(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034680
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20240306BHJP
【FI】
B23K26/21 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139087
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小暮 勇太
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA73
4E168BA87
4E168CB03
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA23
4E168DA28
4E168DA40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】第1母材上に設けられた第2母材を含む積層部材のレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】積層部材の予め定められた第1の点から、前記第1の点とは異なる第2の点までレーザを走査し、第1の走査経路を形成する段階と、前記積層部材の予め定められた第3の点から、前記第3の点とは異なる第4の点までレーザを走査することで、前記第1の走査経路と少なくとも一部を共有する第2の走査経路を形成し、前記第1の走査経路と前記第2の走査経路との共通領域において、前記第1母材および前記第2母材を溶融する段階と、を備え、前記第1母材の溶接深さが0.2mm以上、0.7mm以下である、レーザ溶接方法を提供する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1母材上に設けられた第2母材を含む積層部材のレーザ溶接方法であって、
前記積層部材の予め定められた第1の点から、前記第1の点とは異なる第2の点までレーザを走査し、第1の走査経路を形成する段階と、
前記積層部材の予め定められた第3の点から、前記第3の点とは異なる第4の点までレーザを走査することで、前記第1の走査経路と少なくとも一部を共有する第2の走査経路を形成し、前記第1の走査経路と前記第2の走査経路との共通領域において、前記第1母材および前記第2母材を溶融する段階と、
を備え、
前記第1母材の溶接深さが0.2mm以上、0.7mm以下である、レーザ溶接方法。
【請求項2】
前記レーザ溶接方法は、キーホール型溶接である、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記レーザはファイバレーザから照射され、前記レーザの波長は1.05μm以上、1.1μm以下である、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記第1母材に照射する前記レーザによって前記第1母材に投入される投入熱量が380J/mm2以上、460J/mm2以下である、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記レーザの走査速度が220mm/s以上、260mm/s以下である、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記第1母材の接合面において、前記レーザの走査方向と垂直な方向の短辺の長さが、レーザの照射径よりも大きい、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項7】
前記第1母材の上面において、前記第1母材と前記第2母材との接合面の面積が2.0mm2以上、3.5mm2以下である、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項8】
前記レーザの照射径が0.20mm以上、0.21mm以下である、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項9】
前記第3の点は前記第2の点であり、前記第4の点は前記第1の点であり、前記積層部材の前記第1の点と前記第2の点との間を往復しながらレーザを照射する段階を備える、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項10】
前記往復しながらレーザを照射する段階は、前記第1の走査経路を往復する段階を有する、請求項9に記載のレーザ溶接方法。
【請求項11】
前記第1の点と前記第2の点との間の距離が2.85mm以上、3.10mm以下である、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項12】
前記第1の点と前記第2の点との間の往復回数は5回以上、7回以下である、請求項9に記載のレーザ溶接方法。
【請求項13】
前記第1の点から前記第2の点へ前記レーザを走査するときの前記レーザの照射範囲の中心が描く第1軌跡と、前記第2の点から前記第1の点へ前記レーザを走査するときの前記レーザの照射範囲の中心が描く第2軌跡とが異なる軌跡となるように、前記第1の点と前記第2の点との間を往復する段階を備える、請求項9に記載のレーザ溶接方法。
【請求項14】
前記第1の走査経路と前記第2の走査経路との間は、予め定められた照射位置ずらし量だけ離間している、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項15】
前記照射位置ずらし量は0より大きく、0.20mm以下である、請求項14に記載のレーザ溶接方法。
【請求項16】
前記第1母材は銅を含み、前記第2母材は銅およびニッケルを含む、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項17】
前記第1の走査経路を形成する段階は、一定の出力で前記レーザを照射する段階を含む、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法を実装する、レーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「第1工程で形成した溶融池にレーザ光を照射しないように所定距離だけ離間させ、第1工程で形成した溶融池が固まる前にレーザ光を照射することを特徴」とする、レーザ溶接方法が記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2020-15053号公報
[特許文献2] 特開2017-164811号公報
[特許文献3] 特開2021-53685号公報
[特許文献4] 特開2012-178600号公報
【発明の概要】
【0003】
サイクルタイムを短くしつつ、スパッタやブローホールなどの溶接欠陥を低減することが望ましい。
【0004】
本発明の第1の態様においては、第1母材上に設けられた第2母材を含む積層部材のレーザ溶接方法であって、前記積層部材の予め定められた第1の点から、前記第1の点とは異なる第2の点までレーザを走査し、第1の走査経路を形成する段階と、前記積層部材の予め定められた第3の点から、前記第3の点とは異なる第4の点までレーザを走査することで、前記第1の走査経路と少なくとも一部を共有する第2の走査経路を形成し、前記第1の走査経路と前記第2の走査経路との共通領域において、前記第1母材および前記第2母材を溶融する段階と、を備え、前記第1母材の溶接深さが0.2mm以上、0.7mm以下である、レーザ溶接方法を提供する。
【0005】
上記レーザ溶接方法において、前記レーザ溶接方法は、キーホール型溶接であってよい。
【0006】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記レーザはファイバレーザから照射され、前記レーザの波長は1.05μm以上、1.1μm以下であってよい。
【0007】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記第1母材に照射する前記レーザによって前記第1母材に投入される投入熱量は380J/mm2以上、460J/mm2以下であってよい。
【0008】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記レーザの走査速度が220mm/s以上、260mm/s以下であってよい。
【0009】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記第1母材の接合面において、前記レーザの走査方向と垂直な方向の短辺の長さが、レーザの照射径よりも大きくてよい。
【0010】
前記第1母材の上面において、前記第1母材と前記第2母材との接合面の面積が2.0mm2以上、3.5mm2以下であってよい。
【0011】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記レーザの照射径が0.20mm以上、0.21mm以下であってよい。
【0012】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記第3の点は前記第2の点であり、前記第4の点は前記第1の点であり、前記積層部材の前記第1の点と前記第2の点との間を往復しながらレーザを照射する段階を備えてよい。
【0013】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記往復しながらレーザを照射する段階は、前記第1の走査経路を往復する段階を有してよい。
【0014】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記第1の点と前記第2の点との間の距離が2.85mm以上、3.10mm以下であってよい。
【0015】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記第1の点と前記第2の点との間の往復回数は5回以上、7回以下であってよい。
【0016】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記第1の点から前記第2の点へ前記レーザを走査するときの前記レーザの照射範囲の中心が描く第1軌跡と、前記第2の点から前記第1の点へ前記レーザを走査するときの前記レーザの照射範囲の中心が描く第2軌跡とが異なる軌跡となるように、前記第1の点と前記第2の点との間を往復する段階を備えてよい。
【0017】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記第1の走査経路と前記第2の走査経路との間は、予め定められた照射位置ずらし量だけ離間していてよい。
【0018】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記照射位置ずらし量は0より大きく、0.20mm以下であってよい。
【0019】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記第1母材は銅を含んでよく、前記第2母材は銅およびニッケルを含んでよい。
【0020】
上記いずれかのレーザ溶接方法において、前記第1の走査経路を形成する段階は、一定の出力で前記レーザを照射する段階を含んでよい。
【0021】
本発明の第2の態様においては、上記いずれかのレーザ溶接方法を実装する、レーザ溶接装置を提供する。
【0022】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】2つの母材をレーザ溶接によって接合する際の模式図である。
【
図2】レーザを走査する際の走査経路を表す模式図である。
【
図3A】スパッタ発生量と走査速度の関係を表す図である。
【
図3B】比較例における断面の様子を表す図である。
【
図3C】実施形態における断面の様子を表す図である。
【
図6A】レーザを複数回照射した後の表面の様子を表す図である。
【
図6B】レーザを複数回照射した後の接合面の様子を表す図である。
【
図6C】レーザを複数回照射した後の断面の様子を表す図である。
【
図7】溶接深さと引張せん断強度の関係を表す図である。
【
図8】投入熱量、走査速度および溶接深さの関係を表す図である。
【
図9】接合面積と引張せん断強度の関係を表す図である。
【
図10】走査速度と接合面積の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0025】
図1は、2つの母材をレーザ溶接によって接合し、半導体モジュール10を製造する際の模式図である。半導体モジュール10は、積層部材3と、絶縁基板4と、積層部材3および絶縁基板4を接着するはんだ5とを有する。
【0026】
積層部材3は、第1母材1と、第1母材上に設けられた第2母材2とを含んでよい。
図1では、積層部材3の上方からレーザ20を照射し、矢印で表したようにレーザ20を走査することで、第1母材1および第2母材2の両方が溶融し、第1母材1の下面と第2母材2の上面とがそれぞれ溶接される。
【0027】
一例では、第1母材1および第2母材2は銅、ニッケル、アルミニウム、鉄のうち少なくとも1つを含んでよい。一例では、第1母材1は純銅であってよく、第2母材2は、銅を含む母材の表面にニッケルめっきを施したものであってよい。
【0028】
第2母材2は、第1母材1よりも薄くてよい。一例では、第2母材2の厚さは、第1母材1の厚さの3分の1以下であってよく、4分の1以下であってよく、5分の1以下であってよい。一例では、第2母材2の厚さは0.8mmであってよく、第1母材1の厚さは2.4mmであってよい。
【0029】
レーザ20は、ファイバレーザから照射されてよく、炭酸ガスレーザから照射されてよい。一例では、レーザ20はIRレーザであってよく、レーザ20の波長は1.05μm以上であってよく、1.10μm以下であってよい。一例では、レーザ20はグリーンレーザであってよく、レーザ20の波長は、500nmであってよい。
【0030】
レーザ20の出力は、第1母材1と第2母材2との間で少なくともキーホールを発生させ得る値であってよい。キーホールとは、積層部材3にレーザ20が照射されることにより、第1母材1および第2母材2が蒸発し、蒸気圧により溶融池が凹形状となった結果生じる空孔である。一例では、レーザ20の出力は2850W以上であってよく、3300W以下であってよい。一例では、レーザ20の出力はレーザ20の走査中一定であってよい。
【0031】
本明細書においては、一例としてキーホール型溶接である場合について説明するが、これに限られない。即ち、溶接は熱伝導型溶接等のその他の様式で行われてもよい。
【0032】
図2は、レーザ20を積層部材3の上方から照射しつつ走査する際の上面図である。
図2に示すように、積層部材3の上方からレーザ20を照射しながら、レーザ20の照準が第1の点X1から第2の点X2まで移動するように、第1の軌跡L1に沿って走査速度Vでレーザ20を走査してよい。第1の点X1と第2の点X2との間の距離は、2.85mm以上であってよく、3.10mm以下であってよい。
【0033】
第1の走査経路R1は、レーザ20を第1の点X1から第2の点X2まで走査した際に、照射範囲が通過する領域である。線分A1は、第1の走査経路R1の上端であり、線分A2は下端である。第1の走査経路R1は、線分A1、A2及び照射範囲S1、S2に囲まれた領域である。
【0034】
照射範囲S1はレーザ20の照準が点X1にある場合における照射範囲である。照射範囲S2はレーザ20の照準が点X2にある場合における照射範囲である。照射径Sは、照射範囲の半径である。
【0035】
照射径Sはレーザ20の走査中において一定でよい。一例では、照射径Sは0.20mm以上、0.21mm以下であってよい。
【0036】
走査速度Vは、レーザ20の走査方向の速度である。走査速度Vはレーザ20の走査中において一定であってよいし、変化してもよい。走査速度Vの好ましい値については後述する。
【0037】
図3Aは、レーザ20の走査速度Vとスパッタの発生量を表したグラフである。走査速度Vが大きくなるほど、後述する溶接深さdが浅くなり、スパッタおよびブローホールの発生が低減される。ここで、ブローホールとはキーホールに入り込んだエアーが加熱されることで膨張し、溶接個所内部に空洞が生じる現象のことである。また、スパッタとはブローホールが弾けること等によって溶融金属が飛散する現象のことをいう。
【0038】
図3Aにaで示した範囲は、比較例における走査速度である。
図3Aにaで示した範囲において、スパッタの発生量は10mg以上となる。後に
図3Bに示すように、比較例においてはスパッタおよびブローホールが肉眼で確認できる程度に多く発生していることが分かる。
【0039】
また、
図3Aにbで示した範囲は、本実施形態における走査速度である。
図3Aにbで示した範囲において、スパッタの発生量は10mg以下に抑えられる。後に
図3Cに示すように、本実施形態においては、スパッタおよびブローホールの発生は肉眼で確認できない程度に抑えられている。
【0040】
本実施形態においては、走査速度Vを所定の値とすることで、レーザ20の走査中出力を一定にした場合においても、スパッタおよびブローホールの発生量を低減することができる。一例では、走査速度Vは220mm/s以上であってよく、260mm/s以下であってよい。
【0041】
図3Bは、比較例における走査後の断面図を表す図である。比較例の半導体モジュール50において、第1母材51および第1母材51の上に設けられた第2母材52を含む積層部材53の上方から、走査速度Vが190mm/sとなるように、レーザ20走査した後の断面図を示している。
【0042】
図3Bから明らかなように、比較例においては、第1母材51の内部にブローホールが発生しており、また、第2母材52の上面においてスパッタが発生している。
【0043】
一方で、
図3Cは、本実施形態における走査後の断面図を表す図である。実施形態の半導体モジュール10において、第1母材1および第1母材1の上に設けられた第2母材2を含む積層部材3の上方から、走査速度Vが230mm/sとなるように、レーザ20走査した後の断面図を示している。
【0044】
図3Cから明らかなように、本実施形態においては、ブローホールおよびスパッタがほとんど発生していないことが分かる。
【0045】
図4は、
図2におけるa-a'線上にレーザ20が照射されている際のa-a'線に沿った断面図である。レーザ20が照射されることにより、第1母材1および第2母材2は共に溶融する。溶融池6は、第1母材1および第2母材2が溶融することによって形成される、溶融金属からなる領域である。
【0046】
溶接深さdは、第1母材1の上面から測った溶融池6の深さである。溶融池6の底面に凹凸がある場合は、溶接深さdは、第1母材1の上面から測った溶融池6の下端の深さであってよい。溶接深さdは、溶融池6の最も深い位置の深さであってよい。また、溶接深さdは、溶融池6の深さのピーク位置の深さであってよい。
【0047】
本実施形態の走査速度Vは、レーザ20を単回走査する場合の走査速度よりも速いので、溶接深さdが単回走査の場合よりも浅くなる。溶接深さdは1.0mm以下であってよい。一例では、溶接深さdは0.2mm以上であってよく、0.7mm以下であってよい。
【0048】
溶接深さdが浅くなることにより、溶接個所の強度が低下することが懸念される。本実施形態においては、レーザ20を複数回走査することで、所望の溶接強度を得ることができる。
【0049】
図5Aは、レーザ20を複数回走査する際の上面図である。
図5Aにおいて、第1の走査経路R1を形成した後、更に、レーザ20の照準が第3の点X3から第4の点X4まで移動するように、第2の軌跡L2に沿って走査速度Vでレーザ20を走査する。
【0050】
第2の走査経路R2は、第3の点X3から第4の点X4までレーザ20を更に走査した際に、照射範囲が通過する領域である。線分A3は、第2の走査経路R2の上端であり、線分A4は下端である。第2の走査経路R2は、線分A3、A4及び照射範囲S3、S4に囲まれた領域である。
【0051】
照射範囲S3は、レーザ20の照準が点X3にある場合における照射範囲である。また、照射範囲S4は、レーザ20の照準が点X4にある場合における照射範囲である。
【0052】
照射範囲S1からS4、線分A2、およびA3によって囲まれた領域が、第1の走査経路R1と第2の走査経路R2との共通領域である。共通領域には複数回走査の過程でレーザ20が2度以上照射されるので、その他の走査経路上の点よりも溶接深さdが深くなる。即ち、共通領域を設けることにより、溶接強度を向上させることができる。
【0053】
第3の点X3は第2の点X2であってよく、第4の点X4は第1の点X1であってよい。また、第2の軌跡L2は第1の軌跡L1であってよい。即ち、一例において、レーザ20の複数回走査は、第1の走査経路R1を往復するように行われてよい。同一の走査経路上を往復することで、溶接深さdを深くすることができ、溶接強度を向上させることができる。
【0054】
図5Bは、レーザ20を複数回走査する際の一例である。
図5Bの例ではまず、レーザ20の照準が第1の点X1から第2の点X2まで移動するように、第1の軌跡L1に沿ってレーザ20を走査速度Vで走査する。次に、レーザ20の照準を、点X2から予め定められた照射位置ずらし量Δxだけ離れた点X3まで移動させる。
図5Bの実施形態においては、点X2から点X3まで照準を移動させる際にレーザ20を照射していないが、この際にレーザ20を照射してもよい。
【0055】
続いて、レーザ20の照準が第3の点X3から第4の点X4まで移動するように、第2の軌跡L2に沿ってレーザ20を走査速度Vで走査する。
図5Bにおいて斜線で示した、照射範囲S1からS4、線分A2、およびA3によって囲まれた領域が、第1の走査経路R1と第2の走査経路R2との共通領域である。共通領域においては、レーザ20が点X1からX2まで走査するときと、点X3からX4まで走査するときの両方において、レーザが照射される。
【0056】
照射位置ずらし量Δxは、第1の走査経路R1と第2の走査経路R2とが共通領域を有する値であればよい。また、照射位置ずらし量Δxは、照射径Sの2倍未満であってよい。一例では、Δxは0より大きく、0.20mm以下であってよい。
【0057】
図5Cは、レーザ20を複数回走査する際の一例である。
図5Cにおいて、第3の点X3は第2の点X2であってよい。また、照射範囲S2と照射範囲S3とは同一であってよい。即ち、レーザ20の照準を、点X2と異なる点まで移動させる段階を有していなくてよい。この場合であっても、第1の走査経路R1、第2の走査経路R2および共通領域の定義は、
図5Aの場合と同様である。
【0058】
図5Dは、レーザ20を複数回走査する際の一例である。
図5Dにおいて、第3の点X3は第2の点X2であってよく、第4の点X4は第1の点X1であってよい。即ち、一例において、レーザ20の複数回走査は、異なる2点の間を往復するように行われてよい。
【0059】
図5Dにおいて、第1の走査経路R1を形成する際のレーザ20の中心が描く第1の軌跡L1は、曲線であってよい。同様に、第2の走査経路R2を形成する際のレーザ20の中心が描く第2の軌跡L2も、曲線であってよい。また、第1の軌跡L1と第2の軌跡L2とは、異なる軌跡であってよい。
【0060】
更なる実施形態において、レーザ20を点X4まで走査した後、更にレーザ20を走査する段階を設けてよい。即ち、走査経路を形成する段階を3回以上設けてよい。レーザ20を走査する回数は、5回以上であってよく、7回以下であってよい。レーザ20の走査は、異なる2点の間を複数回往復するように行われてよい。
【0061】
図5Eは、レーザ20を複数回走査する際の一例である。
図5Eでは、
図5Bに示した場合のように、照射位置ずらし量Δxだけ照準をずらして走査する実施形態を表している。
図5Eでは、点X1から第14の点X14まで、合計7回に渡ってレーザ20を走査している。
【0062】
図6Aは、
図5Eのようにレーザ20を複数回照射した後の表面の様子を表す図である。
図6Aにおいては、レーザの出力をW、走査速度をV、照射径をS、照射本数をnとしたとき、W=3000W、V=230mm/s、S=0.2mm、n=7の場合における表面の様子が示されている。
【0063】
図6Bは、接合面Sjを示す上面図の一例である。
図6Bは、第1母材1及び第2母材2を
図6Aの条件で溶接した後、第2母材2を取り除いた際の第1母材1の上面の状態を表している。接合面Sjとは、第1母材1の上面と同一の平面における溶融池6の表面のことであってよく、接合面積とは、第1母材1の上面における溶融池6の面積のことであってよい。
図6Bに示したように、接合面Sjは略長方形を示す。
【0064】
一般的に、接合面Sjの接合面積が大きくなるほど、接合部分の溶接強度は増加する。一例では、接合面Sjの、レーザ20の走査方向と垂直な方向の短辺の長さは、レーザ20の照射径Sよりも大きくてよい。一例では、接合面の短辺の長さは、0.2mm以上であってよく、0.6mm以下であってよい。
【0065】
図6Cは、
図6Aの実施形態における積層部材3の断面図である。
図6Cから明らかなように、本実施形態においては、レーザ20を複数回走査した場合であっても、ブローホールおよびスパッタがほとんど発生していないことが分かる。
【0066】
ここまで、本実施形態においては、走査速度Vを単回走査の場合よりも大きくすることで、第1母材1および第2母材2の両方が溶融するような出力でレーザ20を走査しても、スパッタやブローホールなどの発生を抑えることができる。また、走査速度Vが大きくなるので、溶接深さdが単回走査の場合よりも浅くなり、接合強度が低下することが懸念されるが、レーザ20を複数回走査することで、溶接深さdおよび接合面積を調節し、所望の接合強度を得ることができる。以下では、走査速度Vと接合強度の関係について詳述する。
【0067】
図7は、溶接深さdと溶接個所の引張せん断強度との関係を表した図である。
図7より、溶接深さdが大きくなるにつれて、引張せん断強度が増加することが分かる。一例では、引張せん断強度は、20kgf以上である。溶接深さdは、0.2mm以上であってよく、0.7mm以下であってよい。
【0068】
図8は、第1母材1に入熱される単位面積当たりの投入熱量Qとレーザ20の走査速度および溶接深さdの関係を示した図である。投入熱量Qは、レーザの出力をW、走査速度をV、照射径をS、照射本数をnとしたとき、Q=nW/VSで表される。即ち、出力W、照射径Sおよび照射本数nが一定であるとき、投入熱量Qは走査速度Vの関数である。
図7においては、一例として、W=3000W、S=0.2mm、n=7の場合が示されている。
【0069】
ここで、投入熱量Qが大きすぎる場合、溶接深さdが深くなりすぎてしまい、第1母材1と絶縁基板4とを接合するはんだ5が溶融する可能性がある。一例では、投入熱量Qは380J/mm2以上、460J/mm2以下であってよい。また、走査速度Vは220mm/s以上であってよく、260mm/s以下であってよい。
【0070】
図9は、接合面積と溶接個所の引張せん断強度との関係を表した図である。
図9より、接合面積が大きくなるにつれて、引張せん断強度が増加することが分かる。一例では、接合面積は2.0mm
2以上であってよく、3.5mm
2以下であってよい。
【0071】
図10は、走査速度と接合面積の関係を表した図である。
図10より、走査速度Vが大きくなるにつれて、接合面積は減少することが分かる。一例では、走査速度Vは190mm/s以上であってよく、270mm/s以下であってよい。
【0072】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0073】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0074】
1、51・・・第1母材
2、52・・・第2母材
3、53・・・積層部材
4・・・絶縁基板
5・・・はんだ
6・・・溶融池
10、50・・・半導体モジュール
20・・・レーザ
A1、A2、A3、A4・・・線分
d・・・溶接深さ
L1・・・第1の軌跡
L2・・・第2の軌跡
n・・・照射本数
Q・・・投入熱量
R1・・・第1の走査経路
R2・・・第2の走査経路
S・・・照射径
Sj・・・接合面
S1、S2、S3、S4・・・照射範囲
V・・・走査速度
W・・・出力
X1・・・第1の点
X2・・・第2の点
X3・・・第3の点
X4・・・第4の点
X14・・・第14の点
Δx・・・照射位置ずらし量