(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034595
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】LEDディスプレイ素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/36 20100101AFI20240306BHJP
H01L 33/08 20100101ALI20240306BHJP
【FI】
H01L33/36
H01L33/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138942
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五所野尾 浩一
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA14
5F241CA40
5F241CA88
5F241CA92
5F241CA94
5F241CB11
5F241CB29
5F241FF01
(57)【要約】
【課題】コントラストが向上されたモノリシック型のLEDディスプレイ素子を提供すること。
【解決手段】LEDディスプレイ素子は、III族窒化物半導体からなり、モノリシック型である。LEDディスプレイ素子のn電極20は、n層11上に接して設けられたnコンタクト層201と、nコンタクト層201上に設けられたn側低反射層202と、n側低反射層202上に設けられたn側接合層203と、を有している。n側低反射層202は、光透過金属膜202Aと透明導電性酸化物からなる透明導電膜202Bを交互に2ペア以上積層させたものである。このn側低反射層202によってn電極20の反射率を低減している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n層、活性層、p層、n電極、およびp電極を有し、前記活性層のうち前記p電極に対向する領域が発光部となり、複数の前記発光部が配列されたモノリシック型のLEDディスプレイ素子であって、
前記p電極と前記n電極の少なくとも一方は、透明導電性酸化物からなる透明導電膜と光を透過可能な光透過金属膜とが交互に積層された低反射層を有する、LEDディスプレイ素子。
【請求項2】
前記低反射層は、前記n層の反対端に積層された光不透過金属膜を有する、請求項1に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項3】
最も前記n層側の前記光透過金属膜の厚さは、最も前記n層側の前記透明導電膜の厚さよりも薄く形成されている、請求項1に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項4】
前記p電極は、前記p層に接するpコンタクト層と、前記pコンタクト層に積層された前記低反射層と、を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項5】
前記pコンタクト層に積層された前記低反射層の総厚さは、前記pコンタクト層よりも厚く形成されている、請求項4に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項6】
前記pコンタクト層は、透明導電性酸化物からなり、
前記低反射層のうち最も前記pコンタクト層側の層は、前記光透過金属膜である、請求項4に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項7】
前記n電極は、前記n層に接するnコンタクト層と、前記nコンタクト層に積層された前記低反射層と、を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項8】
前記nコンタクト層に積層された前記低反射層の総厚さは、前記nコンタクト層よりも厚く形成されている、請求項7に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項9】
前記nコンタクト層は、金属からなり、
前記低反射層のうち最も前記nコンタクト層側の層は、前記透明導電膜である、請求項7に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項10】
前記nコンタクト層に積層された前記低反射層を構成する前記光透過金属膜の厚さは、前記nコンタクト層よりも厚く形成されている、請求項9に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項11】
前記透明導電膜は、ITOまたはIZOである、請求項1~3のいずれか1項に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項12】
前記光透過金属膜は、Cr、Ir、Mo、Ni、Pt、Rh、Ta、Ti、V、W、TiNより選択される少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載のLEDディスプレイ素子。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載のLEDディスプレイ素子の製造方法であって、
前記低反射層の各層の厚さについて複数の組合せを設定する組合せ設定工程と、
前記複数の組合せについて、前記低反射層が設けられた前記p電極または前記n電極の反射率を波長400~700nm、入射角0~16°の範囲で積分する積分工程と、
前記積分工程により取得された複数の積分値の中で、最小積分値を抽出する最小積分値抽出工程と、
前記積分工程により取得された複数の積分値の中で、前記最小積分値の2倍以下となる積分値に対応する前記組合せを抽出する組合せ抽出工程と、
前記各層の厚さが、前記組合せ抽出工程にて抽出された前記組合せとなるように前記各層を形成する形成工程と、
を備える、LEDディスプレイ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEDディスプレイ素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの高精細化が求められており、マイクロLEDディスプレイが注目されている(特許文献1)。マイクロLEDディスプレイは、1~100μmオーダーの微小なLEDをマトリクス状に配列したディスプレイである。1つの微小なLEDが1つのピクセルあるいはサブピクセルとなる。マイクロLEDディスプレイには、マイクロLEDが個々のチップである構造と、1つの基板上に複数のマイクロLEDを作製したモノリシック型の構造が知られている(特許文献1)。モノリシック型は微細化の点で優れている。
【0003】
特許文献2には、発光素子の側面や上面を黒色のエポキシモールディングコンパウンドからなるパッシベーション層で覆うことが記載されている。パッシベーション層によって発光素子の側面から光が漏れるのを抑制し、隣接する発光素子からの光の干渉を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-88383号公報
【特許文献2】特表2022-532327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のモノリシック型のマイクロLEDでは、活性層から放射された光や外部からの光が電極の界面で反射してコントラストが低下したり、望まない領域が発光しているように見えたりする問題があった。たとえば、発光していないピクセルが、電極での光の反射によって発光しているように見えたり、十分に暗くならなかったりする問題があった。
【0006】
また、特許文献2のように、パッシベーション層によって覆う方法では、マイクロLEDディスプレイ素子の各ピクセルを微細にした場合に、その効果が低下してしまう。たとえば、各画素の微細化のために各画素を溝で区切らずに半導体層を連続的にすると、発光層の側面を覆うことができなくなり、各画素間での干渉を十分に抑制できない。また、各画素を微細にする結果、各画素に対する電極の面積の割合が大きくなるため、パッシベーション層の割合が減り、光を十分に吸収できない。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、コントラストが向上されたモノリシック型のLEDディスプレイ素子およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、n層、活性層、p層、n電極、およびp電極を有し、前記活性層のうち前記p電極に対向する領域が発光部となり、複数の前記発光部が配列されたモノリシック型のLEDディスプレイ素子であって、
前記p電極と前記n電極の少なくとも一方は、透明導電性酸化物からなる透明導電膜と光を透過可能な光透過金属膜とが交互に積層された低反射層を有する、LEDディスプレイ素子にある。
【0009】
本発明の他の態様は、上記一の態様のLEDディスプレイ素子の製造方法であって、
前記低反射層の各層の厚さについての複数の組合せを設定する組合せ設定工程と、
前記複数の組合せについて、前記低反射層が設けられた前記p電極または前記n電極の反射率を波長400~700nm、入射角0~16°の範囲で積分する積分工程と、
前記積分工程により取得された複数の積分値の中で、最小積分値を抽出する最小積分値抽出工程と、
前記積分工程により取得された複数の積分値の中で、前記最小積分値の2倍以下となる積分値に対応する前記組合せを抽出する組合せ抽出工程と、
前記各層の厚さが、前記組合せ抽出工程にて抽出された前記組合せとなるように前記各層を形成する形成工程と、
を備える、LEDディスプレイ素子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
上記LEDディスプレイ素子およびその製造方法によれば、p電極やn電極による光の反射を低減することができるので、ディスプレイのコントラストの低下を抑制することができ、望まない領域が発光しているように見えることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1におけるLEDディスプレイ素子の構成を示した図。
【
図5】実施形態1におけるLEDディスプレイ素子の製造工程を示した図。
【
図6】実施形態1におけるLEDディスプレイ素子の製造工程を示した図。
【
図7】実施形態1におけるLEDディスプレイ素子の製造工程を示した図。
【
図8】実施形態1におけるLEDディスプレイ素子の製造工程を示した図。
【
図9】n電極20の各層の厚さの表、および反射率の波長依存性を示したグラフ。
【
図10】n電極20の各層の厚さの表、および反射率の波長依存性を示したグラフ。
【
図11】n電極20の各層の厚さの表、および反射率の波長依存性を示したグラフ。
【
図12】n電極20の各層の厚さの表、および反射率の波長依存性を示したグラフ。
【
図13】p電極21A~21Cの各層の厚さの表、および反射率の波長依存性を示したグラフ。
【
図14】p電極21A~21Cの各層の厚さの表、および反射率の波長依存性を示したグラフ。
【
図15】p電極21A~21Cの各層の厚さの表、および反射率の波長依存性を示したグラフ。
【
図16】p電極21A~21Cの各層の厚さの表、および反射率の波長依存性を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
LEDディスプレイ素子は、n層、活性層、p層、n電極、およびp電極を有する。前記活性層のうち前記p電極に対向する領域が、発光部となる。LEDディスプレイ素子は、複数の前記発光部が配列されたモノリシック型を構成する。そして、前記p電極と前記n電極の少なくとも一方は、透明導電性酸化物からなる透明導電膜と光を透過可能な光透過金属膜とが交互に積層された低反射層を有する。例えば、LEDディスプレイ素子は、複数の前記発光部がマトリクス状に配列された構成を有するようにしてもよい。前記光透過金属膜の厚さは、光を透過可能な厚さに設定されている。
【0013】
前記低反射層は、前記n層の反対端に積層された光不透過金属膜を有していてもよい。
【0014】
前記低反射層のうち、最も前記n層側の前記光透過金属膜の厚さは、最も前記n層側の前記透明導電膜の厚さよりも薄く形成されていてもよい。
【0015】
前記p電極は、前記p層に接するpコンタクト層と、前記pコンタクト層に積層された前記低反射層と、を有していてもよい。この場合、前記pコンタクト層に積層された前記低反射層の総厚さは、前記pコンタクト層よりも厚く形成されていてもよい。前記pコンタクト層は、透明導電性酸化物からなり、前記低反射層のうち最も前記pコンタクト層側の層は、前記光透過金属膜であってもよい。
【0016】
前記n電極は、前記n層に接するnコンタクト層と、前記nコンタクト層に積層された前記低反射層と、を有していてもよい。この場合、前記nコンタクト層に積層された前記低反射層の厚さは、前記nコンタクト層よりも厚く形成されていてもよい。また、前記nコンタクト層は、金属からなり、前記低反射層のうち前記nコンタクト層側の層は、前記透明導電膜であってもよい。前記nコンタクト層に積層された前記低反射層を構成する前記光透過金属膜の厚さは、前記nコンタクト層よりも厚く形成されてもよい。
【0017】
前記透明導電膜は、ITOまたはIZOであってもよい。
【0018】
前記光透過金属膜は、Cr、Ir、Mo、Ni、Pt、Rh、Ta、Ti、V、W、TiNより選択される少なくとも1つであってもよい。
【0019】
(実施形態1)
1.素子構成の概要
図1は、実施形態1のLEDディスプレイ素子の構成を示した図である。実施形態1のLEDディスプレイ素子は、III族窒化物半導体からなり、モノリシック型のマイクロLEDディスプレイ素子である。モノリシック型は、複数の発光素子構造が同一基板上に設けられた構造であり、各発光素子構造がマトリクス状に配列されることでディスプレイを構成している。発光素子構造はディスプレイにおける1ピクセルであり、1ピクセルは青、緑、赤のそれぞれを発光可能するサブピクセルで構成されている。また、実施形態1のLEDディスプレイ素子は、基板の裏面側から光を取り出すフリップチップ型であり、図示しない実装基板にフェイスダウンで実装されている。なお、説明の簡便のため、実施形態1のLEDディスプレイ素子は2×2ピクセルのディスプレイとする。
【0020】
実施形態1のLEDディスプレイ素子は、
図1に示すように、基板10と、n層11と、第1活性層12と、第1中間層13と、第2活性層14と、第2中間層15と、第3活性層16と、保護層17と、p層18と、n電極20と、p電極21A~21Cと、を有している。
【0021】
2.各構成要素について
次に、実施形態1のLEDディスプレイ素子について、各構成をより詳細に説明する。
【0022】
基板10は、III族窒化物半導体を成長させる成長基板である。たとえば、サファイア、Si、GaNなどである。
【0023】
n層11は、低温バッファ層や高温バッファ層(図示しない)を介して基板10上に設けられたn型の半導体層である。ただし、バッファ層は必要に応じて設ければよく、基板がGaNである場合などにはバッファ層を設けなくともよい。n層11は、たとえばn-GaN、n-AlGaNなどである。Si濃度は、たとえば1×1018~100×1018cm-3である。
【0024】
n層11上には、ESD層や下地層を設けてもよい。ESD層は、静電耐圧向上のために設ける層である。ESD層は、たとえば、ノンドープまたは低濃度にSiがドープされたGaN、InGaN、またはAlGaNである。下地層は、ESD層上に設けられる超格子構造の半導体層であり、下地層上に形成される半導体層の格子歪みを緩和するための層である。下地層は、組成比の異なるIII族窒化物半導体薄膜(たとえばGaN、InGaN、AlGaNのうち2つ)を交互に積層させたものであり、ペア数はたとえば3~30である。ノンドープでもよいし、Siを1×1017~100×1017cm-3程度ドープしてもよい。また、歪を緩和できるのでれば超格子構造である必要はない。第1活性層12とのヘテロ界面で格子定数差が小さくなるような材料であればよく、たとえば、InGaN層、AlInN層、AlGaIn層であってもよい。
【0025】
第1活性層12は、n層12上に設けられたSQWまたはMQW構造の発光層である。発光波長は青色であり、430~480nmである。第1活性層12はAlGaNからなる障壁層とInGaNからなる井戸層を交互に1~7ペア積層させた構造である。より好ましくは1~5ペア、さらに好ましくは1~3ペアである。
【0026】
第1中間層13は、第1活性層12上に設けられた半導体層であり、第1活性層12と第2活性層14の間に位置している。第1中間層13は、第1活性層12からの発光と第2活性層14からの発光とを個別に制御可能とするために設ける層である。また、後述の第2溝31を形成する際に第1活性層12をエッチングダメージから保護する役割も有する。
【0027】
第1中間層13の材料は、GaNやInGaNである。第1中間層13はノンドープでもよいが、n型不純物がドープされていることが好ましい。たとえば、Si濃度が1×1017~1000×1017cm-3、好ましくは10×1017~100×1017cm-3、さらに好ましくは20×1017~80×1017cm-3であってもよい。
【0028】
第1中間層13の厚さは、20~150nmとすることが好ましい。150nmよりも厚いと、第1中間層13の表面が荒れる原因となり得る。また、20nmよりも薄いと、後述の第2溝31を形成する際に第2溝31の深さを第1中間層13内とする制御が難しくなる可能性がある。より好ましくは30~100nm、さらに好ましくは50~80nmである。
【0029】
第2活性層14は、第1中間層13上に設けられたSQWまたはMQW構造の発光層である。発光波長は緑色であり、510~550nmである。第2活性層14はGaNからなる障壁層とInGaNからなる井戸層を交互に1~7ペア積層させた構造である。より好ましくは1~5ペア、さらに好ましくは1~3ペアである。また、第1活性層12のペア数と等しいか少ないことが好ましく、少ないことがより好ましい。
【0030】
第2中間層15は、第2活性層14上に設けられた半導体層であり、第2活性層14と第3活性層16の間に位置している。第2中間層15は、第1中間層13と同様の理由により設けられたものであり、第2活性層14からの発光と第3活性層16からの発光とを個別に制御可能とするために設ける層である。また、後述の第3溝32を形成する際に第2活性層14をエッチングダメージから保護する役割も有する。
【0031】
第2中間層15の材料は、第1中間層13と同様である。第1中間層13と第2中間層15を同一材料としてもよい。また、第2中間層15にも第1中間層13と同様に不純物がドープされていてもよい。また、第1中間層13と第2中間層15の厚さを同一としてもよい。
【0032】
第3活性層16は、第2中間層15上に設けられたSQWまたはMQW構造の発光層である。発光波長は赤色であり、590~700nmである。第3活性層16はInGaNからなる障壁層とInGaNからなる井戸層7を交互に1~7ペア積層させた構造である。より好ましくは1~5ペア、さらに好ましくは1~3ペアである。また、第2活性層14のペア数と等しいか少ないことが好ましく、少ないことがより好ましい。
【0033】
保護層17は、第3活性層16上に設けられた半導体層である。保護層17は、活性層を保護するとともに、電子ブロック層としても機能する層である。保護層17は、第3活性層16の井戸層よりもバンドギャップの広い材料であればよく、AlGaN、GaN、InGaNなどである。保護層17の厚さは、2.5~50nmが好ましく、より好ましくは5~25nmである。保護層17に不純物をドープしてもよく、Mgをドープしてもよい。その場合、Mg濃度は1×1018~1000×1018cm-3とするのがよい。
【0034】
保護層17の一部領域はエッチングされて溝が設けられ、保護層17から第2中間層15に達する第3溝32、第1中間層13に達する第2溝31、n層11に達する第1溝30が設けられている。第1溝30、第2溝31、第3溝32の平面パターンは
図2の通りである。第1溝30は、LEDディスプレイ素子の外周領域に、その外周に沿った環状のパターンに設けられている。第2溝31や第3溝32は、第1溝30で囲われる領域内において、一方の端から順に、溝の設けられていない領域、第3溝32、第2溝31、溝の設けられていない領域、第3溝32、第2溝31、の順に繰り返してストライプ状のパターンに設けられている。よって、実施形態1のLEDディスプレイ素子では、各ピクセルは溝によって区切られておらず、半導体層が連続的に設けられている。
【0035】
p層18は、保護層17上、第3溝32の底面に露出する第2中間層15上、および第2溝31の底面に露出する第1中間層13上に連続して膜状に設けられた半導体層であり、基板10側から順に第1層、第2層で構成されている。以下、p層18のうち、保護層17上の領域をp層18A、第2中間層15上の領域をp層18B、第1中間層13上の領域をp層18Cと呼ぶことにする。第1層は、p-GaN、p-InGaNが好ましい。第1層の厚さは10~500nmが好ましく、より好ましくは10~200nm、さらに好ましくは10~100nmである。第1層のMg濃度は1×1019~100×1019cm-3とするのがよい。第2層は、p-GaN、p-InGaNが好ましい。第2層の厚さは2~50nmが好ましく、より好ましくは4~20nm、さらに好ましくは6~10nmである。第2層のMg濃度は1×1020~100×1020cm-3とするのがよい。
【0036】
なお、実施形態1では、p層18は保護層17上、第2中間層15上、第1中間層13上に連続して設けているが、それぞれ分離して設けてもよい。また、p層18Aと保護層17との間、p層18Bと第2中間層15との間、およびp層18Cと第1中間層13との間には、保護層17と同様の構成の再成長層を設けたり、電子ブロック層を設けたりしてもよい。電子ブロック層は、電子が第3活性層16を超えてp層18側に入らないようにブロックする層である。電子ブロック層はGaNやAlGaNの単層でもよいし、AlGaN、GaN、InGaNのうち2以上を積層させた構造や、AlGaNなどを組成比のみ替えて積層させた構造であってもよい。また、超格子構造としてもよい。電子ブロック層の厚さは、たとえば5~50nmであり、Mg濃度は、たとえば1×1019~100×1019cm-3である。
【0037】
n電極20は、第1溝30の底面に露出するn層11上に設けられた電極である。n電極20は、
図2のように、LEDディスプレイ素子の外周に沿った矩形の環状のパターンである。n電極は1つであり、各ピクセル、各サブピクセルに共通の電極となっている。n電極20は反射率(GaNからn電極20に光が入射したときの反射率、以下特に断りのない限り、n電極20の反射率について同様)の低い構造となっている。n電極20のより詳細な構成や材料については後述する。
【0038】
p電極21A~21Cは、p層18A~18C上にそれぞれ分離して設けられた電極である。また、ピクセルとなる領域上に、p電極21A~21Cを一組としてそれぞれ設けられている。また、p電極21A~21Cはそれぞれサブピクセルとなる領域上に設けられている。各活性層のうち、p電極21A~21C直下の領域が発光部となる。つまり、第3活性層16のうちp電極21A直下の領域(p電極21Aに対向する領域)が赤色発光して赤のサブピクセルとなり、第2活性層14のうちp電極21B直下の領域(p電極21Bに対向する領域)が緑色発光して緑のサブピクセルとなり、第1活性層12のうちp電極21C直下の領域(p電極21Cに対向する領域)が青色発光して青のサブピクセルとなる。p電極21A~21Cは反射率(GaNからp電極21A~21Cに光が入射したときの反射率、以下特に断りのない限り、p電極21A~21Cの反射率について同様)の低い構造となっている。p電極21A~21Cの詳細な構成や材料については後述する。
【0039】
3.n電極20の構成
次に、n電極20の構成について詳細に説明する。
図3は、n電極20の構成を示した図である。
図3のように、n電極20は、n層11上に接して設けられたnコンタクト層201と、nコンタクト層201上に設けられたn側低反射層202と、n側低反射層202上に設けられたn側接合層203と、を有している。
【0040】
nコンタクト層201は、n層11に対してオーミックコンタクトし、n電極20のn層11に対するコンタクト抵抗を低減するために設ける層である。nコンタクト層201の材料は、Ti、V、Cr、Niなどである。
【0041】
n側低反射層202は、光透過金属膜202Aと透明導電膜202Bを交互に2ペア以上積層させたものである。好ましくは2~6ペアである。光透過金属膜202Aは、光を透過する厚さに設定された金属膜である。このn側低反射層202によってn電極20の反射率を低減している。また、光透過金属膜202A、透明導電膜202Bのいずれも導電性材料であり、n側低反射層202全体としても導電性を有している。
【0042】
n側低反射層202によってn電極20の光の反射率が低減される理由は次の通りである。第1に、n側低反射層202では、n層11とnコンタクト層201との界面での反射と、nコンタクト層201とn側低反射層202との界面での反射と、n側低反射層202の各層界面での反射とが、全体として弱め合うようにしているためである。第2に、n側低反射層202の各光透過金属膜202Aが光を吸収するためである。光透過金属膜202Aのそれぞれの厚さは薄くても、トータルでは十分な厚さとなっているため、光を十分に吸収させることができる。
【0043】
光透過金属膜202Aの材料は、たとえば、Cr、Ir、Mo、Ni、Pt、Rh、Ta、Ti、V、W、TiNなどである。可視光、特に発光波長に対して吸収率が高く、反射率が低い材料が好ましい。光透過金属膜202Aは合金であってもよく、たとえば上に挙げた金属元素を主とする合金であってもよい。複数の光透過金属膜202Aは全て同一材料であってもよいが、異なっていてもよい。
【0044】
透明導電膜202Bの材料は、可視光、特に発光波長に対して透過率が高く、導電性の高い透明導電性酸化物であればよい。たとえばITO、IZOなどである。複数の透明導電膜202Bは全て同一材料であってもよいが、異なっていてもよい。
【0045】
n側低反射層202の最初の層(最もnコンタクト層201側の層)は、透明導電膜202Bが好ましい。nコンタクト層201とn側低反射層202との界面での光の反射が増えるので、その反射をn側低反射層202の各層界面での反射と打ち消すようにすることで、n電極20の反射をより低減することができる。n側低反射層202の最後の層(最上層でありn層11側から最も離れた層)は光透過金属膜202Aでも透明導電膜202Bでもどちらでもよい。
【0046】
また、n電極20の反射率を低減するために、最もn層11側の光透過金属膜202Aの厚さは、最もn層11側の透明導電膜202Bの厚さよりも薄く形成されていてもよい。同様に、n側低反射層202の総厚さは、nコンタクト層201よりも厚く形成されていてもよい。
【0047】
また、光透過金属膜202Aは、光を透過(たとえば可視光の範囲で透過率が5%以上)する厚さの金属膜である。たとえば光透過金属膜202Aは100nm以下とする。光を透過しない厚さとすると、それよりも後段のn側低反射層202側に光が透過せず、後段の構造が機能しない可能性があるためである。ただし、n側低反射層202の最後の層(n層11側から最も離れた層)を光透過金属膜202Aとする場合には、最後の層の光透過金属膜202Aを光不透過金属膜202Cとし、光を透過しない厚さたとえば100nmよりも厚くしてもよい。
【0048】
nコンタクト層201およびn側低反射層202の各層の厚さは、n電極20の反射率の入射角依存性や波長依存性が次の範囲を満たすように設定されていることが好ましい。波長依存性については、入射角0°(垂直入射)の場合に可視光(波長400~700nm)の範囲において最大反射率が5%以下、好ましくは3%以下である。入射角依存性については、第1活性層12、第2活性層14、第3活性層16の発光波長の光に対し入射角が16°以下の範囲において最大反射率が10%以下、好ましくは5%以下である。nコンタクト層201の厚さは固定して、上記を満たすようにn側低反射層202の各層の厚さを設定してもよい。
【0049】
また、nコンタクト層201およびn側低反射層202の各層の厚さは、次のように設定されていることが好ましい。まず、nコンタクト層201およびn側低反射層202の各層の厚さについての複数の組合せを設定する。そして、それら複数の組合せについて、n電極20の反射率を波長400~700nm、入射角0~16°の範囲で積分する。次に、得られた複数の積分値の中で、最小積分値を抽出する。次に、得られた複数の積分値の中で、最小積分値の2倍以下となる積分値を抽出し、その積分値に対応する各層の厚さについての組合せを抽出する。このようにして抽出された各層の厚さの組合せを、nコンタクト層201およびn側低反射層202の各層の厚さとして設定する。なお、上記ではnコンタクト層201およびn側低反射層202の両方を考慮しているが、nコンタクト層201の厚さは固定してn側低反射層202のみを考慮してもよい。
【0050】
n側接合層203は、素子外部と接続する層である。n側接合層203の材料は、AuやAuを主とするAu合金である。
【0051】
なお、nコンタクト層201を省いてn側低反射層202を直接n層11上に設けてもよい。この場合、n側低反射層202中の最初の層(n層11と接する層)を光透過金属膜202Aとするのがよい。またこの場合、光透過金属膜202Aのうち最初の層の材料をnコンタクト層201と同様の材料としてもよい。また、nコンタクト層201とn側低反射層202との間や、n側低反射層202とn側接合層203との間には、金属の拡散を防止するためのバリア層などを挿入してもよい。
【0052】
4.p電極21A~21Cの構成
次に、p電極21A~21Cの構成について詳細に説明する。
図4は、p電極21A~21Cの構成を示した図である。
図4のように、p電極21A~21Cは、p層18A~18C上に接して設けられたpコンタクト層211と、pコンタクト層上に設けられたp側低反射層212と、p側低反射層212上に設けられたp側接合層213と、を有している。
【0053】
pコンタクト層211は、p層18A~18Cに対してオーミックコンタクトし、p電極21A~21Cのp層18A~18Cに対するコンタクト抵抗を低減するために設ける層である。pコンタクト層211の材料は、ITO、IZO、Ni/Au、Co/Au、Ru/Au、Ni、Co、Ruなどである。ここで/は積層を意味し、A/BはA、Bの順に積層させた構造であることを意味する。
【0054】
p側低反射層212は、光透過金属膜212Aと透明導電膜212Bを交互に2ペア以上積層させたものである。好ましくは3~6ペアである。光透過金属膜212Aは、光を透過する厚さに設定された金属膜である。このp側低反射層212によってp電極21A~21Cの反射率を低減している。また、光透過金属膜212A、透明導電膜212Bのいずれも導電性材料であり、p側低反射層212全体としても導電性を有している。p側低反射層212とn側低反射層202を同一構造にしてもよい。
【0055】
p側低反射層212によってp電極21A~21Cの光の反射率が低減される理由は、n側低反射層202と同様の理由である。
【0056】
光透過金属膜212Aの材料、透明導電膜212Bの材料は、n側低反射層202と同様である。p側低反射層212の最後の層(最上層でありn層11側から最も離れた層)を光透過金属膜212Aとする場合には、最後の層の光透過金属膜212Aを光不透過金属膜212Cとし、光を透過しない厚さ、たとえば100nmよりも厚くしてもよい。
【0057】
pコンタクト層211としてITOやIZOなどの透明導電膜を用いる場合、p側低反射層212の最初の層(最もpコンタクト層211側の層)は、光透過金属膜212Aが好ましい。pコンタクト層211とp側低反射層212との界面での光の反射が増えるので、その反射をp側低反射層212の各層界面での反射と打ち消すようにすることで、p電極21A~21Cの反射をより低減することができる。p側低反射層212の最後の層(最上層)は光透過金属膜212Aでも透明導電膜212Bでもどちらでもよい。
【0058】
pコンタクト層211およびp側低反射層212の各層の厚さは、nコンタクト層201、n側低反射層202と同様である。ただし、p層18はn層11に比べてコンタクトを取りづらいため、pコンタクト層211の厚さをコンタクトが取れる厚さに固定した上で、p側低反射層212の各層の厚さについて、p電極21A~21Cの反射率の入射角依存性や波長依存性がn電極20と同様の条件を満たすように設定されていてもよい。
【0059】
すなわち、p側低反射層212の各層の厚さは、次のように設定されていてもよい。まず、p側低反射層212の各層の厚さについての複数の組合せを設定する。そして、それら複数の組合せについて、p電極21A~21Cの反射率を波長400~700nm、入射角0~16°の範囲で積分する。次に、得られた複数の積分値の中で、最小積分値を抽出する。次に、得られた複数の積分値の中で、最小積分値の2倍以下となる積分値を抽出し、その積分値に対応する各層の厚さについての組合せを抽出する。このようにして抽出された各層の厚さの組合せを、p側低反射層212の各層の厚さとして設定する。
【0060】
また、p電極20の反射率を低減するために、最もp層18側の光透過金属膜212Aの厚さは、最もp層18側の透明導電膜212Bの厚さよりも薄く形成されていてもよい。同様に、p側低反射層212の総厚さは、pコンタクト層211よりも厚く形成されていてもよい。
【0061】
また、p電極21A~21Cの反射率を低減するために、最もn層11側の光透過金属膜212Aの厚さは、最もn層11側の透明導電膜212Bの厚さよりも薄く形成されていてもよい。同様に、p側低反射層212の総厚さは、pコンタクト層211よりも厚く形成されていてもよい。
【0062】
p側接合層213は、n側接合層203と同様であり、素子外部と接続する層である。
【0063】
なお、pコンタクト層211とp側低反射層212との間や、p側低反射層212とp側接合層213との間には、金属の拡散を防止するためのバリア層などを挿入してもよい。
【0064】
5.LEDディスプレイ素子の動作について
次に、実施形態1のLEDディスプレイ素子の動作について説明する。実施形態1のLEDディスプレイ素子では、あるピクセルのp電極21Aとn電極20の間に電圧を印加することで第3活性層16のうちp電極21A直下の領域から赤色の光を発光させることができ、あるピクセルのp電極21Bとn電極20の間に電圧を印加することで第2活性層14のうちp電極21B直下の領域から緑色の光を発光させることができ、あるピクセルのp電極21Cとn電極20の間に電圧を印加することで第1活性層12のうちp電極21C直下の領域から青色の光を発光させることができる。これらの各色の発光は独立に制御することができ、青色、緑色、赤色のうち2以上を同時に発光させることもできる。このように、実施形態のLEDディスプレイ素子では、電圧を印加する電極の選択によって所望のピクセルの青、緑、赤の発光(つまり各サブピクセルの発光)を制御することができ、フルカラーのディスプレイとして利用することができる。
【0065】
ここで、あるサブピクセルから発光した光の一部は、直接、あるいは素子内部で反射してp電極21A~21Cやn電極20に向かう。また、素子外部から素子内部に入射する外来光にはp電極21A~21Cやn電極20に向かうものも存在する。低反射層を用いない従来のp電極21A~21Cやn電極20の場合、30%程度の反射率があり、p電極21A~21Cやn電極20によって光の一部は反射され、発光していない領域に向かう光が存在した。そのため、発光していないピクセルが発光しているように見えたり、十分に暗くならなかったりする問題があった。
【0066】
これに対し実施形態1のLEDディスプレイ素子では、n電極20やp電極21A~21Cにn側低反射層202、p側低反射層212を設けており、非常に反射率の低い構造となっている。そのため、n電極20やp電極21A~21Cによる光の反射が低減されており、上記のような問題が抑制されている。また、n電極20、p電極21A~21Cは可視光の全波長域において反射率が低く、しかもおよそ一定であるため、発光色に影響を与えることがない。その結果、実施形態1のLEDディスプレイ素子ではディスプレイのコントラストを向上させることができ、発光していない領域が発光しているように見えることを抑制できる。
【0067】
以上、実施形態1のLEDディスプレイ素子では、n電極20およびp電極21A~21Cの反射率が低いため、n電極20やp電極21A~21Cによる光の反射が低減されている。その結果、実施形態1のLEDディスプレイ素子によれば、ディスプレイのコントラストを向上させることができる。
【0068】
6.LEDディスプレイ素子の製造方法
次に、実施形態1のLEDディスプレイ素子の製造工程について、図を参照に説明する。
【0069】
まず、基板10上にn層11、第1活性層12、第1中間層13、第2活性層14、第2中間層15、第3活性層16、保護層17を順に形成する(
図5参照)。
【0070】
次に、保護層17表面の一部領域を第2中間層15に達するまでドライエッチングして第3溝32を形成し、第1中間層13に達するまでドライエッチングして第2溝31を形成する(
図6参照)。第3溝32、第2溝31は、第2中間層15、第1中間層13の中間の厚さまでエッチングすることが好ましい。
【0071】
次に、保護層17上、第3溝32によって露出した第2中間層15上、および第2溝31によって露出した第1中間層13上に、p層18A~18Cを形成する(
図7参照)。p層18A~18Cは連続させてもよいし分離させてもよい。
【0072】
次に、p層18C表面の一部領域をn層11に達するまでドライエッチングして第1溝30を形成する(
図8参照)。そして、第1溝30の底面に露出するn層11上にn電極20を形成し、p層18A~18C上にp電極21A~21Cを形成する。以上によって実施形態1のLEDディスプレイ素子が製造される。n電極20、p電極21A~21Cはどちらを先に形成してもよい。
【0073】
n電極20やp電極21A~21Cの形成において、成膜はスパッタや蒸着を用い、パターン形成はリフトオフを用いる。成膜はスパッタが好ましい。n電極20やp電極21A~21Cにおける各層を凹凸なく平坦に形成することができ、透明導電膜202B、212Bの透明性を向上させることができる。
【0074】
一般に、p層18A~18Cはn層11に比べて電極のコンタクトを取りにくい。そのため、p電極21A~21Cを形成する場合、p層18A~18C上にpコンタクト層211を形成した後、アニールを行ってp層18A~18Cとのコンタクト抵抗を下げ、その後にp側低反射層212、p側接合層213を順に積層するとよい。また、このとき、位置ずれや寸法ずれがあってもpコンタクト層211上にp側低反射層212を形成できるように、p側低反射層212の幅をpコンタクト層211の幅よりも狭くするとよい。一方、n電極20は、nコンタクト層201形成後、n側低反射層202の形成前にアニールを行わなくてもよい。
【0075】
また、n側低反射層202、n側接合層203と、p側低反射層212、p側接合層213を同一構造とすれば、これらを同一工程で同時に形成することもできる。また、n側低反射層202、p側低反射層212の一部を同一構造として、その一部を同時に形成してもよい。
【0076】
たとえば、n側低反射層202とp側低反射層212を光透過金属膜202A、212Aを最初の層とする同一構造とし、n電極20からnコンタクト層201を省くことで、以下のように同時形成してもよい。まず、p層18A~18C上にpコンタクト層211を形成してアニールを行う。次に、n層11上にn側低反射層202、n側接合層203、pコンタクト層211上にp側低反射層212、p側接合層213を同時に形成する。
【0077】
(実験例)
実験例1
次に、実施形態1のn電極20に関するシミュレーション結果を説明する。
【0078】
実験例1-1
GaN層上にnコンタクト層201、n側低反射層202、n側接合層203が順に積層されたn電極20について、GaN層からn電極20に入射した光の反射率をシミュレーションによって算出した。nコンタクト層201はTi、n側低反射層202はITOとTiを交互に3ペア積層させた構造とし最初の層をITOとした。n側接合層203はAuとし厚さは無限とした。そして、n電極20の反射率を波長(範囲400~700nm)と入射角(範囲0~16°)で積分し、積分値が最も小さくなるようにnコンタクト層201とn側低反射層202の各層の厚さについて設定した。
【0079】
図9は、n電極20の各層の厚さの表(
図9(a))と、n電極20の反射率の波長依存性を示したグラフ(
図9(b))である。反射率の波長依存性は入射角0°のときである。
図9(b)のグラフのように、波長400~700nmの可視光領域で反射率は1%以下であった。また、入射角0~16°の範囲において、可視光領域では反射率1%以下であった。
【0080】
実験例1-2
実験例1-1においてnコンタクト層201をTi、n側低反射層202をITOとWを交互に3ペア積層させた構造であって最初の層をITOとした構造に置き換え、同様にシミュレーションを行った。そして、実験例1-1と同様にnコンタクト層201とn側低反射層202の各層の厚さについて設定した。
【0081】
図10は、n電極20の各層の厚さの表(
図10(a))と、n電極20の反射率の波長依存性を示したグラフ(
図10(b))である。反射率の波長依存性は入射角0°のときである。
図10(b)のグラフのように、波長400~700nmの可視光領域で反射率は1%以下であった。また、入射角0~16°の範囲において、可視光領域では反射率1%以下であった。
【0082】
実験例1-3
実験例1-1においてnコンタクト層201をV、n側低反射層202をITOとTaを交互に2ペア積層させた構造であって最初の層をITOとした構造に置き換え、実験例1-1と同様にシミュレーションを行った。そして、実験例1-1と同様にnコンタクト層201とn側低反射層202の各層の厚さについて設定した。
【0083】
図11は、n電極20の各層の厚さの表(
図11(a))と、n電極20の反射率の波長依存性を示したグラフ(
図11(b))である。反射率の波長依存性は入射角0°のときである。
図11のグラフのように、波長400~700nmの可視光領域において700nmの極近傍の領域を除いて反射率は1%以下であった。また、入射角0~16°の範囲において、可視光領域における700nmの極近傍の領域を除いて反射率は1%以下であった。
【0084】
実験例1-4
実験例1-3におけるn側低反射層202の最上層(Taの層)を396.6nmから100nmに変更した。それ以外の各層の厚さは
図11の表から変更していない。この場合に反射率を算出した。
【0085】
図12は、n電極20の各層の厚さの表(
図12(a))と、n電極20の反射率の波長依存性を示したグラフ(
図12(b))である。反射率の波長依存性は入射角0°のときである。
図12に示すように
図11に対して反射率の変化はなかった。Taを100nmとしても十分に厚く、光の透過がないため、反射率にも影響しなかったものと考えられる。
【0086】
実験例2
次に、実施形態1のp電極21A~21Cに関するシミュレーション結果を説明する。
【0087】
実験例2-1
GaN層上にpコンタクト層211、p側低反射層212、バリア層、p側接合層213が順に積層されたp電極21A~21Cについて、GaN層側から光を入射した場合の反射率をシミュレーションによって算出した。pコンタクト層211はITOで厚さ100nm、p側低反射層212はTiとITOを交互に4.5ペア積層させた構造とし最初の層と最後の層をTiとした。バリア層はPtとし厚さを100nmとした。n側接合層203はAuとし厚さは無限とした。そして、p電極21A~21Cの反射率を波長(範囲400~700nm)と入射角(範囲0~16°)で積分し、その積分値が最も小さくなるようにp側低反射層212の各層の厚さについて設定した。ただし、p側低反射層212の最後の層(Ti)は厚さを100nmに固定した。
【0088】
図13は、p電極21A~21Cの各層の厚さの表(
図13(a))と、p電極21A~21Cの反射率の波長依存性を示したグラフ(
図13(b))である。反射率の波長依存性は入射角0°のときである。
図13(b)のグラフのように、波長400~700nmの可視光領域のうち、400nm極近傍を除いた領域で反射率は1%以下であり、ほぼ全域で反射率1%以下であった。また、入射角0~16°の範囲において、可視光領域ではほぼ全域で反射率1%以下であった。
【0089】
実験例2-2
実験例2-1においてバリア層を省き、p側低反射層212を4.5ペアから3.5ペアに変更し、実験例2-1と同様にシミュレーションを行った。ただし、p側低反射層212の最後の層(Ti)は厚さを固定せずパラメータとした。そして、実験例2-1と同様にp側低反射層212の各層の厚さについて設定した。
【0090】
図14は、p電極21A~21Cの各層の厚さの表(
図14(a))と、p電極21A~21Cの反射率の波長依存性を示したグラフ(
図14(b))である。反射率の波長依存性は入射角0°のときである。
図14(b)のグラフのように、波長400~700nmの可視光領域において反射率は2%以下であった。また、入射角0~16°の範囲において、可視光領域では700nmの極近傍の領域を除いて反射率は2%以下であった。
【0091】
実験例2-3
実験例2-1において、p側低反射層212をCrとITOを交互に4ペア積層させ最後にTiを積層させた構造に変更し、実験例2-1と同様にシミュレーションを行った。実験例2-1と同様にp側低反射層212の最後の層(Ti)の厚さは100nmに固定した。そして、実験例2-1と同様にp側低反射層212の各層の厚さについて設定した。
【0092】
図15は、p電極21A~21Cの各層の厚さの表(
図15(a))と、p電極21A~21Cの反射率の波長依存性を示したグラフ(
図15(b))である。反射率の波長依存性は入射角0°のときである。
図15(b)のグラフのように、波長400~700nmの可視光領域において反射率は2%以下であった。また、入射角0~16°の範囲において、可視光領域では反射率2%以下であった。
【0093】
実験例2-4
実験例2-3において、p電極21A~21Cのうちpコンタクト層211から数えて9番目の層(ITO)と10番目の層(Ti)、および11番目の層(Pt)を省いた。それ以外の各層の厚さは
図15の表から変更していない。この場合に実験例2-1と同様に反射率を算出した。
【0094】
図16は、p電極21A~21Cの各層の厚さの表(
図16(a))と、p電極21A~21Cの反射率の波長依存性を示したグラフ(
図16(b))である。反射率の波長依存性は入射角0°のときである。
図16(b)のグラフのように
図15(b)に対して反射率の変化はなかった。p電極21A~21Cのうちpコンタクト層211から数えて8番目の層(Cr)が177.7nmと厚く、これよりも後段の層に光が透過しないため、9~11番目の層を省いても反射率に影響しなかったものと考えられる。
【0095】
実験例1、2の結果、n電極20、p電極21A~21Cにn側低反射層202、p側低反射層212を設けることにより、n電極20、p電極21A~21Cの反射率を非常に低くできることが分かった。また、n側低反射層202、p側低反射層212の各層の厚さの設定の結果、光透過金属膜202A、212Aの厚さが光を透過しないほど厚い場合には、その層の厚さを光が透過しない程度に薄くしても反射率に影響しないことが分かった。また、n側低反射層202、p側低反射層212の各層の厚さの設定の結果、途中の光透過金属膜202A、212Aについて光が透過しないほど厚い場合には、それよりも後段の層は省略しても反射率に影響しないことが分かった。
【0096】
(変形例)
実施形態1のLEDディスプレイ素子は、青、緑、赤のサブピクセル一組を1ピクセルとしたフルカラーのディスプレイであるが、単色や2色などのディスプレイにも適用できる。また、実施形態1のLEDディスプレイ素子では、3つのサブピクセルが各色を直接発光するものであるが、他の任意の方式でフルカラー化を実現してよい。たとえば、蛍光体などで波長変換する方式としてもよい。具体的には、青と緑はマイクロLEDによる発光とし、赤は青を蛍光体によって波長変換する方式としてもよい。また、紫外線を発光するマイクロLEDとし、紫外線を青色、緑色、赤色の各色に変換する方式でもよい。
【0097】
また、実施形態1のLEDディスプレイ素子では、微細化や製造コスト低減のためにピクセル間やサブピクセル間に溝を設けていないが、溝を設けてもよい。ただし、実施形態1のLEDディスプレイ素子は、ピクセル間、サブピクセル間を溝で分離しない構造に好適である。溝で分離しない構造の場合、活性層の側面が露出しないため、側面を吸収膜で覆ってコントラストを高めることが難しい。そのため、クロストークなどによりコントラストの低下が一層顕著となる。そのような場合でも、実施形態1のようにn電極20やp電極21A~21Cの反射率を低減すればコントラストを高めることができる。
【0098】
また、実施形態1のLEDディスプレイ素子では、n電極20とp電極21A~21Cの両方に低反射層(n側低反射層202、p側低反射層212)を設けているが、一方にのみ低反射層を設けてもよい。ただし、コントラスト向上のためには実施形態1のように両方に設けることが好ましい。
【0099】
また、実施形態1では半導体材料としてIII族窒化物半導体を用いているが、本発明は他の半導体材料を用いる場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0100】
10:基板
11:n層
12:第1活性層
13:第1中間層
14:第2活性層
15:第2中間層
16:第3活性層
17:保護層
18:p層
20:n電極
21A~21C:p電極
201:nコンタクト層
202:n側低反射層
202A、212A:光透過金属膜
202B、212B:透明導電膜
203:n側接合層
211:pコンタクト層
212:p側低反射層
213:p側接合層