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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034612
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】精製ポリオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/88 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
C07C29/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138981
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】原 智隆
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD30
(57)【要約】
【課題】粗ポリオールに含まれるアミン化合物を除去する場合において、反応生成物が反応槽や攪拌羽根に固着しにくく、しかも粗ポリオールに含まれるアミン化合物を相対的に低温において除去することが可能な精製ポリオールの製造方法を提供すること。
【解決手段】精製ポリオールの製造方法は、アミン化合物を含む粗ポリオールと、有機スルホン酸とを混合して混合液とし、前記混合液中において前記アミン化合物と前記有機スルホン酸とを反応させる第1工程と、前記混合液から前記アミン化合物と前記有機スルホン酸との反応生成物を除去する第2工程とを備えている。前記粗ポリオールは、分解回収ポリオールが好ましい。前記有機スルホン酸は、芳香族スルホン酸が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化合物を含む粗ポリオールと、有機スルホン酸とを混合して混合液とし、前記混合液中において前記アミン化合物と前記有機スルホン酸とを反応させる第1工程と、
前記混合液から前記アミン化合物と前記有機スルホン酸との反応生成物を除去する第2工程と
を備えた精製ポリオールの製造方法。
【請求項2】
前記粗ポリオールは、分解回収ポリオールである請求項1に記載の精製ポリオールの製造方法。
【請求項3】
前記有機スルホン酸は、芳香族スルホン酸である請求項1又は2に記載の精製ポリオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製ポリオールの製造方法に関し、さらに詳しくは、アミン化合物を含む粗ポリオールからアミン化合物を除去する精製ポリオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンとは、ウレタン結合(-NH-C(O)O-)を有する高分子化合物をいう。ポリウレタンは、一般に、ポリオールの水酸基(-OH)と、多官能イソシアネートのイソシアネート基(-NCO)とを重合させることにより得られる。ポリウレタンは、ポリオール及び/又はイソシアネートの種類を最適化することにより、多様な性質を示すことが知られている。そのため、ポリウレタンは、各種自動車部品、合成皮革、塗料、接着剤などに応用されている。また、ポリウレタンを発泡させたポリウレタンフォームは、断熱材、クッション材などに応用されている。
【0003】
近年、地球環境の保護の観点から、各種プラスチック製品のリサイクルが検討されている。プラスチックのリサイクル方法としては、
(a)プラスチックをそのまま再利用するマテリアルリサイクル、
(b)プラスチックを分解し、化学原料として再利用するケミカルリサイクル、
(c)プラスチックを燃料として再利用するサーマルリサイクル
などが知られている。
【0004】
ポリウレタンのリサイクル方法についても種々の方法が提案されており、その一部は既に工業的に実施されている。
これらの内、ポリウレタンのケミカルリサイクルは、粉砕したポリウレタンに分解剤を添加し、ポリウレタンを、ポリオールと、多官能イソシアネートに由来するアミン化合物とに分解する方法である。分解方法としては、アミン分解、グリコール分解、加水分解などが知られている。いずれの分解方法を用いる場合であっても、得られた分解生成物は、アミン化合物を主成分とする下相と、ポリオールを主成分とする上相の2相に分離する。そのため、上相からポリオールを容易に回収することができる。
【0005】
しかしながら、上相から回収されたポリオールには、微量のアミン化合物が含まれている。アミン化合物は、ウレタン反応の触媒としても機能する。そのため、例えば、アミン化合物を含むポリオール(以下、これを「粗ポリオール」ともいう)をそのままポリウレタンフォームの製造用原料として再利用すると、ウレタン反応が急速に進行し、気泡の制御が困難になるという問題があった。
【0006】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)ポリアミンを含有するポリオールに、シュウ酸又は無水マレイン酸を加え、ポリアミンをシュウ酸塩又はマレイン酸塩として析出させ、
(b)析出物を除去する
ポリオールの精製方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、粗ポリオールからポリアミンをほぼ完全に除去できる点が記載されている。
【0007】
特許文献2には、ポリオールの精製方法ではないが、
(a)粗製ポリエーテルポリオールに含まれるアルカリ性触媒をビニルカルボン酸類又はビニルスルホン酸類で中和し、
(b)これにさらに他のビニル単量体を投入し、ビニル重合させる
重合体ポリオールの製造方法が開示されている。
同文献には、
(A)このような方法により、精製処理していないポリオール(アルカリ性触媒を含むポリオール)を用いて、重合体ポリオールを製造することができる点、
(B)このような方法により、アルカリ性触媒の中和により発生するビニルカルボン酸アルカリ金属塩又はビニルスルホン酸アルカリ金属塩をポリマー中に固定できる点、及び、
(C)ポリマー中に固定されたアルカリ金属塩は、ウレタンフォームを製造する際の触媒としても機能するため、このような重合体ポリオールをポリウレタンフォームの製造に用いると、触媒使用量を低減できる点
が記載されている。
【0008】
特許文献3には、ポリオールの精製方法ではないが、
(a)末端不飽和基を有するモノオールを含むポリオール組成物に、ポリニトリルオキサイド又は水酸化モノニトリルオキサイドを加え、
(b)末端不飽和基を有するモノオールと、ポリニトリルオキサイド又は水酸化モノニトリルオキサイドとを反応させる
ポリオール組成物の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、不飽和度が低いポリオール組成物が得られる点が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献4には、ポリオールの精製方法ではないが、
(a)2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(BEPD)と、オクタン酸(モノカルボン酸)と、アジピン酸(ジカルボン酸)とを、触媒存在下で反応させ、
(b)反応混合物を冷却した後、酸成分をトリエチルアミン(塩基)で中和する
複合エステルの製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法を用いると、複合エステルを高い収率で回収することができる点が記載されている。
【0010】
特許文献1に記載された方法を用いると、粗ポリオールからアミン化合物を除去することができる。しかしながら、粗ポリオールに含まれるアミン化合物と、ジカルボン酸又はその無水物とを反応させた場合において、反応温度が低い時には、アミン化合物の除去が不十分となる。
一方、反応温度を高くすれば、アミン化合物の除去効率は向上する。しかしながら、反応温度が高くなるほど、反応生成物が反応槽や攪拌羽根に固着しやすくなる。また、反応温度が高くなるほど、ポリオールの劣化が進行し、高エネルギーが必要となり、あるいは、作業時の安全性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-247917号公報
【特許文献2】特開平05-032739号公報
【特許文献3】特表平11-508954号公報
【特許文献4】特表2001-524086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、粗ポリオールに含まれるアミン化合物を除去する場合において、反応生成物が反応槽や攪拌羽根に固着しにくい精製ポリオールの製造方法を提供することにある。
本発明が解決しようとする他の課題は、粗ポリオールに含まれるアミン化合物を相対的に低温において除去することが可能な精製ポリオールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る精製ポリオールの製造方法は、
アミン化合物を含む粗ポリオールと、有機スルホン酸とを混合して混合液とし、前記混合液中において前記アミン化合物と前記有機スルホン酸とを反応させる第1工程と、
前記混合液から前記アミン化合物と前記有機スルホン酸との反応生成物を除去する第2工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0014】
粗ポリオールに有機スルホン酸を加えると、アミン化合物と有機スルホン酸とが反応し、反応生成物が得られる。このようにして得られた反応生成物は、混合液中において相対的に粗大な粒子又はその凝集体(直径が1mm~数十mm程度の粗粒子)として析出しやすく、反応槽や攪拌羽根に固着することがない。
また、有機スルホン酸は、ジカルボン酸又はその無水物よりも低温においてアミン化合物と反応する。そのため、有機スルホン酸を用いると、反応温度を相対的に低くすることができる。また、これによってポリオールの劣化が抑制され、エネルギーコストを削減することができ、あるいは、作業時の安全性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 精製ポリオールの製造方法]
本発明に係る精製ポリオールの製造方法は、
アミン化合物を含む粗ポリオールと、有機スルホン酸とを混合して混合液とし、前記混合液中において前記アミン化合物と前記有機スルホン酸とを反応させる第1工程と、
前記混合液から前記アミン化合物と前記有機スルホン酸との反応生成物を除去する第2工程と
を備えている。
【0016】
[1.1. 第1工程]
まず、アミン化合物を含む粗ポリオールと、有機スルホン酸とを混合して混合液とし、混合液中においてアミン化合物と有機スルホン酸とを反応させる(第1工程)。
【0017】
[1.1.1. 粗ポリオール]
「粗ポリオール」とは、不純物としてアミン化合物を含むポリオールをいう。
本発明において、粗ポリオールの種類、粗ポリオールに含まれるポリオールの種類、及び、粗ポリオールに含まれるアミン化合物の種類は、特に限定されるものではなく、あらゆる粗ポリオールに対して本発明を適用することができる。
【0018】
粗ポリオールに含まれるアミン化合物の量も特に限定されないが、本発明は、微量のアミン化合物を含む粗ポリオールを精製する方法として好適である。具体的には、粗ポリオールは、総アミン価が250mgKOH/g以下であるものが好ましい。総アミン価は、さらに好ましくは、200mgKOH/g以下、あるいは、150mgKOH/g以下である。
【0019】
粗ポリオールは、特に、ポリウレタンを分解することにより得られる分解回収ポリオールが好ましい。この場合、ポリウレタンの分解方法は特に限定されない。分解方法としては、例えば、アミン分解、グリコール分解、加水分解などがある。いずれの分解方法を用いた場合であっても、得られた分解生成物は、アミン化合物を主成分とする下相と、ポリオールを主成分とする上相の2相に分離する。そのため、上相から容易に粗ポリオールを回収することができる。
【0020】
[1.1.2. 有機スルホン酸]
有機スルホン酸は、粗ポリオールに含まれるアミン化合物を除去するための捕捉剤として機能する。粗ポリオールに有機スルホン酸を加えて所定の温度に加熱すると、有機スルホン酸とアミン化合物が反応する。有機スルホン酸は、アミン化合物との反応性が高く、かつ、反応生成物の凝集性が高いために、粗大な反応生成物が析出しやすい。反応条件を最適化すると、反応生成物が直径1mm~数十mm程度の粗粒子となって析出する。
さらに、有機スルホン酸は、シュウ酸と異なり、低温においてアミン化合物と反応し、かつ、反応生成物が反応槽や攪拌羽根に固着することがないという利点がある。
【0021】
本発明において、有機スルホン酸の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。有機スルホン酸は、脂肪族スルホン酸であっても良く、あるいは、芳香族スルホン酸であっても良い。有機スルホン酸は、特に、芳香族スルホン酸が好ましい。芳香族スルホン酸は、脂肪族スルホン酸に比べて安価であるため、粗ポリオールを低コストで精製することができる。
【0022】
有機スルホン酸としては、具体的には、以下のようなものがある。混合液には、いずれか1種の有機スルホン酸が含まれていても良く、あるいは、2種以上の有機スルホン酸が含まれていても良い。
【0023】
脂肪族スルホン酸としては、例えば、
メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、
n-オクチルスルホン酸、ペンタデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、
トリクロロメタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、
1,3-プロパンジスルホン酸、アミノメタンスルホン酸、
2-アミノエタンスルホン酸、シクロペンタンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、
カンファースルホン酸、3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸、スルファミン酸
などがある。
【0024】
芳香族スルホン酸としては、例えば、
ベンゼンスルホン酸、n-ブチルベンゼンスルホン酸、
n-オクチルベンゼンスルホン酸、n-ドデシルベンゼンスルホン酸、
ペンタデシルベンゼンスルホン酸、2,5-ジメチルベンゼンスルホン酸、
2,5-ジブチルベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、
m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、
3-アミノ-4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、
5-アミノ-2-メチルベンゼンスルホン酸、
3,5-ジアミノ-2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、
2,4-ジニトロベンゼンスルホン酸、p-クロルベンゼンスルホン酸、
2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸、o-フェノールスルホン酸、
p-フェノールスルホン酸、m-フェノールスルホン酸、クメンスルホン酸、
キシレンスルホン酸、o-クレゾールスルホン酸、m-クレゾールスルホン酸、
p-クレゾールスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、
m-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、1-ナフタレンスルホン酸、
イソプロピルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、
ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、
1,5-ナフタレンジスルホン酸、2,7-ナフタレンジスルホン酸、
4,4-ビフェニルジスルホン酸、アントラキノン-2-スルホン酸、
m-ベンゼンジスルホン酸、2,5-ジアミノ-1,3-ベンゼンジスルホン酸、
アニリン-2,4-ジスルホン酸、アントラキノン-1,5-ジスルホン酸、
ポリスチレンスルホン酸
などがある。
【0025】
芳香族スルホン酸は、特に、トルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸、又は、クレゾールスルホン酸が好ましい。これは、
(a)これらの芳香族スルホン酸を用いると、比重が大きく、分離が容易な反応生成物が得られるため、及び、
(b)これらの芳香族スルホン酸は、一般に流通しており、安価であるため
である。
【0026】
[1.1.3. MS/MA比]
第1工程は、アミン化合物に含まれるアミノ基のモル数(MA)に対する有機スルホン酸に含まれるスルホン酸基のモル数(MS)の比(=MS/MA)が所定の範囲となるように、粗ポリオールと有機スルホン酸とを混合する工程を含むのが好ましい。
【0027】
混合液に含まれるアミン化合物に比べて、有機スルホン酸の量が少なくなりすぎると、未反応のアミン化合物が相対的に多量に残留する場合がある。また、有機スルホン酸が少ないために、反応が連鎖的に進みにくくなり、反応生成物が高分子量になりにくい。そのため、反応生成物が直径1mm未満の微粒子となって析出し、反応生成物の分離が困難となる場合がある。従って、MS/MA比は、0.35以上が好ましい。MS/MA比は、さらに好ましくは、0.40以上、あるいは、0.45以上である。
【0028】
逆に、混合液に含まれるアミン化合物に比べて、有機スルホン酸の量が過剰になると、未反応の有機スルホン酸が相対的に多量に残留する場合がある。また、有機スルホン酸が過剰であるために、反応生成物の核が多量に生成し、反応生成物が高分子量になりにくい。そのため、反応生成物が直径1mm未満の微粒子となって析出し、反応生成物の分離が困難となる場合がある。従って、MS/MA比は、1.10以下が好ましい。MS/MA比は、さらに好ましくは、1.05以下、あるいは、1.00以下である。
【0029】
[1.1.4. 反応温度]
第1工程は、所定の温度において、アミン化合物と有機スルホン酸とを反応させる工程を含むのが好ましい。
【0030】
一般に、反応温度が高くなるほど、アミン化合物と有機スルホン酸との反応が短時間で進行しやすくなる。従って、反応温度は、50℃以上が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、55℃以上、あるいは、60℃以上である。
一方、反応温度が高くなりすぎると、混合液中に含まれるポリオールが変質する場合がある。従って、反応温度は、100℃以下が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、95℃以下、あるいは、90℃以下である。
【0031】
[1.2. 第2工程]
次に、前記混合液から前記アミン化合物と前記有機スルホン酸との反応生成物を除去する(第2工程)。これにより、精製ポリオールが得られる。
【0032】
本発明において、反応生成物の除去方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
本発明に係る方法を用いると、反応生成物が反応槽や攪拌羽根に固着することがなく、直径が1mm~数十mm程度の粗粒子となって析出する。そのため、例えば、反応後の混合液をろ過すれば、混合液から反応生成物を容易に除去することができる。
【0033】
[2. 作用]
粗ポリオールに有機スルホン酸を加えると、アミン化合物と有機スルホン酸とが反応し、反応生成物が得られる。このようにして得られた反応生成物は、混合液中において相対的に粗大な粒子又はその凝集体(直径が1mm~数十mm程度の粗粒子)として析出しやすく、反応槽や攪拌羽根に固着することがない。
また、有機スルホン酸は、ジカルボン酸又はその無水物よりも低温においてアミン化合物と反応する。そのため、有機スルホン酸を用いると、反応温度を相対的に低くすることができる。また、これによってポリオールの劣化が抑制され、エネルギーコストを削減することができ、あるいは、作業時の安全性が向上する。
【0034】
さらに、粗ポリオールが、ポリウレタンをアミン分解することにより得られる分解回収ポリオールである場合、粗ポリオールには、イソシアネート由来のアミン化合物だけでなく、ポリウレタンをアミン分解するための分解剤に由来するアミン化合物も含まれる場合がある。これに対し、本発明に係る方法を用いると、粗ポリオールから、イソシアネート由来のアミン化合物だけでなく、分解剤由来のアミン化合物も同時に除去することができる。その結果、品質の良好な精製ポリオールを得ることができる。
【実施例0035】
(実施例1~10、比較例1~4)
[1. 試験方法]
粗ポリオールには、
(a)ポリウレタンをアミン分解することにより得られる分解回収ポリオール、又は、
(b)ポリウレタンをグリコール分解することにより得られる分解回収ポリオール
を用いた。
【0036】
また、アミン化合物を捕捉するための酸(捕捉剤)には、
(a)p-トルエンスルホン酸一水和物(実施例1~6、9~10)、
(b)p-フェノールスルホン酸(実施例7~8)、
(c)シュウ酸(比較例1~2)、又は、
(d)無水マレイン酸(比較例3~4)
を用いた。
【0037】
粗ポリオールと、所定量の捕捉剤とをセパラブルフラスコに入れた。MS/MA比は、0.25~1.10とした。次いで,セパラブルフラスコを50℃~120℃で3時間加熱した。反応終了後、反応溶液を直径10cmのステンレス鋼製金網(300メッシュ)でろ過した。
【0038】
[2. 評価]
[2.1. アミン価減少率]
処理前の粗ポリオールのアミン価(X0)を測定した。また、処理後のろ液のアミン価(X1)を測定した。さらに、次式により、アミン価減少率を算出した。
アミン価減少率(%)=(X1-X0)×100/X0
【0039】
[2.2. 分離性]
100gの反応溶液を直径10cmのステンレス鋼製メッシュ(300メッシュ)で自重のみで濾過した。この時の目詰まりの有無を目視で評価した。
【0040】
[2.3. 付着性]
反応生成物の器具への付着の有無を目視で評価した。
【0041】
[3. 結果]
表1に、結果を示す。なお、表1には、各試料の履歴も併せて示した。
また、アミン除去効果に関し、「○」はアミン価減少率が80%以上であることを表し、「△」はアミン価減少率が50%以上80%未満であることを表し、「×」はアミン価減少率が50%未満であることを表す。
分離性に関し、「○」はろ過時に目詰まりが生じなかったことを表し、「△」はろ過時に多少の目詰まりを生じて、ろ過速度が低下したものの、ろ過を完了できたことを表し、「×」はろ過時に目詰まりが生じたことを表す。
器具への付着に関し、「○」は反応生成物の付着がないか、あるいは、一部が付着する程度であることを表し、「×」は反応生成物が完全に固着したことを表す。
表1より、以下のことが分かる。
【0042】
(1)比較例1は、アミン除去効果が高く、分離性も良好であった。しかし、比較例1は、反応生成物が器具に固着した。これは、捕捉剤としてシュウ酸を用いたため、及び、反応温度が120℃であるためと考えられる。
(2)比較例2は、反応生成物が器具に固着しなかった。しかし、比較例2は、アミン除去効果が低下し、かつ、分離性も低下した。これは、反応温度が70℃であるためと考えられる。
【0043】
(3)比較例3は、アミン除去効果が高く、分離性も良好であった。しかし、比較例3は、反応生成物が器具に固着した。これは、捕捉剤として無水マレイン酸を用いたため、及び、反応温度が120℃であるためと考えられる。
(4)比較例4は、比較例2に比べて、アミン除去効果が若干向上した。しかしながら、比較例4は、分離性が低下した。さらに、比較例4は、反応温度が70℃であるにもかかわらず反応生成物が器具に固着した。これは、捕捉剤として無水マレイン酸を用いたためと考えられる。
【0044】
(5)実施例1~8は、いずれも、アミン除去効果が高く、分離性が良好であり、かつ、反応生成物の器具への固着もほとんど認められなかった。
(6)実施例4、8は、分離性が若干低下した。これは、MS/MA比が若干高めであるためと考えられる。
(7)実施例9は、アミン除去効果が若干低下したが、反応生成物の器具への固着は認められなかった。しかし、実施例9は、分離性が低下した。これは、MS/MA比が小すぎるために、反応生成物が微粒子として析出したためと考えられる。
(8)実施例10は、アミン除去効果が高く、かつ、反応生成物の器具への固着は認められなかった。しかし、実施例10は、分離性が低下した。これは、MS/MA比が大きすぎるために、反応生成物が微粒子として析出したためと考えられる。
【0045】
【表1】
【0046】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る精製ポリオールの製造方法は、分解回収ポリオールの精製方法として使用することができる。