【0050】
図1に示すように、補正計算が終了すると、作業者は、操作パネル35を操作することで、プレスブレーキ1の動作を再開させて曲げ加工を第1工程から再開する(ステップS10)。ただし、補正計算が終了したことをトリガーに、制御装置30がプレスブレーキ1の動作を再開させた上で、第1工程から曲げ加工が自動的に再開するようにプレスブレーキ1を制御してもよい。
【0051】
再開後の第1工程では、1番目の加工位置P1を上型8と下型6とで加圧して、加工位置P1に対して曲げ加工を行う。この曲げ加工は、制御装置30の制御のもと、補正されたテーブル出力で行われる。第2工程、第3工程も同様に、各加工位置P2、P3に対して、補正されたテーブル出力で曲げ加工が行われる。
【0052】
そして、ステップS11で曲げ角度α3の測定を行い、補正の要否が判断される。補正が必要な場合には、ステップS13で補正計算が再度行われる。一方、補正が不要な場合には、ステップS14において、第4工程から第20工程まで曲げ加工が行われる。
【0053】
以上の通り説明した一連の工程を経て、20箇所の加工位置P1~P20でワークWが鈍角に曲げられ、これにより、ワークWは所望の曲げ角度で湾曲させられる。
【0054】
このように本実施形態の曲げ加工方法によれば、前工程に遡って曲げ加工が再開されるので、曲げ加工が既に行われた加工位置においても、補正されたテーブル出力に基づいてワークWが再加圧される。ワークWの再加圧により、補正前に実行された前工程において生じている目標値とのずれが矯正され、前工程に係る加工位置でも所望の曲げ状態を得ることができる。また、第M工程よりも後工程では、補正されたテーブル出力でワークWが加圧されるので、後工程に係る個々の加工位置でも所望の曲げ状態を得ることができる。したがって、それぞれの加工位置における曲げ状態のばらつきを抑制することができるので、製品品質の向上を図ることができる。
【0055】
本実施形態において、テーブル出力は、下部テーブル5の上端から上部テーブル7の下端までの相対的なストローク位置であるD値(デプス値)を含むことが好ましい。
【0056】
この曲げ加工方法によれば、計算工程においてデプス値を補正することができる。これにより、上型8と下型6とによるワークWの加圧量を調整することができるので、個々の加工位置で所望の曲げ状態を得ることができる。
【0057】
本実施形態において、テーブル出力は、上部テーブル7及び下部テーブル5のうち、一方のテーブルを他方のテーブルに対して湾曲させるクラウニング出力をさらに含むことが好ましい。
【0058】
この曲げ加工方法によれば、計算工程においてクラウニング出力を補正することができる。これにより、上型8と下型6とによるワークWの加圧量を調整することができるので、個々の加工位置で所望の曲げ状態を得ることができる。
【0059】
本実施形態において、第M工程は、第1工程から第N工程のうち、ワークWの曲げ角度の目標値が所定の角度範囲となる工程である。
【0060】
この曲げ加工方法によれば、測定工程を行うときの曲げ角度を限定することができる。これにより、ワークWの曲げ角度の測定精度、前工程に遡って曲げ加工を再開するときの加工精度を考慮することができる。
【0061】
本実施形態において、角度範囲は、165度以上175度以下である。
【0062】
ワークWの曲げ角度が175度よりも大きい場合、ワークWが平面に近い状態となっている。角度センサによる測定精度を考慮すると、ワークWの曲げ角度が175度以下の範囲で測定工程を行うことが好ましい。一方で、ワークWの曲げ角度が165度よりも小さくなると、曲げ加工の工程が進み、ワークWの後端側がバックゲージから離れてしまう。このため、ワークWをバックゲージに突き当てることができない。また、湾曲したワークWが作業者側にせり出すように立ち上がるので、作業者がワークWを保持することが困難となる。加えて、ワークWの曲げ角度が165度よりも小さいと、ワークWの湾曲が大きいので、前工程に遡って曲げ加工を再開するときに同一の加工位置を曲げ加工することが難しいという問題がある。そのため、角度範囲は、165度以上175度以下であることが好ましい。
【0063】
本実施形態において、計算工程は、ワークWの曲げ角度の測定値と、第M工程が終了したときのワークWの曲げ角度の目標値と差に基づいて、第N工程まで曲げ加工を継続したときの累積誤差を演算し、累積誤差を打ち消すようにテーブル出力を補正する。
【0064】
この曲げ加工方法によれば、ワークWの曲げ角度を測定すれば、補正したテーブル出力を自動計算することができる。これにより、より簡単にテーブル出力の補正を行うことができる。
【0065】
本実施形態において、測定工程において、ワークWの左端から右端までの間における1点でワークWの曲げ角度を計測した場合、計算工程は、1点における曲げ角度の計測値をワークW全体の曲げ状態とみなし、曲げ角度の測定値に基づいて、ワークWの左端から右端までのテーブル出力を一様に補正している。一方、測定工程において、ワークWの左端から右端までの間における複数点でワークWの曲げ角度を計測した場合、計算工程は、複数点におけるワークWの曲げ角度の計測値に基づいて、ワークWの左端から右端までの間における曲げ角度が均一化するようにテーブル出力を補正している。
【0066】
この曲げ加工方法によれば、1点においてワークWの曲げ角度を測定したときには、ワークW全体がその曲げ角度であるとみなすことで、テーブル出力を一様に補正することができる。また、複数点においてワークWの曲げ角度を測定することで、それぞれの曲げ角度に応じて補正を行うことができるので、曲げの通り精度を高めることができる。このように、曲げ角度を測定する点数に応じて補正方法を切り替えることができるので、作業者のニーズに応じた補正方法を選択することができる。
【0067】
なお、上述した実施形態では、第3工程の終了時に曲げ角度の測定及び補正値計算を行った。しかしながら、加工再開後、第4工程から第6工程まで終了したときに、曲げ角度の測定及び補正値計算を行い、その補正値計算の結果を受けて、第4工程から加工を再開しもよい。
【0068】
また、上述した実施形態では、第1工程まで遡って加工を再開したが、第1工程を意図的に排除して第2工程から加工を再開してもよい。ただし、第1工程まで遡って加工を再開する場合には、全ての加工位置で一様な曲げ状態となるので、最もばらつき抑制されることとなる。
【0069】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0070】
1 プレスブレーキ
3L、3R サイドフレーム
5 下部テーブル
6 下型
7 上部テーブル
8 上型
9R、9L 昇降機構
11 前板
13 後板
15L、15R 枢軸
19L、19R クラウニング機構
30 制御装置
35 操作パネル
350~356、360~363 表示項目
357~359 操作項目