(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034570
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法およびコンクリート部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138895
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悟士
(72)【発明者】
【氏名】今井 和正
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA02
2G061AB01
2G061BA03
2G061CA08
2G061CB02
2G061EA03
2G061EA04
(57)【要約】
【課題】大掛かりな強度試験を行うことなく、精度よく引張靭性を推定可能な鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法と、引張靭性に関する要求品質を満足するコンクリート部材の製造方法を提案する。
【解決手段】鋼繊維補強コンクリート円柱供試体に対して、JIS A 1108に準拠してコンクリートの圧縮強度試験を行い、圧縮強度に達した以降の圧縮軟化域での圧縮軸ひずみに対応する圧縮応力を測定する工程と、前記鋼繊維補強コンクリートのひび割れ発生後の最大の引張応力と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式、又は、所定のひび割れ幅に対応する引張応力と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式に前記圧縮応力を代入して、ひび割れ発生後の最大の引張応力または所定のひび割れ幅に対応する引張応力を推定する工程とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法であって、
鋼繊維補強コンクリート円柱供試体に対して、JIS A 1108に準拠してコンクリートの圧縮強度試験を行い、圧縮強度に達した以降の圧縮軟化域での圧縮軸ひずみに対応する圧縮応力を測定する工程と、
前記鋼繊維補強コンクリートのひび割れ発生後の最大の引張応力と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式、又は、所定のひび割れ幅に対応する引張応力と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式に前記圧縮応力を代入して、ひび割れ発生後の最大の引張応力または所定のひび割れ幅に対応する引張応力を推定する工程と、を備えていることを特徴とする、鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法。
【請求項2】
前記圧縮応力を測定する工程では、前記繊維補強コンクリートで形成された構造物から鋼繊維補強コンクリート円柱供試体を採取した後、前記鋼繊維補強コンクリート円柱供試体に対して、前記コンクリートの圧縮強度試験を行い、前記圧縮軟化域での圧縮軸ひずみに対応する圧縮応力を測定することを特徴とする、請求項1に記載の鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法。
【請求項3】
施工性、力学特性および耐久性を満足する鋼繊維補強コンクリートの配合を設定する配合設定工程と、
前記配合の鋼繊維補強コンクリートにより設計されたコンクリート部材と同様の条件で模擬部材を作成する模擬部材作成工程と、
前記模擬部材の所定の箇所から円柱状の供試体を採取する供試体採取工程と、
前記供試体に対してJIS A 1108に準拠してコンクリートの圧縮強度試験を行い、圧縮強度に達した以降の圧縮軟化域での圧縮軸ひずみに対応する圧縮応力を測定する圧縮試験工程と、
前記鋼繊維補強コンクリートのひび割れ発生後の最大の引張応力と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式、又は、所定のひび割れ幅に対応する引張応力と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式に前記圧縮応力を代入することにより、ひび割れ発生後の最大の引張応力または所定のひび割れ幅に対応する引張応力を推定する引張靭性推定工程とを備え、
前記引張応力が要求品質を満足していることを確認できたら前記配合による鋼繊維補強コンクリートによりコンクリート部材を製造することを特徴とする、コンクリート部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法およびコンクリート部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般仕様のコンクリートでは、構造計算に必要となる圧縮強度以外の力学特性(例えばヤング係数など)は、圧縮強度との関係から評価される。したがって、当該コンクリートの品質管理においては、基本的に圧縮強度試験結果が要求品質を満足することを確認することにより、構造体が所定の性能を満足するものと評価できる。
一方、鋼繊維補強コンクリートでは、圧縮強度は一般仕様のコンクリートとほとんど変わらない一方で、引張靭性は鋼繊維の混入量に伴って大きく向上するため、圧縮強度をもとに引張靭性を評価することは適切ではない。したがって、構造計算に靭性向上の効果を取り込む場合は、圧縮強度だけでなく靭性についても試験による確認が必要になる。
靭性についての試験としては、例えば、JCI-S-002-2003(切欠きはりを用いた繊維補強コンクリートの荷重-変位曲線試験方法)に従って、部材と同じ鋼繊維補強コンクリートを用いて作製した角柱状の供試体による3点曲げ載荷試験がある。
ところが、角柱状の供試体を部材から採取するには、ワイヤーソー等を利用して切り出す等、大掛かりな作業が必要となる。
円柱状の供試体は、角柱状の供試体に比べて簡易に採取できるが、円柱状の供試体を利用した繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法は確立されていない。例えば、特許文献1には、高強度繊維補強コンクリートにより作成した供試体に対して、JIS A 1113(コンクリートの割裂引張強度試験方法)に準じて載荷した際に発生するアコースティックエミッションに基づいてひび割れ発生荷重を推定する方法が開示されているが、ひび割れ発生後の挙動を評価する引張靭性を推定するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、大掛かりな強度試験を行うことなく、精度よく引張靭性を推定可能な鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法と、引張靭性に関する要求品質を満足するコンクリート部材の製造方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法は、鋼繊維補強コンクリート円柱供試体に対して、JIS A 1108に準拠してコンクリートの圧縮強度試験を行い、圧縮強度に達した以降の圧縮軟化域での圧縮軸ひずみに対応する圧縮応力を測定する工程と、前記鋼繊維補強コンクリートのひび割れ発生後の最大の引張応力(引張応力の極大値)と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式、又は、所定のひび割れ幅に対応する引張応力(所定のひび割れ幅までの引張応力の平均値)と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式に前記圧縮応力を代入して、ひび割れ発生後の最大の引張応力または所定のひび割れ幅に対応する引張応力を推定する工程とを備えている。前記圧縮応力を測定する工程では、前記繊維補強コンクリートで形成された構造物から鋼繊維補強コンクリート円柱供試体を採取した後、前記鋼繊維補強コンクリート円柱供試体に対して、前記コンクリートの圧縮強度試験を行い、前記圧縮軟化域での圧縮軸ひずみに対応する圧縮応力を測定するのが望ましい。
なお、前記回帰式は、鋼繊維補強コンクリートにより形成された供試体に対して、JIS A 1108に準拠した試験により得られた圧縮軟化域の圧縮応力(圧縮強度に達するときの圧縮軸ひずみ(縦ひずみ)よりも大きい所定の圧縮軸ひずみとなったときの圧縮応力であり、最大荷重後も載荷を継続することにより測定する)と、鋼繊維補強コンクリートにより形成された供試体に対してJCI-S-002-2003に準拠した試験により得られた引張応力(ひび割れ発生後の引張応力の極大値または所定のひび割れ幅までの引張応力の平均値)との関係に基づいているのが望ましい。ひび割れ発生後の引張応力の極大値または所定のひび割れ幅までの引張応力の平均値は、引張靱性を評価する指標となる。
かかる鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法によれば、大掛かりな試験などを要することなく、圧縮載荷試験により求めた圧縮軟化域での圧縮軸ひずみ(圧縮強度に達するときの圧縮軸ひずみよりも大きい圧縮軸ひずみ)に対応する圧縮応力を回帰式に代入することで、引張靭性を評価することができる。また、円柱状の供試体は、部材からも比較的採取しやすいため、角柱状の供試体を使用するJCI-S-002-2003(切欠きはりを用いた繊維補強コンクリートの荷重-変位曲線試験方法)による靭性の測定に比べて、手間を低減できる。
【0006】
また、本発明のコンクリート部材の製造方法は、施工性、力学特性および耐久性を満足する鋼繊維補強コンクリートの配合を設定する配合設定工程と、前記配合の鋼繊維補強コンクリートにより設計されたコンクリート部材と同様の条件で模擬部材を作成する模擬部材作成工程と、前記模擬部材の所定の箇所から円柱状の供試体を採取する供試体採取工程と、前記供試体に対してJIS A 1108に準拠した試験を行い、圧縮強度に達した以降の圧縮軟化域での圧縮軸ひずみに対応する圧縮応力を測定する圧縮試験工程と、圧縮靭性と引張靭性との関係を表す回帰式に前記圧縮応力を代入することにより、ひび割れ発生後の最大の引張応力(引張応力の極大値)または所定のひび割れ幅に対応する引張応力(所定のひび割れ幅までの引張応力の平均値)を推定する引張靭性推定工程とを備え、前記引張応力が要求品質を満足していることを確認できたら前記配合による鋼繊維補強コンクリートによりコンクリート部材を製造するものである。
かかるコンクリート部材の製造方法によれば、模擬部材の引張靱性が要求品質を満足していることを確認したうえで、コンクリート部材を製造するため、高品質なコンクリート部材を製造できる。引張靱性を評価するための引張応力(ひび割れ発生後の引張応力の極大値または所定のひび割れ幅までの引張応力の平均値)は、大掛かりな試験などを要することなく、圧縮試験により求めた圧縮応力を回帰式に導入することで、簡易に算定することができる。引張靱性が要求品質を満足しない場合には、鋼繊維補強コンクリートの配合や、打ち込み締固め等の条件を再度検討し直せばよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法によれば、大掛かりな試験を行うことなく、精度よく引張靭性を推定できる。また、本発明のコンクリート部材の製造方法によれば、引張靭性に関する要求品質を満足するコンクリート部材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】コンクリート部材の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】圧縮靭性試験結果(圧縮応力-圧縮軸ひずみ関係)を示すグラフである。
【
図3】引張靭性試験結果(引張軟化曲線)を示すグラフである。
【
図4】引張靭性試験結果(ひび割れ発生後の引張応力の極大値)と圧縮靭性試験結果の関係を示すグラフである。
【
図5】引張靭性試験結果(ひび割れ1mmまでの引張応力の平均値)と圧縮靭性試験結果の関係を示すグラフである。
【
図6】各ひび割れ幅までの引張応力の平均値の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法、及び前記引張靭性の推定方法を用いて、鋼繊維補強コンクリートの引張応力の要求性能が確認されたコンクリート部材の製造方法である。
具体的には、鋼繊維補強コンクリートの引張靭性として、鋼繊維補強コンクリートのひび割れ発生後の引張応力の極大値と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式、及び、所定のひび割れ幅までの引張応力の平均値と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式の少なくとも一方に前記圧縮応力を代入して、ひび割れ発生後の引張応力の極大値または所定のひび割れ幅までの引張応力平均値を推定する。
本実施形態では、鋼繊維補強コンクリートが、引張靭性に関する要求品質を満足するか否かを確認したうえで、コンクリート部材を製造する、コンクリート部材の製造方法について説明する。すなわち、鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法により鋼繊維補強コンクリートの引張靭性を推定し、この引張靭性が要求品質を満足しているか否かを確認する。鋼繊維補強コンクリートの引張靭性は、鉄筋コンクリート中の鋼繊維の分布などを考慮したうえで推定する。より詳しくは、鉄筋コンクリート部材の各箇所から採取した円柱供試体を用いた圧縮靭性試験結果をもとに、鉄筋コンクリート部材中の鋼繊維の分布なども反映したうえで、鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の評価を行う。
なお、本実施形態において評価対象とする鋼繊維補強コンクリートは、圧縮強度が100N/mm2以下で、コンクリート容積に対して1%以下の鋼繊維を混入したものとする。
【0010】
図1に本実施形態のコンクリート部材の製造方法(鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の推定方法)の手順を示す。本実施形態のコンクリート部材の製造方法は、
図1に示すように、配合設定工程S1と、模擬部材作成工程S2と、供試体採取工程S3と、圧縮試験工程S4と、引張靭性推定工程S5とを備えている。
配合設定工程S1は、施工性、力学特性および耐久性を満足する鋼繊維補強コンクリートの配合を設定する工程である。事前の試し練りを行い、ポテンシャルとしての施工性(流動性、分離抵抗性など)・力学特性(圧縮強度、引張靭性など)・耐久性などの要求性能を満足すると考えられる鋼繊維補強コンクリートの配合を設定する。
【0011】
模擬部材作成工程S2は、配合設定工程S1により設定した配合の鋼繊維補強コンクリートにより設計されたコンクリート部材と同様の条件で模擬部材を作成する工程である。模擬部材は、実施工を模擬した配筋、打込み、締固め等の条件により作成する。
供試体採取工程S3は、模擬部材の所定の箇所から円柱状の供試体を採取する工程である。本実施形態では、直径100mm×高さ200mmの円柱状供試体を採取する。
圧縮試験工程S4は、供試体に対して圧縮強度試験を行い、圧縮応力を測定する工程である。本実施形態では、JIS A 1108に準拠したコンクリートの圧縮強度試験を行い、圧縮強度に達した以降の圧縮軟化域での圧縮軸ひずみ(縦ひずみ)に対応する圧縮応力を測定する。すなわち、圧縮強度に達した後も載荷を継続して、圧縮試験機の上下の載荷板間の距離の測定などにより圧縮軸ひずみが10000μまたは20000μに達したときの圧縮応力を測定する。
【0012】
引張靭性推定工程S5は、引張靭性を推定する工程である。鋼繊維補強コンクリートのひび割れ発生後の最大の引張応力(引張応力の極大値)と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式、及び、所定のひび割れ幅に対応する引張応力(所定のひび割れ幅までの引張応力の平均値)と圧縮軟化域における圧縮応力との関係を表す回帰式の少なくとも一方に、圧縮試験工程S4で測定した圧縮応力を代入することにより、ひび割れ発生後の引張応力の極大値または所定のひび割れ幅までの引張応力の平均値を推定する。
回帰式は、過去の実績により作成された圧縮・引張靭性試験結果から求まる圧縮応力と引張応力(より具体的には、ひび割れ発生後の引張応力の極大値または所定のひび割れ幅までの引張応力の平均値)との関係の回帰直線から導かれた回帰式(後述)を利用する。
推定された引張靭性が要求品質を満足していることを確認できたら、配合設定工程S1により設定した配合による鋼繊維補強コンクリートによりコンクリート部材を製造する。このとき、試験時(模擬部材製造時)と同様な打込み・締固め条件で製造するといったプロセス管理を行う。
一方、引張靭性が要求品質を満足しない箇所があった場合には、配合の再検討(分離抵抗性の改善等)を行う(配合設定工程S1)か、打込み・締固め条件の見直し等(例えば、水平移動距離の低減)を行ったうえで、模擬部材作成工程S2~引張靭性推定工程S5を再度行う。
【0013】
本実施形態のコンクリート部材の製造方法によれば、実際の部材製造における配筋や打込み・締固めなどの条件を模擬して作製した部材の各箇所から採取したコア供試体を用いた圧縮靭性試験結果をもとに引張靭性を評価し、それが要求品質を満足することを確認しているため、高品質なコンクリート部材を製造可能となる。
また、大掛かりな試験などを要することなく、圧縮試験により求めた圧縮軟化域での圧縮軸ひずみ(圧縮強度に達するときの圧縮軸ひずみよりも大きい圧縮軸ひずみ)に対応する圧縮応力を回帰式に代入することで、引張靭性を評価することができる。
また、角柱供試体を使用する場合は、コンクリート部材からワイヤーソー等を利用して切り出す作業が必要となり、手間を要するが、円柱状の供試体は、コアドリルを用いて比較的容易に採取できるため、角柱状の供試体を使用するJCI-S-002-2003(切欠きはりを用いた繊維補強コンクリートの荷重-変位曲線試験方法)による靭性の測定に比べて、手間を低減できる。
【0014】
次に、圧縮靭性試験結果に基づいて鋼繊維補強コンクリートの引張靭性の評価するための回帰式(引張靭性推定工程S5で使用する回帰式)について、実験結果をもとに検討した結果を示す。
表1にコンクリートの使用材料を示す。また、表2にコンクリートの配合条件を示す。
【0015】
【0016】
【0017】
表3に、コンクリート容積に対する鋼繊維混入量を0.5%または1.0%として作成した鋼繊維補強コンクリートの圧縮・引張靭性試験結果を示す。圧縮靭性試験では、JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)に準拠した試験を行い、最大荷重後も載荷を継続して、圧縮軟化域での圧縮軸ひずみが所定値(圧縮強度時の圧縮軸ひずみよりも大きな値であり、本実施形態では10000μまたは20000μ)となった時の圧縮応力を測定した。
図2に圧縮靭性試験結果を示す。引張靭性試験では、JCI-S-002-2003(切欠きはりを用いた繊維補強コンクリートの荷重-変位曲線試験方法)に準拠した試験を行い、得られた荷重-変位曲線から推定した引張軟化曲線におけるひび割れ発生後の引張応力の最大値(極大値)を測定するとともに、ひび割れ幅が所定値(本実施形態では0.5mm,1.0mm,1.5mm,2.0mm)となる時までの引張応力を測定し、その平均値を求めた。
図3に引張靭性試験結果を示す。
【0018】
【0019】
図4にひび割れ発生後の引張応力の極大値と圧縮靭性試験結果との関係を示す。また、
図5にひび割れ幅1.0mmまでの引張応力の平均値と圧縮靭性試験結果との関係を示す。ここで、
図6に各ひび割れ幅までの引張応力の平均値の比較を示す。
図6に示すように、各ひび割れ幅までの引張応力の平均値は、ひび割れ幅が0.5~2.0mmの範囲では大きな差はなかった。そのため、
図5では、ひび割れ幅1.0mmまでの引張応力の平均値に関する結果を代表として示している。
図4および
図5に示すように、圧縮靭性試験結果(圧縮軟化域での圧縮軸ひずみが所定値となったときの圧縮応力(縦軸))と引張靭性試験結果(
図4ではひび割れ発生後の引張応力の極大値(横軸)、
図5ではひび割れ幅1.0mmまでの引張応力の平均値(横軸))の間には正の相関が見られ、圧縮靭性試験結果に基づく引張靭性の評価の妥当性が確認できた。なお、
図4および
図5の回帰直線の決定係数は、圧縮軸ひずみが10000μに達したときの圧縮応力のほうが大きいため、評価指標となる圧縮靭性試験結果には圧縮軸ひずみが10000μに達したとき時の圧縮応力を用いるのがより望ましいと考えられる。
図4の実験結果の基づく回帰直線から式1が求まり、
図5の実験結果に基づく回帰直線から式2が求まる(本実施形態の回帰式)。式1または式2を使用すれば、圧縮靭性試験結果に基づいて、引張靭性を評価できる。
【0020】
【0021】
【0022】
式1または式2に、圧縮試験工程S4で得られた圧縮靭性試験結果(圧縮軸ひずみが10000μまたは20000μのときの圧縮応力σc(ε))を代入することにより、引張靭性を評価できる。
【0023】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、模擬部材を作成して円柱供試体を採取する場合について説明したが、円柱供試体の採取方法は限定されるものではない。例えば、設計配合の鋼繊維補強コンクリートにより作成した円柱供試体を使用してもよい。すなわち、模擬部材作成工程S2および供試体者異種工程S3は、必要に応じて実施すればよい。
圧縮靭性試験における圧縮軸ひずみ測定では、静弾性係数試験に用いられるコンプレッソメータなどを使用することもできるが、供試体へのひび割れ発生箇所次第では正確な測定が困難になる可能性もあるため、圧縮試験機の上下の載荷板間の距離をもとに圧縮軸ひずみを評価するといった方法で行ってもよい。
【符号の説明】
【0024】
S1 配合設定工程
S2 模擬部材作成工程
S3 供試体採取工程
S4 圧縮試験工程
S5 引張靭性推定工程