(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034587
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】原料ガス供給方法、メタン生成方法及びメタン生成装置
(51)【国際特許分類】
C12P 5/02 20060101AFI20240306BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240306BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20240306BHJP
C12M 1/113 20060101ALI20240306BHJP
C12M 1/14 20060101ALI20240306BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C12P5/02
C12N1/00 S
C12M1/04
C12M1/113
C12M1/14
C12N1/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138930
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】庄司 仁
(72)【発明者】
【氏名】新田見 匡
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029CC12
4B029DA04
4B029DB11
4B029DB16
4B029DC05
4B029DC07
4B029DF10
4B029DG06
4B029GA08
4B029GB10
4B064AB03
4B064CC09
4B064CC10
4B064CC22
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BA30
4B065BC07
4B065CA03
4B065CA46
4B065CA55
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】バイオメタネーションにおいて、複雑な運転管理や原料となる二酸化炭素の精製をせずに、高純度なメタンを生成できる原料ガス供給方法、並びに当該原料ガス供給方法を用いたメタン生成方法、及びメタン生成装置を提供することである。
【解決手段】本発明の原料ガス供給方法は、バイオメタネーションにおける原料ガス供給方法であって、気体透過膜31と培養液4に挟まれたバイオフィルム32に対して、水素を純ガスの状態で前記気体透過膜31を介して供給し、二酸化炭素を前記培養液4を介して供給することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオメタネーションにおける原料ガス供給方法であって、
気体透過膜と培養液に挟まれたバイオフィルムに対して、水素を純ガスの状態で前記気体透過膜を介して供給し、二酸化炭素を前記培養液を介して供給する
ことを特徴とする原料ガス供給方法。
【請求項2】
バイオメタネーションによるメタン生成方法であって、
気体透過膜とその一方の表面に形成されたバイオフィルムとを有するメンブレンバイオフィルムリアクターを、前記バイオフィルムが培養液に接触する状態で用い、
前記気体透過膜と前記培養液に挟まれた前記バイオフィルムに対して、請求項1に記載の原料ガス供給方法を用いて水素と二酸化炭素を供給することで、前記バイオフィルムにメタンを生成させる
ことを特徴とするメタン生成方法。
【請求項3】
二酸化炭素含有ガスを用いて、当該二酸化炭素含有ガスに含有される二酸化炭素を培養液に溶解させる二酸化炭素溶解工程を有し、
前記二酸化炭素溶解工程において、前記培養液に溶解しなかったガスを、前記バイオフィルムが生成するメタンと混合しないように遮集する
ことを特徴とする請求項2に記載のメタン生成方法。
【請求項4】
前記二酸化炭素含有ガスとしてメタンと二酸化炭素を含有するガスを用い、前記二酸化炭素溶解工程において遮集したガスを前記二酸化炭素含有ガスとして循環させて用いることで、バイオメタネーションによるメタン生成と並行して、遮集したガスに含有されるメタンの純度を上げる
ことを特徴とする請求項3に記載のメタン生成方法。
【請求項5】
バイオメタネーションによるメタン生成装置であって、
気体透過膜とその一方の表面に形成されたバイオフィルムとを有するメンブレンバイオフィルムリアクターを、前記バイオフィルムが培養液に接触する状態で用い、
前記気体透過膜と前記培養液に挟まれた前記バイオフィルムに対して、請求項1に記載の原料ガス供給方法を用いて水素と二酸化炭素を供給することで、前記バイオフィルムにメタンを生成させる
ことを特徴とするメタン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオメタネーションにおける原料ガス供給方法、並びに当該原料ガス供給方法を用いたメタン生成方法及びメタン生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオメタネーションは、微生物によるメタン生成反応である。その中でも、水素と二酸化炭素を原料としたバイオメタネーションは、例えば、バイオガス(廃水や廃棄物の嫌気的分解で発生するメタンと二酸化炭素の混合ガス)中の二酸化炭素をメタンに変換して、天然ガス代替となるようにメタンの純度を高める技術に利用できる。バイオメタネーションは、他にも、排気ガスのような二酸化炭素含有ガスの有効利用や、水素の用途拡大などの観点からも、注目されている。いずれの目的であったとしても、回収できるガスは、その用途を考慮すると、高純度なメタンであることが望ましい。
【0003】
非特許文献1で開示されている方法では、バイオガスと水素を反応槽に供給し、撹拌して、槽内の微生物に反応を行わせている。撹拌方法や微生物とガスとの接触方法は複数開示されているものの、バイオガスと水素を同じ場所に供給する点は全ての方法に共通している。このような方法では、例えば供給ガスの回収ガスへの混入により、高純度なメタンを得ることが難しい。また、このような方法では、安定したメタン生成のために、二酸化炭素と水素の比を考慮した複雑な運転管理が求められる。微生物が二酸化炭素の一部を菌体合成に用いることなどによって、二酸化炭素と水素の消費量が化学反応式から導出される理論比(1:4)のとおりにはならないことや、バイオガス中の二酸化炭素濃度がしばしば変動することが理由である。
【0004】
非特許文献2で開示されているバイオメタネーション装置は、精製した二酸化炭素を用いるため、供給する二酸化炭素と水素の量は調整しやすい。しかしながら、この装置は、二酸化炭素の精製のために、バイオガスの前処理を必要とする。
【0005】
上述のとおり、従来のバイオメタネーション技術には、メタンの高純度化を実現するために、複雑な運転管理やバイオガスの前処理など、コストを押し上げる要因が残されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lai et al., “Hydrogen-driven microbial biogas upgrading: Advances, challenges and solutions”, Water Research, Vol.197, 2021, 117120
【非特許文献2】Electrochaeaウェブサイト、[令和4年7月20日検索]、インターネット<URL:https://www.electrochaea.com>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、バイオメタネーションにおいて、複雑な運転管理や原料となる二酸化炭素の精製をせずに、高純度なメタンを生成できる原料ガス供給方法、並びに当該原料ガス供給方法を用いたメタン生成方法、及びメタン生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、バイオメタネーションにおける原料ガス供給方法であって、
気体透過膜と培養液に挟まれたバイオフィルムに対して、水素を純ガスの状態で前記気体透過膜を介して供給し、二酸化炭素を前記培養液を介して供給することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、バイオメタネーションによるメタン生成方法であって、
気体透過膜とその一方の表面に形成されたバイオフィルムとを有するメンブレンバイオフィルムリアクターを、前記バイオフィルムが培養液に接触する状態で用い、
前記気体透過膜と前記培養液に挟まれた前記バイオフィルムに対して、請求項1に記載の原料ガス供給方法を用いて水素と二酸化炭素を供給することで、前記バイオフィルムにメタンを生成させることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のメタン生成方法であって、
二酸化炭素含有ガスを用いて、当該二酸化炭素含有ガスに含有される二酸化炭素を培養液に溶解させる二酸化炭素溶解工程を有し、
前記二酸化炭素溶解工程において、前記培養液に溶解しなかったガスを、前記バイオフィルムが生成するメタンと混合しないように遮集することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のメタン生成方法であって、
前記二酸化炭素含有ガスとしてメタンと二酸化炭素を含有するガスを用い、
前記二酸化炭素溶解工程において遮集したガスを前記二酸化炭素含有ガスとして循環させて用いることで、バイオメタネーションによるメタン生成と並行して、遮集したガスに含有されるメタンの純度を上げることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、バイオメタネーションによるメタン生成装置であって、
気体透過膜とその一方の表面に形成されたバイオフィルムとを有するメンブレンバイオフィルムリアクターを、前記バイオフィルムが培養液に接触する状態で用い、
前記気体透過膜と前記培養液に挟まれた前記バイオフィルムに対して、請求項1に記載の原料ガス供給方法を用いて水素と二酸化炭素を供給することで、前記バイオフィルムにメタンを生成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バイオメタネーションにおいて、複雑な運転管理や原料となる二酸化炭素の精製をせずに、高純度なメタンを生成できる原料ガス供給方法、並びに当該原料ガス供給方法を用いたメタン生成方法、及びメタン生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】バイオフィルム内での水素濃度、二酸化炭素濃度、及びメタン生成の活性を従来技術と本発明で比較する模式図
【
図7】メンブレンバイオフィルムリアクターの概略図(その1)
【
図8】メンブレンバイオフィルムリアクターの概略図(その2)
【
図9】メンブレンバイオフィルムリアクターの概略図(その3)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態に限定するものではない。
【0016】
本発明の原料ガス供給方法は、バイオメタネーションにおける原料ガス供給方法であって、気体透過膜と培養液に挟まれたバイオフィルムに対して、水素を純ガスの状態で気体透過膜を介して供給し、二酸化炭素を培養液を介して供給することを特徴とする。
【0017】
バイオフィルムとしては、具体的には、水素資化性メタン生成菌が形成するバイオフィルムを用いることができる。水素資化性メタン生成菌は、二酸化炭素と水素から、下記反応式に示す反応によってメタンを生成する。
CO2+4H2→CH4+2H2O
【0018】
水素資化性メタン生成菌の種類は、二酸化炭素と水素からメタンを生成できるものであれば特に限定されない。
【0019】
「気体透過膜」とは、気体は透過させるが、液体及び固体は透過させない膜のことをいう。気体透過膜としては、特に限定されないが、例えば中空糸膜や平膜を用いることができる。気体透過膜の材料は、水素を透過できるものであれば特に限定されないが、例えば多孔質のポリプロピレンが好適に用いられる。
【0020】
「気体透過膜を介して供給する」とは、本発明においては、気体透過膜の一方の面に担持されたバイオフィルムに対して、水素を、気体透過膜の側から気体透過膜を透過させて供給することをいう。
【0021】
「純ガスの状態」とは、気体が一成分で構成されている状態のことをいう。ただし、不可避不純物の混入は許容される。本発明においては、水素が、純ガスの状態で供給される。なお、気体透過膜を透過した後の水素は、バイオフィルム中の水分に溶解した状態となっていてもよい。
【0022】
「培養液」とは、バイオフィルムを形成する微生物を培養する液のことをいう。本発明においては、培養液として、二酸化炭素が溶解した水を用いることができる。培養液には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分が含有されていてもよい。
【0023】
「培養液を介して供給する」とは、本発明においては、気体透過膜の一方の面に担持されたバイオフィルムに対して、気体透過膜の反対側から、二酸化炭素を、培養液に溶解させた状態で供給することをいう。
【0024】
図1は、本発明の原料ガス供給方法の模式図である。また、
図2は、中空糸膜である気体透過膜31と、その外側の面に担持されたバイオフィルム32の様子を例示する概略図である。
図1は、
図2におけるAの範囲を示している。本発明の原料ガス供給方法は、
図1に示すとおり、気体透過膜31と培養液4に挟まれたバイオフィルム32に対して、水素(H
2)を純ガスの状態で気体透過膜を介して供給し、二酸化炭素(CO
2)を培養液を介して供給する。
【0025】
以下、本発明の効果の詳細を説明する。
【0026】
気体透過膜を用いない従来のバイオメタネーション技術の多くは、二酸化炭素だけでなく、水素も培養液を介して微生物に供給する。しかし、水素は水に溶解しにくいため、このような方法においては、水素の一部はメタン生成に消費される前に気泡化して生成メタンに混入することになる。そのため、気体透過膜を用いない従来技術では、高純度なメタンを生成することが難しかった。
【0027】
これに対して、本発明の原料ガス供給方法においては、水素は気体透過膜を介して供給する。この方法では、水素が気泡化して生成メタンに混入することがないため、高純度なメタンを生成しやすくなる。
【0028】
また、従来技術では、バイオメタネーションに気体透過膜を使用したとしても、気体透過膜を介して供給するガスは、水素と二酸化炭素(又はバイオガス)の混合ガスであった。この場合、メタン生成反応が進むにつれて、消費速度の違いによって、供給ガス中の水素や二酸化炭素の濃度が変動し得る。特に二酸化炭素源としてバイオガスを用いる場合は、バイオガス中の二酸化炭素濃度の変動もあるため、供給ガス中の水素や二酸化炭素の濃度はより変動しやすい。水素や二酸化炭素の濃度が変動すると、メタン生成速度が低下するなどして、安定したメタン生成が難しくなる。また、この従来技術において、供給ガス中の水素や二酸化炭素の濃度を一定に制御しようとしても、複雑な運転管理が必要となる。
【0029】
これに対して、本発明の原料ガス供給方法において気体透過膜を介して供給するガスは、水素の純ガスである。この方法では、気体透過膜を介して供給するガス中の成分濃度は変動しないため、複雑な運転管理をせずとも安定したメタン生成が可能となる。
【0030】
水素と二酸化炭素(又はバイオガス)の混合ガスを気体透過膜を介して供給する従来技術と、水素の純ガスを気体透過膜を介して供給する本発明との違いは、生成メタンの純度にも影響する。
図3は、バイオフィルム32内での水素濃度、二酸化炭素濃度、及びメタン生成の活性を従来技術と本発明で比較する模式図である。(a)は、混合ガスを気体透過膜31を介して供給する従来技術の場合の様子を、グラフを用いながら示している。(b)は、水素の純ガスを気体透過膜31を介して供給し、二酸化炭素を培養液4を介して供給する本発明の場合の様子を、グラフを用いながら示している。グラフの横方向は、バイオフィルム32の厚さ方向を示し、左が気体透過膜31側、右が培養液4側である。従来技術(a)の場合、メタンの生成は、主にバイオフィルム32の気体透過膜31近傍で生じる。この場合、濃度変動によって過剰供給となってしまいバイオフィルム32内で消費しきれなかった水素又は二酸化炭素は、培養液4に移行し、気泡となって、生成メタンに混入し得る。
図3の(a)では、左側の気体透過膜31から供給された水素の一部が、消費しきれずに右側の培養液4に移行する様子を例として示している。一方、本発明(b)の場合、メタンの生成は、主にバイオフィルム32の中央部で生じる。この場合、二酸化炭素及び水素の供給量のバランスが変動しても、メタン生成の活性の場が培養液4側又は気体透過膜31側に拡大する緩衝効果が期待できる。したがって、本発明の場合は、水素及び二酸化炭素のいずれかが消費しきれないほど過剰となることが起こりにくい。そのため、本発明は、水素や二酸化炭素が気泡化して生成メタンに混入することを抑制できる。このように、本発明の場合は、混合ガスを気体透過膜を介して供給する従来技術の場合と比べても、高純度のメタンが得られやすくなる。
【0031】
さらに、本発明の原料ガス供給方法は、二酸化炭素を培養液を介して供給することを特徴とするが、その二酸化炭素源は純ガスである必要はない。すなわち、本発明の原料ガス供給方法は、非特許文献2に記載のバイオメタネーション装置と異なり、バイオガス等の二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素を精製する工程を必須としない。
【0032】
加えて、本発明の原料ガス供給方法は、溶解しにくい水素を培養液に溶解させるためや、微生物と溶存ガスとの接触効率を上げるための、エアレーション及び強撹拌を必要としない。そのため、本発明の原料ガス供給方法は、エアレーションや強撹拌を必要とする従来のバイオメタネーション技術と比べて、必要なエネルギーを低減できる。また、エアレーションや強撹拌を必要としないことは、微生物の安定的な維持の観点からも有利である。
【0033】
続いて、本発明の原料ガス供給方法と、これを用いたメタン生成方法及びメタン生成装置の詳細について、メタン生成装置の図を参照して説明する。
【0034】
図4~6は、本発明のメタン生成装置を例示する概略図である。
【0035】
図4に示すメタン生成装置1は、水槽2の中にメンブレンバイオフィルムリアクター3を備える。メンブレンバイオフィルムリアクター3は、気体透過膜とその一方の表面に形成されたバイオフィルムとを有する。
図4においては、気体透過膜として束状の中空糸膜を用い、各中空糸膜の外側の表面にバイオフィルムが形成されたものを、メンブレンバイオフィルムリアクター3として図示している。
【0036】
水槽2には、メンブレンバイオフィルムリアクター3が浸かるように培養液4が入っている。バイオフィルムは気体透過膜と培養液4に挟まれた状態であり、バイオフィルムに対して、水素を純ガスの状態で気体透過膜を介して供給し、二酸化炭素を培養液4を介して供給することができる状態である。
【0037】
メンブレンバイオフィルムリアクター3には、水素供給ラインから、配管を通して、水素の純ガスが供給される。
図4に示すメタン生成装置1においては、水素の純ガスを供給する配管の途中に、ガスの分岐や流量調整ができるガス分流器6が設けられている。
【0038】
図4に示すメタン生成装置1の培養液4には、二酸化炭素含有ガス供給ラインから、配管及び二酸化炭素含有ガス供給口7を通して、二酸化炭素含有ガスが供給される。二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素の純ガスでもよく、バイオガス(廃水や廃棄物の嫌気的分解で発生するメタンと二酸化炭素の混合ガス)や燃焼排ガスなどの混合ガスでもよい。
【0039】
二酸化炭素含有ガスとして二酸化炭素の純ガスを用いた場合は、培養液4に供給された二酸化炭素含有ガスのほとんど(理想的には全て)が、培養液4に溶解される。二酸化炭素含有ガスとしてバイオガスや燃焼排ガスのような混合ガスを用いた場合は、二酸化炭素含有ガスに含有される各種ガスのうち、水に溶解しやすい二酸化炭素は培養液4に溶解して液相に移行し、水に溶解しにくいメタン等は培養液4に溶解せずに気泡8となって水を通過する。このように、混合ガスを用いた場合は、水への溶解性の差から、ガスが分離される。
【0040】
水への溶解性の差を用いた混合ガスの精製・分離手法としては、
図4に示した水への通気(曝気)以外にも、高圧条件下での溶解や、水の混合ガスへの噴霧など、さまざまな既存技術が存在しており、本発明ではいずれの手法を用いてもよい。
【0041】
上記のように二酸化炭素含有ガスに含有される二酸化炭素を培養液4に溶解させる工程を、本発明において二酸化炭素溶解工程という。また、二酸化炭素溶解工程を行う工程部を、二酸化炭素溶解工程部という。
【0042】
バイオフィルムは、気体透過膜を介して供給された水素と、培養液4を介して供給された二酸化炭素とを消費して、メタンを生成する。生成メタン5は、装置上部に貯まり、生成メタン回収ラインから回収される。
【0043】
さらに、
図4に示すメタン生成装置1は、遮集器9を備える。遮集器9は、二酸化炭素含有ガス供給口7から培養液4に供給された二酸化炭素含有ガスのうち、培養液4に溶解しなかったガスの気泡8を、生成メタン5と混合しないように遮集する。培養液4に溶解しなかったガスとは、溶解しきれなかった二酸化炭素や、溶解性の低いメタン等の二酸化炭素以外のガスが挙げられる。遮集器9で培養液4に溶解しなかったガスを遮集することによって、回収するメタンに他のガスが混合しにくくなり、高純度のメタンを得ることができる。これは、バイオガスや燃焼排ガス等の混合ガスを、バイオメタネーションの二酸化炭素源として利用できるようにする観点からも、有効である。
【0044】
遮集器9を用いて培養液4に溶解しなかったガスを遮集する場合、培養液4に溶解しなかったガスが生成メタン5と混合しないように、エアリフトとなる仕切り10を備えていてもよい。図中の培養液4内の矢印は、エアリフトとなる仕切り10によって生み出される培養液4の流れを示している。
【0045】
図4に示すメタン生成装置1は、遮集器9で遮集したガスを、ガスの分岐や流量調整ができるガス分流器6を有する配管を通して、二酸化炭素含有ガスとして循環させて用いることができる構成となっている。これは、二酸化炭素含有ガスとして、例えばバイオガスのような、メタンと二酸化炭素を含有するガスを用いることを想定した構成である。二酸化炭素溶解工程において遮集したガスを二酸化炭素含有ガスとして循環させて用いることで、バイオメタネーションによるメタン生成と並行して、遮集したガスに含有されるメタンの純度を上げることができる。メタンの純度が十分に高くなったガスは、精製メタンとして回収できる。これによって、バイオメタネーションと同時に、バイオガスのようなメタンと二酸化炭素を含有するガスからメタンを精製することができ、効率的に高純度メタンを得ることができる。
【0046】
また、遮集器9で遮集したガスを循環させて用いることができる構成は、二酸化炭素含有ガスとして高純度の二酸化炭素を用いた場合などに、培養液4に溶解しきれなかった二酸化炭素を循環させて再度培養液4に供給するために、採用することもできる。
【0047】
図5に示すメタン生成装置1は、遮集器9で遮集したガスを、系外に排出できる構成となっている。これは、二酸化炭素含有ガスとして、例えば燃焼排ガスのような、メタン以外の不純物(窒素ガスなど)も含有する二酸化炭素含有ガスを用いることを想定した構成である。培養液4に溶解されず気体のまま遮集された不純物は、系外に排出される。
図5における
図4と共通する構成の説明は省略する。
【0048】
図6に示すメタン生成装置1は、二酸化炭素溶解工程部を有さない構成である。本発明のメタン生成装置は、このように、二酸化炭素溶解工程部を必須としない。
図6に示すメタン生成装置1の場合、別途製造された二酸化炭素溶液が水槽2に供給され、それが培養液4となる。二酸化炭素溶液は、市販の気体溶解装置を用いて製造できる。
図6における
図4と共通する構成の説明は省略する。
【0049】
続いて、本発明で使用し得るメンブレンバイオフィルムリアクターの構成例を説明する。
図7~9は、メンブレンバイオフィルムリアクターを例示する概略図である。
図7は、気体透過膜が中空糸膜であり、これを束状にしたモジュールに、水素を循環させずデッドエンドで供給する構成のメンブレンバイオフィルムリアクター3を示す。
図8は、気体透過膜が中空糸膜であり、これを束状にしたモジュールに、水素を循環させて供給することが可能な構成のメンブレンバイオフィルムリアクター3を示す。このように水素を循環させて供給することが可能な構成の場合、水素の圧力を一定に制御しやすくなる。
図9は、気体透過膜が平膜であり、水素を循環させずデッドエンドで供給する構成のメンブレンバイオフィルムリアクター3を示す。気体透過膜が平膜である場合、複数枚の平膜を平行に配置したモジュールや、長尺な平膜をスパイラル状にしたモジュールを採用できる。図示しないが、気体透過膜が平膜であり、水素を循環させて供給することが可能な構成のメンブレンバイオフィルムリアクターでもよい。本発明で使用し得るメンブレンバイオフィルムリアクターは、これらに限定されない。
【符号の説明】
【0050】
1 メタン生成装置
2 水槽
3 メンブレンバイオフィルムリアクター
31 気体透過膜
32 バイオフィルム
4 培養液
5 生成メタン
6 ガス分流器
7 二酸化炭素含有ガス供給口
8 気泡
9 遮集器
10 仕切り