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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034666
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】一液式スラスタ
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/96 20060101AFI20240306BHJP
   H05B 3/06 20060101ALI20240306BHJP
   F02K 9/68 20060101ALI20240306BHJP
   F02K 9/62 20060101ALI20240306BHJP
   F02K 9/97 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F02K9/96
H05B3/06
F02K9/68
F02K9/62
F02K9/97
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139065
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】松浦 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 真二
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092PP20
3K092QA04
3K092QB02
3K092QB26
3K092RA01
3K092RB04
3K092RD02
3K092TT01
3K092VV22
3K092VV31
(57)【要約】
【課題】小電力で触媒層の触媒全体を常温から触媒反応温度まで短時間に実質的に均一に加熱することができ、かつ触媒層の初期温度(反応開始温度)を正確に設定することができる一液式スラスタを提供する。
【解決手段】一液式スラスタ100が、円筒形の触媒層10、スラスタ本体20、ヒータ30、及び、熱電対40、を備える。触媒層10は、液体推進薬1を触媒分解させる触媒Cからなる。スラスタ本体20は、触媒層を内部に保有する中空円筒形の燃焼室22を有する。ヒータ30の発熱部32aと熱電対40の温度検出部42aが、燃焼室の円筒形外周面22aに固定されている。またヒータの発熱部32aと熱電対40は、円筒形外周面22aに互いに軸方向に間隔を隔てて螺旋状に巻き付けられており、かつ円筒形外周面に同一のピッチでロウ付けされている。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体推進薬を触媒分解させる触媒からなる円筒形の触媒層と、
前記触媒層を内部に保有する中空円筒形の燃焼室を有するスラスタ本体と、
前記燃焼室の円筒形外周面に発熱部が固定されたヒータと、
前記円筒形外周面に温度検出部が固定された熱電対と、を備え、
前記ヒータの前記発熱部は、前記円筒形外周面の前記触媒層の全長を囲む範囲に、螺旋状に巻き付けられて前記円筒形外周面にロウ付けされており、
前記熱電対は、前記ヒータの前記発熱部から軸方向に間隔を隔てて前記円筒形外周面に、前記発熱部と同一のピッチで螺旋状に巻き付けられてロウ付けされている、一液式スラスタ。
【請求項2】
前記ヒータは、前記燃焼室の前記円筒形外周面に一巻き以上巻き付け可能な外径のヒータシースと、該ヒータシースの末端部に設けられたヒータ電力入力部とを有するシースヒータであり、
前記ヒータシースは、その先端部近傍に設けられた前記発熱部と、該発熱部と前記ヒータ電力入力部の間に位置する電力供給部とからなる、請求項1に記載の一液式スラスタ。
【請求項3】
前記発熱部は、前記円筒形外周面に密着するように予め螺旋状に曲げられており、その曲げ部が前記円筒形外周面にロウ付けされている、請求項2に記載の一液式スラスタ。
【請求項4】
前記熱電対は、前記燃焼室の前記円筒形外周面に前記ヒータの隙間で巻き付け可能な外径の熱電対シースと、該熱電対シースの末端部に設けられた出力端子部とを有するシース熱電対であり、
前記熱電対シースは、その先端部近傍に設けられた温度検出部と、該温度検出部と前記出力端子部の間に位置する補償導線部とからなる、請求項1に記載の一液式スラスタ。
【請求項5】
前記温度検出部は、前記ヒータと異なる位置で前記円筒形外周面にロウ付けされ、
前記温度検出部の近傍の前記補償導線部は、前記ヒータから離れて、前記円筒形外周面に螺旋状に巻き付けられてロウ付けされている、請求項4に記載の一液式スラスタ。
【請求項6】
前記ヒータと前記熱電対の螺旋部の巻方向と軸方向のピッチは、同一であり、
前記ピッチは、一定又は上流側と下流側で相違する、請求項1に記載の一液式スラスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙飛行体等に用いる一液式スラスタに関する。
【背景技術】
【0002】
「一液式スラスタ」とは、単一の液体推進薬を燃料として使用する推進装置である。一液式スラスタは化学反応に依存し、反応によって推力を生み出す。液体推進薬を構成する化学物質の分子の化学結合が解き放たれることにより結合エネルギーに相当するエネルギーが解放され、高温のガスが噴出する事によりその反動で推進する。
かかる一液式スラスタは、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
一液式スラスタ(以下、「スラスタ」)は、液体推進薬を触媒分解させるための触媒からなる触媒層を有する。しかし触媒の活性はその温度に依存するため、スラスタを作動させる前に、触媒層を予め加熱(予熱)し触媒の活性を高めておく必要がある。
この目的で、例えば特許文献2が開示されている。
【0004】
特許文献2の「触媒分解式スラスタ」は、液体推進薬を触媒分解させるための触媒を有する触媒層と、触媒層を加熱するための加熱装置と、触媒層に対して液体推進薬を供給するインジェクタとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5137192号公報
【特許文献2】特開2010-229852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2において、加熱装置として、例えば電熱線をテープ状に加工したテープヒータが開示されている。また、加熱装置の施工は、触媒層付近の反応器(以下、「燃焼器」)の外側に、テープヒータを巻きつけ、燃焼器の熱伝達を利用して、触媒層を加熱している。
しかし、従来の加熱装置には、以下の問題点があった。
【0007】
(1)安定した触媒反応を達成するためには、液体推進薬と触媒の接触時間を十分確保し、触媒全体を実質的に均一に予熱し、かつ触媒の初期温度(反応開始温度)を正確に設定する必要がある。
特許文献2の触媒層は、薄い円板状であり直径と比較して厚さが薄く、液体推進薬との接触時間が短い。また、円板状触媒層の外周部のみを加熱しているため、触媒層全体の均一予熱は困難である。
また、触媒層の外周部外側には加熱装置(テープヒータ)があるため、触媒層の上流側又は下流側でしか温度計測ができない。そのため、触媒層の初期温度(反応開始温度)の正確な設定は困難である。
さらに、触媒反応の開始後、スラスタの作動中も反応器温度を継続して計測する必要がある。触媒層の上流側又は下流側に例えば熱電対の温度計測部を固定しても、ロケットでの打ち上げ時の振動負荷、或いは繰り返し使用時の熱膨張と振動により、固定箇所(例えばロウ付け)が剥がれてしまう可能性がある。
また、液体推進薬と触媒の接触時間を確保するため、触媒層の厚さを厚くし、テープヒータで触媒層全体を囲むと、熱電対等の取り付けが困難になる。
【0008】
(2)宇宙飛行体等に用いる一液式スラスタは、数千回から累積1万回以上、繰り返して使用できることが要求される。そのため、限られた電力範囲内で出来るだけ短時間に触媒層を加熱でき、かつ損傷が生じない頑強性が要求される。
特許文献2では、円板状触媒層の外周部のみを加熱しているため、その他の箇所からの放熱が大きく、熱効率が低い。
【0009】
(3)スラスタの作動により反応室(以下、「燃焼室」)は短時間に高温となる。例えば、燃焼室は反応開始後60秒間に約160℃から約700℃以上まで加熱される。
従来のテープヒータ(又は、リボンヒータ)は、リボンのような帯状のクロスのなかに発熱線が縫い込まれたものであり、700℃以上の耐熱性を有するテープヒータには、例えば耐熱温度が高いシリカガラスクロスが用いられている。
しかし、燃焼器を構成する金属(例えば、ステンレス)の線膨張率は、シリカガラスクロスの線膨張率より大きい。
そのため、数千回から累積1万回以上の使用に耐えるためには、高温時(700℃以上)にテープヒータに過大な引張応力が発生しないように、加熱前(例えば常温時)にはテープヒータを緩く巻きつける必要がある。
【0010】
(4)スラスタはこれを作動させる前に、触媒層の触媒全体を常温から触媒反応温度(例えば、約160℃)まで短時間(例えば、10分以内)に加熱する必要がある。
しかし、従来の加熱装置(例えば、テープヒータ)は、燃焼器外面に緩く巻きつけられているため、テープヒータから燃焼器への伝熱損失(すなわち放熱)が大きく短時間加熱のための必要電力が過大になる。
(5)この問題を解決するため、リング状又は棒状の加熱体を燃焼器と同等の線膨張率を有する金属で構成し、その内部にヒータを組み込み、加熱体を燃焼器の外面に固定(例えば、締結)することも考えられる。
しかし、この場合、加熱体の大きさが加熱範囲より狭いと、触媒全体の加熱ができず、加熱に時間がかかる。また、加熱体を大きくして触媒層全体を囲むと、加熱体の熱容量が過大となり、短時間加熱が困難になる。
【0011】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の第1の目的は、従来より小電力で触媒層の触媒全体を常温から触媒反応温度まで短時間に実質的に均一に加熱(予熱)することができ、かつ触媒層の初期温度(反応開始温度)を正確に設定することができる一液式スラスタを提供することにある。また、第2の目的は、燃焼室が触媒反応温度から高温まで、数千回から累積1万回以上、繰り返し加熱されても、損傷なく安定して使用できる頑強性を有する一液式スラスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、液体推進薬を触媒分解させる触媒からなる円筒形の触媒層と、
前記触媒層を内部に保有する中空円筒形の燃焼室を有するスラスタ本体と、
前記燃焼室の円筒形外周面に発熱部が固定されたヒータと、
前記円筒形外周面に温度検出部が固定された熱電対と、を備え、
前記ヒータの前記発熱部は、前記円筒形外周面の前記触媒層の全長を囲む範囲に、螺旋状に巻き付けられて前記円筒形外周面にロウ付けされており、
前記熱電対は、前記ヒータの前記発熱部から軸方向に間隔を隔てて前記円筒形外周面に、前記発熱部と同一のピッチで螺旋状に巻き付けられてロウ付けされている、一液式スラスタが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成によれば、ヒータの発熱部が、燃焼室の円筒形外周面の触媒層全長を囲む範囲に、螺旋状に巻き付けられて円筒形外周面にロウ付けされている。これにより、従来より小電力で触媒層の触媒全体を常温から触媒反応温度まで短時間に実質的に均一に加熱(予熱)することができる。
【0014】
また、熱電対が、ヒータの発熱部から軸方向に間隔を隔てて燃焼室の円筒形外周面に、発熱部と同一のピッチで螺旋状に巻き付けられてロウ付けされている。これにより温度検出部が燃焼室の円筒形外周面にロウ付けされているので、ヒータの発熱部の影響を直接受けずに燃焼室の外面温度を計測することができ、触媒層の初期温度(反応開始温度)を正確に設定することができる。
【0015】
さらに、ヒータと熱電対の両方が円筒形外周面に螺旋状に巻き付けられ、かつ円筒形外周面にロウ付けされているので、それぞれの外面が燃焼室の円筒形外周面と実質的に同一温度となり、一体的に熱膨張・熱収縮することができる。これにより、ロウ付け部に発生する内部応力が小さいため、燃焼室が触媒反応温度から高温まで、数千回から累積1万回以上、繰り返し加熱されても、損傷なく安定して使用できる頑強性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による一液式スラスタの第1実施形態図である。
図2】シースヒータとシース熱電対の燃焼室の円筒形外周面に対する巻き付け状態を示す図である。
図3】本発明による一液式スラスタの第2実施形態図である。
図4】発明品と従来品の加熱速度の比較図である。
図5】発明品の噴射試験時の触媒層の温度とスラストの時間経過を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明による一液式スラスタ100の第1実施形態図であり、(A)は全体構成図、(B)は部分拡大図である。
【0019】
図1(A)において、一液式スラスタ100は、触媒層10及びスラスタ本体20を備える。なおこの図で、2は推薬タンク、4は推薬弁、6は固定金具である。
【0020】
推薬タンク2は、内部に液体推進薬1を保有する。液体推進薬1は、例えばヒドラジン、又は硝酸ヒドロキシルアンモニウム(「HAN」)系の液体推進薬である。
推薬タンク2と推薬弁4は、推薬供給管3を介して連結され、推薬タンク2から推薬弁4に液体推進薬1を供給するようになっている。
推薬弁4は、流量制御可能な電磁弁であり、推薬チューブ5を介してスラスタ本体20に液体推進薬1を供給するようになっている。
固定金具6は、宇宙飛行体等の固定部分(図示せず)にボルト等で固定されている。また、固定金具6は、その上流側(図で左側)に推薬弁4を固定する。さらに、固定金具6は、その下流側(図で右側)に延びる複数の支持アーム6aを有し、その先端がスラスタ本体20の上流側外面に固定され、スラスタ本体20を支持するようになっている。
【0021】
図1(B)において、一液式スラスタ100の触媒層10は、液体推進薬1を触媒分解させる触媒Cからなる。触媒Cは、粒状触媒であり、例えば貴金属(Pt、Ir、等)を担持したアルミナ担持触媒である。
この例で、触媒層10は、円筒形である。また、触媒層10の全長Lは、液体推進薬1と触媒Cとの接触時間を確保できるように、直径Dよりも長く構成されている。
全長Lと直径Dの比率L/Dは、後述する実施例では、3以上である。
【0022】
スラスタ本体20は、触媒層10を内部に保有する中空円筒形の燃焼室22を有する。燃焼室22の内部には、触媒層10の上流側と下流側に、触媒Cが飛散しないように通気性のある網24a,24bが固定されている。
スラスタ本体20は、さらに、推薬チューブ5が連結された推薬供給部25と、燃焼室22で発生した反応ガスGを外部に噴射する噴射ノズル26を有する。この例で、噴射ノズル26は、反応ガスGの噴射方向がスラスタ本体20の軸方向Zと一致するストレート型である。
燃焼室22、推薬供給部25、及び噴射ノズル26は、発生した反応ガスGの温度(例えば700℃以上)に耐える耐熱金属(例えば、ステンレス、チタン合金)で構成されている。
【0023】
図1(B)において、燃焼室22の噴射ノズル26の上流側に、圧力検出口27が設けられている。圧力検出口27には、図示しない圧力検出管が取り付けられ、噴射ノズル26の上流側圧力を検出するようになっている。
噴射ノズル26の上流側圧力を検出することで、噴射試験時の一液式スラスタ100のスラストを算出することができる。
【0024】
図1(A)において、一液式スラスタ100は、さらに、ヒータ30と熱電対40を備える。
この例で、ヒータ30は、シースヒータであり、熱電対40は、シース熱電対である。なお、ヒータ30は、シースヒータに限定されず、その他の加熱素子であってもよい。また、熱電対40は、シース熱電対に限定されず、その他の温度計測素子であってもよい。
以下、ヒータ30がシースヒータ30であり、熱電対40が、シース熱電対40である場合を説明する。
【0025】
図2は、シースヒータ30とシース熱電対40の燃焼室22の円筒形外周面22aに対する巻き付け状態を示す図である。
【0026】
「シースヒータ」とは、シース(Sheath)を被ったヒータを意味する。
図2において、本発明のシースヒータ30は、燃焼室22の円筒形外周面22aに一巻き以上巻き付け可能な外径のヒータシース32(外側パイプ)と、ヒータシース32の末端部に設けられたヒータ電力入力部34とを有する。ヒータシース32の外径は、後述する実施例では、1.5mmである。
【0027】
ヒータシース32は、その先端部近傍に設けられた発熱部32aと、発熱部32aとヒータ電力入力部34の間に位置する電力供給部32bとからなる。
ヒータ電力入力部34は、電力供給用の入力端子34aを有する。
発熱部32aには、その内側に発熱線と電気絶縁材が充填されている。
電力供給部32bには、入力端子34aと発熱部32aの発熱線を連結する導線と電気絶縁材が充填されている。
ヒータ電力入力部34は、高温となる燃焼室22から離れた位置で、宇宙飛行体等の固定部分(図示せず)に固定するのがよい。
【0028】
ヒータシース32は、ステンレス、インコネル、チタン合金などの耐熱金属からなる。
電気絶縁材は、例えば酸化マグネシウムである。
発熱線は、例えば線状又は帯状のニクロム線である。
【0029】
本発明において、ヒータシース32の発熱部32aは、燃焼室22の円筒形外周面22aのうち、触媒層10の全長を囲む範囲に、ヒータ30(ヒータシース32)の隙間で螺旋状に巻き付けられ、円筒形外周面22aにロウ付けされている。
また発熱部32aは、円筒形外周面22aに密着するように予め螺旋状に曲げられており、その曲げ部が円筒形外周面22aにロウ付けされている。
【0030】
「シース熱電対」とは、シース(Sheath)を被った熱電対を意味する。
図2において、本発明のシース熱電対40は、燃焼室22の円筒形外周面22aに巻き付け可能な外径の熱電対シース42(外側パイプ)と、熱電対シース42の末端部に設けられた出力端子部44とを有する。熱電対シース42の外径は、ヒータシース32の外径よりも細いことが好ましく、後述する実施例では、1.0mmである。
【0031】
出力端子部44は、温度検出用の出力端子44aを有する。
熱電対シース42は、その先端部近傍に設けられた温度検出部42aと、温度検出部42aと出力端子部44の間に位置する補償導線部42bとからなる。
温度検出部42aには、その内側に熱電対と電気絶縁材が充填されている。
補償導線部42bには、熱電対と出力端子44aを連結する補償導線と電気絶縁材が充填されている。
出力端子部44は、高温となる燃焼室22から離れた位置で、宇宙飛行体等の固定部分(図示せず)に固定するのがよい。
【0032】
シース熱電対40は、シースヒータ30の発熱部32aから軸方向Zに間隔を隔てて円筒形外周面22aに、発熱部32aと同一のピッチPで螺旋状に巻き付けられてロウ付けされている。
【0033】
本発明において、熱電対シース42の温度検出部42aが、シースヒータ30のヒータシース32と異なる位置(温度検出位置X)で燃焼室22の円筒形外周面22aにロウ付けされている。
また、温度検出部42aの近傍の補償導線部42bも、ヒータシース32から離れて、円筒形外周面22aに螺旋状に巻き付けられ、かつ一体的にロウ付けされている。
【0034】
温度検出位置Xは、触媒層全長Lの中央部に対応する円筒形外周面22aであるのが好ましい。なお温度検出位置Xは、触媒層10に対応する円筒形外周面22aの上流側又は下流側であってもよい。
また、シース熱電対40は、1本に限定されず、複数でもよい。
【0035】
シースヒータ30の発熱部32aの螺旋部と、シース熱電対40の温度検出部42a及び補償導線部42bの螺旋部の巻方向と軸方向ZのピッチPは、互いに接触しないように同一であるのがよい。
【0036】
シースヒータ30の発熱部32aの円筒形外周面22aへの巻き付け数は、触媒層全長Lを加熱するため少なくとも1巻(1回)以上であることが好ましい。
また、発熱部32aのピッチPは、その間に少なくとも1本の熱電対シース42を巻き付けられるように、発熱部32aの外径dの2倍以上であるのがよい。
また、例えば、発熱部32aのピッチPの間に3本の熱電対シース42を巻き付ける場合には、発熱部32aの外径dの4倍以上であるのがよい。
なお、このピッチPは一定であっても、軸方向Zの上流側と下流側で相違してもよい。
【0037】
図3は、本発明による一液式スラスタ100の第2実施形態図である。
この図において、噴射ノズル26は、反応ガスGの噴射方向がスラスタ本体20の軸方向Zに対し直交するキャント型である。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0038】
(実施例1)
図1に示した第1実施形態の一液式スラスタ100を製作した。この一液式スラスタ100の仕様は以下の通りである。
燃焼室22の直径:10mm
燃焼室22の長さ:35mm
触媒Cの種類:貴金属(Pt、Ir、等)を担持したアルミナ担持触媒
触媒Cの形態:粒状触媒
触媒Cの反応開始温度:150℃以上
シースヒータ30(ヒータシース32)の外径:1.5mm
シース熱電対40(熱電対シース42)の外径:1.0mm
ロウ材の種類:金ロウ
【0039】
図4は、本発明の一液式スラスタ100(以下、発明品)と従来の一液式スラスタ(以下、従来品)との加熱速度の比較図である。
発明品は、図1に示した第1実施形態の一液式スラスタ100である。また、従来品は、半円筒形凹部を有する1対のヒータホルダを準備し、半円筒形凹部を燃焼室の円筒形円周面に嵌合させて1対のヒータホルダを固定し、ヒータをそれぞれのヒータホルダに挿入したものである。
【0040】
図4から、発明品は、ヒータ加熱による燃焼室表面温度の常温から160℃までの到達時間が約360秒であり、従来品は約1200秒であった。また、発明品は、必要電力量が約0.81Whであるのに対し、従来品は約1.60Whであった。
この結果から、一液式スラスタは、限られた電力範囲内で出来るだけ早期に触媒層10を加熱する必要があり、発明品は従来品に比べて約1/2の電力量で昇温可能であることがわかる。
また、安定した燃焼反応を達成するため、触媒層全体を予熱する必要があり、触媒層初期温度を正確に調節する必要がある。本発明では、加熱領域の燃焼室表面温度を直接計測することで、触媒層10の予熱温度制御を高精度に行うことが出来る。
【0041】
(実施例2)
図5は、発明品の噴射試験時の触媒層10の温度とスラストの時間経過を示す図である。
この図に示すように触媒層10の温度は、液体推進薬1の供給開始後、10秒で約450℃、60秒で約700℃に達する。またスラストは、液体推進薬1の供給開始直後から約0.5Nの一定値となることがわかる。
なお、スラストが一定値となるのは、噴射開始から反応が進むほど圧力は高くなるが、燃焼ガスが生成するエネルギーと、噴射するガス速度(推力)、散逸する熱量とがバランスするポイントがあり、図5の場合は0.5Nでバランスし、一定値となっている。
【0042】
また、累積32,000回以上のパルス状の噴射を繰り返した結果、シースヒータ30の発熱部32aの剥がれは無く、引き続き使用可能であった。シースヒータ30の発熱部32aは700℃以上の高温となったが、健全性を維持していた。
なお、「パルス状の噴射」は、図1(A)の推薬弁を一定時間間隔でON/OFFすることで、実施することができる。例えば、0.1秒間ON、0.9秒間OFFを繰り返すことで1秒周期のパルス噴射が実現できる。
【0043】
上述した本発明の実施形態によれば、円筒形の触媒層10の全長Lが、直径Dよりも長く構成されているので、液体推進薬1と触媒Cとの接触時間を確保することができる。
【0044】
また、ヒータ30(シースヒータ30)の発熱部32aが、燃焼室22の円筒形外周面22aの触媒層全長Lを囲む範囲に、螺旋状に巻き付けられて円筒形外周面22aにロウ付けされている。これにより、従来より小電力で触媒層10の触媒全体を常温から触媒反応温度まで短時間に実質的に均一に加熱(予熱)することができる。
【0045】
さらに、熱電対40(シース熱電対40)が、シースヒータ30の発熱部32aから軸方向に間隔を隔てて燃焼室22の円筒形外周面22aに、発熱部32aと同一のピッチPで螺旋状に巻き付けられてロウ付けされている。これにより温度検出部42aが円筒形外周面22aにロウ付けされているので、シースヒータ30の発熱部32aの影響を直接受けずに円筒形外周面22aの温度を計測することができ、触媒層10の初期温度(反応開始温度)を正確に設定することができる。
【0046】
また、シースヒータ30とシース熱電対40の両方が円筒形外周面22aに螺旋状に巻き付けられ、かつロウ付けされているので、それぞれの外面(シース)が燃焼室22の円筒形外周面22aと実質的に同一温度となり、一体的に熱膨張・熱収縮することができる。これにより、ロウ付け部に発生する内部応力が小さいため、燃焼室22が触媒反応温度から高温まで、数千回から累積1万回以上、繰り返し加熱されても、損傷なく安定して使用できる頑強性を有する。
【0047】
なお本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
C 触媒、G 反応ガス、P ピッチ、X 温度検出位置、Z 軸方向、
1 液体推進薬、2 推薬タンク、3 推薬供給管、4 推薬弁、
5 推薬チューブ、6 固定金具、6a 支持アーム、10 触媒層、
20 スラスタ本体、22 燃焼室、22a 円筒形外周面、
24a,24b 網、25 推薬供給部、26 噴射ノズル、
27 圧力検出口、30 ヒータ(シースヒータ)、32 ヒータシース、
32a 発熱部、32b 電力供給部、34 ヒータ電力入力部、
34a 入力端子、40 熱電対(シース熱電対)、42 熱電対シース、
42a 温度検出部、42b 補償導線部、44 出力端子部、
44a 出力端子、100 一液式スラスタ
図1
図2
図3
図4
図5