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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034504
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/00 20060101AFI20240306BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B25B21/00 B
B25F5/00 G
B25B21/00 520A
B25B21/00 510C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138766
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】百枝 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】小阪 晃平
【テーマコード(参考)】
3C064
【Fターム(参考)】
3C064AA01
3C064AB02
3C064AC02
3C064AC03
3C064BA36
3C064BA40
3C064BB22
3C064BB25
3C064BB33
3C064BB71
3C064CA03
3C064CA06
3C064CA28
3C064CA53
3C064CA74
3C064CA78
3C064CB07
3C064CB13
3C064CB17
3C064CB62
3C064CB73
3C064CB76
(57)【要約】
【課題】作業の安定化を図る。
【解決手段】電動工具1は、モータ2と、出力軸6と、伝達機構3と、軸受け8Aと、カバー10Bと、規制構造H0と、を備える。出力軸6は、先端工具11と連結される。伝達機構3は、モータ2のトルクを出力軸6に伝達する。軸受け8Aは、出力軸6を回転可能に支持する。カバー10Bは、モータ2、伝達機構3及び軸受け8Aを収容する。規制構造H0は、出力軸6の軸方向における軸受け8Aの移動を規制し、出力軸6の軸方向に沿って出力軸6に加えられる力を軸受け8Aを介してカバー10Bに伝達する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
先端工具と連結される出力軸と、
前記モータのトルクを前記出力軸に伝達する伝達機構と、
前記出力軸を回転可能に支持する軸受けと、
前記モータ、前記伝達機構及び前記軸受けを収容するカバーと、
前記出力軸の軸方向における前記軸受けの移動を規制し、前記出力軸の軸方向に沿って前記出力軸に加えられる力を前記軸受けを介して前記カバーに伝達する規制構造と、を備える
電動工具。
【請求項2】
前記モータに流れる電流に基づいて、前記先端工具が出力する出力トルクに関連するトルク値を取得する取得部を更に備える
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記軸受けは、前記出力軸の軸方向に対向する第1端面及び第2端面を有し、
前記規制構造は、
前記カバーに設けられ、前記第1端面の少なくとも一部と接触する第1保持部と、
前記出力軸に設けられ、前記第2端面の少なくとも一部と接触する第2保持部と、有する
請求項1に記載の電動工具。
【請求項4】
前記出力軸と前記伝達機構とは、隙間嵌めによって係合される
請求項1に記載の電動工具。
【請求項5】
前記伝達機構と前記軸受けとは、前記出力軸の軸方向に離間している
請求項1に記載の電動工具。
【請求項6】
前記出力軸を回転可能に支持し、前記カバーに収容される第2軸受けを更に備え、
前記軸受けである第1軸受けは、前記第2軸受けと前記先端工具との間に配置され、
前記第2軸受けは、前記伝達機構と前記出力軸との係合部分において、前記伝達機構及び前記カバーに接触するように配置される
請求項1に記載の電動工具。
【請求項7】
前記伝達機構は、
前記モータからの動力によって回転する太陽歯車と、
前記太陽歯車の周囲に配置され、前記太陽歯車と噛み合う複数の遊星歯車と、
前記複数の遊星歯車の周囲に配置され、前記複数の遊星歯車と噛み合う内歯歯車と、
前記出力軸と係合し、前記複数の遊星歯車の各々を回転可能に支持するキャリアと、を有し、
前記第2軸受けは、前記キャリアと前記出力軸との係合部分において、前記キャリア及び前記カバーに接触するように配置される
請求項6に記載の電動工具。
【請求項8】
前記出力軸の軸方向と交差する方向から見て、前記出力軸の少なくとも一部と、前記キャリアの少なくとも一部と、前記第2軸受けの少なくとも一部と、が重なるように配置される
請求項7に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に電動工具に関し、より詳細には、モータを備える電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の可搬式電動工具は、駆動源である電動モータと、電動モータの回転動力を伝達する減速機構部と、減速機構部の回転動力を先端工具に伝達する駆動部と、駆動部を回転自在に保持する軸受部を内包する胴体部外郭と、電動モータへの電力供給を制御するスイッチ部を内包するグリップ部外郭と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-28840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたような可搬式電動工具(電動工具)において、電動工具の作業対象から先端工具及び駆動部に対してスラスト荷重が付加されることにより、作業が不安定になる可能性があった。
【0005】
本開示は上記事由に鑑みてなされ、作業の安定化を図ることが可能な電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電動工具は、モータと、出力軸と、伝達機構と、軸受けと、カバーと、規制構造と、を備える。前記出力軸は、先端工具と連結される。前記伝達機構は、前記モータのトルクを前記出力軸に伝達する。前記軸受けは、前記出力軸を回転可能に支持する。前記カバーは、前記モータ、前記伝達機構及び前記軸受けを収容する。前記規制構造は、前記出力軸の軸方向における前記軸受けの移動を規制し、前記出力軸の軸方向に沿って前記出力軸に加えられる力を前記軸受けを介して前記カバーに伝達する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、作業の安定化を図ることが可能な電動工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る電動工具の断面図である。
図2図2は、同上の電動工具の外観斜視図である。
図3図3は、同上の電動工具の要部の断面図である。
図4図4は、同上の電動工具のブロック図である。
図5図5は、同上の電動工具が備える伝達機構を前方から見た分解斜視図である。
図6図6は、同上の電動工具が備える伝達機構を後方から見た分解斜視図である。
図7図7は、同上の電動工具が備える規制構造によるトルク値の安定化の効果を説明するためのグラフである。
図8図8は、同上の電動工具が備える規制構造によるトルク値の安定化の効果を説明するためのグラフである。
図9図9は、同上の電動工具の要部の断面図である。
図10図10は、同上の電動工具が備える第2軸受けによるトルク値の安定化の効果を説明するためのグラフである。
図11図11は、同上の電動工具が備える第2軸受けによるトルク値の安定化の効果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態に係る電動工具1について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態及び変形例は、本開示の一例に過ぎず、本開示は、実施形態及び変形例に限定されない。この実施形態及び変形例以外であっても、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。図面中の各向きを示す矢印は一例であり、電動工具1の使用時の向きを規定する趣旨ではない。また、図面中の各向きを示す矢印は説明のために表記しているに過ぎず、実体を伴わない。
【0010】
(1)概要
まず、本実施形態の電動工具1の概要について、図1図3を参照して説明する。
【0011】
本実施形態の電動工具1は、図1に示すように、モータ2と、出力軸6と、伝達機構3と、軸受け8Aと、カバー10Bと、規制構造H0と、を備える。
【0012】
出力軸6は、ねじ及びボルト等の締結部品を締め付けるドライバビット等の先端工具11と連結される。
【0013】
伝達機構3は、モータ2のトルクを出力軸6に伝達する。
【0014】
軸受け8Aは、出力軸6を回転可能に支持する。
【0015】
カバー10Bは、モータ2、伝達機構3及び軸受け8Aを収容する。
【0016】
規制構造H0は、出力軸6の軸方向における軸受け8Aの移動を規制し、出力軸6の軸方向に沿って出力軸6に加えられる力(スラスト荷重)F1(図3参照)を軸受け8Aを介してカバー10Bに伝達する。
【0017】
本実施形態の電動工具1によれば、図3に示すように、出力軸6の軸方向に沿って出力軸6に加えられるスラスト荷重F1はカバー10Bに伝達されるので、出力軸6に加えられるスラスト荷重F1をカバー10Bで受けることができる。したがって、出力軸6の偏芯を抑制することができ、電動工具1による作業の安定化を図ることができる。
【0018】
(2)電動工具の構成
以下、本実施形態の電動工具1の構成について詳細に説明する。
【0019】
以下の説明では、出力軸6の軸方向に沿って、図1等に示すように、モータ2側から出力軸6側への向きを前方とし、出力軸6側からモータ2側への向きを後方とする。また、前方及び後方と直交する向きに沿って、グリップ部102側から胴体部101への向きを上方とし、胴体部101側からグリップ部102側への向きを下方とする。
【0020】
電動工具1は、ドリルドライバ等の、作業者が片手で把持可能な可搬型の電動工具である。電動工具1は、図1図2及び図4に示すように、モータ2と、出力軸6と、伝達機構3と、軸受け(第1軸受け)8Aと、カバー10Bと、規制構造H0と、ハウジング10Aと、慣性体4と、スイッチ13と、制御部7と、記憶部9と、を備えている。また、電動工具1は、出力軸6を回転可能に支持し、カバー10Bに収容される第2軸受け8Bを更に備える。
【0021】
ハウジング10Aは、胴体部101と、グリップ部102と、装着部103とを有している。胴体部101の形状は、後端が有底の筒状である。
【0022】
胴体部101は、モータ2と、伝達機構3と、第1軸受け8Aと、第2軸受け8Bと、を収容している。詳細には、胴体部101は、カバー10Bを収容し、伝達機構3、第1軸受け8A及び第2軸受け8Bはカバー10Bに収容されている。
【0023】
グリップ部102は、胴体部101から下方に突出している。グリップ部102は、制御部7を収容している。
【0024】
装着部103は、グリップ部102の先端部(下端部)に設けられている。換言すると、胴体部101と装着部103とが、グリップ部102にて連結されている。装着部103は、電池パック14が取り外し可能に装着されるように構成されている。
【0025】
電動工具1には、充電式の電池パック14が着脱可能に取り付けられる。本実施形態の電動工具1は、電池パック14を電源として動作する。すなわち、電池パック14は、モータ2を駆動する電流を供給する電源部14Aである。電池パック14は、電動工具1の構成要素ではない。ただし、電動工具1は、電池パック14を備えていてもよい。電池パック14は、複数の二次電池(例えば、リチウムイオン電池)を直列接続して構成された組電池と、組電池を収容したケースと、を備えている。
【0026】
モータ2は電動工具1における動力源である。モータ2は、例えばブラシレスモータである。特に、本実施形態のモータ2は、同期電動機であり、より詳細には、永久磁石同期電動機(Permanent Magnet Synchronous Motor:PMSM)である。モータ2は、永久磁石を備えた回転子と、3相(U相、V相、W相)分の電機子巻線を備えた固定子とを備える。モータ2の回転子は駆動軸21を有している。モータ2は、電池パック14から供給される電力を駆動軸21のトルクに変換する。
【0027】
出力軸6の前端には、図1及び図2に示すように、取付部12によってドライバビット等の先端工具11が連結される。つまり、出力軸6が回転するのに伴い、先端工具11が回転する。ドライバビットである先端工具11が出力軸6の前端に取り付けられている場合、先端工具11がねじ等の作業対象にセットされた状態で先端工具11が回転することにより、相手部材に対して作業対象を締め付ける又は緩めるといった作業が可能となる。
【0028】
取付部12及び先端工具11は、電動工具1の構成要素ではない。ただし、電動工具1は、取付部12及び先端工具11のうち少なくとも一方を備えていてもよい。
【0029】
伝達機構3は、モータ2の前方に配置される。伝達機構3には、モータ2の駆動軸21及び出力軸6が機械的に接続されている。伝達機構3は、モータ2のトルクを出力軸6に伝達する。
【0030】
本実施形態の伝達機構3は、図1図3図5及び図6に示すように、第1減速機構3Aと、第2減速機構3Bと、第3減速機構3Cと、を有している。
【0031】
第1減速機構3A、第2減速機構3B及び第3減速機構3Cの各々は、モータ2の駆動軸21の回転速度とトルクとを、作業対象に対する作業(例えばねじ回し動作)に必要な回転速度とトルクとに変換する遊星歯車機構である。第1減速機構3A、第2減速機構3B及び第3減速機構3Cは、前方から第3減速機構3C、第2減速機構3B、第1減速機構3Aの順で配置されている。
【0032】
第1減速機構3Aは、図1図3図5及び図6に示すように、第1太陽歯車31Aと、複数(例えば3つ)の第1遊星歯車32Aと、第1内歯歯車33Aと、第1キャリア34Aと、を含む。第1太陽歯車31Aは、図1に示すように、モータ2の駆動軸21と結合している。3つの第1遊星歯車32Aは、第1太陽歯車31Aの周囲に配置され、第1太陽歯車31Aと噛み合う。第1内歯歯車33Aは、3つの第1遊星歯車32Aの周囲に配置され、3つの第1遊星歯車32Aと噛み合う。第1キャリア34Aは、3つの第1遊星歯車32Aの各々の回転軸35Aを支持している。詳細には、第1キャリア34Aは、第1キャリア34Aに対して3つの第1遊星歯車32Aの各々が回転可能に支持する。このとき、第1キャリア34Aは、回転軸35Aを第1キャリア34Aに対して回転可能に支持する。この場合、回転軸35Aは第1遊星歯車32Aに固定されている。なお、回転軸35Aは第1キャリア34Aに固定されていてもよい。この場合、回転軸35Aは第1遊星歯車32Aに対して回転可能に支持される。このように、第1減速機構3Aは、駆動軸21の回転を、第1キャリア34Aの回転に変換する。
【0033】
第2減速機構3Bは、図1図3図5及び図6に示すように、第2太陽歯車31Bと、複数(例えば3つ)の第2遊星歯車32Bと、第2内歯歯車33Bと、第2キャリア34Bと、を含む。第2太陽歯車31Bは、図3図5に示すように、第1キャリア34Aと一体に形成されている。つまり、第1キャリア34Aと第2太陽歯車31Bとは一体となって回転する。3つの第2遊星歯車32Bは、第2太陽歯車31Bの周囲に配置され、第2太陽歯車31Bと噛み合う。第2内歯歯車33Bは、3つの第2遊星歯車32Bの周囲に配置され、3つの第2遊星歯車32Bと噛み合う。第2キャリア34Bは、3つの第2遊星歯車32Bの各々の回転軸35Bを支持する。詳細には、第2キャリア34Bは、第2キャリア34Bに対して3つの第2遊星歯車32Bの各々が回転可能に支持する。すなわち、第2減速機構3Bは、第1キャリア34Aの回転を、第2キャリア34Bの回転に変換する。
【0034】
第3減速機構3Cは、図1図3図5及び図6に示すように、第3太陽歯車31Cと、複数(例えば5つ)の第3遊星歯車32Cと、第3内歯歯車33Cと、第3キャリア34Cと、を含む。第3太陽歯車31Cは、図3図5に示すように、第2キャリア34Bと一体に形成されており、第2キャリア34Bと第3太陽歯車31Cとは一体となって回転する。つまり、第3太陽歯車31Cは、第1減速機構3A及び第2減速機構3Bを介して、モータ2からの動力によって回転する。5つの第3遊星歯車32Cは、第3太陽歯車31Cの周囲に配置され、第3太陽歯車31Cと噛み合う。第3内歯歯車33Cは、5つの第3遊星歯車32Cの周囲に配置され、5つの第3遊星歯車32Cと噛み合う。第3キャリア34Cは、5つの第3遊星歯車32Cの各々の回転軸35Cを支持する。詳細には、第3キャリア34Cは、第3キャリア34Cに対して5つの第3遊星歯車32Cの各々が回転可能に支持する。具体的には、第3キャリア34Cは、円環状の円板部36と、円板部36から前方に突出する中空円筒状の円筒部37と、を有し、円板部36が、5つの第3遊星歯車32Cの各々の回転軸35Cを支持する。また、円筒部37の中心部に設けられた係合孔38(図5等参照)と出力軸6とは、円周方向においては一方に設けられた突部が他方に設けられた凹部と係合することによって、円周方向において出力軸6に対する円筒部37の回転が規制された状態で組み合わされている。また、係合孔38と出力軸6とは隙間嵌めで嵌合している。つまり、出力軸6と伝達機構3とは隙間嵌めによって係合される。つまり、出力軸6は、軸方向に沿って出力軸6に伝達される力を第3キャリア34Cに伝達しない状態で第3キャリア34Cと係合している。また、出力軸6は、第3キャリア34Cに対して回転が規制された状態で第3キャリア34Cと係合しているため、出力軸6は第3キャリア34Cと一体となって回転する。すなわち、第3減速機構3Cは、第2キャリア34Bの回転を、出力軸6の回転に変換する。
【0035】
第1軸受け8Aは、カバー10Bの先端部に収容され、出力軸6を回転可能に支持する。第1軸受け8Aは例えば中空円柱状のボールベアリングであり、図3に示すように、外輪81Aと、内輪82Aと、球状の転動体と、を有する。第1軸受け8Aは、外輪81Aがカバー10Bによって保持された状態で、内輪82Aによって出力軸6を回転可能に支持する。また、第1軸受け8Aは、出力軸6の軸方向(前後方向)に対向する第1端面S1及び第2端面S2を有する。第1端面S1は、モータ2側の端面であり、第2端面S2は先端工具11側の端面である。第1軸受け8Aは、第1端面S1が第3キャリア34Cと前後方向において離間した状態で設けられている。
【0036】
ここで、カバー10Bには、第1端面S1の少なくとも一部と接触する第1保持部H1が設けられる。第1保持部H1は、例えばカバー10Bの内壁から内側に突出した環状の部位である。第1端面S1と第1保持部H1とは、前後方向において接触している。なお、第1保持部H1は環状に限定されず、突起状等の部位であってもよい。
【0037】
また、出力軸6には、第2端面S2の少なくとも一部と接触する第2保持部H2が設けられる。第2保持部H2は、例えば出力軸6の表面から外側に突出した環状の部位である。第2端面S2と、第2保持部H2とは、前後方向において接触している。なお、第2保持部H2は環状に限定されず、突起状等の部位であってもよい。
【0038】
このように、第1軸受け8Aは、前後方向において第1保持部H1と第2保持部H2とに挟持され、前後方向における移動が規制される。つまり、第1保持部H1及び第2保持部H2は、出力軸6の軸方向(前後方向)における第1軸受け8Aの移動を規制する規制構造H0を構成する。
【0039】
第2軸受け8Bは、第1軸受け8A及び第1保持部H1の後方において、カバー10Bに収容され、出力軸6を回転可能に支持する。ここで、図3に示すように、出力軸6には、第1軸受け8Aよりも前方において、取付部12によって先端工具11が取り付けられる。したがって、第1軸受け8Aは、第2軸受け8Bと先端工具11との間に配置される。
【0040】
第2軸受け8Bは例えば中空円柱状のボールベアリングであり、図3に示すように、外輪81Bと、内輪82Bと、球状の転動体と、を有する。第2軸受け8Bは、外輪81Bがカバー10Bによって保持された状態で、内輪82Bによって第3キャリア34Cの円筒部37を保持する。ここで、円筒部37と出力軸6は係合している。したがって、第2軸受け8Bは、第3キャリア34Cと出力軸6との係合部分において、第3キャリア34C及びカバー10Bに接触するように配置される。つまり、第2軸受け8Bは、伝達機構3と出力軸6との係合部分において、伝達機構3及びカバー10Bに接触するように配置される。
【0041】
慣性体4は、図1に示すように、第1減速機構3Aとモータ2との間に配置されている。具体的には、慣性体4は、モータ2の前方かつ第1減速機構3Aの後方に配置されている。慣性体4は、駆動軸21と機械的に接続されており、慣性体4は、駆動軸21と一体となって回転する。慣性体4は、いわゆるフライホイールであり、モータ2(駆動軸21)のトルクの慣性力を増加させる。
【0042】
スイッチ13は、図1に示すように、グリップ部102から前方に突出している。スイッチ13は、モータ2を制御するためにユーザが行う操作を受け付ける操作部である。具体的には、作業者は、スイッチ13を引く操作により、モータ2のオン/オフを切替可能である。また、スイッチ13を引く操作の引込み量で、駆動軸21の回転速度を調整可能であり、例えばスイッチ13の引込み量が大きいほど、駆動軸21の回転速度が速くなる。
【0043】
記憶部9は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等からなる。記憶部9は、制御部7が実行する制御プログラムを記憶する。また記憶部9は、締付トルクの設定値(設定トルク)等を記憶する。
【0044】
制御部7は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部7の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0045】
制御部7は、図4に示すように、取得部71及び駆動制御部72を有する。なお、取得部71及び駆動制御部72は、必ずしも実体のある構成を示しているわけではなく、制御部7によって実現される機能を示している。
【0046】
取得部71は、モータ2に流れる電流量に基づいて、先端工具11が出力する出力トルクに関連するトルク値を取得する。
【0047】
駆動制御部72は、モータ2を制御する。駆動制御部72は、例えばベクトル制御でモータ2を制御する。駆動制御部72は、モータ2に供給する電流であるモータ電流を、トルクを発生するトルク電流(q軸電流)と磁束を発生させる励磁電流(d軸電流)とに分解し、それぞれの電流成分を独立に制御する。なお、駆動制御部72がモータ2を制御する方法は、ベクトル制御に限定されず、ベクトル制御とは異なる制御方法であってもよい。
【0048】
駆動制御部72は、取得部71によって測定されたトルク値が、予め記憶部9に記憶されている設定トルクに一致するようにモータ2を制御する。例えば、取得部71によって検出されたトルク値と設定トルクとの誤差が所定の許容範囲(例えば設定トルクの±20%)に収まると、駆動制御部72はモータ2を制御して駆動軸21の回転を停止させる。
【0049】
(3)利点
本実施形態の電動工具1は作業対象(例えばねじ等)に先端工具を押し付けて作業を行うため、先端工具11及び先端工具11と連結された出力軸6には、図3に示すように、出力軸6の軸方向(前後方向)に沿ったスラスト荷重F1が反力として作業対象から加えられる。上述のように、電動工具1は、前後方向において第1軸受け8Aを挟持する規制構造H0(第1保持部H1及び第2保持部H2)を有する。これにより、軸方向に沿って出力軸6に加えられたスラスト荷重F1は、出力軸6に設けられた第2保持部H2から第1軸受け8Aの第2端面S2に伝達される。そして、第2端面S2に伝達されたスラスト荷重F1は、第1端面S1からカバー10Bに設けられる第1保持部H1に力F2として伝達される。つまり、出力軸6に加えられるスラスト荷重F1は力F2に分散される。これにより、出力軸6の偏芯を抑制することができ、電動工具1による作業の安定化を図ることができる。
【0050】
また、伝達機構3は、前後方向に沿った力がカバー10Bから伝達されないようにカバー10Bに収容されている。したがって、第1保持部H1に伝達されたスラスト荷重F1は、伝達機構3の第3キャリア34Cに伝達されない。また、出力軸6と第3キャリア34Cの係合孔38とは隙間嵌めによって係合しているため、出力軸6に加えられたスラスト荷重F1は第3キャリア34Cの円筒部37に伝達されない。さらに、第1軸受け8Aと第3キャリア34Cとは前後方向において離間しているため、例えば第1保持部H1が第1端面S1から伝達されるスラスト荷重F1によって変形した場合等においても第1軸受け8Aと第3キャリア34Cとが接触しない。これにより、第1軸受け8Aに伝達されたスラスト荷重F1は、第1軸受け8Aから第3キャリア34Cに伝達されない。
【0051】
これらにより、伝達機構3に前後方向に沿ったスラスト荷重F1が加わったとしても、伝達機構3に含まれる複数の歯車間における摩擦力の発生を抑制することができ、取得部71が取得するトルク値を安定化させることができる。詳細には、取得部71が、伝達機構3における摩擦力に起因するモータ2に流れる電流量の変化を検出することを防ぐことで、トルク値を安定化させることができる。
【0052】
以下に、規制構造H0によるトルク値の安定化の効果を図7及び図8を参照して説明する。図7の縦軸は、規制構造H0を有していない比較例1の電動工具において、出力軸にスラスト荷重F1を加えた場合のトルク値を示している。また、図8の縦軸は、規制構造H0を有する本実施形態の電動工具1において、出力軸にスラスト荷重F1を加えた場合のトルク値を示している。図7及び図8に示すように、本実施形態の電動工具1においては、比較例1の電動工具と比較してトルク値のばらつきが小さく、図8中に示した全てのトルク値が規格範囲内に収まっている。
【0053】
また、本実施形態の電動工具1による作業対象(例えばねじ等)への作業時において、例えば電動工具1を保持する作業者の動作等によって、先端工具11及び出力軸6に、出力軸6の軸方向と交差する方向に沿った力(ラジアル荷重)F3(図9参照)が加えられる場合がある。上述のように、電動工具1は伝達機構3と出力軸6との係合部分において、伝達機構3及びカバー10Bに接触するように配置される第2軸受け8Bを備えている。更に詳細には、第2軸受け8Bは、出力軸6の軸方向と交差する方向から見て、出力軸6の少なくとも一部と、第3キャリア34Cの少なくとも一部と、第2軸受け8Bの少なくとも一部と、が重なるように配置されている。すなわち、出力軸6は、第3キャリア34Cを介して第2軸受け8Bに支持されており、さらには第2軸受け8Bと接触するカバー10Bによって支持される。
【0054】
これにより、出力軸6にラジアル荷重F3が加えられた場合でも、出力軸6に加えられたラジアル荷重F3をカバー10Bで受けることができるから、ラジアル荷重F3によって伝達機構3に加わる外力を低減できる。したがって、伝達機構3に含まれる複数の歯車間における摩擦力の発生を抑制することができ、取得部71が取得するトルク値を安定化させることができる。
【0055】
以下に、第2軸受け8Bによるトルク値の安定化の効果を図10及び図11を参照して説明する。図10の縦軸は、第2軸受け8Bを有していない比較例2の電動工具において、出力軸にラジアル荷重F3を加えた場合のトルク値を示している。また、図11の縦軸は、第2軸受け8Bを有する本実施形態の電動工具1において、出力軸6にラジアル荷重F3を加えた場合のトルク値を示している。図10及び図11に示すように、本実施形態の電動工具1においては、比較例2の電動工具と比較してトルク値のばらつきが小さく、図11中に示した全てのトルク値が規格範囲内に収まっている。
【0056】
このように、本実施形態の電動工具1によれば、作業の安定化を図ることができる。
【0057】
(4)変形例
上記実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0058】
以下、上記実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0059】
本開示における電動工具1は、制御部7にコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における制御部7としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1又は複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なる。IC又はLSI等の集積回路は、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスも、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。ここでいうコンピュータシステムは、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを含む。したがって、マイクロコントローラについても、半導体集積回路又は大規模集積回路を含む1又は複数の電子回路で構成される。
【0060】
電動工具1には、ドライバビットの代わりにソケットが先端工具11として取り付けられてもよい。さらに、電動工具1は、電池パック14を電源とする構成に限らず、交流電源(商用電源)を電源とする構成であってもよい。
【0061】
(5)まとめ
以上説明したように、第1の態様の電動工具(1)は、モータ(2)と、出力軸(6)と、伝達機構(3)と、軸受け(8A)と、カバー(10B)と、規制構造(H0)と、を備える。出力軸(6)は、先端工具(11)と連結される。伝達機構(3)は、モータ(2)のトルクを出力軸(6)に伝達する。軸受け(8A)は、出力軸(6)を回転可能に支持する。カバー(10B)は、モータ(2)、伝達機構(3)及び軸受け(8A)を収容する。規制構造(H0)は、出力軸(6)の軸方向における軸受け(8A)の移動を規制し、出力軸(6)の軸方向に沿って出力軸(6)に加えられる力(F1)を軸受け(8A)を介してカバー(10B)に伝達する。
【0062】
この態様によれば、出力軸(6)の軸方向に沿って出力軸(6)に加えられる力(F1)はカバー(10B)に伝達されるので、出力軸(6)に加えられる力(F1)をカバー(10B)で受けることができる。したがって、出力軸(6)の偏芯を抑制することができ、電動工具(1)による作業の安定化を図ることができる。
【0063】
第2の態様の電動工具(1)は、第1の態様において、モータ(2)に流れる電流に基づいて、先端工具(11)が出力する出力トルクに関連するトルク値を取得する取得部(71)を更に備える。
【0064】
この態様によれば、取得部(71)が取得したトルク値と予め設定された設定トルクとを比較することにより、適正なトルクで作業対象に対して作業を行うことができる。
【0065】
第3の態様の電動工具(1)では、第1又は第2の態様において、軸受け(8A)は、出力軸(6)の軸方向に対向する第1端面(S1)及び第2端面(S2)を有する。規制構造(H0)は、カバー(10B)に設けられ、第1端面(S1)の少なくとも一部と接触する第1保持部(H1)と、出力軸(6)に設けられ、第2端面(S2)の少なくとも一部と接触する第2保持部(H2)と、有する。
【0066】
この態様によれば、第1保持部(H1)と第2保持部(H2)とで軸受け(8A)を挟持することで、軸受け(8A)の前後方向における移動を規制することができる。
【0067】
第4の態様の電動工具(1)では、第1~第3のいずれかの態様において、出力軸(6)と伝達機構(3)とは、隙間嵌めによって係合される。
【0068】
この態様によれば、出力軸(6)に加えられた軸方向の力(F1)が伝達機構(3)に伝達されるのを抑制できる。
【0069】
第5の態様の電動工具(1)では、第1~第4のいずれかの態様において、伝達機構(3)と軸受け(8A)とは、出力軸(6)の軸方向に離間している。
【0070】
この態様によれば、例えば第1保持部(H1)が第1端面(S1)から伝達される力(F1)によって後方に一時的に変形した場合等においても軸受け(8A)と伝達機構(3)とが接触する可能性を低減できる。これにより、軸受け(8A)に伝達された力(F1)が、軸受け(8A)から伝達機構(3)に伝達される可能性を低減できる。
【0071】
第6の態様に係る電動工具(1)は、第1~第5のいずれかの態様において、出力軸(6)を回転可能に支持し、カバー(10B)に収容される第2軸受け(8B)を更に備える。軸受け(8A)である第1軸受け(8A)は、第2軸受け(8B)と先端工具(11)との間に配置される。第2軸受け(8B)は、伝達機構(3)と出力軸(6)との係合部分において、伝達機構(3)及びカバー(10B)に接触するように配置される。
【0072】
この態様によれば、出力軸(6)が伝達機構(3)を介して第2軸受け(8B)及び第2軸受け(8B)と接触するカバー(10B)によって支えられる。これにより、出力軸(6)に出力軸(6)の軸方向と交差する方向に沿った力(F3)が加えられた場合に、出力軸(6)の偏芯を抑制することができ、電動工具(1)による作業の安定化を図ることができる。
【0073】
第7の態様に係る電動工具(1)では、第6の態様において、伝達機構(3)は、太陽歯車(31C)と、複数の遊星歯車(32C)と、内歯歯車(33C)と、キャリア(34C)と、を有する。太陽歯車(31C)は、モータ(2)からの動力によって回転する。複数の遊星歯車(32C)は、太陽歯車(31C)の周囲に配置され、太陽歯車(31C)と噛み合う。内歯歯車(33C)は、複数の遊星歯車(32C)の周囲に配置され、複数の遊星歯車(32C)と噛み合う。キャリア(34C)は、出力軸(6)と係合し、複数の遊星歯車(32C)の各々の回転軸(35C)を支持する。第2軸受け(8B)は、キャリア(34C)と出力軸(6)との係合部分において、キャリア(34C)及びカバー(10B)に接触するように配置される。
【0074】
この態様によれば、出力軸(6)がキャリア(34C)を介して第2軸受け(8B)及び第2軸受け(8B)と接触するカバー(10B)によって支えられる。これにより、出力軸(6)に出力軸(6)の軸方向と交差する方向に沿った力(F3)が加えられた場合に、出力軸(6)の偏芯を抑制することができ、電動工具(1)による作業の安定化を図ることができる。
【0075】
第8の態様に係る電動工具(1)では、第7の態様において、出力軸(6)の軸方向と交差する方向から見て、出力軸(6)の少なくとも一部と、キャリア(34C)の少なくとも一部と、第2軸受け(8B)の少なくとも一部と、が重なるように配置される。
【0076】
この態様によれば、出力軸(6)がキャリア(34C)を介して第2軸受け(8B)及び第2軸受け(8B)と接触するカバー(10B)によって支えられる。これにより、出力軸(6)に出力軸(6)の軸方向と交差する方向に沿った力(F3)が加えられた場合に、出力軸(6)の偏芯を抑制することができ、電動工具(1)による作業の安定化を図ることができる。
【0077】
なお、第2~第8の態様は電動工具(1)に必須の構成ではなく、適宜省略が可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 電動工具
2 モータ
3 伝達機構
6 出力軸
11 先端工具
71 取得部
10B カバー
31C 太陽歯車
32C 遊星歯車
33C 内歯歯車
34C キャリア
8A 軸受け
8B 第2軸受け
F1 力
H0 規制構造
H1 第1保持部
H2 第2保持部
S1 第1端面
S2 第2端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11