(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034602
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】バランサ装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/26 20060101AFI20240306BHJP
F16F 15/126 20060101ALI20240306BHJP
F16H 55/14 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F16F15/26 G
F16F15/126 B
F16H55/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138957
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直也
【テーマコード(参考)】
3J030
【Fターム(参考)】
3J030AA04
3J030AA11
3J030BA05
3J030BB09
(57)【要約】
【課題】耐久性を確保しつつ騒音を低減することができるバランサ装置を提供する。
【解決手段】バランサ装置1は、内燃機関におけるクランクシャフトに接続された斜歯ギアであるドライブギア100と噛み合うドリブンギア2と、ドリブンギア2とともに回転可能なようにドリブンギア2に接続されるバランスシャフト3と、ドリブンギア2とバランスシャフト3との間に設けられる付勢部4と、を備える。ドリブンギア2は、斜歯ギアであることで、ドライブギア100と噛み合って回転する際に軸線x2方向の一方側(a方向)へのスラスト力F1が生じるように構成され、付勢部4は、ドリブンギア2に対して軸線x2方向の他方側(b方向)への付勢力F2を付与可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関におけるクランクシャフトに接続された斜歯ギアであるドライブギアと噛み合うドリブンギアと、
前記ドリブンギアとともに回転可能なように当該ドリブンギアに接続されるバランスシャフトと、
前記ドリブンギアと前記バランスシャフトとの間に設けられる付勢部と、を備え、
前記ドリブンギアは、斜歯ギアであることで、前記ドライブギアと噛み合って回転する際に軸線方向の一方側へのスラスト力が生じるように構成され、
前記付勢部は、前記ドリブンギアに対して前記軸線方向の他方側への付勢力を付与可能である、バランサ装置。
【請求項2】
前記付勢部と前記ドリブンギアとの間には、中間部材が設けられ、
前記中間部材は、前記ドリブンギアとともに前記軸線方向に移動するとともに、前記ドリブンギアの回転状態において、前記バランスシャフトとの当接により前記一方側への移動が規制可能に設けられている、請求項1に記載のバランサ装置。
【請求項3】
前記付勢部は、環状の弾性部材を有して構成され、
前記弾性部材は、内周面側が前記バランスシャフト側に固定されるとともに外周面側が前記ドリブンギア側に固定され、前記ドリブンギアの停止状態において、外周側に向かうにしたがって前記他方側に向かうように傾斜している、請求項1又は2に記載のバランサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関において回転による振動を低減するためのバランサ装置として、ギアの両面に環状溝を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたバランサ装置では、ギアに環状溝を形成することにより、ギア間で生じる振動を吸収させ、歯打ち音の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたようにギアに溝を形成して変形しやすくすると、ギアの耐久性が低下しやすくなってしまう。即ち、ギアの変形を利用して振動を吸収する構成においては、変形容易にすると耐久性が低下し、変形しにくくすると振動を吸収しにくくなり、騒音の低減と耐久性の確保とを両立することが困難であった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性を確保しつつ騒音を低減することができるバランサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るバランサ装置は、内燃機関におけるクランクシャフトに接続された斜歯ギアであるドライブギアと噛み合うドリブンギアと、前記ドリブンギアとともに回転可能なように当該ドリブンギアに接続されるバランスシャフトと、前記ドリブンギアと前記バランスシャフトとの間に設けられる付勢部と、を備え、前記ドリブンギアは、斜歯ギアであることで、前記ドライブギアと噛み合って回転する際に軸線方向の一方側へのスラスト力が生じるように構成され、前記付勢部は、前記ドリブンギアに対して前記軸線方向の他方側への付勢力を付与可能である。
【0007】
本発明の一態様に係るバランサ装置において、前記付勢部と前記ドリブンギアとの間には、中間部材が設けられ、前記中間部材は、前記ドリブンギアとともに前記軸線方向に移動するとともに、前記ドリブンギアの回転状態において、前記バランスシャフトとの当接により前記一方側への移動が規制可能に設けられている。
【0008】
本発明の一態様に係るバランサ装置において、前記付勢部は、環状の弾性部材を有して構成され、前記弾性部材は、内周面側が前記バランスシャフト側に固定されるとともに外周面側が前記ドリブンギア側に固定され、前記ドリブンギアの停止状態において、外周側に向かうにしたがって前記他方側に向かうように傾斜している。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るバランサ装置によれば、耐久性を確保しつつ騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係るバランサ装置のドリブンギアを示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るバランサ装置においてドリブンギアが停止状態となった様子を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るバランサ装置においてドリブンギアが回転状態となった様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1~3に示すように、本発明の実施の形態に係るバランサ装置1は、内燃機関におけるクランクシャフトに接続された斜歯ギアであるドライブギア100と噛み合うドリブンギア2と、ドリブンギア2とともに回転可能なようにドリブンギア2に接続されるバランスシャフト3と、ドリブンギア2とバランスシャフト3との間に設けられる付勢部4と、を備える。ドリブンギア2は、斜歯ギアであることで、ドライブギア100と噛み合って回転する際に軸線x2方向の一方側(a方向)へのスラスト力F1が生じるように構成され、付勢部4は、ドリブンギア2に対して軸線x2方向の他方側(b方向)への付勢力F2を付与可能である。
【0012】
バランサ装置1は、内燃機関に設けられるものであって、この内燃機関は、クランクシャフトと、クランクシャフトに接続された斜歯ギアであるドライブギア100と、を備える。即ち、クランクシャフトが回転する際、この回転に伴ってドライブギア100も回転するようになっている。ドライブギア100の軸線(即ちクランクシャフトの中心軸線)x1と、ドリブンギア2の軸線(即ちバランスシャフト3の中心軸線)x2と、が平行に延びている。以下、説明の便宜上、軸線x1、x2方向において矢印a(
図1~3参照)方向を一方側とし、軸線x方向において矢印b(
図1参照)方向を他方側とする。また、軸線x1、x2が並ぶ方向をZ方向とし、軸線x1、x2及びZ方向と直交する方向をY方向とする。以下の説明において、各部材の位置関係や方向を説明するときは、あくまで図面における位置関係や方向を示し、実際の車両等に組み込まれたときの位置関係や方向を示すものではない。
【0013】
ドライブギア100は、斜歯ギアであって、
図1に示す駆動側の正回転方向R1に向かうにしたがってb方向(他方側)に向かう傾斜の向きを有している。また、ドライブギア100は、樹脂製であることが好ましいが、鉄等の金属材料によって構成されていてもよい。
【0014】
バランサ装置1は、ドリブンギア2と、バランスシャフト3と、付勢部4と、に加え、さらに中間部材5を備える。
【0015】
ドリブンギア2は、斜歯ギアであって、
図1に示す従動側の正回転方向R2に向かうにしたがってb方向(他方側)に向かう傾斜の向きを有している。尚、ドライブギア100が正回転方向R1に回転する際、従動するドリブンギア2は、正回転方向R2に回転する。また、ドリブンギア2は、樹脂製であることが好ましいが、鉄等の金属材料によって構成されていてもよい。ドリブンギア2の中央部には、軸線x2方向に貫通する円状の貫通孔21が形成されている。
【0016】
ドライブギア100及びドリブンギア2が斜歯ギアであることで、これらが回転する際には、軸線x1,x2方向において互いに離れるようなスラスト力が発生する。上記のような傾斜の向きにより、正回転方向R1,R2の回転においては、ドリブンギア2は、ドライブギア100からa方向(一方側)への力を受け、ドライブギア100は、ドリブンギア2からb方向(他方側)への力を受ける(
図3参照)。即ち、ドリブンギア2は、斜歯ギアであることで、ドライブギア100と噛み合って回転する際に軸線x2方向の一方側へのスラスト力F1が生じる。
【0017】
バランスシャフト3は、軸線x2方向に沿って延びる棒状(円柱状)部材であって、ドリブンギア2の貫通孔21に挿通される。バランスシャフト3のb方向端部には、フランジ状の拡径部31が形成されている。即ち、バランスシャフト3は、拡径部31において、後述するように付勢部4が接続される部分よりも外周側に突出している。尚、拡径部31は、軸線x2を中心とする周方向において連続した環状に形成されていてもよいし、周方向の一部にのみ設けられていてもよい。また、拡径部31は、バランスシャフト3と一体的に形成されていてもよいし、バランスシャフト3のシャフト本体とは別部品として構成されるとともにシャフト本体に組み付けられるものであってもよい。
【0018】
付勢部4は、バランスシャフト3の外周面に固定される内周側接続部41と、中間部材5の後述する筒状部51の内周面に固定される外周側接続部42と、内周側接続部41と外周側接続部42との間に設けられる弾性部材43と、を有する。即ち、弾性部材43は、内周面側が内周側接続部41を介してバランスシャフト3側に固定され、外周面側が外周側接続部42及び中間部材5を介してドリブンギア2側に固定される。
【0019】
弾性部材43は、ゴムや弾性等の弾性部材によって構成されたものであり、全体として軸線x2方向に沿って延びる筒状(本実施の形態では円筒状)に形成されている。また、弾性部材43は、自然状態(変形していない状態)において外周側(即ちドリブンギア2側)に向かうにしたがってb方向に向かうように傾斜している。
【0020】
中間部材5は、例えば樹脂製のギアインサートであって、全体として軸線x2方向に沿って延びる筒状(本実施の形態では円筒状)に形成されており、バランスシャフト3の外側且つ貫通孔21の内側に配置されることで、軸線x2を基準とする径方向においてドリブンギア2とバランスシャフト3との間に設けられている。中間部材5は、軸線x2方向に沿って延びる円筒状の筒状部51と、筒状部51のa方向端部に連続する円環状の環状部52と、を有する。環状部52は、筒状部51から内周側に向かって延びる縮径部である。
【0021】
中間部材5は、その外周面53がドリブンギア2の貫通孔21の内周面に接触しつつ、ドリブンギア2に固定される。これにより、ドリブンギア2が回転した際に中間部材5もともに回転し、且つ、ドリブンギア2が軸線x2方向に移動した際に中間部材5もともに移動する。
【0022】
バランスシャフト3の外径は、拡径部31において環状部52の内径よりも大きく、拡径部31以外の部分において環状部52の内径以下である。また、環状部52は、拡径部31に対してb方向側に配置される。これにより、バランスシャフト3が中間部材5に挿通された状態において、中間部材5がa方向に所定距離移動した際に環状部52が拡径部31に当接し、移動が規制されるようになっている。
【0023】
バランサ装置1において、ドリブンギア2は付勢部4及び中間部材5を介してバランスシャフト3に接続されている。このとき、ドリブンギア2の回転はバランスシャフト3に伝達され、ドリブンギア2とバランスシャフト3とがともに回転するようになっている。一方、ドリブンギア2とバランスシャフト3とは、軸線x2方向においては相対移動可能となっている。また、ドリブンギア2とバランスシャフト3と付勢部4と中間部材5とは、全て同軸に配置されている。
【0024】
ここで、ドライブギア100が回転していない状態および回転している状態におけるバランサ装置1の各部の形状や配置、動作の詳細について説明する。
【0025】
ドライブギア100が回転していない状態では、ドリブンギア2も回転せずに停止状態(
図2)となる。この停止状態は、ドリブンギア2とバランスシャフト3と付勢部4と中間部材5とが組み付けられた組み付け状態に等しい。ドリブンギア2の停止状態において、弾性部材43は自然状態である。尚、弾性部材43が自然状態から多少変形し、自然状態と同様に外周側に向かうにしたがってb方向に向かうように傾斜していてもよい。
【0026】
ドライブギア100が正回転方向R1に回転すると、ドリブンギア2は正回転方向R2に回転して回転状態(
図3)となる。このとき、ドリブンギア2には上記のようにスラスト力F1が作用し、このスラスト力F1によってドリブンギア2及び中間部材5がa方向に移動する。このとき、バランスシャフト3は軸線x2方向には移動せず、ドリブンギア2及び中間部材5は付勢部4の弾性部材43を変形させつつ移動する。弾性部材43が変形することにより、復元力によって付勢力F2が生じる。付勢力F2は、ドリブンギア2及び中間部材5をb方向に移動させようとする力であり、スラスト力F1と付勢力F2とが等しくなるような距離だけドリブンギア2が移動する。
【0027】
ドリブンギア2は、回転状態において、ドライブギア100からスラスト力F1を受け、且つ、付勢部4から逆方向の付勢力F2を受ける。これにより、ドリブンギア2は、その歯面が付勢力F2によってドライブギア100の歯面に対して押し付けられ、押し付けられた状態が維持される。即ち、バックラッシュを低減することができる。ドライブギア100の回転速度が変化した場合、スラスト力F1の変化に応じてドリブンギア2が軸線x2方向に移動して付勢力F2も変化し、ドリブンギア2の歯面とドライブギア100の歯面との接触が維持される。
【0028】
スラスト力F1の大きさは、ドライブギア100及びドリブンギア2の回転速度に依存し、スラスト力F1が大きくなると、ドリブンギア2のa方向への移動量も大きくなる。回転速度が所定値となってドリブンギア2及び中間部材5がa方向に所定距離だけ移動すると、上記のように環状部52が拡径部31に当接し、移動が規制されるようになっている。
【0029】
このように、本発明の実施の形態に係るバランサ装置1によれば、スラスト力F1と逆方向の付勢力をドリブンギア2に対して付与可能な付勢部4が設けられていることで、バックラッシュを低減するとともに、回転速度が変化してもギアの歯面同士の接触を維持することができる。これにより、ドライブギア100とドリブンギア2との間の歯打ち音を抑制し、騒音を低減することができる。このとき、騒音低減のためにギア自体を変形させる必要はなく、耐久性を確保することができる。
【0030】
また、付勢部4によって騒音を低減することにより、例えばシザーズギア等を用いる構成と比較して、低コスト化することができる。
【0031】
また、中間部材5がバランスシャフト3と当接してa方向への移動が規制可能であることで、回転速度が大きくなった際の過剰な移動を規制することができる。これにより、弾性部材43が過変形して損傷してしまうことを抑制することができる。
【0032】
また、弾性部材43が、ドリブンギア2の停止状態において、外周側に向かうにしたがってb方向に向かうように傾斜していることで、ドリブンギア2が回転した際に、弾性部材43は圧縮されるように変形する。これにより、引き伸ばされるように変形する構成と比較して、弾性部材43が破断されてしまうことを抑制することができる。
【0033】
また、ドライブギア100が樹脂製であれば、回転時にドライブギア100及びドリブンギア2が受ける衝撃を緩和し、耐久性を向上させることができる。
【0034】
尚、本発明は上記の実施の形態に限定されず、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、中間部材5がバランスシャフト3と当接してa方向への移動が規制可能であるものとしたが、中間部材がバランスシャフト以外の部品に当接することで移動が規制されてもよいし、ドリブンギアがバランスシャフトや他の部品に当接することで移動が規制されてもよい。また、例えばドリブンギアの回転速度が上昇しにくく軸線方向への移動量が小さい場合や、付勢部の耐久性が充分に高い場合等、弾性部材が損傷しにくいような場合には移動が規制されていなくてもよい。
【0035】
また、上記の実施の形態では、弾性部材43が、ドリブンギア2の停止状態において、外周側に向かうにしたがってb方向に向かうように傾斜しているものとしたが、弾性部材は、このような傾斜を有していなくてもよいし、逆向きの傾斜を有していてもよい。また、付勢部は、適宜な形態の弾性部材を有していればよく、例えばコイルばね等の弾性部材が採用されてもよい。
【0036】
また、上記の実施の形態では、バランサ装置1が1つのバランスシャフト3のみを備えるものとしたが、バランサ装置は複数のバランスシャフトを備えていてもよい。即ち、上記の実施の形態におけるバランスシャフト3を主動シャフトとし、これに従動して回転する従動シャフトが設けられていてもよい。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に係るバランサ装置に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0038】
1…バランサ装置、2…ドリブンギア、21…貫通孔、3…バランスシャフト、31…拡径部、4…付勢部、41…内周側接続部、42…外周側接続部、43…弾性部材、5…中間部材、51…筒状部、52…環状部、53…外周面、100…ドライブギア