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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034516
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】椅子の身体支持部
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/00 20060101AFI20240306BHJP
   A47C 7/16 20060101ALI20240306BHJP
   A47C 7/40 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A47C7/00 B
A47C7/16
A47C7/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138782
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】横山 剛士
(72)【発明者】
【氏名】近藤 駿介
【テーマコード(参考)】
3B084
【Fターム(参考)】
3B084EA03
3B084EC01
3B084EC03
(57)【要約】
【課題】背枠体に背板が後付けされる背もたれにおいて、背板をエラストマ製にして高いフィット性・クッション性を確保しつつ、高い取り付け強度と美感を確保する。
【解決手段】背板29はエラストマ製であり、その外周部の裏面に補強プレート37,38がインサート成型によって固定されている。補強プレート37,38は、係合部44,47とビス53とによって背枠7,10に固定されている。背板29の前面には、縁部材34,35,36を介して張地30が配置されている。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座者の荷重の作用方向である表裏方向に開口したフレーム材と、前記フレーム材に表側から重ね配置された身体受け板とを有しており、
前記身体受け板のうち前記フレーム材と重なっている部位の裏面に、前記身体受け板に固定された補強プレートが配置されて、前記補強プレートが前記フレーム材に取り付けられている、
椅子の身体支持部。
【請求項2】
前記身体受け板は軟質の素材であり、前記補強プレートは前記身体受け板にインサート成型されている、
請求項1に記載した椅子の身体支持部。
【請求項3】
前記補強プレートは、後面を除いて前記背板で覆われている、
請求項2に記載した椅子の身体支持部。
【請求項4】
前記フレーム材は背フレームで前記身体受け板は背板であり、
前記背フレームは、上下に長い左右のサイドメンバーと、前記左右のサイドメンバーの上端間に繋がったアッパーメンバーと、前記左右のサイドメンバーの下端間に繋がったロアメンバーとを有して、少なくとも前記左右のサイドメンバーは前向きに開口した長溝を有している一方、
前記補強プレートの裏面は前記長溝に嵌合する形態になっており、前記補強プレートと背フレームとに、前記補強プレートを重ねて上下方向にずらすと係合して離反不能に保持する係合部が形成されている、
請求項1~3のうちのいずれかに記載した椅子の身体支持部。
【請求項5】
前記補強プレートは左右側部とアッパー部とロア部とを有しており、少なくとも前記アッパー部とロア部とはビスによって前記背フレームに固定されている、
請求項4に記載した椅子の身体支持部。
【請求項6】
前記背フレームのサイドメンバーは中途高さを支点にして側面視で屈曲可能であり、前記補強プレートのサイド部は、前記背フレームの屈曲の支点になる部位を挟んで上下に分離している、
請求項4又は5に記載した椅子の身体支持部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、身体受け板がフレーム材に後付けされている椅子における前記身体支持部に関するものである。ここに、身体支持部には、背もたれや座、肱当て、ヘッドレストなどが含まれる。
【背景技術】
【0002】
椅子の背もたれや座に関して、フィット性とクッション性とを向上させるために多くの提案が成されている。その手段として、例えば背もたれにおいて、背板をエラストマのような柔軟な素材で構成することが提案されており、その一例が特許文献1に開示されている。
【0003】
すなわち、特許文献1では、背もたれの外周部を構成するループ状の背フレームにエラストマ製の背板を固定してなる構造において、背フレームのうち支持部材に取り付く分を除いた部分を背板の外周部で抱持している。具体的には、インサート成型法により、背フレームの大部分を背板の外周部で抱持している。
【0004】
特許文献1は本願出願人の出願に係るもので、背フレームは外部に露出せずに背もたれが背板のみで構成されているかのような外観を呈するため、斬新なデザインとして市場で高い評価を受けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-103065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は背フレームの露出を防止しているが、背フレームに背板を後付けするタイプの椅子は広く使用されており、そこで、背板が背フレームに後付けされるタイプの背もたれについても、背板をエラストマ製として高いフィット性・クッション性を保持して欲しいとの要望があると云える。
【0007】
しかし、エラストマはポリプロピレンのような汎用樹脂に比べて強度が低いため、単に背板をエラストマ製に置き換えただけでは、必要な固定強度を確保できないおそれがある。また、補強部材を設けた場合、これが露出して美感を悪化させることは回避せねばならない。
【0008】
本願発明はこのような現状を背景になされたものであり、背もたれ等の身体支持部に関して、美感の悪化をもたらすことなく必要な強度と高いフィット性・クッション性を保持できる技術を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は様々な構成を含んであり、その典型例を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明に係る身体支持では、
「着座者の荷重の作用方向である表裏方向に開口したフレーム材と、前記フレーム材に表側から重ね配置された身体受け板とを有しており、
前記身体受け板のうち前記フレーム材と重なっている部位の裏面に、前記身体受け板に固定された補強プレートが配置されて、前記補強プレートが前記フレーム材に取り付けられている」
という構成になっている。
【0010】
請求項2の発明は請求項1を具体化したものであり、
「前記身体受け板は軟質の素材であり、前記補強プレートは前記身体受け板にインサート成型されている」
という構成になっている。
【0011】
請求項3の発明は請求項2の具体例であり、
「前記補強プレートは、後面を除いて前記背板で覆われている」
という構成になっている。請求項2の構成に加えてまたはこれに代えて、補強プレートに多数の貫通穴を形成して、背板の肉を貫通穴に入り込ませることも可能である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1~3のうちのいずれかにおいて、
「前記フレーム材は背フレームで前記身体受け板は背板であり、
前記背フレームは、上下に長い左右のサイドメンバーと、前記左右のサイドメンバーの上端間に繋がったアッパーメンバーと、前記左右のサイドメンバーの下端間に繋がったロアメンバーとを有して、少なくとも前記左右のサイドメンバーは前向きに開口した長溝を有している一方、
前記補強プレートの裏面は前記長溝に嵌合する形態になっており、前記補強プレートと背フレームとに、前記補強プレートを重ねて上下方向にずらすと係合して離反不能に保持する係合部が形成されている」
という構成になっている。
【0013】
請求項4において、係合部に背板の上向き動阻止機能を併有させたり、背板の上向き動阻止機能を有する係合部を別に設けたりして、補強プレートをビス無しで背フレームに取り付けることが可能である。或いは、係合部による取り付けに加えて、ビス止めによる固定を併有することも可能である。
【0014】
請求項5の発明は請求項4の展開例であり、
「前記補強プレートは左右側部とアッパー部とロア部とを有しており、少なくとも前記アッパー部とロア部とはビスによって前記背フレームに固定されている」
という構成になっている。
【0015】
請求項6の発明は請求項4又は5の展開例であり、
「前記背フレームのサイドメンバーは中途高さを支点にして側面視で屈曲可能であり、前記補強プレートのサイド部は、前記背フレームの屈曲の支点になる部位を挟んで上下に分離している」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0016】
本願発明では、背板の身体受け板は補強プレートを介して背フレームに取り付けられているため、身体受け板として最適な材料を選定しつつ確実な固定強度を確保できる。例えば、身体受け板が柔軟な素材又は構造になっていても、補強プレートに対して強固に取り付けできる。従って、背板等の身体受け板に柔軟性を持たせて高いフィット性とクッション性とを確保しつつ、フレーム材に強固に取り付けることができる。そして、補強プレートは身体受け板とフレーム材との間に隠れて露出しないため、美感が悪化することはない。
【0017】
背板等の身体受け板に柔軟性を持たせる手段の1つは、身体受け板をエラストマのような柔軟な素材で作ることがある。他の手段としては、身体受け板の素材としてポリプロピレンのような汎用合成樹脂を使用しつつ、多数のスリット又は穴を空けたり、ヒンジ機能を有する多数の薄肉部を設けたりすることができる。身体受け板をエラストマ製とした場合も、更に撓み変形しやすくしたりデザイン上の要請に応えたりするために、スリットの群やリブの群などを設けることは可能である。
【0018】
請求項2のように、身体受け板を補強プレートにインサート成型すると、身体受け板としてエラストマのような柔軟な素材を使用することが容易になる。また、補強プレートと身体受け板との固定強度を向上できる利点や、組み付け誤差を無くして品質を安定化できる利点もある。
【0019】
請求項3の構成を採用すると、補強プレートと身体受け板との密着面積の増大と、補強プレートと身体受け板との噛み合い効果との相乗効果により、身体受け板と補強プレートとの固定強度を更に向上できる。補強プレートの露出にる美感の悪化も確実に防止できる。補強プレートに貫通穴の群を形成してこの貫通穴に身体受け板の肉を入り込ませると、アンカー効果によって身体受け板と補強プレートとの固定強度を更に向上できる。請求項3の構成と貫通穴とは、いずれか一方を採用してもよいし、両方を採用してもよい。
【0020】
請求項4のように係合部を設けると、背板を背フレームに容易に取り付けることができる。従って、背もたれの組み立て作業の能率を向上できる。なお、ビス止めも併有できるが、この場合、背もたれは係合部によって所定姿勢に保持されているため、ビス止めの作業を迅速に行える。ビスの本数を軽減することも可能である。
【0021】
背もたれでは、背板は、背フレームの左右サイドメンバーに対して両端支持状態に取り付いているため、着座者の荷重は主として背もたれを背フレームのサイドメンバーから引き離すように作用する。従って、請求項4の構成を採用すると、背板に作用した荷重が背フレームのサイドメンバーでしっかりと支持される。従って、強度的に優れている。
【0022】
補強プレートのアッバー部とロア部とは左右方向に長いため、上下方向の動きで嵌合する係合部を形成し難い場合がある。この点、請求項5のようにアッパー部とロア部とを背フレームにビス止めする方法を採用すると、スペース等の理由でアッパー部及びロア部の箇所に係合部を形成できない場合でも、補強プレート(或いは背板)を背フレームに対して強固に固定できる。この場合、補強プレートをサイドの箇所においても背フレームにビス止めすることは可能である。
【0023】
さて、近年のオフィスワーク(或いは在宅での執務)は大半がパソコン操作であるが、身体はリクライニングさせてパソコンを疲れなく視認したいという要望が存在していると云える。この要望に対しては、リクライニング状態で着座者の頭がパソコンと正対するように設定したらよく、そのためには、リクライニング時に背もたれの上部を下部に対して相対的に前向き回動させて、着座者の頭が起きた状態を保持したらよいと云える。
【0024】
そして、請求項6の構成では、リクライニング状態で、背もたれの上部が下部に対して相対的に前向き回動することにより、着座者は首や肩への負担を抑制した状態でパソコンと正対できるが、補強プレートは上下に分離しているため、背もたれの相対回動(屈曲動)が補強プレートによって阻害されることはない。従って、リラックス状態でパソコン操作を行える機能を担保できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態を適用した椅子の外観を示す図で、(A)は手前上方から見た斜視図、(B)は正面図、(C)は後ろ前上方から見た斜視図である。
図2】背部の構成部材の分離斜視図である。
図3】(A)は傾動フレームと上部背枠との分離図、(B)は第2傾動フレームの上部の分離斜視図、(C)は第2傾動フレームの平面図である。
図4】背板と縁部材とを後ろから見た分離斜視図である。
図5】補強プレートと背フレームとの分離斜視図である。
図6】補強プレートと背フレームとの分離正面図である(右の補強プレートは裏返して表示している。)。
図7】(A)は縁部材の斜視図、(B)は(A)の部分拡大図、(C)は図6のVIIC-VIIC視線から見た平断面図である。
図8】(A)は図6のVIIIA-VIIIA 視線から見た平断面図、(B)は図6のVIIIB-VIIIB 視線から見た側断面図である。
図9】回動状態を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では方向を特定するために前後・左右の文言を使用するが、この方向は、椅子に普通に腰掛けた人から見た方向として定義している。正面図は着座者と対向した方向から見た図である。
【0027】
(1).全体の概要
まず、椅子の概要を説明する。本実施形態は、オフィス用の回転椅子に適用している。椅子は、基本要素として脚装置1と座2と背もたれ3とを備えている。脚装置1は、5本の脚羽根を有する基部の中央にガスシリンダより成る脚支柱4を立設した構造であり、各脚羽根の先端にはキャスタを設けている。
【0028】
図1(A)に示すように、脚支柱4の上端にベース5が固定されており、ベース5に、図2に示す左右の第1傾動フレーム6の下部先端が連結されている。第1傾動フレーム6は、ベース5から後ろに延びて立ち上がっているが、左右外側に広がりながら立ち上がっており、左右外側に大きく広がっている部分は下部背枠7を構成している。すなわち、第1傾動フレーム6と下部背枠7とは部材を部分的に共有しており、第1傾動フレーム6の上部は下部背枠7のサイドメンバー8になっている。
【0029】
下部背枠7の下端は、左右長手のロアメンバー9で構成されている。すなわち、左右の第1傾動フレーム6の立ち上がり部をロアメンバー9(図1(C)参照)で連結することによって下部背枠7が構成されている。下部枠体7のロアメンバー9は、図2及び図6では省略している。
【0030】
下部背枠7の上端には上部背枠10の下端が連結されている。上部背枠10は、左右のサイドメンバー11とその上端に繋がったアッパーメンバー12と、左右のサイドメンバー11の下端に繋がったロアメンバー13とを有してループ構造になっている。
【0031】
本実施形態では、下部背枠7と上部背枠10とによって背フレーム(フレーム材)が構成されている。従って、背フレームの全体として見ると、下部背枠7のロアメンバー13は、日字状に構成された背フレームの中段メンバーと見ることが可能である。
【0032】
上部背枠10の左右サイドメンバー11の下端は、下部背枠7のサイドメンバー8の上端に後傾動可能に連結されている。他方、上部背枠10のロアメンバー13は後ろ向きに張り出しており、後ろ向きに張り出したロアメンバー13に第2傾動フレーム14の上端が後傾動可能に連結されている。第2傾動フレーム14の下端は、ベース5の後部に連結されている。この点を図3に基づいて説明する。
【0033】
図3(A)に示すように、上部背枠10を構成する左右サイドメンバー8の上端に板状の雄形軸受け部16を一体に形成している一方、上部背枠10におけるサイドメンバー11の下端には、雄形軸受け部16が下方から入り込む雌型軸受け部17が一体に形成されており、上下の軸受け部16,17が左右長手の第1ピン18によって連結されている。第1ピン18は、図示しないビスによって上部背枠10に固定されている。
【0034】
図3(B)に示すように、第2傾動フレーム14は前向きに開口した樋状の形態を成しており、その上端に前向きの軸受けボス体19を一体に形成している一方、上部背枠10のロアメンバー13には、軸受けボス体19を左右から挟む軸受けリブ20を下向きに突設し、これら軸受けボス体19と左右の軸受けリブ20とを左右長手の第2ピン21で連結している。
【0035】
第2傾動フレーム14の上端には、連結部囲うカバー(蓋)22が装着されている。カバー22は、軸受けボス体19及び軸受けリブ20を前から覆う前板23と、軸受けリブ20を左右外側から囲う左右側板24とを有しており、前板23は下向きに大きく切り開かれている。第2傾動フレーム14の内部のうち軸受けボス体19の左右両側には、側面視台形で左右一対ずつの規制板25を前向きに突設しており、前板23の左右両側部が規制板25で位置決めされている。
【0036】
カバー22の側板24には、第2ピン21の端部が嵌合する上下一対のガイドリブ26を設けている。また、カバー22における前板23の左右側部を切欠くことにより、上向き係合爪27を形成しており、上向き係合爪27が軸受けリブ20に下方から係合することにより、カバー22は軽い力では抜けない状態に保持されている。
【0037】
(2).背部の概要
図2に示すように、背もたれ3は、エラストマのような柔軟な樹脂素材より成る背板29と、背板29の前面に張られた張地(表皮材)30を備えている。背板29は柔軟な樹脂素材で作られているため、着座した人の身体のフィット性に優れている。また、リクライニングに際して、上部背枠10と下部背枠7とが相対的に回動するが、背板29が弾性変形することによって両背枠10,7の相対回動が許容されている。
【0038】
背もたれ3の上端には、着座者の頭や首を支持するアッパーレスト31が高さ調節可能に取り付けられている。アッパーレスト31は、上部背枠10のアッパーメンバー12にブラケット装置(図示せず)を介して取り付けられている。背もたれ3のリクライニングに際して、上部背枠10は下部背枠7に対して相対的に前向き回動するが、着座者の頭がアッパーレスト31で支持されているため、机上のパソコンのモニターに対する視線を変えることなくリクライニングできる。
【0039】
傾動フレーム6,14及び上部背枠10は、アルミ等の軽金属のダイキャスト品を採用したり、エンジニアリングプラスチックの成型品を使用したりすることができる。第1傾動フレーム6(及び下部背枠7)と第2傾動フレーム14とはアルミ製として、上部背枠10は合成樹脂製とする、といったことも可能である。
【0040】
図2(A)や図3に示すように、下部背枠7を構成するロアメンバー9の左右中間部に上向きのランバー支柱32を一体に形成しており、ランバー支柱32に、背板29に後ろから当たるランバーパッド33が高さ調節自在に装着されている。ランバーパッド33により、着座者の腰部(特に第3腰椎のあたり)が後ろから支えられる。
【0041】
図2に示すように、背板29の手前には織地や編地からなる張地(表皮材)30が配置されている。張地30の外周部の後面に、合成樹脂より成る上部縁部材34と中間縁部材35と下部縁部材36とに縫着に固定されている。上部縁部材34は正面視で下向き開口コ字形に形成されて、左右の中間縁部材35は板状に形成されて、下部縁部材36は正面視で上向き開口コ字形に形成されている。
【0042】
背板29の外周部後面には、上部補強プレート37と下部補強プレート38とがインサート成型法によって固定されており、これら補強プレート37,38が上部背枠10及び下部背枠7に取り付けられている。上部補強プレート37は正面視で下向きに開口したコ字形に形成されて、下部補強プレート38は正面視で上向きに開口したコ字形に形成されている。従って、上下補強プレート37,38は上下方向に長い左右のサイド部37a,38aを有している。また、上下補強プレート37,38の間には、ある程度の寸法の間隔が空いている。以下、背部の詳細を説明する。
【0043】
(3).背枠・背板
図8から理解できるように、上部背枠10を構成するサイドメンバー11とアッパーメンバー12とは、前向きに開口した溝を有して樋状の形態になっている。下部背枠7のサイドメンバー8とロアメンバー9も同様である。これらのメンバー11,12,8,9は外周板40と内周板41とを有するが、外周板40の前後幅が内周板41の前後幅よりも小さくなっている。従って、各メンバー11,12,8,9の後面は傾斜している。
【0044】
背板29は、表裏両面に多数の縦溝所定ピッチで形成されており、各縦溝の箇所に角形のスリット(穴)が上下に所定ピッチで多数形成されている。従って、背板30は、全体的には縦縞模様を成しつつ、前後に開口した多数のスリットによって格子模様も構成している。
【0045】
また、背板29は、上下背枠10,7のメンバー11,12,8,9に重なる重合部(外周部)29aを有して、重合部29aがインサート成型によって補強プレート37,38に固定されている。この場合、背板29の重合部29aは、補強プレート37,38の外周面と内周面とに回り込んでいる。従って、補強プレート37,38は、前面と内周面と外周面との3面が背板29の重合部29aで囲われている。
【0046】
そして、図7(C)及び図8(B)に明示するように、補強プレート37,38の外周縁には前向きの外周リブ42を設けて、補強プレート37,38の内周部には、前向き段落ち部43が形成されており、背板29の重合部29aは前向き段落ち部43に入り込んでいる。
【0047】
すると、背板29に外周リブ42を設けたことによる接着面積増大効果と、重合部29aが前向き段落ち部43に入り込んでいることによる掴持効果とにより、背板29と補強プレート37,38との固定強度を大きく向上できる。なお、補強プレート37,38の前面は、外周リブ42に対して段落ちした状態になっている。
【0048】
図5,6に示すように、補強プレート37,38のサイド部に37a,38aに、請求項に記載した係合部の一環として、上下2つの第1係合ユニット44が形成されている。第1係合ユニット44は、平面視外向き鉤状の第1係合爪45と、その左右内側に配置された第1規制板46とで構成されている。
【0049】
他方、上部背枠10のサイドメンバー11及び下部背枠7のサイドメンバー8に、請求項に記載した係合部の例として、第1係合ユニット44に対応した上下2段の第2係合ユニット47が形成されている。第2係合ユニット47は、第1係合爪45が上から嵌入係合する平面視L形の第2係合爪48と、その左右内側に位置した第2規制板49とで構成されている。
【0050】
補強プレート37,38が一体化した背板29を、所定姿勢よりも少し高くした状態で背枠10,7に重ね、次いで背板29を下方にずらすと、第1係合爪45が第2係合爪48と係合して、背板29は前向き離脱不能に保持される。また、第1規制板45が第2規制板49の外側に位置することにより、サイド部37a,38aは左右内向きの移動が規制されて、第1係合爪45が第2係合爪48に係合した状態が保持される。
【0051】
図5に明示するように、補強プレート37,38には、後ろ向きに突出した円筒状の大径ボス部51が周方向に離反して多数形成されている。他方、上部背枠10及び下部背枠7には、円筒状ボス部51が外側から嵌合する小径ボス部52の群が前向きに突設されており、大径ボス部51がビス53で小径ボス部52に固定されている。従って、大径ボス部51にはフランジ板51aが形成されて、小径ボス部52にはタップ穴が空いている。
【0052】
既述のとおり、背もたれ3の組み立てに際しては、背板29を背枠7,10に重ねてから下方にずらして係合ユニット44,47を噛み合わせるが、ボス部51,52の間には、背板29の下向き移動を阻害しないようにクリアランスを設けている。なお、ボス部51,52は大小の関係を逆にしてもよい。
【0053】
上部補強プレート37は左右のサイド部とアッパー部とを有して下向き開口コ字形の形態を成して、下部補強プレート38は左右のサイド部とロア部とを有して上向き開口コ字形の形態を成しているが、アッパー部とロア部とはビス53のみで固定されており、サイド部はビス53による固定と係合部による連結とを併用している。
【0054】
例えば図4に示すように、補強プレート37,38には表裏に開口した貫通穴54を多数形成しており、インサート成型に際して、背板29の肉を貫通穴54に侵入させている。このため、アンカー効果によって、背板29と補強プレート37,38との固定強度を格段に向上できる。
【0055】
(4).表皮材・縁部材
図7に示すように、縁部材34,35,36は、ポリプロピレン等の合成樹脂製の成型品であり、基本的には帯板状(テープ状)の形態を成している。そして、裏面に、縁部材34,35,36を背板29に取り付けためのL形の係合爪56の群と、張地30を仮止めするための頭付きボス57とを形成している。張地30の周縁部は縁部材34,35,36の裏側に折り返されており、縁部材34,35,36の内周寄り部位に縫着されている。なお、張地30は、折り返された部位を縁部材34,35,36に接着してもよい。
【0056】
係合爪56は、中間縁部材35及び上下縁部材34,36の縦長部に形成されており、頭付きボス57は、上部縁部材34の上辺部と下部縁部材36の下辺部、及び、中間縁部材35の下寄り部位とに設けている。従って、上部縁部材34の上辺部と下部縁部材36の下辺部では、背枠10,7には係合していない。
【0057】
例えば図7に示すように、背板29の左右側部と補強プレート37,38のサイド部とには、係合爪56が嵌入する係合穴59を形成している。係合爪59は、縁部材34,35,36の弾性変形を利用して係合穴59に嵌め込まれている。図6に示すように、係合穴59の上半部は広幅部59aになっている。このため、係合爪56を広幅部59aに嵌め込んでから、縁部材34,35,36を下方にずらすと、係合爪56は幅狭の部位に落ち込む。
【0058】
例えば図7に示すように、背板29の外周縁には前向きのリブ60が全周に亙って形成されている。従って、背板29の前面には、前向きのリブ60の先端面から段落ちした段差面61が形成されており、縁部材34,35,36は背板29の段差面61に重なっており、張地30は前向きのリブ60よりも手前にははみ出ていない。従って、人が背もたれの側部に手を当てても、張地30が捲り返されることはない。
【0059】
また、上記のとおり、縁部材34,35,36の係合爪56を背板30の広幅部59aに嵌め込んでから、縁部材34,35,36を下方にずらしきると、係合爪56は係合穴の幅狭の部位に落ち込むが、これと同時に、上部縁部材33の上端は背板30の上端部の段差面61に重なりあう。これにより、縁部材34,35,36及び張地30の上向き動は、前向きリブ60によって阻止される。
【0060】
例えば図2に示すように、上部縁部材34の上端左右中間部には左右長手で角形の切欠き62が形成されている。また、背板29の上端左右中間部と上部補強プレート37の上端左右中間部とには、左右長手で角形の逃がし穴63が形成されている。これら切欠き62と逃がし穴63は、アッパーレスト31を取り付けるブラケット(図示せず)を逃がすためのものである。
【0061】
なお、アッパーレスト31は、図1の各分図に示す基板64と、基板64の外周部に後ろから重なった枠体65と、基板64に前から重なった張地66と、張地66の外周部に縫着された縁部材67とを供えている。基板64はエラストマ製であり、枠体65にはインサート成型によって一体化されている。また、縁部材67には多数本のピンが後ろ向きに突出しており、ピンは枠体65に設けた保持穴(図示せず)に密嵌している。また、枠体65の外周には前向きのリブ65aが形成されており、リブ65aで囲われた段差部に、張地66と縁部材67とが納まっている。
【0062】
(5).まとめ
以上の構成において、背板29はエラストマ製であるため、着座者の身体のなじみが良く、フィット性・クッション性に優れている。特に、実施形態のように多数の縦溝とスリットとを形成すると、上下・左右の両方向に伸び変形するため、フィット性とクッション性とを更に向上できる。
【0063】
そして、背板29の外周部には補強プレート37,38が固定されており、補強プレート37,38が背枠7,10に取り付けられているため、背中を指示するに適した材質の急いた29と、背板29の取り付け部強度を得るために適した材質の補強プレート37、38を選択すればよく、設計の自由度が高まる。また、補強プレート37,38によって背板29の外周部が保形されるため、背板29を背枠7,10に密着させた状態に保持できて、美感面でも優れている。実施形態のように、背板29を補強プレート37,38にインサート成型すると、固定強度の向上や寸法精度を向上できて好適である。
【0064】
本実施形態のように、補強プレート37,38の取り付けについて係合ユニット44,47とビス53とを併用すると、補強プレート37,38を背枠7,10にガタ付きなく強固に固定できて好適である。そして、背板29の前面には縁部材34,35,36が重なっているため、補強プレート37,38の大径ボス部51は露出せず、美感の悪化は生じない。
【0065】
また、張地30は背板29の段差面61に重なって前向きリブ60が囲われているため、張地30は背板29に対して正確に位置決めされる。従って、張地30と背板29との境界はシャープなラインになって、優れた美感と成すことができる。張地30の捲り返りがないことは、既に述べたとおりである。
【0066】
本実施形態では、傾動フレーム6,14とベース5と下部背枠7とが4点リンク機構を構成しているが、図9に示すように、第1傾動フレーム6の回動支点O1は第2傾動フレーム14の回動支点O2よりも前に位置しており、また、下部背枠7に対する第2傾動フレーム14の連結点21は上下背枠7,10の連結点18よりも後ろに位置していることにより、リクライニングに際しては、上部背枠10が下部背枠7に対して相対的に前向き回動する(リクライニングするとθ1が小さくなる。)。
【0067】
このため、机上にパソコンを配置して執務するにおいて、リクライニング状態でも顔をパソコンに向けた姿勢にして、その姿勢をアッパーレスト31によって維持できる。このため、首や肩の凝りを防止しつつ、リクライニング状態でパソコン操作を快適に行える。
【0068】
そして、本実施形態では、2つの補強プレート37,38が上下に分かれているため、上下背枠7,10の相対回動が許容されており、かつ、縁部材34,35,36は3段に分離しているため、背板29の曲がり変形も許容されている。従って、フィット性やクッション性に優れつつリクライニング状態でのパソコン操作性に優れた椅子を、容易に実現できる。
【0069】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、背もたれは屈曲タイプである必要はない。リクライニング式でない椅子にも適用できる。更に、本願発明は座や肱当てなどにも適用できる。張地を使用せずに、背板の前面を露出させたままにしておくことも可能である。補強プレートは全体を1つとしてループ構造に形成することも可能であるし、3段以上の分離構造も採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本願発明は、椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0071】
3 背もたれ
6 第1傾動フレーム
7 下部背枠(フレーム材)
8 下部背枠のサイドメンバー
10 上部背枠(フレーム材)
11 上部背枠のサイドメンバー
14 第2傾動フレーム
29 身体受け板の一例としての背板
30 張地
31 アッパーレスト(ヘッドレスト)
34~36 縁部材
37 上部補強プレート
38 下部補強プレート
44 第1係合ユニット
45 第1係合爪
46 第1規制板
47 第2係合ユニット
48 第2係合爪
49 第2規制板
51 大径ボス部
52 小径ボス部
53 ビス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9