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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034586
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】パルプの糖化方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/14 20060101AFI20240306BHJP
   C13K 1/02 20060101ALN20240306BHJP
   C12N 9/42 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C12P19/14 A
C13K1/02
C12N9/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138929
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岸川凛太郎
(72)【発明者】
【氏名】古川朋史
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 淳
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC08
4B050DD01
4B050LL05
4B050LL10
4B064AF02
4B064CA21
4B064CB07
4B064DA16
(57)【要約】
【課題】糖化後に活性を有する酵素の回収に優れるパルプの糖化方法を提供する。
【解決手段】上記の目的は、漂白薬品として少なくとも二酸化塩素を用いて漂白処理した漂白クラフトパルプを準備する工程(1)、前記漂白クラフトパルプを水洗する工程(2)及び/又は前記漂白パルプを中和する工程(3)、前記工程(2)及び/又は(3)後の漂白クラフトパルプを糖化酵素を用いて酵素加水分解する工程(4)を有するパルプの糖化方法によって達成できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
漂白薬品として少なくとも二酸化塩素を用いて漂白処理した漂白クラフトパルプを準備する工程(1)、前記漂白クラフトパルプを水洗する工程(2)及び/又は前記漂白パルプを中和する工程(3)、前記工程(2)及び/又は(3)後の漂白クラフトパルプを糖化酵素を用いて酵素加水分解する工程(4)を有するパルプの糖化方法。
【請求項2】
前記工程(4)に先立って、漂白クラフトパルプ濃度を5質量%以上15質量%以下の範囲とする漂白クラフトパルプスラリーを準備する工程(5)を有する、請求項1に記載のパルプの糖化方法。
【請求項3】
前記工程(4)の糖化酵素が、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを混合した酵素カクテルである請求項1又は2に記載のパルプの糖化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系バイオマスから成るパルプの糖化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酵素を用いた木質系バイオマスの糖化技術、すなわち酵素糖化法は既に公知である(例えば、非特許文献1参照)。
酵素糖化法は、酵素によって加水分解を行う方法であって、従来公知の硫酸法と比較して反応速度が遅いものの糖の過分解が無く、少ない環境負荷で木質系バイオマスを糖化することができる。しかしながら、木質系バイオマスを構成するリグノセルロースは、構造が強固であるために簡単に酵素による加水分解が進行しない。よって、木質系バイオマスの糖化には、木質系バイオマスの前処理が必要である。
【0003】
木質系バイオマス(「リグノセルロース系バイオマス」ともいう。)の糖化方法では、アルカリ蒸解法でパルプ化し、さらに漂白によって脱リグニン化したリグノセルロース系バイオマスを糖化酵素液及び/又は糖化酵素産生菌の培養液で糖化し、さらにエタノール発酵菌でエタノール発酵させるエタノールの製造方法が公知である(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されるが如くの方法は、リグノセルロース系バイオマスをアルカリ蒸解後に漂白処理を加えることにより糖化酵素の反応を阻害する未分解残渣が減少する結果、糖化酵素の使用量を削減でき、さらに、酵素回収率も増大する。ここでは、蒸解及び漂白がリグノセルロース系バイオマスの前処理に該当する。糖化酵素は、高価な化合物であるために、失活させずに回収して再利用することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-136702号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】産総研TODAY、「リグノセルロースの前処理・糖化技術の研究開発」(藤本真司著、2013年6月号11頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、糖化率、残渣率及び酵素活性維持率が不十分になる場合があった。ここで、残渣率は、糖化されなかった未反応物等の割合を示し、酵素活性維持率は、失活させずに回収して再利用できる酵素の割合を示す。
本発明の目的は、糖化率、残渣率及び酵素活性維持率に優れる木質系バイオマスから成るパルプの糖化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、以下によって達成される。
[1]漂白薬品として少なくとも二酸化塩素を用いて漂白処理した漂白クラフトパルプを準備する工程(1)、前記漂白クラフトパルプを水洗する工程(2)及び/又は前記漂白クラフトパルプを中和する工程(3)、前記工程(2)及び/又は(3)後の漂白クラフトパルプを糖化酵素を用いて酵素加水分解する工程(4)を有するパルプの糖化方法。
【0008】
いくつかの実施態様において、本発明の課題は以下によって達成される。
[2]前記工程(4)に先立って、漂白クラフトパルプ濃度を5質量%以上15質量%以下の範囲とする漂白クラフトパルプスラリーを準備する工程(5)を有する、上記[1]に記載のパルプの糖化方法。
【0009】
いくつかの実施態様において、本発明の課題は以下によって達成される。
[3]上記工程(4)の糖化酵素が、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを混合した酵素カクテルである上記[1]又は[2]に記載のパルプの糖化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、糖化率、残渣率及び酵素活性維持率に優れる木質系バイオマスから成るパルプの糖化方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明のパルプの糖化方法は、漂白クラフトパルプを準備する工程(1)、前記漂白クラフトパルプを水洗する工程(2)及び/又は前記漂白クラフトパルプを中和する工程(3)、並びに前記工程(2)及び/又は(3)後の漂白クラフトパルプを酵素を用いて酵素加水分解する工程(4)を有する。
【0012】
<工程(1)>
工程(1)は、漂白薬品として少なくとも二酸化塩素を用いて漂白処理した漂白クラフトパルプの準備である。
木質系バイオマスのパルプ化は、製紙分野で従来公知である。木質系バイオマスのパルプ化は、例えば、機械的にバイオマスを摩砕して繊維化する方法(機械パルプ化法)、薬品の作用で木質材料を繊維状に離解する方法(化学パルプ化法)、及びこれらを組み合わせた方法がある。化学パルプ化法としては、さらに、クラフト法(クラフト改良法及び修正クラフト法を含む)、サルファイト法、キノン法、ソーダ法、キノン・ソーダ法、アルカぺール法、オルガノソルブ法、バイオロジカル法、酵素・アルカリ法、ホロ法、PFP法、硝酸法及びハイドロトロピック法等がある。
クラフトパルプは、上記クラフト法によって得られるパルプである。
【0013】
クラフト法は、製紙分野におけるパルプの製造で従来公知の条件を採用することができる。クラフト法の条件は、例えば、蒸解温度、蒸解時間、蒸解圧力、液比、有効アルカリ添加率、蒸解薬液添加率及び蒸解薬液の硫化度等を挙げることができる。これら条件は特に限定されない。
【0014】
クラフト法において、パルプ化に使用する蒸解液には、蒸解助剤を添加することができる。蒸解助剤は、製紙分野で従来公知のものであって、例えば、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン及び前記キノン系化合物のアルキル若しくはアミノ等の核置換体、並びに前記キノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物等を挙げることができる。蒸解助剤は、これらからなる群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0015】
いくつかの実施態様において、クラフトパルプには、クラフト法によってパルプ化した後及び下記の漂白処理の前に製紙分野で従来公知の酸素脱リグニン法により脱リグニンを施す。この理由は、糖化酵素によるパルプの糖化に対する阻害物質であるリグニンを除去できるからである。酸素脱リグニン法の条件は、製紙分野で従来公知である。酸素脱リグニン法の条件は、例えば、酸素脱リグニン時の温度、圧力、処理時間、パルプ濃度及び酸素添加率等を挙げることができる。
【0016】
いくつかの実施態様において、クラフトパルプには、上記酸素脱リグニン法により脱リグニンを施した後に水洗を施す。この理由は、クラフトパルプに吸着するリグニンの分解物等を除去することができるからである。
【0017】
クラフトパルプには漂白処理を施す。クラフトパルプは、漂白処理を施すことによって漂白クラフトパルプとなる。
漂白処理は、木質系バイオマスに含まれる着色物質を脱色又は除去する製紙分野で従来公知である。漂白処理は、例えば、硫酸、モノ過硫酸、ハイドロサルファイト塩、過酸化水素、酸素、塩素及び苛性ソーダ、次亜塩素酸、二酸化塩素、及びオゾン等の漂白薬品を用いる方法を挙げることができる。漂白処理の漂白薬品は、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。また、漂白処理には、前記漂白薬品から成る群から選ばれる一種又は二種以上組み合わせて用いる方法を複数段組み合わせる方法、すなわち多段漂白法を挙げることができる。また、多段漂白法が複数段の組み合わせである場合は、漂白薬品を用いない洗浄だけの処理を含むことができる。
漂白処理は、製紙分野で従来公知の条件を採用することができる。漂白処理の条件の例としては、薬剤の温度、pH、処理時間、パルプ濃度及び薬剤添加率等を挙げることができる。
【0018】
漂白クラフトパルプは、クラフト法で得たクラフトパルプに対して漂白薬品として少なくとも二酸化塩素を用いて漂白処理して成る。漂白クラフトパルプを準備する工程(1)は、クラフトパルプに二酸化塩素を用いた前記漂白処理を施して、完了する。
少なくとも二酸化塩素を用いて漂白処理とは、例えば、漂白薬品に二酸化塩素を用いる方法、少なくとも二酸化塩素を含みつつ二酸化塩素以外の上記漂白薬品から成る群から選ばれる一種又は二種以上組み合わせて用いる方法、及び漂白薬品として二酸化塩素を少なくとも含む段を一段以上と二酸化塩素以外の上記漂白薬品から成る群から選ばれる一種又は二種以上を含む一段以上との複数段を組み合わせる多段漂白法を挙げることができる。
いくつかの実施態様において、漂白処理は、多段漂白法であって、初期段に、漂白薬品として二酸化塩素を少なくとも含む段を有する。この理由は、糖化酵素によるパルプの糖化に対する阻害物質であるリグニン等をより除去できるからである。ここで、初期段とは、多段漂白法において漂白処理の1段目乃至2段目を指す。
【0019】
木質系バイオマスは、製紙分野で従来公知である樹種の木材である。木質系バイオマスは、例えば、ユーカリ属植物、ヤナギ属植物、ポプラ属植物、アカシア属植物及びスギ属植物等を挙げることができる。いくつかの実施態様において、製紙分野と共同で利用できる観点から、木質系バイオマスは、ユーカリ属植物及びアカシア属植物である。
【0020】
<工程(2)>
工程(2)は、漂白クラフトパルプの水洗である。
漂白クラフトパルプの水洗は、漂白クラフトパルプスラリーにイオン交換水等の水を加えて希釈して行う。いくつかの実施態様において、漂白クラフトパルプの水洗は、漂白クラフトパルプスラリーにイオン交換水等の水を加えて希釈し、希釈後に漂白クラフトパルプスラリーを脱水する方法である。少なくとも一つの実施態様において、漂白クラフトパルプの水洗は、前記希釈及び脱水を複数回繰り返す。この理由は、糖化酵素によるパルプの糖化に対する阻害物質であるリグニンの低分子化した化合物等をより除去できるからである。漂白クラフトパルプは、例えば、水洗及び脱水を経て、最終的に漂白クラフトパルプ濃度20質量%以上の漂白クラフトパルプスラリーとなる。
漂白クラフトパルプは、工程(2)によって漂白クラフトパルプ中に残存するリグニンの低分子化した化合物、不純物及び二酸化塩素等の漂白薬品を減らすことができる。工程(2)が無い場合は、漂白クラフトパルプ中に残存するリグニンの低分子化した化合物、不純物及び二酸化塩素等の漂白薬品に起因して、糖化に用いる糖化酵素の活性が失活又は阻害される。結果、糖化率、残渣率及び酵素活性維持率が悪化する。
【0021】
<工程(3)>
工程(3)は、漂白クラフトパルプの中和である。
上記したように、漂白クラフトパルプは、クラフト法で得たクラフトパルプに対して漂白薬品として少なくとも二酸化塩素を用いて漂白処理して成る。漂白薬品である二酸化塩素は、他の漂白薬品と比べてクラフトパルプに比較的損傷を与えずに、糖化酵素によるパルプの糖化に対するリグニン等の阻害物質を酸化及び除去することができる。一方、二酸化塩素は強い酸化力を有するために漂白クラフトパルプ中に残存すると、糖化酵素の変性を引き起こすことを本発明者らは発見した。これまで、二酸化塩素が糖化酵素を用いるパルプの糖化を阻害することは知られていなかった。漂白クラフトパルプを中和することによって、漂白クラフトパルプ中に残存する糖化酵素の二酸化塩素による変性を抑制することができる。
中和は、中和剤を含有する水溶液と漂白クラフトパルプスラリーと混合して攪拌して達成できる。漂白クラフトパルプは、例えば、中和及び脱水を経て、漂白クラフトパルプ濃度20質量%以上の漂白クラフトパルプスラリーとなる。
【0022】
中和に用いる中和剤は、従来公知の塩素中和剤と呼ばれる化合物である。中和剤は、例えば、亜硫酸ナトリウム、次亜塩素酸ソーダ及びチオ硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0023】
本発明のパルプの糖化方法は、工程(1)の後に、工程(2)及び/又は工程(3)を有する。すなわち、本発明のパルプの糖化方法は、工程(1)の後に、工程(2)、工程(3)、又は工程(2)及び工程(3)を有する。本発明のパルプの糖化方法は、工程(2)及び/又は工程(3)を有することで、糖化率、残渣率及び酵素活性維持率に優れる。
【0024】
<工程(4)>
工程(4)は、糖化酵素を用いて漂白クラフトパルプを酵素加水分解する、漂白クラフトパルプの糖化である。工程(4)は、工程(2)及び/又は工程(3)の後に続く。
非特許文献1に記載されるが如く、漂白クラフトパルプのような木質系バイオマスを糖化酵素を用いて酵素加水分解する糖化方法は公知である。酵素加水分解は、木質系バイオマスの糖化分野で従来公知の条件を採用することができる。条件は、例えば、漂白クラフトパルプに対する糖化酵素の添加量が漂白クラフトパルプ1gあたり5FPU以上100FPU以下、温度が20℃以上70℃以下の範囲、pHが3.0以上6.5以下の範囲、反応時間が2時間以上48時間以下、及び漂白クラフトパルプの濃度が5質量%以上15質量%以下の範囲等を挙げることができる。
ここで、FPUは、国際純正応用化学連合IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)が定めた方法により測定される濾紙分解活性である。
【0025】
パルプの糖化に用いる糖化酵素は、糖化分野で従来公知のものである。糖化酵素は、例えば、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを挙げることができる。セルラーゼは、セルロースのβ-1・4グリコシド結合を加水分解する糖化酵素の総称である。ヘミセルラーゼは、ヘミセルロースを分解する糖化酵素の総称である。いくつかの実施態様において、糖化酵素は、セルラーゼ及びヘミセルラーゼから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
さらに、糖化酵素は、例えば、β‐グルコシダーゼを挙げることができる。β‐グルコシダーゼは、糖のβ‐グリコシド結合を加水分解する反応を触媒する糖化酵素である。本発明では、β‐グルコシダーゼをセルラーゼに含める。
セルラーゼの例としては、エンドグルカナーゼ、エクソグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及びβ‐グルコシダーゼ等を挙げることができる。ヘミセルラーゼの例としては、キシラナーゼ、β‐キシロシダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、α‐アラビノフラノシダーゼ、マンナナーゼ、α‐ガラクトシダーゼ、キシログルカナーゼ、ペクトリアーゼ及びペクチナーゼ等を挙げることができる。セルラーゼ及びヘミセルラーゼは、デュポン社、エイチビィアイ社、MeijiSeikaファルマ社、Genencor社及びNovozymes社等から市販される。
【0026】
いくつかの実施態様において、工程(4)におけるパルプの糖化に用いる糖化酵素は、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを混合した酵素カクテルである。この理由は、糖化率及び残渣率が良化するからである。
【0027】
<工程(5)>
いくつかの実施態様において、パルプの糖化方法は、上記工程(4)に先立って工程(5)を有する。すなわち、工程(5)は、工程(2)及び/又は工程(3)の後かつ工程(4)の前に存在する。工程(5)は、漂白クラフトパルプ濃度を5質量%以上15質量%以下の範囲にした漂白クラフトパルプスラリーの準備である。そして、前記漂白クラフトパルプスラリーを工程(4)の糖化酵素による酵素加水分解に適用する。この理由は、糖化率及び残渣率が良化するからである。
工程(2)乃至工程(3)によって得た漂白クラフトパルプスラリーの濃度は、通常、脱水を経て漂白クラフトパルプ濃度が20質量%以上である。従って、工程(5)は、これを、漂白クラフトパルプ濃度を5質量%以上15質量%以下の範囲にイオン交換水等の水を用いて希釈する。
【0028】
少なくとも一つの実施態様において、パルプの糖化方法は、漂白薬品として少なくとも二酸化塩素を用いて漂白処理した漂白クラフトパルプを準備する工程(1)、前記漂白クラフトパルプを水洗する工程(2)及び/又は前記漂白パルプを中和する工程(3)、前記工程(2)及び/又は(3)後の漂白クラフトパルプを糖化酵素を用いて酵素加水分解する工程(4)、並びに前記工程(2)及び又は工程(3)の後かつ前記工程(4)の前に漂白クラフトパルプの濃度が5質量%以上15質量%以下である漂白クラフトパルプスラリーを準備する工程(5)を有し、並びに前記工程(4)の糖化酵素がセルラーゼ及びヘミセルラーゼを混合した酵素カクテルである。
【実施例0029】
以下、実施例に従って本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例において示す質量%及び質量部は、乾燥固形分あるいは実質成分の値を示す。
【0030】
<実施例1>
(工程(1))
(クラフトパルプ)
木質系バイオマスとして広葉樹混合木材チップ(ユーカリ属植物60質量%、アカシア属植物40質量%)を用いた。クラフト法は、液比4、硫化度30質量%、有効アルカリ添加率13質量%(NaOとして)となるよう調製した蒸解白液に前記木材チップを加えた後、蒸解温度170℃にて2時間、クラフトパルプ化を行なった。クラフトパルプ化の終了後、黒液を分離してイオン交換水を用いて水洗及び脱水を3回繰り返し、続いてスクリーンにより未パルプ化物を除去してクラフトパルプを得た。
【0031】
クラフトパルプに対して、NaOHを1.0質量%添加し、酸素ガスを注入して110℃で60分間、酸素脱リグニン法により脱リグニンを施した。施した後のクラフトパルプをイオン交換水を用いて水洗して酸素脱リグニン法を施したクラフトパルプを得た。
【0032】
(漂白クラフトパルプ)
酸素脱リグニン法を施したクラフトパルプを各段に所定の漂白薬品を用いた多段漂白法によって漂白して、なおかつ各段の終了後にクラフトパルプスラリー質量の10倍量のイオン交換水を用いてクラフトパルプの水洗を行い、漂白クラフトパルプ濃度12質量%のスラリーとして漂白クラフトパルプを得た。漂白に用いた各段の漂白薬品は以下である。
第1段 :硫酸
第2段 :二酸化塩素
第3段 :苛性ソーダ
第4段 :過酸化水素及び苛性ソーダ
第5段 :二酸化塩素
【0033】
第1段は、クラフトパルプ濃度12質量%のクラフトパルプスラリーに硫酸を添加してpH3.0に調整、80℃及び時間100分間の漂白処理である。
第2段は、硫酸を用いてpH5に調整、クラフトパルプに対して二酸化塩素添加率0.7質量%、クラフトパルプ濃度12質量%、温度55℃及び時間40分間の漂白処理である。
第3段は、クラフトパルプに対して水酸化ナトリウム添加率0.7質量%、クラフトパルプ濃度12質量%、温度55℃及び時間70分間の漂白処理である
第4段は、クラフトパルプに対して過酸化水素添加率0.4質量%及び水酸化ナトリウム添加率0.2質量%、クラフトパルプ濃度12質量%、温度70℃及び時間70分間の漂白処理である。
第5段は、クラフトパルプに対して二酸化塩素添加率0.3質量%、クラフトパルプ濃度12質量%、温度75℃及び時間120分間の漂白処理である。
【0034】
(工程(2))
工程(2)では、得た漂白クラフトパルプを以下の方法で水洗した。
漂白クラフトパルプスラリーにおいて、漂白クラフトパルプスラリー濃度が1質量%程度になるよう漂白クラフトパルプスラリーをイオン交換水を用いて希釈して水洗した。次に水洗後、漂白クラフトパルプスラリー濃度が20質量%程度になるよう漂白クラフトパルプスラリーを脱水した。漂白クラフトパルプに対して前記水洗及び脱水を3回繰り返した。
結果、水洗及び脱水後に、漂白クラフトパルプスラリー濃度20質量%である漂白クラフトパルプスラリーを得た。
【0035】
(工程(4))
工程(4)では、漂白クラフトパルプを糖化酵素を用いて酵素加水分解して糖化した。
工程(2)後の漂白クラフトパルプスラリーに糖化酵素を添加した。漂白クラフトパルプスラリーを、温度50℃、pH5、時間24時間の条件で糖化酵素を用いるパルプの糖化を行った。糖化によって、生成物である糖及び残渣を含む糖化液を得た。
糖化酵素には、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを含有する酵素カクテルを使用した。糖化酵素の使用量は、パルプ絶乾1gあたり濾紙分解活性で30FPUの添加率とした。
【0036】
<実施例2>
実施例1において、工程(2)以降を下記工程にした以外は実施例1と同様に行った。
【0037】
(工程(5))
工程(5)では、水洗及び脱水後の漂白クラフトパルプスラリーをイオン交換水を用いて濃度を調整した。ただし、実施例2では、漂白クラフトパルプ濃度が5質量%以上15質量%以下の範囲から外れる漂白クラフトパルプ濃度2質量%の漂白クラフトパルプスラリーとして準備した。
【0038】
(工程(4))
工程(4)では、漂白クラフトパルプを糖化酵素を用いて酵素加水分解して糖化した。
工程(5)後の漂白クラフトパルプスラリーに対して糖化酵素を添加した。糖化酵素を添加した漂白クラフトパルプスラリーを、温度50℃、pH5、時間12時間の条件で糖化酵素を用いるパルプの糖化を行った。糖化によって、生成物である糖及び残渣を含む糖化液を得た。
糖化酵素には、セルラーゼ及びヘミセルラーゼを含有する酵素カクテルを使用した。糖化酵素の使用量は、パルプ絶乾1gあたり濾紙分解活性で30FPUの添加率とした。
【0039】
<実施例3>
実施例2において、工程(5)の漂白クラフトパルプスラリー濃度を2質量%から5質量%に変更する以外は実施例2と同様に行った。
【0040】
<実施例4>
実施例2において、工程(5)の漂白クラフトパルプスラリー濃度を2質量%から10質量%に変更する以外は実施例2と同様に行った。
【0041】
<実施例5>
実施例2において、工程(5)の漂白クラフトパルプスラリー濃度を2質量%から15質量%に変更及び工程(4)の時間12時間を時間24時間に変更する以外は実施例2と同様に行った。
【0042】
<実施例6>
実施例1において、工程(2)を下記工程(3)に変更する以外は実施例1と同様に行った。
【0043】
(工程(3))
工程(3)では、得た漂白クラフトパルプを以下の方法で中和した。
漂白クラフトパルプスラリーにおいて、漂白クラフトパルプスラリーの中和が達成されるまで漂白クラフトパルプスラリーに対して0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液を混合して、中和した。次に中和後、漂白クラフトパルプスラリーを脱水した。結果、二酸化塩素の中和及び脱水後に、漂白クラフトパルプ濃度20質量%の漂白クラフトパルプスラリーを得た。
【0044】
<実施例7>
実施例1において、工程(2)に先立って上記工程(3)を行う以外は実施例1と同様に行った。
【0045】
<実施例8>
実施例4において、工程(2)を上記工程(3)に変更する以外は実施例4と同様に行った。
【0046】
<実施例9>
実施例1において、工程(4)の酵素カクテルをセルラーゼに変更する以外は実施例1と同様に行った。
【0047】
<実施例10>
実施例4において、工程(4)の酵素カクテルをセルラーゼに変更する以外は実施例4と同様に行った。
【0048】
<比較例1>
実施例1において、漂白クラフトパルプに代えて上記漂白処理を施さないクラフトパルプを糖化に用いる以外は実施例1と同様に行った。
【0049】
<比較例2>
実施例1において、工程(2)を実施しなかった以外は実施例1と同様に行った。
【0050】
各実施例及び各比較例に対して、糖化率、残渣率及び酵素活性率を評価した。評価結果を表1に記載する。
【0051】
(糖化率)
糖化率は、パルプの糖化酵素を用いる糖化の反応進行度を表す。糖化率は、数値が大きい方が好ましい。
糖化率は、下記式で計算される値である。
糖化率(質量%)=
([糖化酵素を用いる糖化によって生成した糖量(g)]÷
[パルプ中のホロセルロース量(g)])×100
糖化によって生成した糖量は、糖化液を遠心分離処理(40℃の恒温下にて3500rpmの回転速度で30分間処理。装置はコクサン社遠心分離機H-103NRを使用。)して得られた上清中のグルコース濃度及びキシロース濃度を測定し、これら濃度の合計値に上清量を乗じて算出した。グルコース濃度及びキシロース濃度は、バイオセンサー(王子計測機器社BF-9D)を用いて測定した。
また、パルプ中のホロセルロース量は、Wise法で測定した。
【0052】
(残渣率)
残渣率は、糖化されなかった未反応物等の割合を表す。残渣率は、数値が小さい方が好ましい。
パルプ糖化における残渣率は下記式で計算される値である。
残渣率(質量%)=
([糖化液を遠心分離処理後に発生した沈殿量(g)]÷
[遠心分離に供した糖化液量(g)])×100
遠心分離処理は、40℃の恒温下にて3500rpmの回転速度で30分間処理を行った。遠心分離処理には、コクサン社の遠心分離機H-103NRを用いた。
沈殿量(g)は、遠心分離処理後の糖化液から上清を除去した残部について未乾燥のまま質量を計測した値である。
【0053】
(酵素活性維持率)
酵素活性維持率は、糖化に供した糖化酵素の糖化前後における活性維持の程度を表す。
糖化前の糖化酵素及び糖化液から回収した糖化酵素の活性(酵素1mgあたりの濾紙分解活性)を測定することによって酵素活性維持率を算出した。酵素活性維持率は下記式で計算される値である。酵素活性維持率は、数値が大きい方が好ましい。
酵素活性維持率(%)=
([糖化後に糖化液から回収した糖化酵素の濾紙分解活性(FPU/mg)]÷
[糖化前における糖化酵素の濾紙分解活性(FPU/mg)])×100
糖化酵素は酵素溶液の状態で用いた。酵素溶液の濾紙分解活性は、「Technical Report NREL/TP-510-42628 January 2008 『Measurement of Cellulase Activities』」に準じて測定した。酵素溶液中における酵素質量は、タンパク質濃度としてBradford法によって測定することで算出した。酵素1mgあたりの濾紙分解活性は、酵素溶液の濾紙分解活性の値を酵素質量で除すことで算出した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から、本発明に該当する実施例1~10は、糖化率、残渣率及び酵素活性維持率に優れる木質系バイオマスから成るパルプの糖化方法であると分かる。一方、本発明の構成を満足しない比較例1及び2では、糖化率、残渣率及び酵素活性維持率の少なくとも一つを満足できないと分かる。
【0056】
主に、実施例1及び2と実施例3~5との対比から、工程(4)に先立って漂白クラフトパルプ濃度が5質量%以上15質量%以下である漂白クラフトパルプスラリーを準備する工程(5)を有すると、糖化率及び残渣率が良化すると分かる。
【0057】
主に、実施例1と9との対比及び実施例4と実施例10との対比から、工程(4)の糖化酵素がセルラーゼ及びヘミセルラーゼを混合した酵素カクテルであると糖化率及び残渣率が良化すると分かる。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
(糖化率)
糖化率は、パルプの糖化酵素を用いる糖化の反応進行度を表す。糖化率は、数値が大きい方が好ましい。
糖化率は、下記式で計算される値である。
糖化率(質量%)=
([糖化酵素を用いる糖化によって生成した糖量(g)]÷
[パルプ中のホロセルロース量(g)])×100
糖化によって生成した糖量は、糖化液を遠心分離処理(40℃の恒温下にて3500rpmの回転速度で30分間処理。装置はコクサン社遠心分離機H-103NRを使用。)して得られた上清中のグルコース濃度及びキシロース濃度を測定し、これら濃度の合計値に上清量を乗じて算出した。グルコース濃度及びキシロース濃度は、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所社Prominence(登録商標)(カラムオーブン:CTO-20A、送液ポンプ:LC-20AD、RI検出器:RID10A、コントローラー:CMB20A)、カラム:インタクト社 Unison UK-Amino 4.6×150mm、移動相:アクリロニトリル/水=85/15、打ち込み量:20μL、流速:1mL/min、カラム温度:40℃、検出器:RID)を用い測定から算出した。
また、パルプ中のホロセルロース量は、Wise法で測定した。