(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034677
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】改質木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27K 3/32 20060101AFI20240306BHJP
B27K 3/02 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B27K3/32
B27K3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139084
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】591199431
【氏名又は名称】株式会社愛和ライト
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩田 潤
(72)【発明者】
【氏名】森岡 一男
【テーマコード(参考)】
2B230
【Fターム(参考)】
2B230AA02
2B230AA03
2B230AA12
2B230BA01
2B230CA15
2B230CA30
2B230CB30
2B230CC01
2B230DA02
2B230EA11
2B230EB02
2B230EB05
2B230EB12
2B230EC01
(57)【要約】
【課題】木材の変色や腐食を抑制可能な改質木材の製造方法を提供する。
【解決手段】改質木材の製造方法は、湯煎工程と、含浸工程と、乾燥工程と、を含む。湯煎工程では、木材を、湯に浸漬することにより、木材を湯煎する。含浸工程では、湯煎工程で湯煎された木材を、少なくとも液媒と液媒中に分散させたコロイダルシリカ粒子とを含有する改質液に浸漬することにより、改質液を木材に含浸させる。乾燥工程では、含浸工程で改質液を含浸させた木材を乾燥させる。湯煎工程及び含浸工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を、湯に浸漬することにより、前記木材を湯煎する湯煎工程と、
前記湯煎工程で湯煎された前記木材を、少なくとも液媒と前記液媒中に分散させたコロイダルシリカ粒子とを含有する改質液に浸漬することにより、前記改質液を前記木材に含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程で前記改質液を含浸させた前記木材を乾燥させて、前記木材から前記液媒を除去することにより、前記木材における前記改質液の含浸部分に、前記コロイダルシリカ粒子由来のケイ素系化合物を析出させる乾燥工程と、
を含み、
前記湯煎工程及び前記含浸工程において、前記木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる、
改質木材の製造方法。
【請求項2】
木材を、湯に浸漬することにより、前記木材を湯煎する湯煎工程と、
前記湯煎工程で湯煎された前記木材を、少なくとも液媒と前記液媒中に分散させたコロイダルシリカ粒子とを含有する改質液に浸漬することにより、前記改質液を前記木材に含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程で前記改質液を含浸させた前記木材を乾燥させて、前記木材から前記液媒を除去することにより、前記木材における前記改質液の含浸部分に、前記コロイダルシリカ粒子由来のケイ素系化合物を析出させる乾燥工程と、
を含み、
前記含浸工程において、前記木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる、
改質木材の製造方法。
【請求項3】
木材を、湯に浸漬することにより、前記木材を湯煎する湯煎工程と、
前記湯煎工程で湯煎された前記木材を、少なくとも液媒と前記液媒中に分散させたコロイダルシリカ粒子とを含有する改質液に浸漬することにより、前記改質液を前記木材に含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程で前記改質液を含浸させた前記木材を乾燥させて、前記木材から前記液媒を除去することにより、前記木材における前記改質液の含浸部分に、前記コロイダルシリカ粒子由来のケイ素系化合物を析出させる乾燥工程と、
を含み、
前記湯煎工程において、前記木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる、
改質木材の製造方法。
【請求項4】
木材を、少なくとも液媒と前記液媒中に分散させたコロイダルシリカ粒子とを含有する改質液に浸漬することにより、前記改質液を前記木材に含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程で前記改質液を含浸させた前記木材を乾燥させて、前記木材から前記液媒を除去することにより、前記木材における前記改質液の含浸部分に、前記コロイダルシリカ粒子由来のケイ素系化合物を析出させる乾燥工程と、
を含み、
前記含浸工程において、前記木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる、
改質木材の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の改質木材の製造方法であって、
前記改質液が、ホウ酸を含有する、
改質木材の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の改質木材の製造方法であって、
前記改質液が、シランカップリング剤を含有する、
改質木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改質木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ含浸木材が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載のシリカ含浸木材は、二酸化ケイ素微粒子のコロイド溶液にホウ素化合物を混合したコロイド溶液を減圧気中あるいは加圧気中で木材内部に含浸後、該木材を乾燥して得られる複合部材である。このシリカ含浸木材における木材構成成分には、二酸化ケイ素微粒子と、ホウ素化合物とが付着・結合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術で木材を改質しても、木材表面に割れやひび等の欠陥が生じることがある。そのような欠陥が生じると、欠陥部から木材の内部へ雨水等が浸透し、あるいは欠陥部から腐朽菌が侵入し、その結果、木材の変色や腐食を招くことがある。したがって、木材の変色や腐食を抑制可能な技術が求められている。
【0005】
本開示の一局面においては、木材の変色や腐食を抑制可能な改質木材の製造方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、改質木材の製造方法であって、湯煎工程と、含浸工程と、乾燥工程と、を含む。湯煎工程では、木材を、湯に浸漬することにより、木材を湯煎する。含浸工程では、湯煎工程で湯煎された木材を、少なくとも液媒と液媒中に分散させたコロイダルシリカ粒子とを含有する改質液に浸漬することにより、改質液を木材に含浸させる。乾燥工程では、含浸工程で改質液を含浸させた木材を乾燥させて、木材から液媒を除去することにより、木材における改質液の含浸部分に、コロイダルシリカ粒子由来のケイ素系化合物を析出させる。湯煎工程及び含浸工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる。
【0007】
本開示でいうファインバブルは、ISO 20480-1及びJIS B 8741-1において定義される、体積相当の直径が100μm未満のバブルである。上記規格において、体積相当の直径は、球形を前提としたバブルの体積に基づいて導き出される直径、と定義されている。また、バブルは、界面で囲まれた媒体中の気体、と定義されている。ファインバブルには、ウルトラファインバブル及びマイクロバブルが含まれる。上記規格において、ウルトラファインバブルは、体積相当の直径が1μm未満のファインバブル、と定義されている。マイクロバブルは、体積相当の直径が1μm以上100μm未満の範囲のファインバブル、と定義されている。
【0008】
このように構成された改質木材の製造方法によれば、湯煎工程においては、木材の内部に含まれる気体が湯煎に伴う熱を受けて膨張し、木材の外部へと押し出される。また、木材の内部へ湯が浸透するのに伴い、木材の内部に含まれる気体が木材の外部へと押し出される。さらに、木材の表層にある細孔からは、その細孔を埋める塵埃や木材に含まれる油分等が滲み出て、それらの異物が除去される分だけ細孔内の空隙が増大する。
【0009】
含浸工程においては、木材の内部に改質液が浸透する。その際、湯煎工程で膨張していた木材内部の気体や液体は、温度低下に伴って収縮するので、改質液の浸透が促される。
乾燥工程においては、改質液を含浸させた木材から液媒が除去され、木材における改質液の含浸部分に、コロイダルシリカ粒子由来のケイ素系化合物が析出する。乾燥工程において析出するケイ素系化合物としては、例えば、微粉末状シリカ、ゲル状シリカ(シリカゲル)及びガラス状シリカ等の非晶質シリカを挙げることができる。
【0010】
あるいは、本開示でいうケイ素系化合物は、上述のような非晶質シリカと他の物質とが複合した複合化合物や、これら非晶質シリカ及び複合化合物のうちの少なくとも一方と他の物質との混合物である複合組成物であってもよい。
【0011】
例えば、本開示の一態様では、改質液がホウ酸を含有してもよく、この場合、ケイ素系化合物としては、ホウ素含有ケイ素系化合物、ホウケイ酸ガラスが析出してもよい。また、本開示の一態様では、改質液が、シランカップリング剤を含有してもよい。この場合、析出するケイ素系化合物には、シランカップリング剤由来の部分構造が含まれていてもよい。シランカップリング剤由来の部分構造が含まれている場合、析出したケイ素系化合物がシランカップリング剤を介して木材に固定されるので、ケイ素系化合物をより強固に木材に対して固定することができる。この他、ケイ素系化合物中には、水系の各種ポリマーを含有していてもよく、例えばシリコーン樹脂やアクリル樹脂等を含有していてもよい。これらのポリマーは、非晶質シリカと結合していてもよいし、非晶質シリカと三次元的に絡み合っているだけでもよい。
【0012】
析出したケイ素系化合物は、木材の表面から木材の内部に至る範囲を改質し、改質された範囲には、木質部分とケイ素系化合物部分との複合体が形成される(以下、この複合体が形成された部分のことを改質部とも称する。)。改質部の表面には、ケイ素系化合物で構成される被膜が形成されるとともに、その被膜から連続するケイ素化合物で構成される部分が木材の内部にも入り込む。ケイ素系化合物によって構成される部分は、木材との間に作用する分子間力で木材に強固に付着するとともに、ケイ素系化合物で構成される部分が木材の内部(例えば、木材の細孔。)に入り込むかたちで、立体的に木質部分と絡み合うため、アンカー効果によっても木材表面に強固に固定される。
【0013】
以上のような各工程のうち、湯煎工程及び含浸工程においては、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる。そのため、ファインバブルの作用により、木材に対して従来法以上に改質液を含浸させ、表面欠陥が生じにくい改質部を形成することができる。木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させると、表面欠陥が生じにくい改質部を形成可能な点は、本件発明者らが様々な実験を重ねる中で見いだした事項であり、その効果は、後述する実施例から明らかになる。
【0014】
ファインバブルを発生させることによって上述のような作用、効果が生じる理由は、現時点では明確には解明されていない。ただし、本件発明者らは、ファインバブルには、以下に挙げるような作用があるのではないかと推測している。
【0015】
まず、湯煎工程において、木材が浸漬される液中(すなわち、湯中。)にファインバブルを発生させると、ファインバブルが木材の表層にある細孔に入り込み、細孔の内部に溜まっている異物が細孔から掻き出される。そのため、ファインバブルを発生させない場合よりも、細孔内の空隙を増大させる可能性がある。あるいは、湯煎のみでは離脱しない木材の微小な木質要素が、ファインバブルの作用で木材から離脱し、これにより、木材表面にある細孔の数又は容積を増大させる可能性もある。いずれの場合とも、木材表面の細孔容積は増大し、あるいは細孔形状が複雑化する。そのため、木材の表面積が増大する分だけ、木材とシリカ系化合物との間に作用する分子間力が増大し、また、細孔数の増大及び細孔形状の複雑化に伴い、シリカ系化合物を固定するアンカー効果も高まるものと推察される。
【0016】
また、含浸工程においては、木材が浸漬される液中(すなわち、改質液中。)にファインバブルを発生させると、凝集して2次粒子又は3次粒子を形成しているコロイダルシリカ粒子が、ファインバブルによって壊されて、より低次粒子化する可能性がある。また、空気ファインバブルの場合、ファインバブルの表面は負に帯電し、コロイダルシリカ粒子の表面も負に帯電している。そのため、ファインバブルがコロイダルシリカ粒子を凝集させることはなく、近接した位置にあるコロイダルシリカ粒子間にファインバブルが割り込むことで、コロイダルシリカ粒子同士が接近するのを妨げる。これにより、コロイダルシリカ粒子が、高次粒子化するのを抑制する可能性がある。いずれの作用があるとしても、コロイダルシリカ粒子の分散が促され、コロイダルシリカ粒子が微細化される可能性がある。そのため、より粗大なコロイダルシリカ粒子が形成されている状態よりも、コロイダルシリカ粒子が木材の内部に浸透しやすくなり、表面欠陥が生じにくい改質部を形成できるのではないかと推察される。
【0017】
次に、本開示の第2の態様は、改質木材の製造方法であって、湯煎工程と、含浸工程と、乾燥工程と、を含む。湯煎工程では、木材を、湯に浸漬することにより、木材を湯煎する。含浸工程では、湯煎工程で湯煎された木材を、少なくとも液媒と液媒中に分散させたコロイダルシリカ粒子とを含有する改質液に浸漬することにより、改質液を木材に含浸させる。乾燥工程では、含浸工程で改質液を含浸させた木材を乾燥させて、木材から液媒を除去することにより、木材における改質液の含浸部分に、コロイダルシリカ粒子由来のケイ素系化合物を析出させる。含浸工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる。
【0018】
本開示の第2の態様は、上述の第1の態様とは以下の点で相違する。すなわち、上述の第1の態様では、湯煎工程及び含浸工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる。これに対し、第2の態様では、含浸工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させ、湯煎工程においては、ファインバブルを発生させない。
【0019】
第1の態様と第2の態様とを比較すると、表面欠陥が生じにくい改質部を形成する観点からは第1の態様の方がより好ましい。ただし、第2の態様であっても、ファインバブルを利用しない従来技術に比べれば、表面欠陥が生じにくい改質部を形成することができる。しかも、第2の態様であれば、湯煎工程で使用する設備には、ファインバブルの発生機構を設けなくても済むので、設備の簡素化を図ることができる。
【0020】
したがって、最終的に得られる改質木材に要求される表面欠陥の程度によっては、第2の態様を選択してもよく、これにより、改質木材の製造工程を簡素化し、改質木材の生産性を向上させることができる。あるいは、木材の樹種によって改質液が浸透する程度は異なるので、改質液が浸透しやすい樹脂であれば、第2の態様を選択してもよい。
【0021】
次に、本開示の第3の態様は、改質木材の製造方法であって、湯煎工程と、含浸工程と、乾燥工程と、を含む。湯煎工程では、木材を、湯に浸漬することにより、木材を湯煎する。含浸工程では、湯煎工程で湯煎された木材を、少なくとも液媒と液媒中に分散させたコロイダルシリカ粒子とを含有する改質液に浸漬することにより、改質液を木材に含浸させる。乾燥工程では、含浸工程で改質液を含浸させた木材を乾燥させて、木材から液媒を除去することにより、木材における改質液の含浸部分に、コロイダルシリカ粒子由来のケイ素系化合物を析出させる。湯煎工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる。
【0022】
本開示の第3の態様は、上述の第1の態様とは以下の点で相違する。すなわち、上述の第1の態様では、湯煎工程及び含浸工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる。これに対し、第3の態様では、湯煎工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させ、含浸工程においては、ファインバブルを発生させない。
【0023】
第1の態様と第3の態様とを比較すると、表面欠陥が生じにくい改質部を形成する観点からは第1の態様の方がより好ましい。ただし、第3の態様であっても、ファインバブルを利用しない従来技術に比べれば、表面欠陥が生じにくい改質部を形成することができる。しかも、第3の態様であれば、含浸工程で使用する設備には、ファインバブルの発生機構を設けなくても済むので、設備の簡素化を図ることができる。
【0024】
したがって、最終的に得られる改質木材に要求される表面欠陥の程度によっては、第3の態様を選択してもよく、これにより、改質木材の製造工程を簡素化し、改質木材の生産性を向上させることができる。あるいは、木材の樹種によって改質液が浸透する程度は異なるので、改質液が浸透しやすい樹脂であれば、第3の態様を選択してもよい。
【0025】
次に、本開示の第4の態様は、改質木材の製造方法であって、含浸工程と、乾燥工程と、を含む。含浸工程では、木材を、少なくとも液媒と液媒中に分散させたコロイダルシリカ粒子とを含有する改質液に浸漬することにより、改質液を木材に含浸させる。乾燥工程では、含浸工程で改質液を含浸させた木材を乾燥させて、木材から液媒を除去することにより、木材における改質液の含浸部分に、コロイダルシリカ粒子由来のケイ素系化合物を析出させる。含浸工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる。
【0026】
本開示の第4の態様は、上述の第1の態様とは以下の点で相違する。すなわち、上述の第1の態様では、湯煎工程及び含浸工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させる。これに対し、第4の態様では、含浸工程において、木材が浸漬される液中にファインバブルを発生させ、湯煎工程は省略している。
【0027】
第1の態様と第4の態様とを比較すると、表面欠陥が生じにくい改質部を形成する観点からは第1の態様の方がより好ましい。ただし、第4の態様であっても、ファインバブルを利用しない従来技術に比べれば、表面欠陥が生じにくい改質部を形成することができる。しかも、第4の態様であれば、湯煎工程を省略しているので、設備の簡素化を図ることができる。
【0028】
したがって、最終的に得られる改質木材に要求される表面欠陥の程度によっては、第4の態様を選択してもよく、これにより、改質木材の製造工程を簡素化し、改質木材の生産性を向上させることができる。あるいは、木材の樹種によって改質液が浸透する程度は異なるので、改質液が浸透しやすい樹脂であれば、第4の態様を選択してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、上述の改質木材の製造方法について、例示的な実施形態を挙げて説明する。
(1)改質木材の製造例
処理対象となる木材としては、含水率10~15%の杉材及び桧材の試験片(寸法200mm×100mm×15mm)を供試した。
【0030】
続いて、湯煎工程として、各試験片を、温度80℃の湯中に浸漬して、3~3.5時間にわたって湯煎した。その際、湯中にファインバブルを発生させて、木材がファインバブルに曝されるようにした。ファインバブルを発生させる方式としては、例えば、旋回流液式(高速液旋回流によって気泡を粉砕する方式)、エゼクター式又はベンチュリー式(気液流路内の急激な圧力変化によって気泡を粉砕する方式)、微細孔式(微細なガス分散孔によって気泡を微小化する方式)、スタティックミキサー式(気液流路内の障害物によって気泡をせん断する方式)等、任意の方式を採用することができる。
【0031】
より具体的な例を挙げれば、例えば、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製のファインバブル発生器、関西オートメ機器株式会社製のマイクロバブル発生装置、神鋼エアーテック株式会社製のウルトラファインバブル気液混合装置、株式会社丸八ポンプ製作所製のファインバブル発生装置MBT型等を利用すれば、所期のファインバブルを発生させることができる。
【0032】
ファインバブルの個数濃度(個/mL)については有効な範囲を厳密に特定できてはいないが、湯中にファインバブルを発生させることにより、湯が白濁する程度のファインバブルを発生させれば、実用上は問題ない。
【0033】
湯煎工程では、湯煎釜に水を張り、湯温80℃まで加熱、湯温80℃に到達した時点で、治具にセットした試験片を湯煎釜の湯中に浸漬し、3~3.5時間の湯煎を実施した。上述のファインバブルは、水張りの時点から発生させて、湯中に十分な量のファインバブルを混ぜ合わせるようにした。
【0034】
湯煎処理後の湯を目視で確認したところ、ファインバブルを発生したか否かにかかわらず、湯の色は褐色になっていたが、ファインバブルを発生させた場合の方が、褐色の色が濃くなっていた。また、ファインバブルを発生させた場合の方が、湯の表面又は湯中に浮遊する油分や微細な浮遊物の量が多くなった。このことから、ファインバブルを発生させたことにより、試験片が有する細孔内から油分や微細な固形分など、何らかの成分が掻き出されるものと推定され、その分だけ試験片内部の空隙率が増大しているものと推察された。
【0035】
続いて、含浸工程として、湯煎された木材を、常温(25℃)の改質液中に浸漬して、4~4.5時間にわたって木材に改質液を含浸させた。その際、改質液中にファインバブルを発生させて、木材がファインバブルに曝されるようにした。ファインバブルは、湯煎工程で用いた装置を使って湯煎工程と同条件で発生させた。
【0036】
改質液としては、コロイダルシリカ溶液(日産化学株式会社製、スノーテックス(登録商標)、品名ST-30、BET法粒子径12nm、固形分30wt%)に対し、ホウ酸を重量比で5%添加した液状組成物を使用した。この改質液には、更に重量比で0.2~2%程度のシランカップリング剤が添加されていてもよい。また、改質液には、水系の各種ポリマーが含まれていてもよい。
【0037】
含浸工程において、改質液中にファインバブルを発生させると、改質液中のシリカ粒子が微細化されるとともに、シリカ粒子の分散性が向上し、試験片に対する改質液の浸透力を向上させることができる。また、湯煎工程では除去しきれなかった油分や固形分が試験片から除去されるため、その分だけ試験片に改質液が浸透する。
【0038】
含浸工程を終えたら、洗浄工程として、試験片及び治具を改質液中から取り出し、試験片を治具から取り外して、試験片を洗浄する。より具体的には、ウォータージェットノズルから高圧水を噴射して試験片を洗浄した。このとき、ウォータージェットノズルにファインバブル発生装置を装着して、ファインバブル含有水を噴射するように構成してもよい。このように構成すれば、ウォータージェットノズルによる高圧力にファインバブルによる洗浄力が加わり、洗浄工程における洗浄力を向上させることができる。洗浄工程では、試験片表面に付着した余計な改質液が洗い落とされる。
【0039】
続いて、乾燥工程として、上記先行工程で洗浄された試験片を、常温(25℃)環境下で、試験片の含水率が20%以下になるまで自然乾燥させた。この乾燥工程において、試験片に含浸させたコロイダルシリカ粒子は、ホウ酸とともにゲル化乃至はガラス化し、木材における改質液の含浸部分には、木質部分及びシリカ系化合物の複合体からな改質部が形成される。改質液にシランカップリング剤が添加されている場合は、木材に含まれる有機材料とシリカ系化合物とを結合させることができ、シリカ系化合物をより強固に木材に固着することができる。また、改質液に水系の各種ポリマーが添加されている場合は、そのポリマーを含むシリカ系化合物が析出するので、改質部の物性を調節することができる。このようなポリマーとしては、例えばシリコーン樹脂やアクリル樹脂等を利用することができる。これらのポリマーは、非晶質シリカと結合していてもよいし、非晶質シリカとの間で互いの分子鎖が三次元的に絡み合っているだけでもよい。
【0040】
なお、以上の工程によって、試験片の表面から内部にかけて、木質部分及びシリカ系化合物の複合体からな改質部を形成することができる。ただし、試験片の耐候性や試験片表面の撥水性を向上させる観点からは、更に、試験片の表面にシリカ系化合物の塗膜を形成するための塗装工程を加えてもよい。
【0041】
塗装工程の一例を挙げれば、乾燥工程において乾燥された試験片に対し、まず、IPA(イソプロピルアルコール)を用いて試験片表面の脱脂を行う。更に試験片に対してサンディングを実施し、試験片の表面を研磨する。続いて、シリカ系化合物を主成分とする塗料(例えば、シリカ系ガラスコーティング剤)を刷毛塗りするかスプレーガンで吹き付けて、試験片表面にシリカ系化合物の塗膜を形成する。
【0042】
シリカ系化合物の塗膜を形成する際には、複数回の塗装を行ってもよく、複数回の塗装それぞれで用いられる塗料を変更してもよい。具体的には、初回は下塗り用塗料(いわゆるシーラー等。)を使用し、2回目以降は中塗り用塗料を使用し、最後に仕上げ用塗料(いわゆるトップコート等。)を使用してもよい。また、複数回の塗装それぞれを実施したら、十分に塗膜を乾燥させた後、次の塗装を実施する前にサンディングを実施して、塗膜の表面を研磨してもよい。
【0043】
(2)性能試験(その1)
上記(1)項の製造例に従って作成した試験片について、JIS K5600-7-7に準拠して促進耐候性試験を実施した(以下、実施例と称する。)。また、比較のため、ファインバブルを使用しない点で上記(1)項の製造例とは異なり、その他の点は上記(1)項の製造例と同等な手順で、比較用の試験片を作成し、促進耐候性試験を実施した(以下、比較例と称する。)。
【0044】
試験装置としては、市販の耐候性試験機(アイスーパーキセノンテスター、岩崎電気株式会社製、型番:XER―W83)を使用した。試験条件については、光源及びフィルター:方法1(デイライトフィルタ)、試験片表面温度:60W/m2(300nm~400nm)、試験片ぬれサイクル:サイクルA(ぬれ時間:18分、乾燥時間:102分)に設定した。
【0045】
評価項目は、(A)色変化、(B)塗膜の割れ・はがれ、(C)撥水度の3項目とし、各評価項目を促進耐候性試験における500h、1000h、1500h、2000h、2500h経過時点で評価した。より詳細には、(A)試験片の色変化については、分光色差計による測色を実施し、試験前後の色差ΔEを求めた。この色差ΔEは小さいほど変退色が生じていないことを示す。(B)塗膜の割れ・はがれについては、JIS K 5600-8-1、JIS K 5600-8-4及びJIS K 5600-8-5で規定される等級に従って評価した。(C)撥水度は、以下の方法で測定した。まず、試験片の質量W1を測定し、その試験片の中央部に純水1mLを滴下し、滴下部をシャーレで覆って1分間放置した後、試験片上の水分を拭き取り、再び試験片の質量W2を測定した。また、別途、純水1mLの質量W0を測定した。これらの測定結果から、下記[数式1]に基づいて撥水度を算出した。
【0046】
[数式1]:撥水度(%)=[1-(W2-W1)/W0]×100
(A)色変化の評価結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1に示す結果から、実施例の場合は、色差ΔEが3.95~6.06の範囲にあるのに対し、比較例の場合は色差ΔEが8.66~12.5の範囲にあることがわかる。したがって、この評価結果からは、湯煎工程及び含浸工程でファインバブルを利用することにより、シリカ系化合物による木材の改質効果が向上することが示唆される。
【0049】
次に、(B)塗膜の割れ・はがれ・基材割れの評価結果を示す。
まず、塗膜割れについては、JIS K 5600-8-1及びJIS K 5600-8-4で規定される評価区分に従って評価を行うと、実施例の場合は、割れの量(密度):無(すなわち、判別できるような欠陥がない。)、割れの大きさによる等級:0(すなわち、10倍に拡大しても視感できない。)、割れの深さによる区分:無、となった。これに対し、比較例の場合は、割れの量(密度):方向性のある割れ、密度3(すなわち、中程度の量の欠陥がある。)、割れの大きさによる等級:3(すなわち、正常に補正された視力で明らかに認識できる。)、割れの深さによる区分:c(すなわち、全塗膜層を貫通している割れ。)となった。
【0050】
塗膜のはがれについては、2500h試験完了時の試験片を、JIS K 5600-8-5で規定される評価区分に従って評価を行うと、実施例の場合は、はがれの量の等級:0(すなわち、はがれの面積0%。)、はがれによって露出したほぼ平均の大きさの表示のための等級:0(すなわち、10倍に拡大しても視認できない。)、はがれによる欠陥の主要な形態:無、となった。これに対し、比較例の場合は、はがれの量の等級:3(すなわち、はがれの面積1%。)、はがれによって露出したほぼ平均の大きさの表示のための等級:2(すなわち、最大寸法3mmまで。)、はがれによる欠陥の主要な形態:b(すなわち、素地からの全塗膜層のはがれ。)、となった。
【0051】
以上の評価結果からは、湯煎工程及び含浸工程でファインバブルを利用することにより、改質木材表面に形成される塗膜について、塗膜の割れやはがれの発生を抑制できることが示唆される。
【0052】
次に、(C)撥水度の評価結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
表2に示す結果から、実施例の場合は、2500h試験完了時の試験片であっても、初期の撥水度を維持できていることがわかる。比較例の場合は、1500h試験完了時点で既に撥水度の低下が見られ、2500h試験完了時の試験片では51.85%まで撥水度が低下している。したがって、この結果からは、湯煎工程及び含浸工程でファインバブルを利用することにより、改質木材表面に割れやはがれといった欠陥がない塗膜が形成され、木材への水分の侵入を抑制できることが示唆される。
【0055】
水の侵入は、木材劣化を加速させ見た目を悪化させ、木材腐朽菌が繁殖し最終的には木材を朽ちさせてしまう。木質を長期保存するためには、塗膜の欠陥を防ぎ、木質への水の侵入を阻止することが重要である。よって、改質木材を高耐久化する上で、ファインバブルによる処理は有効であると考えられる。
【0056】
(3)性能試験(その2)
次に、上記(2)項の試験によりファインバブル処理の有効性が示唆されたので、本項では、湯煎工程及び含浸工程のそれぞれで実施したファインバブル処理について、それぞれの有効性を確認した。具体的には、湯煎工程及び含浸工程の双方でファインバブルを使用した場合、湯煎工程のみでファインバブルを使用した場合、含浸工程のみでファインバブルを使用した場合、以上の各場合について、試験片の重量変化を測定し、改質液の含浸量に違いが生じるのかどうかを検証した。結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
上記表3において、湯煎時吸液量、含浸時吸液量、試験後吸液量は、下記数式1~3に基づいて算出した。
[数式1]
湯煎時吸液量(%)=(湯煎後重量-試験前重量)÷試験前重量×100
[数式2]
含浸時吸液量(%)=(含浸後重量-湯煎後重量)÷湯煎後重量×100
[数式3]
試験後吸液量(%)=(含浸後重量-試験前重量)÷試験前重量×100
以上の検証結果からは、湯煎工程及び含浸工程の少なくとも一方でファインバブルを使用すれば、改質液の含浸量が増大することがわかる。
【0059】
[他の実施形態]
以上、改質木材の製造方法について、例示的な実施形態を挙げて説明したが、上述の実施形態は本開示の一態様として例示されるものにすぎない。すなわち、本開示は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内において、様々な形態で実施することができる。
【0060】
例えば、上記実施形態では、改質液に含まれる成分及び組成比について、いくつかの例を示したが、本開示の技術思想は、上述の例に限定されない。例えば、コロイダルシリカ溶液の固形分の含有量は上述の例に限定されず、より固形分が少ないコロイダルシリカ溶液やより固形分が多いコロイダルシリカ溶液を利用してもよい。
【0061】
また、上述の例では、改質液にホウ酸を添加する例を示したが、ホウ酸を添加するか否かは任意である。また、ホウ酸を添加する場合であっても、その添加量は任意に調節すればよく、上述の添加量に限定されるものではない。また、上述の例では、シランカップリング剤を添加してもよい旨を説明したが、シランカップリング剤を添加するか否かは任意であり、その添加量も適宜調節されればよい。また、上述の例では、水系ポリマーを添加してもよい旨を説明したが、水系ポリマーを添加するか否かは任意であり、その添加量も適宜調節されればよい。