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特開2024-34668ワイヤ挿入システム、ワイヤ挿入方法、およびワイヤ挿入プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034668
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ワイヤ挿入システム、ワイヤ挿入方法、およびワイヤ挿入プログラム
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20240306BHJP
   B25J 3/00 20060101ALI20240306BHJP
   B25J 13/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B25J13/08 A
B25J3/00 Z
B25J13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139067
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦人
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 靖治
(72)【発明者】
【氏名】中島 康博
(72)【発明者】
【氏名】八田 禎之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和晃
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS07
3C707JT04
3C707JU02
3C707JU03
3C707JU12
3C707KS03
3C707KS06
3C707KS17
3C707KS21
3C707KT03
3C707KT06
3C707LS15
3C707LV17
3C707LW03
3C707LW12
3C707MT04
(57)【要約】
【課題】位置が正確に規定されない部材の孔に、動作や姿勢が不確定なワイヤを挿入する作業をより簡易に実現するワイヤ挿入システムを提供する。同時に、ワイヤ挿入方法およびワイヤ挿入プログラムを提供する。
【解決手段】ワイヤ挿入システム1は、ワイヤWを把持し、動作指令に基づいて動作可能なロボット3と、部材の孔とワイヤWを含む所定の領域の画像を撮影する二眼カメラ4と、作業者の動作を計測する動作計測部6と、二眼カメラ4の撮影した画像と動作計測部6の動作情報とを学習データとしてロボット3の動作情報を出力する学習済みモデル30を作成する学習手段23とを備える。ワイヤ挿入方法は、作業者M1の動作を計測し、ロボット3の動作指令を生成する手動工程と、ロボット3の動作情報と二眼カメラ4の撮影した画像を学習データとして学習済みモデル30を作成する学習工程と、学習済みモデル30を用いて画像に対応する動作指令を生成してワイヤWを部材の穴に挿入する動作指令生成工程とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の部材に設けられている孔にワイヤを自動で挿入するワイヤ挿入システムであって、
前記ワイヤを把持し、動作指令に基づいて動作可能なロボットと、
前記部材の孔と前記ロボットに把持された前記ワイヤとを含む領域の画像を撮影するカメラと、
作業者の動作を計測する動作計測部と、
前記動作計測部により計測された動作情報に基づいて前記動作指令を生成する第1モードと、前記画像に対応する前記動作指令が学習された学習済みモデルに基づいて前記動作指令を生成する第2モードとを実行可能な制御手段と、
前記第1モードにおいて前記ワイヤが前記孔に挿入された際の前記動作情報と前記画像とを関連付けて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶した前記画像と前記動作情報とを学習データとして前記学習済みモデルを作成する学習手段と、
を備えることを特徴とするワイヤ挿入システム。
【請求項2】
前記記憶手段は、異なる動作条件で取得した前記動作情報を複数記録し、
前記動作条件は、前記孔の位置、前記ワイヤの初期位置、及び前記ロボットの初期位置のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載のワイヤ挿入システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1モードにおいて前記動作情報にノイズを付与して前記動作指令を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤ挿入システム。
【請求項4】
前記学習済みモデルは、前記画像に対応する前記動作情報を生成する第1モデルと、前記動作情報に対応する前記動作指令を生成する第2モデルとを含み、
前記学習手段は、前記記憶手段に記憶された前記画像と前記動作情報とを学習データとして前記第1モデルを作成することを特徴とする請求項1記載のワイヤ挿入システム。
【請求項5】
前記動作計測部がマスタロボットであり、
前記ロボットがスレーブロボットであることを特徴とする請求項1記載のワイヤ挿入システム。
【請求項6】
前記画像を、前記動作計測部により動作が計測される作業者に表示する表示手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のワイヤ挿入システム。
【請求項7】
前記カメラは、二眼カメラであることを特徴とする請求項1記載のワイヤ挿入システム。
【請求項8】
所定の部材に設けられている孔に、ロボットでワイヤを自動で挿入するワイヤ挿入方法であって、
作業者の動作を計測し、計測された動作情報に基づいて前記ロボットの動作指令を生成する手動工程と、
前記手動工程において前記部材の孔と前記ロボットに把持されたワイヤとを含む領域の画像をカメラで撮影する撮影工程と、
前記手動工程において前記ワイヤが前記孔に挿入された際の前記動作情報と前記撮影工程の前記画像とを関連付けて記憶する記憶工程と、
前記記憶工程において記憶された前記動作情報と前記画像を学習データとして学習済みモデルを作成する学習工程と、
前記カメラにより前記画像を撮影し、前記学習済みモデルにより前記画像に対応する前記動作指令を生成する動作指令生成工程と、
を備えていることを特徴とするワイヤ挿入方法。
【請求項9】
前記手動工程は、複数の異なる動作条件で実行され、
前記動作条件は、前記孔の位置、前記ワイヤの初期位置及び前記ロボットの初期位置のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8記載のワイヤ挿入方法。
【請求項10】
前記手動工程では、前記動作情報にノイズを付与して前記動作指令を生成することを特徴とする請求項8記載のワイヤ挿入方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれか1項に記載のワイヤ挿入方法をコンピュータに実行させるワイヤ挿入プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ挿入システム、ワイヤ挿入方法、およびワイヤ挿入プログラムに関する。特に、ロボットを用いてワイヤを所定の孔に挿入するための、ワイヤ挿入システム、ワイヤ挿入方法、およびワイヤ挿入プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業者によって行われてきた物品の搬送や組立作業を、ロボットによって自動化する試みが行われている。ロボットを用いた自動化を行う場合には、作業対象となる物品の位置や動作のばらつきにロボットを対応させるための制御技術が必要となる。
【0003】
物品の位置が正確には特定されず、ある程度のばらつきへの対応が必要な一事例として、ボルトのワイヤリングの作業がある。ボルトのワイヤリングとは、ワイヤを用いて複数のボルトを連結し、ボルトを固定するものである。ボルトワイヤリングは振動による緩みを防止する目的で、主に航空機やエレベータ用のボルトに適用されている。図6に示すように、ワイヤリングを行うボルトには、貫通孔が設けられている。ワイヤリングの工程では、第一段階として、ボルトが閉まる適切な位置の貫通孔にワイヤを挿通する。第二段階として、ワイヤが貫通孔から抜けないようにワイヤのねじり処理を行う。第一段階のワイヤの挿通を自動化するには、ボルトの貫通孔の位置を特定した上で、ワイヤを貫通孔に挿入する必要がある。しかしながら、締め付けが終わった時のボルトの固定角度は一定ではなく、毎回ばらつきが発生する。さらに、ワイヤは多くの場合弾性体であるため、その位置姿勢に毎回ばらつきが発生する。このように、ボルトの固定位置と、挿入するワイヤの位置姿勢はいずれも不確定であり、予め特定することが困難である。
【0004】
ワイヤを目標の孔へ自動的に挿入するための要素技術が非特許文献1および非特許文献2に開示されている。非特許文献1および2のワイヤ挿入技術は、 ワイヤの歪み具合を画像から推定して、挿入動作を実行している。しかしながら、これらの技術では多段階の行動戦略を人が設定しており、煩雑な事前作業が必要となる。
【0005】
ワイヤの挿入に類似した作業を自動化する技術として、特許文献1は、コネクタの挿入位置を学習し、生産ラインで組立を行うロボットアームとその位置制御方法を開示している。特許文献1の技術は、撮像部から取得された画像と力覚センサの値に基づいて、コネクタを挿入するための制御量を指示し、位置合わせに対する結果から学習を行って挿入経路を決定している。学習の過程では、ロボットアームの一制御周期ごとに設定される周期制御量と力覚センサの値に基づく制御量とに基づいて制御パラメータの調整を行っている。
【0006】
非特許文献3は、ロボットアームで針に糸を通す作業を自動化するための技術を開示している。非特許文献3の技術は、ロボットを遠隔操作している作業者の視線運動を記録し、針の穴の近傍に到達するまでは低解像度の周辺画像を用い、一方で、作業者の視線周辺では高解像度画像を用いた。そして、それらの結果に基づいて、針の穴に近づいたときの糸位置の精密な制御を行っている。
【0007】
発明者らは、ロボットが、位置を特定していないホール(穴)の中にペグ(穴に対応する部品)を挿入するという作業である「ペグインホール(Peg-in-hole)」を実施するための技術を発明し、非特許文献4に開示した。非特許文献4の技術は、ロボットアームの方策関数に疑似力覚を組み込むことで、ロボットアームに接触を伴う探索と移動を同時に自動で実行させる制御システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019/146607号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】P.Cirillo、G.Laudante,S.Pirozzi「Vision-Based Robotic Solution for Wire Insertion with an Assigned Label Orientation」IEEE Access、Vol.9,102278頁-102289頁、2021年
【非特許文献2】De Gregorio、 Danieleら「Integration of robotic vision and tactile sensing for wireterminal insertion tasks」IEEE Transactions on Automation Science and Engineering 16号No.2、585頁-598頁、2018年
【非特許文献3】H.Kim Y,Ohmura,Y.Kuniyoshi「Gaze-based Dual Resolution Deep Imitation Learning for High-precision Dexterous Robot Manipulation」IEEE Robotics and Automation Letters、6号No.2、1630頁-1637頁、2021年
【非特許文献4】丹羽靖治、相澤宏旭、加藤邦人「穴位置不確実 Peg-in-hole のための疑似力覚を組み込む深層模倣学習」ビジョン技術の実利用ワークショップ ViEW2021、OS3-S2、251頁-258頁、2021年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、ロボットの制御システムに、作業対象となる物品の位置が正確に特定できない場合の判断を学習させるためには、複数の工程を人が予め設定するといった補助作業が必要であった。特に、作業対象である挿入物と被挿入物の二つの物品の両方について、位置や姿勢が不確定となるワイヤの挿入作業の自動化は、非常に困難であった。
【0011】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであって、作業者にワイヤの挿入作業を実演させて動作情報を取得することにより、人間のような「位置が正確に規定されない孔に、動作や姿勢が不確定なワイヤを挿入する作業」をより簡易に実現するワイヤ挿入システムの提供を、解決すべき課題としている。本発明は同時に、ワイヤ挿入方法およびワイヤ挿入プログラムを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、所定の部材に設けられている孔にワイヤを自動で挿入するワイヤ挿入システムに関する。本発明のワイヤ挿入システムは、ワイヤを把持し、動作指令に基づいて動作可能なロボットと、部材の孔とロボットに把持されたワイヤとを含む領域の画像を撮影するカメラと、作業者の動作を計測する動作計測部と、動作計測部により計測された動作情報に基づいて動作指令を生成する第1モードと、画像に対応する動作情報が学習された学習済みモデルに基づいて動作指令を生成する第2モードとを実行可能な制御手段と、第1モードにおいてワイヤが孔に挿入された際の動作情報と画像とを関連付けて記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶した画像と動作情報とを学習データとして学習済みモデルを作成する学習手段と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明のワイヤ挿入システムの記憶手段は、異なる動作条件で取得した動作情報を複数記録していることが好ましい。動作条件としては、孔の位置、ワイヤの初期位置、及びロボットの初期位置のうち少なくとも1つを含んでいることが好ましい。
【0014】
本発明のワイヤ挿入システムの制御手段は、第1モードにおいて、動作情報にノイズを付与して動作指令を生成することが好ましい。
【0015】
本発明の学習手段が作成する学習済みモデルは、画像に対応する動作情報を生成する第1モデルと、動作情報に対応する動作指令を生成する第2モデルとを含むことが好ましい。また、学習手段は、記憶手段に記憶された画像と動作情報とを学習データとして第1モデルを作成することが好ましい。
【0016】
本発明のワイヤ挿入システムは、動作計測部がマスタロボットであり、ロボットがスレーブロボットであることが好ましい。
【0017】
本発明のワイヤ挿入システムは、さらに、画像を、動作計測部により動作が計測される作業者に表示する表示手段を備えることが好ましい。
【0018】
カメラは、二眼カメラであることが好ましい。
【0019】
本発明はまた、所定の部材に設けられている孔に、ロボットでワイヤを自動で挿入するワイヤ挿入方法を提供する。本発明のワイヤ挿入方法は、作業者の動作を計測し、計測された動作情報に基づいてロボットの動作指令を生成する手動工程と、手動工程において部材の孔とロボットに把持されたワイヤとを含む領域の画像をカメラで撮影する撮影工程と、手動工程においてワイヤが孔に挿入された際の動作情報と撮影工程の画像とを関連付けて記憶する記憶工程と、記憶工程において記憶された動作情報と画像を学習データとして学習済みモデルを作成する学習工程と、カメラにより画像を撮影し、学習済みモデルにより画像に対応する動作指令を生成する動作指令生成工程と、を備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明のワイヤ挿入方法の手動工程は、複数の異なる動作条件で実行され、動作条件は、孔の位置、ワイヤの初期位置及び前記ロボットの初期位置のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0021】
本発明のワイヤ挿入方法の手動工程では、動作情報にノイズを付与して動作指令を生成することが好ましい。
【0022】
本発明はさらに、ワイヤ挿入プログラムを提供する。本発明のワイヤ挿入プログラムは、ワイヤ挿入方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のワイヤ挿入システム、ワイヤ挿入方法、およびワイヤ挿入プログラムは、人間のような「位置が正確に規定されない孔に、姿勢や動作が不確定なワイヤを挿入する作業」を自動で行うことを可能とする。
【0024】
本発明のワイヤ挿入システム、ワイヤ挿入方法、およびワイヤ挿入プログラムは、複数の異なる動作条件によって得られた学習データを用いることにより、従来よりも容易かつ確実にワイヤを挿入する作業を自動化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、ワイヤ挿入システムの構成を模式的に示す図である。
図2図2は、本実施形態のワイヤ挿入システムの、学習対象であるネットワークの構成を示すブロック図である。
図3図3は、図2の学習手段の特徴抽出器の構成を示すブロック図である。
図4図4は、図3の特徴抽出器のデュアルフィードフォワードネットワーク及び、同心マルチスケールプーリング、畳み込みブロックの構成を示すブロック図である。
図5図5は、スレーブロボットの動作情報に付与するノイズの一例を示す図であって図5(a)は回転角ノイズによる動作情報の回転を示す図であり、図5(b)は回転角ノイズの時間と角の大きさの関係を示す図である。
図6図6は、実施例でロボットが把持したワイヤと、ワイヤを挿入するボルトの孔とを模式的に示す図である。
図7図7は、実施例の学習手段が作成した学習済みモデルの構造とパラメータを示す図である。
図8図8(a)は、実施例のワイヤ挿入プログラムの手動工程のアルゴリズムを示した図であり、図8(b)は、動作指令生成工程のアルゴリズムを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のワイヤ挿入システムの好適な実施形態を列記する。なお、以下に列記した実施形態は例示であり、特許請求の範囲を限定することを意図したものではない。
【0027】
(形態1)本実施形態のワイヤ挿入システムは、ロボットと、カメラと、動作計測部と、中央制御コンピュータとを備えている。
(形態2)ロボットは、ワイヤを把持し、入力された動作指令に基づいてワイヤを部材の孔に挿入する動作を実行可能なスレーブロボットである。
(形態3)カメラは、ワイヤを挿入する部材の孔と、ロボットに把持されたワイヤとを含む領域の画像を撮影する二眼カメラである。
(形態4)動作計測部は、スレーブロボットを遠隔操作するために作業者が把持して操作するマスタロボットである。マスタロボットは、作業者がマスタロボットを操作する動作情報計測器であり、速度と方向から構成される動作情報として計測する。
(形態5)ワイヤ挿入システムの制御手段および学習手段は、中央制御コンピュータの中央演算処理装置(CPU)として具現化される。制御手段は、マスタロボットにより計測された動作情報に基づいて動作指令を生成する第1モードと、作業者がマスタロボットを操作せずに動作指令を生成する第2モードを実行可能である。
(形態6)作業者は、第1モードにおいて表示手段に表示される二眼カメラの画像を目視しながらマスタロボットを操作してスレーブロボットを動作させる。画像の撮影時刻と、作業者がマスタロボットを操作した時刻を同期することで、画像と動作情報が関連付けられて記憶手段に記憶される。
(形態7)ワイヤ挿入システムの記憶手段は、中央制御コンピュータに実装された記憶媒体である。
(形態8)記憶手段は、カメラが撮影した画像と、マスタロボットにより計測された動作情報とを関連付けたデータを記憶している。さらに、記憶手段は、二眼カメラ制御プログラムと、第1モードにおいてマスタロボットから出力された動作情報にノイズを付与する動作情報取得プログラムと、第2モードにおいてスレーブロボットの初期の位置姿勢をばらつかせる手先位置ノイズ付与プログラムとを実行可能な形式で記憶している。
(形態9)記憶手段は、部材の孔の位置、ワイヤの初期位置、ロボットの初期の位置姿勢の一又は二以上が異なる動作条件で取得した動作情報を複数記憶している。
(形態10)動作情報取得プログラムは、マスタロボットから出力された動作情報にノイズを付与して生成したノイズ付与動作情報に基づいて動作指令を生成し、より広範囲にワイヤを移動させる。
(形態11)動作情報取得プログラムは、動作情報に付与するノイズとして、時刻ごとに動作情報のベクトルの向きを回転する回転角ノイズを付与することができる。
(形態12)学習手段は、カメラの画像と画像に関連付けられた動作情報とを学習データとして入力し、カメラの画像を入力することで動作情報を生成することのできる動作情報生成モデルを作成する。
(形態13)制御手段は、動作情報に基づいて、スレーブロボットの目標関節角である動作指令を生成する逆運動学プログラムを実行可能である。
(形態14)動作情報取得プログラムは、ノイズ付与動作情報の出力時に、スレーブロボットにおける1ステップごとの移動量を制限することができる。
(形態15)制御手段は、スレーブロボットがワイヤを把持する初期位置をランダムに移動させた動作指令を生成することができる。
【実施例0028】
以下に、本発明のボルトBを締め付けるボルトの貫通孔B1にワイヤWを自動的に挿入するワイヤ挿入システム1と、ワイヤ挿入システム1によって実行されるワイヤ挿入方法を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
図1に、本実施例のワイヤ挿入システム1の構成を示す。ワイヤ挿入システム1は、中央制御コンピュータ2と、ロボット3と、カメラ4と、動作計測部であるマスタロボット6とを備えている。また、ワイヤ挿入システム1は、作業者M1にカメラ4の映像を表示する表示手段として、立体視ゴーグル5と立体視ゴーグル制御コンピュータ51とを備えている。
【0030】
本実施例のロボット3は、多関節のロボットアームで構成されている。ロボット3は、アームでワイヤWを把持し、外部から入力された動作指令に基づいてワイヤWをボルトの貫通孔B1に挿入する動作を行う、スレーブロボットである。本実施例では、ロボット3のことをスレーブロボット3とも言う。
【0031】
カメラ4は、ボルトの貫通孔B1と、ロボット3に把持されたワイヤWとを含む領域の画像を撮影する二眼カメラであり、以降二眼カメラ4と記載する。二眼カメラ4は、所定の領域の画像を、2枚の左右画像L,Rとして撮影する。ここで、tは撮影した時刻を示している。二眼カメラ4の撮影した画像は、時刻ごとのステレオ画像のデータとして、中央制御コンピュータ2の記憶手段26に記憶される。また、ステレオ画像のデータは、中央制御コンピュータ2の二眼カメラ制御プログラム21によって加工され、立体視ゴーグル制御コンピュータ51に出力される。
【0032】
立体視ゴーグル5は、作業者M1の左右それぞれの目に別々の画像を表示する表示部を備えている。立体視ゴーグル制御コンピュータ51は、立体視ゴーグル5を装着した作業者M1の左目に画像Lを提示し右目に画像Rを提示することで、作業者M1にボルトの貫通孔B1とワイヤWとが存在する空間を立体的に知覚させることができる。
【0033】
動作計測部であるマスタロボット6には、作業者M1によって、スレーブロボット3のロボットアームの動作を指示する動作情報が入力される。マスタロボット6は、作業者M1の入力に含まれ、速度と方向から構成される動作情報を計測して、中央制御コンピュータ2に出力する。
【0034】
作業者は、立体視ゴーグル5に表示される二眼カメラ4の画像を目視しながらマスタロボット6を操作する。画像の表示時刻とマスタロボット6による動作情報の計測時刻を同期することで、中央制御コンピュータ2の記憶手段26の中に、ステレオ画像と動作情報が関連付けられて記憶される。
【0035】
中央制御コンピュータ2は、学習手段23、制御手段24及び記憶手段26を備えている。記憶手段26は、制御手段24が実行可能なプログラムと計算モデルを記憶し、制御手段24は、記憶手段26に記憶されている二眼カメラ制御プログラム21、動作情報取得プログラム22及びオペレータ選択プログラム25を読み込んで実行可能である。ここで、学習手段23及び制御手段24は、単一の中央演算処理装置(CPU)又は個別のCPUから構成される。
【0036】
学習手段23は、二眼カメラ4の画像と、画像に関連付けられた動作情報とを学習データとして学習し、学習済みモデル30の第1モデルである動作情報生成モデル32を作成する。動作情報生成モデル32は、画像データを入力すると、ワイヤWをボルトの貫通孔B1に通すスレーブロボット3の動作指令生成に必要な3次元の並進速度ベクトルからなる動作情報を出力する。
【0037】
制御手段24は、マスタロボット6が出力した動作情報に基づいてスレーブロボット3の動作指令を生成する第1モードと、学習済みモデル30に基づいてスレーブロボット3の動作指令を生成する第2モードとを実行可能である。第1モードにおいて、制御手段24は記憶手段26に記憶されている逆運動学プログラム31を実行することにより、動作情報から動作指令を生成する。第2モードにおいて、制御手段24は画像データを動作情報生成モデル32に入力することにより動作情報を生成し、逆運動学プログラム31を実行することにより動作情報から動作指令を生成する。なお、本実施例では、逆運動学プログラム31は、動作情報生成モデル32とともに学習済みモデル30の一部を構成し、学習済みモデル30の第2モデルとなっている。
【0038】
以下、ワイヤ挿入システム1を用いたワイヤ挿入方法について、詳細に説明する。本実施例のワイヤの挿入方法は、第1モードにおいて実行する手動工程、撮影工程及び記憶工程と、学習工程と、第2モードにおいて実行する動作指令生成工程とを備えている。制御手段24及び学習手段23は、記憶手段26に記憶されたプログラム及び計算モデルを実行することにより各工程を実行する。手動工程では、ワイヤ挿入システム1は、作業者M1の動作を計測し、計測された動作情報に基づいてスレーブロボットの動作指令を生成する。撮影工程では、ボルトの貫通孔B1とスレーブロボット3に把持されたワイヤWとを含む領域の画像L,Rを二眼カメラ4で撮影する。記憶工程では、手動工程においてワイヤWが貫通孔B1に挿入された際の動作情報と撮影工程の画像とを関連付けて中央制御コンピュータ2の記憶手段26に記憶する。学習工程は、記憶工程において記憶された画像L,Rと動作情報を学習データとして学習済みモデル30の動作情報生成モデル32を作成する。動作指令生成工程では、二眼カメラ4により画像L,Rを撮影し、学習済みモデル30により画像L,Rに対応する動作指令を生成する。
【0039】
本実施例では、六角形の頭部の隣り合う辺と辺との間に直径1.8mmの貫通孔が3カ所設けられているボルトを用いた。この貫通孔B1に、太さ0.8mmのワイヤを貫通させている。スレーブロボット3は、ワイヤを、先端から10cmのところで把持している。
【0040】
ワイヤWはスレーブロボット3の手先の中心から10cmの長さで固定した。スレーブロボット3の周囲は、二眼カメラ4の照明条件を固定するために、暗幕41で覆っている。二眼カメラ4は固定されており、二眼カメラ制御プログラム21によって制御される。
【0041】
図6に、ボルトBとワイヤWの配置を模式的に示す。締め付けが終わった時のボルトBの固定角度は一定ではなく、貫通孔B1の位置に毎回ばらつきが発生する。また、図6中に示すワイヤWの先端の位置座標(y、z)にも毎回ばらつきが発生する。さらに、スレーブロボット3の手先位置にも、ノイズの生じることがある。そこで、手動工程では、ボルトの固定位置のばらつきと、ワイヤWの歪みと、スレーブロボット3の手先位置のばらつきについて、想定される複数の条件で、手動操作を実行している。
【0042】
手動工程では、作業者M1が立体視ゴーグル5を装着し、並行して実行される撮影工程において撮影されたステレオ画像L、Rが立体視ゴーグル5に表示される。作業者M1は、ボルトの貫通孔B1にワイヤを挿入するようにスレーブロボット3を動作させることを意図して、立体視ゴーグル5の画像を見ながらマスタロボット6を手動操作し、スレーブロボット3を遠隔操作する。マスタロボット6は、作業者M1がマスタロボット6を操作する動作情報を計測して出力する。制御手段26は動作情報取得プログラム22を実行することにより、マスタロボット6が出力する動作情報である並進速度ベクトルvを取得する。
【0043】
このワイヤ挿入システム1において、ワイヤWを挿入可能な貫通孔B1の位置のばらつきは、概ね角度θが0から30度の範囲である。また、ワイヤの先端の初期位置であるy、z座標にも、基準位置に対して-2~2mmの範囲でばらつきが発生していた。そこで、手動工程では、補助作業者M2によって、ワイヤの先端の姿勢とボルトの回転角度を手動で変更し、学習に用いる学習データである訓練データの初期条件に変化を与え、より広範囲な動作条件でデータが得られるようにした。さらに、制御手段24の手先位置ノイズプログラムによって、スレーブロボット3の手先位置の初期位置にも、基準位置に対するノイズを-5~5mm付与し、様々なワイヤ位置の画像を取得できるように操作した。
【0044】
手動工程はワイヤの挿入が成功し、スレーブロボット3の手先のx座標であるpが終了基準位置を超えるまで繰り返される。撮影工程で、二眼カメラ4は、二眼カメラ制御プログラム21の画像取得プログラムの制御によって、ボルトBとワイヤWが写った1920×1080画素の左右のステレオ画像の撮影を続ける。得られたステレオ画像は、画像切り抜きプログラムでボルトBとワイヤWのみが写るように256×192画素の大きさで切り抜かれる。切り抜いたステレオ画像L、Rは、立体視ゴーグル制御コンピュータ51に送信され、立体視ゴーグル制御の画像バッファに取り込まれて、立体視ゴーグル5で作業者M1の左右の目に独立して提示される。これにより、作業者M1はスレーブロボット3の空間を立体的に知覚する。作業者M1はマスタロボット6の手先を把持して操作し、スレーブロボット3の手先をどの方向に移動するかの指令に関する並進速度ベクトルvを動作情報取得プログラム22に出力する。vはマスタロボット6の実際の手先の移動速度のλ倍に設定されている。
【0045】
動作情報取得プログラム22は、操作対象物のボルトやワイヤのばらつきに対してよりよく対処できる頑強な学習済みモデル30を得るために、入力された並進速度ベクトルvに調整を加える。動作情報取得プログラム22では、スレーブロボット3の手先は、マスタロボット6の手先の0.01倍の速度で動作するよう、そのためのパラメータλを0.01に設定している。また、並進速度ベクトルvは、動作情報取得プログラム22の手先操作量調整プログラムによって監視され、|v|<0.1mmのとき、これ以降の処理を行わず、それ以外の場合は|v|≦1.0mmになるように方向を保ったまま調整される。手先操作量の調整によって、学習時の画像処理モデルの予測範囲を限定し、学習の精度を向上させると共に、安全性も向上させることができる。
【0046】
手先操作量調整プログラムによって調整の完了した並進速度ベクトル
【数1】
は、三角波ノイズ生成プログラムで生成したノイズ回転角α、βとともに、動作情報取得プログラム22のベクトル回転プログラムに入力される。ベクトル回転プログラムでは、α、βを回転角とする回転行列Rαβを用いた下記式により、並進速度ベクトルに対して、一定の確率でYとZの2軸にランダムな回転が加えられる。
【数2】
【0047】
図5(a)に、ノイズとして加えられる回転の方向を示し、図5(b)に三角波形で与えられるノイズの大きさと時間との関係の一例を示す。
【0048】
マスタロボット4によって取得した並進速度ベクトルに、三角波形の回転角ノイズを加えてランダムに回転させることで、画像の中の広範囲にワイヤWが移動することになり、画像の状態数を増やす効果が生まれる。三角波ノイズにより、ノイズ付与動作情報である回転後並進速度ベクトル
【数3】
が得られる。
【0049】
動作情報取得プログラム22から出力されるノイズ付与動作情報は、オペレータ選択プログラム25に入力される。オペレータ選択プログラム25は、第1モード及び第2モードのいずれかを選択し、第1モードにおいて手動工程が実行されている期間では動作情報取得プログラム22からの情報を受け取って制御手段24に入力する。第2モードにおいて動作指令生成工程が実行されている期間では、学習済みモデル30の動作情報生成モデル32からの情報を受け取って、逆運動学プログラム31に入力する。
【0050】
【数4】
を入力された制御手段は、目標点更新式を用いて、

【数5】
によって、スレーブロボット3が次に移動する位置である手先目標位置pt+1を決定する。制御手段24は、逆運動学プログラムを実行することによりスレーブロボット3が手先目標位置に動くための動作指令である目標関節角qを出力する。制御手段24からである目標関節角qを受領したスレーブロボット3は、動作指令に従って各関節を動作させる。
【0051】
動作の完了後、記憶工程として、この時間ステップtにおける画像L、Rと、並進速度ベクトルvを記憶手段26に記憶し、時間ステップtをt+1に更新する。
【0052】
手動工程の最適な条件は、以下の通りである。
・ ボルト状態数 k≧363
・ 速度調整定数 λ=0.01
・ 並進速度ベクトル v 調整範囲
|vt|(最大) 1.0mm
|vt|(最小) 0.1mm
・ 三角波ノイズ角 α、β
ノイズ付与確率 10%
ノイズ角(最大) 80度
ノイズ角(最小) 60度
ノイズ付与系列長(最大)5ステップ (0.5秒)
ノイズ付与系列長(最小) 21ステップ (2.1秒)
【0053】
ボルト状態数を363以上取得するために、ワイヤ挿入システム1で動作させるアルゴリズムを図8(a)に示す。このアルゴリズムに従って動作させることで、ワイヤ挿入のデータを大量に収集する。
【0054】
次に、学習工程について説明する。学習工程では、学習手段23によって、学習済みモデル30の動作情報生成モデル32を作成する。より具体的には、記憶手段26に記憶されている時間ステップtにおける画像L、Rと、並進速度ベクトルvを学習手段23に学習データとして入力して教師あり学習を行い、動作情報生成モデル32を完成させる。動作情報生成モデル32は、ステレオ画像L、Rから、スレーブロボット3の手先を動かすための動作情報である並進速度ベクトルを予測することができる。
【0055】
学習手段23の構造の詳細について述べる。図2に、学習手段23の内部に実装されている数理モデルの概要を示す。学習手段23の数理モデルは、畳み込みニューラルネットワークで構成されている特徴抽出器CNN(以下、単にCNNとも言う)の後に、3層の全結合ネットワークが接続されたモデルである。ただし、通常のCNNとは異なり、ワイヤの微細な情報が失われてしまわないようにするため、最初の同心多重解像度プーリングの処理は省き、畳み込みのパラメータの1つであるストライド数が2の畳み込み層に置き換えている。
【0056】
学習手段23に組み込まれている特徴抽出器CNNについて説明する。図3に、特徴抽出器CNNの構成をブロック図で模式的に示す。CNNは、二眼カメラ4で取得した左右のステレオ画像L、Rから奥行きに相当する特徴を抽出するために、人間の目と脳の神経接続を参考にして、視差による両眼立体視と、焦点ずれによる単眼立体視を明示的に組み込んだモデルであって、画像の畳み込み処理を行うDFP Block(デュアル フィードフォワード パスウェイ、Dual Feedforward Pathways)とConv Block(畳み込みブロック)で形成されている。
【0057】
図4は、DFP Blockの構成をより詳細に示すブロック図である。図中、直方体で示しているのは、特徴マップを表す三次元の行列である。DFP Blockでは、左右のステレオ画像L、Rの特徴マップの差分を連結し、同心多重解像度プーリング(CM Pool)で画像解像度を半分にした後、通常の畳み込み処理を行う。左右の流れで得られる特徴量は、DFP Blockの後段の畳み込みブロック(Conv Block)に入る前に1つに連結される。
【0058】
記憶工程で記憶手段26に蓄積されたステレオ画像L、Rと、ステレオ画像L、Rに対応する動作情報の並進速度ベクトルvの大量のデータを学習データとして用い、学習手段23に教師あり学習を実施する。学習手段23によって作成された動作情報生成モデル32は、ステレオ画像L、Rの入力に対して、作業者M1による手動操作と類似した挙動を示し、動作情報である並進速度ベクトル oを出力する。学習手段23が作成した動作情報生成モデル32の構造と、学習に用いた詳細なパラメータを図7に示す。
【0059】
動作情報生成モデル32の作成のために、学習手段23は、学習に訓練データと検証データと評価データの3種類のデータを使用する。これら3種類のデータは、記憶手段26に蓄積されたデータをボルト種類別にランダムに振り分けて得られる。本実施例では、326ボルト分のデータを訓練データ、30ボルト分のデータを検証データ、7ボルト分を評価データに振り分けている。各データに含まれるL、R、vの組数を表1に示す。訓練データ数の35163は、実世界でのおおよそ58分の手動操作に相当する。
【0060】
【表1】
【0061】
学習時に設定するパラメータの最適なものを表2に示す。また、より詳細なモデル構造とモデルパラメータを図7に示す。これらの学習の後、本実施例の学習手段が作成した動作情報生成モデル32は、作業者の手動作業から得られた動作情報の並進速度ベクトルvと類似した並進速度ベクトル oを出力するに至った。
【0062】
【表2】
【0063】
学習済みモデル30を使用して、検証試験を行った。検証試験および実際の稼働時に於いて、オペレータ選択プログラム25は、学習手段23の動作情報生成モデル32からの並進速度ベクトルoを受け取って、逆運動学プログラム31に入力する。並進速度ベクトルoを入力された逆運動学プログラム31は、目標点更新式を用いて、
【数6】
によって、スレーブロボット3が次に移動する位置である手先目標位置pt+1を決定する。逆運動学プログラム31は、スレーブロボット3が手先目標位置に動くための動作指令である目標関節角qtを出力する。制御手段24から目標関節角qtを受領したスレーブロボット3は、指令に従って、目標関節角に向かうように各関節が動作する。
【0064】
35163回の訓練データによって学習を行った学習手段23の学習済みモデル30は、検証試験で100パターンの初期状態からのワイヤ挿入作業を行った結果、81回の挿入に成功した。
【0065】
実際のワイヤ挿入動作を行う、動作指令生成工程について、説明する。動作指令生成工程は、二眼カメラ4により撮影したステレオ画像L、Rを学習済みモデル30に入力して並進速度ベクトルoを生成する。
【0066】
動作指令生成工程の間、オペレータ選択プログラム25は、学習手段23の動作情報生成モデル32からの並進速度ベクトルoを受け取って、逆運動学プログラム31に入力する。逆運動学プログラム31は、動作情報生成モデル32が出力した並進速度ベクトルoによって、スレーブロボット3の動作指令である手先目標点を更新するようにする。スレーブロボット3が動作指令に従って各関節を動作することで、把持したワイヤWがボルトの貫通孔B1に挿入される。このような動作指令生成工程のアルゴリズムを、図8(b)に示す。
【0067】
本実施例の学習済みモデル30を適用したワイヤ挿入システム1は、実施例と同等のワイヤを挿入する作業において、検証試験と同等の成功率を示した。
【0068】
以上、実施例に基づいて、本発明のワイヤ挿入システムおよびワイヤ挿入方法について説明したが、特許請求の範囲には、実施例以外の様々な形態が含まれる。たとえば、作業者がマスタロボットを介してスレーブロボットを操作するだけでなく、ダイレクトティーチングのように操作者がロボットを把持し、操ることによってスレーブロボットを操作してもよい。この場合には、ワイヤ挿入システムはスレーブロボットを動作させようと入力した作業者の力を計測する動作計測部である力覚センサを備えるように構成されていてもよい。また、ワイヤ挿入システムは力覚センサによって作業者の力を計測するのではなく、作業者の力を、スレーブロボットに入力された外乱力として推定するように構成されていてもよい。また、ワイヤ挿入システムはモーションキャプチャによって作業者の動作を計測し、その計測された動作情報に基づいてスレーブロボットを動作させてもよい。
【0069】
なお、本実施例ではワイヤ挿入システムが動作情報として並進速度ベクトルを計測するように構成されているが、これに限らない。ワイヤ挿入システムは、動作情報として並進速度ベクトルだけではなく、回転速度情報も計測するように構成されていてもよく、速度情報ではなく位置角度情報を計測するように構成されていてもよい。また、ワイヤ挿入システムは、動作情報として、マスタロボットの関節角度情報を計測するように構成されていてもよい。
【0070】
また、本実施例ではワイヤ挿入システムが表示手段を備えるように構成されているが、これに限らない。ワイヤ挿入システムは、作業者が直接スレーブロボット、ワイヤ及びボルトを視認しながらスレーブロボットを操作可能に構成されていてもよい。
付記
以下の付記は、発明のさらなる実施形態として提案される。
以下の付記の一つ以上は、別の任意の付記の一つ以上、またはその一部と組み合わせることができる。
[付記1]
所定の部材に設けられている孔にワイヤを自動で挿入するワイヤ挿入システムであって、
前記ワイヤを把持し、動作指令に基づいて動作可能なロボットと、
前記部材の孔と前記ロボットに把持された前記ワイヤとを含む領域の画像を撮影するカメラと、
作業者の動作を計測する動作計測部と、
前記動作計測部により計測された動作情報に基づいて前記動作指令を生成する第1モードと、前記画像に対応する前記動作指令が学習された学習済みモデルに基づいて前記動作指令を生成する第2モードとを実行可能な制御手段と、
前記第1モードにおいて前記ワイヤが前記孔に挿入された際の前記動作情報と前記画像とを関連付けて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶した前記画像と前記動作情報とを学習データとして前記学習済みモデルを作成する学習手段と、
を備えることを特徴とするワイヤ挿入システム。
[付記2]
前記記憶手段は、異なる動作条件で取得した前記動作情報を複数記録し、
前記動作条件は、前記孔の位置、前記ワイヤの初期位置、及び前記ロボットの初期位置のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする付記1記載のワイヤ挿入システム。
[付記3]
前記制御手段は、前記第1モードにおいて前記動作情報にノイズを付与して前記動作指令を生成することを特徴とする付記1又は2に記載のワイヤ挿入システム。
[付記4]
前記学習済みモデルは、前記画像に対応する前記動作情報を生成する第1モデルと、前記動作情報に対応する前記動作指令を生成する第2モデルとを含み、
前記学習手段は、前記記憶手段に記憶された前記画像と前記動作情報とを学習データとして前記第1モデルを作成することを特徴とする付記1から付記3のいずれか一項記載のワイヤ挿入システム。
[付記5]
前記動作計測部がマスタロボットであり、
前記ロボットがスレーブロボットであることを特徴とする付記1から付記4のいずれか一項記載のワイヤ挿入システム。
[付記6]
前記画像を、前記動作計測部により動作が計測される作業者に表示する表示手段をさらに備えることを特徴とする付記1から付記5のいずれか一項記載のワイヤ挿入システム。
[付記7]
前記カメラは、二眼カメラであることを特徴とする付記1から付記6のいずれか一項記載のワイヤ挿入システム。
[付記8]
所定の部材に設けられている孔に、ロボットでワイヤを自動で挿入するワイヤ挿入方法であって、
作業者の動作を計測し、計測された動作情報に基づいて前記ロボットの動作指令を生成する手動工程と、
前記手動工程において前記部材の孔と前記ロボットに把持されたワイヤとを含む領域の画像をカメラで撮影する撮影工程と、
前記手動工程において前記ワイヤが前記孔に挿入された際の前記動作情報と前記撮影工程の前記画像とを関連付けて記憶する記憶工程と、
前記記憶工程において記憶された前記動作情報と前記画像を学習データとして学習済みモデルを作成する学習工程と、
前記カメラにより前記画像を撮影し、前記学習済みモデルにより前記画像に対応する前記動作指令を生成する動作指令生成工程と、
を備えていることを特徴とするワイヤ挿入方法。
[付記9]
前記手動工程は、複数の異なる動作条件で実行され、
前記動作条件は、前記孔の位置、前記ワイヤの初期位置及び前記ロボットの初期位置のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする付記8記載のワイヤ挿入方法。
[付記10]
前記手動工程では、前記動作情報にノイズを付与して前記動作指令を生成することを特徴とする付記8または9記載のワイヤ挿入方法。
[付記11]
請求項8乃至10のいずれか1項に記載のワイヤ挿入方法をコンピュータに実行させるワイヤ挿入プログラム。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のワイヤ挿入システムとワイヤ挿入方法を各種のロボットに適用することで、作業対象の位置や動作が正確には特定されず、ある程度のばらつきへの対応が必要な工程の自動化が可能となる。特に、本発明のワイヤ挿入システムの学習済みモデルの作成方法は、各種物品の組み立て工程や搬送工程の自動化に適用が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 ワイヤ挿入システム
2 中央制御コンピュータ
3 スレーブロボット
4 カメラ
5 立体視ゴーグル
51 立体視ゴーグル制御コンピュータ
6 マスタロボット
21 二眼カメラ制御プログラム
22 動作情報取得プログラム
23 学習手段
24 制御手段
25 オペレータ選択プログラム
26 記憶手段
B ボルト
B1 ボルトの貫通孔
W ワイヤW
M1 作業者
M2 作業補助者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8