(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034647
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】レールの削正方法の選定方法および削正方法選定システム
(51)【国際特許分類】
E01B 31/17 20060101AFI20240306BHJP
E01B 35/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
E01B31/17
E01B35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139038
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】梶原 和博
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 爽
(72)【発明者】
【氏名】清水 惇
【テーマコード(参考)】
2D057
【Fターム(参考)】
2D057BA24
2D057BA26
(57)【要約】
【課題】レール断面形状データの測定精度の影響を受けにくいレール断面形状の分類方法と、これによって既存の削正パターンの中で最適なパターンを選定する方法によって、レール削正作業の最適化及び効率化を図るレール削正方法の選定方法およびレール削正方法の選定システムを提供する。
【解決手段】少なくともレール横断面方向の輪郭形状を計測する輪郭形状計測工程と、前記レール横断面方向の輪郭形状の設計値を取得する設計値取得工程と、前記輪郭形状計測工程で計測した輪郭形状と、前記設計値とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、前記輪郭形状と前記設計値の設計差分面積を算出する設計差分面積算出工程と、前記設計差分面積から断面形状の評価指数を求め、当該評価指数に対応した削正パターンを選定する削正パターン選定工程を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともレール横断面方向の輪郭形状を計測する輪郭形状計測工程と、
前記レール横断面方向の輪郭形状の設計値を取得する設計値取得工程と、
前記輪郭形状計測工程で計測した輪郭形状と、前記設計値とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
前記輪郭形状と前記設計値の設計差分面積を算出する設計差分面積算出工程と、
前記設計差分面積から断面形状の評価指数を求め、当該評価指数に対応した削正パターンを選定する削正パターン選定工程を有することを特徴とするレール削正方法の選定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレール削正方法の選定方法において、
前記輪郭形状計測工程は、レールの横断面の中心位置よりもフィールドコーナ側又はゲージコーナ側の少なくとも何れか一方の範囲に含まれるレール頭部の形状データを抽出する抽出工程を備えることを特徴とするレール削正方法の選定方法。
【請求項3】
請求項2に記載のレール削正方法の選定方法において、
前記抽出工程は、抽出したレール頭部形状データのサンプリング数が所定の閾値よりも少ない場合、又は、前記レール頭部の形状データが所定の閾値を上回る場合には、当該レール頭部形状データを分析対象から棄却する棄却工程を有することを特徴とするレール削正方法の選定方法。
【請求項4】
請求項1に記載のレール削正方法の選定方法において、
前記輪郭形状計測工程及び前記設計値取得工程は、計測した輪郭形状および設計値をレール横断面方向に等間隔となるようにリサンプリング処理を行うリサンプリング処理工程を備えることを特徴とするレール削正方法の選定方法。
【請求項5】
請求項1に記載のレール削正方法の選定方法において、
前記削正パターン選定工程は、レール頭部形状をレールの高さ方向に直交する直線形状であると仮定した場合の前記設計値との差分面積である設計差分面積最大値を算出し、前記設計差分面積を前記設計差分面積最大値で除して正規化する正規化工程を有することを特徴とするレール削正方法の選定方法。
【請求項6】
少なくともレール横断面方向の輪郭形状を計測する輪郭形状計測手段と、
前記レール横断面方向の輪郭形状の設計値を取得する設計値取得手段と、
前記輪郭形状計測手段で計測した輪郭形状と、前記設計値とを重ね合わせる重ね合わせ手段と、
前記輪郭形状と前記設計値の設計差分面積を算出する設計差分面積算出手段と、
前記設計差分面積から断面形状の評価指数を求め、当該評価指数に対応した削正パターンを選定する削正パターン選定手段を有することを特徴とするレール削正方法の選定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道検測車等の車上や地上に設置した測定装置などによって取得したレール断面形状を用いて当該断面形状に則したレールの削正方法を選定することができるレール削正方法の選定方法および削正方法選定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道事業者では、レールの損傷発生の防止の観点から、レールの疲労層除去を目的として、また、振動・騒音の低減の観点からレール波状摩耗やレール溶接部等の凹凸除去を目的として、定期的にレール削正車によるレール削正作業を実施している。このようなレール削正作業は、種々の手段が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているレール削正作業は、レール削正車に設置したセンサによりレール頭頂部の輪郭を測定し、削正前の輪郭に応じて研削量を設定するに当たり、削正後の輪郭を考慮することで、最終的な輪郭を目標とするものへ正確に収束させるために削正パターンを自動的に修正している。
【0004】
また、特許文献2に記載されているレール削正作業は、レール削正車に搭載した測定装置によりレールの断面形状を取得し、レールの断面形状に応じて削正車による削正パターンを自動生成している。
【0005】
また、特許文献3に記載されているレール削正作業は、レール探傷車両に搭載した測定装置により取得したレール断面形状のデータをコンピュータに入力し、その入力データに基づいて削正パターンを自動で生成し、さらにレール削正指示書を出力し、その指示書に基づいてレールの削正作業を行っている。
【0006】
また、特許文献4に記載されているレール削正作業は、地上の定位置に固定された測定器により一定区間のレール頭頂面形状を測定し、前記測定データから削正後の頭頂面形状と、その頭頂面形状を実現するための削正量分布と、削正量分布を実現するための規則性にしたがった削正パターン及びそのスケジュールとを算出し、算出した削正パターンのスケジュールにしたがって削正車による削正作業を実行している。
【0007】
また、特許文献5に記載されているレール削正作業は、地上あるいは車上で測定されたレール凹凸の連続データから、一定区間毎に平均的なレール凹凸の大きさを算定し、レール削正の区間の決定と波状摩耗による凹凸量のクラス分けを行い、これにより、波状摩耗の発生状況に応じて、区間毎にレール削正のパス数を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭60-030802号公報
【特許文献2】特開平03-103502号公報
【特許文献3】特開2001-317930号公報
【特許文献4】特開2014-074286号公報
【特許文献5】特開2017-133153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように従来のレール削正作業では、鉄道事業者等が保有する複数の削正パターン(削正砥石の角度、削正砥石の押し付け圧力、削正車の移動速度、削正パス数の組合せ)の中からひとつを選択し、一定区間のレールを一律に削正することが行われるが、レール波状摩耗等の凹凸の程度によって必要な削正量が異なり、削正パターンとレール断面形状の組み合わせによってはレール削正によって得られる削正量が低下する場合がある。その結果、過度な削正による経済的な損失の問題や、必要なレール頭頂面の削正量が得られず、疲労層が除去しきれない、あるいはレール凹凸を除去しきれないなどのレール保守上の問題が生じるため、レール断面形状に応じて区間毎に最適な削正パターンを適用することが望ましい。
【0010】
この点において、特許文献1に記載されたレール削正方法は、レールの削正時にレールの断面形状を考慮して削正パターンを自動的に修正するものであり、レール削正の計画段階から削正パターンを最適化することは困難であるという問題があった。また、特許文献2及び3に記載されたレール削正方法は、レール削正車やレール探傷車両に搭載した測定装置で取得したレール断面形状データから削正パターンを含む最適なレール削正計画を自動で作成するものであるが、車両の走行に伴う振動等の影響のためにレール削正に必要な精度のレール断面形状に関するデータが得られない場合があるという問題があった。また、特許文献4に記載されたレール削正方法は、レール削正区間の地上の定位置において、固定された測定器でレール断面形状を取得するものであるが、測定に労力を要するため,路線全体の評価に用いることが困難であるという問題があった。さらに、特許文献5に記載されたレール削正方法は、地上あるいは車上で測定されたレール凹凸の連続データからレール波状摩耗の除去に必要な削正パス数を決定することができるが、レールの断面形状を考慮していないため、扁平な断面形状を有するレールに対しては所定の削正量が得られずレール波状摩耗が残存する場合があるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、レール断面形状データの測定精度の影響を受けにくいレール断面形状の分類方法と、これによって既存の削正パターンの中で最適なパターンを選定する方法によって、レール削正作業の最適化及び効率化を図るレール削正方法の選定方法およびレール削正方法の選定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るレール削正方法の選定方法は、少なくともレール横断面方向の輪郭形状を計測する輪郭形状計測工程と、前記レール横断面方向の輪郭形状の設計値を取得する設計値取得工程と、前記輪郭形状計測工程で計測した輪郭形状と、前記設計値とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、前記輪郭形状と前記設計値の設計差分面積を算出する設計差分面積算出工程と、前記設計差分面積から断面形状の評価指数を求め、当該評価指数に対応した削正パターンを選定する削正パターン選定工程を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るレール削正方法の選定方法において、前記輪郭形状計測工程は、レールの横断面の中心位置よりもフィールドコーナ側又はゲージコーナ側の少なくとも何れか一方の範囲に含まれるレール頭部の形状データを抽出する抽出工程を備えると好適である。
【0014】
また、本発明に係るレール削正作業の選定方法において、前記抽出工程は、抽出したレール頭部形状データのサンプリング数が所定の閾値よりも少ない場合、又は、前記レール頭部の形状データが所定の閾値を上回る場合には、当該レール頭部形状データを分析対象から棄却する棄却工程を有すると好適である。
【0015】
また、本発明に係るレール削正作業の選定方法において、前記輪郭形状計測工程及び前記設計値取得工程は、計測した輪郭形状および設計値をレール横断面方向に等間隔となるようにリサンプリング処理を行うリサンプリング処理工程を備えると好適である。
【0016】
また、本発明に係るレール削正作業の選定方法において、前記削正パターン選定工程は、レール頭部形状をレールの高さ方向に直交する直線形状であると仮定した場合の前記設計値との差分面積である設計差分面積最大値を算出し、前記設計差分面積を前記設計差分面積最大値で除して正規化する正規化工程を有すると好適である。
【0017】
また、本発明に係るレール削正作業の選定システムは、少なくともレール横断面方向の輪郭形状を計測する輪郭形状計測手段と、前記レール横断面方向の輪郭形状の設計値を取得する設計値取得手段と、前記輪郭形状計測手段で計測した輪郭形状と、前記設計値とを重ね合わせる重ね合わせ手段と、前記輪郭形状と前記設計値の設計差分面積を算出する設計差分面積算出手段と、前記設計差分面積から断面形状の評価指数を求め、当該評価指数に対応した削正パターンを選定する削正パターン選定手段を有することを特徴とする。
【0018】
上記発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るレール削正形状の選定方法は、レール削正車によるレール削正を一律の削正パターンで実施している区間において、レール横断面形状の異なる区間が介在するために過剰な削正パス数を投じている区間が存在する場合、軌道検測車等に設置されたレール断面形状測定装置で取得したレール横断面形状の測定データに基づいて削正行程(削正パス数)の少ない削正パターンを適用可能な区間を抽出することで、レール削正計画の段階で区間全体の削正パス数を削減し、レール削正の施工延長を拡大することができる。加えて、削正パス数が不足している区間が存在する場合は、軌道検測車等に設置されたレール断面形状測定装置で取得したレール横断面形状の測定データに基づいて削正量の多い(削正パス数の多い)削正パターンの適用が必要な区間を抽出することで、レール頭頂面の削正量が不足する区間を減少させ、レールの疲労層を適切に除去することでレールの交換寿命の延伸やレールの折損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定システムの概要を示す図。
【
図2】本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定方法の概要を示すフロー図。
【
図3】本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定方法の重ね合わせ工程および差分面積の算出方法の例を説明するための図。
【
図4】本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定方法のレール削正パターンの選定に用いる閾値算出の概念図。
【
図5】本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定方法のレール削正パターンの選定方法の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定システムの概要を示す図であり、
図2は、本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定方法の概要を示すフロー図であり、
図3は、本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定方法の重ね合わせ工程および差分面積の算出方法の例を説明するための図であり、
図4は、本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定方法のレール削正パターンの選定に用いる閾値算出の概念図であり、
図5は、本発明の実施形態に係るレール削正方法の選定方法のレール削正パターンの選定方法の例を示す図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係るレール削正方法の選定システムは、軌道2上を走行する鉄道車両1に搭載される測定手段11と、測定手段11によって計測されたレール断面形状データや設計値を処理する処理手段12とを備えている。
【0024】
測定手段11は、従来周知のレール探傷車等と同様の方法によって測定を行うため、測定手段11については詳細な説明を省略するが、光学式測定装置、受光素子などを備えている。また、光学式測定装置などと同時に測定される鉄道車両1の走行速度に関するデータによって、距離に関する情報を含むように予めリサンプリングしたデータを用いても構わない。
【0025】
つぎに、本実施形態に係るレール削正方法の選定システムの動作について説明を行う。
図2に示すように、本実施形態に係るレール削正方法の選定方法は、少なくともレール横断面方向の輪郭形状を計測する輪郭形状計測工程(S101)と、レール横断面方向の輪郭形状の設計値を取得する設計値取得工程(S102)と、輪郭形状計測工程(S101)で計測した輪郭形状と、設計値とを重ね合わせる重ね合わせ工程(S103)と、輪郭形状と設計値の設計差分面積を算出する設計差分面積算出工程(S104)と、設計差分面積から断面形状の評価指数を求め、当該評価指数に対応した削正パターンを選定する削正パターン選定工程(S105)を有している。
【0026】
また、輪郭形状計測工程(S101)は、輪郭形状を計測する輪郭形状データ計測工程(S111)と、輪郭形状からレール頭部のデータを抽出する抽出工程(S112)と、抽出したデータから不要なデータを棄却する棄却工程(S113)と、計測した輪郭形状をレール横断面方向に等間隔となるようにリサンプリング処理を行うリサンプリング処理工程(S114)と、を有している。
【0027】
また、設計値取得工程(S102)は、設計値を取得する設計値データ取得工程(S121)と、取得した設計値をレール横断面方向に等間隔となるようにリサンプリング処理を行うリサンプリング処理工程(S122)と、を有している。
【0028】
また、削正パターン選定工程(S105)は、レール頭部形状をレールの高さ方向に直交する直線形状であると仮定した場合の設計値との差分面積である設計差分面積最大値を算出し、設計差分面積を設計差分面積最大値で除して設計差分面積比を求めて正規化する正規化工程(S131)と、正規化工程によって得られた設計差分面積比に応じて該当区間の削正パターンを選定するパターン選定工程(S132)を有している。
【0029】
本実施形態に係るレール削正方法の選定方法は、処理手段12によって行われると好適であり、処理手段12は、コンピュータなどの処理装置が好適に用いられる。処理装置は、当該処理プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、処理プログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、CPUの処理に必要なデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを備えている。また、処理装置は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力装置、CRT(Cathode-Ray-Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、プリンタなどの出力装置、通信インタフェイスなどを備えると好適である。
【0030】
このような処理装置は、計算機内に構築されたコンピュータシステムであると好適であり、このような計算機は、例えば、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ、タブレットコンピュータなどが好適に用いられ、記憶装置に記録されたアプリケーションソフトなどのプログラムに従って動作する計算機であれば種々の計算機を用いることができ、単独の計算機であってもよいし、複数台の計算機をネットワークなどで通信可能に接続したコンピュータ群を用いても構わない。
【0031】
輪郭形状データ計測工程(S111)は、軌道検測車等の鉄道車両1上に設置した測定手段11等を用いてレールの横断面方向の輪郭形状に関するデータ(以下、「レール断面形状データ」という)を取得する。なお,本実施形態に係るレール削正方法の選定方法に用いるレール断面形状データは、レールの全横断面(頭部、腹部および底部の全て)を含む必要はなく、レール頭部の横断面形状(以下、「レール頭部形状」という)を含んでいれば良い。ここで、鉄道車両1上(軌道検測車、レール削正車およびレール探傷車両)の測定手段11で取得されるレール断面形状データは、キロ程に関するデータと同期して収録されることに加えて、線路長手方向に長区間に渡ってレール断面形状を取得することが可能なため本実施形態に係るレール削正方法の選定方法に好適に用いられるが、小型かつ可搬型の接触式測定器やレーザ式測定器で取得したレール断面形状データを用いても構わない。また、レール断面形状データの計測は、鉄道車両1上に設置した測定手段11等による計測に限らず、例えば、地上の定位置に固定した小型かつ可搬型の測定器によって一定区間のレール断面形状を計測しても構わない。
【0032】
抽出工程(S112)は、輪郭形状データ計測工程(S111)で取得したレール断面形状データから、
図3に示すように、レール横断面の中心位置よりもフィールドコーナ側の範囲に含まれるレール頭部の形状データ(以下、「レール頭部形状データ」という)の抽出処理を行う。同様の処理をレール頭部形状データの設計形状に対しても行い,レール頭部形状データの設計値を抽出する。
【0033】
棄却工程(S113)は、抽出工程(S112)で抽出したレール頭部形状データにおいて、所定の条件のデータを棄却する。具体的には、欠測などによってデータのサンプリング数が少ない場合はレール頭部形状の評価が困難となることから、前述のレール頭部形状データのサンプリング数が閾値を下回る場合には、このようなレール頭部形状データは分析対象から棄却する。また、抽出工程(S112)で抽出したレール頭部形状データにおいて、レール頭部形状データに鉛直方向の変動が見られる場合は、実際のレール頭部形状以外の測定ノイズの影響を受けていると考えられる。このため、レール頭部形状データの一定範囲における変動(標準偏差)が所定の閾値を上回るデータは分析対象から棄却する。この場合の閾値については、測定環境などを考慮して適宜設定することが可能である。
【0034】
リサンプリング処理工程(S114)は、抽出工程(S112)で抽出したレール頭部形状データに対して、レール頭部形状データのデータプロットがレール横断面の幅方向に等距離間隔となるように、リサンプリング処理を行う。リサンプリング処理は、従来周知の種々の手法が適用可能であるが、例えば、線形内挿によるリサンプリング処理が好適に用いられる。
【0035】
設計値データ取得工程(S121)は、削正対象となるレールの設計時のレール横断面方向の輪郭形状の設計値に関わるデータを取得する。設計値の取得は、当該データを処理装置に読み込ませる他、数値の手入力などで行うことができる。
【0036】
リサンプリング処理工程(S122)は、上述した輪郭形状計測工程(S101)におけるリサンプリング処理工程(S114)と同様に設計値のレール頭部形状データに対して、レール頭部形状データのデータプロットがレール横断面の幅方向に等距離間隔となるように、リサンプリング処理を行う。
【0037】
重ね合わせ工程(S103)は、
図3に示すように、リサンプリング処理を行った計測形状および設計値の2つのレール頭部形状データに対して、両者の高さ方向の最大値同士およびレール頭側面の幅方向の位置同士を一致させることで、2つの形状データの重ね合わせ処理を行う。
【0038】
設計差分面積算出工程(S104)は、重ね合わせ工程(S103)で重ね合わせ処理を行った2つのレール頭部形状データに対して、両形状で囲まれる部分の面積(以下、「設計差分面積」という)を算出する。具体的には、
図3に示すように、重ね合わせたレール頭部形状データのうち、測定形状と設計形状とによって囲まれる部分の面積を算出する。なお、設計差分面積は、レール横断面の中心位置CLからレール頭部の側面(本実施形態においては、フィールドコーナ側)までの任意の範囲で定義することができるが、当該範囲は、測定ノイズの影響を受けにくい範囲で算出することが望ましい。例えば、JIS50kgNレールおよびJIS60kgレールの場合、設計差分面積の算出範囲は、設計レール横断面の中心位置からレール頭部の側面側に5mmから30mmの範囲内で設定すると好適である。これは、レール頭部形状データの側面側は、角部が円弧状となっていることから、面積の変化率が大きいことからノイズの影響を受けやすいので、設計差分面積の算出からは除外している。
【0039】
正規化工程(S131)は、重ね合わせ工程(S103)で重ね合わせ処理を行う際に、
図3に示すように、レール頭部形状をレールの高さ方向の最大値(y=0)の位置において、レールの高さ方向に直交する直線形状とみなした場合に得られる設計差分面積を「設計差分面積最大値」とし,「設計差分面積」を「設計差分面積最大値」で除すことで正規化した値(以下、「設計差分面積比」という)を算出する。本実施形態に係るレール削正方法の選定方法では、当該設計差分面積比をレール断面形状の評価指標として用いる。
【0040】
なお、後述する削正パターンの選定に用いる設計差分面積比の閾値は、実際に同じレール削正パターンでレール削正作業を行った際のレール削正量とレール削正前の設計差分面積比とは、
図4に示すように、設計差分面積比とこれに対応するレールの削正量の関係から設定することができることが発明者らの検討によって確認されている。したがって、レール削正を行う前に、レール削正量と設計差分面積比の関係を調べたうえで、例えば、疲労層除去に0.1mm、レール波状摩耗の波高が最大で0.2mmあり、合計で0.3mmのレール削正を行いたい場合には、レール削正量と設計差分面積比の関係から、設計差分面積比の閾値を0.4とすることができる。
【0041】
パターン選定工程(S132)は、正規化工程(S131)で算出した設計差分面積比の値に削正パターンを選定するための上述した閾値を設け、正規化工程(S131)で算出した設計差分面積比と,輪郭形状データ計測工程(S111)で取得した線路上のキロ程から、
図5に示すように、線路上の一定区間毎に既存の削正パターンの中から最適なパターンを選定する。具体的には、設計差分面積比の閾値よりも高い区間では、削正パス数の多い削正パターンAを選定し、設計差分面積比の閾値よりも低い区間については、削正パス数の少ない削正パターンBを選定することができる。
【0042】
このように、本実施形態に係るレール削正方法の選定方法によれば、レール削正車によるレール削正を一律の削正パターンで実施している区間において、レール横断面形状の異なる区間が介在するために過剰な削正パス数を投じている区間が存在する場合、本実施形態に係るレール削正方法の選定方法を用いることで、軌道検測車等で取得したレール横断面形状の測定データに基づいて削正行程(削正パス数)の少ない削正パターンを適用可能な区間を抽出することで、レール削正計画の段階で区間全体の削正パス数を削減し、レール削正の施工延長を拡大することができる。加えて、削正パス数が不足している区間が存在する場合は、軌道検測車等で取得したレール横断面形状の測定データに基づいて削正量の多い(削正パス数の多い)削正パターンの適用が必要な区間を抽出することで、レール頭頂面の削正量が不足する区間を減少させ、レールの交換寿命の延伸やレールの折損を抑制することができる。これにより、レール削正作業を行う区間におけるレール削正計画を作成する際に、効率のよいレール削正計画を作成することが可能となる。
【0043】
なお、上述した本実施形態に係るレール削正方法の選定方法は、設計差分面積をレール横断面の中心位置からフィールドコーナ側の範囲で算出した場合について説明を行ったが、レールの削正履歴等を考慮してゲージコーナ側の範囲で算出しても構わないし、フィールドコーナ側からゲージコーナ側の範囲で算出しても構わない。
【0044】
また、上述した本実施形態に係るレール削正方法の選定方法は、パスパターンを決定する閾値として設計差分面積比を0.4として削正パス数が多又は少の2パターンである場合について説明を行ったが、パスパターンは2パターンに限らず、頭頂面の削正量に応じて設計差分面積比の閾値を複数設定してパスパターンを複数設定しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0045】
1 鉄道車両, 2 軌道, 11 測定手段, 12 処理手段。