(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034702
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】調光シート
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1345 20060101AFI20240306BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240306BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
G02F1/1345
G02F1/13 505
G02F1/1335 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139138
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安原 寿二
(72)【発明者】
【氏名】中村 玄
(72)【発明者】
【氏名】野田 里志
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
2H291
【Fターム(参考)】
2H088EA34
2H088GA10
2H088HA03
2H088HA04
2H088HA07
2H088HA11
2H092GA03
2H092GA17
2H092GA44
2H092GA48
2H092GA50
2H092HA04
2H092PA02
2H092PA06
2H092PA08
2H092QA15
2H092RA10
2H291FA01Y
2H291GA05
2H291GA08
2H291GA10
2H291GA18
2H291JA02
2H291LA27
2H291MA20
(57)【要約】
【課題】電圧降下を抑えることができる調光シートを提供する。
【解決手段】調光シート10は、液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層である第1透明電極層および第2透明電極層とを備える。調光シート10は、第1透明電極層に電圧を印加するための配線が接続される第1接続領域SAと、第2透明電極層に電圧を印加するための配線が接続される第2接続領域SBとを有する。調光シート10の表面と対向する位置から見て、第1接続領域SAおよび第2接続領域SBは、調光シート10が有する1つの辺に沿って配置される。第1透明電極層および第2透明電極層の各々の表面抵抗は、150Ω/□以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶組成物を含む調光層と、
前記調光層を挟む一対の透明電極層である第1透明電極層および第2透明電極層と、を備える調光シートであって、
前記調光シートは、前記第1透明電極層に電圧を印加するための配線が接続される第1接続領域と、前記第2透明電極層に電圧を印加するための配線が接続される第2接続領域とを有し、
前記調光シートの表面と対向する位置から見て、前記第1接続領域および前記第2接続領域は、前記調光シートが有する1つの辺に沿って配置され、
前記第1透明電極層および前記第2透明電極層の各々の表面抵抗は、150Ω/□以下である
調光シート。
【請求項2】
前記第1透明電極層および前記第2透明電極層の各々の表面における最大山高さRpが、200nm以下である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記調光層と前記一対の透明電極層との間に位置する一対の絶縁層を備える
請求項1に記載の調光シート。
【請求項4】
前記調光シートは、車載用ドアガラスに適用される形状を有し、
前記第1接続領域および前記第2接続領域は、前記車載用ドアガラスの下辺に対応する辺に沿って、前記車載用ドアガラスの角部に対応する位置に配置されている
請求項1に記載の調光シート。
【請求項5】
前記調光層は、透明機能層をさらに備え、
前記第1透明電極層および前記第2透明電極層の各々における可視領域の吸収帯と、前記透明機能層における可視領域の吸収帯とは互いに異なり、
CIE1976(L*a*b*)表色系において、各透明電極層の色度b*は正であり、前記透明機能層の色度b*は負である
請求項1に記載の調光シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過率の可変な調光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層とを備えており、一対の透明電極層間に駆動電圧が印加される。駆動電圧の印加の有無に応じて液晶分子の配向状態が変わることから、調光層を光が透過する透明状態と、調光層で光が散乱する不透明状態とを切り替えることが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記駆動電圧は、調光シートの端部に接続された配線を通じて調光シートに入力される。配線が接続された領域である接続領域から離れるにつれて、調光シートにかかる電圧は、接続領域への入力電圧よりも降下する。調光シートが大判になるほど、接続領域から最も離れた領域である遠端領域における電圧降下が大きくなるため、遠端領域にて透明状態と不透明状態との切り換えが困難になる問題が生じる。
【0005】
入力電圧を大きくすれば、電圧降下が生じたとしても、遠端領域にかかる電圧を大きくできるため、上記問題の発生を抑えることは可能である。しかしながら、入力電圧を大きくすると、透明電極層や調光層へのダメージが大きくなって調光シートの長期的な信頼性が低下し、さらに、電力消費量が増大するため環境負荷も大きくなる。
【0006】
また、例えば調光シートにおける対向する二辺の各々に沿った箇所に接続領域を配置するように、接続領域を増やして遠端領域までの距離を短くすることで電圧降下を小さくすることも考えられる。しかしながら、接続領域を増やせば、接続領域から配線が引き出される箇所も増えるため、調光シートの意匠性が低下し、また、調光シートの設置場所についての制約も大きくなる。
【0007】
また、調光シートに流れる電流を大きくするために、接続領域に接続される配線基板の数や大きさを増大させることも考えられる。しかしながら、この場合も調光シートの意匠性の低下が避けられない。
したがって、電圧降下を抑えることのできる新たな構成が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための調光シートの各態様を記載する。
[態様1]液晶組成物を含む調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層である第1透明電極層および第2透明電極層と、を備える調光シートであって、前記調光シートは、前記第1透明電極層に電圧を印加するための配線が接続される第1接続領域と、前記第2透明電極層に電圧を印加するための配線が接続される第2接続領域とを有し、前記調光シートの表面と対向する位置から見て、前記第1接続領域および前記第2接続領域は、前記調光シートが有する1つの辺に沿って配置され、前記第1透明電極層および前記第2透明電極層の各々の表面抵抗は、150Ω/□以下である調光シート。
【0009】
上記構成によれば、電圧降下が抑えられるため、調光シートの広い範囲で、透明状態と不透明状態との切り替えが良好に可能である。
【0010】
[態様2]前記第1透明電極層および前記第2透明電極層の各々の表面における最大山高さRpが、200nm以下である[態様1]に記載の調光シート。
上記構成によれば、高電圧印加時に透明電極層の表面の隆起部分が変質して黒点が形成されることが抑えられる。そのため、調光シートの外観品質の低下が抑えられる。
【0011】
[態様3]前記調光層と前記一対の透明電極層との間に位置する一対の絶縁層を備える[態様1]または[態様2]に記載の調光シート。
上記構成によれば、調光層が薄い場合であっても、高電圧印加時に黒点の形成が抑えられる。
【0012】
[態様4]前記調光シートは、車載用ドアガラスに適用される形状を有し、前記第1接続領域および前記第2接続領域は、前記車載用ドアガラスの下辺に対応する辺に沿って、前記車載用ドアガラスの角部に対応する位置に配置されている[態様1]~[態様3]のいずれか1つに記載の調光シート。
【0013】
上記構成によれば、接続領域から湾曲した辺の各部までの距離のばらつきが大きくなることが抑えられるため、調光シートの端部にかかる電圧が均等になりやすく、端部の一部で電圧降下が大きくなることが抑えられる。そのため、調光シートの広い範囲で透明状態と不透明状態との安定した切り替えが可能である。
【0014】
[態様5]前記調光層は、透明機能層をさらに備え、前記第1透明電極層および前記第2透明電極層の各々における可視領域の吸収帯と、前記透明機能層における可視領域の吸収帯とは互いに異なり、CIE1976(L*a*b*)表色系において、各透明電極層の色度b*は正であり、前記透明機能層の色度b*は負である[態様1]~[態様4]のいずれか1つに記載の調光シート。
【0015】
上記構成によれば、黄色味を有する透明電極層の影響が、青味を有する透明機能層によって補正されるため、透明状態において調光シートが無色に見えやすくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、調光シートにおける電圧降下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態の調光シートの平面構造を示す図。
【
図2】一実施形態の調光シートの層構成および電気的構成を示す図。
【
図3】一実施形態の調光シートの層構成および電気的構成の他の例を示す図。
【
図4】一実施形態の調光シートの層構成および電気的構成の他の例を示す図。
【
図5】一実施形態の調光シートの平面構造の変形例を示す図。
【
図6】一実施形態の調光シートの平面構造の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、調光シートの一実施形態を説明する。
[調光シートの構成]
図1および
図2を参照して、調光シートの構成を説明する。
図1に示すように、調光シート10の表面と対向する位置から見て、調光シート10は、略矩形形状を有し、調光領域Siと、第1接続領域SAおよび第2接続領域SBとを含む。調光領域Siは、光透過率の可変な領域であり、接続領域SA,SBは調光シート10に駆動電圧を印加するための配線部61,62が接続される領域である。第1接続領域SAには第1配線部61が接続され、第2接続領域SBには第2配線部62が接続される。
【0019】
2つの接続領域SA,SBは、調光シート10の端部に位置し、調光シート10の一辺に沿って並ぶ。例えば、接続領域SA,SBは、調光シート10の1つの角部の付近に配置される。
【0020】
図2は、調光シート10の層構成および電気的構成を示す。調光シート10は、調光層20、第1透明電極層31、第2透明電極層32、第1透明支持層41、および、第2透明支持層42を備えている。調光層20は、第1透明電極層31と第2透明電極層32とに挟まれ、これらの透明電極層31,32に接している。第1透明支持層41は、第1透明電極層31に対して調光層20と反対側で第1透明電極層31を支持し、第2透明支持層42は、第2透明電極層32に対して調光層20と反対側で第2透明電極層32を支持している。
【0021】
調光層20は、透明高分子層と液晶組成物とを含んでいる。透明高分子層は、空隙を有しており、液晶組成物が、この空隙に充填されている。空隙の形状は、球形状、楕円体状、あるいは、不定形状である。
【0022】
調光層20における液晶組成物の保持型式は、ポリマーネットワーク型、高分子分散型、および、カプセル型のいずれかである。ポリマーネットワーク型の調光層20は、3次元の網目状を有したポリマーネットワークを備える。ポリマーネットワークは、透明高分子層の一例であり、ポリマーネットワークにおける相互に連通した網目の空隙のなかに液晶組成物が保持される。高分子分散型の調光層20は、孤立した多数の空隙を区画する透明高分子層を備え、透明高分子層に分散した空隙のなかに液晶組成物が保持される。カプセル型の調光層20は、透明高分子層のなかに分散したカプセル内の空隙に液晶組成物を保持する。
【0023】
透明高分子層は、光重合性化合物の重合体である。光重合性化合物は、例えば、紫外線重合性化合物である。紫外線重合性化合物は、例えば、ブチルエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアクリレート化合物、N,N‐ジメチルアミノエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート等のメタクリレート化合物、スチルベン化合物、ジアクリレート化合物、ジメタクリレート化合物、トリアクリレート化合物、トリメタクリレート化合物、テトラアクリレート化合物、テトラメタクリレート化合物、これらの各化合物のオリゴマーである。調光層20の総質量に対する透明高分子層の割合は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0024】
液晶組成物は、例えば、誘電率異方性が正の液晶分子を含む。すなわち、液晶分子の長軸方向の誘電率は、液晶分子の短軸方向の誘電率よりも大きい。
液晶分子は、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、ピリダジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ジシアノベンゼン系、ナフタレン系、ジオキサン系の化合物である。
液晶組成物は、液晶分子に加えて、二色性色素、粘度低下剤、消泡剤、酸化防止剤、耐候剤等を含有してもよい。耐候剤の一例は、紫外線吸収剤や光安定剤である。
【0025】
また、調光層20は、透明高分子層の全体に渡って分散されたスペーサを含んでいてもよい。スペーサは、スペーサの周辺において調光層20の厚さを定めることにより、調光層20の厚さを均一化する。スペーサは、透光性を有していれば、ビーズスペーサでもよいし、フォトレジストの露光および現像によって形成されるフォトスペーサでもよい。
【0026】
第1透明電極層31および第2透明電極層32の各々は、導電性を有し、可視領域の光に対して透明である。透明電極層31、32の材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)、銀や銀合金等である。
【0027】
第1透明電極層31および第2透明電極層32の各々の表面抵抗は、150Ω/□以下である。表面抵抗は、透明支持層41,42に接する面とは反対側の面に対して、4探針法を用いて、JIS K 7194に準拠して測定される。
【0028】
第1透明支持層41および第2透明支持層42の各々は、可視領域の光に対して透明な基材である。透明支持層41,42の材料は、例えば、合成樹脂や無機化合物である。合成樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン等である。無機化合物は、例えば、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素等である。
【0029】
第1配線部61は、第1接続領域SAにて第1透明電極層31に接続し、第2配線部62は、第2接続領域SBにて第2透明電極層32に接続している。第1接続領域SAでは、第1透明電極層31が、調光層20と第2透明電極層32および第2透明支持層42とから露出しており、第2接続領域SBでは、第2透明電極層32が、調光層20と第1透明電極層31および第1透明支持層41とから露出している。なお、
図2では、便宜上、第1配線部61が位置する端部と反対側に第2配線部62を配置して示しているが、配線部61,62の配置は
図1を用いて説明した通りである。
【0030】
第1配線部61および第2配線部62の各々は、例えば、導電性接着層と、配線基板とを備える。導電性接着層は、例えば、異方性導電フィルム(ACF : Anisotropic Conductive Film)、異方性導電ペースト(ACP : Anisotropic Conductive Paste)、等方性導電フィルム(ICF : Isotropic Conductive Film)、等方性導電ペースト(ICP : Isotropic Conductive Paste)等から形成される。配線基板は、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC : Flexible Printed Circuits)である。
あるいは、第1配線部61および第2配線部62の各々は、導電性テープ等の導電性材料と導線とがはんだ付けによって接合された構造を有していてもよい。
【0031】
透明電極層31,32は、配線部61,62を介して、制御部60に電気的に接続されている。制御部60は、液晶分子の配向状態を変えるための交流電圧である駆動電圧を、透明電極層31,32に配線部61,62を通じて印加する。電圧の印加の有無の制御および印加する電圧の大きさの制御を通じて、制御部60は、透明電極層31,32間の電位差を制御する。調光シート10と制御部60と配線部61,62とから調光装置が構成される。
【0032】
調光シート10は、液晶分子の配向状態の変化に基づいて、透明状態と不透明状態とのうちの一方から他方へ切り替わる。透明状態は、光透過率、すなわち平行線透過率が相対的に高い状態であり、不透明状態は、光透過率が相対的に低い状態である。また、透明状態は、ヘイズが相対的に低い状態であり、不透明状態は、ヘイズが相対的に高い状態である。
【0033】
駆動電圧が印加されていないとき、液晶分子の長軸方向の向きは不規則である。そのため、液晶分子の複屈折率や液晶分子と透明高分子層との屈折率差に起因して、調光シート10に入射した光は、調光層20にて様々な方向に散乱される。したがって、調光シート10は、駆動電圧が印加されていないときに、不透明状態となる。
【0034】
液晶分子の誘電率異方性が正の場合、駆動電圧が印加されると、液晶分子は、その長軸方向が電界方向に沿う向きに配向される。すなわち、調光層20の厚さ方向に長軸方向が沿うように、液晶分子の向きが変わる。その結果、調光層20での光の散乱が抑えられ、調光シート10を光が透過しやすくなる。したがって、調光シート10は、駆動電圧が印加されているときに、透明状態となる。
【0035】
調光シート10の表面および裏面の少なくとも一方は、ガラスや樹脂等からなる透明板に貼り付けられる。透明板は、例えば、各種の建物が備える窓ガラス、屋内に設置されたパーティション、車両や航空機等の移動体が備える窓ガラスやウインドシールドである。透明板の表面は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。
【0036】
[調光シートの特性]
交流電圧によって駆動される大判の調光シート10の等価回路は、調光層20の抵抗値に対応する抵抗と調光層20の静電容量に対応するコンデンサとの並列回路が、第1透明電極層31および第1配線部61の抵抗値に対応する抵抗と、第2透明電極層32および第2配線部62の抵抗値に対応する抵抗との間に直列に接続された回路である。
【0037】
調光シート10の電圧降下を抑えるためには、上記回路の合成インピーダンスを下げることが必要であるが、調光層20について光学特性に加えて静電容量等の電気的特性まで制御しようとすれば、調光層20の設計や製造が困難となる。そこで、本実施形態では、透明電極層31,32の抵抗を小さくすることで、合成インピーダンスを小さくし、これによって電圧降下を抑えている。
【0038】
具体的には、透明電極層31,32の表面抵抗が150Ω/□以下であることにより、調光シート10のなかで接続領域SA,SBから最も離れた領域である遠端領域での電圧降下を好適に抑えることができる。これにより、遠端領域においても、透明状態と不透明状態との切り替えが良好に可能である。こうした効果は、調光シート10が大判である場合、すなわち、調光シート10において最も長い辺である長辺が500mm以上である場合に良好に得られ、さらに、調光シート10の長辺が2000mm以上である場合に顕著である。
【0039】
透明電極層31,32の表面抵抗は、透明電極層31,32の材料や厚さによって変えることができる。例えば、透明電極層31,32の材料が酸化インジウムスズ等の酸化物である場合、酸素量を低下させることで表面抵抗を小さくすることができる。また、透明電極層31,32の材料として銀合金等の合金を用いれば、酸化物からなる透明電極層31,32よりも表面抵抗を小さくすることができる。なお、透明電極層31,32の材料として銀等の金属系材料を用いることで、赤外光の吸収が可能であることから、遮熱効果も得られる。
【0040】
また、透明電極層31,32を厚くすることで、表面抵抗を小さくすることができる。第1透明電極層31および第2透明電極層32の各々の厚さは、例えば、30nm以上200nm以下である。
【0041】
なお、透明状態と不透明状態との透明度の違いを視認可能とするためには、透明状態における調光シート10の可視光の透過率は、4%以上であればよい。また、第1透明電極層31と第1透明支持層41との積層体、および、第2透明電極層32と第2透明支持層42との積層体における可視光の透過率は、20%以上であることが好ましい。
【0042】
ところで、透明電極層31,32の表面に大きく隆起した部分があると、調光シート10に過電圧がかかった場合や、過電圧に対する耐性を検査する試験にて調光シート10に高電圧がかけられた場合に、隆起部分と対向する電極との間に局所的に大電流が流れ、これによって隆起部分が変質して黒点状に視認されることがある。こうした黒点の形成は、調光シート10の外観品質を低下させるため好ましくない。
【0043】
隆起部分は、例えば、スパッタリングにより透明電極層31,32を形成する場合に、ターゲットに生じる電気的偏りやアーキングの発生に起因して形成される。透明電極層31,32の表面抵抗を小さくするために、透明電極層31,32を厚くする場合、隆起部分も大きくなりやすいため、黒点も形成されやすくなる。
【0044】
こうした黒点の形成を抑えることにより調光シート10の外観品質の低下を抑えるためには、透明電極層31,32の表面における最大山高さRpが、200nm以下であることが好ましい。最大山高さRpは、透明支持層41,42に接する面とは反対側の面に対して、JIS B 0601に準拠して測定される。
【0045】
なお、調光層20が厚いほど、黒点の形成を抑えることができる。調光層20の厚さは、例えば、5μm以上20μm以下である。黒点の形成の好適な抑制のためには、調光層20の厚さは15μm以上であることが好ましい。
【0046】
また、透明電極層31,32と調光層20との間に絶縁層を配置することによっても、黒点の形成を抑えることが可能である。
図3を参照して、絶縁層の一例である配向層を備える調光シートの構成を説明する。
【0047】
図3に示すように、調光シート11は、調光層20、透明電極層31,32、透明支持層41,42に加えて、第1配向層51と第2配向層52とを備えている。第1配向層51は、調光層20と第1透明電極層31との間に位置し、これらの層と接する。第2配向層52は、調光層20と第2透明電極層32との間に位置し、これらの層と接する。
【0048】
第1配向層51および第2配向層52は、液晶分子の配向を規制する。配向層51,52は、例えば、垂直配向膜である。垂直配向膜は、液晶分子を、その長軸方向が調光層20の厚さ方向に沿うように配向させる。配向層51,52が垂直配向膜である場合、液晶分子としては、誘電率異方性が負の液晶分子、すなわち、長軸方向の誘電率が短軸方向の誘電率よりも小さい液晶分子が用いられる。
【0049】
配向層51,52の材料は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物等の有機化合物、シリコン酸化物、酸化ジルコニウム等の無機化合物、シリコーン等である。配向層51,52を形成するための配向処理は、例えば、ラビング処理、偏光照射処理、微細加工処理である。
【0050】
調光シート11では、駆動電圧が印加されていないとき、配向層51,52からの配向規制力を受けて、液晶分子は、その長軸方向が調光層20の厚さ方向に沿う向きとなる。その結果、調光層20での光の散乱が抑えられ、調光シート11を光が透過しやすくなる。したがって、調光シート11は、駆動電圧が印加されていないときに、透明状態となる。
【0051】
液晶分子の誘電率異方性が負の場合、駆動電圧が印加されると、液晶分子は、その長軸方向が電界方向に直交する向きに配向される。すなわち、長軸方向が調光層20の厚さ方向に略直交する向きとなるように、液晶化合物の向きが変わる。その結果、調光層20で光の散乱が生じやすくなる。したがって、調光シート11は、駆動電圧が印加されているときに、不透明状態となる。
【0052】
調光シート11においては、透明電極層31,32の表面の隆起部分が配向層51,52で覆われるため、調光シート11に高電圧がかけられた場合でも、隆起部分の変質が生じ難く、すなわち、黒点が形成されにくい。したがって、調光シート11の外観品質の低下を抑えることができる。こうした効果を高めるためには、第1配向層51および第2配向層52の各々の厚さは、60nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0053】
なお、駆動電圧の印加による液晶分子の配向状態の変化に基づいて、調光シートの透明状態と不透明状態とが切り換えられるように構成されていれば、調光シートの層構成は
図2や
図3に示した構成に限られない。例えば、調光シートは、調光層20に対する入射光あるいは透過光の偏光を制御する偏光層を備えていてもよいし、配向層51,52は水平配向膜であってもよい。駆動電圧の印加時に調光シートが透明状態となるか不透明状態となるかは、配向層51,52の有無、配向層51,52による配向規制力の働く方向、液晶化合物における誘電率異方性の正負、偏光層の有無等によって変えることができる。
【0054】
また、特に透明電極層31,32の材料が酸化インジウムスズである場合、透明電極層31,32の表面抵抗を小さくするために、透明電極層31,32における酸素量や厚さを増大させると、透明電極層31,32が黄色味を帯びる。そこで、調光シートが黄色っぽく見えることを抑えるために、青味を帯びた透明機能層が調光シートに加えられることが好ましい。
【0055】
透明機能層は、例えば、調光シートの表面に配置されるハードコート層、赤外線を遮断する機能を有するIRカット層、これらのハードコート層やIRカット層を調光シートの他の層に接合するための粘着層、第1透明支持層41あるいは第2透明支持層42を調光シートの取付対象である透明板に接合するための粘着層である。
【0056】
図4は、透明機能層を備える調光シート12の層構成の一例を示す。
図4においては、第1透明支持層41の上に透明機能層70が積層された構成を例示しているが、透明機能層70は、透明機能層70の機能に応じた位置に配置されればよい。また、
図4では、調光シート10と同一の層構成に対し透明機能層70が積層された構成を例示しているが、透明機能層70以外の層構成には上述した調光シート11の層構成が適用されてもよい。
【0057】
透明電極層31,32における可視領域の吸収帯と、透明機能層70における可視領域の吸収帯とは、互いに異なっている。透明電極層31,32は、500nm以下の波長域に高い吸収を示す。一方、透明機能層70は、600nm以上の波長域に高い吸収を示す。
【0058】
透明電極層31,32および透明機能層70の色を、JIS Z 8781 4に準拠するCIE1976(L*a*b*)表色系を用いて表すとき、透明電極層31,32の色度b*は正であり、透明機能層70の色度b*は負である。
【0059】
これにより、透明状態において、調光シート12の色度a*および色度b*は、-8≦a*≦8、かつ、-8≦b*≦8を満たす。それゆえ、調光シート12が無色に見えやすくなる。さらに、透明状態において、調光シート12の色度a*および色度b*は、-3≦a*≦3、かつ、-3≦b*≦3を満たすことが好ましい。
【0060】
[変形例]
調光シート10の変形例について説明する。なお、以下の変形例には、調光シート11あるいは調光シート12の構成が適用されてもよい。
【0061】
図5に示すように、第1接続領域SAおよび第2接続領域SBの各々は、調光シート10の一辺に沿って並んでいれば、複数設けられていてもよい。複数の第1接続領域SAのそれぞれに第1配線部61が接続され、複数の第2接続領域SBのそれぞれに第2配線部62が接続される。
【0062】
接続領域SA,SBが複数設けられていたとしても、すべての接続領域SA,SBが調光シート10の一辺に沿って並んでいれば、この一辺に沿った箇所からのみ、配線が引き出される。それゆえ、複数の辺のそれぞれに沿って接続領域SA,SBが配置される場合と比較して、調光シート10の意匠性が低下することや、調光シート10の設置場所についての制約が大きくなることは抑えられる。
【0063】
一方で、接続領域SA,SBが複数設けられていることにより、接続領域SA,SBから遠端領域までの距離を短くすることができる。例えば、
図1に示したように、調光シート10の1つの角部付近に接続領域SA,SBが配置されている場合、当該角部と対向する角部付近の領域が遠端領域である。これに対し、
図5に示すように、調光シート10の一辺の両端付近の各々に接続領域SA,SBが配置されている場合、当該一辺と対向する辺の中央付近の領域が遠端領域である。
このように、接続領域SA,SBが多い方が、接続領域SA,SBから遠端領域までの距離が短くなるため、遠端領域での電圧降下を小さくすることができる。
【0064】
図6に示すように、調光シート10は、車載用ドアガラスに適用される形状を有していてもよい。この場合、調光シート10は、角部を形成する2つの直線と、これらの直線の端部を繋ぎ、上記角部に対して凸となるように湾曲する曲線とに囲まれる形状に近似した形状を有する。そして、2つの直線に対応する辺のうち、略水平に延びて車載用ドアガラスの下辺に対応する辺に沿って、上記角部に接続領域SA,SBが配置される。言い換えれば、接続領域SA,SBは、調光シート10の辺のなかで湾曲した部分と対向する領域に配置される。
【0065】
これにより、接続領域SA,SBから湾曲した辺の各部までの距離のばらつきが大きくなることが抑えられる。それゆえ、調光シート10の端部にかかる電圧が均等になりやすく、端部の一部で電圧降下が大きくなることが抑えられる。そのため、調光シート10の全域で透明状態と不透明状態との安定した切り替えが可能である。
【0066】
[実施例]
上述した調光シートについて、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
【0067】
透明電極層の表面抵抗と電圧降下との関係について、実施例および比較例の調光シートを作製して検証した。
(実施例1)
ポリマーネットワーク型の調光層を備える調光シートを作製した。実施例1の調光シートは
図2に示した層構成を有する。
【0068】
具体的には、紫外線重合性化合物であるアクリル系モノマーと誘電率異方性が正である液晶組成物と重合開始剤とを混合して塗布液を作製し、第1透明支持層に支持された第1透明電極層と、第2透明支持層に支持された第2透明電極層との間に挟まれるように、塗膜を形成した。そして、塗膜を挟んだ積層体に紫外線を照射した。これにより、塗膜中のアクリル系モノマーが重合してポリマーネットワークを形成すると共に液晶組成物の相分離が生じ、ポリマーネットワーク中に液晶組成物が保持された調光層が形成された。
各透明支持層の材料はポリエチレンテレフタレートである。各透明電極層の材料は、酸化インジウムスズであり、各透明電極層の表面抵抗は150Ω/□である。
【0069】
(実施例2)
第1透明電極層および第2透明電極層の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例2の調光シートを得た。各透明電極層の材料は、酸化インジウムスズであり、各透明電極層の表面抵抗は80Ω/□である。実施例1と実施例2とでは、透明電極層の厚さが異なる。
【0070】
(実施例3)
第1透明電極層および第2透明電極層の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例3の調光シートを得た。各透明電極層の材料は、酸化インジウムスズであり、各透明電極層の表面抵抗は50Ω/□である。実施例1と実施例3とでは、透明電極層の厚さが異なる。
【0071】
(実施例4)
第1透明電極層および第2透明電極層の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例4の調光シートを得た。各透明電極層の材料は、酸化インジウムスズであり、各透明電極層の表面抵抗は30Ω/□である。実施例1と実施例4とでは、透明電極層の厚さが異なる。
【0072】
(実施例5)
第1透明電極層および第2透明電極層の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例5の調光シートを得た。各透明電極層の材料は、銀合金であり、各透明電極層の表面抵抗は10Ω/□である。実施例1と実施例5とでは、透明電極層の材料および厚さが異なる。
【0073】
(実施例6)
第1透明電極層および第2透明電極層の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例6の調光シートを得た。各透明電極層の材料は、銀合金であり、各透明電極層の表面抵抗は8Ω/□である。実施例1と実施例6とでは、透明電極層の材料および厚さが異なる。
【0074】
(実施例7)
第1透明電極層および第2透明電極層の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例7の調光シートを得た。各透明電極層の材料は、銀ナノワイヤーであり、各透明電極層の表面抵抗は30Ω/□である。実施例1と実施例7とでは、透明電極層の材料および厚さが異なる。
【0075】
(比較例1)
第1透明電極層および第2透明電極層の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、比較例1の調光シートを得た。各透明電極層の材料は、酸化インジウムスズであり、各透明電極層の表面抵抗は300Ω/□である。実施例1と比較例1とでは、透明電極層の厚さが異なる。
【0076】
(比較例2)
第1透明電極層および第2透明電極層の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、比較例2の調光シートを得た。各透明電極層の材料は、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)であり、各透明電極層の表面抵抗は170Ω/□である。実施例1と比較例2とでは、透明電極層の材料および厚さが異なる。
【0077】
(評価方法)
<電圧降下測定>
各実施例および各比較例の調光シートを、短辺が1000mm、長辺が3000mmの長方形状に成形し、条件1と条件2の2種類の条件下で電圧降下測定を実施した。
【0078】
条件1では、1つの短辺に沿って、角部に第1接続領域と第2接続領域とを1つずつ形成して、第1配線部と第2配線部とを接続した。配線部としては、幅が50mmのFPCを用いた。そして、接続領域を配置した角部と対向する角部を測定対象領域とした。
【0079】
条件2では、1つの短辺に沿って、当該短辺の一方の端部に位置する角部に第1接続領域と第2接続領域とを1つずつ形成し、さらに、当該短辺の他方の端部に位置する角部に第1接続領域と第2接続領域とを1つずつ形成した。そして、各第1接続領域に第1配線部を接続し、各第2接続領域に第2配線部を接続した。配線部としては、幅が50mmのFPCを用いた。そして、接続領域を配置した短辺と対向する短辺の中央部を測定対象領域とした。
以上のように、条件1では2極から電圧が入力され、条件2では4極から電圧が入力される。
【0080】
電圧降下測定では、各入力電圧を入力したときの、接続領域での実効電圧と測定対象領域での実効電圧とを測定した。入力電圧は、交流電圧であり、接続領域での実効電圧が、40V以上120V以下の範囲で20V間隔となるように設定した。そして、各入力電圧について、以下の(式1)に従って電圧降下率を算出し、各入力電圧の電圧降下率の平均値を、実施例ごとの電圧降下率Drとした。すなわち、電圧降下率は、接続領域の実効電圧に対する、接続領域と測定対象領域との実効電圧の差の百分率である。
電圧降下率(%)=(接続領域の実効電圧-測定対象領域の実効電圧)×100/接続領域の実効電圧 ・・・(式1)
【0081】
<駆動確認>
接続領域での実効電圧が80Vとなるように交流電圧である入力電圧を設定し、各実施例および各比較例について、入力電圧のオンオフを切り替えたときに、調光シートの全域で透明状態と不透明状態とが切り換えられるかを目視によって確認した。評価においては、調光シートの全域で透明状態と不透明状態とが切り換えられる場合を「○」、調光シートのなかに透明状態と不透明状態とが切り換えられない領域がある場合を「×」とした。
【0082】
(評価結果)
表1に、各実施例および各比較例について、透明電極層の表面抵抗、透明電極層と透明支持層との積層体の光透過率、条件1および条件2での電圧降下率Drと駆動確認の評価結果を示す。
【0083】
【0084】
表1に示すように、条件1よりも条件2の方が、接続領域と測定対象領域との距離が短くなるため、電圧降下率は小さくなっている。実施例1~7が示すように、透明電極層の表面抵抗が150Ω/□以下であれば、条件1であっても電圧降下率Drが50%以下に抑えられ、調光シートの全域で透明状態と不透明状態との切り替えが可能である。
【0085】
一方、比較例1,2が示すように、電圧降下率Drが75%を超えると、測定対象領域付近にて透明状態と不透明状態との切り換えが動作しなかった。
【0086】
高電圧印加時の黒点の形成について、試験例の調光シートを作製して検証した。
(試験例1)
ポリマーネットワーク型の調光層を備える調光シートを作製した。試験例1の調光シートは
図2に示した層構成を有する。
【0087】
具体的には、紫外線重合性化合物であるアクリル系モノマーと誘電率異方性が正である液晶組成物と重合開始剤とを混合して塗布液を作製し、第1透明支持層に支持された第1透明電極層と、第2透明支持層に支持された第2透明電極層との間に挟まれるように、塗膜を形成した。そして、塗膜を挟んだ積層体に紫外線を照射した。これにより、塗膜中のアクリル系モノマーが重合してポリマーネットワークを形成すると共に液晶組成物の相分離が生じ、ポリマーネットワーク中に液晶組成物が保持された調光層が形成された。調光層の厚さは5μmである。
各透明支持層の材料はポリエチレンテレフタレートである。各透明電極層の材料は、酸化インジウムスズであり、各透明電極層の最大山高さRpは、15nmである。
【0088】
(試験例2)
表面粗さの異なる透明電極層を用いたこと以外は、試験例1と同様の材料および工程によって、試験例2の調光シートを得た。試験例2において、調光層の厚さは5μmであり、各透明電極層の最大山高さRpは、80nmである。
【0089】
(試験例3)
表面粗さの異なる透明電極層を用いたこと以外は、試験例1と同様の材料および工程によって、試験例3の調光シートを得た。試験例3において、調光層の厚さは5μmであり、各透明電極層の最大山高さRpは、180nmである。
【0090】
(試験例4)
表面粗さの異なる透明電極層を用いたこと、および、調光層の厚さを変更したこと以外は、試験例1と同様の材料および工程によって、試験例4の調光シートを得た。試験例4において、調光層の厚さは20μmであり、各透明電極層の最大山高さRpは、320nmである。
【0091】
(試験例5)
表面粗さの異なる透明電極層を用いたこと以外は、試験例1と同様の材料および工程によって、試験例5の調光シートを得た。試験例5において、調光層の厚さは5μmであり、各透明電極層の最大山高さRpは、320nmである。
【0092】
(試験例6)
表面粗さの異なる透明電極層を用いたこと、および、調光層の厚さを変更したこと以外は、試験例1と同様の材料および工程によって、試験例6の調光シートを得た。試験例6において、調光層の厚さは20μmであり、各透明電極層の最大山高さRpは、520nmである。
【0093】
(試験例7)
表面粗さの異なる透明電極層を用いたこと以外は、試験例1と同様の材料および工程によって、試験例7の調光シートを得た。試験例7において、調光層の厚さは5μmであり、各透明電極層の最大山高さRpは、520nmである。
【0094】
(高電圧印加試験)
試験例1~7の調光シートに高電圧の試験電圧を印加し、印加後の調光シートに黒点が形成されているかを目視によって確認した。黒点が観察されない場合を「○」、1~5個の黒点が観察される場合を「△」、6個以上の黒点が観察される場合を「×」とした。各試験例の調光シートの面積は7.0×105mm2である。
【0095】
(試験結果)
表2に、試験例1~7について、透明電極層の最大山高さRp、調光層の厚さ、試験電圧、試験結果を示す。
【0096】
【0097】
表2に示すように、最大山高さRpが520nmである試験例6,7では、調光層の厚さが20μmの場合も5μmの場合も、黒点が観察された。一方、最大山高さRpが320nmである試験例4,5では、調光層の厚さが20μmの場合には黒点が観察されなかったが、調光層の厚さが5μmの場合には黒点が観察された。そして、最大山高さRpが200nm以下である試験例1~3では、調光層の厚さが5μmである場合に黒点が観察されなかった。
【0098】
以上のことから、調光層が厚いほど、透明電極層の最大山高さRpが大きくても黒点の形成を抑えられるが、最大山高さRpが200nm以下であれば、調光層が薄い場合でも黒点の形成を抑えることができることが確認された。
【0099】
(試験例11)
ポリマーネットワーク型の調光層を備える調光シートを作製した。試験例11の調光シートは
図2に示した層構成を有する。
【0100】
具体的には、紫外線重合性化合物であるアクリル系モノマーと誘電率異方性が正である液晶組成物と重合開始剤とを混合して塗布液を作製し、第1透明支持層に支持された第1透明電極層と、第2透明支持層に支持された第2透明電極層との間に挟まれるように、塗膜を形成した。そして、塗膜を挟んだ積層体に紫外線を照射した。これにより、塗膜中のアクリル系モノマーが重合してポリマーネットワークを形成すると共に液晶組成物の相分離が生じ、ポリマーネットワーク中に液晶組成物が保持された調光層が形成された。調光層の厚さは5μmである。各透明支持層の材料はポリエチレンテレフタレートである。各透明電極層の材料は、酸化インジウムスズである。
【0101】
(試験例12,13)
各透明電極層上に配向層を形成し、第1配向層と第2配向層との間に塗膜が挟まれるようにして調光層を形成したこと以外は、試験例11と同様の材料および工程によって、試験例12,13の調光シートを得た。なお、液晶組成物としては、誘電率異方性が負である液晶組成物を用いた。試験例12,13の調光シートは
図3に示した層構成を有する。配向層の材料はポリイミドである。
【0102】
(試験例14)
調光層の厚さを7μmに変更したこと以外は、試験例11と同様の材料および工程によって、試験例14の調光シートを得た。
【0103】
(試験例15)
各透明電極層上に配向層を形成し、第1配向層と第2配向層との間に調光層が挟まれるように調光層を形成したこと、および、調光層の厚さを7μmに変更したこと以外は、試験例11と同様の材料および工程によって、試験例15の調光シートを得た。なお、液晶組成物としては、誘電率異方性が負である液晶組成物を用いた。試験例15の調光シートは
図3に示した層構成を有する。配向層の材料はポリイミドである。
【0104】
(試験例16)
調光層の厚さを16μmに変更したこと以外は、試験例11と同様の材料および工程によって、試験例16の調光シートを得た。
【0105】
(試験例17)
調光層の厚さを20μmに変更したこと以外は、試験例11と同様の材料および工程によって、試験例17の調光シートを得た。
【0106】
(高電圧印加試験)
試験例11~17の調光シートに高電圧の試験電圧を印加し、印加後の調光シートに黒点が形成されているかを目視によって確認した。黒点が観察されない場合を「○」、1~5個の黒点が観察される場合を「△」、6個以上の黒点が観察される場合を「×」とした。各試験例の調光シートの面積は7.0×105mm2である。
【0107】
(試験結果)
表3に、試験例11~17について、調光層の厚さ、配向層の有無、試験電圧、試験結果を示す。
【0108】
【0109】
表3に示すように、調光層の厚さが5μmである試験例11~13では、配向層が設けられている方が、黒点の発生を抑えられている。また、調光層の厚さが7μmである試験例14,15でも、配向層が設けられている方が、黒点の発生を抑えられている。
【0110】
配向層が設けられていない試験例11,14,16,17を比較すると、調光層が厚い方が、より高い電圧がかけられたときに黒点の発生を抑えられている。調光層の厚さが15μm以上であれば、200Vの高電圧印加時にも、黒点の発生が好適に抑えられる。
【0111】
また、配向層が設けられている試験例12,13,15を比較すると、この場合も、調光層が厚い方が、より高い電圧がかけられたときに黒点の発生を抑えられている。調光層の厚さが7μm以上であれば、200Vの高電圧印加時にも、黒点の発生が好適に抑えられる。
【0112】
以上、実施形態および実施例にて説明したように、上記調光シートによれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)透明電極層31,32の表面抵抗が、150Ω/□以下である。これにより、電圧降下が抑えられるため、調光シートの広い範囲で、透明状態と不透明状態との切り替えが良好に可能である。
【0113】
(2)透明電極層31,32の表面における最大山高さRpが、200nm以下であることにより、高電圧印加時に透明電極層31,32の表面の隆起部分が変質して黒点が形成されることが抑えられる。そのため、調光シートの外観品質の低下が抑えられる。
【0114】
(3)調光層20と透明電極層31,32との間に絶縁層が設けられていることにより、調光層20が薄い場合であっても、高電圧印加時に黒点の形成が抑えられる。
(4)透明機能層70が設けられ、透明電極層31,32の色度b*は正であり、透明機能層70の色度b*は負である。これにより、黄色味を有する透明電極層31,32の影響が、青味を有する透明機能層70によって補正されるため、透明状態において調光シートが無色に見えやすくなる。
【0115】
(5)調光シートが車載用ドアガラスに適用される形状を有する場合において、接続領域SA,SBが、車載用ドアガラスの下辺に対応する辺に沿って、車載用ドアガラスの角部に対応する位置に配置される。これにより、接続領域SA,SBから湾曲した辺の各部までの距離のばらつきが大きくなることが抑えられるため、調光シートの端部にかかる電圧が均等になりやすく、端部の一部で電圧降下が大きくなることが抑えられる。そのため、調光シートの広い範囲で透明状態と不透明状態との安定した切り替えが可能である。
【符号の説明】
【0116】
SA,SB…接続領域
10,11,12…調光シート
20…調光層
31,32…透明電極層
41,42…透明支持層
51,52…配向層
60…制御部
61,62…配線部
70…透明機能層