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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034646
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/16 20060101AFI20240306BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B62D1/16
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139037
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【テーマコード(参考)】
3D030
3D333
【Fターム(参考)】
3D030DC29
3D030DC35
3D030DF01
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB44
3D333CC14
3D333CC23
3D333CD08
3D333CD13
3D333CD16
3D333CD20
3D333CD28
3D333CE53
(57)【要約】
【課題】転舵部の向きがストロークエンドに達したときなどに、確実にステアリングホイールの回転を止めることができるステアバイワイヤ方式のステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアバイワイヤ方式のステアリング装置において、ステアリングシャフト4とともに回転する軸体に設けられる摩擦部材8と、軸周りの回転運動を軸方向の直線運動に変換し、その直線運動に伴って摩擦部材8を軸方向に押圧することによって摩擦部材8に摩擦抵抗を生じさせて、静止系部材9に対してステアリングシャフト4を回り止めする回転直動変換機構10と、を有する構成とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者により回転操作されるステアリングホイール(1)と、前記ステアリングホイール(1)に接続されたステアリングシャフト(4)と、を備えるステアバイワイヤ方式のステアリング装置において、
前記ステアリングシャフト(4)とともに回転する軸体に設けられる摩擦部材(8)と、
軸周りの回転運動を軸方向の直線運動に変換し、その直線運動に伴って前記摩擦部材(8)を軸方向に押圧することによって当該摩擦部材(8)に摩擦抵抗を生じさせて、静止系部材(9)に対して前記ステアリングシャフト(4)を回り止めする回転直動変換機構(10)と、
を有することを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記摩擦部材(8)が、前記ステアリングシャフト(4)とともに軸周りに回転する第一摩擦部材(20)と前記静止系部材(9)に対し軸周りに回転不能に設けられる第二摩擦部材(21)と、を有し、前記回転直動変換機構(10)によって前記第一摩擦部材(20)と前記第二摩擦部材(21)との間に摩擦抵抗を生じさせて前記ステアリングシャフト(4)を回り止めする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記第一摩擦部材(20)と前記第二摩擦部材(21)が、軸方向にそれぞれ複数交互に並んで設けられている請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記回転直動変換機構(10)が、摩擦カム(26)と、前記摩擦部材(8)を軸方向に押圧可能な前記ステアリングシャフト(4)ともに軸周りに回転するプレッシャカム(27)と、前記摩擦カム(26)と前記プレッシャカム(27)の対向する面にそれぞれ形成されたカム溝(28)に収容されたボール(29)と、を有するボールカム機構(10)であって、前記摩擦カム(26)に対して摩擦力を与えてその軸周りの回転を制止した状態で前記ステアリングホイール(1)を回転操作することにより前記プレッシャカム(27)が前記摩擦部材(8)を軸方向に押圧するようにした請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記静止系部材(9)に設けられた電磁クラッチ(14)によって前記摩擦カム(26)を吸着することによって当該摩擦カム(26)に前記摩擦力を与える一方で、前記電磁クラッチ(14)による前記摩擦カム(26)の吸着を解消することによって当該摩擦カム(26)に与えられた前記摩擦力を解除する請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記摩擦カム(26)の外周に沿う摩擦リング(46)と、ウォーム(48)と、前記ウォーム(48)によって軸周りに回転するウォームホイール(49)と、前記ウォームホイール(1)側に設けられた第一固定部(51)と、前記静止系部材(9)側に設けられた第二固定部(53)と、を有し、前記摩擦リング(46)の一端側が前記第一固定部(51)に、他端側が前記第二固定部(53)にそれぞれ固定されており、前記ウォーム(48)を一方向に動作して前記第一固定部(51)を前記第二固定部(53)に対して周方向の一方向に相対回転させて、前記摩擦リング(46)を前記摩擦カム(26)に接触させることによって前記摩擦カム(26)に前記摩擦力を与える一方で、前記ウォーム(48)を他方向に動作して前記第一固定部(51)を前記第二固定部(53)に対して周方向の他方向に相対回転させて、前記摩擦リング(46)と前記摩擦カム(26)との間の接触を解消することによって前記摩擦力を解除する請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記ステアリングシャフト(4)に直径が相対的に大きい大径部から相対的に小さい小径部に不連続に変化する段部(59)を形成するとともに、前記小径部に前記ステアリングシャフト(4)に対し軸周りに回転不能かつ軸方向に移動可能な前記摩擦部材(8)を設け、前記摩擦部材(8)を軸方向に押圧することによって前記摩擦部材(8)と前記段部(59)との間に摩擦抵抗を生じさせて、前記静止系部材(9)に対して前記ステアリングシャフト(4)を回り止めする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記摩擦部材(8)が軸方向に複数並んで設けられており、前記小径部に前記段部(59)に当接し前記ステアリングシャフト(4)に対し軸周りに回転不能かつ軸方向に移動不能な固定摩擦部材(61)を設けた請求項7に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記回転直動変換機構(10)が、ウォーム(48)と、前記ウォーム(48)によって軸周りに回転するウォームホイール(49)と、前記摩擦部材(8)を軸方向に押圧可能なプレッシャカム(27)と、前記ウォームホイール(49)と前記プレッシャカム(27)の対向する面にそれぞれ形成されたカム溝(28)に収容されたボール(29)とを有するボールカム機構(10)であって、前記ウォーム(48)を一方向に動作して前記ウォームホイール(49)を周方向の一方向に相対回転させることで前記摩擦部材(8)を軸方向に押圧する一方で、前記ウォーム(48)を他方向に動作して前記ウォームホイール(49)を周方向の他方向に相対回転させることで前記摩擦部材(8)の押圧を解除する請求項7または8に記載のステアリング装置。
【請求項10】
前記摩擦部材(8)が軸方向に押圧された際に前記ウォーム(48)を駆動するモータ(47)がストール状態であることをその電流値から検知し前記ステアリングホイール(1)が回転不能となったことを判定する請求項9に記載のステアリング装置。
【請求項11】
前記ステアリングシャフト(4)と前記摩擦部材(8)が同一の軸上に配置されている請求項1、2または7に記載のステアリング装置。
【請求項12】
前記ステアリングシャフト(4)と前記摩擦部材(8)が異なる軸上に配置されている請求項1、2または7に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングホイールと転舵装置が機械的に切り離された状態で転舵を行なうステアバイワイヤ方式のステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者によるステアリングホイールの回転操作に応じて転舵部(車両の転舵輪など)の向きを変化させるステアリング装置として、ステアバイワイヤ方式のものが知られている。
【0003】
ステアバイワイヤ方式のステアリング装置(以下、ステアリング装置と略称する。)は、ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータとを有する。その転舵アクチュエータは、操舵センサで検知されるステアリングホイールの操作量に応じて作動し、転舵部の向きを変化させる。
【0004】
この種のステアリング装置は、運転者によるステアリングホイールの操作量をいったん電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータの動作を制御することができる。このため、例えば、ステアリングホイールを操作したときの転舵部の向きの変化量を車両、船舶などの移動速度に応じて調整するといったように、車両、船舶などの運転状態に応じてステアリングホイールの操作量と転舵アクチュエータの動作量の対応関係を適切化することが可能である。
【0005】
その反面、運転者によって回転操作されるステアリングホイールと、転舵部の向きを変化させる転舵アクチュエータとが機械的に切り離されているので、転舵部の向きがその移動限界(ストロークエンド)に到達したときであっても、運転者がさらにステアリングホイールを回転操作し得る。そのため、転舵部の向きがストロークエンドに到達したとき、その状況を運転者がステアリングホイールを通じて感知することを可能としたステアリング装置が提案されている。
【0006】
例えば、下記特許文献1に開示された車両用ステアバイワイヤ式操舵装置は、車速やステアリングホイールの操作量などに基づいて演算される操舵反力をステアリングホイールに与える反力モータと、反力モータを制御する反力コントローラとを有する。そして、反力コントローラは、転舵輪の向きがストロークエンドに到達したときに、反力モータで発生する操舵反力の大きさを補正して増大させる制御を行なう。これにより、運転者は、転舵輪の向きがストロークエンドに到達したことを、ステアリングホイールを通じて感知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2020/195226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1の構成においては、転舵輪の向きがストロークエンドに到達したときに、反力モータで発生する操舵反力の大きさを補正して増大させる制御を行なった場合、反力モータの制御が複雑になる問題がある。また、この制御は、あくまでもステアリングホイールの操舵反力が大きくなるだけであってステアリングホイールの回転が阻止されるのではないため、運転者によっては、転舵輪の向きがストロークエンドに到達したことに気付かず、そのままステアリングホイールの回転操作を継続してしまうおそれがある。
【0009】
この発明が解決しようとする課題は、転舵部の向きがストロークエンドに達したときなどに、確実にステアリングホイールの回転を止めることができるステアバイワイヤ方式のステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明では、
運転者により回転操作されるステアリングホイールと、前記ステアリングホイールに接続されたステアリングシャフトと、を備えるステアバイワイヤ方式のステアリング装置において、
前記ステアリングシャフトとともに回転する軸体に設けられる摩擦部材と、
軸周りの回転運動を軸方向の直線運動に変換し、その直線運動に伴って前記摩擦部材を軸方向に押圧することによって当該摩擦部材に摩擦抵抗を生じさせて、静止系部材に対して前記ステアリングシャフトを回り止めする回転直動変換機構と、
を有することを特徴とするステアリング装置を構成した。
【0011】
このようにすると、転舵部の向きがストロークエンドに達したときなどに回転直動変換機構を作動させて摩擦抵抗部材に摩擦を生じさせることにより、確実にステアリングホイールの回転を止めることができる。
【0012】
摩擦部材と回転直動変換機構を備えた第一の構成として、
前記摩擦部材が、前記ステアリングシャフトとともに軸周りに回転する第一摩擦部材と前記静止系部材に対し軸周りに回転不能に設けられる第二摩擦部材と、を有し、前記回転直動変換機構によって前記第一摩擦部材と前記第二摩擦部材との間に摩擦抵抗を生じさせて前記ステアリングシャフトを回り止めする構成とするのが好ましい。
【0013】
摩擦部材が第一摩擦部材と第二摩擦部材とを有する構成においては、
前記第一摩擦部材と前記第二摩擦部材が、軸方向にそれぞれ複数交互に並んで設けられている構成とするのが好ましい。
【0014】
上記のすべての構成においては、
前記回転直動変換機構が、摩擦カムと、前記摩擦部材を軸方向に押圧可能な前記ステアリングシャフトともに軸周りに回転するプレッシャカムと、前記摩擦カムと前記プレッシャカムの対向する面にそれぞれ形成されたカム溝に収容されたボールと、を有するボールカム機構であって、前記摩擦カムに対して摩擦力を与えてその軸周りの回転を制止した状態で前記ステアリングホイールを回転操作することにより前記プレッシャカムが前記摩擦部材を軸方向に押圧するようにした構成とするのが好ましい。
【0015】
回転直動変換機構としてボールカム機構を採用した上記の構成においては、
前記静止系部材に設けられた電磁クラッチによって前記摩擦カムを吸着することによって当該摩擦カムに前記摩擦力を与える一方で、前記電磁クラッチによる前記摩擦カムの吸着を解消することによって当該摩擦カムに与えられた前記摩擦力を解除する構成とするのが好ましい。
【0016】
回転直動変換機構としてボールカム機構を採用した上記の構成においては、
前記摩擦カムの外周に沿う摩擦リングと、ウォームと、前記ウォームによって軸周りに回転するウォームホイールと、前記ウォームホイール側に設けられた第一固定部と、前記静止系部材側に設けられた第二固定部と、を有し、前記摩擦リングの一端側が前記第一固定部に、他端側が前記第二固定部にそれぞれ固定されており、前記ウォームを一方向に動作して前記第一固定部を前記第二固定部に対して周方向の一方向に相対回転させて、前記摩擦リングを前記摩擦カムに接触させることによって前記摩擦カムに前記摩擦力を与える一方で、前記ウォームを他方向に動作して前記第一固定部を前記第二固定部に対して周方向の他方向に相対回転させて、前記摩擦リングと前記摩擦カムとの間の接触を解消することによって前記摩擦力を解除する構成とするのが好ましい。
【0017】
摩擦部材と回転直動変換機構を備えた第二の構成として、
前記ステアリングシャフトに直径が相対的に大きい大径部から相対的に小さい小径部に不連続に変化する段部を形成するとともに、前記小径部に前記ステアリングシャフトに対し軸周りに回転不能かつ軸方向に移動可能な前記摩擦部材を設け、前記摩擦部材を軸方向に押圧することによって前記摩擦部材と前記段部との間に摩擦抵抗を生じさせて、前記静止系部材に対して前記ステアリングシャフトを回り止めする構成とするのが好ましい。
【0018】
ステアリングシャフトに段部を形成した上記の構成においては、
前記摩擦部材が軸方向に複数並んで設けられており、前記小径部に前記段部に当接し前記ステアリングシャフトに対し軸周りに回転不能かつ軸方向に移動不能な固定摩擦部材を設けた構成とするのが好ましい。
【0019】
ステアリングシャフトに段部を形成した上記の構成においては、
前記回転直動変換機構が、ウォームと、前記ウォームによって軸周りに回転するウォームホイールと、前記摩擦部材を軸方向に押圧可能なプレッシャカムと、前記ウォームホイールと前記プレッシャカムの対向する面にそれぞれ形成されたカム溝に収容されたボールとを有するボールカム機構であって、前記ウォームを一方向に動作して前記ウォームホイールを周方向の一方向に相対回転させることで前記摩擦部材を軸方向に押圧する一方で、前記ウォームを他方向に動作して前記ウォームホイールを周方向の他方向に相対回転させることで前記摩擦部材の押圧を解除する構成とするのが好ましい。
【0020】
モータでウォームを駆動する上記の構成においては、
前記摩擦部材が軸方向に押圧された際に前記ウォームを駆動するモータがストール状態であることをその電流値から検知し前記ステアリングホイールが回転不能となったことを判定する構成とするのが好ましい。
【0021】
上記のすべての構成においては、
前記ステアリングシャフトと前記摩擦部材が同一の軸上に配置されている、または、前記ステアリングシャフトと前記摩擦部材が異なる軸上に配置されているいずれの構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0022】
この発明のステアリング装置は、上記の構成を採用したことにより、簡便かつコンパクトな機構により、ステアリングホイールが左右方向のいずれの方向への操作によってストロークエンドに到達したときでも、ステアリングホイールを通じて運転者がそのことを確実に感知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明に係るステアバイワイヤ方式のステアリング装置の第一実施形態を模式的に示す図
図2図1に示すステアリング装置の要部を示す断面図
図3図1に示すステアリング装置のさらに要部を示す断面図
図4図3中のIV-IV線に沿う断面図
図5図3中のV-V線に沿う断面図
図6図3中のVI-VI線に沿う断面図
図7図6中のVII-VII線に沿う断面図であって、(a)は非動作状態、(b)は動作状態
図8図1に示すステアリング装置の第一変形例の要部を示す断面図
図9図1に示すステアリング装置の第二変形例の要部を示す断面図
図10図9中のX-X線に沿う断面図
図11図1に示すステアリング装置の第三変形例の要部を示す断面図
図12図1に示すステアリング装置の第四変形例を模式的に示す図
図13図12に示すステアリング装置の要部を示す断面図
図14】この発明に係るステアバイワイヤ方式のステアリング装置の第二実施形態の要部を示す断面図
図15図14中のXV-XV線に沿う断面図
図16図14に示すステアリング装置の動作状態を示す断面図
図17】この発明に係るステアバイワイヤ方式のステアリング装置の第三実施形態の要部を示す断面図
図18図17中のXVIII-XVIII線に沿う断面図
図19図17中のXIX-XIX線に沿う断面図
図20図17に示すステアリング装置の変形例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明に係るステアバイワイヤ方式のステアリング装置の第一実施形態を図1から図7に基づいて説明する。このステアリング装置は、運転者によるステアリングホイール1の操作量を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータ2を制御することで、転舵部3としての左右一対の転舵輪の向きを変化させるステアバイワイヤ方式のステアリング装置である。
【0025】
図1から図3に示すように、このステアリング装置は、運転者により回転操作されるステアリングホイール1と、ステアリングホイール1に接続されたステアリングシャフト4と、ステアリングホイール1の操作量を検出する操舵センサ5と、操舵センサ5の検出量に応じて転舵部3の向きを変化させる転舵アクチュエータ2と、ステアリングホイール1の操作に基づいてこのステアリングホイール1に操舵反力を与える反力モータ6と、を備え、ステアリングシャフト4とともに回転する軸体としての後述する内輪7に設けられる摩擦部材8と、軸周りの回転運動を軸方向の直線運動に変換し、その直線運動に伴って摩擦部材8を軸方向に押圧することによってこの摩擦部材8に摩擦抵抗を生じさせて、静止系部材9に対してステアリングシャフト4を回り止めする回転直動変換機構10と、を有することを特徴としている。
【0026】
このステアリング装置は、転舵部3の転舵量を検出する転舵センサ11、車速などの走行データを取得する外部センサ12、制御部13を有している。操舵センサ5、転舵センサ11、外部センサ12などで取得された各種データは制御部13に集められ、その各種データに基づいて、転舵アクチュエータ2、反力モータ6、回転直動変換機構10などの制御が行われる。
【0027】
ステアリングシャフト4は、ステアリングホイール1を回転操作したときに、ステアリングホイール1と一体に回転するようにステアリングホイール1に接続されている。ステアリングシャフト4の下端には反力モータ6が接続されている。反力モータ6の下側には、回転直動変換機構10と電磁クラッチ14を収容する静止系部材9としてのケース(以下、静止系部材9と同じ符号を付する。)が設けられている。
【0028】
ケース9の中には、内輪7が設けられている。内輪7の軸心には、反力モータ6のモータ軸15がスプライン嵌合している。内輪7の外径は、軸方向位置によって段階的に変化しており、内輪7の上部側(ステアリングシャフト4に近い側)の外径は大きく(以下、その外径部分を大外径部という。)、下部側の外径は小さく(以下、その外径部分を小外径部という。)、上部側と下部側の間の外径はその中間の大きさとなっている(以下、その外径部分を中外径部という。)。大外径部と小外径部には軸受16、17が設けられており、内輪7はケース9に対して軸周りに回転可能となっている。
【0029】
内輪7の中外径部の外周には、軸方向に沿って延びる内輪溝18が複数本形成されている。また、中外径部と対向するケース9の内周には、軸方向に沿って延びるケース溝19が複数本形成されている。
【0030】
摩擦部材8は、中央に貫通孔を有する円板状の第一摩擦部材20と第二摩擦部材21とを有する。第一摩擦部材20と第二摩擦部材21は、軸方向にそれぞれ複数交互に並んで設けられている。図4に示すように、第一摩擦部材20の内周には、第一突起22が複数形成されており、この第一突起22が内輪7の中外径部の外周に形成された内輪溝18に嵌まっている。第一摩擦部材20は、内輪7に対し軸方向に移動可能かつ回転不能となっている。
【0031】
図5に示すように、第二摩擦部材21の外周には、第二突起23が複数形成されており、この第二突起23がケース9の内周に形成されたケース溝19に嵌まっている。第二摩擦部材21は、ケース9に対し軸方向に移動可能かつ回転不能となっている。
【0032】
大外径部と中外径部との間の段差部分には、当て板24が設けられている。当て板24の外周には、第二摩擦部材21と同様に突起25が複数形成されており、この突起25がケース9の内周に形成されたケース溝19に嵌まっている。また、当て板24の外周は、内輪7(大外径部)とケース9の間に設けられた軸受16の外輪に当接しており、当て板24が、軸受16側に軸方向移動するのを規制している。
【0033】
回転直動変換機構10は、摩擦カム26と、摩擦部材8(第一摩擦部材20、第二摩擦部材21)を軸方向に押圧可能なステアリングシャフト4とともに軸周りに回転するプレッシャカム27と、摩擦カム26とプレッシャカム27の対向する面にそれぞれ形成されたカム溝28に収容されたボール29と、を有するボールカム機構(以下、回転直動変換機構10と同じ符号を付する。)である。摩擦カム26は、内輪7の外周に設けられた止め輪30によって、軸方向の移動量が所定の範囲内に規制されている。図6に示すように、カム溝28は、周方向の3か所に形成されている。カム溝28の数は、適宜変更することが可能である。
【0034】
図7(a)に示すように、ボール29は摩擦カム26とプレッシャカム27にそれぞれ形成されたカム溝28の底に位置しているが、図7(b)に示すように、摩擦カム26とプレッシャカム27が周方向に相対回転すると、ボール29がカム溝28の周方向斜面を転動し、摩擦カム26とプレッシャカム27が離間するように軸方向に相対移動する。
【0035】
ボールカム機構10の下方には電磁クラッチ14が設けられている。この電磁クラッチ14は、ボールカム機構10を制動する機能を有し、電磁石31と、ボールカム機構10の摩擦カム26を兼ねるアーマチュア32と、離反ばね33と、を備えている。この実施形態においては、アーマチュア32と摩擦カム26を一体の部材としたが、軸周りに一体に回転する別部材とすることもできる。
【0036】
電磁石31は、筒状の内筒部34と内筒部34よりも大径の外筒部35を備えた周方向断面がC字形をなすフィールドコア36と、フィールドコア36の内筒部34と外筒部35の間に巻回されたソレノイドコイル37とを有している。電磁石31は、回り止め突起38によってケース9に対して回り止めされるとともに、止め輪39によってケース9から抜け止めされている。
【0037】
アーマチュア32は、中央に貫通孔が形成された磁性体からなる円板状の部材である。アーマチュア32は、フィールドコア36の開口側端部に軸方向から臨むように配置される。アーマチュア32のフィールドコア36に臨む面には周溝が形成されており、この周溝に離反ばね33が設けられている。離反ばね33は、フィールドコア36の内筒部34に当接して、アーマチュア32をフィールドコア36から離れる方向に付勢している。
【0038】
第一実施形態に係るステアリング装置の作用について説明する。運転者によりステアリングホイール1が回転操作されると、ステアリングホイール1に接続されたステアリングシャフト4がともに軸周りに回転し、その回転量が操舵センサ5によって検出される。操舵センサ5から操舵量に関するデータを受けた制御部13は、そのデータに基づいて転舵アクチュエータ2および反力モータ6に対して制御信号を送る。これにより、転舵部3の向きが変化するとともに、ステアリングシャフト4に操舵反力が与えられる。
【0039】
通常の操舵時(転舵部3がストロークエンドに到達していないとき)は、電磁クラッチ14は通電しておらず、離反ばね33の付勢力によってフィールドコア36とアーマチュア32は離間している。このため、アーマチュア32に一体とされた摩擦カム26とプレッシャカム27は、ステアリングホイール1の操作(内輪7の回転)に伴って軸周りに共回りする。
【0040】
このとき、図7(a)に示したように、ボール29はカム溝28の底に位置し、摩擦カム26とプレッシャカム27は軸方向に互いに接近しているため、プレッシャカム27から摩擦部材8に軸方向の力は作用しない。このため、第一摩擦部材20と第二摩擦部材21との間には摩擦力が作用せず、内輪7を軸周りに自由に回転することができ、運転者にはステアリングホイール1を介して反力モータ6からの操舵反力が直接伝わる。
【0041】
その一方で、運転者のステアリング操作によって転舵部3がストロークエンドに到達したことを制御部13が検知すると、制御部13の制御によって電磁クラッチ14が通電する。すると、離反ばね33の付勢力に抗して電磁石31のフィールドコア36にアーマチュア32が吸着され、フィールドコア36とアーマチュア32との間の摩擦力によってアーマチュア32の軸周りの回転が阻止される。これにより、アーマチュア32に一体とされた摩擦カム26の軸周りの回転も阻止され、摩擦カム26とプレッシャカム27は、ステアリングホイール1の操作(内輪7の回転)に伴って軸周りに相対回転する。
【0042】
このとき、図7(b)に示したように、ボール29がカム溝28の周方向斜面を転動し、摩擦カム26とプレッシャカム27が離間するように軸方向に相対移動する。この相対移動に伴ってプレッシャカム27が摩擦部材8を軸方向に押圧する。これにより、第一摩擦部材20と第二摩擦部材21との間に摩擦力が作用して内輪7の回転が規制され、ステアリングホイール1がロックされた状態となる。また、転舵部3がストロークエンドに到達していないときでも、電磁クラッチ14に通電することによって、任意の転舵状態でステアリングホイール1をロックすることもできる。
【0043】
さらに、運転者のステアリング操作によってステアリングホイール1がストロークエンドと逆方向に操作されたことを制御部13が検知すると、制御部13の制御によって電磁クラッチ14の通電が解除される。すると、離反ばね33の付勢力によってフィールドコア36へのアーマチュア32の吸着が解除され、アーマチュア32に一体とされた摩擦カム26がプレッシャカム27とともに軸周りに回転可能となる。これにより、図7(a)に示したように、ボール29はカム溝28の底に戻り、摩擦カム26とプレッシャカム27が軸方向に互いに接近した状態となるため、第一摩擦部材20と第二摩擦部材21との間の摩擦力が解消し、内輪7を軸周りに自由に回転することができるようになる。
【0044】
上記のステアリング装置においては、転舵部3の向きがストロークエンドに達したときなどに回転直動変換機構10(ボールカム機構10)を作動させて摩擦部材8に摩擦を生じさせることにより、確実にステアリングホイール1の回転をロックすることができる。このため、運転者が、転舵部3の向きがストロークエンドに到達したことなどを、ステアリングホイール1を通じて確実に感知することができ、そのままステアリングホイール1の回転操作を継続してしまうのを防止することができる。
【0045】
上記のステアリング装置においては、摩擦部材8として複数の第一摩擦部材20および第二摩擦部材21を軸方向にそれぞれ複数交互に並べた構成としたが、摩擦部材8に要求される摩擦トルクが小さい場合は、図8に第一実施形態の第一変形例として示すように、第一摩擦部材20および第二摩擦部材21を軸方向にそれぞれ1枚ずつ並べた構成とすることもできる。この第一変形例においても、図2に示すステアリング装置と同様の作用が発揮される。
【0046】
上記のステアリング装置においては、ケース9の内周にケース溝19を形成した構成としたが、図9および図10に第一実施形態の第二変形例として示すように、内輪7の外周側にケース9とは別部材としての外輪40を設け、外輪40の内周に軸方向に沿って伸びる外輪溝41が複数本形成されている構成とすることもできる。外輪40は、ケース9に嵌め込まれている。外輪40の外周とケース9の内周には、それぞれキー溝が形成されている。このキー溝に共通のキー部材42を嵌め込むことによって、ケース9に対して外輪40が回り止めされる。ケース9の内周には止め輪43が設けられており、この止め輪43が外輪40の軸方向端部に当接することによって、外輪40がケース9から抜け出すのを防止している。
【0047】
この構成においては、第二摩擦部材21の外周に形成された第二突起23が外輪40の内周に形成された外輪溝41に嵌っており、第二摩擦部材21は、外輪40に対し軸方向に移動可能かつ回転不能となっている。また、当て板24の外周に形成された突起25が外輪溝41に嵌っており、当て板24の外周が内輪7(大外径部)と外輪40の間に設けられた軸受16の外輪に当接することにより、当て板24が、軸受16側に軸方向移動するのを規制している。この第二変形例においても、図2に示すステアリング装置と同様の作用が発揮される。
【0048】
上記のステアリング装置においては、ステアリングシャフト4と、摩擦部材8、回転直動変換機構10、および、反力モータ6とを同一の軸上に配置した構成としたが、図11に第一実施形態の第三変形例として示すように、ステアリングシャフト4と、摩擦部材8、回転直動変換機構10、および、反力モータ6とを異なる軸上に配置した上で、ギア44を介して動力伝達する構成とすることもできる。この第三変形例によると、図2に示すステアリング装置と同様の作用を発揮しつつ、その軸方向長さをコンパクト化することが可能となる。
【0049】
上記のステアリング装置においては、摩擦部材8、回転直動変換機構10、および、電磁クラッチ14を反力モータ6のステアリングホイール1とは反対側に配置した構成としたが、図12および図13に第一実施形態の第四変形例として示すように、摩擦部材8、回転直動変換機構10、および、電磁クラッチ14を反力モータ6とステアリングホイール1の間に配置することもできる。この第四変形例においても、図2に示すステアリング装置と同様の作用が発揮される。
【0050】
この発明に係るステアバイワイヤ方式のステアリング装置の第二実施形態を図14から図16に基づいて説明する。このステアリング装置は、第一実施形態に係るステアリング装置と基本的な構成は共通するが、ボールカム機構10の摩擦カム26の軸周りの回転を規制するための機構が異なっている。以下、その異なる部分についてのみ説明する。
【0051】
第二実施形態に係るステアリング装置は、第一実施形態における電磁クラッチ14の代わりに、ボールカム機構10の摩擦カム26に摩擦力を与えるための摩擦抵抗部材45が設けられている。この摩擦抵抗部材45は、摩擦カム26の外周に沿う半円弧状の一対の摩擦リング46と、モータ47によって駆動されるウォーム48と、ウォーム48によって軸周りに回転するウォームホイール49と、ウォームホイール49とともに軸周りに回転する円板状のスイッチ板50と、ウォームホイール49(スイッチ板50)側に設けられた第一固定部51としてのスイッチ板突起(以下、第一固定部51と同じ符号を付する。)と、ケース溝19の内周に嵌合された固定板52に設けられた第二固定部53としてのピン(以下、第二固定部53と同じ符号を付する。)と、を有している。
【0052】
摩擦リング46の周方向の一端には径方向外向きに屈曲するスイッチ板突起係止部54が、他端には径方向外向きに巻回されたピン係止部55がそれぞれ形成されている。摩擦リング46の内周面と摩擦カム26の外周面の少なくとも一方には、必要に応じて摩擦リング46と摩擦カム26との間の摩擦抵抗を向上させるための表面処理(コーティング膜形成処理や粗面化処理など)が施される。
【0053】
内輪7の外周面とウォームホイール49の内周面との間には軸受56が設けられており、内輪7とウォームホイール49は軸周りに相対回転可能となっている。スイッチ板50、軸受56、および、摩擦リング46は、内輪7の小外径部に設けられた止め輪57、58によって所定の軸方向位置に保持されている。
【0054】
スイッチ板50の表面外周縁の周方向180度の対向2か所には、固定板52に向かうようにスイッチ板突起51が形成されている。スイッチ板突起51には、スリット状の隙間が形成されている。また、ピン53は、固定板52の周方向180度の対向位置に、スイッチ板50に向かうように2か所設けられている。スイッチ板突起係止部54はスイッチ板突起51の隙間に挿入される一方で、ピン53はピン係止部55に挿入される。
【0055】
第二実施形態に係るステアリング装置の作用について説明する。摩擦抵抗部材45の非動作時においては、スイッチ板突起51とピン53は図15に示す周方向位置関係となっている。このとき、摩擦カム26の外周面と摩擦リング46の内周面との間に隙間が生じた状態となり、摩擦カム26と摩擦リング46の間で摩擦が生じないため、摩擦カム26とプレッシャカム27は、ステアリングホイール1の操作(内輪7の回転)に伴って軸周りに共回りする。
【0056】
このとき、図7(a)に示したように、ボール29はカム溝28の底に位置し、摩擦カム26とプレッシャカム27は軸方向に互いに接近しているため、プレッシャカム27から摩擦部材8に軸方向の力は作用しない。このため、第一摩擦部材20と第二摩擦部材21との間には摩擦力が作用せず、内輪7を軸周りに自由に回転することができ、運転者にはステアリングホイール1を介して反力モータ6からの操舵反力が直接伝わる。
【0057】
その一方で、運転者のステアリング操作によって転舵部3がストロークエンドに到達したことを制御部13が検知すると、制御部13の制御によってモータ47が駆動し、ウォーム48によってウォームホイール49とスイッチ板50が軸周りに回転する(図16中の反時計回りの矢印を参照)。その一方で、ピン53は静止系部材9であるケース9に嵌合した固定板52に固定されているため、スイッチ板突起51はピン53と離間するように周方向に相対移動する。このとき、摩擦リング46はピン53を支点として回転し、摩擦カム26の外周面と摩擦リング46の内周面が接触して摩擦抵抗が生じ、摩擦カム26の軸周りの回転が阻止され、摩擦カム26とプレッシャカム27は、ステアリングホイール1の操作(内輪7の回転)に伴って軸周りに相対回転する。
【0058】
このとき、図7(b)に示したように、ボール29がカム溝28の周方向斜面を転動し、摩擦カム26とプレッシャカム27が離間するように軸方向に相対移動する。この相対移動に伴ってプレッシャカム27が摩擦部材8を軸方向に押圧する。これにより、第一摩擦部材20と第二摩擦部材21との間に摩擦力が作用して内輪7の回転が規制され、ステアリングホイール1がロックされた状態となる。また、転舵部3がストロークエンドに到達していないときでも、モータ47を駆動することによって、任意の転舵状態でステアリングホイール1をロックすることもできる。
【0059】
さらに、運転者のステアリング操作によってステアリングホイール1がストロークエンドと逆方向に操作されたことを制御部13が検知すると、制御部13の制御によってウォーム48が逆方向に駆動され、ウォームホイール49およびスイッチ板50が軸周りの逆方向に回転する。すると、摩擦リング46が摩擦カム26から離れた状態となり、摩擦リング46と摩擦カム26の間の摩擦抵抗が解消し、摩擦カム26がプレッシャカム27とともに軸周りに回転可能となる。これにより、図7(a)に示したように、ボール29はカム溝28の底に戻り、摩擦カム26とプレッシャカム27が軸方向に互いに接近した状態となるため、第一摩擦部材20と第二摩擦部材21との間の摩擦力が解消し、内輪7を軸周りに自由に回転することができるようになる。
【0060】
第二実施形態に係るステアリング装置において採用したウォーム48とウォームホイール49を有する機構は逆効率が低く、ウォームホイール49側からウォーム48を動作させることは難しいという特性を有する。この特性を利用することによって、ウォーム48を駆動するモータ47への通電を停止した後も摩擦抵抗が生じた状態を維持することができ、その状態を維持するための電力消費を抑制することができる。さらに、イグニッションをオフ状態とするタイミングで摩擦抵抗部材45を作動させることにより、オフ状態とした後も摩擦抵抗状態を維持してハンドルロック機能をもたせることができる。
【0061】
この発明に係るステアバイワイヤ方式のステアリング装置の第三実施形態を図17から図19に基づいて説明する。このステアリング装置は、第一実施形態に係るステアリング装置と同様に、ステアリングシャフト4とともに軸周りに回転する摩擦部材8と、軸周りの回転運動を軸方向の直線運動に変換し、その直線運動に伴って摩擦部材8を軸方向に押圧することによってこの摩擦部材8に摩擦抵抗を生じさせて、静止系部材9に対してステアリングシャフト4を回り止めする回転直動変換機構10と、を有することを特徴としている。
【0062】
ステアリングシャフト4は、ステアリングホイール1を回転操作したときに、ステアリングホイール1と一体に回転するようにステアリングホイール1に接続されている。ステアリングシャフト4には反力モータ(図示せず)が接続されており、この反力モータからステアリングシャフト4に操舵反力が与えられる。
【0063】
ステアリングシャフト4には、直径が相対的に大きい大径部から相対的に小さい小径部に不連続に変化する段部59が形成されている。小径部には、二面幅部60が形成されている。小径部には、中央に二面幅部60の形状に対応する貫通孔が形成された円板状の複数の摩擦部材8が軸方向に並んで設けられている。この摩擦部材8は、ステアリングシャフト4に対し軸周りに回転不能かつ軸方向に移動可能となっている。また、ステアリングシャフト4の段部59には、中央に摩擦部材8に形成された貫通孔と同形状の貫通孔が形成され、ステアリングシャフト4に対し軸周りに回転不能かつ軸方向に移動不能とされた円板状の固定摩擦部材61が設けられている。
【0064】
回転直動変換機構10は、モータ47によって駆動されるウォーム48と、ウォーム48によって軸周りに回転するウォームホイール49と、ウォームホイール49と軸方向に対向して設けられ、摩擦部材8を軸方向に押圧可能なプレッシャカム27と、ウォームホイール49とプレッシャカム27の対向する面にそれぞれ形成されたカム溝28に収容されたボール29とを有するボールカム機構10である。ウォームホイール49とケース9の間には軸受62が設けられており、ウォームホイール49とケース9は軸周りに相対回転可能となっている。また、プレッシャカム27は、ステアリングシャフト4に対し軸周りに相対回転不能かつ軸方向に相対移動可能となっている。
【0065】
ボールカム機構10のプレッシャカム27と摩擦部材8との間には、押圧部材63が設けられている。この押圧部材63は、その中心に形成された貫通孔にプレッシャカム27の小径部が挿入されており、プレッシャカム27に対し軸方向に相対移動可能となっている。また、プレッシャカム27と押圧部材63の間にはスラストニードル軸受64が設けられており、プレッシャカム27と押圧部材63は軸周りに相対回転可能となっている。また、摩擦部材8と押圧部材63の間には、摩擦部材8と押圧部材63を離間する方向に付勢する弾性部材65が設けられている。
【0066】
第三実施形態に係るステアリング装置の作用について説明する。通常の操舵時(転舵部3がストロークエンドに到達していないとき)は、ボールカム機構10のボール29はウォームホイール49とプレッシャカム27に形成されたカム溝28の底に位置し、ウォームホイール49とプレッシャカム27は軸方向に互いに接近しているため、プレッシャカム27から摩擦部材8に軸方向の力は作用しない。このため、運転者のステアリング操作に伴って摩擦部材8および固定摩擦部材61はステアリングシャフト4とともに軸周りに自由に回転することができ、運転者にはステアリングホイール1を介して反力モータからの操舵反力が直接伝わる。
【0067】
その一方で、運転者のステアリング操作によって転舵部3がストロークエンドに到達すると、モータ47が駆動し、ウォーム48によってウォームホイール49が軸周りに回転する。すると、ウォームホイール49とステアリングシャフト4に対して回り止めされたプレッシャカム27との間で相対回転が生じ、ボール29がカム溝28の周方向斜面を転動し、ウォームホイール49とプレッシャカム27が離間するように軸方向に相対移動する。この相対移動に伴って、プレッシャカム27がスラストニードル軸受64および押圧部材63を介して弾性部材65の付勢力に抗して摩擦部材8を軸方向に押圧する。これにより、固定摩擦部材61を介してステアリングシャフト4に対する軸方向の押し付け力が作用してこのステアリングシャフト4の軸周りの回転が阻止され、ステアリングホイール1をロック状態とすることができる。また、転舵部3がストロークエンドに到達していないときでも、モータ47を駆動することによって、任意の転舵状態でステアリングホイール1をロックすることもできる。
【0068】
摩擦部材8が軸方向に押圧された状態においては、ウォーム48を駆動するモータ47がストール状態となるため、そのことをモータ47の電流値から検知することによって、ステアリングホイール1が回転不能になったことを判定することができる。
【0069】
さらに、運転者のステアリング操作によってステアリングホイール1がストロークエンドと逆方向に操作されるとウォーム48が逆方向に駆動され、ウォームホイール49が軸周りの逆方向に回転する。すると、弾性部材65の付勢力によってボール29はカム溝28の底に戻り、プレッシャカム27とウォームホイール49が軸方向に互いに接近した状態となるため、摩擦部材8からのステアリングシャフト4に対する軸方向の押し付け力が解消し、ステアリングシャフト4を軸周りに自由に回転することができるようになる。
【0070】
第三実施形態に係るステアリング装置において採用したウォーム48とウォームホイール49を有する機構は逆効率が低く、ウォームホイール49側からウォーム48を動作させることは難しいという特性を有する。この特性を利用することによって、ウォーム48を駆動するモータ47への通電を停止した後も押し付け力が生じた状態を維持することができ、その状態を維持するための電力消費を抑制することができる。さらに、イグニッションをオフ状態とするタイミングでモータ47を作動させることにより、オフ状態とした後も押し付け力を維持してハンドルロック機能をもたせることができる。
【0071】
第三実施形態に係るステアリング装置においては、回転直動変換機構10としてボールカム機構10を採用したが、面同士を接触させるフェースカム機構を採用することもできる。
【0072】
第三実施形態に係るステアリング装置においては、ステアリングシャフト4に二面幅部60を形成して摩擦部材8を軸周りに相対回転不能としたが、図20に第三実施形態の変形例として示すように、ステアリングシャフト4と、摩擦部材8、固定摩擦部材61、および、プレッシャカム27との間をスプライン嵌合させることによってステアリングシャフト4に対し軸周りに相対回転不能かつ軸方向に相対移動可能とすることもできる。
【0073】
上記の各実施形態においては、車両用のステアリング装置を例示したが、例えば、転舵部3として舵を備えた船舶用のステアリング装置に適用することも可能である。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
1 ステアリングホイール
4 ステアリングシャフト
6 反力モータ
8 摩擦部材
9 静止系部材(ケース)
10 回転直動変換機構(ボールカム機構)
14 電磁クラッチ
20 第一摩擦部材
21 第二摩擦部材
26 摩擦カム
27 プレッシャカム
28 カム溝
29 ボール
46 摩擦リング
47 モータ
48 ウォーム
49 ウォームホイール
51 第一固定部(スイッチ板突起)
53 第二固定部(ピン)
59 段部
61 固定摩擦部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20