(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034656
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】防煙垂れ壁用シート及び防煙垂れ壁
(51)【国際特許分類】
A62C 2/06 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
A62C2/06 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139049
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】久木野 稔
(57)【要約】
【課題】低コストで、塵埃の付着を効果的に低減させる不燃シート及びその不燃シートを含む防煙垂れ壁を提供する。
【解決手段】 ガラスクロス、及び、前記ガラスクロスに少なくとも一部が含浸された樹脂層、を含む不燃シートと、前記不燃シートを被覆して保護するとともに前記不燃シートの使用時に剥離される保護フィルムと、を備え、前記保護フィルムが、帯電防止剤が添加された層を含むこと、を特徴とする防煙垂れ壁用シート。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスクロス、及び、前記ガラスクロスに少なくとも一部が含浸された樹脂層、を含む不燃シートと、
前記不燃シートを被覆して保護するとともに前記不燃シートの使用時に剥離される保護フィルムと、を備え、
前記保護フィルムが、帯電防止剤が添加された層を含むこと、
を特徴とする防煙垂れ壁用シート。
【請求項2】
前記保護フィルムの表面抵抗値が1.0×1012Ω/□以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の防煙垂れ壁用シート。
【請求項3】
以下に記載の剥離試験後における前記不燃シートの帯電圧の絶対値が0.4kV以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の防煙垂れ壁用シート。
(剥離試験)前記保護フィルムを前記不燃シートに貼り合わせて、温度23±2℃、湿度(50±5)%の環境下で2時間以上静置した後に、保護フィルムを3m/minの速度で剥がす。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の防煙垂れ壁用シートを含む防煙垂れ壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防煙垂れ壁用シート及び防煙垂れ壁に関する。
【背景技術】
【0002】
防煙垂れ壁は、火災時の煙の拡散を防止し避難時間を確保することを目的として、ビル等の建築物内において天井部分に設置される。従来、その多くがガラス製であったが、近年、落下による二次災害が問題となり、樹脂製の不燃シートから構成される防煙垂れ壁が増加している。
【0003】
不燃シートから構成される防煙垂れ壁では、不燃シートが静電気を帯びて帯電してしまい、防煙垂れ壁が設置される建築物内の空気中に存在する塵埃が不燃シートの表面に付着し、外観が悪くなることがある。
【0004】
かかる問題に対して、例えば特許文献1(特開2019-98646号公報)は、不燃シートの使用時に表面層となるように金属又は金属酸化物を含む帯電防止層を備える不燃シートを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、かかる帯電防止層を不燃シートに設けることは不燃シートの製造コストの上昇をもたらす。また、不燃シートへの埃の付着防止のために、必ずしも不燃シートの本体側に帯電防止層を設ける必然性はない。
【0007】
そこで、本発明は、低コストで、塵埃の付着を効果的に低減させることのできる不燃シート及びこの不燃シートを備える防煙垂れ壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者が鋭意検討したところ、不燃シートそのものではなく不燃シートの使用時に剥離される保護フィルム側に帯電防止剤層を設けることにより、設置後の不燃シートへの塵埃の付着を効果的に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
ガラスクロス、及び、前記ガラスクロスに少なくとも一部が含浸された樹脂層、を含む不燃シートと、
前記不燃シートを被覆して保護するとともに前記不燃シートの使用時に剥離される保護フィルムと、を備え、
前記保護フィルムが、帯電防止剤が添加された層を含むこと、
を特徴とする防煙垂れ壁用シートを提供する。
ここで、帯電防止剤が添加された層は、保護フィルムの表面層でも粘着層でも中間層でもよいものとする。
【0010】
このような構成を有する本発明の防煙垂れ壁用シートでは、保護フィルムに制電性能が付与されているため、施工時に不燃シートに静電気が発生しにくい。したがって、埃等の付着を効果的に防止できる。また、保護フィルム側に帯電防止剤層が設けられているので、低コストで製造できる。
【0011】
本発明の防煙垂れ壁用シートにおいては、前記保護フィルムの表面抵抗値が1.0×1012Ω/□以下であること、が好ましい。
【0012】
このような構成を有する本発明の防煙垂れ壁用シートによれば、保護フィルムは十分な帯電防止性を示すほどに低い表面抵抗値を有するので、埃の良好な付着防止性を得ることができる。
【0013】
また、本発明の防煙垂れ壁用シートにおいては、以下に記載の剥離試験後における前記不燃シートの帯電圧の絶対値が0.4kV以下であること、が好ましい。
(剥離試験)前記保護フィルムを前記不燃シートに貼り合わせて、温度23±2℃、湿度(50±5)%の環境下で2時間以上静置した後に、保護フィルムを3m/minの速度で剥がす。
【0014】
このような構成を有する本発明の防煙垂れ壁用シートによれば、保護フィルムの剥離後における不燃シートの帯電圧が十分に低く、十分な放電が起こっている。したがって、埃の良好な付着防止性を得ることができる。
【0015】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の防煙垂れ壁用シートを含む防煙垂れ壁をも提供する。
【0016】
このような構成を有する本発明の防煙垂れ壁によれば、保護フィルムに制電性能が付与されているため、施工時に不燃シートに静電気が発生しにくい。したがって、埃等の付着を効果的に低減できるので、設置後に外観を損なわない。また、不燃シートは低コストで製造可能であるので、防煙垂れ壁の製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低コストで、塵埃の付着を効果的に低減させる不燃シートを得ることができる。したがって、防煙垂れ壁を容易に施工できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態1に係る防煙垂れ壁1の概略図である。
【
図2】実施形態1で使用される防煙垂れ壁用シート13の一例を示す断面図である。
【
図3】実施形態2に係る防煙垂れ壁2の概略図である。
【
図4】実施形態2で使用される防煙垂れ壁用シート23の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る防煙垂れ壁用シート及び防煙垂れ壁の代表的な実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は図示されるものに限られるものではない。また、各図面は本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて大小や長短の比率や数量を誇張又は簡略化して表している場合もある。更に、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略することがある。
【0020】
1.実施形態1
図1及び
図2を参照して、実施形態1に係る防煙垂れ壁1を説明する。
図1は、実施形態1に係る防煙垂れ壁1の概略図であり、
図2は、実施形態1で使用される防煙垂れ壁用シート13の一例を示す断面図である。
【0021】
1-1. 防煙垂れ壁1について
防煙垂れ壁1は、天井等に略鉛直方向下向きに延びるように取り付けられて、火災発生時に煙の流動や拡散を妨げるものである。
図1に示すように、防煙垂れ壁1は、アルミニウム等の金属材料から構成される略矩形のフレーム11と、フレーム11に取り付けられるシート材(防煙垂れ壁用シート13)と、を具備する、パネルタイプの防煙垂れ壁である。
【0022】
フレーム11は、対向する一対の縦枠111,112と、対向する一対の横枠113,114と、を含む。フレーム11は、縦枠位置調整手段(図示せず)及び横枠位置調整手段(図示せず)により、縦方向(上下方向)及び横方向の長さを調節可能に構成されていてもよい。
【0023】
1-2.防煙垂れ壁用シート13について
図2に示すように、防煙垂れ壁用シート13は、不燃シート131を保護フィルム132で挟み込んだ積層体である。防煙垂れ壁1の施工時には、保護フィルム132を剥がして不燃シート131のみを施工する。
【0024】
具体的には、不燃シート131は、ガラスクロス(ガラス繊維布)133、及び、ガラスクロス133に少なくとも一部が含浸された樹脂層134を含む。すなわち、不燃シート131は、ガラスクロス133と樹脂層134との積層体とも言うことができる。
【0025】
ガラスクロス133は、複数のガラス繊維により構成されるシート状材料であり、複数のガラス繊維が互いに絡み合って1枚の布を形成している。例えば、ガラス繊維からなる複数の経糸と複数の緯糸とで構成されていてもよく、織組織としては、特に制限されず、例えば、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織などが挙げられる。
【0026】
樹脂層134を形成する樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲で、熱硬化性樹脂であっても熱可塑性樹脂であってもよいが、不燃性の観点からは熱硬化性樹脂が好ましく、例えばビニルエステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フルオレンアクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、ガラスクロス含侵後の透明性が優れるという理由から、ビニルエステル樹脂が好適である。
【0027】
また、樹脂層134の樹脂は、ガラスクロス133を構成する複数のガラス繊維の隙間を埋めており、当該隙間部分を介して樹脂層134の一方の表面側部分から他方の表面側部分まで通じていてもよい。
【0028】
本実施形態では、樹脂層134はガラスクロス133の両表面(外面)に形成されているが、これに限られず、一方の表面に形成されていてもよいし、中間層に形成されてもよい。
なお、ガラスクロス133の保護のために、ガラスクロス133の表面に例えばPETフィルムなどの保護層(図示せず)が積層されてもよい。
【0029】
保護フィルム132は、不燃シート131に積層(貼付)されてこれを被覆して保護するとともに不燃シート131の使用時に剥離される。保護フィルム132は、帯電防止剤が添加された層136を含む。すなわち、保護フィルム132は制電(帯電防止)性能を付加された制電性フィルムということもできる。帯電防止剤は不燃シート131にも添加されてもよいが、コスト低減等の観点から保護フィルム132のみに添加されることが好ましい。
【0030】
例えば、保護フィルム132は、ポリエチレン等のベース樹脂に高分子型帯電防止剤が添加された層(層136)と、ポリエチレン等のベース樹脂からなる中間層と、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)等の粘着性樹脂からなる粘着層と、の積層体として構成される。ただし、保護フィルム132を構成する層の数は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調整可能であり、帯電防止剤が添加されるのは、保護フィルム132のいずれの層でもよく、外層(表面層)に限られず粘着層でも中間層でもよい。
【0031】
高分子型帯電防止剤は、例えばポリエチレンオキシド(PEO)鎖等の親水性セグメントを導電性ユニットとして分子内に組み込んだ高分子材料が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲で種々のものを使用できる。例えばポリエーテルエステルアミド型、エチレンオキシド-エピクロルヒドリン型及びポリエーテルエステル型を含む非イオンタイプ、ポリスチレンスルホン酸等のスルホン酸型を含むアニオンタイプ、及び、第4級アンモニウム塩型を含むカチオンタイプのいずれを用いることもできる。高分子鎖において分子間が金属イオンで結合されていてもよい。
【0032】
具体的には、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエーテルエステルアミド、エチレンオキシド-エピハロヒドリン共重合体、エチレン(メタ)アクリレート共重合体、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート共重合体、第4級アンモニウム塩基含有マレイミド共重合体、第4級アンモニウム塩基含有メタクリルイミド共重合体、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、カルボベタイングラフト共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸アミン塩、スチレンを必須の構成単量体とするスチレンポリマーのブロックと親水性ポリマーのブロックの交互ブロック共重合体、ポリスチレン系樹脂にポリエチレングリコールを導入した(メタ)アクリル酸エステルをグラフトした樹脂、ポリエーテル化合物を帯電防止セグメントとした親水性ポリマー、ポリマレイン酸塩、ポリマレイン酸アミン塩、アンモニウムイオンを主成分とするカチオン系ポリマー、ポリアミドポリエーテル共重合体、ポリオレフィンポリエーテル共重合体、ポリエーテルエステルアミド又はポリエーテルエステル等が挙げられる。
【0033】
また、帯電防止剤は、高分子型(有機系)に限られず、金属(無機系)のものでもよい。金属系の帯電防止剤を構成する金属元素としては、例えば、Ag、Ni、Cu、Sn、Sb、Al、In、Ti等が挙げられ、金属単体としたときの標準電極電位が0eV未満の金属元素が挙げられる。金属化合物としては、例えば、五酸化アンチモン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、アンチモンドープ酸化インジウム、スズドープ酸化インジウム、酸化銀等の金属酸化物が挙げられる。
【0034】
粘着層は、EVAに限られず、例えばポリオレフィン、合成ゴム、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、アクリルを利用可能である。
【0035】
帯電防止性によって埃等に対する付着防止性を担保する観点からは、保護フィルム132の表面抵抗値は1.0×1012Ω/□以下であることが好ましく、なかでも1.0×109~1.0×1012Ω/□程度であることが好ましく、1.0×1010~1.0×1012Ω/□であることがより好ましい。また、保護フィルム132を剥離した直後における不燃シート131の帯電圧の絶対値は0.4kV以下であることが好ましく、とりわけ0.2kV以下であることが好ましい。なお、下限は0kVであればよい。
【0036】
1-3.防煙垂れ壁1の施工について
次に防煙垂れ壁1の施工方法を説明する。
まず防煙垂れ壁1を準備する。防煙垂れ壁1は、出荷時に防煙垂れ壁用シート13がフレーム11に一体化されているタイプでもよいし、施工現場で防煙垂れ壁用シート13をフレーム11に張り付けるタイプでもよい。
【0037】
現場にて、防煙垂れ壁用シート13の不燃シート131から保護フィルム132を剥がす。このとき、保護フィルム132を剥がして数分が経過すると、放電が十分に行われていると推測される。すなわち、保護フィルム132に添加された帯電防止剤により、保護フィルム132を剥がすときに発生する静電気が除去されるので、不燃シート131への埃等の付着を効果的に防止することができる。
【0038】
なお、現場でフレーム11に張り付けるタイプの防煙垂れ壁用シート13については、更に、両面テープ等の固定手段を用いてフレーム11に不燃シート131を取り付ける。このとき、不燃シート131は、十分に放電されているため、静電気により張り付くことも防止される。
【0039】
また、フレーム11が縦枠位置調整手段(図示せず)および横枠位置調整手段(図示せず)を有する場合には、これらの手段により縦枠111,112及び横枠113,114の位置を調整することで、不燃シート131に掛かるテンションを調整し、不燃シート131の皺およびたるみを解消することができる。
【0040】
このようにして組み立てた複数の防煙垂れ壁1を例えばレール、ジョイント等により連結して天井等から鉛直方向下向きに延びるように取り付けることで、防煙区画を所望の位置に設定することができる。取り付けられた不燃シート131は、室内の気流で帯電するとは考えにくいので、防煙垂れ壁1の設置後も不燃シート13への埃等の付着が防止される。
【0041】
1-4.実施形態1の効果
実施形態1によれば、保護フィルム132に制電性能が付与されているため、施工時に不燃シート131に静電気が発生しにくい。したがって、施工時及び設置後に不燃シート131に埃がつきにくい。したがって、不燃シート131の施工を容易に行うことができるとともに、設置後にも埃等の付着を防止して不燃シート131の外観を維持することができる。
なお、不燃シート131は透明で視認性がよく、しかも軽量で、万一落下しても割れないので、安全であることは言うまでもない。
【0042】
2.実施形態2
図3及び
図4を参照して、実施形態2に係る防煙垂れ壁2を説明する。ただし、ここでは実施形態1と異なる点を中心に説明する。
図3は、実施形態2に係る防煙垂れ壁2の概略図であり、
図4は、実施形態2で使用される防煙垂れ壁用シート23の一例を示す断面図である。
【0043】
2-1.防煙垂れ壁2について
図3に示すように、防煙垂れ壁2は、対向する一対の縦枠21,22と、縦枠21,22の間にテンションをかけた状態で固定される防煙垂れ壁用シート23と、を具備する。すなわち、防煙垂れ壁2はテンションタイプである。
【0044】
2-2.防煙垂れ壁用シート23について
図4に示すように、防煙垂れ壁用シート23は、不燃シート231を保護フィルム232(制電性フィルム)で挟み込んだ積層体である。ただし、保護フィルム232は不燃シート231の一方の表面にのみ形成されていてもよい。防煙垂れ壁2の施工時には、保護フィルム232を不燃シート231から剥がして不燃シート231のみを施工する。
【0045】
テンションタイプの不燃シート231は、ガラスクロス233、及び、ガラスクロス233に少なくとも一部が含浸された樹脂層234に加え、両表面側にラミネートPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム層235を含む。ラミネートPETフィルム層235は、不燃シート231に対して、設置時のテンションに耐え得る剛性を付与する。
【0046】
保護フィルム232は、不燃シート231を被覆して保護するとともに不燃シート231の使用時に剥離される。保護フィルム232は、帯電防止剤が添加された層236を含む。
【0047】
保護フィルム232は、ポリエチレンに帯電防止剤が添加された外層(層236)と、ポリエチレンからなる中間層と、EVAからなる粘着層と、の積層体として構成される。ただし、帯電防止剤が添加されるのは、保護フィルム232の外層(表面層)に限られず、粘着層でも中間層でもよい。各種の帯電防止剤が添加可能であること、また粘着層の材料としてEVAに限らず各種材料を利用可能であることは、上述のとおりである。
【0048】
埃等の付着防止性の観点からは、保護フィルム232の表面抵抗値は1012Ω/□以下であることが好ましく、中でも1.0×109~1.0×1012Ω/□程度であることが好ましく、1.0×1010~1.0×1012Ω/□であることがより好ましい。また、保護フィルム232を剥離した直後における不燃シート231の帯電圧の絶対値は0.4kV以下であることが好ましく、とりわけ0.2kV以下であることが好ましい。
【0049】
2-3.防煙垂れ壁2の施工について
次に防煙垂れ壁2の施工方法を説明する。
まず防煙垂れ壁2を構成する縦枠21,22及び防煙垂れ壁用シート23を準備する。
現場にて、防煙垂れ壁用シート23の不燃シート231から保護フィルム232を剥がす。このとき、保護フィルム232に添加された帯電防止剤により、保護フィルム232を剥がすときに発生する静電気が除去されるので、埃等の付着を効果的に防止することができる。
【0050】
次いで、縦枠21,22に不燃シート231を取り付ける。このとき、不燃シート231は、静電気が除去されており互いに又は他の物に張り付きにくいので、作業が容易である。
【0051】
そして、縦枠21,22を壁等の支持材に取り付けることで、防煙区画を所望の位置に設定することができる。取り付けられた不燃シート231は、室内の気流では帯電するとは考えにくいので、設置後も埃等の付着が防止される。
【0052】
2-4.実施形態2の効果
実施形態2によれば、保護フィルム232に制電性能が付与されているため、施工時に不燃シート231に静電気が発生しにくい。したがって、施工時及び設置後に不燃シート231に埃がつきにくい。したがって、不燃シート231の施工を容易に行うことができるとともに、設置後にも不燃シート231の外観を維持することができる。
【0053】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、かかる設計変更後の態様(変形例)も本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
例えば、実施形態1の防煙垂れ壁用シート13を実施形態2の縦枠21,22に取り付けてもよいし、あるいは、実施形態2の防煙垂れ壁用シート23を実施形態1のフレーム11に取り付けてもよい
【実施例0054】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施
例に限定されるものではない。
【0055】
(1)保護フィルム
(1-1)保護フィルム1として、以下の仕様のPE(ポリエチレン)制電保護フィルム(エンシュー化成工業株式会社製、品番:EH-50-10CN 透明 静電防止剤入り)を使用した。
- PE制電保護フィルムの仕様
外層: ポリエチレン+高分子型帯電防止剤
中間層:ポリエチレン(PE)
粘着層:エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)
(全体の厚さ:50μm)
すなわち、PE制電保護フィルムは、3層共押出フィルムの表面層に帯電防止剤を添加したものであり、帯電防止剤として、高分子型帯電防止剤(EMA(エチレン・メチルアクリレート共重合体)・EAA(エチレン・アクリル酸共重合体)等の共重合体の分子間を金属イオンで結合したタイプの樹脂)を使用している。
【0056】
ここで、保護フィルム1の表面抵抗値を次のとおりの測定方法で測定したところ(以下の保護フィルムも同様)、1.0×1010Ω/□であった。
- 測定機器:日東精工アナリック株式会社製、品番:MCP-HT450
- 測定方法:JIS K 6911に準拠し、温度23±2℃、湿度(50±5)%の環境下で、印可電圧500Vで測定
【0057】
(1-2)保護フィルム2として、以下の仕様のポリオレフィン制電保護フィルム(日東電工株式会社製、品番:E-MASK RB-100S)を使用した。
- ポリオレフィン制電保護フィルムの仕様
ポリオレフィン、有機系帯電防止剤層、及びアクリル系粘着剤をこの順に積層したもの
(全体の厚さ:45μm)
表面抵抗値:6.3×1011Ω/□
【0058】
(1-3)比較保護フィルム1として次のPETフィルム(ユニチカ株式会社製、品番:エンブレットS)を用いた。
- PETフィルムの仕様
コロナ等の表面処理を施していない、厚さ25μmのPETフィルム
表面抵抗値:>1.0×1013Ω/□
【0059】
(1-4)比較保護フィルム2として次のPE保護フィルム(1)(エンシュー化成工業株式会社製、品番:EH-50-10CN)を使用した。
- PE保護フィルム(1)の仕様
PE及びEVAを積層したもの(全体の厚さ:50μm)
表面抵抗値:>1.0×1013Ω/□
【0060】
(1-5)比較保護フィルム3として次のPE保護フィルム(2)(日東電工株式会社製、品番:E-MASK R-50EP)を用いた。
- PE保護フィルム(2)の仕様
PE及びアクリル系粘着剤を積層したもの(全体の厚さ:60μm)
表面抵抗値:>1.0×1013Ω/□
【0061】
(2)不燃シート
次に、不燃シートとしては、実施形態1に対応するパネル用不燃シートと、実施形態2に対応するテンション用不燃シートと、を使用した。使用した不燃シートの仕様は次のとおりである。
(2―1)パネル用不燃シート
タキロンシーアイ株式会社製「ダンスモークNパネル用シート」
PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(25μm)、
ガラスクロス・ビニルエステル樹脂複合シート(85μm)、及び
PETフィルム(25μm)をこの順に積層してなる積層体からなる不燃シート
【0062】
(2-2)テンション用不燃シート
タキロンシーアイ株式会社製「ダンスモークNテンション用シート」
ラミネートPETフィルム(PET:16μm,アクリル系粘着層:15μm)、
ガラスクロス133・ビニルエステル樹脂複合シート(85μm)、及び
ラミネートPETフィルム(PET:16μm,アクリル系粘着層:15μm)をこの順に積層してなる積層体からなる不燃シート
【0063】
<実施例1~4>
保護フィルム1を、不燃シート1及び2のそれぞれの一方の面に貼り合わせて積層し、本発明の防煙垂れ壁用シート1及び2を作製した。
また、保護フィルム2を、不燃シート1及び2のそれぞれの一方の面に貼り合わせて積層し、本発明の防煙垂れ壁用シート3及び4を作製した。
【0064】
<比較例1~6>
比較保護フィルム1を、不燃シート1及び2のそれぞれの一方の面に貼り合わせて積層し、比較防煙垂れ壁用シート1及び2を作製した。
また、比較保護フィルム2を、不燃シート1及び2のそれぞれの一方の面に貼り合わせて積層し、比較防煙垂れ壁用シート3及び4を作製した。
更に、比較保護フィルム3を、不燃シート1及び2のそれぞれの一方の面に貼り合わせて積層し、比較防煙垂れ壁用シート5及び6を作製した。
【0065】
[評価]
上記の本発明の防煙垂れ壁用シート1~4及び比較防煙垂れ壁用シート1~6について、それぞれの不燃シートから保護フィルムを剥離させる剥離試験を実施し、剥離後の不燃シートの帯電圧を測定した。
試験の条件は次のとおりである(
図5参照)。
- 測定機器:SIMCO 静電気測定器FMX-003
- 測定条件:上記のように作製した防煙垂れ壁用シート1~4及び比較防煙垂れ壁用シート1~6について、作製後、温度23±2℃、湿度(50±5)%の環境下で2時間以上放置した。その後、同じ環境下で、手で3m/minの速度で保護フィルムを剥がしながら剥離帯電圧の最大値を読み取った。測定機器Mと不燃シートとの距離Dは100mmである。測定点数はA4サイズのサンプルに対し、角と中央、対角の三点とした。
測定結果を各保護フィルムの表面抵抗値とともに表1に示す。
【0066】
【0067】
表1から、実施例1~4に係る保護フィルム1~2の表面抵抗値が1.0×1012Ω/□以下であるのに対して、比較例1~6に係る比較保護フィルム1~3の表面抵抗値が1.0×1013Ω/□よりも大きい。一般に保護フィルムの表面抵抗値が低いほど帯電防止性は良いから、実施例1~4の保護フィルムが比較例1~6の比較保護フィルム1~3に比較して良好な帯電防止性を示したことが分かる。
【0068】
また、一般に、帯電圧の絶対値が小さいほど、埃等の付着防止性が高いことが知られている。表1より、実施例1~4では、保護フィルム1及び2の剥離後の不燃シート1及び2の帯電圧が比較例1~6と比べて小さく、埃等の付着防止性を充分に示すことが確認された。また、実施例1~4に係る不燃シート1及び2では、保護フィルム1及び2を剥がして数分で放電が完了していることを確認した。