(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034576
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ステータ、及びステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/48 20060101AFI20240306BHJP
H02K 1/16 20060101ALI20240306BHJP
H02K 3/34 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H02K3/48
H02K1/16 A
H02K3/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138914
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明上 周平
【テーマコード(参考)】
5H601
5H604
【Fターム(参考)】
5H601AA09
5H601CC01
5H601CC13
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601EE03
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601GB49
5H601GC04
5H601GC05
5H601GC12
5H604AA05
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】スロット内に挿し通されるコイルの挿通部が周方向に変位することを抑える。
【解決手段】ステータ1は、環状のステータコア10と、ステータコア10に装着されるコイル30と、を備える。ステータコア10は、ステータコア10の周方向に並んで配置される複数のスロット15と、スロット15における周方向両側の内壁から張り出した張出部21、22と、を有する。コイル30は、スロット15内に挿し通される挿通部31を有する。挿通部31は、周方向両側の張出部21、22の間において、少なくとも一方の張出部21、22に接触した状態で配置される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のステータコアと、
前記ステータコアに装着されるコイルと、を備え、
前記ステータコアは、前記ステータコアの周方向に並んで配置される複数のスロットと、前記スロットにおける前記周方向両側の内壁から張り出した張出部と、を有し、
前記コイルは、前記スロット内に挿し通される挿通部を有し、
前記挿通部は、前記周方向両側の前記張出部の間において、少なくとも一方の前記張出部に接触した状態で配置される
ステータ。
【請求項2】
前記挿通部は、前記周方向両側の前記張出部に接触した状態で配置される
請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記スロット内には、複数の前記挿通部が前記ステータコアの径方向に並んで配置され、
前記周方向両側の前記張出部は、各々の前記挿通部と前記周方向両側の前記内壁との間に介在し、複数の前記挿通部が並ぶ方向に連続している
請求項1又は請求項2に記載のステータ。
【請求項4】
前記スロット内には、複数の前記挿通部が前記ステータコアの径方向に並んで配置され、
前記周方向両側の前記張出部は、各々の前記挿通部に個別に対応して設けられる個別張出部を有し、
各々の前記個別張出部は、前記周方向両側の前記個別張出部のうち少なくとも片方の前記個別張出部が自身に対応する前記挿通部に接触した状態で配置される
請求項1又は請求項2に記載のステータ。
【請求項5】
前記挿通部に接触する前記周方向両側の前記張出部のうち少なくとも片方の前記張出部は、前記挿通部に押圧されて撓み変形して湾曲しており、湾曲した凸面が前記挿通部に接触した状態で配置される
請求項2に記載のステータ。
【請求項6】
前記挿通部は、導体部と、前記導体部の外周を覆う被覆部と、を有し、
前記凸面は、前記被覆部の表面に接触した状態で配置される
請求項5に記載のステータ。
【請求項7】
前記ステータコアは、環状のヨーク部と、前記ヨーク部に沿って環状に並ぶ複数のティース部と、を有し、
各々の前記スロットは、前記ヨーク部と隣り合う2つの前記ティース部とに区画されて形成され、
前記ヨーク部、及び複数の前記ティース部は、複数の電磁鋼板を前記ステータコアの軸方向に積層して一体に形成され、
前記張出部は、前記電磁鋼板によって前記ティース部と一体に形成されている
請求項1又は請求項2に記載のステータ。
【請求項8】
前記張出部は、前記ステータコアの軸方向において前記スロット内の両側に設けられ、
前記挿通部は、前記スロット内の前記軸方向両側において、前記周方向両側の前記張出部のうち少なくとも一方の前記張出部に接触した状態で配置される
請求項1又は請求項2に記載のステータ。
【請求項9】
更に、前記スロット内に充填される絶縁樹脂を備え、
前記絶縁樹脂は、前記軸方向両側の前記張出部の間において、前記周方向両側の前記内壁と前記挿通部との間で連続的に充填される連続充填部を有する
請求項8に記載のステータ。
【請求項10】
環状のステータコアとコイルセグメントとを準備する準備工程を含み、
前記ステータコアは、前記ステータコアの周方向に並んで配置される複数のスロットと、前記スロットにおける前記周方向両側の内壁から張り出した張出部と、を有し、
前記コイルセグメントは、前記スロット内に挿し通される挿通部を有し、
更に、前記周方向両側の前記張出部の間に前記挿通部が通るように、前記ステータコアの軸方向一方側から前記挿通部を前記スロット内に挿し通す挿通工程を含む
ステータの製造方法。
【請求項11】
前記張出部は、前記軸方向において前記スロット内の両側に配置され、前記内壁に支持される部位を支点として撓み変形可能であり、
撓み変形していない状態の前記周方向両側の前記張出部間の間隔は、前記挿通部の幅よりも小さく、
前記挿通工程では、前記スロット内の前記軸方向両側において前記周方向両側の前記張出部の間に前記挿通部が通るように、前記軸方向一方側から前記挿通部を前記スロット内に挿し通し、
更に、前記スロット内の前記軸方向両側において前記挿通部が前記周方向両側の前記張出部の間に配置された状態において、前記軸方向両側の前記張出部の間に樹脂材料を充填する充填工程を含む
請求項10に記載のステータの製造方法。
【請求項12】
前記スロット内には、複数の前記挿通部が前記ステータコアの径方向に並んで配置され、
前記周方向両側の前記張出部は、各々の前記挿通部と前記内壁との間に介在し、複数の前記挿通部が並ぶ方向に連続しており、
前記充填工程では、前記軸方向両側において各々の前記挿通部が前記周方向両側の前記張出部の間に配置された状態で、前記軸方向両側の前記張出部の間に前記樹脂材料を充填する
請求項11に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステータ、及びステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステータを備えるモールドモータが開示されている。上記ステータは、複数の突極が周方向に並ぶステータコアと、ステータコアの突極ごとにインシュレータを介して巻回された複数のコイルと、を有する。コイルの巻線は、突極間に形成されたスロット内に通され、突極に巻回される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、コイルがスロット内に挿し通される挿通部を有する構成においては、挿通部がスロット内で周方向に変位しないことが望ましく、この点で改善の余地がある。
【0005】
本開示は、スロット内に挿し通されるコイルの挿通部が周方向に変位することを抑えることが可能な技術を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のステータは、
環状のステータコアと、
前記ステータコアに装着されるコイルと、を備え、
前記ステータコアは、前記ステータコアの周方向に並んで配置される複数のスロットと、前記スロットにおける前記周方向両側の内壁から張り出した張出部と、を有し、
前記コイルは、前記スロット内に挿し通される挿通部を有し、
前記挿通部は、前記周方向両側の前記張出部の間において、少なくとも一方の前記張出部に接触した状態で配置される。
【0007】
本開示のステータの製造方法は、
環状のステータコアとコイルセグメントとを準備する準備工程を含み、
前記ステータコアは、前記ステータコアの周方向に並んで配置される複数のスロットと、前記スロットにおける前記周方向両側の内壁から張り出した張出部と、を有し、
前記コイルセグメントは、前記スロット内に挿し通される挿通部を有し、
更に、前記周方向両側の前記張出部の間に前記挿通部が通るように、前記ステータコアの軸方向一方側から前記挿通部を前記スロット内に挿し通す挿通工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る技術は、スロット内に挿し通されるコイルの挿通部が周方向に変位することを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態のステータコアの斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のステータを軸方向中央部で切断した断面図である。
【
図3】
図3は、張出部が撓み変形していない状態の第1実施形態のステータコアの平面図であり、スロット周辺の部分拡大図である。
【
図4】
図4は、スロット内にコイルセグメントを挿し通す前の状態をあらわす説明図である。
【
図5】
図5は、スロット内にコイルセグメントを挿し通した状態をあらわす説明図である。
【
図6】
図6は、スロット内に樹脂材料を充填する様子をあらわす説明図である。
【
図7】
図7は、スロット内の構造をあらわす断面図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態のステータを軸方向中央で切断した断面図である。
【
図9】
図9は、張出部が撓み変形していない状態の第2実施形態のステータコアの平面図であり、スロット周辺の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本開示の実施形態が列記されて例示される。
【0011】
〔1〕環状のステータコアと、
前記ステータコアに装着されるコイルと、を備え、
前記ステータコアは、前記ステータコアの周方向に並んで配置される複数のスロットと、前記スロットにおける前記周方向両側の内壁から張り出した張出部と、を有し、
前記コイルは、前記スロット内に挿し通される挿通部を有し、
前記挿通部は、前記周方向両側の前記張出部の間において、少なくとも一方の前記張出部に接触した状態で配置される
ステータ。
【0012】
挿通部は、自身に接触する張出部によって、当該張出部側への変位が規制される。したがって、上記ステータは、スロット内に挿し通されるコイルの挿通部が周方向に変位することを抑えることができる。
【0013】
〔2〕前記挿通部は、前記周方向両側の前記張出部に接触した状態で配置される
〔1〕に記載のステータ。
【0014】
挿通部は、周方向両側の張出部によって、周方向両側の変位が規制される。したがって、上記ステータは、挿通部の周方向両側への変位を抑えることができる。
【0015】
〔3〕前記スロット内には、複数の前記挿通部が前記ステータコアの径方向に並んで配置され、
前記周方向両側の前記張出部は、各々の前記挿通部と前記周方向両側の前記内壁との間に介在し、複数の前記挿通部が並ぶ方向に連続している
〔1〕又は〔2〕に記載のステータ。
【0016】
上記ステータは、スロットの内壁と各々の挿通部との間の隙間を、張出部によって複数の挿通部が並ぶ方向に連続して塞ぐことができる。
【0017】
〔4〕前記スロット内には、複数の前記挿通部が前記ステータコアの径方向に並んで配置され、
前記周方向両側の前記張出部は、各々の前記挿通部に個別に対応して設けられる個別張出部を有し、
各々の前記個別張出部は、前記周方向両側の前記個別張出部のうち少なくとも片方の前記個別張出部が自身に対応する前記挿通部に接触した状態で配置される
〔1〕又は〔2〕に記載のステータ。
【0018】
上記ステータは、各々の挿通部に個別に対応して設けられる個別張出部によって、各々の挿通部が周方向に変位することを個別に抑えることができる。
【0019】
〔5〕前記挿通部に接触する前記周方向両側の前記張出部のうち少なくとも片方の前記張出部は、前記挿通部に押圧されて撓み変形して湾曲しており、湾曲した凸面が前記挿通部に接触した状態で配置される
〔2〕に記載のステータ。
【0020】
上記ステータは、上記少なくとも片方の張出部からの反力によって、周方向両側の変位がより強固に規制される。したがって、上記ステータは、挿通部の周方向両側への変位をより確実に抑えることができる。
【0021】
〔6〕前記挿通部は、導体部と、前記導体部の外周を覆う被覆部と、を有し、
前記凸面は、前記被覆部の表面に接触した状態で配置される
〔5〕に記載のステータ。
【0022】
挿通部が被覆部を有する構成においては、張出部が被覆部に接触することによる被覆部の損傷が懸念される。上記ステータは、張出部の凸面が被覆部の表面に接触した状態で配置されるため、張出部が被覆部に接触することによる被覆部の損傷を抑えることができる。
【0023】
〔7〕前記ステータコアは、環状のヨーク部と、前記ヨーク部に沿って環状に並ぶ複数のティース部と、を有し、
各々の前記スロットは、前記ヨーク部と隣り合う2つの前記ティース部とに区画されて形成され、
前記ヨーク部、及び複数の前記ティース部は、複数の電磁鋼板を前記ステータコアの軸方向に積層して一体に形成され、
前記張出部は、前記電磁鋼板によって前記ティース部と一体に形成されている
〔1〕から〔6〕のいずれかに記載のステータ。
【0024】
上記ステータコアは、張出部が、ヨーク部及びティース部を構成する電磁鋼板によってティース部と一体に形成されるため、部品点数の増加を抑えた形で張出部を形成することができる。
【0025】
〔8〕前記張出部は、前記ステータコアの軸方向において前記スロット内の両側に設けられ、
前記挿通部は、前記スロット内の前記軸方向両側において、前記周方向両側の前記張出部のうち少なくとも一方の前記張出部に接触した状態で配置される
〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のステータ。
【0026】
挿通部は、スロット内の軸方向両側において、自身に接触する張出部によって、当該張出部側への変位が規制される。したがって、上記ステータは、スロット内の軸方向両側において、挿通部が周方向に変位することを抑えることができる。
【0027】
〔9〕更に、前記スロット内に充填される絶縁樹脂を備え、
前記絶縁樹脂は、前記軸方向両側の前記張出部の間において、前記周方向両側の前記内壁と前記挿通部との間で連続的に充填される連続充填部を有する
〔8〕に記載のステータ。
【0028】
上記ステータは、連続充填部においてスロットの内壁と挿通部との間に絶縁紙が介在しないため、挿通部の熱が絶縁樹脂を介してステータコアに伝達されやすく、コイルの熱を放出しやすい。
【0029】
〔10〕環状のステータコアとコイルセグメントとを準備する準備工程を含み、
前記ステータコアは、前記ステータコアの周方向に並んで配置される複数のスロットと、前記スロットにおける前記周方向両側の内壁から張り出した張出部と、を有し、
前記コイルセグメントは、前記スロット内に挿し通される挿通部を有し、
更に、前記周方向両側の前記張出部の間に前記挿通部が通るように、前記ステータコアの軸方向一方側から前記挿通部を前記スロット内に挿し通す挿通工程を含む
ステータの製造方法。
【0030】
上記ステータの製造方法によれば、挿通部がスロット内に挿通される際、挿通部の周方向両側への変位が周方向両側の張出部によって制限される。また、挿通部がスロット内に配置された状態においても、挿通部の周方向両側への変位が周方向両側の張出部によって制限される。つまり、上記ステータの製造方法によれば、コイルを構成するコイルセグメントの挿通部が周方向に変位することを抑えることができる。
【0031】
〔11〕前記張出部は、前記軸方向において前記スロット内の両側に配置され、前記内壁に支持される部位を支点として撓み変形可能であり、
撓み変形していない状態の前記周方向両側の前記張出部間の間隔は、前記挿通部の幅よりも小さく、
前記挿通工程では、前記スロット内の前記軸方向両側において前記周方向両側の前記張出部の間に前記挿通部が通るように、前記軸方向一方側から前記挿通部を前記スロット内に挿し通し、
更に、前記スロット内の前記軸方向両側において前記挿通部が前記周方向両側の前記張出部の間に配置された状態において、前記軸方向両側の前記張出部の間に樹脂材料を充填する充填工程を含む
〔10〕に記載のステータの製造方法。
【0032】
上記ステータの製造方法によれば、軸方向両側の張出部によって樹脂材料の漏れを抑えつつ、スロット内に樹脂材料を充填させることができる。
【0033】
〔12〕前記スロット内には、複数の前記挿通部が前記ステータコアの径方向に並んで配置され、
前記周方向両側の前記張出部は、各々の前記挿通部と前記内壁との間に介在し、複数の前記挿通部が並ぶ方向に連続しており、
前記充填工程では、前記軸方向両側において各々の前記挿通部が前記周方向両側の前記張出部の間に配置された状態で、前記軸方向両側の前記張出部の間に前記樹脂材料を充填する
〔11〕に記載のステータの製造方法。
【0034】
上記ステータの製造方法によれば、各々の挿通部と内壁との間の隙間を、軸方向両側の張出部によって複数の挿通部が並ぶ方向に連続的に覆いつつ、スロット内に樹脂材料を充填させることができる。
【0035】
<第1実施形態>
1.ステータ1の構成
第1実施形態のステータ1は、回転電機(具体的には、モータ)の部品として使用される。ステータ1は、環状、より具体的には円環状をなしている。ステータ1は、
図2及び
図7に示すように、ステータコア10、コイル30と、絶縁樹脂40と、を備える。
【0036】
ステータコア10は、
図1に示すように、環状、より具体的には円環状をなしている。以下では、ステータコア10の径方向を径方向と称し、ステータコア10の軸方向を軸方向と称し、ステータコア10の周方向を周方向と称する。なお、
図1では、張出部21、22(
図7参照)が省略されている。
【0037】
ステータコア10は、
図1及び
図2に示すように、ヨーク部11と、複数のティース部12と、を有する。ヨーク部11は、環状、より具体的には円環状をなしている。複数のティース部12は、ヨーク部11の内周面に沿って環状に並んで複数設けられている。各々のティース部12は、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。各々のティース部12は、ヨーク部11の内周部から径方向内側に突出している。各々のティース部12は、径方向及び軸方向に沿った壁状をなしている。各々のティース部12は、径方向及び軸方向の沿った壁状をなすティース本体13と、ティース本体13の先端部(言い換えると、径方向内側の端部)から周方向両側に張り出したティース張出部14と、を有する。ヨーク部11、及び複数のティース部12は、複数の電磁鋼板(例えばケイ素鋼板)をステータコア10の軸方向に積層して一体に形成されている。
【0038】
ステータコア10は、
図1に示すように、複数のスロット15を有する。複数のスロット15は、周方向に並んで配置され、環状をなす。スロット15は、ステータコア10を軸方向に貫通している。スロット15は、
図2及び
図7に示すように、第1開口16と、第2開口17と、第3開口18と、を有する。第1開口16は、ステータコア10の軸方向の一方側の面に形成されている。第2開口17は、ステータコア10の軸方向の他方側の面に形成されている。第3開口18は、ステータコア10の径方向内側面に形成されている。第3開口18は、第1開口16及び第2開口17に連続している。各々のスロット15は、
図2に示すように、ヨーク部11と、隣り合う2つのティース部12とに区画されて形成されている。
【0039】
ステータコア10は、
図2及び
図7に示すように、スロット15における周方向両側の内壁から張り出した張出部21、22を有する。張出部21、22は、スロット15の内壁に片持ち支持されており、内壁に支持される部位を支点として撓み変形し得る。張出部21、22は、スロット15内の軸方向両側に設けられる。張出部21、22は、各々のスロット15内に設けられる。張出部21、22は、ティース部12を形成する電磁鋼板によってティース部12と一体に形成される。この構成によれば、ステータコア10は、部品点数の増加を抑えた形で張出部21、22を形成することができる。
【0040】
コイル30は、ステータコア10に装着される。コイル30は、ステータコア10(より具体的には、ティース部12)に巻き回される。コイル30は、分布巻であってもよいし、集中巻であってもよい。コイル30は、分布巻である場合、波巻であってもよいし、同心巻であってもよいし、重ね巻であってもよい。本実施形態では、コイル30を波巻として説明する。コイル30は、スロット15内を通ってティース部12に巻き回されている。コイル30は、芯線の外周を被覆で覆った被覆電線を用いて構成される。コイル30は、本実施形態では、平角線である。なお、コイル30は、平角線でなくてもよく、例えば、丸線であってもよい。コイル30は、
図2に示すように、コイル30の長さ方向と直交する方向に切断した断面が矩形状をなしている。
【0041】
コイル30は、スロット15内に挿し通される挿通部31を有する。挿通部31は、被覆電線を用いて構成される。挿通部31は、スロット15内に軸方向に挿通される。挿通部31は、直線状をなす。挿通部31の一端側は、スロット15における軸方向一方側の端部(つまり、第1開口16)から軸方向一方側に突出する。挿通部31の他端側は、スロット15における軸方向他方側の端部(つまり、第2開口17)から軸方向他方側に突出する。挿通部31は、平角線を用いて構成される。挿通部31は、
図2に示すように、挿通部31の長さ方向(軸方向)と直交する方向に切断した断面が矩形状をなしている。コイル30は、芯線の外周を被覆で覆った被覆電線を用いて構成される。挿通部31は、導体部32と、導体部32の外周を覆う被覆部33と、を有する。
【0042】
導体部32は、導電性を有する。導体部32は、被覆電線の芯線を用いて構成される。導体部32は、
図7に示すように、直線状に延びる形態をなす。導体部32は、軸方向に延びる。導体部32は、
図2に示すように、導体部32の長さ方向と直交する方向に切断した断面が矩形状をなす。
【0043】
被覆部33は、絶縁性を有する。被覆部33は、被覆電線の被覆を用いて構成される。被覆部33の材料は特に限定されない。被覆部33は、本実施形態では、誘電率が低い低誘電率エナメルである。被覆部33は、例えばポリビニルホルマール、熱硬化ポリウレタン、熱硬化アクリル、エポキシ、熱硬化ポリエステル、熱硬化ポリエステルイミド、芳香族ポリアミド、熱硬化ポリアミドイミド、熱硬化ポリイミド等の熱硬化性樹脂を主成分としてもよい。また、被覆部は、例えばポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂を主成分としてもよい。ここで「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。
【0044】
絶縁樹脂40は、
図2に示すスロット15Bのように、スロット15内に充填されている。絶縁樹脂40は、ステータコア10の軸方向中央部において、スロット15の内壁と挿通部31との間で連続的に充填される連続充填部41を有する。連続充填部41は、スロット15内の軸方向両側の張出部21、22の間に連続的に充填されている。この構成によれば、連続充填部41においてスロット15の内壁と挿通部31との間に絶縁紙が介在しないため、挿通部31の熱が絶縁樹脂40を介してステータコア10に伝達されやすく、コイル30の熱を放出しやすい。
【0045】
上述した挿通部31は、
図7に示すように、周方向両側の張出部21、22の間に配置される。挿通部31は、周方向両側の張出部21、22の両方に接触した状態で配置される。この構成によれば、挿通部31は、周方向両側の張出部21、22によって、周方向両側の変位が規制される。したがって、ステータ1は、挿通部31の周方向両側への変位を抑えることができる。
【0046】
更に、挿通部31は、
図7に示すように、軸方向両側において、周方向両側の張出部21、22が張出部21、22に接触した状態で配置される。この構成によれば、挿通部31は、スロット15内の軸方向両側において、自身に接触する張出部21、22によって、当該張出部21、22側への変位が規制される。したがって、ステータ1は、スロット15内の軸方向両側において、挿通部31が周方向に変位することを抑えることができる。
【0047】
図2に示すように、スロット15内には、複数(本実施形態では4本)の挿通部31が径方向に並んで配置される。なお、
図2では、スロット15A内においては絶縁樹脂40が省略されており、スロット15Bにおいては、絶縁樹脂40が充填された状態が示されている。周方向両側の張出部21、22は、各々の挿通部31とスロット15の周方向両側の内壁との間に介在し、複数の挿通部31が並ぶ方向に連続している。この構成によれば、ステータ1は、スロット15の周方向両側の内壁と各々の挿通部31との間の隙間を、張出部21、22によって複数の挿通部が並ぶ方向に連続して塞ぐことができる。
【0048】
「張出部21、22の径方向の長さ」は、「挿通部31の径方向の長さ(挿通部31の幅)」に「スロット15内において径方向に並ぶ複数の挿通部31の数」を乗算した値よりも大きい。張出部21、22の径方向内側の端部は、最も径方向内側に配置される挿通部31よりも径方向内側に配置される。張出部21、22の径方向外側の端部は、最も径方向外側に配置される挿通部31よりも径方向外側に配置される。
【0049】
図7に示すように、挿通部31に接触する周方向両側の張出部21、22は、いずれも挿通部31に押圧されて撓み変形して湾曲している。張出部21、22の湾曲した凸面21A、22Aは、挿通部31に接触した状態で配置される。張出部21、22の湾曲した凸面21A、22Aは、軸方向両側において、挿通部31に接触した状態で配置される。この構成によれば、ステータ1は、周方向両側の張出部21、22からの反力によって、周方向両側の変位がより強固に規制される。したがって、ステータ1は、挿通部31の周方向両側への変位をより確実に抑えることができる。
【0050】
図2及び
図7に示すように、張出部21、22の凸面21A、22Aは、被覆部33の表面に接触した状態で配置される。挿通部31が被覆部33を有する構成においては、張出部21、22が被覆部33に接触することによる被覆部33の損傷が懸念される。ステータ1は、張出部21、22の凸面21A、22Aが被覆部33の表面に接触した状態で配置されるため、張出部21、22が被覆部33に接触することによる被覆部33の損傷を抑えることができる。
【0051】
図7に示す例では、軸方向一方側の張出部21、22全体がスロット15内に配置され、軸方向他方側の張出部21、22がスロット15の外部に張り出している。しかし、軸方向両側の張出部21、22全体がスロット15内に配置されてもよいし、軸方向両側の張出部21、22がスロット15の外部に張り出していてもよい。
【0052】
2.ステータ1の製造方法
ステータ1の製造方法は、準備工程と、挿通工程と、充填工程と、屈曲工程と、溶接工程と、を含む。
【0053】
準備工程では、上述したステータコア10とコイルセグメント50とを準備する。ステータコア10の張出部21、22は、
図3に示すように、撓み変形していない状態において、径方向に長い矩形状をなしている。撓み変形していない状態の周方向両側の張出部21、22間の間隔GAは、挿通部31の幅よりも小さい。つまり、挿通部31の幅(より具体的には、軸方向と直交し且つ複数の挿通部31が並ぶ方向と直交する方向の挿通部31の幅)は、スロット15の周方向両側の内壁間の間隔GBよりも小さく、撓み変形していない状態の周方向両側の張出部21、22間の間隔GAよりも大きい。コイルセグメント50は、例えばU字型をなし、2本の挿通部31を有する。
【0054】
挿通工程では、
図4及び
図5に示すように、周方向両側の張出部21、22の間に挿通部31が通るように、ステータコア10の軸方向一方側から挿通部31をスロット15内に挿し通す。この方法によれば、挿通部31がスロット15内に挿通される際、挿通部31の周方向両側への変位が両側の張出部21、22によって制限される。また、挿通部31がスロット15内に配置された状態においても、挿通部31の周方向両側への変位が周方向両側の張出部21、22によって制限される。つまり、この方法によれば、コイル30を構成するコイルセグメント50の挿通部31が周方向に変位することを抑えることができる。
【0055】
挿通工程では、挿通部31がスロット15内に挿通される際、挿通部31によって周方向両側の張出部21、22を撓み変形させながら張出部21、22の間に挿通部31を挿し通す。この方法によれば、挿通部31が、周方向両側の張出部21、22によってスロット15の周方向中央側に寄せられる。このため、挿通部31の被覆部33がスロット15の開口端に接触して損傷することを抑えることができる。
【0056】
挿通工程では、スロット15内の軸方向両側において周方向両側の張出部21、22の間に挿通部31が通るように、軸方向一方側から挿通部31をスロット15内に挿し通す。これにより、スロット15内の軸方向両側においてスロット15の周方向両側の内壁と挿通部31との間の隙間を塞ぐことができる。
【0057】
挿通工程では、コイルセグメント50の2本の挿通部31が、それぞれ別々のスロット15内に挿通される。各スロット15には、挿通部31が4本ずつ挿通される。
【0058】
充填工程では、
図6に示すように、スロット15内の軸方向両側において挿通部31が周方向両側の張出部21、22の間に配置された状態において、軸方向両側の張出部21、22の間に樹脂材料61を充填する。この方法によれば、軸方向両側の張出部21、22によって樹脂材料61の漏れを抑えつつ、スロット15内に樹脂材料61を充填させることができる。樹脂材料61が硬化することで絶縁樹脂40となる。更に、周方向両側の張出部21、22は、各々の挿通部31とスロット15の周方向両側の内壁との間に介在し、複数の挿通部31が並ぶ方向に連続している。このため、各々の挿通部31と周方向両側の内壁との間の隙間を、軸方向両側の張出部21、22によって複数の挿通部31が並ぶ方向に連続的に覆いつつ、スロット15内に樹脂材料61を充填させることができる。
【0059】
充填工程では、樹脂材料61を吐出する充填装置60が、環状のステータコア10の内側空間に配置される。そして、充填装置60は、樹脂材料61の注入口62を除き、スロット15の径方向内側の開口(第3開口18)を、充填装置60のカバー63で覆う。樹脂材料61の注入口62は、軸方向において、軸方向両側の張出部21、22の間に配置される。充填装置60は、注入口62から樹脂材料61を充填することで、軸方向両側の張出部21、22の間に樹脂材料61を充填する。樹脂材料61の充填は、充填装置60を間欠的に回転移動させることで各々のスロット15に順に充填させる方法であってもよいし、全てのスロット15に一度に充填させる方法であってもよい。
【0060】
屈曲工程では、コイルセグメント50におけるスロット15の他方側の端部から突出した部位を屈曲させる。溶接工程では、別々のスロット15内に挿し通されたコイルセグメント50の屈曲された部位同士を溶接する。これらの工程を経て、
図7に示すように、ステータ1が完成する。
【0061】
<第2実施形態>
第2実施形態では、張出部が、各々の挿通部に対応して個別に設けられた個別張出部を有する例について説明する。なお、第2実施形態の説明では、第1実施形態と同じ構成について同じ符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0062】
図8に示すステータ201は、ステータコア210、コイル30と、絶縁樹脂40と、を備える。ステータコア210は、ヨーク部11と、複数のティース部12と、複数のスロット15と、を有する。ステータコア210は、スロット15における周方向両側の内壁から張り出した張出部221、222を有する。
【0063】
スロット15内には、複数の挿通部31がステータコア210の径方向に並んで配置される。周方向両側の張出部221、222は、各々の挿通部31に個別に対応して設けられる個別張出部223、224を有する。周方向両側の個別張出部223、224は、それぞれ自身に対応する挿通部31に接触した状態で配置される。この構成によれば、ステータ201は、各々の挿通部31に個別に対応して設けられる個別張出部223、224によって、各々の挿通部31が周方向両側に変位することを個別に抑えることができる。
【0064】
ステータ201の製造方法は、第1実施形態のステータ1の製造方法と同じであるが、構成の違いに起因して以下の違いが生じる。
【0065】
各々の個別張出部223、224は、自身に対応する挿通部31とスロット15内の周方向両側の内壁との間に配置され、当該内壁に支持される部位を支点として互いに独立して撓み変形可能である。個別張出部223、224は、
図9に示すように、撓み変形していない状態において、径方向に長い矩形状をなしている。個別張出部223、224が撓み変形していない状態において、周方向両側の個別張出部223、224間の間隔GCは、挿通部31の幅よりも小さい。つまり、挿通部31の幅(より具体的には、軸方向と直交し且つ複数の挿通部31が並ぶ方向と直交する方向の挿通部31の幅)は、スロット15の周方向両側の内壁間の間隔GBよりも小さく、撓み変形していない状態の周方向両側の個別張出部223、224間の間隔GCよりも大きい。
【0066】
挿通工程では、挿通部31がスロット15内に挿通される際、挿通部31によって当該挿通部31に対応する個別張出部223、224を撓み変形させながら個別張出部223、224の間に挿通部31を挿し通す。この方法によれば、各々の個別張出部223、224が、自身に対応する挿通部31の位置に合わせて個別に変位するため、周方向において張出部221、222と挿通部31との間に隙間が生じにくくなる。
【0067】
<他の実施形態>
本開示は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述又は後述の実施形態の特徴は、矛盾しない範囲であらゆる組み合わせが可能である。また、上述又は後述の実施形態のいずれの特徴も、必須のものとして明示されていなければ省略することもできる。更に、上述した実施形態は、次のように変更されてもよい。
【0068】
上記各実施形態では、張出部がティース部と同一部材で一体に形成される構成であったが、張出部がティース部と別部材で形成される構成であってもよい。
【0069】
上記各実施形態では、挿通部が周方向両側の張出部の両方に接触する構成であったが、片方にのみ接触する構成であってもよい。
【0070】
上記各実施形態では、周方向両側の張出部がいずれも撓み変形して湾曲した構成であったが、周方向両側の張出部のうち片方のみが撓み変形して湾曲した構成であってもよいし、いずれも湾曲していない構成であってもよい。
【0071】
上記各実施形態では、張出部の凸面が挿通部に接触する構成であったが、張出部の張出端部が挿通部に接触する構成であってもよい。
【0072】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1…ステータ
10…ステータコア
11…ヨーク部
12…ティース部
13…ティース本体
14…ティース張出部
15…スロット
15A…スロット
15B…スロット
16…第1開口
17…第2開口
18…第3開口
21…張出部
21A…凸面
22…張出部
22A…凸面
30…コイル
31…挿通部
32…導体部
33…被覆部
40…絶縁樹脂
41…連続充填部
44…被覆部
50…コイルセグメント
60…充填装置
61…樹脂材料
62…注入口
63…カバー
201…ステータ
210…ステータコア
221…張出部
222…張出部
223…個別張出部
224…個別張出部